説明

芳香族化合物水素化用触媒とその方法

本発明は、二酸化ケイ素を含む支持体材料に塗布された、ルテニウムとロジウム、パラジウム、白金、これらの混合物からなる群から選ばれる活性金属を含む卵殻型触媒であって、Hgポロシメトリーで求めた該支持体材料の気孔体積が0.6〜1.0ml/gであり、BET表面積が280〜500m/gであり、存在する気孔の少なくとも90%の径が6〜12nmであり、活性金属の量が全体の卵殻型触媒に対して0.1〜0.5重量%である卵殻型触媒と、この卵殻型触媒の製造方法、この卵殻型触媒を用いて少なくとも一個の水素化可能基を有する有機化合物を水素化する方法、この卵殻型触媒の有機化合物の水素化への利用に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、二酸化ケイ素を含む支持体材料に塗布された、ルテニウムとロジウム、パラジウム、白金、これらの混合物からなる群から選ばれる活性金属を含む卵殻型触媒であって、Hgポロシメトリーで求めた該支持体材料の気孔体積が0.6〜1.0ml/gであり、BET表面積が280〜500m/gであり、存在する気孔の少なくとも90%の径が6〜12nmであり、活性金属の量が全体の卵殻型触媒の対して0.1〜0.5重量%である卵殻型触媒と、この卵殻型触媒の製造方法、この卵殻型触媒を用いて少なくとも一個の水素化可能な基を有する有機化合物を水素化する方法、およびこの卵殻型触媒の有機化合物水素化への利用に関する。
【背景技術】
【0002】
文献にはいろいろな水素化プロセスが開示されている。工業的に興味があるのは、特に無置換および置換芳香族化合物やベンゼンポリカルボン酸、フェノール誘導体またはアニリン誘導体の水素化である。他に興味があるのは、複数のC−CやC−O、N−O、C−N結合を持つ化合物やポリマーの水素化生成物である。先行技術に記載の有機化合物水素化のためのプロセスは、適当な触媒の存在下で、特に担持触媒、即ち支持体材料に塗布された活性金属の存在下で行われる。
【0003】
WO2006/136541A2には、水素化可能基をもつ有機化合物を水素化するための触媒と方法が開示されている。この文書に記載の方法は、活性金属としてルテニウムのみを含む、あるいはルテニウムを少なくとも一種の他の元素周期律表遷移族IB、VIIBまたはVIIIの金属とともに含む卵殻型触媒で、支持体材料として二酸化ケイ素を含む支持体上に塗布されたものを使用している。また、この卵殻型触媒の製造方法や、水素化可能基をもつ有機化合物を水素化する方法、水素化可能基をもつ有機化合物の水素化でのこの触媒の利用も開示されている。この方法で用いられる卵殻型触媒は、この活性金属が、支持体材料表面からの浸入深さが300〜1000μmのところに特に高比率で存在することに特徴がある。
【0004】
DE19734974A1には、多孔性の支持体上に担持された金属ナノ粒子を含有する触媒の、特にエチレンと酢酸から酢酸ビニルへの気相酸化用触媒の製造方法が開示されている。この文書に記載の触媒は、卵殻型触媒であってよく、そのBET法で求めた支持体材料の表面積が一般的には10〜500m/gである。また気孔体積は一般的には0.3〜1.2ml/gである。好適な活性金属には、ロジウムやルテニウム、パラジウム、白金が含まれる。この文書に記載の支持体材料は、ナノ孔をもち、その中のナノ孔の気孔径は1〜500nmである。
【0005】
WO99/32427には、ベンゼンポリカルボン酸またはその誘導体をマクロポア含有触媒で水素化する方法が開示されている。この触媒は、活性金属として、ルテニウムのみを、あるいはルテニウムと少なくとも一種の周期律表の遷移族I、VII、またはVIIIの金属を含み、マクロポアをもつ支持体に塗布されている。特にこの支持体材料の気孔の中心径は50nmであり、BET表面積は多くても30m/gである。
【0006】
EP0814098B1には、担持されたルテニウム触媒の存在下で有機化合物を変換する方法が開示されている。この文書に記載の触媒は、活性金属として、ルテニウムのみを、あるいはルテニウムと少なくとも一種の周期律表の遷移族I、VII、またはVIIIの金属を触媒の全重量に対して0.01〜30重量%の量で含み、支持体に担持されている。なお、この支持体の気孔体積の10〜50%が直径が50nm〜10000nmの範囲のマクロポアである。
【0007】
EP1266882B1には、適当な触媒の存在下でベンゼンジカルボン酸エステルを水素化してシクロヘキサンジカルボン酸エステルを製造する方法が開示されている。この文書に記載の触媒は、活性金属としてニッケルを、5〜約70重量%の量で含んでいる。
【0008】
またWO2004/009526A1には、ある微孔性触媒とこの触媒を用いて芳香族化合物を水素化する方法が開示されている。この文書には、平均気孔径が5〜20nmで、BET表面積が>50m/gである触媒が記載されている。活性ルテニウム金属の量は0.1〜30重量%であり、そのBET表面積は1〜350m/gである。用いる支持体材料、例えば二酸化ケイ素の気孔体積は低くて、0.28〜0.43ml/gである。
【0009】
WO03/103830A1には、ある触媒とこの触媒を用いて芳香族化合物を水素化する方法が開示されている。この文書に記載の触媒は、活性物質として少なくとも一種の遷移族VIIIの金属を含み、また平均気孔径が25〜50nmで比表面積が>30m/gの支持体材料を含んでいる。
【0010】
DE19624835A1には、ルテニウムまたはパラジウム触媒を用いるポリマーの水素化方法が開示されている。この文書に記載の触媒の支持体材料は、特定の孔径分布を持っており、支持体の気孔体積の10〜50%が、気孔径が50nm〜10000nmの範囲のマクロポアからなり、支持体の気孔体積の50〜90%が、気孔径が2〜50nmの範囲にあるメソポアからなっている。また、この文書に記載の触媒は非坦持触媒である。つまり、この活性金属は触媒粒子の全断面に渡って分布している。
【0011】
先行技術に知られる触媒やこれらの触媒を用いて芳香族化合物を水素化する方法にはまだ改善の必要がある。まず、芳香族化合物から所望の標的化合物への、例えば炭素環式脂肪族化合物への変換率を増加させる必要がある。また、触媒の目的物への選択性も増加させる必要がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】WO2006/136541A2
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
このような先行技術に対して、本発明の目的は、有機化合物を水素化するに際して、所望の目標製品に対して最大の変換率を示し、また同時に特に高い選択性を示す触媒を提供することである。また、本発明の触媒は、特に高い安定性、即ち特に長い寿命で顕著である必要がある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
これらの目的は、ルテニウムとロジウム、パラジウム、白金、これらの混合物からなる群から選ばれる活性金属と、これを担持する二酸化ケイ素を含む支持体材料とからなる本発明の卵殻型触媒であって、Hgポロシメトリーで求めた支持体材料の気孔体積が0.6〜1.0ml/gであり、BET表面積が280〜500m/gであり、気孔の少なくとも90%の直径が6〜12nmである触媒により達成される。
【0015】
本発明の目的を達成するための他の方法は、この触媒の製造方法と少なくとも一個の水素化可能基をもつ有機化合物を水素化する方法である。
【0016】
上記の目的は、ルテニウムとロジウム、パラジウム、白金、これらの混合物からなる群から選ばれる活性金属を含む卵殻型触媒であって、特定の特徴の非常に特異な組合せを持っているもので、このため触媒に、例えば有機化合物の水素化の際の触媒に特に高い活性値と選択性を与えることのできる触媒により達成される。
【0017】
本発明の卵殻型触媒は、ルテニウムとロジウム、パラジウム、白金、これらの混合物からなる群から選ばれる活性金属を含み、好ましくはルテニウムを含み、最も好ましくはルテニウムのみを活性金属として含んでいる。
【0018】
本発明の卵殻型触媒中の活性金属の量は、一般的には触媒の全重量に対して<1重量%であり、好ましくは0.1〜0.5重量%、より好ましくは0.25〜0.35重量%である。
【0019】
したがって、本発明は好ましくは、活性金属の量が触媒の全重量に対して0.1〜0.5重量%である、より好ましくは0.25〜0.35重量%である本発明の卵殻型触媒に関する。
【0020】
卵殻型触媒は当業界の熟練者には公知である。本発明において、「卵殻型触媒」は、存在する少なくとも一種の活性金属、好ましくはルテニウムが、主に支持体材料の外側の殻中に存在することを意味する。
【0021】
本発明の卵殻型触媒において、活性金属の総量に対して好ましくは40〜70重量%の活性金属が、より好ましくは50〜60重量%の活性金属が、触媒の殻中に深さが200μmまでで存在している。ある特に好ましい実施様態においては、活性金属の総量に対して60〜90重量%の活性金属が、最も好ましくは70〜80重量%の活性金属が、浸入深さが500μmまでで触媒の殻中に存在している。上記のデータは、SEM(走査型電子顕微鏡)でのEPMA(電子プローブ微量分析)−EDXS(エネルギー分散エックス線スペクトロスコピー)で測定したもので、平均値である。上記の分析方法や技術に関する他の情報が、“Spectroscopy in Catalysis” by J.W. Niemantsverdriet, VCH, 1995 or “Handbook of Microscopy” by S. Amelinckx et al.に開示されている。活性金属粒子の浸入深さを測定にするために、数個の触媒粒子(例えば3個、4個または6個)を少し研磨する。ラインスキャンにより、活性金属/Si濃度比の分布を測定する。各々測定ライン上で、数個の、例えば15〜20個の測定箇所を等間隔で測定した。測定箇所の大きさは、およそ10μm×10μmであった。各深さでの活性金属の量を積分することで、あるゾーン内での活性金属の頻度を決めることができる。
