説明

芳香族炭化水素及び/又は炭素数4以下のオレフィンの製造方法、並びに、芳香族炭化水素及び/又は炭素数4以下のオレフィンの製造装置

【課題】コーキングによる触媒の失活を抑制できる、芳香族炭化水素及び/又は軽質オレフィンの製造方法を提供する。
【解決手段】製造方法は、芳香族炭化水素及び/又は炭素数4以下のオレフィンの製造方法である。この製造方法は、炭化水素を、酸量が0.001〜1mmol/gであり、10員環の細孔構造を有するゼオライト(A)を含む第1の触媒部を通過させてから、酸量がゼオライト(A)の酸量の90%以下である固体酸触媒(B)を含む第2の触媒部を通過させ、かつ、第2の触媒部において該炭化水素を600℃未満の反応温度で接触分解する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、芳香族炭化水素及び/又は炭素数4以下のオレフィン(以下、「軽質オレフィン」と記載することがある。)を製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
エチレン、プロピレン、ブテン等の軽質オレフィンおよびBTX(ベンゼン、トルエン、及びキシレン)等の芳香族炭化水素は、ポリマーや様々な化学品の原料となる重要な化学品である。これらの製造方法の1つとして、ナフサの熱分解プロセスが挙げられるが、このプロセスは800℃以上という高温を必要とし、吸熱反応である熱分解を行うために多大なエネルギーを消費する。また、軽質オレフィンのうち、プロピレンの需要増加、供給不足が見込まれているが、熱分解ではエチレン選択率が高く、プロピレン増産への対応は困難である。
【0003】
そのため、触媒を用いたナフサの接触分解の実現が期待されている。接触分解は、600〜700℃程度の低い温度での反応が可能であるため、省エネルギー化でき、また、一般に熱分解より高いプロピレン選択性を示す。また、触媒の制御によって各生成物の需給バランスに応じた選択率の制御、および全有効成分選択率の向上が期待される。
【0004】
ナフサの接触分解の触媒として、ゼオライトを中心とした固体酸触媒についてこれまで様々な検討が行われてきている。しかし、生成物の逐次反応により触媒がコーキングされ、失活するという問題点がある。また、ゼオライトを触媒として用いた場合、コークを燃焼させて除去する際に生成する水蒸気や、反応中共存させるスチームによりゼオライト骨格からの脱アルミニウムがおき、失活することも問題となる。
【0005】
このような失活を抑制する方法がこれまでに報告されている。例えば特開2010−42344号公報(特許文献1)には、アルカリ土類金属、希土類元素およびリンを担持したゼオライトを用いた接触分解において、ゼオライトにリンとリン以外の成分を別工程で担持した触媒を用いることにより、同時に担持した触媒を用いた場合よりも活性低下が抑制されることが記載されている。
【0006】
特開2010−104878号公報(特許文献2)には、アルカリ土類金属、希土類元素およびリンを担持したゼオライトを用いた接触分解において、ゼオライトにアルカリ土類金属、リン、希土類元素の順又はアルカリ土類金属、リン、希土類、リンの順に担持した触媒を用いることにより、同時あるいは上記と異なる順番で担持した触媒を用いた場合よりも活性低下が抑制されることが記載されている。
【0007】
特開2010−104909号公報(特許文献3)には、アルカリ土類金属およびリンを担持したゼオライトを用いた接触分解において、ゼオライトにアルカリ土類金属とリンを含む水溶性の塩を用いて担持することにより、活性低下が抑制されることを記載している。
【0008】
特開2010−202613号公報(特許文献4)には、MCM−68を用いたパラフィンの接触分解において、Si/Al比の低いMCM−68を硝酸処理により脱アルミニウムさせ、Si/Al比を高くすることにより、脱アルミニウムしていないものと比較して活性低下が抑制されることを記載している。
【0009】
