説明

芳香族化合物のヨウ素化方法

本発明は、ヨウ素化アニリン類の製造方法に関する;特に、適切に活性化されたヨウ素による3,5-ジ置換アニリン類の、X線造影剤合成の有用中間体である対応する3,5-ジ置換-2,4,6-トリヨードアニリン類への直接ヨウ素化を含む方法に関し、且つ、造影剤自身の製造に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はポリヨウ素化芳香族化合物の製造方法に関する。より具体的には、3,5-ジ置換アニリン類を対応する3,5-ジ置換-2,4,6-トリヨードアニリン類への直接ヨウ素化を含む製造方法に関し、3,5-ジ置換-2,4,6-トリヨードアニリン類はX線造影剤合成の有用な中間体である。本発明はまた、造影剤自体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ヨウ素化造影剤はX線写真診断技術に広く用いられる良く知られた化合物である。該化合物の適切な例は、例えば、ジアトリゾエート、イオタラメート、イオキシタラメート、メトリゾエート、イオヘキソール、イオメプロール、イオパミドール、イオペントール、イオプロミド、イオベルソール、イオキシラン、イオディクサノール、イオサルコール、イオグラミド、イオグルニド、イオグルアミド、アセトリゾエート、イオダミド、イオセタミドおよびメトリザミドを含み、これらは全て単量体構造を有し、並びに、イオキサグレート、イオトロラン、イオタスール、イオディパミド、イオカルメート、ヨードキサメート、イオトロキセート、イオトロラン等を含み、これらは反対に二量体である。ヨウ素化造影剤の更なる例は、例えば、WO 94/14478 (Bracco)に記載されている。
【0003】
共通の特徴として、それらの化学構造は増強された造影効果を与えるトリヨウ素置換芳香核を共有する。
該化合物は多様な経路で製造されてよく、一般的には所定の芳香族基質、例えば、適当な3,5-ジ置換フェノール類のヨウ素化を含み、3,5-ジ置換フェノール類は置換可能な2,4および6-位でトリヨウ素化を受けて、対応する3,5-ジ置換-2,4,6-トリヨードフェノール類へと導く。これら3,5-ジ置換-2,4,6-トリヨードフェノール類は、次に、更に変換されてよく、所謂スマイルス転位を経て所期の最終化合物へと進み得る。
上記合成経路およびスマイルス転位の一般的参考文献としては、例えば、WO 88/09328、WO 97/05097 およびWO 00/32561 (Bracco)を参照のこと。
【0004】
一方、芳香族ヨウ素化は、対応する2,4,6-トリヨードアニリン誘導体類を提供するために適切なアニリン類に適用されてよく、更に変換されて、例えば、US 5,075,502に開示されているような最終のX線造影剤に至る。
【0005】
ヨウ素化工程は異なる手順を用いて実施されてよい。
この点に関して、上記X線造影剤の製造に現在用いられている工業的方法、芳香環のヨウ素化は、通常、濃塩化水素酸(HCl)中のモノ塩化ヨウ素(ICl)の溶液(4.5% I および 14% HCl)を用い、高温(約90 ℃)で実施されるか、またはそれに代えて、同様なヨウ素化剤、例えば、水性溶液中のKICl2 または NaICl2の手段で実施される;一般的参考文献として、WO 92/14695 (Guerbet)、US 5,013,865 (Mallinckrodt)、WO 96/37458およびWO 96/37459 (Fructamine)を参照のこと。
【0006】
上記方法は極端に酸性の作業条件(この条件は反応中に発生するHClのために更に厳しくなる)、腐食性の特質およびヨウ素化剤の貯蔵寿命の制限に起因する大きな障害を被る。
更に、同様な問題が、主にヨウ素化剤自体の塩素原子(アニリン基質の完全ヨウ素化に必要な高い反応温度で形成される)の存在により発生し、それは容易に除去し得ない塩素化副生物の形成につながり、かくして、最終化合物の反応収率および純度に影響し得る。
【0007】
一方、他の側からみれば、低い生産コスト、高い生産効率および最小限の環境影響を結合することのできる工業的製造方法を持つことは急速に求められるニーズである。
かくして、モノ塩化ヨウ素またはその誘導体に代替するヨウ素化剤に基づく新しいヨウ素化法に取り組む試みが続けられてきた。例えば、3,5-ジ置換アニリン類または3,5-ジ置換フェノール類の電気化学的ヨウ素化法が、それぞれWO 96/37461およびWO2009/103666に開示されている様に、それらの例である。
【0008】
上記アプローチに加えて、酸化剤で適当に活性化されたヨウ素による芳香核の代替的ヨウ素化もまた経験されてきた。
例えば、所定のフェノール誘導体類、オルト−ヒドロキシ置換芳香族カルボニル化合物と称される誘導体の、ヨウ素酸を含む強力な酸化剤で活性化された分子状ヨウ素の存在下でのヨウ素化は、Patil らによりTetrahedron Letters 2005, 46, 7179-7181, and in ARKIVOC 2006, 104-108中に記載されている。この技術は、しかしながら、開示された合成的アプローチ、即ち分子状ヨウ素と酸化剤との、ヨウ素化もしくはポリヨウ素化アニリンもしくはアニリン誘導体類への組合せ使用の活用の可能性については何も語っていない。
【0009】
US 2007/0219396は、酢酸中に可溶化された2-アミノ安息香酸の、酸化剤、特に過酸化水素存在下、ヨウ素でのヨウ素化による2-アミノ-5-ヨード安息香酸の製造方法を開示している。
この方法は、しかしながら、開示された手法をポリヨード化化合物の製造に活用する可能性を記述も示唆もしておらず、本明細書の以下に続く実験の部の比較例1で証明される様に、特にトリヨウ素化アニリン誘導体類は、実際、開示されたヨウ素化条件下では達成されそうもない。
【0010】
3-アミノ-2,4,6-トリヨード安息香酸および3,5-ジアミノ-2,4,6-トリヨード安息香酸の製造へのヨウ素およびヨウ素酸の使用はまた、Chem. Ber., 1897, 30 (2), 1943-1948 および Chem. Ber., 1896, 29 (3), 2833-2839中にそれぞれ記載されている。これらの参考文献は、しかしながら、用いられたヨウ素化条件の完全な記載に全く欠けているため、その正確な再現が妨げられる。
【0011】
いずれにしても、開示されているヨウ素化条件およびヨウ素化剤の量、特に、ヨウ素酸の量は、基質のトリヨウ素化を、少なくとも相当程度の収率および純度で達成するためには十分といえるには程遠く、その点は以下に続く実験の部の比較例2で非常に詳細に議論される。
更に、引用された文献の双方に於いて所望の純度の製品を得るためには、得られた褐色の析出物を硫酸で洗浄し、希釈アンモニア水中に溶解し、次いで、硫酸で析出する必要がある。
【0012】
この点に於いて、アニリンまたはハロゲン化アニリン類についてさえ、強力な酸化条件の使用は着色副生物の混合物、例えば、芳香族アミノ基を含む酸化的カップリング反応に由来する主にアゾ化合物の形成に導くことが知られていることは注目に値するが(例えば、Erich Baer および Anthony L. Tosoni, J. Am. Chem. Soc., 1956, 78 (12), 2857-2858)を参照のこと。)、一方、全ての上記技術はこの問題を如何に解決するかについて何も語っていないか、示唆さえもない。
【0013】
対照のために、工程中間体および高純度の最終化合物を収集するニーズは、最終剤に要求される精製工程をかなりの程度まで最適化するために最大限に重要であり、その最終剤は、薬局方により課される、特に投与を目的とする製品に課される厳密な純度プロフィールおよび制約に従わなければならない。
例えば、5-アミノ-2,4,6-トリヨードイソフタル酸のEP薬局方(EP Pharmacopoeia)で規定される分析仕様は以下の通りである:
乾燥ロス: 3.5%
表題化合物 : 98.0〜102%
灰分: 1.0%
全関連物質: 1% (全ての既知のまたは不明の不純物の合計を意味し、主に部分ヨウ素化化合物および塩素化化合物で表される。)、その内、塩素化不純物の合計 0.35%でなければならない。
【0014】
我々は今や適当な3,5-ジ置換アニリン類のトリヨウ素化が、分子状ヨウ素および前記の主要な欠点を克服した酸化剤を含んで成るヨウ素化システムによって、高収率および高純度で有利に進行することを見出した。
【発明の概要】
【0015】
本発明は、適当に活性化されたヨウ素による3,5-ジ置換アニリン類のトリヨウ素化方法を提供し、また、上記ヨウ素化工程を含むX線造影剤の製造方法を提供する。
より具体的には、本発明の第一の目的は、式(II):
【0016】
【化1】