【0022】
本発明の卵殻型触媒は、活性金属のほぼすべての量が、浸入深さが好ましくは200μmまでの殻中に存在する、即ち卵殻型触媒の表面近くに存在するという点に特徴があることが好ましい。他方、触媒の内側(芯)には、存在するとしても極小量の活性金属が存在する。驚くべきことに、本発明の触媒が、少量の活性金属を含んでいるにも関わらず、その特定の特徴の特異的な組合せのため、少なくとも一種の水素化可能基をも有機化合物の水素化において、特に炭素環式芳香族基の水素化において非常に高い活性を示し、また非常に良好な選択性を示すことがわかった。特に、本発明の触媒の活性は、長い水素化期間にわたって減少しない。
【0023】
触媒の内部に活性金属が検出されない、即ち活性金属が最外層の殻にのみに存在する、例えば浸入深さが大きくても500μmまでのゾーンにのみに存在する本発明の卵殻型触媒が、極めて好ましい。
【0024】
最も好ましくは、SEM・EPMA−EDXSにより求めた、活性金属とSiの濃度比から計算される卵殻型触媒表面での活性金属の量は2〜25%であり、好ましくは4〜10%、より好ましくは4〜6%である。その表面を、800μm×2000μmの領域の情報深度がおよそ2μmでの領域分析により分析する。元素組成は、重量%で示す(総計が100重量%)。平均濃度比(活性金属/Si)は、10個の測定領域の平均である。
【0025】
本出願においては、「卵殻型触媒の表面」は、浸入深さがおよそ2μmまでの触媒外側の殻を意味するものとする。この浸入深さは、上記の表面分析における情報深度に相当する。
【0026】
SEM−EPMA(EDXS)により求めた、活性金属とSiの重量比(重量%/重量%)から計算した卵殻型触媒の表面での活性金属の量が4〜6重量%であり、浸入深さが50μmでの活性金属の量が1.5〜3重量%であり、浸入深さが50〜150μmの範囲での活性金属の量が0.5〜2重量%である卵殻型触媒が極めて好ましい。上記の数値は平均値である。
【0027】
また、(FEG)−TEM分析で求めた活性金属粒子の大きさが、浸入深さの増加と共に減少することが好ましい。
【0028】
この活性金属は、本発明の卵殻型触媒中で、部分的または完全に結晶した形で存在することが好ましい。好ましい場合には、SAD(Selected Area Diffraction、選択領域回折)により本発明の卵殻型触媒の殻中に、超微細結晶の活性金属が検出される。
【0029】
本発明の卵殻型触媒は、さらにアルカリ土類金属イオン(M2+)を、即ちM=Be、Mg、Ca、Sr及び/又はBaを、特にMg及び/又はCaを、極めて好ましくはMgを含んでいてもよい。触媒中のアルカリ土類金属イオン(M2+)の量は、二酸化ケイ素支持体材料の重量に対して好ましくは0.01〜1重量%であり、特に0.05〜0.5重量%、極めて0.1〜0.25重量%である。
【0030】
本発明の触媒の重要な構成要素の一つが、二酸化ケイ素を含む支持体材料、好ましくは非晶質の二酸化シリコンを含む支持体材料である。なお、この「非晶質」は、結晶性二酸化ケイ素相の比が支持体材料の10重量%未満であるという意味である。しかしながら、本触媒の製造に用いられる支持体材料は、気孔の規則的な配列で形成される規則格子構造を材料中に持っていてもよい。
【0031】
有用な支持体材料は、原理的には二酸化ケイ素を少なくとも90重量%含み、支持体材料の残る10重量%、好ましくは5重量%未満が他の酸化物材料、例えばMgO、CaO、TiO、ZrO及び/又はAlである非晶質二酸化シリコン種である。
【0032】
本発明のある好ましい実施様態においては、この支持体材料がハロゲンフリー、特に塩素フリーである。即ち支持体材料中のハロゲン含量が、一般的には500重量ppm未満、例えば0〜400重量ppmの範囲である。したがって、(イオンクロマトグラフィーの測定で)触媒の全重量に対して0.05重量%未満のハライドを含む卵殻型触媒が好ましい。この支持体材料のハライド含量は、より好ましくは検出限界以下である。
【0033】
比表面積(DIN66131のBET表面積)が280〜500m/gの範囲にある、より好ましくは280〜400m/g、最も好ましくは300〜350m/gの範囲にある二酸化ケイ素を含んでいる支持体材料が好ましい。
【0034】
これらは天然物であっても合成品であってもよい。好適な二酸化ケイ素系非晶質支持体材料の例としては、シリカゲルや珪藻土、ヒュームドシリカ、沈降性シリカがあげられる。本発明のある好ましい実施様態においては、これらの触媒がシリカゲルを支持体材料として含んでいる。
【0035】
本発明によれば、この支持体材料の、Hgポロシメトリー(DIN66133)で求めた気孔体積が0.6〜1.0ml/gであり、好ましくは0.65〜0.9ml/g、例えば0.7〜0.8ml/gである。
【0036】
本発明の卵殻型触媒中では、少なくとも90%の気孔の気孔径が6〜12nmであり、好ましくは7〜11nm、より好ましくは8〜10nmである。この気孔径は、当業界の熟練者には既知の方法で決めることができ、例えばHgポロシメトリーまたはN物理吸着で決めることができる。ある好ましい実施様態においては、存在する気孔のうち少なくとも95%が、より好ましくは少なくとも98%が、6〜12nmの気孔径をもち、好ましくは7〜11nm、より好ましくは8〜10nmの気孔径をもつ。
【0037】
ある好ましい実施様態においては、本発明の卵殻型触媒中には、5nmより小さな気孔が存在しない。また、本発明の卵殻型触媒中では、25nmを越える気孔が、特に15nmを越える気孔が存在しない。なお、「気孔が存在しない」とは、これらの直径をもつ気孔が、従来の分析方法で、例えばHgポロシメトリーまたはN物理吸着で検出されないことをいう。
【0038】
本発明の卵殻型触媒中では、用いる分析の測定精度内でマクロポアがなく、メソポアのみがある。
【0039】
本発明の卵殻型触媒を触媒固定床で使用する場合、例えば押出成型または錠剤化で得られる、例えば球や錠剤、円柱、押出品、リングまたは中空円筒、星等の形を持つ、より好ましくは球の形を持つ支持体材料の成形体が通常使用される。これらの成形体の大きさは、通常0.5mm〜25mmの範囲で変動する。球径が1.0〜6.0mmである、より好ましくは2.5〜5.5mmである球状触媒の使用が好ましい。
【0040】
本発明の卵殻型触媒中では、活性金属の分散度が好ましくは30〜60%であり、より好ましくは30〜50%である。この活性金属の分散度を測定する方法は、当業界の熟練者には公知であり、例えばパルス化学吸着で測定可能であり、その際、貴金属分散度(比金属表面積、結晶サイズ)の測定は、COパルス法(DIN66136(1−3))で行われる。
【0041】
本発明は、したがって好ましくは、活性金属の分散度が30〜60%である、より好ましくは30〜50%である本発明の卵殻型触媒に関する。
【0042】
本発明の卵殻型触媒中では、この活性金属の表面積は、好ましくは0.2〜0.8m/gであり、より好ましくは0.3〜0.7m/gである。活性金属の表面積の測定方法は、当業界の熟練者には公知である。
【0043】
本発明は、したがって好ましくは、活性金属の表面積が0.2〜0.8m/gである、より好ましくは0.3〜0.7m/gである本発明の卵殻型触媒に関する。
【0044】
本発明の卵殻型触媒のタップ密度は、好ましくは400〜600g/lであり、より好ましくは450〜550g/lである。
【0045】
本発明は、したがって好ましくは、タップ密度が400〜600g/lである、より好ましくは450〜550g/lである本発明の卵殻型触媒に関する。
【0046】
本発明の卵殻型触媒を有機化合物の水素化に使用する場合、特定の気孔体積と特定のBET表面積と非常に特定の気孔径をもつ二酸化ケイ素含有支持体材料の特徴の非常に特異な組合せが、特に高い活性と所望の生成物に対する選択性を与えている。
【0047】
本発明は、したがって好ましくは、二酸化ケイ素を含む支持体材料上に担持された活性金属としてのルテニウムを有する本発明の卵殻型触媒であって、Hgポロシメトリー(DIN66133)とN吸着(DIN66131)で求めた支持体材料の気孔体積が0.6〜1.0ml/g、好ましくは0.65〜0.9ml/g、例えば0.7〜0.8ml/gであり、BET表面積(DIN66131によるBET表面積)が280〜500m/g、好ましくは280〜400m/g、より好ましくは300〜350m/gであり、存在する気孔の少なくとも90%が、好ましくは少なくとも95%、より好ましくは少なくとも98%が、6〜12nmの直径、好ましくは7〜11nm、より好ましくは8〜10nmの直径をもつものに関する。
【0048】
本発明の卵殻型触媒は、まずこの支持体材料に、活性金属の前駆化合物を含む溶液を1回以上含浸させ、得られた固体を乾燥し、これを還元して製造することが好ましい。個々の加工工程を以下に詳述する。
【0049】
したがって、本出願はまた、
(A)二酸化ケイ素を含む支持体材料に、少なくとも一種の活性金属の前駆化合物を含む溶液を1回以上含浸させ、
(B)次いで乾燥させ、
(C)次いで還元することからなる
請求項1〜5のいずれか一項に記載の卵殻型触媒の製造方法を提供する。
【0050】
工程(A)
工程(A)では、上記の二酸化ケイ素を含む支持体材料に、少なくとも一種の活性金属の前駆化合物を含む溶液を1回以上含浸させる。一般に、好適な前駆化合物は、本発明の加工条件下で金属性の活性金属に変換可能な、例えば硝酸塩やアセトネート、酢酸塩に、好ましくは酢酸塩に変換可能なすべての活性金属前駆化合物である。本発明では、この活性金属がルテニウムである事が好ましく、例えば酢酸ルテニウム(III)であることが好ましい。他の好ましい前駆化合物は、酢酸パラジウム(II)、酢酸白金(II)、及び/又は酢酸ロジウム(II)である。
【0051】
本発明の卵殻型触媒中の活性金属の量が極めて少ないため、ある好ましい実施様態においては、単純な含浸が行われる。
【0052】
