説明

芳香族物質を含む粉末コーティング用フルオロポリマー組成物

ポリチオール芳香族化合物もしくは樹脂、ヒドロキシチオフェノール化合物もしくは樹脂、カテコールノボラック樹脂、カテコールクレゾールノボラック樹脂、少なくとも1つのヒドロキシル基が直接結合している少なくとも1つの芳香環を含み、少なくとも1つのヒドロキシル基がフェノラート塩であるポリヒドロキシ芳香族樹脂もしくは化合物、またはこれらの組み合わせから選択される芳香族物質、並びに、芳香族物質と塩を形成することが可能な塩形成化合物、フルオロポリマー、および、任意に相間移動触媒、を含む組成物を提供する。芳香族化合物とともに粉体コーティングされたフルオロポリマーを含む物品、並びに、かかる組成物および物品を製造する方法も提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、粉末コーティング用途に適した、塩形成化合物、および、化合物または樹脂などの芳香族物質を含むフルオロポリマーに関する。本発明は、また、上記物質を含む物品、並びに層内のかかる組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
フルオロポリマーは、工業界では、耐薬品性、低吸湿性および低表面エネルギーの表面を提供するものとして知られている。フルオロポリマーは、殆ど全ての化学薬品および溶剤に対し、たとえ高温高圧条件下であっても不活性である。また、フルオロポリマーに吸収されたりあるいはフルオロポリマーを膨潤させたりする化学薬品は殆どなく、かつ、フルオロポリマーはガスや水分の透過性が比較的低いので、フルオロポリマーはバリヤーとしても機能することができる。フッ素樹脂は、明確な融点を有する半結晶性のフルオロポリマーである。
【0003】
ステンレス鋼は、耐食性を有するので広く使用されている。ステンレス鋼は、一般には非常に良好な耐食性を示すが、それでも孔食を受けやすい。顕微鏡でステンレス鋼の表面を観察すると、通常、激しい局部腐食による小孔が認められる。酸化皮膜を有する金属の特定の苛酷な環境でのこの局所的な溶解は、金属構造破壊の最も多い破滅的原因の一つである。ステンレス鋼に、フルオロポリマーコーティングなどの保護コーティングを行うことは、種々の用途における耐食性のために依然として望ましく、あるいは必要ですらある。
【0004】
フルオロポリマーは、非付着性(例えば調理器具)や、防食性(例えば、化学タンク、排気ダクト)のためにも、金属基材のコーティングに使用されてきたが、その非付着性は、フルオロポリマーを基材に接着するときには問題となる。通常、フルオロポリマーの金属基材への接着は、最初に化学エッチングまたは高圧グリットブラスティングを使用して、基材に粗面を形成する。その後、プライマーを塗布する。ポリアミドイミド、ポリエーテルスルフォン、ポリフェニレンスルフィド、ポリエーテルエーテルケトンなどの、熱的に安定なバインダーとして知られるものは、フルオロポリマーと化学的に相互作用するか否か知られていないため、これらの物質の使用はプライマーに限られている。プライマーは粉末であってもよいが、より一般的には溶剤から、または水溶液から塗布される。物品は、接着しかつ、溶剤または液体キャリアーを蒸発させるために、通常、必要温度で焼付けられる。通常、その後に、フルオロポリマーのトップコートを塗布し、焼付けて、保護または装飾コーティングにフルオロポリマーを融着させる。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明者らは、フルオロポリマー組成物、およびフルオロポリマー組成物を含む多層物品に有用な物質群を見出した。
【課題を解決するための手段】
【0006】
すなわち、本発明は、(a)ポリチオール芳香族化合物もしくは樹脂、ヒドロキシチオフェノール化合物もしくは樹脂、カテコールノボラック樹脂、カテコールクレゾールノボラック樹脂、少なくとも1つのヒドロキシル基が直接結合している少なくとも1つの芳香環を含むポリヒドロキシ芳香族樹脂もしくは化合物、またはこれらの組み合わせから選択される化合物もしくは樹脂などの芳香族物質、(b)その芳香族物質と塩を形成することが可能な塩形成化合物、(c)ビニリデンフルオライドの共重合単位を実質的に含まないパーフルオロエラストマー、またはフッ素樹脂、および、任意に(d)相間移動触媒、を含む組成物を提供するものである。
【0007】
別の態様では、本発明は、(a)ポリチオール芳香族化合物もしくは樹脂、ヒドロキシチオフェノール化合物もしくは樹脂、カテコールノボラック樹脂、カテコールクレゾールノボラック樹脂、少なくとも1つのヒドロキシル基が直接結合している少なくとも1つの芳香環を含むポリヒドロキシ芳香族樹脂もしくは化合物、またはこれらの組み合わせから選択される芳香族物質と、(b)その芳香族物質と塩を形成することが可能な塩形成化合物と、(c)フッ素樹脂、またはビニリデンフルオライドの共重合単位を実質的に含まないパーフルオロエラストマーとの反応生成物を含み、任意に(d)相間移動触媒を含む組成物を提供するものである。
【0008】
別の態様では、本発明は、フェノラート塩もしくはチオラート塩を本質的に含まない実質的に有機の材料、または実質的に無機の材料を含む基材と、ポリチオール芳香族化合物または樹脂、ヒドロキシチオフェノール化合物または樹脂、カテコールノボラック樹脂、カテコールクレゾールノボラック樹脂、少なくとも1つのヒドロキシル基が直接結合している少なくとも1つの芳香環を含むポリヒドロキシ芳香族樹脂もしくは化合物、またはこれらの組み合わせから選択される芳香族物質と、その芳香族物質と塩を形成することが可能な塩形成化合物と、ビニリデンフルオライドの共重合単位を実質的に含まないパーフルオロエラストマーまたはフッ素樹脂から選択されるフルオロポリマーと、任意選択の相間移動触媒との反応生成物を含む第一の層、を含む物品を提供するものである。この実施形態では、(i)芳香族物質および(ii)塩形成化合物はそれぞれ独立して、基材と第一の層の残りの部分の界面に存在しても、フルオロポリマーと共に存在しても、またはその両方でもよい。第一の層は基材に接着される。
【0009】
別の態様では、本発明は、フルオロポリマーでコーティングした表面を提供する方法であって、(a)任意に実質的に無機の材料から選択される基材を用意し、この基材に、ポリチオール芳香族化合物または樹脂、ヒドロキシチオフェノール化合物または樹脂、カテコールノボラック樹脂、カテコールクレゾールノボラック樹脂、少なくとも1つのヒドロキシル基が直接結合している少なくとも1つの芳香環を含むポリヒドロキシ芳香族樹脂もしくは化合物、またはこれらの組み合わせから選択される芳香族物質と、その芳香族物質と塩を形成することが可能な塩形成化合物と、ビニリデンフルオライドの共重合単位を実質的に含まないパーフルオロエラストマーまたはフッ素樹脂と、任意に相間移動触媒とからなる組成物を塗布する工程であって、(i)芳香族物質および(ii)塩形成化合物はそれぞれ独立して、基材と第一の層の残りの部分の界面に存在しても、フルオロポリマーと共に存在しても、またはその両方でもよい工程、および、(b)その組成物を基材に接着させる工程、を含む方法を提供するものである。