これらの報告は、いずれも反応に触媒を1種類のみ用いて性能の向上を図ったものである。接触分解では、反応の初期では原料炭化水素濃度が高く、反応の後期では原料炭化水素濃度は低くなり、それに代わって軽質オレフィン、芳香族、および軽質パラフィンなどの生成物濃度が高くなる。そのため、反応の初期と後期では反応性、コーキング、失活挙動などが異なることから、それぞれの段階で適した触媒は異なると推定される。
【0010】
複数の触媒を用いた反応として、例えば米国特許公開2010/0213101A1号公報(特許文献5)には、酸量の小さいbetaゼオライトにVIII族金属を担持した触媒を前段に配置し、高SiのZSM−5にVIII族金属を担持した触媒を後段に配置することが記載されている。そして、これらの触媒は、約800〜約1100°F(約427〜約593℃)でのナフサの改質の選択率を向上し、生成する油分のオクタン価を上げることを目的として選択されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2010−42344号公報
【特許文献2】特開2010−104878号公報
【特許文献3】特開2010−104909号公報
【特許文献4】特開2010−202613号公報
【特許文献5】米国特許出願公開第2010/0213101号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
しかしながら、特許文献5に記載の技術は、接触分解におけるコーキングによる触媒の失活を抑制することを想定していない。
【0013】
本発明はこうした状況に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、コーキングによる触媒の失活を抑制できる、芳香族炭化水素及び/又は軽質オレフィンの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記課題を解決するために、本発明のある態様の製造方法は、芳香族炭化水素及び/又は炭素数4以下のオレフィンの製造方法である。この製造方法は、炭化水素を、酸量が0.001〜1mmol/gであり、10員環の細孔構造を有するゼオライト(A)を含む第1の触媒部を通過させてから、酸量が前記ゼオライト(A)の酸量の90%以下である固体酸触媒(B)を含む第2の触媒部を通過させ、かつ、前記第2の触媒部において該炭化水素を600℃未満の反応温度で接触分解する。
【0015】
また、本発明の別の態様は、芳香族炭化水素及び/又は炭素数4以下のオレフィンの製造装置である。この製造装置は、少なくとも第1の触媒部と第2の触媒部とを有する反応部を備えている。第1の触媒部は、酸量が0.001〜1mmol/gであり、10員環の細孔構造を有するゼオライト(A)を含み、第2の触媒部は、第1の触媒部より下流側に配置されているとともに、酸量が前記ゼオライト(A)の酸量の90%以下の固体酸触媒(B)を含んでいる。第2の触媒部は、供給された炭化水素を600℃未満の反応温度で接触分解できるように構成されている。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、コーキングによる触媒の失活を抑制できる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明を実施するための形態について詳細に説明する。また、以下に述べる構成は例示であり、本発明の範囲を何ら限定するものではない。
【0018】
本発明者らは、鋭意研究の結果、酸量の異なる固体酸触媒を組み合わせることで、各触媒単独で使用した場合より長い時間、高い転化率を維持することを見いだし、本発明を完成するに至った。
【0019】
具体的には、本実施の形態に係る製造方法は、芳香族炭化水素及び/又は軽質オレフィンの製造方法である。この製造方法は、炭化水素を、酸量が0.001〜1mmol/gであり、10員環の細孔構造を有するゼオライト(以下、「ゼオライト(A)」と記載することがある。)を含む第1の触媒部を通過させてから、酸量がゼオライト(A)の酸量の90%以下である固体酸触媒(以下、「固体酸触媒(B)」と記載することがある。)を含む第2の触媒部を通過させ、かつ、第2の触媒部において該炭化水素を600℃未満の反応温度で接触分解する。
