説明

芳香族環が塩素化されたフタル酸化合物の製造方法

【課題】四塩化炭素といった環境負荷の高い溶媒を用いることなく、芳香族環が塩素化されたフタル酸化合物を収率よく製造できる方法が求められていた。
【解決手段】クロロスルホン酸、塩化チオニルおよびヨウ素化合物の存在下、フタル酸化合物と塩素とを反応させる工程を有する芳香族環が塩素化されたフタル酸化合物の製造方法。フタル酸化合物は、好ましくはフタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、フタル酸モノハライド、イソフタル酸モノハライド、テレフタル酸モノハライド、フタル酸ジハライド、イソフタル酸ジハライドまたはテレフタル酸ジハライドである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、芳香族環が塩素化されたフタル酸化合物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
芳香族環が塩素化されたフタル酸化合物の製造方法として、例えば特許文献1(実施例1等)には、クロロスルホン酸と四塩化炭素との混合溶媒中、ヨウ素の存在下でテレフタル酸クロリドと塩素とを反応させる方法が記載されている。また、特許文献2(実施例1等)には、クロロスルホン酸中、ヨウ素の存在下で無水フタル酸と塩素とを反応させる方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開昭58−157727号公報
【特許文献2】特開昭61−118378号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に記載される方法は、温室効果ガスの1つである四塩化炭素を用いる点で、必ずしも満足できる製造方法ではなかった。また、特許文献2に記載される方法は、収率が低い点で、必ずしも満足できる製造方法ではなかった。
かかる状況下、四塩化炭素といった環境負荷の高い溶媒を用いることなく、芳香族環が塩素化されたフタル酸化合物を収率よく製造できる方法が求められていた。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、前記課題を解決するべく鋭意検討し、本発明に至った。
【0006】
即ち本発明は、以下の通りである。
〔1〕クロロスルホン酸、塩化チオニルおよびヨウ素化合物の存在下、フタル酸化合物と塩素とを反応させる工程を有する
芳香族環が塩素化されたフタル酸化合物の製造方法。
〔2〕フタル酸化合物が、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、フタル酸モノハライド、イソフタル酸モノハライド、テレフタル酸モノハライド、フタル酸ジハライド、イソフタル酸ジハライドまたはテレフタル酸ジハライドである前記〔1〕記載の製造方法。
〔3〕フタル酸化合物が、式(1)

で示され、芳香族環が塩素化されたフタル酸化合物が、式(2)

(式中、nは1〜4の整数を表す。)
で示される前記〔1〕記載の製造方法。
〔4〕式(2)におけるnが4である前記〔3〕記載の製造方法。
〔5〕ヨウ素化合物がヨウ素、臭化ヨウ素または塩化ヨウ素である前記〔1〕〜〔4〕のいずれか記載の製造方法。
〔6〕前記〔1〕〜〔5〕のいずれか記載の製造方法により得られる反応混合物から、芳香族環が塩素化されたフタル酸化合物を分離することにより、クロロスルホン酸、塩化チオニルおよびヨウ素化合物を含有する混合物を回収する工程と、
前記回収された混合物の存在下、フタル酸化合物と塩素とを反応させる工程と
を有する
芳香族環が塩素化されたフタル酸化合物の製造方法。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、四塩化炭素といった環境負荷の高い溶媒を用いることなく、芳香環が塩素化されたフタル酸化合物を収率よく製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0009】
本発明の製造方法では、フタル酸化合物と塩素との反応が行われる。
【0010】
フタル酸化合物としては、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、これらの酸モノハライドおよび酸ジハライド、並びにフタル酸無水物が挙げられる。
