説明

芳香族ポリスルホン樹脂組成物及び成形体

【課題】摺動性、透明性及び耐熱性に優れた成形体、及びその製造に好適な樹脂組成物の提供。
【解決手段】芳香族ポリスルホン樹脂(A)、並びに下記一般式(I)及び/又は(II)で表されるフェニルスルフィド型オイル(B)を含む芳香族ポリスルホン樹脂組成物(式中、lは0〜3の整数であり、mは1〜3の整数であり、いずれのベンゼン環も1〜2個の水素原子がそれぞれ独立に炭素数1〜20のアルキル基で置換されていてもよい)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、摺動性、透明性及び耐熱性に優れた成形体、及びその製造に好適な芳香族ポリスルホン樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
電子部品、OA機器、家電製品等の電気・電子分野において、成形品には、良好な摺動性とともに透明性が求められる場合がある。例えば、電子部品用トレーや遊戯機(例えば、パチンコ機など)の部品は、搬送による内部の電子部品との摩擦、又は小動体(例えば、パチンコ玉)の移動若しくは衝突などで磨耗すると、その磨耗粉により障害が発生することがあるため、摩擦抵抗(摩擦係数)を小さくして磨耗を低減する必要がある。また、内部の電子部品の存在確認や、遊戯機内部での作業性などの観点より、装置外部から内部を視認できるように、透明な部材を用いる必要がある。同様に、モーターの軸受け、スラストブッシュ等でも、軸との摩擦係数が小さいことに加え、組み立て時の作業性や、メンテナンス時の作業性の観点から、透明な部材を用いるのが便利である。
一方、電子部品の熱処理や組み立て時に、半田を用いるプロセスが存在すること、使用環境が高温の場合があることなどを考慮すると、成形品には耐熱性を有することも求められる。
【0003】
透明性、摺動性、耐熱性等を有する成形体を製造するための樹脂組成物としては、例えば、これまでに以下のものが知られている。
特許文献1には、耐擦傷性及び透明性を有し、成形時のガス発生が抑制された成形体を製造するための樹脂組成物として、ポリカーボネート樹脂、並びに特定の炭素数を有する脂肪族カルボン酸及びそのエステル化物からなるポリカーボネート樹脂組成物が開示されている。
特許文献2には、高剛性、透明性及び摺動性を有する成形体を製造するための樹脂組成物として、ポリカーボネート樹脂、ガラスフレーク、ポリカプロラクトン及び/又はリン酸エステル、並びにフェニル基含有シリコーンからなるポリカーボネート樹脂組成物が開示されている。
特許文献3には、透明性、摺動性及び帯電防止性に優れた成形体を製造するための樹脂組成物として、ゴム変性ポリスチレン樹脂及び/又はポリ(メタ)アクリル酸アルキルエステル、ポリエーテルエステルアミド、並びにシリコーン系化合物粒子からなる樹脂組成物が開示されている。
特許文献4には、耐熱性、寸法精度、機械強度及び摺動性に優れた成形体を製造するための樹脂組成物として、芳香族ポリスルホン及び特定のフルオロカーボン重合体からなる樹脂組成物が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2010−270221号公報
【特許文献2】特開2000−63653号公報
【特許文献3】特開2007−51233号公報
【特許文献4】特開平3−252457号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、特許文献1〜3に記載の成形体は耐熱性が不十分であり、さらに、特許文献2及び3に記載の成形体は、透明性も不十分であるという問題点があった。また、特許文献4に記載の成形体は、耐熱性、寸法精度、機械強度及び摺動性に優れたものではあるが、透明性の付与を目的としたものではない。
【0006】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、摺動性、透明性及び耐熱性に優れた成形体、及びその製造に好適な樹脂組成物を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するため、
本発明は、芳香族ポリスルホン樹脂(A)、並びに下記一般式(I)及び/又は(II)で表されるフェニルスルフィド型オイル(B)を含むことを特徴とする芳香族ポリスルホン樹脂組成物を提供する。