の5-アミノ-2,4,6-トリヨードイソフタル酸の製造方法であって、式(I):
【0017】
【化2】

の5-アミノイソフタル酸またはその塩を適当な酸化剤の存在下に分子状ヨウ素でヨウ素化することを含んで成る、5-アミノ-2,4,6-トリヨードイソフタル酸の製造方法で表される。
【発明の効果】
【0018】
本発明の方法は式(I)の5-アミノイソフタル酸または対応するその塩の完全なトリヨウ素化を可能にして、式(II)の5-アミノ-2,4,6-トリヨードイソフタル酸を高収率および高純度で生ずるため、特に有益である。
際立って、およびアニリンの被酸化性に対する従来の教示とは反対に、上記方法は芳香環の部分ヨウ素化またはアミノ基で生じる酸化的カップリングから導かれる副生物によって影響を受けない。
それ故に、有利には、本発明方法は、濾過によって粗溶液から単離して得られるトリヨウ素化化合物の精製工程を必要とせず、該化合物は工業的に製造された中間体に対する分析仕様を満足し、かくして、そのままで、関心の対象であるヨウ素化された剤への次反応工程に用いることができる。
加えて、添加された分子状ヨウ素の全てを効率よく消費することによって、および唯一の反応副生物としての水を生成することによって、以下、詳細に示す様に、未反応ヨウ素を回収しおよび再使用する引き続く工程、ならびに工業的流量を扱う必要は非常に意義ある程度に最小化され得る。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】図1は、実施例3のヨウ素化生成物のHPLC分析である。
【図2】図2は、実施例4のヨウ素化生成物のHPLC分析である。
【図3】図3は、比較例1の粗溶液の、22℃で3時間後のHPLC分析である。
【図4】図4は、比較例1の粗溶液の、22℃で3時間、および更に60℃で6時間後のHPLC分析である。
【図5】図5は、固体a1のHPLC分析である。
【図6】図6は、固体a2のHPLC分析である。
【図7】図7は、a2の母液のHPLC分析である。
【図8】図8は、反応混合物b1のHPLC分析である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
先に説明した様に、本発明の方法に於いて、式(II)の5-アミノ-2,4,6-トリヨードイソフタル酸の生成に導くヨウ素化反応は、周知の親電子的置反応換機構に従って、適切な酸化剤の存在下、分子状ヨウ素(I2)で生起する。
この範囲において、有効なヨウ素化活性種がヨウ素カチオン(I+)によって表され、その少なくとも一部は最初に分子状ヨウ素(I2)から生じ得る。一方、かくして生じた非反応性ヨウ素対イオン(I-)は好都合にも酸化剤によって酸化されて分子状ヨウ素に戻り、または高酸化状態のヨウ素カチオンにさえも戻り、かくして非反応性ヨウ素対イオン(I-)を芳香環のヨウ素化に依然として利用可能にする。
【0021】
前述のように、および他に前提がない限り、本発明方法に使用する適切な酸化剤は工業規模で通常採用される酸化剤であって、以後の段落で詳述するように、ヨウ化物イオンをヨウ素化に活性な高酸化状態へ酸化することができる。
酸化剤の適切なに例は、かくして、例えば、硝酸、硫酸、ヨウ素酸、三酸化硫黄、過酸化水素、オゾンおよび類似のものが含まれる。
一般的に云えば、酸化剤の選択は種々の因子に依存し、その因子には、例えば、酸化剤の入手可能性と同様に、酸化剤がその酸化機能を反応経過中に適当に発揮できるような操作条件、即ち、所望の化合物の生成をもたらす様な条件がある。
同様に、本発明方法の第一の実施態様に従えば、酸化剤は過酸化水素およびヨウ素酸から好ましくは選択され、後者(ヨウ素酸)がより好ましい。
【0022】
分子状ヨウ素がヨウ素酸(HIO3)の存在下に用いられるときは、実際、ヨウ素化中に生成する非反応性ヨウ化物イオンは、所謂、ダッシマン(Dushman)反応によって以下の反応式1:
【0023】
【化3】

に従って、分子状ヨウ素に逆転換される。
際立つことには、この反応は更にヨウ素酸イオン類(IO3-)を便利な還元によって分子状ヨウ素へと導き、このヨウ素は依然として芳香環のヨウ素化に利用可能である(例えば、Furuichi, R. および Liebhafsky, H.A. 「放射性ヨウ素交換およびダッシマン反応」 Bull. Chem. Soc. Japan 1973, 46, 2008-2010 および Bull. Chem. Soc. Japan 1975, 48, 745-750を参照のこと。)
その結果、5-アミノイソフタル酸基質の完全なトリヨウ素化が達成されて、非常に有利なことには、ヨウ素化活性種の化学量論量の消費によって所望の式(II)の化合物が高収率かつ高純度で得ることができる。このヨウ素化活性種の化学量論量は、添加されたI2およびHIO3双方の合計として、以下の一般反応式2:
【0024】
【化4】