驚くべきことに、酢酸ルテニウム(III)を前駆化合物として使用する場合、特に、活性金属のほとんどが、好ましくはルテニウムのみが卵殻型触媒中に浸入深さで200μmまでの所に存在することを特徴とする卵殻型触媒を得ることができることがわかった。この卵殻型触媒の内部は、あるとしても極く微量の活性金属を含んでいるのみである。
【0053】
少なくとも一種の前駆化合物を含む溶液を与えるのに好適な溶媒は、水、水混合物、あるいは50体積%までの一種以上の水混和性または溶媒混和性の有機溶媒を含む溶媒、例えばメタノール、エタノール、N−プロパノールまたはイソプロパノールなどのC−C−アルカノールとの混合物である。酢酸水溶液や氷酢酸も同様に使用できる。単一の溶液または単一相が存在するように、すべての混合物を選択すべきである。好ましい溶媒は、酢酸、水またはこれらの混合物である。酢酸ルテニウム(III)は通常、酢酸または氷酢酸中に溶解して存在しているため、水と酢酸の混合物を溶媒として使用することが特に好ましい。本発明の触媒を、水を使用せずに製造することもできる。
【0054】
支持体材料上に複数の活性金属が存在する場合、複数の前駆化合物を同時に添加することもできる。異なる前駆化合物を繰り返し含浸させて、逐次的に塗布することもできる。各含浸工程の後に通常、乾燥が行われる。
【0055】
一つの含浸工程で、酢酸ルテニウム(III)のみを含む溶液で含浸させることが特に好ましい。
【0056】
支持体材料の含浸はいろいろな方法で実施可能であり、既知の方法で支持体材料の形に応じて行われる。例えば、前駆化合物の溶液を支持体材料に噴霧または洗浄することもできるし、前駆化合物の溶液中に支持体材料を懸濁させることもできる。例えば、この支持体材料を活性金属の前駆化合物の水溶液中に懸濁させ、一定時間後にこの水混合物の上澄液から濾別することができる。吸着される液体の量と溶液中の活性金属の濃度を用いて、簡単に触媒中の活性金属含量の制御を行うことができる。例えば支持体を支持体材料が吸収可能な最大量の液体に相当する特定量の活性金属前駆化合物の溶液で処理して、支持体材料を含浸させることもできる。このために、この支持体材料に、例えば所要量の液体を噴霧することもできる。この目的に好適な装置は、液体と固体の混合に従来から用いられている装置であり、例えば転倒乾燥機や、含浸ドラム、ドラムミキサー、パドルミキサーなどが挙げられる(Vauck/Muller, Grundoperationen chemischer Verfahrenstechnik [化学プロセス技術の基本操作], 10th edition, Deutscher Verlag fur Grundstoffindustrie, 1994, p. 405 ff.を参照)。
【0057】
モノリス支持体は通常、活性金属前駆化合物の水溶液で洗浄する。
【0058】
含浸に用いられる溶液は、好ましくは低ハロゲンであり、特に低塩素である。即ち、これらは、溶液の全重量に対してゼロまたは500重量ppm未満のハロゲンを、特に100重量ppm未満のハロゲンを含み、例えば0〜<80重量ppmのハロゲンを含む。
【0059】
溶液中の活性金属前駆化合物の濃度は、もちろん塗布される活性金属前駆化合物の量と支持体材料のこの溶液の吸収容量にに依存し、用いる溶液の総重量に対して<20重量%であり、好ましくは0.01〜6重量%、より好ましくは0.1〜1.1重量%である。
【0060】
工程(B):
乾燥は、従来から用いられている固体の乾燥方法で実施可能である。ただし、以下に示す最高温度を維持する必要がある。この最高乾燥温度の維持は、品質に、即ち触媒活性に重要である。以下に示す乾燥温度を越えると活性が明らかに減少する。先行技術に示されているように、高温での、例えば300℃を越える、または400℃を越える高温での支持体の焼成は、不必要であるばかりか触媒活性に悪影響を与える。十分な乾燥速度を達成するためには、この乾燥を高温で行うことが好ましく、好ましくは<180℃、特に<160℃で、少なくとも40℃、特に少なくとも70℃、特に少なくとも100℃で、極めてこのましくは110℃〜150℃で行うことが好ましい。
【0061】
活性金属前駆化合物が含浸された固体は、通常標準圧力下で乾燥されるが、この乾燥を減圧を使って加速することもできる。しばしば、この乾燥は、乾燥させる材料の上または内部にガス流を、例えば空気または窒素を通過させることにより促進される。
【0062】
乾燥時間は、もちろん所望の乾燥度と乾燥温度によるが、好ましくは1時間〜30時間の範囲であり、好ましくは2〜10時間の範囲である。
【0063】
処理後の支持体材料の乾燥は、続く還元の前に水または揮発性溶媒構成要素の含量が、固体の全重量に対して5重量%未満となるように、特に2重量%以下となるように行うことが好ましい。上記の重量比率は、160℃の温度と1barの圧力で10分間で求めた固体の重量減少に関する。このようにして、本発明で用いられる触媒の活性をさらに増加させることができる。
【0064】
工程(C):
乾燥後に得られる固体は、その固体を通常150℃〜450℃、好ましくは250℃〜350℃の範囲の温度で公知の方法で還元して、その触媒活性な形に変換される。
【0065】
このために、上記の温度で、この支持体材料を水素または水素と不活性ガスとの混合物に接触させる。水素の絶対圧は、還元の結果にあまり重要でなく、例えば0.2bar〜1.5barの範囲で変更可能である。しばしば、この触媒材料は、水素流中で標準的な水素圧で水素化される。固体を動かしながら還元することが好ましく、例えば回転チューブ炉または回転球型炉を用いて還元することが好ましい。このようにして本発明の触媒の活性をさらに増加させることができる。用いる水素は、COやSを含む化合物、具体的にはHSやCOS等の触媒毒を含まないことが好ましい。
【0066】
この還元を、ヒドラジンやホルムアルデヒド、ホルメート、アセテートなどの有機還元剤により行うこともできる。
【0067】
還元の後、取扱い性を改善するためこの触媒を既知の方法で処理して、例えばこの触媒を酸素含有ガス、例えば空気でしばらく処理して、好ましくは1〜10体積%の酸素を含む不活性混合ガスで処理して、不動態化させることもできる。COまたはCO/O混合物を使用することもできる。
【0068】
この活性触媒を、不活性有機溶媒下で、例えばエチレングリコール下で保存することもできる。
【0069】
他の実施様態においては、本発明の卵殻型触媒を製造するため、例えば上述のようにあるいはWO−A2−02/100538(BASF社)により製造した活性金属触媒前駆体に、一種以上のアルカリ土類金属(II)塩の溶液を含浸させることができる。
【0070】
適当なアルカリ土類金属(II)塩は、相当する硝酸塩であり、特に硝酸マグネシウムや硝酸カルシウムである。
【0071】
この含浸工程でアルカリ土類金属(II)塩用に好適な溶媒は、水である。この溶媒中のアルカリ土類金属(II)塩の濃度は、例えば0.01〜1mol/Lである。
【0072】
製造の結果、この活性金属は、本発明の触媒中で金属性活性金属の形で存在する。
【0073】
本発明の卵殻型触媒の製造においてハロゲンフリー、特に塩素フリーの活性金属前駆化合物と溶媒を使用する結果、本発明の卵殻型触媒のハライド含量、特に塩化物含量が、触媒の全重量に対して0.05重量%未満(0〜<500重量ppm、例えば0〜400重量ppmの範囲)となる。この塩化物含量は、イオンクロマトグラフィーで、例えば以下に述べる方法で決定される。
【0074】
特に断らない限り、この文書におけるすべてのppm値は、重量部(重量ppm)を意味するものとする。
【0075】
この支持体材料は、Alとして計算された酸化アルミニウムを、1重量%を越える量で、特に0.5重量%を越える、特に0.2重量%を越える量で含まないことが好ましい。
【0076】
シリカの縮合がアルミニウムと鉄により影響を受けることがあるため、Al(III)とFe(II及び/又はIII)の合計濃度は、好ましくは300ppm未満であり、より好ましくは200ppm未満であり、例えば0〜180ppmの範囲である。
【0077】
アルカリ金属酸化物の比率は、好ましくは支持体材料の製品により決まり、最大で2重量%とまでなることがある。好ましくは、これは1重量%未満である。アルカリ金属酸化物を含まない支持体(0〜<0.1重量%)も好適である。MgO、CaO、TiOまたはZrOの比率は、最大で支持体材料の10重量%にまで達するが、好ましくは5重量%以下である。しかしながら、好適な支持体材料はまた、これらの金属酸化物を検出可能量で含まない(0〜<0.1重量%)ものである。
【0078】
Al(III)とFe(II及び/又はIII)はシリカ中に酸性の場を与えるため、支持体内で電荷補償があることが、好ましくはアルカリ土類金属カチオン(M2+、M=Be、Mg、Ca、Sr、Ba)で電荷補償があることが好ましい。これは、M(II):(Al(III)+Fe(II及び/又はIII))の重量比が0.5より大きい、好ましくは>1、より好ましくは3より大きいことを意味する。元素記号の後の括弧内のローマ数字は、元素の酸化状態を意味する。
【0079】
本発明の卵殻型触媒は、水素化触媒として使用することが好ましい。少なくとも一個の水素化可能基を持つ有機化合物の水素化に特に好適である。
【0080】
この水素化可能基は、以下の構成単位:C−C二重結合、C−C三重結合、芳香族基、C−N二重結合、C−N三重結合、C−O二重結合、N−O二重結合、C−S二重結合、NO基をもつ基であってもよく、これらの基が、ポリマー中または環状構造、例えば不飽和複素環中にあってもよい。これらの水素化可能基は、有機化合物中でそれぞれ1個以上存在していてもよい。これらの有機化合物が、2個以上の異なる上記水素化可能基を有していてもよい。後者の場合、水素化の条件によっては、一個のみあるいは複数の水素化可能基が水素化されることがある。
【0081】