【0008】
【化1】

(式中、lは0〜3の整数であり、いずれのベンゼン環も1〜2個の水素原子がそれぞれ独立に炭素数1〜20のアルキル基で置換されていてもよい。)
【0009】
【化2】

(式中、mは1〜3の整数であり、いずれのベンゼン環も1〜2個の水素原子がそれぞれ独立に炭素数1〜20のアルキル基で置換されていてもよい。)
【0010】
本発明の芳香族ポリスルホン樹脂組成物においては、前記芳香族ポリスルホン樹脂(A)100質量部に対して、前記フェニルスルフィド型オイル(B)を0.01〜20質量部含むことが好ましい。
本発明の芳香族ポリスルホン樹脂組成物においては、前記フェニルスルフィド型オイル(B)がアルキルジフェニルスルフィドであることが好ましい。
本発明の芳香族ポリスルホン樹脂組成物においては、前記アルキルジフェニルスルフィドがモノアルキルジフェニルスルフィドであることが好ましい。
本発明の芳香族ポリスルホン樹脂組成物においては、前記芳香族ポリスルホン樹脂(A)が、下記一般式(1)で表される繰返し単位を有することが好ましい。
(1)−Ph−SO−Ph−O−
(式中、Ph及びPhはそれぞれ独立にフェニレン基であり、前記フェニレン基の1個以上の水素原子は、それぞれ独立にアルキル基、アリール基又はハロゲン原子で置換されていてもよい。)
また、本発明は、上記本発明の芳香族ポリスルホン樹脂組成物を成形してなることを特徴とする成形体を提供する。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、摺動性、透明性及び耐熱性に優れた成形体、及びその製造に好適な樹脂組成物を提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
<芳香族ポリスルホン樹脂組成物>
本発明に係る芳香族ポリスルホン樹脂組成物(以下、「樹脂組成物」ということがある。)は、芳香族ポリスルホン樹脂(A)、並びに下記一般式(I)及び/又は(II)で表されるフェニルスルフィド型オイル(B)を含むことを特徴とする。難燃性に優れる前記芳香族ポリスルホン樹脂(A)と、フェニルスルフィド型オイル(B)とが配合された樹脂組成物を用いることで、難燃性に加え、摺動性、透明性及び耐熱性にも優れた成形体が得られる。特に、透明性の高さが顕著であり、光透過率が高いだけでなく、濁りが無い点で極めて優れる。
【0013】
【化3】

(式中、lは0〜3の整数であり、いずれのベンゼン環も1〜2個の水素原子がそれぞれ独立に炭素数1〜20のアルキル基で置換されていてもよい。)
【0014】
【化4】

(式中、mは1〜3の整数であり、いずれのベンゼン環も1〜2個の水素原子がそれぞれ独立に炭素数1〜20のアルキル基で置換されていてもよい。)
【0015】
前記芳香族ポリスルホン樹脂(A)は、典型的には、2価の芳香族基(芳香族化合物から、その芳香環に結合した水素原子を2個除いてなる残基)と、スルホニル基(−SO−)と、酸素原子とを含む繰返し単位を有する樹脂である。
芳香族ポリスルホン樹脂(A)は、耐熱性や耐薬品性の点から、下記一般式(1)で表される繰返し単位(以下、「繰返し単位(1)」ということがある。)を有することが好ましく、さらに、下記一般式(2)で表される繰返し単位(以下、「繰返し単位(2)」ということがある。)や、下記式(3)で表される繰返し単位(以下、「繰返し単位(3)」ということがある。)等の他の繰返し単位を1種以上有していてもよい。
【0016】
(1)−Ph−SO−Ph−O−
(式中、Ph及びPhはそれぞれ独立にフェニレン基であり、前記フェニレン基の1個以上の水素原子は、それぞれ独立にアルキル基、アリール基又はハロゲン原子で置換されていてもよい。)
【0017】
(2)−Ph−R−Ph−O−
(式中、Ph及びPhはそれぞれ独立にフェニレン基であり、前記フェニレン基の1個以上の水素原子は、それぞれ独立にアルキル基、アリール基又はハロゲン原子で置換されていてもよい。Rはアルキリデン基、酸素原子又は硫黄原子である。)
【0018】
(3)−(Ph−O−
(式中、Phはフェニレン基であり、前記フェニレン基の1個以上の水素原子は、それぞれ独立にアルキル基、アリール基又はハロゲン原子で置換されていてもよい。nは1〜3の整数であり、nが2以上である場合、複数存在するPhは、互いに同一でも異なっていてもよい。)
【0019】