に従って算出される。
【0025】
換言すれば、ヨウ素およびヨウ素酸の組み合わされた使用は、本発明の好ましい実施態様のように、一方ではヨウ素化剤、特に分子状ヨウ素の過剰な必要性を回避することにより、他方では副生物の形成、特にI2とヨウ化物イオンとの組合せから主に生ずる非反応性ポリヨウ化物イオン、例えば、I3イオンの生成を回避することにより、式(I)の芳香族基質の完全なトリヨウ素化を可能とする。
【0026】
この点に関して、5-アミノイソフタル酸基質ならびに前述のようにI2およびHIO3双方の合計として考えられたヨウ素化活性種の間の当量比が、前記の一般反応式2によれば、少なくとも1:3に等しくあるべきであることは、当業者にとっては明確である。
この点を遵守して、ヨウ素およびヨウ素酸による5-アミノイソフタル酸基質のトリヨウ素化についての本発明方法は、式(I)の5-アミノイソフタル酸基質の各モルに対して少なくとも1モルの分子状ヨウ素を用いて実施されるであろう。好ましくは、ヨウ素および5-アミノイソフタル酸基質間のモル比[I2/(I)]は、1から1.5、より好ましくは、1から1.3の間で可変である。更により好ましくは、ヨウ素およびヨウ素酸による5-アミノイソフタル酸基質のトリヨウ素化は、基質(I)1モルに対して僅か1.2モルのヨウ素を用いて実施されるであろう。
【0027】
一方、包含される反応の化学量論故に、ヨウ素およびヨウ素酸間のモル比は少なくとも1 : 0.5に等しくあるべきであり、一方、5-アミノイソフタル酸基質(I)およびヨウ素酸間のモル比は少なくとも1 : 0.6に等しくあるべきである。
【0028】
従って、本発明の特に好ましい実施態様に於いて、ヨウ素およびヨウ素酸による5-アミノイソフタル酸基質のトリヨウ素化は、5-アミノイソフタル酸基質(I):ヨウ素:ヨウ素酸間のモル比1:1.2:0.6を用いて実施されるであろう。
しかしながら、随意に、ヨウ素酸の分子状ヨウ素に対する最小化学量論量を上回る僅かな過剰を用いても、同様に良好な結果を伴うことができることは、実験の章に記載されている。
従って、本発明の一つの異なる実施態様に於いて、ヨウ素のヨウ素酸に対する1:0.5 から約 1:1の範囲のモル比、および、より好ましくは、1:0.5 から約1:0.8のモル比が採用されるであろう。
【0029】
この点に関して、場合によっては残存する如何なるヨウ素化活性種をも破壊するために、最小量の亜硫酸水素塩が、例えば、最終反応媒体中に添加されてよい。この場合、最適量が、例えば、最終混合物の酸化還元電位を、好ましくは250 mVより低い値に導く亜硫酸水素塩の最小量として電位差計的に決定することができる。
【0030】
本発明のヨウ素化反応は、前述の通りヨウ素化系I2/HIO3を用いて成る反応であるが、好ましくは極性溶媒の存在下に実施され、好ましくは、プロトン系溶媒および酸性条件下に実施される。
適切な溶媒の非限定的な例は、例えば、以下の溶媒を含む:水または水性溶媒類、水性食塩水、C1-C4の低級アルコール類、例えば、メタノールまたはエタノールおよびそれらの含水アルコール混合物、ジオキサン、グリコール類、例えばジエチレングリコール、トリエチレングリコールおよびPEG 600、PEG1000またはPEG2000、またはそれらの混合物など、並びにそれらの水性混合物。
【0031】
本発明の特に好ましい実施態様に於いて、ヨウ素化方法は水または水性溶媒中で実施され、このことは提供される方法のコストおよび環境影響の低減に非常に寄与する。
最も好ましい実施態様においてさえ、本ヨウ素化方法は出発物質の5-アミノイソフタル酸の工業的製造方法で得られる粗水性溶液に対しても直接実施される。例えば、WO 96/37459中に開示されているように、随意に水で希釈して、および適切に酸性化して実施される。
適当な酸性条件は、適切な酸、例えば、リン酸、メタスルホン酸又は硫酸、例えば、96% H2SO4の存在下に達成される。好ましくは、適切な酸性条件は96% H2SO4を用いて、例えば、基質化合物(I)1モル当たり、約0.5から2 モル、好ましくは、0.7 から1.5モルの範囲の量のH2SO4を用いて達成される。
【0032】
この範囲で、および本発明の好ましい実施態様に従えば、ヨウ素化反応は3.5より低いpH(反応混合物の)で、好ましくは1から3.0を含んで成る、およびより好ましくは、1.5から2.5を含んで成る、好ましくは濃硫酸を用いて達成されるpHで実施される。
この点に於いて、この後者の範囲で一端硫酸により酸性化されると、有利なことには、反応のpHは反応時間を通じて1.5から2.5に自己安定化され、一方、反応のpHを3付近に保つには塩基、例えば希NaOHの添加が必要である。
【0033】
興味深いことには、上記pH条件はアニリン基質類での親電子的置換を強く不活性化させることが知られているにも拘わらず、これらの条件は、表面上は不利ではあるが、5-アミノ-2,4,6-トリヨードイソフタル酸を非常に高い収率で、およびそれに加えて、部分ヨウ素化副生物または着色不純物で本質的に汚染されずに得ることを許容する。
【0034】
その代わりに、より高いpH、例えば、4を超えるpHでは、所望のトリヨウ素化生成物が得られるかも知れないが、低収率および低純度であり、工業的に製造された中間体に対して定められた分析的仕様を達成するために更なる精製を必要とするような値である。
【0035】
酸性条件下で操作されるとき、トリヨウ素化を受ける芳香族基質は式(I)の5-アミノイソフタル酸で表され、該方法の出発物質として採用されるか、またはそれに代えて、対応する塩からその場で形成される。
後者の塩は、本明細書で他に提供されない限り、好ましくは、5-アミノイソフタル酸のアルカリまたはアルカリ土類金属塩、例えば、ナトリウム、リチウム、カリウム、カルシウムまたはマグネシウム塩から選ばれる。
それらの中で特に好ましくは、5-アミノイソフタル酸ナトリウムであり、例えば、純粋な化合物として、又は、それに代えて、トリヨウ素化された造影剤、例えばイオパミドールの製造方法における前工程から直接的に導かれる粗溶液中に含有されるものとして、用いることができる。
【0036】
興味深いことには、上記操作条件に従って、即ち、酸性の水性環境の存在下において、ヨウ素化されるべき出発芳香族基質の実用的な不溶性にも拘わらず、5-アミノ-2,4,6-トリヨードイソフタル酸が予期せずして高収率および高純度で得られる。
5-アミノイソフタル酸が出発物質として用いられるとき、実際、適当な量のこの化合物が最初に懸濁され、ヨウ素化反応が生起する前に反応媒体中に保持される。それに代えて、例えば、対応するナトリウム塩の工業的水溶液から出発することによって対応する水溶液が用いられるとき、酸性環境は、従来の手段、例えば、磁気または機械的撹拌による懸濁状態に保たれた式(I)の不溶性塩の析出を促すようなものである。
【0037】
同様のことはヨウ素についても当てはまり、ヨウ素は、前述のように適切に酸性化されたイソフタル酸基質の懸濁液中に固体として仕込まれる。
この範囲で、ヨウ素酸の適当量が次に、得られた懸濁液に一度にまたは、それに代えて、徐々に、時間をかけて連続的に、もしくは従来の方法に従って分割しつつ添加され、かくして5-アミノイソフタル酸基質の漸進的な部分溶解を生じ、5-アミノイソフタル酸基質はかくして所望のトリヨウ素化生成物へと漸進的に転化される。
【0038】
