説明

芳香族塩素化合物の水素化脱塩素反応装置

【課題】反応性の高い金属触媒を使用後に容易に扱うことができるようになる芳香族塩素化合物の水素化脱塩素反応装置を提供する。
【解決手段】溶媒に溶解した芳香族塩素化合物を、金属触媒及びアミンの存在下で水素化脱塩素反応を行う反応容器2を備えた芳香族塩素化合物の水素化脱塩素反応装置1であって、反応容器から回収した反応液を濾過し、金属触媒を分離するための濾過器3,4を備え、濾過器には、フィルタを収納するための収納容器が備えられ、収納容器には、その内部に水を含む液を注入するための注入口が設けられている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、PCB等の芳香族塩素化合物の塩素を水素に置換することで塩素を除去する水素化脱塩素反応装置に関し、更に詳しくは、反応に利用した金属触媒を分離して適宜処理することができる芳香族塩素化合物の水素化脱塩素反応装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、ポリ塩化ビフェニル(PCB)は難分解性、高蓄積性、猛毒性を示す環境汚染物質として知られており、その処理方法が各種開発されている。近年では、PCBをメタノールで希釈し、金属触媒としてパラジウム・カーボン(Pd/C)を添加し、更にトリエチルアミンを添加して、これによりPCBの水素化脱塩素反応を行う方法が開発されている(例えば、特許文献1参照)。この方法によれば、穏和な条件下でもPCBの脱塩素化を実現することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2001−199904号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、触媒として用いられるPd/C等の金属触媒は反応性が高く、空気に接触すると酸化発熱するため、より安全に取り扱うことが課題となっていた。例えば、上述のPd/Cは、通常、水に浸した状態で取り扱われるが、反応終了後の取り扱いにおいても同様の取り扱いをする必要がある。
【0005】
本発明は、上記現状に鑑みてなされたものであり、反応性の高い金属触媒を使用後に容易に扱うことができるようになる芳香族塩素化合物の水素化脱塩素反応装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、以下の通りである。
1.溶媒に溶解した芳香族塩素化合物を、金属触媒及びアミンの存在下で水素化脱塩素反応を行う反応容器を備えた芳香族塩素化合物の水素化脱塩素反応装置であって、
前記反応容器から回収した反応液をろ過し、前記金属触媒を分離するためのろ過器を備え、
前記ろ過器には、フィルタを収納するための収納容器が備えられ、
前記収納容器には、その内部に水を含む液を注入するための注入口が設けられていることを特徴とする芳香族塩素化合物の水素化脱塩素反応装置。
2.前記ろ過器を通過したろ液は、前記反応容器の洗浄に用いられる上記1.記載の芳香族塩素化合物の水素化脱塩素反応装置。
3.前記反応容器の内部には、前記ろ液を噴霧するためのノズルが形成されている上記2.記載の芳香族塩素化合物の水素化脱塩素反応装置。
4.前記反応容器は、側壁部、底壁部、及び天井壁部を有しており、
前記ノズルは、前記側壁部に形成され、
前記ノズルは、前記側壁部の内面に対して斜め上方の方向を向けて形成されている上記3.記載の芳香族塩素化合物の水素化脱塩素反応装置。
5.前記ノズルからは、洗浄用メタノールも噴霧可能とされている上記4.記載の芳香族塩素化合物の水素化脱塩素反応装置。
6.前記ろ液から前記溶媒を除いて、前記ろ液を濃縮するための濃縮器を備える上記1.乃至5.のいずれか一項に記載の芳香族塩素化合物の水素化脱塩素反応装置。
7.前記芳香族塩素化合物は、PCBである上記1.乃至6.のいずれか一項に記載の芳香族塩素化合物の水素化脱塩素反応装置。
8.前記金属触媒は、Pd/Cである上記1.乃至7.のいずれか一項に記載の芳香族塩素化合物の水素化脱塩素反応装置。
【発明の効果】
【0007】