【0010】
一態様における本発明の有利な点は、金属のような基材にフルオロポリマーを接着させるための組成物を提供できることにある。本発明の他の特徴や有利な点は、以下の発明の詳細な説明や請求項から明らかになるであろう。上記要約は、個々の実施形態または本開示のあらゆる実施について説明しようとするものではない。以下では、ここで開示した原理を用いて、いくつかの好ましい実施形態を特に詳しく説明し、例示する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本明細書の全ての数値は、「約」という用語を付記する修正がなされるものとする。両端を指定した数値範囲には、その範囲に含まれる全ての数値が含まれる(例えば1〜5には、1、1.5、2、2.75、3、3.80、4および5が含まれる)。
【0012】
本発明は、(a)ポリチオール芳香族化合物もしくは樹脂、ヒドロキシチオフェノール化合物もしくは樹脂、カテコールノボラック樹脂、カテコールクレゾールノボラック樹脂、少なくとも1つのヒドロキシル基が直接結合している少なくとも1つの芳香環を含むポリヒドロキシ芳香族樹脂もしくは化合物、またはこれらの組み合わせから選択される芳香族物質、(b)その芳香族物質と塩を形成することが可能な塩形成化合物、(c)ビニリデンフルオライドの共重合単位を実質的に含まないパーフルオロエラストマー、またはフッ素樹脂、および、任意に(d)相間移動触媒、を含む組成物を提供する。特に指定がなければ、「樹脂」は、ここで使用されるときには、ポリマーまたはオリゴマーであり、「化合物」はポリマーまたはオリゴマーでなく、例えば、ポリマーやオリゴマーに典型的な繰り返し単位が、非常に少ないか、または全くないものである。
【0013】
本発明に有用なポリヒドロキシ芳香族化合物は、少なくとも1つの芳香環を有し、芳香環は、直接それに結合している少なくとも1つのヒドロキシル基を有しており、ヒドロキシル基の少なくとも1つは、フェノラート塩を形成することが可能なものである。本発明の一態様では、ポリヒドロキシ芳香族化合物は、複数のヒドロキシル基が直接結合している少なくとも1つの芳香環を含む。適切なポリヒドロキシ芳香族化合物の例としては、レゾルシノール、ピロガロール、フロログルシノール、カテコール、1,5−ジヒドロキシナフタレンおよび4,4’−ジヒドロキシビフェニル、ヒドロキノンまたはこれらの組み合わせが挙げられる。
【0014】
ポリチオール芳香族化合物およびヒドロキシチオフェノール化合物もまた、本発明に有用なものである。適切なポリチオール芳香族化合物の例は、ベンゼン−1,4−ジチオールである。適切なヒドロキシチオフェノール化合物の例は、4−メルカプトフェノールである。かかる化合物の塩は、基材上などのその場(in situ)で、または、フルオロポリマーと組み合わせる(混合するなど)間もしくは後に、あるいは、基材および/またはフルオロポリマー物質と組み合わせる前に形成される。
【0015】
【化1】

【0016】
別の態様では、本発明は樹脂を使用する。例えば、少なくとも1つのヒドロキシル基が直接結合している少なくとも1つの芳香環を含むポリヒドロキシ芳香族樹脂が有用であり、いくつかの実施形態では、少なくとも1つの芳香環は、それに直接結合した少なくとも2つのヒドロキシル基を有する。また、ポリチオール芳香族樹脂、ヒドロキシチオフェノール樹脂、ボーデン・ケミカル・カンパニー(Borden Chemical Co.)からデュライト(Durite)TMとして入手可能なフェノール樹脂、カテコールノボラック樹脂および/またはカテコールクレゾールノボラック樹脂は、これらの物質の組み合わせも含めて有用である。
【0017】
本発明は、カテコールノボラック(CN)またはカテコールクレゾールノボラック(CCN)樹脂が、粉末プライマーまたは液体プライマーのいずれで使用しても、フルオロポリマーまたはフルオロポリマーのブレンド物と、実質的に無機の基材、例えば金属表面との間に、優れた接着力をもたらすことを示している。ある態様では、沸騰水試験によって、層間の接着力が数時間の暴露後においても強固に維持されていることが示された。驚いたことに、本発明では、CNまたはCCN樹脂によって、パーフルオロポリマーと金属表面との接着力が高められた。かかるパーフルオロポリマーの例としては、FEP(テトラフルオロエチレンとヘキサフルオロプロピレンのコポリマー)およびPFA(テトラフルオロエチレンとパーフルオロビニルエーテルのコポリマー)が挙げられる。
【0018】
1つの有用な樹脂は、CNと補助剤とのブレンド物である。この物質は、カテコールノボラック(これも下記の方法で調製される)を、DEH87(ダウ・ケミカル・カンパニー(Dow Chemical Co.)から入手可能なヒドロキシル基を末端とするフェノール系硬化剤)とともに使用して、下記の方法で製造できる。得られたブレンド物は、通常、カテコールノボラックが20重量%およびDEH87が80重量%からなる暗色の固体である。本発明の種々の態様ではエポキシ誘導体を使用するが、かかる物質は実質的にオキシランを含まず、そのためそれらのエポキシ値はゼロに近いか、またはゼロである。したがって、これらの物質には、通常、粘着性がなく、通常は、接着剤として使用するのに適していない。
【0019】
本発明で使用される塩形成化合物としては、当技術分野で周知のものが挙げられる。例えば、有用な塩形成化合物としては、芳香族化合物または樹脂と塩を形成することができる有機および無機化合物が挙げられる。より具体的には、有用な塩形成化合物としては、アミン類の他、マグネシウム、カルシウムおよび他の金属の酸化物および/または水酸化物が挙げられる。本発明の一態様では、塩形成化合物は、芳香族化合物または樹脂とフェノラート塩またはチオラート塩を形成することができる程度の、十分に低いpKbを有する。本発明の一態様では、塩形成化合物のpKbは、約8未満、約6未満、4未満、2未満、約0、または0.6未満でさえある。
【0020】
上記の化合物、樹脂および/または塩形成化合物は、一般に、フルオロポリマーの重量に対して少量使用される。例えば、かかる物質は、一般に、全組成物(芳香族化合物または樹脂、塩形成化合物に、触媒およびフルオロポリマーが加えられるが、基材は使用されていても含まない)の約25重量パーセント(重量%)未満であり、より好ましくは約20重量%未満であり、さらに好ましくは約15重量%未満である。別の態様では、化合物、樹脂および/または塩物質は、一般に、全組成物の約0.1重量%を超える量であり、より好ましくは約0.5重量%を超える量であり、さらに好ましくは約1重量%を超える量である。
【0021】