より具体的に、および、以下の実験の部に従えば、ヨウ素酸は素早く添加されてよく、例えば、数分以内に、または一挙にさえ、より穏和に酸性化された、例えばpH 2.5、即ち、pHが約3の反応懸濁液へ添加されてよい。それに代えて、より強い酸性条件下、即ち、約2またはそれ以下のpHの条件下では、ヨウ素酸のゆっくりした添加が好ましく、その添加は時間をかけて効果が発揮されて、例えば6時間までの時間、好ましくは2から6時間で効果が現れる。
この点に関し、酸化剤の水性溶液が有利に用いることができて、例えば、8から50% (w/w)の範囲の濃度で用いられる。
【0039】
ヨウ素化反応は50℃から85℃の範囲の温度で実施される。例えば、一つの選択肢として、工程中の反応温度は60℃から85℃、好ましくは、65℃から80℃を含んで成る値に従来の方法に従って一定に保つことができる。
それに代えて、全ての反応基質を室温で仕込んで混合物を得ることができ、この混合物を次に65から80℃の範囲の温度に加熱して、または、再度ヨウ素化剤(I2およびHIO3)を約45℃に加熱された懸濁液に追加することができ、次に、実験の部に示すように、反応温度を65℃から85℃に高めて保持する。
【0040】
反応時間は選択された操作条件に応じて変化し得て、通常、2から約10時間、より好ましくは、5から8時間であってよい。
【0041】
典型的には、前記で与えられた温度で実施することにより、本方法は溶媒の沸点に到達し得て、特に、メタノールの様な低沸点溶媒を用いるときは溶媒の沸点に到達し得る。
さらに加えて、反応温度が前記の範囲の数値に保たれて、例え昇華した量が無視し得る程度に止まるとしても、ヨウ素の部分的昇華も生じるかも知れない。
それにも拘わらず、標準的な冷却または凝縮装置が、例えば、溶媒および昇華したヨウ素の双方を凝縮するために使用されてよく、凝集された溶媒およびヨウ素は従来の方法に従って、例えば、新鮮な少量の溶媒を添加することによって、反応混合物へリサイクルされる。
【0042】
この点に関して、引用文献(US 2007/0219396)に教示されるように、反応溶媒としての酢酸の使用がヨウ素昇華の問題を解決する一方、逆に5-アミノイソフタル酸の溶解度の増加には寄与しないことは注目に値する。5-アミノイソフタル酸は80℃に加熱されてさえも、酢酸には不溶性のままである。更に、不利なことには、酢酸溶媒はヨウ素化生成物の単純な回収を許さない。即ち、5-アミノ-2,4,6-トリヨードイソフタル酸は、室温に冷却されてさえも、酢酸からは適当に水で希釈されない限り、定量的には析出しない。
更に加えて、HIO3の酢酸中への溶解度は非常に低い。従って、この酸化剤が、水で適当に希釈されていない酢酸反応媒体中へ添加されると、引用文献中で教示されるように、ヨウ素の活性化効率を非常に低減させる非均一相の形成へと繋がる。このことは、以下の実験の部の比較例1で実証されている。
【0043】
上記の欠点はChem. Ber.文献のヨウ素化条件下での実施では解決することができないかもしれない。該文献は、一方では出発基質の所望の溶解性を許容するように、他方では、本発明のトリヨウ素化化合物、即ち、5-アミノ-2,4,6-トリヨードイソフタル酸の析出を阻止するのにおそらく最も寄与し得るように希釈された酸性の水性媒体の使用を実に教示している。5-アミノ-2,4,6-トリヨードイソフタル酸は室温にまで冷却された粗溶液からさえも析出しないことは、以下の実験の部に提示された比較例2によって実証されている。
【0044】
更に、引用文献のCher. Ber., 1897, 30 (2), 1943-1948は、水性KOH(または、NaOH)中の固体I2 の可溶化により部分的に調製され、引き続き、固体HIO3の添加および続いての水による希釈により調製されたヨウ素化剤溶液の使用を教示している。
この範囲で、引用文献がKOH水性溶液の体積またはその濃度に言及していないということ以上に、該ヨウ素化混合物を調製するために用いられるHIO3の提案された量が、ヨウ素化反応で形成された全てのヨウ化物イオンを戻し転換するためには不十分であると云うことは、注目に値する。このことは、一方では必然的に、本発明のヨウ素化方法では対照的に、必要とされる最低の化学量論量を超えたヨウ素の過剰量を用いる必要性を示唆する。他方、このことは更に、反応媒体中にヨウ化物イオンの望まざる蓄積を招き、この蓄積はヨウ素化生成物の純度および工業的に製造された中間物に対する分析仕様との整合性に影響を及ぼしかねない。
【0045】
ヨウ素酸以外の酸化剤、例えば過酸化水素の存在下で分子状ヨウ素を含んで成る先に述べた代替的なヨウ素化系およびそれらの実施条件もまた、本発明の範囲に含まれるとみなされることは、当業者にとって明確である。
【0046】
前記の全てから、本発明の方法は本質的に、適当に酸性化された、即ち、3.5より低いpHを有する水性溶媒中への5-アミノイソフタル酸の懸濁液を得る工程、ならびに固体I2 およびHIO3を該懸濁液に添加する工程を含んで成ることが当業者にとって明らかであるはずである。
【0047】
本発明の詳細および実際的に好ましい実施態様に従えば、5-アミノイソフタル酸の適当な量を、場合に応じて水性溶媒、典型的には水中に懸濁し、または可溶化する。得られた溶液/懸濁液を最初に8 %から3% (w/w)、好ましくは5%から3%の範囲の基質濃度に希釈し、次に、適切な量の酸、例えば96% H2SO4で3.5より低いpH、好ましくは約2に酸性化する。
好ましくは、工業的方法で直接得られた粗溶液であって5-アミノイソフタル酸基質をナトリウム塩(主にモノナトリウム、しかしジナトリウムは除外されない)として含んで成る粗溶液を出発物質として、典型的には7〜8% (w/w)の範囲の濃度で用いる。この粗溶液を次に典型的には水で上記濃度範囲に希釈し、次いで例えば96% H2SO4で前記値まで酸性化する。次に、固体I2を、撹拌状態に保たれている得られた5-アミノイソフタル酸の懸濁液中に添加し、以前に示された値の温度で加熱する。
【0048】
適量のHIO3水性溶液を懸濁液に徐々に添加して、5-アミノイソフタル酸基質を所望のトリヨウ素化生成物へ漸進的な転換を図る。
HIO3水性溶液の添加を完了まで進めることで、形成された5-アミノ-2,4,6-トリヨードイソフタル酸が反応混合物から固体として析出する。この段階で、粗反応を、例えば96% H2SO4で1付近のpHに酸性化し混合物を室温に冷却することが、トリヨウ素化化合物の殆ど完全な析出に好都合である。
【0049】
更に、亜硫酸水素ナトリウムの最小量の添加(最終の粗混合物へ)が、いかなる随意の残存するヨウ素化剤をも確定的に破壊し、濾過および乾燥されたより純度の高い固体生成物を取得することを許容する。
濾過された化合物は純粋であって、いかなる更なる精製の必要もなしで、所望の造影剤製造の次工程に用いることができる。
【0050】
一方、一端得られたら、式(II)の5-アミノ-2,4,6-トリヨードイソフタル酸は、次に、既知の方法に従って操作することにより、容易に所望のX線造影剤に転換し得る。
この点に関し、本発明方法の対象は一般的な応用性があり、非常に有利には、5-アミノ-2,4,6-トリヨードイソフタル酸から出発して得られるヨウ素化造影剤の製造ルートを提供する。
【0051】
そこで、本発明の更なる目的は、下式(III):
【0052】
【化5】