本発明の卵殻型触媒を、炭環式芳香族基を相当する炭素環式脂肪族基に水素化するために用いることあるいはアルデヒドを相当するアルコールに水素化するために用いることが好ましく、炭素環式芳香族基を相当する炭素環式脂肪族基に水素化するのに利用することが最も好ましい。芳香族基を完全に水素化することが特に好ましい。なお、完全水素化とは、水素化される化合物の平均変換率が、一般的には>98%であること、好ましくは>99%、より好ましくは>99.5%、さらにましくは>99.9%、特に>99.99%、特に>99.995%であることを意味すると解される。
【0082】
本発明の卵殻型触媒をベンゼンのシクロヘキサンへの水素化に用いる場合、典型的なシクロヘキサンの規格である残留ベンゼン量が<100ppm(ベンゼン変換率で>99.99%に相当)が達成される。本発明の卵殻型触媒を用いるベンゼンの水素化におけるベンゼン変換率は、好ましくは>99.995%である。
【0083】
本発明の卵殻型触媒を芳香族ジカルボン酸エステルの、特にフタル酸エステルの相当するジアルキルシクロヘキサンジカルボン酸への水素化に使用する場合、その典型的な規格である残留芳香族ジカルボン酸エステルの含量、特に残留フタル酸エステルの含量の<100ppm(>99.99%の変換率に相当)が、同様に達成される。本発明の卵殻型触媒での、芳香族ジカルボン酸エステル、特にフタル酸エステルの水素化の変換率は、好ましくは>99.995%である。
【0084】
本出願は、したがってさらに、少なくとも一個の水素化可能基を持つ有機化合物の水素化方法、好ましくは炭素環式芳香族基の相当する炭素環式脂肪族基への水素化方法、またはアルデヒドの相当するアルコールへの水素化方法、最も好ましくは炭素環式芳香族基の相当する炭素環式脂肪族基への水素化方法であって、この有機化合物を少なくとも一種の還元剤と本発明の卵殻型触媒とに接触させる方法を提供する。
【0085】
本発明はまた、本発明の卵殻型触媒の、少なくとも一個の水素化可能基を有する有機化合物の水素化方法での利用に関する。本発明は、好ましくは炭素環式芳香族基を相当する炭素環式脂肪族基に水素化する、あるいはアルデヒドを相当するアルコールに変換するための本発明の利用に関する。
【0086】
この炭素環式芳香族基は、下記一般式を有する芳香族炭化水素の一部であることが好ましい:
(A)−(B)n
【0087】
式中の記号はそれぞれ次のように定義される:
【0088】
Aは、独立してアリールまたはヘテロアリールである;Aは、好ましくはフェニルとジフェニル、ベンジル、ジベンジル、ナフチル、アントラセン、ピリジル、キノリンから選ばれる;Aは、より好ましくはフェニルである;
特にAが六員のアリール環またはヘテロアリール環の場合、nは0〜5であり、好ましくは0〜4、より好ましくは0〜3である;Aが、五員のアリール環またはヘテロアリール環の場合、nは好ましくは0〜4である;環の大きさとは無関係に、nはより好ましくは0〜3であり、さらに好ましくは0〜2、特に0〜1である;置換基Bを持たないAの残りの炭化水素原子またはヘテロ原子は、水素原子を持ち、または適当なら置換基をもたない。
【0089】
Bは、独立してアルキル、アルケニル、アルキニル、置換アルキル、置換アルケニル、置換アルキニル、ヘテロアルキル、置換ヘテロアルキル、ヘテロアルケニル、置換ヘテロアルケニル、ヘテロアルキニル、置換ヘテロアルキニル、シクロアルキル、シクロアルケニル、置換シクロアルキル、置換シクロアルケニル、COOR(式中、RはH、アルキル、置換アルキル、シクロアルキル、置換シクロアルキル、アリールまたは置換アリール、ハロゲン、ヒドロキシル、アルコキシ、アリールオキシ、カルボニル、アミノ、アミド、チオ、ホスフィノ)からなる群から選ばれる;Bは、好ましくは独立して、C1−6−アルキルとC1−6−アルケニル、C1−6−アルキニル、C3−8−シクロアルキル、C3−8−シクロアルケニル、COOR(式中、Rは、HまたはC1−12−アルキル、ヒドロキシル、アルコキシ、アリールオキシ、アミノ、アミド)から選ばれる;Bは、より好ましくは独立して、C1−6−アルキル、COOR(式中、RはHまたはC1−12−アルキル、アミノ、ヒドロキシルまたはアルコキシ)である。
【0090】
上記表現の「独立して」は、nが2以上の場合、これらの置換基Bが上記の基と同一の基であっても異なる基であってもよいことを意味する。
【0091】
特記しない場合、本出願においては、アルキルは分岐状または線状の飽和非環式炭化水素基を意味する。好適なアルキル基の例としては、メチルやエチル、n−プロピル、i−プロピル、n−ブチル、t−ブチル、i−ブチル等があげられる。1〜50個の炭素原子をもつアルキル基が好ましく、1〜20個の炭素原子をもつものがより好ましく、1〜6個の炭素原子を持つものが最も好ましく、特に1〜3個の炭素原子を持つものが好ましい。
【0092】
上述のCOOR基において、RはHまたは分岐状または鎖状のアルキルであり、好ましくはHまたはC1−12−アルキルである。好ましいアルキル基は、C4−10−アルキル基であり、より好ましくはC8−10−アルキル基である。これらは分岐していてもいなくてもよいが、分岐していることが好ましい。3個より多い炭素原子をもつアルキル基は、同一の炭素数を持つ異なるアルキル基異性体の混合物であってもよい。一つの例が、C−アルキル基であり、これはイソノニル基、即ち異なるC−アルキル基の異性体混合物であってもよい。例えばC−アルキル基にも同じことがあてはまる。このような異性体混合物は、そのアルキル基に対応するアルコールから出発して得られる(その製造方法のため異性体混合物として得られる)。このことは当業界の熟練者には公知である。
【0093】
本出願においては、アルケニルは、少なくとも一個の炭素−炭素二重結合をもつ技分かれしていてもよい非環式炭化水素基を意味するものとする。適当なアルケニル基は、例えば2−プロペニルやビニルなどである。これらのアルケニル基は、好ましくは2〜50個の炭素原子をもち、より好ましくは2〜20個の炭素原子、最も好ましくは2〜6個の炭素原子、特に2〜3個の炭素原子をもつ。「アルケニル」はまた、シスまたはトランス(あるいは、EまたはZ)のいずれの基であってもよい。
【0094】
本出願においては、アルキニルは、少なくとも一個の炭素−炭素三重結合をもつ技分かれしていてもよい非環式炭化水素基を意味するものとする。これらのアルキニル基は、好ましくは2〜50個の炭素原子をもち、より好ましくは2〜20個の炭素原子、さらに好ましくは1〜6個の炭素原子、特に2〜3個の炭素原子をもつ。
【0095】
置換アルキルと置換アルケニル、置換アルキニルは、アルキルとアルケニル、アルキニル基で、これらの基の炭素原子に結合した一個以上の水素原子が他の基で置換されたものを意味するものとする。このような他の基の例としては、ヘテロ原子や、ハロゲン、アリール、置換アリール、シクロアルキル、シクロアルケニル、置換シクロアルキル、置換シクロアルケニル、これらの組み合わせがあげられる。適当な置換アルキル基の例は、特にベンジルとトリフルオロメチルである。
【0096】
「ヘテロアルキル」、「ヘテロアルケニル」、「ヘテロアルキニル」はアルキルやアルケニル、アルキニル基で、炭素鎖中の炭素原子の一個以上が、NとOとSとから選ばれるヘテロ原子で置換されたものを意味するものとする。
【0097】
ヘテロ原子と他の炭素原子の間の結合は、飽和結合であっても、必要なら不飽和結合であってもよい。
【0098】
本出願においては、シクロアルキルは、飽和環状の非芳香族炭化水素基で、単一の環または複数の縮合環からなるものを意味するものとする。適当なシクロアルキル基は、例えばシクロペンチルやシクロヘキシル、シクロオクタニル、ビシクロオクチルなどである。これらのシクロアルキル基は、3〜50個の炭素原子を持つことが好ましく、3〜20個の炭素原子を持つことがより好ましく、3〜8個の炭素原子を持つことがらに好ましく、特に3〜6個の炭素原子を持つことが好ましい。
【0099】
本出願においては、シクロアルケニルは、部分的に不飽和の環状非芳香族炭化水素基で、単一の環または複数の縮合環を持つものを意味するものとする。適当なシクロアルケニル基は、例えばシクロペンテニルやシクロヘキセニル、シクロオクテニルなどである。これらのシクロアルケニル基は、3〜50個の炭素原子を持つことが好ましく、3〜20個の炭素原子を持つことがより好ましく、3〜8個の炭素原子を持つことがらに好ましく、特に3〜6個の炭素原子を持つことが好ましい。
【0100】
置換シクロアルキルと置換シクロアルケニル基は、シクロアルキルとシクロアルケニル基で、炭素環のいずれかの炭素原子の一個以上の水素原子が他の基で置換されているものである。このような他の基としては、例えば、ハロゲンや、アルキル、アルケニル、アルキニル、置換アルキル、置換アルケニル、置換アルキニル、アリール、置換アリール、シクロアルキル、シクロアルケニル、置換シクロアルキル、置換シクロアルケニル、脂肪族複素環基、置換脂肪族複素環基、ヘテロアリール、置換ヘテロアリール、アルコキシ、アリールオキシ、ボリル、ホスフィノ、アミノ、シリル、チオ、セレノ、これらの組み合わせがあげられる。置換シクロアルキルおよびシクロアルケニル基の例としては、特に、4−ジメチルアミノシクロヘキシルや4,5−ジブロモシクロヘプト−4−エニルがあげられる。
【0101】
本出願において、アリールは、単一の芳香族環を持つ、あるいは縮合した、共有結合で結合した、または適当な単位、例えばメチレンまたはエチレン単位で結合した複数の芳香族環をもつ芳香族基を意味するものとする。このような「適当な単位」は、ベンゾフェノン中のようなカルボニル単位であってもよく、またはジフェニルエーテル中のような酸素単位、ジフェニルアミン中のような窒素単位であってもよい。この芳香族環は、例えばフェニルやナフチル、ジフェニル、ジフェニルエーテル、ジフェニルアミン、ベンゾフェノンである。これらのアリール基は、6〜50個の炭素原子を持つことが好ましく、6〜20個の炭素原子を持つことがより好ましく、6〜8個の炭素原子を持つことが最も好ましい。
【0102】
