説明

芳香族ポリカーボネート系樹脂用流動性向上剤、芳香族ポリカーボネート系樹脂組成物およびその成形品

【課題】 成形品の高温透明性、耐熱性等を損なうことなく、樹脂組成物の溶融流動性(成形性)および成形品の耐薬品性を向上させる芳香族ポリカーボネート系樹脂用流動性向上剤、これを含む芳香族ポリカーボネート系樹脂組成物およびその成形品を提供する。
【解決手段】 芳香族ビニル単量体(a1)0.5〜99.5質量%、式(I)で表される単量体(a2)0.5〜99.5質量%、他の単量体(a3)0〜40質量%からなる単量体混合物を重合した、ガラス転移温度110℃以上、質量平均分子量5000〜200000の重合体を、芳香族ポリカーボネート系樹脂用流動性向上剤として用いる。
【化1】


(式中R1 は水素原子またはメチル基、R2 は置換基を有していてもよいフェニル基。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、芳香族ポリカーボネート系樹脂用流動性向上剤、これを含有する芳香族ポリカーボネート系樹脂組成物、およびその成形品に関する。
【背景技術】
【0002】
芳香族ポリカーボネート系樹脂からなる成形品は、機械強度、耐熱性、電気特性、寸法安定性等に優れていることから、OA(オフィスオートメーション)機器、情報・通信機器、電子・電気機器、家庭電化機器、自動車、建築等の幅広い分野に使用されている。しかし、通常、芳香族ポリカーボネート樹脂は非晶性であるため、(i)成形加工温度が高く、溶融流動性に劣る、(ii)耐薬品性に劣る、という問題点を有している。
【0003】
近年、芳香族ポリカーボネート系樹脂組成物の成形品の大型化、薄肉化、形状複雑化、高性能化が進み、また、環境問題への関心の高まりも伴って、芳香族ポリカーボネート系樹脂からなる成形品の優れた特性を損なうことなく、芳香族ポリカーボネート系樹脂組成物の溶融流動性を向上させ、かつ射出成形性を高める樹脂改質剤、およびこれを用いた芳香族ポリカーボネート系樹脂組成物が求められている。
【0004】
芳香族ポリカーボネート系樹脂組成物からなる成形品の特性(透明性、耐熱性等)を損なうことなく、芳香族ポリカーボネート系樹脂組成物の溶融流動性を向上させる方法としては、(1)マトリクス樹脂である芳香族ポリカーボネート系樹脂自体を低分子量化する方法がよく知られている。また、(2)芳香族ポリカーボネート系樹脂と特定のスチレン系樹脂とをポリマーアロイ化することによって、溶融流動性を向上させる方法(例えば特許文献1、2)、(3)芳香族ポリカーボネート系樹脂と特定のメタクリレート系樹脂とをポリマーアロイ化することによって、溶融流動性を向上させる方法(例えば特許文献3)が提案されている。また、芳香族ポリカーボネート系樹脂組成物のさらなる溶融流動性の向上を目的として、(4)ポリエステルオリゴマーを添加する方法(例えば特許文献4)、(5)ポリカーボネートのオリゴマーを添加する方法(例えば特許文献5)、(6)低分子量のスチレン系共重合体を添加する方法(例えば特許文献6〜8)が提案されている。
【0005】
しかし、これら従来の方法においては、溶融流動性がある程度向上するものの次のような問題点がある。
(1)の方法は、溶融流動性が大きく向上するものの、必要以上の分子量低下は芳香族ポリカーボネート系樹脂からなる成形品の耐熱性、耐薬品性、耐衝撃性を損なう。よって、成形品の優れた特性を保持したまま、芳香族ポリカーボネート系樹脂の低分子量化によって芳香族ポリカーボネート系樹脂組成物の溶融流動性を向上させるには限界がある。
【0006】
(2)、(3)の方法においては、成形品の耐剥離性と、芳香族ポリカーボネート系樹脂組成物の溶融流動性とのバランス、および高温時における成形品の透明性(高温透明性)がいまだ不充分である。具体的には、(2)の方法は、芳香族ポリカーボネート系樹脂組成物の溶融流動性に優れるものの、相溶性がいまだ不充分のため、成形品に表層剥離が生じやすく、外観および機械物性が大きく低下する上、高温時にヘイズが発生し、透明性が大きく低下する(ヘイズの温度依存性)。(3)の方法は、芳香族ポリカーボネート系樹脂組成物の相溶性に優れ、成形品の透明性が良好であるが、芳香族ポリカーボネート系樹脂組成物の溶融流動性の向上効果が小さい。そのため、溶融流動性を向上させるためには、メタクリレート系樹脂の配合量を多くする必要があり、成形品の耐熱性、耐衝撃性等を保持したまま、芳香族ポリカーボネート系樹脂組成物の溶融流動性を向上させるには限界がある。
【0007】
(4)、(5)の方法は、芳香族ポリカーボネート系樹脂組成物の溶融流動性の向上には有効であるものの、成形品の耐熱性および耐衝撃性が著しく低下するという問題がある。
(6)の方法では、低分子量のスチレン系共重合体の少量添加によって、成形品の耐熱性をある程度保持したまま、芳香族ポリカーボネート系樹脂組成物の溶融流動性の向上が可能であるものの、いまだ相溶性が不充分である。そのため、成形品に表層剥離が生じやすく、それに伴って、衝撃強度、実用上重要なウエルド外観、面衝撃が充分でない上、高温時における透明性が著しく低下するという問題点を残している。
【0008】