の化合物[式中、RおよびR’は互いに同一または異なって、カルボキシ(-COOH)、カルボキシエステル(-COOR1)およびカルボキサミド (-CONH2、-CONHR1または-CONR2R3)から選ばれた基を表し、ここでR1、R2およびR3は互いに同一または異なって、随意に1以上のヒドロキシル基で置換された直鎖または分岐のC1〜C4 アルキル基を表し、ならびに、
R4およびR5 は互いに同一または異なって、水素または、随意に1以上のヒドロキシル基もしくはC1〜C6 アルコキシ基で置換された直鎖もしくは分岐のC1〜C6 アルキル基である。]の製造方法であり、該方法は本発明の方法による式(II)の中間化合物の製造を含んで成る。
【0053】
より好ましくは、該方法は以下の工程を含んで成る:
a)式(I):
【0054】
【化6】

の5-アミノイソフタル酸またはその塩を適切な酸化剤の存在下に分子状ヨウ素でヨウ素化して、式(II):
【0055】
【化7】

の5-アミノ-2,4,6-トリヨードイソフタル酸を製造する工程
b)式(II)の化合物を対応する酸二塩化物に変換する工程、および
c)目的の式(III)の化合物の製造に二塩化物を用いる工程。
【0056】
前記方法に従えば、ヨウ素化工程a)は前章で詳しく述べたように実施され、一方、それに引き続く工程は、実験上の操作条件および随意のその多様な変化の総合として従来の方法に従って実施されるべきであり、該方法は文献に報告され、本質的に5-アミノ-2,4,6-トリヨードイソフタル酸(II)を対応する酸二塩化物へ既知の方法に従って、例えば、塩化チオニルの存在下での変換を含む;引き続く酸二塩化物の2-(アセトキシ)プロピオン酸塩化物との縮合は、対応する5-カルボキサミド誘導体を与え、最終的にはカルボキサミド誘導体のセリノールとの縮合および引き続く保護基のいかなる可能な開裂をも含む仕上げ工程が所望の最終化合物を与える。
【0057】
好ましくは、本方法はRおよびR’の双方が-CONH-CH(CH2OH)2基、R4 が水素、およびR5 がメチル基である通称イオパミドール(Iopamidol)として知られている式(III)の化合物の製造に適用されてよく、または、同じように好ましい実施態様に従って、RおよびR’が共に-CONH-CH2-CH(OH)CH2OH基、R4 がメチルおよびR5 が水素である式(III)の化合物、通称イオメプロール(Iomeprol)として知られているか化合物の製造に適用されてよい。
従って、本発明の更なる目的はイオパミドールまたはイオメプロールの製造方法に関し、該方法は本発明の方法によって得られた式(II)の化合物から出発することを含んで成ることを特徴とする。
該方法に於いて、式(II)の出発化合物は先に広く述べたように実施される一方、引き続く工程は、実験操作条件およびそれらの随意の変化の包括として、従来の方法および操作条件、例えば、WO 96/037459、WO 96/037460、US 5362905、WO 97/047590、WO 98/24757およびEP0026281に開示された条件に従って実行される。
【0058】
本発明の方法に関する更なる詳細を以下の実験の部で説明するが、主な目的は本発明をよりよく説明するためであって、本発明に何ら限定を加えるものではない。
【0059】
<実験の部>
[取得した化合物の特性評価]
得られた5-アミノ-2,4,6-トリヨードイソフタル酸の純度は、標品(純粋な化合物)との比較または安息香酸を内部標準とし、HPLCにより決定した。
[一般的な手順]
[HPLCクロマトグラフ法]
固定相: Zorbax SB-Phenyl 80 Å 5μm, 250 x 4.6 mm (Agilent Technologies)
移動相: A: 0.015 M NaH2PO4 + 0.028 M H3PO4
B: CH3CN
溶出: グラジエント溶出
グラジエント表:
【0060】
【表1】