置換アリール基は、アリール基で、そのアリール基の炭素原子に結合した一個以上の水素原子が一個以上の他の基で置換されたものである。適当な他の基は、アルキルや、アルケニル、アルキニル、置換アルキル、置換アルケニル、置換アルキニル、シクロアルキル、シクロアルケニル、置換シクロアルキル、置換シクロアルケニル、ヘテロシクロ、置換ヘテロシクロ、ハロゲン、ハロゲン−置換アルキル(例えば、CF)、ヒドロキシル、アミノ、ホスフィノ、アルコキシ、チオ、一個以上の芳香族環に縮合した、あるいはある結合で、または相互に適当な基で結合した飽和および不飽和の環状炭化水素である。適当な基は、すでに上に述べた。
【0103】
ヘテロアリール基は、アリール基であって、そのアリール基の芳香族環の一個以上の炭素原子がNとOとSから選ばれるヘテロ原子で置換された/置換されるものを意味することとする。
【0104】
置換ヘテロアリール基は、置換アリール基であって、置換アリール基の芳香族環の一個状の炭素原子が、NとOとSから選ばれるヘテロ原子で置換された/置換されるものを意味することとする。
【0105】
本出願においては、ヘテロシクロ基は、飽和、部分不飽和または不飽和の環状基であって、その基の一個以上の炭素原子がヘテロ原子で、例えばN、OまたはSで置換されたものを意味するものとする(「ヘテロシクロ」は上記のヘテロアリール基も含む)。ヘテロシクロ基の例としては、ピベラジニルや、モルホリニル、テトラヒドロピラニル、テトラヒドロフラニル、ピペリジニル、ピロリジニル、オキサゾリニル、ピリジル、ピラジル、ピリダジル、ピリミジルがあげられる。
【0106】
置換ヘテロシクロ基は、ヘテロシクロ基であって、その環原子の一つに結合した一個以上の水素原子が他の基で置換されたものである。適当な他の基は、ハロゲンやアルキル、置換アルキル、アリール、置換アリール、ヘテロアリール、置換ヘテロアリール、アルコキシ、アリールオキシ、ボリル、ホスフィノ、アミノ、シリル、チオ、セレノ、これらの組み合わせである。
【0107】
アルコキシ基は、一般式−OZの基であり、式中、Zは、アルキルと置換アルキル、シクロアルキル、置換シクロアルキル、ヘテロシクロアルキル、置換ヘテロシクロアルキル、シリル、これらの組み合わせから選ばれる。適当なアルコキシ基は、例えばメトキシやエトキシ、ベンジルオキシ、t−ブトキシ等である。
【0108】
アリールオキシ基は、一般式−OZの基であり、Zが、アリールと置換アリール、ヘテロアリール、置換ヘテロアリール、これらの組み合わせから選ばれるものを意味するものとする。適当なアリールオキシ基は、特にフェノキシや置換フェノキシ、2−ピリジノキシ、8−キノリノキシである。
【0109】
ある好ましい実施様態においては、Aがフェニルで、nが0〜3であり、BがC1−6−アルキル、COOR(式中、Rは、HまたはC1−12−アルキル、アミノ、ヒドロキシルまたはアルコキシである)である。本発明の水素化方法は、フェニル基が相当するシクロヘキシル基に完全に水素化されるように行うことが好ましい。
【0110】
本発明によりその対応するシクロヘキシル誘導体に水素化される好ましい化合物を下に示す。
【0111】
本発明の水素化方法のある好ましい実施様態においては、この芳香族炭化水素が、ベンゼンと、トルエンやエチルベンゼン、キシレン(o−、m−、p−または異性体混合物)、メシチレン(1,2,4または1,3,5または異性体混合物)などのアルキル置換ベンゼンからなる群から選ばれる。したがって本発明の方法においては、ベンゼンのシクロヘキサンへの水素化が、またトルエンやエチルベンゼン、キシレン、メシチレンなどのアルキル置換ベンゼンの、メチルシクロヘキサンやエチルシクロヘキサン、ジメチルシクロヘキサン、トリメチルシクロヘキサンなどのアルキル置換シクロヘキサンへの水素化が好ましい。上記の芳香族炭化水素のいずれかの混合物を、相当するシクロヘキサンに水素化することもできる。例えば、ベンゼンとトルエンとキシレンから選ばれる二種または三種の化合物を、シクロヘキサンとメチルシクロヘキサンとジメチルシクロヘキサンから選ばれる二種または三種の化合物の混合物の水素化に使用することができる。
【0112】
本発明の水素化方法の他の好ましい実施様態においては、この芳香族炭化水素が、フェノールと、4−tert−ブチルフェノールや4−ノニルフェノール、ビス(p−ヒドロキシフェニル)メタン、ビス(p−ヒドロキシフェニル)ジメチルメタンなどのアルキル置換フェノールからなる群から選ばれる。
【0113】
したがって本発明の方法においては、フェノールからシクロヘキサノールへの水素化が、また4−tert−ブチルフェノールや4−ノニルフェノールなどのアルキル置換フェノールから、4−tert−ブチルシクロヘキサノールや4−ノニルシクロヘキサノールなどのアルキル−置換シクロヘキサノールへの水素化、ビス(p−ヒドロキシフェニル)メタンからビス(p−ヒドロキシシクロヘキシル)−メタンの水素化、ビス(p−ヒドロキシフェニル)ジメチルメタンからビス(p−ヒドロキシシクロヘキシル)−ジメチルメタンへの水素化が好ましい。
【0114】
本発明の水素化方法の他の好ましい実施様態においては、この芳香族炭化水素が、アニリンとアルキル置換アニリン、N,N−ジアルキルアニリン、ジアミノベンゼン、ビス(p−アミノフェニル)メタン、ビス(p−アミノトリル)メタンからなる群から選ばれる。本発明の方法においては、アニリンからシクロヘキシルアミンへの水素化が、またアルキル置換アニリンからアルキル置換シクロヘキシルアミンへの水素化、N,N−ジアルキルアニリンからN,N−ジアルキルシクロヘキシルアミンへの水素化、ジアミノベンゼンからジアミノシクロヘキサンへの水素化、ビス(p−アミノフェニル)メタンからビス(p−アミノシクロヘキシル)メタンへの水素化、ビス(p−アミノトリル)メタンからビス(p−アミノメチルシクロヘキシル)メタンへの水素化が好ましい。
【0115】
本発明の水素化方法のさらに好ましい実施様態においては、この芳香族炭化水素が、フタル酸などの芳香族カルボン酸と、フタル酸のC1−12−アルキルエステル(式中、C1−12−アルキル基は、直鎖又は分岐鎖であってもよい)などの芳香族カルボン酸エステル(例えば、ジメチルフタレート、ジ−2−プロピルヘプチルフタレート、ジ−2−エチルヘキシルフタレート、フタル酸ジオクチル、フタル酸ジイソノニル)からなる群から選ばれる。したがって本発明の方法においては、フタル酸などの芳香族カルボン酸のテトラヒドロフタル酸などの脂環式カルボン酸への水素化が、フタル酸のC1−12−アルキルエステルなどの芳香族カルボン酸エステルのテトラヒドロフタル酸のC1−12−アルキルエステルなどの脂肪族のカルボキシリックエステルへの水素化(例えば、ジメチルフタレートからジメチルシクロヘキサンジカルボキシレート、ジ−2−プロピルヘプチルフタレートからジ−2−プロピルヘプチルシクロヘキサンジカルボキシレート、ジ−2−エチルヘキシルフタレートからジ−2−エチルヘキシルシクロヘキサンジカルボキシレート、フタル酸ジオクチルからジオクチルシクロヘキサンジカルボキシレート、フタル酸ジイソノニルからジイソニニルシクロヘキサンジカルボキシレートへの水素化)が好ましい。
【0116】
本発明の方法において、少なくとも一個の炭素環式芳香族基をもつ有機化合物は、最も好ましくはベンゼンとアルキル置換ベンゼン、フェノール、アルキル置換フェノール、アニリン、アルキル置換アニリン、N,N−ジアルキルアニリン、ジアミノベンゼン、ビス(p−アミノフェニル)メタン、ビス(p−アミノトリル)メタン、芳香族カルボン酸、芳香族カルボン酸エステル、これらの混合物からなる群から選ばれる。
【0117】
上記有機化合物、即ち少なくとも一個の炭素環式芳香族基をもつ少なくとも一種の有機化合物は、特に好ましくは、ベンゼンとフタル酸ジイソノニル、安息香酸、2−メチルフェノール、ビスフェノールA、クミンアルデヒド、アニリン、メチレンジアニリン、オルト−トルイジンベース、キシリジンベース、これらの混合物からなる群から選ばれる。
【0118】
他の実施様態においては、本出願は、アルデヒドを相当するアルコールに水素化する方法に関する。好ましいアルデヒドは、グルコースやラクトース、キシロースなどの単糖や二糖である。これらの単糖や二糖が相当する糖アルコールに水素化され、具体的にはグルコースがソルビトールに、ラクトースがラクチトールに、キシロースがキシリトールに水素化される。
【0119】
適当な単糖と二糖と適当な水素化条件が、例えばDE−A10128205に開示されている。DE−A10128205に開示の触媒に替えて本発明の卵殻型触媒が使用されている。
【0120】
本発明の水素化方法は、水素化可能基をもつ有機化合物を選択的に水素化する、好ましくは炭素環式芳香族基を炭素環式脂肪族基に水素化する選択的な方法であって、用いる触媒に対して高収率と高空時収率、[生成物量/(触媒体積・時刻)](kg/(l触媒・h))、[生成物量/(反応器体積・時刻)](kg/(l反応器・h))が達成されるとともに、用いる触媒がなんら処理することなく繰り返し水素化に使用できる方法である。特に、本発明の水素化方法により、長い触媒の使用寿命が達成できる。
【0121】
本発明の水素化方法は、液相または気相でおこなうことができる。本発明の水素化方法を液相で行うことが好ましい。
【0122】
本発明の水素化方法は、溶媒または希釈剤の不存在下で行ってもよいが、溶媒または希釈剤の存在下で行ってもよい。即ち、この水素化を溶液中で行う必要は必ずしもない。
【0123】
用いる溶媒または希釈剤は、いずれかの適当な溶媒または希釈剤である。有用な溶媒または希釈剤は、原理的には、水素化される有機化合物を最大限にあるいは完全に溶解可能で、水素化条件下で不活性である、即ち水素化されないものである。
【0124】
好適な溶媒の例としては、テトラヒドロフランやジオキサン、メチルtert−ブチルエーテル、ジメトキシエタン、ジメトキシプロパン、ジメチルジエチレングリコールなどの環状および非環状エーテルや、メタノールやエタノール、n−またはイソ−プロパノール、n−、2−、イソ−またはtert−ブタノールなどの脂肪族アルコール、酢酸メチルや酢酸エチル、プロピルアセテートまたは酢酸ブチルなどのカルボン酸エステル、メトキシプロパノールなどの脂肪族エーテルアルコール、シクロヘキサンやメチルシクロヘキサン、ジメチルシクロヘキサンなどの脂環式化合物があげられる。