本発明に適したフルオロポリマーとしては、テトラフルオロエチレン(TFE)、クロロトリフルオロエチレン、ヘキサフルオロプロピレン(HFP)、ビニリデンフルオライド(VDF)、フルオロビニルエーテル、パーフルオロビニルエーテルなどのフッ素化または過フッ素化コモノマーの1種もしくは複数の共重合単位や、それらの1種もしくは複数と、エチレン、プロピレンまたは他の低級オレフィンなどの非フッ素化コモノマーの1種もしくは複数との組み合わせからなる共重合単位を有するような、パーフルオロエラストマーおよびフッ素樹脂が挙げられる。別の態様では、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)が、本発明において、好ましくは他のフルオロポリマーとブレンドして、また、任意にフルオロポリマーフィラーとして使用される。より具体的には、有用なフルオロポリマーとしては、THV(テトラフルオロエチレン、ヘキサフルオロプロピレンおよびビニリデンフルオライドのコポリマーとして表記)、FEP(テトラフルオロエチレンとヘキサフルオロプロピレンのコポリマー)、PFA(テトラフルオロエチレンとパーフルオロビニルエーテルのコポリマー)、HTE(テトラフルオロエチレン、ヘキサフルオロプロピレンおよびエチレンのコポリマー)、ETFE(テトラフルオロエチレンとエチレンのコポリマー)、ECTFE(クロロトリフルオロエチレンとエチレンのコポリマー)、PVF(ポリビニルフルオライド)、PVDF(ポリビニリデンフルオライド)の商品名で商業的に入手可能なもの、並びにこれらの組み合わせが挙げられる。前記物質はいずれも、他のモノマーの共重合単位、例えば、TFE、HFP、VDF、エチレン、またはパーフルオロアルキルビニルエーテル(PAVE)および/もしくはパーフルオロアルコキシビニルエーテル(PAOVE)などのパーフルオロビニルエーテルの共重合単位などをさらに含んでいてもよい。2種以上のフルオロポリマーの組み合わせも使用可能である。本発明のいくつかの実施形態では、THVおよび/またはETFEおよび/またはHTEなどのフッ素樹脂が好ましい。本発明に有用なパーフルオロエラストマーは、ビニリデンフルオライドの共重合単位を実質的に含んでいないことが好ましく、キュアサイトモノマーとして使用される低レベル(約5モル%未満、約1モル%未満、またはさらに低濃度)ですら含んでいないことが好ましい。
【0022】
さらに、本発明では、相間移動触媒(PTC)を使用することができる。かかる物質は、当技術分野で周知であり、例えば、塩化トリフェニルベンジルホスホニウム、塩化トリブチルアルキルホスホニウム、塩化テトラフェニルホスホニウム、臭化テトラブチルホスホニウム、塩化トリブチルベンジルアンモニウム、臭化テトラブチルアンモニウム、および塩化トリアリールスルホニウムが挙げられる。
【0023】
PTCもまた、一般に、フルオロポリマーの重量に対して少量使用される。例えば、PTCの量は、通常、全組成物(例えば、塩形成化合物、樹脂および/または芳香族化合物にフルオロポリマーが加えられるが、基材は使用されていても含まない)の約10重量パーセント(重量%)未満であり、より好ましくは約5重量%未満であり、さらに好ましくは約2重量%未満である。別の態様では、PTCは、通常、全組成物の約0.1重量%を超える量であり、より好ましくは約0.3重量%を超える量であり、さらに好ましくは約0.5重量%を超える量である。
【0024】
本発明では、また、組成物に加える他の添加剤が含まれていてもよい。他の添加剤としては、不活性のフィラー、安定剤、顔料、補強剤、潤滑剤、流動化剤、他のポリマーなどが挙げられるが、これらに限定されるものではない。流動化剤はワックス類から選ばれる。一態様では、本発明は、塩形成化合物と、ワックス、例えば、パラフィンワックス、カーボワックス(Carbowax)TMとしてダウ・ケミカル・カンパニー(Dow Chemical Co.)から入手可能なポリオキシエチレングリコールなどとを組み合わせたプライマーを提供する。本発明の一態様では、かかるワックスは(任意に、組成物中に1つまたは複数の他の成分と共に)、フルオロポリマー粒子および/または塩形成化合物などの他の成分の表面にコーティングすることができる。
【0025】
一般に、本発明で使用される芳香族樹脂は、約150℃未満、より一般的には約140℃未満の融点を有する。多くの態様では、この融点はさらに低く、約120℃未満またはそれよりさらに低い。特定の態様では、本発明は、融点が約80℃未満のワックス、または約40℃より高い温度、より好ましくは約50℃より高い温度、さらに好ましくは約55、60もしくは65℃より高い温度で溶融する芳香族樹脂を使用する。一実施形態では、芳香族物質または芳香族物質が分散している物質は、フッ素樹脂の融点または軟化点より低い融点または軟化点を有している。この実施形態は、フルオロポリマー粒子(粉末または顆粒など)の表面に芳香族物質を付着させる方法の1つを提供する。
【0026】
別の態様では、本発明は、芳香族物質(上記したような)と、その芳香族物質と塩を形成することが可能な塩形成化合物と、フッ素樹脂またはパーフルオロエラストマーから選択されるフルオロポリマーとの反応生成物を含み、前記パーフルオロエラストマーは、ビニリデンフルオライドの共重合単位を実質的に含まず、かつ、任意に(d)相間移動触媒を含む組成物を提供する。この触媒は、例えば、化合物として、中間体として、および反応生成物として、反応生成物中に存在することができる。
【0027】
別の態様では、本発明は、粉末コーティング用フルオロポリマーを提供する方法であって、上記のような組成物を用意する工程であって、フッ素樹脂またはパーフルオロエラストマーを顆粒または粉末の形態で供給される工程と、その組成物を芳香族物質または芳香族物質を含む物質の融点より高い温度にまで加熱するか、または、その組成物を溶液として準備する工程と、これらの成分を混合する工程とを含む方法を提供するものである。一実施形態では、フッ素樹脂が使用される場合、加熱および混合は高剪断ミキサーを使用して行うことが好ましい。パーフルオロエラストマーが使用される場合は、2本ロールミルが有用なミキサーである。別の態様では、組成物の芳香族物質部分は、組成物のバランスのために液状で供給される。例えば、芳香族物質は、溶液または溶融物質として供給される。
【0028】
別の態様では、本発明は積層物品を提供する。この実施形態では、物品は、本質的にフルオロエラストマーを含まない実質的に有機の材料、本質的にフェノラート塩もしくはチオラート塩を含まない実質的に有機の材料、または実質的に無機の材料を含む基材から出発する。また、その物品は、上記組成物の反応生成物を含むことができる。実質的に有機の材料は、高分子物質など、当技術分野で周知のものである。本発明の一態様では、実質的に有機の材料は、本質的にフルオロエラストマーを含まず、もし含むとしても、最少量である。かかる最小量は、通常、組成物の重量の約10%未満(重量%)であり、より好ましくは約5重量%未満であり、約1重量%未満であり、より好ましくは約0.5重量%未満であり、さらに好ましくはゼロである。本発明の一態様では、実質的に有機の材料は本質的にフェノラートまたはチオラート塩を含まず、もし含むとしても、最少量である。かかる最小量は、通常、組成物の重量の約10%未満(重量%)であり、より好ましくは約5重量%未満であり、約1重量%未満であり、より好ましくは約0.5重量%未満であり、さらに好ましくはゼロである。実質的に有用な有機の基材としては、フルオロポリマーおよびナイロンが挙げられる。