温度: 45℃
検出: UV (240 nm)
流量: 1 mL/min
サンプル濃度: 5 mg/mL
注入: 10μL
【0061】
実施例1
温度計、凝縮器および磁気撹拌器を備えた250 mLの三口丸底フラスコに、3.86 % (w/w) の酸に対応する5-アミノイソフタル酸(I)ナトリウム塩のH2O溶液(129.42 g の溶液;27.6 mmol) を仕込み、96% H2SO4 (2 mL; 35.3 mmol)で1付近のpHに酸性化した。次に、固体I2 (8.42 g; 33.2 mmol) を添加し、混合物を油浴で72 ℃に加熱し、HIO3のH2O中に於ける18.65 % (w/v)の溶液 (20 mL; 21.2 mmol)を加熱した混合物へシリンジポンプを通して5.2 時間にわたり添加した。更に72℃で1時間加熱した後(全反応時間: 6.2時間)、反応混合物を室温に冷却し、濾過した。固体をH2Oで洗浄し乾燥して、5-アミノ-2,4,6-トリヨードイソフタル酸(II) (12.74 g; 22.8 mmol)を薄桃色の固体として得た。収率82.6%。HPLCによる標準品との比較によって分析した生成物は、工業的に製造される5-アミノ-2,4,6-トリヨードイソフタル酸に対する分析仕様を満たした。
【0062】
実施例2
温度計、凝縮器および磁気撹拌器を備えた250 mLの三口丸底フラスコに、3.86 % (w/w) の酸に対応する5-アミノイソフタル酸(I)ナトリウム塩のH2O溶液(129.42 g の溶液;27.6 mmol) を仕込み、96% H2SO4 (2 mL; 35.3 mmol)で1付近のpHに酸性化した。次に、固体I2 (5.26 g; 21.5 mmol)を添加し、混合物を油浴で85℃に加熱した。H2O2の3.08 % (w/v)水溶液(25 mL; 22.6 mmol) をシリンジポンプによって8.5 時間にわたり徐々に添加した。添加終了後に、追加の固体I2 (5.26 g; 21.5 mmol)を添加した。85℃でそれぞれ0.5時間、2.5時間および6時間後に、H2O2のH2O中に於ける7 % (w/v)溶液の3つの部分(3 x 10 mL; 全部で 61.7 mmol)を徐々に1.7時間にわたってそれぞれシリンジポンプを通して添加した。反応混合物を85 ℃で更に1時間保ち、次に室温に冷却して濾過した: 固体をH2Oで洗浄し乾燥して、5-アミノ-2,4,6-トリヨードイソフタル酸(II) (12.41 g; 22.2 mmol) を薄褐色固体として得た。収率80.4 %。HPLCによる標準品との比較によって分析した生成物は、工業的に製造される5-アミノ-2,4,6-トリヨードイソフタル酸に対する分析仕様を満たした。
【0063】
実施例3
温度計、凝縮器および機械的撹拌器を備えた3 Lのジャケット付き反応器に、6.7 % (w/w) の酸に対応する5-アミノイソフタル酸(I)ナトリウム塩のH2O溶液(1194 g の溶液;0.442 mol) を仕込み、H2O (636 mL)で希釈し、50% H2SO4 (73.63 g; 0.375 mol)で(pH 2.8に)酸性化した。
次に、混合物を45-50℃に加熱し、固体I2 (134.5 g; 0.530 mol)を添加した。H2O中に於けるHIO3の50 %(w/w)溶液(93.22 g; 0.265 mol) を15分間で添加し、得られた混合物を75℃に加熱し、この温度で4時間保持した。その間、混合物pHは2.5〜2.2の間の範囲に自己保持された。次に、50% H2SO4 (430 g; 2.190 mol) を粗懸濁液中に1.5時間で添加し (pH < 1へ)、得られた懸濁液を室温で2時間冷却した。亜硫酸水素ナトリウムの18% (w/w)溶液 (13.48 g; 0.023 mol) を撹拌下に添加した。次に固体を濾過し、H2O (200 mL)で洗浄し乾燥して、5-アミノ-2,4,6-トリヨードイソフタル酸(II) (228.9 g; 0.409 mol)を薄桃色固体として得た。収率92.6 %。HPLCによる標準品との比較によって分析した生成物は、工業的に製造される5-アミノ-2,4,6-トリヨードイソフタル酸に対する分析仕様を満たした。
【0064】
実施例4
温度計、凝縮器および機械的撹拌器を備えた1.5 Lのジャケット付き反応器に、6.7 % (w/w) の酸に対応する5-アミノイソフタル酸(I)ナトリウム塩のH2O溶液(597 g の溶液;0.221 mol) を仕込み、H2O (318 mL)で希釈し、50% H2SO4(30.32 g; 0.155 mol)で酸性化した。混合物を45〜50℃に加熱し、I2 (67.26 g; 0.265 mol)を添加した。H2O中に於けるHIO3の50 % (w/w) 溶液(46.60 g; 0.132 mol)を15分間で添加し(得られた混合物のpH:約3)、混合物を75℃で4時間加熱した(その間、混合物のpHは約2に低下する)。50% H2SO4(222 g; 1.13 mol)を次に2時間で添加し(pH < 1へ)、懸濁液を2時間で25℃へ冷却した。亜硫酸水素ナトリウムの18 % (w/w)溶液(5.91 g; 0.010 mol)を添加し、混合物を撹拌下に保持し、次いで、固体を濾過し、H2O (150 mL) で洗浄し乾燥して5-アミノ-2,4,6-トリヨードイソフタル酸 (II) (109.8 g; 0.196 mol)を白っぽい固体として得た。収率 88.9 %。HPLCによる標準品との比較によって分析した生成物は、工業的に製造される5-アミノ-2,4,6-トリヨードイソフタル酸に対する分析仕様を満たした。
【0065】
実施例5
温度計、凝縮器および機械的撹拌器を備えた1 Lのジャケット付き反応器に、6.7 % (w/w) の酸に対応する5-アミノイソフタル酸(I)ナトリウム塩のH2O溶液(373 gの溶液;0.138 mol)、 H2O (200 mL)、H2O中に於けるHIO3の50 % (w/w) 溶液 (29.12 g; 0.083 mol)、50% H2SO4 (15.71 g; 0.080 mol)およびI2 (42.03 g; 0.166 mol)を室温で仕込んだ。混合物を30分で60℃に加熱し、50% H2SO4(7.64 g; 0.039 mol)で酸性化し、3時間で75℃に加熱した(pH 1.9)。得られた懸濁液に次に50% H2SO4(120 g; 0.612 mol)を2時間で徐々に添加して更に酸性化し(pH < 1へ)、2時間で25℃に冷却した。次に、亜硫酸水素ナトリウムの18 % (w/w)溶液を混合物中へ撹拌下に添加して、酸化還元電位 <250 mVとした。固体を濾過し、H2O (100 mL)で洗浄し、乾燥して、5-アミノ-2,4,6-トリヨードイソフタル酸(II) (64.61 g; 0.116 mol)を白っぽい固体として得た。収率 83.8 %。HPLCによる標準品との比較によって分析した生成物は、工業的に製造される5-アミノ-2,4,6-トリヨードイソフタル酸に対する分析仕様を満たした。
【0066】
実施例6
温度計、凝縮器および機械的撹拌器を備えた1 Lのジャケット付き反応器に、7.2 % (w/w)の酸に対応する5-アミノイソフタル酸(I)ナトリウム塩のH2O溶液(277.7 g の溶液;0.110 mol)を仕込み、H2O (220 mL)で希釈し、96% H2SO4 (8.8 mL; 0.159 mol)で酸性化した。次いで、エタノール(73 mL)およびI2 (33.6 g; 0.132 mol)を添加した。混合物を80〜82℃に加熱し、H2O中のHIO3 32.6 % (w/w)溶液(35.62 g; 0.066 mol)を3時間にわたって滴下して加えた (混合物のpH: 1.8)。混合物を上記温度に更に4 時間保持し、次いで50% H2SO4 (44 mL; 0.314 mol)を用いpH <1 で酸性化し、2時間で25 ℃に冷却した。亜硫酸水素ナトリウム(0.820 g; 4.31 mmol) を撹拌下に添加し、次いで濾過し、H2O (100 mL)で洗浄し、乾燥して、5-アミノ-2,4,6-トリヨードイソフタル酸(51.36 g; 0.092 mol)を薄桃色固体として得た。収率83 %。 HPLCによる標準品との比較によって分析した生成物は、工業的に製造される5-アミノ-2,4,6-トリヨードイソフタル酸に対する分析仕様を満たした。
【0067】
実施例7
温度計、凝縮器および機械的撹拌器を備えた1 Lのジャケット付き反応器に、6.7 % (w/w)の酸に対応する5-アミノイソフタル酸(I)ナトリウム塩のH2O溶液(313.1 gの溶液;0.138 mol)を仕込み、H2O (200 mL)で希釈し、50% H2SO4 (41.15 g; 0.210 mol)で酸性化した。次に、固体 I2 (42.03 g; 0.166 mol)を室温で添加し、得られた混合物を次に75℃に加熱した。 H2O中のHIO3の0.66 M溶液 (140.0 g; 0.0833 mol)を1時間にわたって滴下して加え、得られた混合物を撹拌下、75℃で更に4時間保持した。全ての昇温期間、HIO3 添加および引続く完了時間(4時間)の間、2MのNaOHの添加により、反応混合物のpHを3.0に維持した。懸濁液は最終的に50% H2SO4 (143 g; 0.729 mol)を1.5時間に亙ってゆっくり添加して、pH = 1に酸性化し、2時間で25℃まで冷却した。亜硫酸水素ナトリウムの18% (w/w)溶液を、懸濁液の酸化還元電位< 250 mV となるまで添加した。次に、固体を濾過しH2O (100 mL)で洗浄し、乾燥して、5-アミノ-2,4,6-トリヨードイソフタル酸(II) (66.0 g; 0.118 mol)を得た。収率 85 %。HPLCによる標準品との比較によって分析した生成物は、工業的に製造される5-アミノ-2,4,6-トリヨードイソフタル酸に対する分析仕様を満たした。
【0068】
比較例1
この試験は、US 2007/0219396に開示されたヨウ素化条件の利用可能性を評価するために、ヨウ素化剤の量に於いては、トリヨウ素化誘導体を与える様にヨウ素化条件を適切に採用して実行した。
温度計、凝縮器および磁気撹拌器を備えた25 mLの三口丸底フラスコに、固体の5-アミノイソフタル酸(I) (1 g; 5.5 mmol)、固体のI2 (1.61 g; 6.34 mmol)および酢酸(15 mL)を添加し、22℃で撹拌した。次に、H2O中のHIO3の70 % (w/w)溶液(0.96g; 3.8 mmol) を0.5時間にわたって添加した。
この点に関し、ヨウ素酸の酢酸中への非常に低い溶解度故に、引用文献が教示する濃度、即ち、70% w/wでの酸化剤の添加が非均一性混合物を生じる点は、注目に値する。
得られた混合物をこの温度で3時間保持し、次にHPLCで分析した。得られたクロマトグラム(図3)はヨウ素化化合物への如何なる検出可能な転化を全く示さなかった。
純粋に探索的目的で、引用文献には示唆されていないが、次に、反応混合物を更に6時間、60 ℃に加熱した(全反応時間 9時間)。得られた暗色混合物を次に室温で冷却したが、所望の5-アミノ-2,4,6-トリヨードイソフタル酸 (II)の結晶化も析出も何ら生じなかった。混合物を、次にHPLC で分析した。その結果は、図4に示すが、極微量のトリヨウ素化誘導体の存在しか示しておらず、反対に、下式:
【0069】
【化8】