【0125】
用いる溶媒または希釈剤の量は特に限定されず、要求に合わせて自由に選択できるが、
水素化される有機化合物の3〜70重量%溶液を与える量が好ましい。希釈剤の使用は、水素化プロセス中での強い発熱を防止するために有利である。過剰な発熱は触媒の失活をもたらすため望ましくない。したがって、本発明の水素化方法では注意深い温度制御が望ましい。適当な水素化温度は下に述べる。
【0126】
本発明の方法で溶媒を使用する場合、適当なら他の溶媒または希釈剤に加えて、水素化で生じた生成物を、即ち好ましくは特定の脂環式化合物を使用することが特に好ましい。
【0127】
いずれの場合でも、このプロセスで生成する生成物の一部を、水素化されていない芳香族化合物に添加することもできる。したがって特に好ましい実施様態においては、ベンゼンの水素化では、シクロヘキサンが溶媒として用いられる。フタール酸エステルの水素化では、相当するジアルキルシクロヘキサンジカルボン酸エステルを溶媒として使用することが好ましい。
【0128】
水素化される有機化合物からの生成物の量の1〜30倍の量を、より好ましくは5〜20倍、特に5〜10倍の量を、溶媒または希釈剤として添加することが好ましい。特に、本発明は、本発明の触媒の存在下でベンゼンがシクロヘキサンに水素化される種類の水素化に関する。
【0129】
冒頭の先行技術に記載したように、実際の水素化は、既知の水素化可能基をもつ有機化合物を水素化する方法、好ましくは炭素環式芳香族基を相当する炭素環式脂肪族基に水素化する方法と同様に行われる。このために、液相または気相の、好ましくは液相の有機化合物が、水素の存在下で触媒に接触させられる。この液相を流動触媒床(流動床方式)または触媒固定床(固定床方式)の上に通すことができる。
【0130】
本発明は、したがって好ましくは、水素化が固定床反応器中で行われる本発明の方法に関する。
【0131】
この水素化は連続的にでも回分的にでも実施可能であるが、連続的なプロセスでの実施が好ましい。トリックル反応器中で、あるいは固定床方式の越流方式で行うことが好ましい。水素を、水素化対象物の溶液と併流として触媒上を通過させることができるが、向流に通過させることもできる。
【0132】
流動触媒床上でまた触媒固定床上で水素化により水素化を行うのに適当な装置は、先行技術から、例えばUllmanns Enzyklopadie der Technischen Chemie, 4th edition, volume 13, p. 135 ff.と、P.N. Rylander, “Hydrogenation and Dehydrogenation” in Ullmann’s Encyclopedia of Industrial Chemistry, 5th ed. on CD−ROM. から公知である。
【0133】
本発明の水素化は、標準的な水素圧で実施しても、あるいは加圧した水素圧、例えば絶対水素圧として少なくとも1.1bar、好ましくは少なくとも2barで実施してもよい。一般に、絶対水素圧は325barの値を超えず、好ましくは300barを越えない。より好ましくは、この絶対水素圧が1.1〜300barの範囲であり、最も好ましくは5〜40barの範囲である。ベンゼンの水素化は、例えば水素圧が一般的には<50barで、好ましくは10bar〜45bar、より好ましくは15〜40barで行われる。
【0134】
本発明の方法の反応温度は、一般的には少なくとも30℃であり、250℃の値を超えることはあまりない。この水素化方法を50〜200℃の範囲の温度で行うことが好ましく、より好ましくは70〜180℃、最も好ましくは80〜160℃の範囲の温度で行うことが好ましい。
【0135】
ベンゼンの水素化は、例えば、一般的には75℃〜170℃の範囲の温度で、好ましくは80℃〜160℃の範囲の温度で行われる。水素に加えて有用な反応ガスは、一酸化炭素などの触媒毒またはHSまたはCOSなどの含硫ガスのいずれをも含まない水素含有ガスであり、例えば水素と窒素などの不活性ガスとの混合物、または通常揮発性炭化水素を含む改質器排出ガスである。純水素(純度>99.9体積%、特に>99.95体積%、特に>99.99体積%)の使用が好ましい。
【0136】
高触媒活性のため、反応剤に対して比較的少量の触媒が必要となる。例えば回分的な懸濁方式では、1モルの反応剤当り好ましくは5mol%未満の、例えば0.2モル%〜2mol%の活性金属が使われることとなる。連続的な構成の水素化プロセスでは、水素化される反応剤は、通常0.05〜3kg/(l(触媒)・h)の量の、特に0.15〜2kg/(l(触媒)・h)の量の触媒上で処理される。
【0137】
活性が低下すると、ルテニウム触媒などの貴金属触媒に通常使われる、当業界の熟練者には既知の再生方法で、この方法で用いる触媒を再生させることができる。例えば、BE882279に記載のような触媒の酸素処理や、US4,072,628に記載のようなハロゲンフリーの希鉱酸での処理、例えば濃度が0.1〜35重量%の過酸化水素水溶液での処理、好ましくはハロゲンフリーの酸化性物質溶液での処理があげられる。再生後もう一度使用する前に、この触媒を通常、溶媒で、例えば水で洗浄することとなる。
【0138】
本発明の方法のある好ましい実施様態においては、本発明の水素化方法で用いられるこれらの水素化可能基を有する有機化合物(好ましい化合物は上述のとおり)の硫黄含量は、一般的には<2mg/kgであり、好ましくは<1mg/kg、より好ましくは<0.5mg/kg、さらに好ましくは<0.2mg/kg、特に<0.1mg/kgである。硫黄含量の測定方法は後述する。硫黄含量の<0.1mg/kgは、供給原料中、例えばベンゼン中に、後述の分析方法で硫黄が検出されないことを意味する。
【0139】
好ましい炭素環式芳香族基の相当する炭素環式脂肪族基への水素化の場合、本発明の水素化方法で、炭素環式芳香族基をもつ有機化合物の芳香族環の完全水素化が起こることがましい。その水素化率は、一般的には>98%であり、好ましくは>99%、より好ましくは>99.5%、さらに好ましくは>99.9%、特に>99.99%、特に>99.995%である。
【0140】
水素化率はガスクロマトグラフィーで決められる。ジカルボン酸とジカルボン酸エステル、特にフタール酸エステルの水素化の場合、水素化率はUV/Vis分光測定で決められる。
【0141】
本発明の水素化方法の特に好ましい実施様態は、ベンゼンのシクロヘキサンへの水素化に関する。本発明の水素化方法は、したがって、ベンゼンの水素化の例を用いて後ほど詳述することとなる。
【0142】
ベンゼンの水素化は、通常液相で行われる。これを連続的に行っても回分式に行ってもよいが、連続的に行うことが好ましい。
【0143】
本発明によるベンゼンの水素化は、一般的には75℃〜170℃の温度で、好ましくは80℃〜160℃の温度で行われる。圧力は一般的には<50barであり、好ましくは10bar〜45bar、より好ましくは15bar〜40bar、最も好ましくは18〜38barである。
【0144】
本発明の方法のある好ましい実施様態においては、本発明の水素化方法で用いるベンゼンの硫黄含量が、通常<2mg/kgであり、好ましくは<1mg/kg、より好ましくは<0.5mg/kg、さらに好ましくは<0.2mg/kg、特に<0.1mg/kgである。硫黄含量の測定方法は下に示す。硫黄含量の<0.1mg/kgは、下に示す分析方法でベンゼン中に硫黄が検出されないことを意味する。
【0145】
この水素化は通常、流動床または固定床方式で行われるが、固定床方式で行うことが好ましい。液体を循環させながら本発明の水素化方法を実施することが特に好ましく、その場合は水素化の熱が熱交換器で除かれ利用される。本発明の水素化方法を液体を循環させながら行う場合の供給/循環の比率は、通常1:5〜1:40であり、好ましくは1:10〜1:30である。
【0146】
完全変換を達成するために水素化生成物を後反応にかけてもよい。このために、この水素化生成物を、本発明の水素化プロセスの下流の反応器に気相または液相で直接通過させてもよい。液相水素化の場合は、反応器をトリックル方式または越流方式で運転してもよい。この反応器には、本発明の触媒あるいは他の当業界の熟練者には既知の触媒が入っている。
【0147】
したがって本発明の方法を用いて、水素化される出発原料があるとしても極少量で残留している水素化生成物を得ることができる。
【実施例】
【0148】
[実施例1:触媒の調整]
実施例1.1(発明例)
AF125のSiO支持体で、3〜5mmの球状、BET表面積が337m/g、タップ密度が0.49kg/l、吸水率(WA)が0.83ml/gのものを用い、またユミコア社の酢酸ルテニウム(III)の酢酸溶液を使用する。
【0149】
200gの支持体を、まず丸底フラスコに入れる。14.25%の酢酸ルテニウム溶液をメスシリンダにとり、150mlの蒸留水で希釈する(90%WA)。この溶液を、四つに分割する。この支持体材料を、まずロータリーエバボレータにとり、3〜6rpmで攪拌しながら穏やかな真空下で、この支持体材料上に上記四つ含浸液の一つをポンプ供給する。触媒を均一とするため、最初の支持体の含浸の後、ロータリーエバボレータ中で10分間これを回転させる。この工程を次いで三度繰り返して、全体の溶液を支持体上に含浸させる。この含浸材料を、140℃で回転型チューブ炉中で動かしながら乾燥させ、200℃で3時間還元させ(20l/hのH;10l/hのN)、不動態化させる(室温(N中5%空気、2時間))。このようにして得られた本発明の触媒Aは、0.34重量%のRuを含んでいる。
【0150】
実施例1.2(比較例)
触媒BをWO2006/136451(0.35%のRu/SiO)に記載のようにして製造する。
【0151】
実施例1.3(比較例)
触媒Cを、EP1042273(0.5%のRu/Al)に記載のようにして製造する。
【0152】
[実施例2:水素化の例]
実施例2.1:ベンゼンの水素化