本発明の芳香族塩素化合物の水素化脱塩素反応装置によれば、反応容器から回収した反応液をろ過して金属触媒を分離するろ過器にフィルタを収納するための収納容器が備えられ、該収納容器には内部に水を含む液を注入する注入口が設けられているので、注入口から水を含む液を注入することで、フィルタにより捕集された金属触媒を水に漬けたまま取り扱うことができるようになる。従って、金属触媒が空気に触れて酸化発熱することを防止できるようになる。
また、ろ過器を通過したろ液が反応容器の洗浄に用いられる場合は、反応容器の洗浄を新たな洗浄液により行う場合に比べてろ液を増やすことがなく、無駄なく洗浄できるようになる。
更に、反応容器の内部にろ液を噴霧するためのノズルが形成されている場合は、ノズルから噴射された霧状(ミスト状)のろ液が反応容器の内面を効果的に洗浄できるようになるとともに、比較的少量の液量で洗浄することができる。特に、反応容器が、側壁部、底壁部、及び天井壁部を有しており、ノズルは側壁部に形成されると共に、側壁部の内面に対して斜め上方の方向を向けて形成されている場合は、ろ液が天井壁部や側壁部の上部に噴霧されるので、反応容器の内部の全体を隅々まで洗浄することができる。即ち、反応容器内で攪拌等された反応液は容器内で天井壁部に飛んで付着することがあるが、ノズルがそのような飛沫を洗浄することができる。更に、ノズルからは洗浄用メタノールも噴霧可能とされている場合は、洗浄用メタノールの噴射によりろ液による洗浄よりも更に清浄な洗浄を実現することができる。
一方、ろ液から溶媒を除いてろ液を濃縮する濃縮器を備える場合は、ろ液量を減らして最終的に液液分離により生成物を除去する際の扱いを容易にすることができる。
また、芳香族塩素化合物がPCBである場合は、PCBの水素化脱塩素反応を図り無害化を促進することができる。更に、金属触媒がPd/Cである場合は、芳香族塩素化合物の水素化脱塩素反応を効率良く行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】本実施例に係る芳香族塩素化合物の水素化脱塩素反応装置を説明するための説明図である。
【図2】本実施例に係る芳香族塩素化合物の水素化脱塩素反応装置の平面な配置を説明するための説明図である。
【図3】本実施例に係る反応容器を示す片側縦断面図である。
【図4】本実施例に係る反応容器を示す平面図である。
【図5】本実施例に係るろ過器を示す縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明に係る芳香族塩素化合物の水素化脱塩素反応装置は、溶媒に溶解した芳香族塩素化合物を金属触媒及びアミンの存在下で水素化脱塩素反応を行う反応容器と、該反応容器から回収した反応液をろ過して金属触媒を分離するためのろ過器と、を備えたものである。
【0010】
上記「水素化脱塩素反応」は、溶媒に溶解した芳香族塩素化合物の塩素を金属触媒及びアミンの存在下で水素と反応させて芳香族炭化水素及び塩酸塩を生成する反応である限り、その物質、手順、方法、量等は特に問わない。
上記「芳香族塩素化合物」は、芳香族の環構造に塩素を含む限り、その物質や量等は特に問わない。芳香族塩素化合物としては、例えば、PCB、ダイオキシン様ポリ塩化ビフェニル(DL−PCB)等を挙げることができる。
上記「金属触媒」は、触媒として水素化脱塩素反応を促進させる限り、その物質や量等は特に問わない。金属触媒としては、例えば、Pd/C、Ru/C、Rh/C、Pt/CAu/C等を挙げることができる。
上記「アミン」は、水素化脱塩素反応に利用される限り、その物質や量等は特に問わない。このアミンとしては、例えば、トリエチルアミン、トリメチルアミン、ジメチルアミン、エチルジイソブチルアミン、ジアザビシクロウンデセン、アンモニア等を挙げることができる。
上記「溶媒」としては、例えば、メタノール、ヘキサン、イソプロパノール、テトラヒドロフラン等を挙げることができる。
【0011】
上記「反応容器」は、溶媒に溶解した芳香族塩素化合物を金属触媒及びアミンの存在下で水素化脱塩素反応を行う限り、その形状、構造、材質、数量等は特に問わない。
フィルタとしては、例えば、ステンレス製の金網状のろ過フィルタや、ポリプロピレン等の樹脂からなるフィルタ等とすることができる。また、例えば、これらのフィルタを直列に複数設けるようにしてもよい。この場合、前段のフィルタと比較して、後段のフィルタのほうがより細かいろ過精度である所謂ろ過精度勾配を設けることが好ましい。