以上のように、従来の方法のいずれも、芳香族ポリカーボネート樹脂系組成物からなる成形品の優れた特性を損なうことなく、芳香族ポリカーボネート樹脂系組成物の溶融流動性を向上させるという点ではいまだ不充分である。
また、従来の方法により、芳香族ポリカーボネート系樹脂系組成物からなる成形品を大型化および軽量、薄肉化するためには、次のような問題点がある。
例えば、(1)の方法では、溶融粘度が低下し、溶融流動性が大きく向上するものの、分子量が低下するにつれて、耐熱性、耐衝撃性等の機械特性が低下し、さらには耐薬品性も損なわれる問題がある。
【特許文献1】特公昭59−42024号公報
【特許文献2】特開昭62−138514号公報
【特許文献3】特許第2622152号公報
【特許文献4】特公昭54−37977号公報
【特許文献5】特開平3−24501号公報
【特許文献6】特公昭52−784号公報
【特許文献7】特開平11−181197号公報
【特許文献8】特開2000−239477号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の目的は、成形品の高温透明性、耐熱性等を損なうことなく、芳香族ポリカーボネート系樹脂組成物の溶融流動性(成形性)および成形品の耐薬品性を向上させる芳香族ポリカーボネート系樹脂用流動性向上剤、得られる成形品の高温透明性、耐熱性等を損なうことなく、溶融流動性および耐薬品性が向上した芳香族ポリカーボネート系樹脂組成物、および高温透明性の低下が抑えられ(ヘイズの温度依存性が少なく)、耐熱性、耐薬品性に優れる成形品を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の芳香族ポリカーボネート系樹脂用流動性向上剤(A)は、芳香族ビニル単量体(a1)0.5〜99.5質量%、下記式(I)で表される単量体(a2)0.5〜99.5質量%、および他の単量体(a3)0〜40質量%からなる単量体混合物[ただし、単量体(a1)〜(a3)の合計は100質量%である。]を重合して得られる、ガラス転移温度が110℃以上、質量平均分子量が5000〜200000の重合体であることを特徴とする。
【0011】
【化1】

【0012】
(式(I)中、R1 は水素原子またはメチル基であり、R2 は置換基を有していてもよいフェニル基である。)
【0013】
本発明の芳香族ポリカーボネート系樹脂組成物は、本発明の芳香族ポリカーボネート系樹脂用流動性向上剤(A)と、芳香族ポリカーボネート系樹脂(B)とを含有することを特徴とする。
本発明の成形品は、本発明の芳香族ポリカーボネート系樹脂組成物を射出成形してなることを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明の芳香族ポリカーボネート系樹脂用流動性向上剤(A)は、成形品の高温透明性、耐熱性等を損なうことなく、芳香族ポリカーボネート系樹脂組成物の溶融流動性(成形性)および成形品の耐薬品性を向上させることができる。
本発明の芳香族ポリカーボネート系樹脂組成物は、従来のものに比べ、得られる成形品の高温透明性、耐熱性等を損なうことなく、溶融流動性および耐薬品性に優れる。
本発明の成形品は、高温透明性の低下が抑えられ(ヘイズの温度依存性が小さく)、耐熱性、耐薬品性に優れる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
〔流動性向上剤(A)〕
本発明の芳香族ポリカーボネート系樹脂用流動性向上剤(A)(以下、流動性向上剤(A)と記す。)は、芳香族ビニル単量体(a1)0.5〜99.5質量%、下記式(I)で表される単量体(a2)0.5〜99.5質量%、および他の単量体(a3)0〜40質量%からなる単量体混合物[ただし、単量体(a1)〜(a3)の合計は100質量%である。]を重合して得られる、ガラス転移温度が110℃以上、質量平均分子量が5000〜200000の重合体である。
【0016】
【化2】

【0017】
(式(I)中、R1 は水素原子またはメチル基であり、R2 は置換基を有していてもよいフェニル基である。)
【0018】
流動性向上剤(A)は、溶融成形時には、芳香族ポリカーボネート系樹脂(B)と相分離挙動を示し、かつ成形品の使用温度領域では、耐剥離性が良好なレベルとなるような、芳香族ポリカーボネート系樹脂(B)との相溶性(親和性)を示すため、芳香族ポリカーボネート系樹脂(B)の特性(透明性、耐熱性等)を損なうことなく、従来にない著しい溶融流動性(成形性)および耐薬品性の向上効果を発現する。
また、流動性向上剤(A)の屈折率の温度依存性が芳香族ポリカーボネート系樹脂(B)の屈折率の温度依存性と近似しているため、ヘイズの温度依存性が小さく、従来にない優れた高温透明性を発現する。
【0019】