【0011】
酸モノハライドおよび酸ジハライドにおけるハロホルミル基としては、フルオロホルミル基、クロロホルミル基、ヨードホルミル基およびブロモホルミル基が挙げられる。
【0012】
酸モノハライドとしては、例えば、
フタル酸モノクロライド、フタル酸モノフルオライド等のフタル酸モノハライド、
イソフタル酸モノクロライド、イソフタル酸モノフルオライド等のイソフタル酸モノハライド、および
テレフタル酸モノクロライド、テレフタル酸モノフルオライド等のテレフタル酸モノハライド
が挙げられる。
【0013】
酸ジハライドとしては、例えば、
フタル酸ジクロライド、フタル酸ジフルオライド等のフタル酸ジハライド、
イソフタル酸ジクロライド、イソフタル酸ジフルオライド等のイソフタル酸ジハライド、および
テレフタル酸ジクロライド、テレフタル酸ジフルオライド等のテレフタル酸ジハライド
が挙げられる。酸ジハライドは、好ましくは、式(1)

で示される酸ジクロライド(以下、この化合物を酸ジクロライド(1)と称することがある。)であり、より好ましくは、イソフタル酸ジクロライドまたはテレフタル酸ジクロライドである。
【0014】
フタル酸化合物において、ベンゼン環は、ハロゲン原子、ニトロ基、スルホ基、トリハロメチル基等の置換基1〜3個と結合していてもよい。ハロゲン原子としては、塩素、フッ素、ヨウ素、臭素が挙げられる。トリハロメチル基としては、トリクロロメチル基、トリフルオロメチル基、トリヨードメチル基、トリブロモメチル基が挙げられる。
【0015】
フタル酸化合物は、
好ましくは、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、フタル酸モノハライド、イソフタル酸モノハライド、テレフタル酸モノハライド、フタル酸ジハライド、イソフタル酸ジハライドまたはテレフタル酸ジハライドであり、
より好ましくは、フタル酸、フタル酸ジハライド、イソフタル酸、イソフタル酸ジハライド、テレフタル酸またはテレフタル酸ジハライドであり、
さらに好ましくは、イソフタル酸、イソフタル酸ジハライド、テレフタル酸またはテレフタル酸ジハライドであり、
特に好ましくは、イソフタル酸、イソフタル酸ジクロライド、テレフタル酸またはテレフタル酸ジクロライドである。
【0016】
フタル酸化合物は、市販のものであってもよいし、公知の方法により製造したものであってもよい。
フタル酸化合物のうち、酸ジクロライド(1)は、例えば、市販のフタル酸、イソフタル酸またはテレフタル酸を、塩化チオニルやオキシ塩化リン等の塩素化剤と反応させることにより製造することができる(例えば、特開昭61−109751号公報参照)。酸無水物は、酸ジクロライド(1)をエチルクロロフルオロアセテートとクロロスルホン酸との存在下で加熱することにより製造することができる(例えば、J.Org.Chem.,第44巻、2291頁(1979年)参照。)。
【0017】
塩素としては、好ましくは塩素ガスを用いる。塩素ガスは、市販の塩素ガスであってもよいし、公知の方法(例えば、特開2006−219369号公報参照。)により製造した塩素ガスであってもよい。
フタル酸化合物と塩素との反応において、塩素の使用量は、ベンゼン環上に置換される塩素原子の所望数(以下、この数をn’で表す。)に応じて異なる。塩素の使用量は、フタル酸化合物1モルに対し、好ましくn’〜6n’モル、より好ましくはn’〜4n’モル、さらに好ましくはn’モル以上、2n’モル未満である。
フタル酸化合物と塩素との反応において、未反応の塩素は、回収し、必要に応じて精製した後、フタル酸化合物と塩素との反応(以下、本反応と称することもある。)に再使用することができる。
【0018】
本反応は、クロロスルホン酸、塩化チオニルおよびヨウ素化合物の存在下で行われる。
【0019】
ヨウ素化合物は、ヨウ素原子を有していればよく、ヨウ素(I)であってもよい。即ち、本発明で用いるヨウ素化合物には、ヨウ素も包含されるものとする。ヨウ素以外のヨウ素化合物としては、例えば、塩化ヨウ素(ICl)、臭化ヨウ素(IBr)が挙げられる。
ヨウ素化合物は、市販のものを使用することができる。ヨウ素化合物としては、入手が容易な点でヨウ素が好ましい。