【0012】
また、ろ過器を通過したろ液は、反応容器の洗浄に用いられるようにできる。ここで、反応容器の内部には、ろ液を噴霧するためのノズルが形成されているようにできる。このノズルからの噴霧により反応容器の洗浄を行うことができる。更に、反応容器は、側壁部、底壁部、及び天井壁部を有しており、ノズルは、側壁部に形成され、ノズルは、側壁部の内面に対して斜め上方の方向を向けて形成されているようにできる。ここで、ノズルからはろ液以外にも洗浄用メタノールも噴霧可能とされるようにできる。上記「ノズル」は、液体を噴霧するものである限り、その形状、構造、材質、数量等は特に問わない。ノズルとしては、液体をミスト状にして噴射するものとすることができる。ノズルの数量としては、反応容器の周方向に均等間隔で3個あるいは4個とすることができる。
【0013】
更に、この水素化脱塩素反応装置には、ろ液から溶媒を除いて、ろ液を濃縮するための濃縮器を備えるようにできる。また、この水素化脱塩素反応装置は、ステンレス製のパンに載置されているようにできる。このパンの収容量は、反応容器の容量よりも大きく設定する。
【実施例】
【0014】
以下、図面を用いて実施例により本発明を具体的に説明する。
【0015】
(1)芳香族塩素化合物の水素化脱塩素反応装置の構成
本実施例に係る芳香族塩素化合物の水素化脱塩素反応装置1は、図1及び図2に示すように、溶媒に溶解した芳香族塩素化合物を金属触媒及びアミンの存在下で水素化脱塩素反応を行う反応容器2と、反応容器2から回収した反応液をろ過して金属触媒を分離するろ過器3,4と、ろ過器3,4でろ過されたろ液を貯留する中継槽5と、ろ液を濃縮する濃縮器(反応容器2と兼用)6と、濃縮されたろ液をヘプタンと蒸留水に溶解させて分離させる液液分離槽7と、メタノールタンク8と、ヘプタンタンク9と、蒸留水タンク10と、を備えている。尚、本実施例においては、芳香族塩素化合物としてPCB、触媒としてメタノール、金属触媒としてPd/C、アミンとしてトリエチルアミンをそれぞれ採用している。
【0016】
反応容器2は、図3に示すように、側壁部11、底壁部12、及び天井壁部13を有している。そして、側壁部11には、内面に対して斜め上方の方向を向けたノズル14が設けられている。このノズル14からは、中継槽5からのろ液及びメタノールタンク8からのメタノールが噴射可能とされている。ノズル14の噴射口は0.7ミクロン程度の微小な孔であり、その孔から液体がミスト状になって噴射される。また、ノズル14は、反応容器2の周方向に等間隔で3箇所に設けられている。また、底壁部12には、反応容器2内の液を排出するための排出口15が設けられている。
【0017】
図4に示すように、反応容器2の天井壁部13には、流入口16と、投入口17と、ガス供給口18と、ガス排出口19と、蒸気排出口20と、が設けられている。流入口16は、配管を介して、中継槽5、メタノールタンク8、ヘプタンタンク9及び蒸留水タンク10に接続されている、これにより、中継槽5からのろ液、メタノールタンク8からのメタノール、ヘプタンタンク9からのヘプタン及び蒸留水タンク10からの蒸留水を反応容器2内に供給可能となっている。投入口17からは、水素化脱塩素反応に用いる試薬を投入される。ガス供給口18は、配管を介して、アルゴン及び水素のガスボンベと、圧縮空気を供給するコンプレッサと、に接続されている。これにより、反応容器2内にアルゴンガス、水素ガス及び圧縮空気を供給可能となっている。ガス排出口19には、図2に示すように、反応容器2内を負圧にする真空装置21が接続されている。蒸気排出口20は冷却凝集器30に接続されているとともに、冷却凝集器30は後述するメタノールタンク8の流入口81に接続されている。
【0018】
冷却凝集器30は、反応容器2側の第1の冷却凝集器30Aと、メタノールタンク8側の冷却凝集器30Bと、の2段の構成となっている。これら2つの冷却凝集器30A,30Bは流通させる冷媒の温度が異なっており、第2の冷却凝集器30Bの冷媒は、第1の冷却凝集器30Aの冷媒の温度(例えば、約5℃)よりも低い温度(例えば、約−20℃)に設定されている。これにより、メタノール蒸気を効率的に凝集することが可能となっている。