300mlの圧力反応器に、まず触媒挿入用バスケット中に入った実施例1.1に記載のようにして製造した3.4gの触媒Aをつめ、これに100gの5%のシクロヘキサンのベンゼン溶液を混合する。水素化は、純水素を用いて32barの定圧で100℃の温度で行う。水素化は4時間行う。次いでこの反応器の圧力を下げる。変換率は100%である。
【0153】
実施例2.2:触媒Bを用いるベンゼンの水素化
300mlの圧力反応器に、まず触媒挿入用バスケット中に入った実施例1.1に記載のようにして製造した2.5gの触媒Bをつめ、これに100gの5%のシクロヘキサンのベンゼン溶液を混合する。水素化は、純水素を用いて32barの定圧で100℃の温度で行う。水素化は4時間行う。次いでこの反応器の圧力を下げる。変換率は99.2%である。
【0154】
実施例2.3:フタル酸ジイソノニルのジイソニニルシクロヘキサンジカルボキシレート(DINCH)への水素化:
連結した二台の円管状反応器(主反応器(MR)160mlと後反応器(PR)100ml)からなる連続運転プラントに、実施例1.1のように製造された触媒Aを入れる(MR:54.3g、PR:33.5g)。この主反応器は、トリックル方式で循環しながら運転されており、後反応器は液相方式でストレートパスで運転されている。主反応器中の平均温度を122℃とし、後反応器を122℃で36barの定圧として、パラチノールN(フタル酸ジイソノニル;CAS No. 28553−12−0、実施例3で製造)(36g/h;触媒空間速度=0.3kg/(L・h))を、純水素とともにこの直列反応器中を通過させる。パラチノールNの変換率は100%である;DINCHを基とする選択性は99.5%である。シス/トランス比率は、94/6〜92/8である。
【0155】
実施例2.4:触媒Cを用いるフタル酸ジイソノニルのジイソニニルシクロヘキサンジカルボキシレート(DINCH)への水素化
一台の円管状反応器A(160ml)からなる連続運転プラントに、実施例1.3で製造した触媒C(Al上0.5%のRu)を入れる(78.0g)。この反応器はトリックル方式で、循環しながら(液体空間速度10m/h)運転されている。平均温度を132℃とし、40barの定圧で、パラチノールN(フタル酸ジイソノニル;CAS No. 28553−12−0、実施例3で製造)(36g/h;触媒空間速度=0.3kg/(L・h))を、純水素とともにこの直列反応器中を通過させる。パラチノールNの変換率は94.9%である;DINCHを基とする選択性は98.5%である。シス/トランス比率は96/4〜90/10である。
【0156】
実施例2.5:DOTP(ジオクチルテレフタレート)環の水素化
300mlの圧力反応器に、まず触媒挿入用バスケット中に入れた実施例1.1で製造した触媒A(7.5g)を入れ、150gのジオクチルテレフタレートと混合する。水素化は、純水素を用いて200barの定圧で120℃の温度で行う。水素化は12時間行う。次いでこの反応器の圧力を下げる。変換率は100%である。(GCカラム:オプチマ1、長さ:30m、層厚:1μm;温度プログラム:50℃、10分、10℃/分で300℃へ)。シス体とトランス体の混合物としてのジオクチル1,4−シクロヘキサンジカルボキシレートに対する選択性は、97.7%である。
【0157】
実施例2.6:触媒CでのDOTP(ジオクチルテレフタレート)環の水素化
300mlの圧力反応器に、まず触媒挿入用バスケット中に入れた実施例1.3で製造した触媒Cを10g入れ、150gのジオクチルテレフタレートと混合する。水素化は、純水素を用いて200barの定圧で120℃の温度で行う。水素化は12時間行う。次いでこの反応器の圧力を下げる。変換率は100%である。(GCカラム:オプチマ1、長さ:30m、層厚:1μm;温度プログラム:50℃、10分、10℃/分で300℃へ)。シス体とトランス体の混合物としてのジオクチル1,4−シクロヘキサンジカルボキシレートに対する選択性は、97.2%である。
【0158】
実施例2.7:安息香酸の水素化
300mlの圧力反応器に、まず触媒挿入用バスケット中に入れた実施例1.1で製造した触媒Aを3gを入れ、72gのTHFに溶解した48gの安息香酸(40重量%)と混合する。水素化は、純水素を用いて200barの定圧で150℃の温度で行う(20時間)。次いでこの反応器の圧力を下げる。安息香酸の変換率は100%である(GCカラム:PB−FFAP、長さ:25m、層厚:0.25μm;温度プログラム:40℃から、5℃/分で230℃へ)。シクロヘキサンカルボン酸への選択率は、95面積%である。検出される副次的成分は、約5面積%の低い沸点物(シクロヘキサンカルボン酸より沸点が低い成分)である。
【0159】
実施例2.8:2−メチルフェノールの2−メチルシクロヘキサノールへの水素化
300mlの圧力反応器に、まず触媒挿入用バスケット中に入れた実施例1.1で製造した触媒A(5g)を入れ、180mlの25%オルト−クレゾール(2−メチルフェノール)のTHF溶液と混合する。水素化は、純水素を用いて200barの定圧で100℃の温度で行う。水素の吸収がなくなるまで(10時間)、水素化を継続する。次いでこの反応器の圧力を下げる。オルト−クレゾールの変換率は100%である。シス/トランス2−メチルシクロヘキサノールへの選択率は98.6%である。得られる2−メチルシクロヘキサノールのシス/トランス比率は1.59:1である。
【0160】
実施例2.9:ビスフェノールAの水素化
300mlの圧力反応器に、まず触媒挿入用バスケット中に入れた実施例1.1で製造した触媒A(3.6g)を入れ、100gの30%ビスフェノールAのn−ブタノール溶液と混合する。水素化は、純水素を用いて200barの定圧で180℃の温度で行う。水素化は24時間行う。次いでこの反応器の圧力を下げる。ビスフェノールAの変換率は100%である(GCカラム:RTX65、長さ:30m、層厚:0.5μm;温度プログラム:280℃、40分間、等温)。環水素化ビスフェノールAへの選択性は85.77面積%である。検出可能な副次的成分は、約14.23面積%の低沸点物(環水素化ビスフェノールAより沸点が低い成分)である。
【0161】
実施例2.10:クミンアルデヒドのイソプロピルシクロヘキシルメタノールへの水素化
300mlの圧力反応器に、まず触媒挿入用バスケット中に入れた実施例1.1で製造した触媒A(3.5g)を入れ、100gのクミンアルデヒドと混合する。水素化は、純水素を用いて200barの定圧で160℃の温度で行う。水素の吸収がなくなるまで(20時間)、水素化を継続する。次いでこの反応器の圧力を下げる。クミンアルデヒドの変換率は100%である(GCカラム:DB−ワックス、長さ:30m、層厚:0.25μm;温度プログラム:60℃から、2.5℃/分で240℃へ)。イソプロピルシクロヘキシルメタノールへの選択性は83.2面積%である。検出可能な副次的成分は、約15面積%の低沸点物(イソプロピルシクロヘキシルメタノールより沸点が低い成分)である。
【0162】
実施例2.11:触媒Bを用いるクミンアルデヒドの水素化
300mlの圧力反応器に、まず触媒挿入用バスケット中に入れた実施例1.2で製造した触媒B(3.5g)を入れ、100gのクミンアルデヒドと混合する。水素化は、純水素を用いて200barの定圧で160℃の温度で行う。水素の吸収がなくなるまで(20時間)、水素化を継続する。次いでこの反応器の圧力を下げる。クミンアルデヒドの変換率は100%である(GCカラム:DB−ワックス、長さ:30m、層厚:0.25μm;温度プログラム:60℃から、2.5℃/分で240℃へ)。イソプロピルシクロヘキシルメタノールへの選択性は60.6面積%である。検出可能な副次的成分は、約30.5面積%の低沸点物(イソプロピルシクロヘキシルメタノールより沸点が低い成分)である。
【0163】
実施例2.12:アニリンのシクロヘキシルアミンへの水素化
300mlの圧力反応器に、まず触媒挿入用バスケット中に入れた実施例1.1で製造した触媒A(7.5g)を入れ、150gの10%アニリンのシクロヘキシルアミン溶液と混合する。水素化は、純水素を用いて200barの定圧で160℃の温度で行う。水素化は3時間行う。次いでこの反応器の圧力を下げる。アニリンの変換率は>99.9%である(GCカラム:RTX−35−アミン、長さ:30m、層厚:1.5μm;温度プログラム:100℃から、20℃/分で280℃へ、15分間)。
【0164】
実施例2.13:MDAのジシアンへの水素化
300mlの圧力反応器に、まず触媒挿入用バスケット中に入れた実施例1.1で製造した触媒A(1.2g)を入れ、100gの10%濃度のMDA(4,4’−メチレンジアニリン)のジオキサン溶液と混合する。水素化は、純水素を用いて200barの定圧で220℃の温度で行う。水素化は10時間行う。次いでこの反応器の圧力を下げる。MDAの変換率は98.4%である(GCカラム:RTX35、長さ:30m、層厚:0.5um;温度プログラム:100℃から、5℃/分で160℃へ、160℃から2℃/分で250℃へ)。ジシアン(4,4’−メチレン(ジアミノ−シクロヘキサン))への選択性は88面積%である。
【0165】
実施例2.14:オルト−トルイジンベースのジメチルジシアンへの水素化
300mlの圧力反応器に、まず触媒挿入用バスケット中に入れた実施例1.1で製造した触媒A(1.2g)を入れ、160gの12%のオルト−トルイジンベース(2,2’−ジメチル−4,4’−メチレンビス(アニリン))のTHF溶液と混合する。水素化は、純水素を用いて200barの定圧で220℃の温度で行う。水素化は8時間行う。次いでこの反応器の圧力を下げる。o−トルイジンベースの変換率は100%である(GCカラム:DB−1、長さ:30m、層厚:1μm;温度プログラム:150℃から8℃/分で280℃へ)。ジメチルジシアン(2,2’−ジメチル−4,4’サメチレンビス(シクロ−ヘキシルアミン))への選択性は89.1面積%である。
【0166】
実施例2.15:触媒Cを用いるオルト−トルイジンベースのジメチルジシアンへの水素化