【0020】
ここで、第1の触媒部(ゼオライト(A))は第2の触媒部(固体酸触媒(B))の上流側に配置されている。換言すれば、第2の触媒部は第1の触媒部の下流側に配置されている。
【0021】
本実施の形態の製造方法において、原料に好適な炭化水素としては、例えば、炭素数2〜20のアルカン、炭素数2〜20のオレフィン、炭素数6〜20の芳香族炭化水素、炭素数5〜20のナフテン等が挙げられる。炭化水素として、好ましくは、炭素数が5〜12の炭化水素であり、より好ましくは、炭素数が5〜9の飽和炭化水素及び/又は炭素数6〜9の芳香族炭化水素である。炭素数が5〜9の飽和炭化水素としては、例えば、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン等が挙げられ、炭素数6〜9の芳香族炭化水素としては、例えば、ベンゼン、トルエン、キシレン等が挙げられる。また、炭化水素として、好ましくは、炭素数が5〜12の炭化水素を80重量%以上含有する炭化水素であり、より好ましくは、炭素数が5〜9の飽和炭化水素及び/又は炭素数6〜9の芳香族炭化水素を80重量%以上含有する炭化水素である。
【0022】
このような炭化水素として、重油、軽油、ナフサ等が挙げられ、好ましくは、ナフサである。ナフサとしては、その沸点によりライトナフサ、ヘビーナフサ、フルレンジナフサがあり、そのいずれでもよく、好ましくは、ライトナフサである。ここで、ライトナフサとは、ナフサの中で沸点が比較的低いものをいい、ヘビーナフサとは、ナフサの中で沸点が比較的高いものをいう。
【0023】
これらの原料に、接触分解の未反応原料および生成物の一部をリサイクルして混合してもよく、あるいは他のプロセスで生成した炭化水素を混合して用いてもよい。原料を反応器に導入する際に、窒素などの不活性ガスで希釈してもよいが、不活性ガス供給のコストを考慮すると不活性ガスを使用しないことが好ましい。また、水素を供給してもよいが、水素濃度が高くなると、生成物が水素化されて芳香族炭化水素及び/又は軽質オレフィンの収率が低下するため水素は供給しないことが好ましい。熱供給およびコーキング抑制のために、スチームを同伴させてもよい。
【0024】
第1の触媒部において、炭化水素の接触分解の反応温度として、好ましくは、500〜900℃であり、より好ましくは、550〜700℃であり、更に好ましくは、560〜660℃であり、特に好ましくは、570℃以上600℃未満である。温度が低すぎると十分に反応が進まない。一方、温度が高すぎると熱分解が進行するためメタンが増加し、芳香族炭化水素及び/又は軽質オレフィンの収率が低下し、また、コーキングが増大し、触媒の失活が早くなる。
【0025】
第2の触媒部においては、第1の触媒部よりも逐次反応が進みコーキングしやすいため、温度が低い方がよい。そのため、第2の触媒部において炭化水素の接触分解の反応温度としては、600℃未満であり、好ましくは、500℃以上600℃未満であり、より好ましくは、550℃以上600℃未満であり、更に好ましくは、570℃以上600℃未満である。温度が低すぎると十分に反応が進まない。一方、温度が高すぎると熱分解が進行するためメタンが増加し、芳香族炭化水素及び/又は軽質オレフィンの収率が低下し、また、コーキングが増大し、触媒の失活が早くなる。
【0026】
ゼオライト(A)としては、MFI、MEL、MWW、TON型ゼオライトの中から選ばれる少なくとも1つであることが好ましく、その中でも特に接触分解活性、安定性が高いMFI型がより好ましい。ZSM−5はMFI型ゼオライトの1種である。
【0027】
固体酸触媒(B)としては、ゼオライト、シリカアルミナ、硫酸化ジルコニア、タングステン酸ジルコニアなどが挙げられ、8、10又は12員環の細孔構造を有するゼオライトであることが好ましく、8又は10員環の細孔構造を有するゼオライトであることがより好ましい。以下、触媒部の一形態として触媒層を例に説明するが、触媒部は発明を逸脱しない範囲で様々な形態をとりうる。
【0028】
