説明

芳香族ポリカーボネート樹脂組成物

【目的】 優れた成形性を有し且つ機械的特性、剛性、寸法安定性等にも優れた芳香族ポリカーボネート樹脂組成物を提供する。
【構成】 粘度平均分子量が12000〜18000の芳香族ポリカーボネート樹脂100重量部に、 L/D ≧3の繊維状充填剤を50〜240重量部配合した樹脂組成物。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、芳香族ポリカーボネート樹脂組成物、更に詳細には優れた成形性を有し且つ機械的特性、剛性、寸法安定性等にも優れ、カメラ、 VTR、OA機器等巾広い産業分野で有用な芳香族ポリカーボネート樹脂組成物に関する。
【0002】
【従来の技術】芳香族ポリカーボネート樹脂は優れた機械的特性を有し、エンジニアリングプラスチックとして広く使用されており、更にガラス繊維やカーボン繊維等を配合したものは、特に寸法精度や剛性等が要求される分野に使用されている。
【0003】しかしながら、芳香族ポリカーボネート樹脂は溶融粘度が高いため流動性が悪く、成形性に劣る欠点があり、ガラス繊維やカーボン繊維を配合すると、更に溶融粘度が高くなり、成形性が更に劣るようになる。一方、各分野における用途が小型化するに従って、成形品が薄肉化及び複雑化しており、今まで以上に成形時における樹脂組成物の流動性が求められている。
【0004】芳香族ポリカーボネート樹脂の流動性を改良する方法として、低分子量の芳香族ポリカーボネート樹脂を使用する方法や各種滑剤を添加する方法が試みられている。しかしながら、これらの方法では、流動性の向上は認められるものの機械的強度、特に衝撃強度が著しく低下する欠点がある。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】本発明の目的は、優れた成形性を有し且つ機械的特性、剛性、寸法安定性等にも優れた芳香族ポリカーボネート樹脂組成物を提供せんとするものである。
【0006】本発明者は上記目的を達成せんとして鋭意検討した結果、従来の知見では機械的強度が大幅に低下し、機械的強度特に衝撃強度が要求される用途では使用することができないと考えられていた低分子量の芳香族ポリカーボネート樹脂、つまり粘度平均分子量が12000〜18000の芳香族ポリカーボネート樹脂に、特定の充填剤を高濃度に添加することにより、機械的強度をあまり低下させることなく流動性を大幅に改善することができ、且つ高剛性、優れた寸法安定性も併せて付与できることを究明し、本発明を完成した。
【0007】
【課題を解決するための手段】本発明は、粘度平均分子量が12000〜18000の芳香族ポリカーボネート樹脂100重量部に、 L/D ≧3の繊維状充填剤を50〜240重量部配合してなる芳香族ポリカーボネート樹脂組成物に係るものである。
【0008】本発明でいう粘度平均分子量(M) は、塩化メチレンに芳香族ポリカーボネート樹脂を20℃で0.7 g/dlの濃度で溶解した溶液から求めた比粘度(ηsp)を次式に挿入して求める。
ηsp/C =[η]+0.45×[η]2 C[η]=1.23×10-4 M[C は樹脂濃度で0.7]
本発明で使用する芳香族ポリカーボネート樹脂は、通常の芳香族ポリカーボネート樹脂の製造法、例えば芳香族二価フェノール化合物とホスゲン又は炭酸ジエステルとを反応させて得られる芳香族ポリカーボネート樹脂である。ここで使用する芳香族二価フェノール化合物としては、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン[通称ビスフェノールA ]を主たる対象とするが、その一部または全部を他の二価フェノール化合物で置換えてもよい。