Ph〜Phのいずれかで表されるフェニレン基は、p−フェニレン基であってもよいし、m−フェニレン基であってもよいし、o−フェニレン基であってもよいが、p−フェニレン基であることが好ましい。
前記フェニレン基の水素原子を置換していてもよいアルキル基の例としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、n−ペンチル基、n−ヘキシル基、n−ヘプチル基、n−オクチル基、2−エチルヘキシル基、n−ノニル基及びn−デシル基が挙げられ、その炭素数は、1〜10であることが好ましい。
前記フェニレン基の水素原子を置換していてもよいアリール基の例としては、フェニル基、o−トリル基、m−トリル基、p−トリル基、1−ナフチル基及び2−ナフチル基が挙げられ、その炭素数は、6〜20であることが好ましい。
前記フェニレン基の水素原子を置換していてもよいハロゲン原子の例としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子及びヨウ素原子が挙げられる。
前記フェニレン基の水素原子がこれらの基で置換されている場合、その数は、前記フェニレン基毎に、それぞれ独立に好ましくは2個以下、より好ましくは1個である。
【0020】
Rである前記アルキリデン基の例としては、メチレン基、エチリデン基、イソプロピリデン基及び1−ブチリデン基が挙げられ、その炭素数は、好ましくは1〜5である。
【0021】
芳香族ポリスルホン樹脂(A)は、これを構成する全繰返し単位の合計量に対して、繰返し単位(1)を50モル%以上有することが好ましく、80モル%以上有することがより好ましく、繰返し単位として実質的に繰返し単位(1)のみを有することがさらに好ましい。なお、芳香族ポリスルホン樹脂(A)は、繰返し単位(1)〜(3)を、それぞれ独立に、2種以上有してもよい。
【0022】
芳香族ポリスルホン樹脂(A)は、一種を単独で用いてもよいし、二種以上を併用してもよい。
【0023】
芳香族ポリスルホン樹脂(A)は、これを構成する繰返し単位に対応するジハロゲノスルホン化合物とジヒドロキシ化合物とを重縮合させることにより、製造することができる。例えば、繰返し単位(1)を有する樹脂は、ジハロゲノスルホン化合物として、下記一般式(4)で表される化合物(以下、「化合物(4)」ということがある。)を用い、ジヒドロキシ化合物として下記一般式(5)で表される化合物(以下、「化合物(5)」ということがある。)を用いることにより、製造することができる。また、繰返し単位(1)と繰返し単位(2)とを有する樹脂は、ジハロゲノスルホン化合物として化合物(4)を用い、ジヒドロキシ化合物として下記一般式(6)で表される化合物(以下、「化合物(6)」ということがある。)を用いることにより、製造することができる。また、繰返し単位(1)と繰返し単位(3)とを有する樹脂は、ジハロゲノスルホン化合物として化合物(4)を用い、ジヒドロキシ化合物として下記一般式(7)で表される化合物(以下、「化合物(7)」ということがある。)を用いることにより、製造することができる。
【0024】
(4)X−Ph−SO−Ph−X
(式中、X及びXは、それぞれ独立にハロゲン原子である。Ph及びPhは、前記と同義である。)
【0025】
(5)HO−Ph−SO−Ph−OH
(式中、Ph及びPhは、前記と同義である。)
【0026】
(6)HO−Ph−R−Ph−OH
(式中、Ph、Ph及びRは、前記と同義である。)
【0027】
(7)HO−(Ph−OH
(式中、Ph及びnは、前記と同義である。)
【0028】
化合物(4)において、X及びXは、それぞれ独立にハロゲン原子であり、前記フェニレン基の水素原子を置換していてもよいハロゲン原子と同様である。
【0029】
前記重縮合は、塩基性化合物を用いて、溶媒中で行うことが好ましい。
前記塩基性化合物としては、炭酸のアルカリ金属塩が好ましい。炭酸のアルカリ金属塩は、正塩である炭酸アルカリであってもよいし、酸性塩である重炭酸アルカリ(炭酸水素アルカリ)であってもよいし、両者の混合物であってもよい。炭酸アルカリとしては、炭酸ナトリウムや炭酸カリウムが好ましく、重炭酸アルカリとしては、重炭酸ナトリウムや重炭酸カリウムが好ましい。