【0029】
実質的に無機の基材としては、例えば、ガラス、セラミック、金属、鉄、ステンレス鋼、鋼、アルミニウム、銅、ニッケル、および合金、並びに、これらの組み合わせが挙げられる。本発明のいくつかの態様では、基材は金属基材から選択することが好ましい。
【0030】
第一の層は、基材に接着される。多層物品の基材に次ぐこの第一の層は、(i)ポリチオール芳香族化合物もしくは樹脂、ヒドロキシチオフェノール化合物もしくは樹脂、カテコールノボラック樹脂、カテコールクレゾールノボラック樹脂、少なくとも1つのヒドロキシル基が直接結合している少なくとも1つの芳香環を含むポリヒドロキシ芳香族樹脂もしくは化合物、またはこれらの組み合わせから選択される芳香族物質、(ii)その芳香族物質と塩を形成することが可能な塩形成化合物、(iii)ビニリデンフルオライドの共重合単位を実質的に含まないパーフルオロエラストマー、またはフッ素樹脂、および、任意に(d)相間移動触媒の組成物を含む。有用な材料およびその量は前述の通りである。
【0031】
この実施形態では、(i)芳香族化合物もしくは樹脂および(ii)塩形成化合物はそれぞれ、独立して、基材と第一の層の残りの部分との界面に存在しても、フルオロポリマーと共に存在してもよく、あるいはその両方であってもよい。例えば、芳香族化合物もしくは樹脂は、塩形成化合物とブレンドまたは混合し、この混合物を、フルオロポリマーを塗布する前に基材に塗布することができる。別の例としては、フルオロポリマーを塩形成化合物とブレンドし、この混合物を、その表面に芳香族物質を有する基材に塗布することができる。さらに別の態様では、芳香族化合物もしくは樹脂を、任意に塩形成化合物および/または他の成分と共に、フルオロポリマーの表面にコーティングすることができる。かかるコーティングは、混合成分を使用して、フルオロポリマーの溶融範囲より低く、かつ、芳香族物質などの他の成分の中の少なくとも1つの溶融範囲より高い温度で行うことが好ましい。様々な組み合わせの有利な点は、当業者には明らかであろう。
【0032】
追加の層を設けてもよい。かかる実施形態では、第一の層は基材に非常に良好に接着し、第一の層以降の層はそれぞれがその隣接する層に良好に接着することが好ましい。第一の層以降の層としては、例えば、フッ素樹脂ホモポリマー、フッ素樹脂コポリマー、フルオロエラストマー、パーフルオロエラストマー、ポリテトラフルオロエチレンおよびこれらの組み合わせなどのフルオロポリマーが挙げられる。エラストマーが選択されるときは、エラストマーを含む層に適当な加硫剤を使用することが好ましい。
【0033】
フルオロポリマーを含む第ニの層が第一の層に接着された後、第ニの層に接着したフルオロポリマーを含む第三の層など、任意にさらなる層を設けてもよい。
【0034】
第一の層は基材上に連続したコーティングであることが好ましいが、いくつかの態様では、第一の層およびその後の層は独立して連続的であっても不連続であってもよい。
【0035】
本発明において有用な基材は、特に限定されるものではない。例えば、適切な基材としては、ガラス、フルオロポリマー、ナイロンなどのポリマー、セラミック、金属、鉄、ステンレス鋼、鋼、アルミニウム、銅、ニッケルおよび合金、並びに、これらの組み合わせが挙げられる。基材の形状もまた、特に限定されるものではない。例えば、基材は、ファイバー、フレーク、粒子の表面であってもよく、これらは有機、無機またはその組み合わせであってもよい。より具体的な例としては、化学的操作または半導体を取り扱う際の排気ダクトなどに有用な、配管の形状をした金属シートが挙げられる。
【0036】
本発明の層状の態様では、許容できる接着を規定するが、それらは下記の各種暴露条件下で行われる剥離試験により測定される。例えば、室温(約22〜25℃)で、本発明の組成物は種々の基材に接着する。また、本発明の組成物は、下記の沸騰水への暴露のような、非常に過酷で長時間の各種条件での暴露の後も、望ましい剥離強度を維持する。例えば、いくつかの実施形態では、本発明は、1時間、5時間、15時間、さらには24時間もの沸騰水への暴露の後でさえも、高いまたは極めて高い剥離強度を与える。望ましい剥離強度は、用途によって異なる。例えば、多くの用途では、室温の接着で十分である。別の例では、沸騰水への1時間または数時間もの暴露の後も剥離強度を維持していることが望まれる。いくつかの実施形態では、本発明は、1インチ当たり少なくとも約4、5、10、15、20、25ポンドまたはそれよりさらに高い値の剥離強度を与える。これらは、1ミリメートル当たりのニュートン(N/mm)で、約0.7、0.9、1.8、2.6、3.5、4.3またはそれよりさらに高い値にわたる。他の実施形態では、本発明は、1、5、15、または24時間もの沸騰水暴露の後も、かかる剥離強度を有する物品を提供する。
【0037】
別の態様では、本発明は、フルオロポリマーでコーティングされた表面を提供する方法を提供する。この実施形態は、上記基材にしたがい基材を提供する工程を含む。基材は、任意に金属から選択される。基材に塗布または提供されるのは、ポリチオール芳香族化合物もしくは樹脂、ヒドロキシチオフェノール化合物もしくは樹脂、カテコールノボラック樹脂、カテコールクレゾールノボラック樹脂、少なくとも1つのヒドロキシル基が直接結合している少なくとも1つの芳香環を含むポリヒドロキシ芳香族樹脂もしくは化合物、またはこれらの組み合わせから選択される芳香族物質、その芳香族物質と塩を形成することが可能な塩形成化合物、フッ素樹脂、および、任意に(d)相間移動触媒の組成物であり、その組成物を基材に接着させる。有用な成分としては、上の種々の実施形態の中で記載したものが挙げられる。
【0038】
本発明の組成物は、公知のいかなる方法で塗布してもよい。かかる方法としては、例えば、液体によるコーティング、粉体による塗布、ラミネートおよびこれらの組み合わせが挙げられる。かかる方法の1つに、下記のような、静電粉体塗装がある。また、加熱溶融などによってフルオロポリマーを溶融することにより、第一の層および/または追加の層を接着することができる。
【0039】
本発明の一態様においては、物品の層の厚さは、好ましくは約2mm未満であり、より好ましくは1mm未満であり、さらに好ましくは約0.5mm未満であり、さらに一層好ましくはより小さな値である。一実施形態において、基材に塗布される組成物は、一般に、フルオロポリマーを含む組成物より、はるかに薄い。例えば、組成物は、基材の全面より狭い範囲を覆うように、すなわち、表面の所望の面積(全表面より小さくてもよい)をコーティングすることができるだけの量が塗布されてもよい。多層物品におけるフルオロポリマーの層は、少なくとも約0.01mm、少なくとも約0.02mm、少なくとも約0.05mmまたはそれよりさらに厚くてもよい。別の態様において、多層物品におけるフルオロポリマーの層は、約5mm未満、約2mm未満、またはさらに約1.5mm未満であってもよい。