上記8、10又は12員環の細孔構造を有するゼオライトは、MFI、MEL、MWW、TON、BEA、MSE、MOR、MTW、FAU型ゼオライトの中から選ばれる少なくとも1つであることが好ましく、MFI、MSE、FAU型ゼオライトの中から選ばれる少なくとも1つであることがより好ましく、その中でも特に接触分解活性、安定性が高いMFI型が最も好ましい。ZSM−5はMFI型ゼオライトの1種である。
【0029】
これらゼオライト(A)及び固体酸触媒(B)(以下、単に「固体酸触媒」と記載することがある。)は、使用する触媒すべてが修飾されていないものを用いてもよい。また、固体酸触媒は、使用する触媒の1つ以上が、アルカリ金属、アルカリ土類金属、希土類金属、リン、および元素の周期律表第4〜12族の遷移金属から選ばれる1つ以上の成分で修飾されたものを用いてもよい。
【0030】
固体酸触媒は、粉体、成型いずれの形で用いてもよい。成型触媒として用いる場合、結合剤等の目的で、固体酸触媒以外にカオリン、ベントナイト等の粘土鉱物及び/又はシリカ、アルミナ、ジルコニア等の無機酸化物を1つ以上含有していてもよい。
【0031】
固体酸触媒の酸量は、アンモニア昇温脱離法(以下、アンモニアTPD法)により測定することができる。なお、成型触媒については、成型体を粉砕した粉末をアンモニアTPDで測定して得られる酸量が、上流に配置されるいずれかの触媒層(触媒部)に用いられるゼオライト(A)の酸量よりも小さい触媒を下流に配置してもよく、粘土鉱物や無機酸化物等を混合する前の固体酸触媒をアンモニアTPDで測定して得られる酸量が、上流に配置されるいずれかの触媒層(触媒部)に用いられるゼオライト(A)の酸量より小さい触媒を下流に配置してもよい。
【0032】
本実施の形態においては、ゼオライト(A)の酸量が、0.001〜1mmol/gであり、好ましくは、0.01〜0.8mmol/gであり、より好ましくは、0.1〜0.5mmol/gである。酸量が大きすぎると、活性が高いもののコーキングにより失活しやすく、一方酸量が小さすぎると十分な活性が得られない。
【0033】
また、本実施の形態においては、固体酸触媒(B)の酸量が、ゼオライト(A)の酸量の90%以下であり、好ましくは、5〜70%であり、より好ましくは、15〜60%である。3層以上の触媒層を用いる場合は、いずれか2層の触媒層に用いられる固体酸触媒の酸量が上記範囲を満たせばよい。
【0034】
本実施の形態において、2層以上の触媒層を形成する方法としては、酸量の異なる固体酸触媒をそれぞれ、別々の反応器に充填して、触媒層を形成した反応器を2器以上直列に配置してもよい。なお、設備および運転のコストを考慮すると、酸量の異なる固体酸触媒を1つの反応器に充填して、1つの反応器内に2層以上の触媒層を形成することが好ましい。
【0035】
酸量の異なる固体酸触媒をそれぞれ、別々の反応器に充填して、触媒層を形成した反応器を2器以上使用する場合、その反応器の形式は固定層、移動層、流動層いずれでもよく、異なる形式の反応器を組み合わせてもよい。なお、設備および運転コストを考慮すると、複数の反応器の間には、原料や生成物の成分を分離するための設備がないこと好ましい。ここで、「固定層」流通式の反応器は、例えば、粒状触媒を何らかの部材で保持するタイプの反応器であり、低コストで実現できる。粒状触媒を保持する部材は、例えば、石英ウールと石英砂を組み合わせたものや、網目状の床などが用いられる。また、「流動層」式の反応器は、例えば、粉体状の触媒の中を気体が泡のように噴き出すよう構成された反応器である。
【0036】
酸量の異なる固体酸触媒を1つの反応器に充填して、1つの反応器内に2層以上の触媒層を形成する場合、固定層流通式として構成されている反応器を使用することが好ましい。反応器内に酸量の異なる固体酸触媒を直列に充填するが、酸量の異なる固体酸触媒の段が互いに直接接していてもよく、不活性な層、あるいは互いに酸量の異なる固体酸触媒以外の触媒の層が間に入ることにより互いに離れていてもよい。また、3種類以上の固体酸触媒を使用する場合、そのうち少なくとも2種類の相互の位置が、上流に酸量の大きい固体酸触媒があり、下流に酸量の小さい固体酸触媒があればよく、残る触媒の位置は特に制限されない。なお、上流側から順に酸量の大きい固体酸触媒を種類ごとに複数段に分けて反応器に充填することが好ましい。本実施の形態に係る反応器は、上流側に相対的に酸量の高い固体酸触媒が充填されているとともに、下流側に相対的に酸量の低い固体酸触媒が充填されている。
