説明

芳香族炭化水素油の精製方法

【課題】石油精製工業または石油化学工業または石炭化学工業において生産される芳香族オレフィンを含有する沸点100〜250℃の芳香族炭化水素を主成分とする芳香族炭化水素油を汎用の芳香族溶剤の原料として供するため、芳香族炭化水素を損失することなく芳香族オレフィンの90%以上を除去する方法を提供する。
【解決手段】沸点100〜250℃の芳香族炭化水素を主成分とし、沸点100〜250℃の芳香族オレフィンを含有する芳香族炭化水素油に酸触媒を加えて重合処理を行う工程と、この重合処理された芳香族炭化水素油を蒸留して沸点100〜250℃の芳香族炭化水素を回収する蒸留処理工程とを含むことを特徴とする芳香族炭化水素油の精製方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、芳香族炭化水素を主成分とする芳香族炭化水素油の芳香族性を低下させることなく、主成分の芳香族炭化水素と同等の沸点範囲を有する芳香族オレフィンを除去・低減することを特徴とする芳香族炭化水素油の精製方法である。
【背景技術】
【0002】
石油精製工業や石油化学工業において生産される沸点100〜250℃の芳香族炭化水素を主成分とする炭化水素油は、汎用の芳香族溶剤の原料として、塗料、インキ、ゴム、粘着剤、接着剤、金属の脱脂洗浄、反応溶剤等多方面で使用されている。特に、芳香族溶剤は脂肪族溶剤に比較して溶解性に優れており、多種類の物質を良く溶解することから好んで使用される溶剤である。しかるに芳香族溶剤はしばしば高温において使用されることが多く、高温でも安定であることが求められる。
一方で、石油精製工業や石油化学工業や石炭化学工業において生産される沸点100〜250℃の芳香族オレフィンを含有する沸点100〜250℃の芳香族炭化水素を主成分とする炭化水素油は、熱安定性が低い等の理由から上記の汎用の芳香族溶剤として使用することが難しく、主に燃料用に供されている。
【0003】
炭化水素油からオレフィンを除去・低減する方法として、蒸留法、吸着分離法、抽出法、錯形成剤を用いた抽出法、水素化法、膜分離法などが知られている。
これら従来の方法では、芳香族炭化水素を主成分とする炭化水素油から、産業上有用な当該炭化水素油の芳香族性を低下させることなく、主成分の芳香族炭化水素と同等の沸点範囲を有する芳香族オレフィンの90%以上を除去することはできない。
【0004】
例えば、特許文献1には、銅化合物によるエチルベンゼン/スチレン混合物からのスチレンの分離方法が記されているが、スチレンの90%以上が除去されたエチルベンゼンを得るまでには至っていない。
特許文献2には、分離膜を用いたオレフィンの分離方法が記されているが、芳香族オレフィンの分離能があるか否かは定かではない。
特許文献3には、分離膜を用いたパラフィンとの混合物からオレフィンを分離する方法が記されているが、芳香族炭化水素と芳香族オレフィンとの分離能があるかは不明である。
また、パラフィンとオレフィンの混合物からオレフィンを吸着分離する工程で使用される分子ふるいの活性部位を芳香族炭化水素が非活性化することが知られている(特許文献4)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開昭57−58633号公報
【特許文献2】特開平11−192420号公報
【特許文献3】特表2006−508176号公報
【特許文献4】特開2002−60760号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の課題は、石油精製工業または石油化学工業または石炭化学工業において生産される沸点100〜250℃の芳香族炭化水素を主成分として、沸点100〜250℃の芳香族オレフィンを含有する芳香族炭化水素油を汎用の芳香族溶剤の原料として供することである。すなわち、当該芳香族炭化水素油から、産業上有用な芳香族炭化水素を損失することなく、当該芳香族オレフィンの90%以上を除去することによって、当該芳香族炭化水素油を汎用の芳香族溶剤の原料として供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明者らは鋭意研究を行った結果、芳香族オレフィンを含有する沸点100〜250℃の芳香族炭化水素を主成分とする芳香族炭化水素油に酸触媒を加えて重合処理を行った後に、蒸留して当該芳香族炭化水素を回収することによって、産業上有用な芳香族炭化水素の損失がなく、しかも、芳香族オレフィンの90%以上が除去された芳香族炭化水素油を得ることができることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち本発明は、沸点100〜250℃の芳香族炭化水素を主成分とし、沸点100〜250℃の芳香族オレフィンを含有する芳香族炭化水素油に酸触媒を加えて重合処理を行う工程と、この重合処理された芳香族炭化水素油を蒸留して沸点100〜250℃の芳香族炭化水素を回収する蒸留処理工程とを含むことを特徴とする芳香族炭化水素油の精製方法である。