前記溶媒としては、非プロトン性溶媒が好ましく、なかでもジメチルスルホキシド、1−メチル−2−ピロリドン、スルホラン(1,1−ジオキソチラン)、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン、1,3−ジエチル−2−イミダゾリジノン、ジメチルスルホン、ジエチルスルホン、ジイソプロピルスルホン、ジフェニルスルホン等の極性溶媒が好ましい。
【0030】
前記重縮合において、仮に副反応が生じなければ、ジハロゲノスルホン化合物とジヒドロキシ化合物とのモル比が1:1に近いほど、炭酸のアルカリ金属塩の使用量が多いほど、重縮合温度が高いほど、また、重縮合時間が長いほど、得られる芳香族ポリスルホン樹脂(A)の重合度が高くなり易く、還元粘度が高くなり易い。しかし、実際には、副生する水酸化アルカリ等により、ハロゲノ基のヒドロキシル基への置換反応や解重合等の副反応が生じ、この副反応により、得られる芳香族ポリスルホン樹脂(A)の重合度が低下し易く、還元粘度が低下し易い。したがって、この副反応の度合いも考慮して、所望の還元粘度を有する芳香族ポリスルホン樹脂(A)が得られるように、ジハロゲノスルホン化合物とジヒドロキシ化合物とのモル比、炭酸のアルカリ金属塩の使用量、重縮合温度及び重縮合時間を調整することが好ましい。
【0031】
また、芳香族ポリスルホン樹脂(A)としては、市販品も使用できる。市販品の芳香族ポリスルホン樹脂(A)としては、例えば、住友化学株式会社製のポリエーテルスルホン樹脂である、スミカエクセル3600P、4100P、4800P及び5200P等が挙げられる。
【0032】
フェニルスルフィド型オイル(B)は、前記一般式(I)又は(II)で表されるものであり、ベンゼン環がチオエーテル結合で結ばれた構造を有する化合物である。フェニルスルフィド型オイル(B)を配合することで、得られる成形体は、摺動性に優れたものとなる。
【0033】
一般式(I)で表されるフェニルスルフィド型オイル(B)において、l+2個のベンゼン環は、ベンゼン環1個あたり1〜2個の水素原子がそれぞれ独立に炭素数1〜20のアルキル基で置換されていてもよい。すなわち、一般式(I)で表されるフェニルスルフィド型オイル(B)のベンゼン環が複数個の置換基を有する場合、これら置換基はすべて同じでもよいし、すべて異なっていてもよく、一部のみが同じであってもよい。
同様に、一般式(II)で表されるフェニルスルフィド型オイル(B)において、m+2個のベンゼン環は、ベンゼン環1個あたり1〜2個の水素原子がそれぞれ独立に炭素数1〜20のアルキル基で置換されていてもよい。すなわち、一般式(II)で表されるフェニルスルフィド型オイル(B)のベンゼン環が複数個の置換基を有する場合、これら置換基はすべて同じでもよいし、すべて異なっていてもよく、一部のみが同じであってもよい。
【0034】
一般式(I)及び(II)で表されるフェニルスルフィド型オイル(B)において、置換基である前記アルキル基は、直鎖状、分岐鎖状及び環状のいずれでもよい。
【0035】
一般式(I)及び(II)で表されるフェニルスルフィド型オイル(B)において、置換基である前記アルキル基の一分子あたりの総数は、4個以下であることが好ましい。
【0036】
フェニルスルフィド型オイル(B)の例として、具体的には、モノアルキルジフェニルスルフィド、ジアルキルジフェニルスルフィド等のアルキルジフェニルスルフィド;ジアルキルテトラフェニルスルフィド等のアルキルテトラフェニルスルフィド;ペンタフェニルスルフィド、テトラフェニルスルフィド等のフェニルスルフィドが挙げられる。アルキルジフェニルスルフィドの例としては、一般式(I)においてlが0であり、いずれか一方又は両方のベンゼン環において、1〜2個の水素原子がアルキル基で置換されたものが挙げられる。
【0037】
フェニルスルフィド型オイル(B)は、多種類が市販されており、例えば、株式会社松村石油研究所製のモノアルキルジフェニルスルフィド「S−3504」が挙げられる。ただし、フェニルスルフィド型オイル(B)の市販品は、これに限定されない。
【0038】
フェニルスルフィド型オイル(B)は、一種を単独で用いてもよいし、二種以上を併用してもよい。二種以上を併用する場合、例えば、前記一般式(I)で表されるもののみを二種以上併用してもよいし、前記一般式(II)で表されるもののみを二種以上併用してもよく、前記一般式(I)で表されるもの及び前記一般式(II)で表されるものを、それぞれ一種以上併用してもよい。