【0037】
ゼオライト(A)の重量と、固体酸触媒(B)との重量としては、ゼオライト(A)の重量に対して、固体酸触媒(B)の重量が1/100〜100倍であることが好ましく、1/10〜10倍であることがより好ましい。3層以上の触媒層を用いる場合は、酸量の大きいいずれかの固体酸触媒に対しての重量が上記範囲に入っていればよい。成型触媒の場合、ここで示す重量は、固体酸触媒又は成型体全体の重量を表す。
【0038】
用いる触媒層は、2層以上であればよいが、触媒製造コスト、充填の手間に対する効果を考慮すると2〜5層の触媒層を用いることが好ましく、2〜3層の触媒層を用いることがより最も好ましい。
【0039】
ゼオライト(A)と固体酸触媒(B)との組合せについては、ゼオライトとシリカアルミナのように異なる系の固体酸触媒を組み合わせてもよいが、操作性の観点から、酸量の異なるゼオライト同士のように、同じ系で酸量を変えた組合せがより好ましい。ゼオライトを用いる場合、MFIとFAUのように構造の異なるゼオライトを組み合わせてもよいが、好ましくは少なくとも2種類は互いに結晶構造の同じMFI型ゼオライトであり、すべての固体酸触媒がMFI型ゼオライトであることがより好ましい。
【0040】
酸量は、原料、組成、調製法、調製条件、後処理、金属担持など様々な要因で制御することができ、酸量の異なる固体酸触媒を得るための方法は特に制限されない。ゼオライトの場合、例えばSi/Alモル比を変える、水蒸気処理を行う、酸処理を行う、アルカリ処理を行う、イオン交換率を変えるといった方法で、容易に酸量を制御することができる。Si/Alモル比を変えることはゼオライトの後処理を必要としない点から好ましい。また、水蒸気処理、酸処理、アルカリ処理といった後処理の場合、1つのゼオライトから酸量の異なるゼオライトを調製できるため、ゼオライトの調達が複数のゼオライトを購入する場合より安価に入手でき得るという利点がある。これらの後処理の中では、水蒸気処理が、酸処理やアルカリ処理と異なり廃液が水のみであるため、処理が容易であり、また、触媒量の減少を伴わない点から、好ましい。
【0041】
ゼオライト(A)および固体酸触媒(B)は、共に一般式xMO・yAl・zSiO・nHOで表されたゼオライトを含んでいてもよい。そして、ゼオライト(A)におけるSiとAlのモル比z/yは、固体酸触媒(B)に含まれているゼオライト(B1)におけるSiとAlのモル比z/yと異なっていてもよい。このように、ゼオライトのSi/Alモル比を変えることで酸量を制御することができる。なお、一般的にSi/Alモル比が大きいと酸量は減少する。Si/Alモル比は、原料の組成を変えて調節することができ、また、Si/Alモル比の異なるゼオライトは容易に購入可能である。
【0042】
水蒸気処理は、通常400〜900℃、好ましくは500〜700℃で、水蒸気あるいは窒素等の不活性ガスで希釈した水蒸気により気相でゼオライトを処理する方法であり、ゼオライト骨格中のアルミニウムを脱アルミニウムさせ、酸量を小さくすることができる。ゼオライト(A)および固体酸触媒(B)のゼオライト(B1)の少なくとも一方は、水蒸気で処理されることにより酸量が調節されているものであってもよい。
【0043】
酸処理は、ゼオライトを30〜100℃の塩酸、硝酸、硫酸等の酸で処理する方法であり、これによりゼオライト骨格中のアルミニウムを脱アルミニウムさせ、酸量を小さくすることができる。
【0044】
また、アルカリ処理は水酸化ナトリウム水溶液、水酸化カリウム水溶液などのアルカリ性水溶液でゼオライトを処理する方法であり、それに伴いゼオライト骨格中のケイ素を溶出させ、酸量を大きくすることができる。
【実施例】
【0045】
以下、本実施の形態の実施例を示すが、本発明はこれらによって限定されるものではない。
【0046】
(1)酸量の測定