【0040】
本発明の種々の実施形態は、いくつか例を挙げるならば、化学貯蔵タンク、排ガスダクトのコーティング、生物医学デバイス、電子材料、調理器具および耐熱食器、並びに、建築用コーティングに有用である。
【0041】
本発明の目的および有利性は、以下の実施例でさらに詳しく説明するが、これらの実施例で示されている特定の材料および量、並びに他の条件および詳細は、本発明の範囲を過度に限定するものであると解釈されるべきではない。
【実施例】
【0042】
下記の記載において、パーセントは、文中で特に記載がない限り、重量パーセントを意味する。特に断らない限り、材料は、ウィスコンシン州ミルウォーキーのアルドリッチ・ケミカルズ(Aldrich Chemicals,Milwaukee,WI)から入手可能であった。
【0043】
材料
TFEはテトラフルオロエチレン、HFPはヘキサフルオロプロピレン、VDFはビニリデンフルオライド、PPVEはパーフルオロプロピルビニルエーテルである。
【0044】
【表1】

【0045】
水性カテコールノボラック(ACN)の合成
パドル撹拌器、温度計、水冷コンデンサーおよび加熱マントルを備えた1リットルの三つ口丸底フラスコに、カテコール440.4g(4.0モル)および37%ホルムアルデヒド水溶液162g(2.0モル)を投入した。400ミリリットルの脱イオン水を加え、撹拌を開始した。混合物を15分間隔で50℃、75℃、85℃および最終的に還流温度にまで加熱した。還流をトータルで2h継続し、その後、溶液を約60℃まで冷却した。4グラム(0.044モル)のシュウ酸(触媒)を添加し、30分かけて温度を還流温度にまで上昇させた。還流をトータルでさらに2h継続した。圧力を1mmHg未満の真空度にまで徐々に低下させ、混合物の温度を上昇させた。水中の固体含有量が80%になったとき、蒸留を停止した。生成物はゲルパーミエーションクロマトグラフで分析したところ、数平均分子量が365、重量平均分子量が855であった。
【0046】
ACNブレンド物の調製
アルミニウムパンに、ダウ・ケミカル・カンパニーから入手可能なDEH87を80gと、水性カテコールノボラック(上記)25gを加えた。製品安全データシート(Material Safety Data Sheet)によれば、DEH87は、10〜16%のビスフェノールAおよび84〜90%のエポキシ樹脂/ビスフェノールAの反応生成物の混合物である。この混合物を時々撹拌しながら240℃の熱板上に4時間置き、水分を除去した。その後、内容物を冷却し、小片に粉砕した。得られたブレンド物は、20重量%のカテコールノボラックおよび80重量%のDEH87を含む、暗褐色の固体であった。
【0047】
試験法
調製したフルオロポリマー組成物をコーティングしたサンプルを、所定の時間沸騰水へ浸漬することによって、沸騰水暴露を実施した。その後、試験用サンプルを沸騰水から取り出し、剥離試験の前に、室温にまで冷却した。
【0048】
積層した試料の剥離強度は、「接着剤の耐剥離性に関する標準試験法(Standard Test Method for Peel Resistance of Adhesives)」という表題でASTM D−1876に記載され、「T−ピール(T−peel)」試験としてより一般的に知られる試験法に従って測定した。剥離データは、シンテックテスター20(Sintech Tester 20)(ミネソタ州イーデン・プレーリーのエム・ティー・エス・システムズ・コーポレーション(MTS Systems Corp.,Eden Prairie,MN)から入手可能)を備えたインストロンTMモデル1125テスター(InstronTM Model 1125 Tester)(マサチューセッツ州キャントンのインストロン・コーポレーション(Instron Corp.,Canton,MA)から入手可能)を使用して得た。インストロン(Instron)テスターは、クロスヘッド速度4インチ/分(10cm/分)で操作した。剥離強度は、剥離試験中に測定された平均荷重として算出し、少なくとも2つの試料の平均を、lb/インチ幅(N/mm)の単位で示した。
【0049】
実施例1〜100
400系ステンレス鋼の試験片(オハイオ州クリーブランドのQ−パネル・ラブ・プロダクツ(Q−Panel Lab Products,Cleveland,OH)より)を、使用の前にイソプロパノールで洗浄し乾燥させた。CCN(カテコールクレゾールノボラック)とACNブレンド固体を、フルオロポリマーと混合する前に、乳鉢および乳棒で粉砕した。下表に示したフルオロポリマーと他の成分を、粉末フルオロポリマーと他の材料を所望の割合でジャーに入れることによって調製した。その後、ジャーを二本ロールミキサーに設置し、約2時間回転させた。表に記載されている第一の材料(粉末で)を、ステンレス鋼試験片上に塗装した。粉体を塗装した金属試験片を、フルオロポリマーが溶融するまで、5分間(分)、所望の温度に加熱した金属プラテン間に置いた。その後、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)をコーティングしたファイバーシートを溶融したフルオロポリマーの上面に被せ、300℃で5分間、試料をホットプレスし、良好な表面接触を維持するためにわずかな力を加えた。その後、コーティングした第一の層上に、所望のフルオロポリマー粉末またはフルオロポリマー粉末混合物を塗装し、次いで、第ニの層を所望の温度に加熱した金属プラテンの間に2.5分間置き、その後、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)でコーティングしたファイバーシートを溶融したフルオロポリマーの上面に被せ、所望の温度で2.5分間、試料をホットプレスし、その後の剥離試験のために良好な表面接触を維持するためにわずかな力を加えた。試料は直ちにコールドプレスに移した。コールドプレスで室温まで冷却した後、カミソリの刃をステンレス鋼と第一の層の間に押し込んで、約0.5インチ(1.25cm)長さのタブを作成した。得られた試料について、下表に示したように、T−ピール測定、または、さらに耐久性評価を実施した。
【0050】
比較例A〜K
これらの例は、本発明で要求される成分の内、1つまたは複数の成分(SF−3など)が欠けている以外は、実施例1と同様にして調製した。
【0051】
次の表では、剥離強度はN/mmで示され、剥離強度下の時間は剥離試験前の沸騰水への暴露時間であり、Tはプラテン温度であり、「R」は通常温度の300℃を、「L]はそれより低い温度の250℃を意味する。空欄は特性値が測定されなかったことを示す。層1中のフルオロポリマーの他の成分に対する重量比は、括弧内に与えられている。剥離強度下の「TL]は、最上層が層1から剥離したか、さもなければ層1が基材から剥離したことを意味する。フルオロポリマーのブレンド物が層1または層2に使用される場合、成分の重量比をそれぞれ括弧内に示す。