ヨウ素化合物の使用量は、フタル酸化合物1モルに対して、好ましくは0.001〜0.1モルの範囲であり、より好ましくは0.005〜0.05モルの範囲である。
【0020】
クロロスルホン酸は、市販のものを使用することができる。
クロロスルホン酸の使用量は、フタル酸化合物1質量部に対して、好ましくは0.5質量部以上である。その上限は特にないが、生産性の点等から、フタル酸化合物1質量部に対して、好ましくは20質量部以下である。
【0021】
塩化チオニルは、市販のものを使用することができる。
塩化チオニルの使用量は、フタル酸化合物1質量部に対して、好ましくは0.5質量部以上である。その上限は特にないが、生産性の点等から、フタル酸化合物1質量部に対して、好ましくは20質量部以下である。
【0022】
本反応は、さらに、本反応に不活性な溶媒の存在下で行うこともできる。
【0023】
本反応において、反応温度は、好ましくは0〜100℃の範囲、より好ましくは20〜80℃の範囲から選択される。
【0024】
本反応において、フタル酸化合物、塩素、ヨウ素化合物、クロロスルホン酸および塩化チオニルの混合順序は制限されない。好ましい実施態様としては、フタル酸化合物、ヨウ素化合物、クロロスルホン酸および塩化チオニルを任意の順序で混合し、得られた混合物を反応温度に調整し、そこに塩素ガスを添加する態様が挙げられる。ここで、塩素ガスの添加は、反応系の液相部に塩素ガスを吹き込むことにより実施してもよいし、気相部に塩素ガスを流通させることにより実施してもよい。本反応は、加圧を必要としないが、例えば、気相部を塩素ガスに置換し、加圧することにより実施することもできる。
【0025】
本反応の進行度合いは、ガスクロマトグラフィー、高速液体クロマトグラフィー、薄層クロマトグラフィー、NMR、IR等の分析手段により確認することができる。分析手段により、未反応のフタル酸化合物の消失が確認されるまで本反応を行うことにより、芳香族環が塩素化されたフタル酸化合物を収率よく製造することができる。
また、未反応のフタル酸化合物および/またはn’個未満の塩素原子がベンゼン環に結合したフタル酸化合物が存在している状態で本反応を終了しても、後述するように、本反応で用いたクロロスルホン酸、塩化チオニルおよびヨウ素化合物等を含有する混合物を回収し、再利用することにより、芳香族環が塩素化されたフタル酸化合物を収率よく製造することができる。
【0026】
本反応により、芳香族環が塩素化されたフタル酸化合物(以下、この化合物を塩素化フタル酸化合物と称することがある。)が生成する。
【0027】
塩素化フタル酸化合物としては、例えば、1〜4個の塩素原子がベンゼン環に結合したフタル酸モノハライド、1〜4個の塩素原子がベンゼン環に結合したイソフタル酸モノハライド、1〜4個の塩素原子がベンゼン環に結合したテレフタル酸モノハライド、1〜4個の塩素原子がベンゼン環に結合したフタル酸ジハライド、1〜4個の塩素原子がベンゼン環に結合したイソフタル酸ジハライド、1〜4個の塩素原子がベンゼン環に結合したテレフタル酸ジハライドおよび1〜4個の塩素原子がベンゼン環に結合したフタル酸無水物が挙げられる。
【0028】
1〜4個の塩素原子がベンゼン環に結合したフタル酸モノハライドとしては、クロロフタル酸モノハライド、ジクロロフタル酸モノハライド、トリクロロフタル酸モノハライドおよびテトラクロロフタル酸モノハライドが挙げられる。
1〜4個の塩素原子がベンゼン環に結合したイソフタル酸モノハライドとしては、クロロイソフタル酸モノハライド、ジクロロイソフタル酸モノハライド、トリクロロイソフタル酸モノハライドおよびテトラクロロイソフタル酸モノハライドが挙げられる。
1〜4個の塩素原子がベンゼン環に結合したテレフタル酸モノハライドとしては、クロロテレフタル酸モノハライド、ジクロロテレフタル酸モノハライド、トリクロロテレフタル酸モノハライドおよびテトラクロロテレフタル酸モノハライドが挙げられる。
【0029】
1〜4個の塩素原子がベンゼン環に結合したフタル酸ジハライドとしては、クロロフタル酸ジハライド、ジクロロフタル酸ジハライド、トリクロロフタル酸ジハライドおよびテトラクロロフタル酸ジハライドが挙げられる。