触媒の酸量はアンモニアTPD法により測定を行った。測定には日本ベル社製、BELCATを用いて行った。粉末試料を石英セルに充填し、Heフロー下で500℃まで昇温、1h保持した後100℃まで冷却した。続いて、100℃にて5vol%NH/Heを30分供給してアンモニアを吸着させた後、Heで15分パージを行った。その後、10℃/分で700℃まで昇温、20分保持し、脱離するアンモニアの定量を行った。ゼオライトを分析すると200〜300℃までの低温側のピークと、それ以降の高温側のピークが現れるが、高温側のピークが酸に由来するため、200〜300℃の間でピーク分離を行い、高温側のピークから、酸量を算出した。
【0047】
(2)反応試験
炭化水素原料としてn−ヘキサンを使用し、固定層流通反応装置を用いて接触分解を行った。触媒は粒径250〜500μmに整粒したものを用いた。また、粒状の触媒は、石英ウールと石英砂を用いて保持されている。触媒をハステロイC(登録商標)製反応管に全量が0.36gとなるように充填した。触媒層の上下を石英ウールで保持し、そのさらに上下には反応管内のガスの滞留時間を短くするために石英砂を充填した。複数の触媒を2段に分けて充填する場合、その間に石英ウールなどは充填せず、下段の触媒層の上に直接上段の触媒層を充填した。触媒層の中央の位置になるように熱電対をセットし触媒層温度を測定した。ガスは反応管上部から供給し、下部から抜き出した。0.2MPaの圧力下、窒素気流中、5℃/分で反応管を所定の温度まで昇温した。その後、窒素供給を止め、圧力を0.2MPaに保持したまま、n−ヘキサンを7.2g/hで供給した。n−ヘキサン以外に、希釈ガスや水蒸気などは反応中供給しなかった。反応開始直後、接触分解の吸熱により触媒層温度が急激に低下するため、触媒層温度が所定の温度になるように電気炉温度を調節した。所定の時間反応後、n−ヘキサンの供給を止め、窒素気流中冷却した。分析はガスクロマトグラフィーにより行い、その結果から転化率(%)を算出した。また、有用成分をエチレン、プロピレン、ブテン類、BTXとして、それらの炭素原子換算の選択率(C‐mol%)を算出した。本実施の形態は、芳香族炭化水素及び/又は軽質オレフィンを製造する方法において高い活性と活性低下の抑制とを両立する効果に関するものであり、初期転化率が高くかつ反応開始後所定の時間経過後にも高い転化率を示したものがその効果が大きいといえる。
【0048】
[実施例1]
触媒層の上段側に、10員環のMFI型である、Si/Alモル比80、酸量0.424mmol/gのH−ZSM−5(触媒A)を0.18g充填し、触媒層の下段側に、10員環のMFI型である、Si/Alモル比500、酸量0.091mmol/gのH−ZSM−5(触媒B)を0.18g充填した。下段側の触媒の酸量の、上段側の触媒の酸量に対する比(触媒B/触媒A)は、21%であった。これについて580℃にて反応試験を行った。反応結果を表1に示す。
【0049】
[比較例1]
触媒Aのみを0.36g充填した。これについて580℃にて反応試験を行った。反応結果を表1に示す。
【0050】
[比較例2]
触媒Bのみを0.36g充填した。これについて580℃にて反応試験を行った。反応結果を表1に示す。
【0051】
[比較例3]
触媒層の上段側に、触媒Bを0.18g充填し、触媒層の下段側に、触媒Aを0.18g充填した。下段側の触媒の酸量の、上段側の触媒の酸量に対する比(触媒A/触媒B)は、466%であった。これについて580℃にて反応試験を行った。反応結果を表1に示す。
【0052】
[比較例4]
整粒済みの触媒Aおよび触媒Bを重量比1:1で混合したもの0.36g充填した。これについて580℃にて反応試験を行った。反応結果を表1に示す。
【0053】
[比較例5]
触媒層の上段側に、12員環のBEA型である、Si/Alモル比41、酸量0.502mmol/gのH−beta(触媒C)を0.18g充填し、触媒層の下段側に、触媒Bを0.18g充填した。下段側の触媒の酸量の、上段側の触媒の酸量に対する比(触媒B/触媒C)は、18%であった。これについて580℃にて反応試験を行った。反応結果を表1に示す。