【0039】
本発明に係る樹脂組成物は、芳香族ポリスルホン樹脂(A)100質量部に対して、フェニルスルフィド型オイル(B)を0.01〜20質量部含むことが好ましい。フェニルスルフィド型オイル(B)の前記含有量が0.01質量部以上であることで、この樹脂組成物から得られる成形体は、摩擦係数が小さくなり、摺動性により優れたものとなる。また、フェニルスルフィド型オイル(B)の前記含有量が20質量部以下であることで、得られる成形体は、耐熱性及び強度がより向上する。そして、フェニルスルフィド型オイル(B)の前記含有量が15質量部以下であることで、成形時のガス発生量が低減されて加工性がより向上し、10質量部以下であることで、得られる成形体は、オイルのしみ出しによる表面性の悪化が抑制される。
さらに、成形体の摺動性、表面性、透明性、及び成形時の加工性がより向上し、且つコストを低減できる点から、フェニルスルフィド型オイル(B)の前記含有量は、0.5〜6質量部であることが好ましく、摺動性をさらに向上させるためには、1〜6質量部であることがより好ましい。
【0040】
前記樹脂組成物が、上記のような優れた物性を示す成形体を与える理由は、必ずしも明らかではないが、フェニルスルフィド型オイル(B)が芳香族ポリスルホン樹脂(A)との親和性に優れることにより、芳香族ポリスルホン樹脂(A)のマトリックス中に均一且つ安定に分散するからであると推測される。
【0041】
前記樹脂組成物は、本発明の効果を妨げない範囲内において、芳香族ポリスルホン樹脂(A)及びフェニルスルフィド型オイル(B)以外に、充填材、添加剤、樹脂等の他の成分を一種以上含んでいてもよい。また、これら他の成分は、芳香族ポリスルホン樹脂組成物の成形体への加工中に、添加されてもよい。
【0042】
前記充填材は、無機充填材及び有機充填材のいずれであってもよい。そして、繊維状充填材であってもよいし、板状充填材であってもよく、繊維状及び板状以外で、粒状充填材であってもよい。
【0043】
繊維状無機充填材の例としては、ガラス繊維;パン系炭素繊維、ピッチ系炭素繊維等の炭素繊維;シリカ繊維、アルミナ繊維、シリカアルミナ繊維等のセラミック繊維;ステンレス繊維等の金属繊維が挙げられる。また、チタン酸カリウムウイスカー、チタン酸バリウムウイスカー、ウォラストナイトウイスカー、ホウ酸アルミニウムウイスカー、窒化ケイ素ウイスカー、炭化ケイ素ウイスカー等のウイスカーも挙げられる。
繊維状有機充填材の例としては、ポリエステル繊維及びアラミド繊維が挙げられる。
板状無機充填材の例としては、タルク、マイカ、グラファイト、ウォラストナイト、ガラスフレーク、硫酸バリウム、炭酸カルシウムが挙げられる。マイカは、白雲母、金雲母、フッ素金雲母及び四ケイ素雲母のいずれであってもよい。
粒状充填材の例としては、ガラスビーズ、ガラス粉、中空ガラス、カオリン、クレー、バーミキュライト;ケイ酸カルシウム、ケイ酸アルミニウム、長石粉、酸性白土、ろう石クレー、セリサイト、シリマナイト、ベントナイト、スレート粉、シラン等のケイ酸塩;炭酸カルシウム、胡粉、炭酸バリウム、炭酸マグネシウム、ドロマイト等の炭酸塩;バライト粉、ブランフィックス、沈降性硫酸カルシウム、焼石膏、硫酸バリウム等の硫酸塩;水和アルミナ等の水酸化物;アルミナ、酸化アンチモン、マグネシア、酸化チタン、亜鉛華、シリカ、珪砂、石英、ホワイトカーボン、珪藻土等の酸化物;二硫化モリブデン等の硫化物;窒化ホウ素等の窒化物;炭化ケイ素等の炭化物;金属粉粒体;フッ素樹脂等の有機高分子;臭素化ジフェニルエーテル等の有機低分子量結晶等の材質からなるものが挙げられ、球形フィラーや、アスペクト比が小さい粉粒体も含まれる。
【0044】
前記添加剤としては、酸化防止剤、熱安定剤、光安定剤、紫外線吸収剤、難燃剤、滑剤、帯電防止剤、無機又は有機系着色剤、防錆剤、架橋剤、発泡剤、蛍光剤、表面平滑剤、界面活性剤、表面光沢改良剤、フッ素樹脂等の離型改良剤が挙げられる。
【0045】
前記樹脂の例としては、ポリプロピレン、ポリアミド、液晶ポリエステル、液晶ポリエステル以外のポリエステル、ポリフェニレンスルフィド、ポリエーテルケトン、ポリカーボネート、ポリフェニレンエーテル、ポリエーテルイミド等の熱可塑性樹脂;フェノール樹脂、エポキシ樹脂、ポリイミド樹脂、シアネート樹脂等の熱硬化性樹脂が挙げられる。
【0046】