流動性向上剤(A)においては、重合前の単量体混合物中の各単量体の混合比(質量%)と、重合後の重合体中の各単量体構成単位(質量%)とがほぼ一致していることが好ましい。このような重合体を得るためには、単量体混合物の重合率を90質量%以上とすることが好ましく、95質量%以上とすることがより好ましい。重合率が95質量%以上であれば、重合前の単量体混合物中の各単量体の混合比(質量%)と重合後の重合体中における各単量体構成単位(質量%)とは実質ほぼ一致していると考えて問題ない。重合率が90質量%未満である場合には、重合前の単量体混合物中の各単量体の混合比(質量%)と重合後の重合体中に含まれる単量体構成単位(質量%)とが異なる可能性があり、最適な組成範囲にずれが生じるおそれがある。また、得られた重合体を回収する際に、重合体を精製して、未反応の単量体を除去する必要が生じることからも好ましくない。
【0020】
流動性向上剤(A)が芳香族ビニル単量体(a1)単位を所定量含有することにより、優れた流動性と耐薬品性の改良効果を発現する。
芳香族ビニル単量体(a1)としては、例えば、スチレン、α−メチルスチレン、p−メチルスチレン、p−t−ブチルスチレン、p−メトキシスチレン、o−メトキシスチレン、2,4−ジメチルスチレン、クロロスチレン、ブロモスチレン、ビニルトルエン、ビニルナフタレン、ビニルアントラセン等が挙げられる。これらは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。これらのうち、スチレン、α−メチルスチレン、p−t−ブチルスチレンが好ましく、スチレンとα−メチルスチレンとを併用することが特に好ましい。
【0021】
芳香族ビニル単量体(a1)がスチレンとα−メチルスチレンとの混合物である場合、α−メチルスチレンの含有量は、芳香族ビニル単量体(a1)(100質量%)中、10〜70質量%が好ましい。α−メチルスチレンの含有量が10質量%未満では、得られる重合体のガラス転移温度が低くなり、充分な高温透明性を発現できない可能性がある。α−メチルスチレンの含有量は、20質量%以上がより好ましく、30質量%以上がさらに好ましい。α−メチルスチレンの含有量が70質量%を超えると、スチレンおよび/または他の単量体との共重合性が悪くなることから、得られる重合体の重合率が低くなる可能性がある。α−メチルスチレンの含有量は、60質量%以下がより好ましく、50質量%以下がさらに好ましい。
【0022】
芳香族ビニル単量体(a1)の含有量は、単量体混合物(100質量%)中、0.5〜99.5質量%である。芳香族ビニル単量体(a1)の含有量がこの範囲にあれば、流動性向上剤(A)は、優れた溶融流動性および耐薬品性の向上効果を発現する。芳香族ビニル単量体(a1)の含有量が99.5質量%を超えると、芳香族ポリカーボネート系樹脂(B)との相溶性が不充分となり、結果、成形品が層状剥離を引き起こし、外観および機械特性を損なう場合がある。芳香族ビニル単量体(a1)の含有量が0.5質量%未満であると、芳香族ポリカーボネート系樹脂(B)との相溶性が良くなりすぎるため、溶融時に相分離挙動を充分に発揮することができず、溶融流動性の向上効果が低下するとともに、耐薬品性の向上効果が低下する傾向にある。
【0023】
外観および機械特性と、溶融流動性および耐薬品性とのバランスを考えると、芳香族ビニル単量体(a1)の含有量は、98質量%以下が好ましく、96質量%以下がより好ましく、93質量%以下がさらに好ましく、90質量%以下が特に好ましい。また、芳香族ビニル単量体(a1)の含有量は、10質量%以上が好ましく、20質量%以上がより好ましく、50質量%以上がさらに好ましく、70質量%以上が特に好ましい。
【0024】
式(I)で表される単量体(a2)としては、(メタ)アクリル酸フェニル、(メタ)アクリル酸4−t−ブチルフェニル、(メタ)アクリル酸ブロモフェニル、(メタ)アクリル酸ジブロモフェニル、(メタ)アクリル酸2,4,6−トリブロモフェニル、(メタ)アクリル酸モノクロルフェニル、(メタ)アクリル酸ジクロルフェニル、(メタ)アクリル酸トリクロルフェニル等が挙げられる。これらは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。これらのうち、(メタ)アクリル酸フェニルが特に好ましい。本発明において「(メタ)アクリル酸」は、アクリル酸および/またはメタクリル酸を意味する。
【0025】
単量体(a2)の含有量は、単量体混合物(100質量%)中、0.5〜99.5質量%である。単量体(a2)の含有量がこの範囲にあれば、流動性向上剤(A)は、優れた相溶性(耐剥離性)の向上効果を発現する。単量体(a2)の含有量が0.5質量%未満であると、芳香族ポリカーボネート系樹脂(B)との相溶性が不充分となり、結果、成形品が層状剥離を引き起こし、外観および機械特性を損なう場合がある。単量体(a2)の含有量が99.5質量%を超えると、芳香族ポリカーボネート系樹脂(B)との相溶性が良くなりすぎるため、溶融時に相分離挙動を充分に発揮することができず、溶融流動性の向上効果が低下するとともに、耐薬品性の向上効果が低下する傾向にある。
【0026】
外観および機械特性と、溶融流動性および耐薬品性とのバランスを考えると、単量体(a2)の含有量は、90質量%以下が好ましく、80質量%以下がより好ましく、50質量%以下がさらに好ましく、30質量%以下が特に好ましい。また、単量体(a2)の含有量は、2質量%以上が好ましく、4質量%以上がより好ましく、7質量%以上がさらに好ましく、10質量%以上が特に好ましい。
【0027】