他の二価フェノール化合物としては2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3,5−ジメチルフェニル)プロパン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)メタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)エタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ブタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3,5−ジエチルフェニル)プロパン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン、1−フェニル−1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)エタン等が例示される。これらは単独で使用しても又は二種以上併用してもよい。
【0009】また芳香族ポリカーボネート樹脂を製造するに当り、分子量調節剤を使用してもよく、分子量調節剤としては例えばフェノール、p-tert−ブチルフェノール、トリブロモフェノール、オクチルフェノール、ノニルフェノール、ラウリルフェノール等のフェノール類、ヒドロキシ安息香酸オクチル、ヒドロキシ安息香酸ラウリル等のヒドロキシ安息香酸長鎖アルキルエステル類、オクチルオキシフェノール、ノニルオキシフェノール、ラウリルオキシフェノール等の長鎖アルキルオキシフェノール類等が例示される。
【0010】さらに、分岐化した芳香族ポリカーボネート樹脂を用いることもでき、分岐化剤としては、例えばフロログルシン、2,6−ジメチル−2,4,6−トリ(4−ヒドロキシフェニル)ヘプテン−3、4,6−ジメチル−2,4,6−トリ(4−ヒドロキシフェニル)ヘプテン−2、1,3,5−トリ(2−ヒドロキシフェニル)ベンゼン、1,1,1−トリ(4−ヒドロキシフェニル)エタン、2,6−ビス(2−ヒドロキシ−5−メチルベンジル)4−メチルフェノール、α,α′,α″−トリ(4−ヒドロキシフェニル)1,3,5−トリイソプロピルベンゼン等で例示されるポリヒドロキシ化合物、及び3,3−ビス(4−ヒドロキシアリール)オキシインドール、5−クロルイサチン等が例示される。
【0011】かかる芳香族ポリカーボネート樹脂の粘度平均分子量は12000〜18000であり、粘度平均分子量が12000未満の芳香族ポリカーボネート樹脂を使用したのでは、充填剤を高密度に添加しても機械的強度の低下を防止することができず、粘度平均分子量が18000を越える芳香族ポリカーボネート樹脂を使用したのでは、成形時に満足できる流動性が得られず、所望の成形品が得られ難い。特に、粘度平均分子量が14500〜17000の芳香族ポリカーボネート樹脂が好ましい。
【0012】上記芳香族ポリカーボネート樹脂に配合する充填剤は[繊維長(L) ]/[繊維径(D) ]が3以上の繊維状充填剤であり、繊維状充填剤としては、例えばガラス繊維、カーボン繊維、炭化ケイ素繊維、窒化珪素繊維、黄銅繊維、ステンレス繊維、チタン酸カリウムよりなる繊維若しくはウイスカー、芳香族ポリアミド繊維等があげられる。かかる充填剤はシランカップリング剤やチタネートカップリング剤等で表面処理されているものが好ましい。
【0013】上記繊維状充填剤に代えて L/D が3未満の繊維状充填剤を使用したのでは充分な補強効果が得られない。特に本発明にあっては粘度平均分子量が12000〜18000の芳香族ポリカーボネート樹脂を使用するため、得られる成形品の機械的強度が低下するようになる。また、 L/D があまりに大きな繊維状充填剤を使用すると、成形品表面に繊維が浮き、外観が悪化する傾向があるので、特にL/D が10〜50のものが好ましく、繊維径は0.1μ〜20μの範囲が好ましい。
【0014】上記繊維状充填剤の配合量は、芳香族ポリカーボネート樹脂100重量部に対して50重量部以上にすべきであり、60重量部以上が好ましい。50重量部未満の場合は機械的強度の低下を生じるようになる。なお、上記繊維状充填剤の配合量が、芳香族ポリカーボネート樹脂100重量部に対して50重量部以上あれば、 L/D が3未満の繊維状充填剤や例えばシリカ、タルク、マイカ、ガラスビーズ、ガラスフレーク、金属粉、二硫化モリブデン等で例示される板状、フレーク状、粉末状等の他の充填剤を併用してもよい。また、他の充填剤もシランカップリング剤やチタネートカップリング剤等で表面処理されているものが好ましい。