本発明に係る樹脂組成物は、芳香族ポリスルホン樹脂(A)及びフェニルスルフィド型オイル(B)を合計で、好ましくは60質量%以上、より好ましくは80質量%以上含み、芳香族ポリスルホン樹脂(A)及びフェニルスルフィド型オイル(B)のみを含むものであってもよい。下限値以上とすることで、摺動性、透明性及び耐熱性により優れた成形体が得られる。
【0047】
前記樹脂組成物の製造方法は、公知の方法でよく、特に限定されない。例えば、各成分を混合して溶解させた溶液を調製し、この溶液から溶媒を蒸発させるか、この溶液を貧溶媒に滴下して沈澱させる方法が挙げられる。そして、工業的見地からは、溶融状態で各成分を混練する方法(溶融混練)が好ましい。溶融混練は、一軸又は二軸の押出機、各種ニーダー等の通常使用される混練装置により行うことができる。なかでも、押出機を用いるのが好ましく、このような押出機としては、シリンダーと、シリンダー内に配置された1本以上のスクリュウと、シリンダーに設けられた1箇所以上の供給口とを備えたものが好ましく、さらにシリンダーに1箇所以上のベント部を備えたものがより好ましく、二軸の高混練押出機が特に好ましい。このような押出機を用いて配合成分を溶融混練し、押出されるストランドを連続的に切断することで、ペレット状の前記樹脂組成物が得られる。
【0048】
前記樹脂組成物の製造時において、配合成分の混合又は混練時の添加順序は、特に限定されない。例えば、あらかじめ芳香族ポリスルホン樹脂(A)にフェニルスルフィド型オイル(B)を添加して混合した後に、得られた混合物を混練装置に投入して、溶融混練する方法、混練装置に芳香族ポリスルホン樹脂(A)を投入してこれを溶融させたところに、フェニルスルフィド型オイル(B)を投入して混練する方法が挙げられる。
【0049】
<成形体>
本発明に係る成形体は、本発明に係る前記樹脂組成物を成形してなることを特徴とする。
前記樹脂組成物の成形方法は、溶融成形法が好ましく、その例としては、射出成形法;Tダイ法、インフレーション法等の押出成形法;圧縮成形法;ブロー成形法;真空成形法;プレス成形法が挙げられる。これらの中でも、前記樹脂組成物の成形方法としては、射出成形法が好ましい。
成形時の条件は、前記樹脂組成物の種類等に応じて適宜調節すればよく、特に限定されない。
【0050】
前記成形体の形状は特に限定されず、シート状、チューブ状、フィルム状等、目的に応じて任意に設定できる。また、コーティング材として用いることもできる。
【0051】
前記成形体の用途として、具体的には、電子部品用トレー;パチンコ機等の遊技機の部品;電気・電子機器;OA機器;パーソナルコンピュータ等の情報端末機器;ゲーム機;テレビ等のディスプレイ装置;プリンター;コピー機;スキャナ;ファックス;電子手帳;PDA;電子式卓上計算機;電子辞書;カメラ;ビデオカメラ;携帯電話;スマートフォン;記録媒体のドライブ又は読取装置;マウス;テンキー;CDプレーヤー、DVDプレーヤー、Blu−rayプレーヤー等のディスクプレーヤー;携帯ラジオ又は携帯オーディオプレーヤーのハウジング、カバー、キーボード、ボタン、スイッチ、ディスクトレイ、ディスクカートリッジ、ディスクチェンジャー用トレイ部材等が挙げられる。また、ヘッドランプ、ヘルメットシールド等の車輌外装・外販部品;インナードアハンドル、センターパネル、インストルメンタルパネル、コンソールボックス、ラゲッジフロアボード、(カーナビゲーション等の)ディスプレイハウジング等の車輌内装部品が挙げられる。また、電気・電子部品として、光ピックアップボビン、トランスボビン等のボビン;リレーケース、リレーベース、リレースプルー、リレーアーマチャー等のリレー部品;RIMM、DDR、CPUソケット、S/O、DIMM、Board to Boardコネクター、FPCコネクター、カードコネクター等のコネクター;ランプリフレクター、LEDリフレクター等のリフレクター;ランプホルダー、ヒーターホルダー等のホルダー;スピーカー振動板等の振動板;コピー機用分離爪、プリンター用分離爪等の分離爪;カメラモジュール部品;スイッチ部品;モーター部品;センサー部品;ハードディスクドライブ部品;オーブンウェア等の食器;車両部品;航空機部品;半導体素子用封止部材、コイル用封止部材等の封止部材が挙げられる。
【0052】