流動性向上剤(A)を構成する重合体は、上述の特性を損なわない範囲において、必要に応じて、芳香族ビニル単量体(a1)および単量体(a2)と共重合可能な他の単量体(a3)を0〜40質量%含んでもよい。
【0028】
他の単量体(a3)は、α,β−不飽和単量体である。このような単量体としては、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸ブチル、アクリル酸2−エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸ラウリル、(メタ)アクリル酸ステアリル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸ベンジル、(メタ)アクリル酸t−ブチル、(メタ)アクリル酸イソボロニル、(メタ)アクリル酸t−ブチルシクロヘキシル等の(メタ)アクリル酸アルキルエステル;(メタ)アクリル酸;(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸グリシジル、フタル酸2−メタクリロイルオキシエチル、(メタ)アクリル酸アリル、1,3−ブチレンジメタクリレート等の反応性官能基を有する(メタ)アクリル酸エステル;安息香酸ビニル、酢酸ビニル、無水マレイン酸、N−フェニルマレイミド、シクロヘキシルマレイミド、ジビニルベンゼン等が挙げられる。これらは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0029】
他の単量体(a3)の含有量は、単量体混合物(100質量%)中、0〜40質量%である。単量体(a3)の含有量が40質量%を超えると、芳香族ポリカーボネート系樹脂組成物の溶融流動性および耐薬品性の向上効果が低下する傾向にある。他の単量体(a3)の含有量は、30質量%以下が好ましく、20質量%以下がより好ましく、10質量%以下がさらに好ましく、5質量%以下が特に好ましい。
【0030】
流動性向上剤(A)は、芳香族ポリカーボネート系樹脂(B)との相溶性に優れることから、これを含む芳香族ポリカーボネート系樹脂組成物からなる成形品の透明性は良好となる。流動性向上剤(A)を構成する重合体を、芳香族ビニル単量体(a1)と式(I)で表される単量体(a2)の二成分系とし、さらにこれらの含有量を、特定範囲内とすることで、極めて高度な透明性を発現させることが可能となる。
極めて高度な透明性を発現する重合体としては、芳香族ビニル単量体(a1)0.5〜40質量%と、単量体(a2)60〜99.5質量%とからなる重合体(A1)(両者の合計量は100質量%である)、芳香族ビニル単量体(a1)60〜99.5質量%と、単量体(a2)0.5〜40質量%とからなる重合体(A2)(両者の合計量は100質量%である)の2つが挙げられる。
【0031】
流動性向上剤(A)を構成する重合体のガラス転移温度は、110℃以上である。本発明における「ガラス転移温度」とは、重合体の動的粘弾性試験を行うことにより得られるtanδのピーク温度を意味する。流動性向上剤(A)のガラス転移温度が110℃以上であれば、流動性向上剤(A)の屈折率の温度依存性が、芳香族ポリカーボネート系樹脂(B)の屈折率の温度依存性とほぼ近似することになり、得られる成形品は高温時における実使用温度領域(80〜120℃)において良好な高温透明性を維持することが可能となる。流動性向上剤(A)のガラス転移温度が110℃未満では、室温における透明性が良好であっても高温時(約80℃以上)において流動性向上剤(A)と芳香族ポリカーボネート系樹脂(B)との屈折率差が増大するため、得られる成形品のヘイズが大きくなり、良好な透明性を損なう可能性がある。より高温まで高度な透明性を保つためには、流動性向上剤(A)のガラス転移温度は、120℃以上が好ましく、130℃以上がより好ましい。
【0032】
流動性向上剤(A)を構成する重合体の質量平均分子量は、5000〜200000である。質量平均分子量が5000未満であると、相対的に低分子量物が多くなるため、耐熱性、剛性等の種々の特性を低下させる可能性がある。また、溶融成形時の発煙、ミスト、機械汚れ、フィッシュアイ、シルバー等の成形品の外観不良といった問題が発生する可能性が高くなるおそれがある。高温時の透明性が良好な成形品(ヘイズの温度依存性が小さい成形品)が必要な場合は、重合体の質量平均分子量は高い方がよい。したがって、重合体の質量平均分子量は10000以上が好ましく、15000以上がより好ましく、30000以上がさらに好ましく、40000以上が特に好ましい。
【0033】
また、重合体の質量平均分子量が200000を超えると、芳香族ポリカーボネート系樹脂組成物の溶融粘度も高くなり、充分な溶融流動性の向上効果が得られない可能性がある。なお、耐薬品性のみを向上させたい場合においては、重合体の質量平均分子量が200000を超えても特に問題はない。著しい溶融流動性の向上効果が必要な場合は、重合体の質量平均分子量は低い方がよい。したがって、重合体の質量平均分子量は170000以下が好ましく、150000以下がより好ましく、120000以下がさらに好ましく、100000以下が特に好ましい。
【0034】