【0009】
また本発明は、芳香族炭化水素油が、石油精製工業または石油化学工業または石炭化学工業において生産される炭素数8から炭素数10の芳香族炭化水素を主成分とする芳香族炭化水素油であることを特徴とする前記記載の芳香族炭化水素油の精製方法である。
【0010】
また本発明は、重合処理で使用する酸触媒が固体酸であり、この酸触媒の使用量が芳香族炭化水素油に対して0.1〜50重量%であり、反応温度が0〜300℃の範囲であることを特徴とする前記記載の芳香族炭化水素油の精製方法である。
【0011】
さらに本発明は、芳香族オレフィンの90%以上が重合することを特徴とする前記記載の芳香族炭化水素油の精製方法である。
【0012】
本発明の方法により、芳香族オレフィンを含有する沸点100〜250℃の芳香族炭化水素を主成分とする芳香族炭化水素油から、産業上有用な芳香族炭化水素を損失することなく、芳香族オレフィンの90%以上が除去された芳香族炭化水素油を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下に本発明について説明する。
本発明の精製方法に供される芳香族炭化水素油(以下、原料炭化水素という。)は、沸点100〜250℃の芳香族炭化水素を主成分とし、沸点100〜250℃の芳香族オレフィンを含有する芳香族炭化水素油である。かかる原料炭化水素としては、石油の流動接触分解装置や熱分解装置で生成する分解軽油、芳香族炭化水素樹脂を製造する際に得られる未反応油、石炭乾留において生産される軽油などの石油精製工業または石油化学工業または石炭化学工業にて生産される芳香族炭化水素を主成分として芳香族オレフィンを含有する芳香族炭化水素油が挙げられ、これらは所望に応じて2種類のものを混合したり、成分や組成を適宜調整して使用することもできる。
以下では、原料炭化水素に酸触媒を加えて重合処理を行った後を重合油と言い、重合油を蒸留して原料炭化水素から芳香族オレフィン分を除去して得られる芳香族炭化水素を精製油という。
【0014】
原料炭化水素の沸点は100〜250℃であり、好ましくは140℃以上、200℃以下である。沸点の下限が100℃未満の場合や、沸点の上限が250℃を超えると目的とする芳香族炭化水素の含有量が少なくなるため、経済性が成り立たない。
【0015】
原料炭化水素における芳香族炭化水素(芳香族オレフィン分を含む)の含有割合は50容量%以上であることが好ましく、より好ましくは80容量%以上である。芳香族炭化水素の含有割合が50容量%未満の場合は、精製油の溶解力が低いために汎用の芳香族溶剤の原料として供することができない。
また、原料炭化水素の芳香族炭化水素としては、炭素数8〜10のものを主成分とすることが好ましい。
【0016】
また原料炭化水素における芳香族オレフィンの含有割合は50容量%以下であることが好ましく、より好ましくは20容量%未満である。芳香族オレフィンの含有割合が50容量%よりも多くなると目的とする芳香族炭化水素の回収量が少ないため経済性が成り立たない。また、芳香族オレフィンの含有割合が2容量%未満の場合は、精製処理する必要性に乏しく経済性が成り立たない。
【0017】
なお、原料炭化水素の臭素価は、20gBr/100g未満であることが好ましい。
【0018】
本発明の方法における重合処理工程では、上記した原料炭化水素に酸触媒を加え、原料炭化水素中の芳香族オレフィンの重合を行う。
本発明における重合処理とは、原料炭化水素に含まれるビニルトルエン、メチルスチレン、アリルベンゼン、インデン等の芳香族オレフィンの90%以上、好ましくは95%以上が重合することをいう。芳香族オレフィンの重合率が90%未満の場合は、精製油の熱安定性が低いために汎用の芳香族溶剤の原料として供することができない。
【0019】
重合処理に使用する酸触媒としては、例えば、硫酸、燐酸、塩酸、硝酸等のブレンステッド酸、三弗化硼素およびその錯体、塩化アルミニウム等のルイス酸、および、酸性白土、活性白土、酸性イオン交換樹脂等の固体酸等を挙げることができる。
【0020】
重合処理条件は、原料炭化水素の種類や使用する酸触媒の種類等によって異なるが、酸触媒の使用量は原料炭化水素に対して0.1〜50重量%が好ましく、より好ましくは0.1〜30重量%の範囲である。また反応温度は0〜300℃が好ましく、より好ましくは20〜280℃の範囲である。反応時間としては0.1〜48時間が好ましく、より好ましくは0.1〜24時間の範囲である。
【0021】
重合処理後、重合油を蒸留処理して精製油を回収する。