300mlの圧力反応器に、まず触媒挿入用バスケット中に入れた実施例1.3で製造した触媒C(0.8g)を入れ、160gの12%のオルト−トルイジンベース(2,2’−ジメチル−4,4’−メチレンビス(アニリン))のTHF溶液と混合する。水素化は、純水素を用いて200barの定圧で220℃の温度で行う。水素化は8時間行う。次いでこの反応器の圧力を下げる。o−トルイジンベースの変換率は100%である(GCカラム:DB−1、長さ:30m、層厚:1μm;温度プログラム:150℃から8℃/分で280℃へ)。ジメチルジシアン(2,2’−ジメチル−4,4’−メチレンビス(シクロヘキシルアミン)への選択性は86.8面積%である。
【0167】
実施例2.16:キシリジンベースのテトラジメチルジシアンへの水素化
1.2Lの圧力反応器に、まず触媒挿入用バスケット中に入れた実施例1.1で製造した触媒A(5g)を入れ、700gの25%のキシリジンベース(2,2’,6,6’−テトラメチル−4,4’−メチレンビス(アニリン))のジオキサン溶液と混合する。水素化は、純水素を用いて200barの定圧で220℃の温度で行う。水素化は2時間行う。次いでこの反応器の圧力を下げる。キシリジンベースの変換率は100%である(GCカラム:DB1、長さ:30m、層厚:0.25μm;温度プログラム:150℃から8℃/分で280℃へ)。テトラメチルジシアン(2,2’,6,6’−テトラメチル−4,4’−メチレンビス(シクロヘキシルアミン))への選択性は89面積%である。
【0168】
実施例2.17:触媒Cを用いるキシリジンベースのテトラジメチルジシアンへの水素化
3.5Lの圧力反応器に、まず触媒挿入用バスケット中に入れた実施例1.3で製造した触媒C(100g)を入れ、2000gの25%のキシリジンベース(2,2’,6,6’−テトラメチル−4,4’−メチレンビス(アニリン))のTHF溶液と混合する。水素化は、純水素を用いて200barの定圧で230℃の温度で行う。水素化は2時間行う。次いでこの反応器の圧力を下げる。キシリジンベースの変換率は100%である(GCカラム:DB1、長さ:30m、層厚:0.25μm;温度プログラム:150℃から8℃/分で280℃へ)。テトラメチルジシアン(2,I2’,6,6’−テトラメチル−4,4’−メチレンビス(シクロヘキシルアミン))の5バッチでの平均選択性は76面積%である。
【0169】
実施例2.18:ビスフェノールAの水素化
300mlの圧力反応器に、まず触媒挿入用バスケット中に入れた実施例1.1で製造した触媒A(3.6g)を入れ、100gの30%ビスフェノールAのn−ブタノール溶液と混合する。水素化は、純水素を用いて200barの定圧で180℃の温度で行う。水素化は16時間行う。次いでこの反応器の圧力を下げる。ビスフェノールAの変換率は100%である(GCカラム:RTX65、長さ:30m、層厚:0.5μm;温度プログラム:280℃、40分間、等温)。環水素化ビスフェノールAへの選択性は87.5面積%である。検出可能な副次的成分は、約7.4面積%の低沸点物(環水素化ビスフェノールAより沸点が低い成分)である。
【0170】
[実施例3:パラチノールN(ジイソニニルフタレート)の製造]
加工工程1(ブテンの二量化):
ブテンの二量化は、二つの反応器(長さ:それぞれ4m、直径:それぞれ80cm)からなる断熱反応器中で、中間で冷却しながら30barで連続的に行う。用いる供給材料は、以下の組成からなる抽残液IIである。

i−ブタン:2重量%
n−ブタン:10重量%
i−ブテン:2重量%
ブテン−1:32重量%
ブテン−2−トランス:37重量%
ブテン−2−シス:17重量%
【0171】
用いる触媒は、50重量%のNiOと12.5重量%のTiO、33.5重量%のSiO、4重量%のAlとからなる、5×5mmの錠剤状のDE4339713に記載の材料である。変換は、0.375kgの抽残液Il/l−触媒・hの供給速度で、C4/抽残液IIの循環速度が3、第一反応器の供給口温度が38℃、第二反応器の供給口温度が60℃で行う。抽残液II中に存在するブテンの変換率は83.1%である。所望のオクテンへの選択性は83.3%である。反応器排出物の分別蒸留で、
未変換の抽残液IIと高沸点物とからオクテン画分を分離する。
【0172】
加工工程2(ハイドロホルミル化と続く水素化):
750gの加工工程1で得られたオクテン混合物を、回分的にオートクレーブ中で、0.13重量%のジコバルトオクタカルボニルCo(CO)を触媒として用いて、75gの水を添加しながら185℃で、H:COの混合比率が60/40である合成ガス圧下で280barで5時間反応させる。オートクレーブ中の圧力低下から合成ガスの消費が明らかな場合、合成ガスをさらに注入して補う。オートクレーブの放圧後、空気を導入しながら酸化的に反応排出物から10重量%の酢酸でコバルト触媒を除き、この有機生成物相を、ラネーニッケルを用いて125℃で水素圧が280barで10時間水素化させる。反応排出物の分別蒸留で、C8パラフィンと高沸点物からイソノナノール画分を分離する。
【0173】
加工工程3(エステル化):
第三の加工工程において、2lのオートクレーブ中でN置換しながら(10l/h)、攪拌器速度が500rpm、反応温度が230℃で、865.74gの加工工程2で得られたイソノナノール画分(フタル酸無水物として20%超)を、370.30gのフタル酸無水物と触媒としての0.42gのイソプロピルブチルチタネートに反応させる。生成する反応水は、N流で連続的に反応混合物から除く。反応時間は180分である。次いで、過剰のイソノナノールを50mbarでの減圧蒸留で除く。1000gの粗製フタル酸ジイソノニルを、80℃で10分間かけて150mlの0.5%水酸化ナトリウム溶液で中和する。これにより、上の有機相と下の水相(加水分解した触媒を含む排水)とからなる二相混合物が得られる。水相を除き、有機相を二回200mlのHOで洗う。さらに精製するため、この中和水洗後のフタル酸ジイソノニルを、180℃で50mbarの減圧下で2時間スチームでストリップする。この精製したフタル酸ジイソノニルを次いで、150℃/50mbarで30分間、N流(2l/h)を用いて乾燥させ、次いで活性炭と共に5分間攪拌し、スプラ・セオリット5濾過助剤を用いて吸引式フィルターから濾過する(温度80℃)。このようにして得られたフタル酸ジイソノニルの密度は0.973g/cmであり、粘度が73.0mPa・s、屈折率n20が1.4853、酸価が0.03mg−KOH/g、水分率が0.03%、GC純度が99.83%である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
二酸化ケイ素を含む支持体材料に塗布された、ルテニウム、ロジウム、パラジウム、白金およびこれらの混合物からなる群から選ばれる活性金属を含む卵殻型触媒であって、Hgポロシメトリーで求めた該支持体材料の気孔体積が0.6〜1.0ml/gであり、BET表面積が280〜500m/gであり、存在する気孔の少なくとも90%の直径が6〜12nmであり、活性金属の量が全体の卵殻型触媒に対して0.1〜0.5重量%である卵殻型触媒。
【請求項2】
上記活性金属の分散度が30〜60%である請求項1に記載の卵殻型触媒。
【請求項3】
上記活性金属の表面積が0.2〜0.8m/gである請求項1または2に記載の卵殻型触媒。
【請求項4】
タップ密度が400〜600g/lである請求項1〜3のいずれか一項に記載の卵殻型触媒。
【請求項5】
(A)二酸化ケイ素を含む支持体材料に、上記活性金属の前駆化合物を少なくとも一種含む溶液を一回以上含浸させる工程と、
(B)続く乾燥工程と、
(C)続く還元工程
とを含む請求項1〜4のいずれか一項に記載の卵殻型触媒の製造方法
【請求項6】
少なくとも一個の水素化可能基を有する有機化合物の水素化方法であって、該有機化合物を、少なくとも一種の還元剤と請求項1〜4のいずれか一項に記載の卵殻型触媒とに接触させる工程を含む方法。
【請求項7】
上記水素化される有機化合物が、水素化されて対応する炭素環式脂肪族基を与える少なくとも一種の炭素環式芳香族基を有するか、水素化して対応するアルコール官能基を与える少なくとも一種のアルデヒド基を有する請求項6に記載の方法。
【請求項8】
上記の少なくとも一種の炭素環式芳香族基をもつ有機化合物が、ベンゼン、アルキル置換ベンゼン、フェノール、アルキル置換フェノール、アニリン、アルキル置換アニリン、N,N−ジアルキルアニリン、ジアミノベンゼン、ビス(p−アミノフェニル)−メタン、ビス(p−アミノトリル)メタン、芳香族カルボン酸、芳香族カルボン酸エステルおよびこれらの混合物からなる群から選ばれる請求項7に記載の方法。
【請求項9】
上記のアルデヒド基をもつ水素化される有機化合物が、単糖または二糖であって、水素化されて相当する糖アルコールを与えるものである請求項7に記載の方法。
【請求項10】
上記水素化が固定床反応器中で行われる請求項6〜9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
請求項1〜4のいずれか一項に記載の卵殻型触媒を、少なくとも一個の水素化可能基を有する有機化合物の水素化法に使用する方法。
【請求項12】
炭素環式芳香族基が相当する炭素環式脂肪族基に水素化される、あるいはアルデヒドが相当するアルコールに水素化される請求項11に記載の方法。

【公表番号】特表2013−513477(P2013−513477A)
【公表日】平成25年4月22日(2013.4.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−543686(P2012−543686)
【出願日】平成22年12月14日(2010.12.14)
【国際出願番号】PCT/EP2010/069637
【国際公開番号】WO2011/082991
【国際公開日】平成23年7月14日(2011.7.14)
【出願人】(508020155)ビーエーエスエフ ソシエタス・ヨーロピア (2,842)
【氏名又は名称原語表記】BASF SE
【住所又は居所原語表記】D−67056 Ludwigshafen, Germany
【Fターム(参考)】