流動性向上剤(A)を構成する重合体の分子量分布、すなわち質量平均分子量(Mw)/数平均分子量(Mn)は、小さい方が好ましい。分子量分布は、4.0以下が好ましく、3.0以下がさらに好ましく、2.0以下が特に好ましい。分子量分布が4.0を超えると、芳香族ポリカーボネート系樹脂組成物の溶融粘度も高くなり、充分な溶融流動性の向上効果が得られない可能性がある。
【0035】
流動性向上剤(A)を構成する重合体の製造方法としては、乳化重合法、懸濁重合法、溶液重合法、塊状重合法等が挙げられる。これらのうち、回収方法が容易である点で懸濁重合法、乳化重合法が好ましい。なお、乳化重合法の場合は、重合体中の残存塩が芳香族ポリカーボネート系樹脂の熱分解を引き起こすおそれがある。そのため、乳化重合の際には、カルボン酸塩乳化剤等を用い、重合体を酸析凝固等により回収をする、またはリン酸エステル等のノニオンアニオン系乳化剤等を用い、重合体を酢酸カルシウム塩等を用いた塩析凝固により回収することが好ましい。
【0036】
〔芳香族ポリカーボネート系樹脂(B)〕
芳香族ポリカーボネート系樹脂(B)は、芳香族ヒドロキシ化合物と、ジフェニルカーボネート等の炭酸ジエステルまたはホスゲンとを反応させることによって得られる芳香族ポリカーボネート重合体または共重合体である。芳香族ポリカーボネート系樹脂(B)は、分岐状のものであってもよい。分岐状の芳香族ポリカーボネート系樹脂(B)の場合、芳香族ヒドロキシ化合物としては、芳香族ジヒドロキシ化合物と芳香族ポリヒドロキシ化合物等とが併用される。
【0037】
芳香族ジヒドロキシ化合物としては、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン(=ビスフェノールA)、テトラメチルビスフェノールA、ビス(4−ヒドロキシフェニル)−p−ジイソプロピルベンゼン、ハイドロキノン、レゾルシノール、4,4−ジヒドロキシジフェニル等が挙げられる。これらのうち、ビスフェノールAが好ましい。さらに、難燃性を高める目的で、これら芳香族ジヒドロキシ化合物は、スルホン酸テトラアルキルホスホニウム、臭素原子、またはシロキサン構造を有する基で置換された構造を有していてもよい。
【0038】
芳香族ポリヒドロキシ化合物としては、例えば、フロログルシン、4,6−ジメチル−2,4,6−トリ(4−ヒドロキシフェニル)ヘプテン−2、4,6−ジメチル−2,4,6−トリ(4−ヒドロキシフェニル)ヘプタン、2,6−ジメチル−2,4,6−トリ(4−ヒドロキシフェニルヘプテン−3、1,3,5−トリ(4−ヒドロキシフェニル)ベンゼン、1,1,1−トリ(4−ヒドロキシフェニル)エタン等が挙げられる。分岐状の芳香族ポリカーボネート系樹脂(B)を得る場合の芳香族ポリヒドロキシ化合物の使用量は、芳香族ジヒドロキシ化合物(100モル%)に対して、好ましくは0.01〜10モル%であり、さらに好ましくは0.1〜2モル%である。
【0039】
芳香族ポリカーボネート系樹脂(B)の分子量の調節、末端基の調節等の目的で、一価芳香族ヒドロキシ化合物、またはそのクロロホルメート体等の一価芳香族ヒドロキシ化合物誘導体を用いてもよい。一価芳香族ヒドロキシ化合物およびその誘導体としては、フェノール、m−クレゾール、p−クレゾール、p−プロピルフェノール、p−tert−ブチルフェノール、p−長鎖アルキル置換フェノール等のアルキルフェノール、これらの誘導体等が挙げられる。これら一価芳香族ヒドロキシ化合物および/またはその誘導体の使用量は、芳香族ジヒドロキシ化合物(100モル%)に対して、通常0.1〜10モル%であり、好ましくは1〜8モル%である。
【0040】
芳香族ポリカーボネート系樹脂(B)には、難燃性を高める目的で、シロキサン構造を有するポリマーまたはオリゴマーを共重合させたり、成形時の溶融流動性を向上させる目的で、ジカルボン酸またはジカルボン酸クロライド等の誘導体を共重合させてもよい。
芳香族ポリカーボネート系樹脂(B)の分子量は、溶媒として塩化メチレンを用い、温度25℃で測定された溶液粘度より換算した粘度平均分子量で、14000〜40000が好ましく、16000〜30000がより好ましく、18000〜26000が特に好ましい。また、2種以上の芳香族ポリカーボネート系樹脂(B)を混合して用いてもよい。
【0041】
芳香族ポリカーボネート系樹脂(B)を含む樹脂材料として、芳香族ポリカーボネート系樹脂(B)と後述の他の樹脂および/またはエラストマーとを組み合わせた芳香族ポリカーボネート系ポリマーアロイを用いてもよい。
【0042】
〔他の樹脂、エラストマー〕
本発明の芳香族ポリカーボネート系樹脂組成物には、芳香族ポリカーボネート系樹脂(B)が本来有する優れた透明性、耐衝撃性、耐熱性、寸法安定性、自己消火性(難燃性)等を損なわない範囲、具体的には芳香族ポリカーボネート系樹脂(B)100質量部に対して50質量部以下の範囲で、必要に応じて他の樹脂および/またはエラストマーを配合してもよい。
【0043】