【0019】
また、図3に示すように、反応容器2には、反応容器2内の液を攪拌する攪拌機22が設けられている。攪拌機22は、天井壁部13の上部に取り付けられた駆動モータと、この駆動モータの駆動軸に連結され、且つ反応容器2内に挿通されたシャフトと、シャフトの下端に取り付けられて液を攪拌するインペラと、を有している。
【0020】
更に、図3に示すように、反応容器2には、反応処理の際に反応容器2の温度調整を行うためのジャケット23が設けられている。このジャケット23は、反応容器2の側壁部11の下部側及び底壁部12を外側から覆うように設けられており、その内部に温水及び冷水を選択的に流通可能となっている。更に、反応容器2の側壁部11には、反応処理の際のサンプリングのためのサンプル液取出口24が設けられている。
【0021】
その他の構成として、反応容器2には、反応容器2内を監視したり、監視時に内部に照明光を照射したりするための2つの窓25,26が設けられている。
【0022】
図2に示すように、排出口15から延びる配管は、三方弁31を介して、中継槽5の流入口51及び液液分離槽7の流入口71に分岐して接続されている。これにより、中継槽5又は液液分離槽7への送液を選択可能となっている。中継槽5への配管の道中には、反応液から金属触媒を分離する第1のろ過器3及び第2のろ過器4がそれぞれ設けられている。第1のろ過器3と第2のろ過器4とは、閉止バルブ32を介して直列に連結されている。各ろ過器3,4は、図5に示すように、収納容器41と、収納容器41に収納されるフィルタ42と、を備えている。収納容器41は、反応液を流入させる流入口43と、ろ過後のろ液を流出させる流出口44と、処理後に内部に水を含む液を注入する注入口45と、が設けられている。注入口45は流入口43に連通しており、この注入口45に設けられた注水バルブ46開放することにより、ろ過器3,4内に注水可能となっている。尚、第1のろ過器3の上流側の配管には注水バルブ33が設けられており、この注水バルブ33からもろ過器3,4に注水可能となっている。
【0023】
フィルタ42は、反応容器2から回収した反応液をろ過して金属触媒を分離する。本実施例において、第1のろ過器3のフィルタ42はステンレス製の金網からなる円筒形状のフィルタとしており、そのろ過精度は2μmである。また、第2のろ過器4のフィルタ42は、ポリプロピレン製の円筒形状のフィルタとしており、そのろ過精度は1μmである。
尚、液液分離槽7への配管の道中には、最終ろ過器40が設けられており、その構成は、上述の第2のろ過器4と略同様である。
【0024】
中継槽5は、天井部に設けられた流入口51及び洗浄口52と、底部に設けられた流出口53と、を備えている。流出口53にはポンプが接続されており、配管を介して、反応容器2の流入口16及びノズル14へ送液可能となっている。
液液分離槽7は、天井部に設けられた流入口71と、底部に設けられた下部流出口72と、側部に設けられた上部流出口73と、側壁に設けられた透明な確認窓74と、を備えている。
【0025】
メタノールタンク8は、天井部に設けられた流入口81及び減圧口82と、底部に設けられた流出口83と、を備えている。流出口83にはポンプが接続されており、配管を介して反応容器2の流入口16及びノズル14と、中継槽5の洗浄口52と、に送液可能となっている。減圧口82は、真空コントローラを介して、真空ポンプに接続されている。これにより、反応容器2における減圧留去の際に、メタノールタンク8内から、冷却凝集器30を経て、反応容器2までの系内を負圧にすることが可能となっている。尚、真空ポンプにより吸引されたメタノールタンク8の排気にはメタノール蒸気が含まれている。このため、本実施例においては、真空ポンプの吐出側の配管に、フラスコ型の溶媒回収器と、低温(例えば、−50℃)冷却可能なコールドトラップと、を直列に接続している。これらにより、メタノールタンク8からの排気に含まれるメタノール蒸気を略取り除くことが可能となっている。更に、コールドトラップの下流側には活性炭フィルタを設けており、メタノールタンク8からの排気は、これらを経て大気開放される。