のN-アセチル-5-アミノイソフタル酸と同定されたかなりの量の不純物の存在を示している。
【0070】
比較例2
この比較例は、前記の文献Chem. Ber.、特に、文献Chem. Ber., 1897 30 (2), 1943-1948 で開示されたヨウ素化条件を試験するために実行した。この文献は、更に多くの実験詳細を備えていて、実験の再現性を試すことが可能である。
従って、我々は最初に、ある基質、即ち3-アミノ安息香酸について、引用文献が教示するヨウ素化条件によって、およびヨウ素化剤の開示された量を用いて、即ち、基質化合物の仮想的完全ヨウ素化に必要とされる化学量論量を用いて、試験した。
しかしながら、この点に関し、引用文献で教示され、試験に用いたモル比I2 : HIO3、即ち2.8は添加したヨウ素(I2 およびHIO3の合計と考えた)を芳香族基質へ完全に移行させるには適当でないという点は注目に値する。実際、前にも述べたように、完全な移行を得るためには、ヨウ素およびヨウ素酸間のモル比は2(理論モル比)以下でなければならない。
用いたヨウ素化条件のより良い考えを得るためだけに、異なる反応時間の反応pH も検討した。
【0071】
a.[3-アミノ安息香酸のヨウ素化]
I2 (4 g; 15.74 mmol)を 20% 水性 KOH (9.5 mL)に溶解してヨウ素化溶液を調製し、淡黄色溶液中の懸濁液を得た。この懸濁液はH2O (30 mL)で希釈すると透明な溶液となった;次いで、H2O (10 mL)中のHIO3 (1 g; 5.69 mmol)溶液を添加し、最終の暗色溶液をH2Oで250 mLに希釈した。
こうして得られた溶液を、30℃に加熱したH2O (500 mL)および36-38 %水性HCl(50 mL)(溶液pH: ほぼ0)混合物中の3-アミノ安息香酸(2.5 g; 18.23 mmol)酸性溶液に、3時間にわたって滴下した。一端添加が完了すると(pH 0.25)、固体が結晶化し始めた。次に、反応混合物を室温で12時間撹拌し、次いで、固体を濾過し、H2O(15 mL)で洗浄し乾燥して、褐色がかった固体a1 (2.3 g)を得た。前述の内容に沿って、前述の様に調製された追加のヨウ素化溶液(125 mL; I2 7.87 mmol; HIO3 2.85 mmol)を2時間にわたって、約30℃に保持された母液へ滴下して、もう一つの固体の析出を促した。室温で12時間後、この固体を濾過し、H2Oで洗浄し乾燥して、褐色がかった固体a2 (2.2 g)を得た。得られた二つの固体のHPLC分析(それぞれ、図5および6)は、両方の析出物が、そこに含まれる二つの化学種の混合物に対応することを示しており、以下の表1に示す様に、二つの場合に於いて、異なるHPLC面積 %比を持つ。
【0072】
【表2】