【0015】また、上記繊維状充填剤の配合量があまりに多くなると、粘度平均分子量が12000〜18000の芳香族ポリカーボネート樹脂を使用しても、成形時の流動性の向上が得られず、満足のいく成形品は得られ難くなるので、芳香族ポリカーボネート樹脂100重量部に対して240重量部以下にすべきであり、特に200重量部以下が好ましい。 L/D が3未満の繊維状充填剤や他の充填剤を併用する場合は、全充填剤の合計量が芳香族ポリカーボネート樹脂100重量部に対して240重量部以下になるようにすべきである。
【0016】なお、本発明の芳香族ポリカーボネート樹脂組成物には、必要に応じて例えば脂肪酸エステル、パラフィンワックス、低分子量ポリエチレンワックス、シリコンオイル等の離型剤、ポリエチレン、 ABS樹脂、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、 MBS樹脂等の内部可塑化剤、その他熱安定剤、酸化防止剤、光安定剤、滑剤、着色剤、帯電防止剤等の添加剤を配合することができる。
【0017】本発明の芳香族ポリカーボネート樹脂組成物を製造するには、任意の方法が採用される。例えばポリカーボネート樹脂、充填剤及び適宜その他の添加剤を例えば V型ブレンダー等の混合手段を用いて充分に混合した後、ベント式一軸ルーダーでペレット化する方法、芳香族ポリカーボネート樹脂及びその他の添加剤をスーパーミキサー等の強力な手段で予め混合したものを用意しておき、これをベント式の2軸ルーダーの第一シュートより供給し、充填剤はルーダー途中の第二シュートより供給して混練し、ペレット化する方法等の一般に工業的に用いられる方法が適宜用いられる。
【0018】
【実施例】以下に実施例をあげて説明する。なお実施例中の部は重量部であり、評価項目の引張強度は ASTM D-638、曲げ強度は ASTM D-790、曲げ弾性率は ASTMD-790、衝撃強度は厚さ1/8″ノッチ付き試験片を用い ASTM D-256により測定し、流動長は流路巾8mmで流路厚さ2mmのスパイラルフローで測定した。
【0019】
【実施例1〜8及び比較例1〜8】表1に示す粘度平均分子量の異なるビスフェノールA ポリカーボネート樹脂粉末[帝人化成(株)製パンライト]、シランカップリング剤とウレタン系収束剤で処理したガラス繊維[日東紡(株)製 CS-3 PE-455FB]及びシランカップリング剤で処理したガラスビーズ[東芝バロティーニ(株)製 EGB731A ]を表1記載の量をタンブラーにて混合し、30mmφの一軸ルーダー[ナカタニ機械(株)製VSK-30]にて押出してペレットを得た。
【0020】得られたペレットを120℃の熱風循環式乾燥器にて4〜6時間乾燥した後、射出成形機[住友重機械工業(株)ネスタ−ル(サイキャップ480/150)]にて樹脂温度290〜300℃、金型温度100℃、保持圧力1,000kg/cm2 、射出速度65mm/秒、成形サイクル55秒(冷却30秒、射出2秒、保持圧時間10秒)で機械的強度測定片並びに流動長測定片を成形した。得られた測定片を用いて機械的強度及び流動長を測定し、その結果を表1に示した。
【0021】
【表1】


【0022】
【発明の効果】表1より明らかなように本発明の組成物は機械的強度、特に衝撃強度の低下もなく、大幅に流動性が改善され、且つ優れた剛性(高い弾性率)を有するものでカメラ、 VTR、OA機器等の幅広い産業分野で有効に利用されるものであり、その奏する効果は格別なものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】 粘度平均分子量が12000〜18000の芳香族ポリカーボネート樹脂100重量部に、 L/D ≧3の繊維状充填剤を50〜240重量部配合してなる芳香族ポリカーボネート樹脂組成物。