他の樹脂としては、ポリスチレン(PSt)、スチレン系ランダム共重合体(アクリロニトリル−スチレン樹脂(AS樹脂)等)、スチレンと無水マレイン酸との交互共重合体、グラフト共重合体(アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン樹脂(ABS樹脂)、アクリロニトリル−エチレンプロピレンゴム−スチレン樹脂(AES樹脂)、アクリロニトリル−アクリレート−スチレン樹脂(AAS樹脂)、ハイインパクトポリスチレン(HIPS)等)等のスチレン系樹脂;ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリカプロラクトン、これらの共重合体等のポリエステル;ポリメタクリル酸メチル(PMMA)、メタクリル酸メチル単位を有する共重合体等のアクリル系樹脂;ポリプロピレン(PP)、ポリエチレン(PE)、エチレン−(メタ)アクリル酸共重合体等のオレフィン系樹脂;ポリウレタン;シリコーン樹脂;シンジオタクチックPS;6−ナイロン、6,6−ナイロン等のポリアミド;ポリアリレート;ポリフェニレンスルフィド;ポリエーテルケトン;ポリスルホン;ポリエーテルスルホンポリアミドイミド;ポリアセタール等、各種汎用樹脂またはエンジニアリングプラスチックが挙げられる。
【0044】
エラストマーとしては、イソブチレン−イソプレンゴム;ポリエステル系エラストマー;スチレン−ブタジエンゴム、ポリスチレン−ポリブタジエン−ポリスチレン(SBS)、ポリスチレン−ポリ(エチレン−ブチレン)−ポリスチレン(SEBS)、ポリスチレン−ポリイソプレン−ポリスチレン(SIS)、ポリスチレン−ポリ(エチレン−プロピレン)−ポリスチレン(SEPS)等のスチレン系エラストマー;エチレン−プロピレンゴム等のポリオレフィン系エラストマー;ポリアミド系エラストマー;アクリル系エラストマー;ジエン系ゴム、アクリル系ゴム、シリコーン系ゴム等を含有する、メタクリル酸メチル−ブタジエン−スチレン樹脂(MBS樹脂)、メタクリル酸メチル−アクリロニトリル−スチレン樹脂(MAS樹脂)に代表されるコアシェル型の耐衝撃性改良剤等が挙げられる。
【0045】
〔芳香族ポリカーボネート系樹脂組成物〕
本発明の芳香族ポリカーボネート系樹脂組成物は、本発明の流動性向上剤(A)と、芳香族ポリカーボネート系樹脂(B)とを含有するものである。
【0046】
流動性向上剤(A)の配合量は、所望の物性等に応じて適宜決定すればよい。芳香族ポリカーボネート系樹脂(B)の特性(透明性、耐熱性、耐衝撃性等)を低下させることなく有効な溶融流動性の向上効果を得るためには、流動性向上剤(A)の配合量は、芳香族ポリカーボネート系樹脂(B)100質量部(他の樹脂および/またはエラストマーを含む場合は、これらを含めた合計100質量部)に対して、0.1〜30質量部が好ましい。流動性向上剤(A)の配合量が0.1質量部未満であると、充分な溶融流動性の向上効果が得られないおそれがある。流動性向上剤(A)の配合量が30質量部を超えると、芳香族ポリカーボネート系樹脂(B)の優れた機械特性を損なうおそれがある。流動性向上剤(A)配合量は、芳香族ポリカーボネート系樹脂(B)100質量部(他の樹脂および/またはエラストマーを含む場合は、これらを含めた合計100質量部)に対して、1質量部以上が好ましく、2質量部以上がより好ましく、3質量部以上が特に好ましい。また、流動性向上剤(A)配合量は、芳香族ポリカーボネート系樹脂(B)100質量部(他の樹脂および/またはエラストマーを含む場合は、これらを含めた合計100質量部)に対して、25質量部以下が好ましく、15質量部以下がより好ましく、10質量部以下が特に好ましい。
【0047】
さらに、本発明の芳香族ポリカーボネート系樹脂組成物には、必要に応じて、公知の紫外線吸収剤、光安定剤、酸化防止剤、熱安定剤等の各種安定剤、強化剤、無機充填剤、耐衝撃性改質剤、離型剤、帯電防止剤、ブルーイング剤、難燃剤、フルオロオレフィン等の添加剤を配合してもよい。例えば、成形品の強度、剛性、さらには難燃性を向上させるために、タルク、マイカ、炭酸カルシウム、ガラス繊維、炭素繊維、チタン酸カリウム繊維等を配合してもよい。さらに、耐薬品性等の改良のために、ポリエチレンテレフタレート等の他のエンジニアリングプラスチック組成物、耐衝撃性を向上させるために、コアシェル2層構造からなるゴム状弾性体等を配合してもよい。
【0048】
本発明の芳香族ポリカーボネート系樹脂組成物は、例えば、芳香族ポリカーボネート系樹脂(B)、流動性向上剤(A)、必要に応じて他の樹脂、エラストマー、各種安定剤、無機充填剤、難燃剤、帯電防止剤等の他の添加剤を、タンブラー、V型ブレンダー、スーパーミキサー、ナウターミキサー、バンバリーミキサー、混練ロール、押出機等で混合することによって調製することができる。
【0049】
各種添加剤のブレンドは、一段階で実施してもよく、二段階以上に分けて実施してもよい。二段階に分けて実施する方法としては、例えば、あらかじめ各種添加剤をブレンドした後、これと、芳香族ポリカーボネート系樹脂(B)および流動性向上剤(A)とをブレンドする方法;芳香族ポリカーボネート系樹脂(B)の一部と各種添加剤および流動性向上剤(A)とをブレンド、つまり各種添加剤を芳香族ポリカーボネート系樹脂(B)で希釈して、各種添加剤のマスターバッチとした後、このマスターバッチと芳香族ポリカーボネート系樹脂(B)とをブレンドする方法が挙げられる。