【0052】
【表2】

【0053】
【表3】

【0054】
実施例101
フルオロポリマーHを円板状にプレスし、ハンマーミルに通し、粗粉を得た。次いで、この粗粉をマイクロACM1(Micro ACM 1)空気分級ミル(日本国大阪のホソカワミクロン株式会社)で平均粒子径が52μmになるまで粉砕した。
【0055】
粒子径の分析には、粉砕した粉末のヘキサノール液を調製し、マルバーン マスターサイザー/E(Malvern Mastersizer/E)を使用して測定した。平均粒子径は52μmと測定された(以後、トップコートという)。
【0056】
第ニの量のフルオロポリマー粉末を、上記のようにして、より小さな平均粒子径の30μmにまで粉砕した。このフルオロポリマー粉末2500gと塩化ベンジルトリフェニルホスホニウムの50%メタノール溶液48.8gを高剪断ミキサー(マーリン ヘンシェル FM10(Merlin Henschel FM10))を使用して3332rpmで45秒間混合し、その後、ACNを179.4g加えて、3332rpmでさらに45秒間混合して、プライマーを調製した。この混合物を取り出し、アルミニウムパンに1インチ(2.54cm)の深さにまで注ぎ、空気循環炉中で、80℃で3日間乾燥した。一方、水酸化カルシウム、酸化マグネシウムおよびパラフィンワックス(ペンシルベニア州ウェインのインターナショナル・グループ・インコーポレーティッド(International Group, Inc.,Wayne,PA)からIGI1246として入手可能)を2:1:0.75の割合で、全量約3lb.(1361g)を洗浄したミキサーに仕込んだ。混合物を3600rpmで20分間ブレンドしたが、この条件は、パラフィンワックスを溶融し、水酸化カルシウムおよび酸化マグネシウムの粒子にコーティングするのに十分であり、その後、取り出して室温まで冷却した。乾燥し冷却したフルオロポリマー混合物をミキサーに入れ、水酸化カルシウム/酸化マグネシウム/ワックス混合物を加え、この組み合わせを3600rpmで45秒間ブレンドした。最終的に得られた混合物は、易流動性の褐色の粉末であった。
【0057】
上記のようにして剥離試験を行った。詳細は次の通りである。ステンレス鋼のパネル(0.037インチ厚(0.94mm)、Q−パネル(Q−Panel)製)を1×6インチ(2.54×15.2cm)の細片に切断し、この鋼細片を加熱アルカリ溶液(水1リットル当たり75gのオーカイトクリーナー164(Oakite Cleaner 164)(ニュージャージー州バークレーハイツのオーカイト・プロダクツ(Oakite Products,Berkeley Heights、NJ)から入手可能)を180°F(80℃)に維持)に10分間浸漬して脱脂した。その後、細片を蒸留水で数回洗浄し、空気循環炉内で160°F(71℃)で10分間乾燥した。30メッシュのアルミナグリットおよび80psi(552kPa)の空気圧を使用して、各細片にグリットブラストを行い、表面を粗面化した。残留ダストをエアガンで除去した。細片をより大きな金属板に固定し、各細片の一方の端から2インチ(5cm)の部分をPFA6502N粉末(ダイネオン(Dyneon)から入手可能)の薄層で研磨した。これによって、コーティングが金属に接着しない部分が生じ、剥離試験用のタブが形成された。その後、細片に、ノールドセン・シュアーコート(Nordson SureCoat)を使用し、70ボルト、150kPaの空気流で、金属地肌が見えなくなるまで、プライマーを静電粉体塗装した。その後、細片を、空気循環炉内で525°F(274℃)で15分間焼成した。細片を炉から取り出した後、直ちに、70ボルト、150kPaの空気流で、フルオロポリマーのトップコートで、その細片をホットフロックコートし、炉に戻してさらに15分間加熱した。トップコートの第ニの層を、厚さが20〜30ミル(508〜762μm)となるように塗布し焼成した。試料を冷却後、各細片の端を鋭利な刃で削って、その試験片の端に蓄積したコーティングを除去した。翌日、試料を沸騰水に24時間浸漬した。水から取り出した後、試料を室温にまで冷却し、浮動ローラ剥離試験取付具を備えたインストロン(Instron)を使用し、ASTM D3167に従って、クロスヘッド速度6インチ/分(15cm/分)および剥離長3.75インチ(9.5cm)で、試料を試験し、剥離強度を測定した。剥離強度は、剥離長0.5〜3.5インチ(1.3〜8.9cm)の積分平均として算出し、3個の試料の平均値を採った。実施例101では、剥離強度が23lb/インチ(4.0N/mm)であった。
【0058】
実施例102
この実施例は、平均粒子径が50μmになるまで粉砕したフルオロポリマーJ粉末を使用した以外は、実施例101と同様とした。40グラムのフルオロポリマー粉末と、水酸化テトラフェニルホスホニウムの31重量%メタノール溶液0.3gとを、ベル−アート・プロダクツ(Bel−Art Products)のミニ−ミル(mini−mill)中で、最大速度で30秒間ブレンドした。上記混合物にCa(OH)2およびMgOをそれぞれ2.04gおよび1.02g加え、その後、混合物を最大速度でさらに30秒間ブレンドした。ステンレス鋼細片に対し、実施例101で記載したようにして脱脂およびグリットブラストを行った。その後、各細片にカテコールノボラックの0.5重量%水溶液を4滴(約0.2g)滴下し、木製の棒で塗り広げた。各細片を空気乾燥し、その後、フルオロポリマー混合物で静電粉体塗装した。試料を475°F(246℃)で15分間焼成し、フルオロポリマーJ粉末をコーティングし、475°F(246℃)でさらに15分間、再焼成した。沸騰水に24時間浸漬後、剥離強度試験を、実施例101で記載したようにして実施した。実施例102では、剥離強度が22lb/インチ(3.9N/mm)であった。
【0059】
実施例103
フルオロポリマー粉末を30μmの平均粒子径にまで粉砕した以外は、実施例101のフルオロポリマー粉末を使用した。その後、29.41gのフルオロポリマー粉末と0.29gの臭化テトラブチルホスホニウムとを、ミニ−ミル中で30秒間、最大速度でブレンドした。その後、ACNを2.11g加え、さらに30秒間、最大速度でブレンドした。その後、混合物を取り出し、60℃で64時間乾燥した。室温まで冷却した後、実施例101で用いた、同じCa(OH)2、MgOおよびパラフィンワックスの混合物2.90gを混合物に加え、ミニ−ミル中で30秒間、最大速度でブレンドした。沸騰水に24時間浸漬後、剥離強度試験を、実施例101で記載したようにして実施した。剥離強度は、36lb/インチ(6.3N/mm)であった。
【0060】
実施例104