【0054】
[比較例6]
触媒層の上段側に、触媒Cを0.18g充填し、触媒層の下段側に、Si/Alモル比200、酸量0.092mmol/gのH−beta(触媒D)を0.18g充填した。下段側の触媒の酸量の、上段側の触媒の酸量に対する比(触媒D/触媒C)は、18%であった。これについて580℃にて反応試験を行った。反応結果を表1に示す。
【0055】
実施例1および比較例1〜6における反応時間ごとの転化率と、有用成分であるC2〜4オレフィンおよびBTX、軽質オレフィンへの転換可能なC2〜6パラフィン(n−ヘキサンは除く)、および軽質オレフィンへの転換が困難な副生成物であるメタンの炭素原子換算の選択率を表1に示す。
【0056】
【表1】

【0057】
実施例1と、比較例1および比較例2とを比較すると、実施例1における転化率の低下は、比較例1や比較例2における転化率の低下よりも小さい。このことから、酸量が多く、10員環の細孔構造を有するゼオライトを上流に配置し、それよりも酸量が少ない触媒を下流に配置することにより、いずれかの触媒を単独で用いた場合よりも長時間高い活性を維持することが明らかとなった。
【0058】
また、使用した触媒の組合せ、および、使用したそれぞれの触媒の量が、互いに同じ実施例1と、比較例3および比較例4とを比較すると、実施例1における転化率の低下は、比較例3や比較例4における転化率の低下よりも小さい。このことから、実施例1に係る触媒の配置は、最も長時間高い活性を維持することが明らかとなった。
【0059】
また、実施例1と、比較例5および比較例6とを比較すると、12員環の細孔構造を有するBEA型ゼオライトを上流に配置した場合(比較例5および比較例6)は、反応初期から低い転化率を示している。一方、10員環の細孔構造を有するMFI型ゼオライトを上流に配置した場合(実施例1)は、長時間高い活性を維持することが明らかとなった。
【0060】
また、本実施の形態を製造装置として捉えることもできる。この場合、本実施の形態に係る芳香族炭化水素及び/又は軽質オレフィン製造装置は、少なくとも第1の触媒部と第2の触媒部とを有する反応器を備えている。第1の触媒部は、酸量が0.001〜1mmol/gであり、10員環の細孔構造を有するゼオライト(A)を含み、第2の触媒部は、第1の触媒部より下流側に配置されているとともに、酸量が前記ゼオライト(A)の酸量の90%以下の固体酸触媒(B)を含んでいる。第2の触媒部は、供給された炭化水素を600℃未満の反応温度で接触分解できるように構成されている。
【0061】
なお、本実施の形態に係る製造方法や製造装置において副生する主なパラフィンのうち、メタンを除くエタン、プロパン等の炭素数2〜6のパラフィンは回収し、原料にリサイクルしたり、別プロセスに送ったりすることで有用な軽質オレフィンに転換することが可能である。加えて、接触分解では熱分解と比較してメタンの選択率が低く、その他のパラフィンの選択率を高くすることができる。そのため、本実施の形態に係る製造方法や製造装置における接触分解によって、最終的な有効成分の収率は熱分解と比較してさらに向上することが期待される。
【0062】
以上、本発明を上述の実施の形態や各実施例を参照して説明したが、本発明は上述の実施の形態や実施例に限定されるものではなく、実施の形態や各実施例の構成を適宜組み合わせたものや置換したものについても本発明に含まれるものである。また、当業者の知識に基づいて実施の形態や各実施例における組合せや処理の順番を適宜組み替えることや各種の設計変更等の変形を実施の形態や各実施例に対して加えることも可能であり、そのような変形が加えられた実施の形態も本発明の範囲に含まれうる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭化水素を、酸量が0.001〜1mmol/gであり、10員環の細孔構造を有するゼオライト(A)を含む第1の触媒部を通過させてから、酸量が前記ゼオライト(A)の酸量の90%以下である固体酸触媒(B)を含む第2の触媒部を通過させ、
かつ、前記第2の触媒部において該炭化水素を600℃未満の反応温度で接触分解する、