【0050】
本発明の芳香族ポリカーボネート系樹脂組成物は、とりわけ透明性に優れた成形品を提供することが可能である。より具体的には、厚さ2mmの成形品のヘイズが0.1〜5%の範囲にある透明性を有する成形品を提供することが可能である。また、流動性向上剤(A)として上述の重合体(A1)または重合体(A2)を用いた場合には、厚さ3mmの成形品のヘイズが0.1〜2%の範囲にある優れた透明性を有する成形品を提供することが可能である。
また、本発明の芳香族ポリカーボネート系樹脂組成物は、実試用温度領域内(室温〜高温)において透明性が保たれた成形品を提供することが可能である。ここでいう高温とは、80〜120℃の範囲である。
【0051】
〔成形品〕
本発明の成形品は、本発明の芳香族ポリカーボネート系樹脂組成物をそのまま、または溶融押出機で一旦ペレット状にしてから、射出成形法、押出成形法、圧縮成形法、ブロー成形法、注型成形法等の公知の方法で成形することにより得られる。特に、本発明の芳香族ポリカーボネート系樹脂組成物は、射出成形品の原料として有用である。
【0052】
以上説明した本発明の流動性向上剤(A)にあっては、成形品の高温透明性、耐熱性等を損なうことなく、芳香族ポリカーボネート系樹脂組成物の溶融流動性(成形性)および成形品の耐薬品性を向上させることができる。また、本発明の芳香族ポリカーボネート系樹脂組成物にあっては、得られる成形品の高温透明性、耐熱性等を損なうことなく、従来のものに比べ溶融流動性(成形性)および耐薬品性に優れる。特に、得られる成形品の高温透明性、耐薬品性および樹脂組成物の溶融流動性(成形性)が著しく優れていることから、近年要望高まっている電気・電子・OA機器用、光学部品用、精密機械用、自動車用、保安・医療用、建材用、雑貨用の各種大型・薄肉射出成形品、耐薬品性が要求される射出成形品に好適である。
【実施例】
【0053】
以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明する。なお、以下の記載において、「部」および「%」は特に断らない限り「質量部」および「質量%」を意味する。
【0054】
(製造例1)
流動性向上剤(A−1)の製造:
冷却管および攪拌装置を備えたセパラブルフラスコに、アニオン系乳化剤(「ラテムルASK」、花王(株)製)(固形分28%)1.0部(固形分)、蒸留水290部を仕込み、窒素雰囲気下に水浴中で60℃まで加熱した。ついで、セパラブルフラスコ内に、硫酸第一鉄0.0001部、エチレンジアミン四酢酸二ナトリウム塩0.0003部、ロンガリット0.3部を蒸留水5部に溶かしたものを加え、その後、スチレン66部、α−メチルスチレン17部、メタクリル酸フェニル18部、t−ブチルヒドロパーオキサイド0.2部、n−オクチルメルカプタン0.5部の混合物を360分かけて滴下した。その後、60℃で60分間攪拌し、重合体エマルションを得た。
【0055】
0.7%の割合で硫酸を溶解した水溶液300部を撹拌しながら70℃に加温し、この中に得られた重合体エマルションを徐々に滴下して、重合体を凝固させた。析出物を分離、洗浄した後、75℃で24時間乾燥し、重合体(流動性向上剤(A−1))を得た(重合率は97%)。重合体のガラス転移温度は124℃、質量平均分子量(Mw)は48000、分子量分布(Mw/Mn)は2.1であった。
【0056】
(製造例2)
流動性向上剤(A−2)の製造:
スチレンを58部、α−メチルスチレンを24部、メタクリル酸フェニルを20部に変更した以外は、製造例1と同様の方法により重合体(流動性向上剤(A−2))を得た(重合率は97%)。重合体のガラス転移温度は131℃、質量平均分子量(Mw)は47000、分子量分布(Mw/Mn)は2.1であった。
【0057】
(製造例3)
流動性向上剤(A−3)の製造:
スチレンを48部、α−メチルスチレンを32部、メタクリル酸フェニルを20部に変更した以外は、製造例1と同様の方法により重合体(流動性向上剤(A−3))を得た(重合率は97%)。重合体のガラス転移温度は137℃、質量平均分子量(Mw)は49000、分子量分布(Mw/Mn)は2.2であった。
【0058】
(製造例4)
流動性向上剤(A’−4)の製造:
スチレン66部、α−メチルスチレン17部、メタクリル酸フェニル18部を、スチレン96部、アクリル酸n−ブチル4部に変更した以外は、製造例1と同様の方法により重合体(流動性向上剤(A’−4))を得た(重合率は97%)。重合体のガラス転移温度は90℃、質量平均分子量(Mw)は52000、分子量分布(Mw/Mn)は2.2であった。
【0059】
製造例1〜4における各成分の仕込み量(部)、重合率、得られた重合体のガラス転移温度、質量平均分子量(Mw)、分子量分布(Mw/Mn)を表1に示した。なお、表中、Stはスチレン、α−MStはα−メチルスチレン、PhMAはメタクリル酸フェニル、BAはアクリル酸n−ブチルである。また、重合率は得られた重合体の固形物の質量換算により算出した。また、質量平均分子量(Mw)および数平均分子量(Mn)は、GPC法(溶離液:クロロホルム)により測定した。
【0060】
【表1】

【0061】