フルオロポリマー粉末を30μmの平均粒子径にまで粉砕した以外は、実施例101のフルオロポリマー粉末を使用した。34.12gのフルオロポリマー粉末と塩化ベンジルトリフェニルホスホニウムの50重量%メタノール溶液0.67gとをミニ−ミル中で30秒間、最大速度でブレンドして、プライマーを調製した。フェノール樹脂(デュライト(Durite))の50%MEK溶液を3.92g加え、さらに30秒間、最大速度でブレンドした。その後、混合物を取り出し、60℃で終夜乾燥した。冷却後、混合物に1.84gのCa(OH)2および0.92gのMgOを加え、ミニ−ミル中で30秒間、最大速度でブレンドした。トップコートに使用したフルオロポリマーをプライマーのものと同じにした以外は、実施例101に記載したようにして剥離強度試験を実施した。沸騰水に24時間浸漬後、実施例104は、11lb/インチ(1.9N/mm)の剥離強度を有していた。
【0061】
実施例104
フルオロポリマー粉末を45μmの平均粒子径にまで粉砕した以外は、実施例101と同じフルオロポリマー粉末を使用した。その後、フルオロポリマー粉末29.63g、臭化テトラブチルホスホニウム0.29g、予め乳鉢と乳棒で粉砕したACNブレンド2.50g、および、実施例101で使用したものと同じCa(OH)2、MgOおよびワックス混合物2.93gを、ミニ−ミル中で30秒間、最大速度でブレンドした。沸騰水に24時間浸漬後、実施例101に記載したようにして剥離強度試験を実施した。実施例105では、剥離強度が56lb/インチ(9.8N/mm)であった。
【0062】
実施例106〜110
実施例101で使用したものと類似しているが、MFIが29g/10分(265℃/5kg)で、平均粒子径が45μmである、別のバッチのフルオロポリマーH2721.1gを、臭化テトラブチルホスホニウム26.7gおよびACNブレンド156.2gと共に高剪断ミキサーに投入した。混合物を3600rpmで11分間ブレンドしたが、その間、混合物の温度は約110℃に達した。この温度は、ACNブレンド(暗褐色であった)が溶融し、フルオロポリマー粒子上にコーティングされて、ベージュ色のプレミックス(Premix)を製造するのに十分な温度である。
【0063】
実施例106では、45.57gのプレミックスを、2.12gのDBU(日本国京都のサンアポロ株式会社からUCAT SA−841として入手可能な1,8−ジアザビシクロ(5.4.0)ウンデセン−7−エン/フェノールノボラック樹脂の塩)と、ミニ−ミル中で30秒間、最大速度で混合した。剥離用試料を、実施例105で使用したフルオロポリマーをトップコートとして使用したことを除いて、実施例101と同様にして作成した。試料は良好な初期接着性を示した。沸騰水に24時間浸漬後、平均剥離強度は2.1lb/インチ(0.4N/mm)であった。
【0064】
アルミニウム細片(Q−パネル(Q−Panel)から入手可能な厚さ0.063インチの合金2024 T3)を剥離試料に使用した以外は、実施例106と同様にして、実施例107を作成した。試料は良好な初期接着性を示した。沸騰水に24時間浸漬後、試料は基材から剥離することができなかった。
【0065】
実施例105の40.00gと、実施例101で使用した水酸化カルシウム/酸化マグネシウム/ワックス混合物の3.56gをブレンドした以外は、実施例106と同様にして、実施例108を作成した。剥離用試料を、銅の細片(3.2mm厚、マクマスター・カー(McMaster Carr)から入手可能)を使用したことを除いて、実施例105と同様にして作成した。試料は良好な初期接着性を示した。沸騰水に24時間浸漬後、試料は基材に接着していなかった。
【0066】
ガラス基材を使用し、ジクロロエタンで清浄化したことを除いて、実施例108と同様にして、実施例109を作成した。試料は良好な初期接着性を示した。沸騰水に24時間浸漬後、試料は基材に接着していなかった。
【0067】
実施例110
基材としてジクロロエタンで清浄化したガラスを使用し、かつ、トップコートとしてプレミックス(Premix)(実施例106を参照)を使用した以外は、実施例101にしたがって剥離用試料を作成した。試料は良好な初期接着性を示した。沸騰水に24時間浸漬後、試料は基材から手で剥すことができた。
【0068】
本発明の範囲と原理から逸脱することなく、種々の修正が加えられることは、上記の記載から、当業者には明らかであり、本発明が以上例示した実施形態に過度に制限されるものではないことは理解されるべきである。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)ポリチオール芳香族化合物もしくは樹脂、ヒドロキシチオフェノール化合物もしくは樹脂、カテコールノボラック樹脂、カテコールクレゾールノボラック樹脂、少なくとも1つのヒドロキシル基が直接結合している少なくとも1つの芳香環を含むポリヒドロキシ芳香族樹脂もしくは化合物、またはこれらの組み合わせから選択される芳香族物質、並びに
(b)前記芳香族物質と塩を形成することが可能な塩形成化合物、
(c)フッ素樹脂、または、ビニリデンフルオライドの共重合単位を実質的に含まないパーフルオロエラストマー、
および、任意に(d)相間移動触媒、
を含む組成物。
【請求項2】
前記ポリヒドロキシ芳香族樹脂が、少なくとも2個のヒドロキシル基が直接結合している少なくとも1つの芳香環を含む請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
前記ポリヒドロキシ芳香族化合物が、少なくとも2個のヒドロキシル基が直接結合している少なくとも1つの芳香環を含む請求項1に記載の組成物。
【請求項4】
成分(a)が、カテコールノボラック樹脂またはカテコールクレゾールノボラック樹脂を含む請求項1に記載の組成物。
【請求項5】
前記芳香族物質、または前記芳香族物質が分散している物質が、フッ素樹脂の融点または軟化点より低い溶融温度または軟化点を有している請求項1に記載の組成物。
【請求項6】
前記芳香族物質が前記フッ素樹脂の表面に付与されている請求項5に記載の組成物。
【請求項7】
前記塩形成化合物が、無機物質を含む請求項1に記載の組成物。
【請求項8】
成分(a)が、レゾルシノール、フロログルシノール、ピロガロール、カテコール、ヒドロキノン、1,5−ジヒドロキシナフタレン、4,4’−ジヒドロキシビフェニル、4−ヒドロキシチオフェノールまたはこれらの組み合わせである請求項1に記載の組成物。
【請求項9】
前記塩形成化合物が、約6未満のpKbを有する請求項1に記載の組成物。
【請求項10】
前記塩形成化合物がコーティングを有し、任意に前記コーティングはワックスから選択される請求項1に記載の組成物。
【請求項11】
前記パーフルオロエラストマーまたはフッ素樹脂が、成分(a)、(b)および(d)の1つまたは複数を含むコーティングを有する請求項1に記載の組成物。
【請求項12】
前記フッ素樹脂が、ポリテトラフルオロエチレン、ポリビニリデンフルオライド、または、テトラフルオロエチレンの共重合単位と、フッ素化、部分フッ素化もしくは非フッ素化コモノマーの1つまたは複数の共重合単位とを含むコポリマーから選択される請求項1に記載の組成物。