本発明に係る前記成形体は、前記樹脂組成物を用いたことで、芳香族ポリスルホン樹脂に特有の優れた難燃性を有するだけでなく、摩擦係数が小さいので摺動性に優れ、さらに透明性及び耐熱性にも優れる。例えば、透明性は550nm又はその近傍の波長の光透過率で評価でき、耐熱性は加重たわみ温度(DTUL)で評価できる。また、成形品の表面は、劣化が抑制され、均一性が高く、油性成分のしみ出しの抑制も可能であり、表面性にも優れる。さらに、成形時のガス発生量の低減も可能であり、加工性にも優れる。
【実施例】
【0053】
以下、具体的実施例により、本発明についてさらに詳しく説明する。ただし、本発明は、以下に示す実施例に何ら限定されるものではない。
【0054】
(芳香族ポリスルホン樹脂(A)の還元粘度の測定)
芳香族ポリスルホン樹脂(A)を、N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)に濃度が1%(w/v)となるように溶解させ(以下、得られた溶液を「PES溶液」という。)、このPES溶液を用いて、オストワルド粘度計により、還元粘度を測定した。還元粘度は、次式により求めた
還元粘度=PES溶液の滴下時間/DMFの滴下時間−1.00
【0055】
本実施例で使用した主な原材料は、以下の通りである。
・フェニルスルフィド型オイル(B)
ADS:S−3504(株式会社松村石油研究所製モノアルキルジフェニルスルフィド)、S−3504はジフェニルスルフィドのいずれか1個の水素原子が炭素数12又は14のアルキル基で置換されたものである。
・シリコーンオイル
SH200(東レダウコーニングシリコーン株式会社製ジメチルシリコーンオイル)
・ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)
セフラルルーブI(セントラル硝子株式会社製)
【0056】
<芳香族ポリスルホン樹脂(A)の製造>
[製造例1]
撹拌機、窒素導入管、温度計、及び先端に受器が設けられたコンデンサーを備えた容量2000mlの重合槽に、4,4’−ジクロロジフェニルスルホン628.9g(2.19モル)、4,4’−ジヒドロキシジフェニルスルホン525.0g(2.10モル)、及び重合溶媒としてジフェニルスルホン784.0gを入れ、系内に窒素ガスを流通させながら180℃まで昇温させた後、無水炭酸カリウム301.8gを加え、290℃まで徐々に昇温させ、290℃で2時間反応させた。反応終了後、反応液を室温まで冷却し、固化した反応マスを、細かく粉砕した後、温水により洗浄して塩化カリウムを除去した。さらに、アセトンとメタノールの混合溶媒での洗浄を数回行い、重合溶媒であるジフェニルスルホンを除去し、次いで水で洗浄した後、150℃で加熱乾燥を行うことで、粉末状の芳香族ポリスルホン樹脂(A)を得た。得られた芳香族ポリスルホン樹脂(A)の平均粒径は500μmであり、還元粘度は0.36であった。
【0057】
<芳香族ポリスルホン樹脂組成物の製造>
[実施例1]
表1に示すように、上記で得られた芳香族ポリスルホン樹脂(A)(100質量部)、及びADS(5.3質量部)を秤量し、タンブラーミキサーを用いてこれらを30分間ブレンドした後、二軸押出機(池貝鉄工株式会社製「PCM−30」)を用いて、シリンダー温度340℃で造粒し、組成が均一な芳香族ポリスルホン樹脂組成物のペレットを得た。なお、表1中、「PES」は芳香族ポリスルホン樹脂(A)を、「Siオイル」はシリコーンオイルをそれぞれ示す。また、「−」は、その成分が配合されていないことを示す。
【0058】
[実施例2〜5、比較例1〜3]
原料の配合を表1に示す通りとしたこと以外は、実施例1と同様に、芳香族ポリスルホン樹脂組成物のペレットを得た。
【0059】
<成形体の製造>
[実施例1〜5、比較例1〜3]
上記で得られた芳香族ポリスルホン樹脂組成物のペレットを120℃で3時間乾燥後、射出成形機(日精樹脂工業株式会社製「UH−1000型」)を用いて、シリンダー温度360℃、金型温度150℃の条件で成形し、成形体として以下に示す各試験片を作製した。得られた各試験片について、以下に示す各項目を評価した。結果を表1に示す。
【0060】
<成形体の評価>
(摩擦係数)
射出成形により、試験片として外径25.6mm、内径20.0mm、高さ15mmの磨耗リングを作製し、鈴木式磨耗試験機を用いて、相手材をSUS304とし、圧力0.6MPa、速度40m/分の条件下、磨耗リングを24時間摺動させ、その24時間時点での摩擦係数を求めた。