ことを特徴とする芳香族炭化水素及び/又は炭素数4以下のオレフィンの製造方法。
【請求項2】
前記固体酸触媒(B)はゼオライト(B1)であり、
前記ゼオライト(A)および前記ゼオライト(B1)は、共に一般式xMO・yAl・zSiO・nHOで表され、
ゼオライト(A)におけるSiとAlのモル比z/yは、ゼオライト(B1)におけるSiとAlのモル比z/yと異なる請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
供給された炭化水素に含まれる炭素原子の総数に対して、炭素数4以下のオレフィン、ベンゼン、トルエンおよびキシレンからなる生成物の、炭素原子換算の選択率が40%以上となるように構成されている請求項の1又は2に記載の製造方法。
【請求項4】
前記炭化水素は、炭素数5〜9の飽和炭化水素及び/又は炭素数6〜9の芳香族炭化水素を含む請求項1〜3のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項5】
前記炭化水素は、ナフサを含む請求項1〜3のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項6】
前記固体酸触媒(B)は、8、10又は12員環の細孔構造を有するゼオライトである請求項1〜5のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項7】
前記ゼオライト(A)および前記固体酸触媒(B)の少なくとも一方は、MFI型ゼオライトである請求項1〜6のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項8】
前記第1の触媒部において該炭化水素を600℃未満の反応温度で接触分解する請求項1〜7のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項9】
固定層流通式として構成されている反応器を備え、
前記反応器は、触媒ごとに複数段に分かれており、上流側に前記ゼオライト(A)が充填されているとともに、下流側に前記固体酸触媒(B)が充填されている、
ことを特徴とする請求項1〜8のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項10】
少なくとも第1の触媒部と第2の触媒部とを有する反応部を備え、
前記第1の触媒部は、酸量が0.001〜1mmol/gであり、10員環の細孔構造を有するゼオライト(A)を含み、
前記第2の触媒部は、前記第1の触媒部より下流側に配置されているとともに、酸量が前記ゼオライト(A)の酸量の90%以下の固体酸触媒(B)を含み、
前記第2の触媒部は、供給された炭化水素を600℃未満の反応温度で接触分解できるように構成されている、
芳香族炭化水素及び/又は炭素数4以下のオレフィンの製造装置。
【請求項11】
前記固体酸触媒(B)は、8、10又は12員環の細孔構造を有するゼオライトであることを特徴とする請求項10に記載の製造装置。

【公開番号】特開2013−6965(P2013−6965A)
【公開日】平成25年1月10日(2013.1.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−140859(P2011−140859)
【出願日】平成23年6月24日(2011.6.24)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成21年度 独立行政法人 新エネルギー・産業技術総合開発機構 高性能ゼオライト触媒を用いる革新的ナフサ分解プロセスの開発委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(000002093)住友化学株式会社 (8,981)
【出願人】(000002004)昭和電工株式会社 (3,251)
【出願人】(000005887)三井化学株式会社 (2,318)
【出願人】(304021417)国立大学法人東京工業大学 (1,821)
【Fターム(参考)】