1〜4個の塩素原子がベンゼン環に結合したイソフタル酸ジハライドとしては、クロロイソフタル酸ジハライド、ジクロロイソフタル酸ジハライド、トリクロロイソフタル酸ジハライドおよびテトラクロロイソフタル酸ジハライドが挙げられる。
1〜4個の塩素原子がベンゼン環に結合したテレフタル酸ジハライドとしては、クロロテレフタル酸ジハライド、ジクロロテレフタル酸ジハライド、トリクロロテレフタル酸ジハライドおよびテトラクロロテレフタル酸ジハライドが挙げられる。
【0030】
上記例示した酸モノハライドおよび酸ジハライドにおけるハロホルミル基としては、フルオロホルミル基、クロロホルミル基、ヨードホルミル基およびブロモホルミル基が挙げられる。
【0031】
本反応において、例えば、上述の酸ジクロライド(1)をフタル酸化合物として用いた場合、式(2)

(式中、nは1〜4の整数を表す。)
で示される塩素化フタル酸化合物が得られる。
本反応において、カルボキシ基を有する化合物をフタル酸化合物として用いた場合、酸モノハライドまたは酸ジハライドが塩素化フタル酸化合物として得られる。例えば、フタル酸、イソフタル酸またはテレフタル酸をフタル酸化合物として用いた場合、酸モノハライドまたは酸ジハライドが塩素化フタル酸化合物として得られる。フタル酸の酸モノハライド、イソフタル酸の酸モノハライドまたはテレフタル酸の酸モノハライドをフタル酸化合物として用いた場合、酸ジハライドが塩素化フタル酸化合物として得られる。
【0032】
塩素化フタル酸化合物において、ベンゼン環は、上記フタル酸化合物と同様に、ハロゲン原子、ニトロ基、スルホ基、トリハロメチル基等の置換基1〜3個と結合していてもよい。
【0033】
塩素化フタル酸化合物のうち、ベンゼン環上に水素原子を有する化合物は、フタル酸化合物として本反応に供することができる。
【0034】
塩素化フタル酸化合物は、
好ましくは、1〜4個の塩素原子がベンゼン環に結合したフタル酸モノハライド、1〜4個の塩素原子がベンゼン環に結合したイソフタル酸モノハライド、1〜4個の塩素原子がベンゼン環に結合したテレフタル酸モノハライド、1〜4個の塩素原子がベンゼン環に結合したフタル酸ジハライド、1〜4個の塩素原子がベンゼン環に結合したイソフタル酸ジハライドまたは1〜4個の塩素原子がベンゼン環に結合したテレフタル酸ジハライドであり、
より好ましくは、1〜4個の塩素原子がベンゼン環に結合したフタル酸ジハライド、1〜4個の塩素原子がベンゼン環に結合したイソフタル酸ジハライドまたは1〜4個の塩素原子がベンゼン環に結合したテレフタル酸ジハライドであり、
さらに好ましくは、1〜4個の塩素原子がベンゼン環に結合したイソフタル酸ジハライドまたは1〜4個の塩素原子がベンゼン環に結合したテレフタル酸ジハライドであり、
特に好ましくは、テトラクロロイソフタル酸ジハライドまたはテトラクロロテレフタル酸ジハライドである。
塩素化フタル酸化合物が式(2)で示される場合、式(2)においてnが4である化合物が、反応混合物から優先的に固体として析出するため、容易に取り出すことができる点で好ましい。
【0035】
塩素化フタル酸化合物が固体として析出する場合、例えば、得られる反応混合物を必要により濃縮処理し、ろ過、デカンテーション等の固液分離処理を施すことにより、塩素化フタル酸化合物を固体として取り出すことができる。得られた固体をクロロスルホン酸や塩化チオニルで洗浄処理し、乾燥してもよい。また、例えば再結晶、カラムクロマトグラフィー等の精製手段により、塩素化フタル酸化合物をさらに精製することもできる。
塩素化フタル酸化合物が固体として析出しない場合、例えば、得られる反応混合物を濃縮処理することにより、塩素化フタル酸化合物を取り出すことができる。例えば蒸留、カラムクロマトグラフィー等の精製手段により、塩素化フタル酸化合物をさらに精製することもできる。
【0036】
反応混合物から塩素化フタル酸化合物を分離することにより、クロロスルホン酸、塩化チオニルおよびヨウ素化合物等を含有する混合物を回収することもできる。回収された該混合物の存在下、フタル酸化合物と塩素とを反応させることもできる。即ち、回収された該混合物を本反応に再利用することができる。この際、必要に応じてヨウ素化合物、クロロスルホン酸および/または塩化チオニルをさらに加えることもできる。この再利用は、繰り返し行うことができる。