【0061】
(光線透過率)
射出成形により、試験片として縦64mm、横64mm、厚さ0.5mmの平板を作製し、島津製作所社製分光光度計を用いて、波長550nmにおける光線透過率(%)を求めた。
【0062】
(透明性)
光線透過率を求めた前記平板試験片の表面を目視観察し、透明度と濁りの有無の観点から、下記基準に従って、透明性を評価した。
1:透明である、2:白濁している、3:不透明である
【0063】
(表面性)
光線透過率を求めた前記平板試験片の表面を目視観察し、色むら、油性成分のしみ出し等の有無の観点から、下記基準に従って、表面性を評価した。
1:良好、2:銀条、3:油性成分のしみ出しあり
【0064】
(加重たわみ温度(DTUL))
試験片として長さ127mm、幅12.7mm、厚さ6.4mmのものを作製し、ASTM D648に準拠して、DTUL(℃)を測定した。
【0065】
【表1】

【0066】
上記結果から明らかなように、実施例1〜5の成形体は、摩擦係数が小さくて摺動性に優れ、光線透過率が高く且つ濁りが無くて透明性に優れ、DTULが高くて耐熱性に優れていた。さらに、実施例1〜4の成形体は、これらに加えて表面性にも優れていた。
これに対して、フェニルスルフィド型オイル(B)を用いていない比較例1の成形体は、摩擦係数が大きく、摺動性に劣っていた。
また、フェニルスルフィド型オイル(B)に代えてPTFEを用いた比較例2の成形体は、濁りがあって不透明であり、光線透過率を測定できないほど透明性が劣っていた。また、白いすじ状の色むら(銀条)が見られ、表面性にも劣っていた。
また、フェニルスルフィド型オイル(B)に代えてシリコーンオイルを用いた比較例3の成形体は、白濁していて光線透過率が低く、透明性が劣っていた。
【産業上の利用可能性】
【0067】
本発明は、電気・電子製品において摺動性、透明性及び耐熱性を有することが求められる各種成形体として利用可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
芳香族ポリスルホン樹脂(A)、並びに下記一般式(I)及び/又は(II)で表されるフェニルスルフィド型オイル(B)を含むことを特徴とする芳香族ポリスルホン樹脂組成物。
【化1】

(式中、lは0〜3の整数であり、いずれのベンゼン環も1〜2個の水素原子がそれぞれ独立に炭素数1〜20のアルキル基で置換されていてもよい。)
【化2】

(式中、mは1〜3の整数であり、いずれのベンゼン環も1〜2個の水素原子がそれぞれ独立に炭素数1〜20のアルキル基で置換されていてもよい。)
【請求項2】
前記芳香族ポリスルホン樹脂(A)100質量部に対して、前記フェニルスルフィド型オイル(B)を0.01〜20質量部含むことを特徴とする請求項1に記載の芳香族ポリスルホン樹脂組成物。
【請求項3】
前記フェニルスルフィド型オイル(B)がアルキルジフェニルスルフィドであることを特徴とする請求項1又は2に記載の芳香族ポリスルホン樹脂組成物。
【請求項4】
前記アルキルジフェニルスルフィドがモノアルキルジフェニルスルフィドであることを特徴とする請求項3に記載の芳香族ポリスルホン樹脂組成物。
【請求項5】
前記芳香族ポリスルホン樹脂(A)が、下記一般式(1)で表される繰返し単位を有することを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載の芳香族ポリスルホン樹脂組成物。
(1)−Ph−SO−Ph−O−
(式中、Ph及びPhはそれぞれ独立にフェニレン基であり、前記フェニレン基の1個以上の水素原子は、それぞれ独立にアルキル基、アリール基又はハロゲン原子で置換されていてもよい。)
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか一項に記載の芳香族ポリスルホン樹脂組成物を成形してなることを特徴とする成形体。

【公開番号】特開2013−49807(P2013−49807A)
【公開日】平成25年3月14日(2013.3.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−189480(P2011−189480)
【出願日】平成23年8月31日(2011.8.31)
【出願人】(000002093)住友化学株式会社 (8,981)
【Fターム(参考)】