【請求項13】
前記コポリマーが、ビニリデンフルオライド、ヘキサフルオロプロピレン、ビニルエーテル、パーフルオロビニルエーテル、エチレン、プロピレン、クロロトリフルオロエチレンおよびこれらの組み合わせから選択されるコモノマーを含む請求項1に記載の組成物。
【請求項14】
前記コポリマーが、テトラフルオロエチレン、ヘキサフルオロプロピレン、エチレンおよび任意にパーフルオロビニルエーテルの共重合単位を含む請求項1に記載の組成物。
【請求項15】
少なくとも1つの層の前記フルオロポリマーが、THV、FEP、PFA、HTE、ETFE、ECTFE、PVDFまたはこれらの組み合わせから選択される請求項1に記載の組成物。
【請求項16】
コーティングを含む物品であって、前記コーティングが請求項1に記載の組成物を含む物品。
【請求項17】
(a)ポリチオール芳香族化合物もしくは樹脂、ヒドロキシチオフェノール化合物もしくは樹脂、カテコールノボラック樹脂、カテコールクレゾールノボラック樹脂、少なくとも1つのヒドロキシル基が直接結合している少なくとも1つの芳香環を含むポリヒドロキシ芳香族樹脂もしくは化合物、またはこれらの組み合わせから選択される芳香族物質、(b)前記芳香族物質と塩を形成することが可能な塩形成化合物、および(c)フッ素樹脂、または、ビニリデンフルオライドの共重合単位を実質的に含まないパーフルオロエラストマーの反応生成物を含み、任意に(d)相間移動触媒、
を含む組成物。
【請求項18】
コーティングを含む物品であって、前記コーティングが請求項17に記載の組成物を含む物品。
【請求項19】
(a)本質的にフェノラートもしくはチオラート塩を含まない実質的に有機の材料、または、実質的に無機の材料を含む基材、および
(b)請求項17に記載の組成物を含む第一の層、
を含む積層物品であって、
(i)芳香族物質もしくは樹脂および(ii)塩形成化合物がそれぞれ独立して、前記基材と前記第一の層の残りの部分との界面に存在するか、前記フッ素樹脂と共に存在するか、またはその両方であり、かつ、
前記第一の層が前記基材に接着されている第一の層を含む積層物品。
【請求項20】
前記基材が、ガラス、フルオロポリマー、ナイロン、セラミック、金属、鉄、鋼、ステンレス鋼、アルミニウム、銅、ニッケルおよび合金、およびこれらの組み合わせから選択される請求項19に記載の物品。
【請求項21】
前記基材が、ファイバー、フレーク、粒子の表面であり、有機、無機またはそれらの組み合わせであっても良い請求項19に記載の物品。
【請求項22】
前記第一層に隣接した、フルオロポリマーを含む第ニの層、および、任意に第ニの層に隣接した、任意にフルオロポリマーを含む第三の層をさらに備えた請求項19に記載の物品。
【請求項23】
前記第ニの層および/または第三の層の少なくとも1つが、2種以上のフルオロポリマーの混合物を含む請求項22に記載の物品。
【請求項24】
前記フッ素樹脂が、ポリテトラフルオロエチレン、ポリビニリデンフルオライド、または、テトラフルオロエチレンの共重合単位と、フッ素化、部分フッ素化もしくは非フッ素化コモノマーの1つまたは複数の共重合単位とを含むコポリマーから選択される請求項19に記載の物品。
【請求項25】
前記コポリマーが、ビニリデンフルオライド、ヘキサフルオロプロピレン、ビニルエーテル、パーフルオロビニルエーテル、エチレン、プロピレン、クロロトリフルオロエチレンおよびこれらの組み合わせから選択されるコモノマーを含む請求項24に記載の物品。
【請求項26】
前記コポリマーが、テトラフルオロエチレン、ヘキサフルオロプロピレン、エチレンおよび任意にパーフルオロビニルエーテルの共重合単位を含む請求項24に記載の物品。
【請求項27】
少なくとも1つの層の前記フルオロポリマーが、THV、FEP、PFA、HTE、ETFE、ECTFE、PVDFまたはこれらの組み合わせから選択される請求項24に記載の物品。
【請求項28】
前記フルオロポリマーと基材の界面が、N/mm cm単位で少なくとも約0.7、少なくとも約0.8および少なくとも約0.9から選択される剥離強度を有する請求項24に記載の物品。
【請求項29】
前記フルオロポリマーと基材の界面が、N/mm単位で少なくとも約1.8、少なくとも約2.6、少なくとも約3.5、および少なくとも約4.3から選択される剥離強度を有する請求項24に記載の物品。
【請求項30】
前記剥離強度が、24時間以下の室温におけるエージング、約1時間以下の沸騰水への暴露、約5時間以下の沸騰水への暴露、約15時間以下の沸騰水への暴露および約24時間以下の沸騰水への暴露から選択される暴露の後に測定される請求項29に記載の物品。
【請求項31】
粉末コーティング用フルオロポリマーを提供する方法であって、
前記フッ素樹脂またはパーフルオロエラストマーが顆粒状または粉末状で提供される請求項1に記載の組成物を提供する工程、前記組成物を前記芳香族物質の融点を越える温度にまで加熱するかまたは前記組成物を溶液として提供する工程、および、前記組成物を混合する工程を含む方法。
【請求項32】
前記フッ素樹脂が使用され、前記加熱が高剪断混合によってなされる請求項31に記載の方法。
【請求項33】
前記組成物の芳香族物質部分が、前記組成物のバランスのために液体の形態で提供される請求項32に記載の方法。
【請求項34】
フルオロポリマーでコーティングされた表面を提供する方法であって、
(a)任意に実質的に無機の材料から選択される基材を提供する工程、前記基材に請求項1に記載の組成物を、(i)前記芳香族化合物もしくは樹脂と(ii)前記塩形成化合物がそれぞれ独立して、前記基材と前記第一の層の残りの部分との界面に存在するか、前記フッ素樹脂と共に存在するか、またはその両方であるように塗布する工程、および、(b)前記組成物を前記基材に接着する工程、を含む方法。
【請求項35】
前記接着された組成物に、フルオロポリマーを含む前記第ニの層を接着する工程をさらに含む請求項34に記載の方法。
【請求項36】
請求項1に記載の組成物が、成分(a)、(b)および(d)の1つまたは複数を含むコーティングを有するパーフルオロエラストマーまたはフッ素樹脂として提供される請求項34に記載の方法。
【請求項37】
前記組成物を前記基材に塗布する工程が、静電粉体コーティングを含む請求項34に記載の方法。
【請求項38】
接着が、融着を含む請求項34に記載の方法。


【公表番号】特表2007−508415(P2007−508415A)
【公表日】平成19年4月5日(2007.4.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−533871(P2006−533871)
【出願日】平成16年9月2日(2004.9.2)
【国際出願番号】PCT/US2004/028614
【国際公開番号】WO2005/040260
【国際公開日】平成17年5月6日(2005.5.6)
【出願人】(505005049)スリーエム イノベイティブ プロパティズ カンパニー (2,080)
【Fターム(参考)】