【0073】
二つの固体の1H-NMR スペクトル積分値を、二つの化学種の相対的なHPLC 存在比と比較することによって、t.r.(または、保持時間)25.1分の成分を3個の可能なジヨード誘導体の一つとして、および t.r.25.4分の成分をトリヨード誘導体と同定することができた
【0074】
一方、最終母液のHPLC分析は、母液中に、t.r. 25.1分の成分および3個の不明化学種以外に、未反応3-安息香酸基質が依然として存在することを示し(図 7)、かくして、ヨウ素化転換が完全とは云えないことを確認しており(得られたトリヨード誘導体の収率は理論値の約30%と概略見積もることができた)、得られた生成物は純粋とは云えないものであった。
【0075】
b.[5-アミノイソフタル酸のヨウ素化]
適当に適用された場合には所望のトリヨウ素化化合物を与える様な、これらと同じヨウ素化条件を、本発明の基質化合物で試験した。
従って、ヨウ素化溶液を前述の様に調製し(114 mL, I2 7.18 mmol; HIO3 2.55 mmol)、30℃に加熱されたH2O (150 mL)および36〜38% 水性HCl(15 mL) (pH ほぼ0)混合物中の5-アミノイソフタル酸(I)(1 g; 5.52 mmol)の酸性溶液中へ滴下して添加した。次に、先行技術の教示に沿って、混合物を撹拌下、30℃に19時間保持したが、何ら結晶化や析出が無かった。混合物(pH 0.33) を室温へ冷却し、HPLCで分析した。観測結果は図8に記載してあるが、出発物質の転換が完全とは云えず、かなりの量の出発基質が依然として粗溶液中に残存していた。
得られた5-アミノ-2,4,6-トリヨードイソフタル酸の内部標準に対する定量分析は28.2%の収率を示した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(II):
【化1】

の5-アミノ-2,4,6-トリヨードイソフタル酸の製造方法であって、式(I):
【化2】

の5-アミノイソフタル酸またはその塩の、酸化剤存在下における分子状ヨウ素でのヨウ素化を含んで成る、5-アミノ-2,4,6-トリヨードイソフタル酸の製造方法。
【請求項2】
酸化剤が、硝酸、硫酸、ヨウ素酸、三酸化硫黄、過酸化水素およびオゾンから成る群から選ばれたものである、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
酸化剤がヨウ素酸である、請求項2に記載の製造方法。
【請求項4】
分子状ヨウ素および5-アミノイソフタル酸基質(I)間のモル比が1から1.3を含んで成り、ヨウ素のヨウ素酸に対するモル比が1:0.5 から1:0.8を含んで成る、請求項3に記載の製造方法。
【請求項5】
5-アミノイソフタル酸基質のヨウ素およびヨウ素酸によるトリヨウ素化が、5-アミノイソフタル酸:ヨウ素:ヨウ素酸=1:1.2:0.6のモル比を用いて実施される、請求項4に記載の製造方法。
【請求項6】
極性溶媒中で、リン酸、メタンスルホン酸または硫酸から選ばれた酸の存在下で実施される、請求項3〜5のいずれか1つに記載の製造方法。
【請求項7】
極性溶媒が、水または水性溶媒、C1-C4の低級アルコールおよびそれらの含水アルコール混合物、ジオキサン、グリコールおよびそれらの水性混合物から選ばれる、請求項6に記載の製造方法。
【請求項8】
溶媒が水または水性溶媒である、請求項6または7に記載の製造方法。
【請求項9】
3.5より低いpHを持つ5-アミノイソフタル酸基質水性懸濁液へ、分子状I2 およびヨウ素酸を添加することを含んで成る、請求項8に記載の製造方法。
【請求項10】
前記懸濁液が、アミノイソフタル酸基質をナトリウム塩として含んで成る工業的製造方法からの粗溶液を直接酸性化して得られる、請求項9に記載の製造方法。
【請求項11】
前記pHが1から3を含んで成る、請求項9または10に記載の製造方法。
【請求項12】
50℃から85℃を含んで成る温度で実施される、請求項1〜11のいずれか1つに記載の製造方法。
【請求項13】
反応時間が2から10時間を含んで成る、請求項1〜12のいずれか1つに記載の製造方法。
【請求項14】
式(III):
【化3】

の化合物[式中、RおよびR’は互いに同一または異なって、カルボキシ(-COOH)、カルボキシエステル(-COOR1)およびカルボキサミド(-CONH2、-CONHR1 または-CONR2R3)から選ばれた基を表し、ここでR1、R2およびR3は互いに同一または異なって、随意に1以上のヒドロキシル基で置換された直鎖または分岐のC1-C4アルキル基を表し、ならびに、
R4およびR5は互いに同一または異なって、水素または随意に1以上のヒドロキシル基もしくはC1-C6アルコキシ基で置換された直鎖もしくは分岐のC1-C6アルキル基である。]の製造方法であって、
前記製造方法は請求項1〜13のいずれか1つに記載の式(II)の中間化合物を製造することを含んで成る、式(III)の化合物の製造方法。
【請求項15】
請求項14に記載の式(III)の化合物の製造方法であって、RおよびR’が共に-CONH-CH(CH2OH)2基であり、R4が水素であり、R5がメチル基である、製造方法。
【請求項16】
請求項14に記載の式(III)の化合物の製造方法であって、RおよびR’が共に-CONH-CH2-CH(OH)CH2OH基であり、R4がメチルであり、R5が水素である、製造方法。
【請求項17】
イオパミドールまたはイオメプロールの製造方法であって、請求項1〜13のいずれか1つに記載の方法によって得られた式(II)の化合物から出発することを含んで成ることを特徴とする製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公表番号】特表2012−524741(P2012−524741A)
【公表日】平成24年10月18日(2012.10.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−506434(P2012−506434)
【出願日】平成22年4月8日(2010.4.8)
【国際出願番号】PCT/EP2010/054624
【国際公開番号】WO2010/121904
【国際公開日】平成22年10月28日(2010.10.28)
【出願人】(504448162)ブラッコ・イメージング・ソシエタ・ペル・アチオニ (34)
【氏名又は名称原語表記】BRACCO IMAGING S.P.A.
【Fターム(参考)】