ヘプタンタンク9及び蒸留水タンク10には、それぞれポンプが接続されており、これらのポンプにより各液を反応容器2に送液可能となっている。
【0026】
尚、上述した配管の各部には適宜バルブが設けられ、必要に応じて開閉することで流路を設定することができる。
【0027】
また、上述した構成の芳香族塩素化合物の水素化脱塩素反応装置1は、ステンレス製のパン50に載置されている。このパン50の収容量は、水素化脱塩素反応装置1で用いる全ての液の量よりも大きな容量に設定されている。
【0028】
(2)芳香族塩素化合物の水素化脱塩素反応装置の作用
次に、上記構成の芳香族塩素化合物の水素化脱塩素反応装置1の操作手順について説明する。
【0029】
(2−1)PCB分解処理
反応容器2の排出口15のバルブを閉じておき、メタノールタンク8のポンプを作動させてメタノールを反応容器2の流入口16から流入させる。真空装置21により反応容器2内を負圧にし、ガス供給口18からアルゴンガスを充填する。そして、投入口17からPCBを投入し、攪拌機22を駆動してメタノールに溶解させる。更に投入口17からトリエチルアミンを投入する。再度、反応容器2内をアルゴンで置換する。そして、投入口17からPd/Cを投入する。更に、ジャケット23に温水を流通させ、反応容器2内を30℃に温度制御する。そして、真空装置21により反応容器2内を負圧にし、反応容器2のガス供給口18に水素ボンベを連結して反応容器2内に水素ガスを充填する。これにより、水素化脱塩素反応が開始される。反応中は、反応液をサンプル液取出口24から適宜サンプリングし、所定の条件を満たした時に反応終了として処理を停止する。この反応により、PCBと水素とトリエチルアミンとから、ビフェニルとトリエチルアミン塩酸塩とが生成される。
【0030】
(2−2)触媒ろ過処理
真空装置21により反応容器2内を負圧にし、反応容器2のガス供給口18にアルゴンボンベを連結して反応容器2内にアルゴンガスを充填する。更に、三方弁31を中継槽5へ送液するよう設定する。このとき、注水バルブ33と、ろ過器3,4の各注水バルブ46と、を閉じておくとともに、閉止バルブ32を開けておく。そして、反応容器2内にアルゴンガスを供給しながら、反応容器2の排出口15のバルブを開き、反応液を中継槽5に圧送する。
【0031】
このとき、第1のろ過器3において、反応液が流入口43から収納容器41内に流入し、フィルタ42を通過して流出口44から排出される。続いて同様に、第2のろ過器4において、反応液が流入口43から収納容器41内に流入し、フィルタ42を通過して流出口44から排出される。2つのろ過器3,4を通過したろ液は、流入口51から中継槽5に流入する。
反応容器2内の反応液のろ過が完了したら、今度は、中継槽5のポンプを作動して中継槽5のろ液を流出口53から反応容器2のノズル14に送液する。ろ液は反応容器2内のノズル14から噴射され、反応容器2内を洗浄する(1次洗浄)。1次洗浄後、上述の送液の方法と同様にして、反応容器2内のろ液を中継槽5に圧送する。
【0032】
次に、メタノールタンク8のポンプを作動させ、メタノールを反応容器2のノズル14から噴射する(2次洗浄)。この2次洗浄に用いたメタノールについても、反応容器2から中継槽5に圧送する。その後、中継槽5のポンプを作動し、中継槽5内の液を中継槽5の流出口53から送液する。この液は、反応容器2の流入口16から反応容器2内に流入する。
【0033】
最後に、メタノールタンク8のポンプを作動させ、メタノールを中継槽5の洗浄口52から流入させ中継槽5を洗浄する。更に、中継槽5のポンプを作動し、洗浄に用いた中継槽5内のメタノールを流出口53から反応容器2へ送液する。この液は反応容器2の流入口16から流入する。
【0034】
(2−3)生成物の処理