再利用される混合物には、未反応のフタル酸化合物や芳香族環が塩素化されたフタル酸化合物が含まれていることがある。これを本反応に繰り返し再利用することにより、塩素化フタル酸化合物を、より一層収率よく製造することができる。
【実施例】
【0037】
以下、実施例により本発明をより詳細に説明する。
【0038】
実施例1
還流冷却管と塩素吹込み管とを付した500mLフラスコに、テレフタル酸ジクロライド30g、クロロスルホン酸105g、塩化チオニル148gおよびヨウ素1.5gを仕込み、得られた混合液を60℃まで昇温した。この混合液中に塩素ガスを流速30〜50mL/分で10時間吹き込んだ。塩素ガスの使用量は84.3gであった。反応混合物中に結晶が析出していた。反応混合物をろ過し、ろ紙上に得られた該結晶を塩化チオニル40gで洗浄し、更に窒素(常温、25℃)で乾燥させることにより、2,3,5,6−テトラクロロテレフタル酸ジクロライドを含む結晶35gを得た。
得られた結晶をガスクロマトグラフィー(内部標準法)にて測定したところ、2,3,5,6−テトラクロロテレフタル酸ジクロライドの含量は83.7重量%、収率は58%であった。結晶中の他の成分は、主に塩化チオニルであり、未反応のテレフタル酸ジクロライドや、1〜3個の塩素原子がベンゼン環に結合したテレフタル酸ジクロライドは、検出されなかった。
反応混合物をろ過することにより得られたろ液259gを回収したところ、このろ液には、1〜3個の塩素原子がベンゼン環に結合したテレフタル酸ジクロライドが含まれていた。このろ液を、実施例2にそのまま用いた。
【0039】
実施例2
還流冷却管と塩素吹込み管とを付した500mLフラスコに、テレフタル酸ジクロライド30g、実施例1で得たろ液259gおよびヨウ素0.5gを仕込み、得られた混合液を60℃まで昇温した。この混合液中に塩素ガスを流速20〜40mL/分で10時間吹き込んだ。塩素ガスの使用量は69gであった。反応混合物中に結晶が析出していた。反応混合物をろ過し、ろ紙上に得られた該結晶を塩化チオニル40gで洗浄し、更に窒素(常温、25℃)で乾燥させることにより、2,3,5,6−テトラクロロテレフタル酸ジクロライドを含む結晶35.1gを得た。得られた結晶をガスクロマトグラフィー(内部標準法)にて測定したところ、2,3,5,6−テトラクロロテレフタル酸ジクロライドの含量は95.4重量%、収率は66%(実施例2で仕込んだテレフタル酸ジクロライド(30g)基準)であった。結晶中の他の成分は、主に塩化チオニルであり、未反応のテレフタル酸ジクロライドや、1〜3個の塩素原子がベンゼン環に結合したテレフタル酸ジクロライドは、検出されなかった。反応混合物をろ過することにより得られたろ液245gを回収したところ、このろ液には、1〜3個の塩素原子がベンゼン環に結合したテレフタル酸ジクロライドが含まれていた。このろ液を、実施例3にそのまま用いた。
【0040】
実施例3
還流冷却管と塩素吹込み管とを付した500mLフラスコに、テレフタル酸ジクロライド30g、実施例2で得たろ液245gおよびヨウ素0.5gを仕込み、得られた混合液を60℃まで昇温した。この混合液中に塩素ガスを流速20〜40mL/分で10時間吹き込んだ。塩素ガスの使用量は69gであった。反応混合物中に結晶が析出していた。反応混合物をろ過し、ろ紙上に得られた該結晶を塩化チオニル40gで洗浄し、更に窒素(常温、25℃)で乾燥させることにより、2,3,5,6−テトラクロロテレフタル酸ジクロライドを含む結晶58.3gを得た。得られた結晶をガスクロマトグラフィー(内部標準法)にて測定したところ、2,3,5,6−テトラクロロテレフタル酸ジクロライドは、含量76.4重量%、収率88%(実施例3で仕込んだテレフタル酸ジクロライド(30g)基準)であった。結晶中の他の成分は、主に塩化チオニルであり、未反応のテレフタル酸ジクロライドや、1〜2個の塩素原子がベンゼン環に結合したテレフタル酸ジクロライドは検出されず、3個の塩素原子がベンゼン環に結合したテレフタル酸ジクロライドは結晶中0.3重量%であった。反応混合物をろ過することにより得られたろ液245gを回収したところ、このろ液には、1〜3個の塩素原子がベンゼン環に結合したテレフタル酸ジクロライドが含まれていた。このろ液を、実施例4にそのまま用いた。
【0041】
実施例4