蒸留処理は、常圧、減圧のいずれでもよいが、重合物の分解を抑制するために減圧が好ましい。この蒸留処理で採取する精製油の沸点温度範囲は、常圧換算で100〜250℃の範囲、好ましくは150〜200℃の範囲である。沸点温度の下限が100℃未満の場合は、精製油の引火点が低くなるために汎用の芳香族溶剤の原料として供することができない。また、沸点温度の上限が250℃を超えると、精製油の粘度が高くなるために汎用の芳香族溶剤の原料として供することができない。
【0022】
以上のような重合処理および蒸留処理により精製した芳香族炭化水素油は、無色透明で熱安定性に優れており、汎用の芳香族溶剤の原料として用いることができる。
【実施例】
【0023】
以下に実施例により本発明の内容を具体的に説明するが、本発明はそれらの実施例に限定されるものではない。
【0024】
(実施例1)
容量30mLのスクリュー管瓶に原料炭化水素油A(沸点:170〜190℃、炭素数:9〜10、臭素価:11.2gBr/100g、芳香族濃度:97.0容量%(芳香族オレフィン濃度:11容量%))10gと活性白土2.5gを入れて、25℃にてマグネチックスターラーを用いて24時間攪拌後に静置した。上澄み液の組成をガスクロマトグラフィーで分析し、芳香族オレフィンの代表例としてアリルベンゼンの転化率を求め、その結果を表1に示す。
なお、転化率は以下の式により算出した。
転化率(%)={1−(上澄み液中のアリルベンゼン濃度/原料炭化水素油A中のアリルベンゼン濃度)}×100
【0025】
(比較例1〜6)
活性白土を各種触媒に変更した以外は実施例1と同様にして、アリルベンゼンの転化率を求めた。その結果を表1に示す。
【0026】
【表1】

【0027】
(実施例2)
活性白土を20mL充填したチューブリアクターに、220℃にて原料炭化水素油Aを毎時118mLの速さで4時間通油して、442mL(401g)の生成油を得た。生成油の組成をガスクロマトグラフィーで分析した。アリルベンゼンの転化率は100%であった。
この生成油100mL(90.7g)を常圧蒸留試験器を用いて単蒸留し、初留から180℃までの留分56.1gを得た。得られた留分の臭素指数を測定した。臭素指数は435mgBr/100gであった。また、組成をガスクロマトグラフィーで分析した。芳香族濃度は97.0容量%であった。
【0028】
(実施例3)
活性白土を110mL充填したチューブリアクターに、240℃にて原料炭化水素油Aを毎時660mLの速さで16時間通油して、10L(9.1kg)の生成油を得た。生成油の組成をガスクロマトグラフィーで分析した。アリルベンゼンの転化率は96.8%であった。この操作を3回行って得た生成油30L(27kg)を理論段数30段の回分式常圧蒸留塔を用いて精密蒸留し、160℃から180℃までの留分1715kgを得た。得られた留分の臭素指数を測定した。臭素指数は473mgBr/100gであった。また、組成をガスクロマトグラフィーで分析した。芳香族濃度は97.0容量%であった。
【産業上の利用可能性】
【0029】
本発明により、沸点100〜250℃の芳香族炭化水素を主成分とし、沸点100〜250℃の芳香族オレフィンを含有する芳香族炭化水素油を、汎用の芳香族溶剤の原料として供することが可能となった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
沸点100〜250℃の芳香族炭化水素を主成分とし、沸点100〜250℃の芳香族オレフィンを含有する芳香族炭化水素油に酸触媒を加えて重合処理を行う工程と、この重合処理された芳香族炭化水素油を蒸留して沸点100〜250℃の芳香族炭化水素を回収する蒸留処理工程とを含むことを特徴とする芳香族炭化水素油の精製方法。
【請求項2】
芳香族炭化水素油が、石油精製工業または石油化学工業または石炭化学工業において生産される炭素数8から炭素数10の芳香族炭化水素を主成分とする芳香族炭化水素油であることを特徴とする請求項1に記載の芳香族炭化水素油の精製方法。
【請求項3】
重合処理で使用する酸触媒が固体酸であり、この酸触媒の使用量が芳香族炭化水素油に対して0.1〜50重量%であり、反応温度が0〜300℃の範囲であることを特徴とする請求項1または2に記載の芳香族炭化水素油の精製方法。
【請求項4】
芳香族オレフィンの90%以上が重合することを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の芳香族炭化水素油の精製方法。

【公開番号】特開2013−6918(P2013−6918A)
【公開日】平成25年1月10日(2013.1.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−139135(P2011−139135)
【出願日】平成23年6月23日(2011.6.23)
【出願人】(000004444)JX日鉱日石エネルギー株式会社 (1,898)
【Fターム(参考)】