反応容器2内を攪拌しながら、ジャケット23により反応容器2を60℃に温度制御するとともに、メタノールタンク8の減圧口82を介して、反応容器2内を500torrまで減圧する。これにより、反応液中のメタノールが気化し(減圧留去)、反応容器2内の反応液が濃縮される。気化したメタノールは、冷却凝集器30に到達し、凝集されてメタノールタンク8の流入口81に戻される。液量が3Lになるまで濃縮されたら停止する。そして、ヘプタンタンク9のポンプを作動し、ヘプタンを反応容器2の流入口16から導入する。このヘプタンにはビフェニルが溶解する。次いで、同様に、蒸留水タンク10のポンプを作動し、蒸留水を反応容器2内に導入する。この蒸留水にはトリエチルアミン塩酸塩が溶解する。
【0035】
そして、三方弁31を液液分離槽7に送液するように設定し、反応容器2のガス供給口18から圧縮空気を送り込み、内部の液を最終ろ過器40を介して液液分離槽7に送り出す。液液分離槽7では、ヘプタンが上層、蒸留水が下層の界面が確認できるまで静置する。静置後、確認窓74を視認しながら、下部流出口72から下層の蒸留水を流し出して回収し、続いて下部流出口72から上層のヘプタンを流し出して別の容器に回収する。回収した各液は適宜処理する。
【0036】
(2−4)触媒の回収
最初に、三方弁31を液液分離槽7に送液するように設定するとともに閉止バルブ32を開く。そして、注水バルブ33または第1のろ過器3の注水バルブ46を開いて水を注入する。これにより、反応容器2側へ逆流することなく、第1のろ過器3の注入口45から収納容器41内に水が流入する。この水が第1のろ過器3のフィルタ42を水没させた時点で送り込みを停止する。次いで、開いていた第1のろ過器3の注水バルブ46と閉止バルブ32を閉じ、第2のろ過器4の注水バルブ46を開いて水を注入する。これにより、第1のろ過器3側へ逆流することなく、水が第2のろ過器4の注入口45から収納容器41に入り込む。この水が第2のろ過器4のフィルタ42を水没させた時点で送り込みを停止し、注水バルブを閉じる。そして、これら2つのろ過器3,4を配管から取り外すことで、Pd/Cを水に漬けたままで処理することができるようになる。他のろ過器40についても同様にフィルタを水没させて処理を行う。
【0037】
(3)実施例の効果
本実施例の芳香族塩素化合物の水素化脱塩素反応装置1によると、ろ過器3,4の注入口45から水を含む液を注入することで、フィルタ42により捕集されたPd/Cを水に漬けたまま取り扱うことができるようになる。このように、収納容器41ごと水に漬けることで、ろ過したPd/Cの酸化発熱を防止することができる。
【0038】
また、各ろ過器3,4のろ過精度は、第1のろ過器3で粗く、第2のろ過器4で細かいものとしているので、Pd/Cの捕集を効率的に行うことができる。
【0039】
更に、ろ過器3,4を通過したろ液が反応容器2の洗浄に用いられるので、反応容器2の洗浄を新たなメタノールのみにより行う場合に比べてろ液を増やすことがなく、無駄なく洗浄できるようになる。
【0040】
また、反応容器2のノズル14は側壁部11に形成されると共に、側壁部11の内面に対して斜め上方の方向を向けて形成されているので、ろ液が天井壁部13や側壁部11の上部に噴霧されて、反応容器2の内部の全体を隅々まで洗浄することができる。その結果、反応容器2内にPd/Cを残留させることなく、略全てのPd/Cを回収することができる。また、ノズル14からは洗浄用メタノールも噴霧されるので、洗浄用メタノールの噴射によりろ液による洗浄よりも更に清浄な洗浄を実現することができる。しかも、ノズル14からの噴射液はミスト状になるので、液量を最小限に抑えることができるとともに、効果的に洗浄することができる。
【0041】
更に、液液分離前にろ液から溶媒を除いてろ液を濃縮しているので、ろ液量を減らして最終的に液液分離により生成物を除去する際の扱いを容易にすることができる。
【0042】
また、装置全体がパンの上に載置されているので、例えば、反応容器2に亀裂が入って反応液が漏れ出したとしてもパンにより回収される。これにより、周囲の環境を汚染することを防止できる。
【0043】
尚、本発明においては、上記実施例に限られず、目的、用途に応じて本発明の範囲内で種々変更した実施例とすることができる。即ち、上記実施例では、上記実施例では、ろ過器3,4を2つ直列に配置したが、これに限定されず、1つであってもよいし、3つ以上であってもよい。また、上記実施例では、2つのろ過器3,4はろ過精度を異ならせたものとしたが、これに限定されず、同じものを配置するようにしてもよい。