(実施例1〜5、比較例1〜3)
芳香族ポリカーボネート系樹脂として以下のものを用意した。
PC1:芳香族ポリカーボネート系樹脂、「パンライトL1225Z−100」、帝人化成(株)製、粘度平均分子量2.2万。
PC2:芳香族ポリカーボネート系樹脂、「パンライトL1225ZL−100」、帝人化成(株)製、粘度平均分子量1.8万。
【0062】
流動性向上剤、および芳香族ポリカーボネート系樹脂を、表2に示す配合(合計100部)で混合し、二軸押出機(機種名「TEM−35」、東芝機械(株)製)に供給し、270℃で溶融混練し、芳香族ポリカーボネート系樹脂組成物を得た。
得られた芳香族ポリカーボネート系樹脂組成物について、後述の(1)〜(5)の評価を行った。その結果を表2に示す。
【0063】
【表2】

【0064】
(評価方法)
(1)溶融流動性:
芳香族ポリカーボネート系樹脂組成物のスパイラルフロー長さ(SFL)を、射出成形機(「IS−100」、東芝機械(株)製)を用いて評価した。成形温度は280℃、金型温度は80℃、射出圧力は98MPaとした。また、成形品の厚さは2mm、幅は15mmとした。
【0065】
(2)耐薬品性:
芳香族ポリカーボネート系樹脂組成物を用い、射出成形機(「IS−100」、東芝機械(株)製)により、厚さ2mm、15cm角の平板を作製し、これを切断して厚さ2mm、15cm×2.5cmの成形品を得た。試験片を120℃で2時間アニール処理した後、カンチレバー試験を行い、薬品塗布による試験片の破断時間を測定した。測定は、試験温度:23℃、荷重:20MPa、溶媒:トルエン/イソオクタン=1/1vol比で実施した。
【0066】
(3)表層剥離性(耐剥離性):
(2)で得られた成形品の突き出しピン跡にカッターで切り込みを入れ、剥離状態を目視で観察した。評価基準は以下の通りである。
○:剥離なく良好。
×:表層剥離が見られる。
【0067】
(4)荷重たわみ温度(耐熱性):
芳香族ポリカーボネート系樹脂組成物を用い、射出成形機(「IS−100」、東芝機械(株)製)により、厚さ1/4インチの成形品を成形した。成形品の荷重たわみ温度をASTM D648に準拠して測定した。アニール処理は120℃で1時間実施し、荷重は1.82MPaとした。
【0068】
(5)透明性:
芳香族ポリカーボネート系樹脂組成物を用い、射出成形機(「IS−100」、東芝機械(株)製)により、厚さ3mm、5cm角の平板の成形品を成形した。
成形品の全光線透過率、ヘイズをASTM D1003に準拠して23℃、100℃、および120℃で測定した。
【0069】
表2の結果から明らかなように、実施例1〜3で得られた芳香族ポリカーボネート系樹脂組成物は、成形品のヘイズの温度依存性が小さく(高温透明性を損なうことなく)、かつ耐熱性、耐剥離性を損なうことなく、溶融流動性および耐薬品性の著しい向上が見られ、物性バランスに非常に優れていた。
一方、比較例1で得られた芳香族ポリカーボネート系樹脂組成物は、相溶性が不充分で、かつ流動性向上剤を構成する重合体のガラス転移温度が低いため、良好な耐剥離性および高温透明性が得られなかった。
また、比較例2、3で得られた芳香族ポリカーボネート系樹脂組成物は、流動性向上剤(A)を含んでおらず、充分な流動性および耐薬品性が得られなかった。
【産業上の利用可能性】
【0070】
本発明の流動性向上剤(A)を含有する本発明の芳香族ポリカーボネート樹脂組成物は、得られる成形品の高温透明性、耐熱性等を損なうことなく、溶融流動性および耐薬品性が著しく優れていることから、近年要望が高まっている大型・薄肉の電気・電子・OA機器用、光学部品用、精密機械用、自動車用、保安・医療用、建材用、雑貨用の各種射出成形品に好適であり、工業的に極めて有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
芳香族ビニル単量体(a1)0.5〜99.5質量%、下記式(I)で表される単量体(a2)0.5〜99.5質量%、および他の単量体(a3)0〜40質量%からなる単量体混合物[ただし、単量体(a1)〜(a3)の合計は100質量%である。]を重合して得られる、ガラス転移温度が110℃以上、質量平均分子量が5000〜200000の重合体である、芳香族ポリカーボネート系樹脂用流動性向上剤。
【化1】

(式(I)中、R1 は水素原子またはメチル基であり、R2 は置換基を有していてもよいフェニル基である。)
【請求項2】
請求項1記載の芳香族ポリカーボネート系樹脂用流動性向上剤(A)と、
芳香族ポリカーボネート系樹脂(B)と
を含有する、芳香族ポリカーボネート系樹脂組成物。
【請求項3】
請求項2記載の芳香族ポリカーボネート系樹脂組成物を射出成形してなる成形品。

【公開番号】特開2006−306958(P2006−306958A)
【公開日】平成18年11月9日(2006.11.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−129519(P2005−129519)
【出願日】平成17年4月27日(2005.4.27)
【出願人】(000006035)三菱レイヨン株式会社 (2,875)
【Fターム(参考)】