【0044】
また、上記実施例では、ノズル14を3箇所に設けたが、これに限定されず、1箇所、2箇所、又は4箇所以上に設けるようにしてもよい。更に、ノズル14はミストを噴射するものとしたが、これに限定されず、液状のまま噴射するものとしてもよい。
【0045】
更に、上記実施例では、液液分離槽7において、下部流出口72から下層の蒸留水と上層のヘプタンを順に流し出したが、これに限定されず、上部流出口73から上層のヘプタンを流し出して、次いで下部流出口72から下層の蒸留水を流し出すようにしてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0046】
本芳香族塩素化合物の水素化脱塩素反応装置は、PCB等の芳香族塩素化合物の塩素を水素に置換することで塩素を除去する技術として利用される。特に、反応に利用した金属触媒を分離して適宜処理できる技術として好適に利用される。
【符号の説明】
【0047】
1;水素化脱塩素反応装置、2;反応容器、3,4,40;ろ過器、5;中継槽、6;濃縮器、7;液液分離槽、8;メタノールタンク、9;ヘプタンタンク、10;蒸留水タンク、11;側壁部、12;底壁部、13;天井壁部、14;ノズル、15;排出口、16;流入口、17;投入口、18;ガス供給口、19;ガス排出口、20;蒸気排出口、21;真空装置、22;攪拌機、23;ジャケット、24;サンプル液取出口、25,26;窓、30;冷却凝集器、31;三方弁、32;閉止バルブ、33;注水バルブ、41;収納容器、42;フィルタ、43;流入口、44;流出口、45;注入口、46;注水バルブ、50;パン、51;流入口、52;洗浄口、53;流出口、71;流入口、72;下部流出口、73;上部流出口、74;確認窓、81;流入口、82;減圧口、83;流出口。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶媒に溶解した芳香族塩素化合物を、金属触媒及びアミンの存在下で水素化脱塩素反応を行う反応容器を備えた芳香族塩素化合物の水素化脱塩素反応装置であって、
前記反応容器から回収した反応液をろ過し、前記金属触媒を分離するためのろ過器を備え、
前記ろ過器には、フィルタを収納するための収納容器が備えられ、
前記収納容器には、その内部に水を含む液を注入するための注入口が設けられていることを特徴とする芳香族塩素化合物の水素化脱塩素反応装置。
【請求項2】
前記ろ過器を通過したろ液は、前記反応容器の洗浄に用いられる請求項1記載の芳香族塩素化合物の水素化脱塩素反応装置。
【請求項3】
前記反応容器の内部には、前記ろ液を噴霧するためのノズルが形成されている請求項2記載の芳香族塩素化合物の水素化脱塩素反応装置。
【請求項4】
前記反応容器は、側壁部、底壁部、及び天井壁部を有しており、
前記ノズルは、前記側壁部に形成され、
前記ノズルは、前記側壁部の内面に対して斜め上方の方向を向けて形成されている請求項3記載の芳香族塩素化合物の水素化脱塩素反応装置。
【請求項5】
前記ノズルからは、洗浄用メタノールも噴霧可能とされている請求項4記載の芳香族塩素化合物の水素化脱塩素反応装置。
【請求項6】
前記ろ液から前記溶媒を除いて、前記ろ液を濃縮するための濃縮器を備える請求項1乃至5のいずれか一項に記載の芳香族塩素化合物の水素化脱塩素反応装置。
【請求項7】
前記芳香族塩素化合物は、PCBである請求項1乃至6のいずれか一項に記載の芳香族塩素化合物の水素化脱塩素反応装置。
【請求項8】
前記金属触媒は、Pd/Cである請求項1乃至7のいずれか一項に記載の芳香族塩素化合物の水素化脱塩素反応装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−188949(P2011−188949A)
【公開日】平成23年9月29日(2011.9.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−56648(P2010−56648)
【出願日】平成22年3月12日(2010.3.12)
【出願人】(805000018)財団法人名古屋産業科学研究所 (55)
【Fターム(参考)】