還流冷却管と塩素吹込み管とを付した500mLフラスコに、テレフタル酸ジクロライド30g、実施例3で得たろ液245gおよびヨウ素0.5gを仕込み、得られた混合液を60℃まで昇温した。この混合液中に塩素ガスを流速20〜40mL/分で10時間吹き込んだ。塩素ガスの使用量は69gであった。反応混合物中に結晶が析出していた。反応混合物をろ過し、ろ紙上に得られた該結晶を塩化チオニル40gで洗浄し、更に窒素(常温、25℃)で乾燥させることにより、2,3,5,6−テトラクロロテレフタル酸ジクロライドを含む結晶56.1gを得た。得られた結晶をガスクロマトグラフィー(内部標準法)にて測定したところ、2,3,5,6−テトラクロロテレフタル酸ジクロライドの含量は83.8重量%、収率は93%(実施例4で仕込んだテレフタル酸ジクロライド(30g)基準)であり、未反応のテレフタル酸ジクロライドや、1〜2個の塩素原子がベンゼン環に結合したテレフタル酸ジクロライドは検出されず、3個の塩素原子がベンゼン環に結合したテレフタル酸ジクロライドは結晶中0.4重量%であった。反応混合物をろ過することにより得られたろ液240gを回収したところ、このろ液には、1〜3個の塩素原子がベンゼン環に結合したテレフタル酸ジクロライドが含まれていた。このろ液を、実施例5にそのまま用いた。
【0042】
実施例5
還流冷却管と塩素吹込み管とを付した500mLフラスコに、テレフタル酸ジクロライド30g、実施例4で得たろ液240gおよびヨウ素0.5gを仕込み、得られた混合液を60℃まで昇温した。この混合液中に塩素ガスを流速20〜40mL/分で10時間吹き込んだ。塩素ガスの使用量は69gであった。反応混合物中に結晶が析出していた。反応混合物をろ過し、ろ紙上に得られた該結晶を塩化チオニル40gで洗浄し、更に窒素(常温、25℃)で乾燥させることにより、2,3,5,6−テトラクロロテレフタル酸ジクロライドを含む結晶60.1gを得た。得られた結晶をガスクロマトグラフィー(内部標準法)にて測定したところ、2,3,5,6−テトラクロロテレフタル酸ジクロライドの含量は80.4重量%、収率96%(実施例5で仕込んだテレフタル酸ジクロライド(30g)基準)であり、未反応のテレフタル酸ジクロライドや、1〜2個の塩素原子がベンゼン環に結合した化合物は検出されず、3個の塩素原子がベンゼン環に結合した化合物は結晶中0.9重量%であった。
【0043】
実施例1〜5により得られた2,3,5,6−テトラクロロテレフタル酸ジクロライドは、合計収率[(実施例1〜5で得た2,3,5,6−テトラクロロテレフタル酸ジクロライドのモル数の合計)÷(実施例1〜5で用いたテレフタル酸ジクロライドのモル数の合計)×100]は80%であった。
【0044】
実施例6
還流冷却管と塩素吹込み管とを付した200mLフラスコに、テレフタル酸ジクロライド10g、クロロスルホン酸52g、塩化チオニル50gおよびヨウ素0.5gを仕込み、得られた混合液を25℃に調整した。この混合液中に塩素ガスを流速18mL/分で1時間吹き込んだ。塩素ガスの使用量は3.5gであった。得られた反応混合物をガスクロマトグラフィー(面積百分率法)にて分析したところ、結果は以下のとおりであった。
テレフタル酸ジクロライド :38.6%
2−クロロテレフタル酸ジクロライド :11.0%
2,3−ジクロロテレフタル酸ジクロライド、
2,5−ジクロロテレフタル酸ジクロライドおよび
2,6−ジクロロテレフタル酸ジクロライド :48.0%(3化合物合計)
2,3,5−トリクロロテレフタル酸ジクロライド : 2.4%
【0045】
比較例1
塩化チオニルに代えて四塩化炭素50gを用いる以外は、実施例6と同様に反応し、得られた反応混合物を分析したところ、結果は以下のとおりであった。
テレフタル酸ジクロライド :75.9%
2−クロロテレフタル酸ジクロライド :11.8%
2,3−ジクロロテレフタル酸ジクロライド、
2,5−ジクロロテレフタル酸ジクロライドおよび
2,6−ジクロロテレフタル酸ジクロライド :12.4%(3化合物合計)
2,3,5−トリクロロテレフタル酸ジクロライド :0.0%
【産業上の利用可能性】
【0046】
芳香族環が塩素化されたフタル酸化合物は、難燃性ポリマー、有機顔料、医農薬原体、電子材料やそれらの合成中間体等として有用である(例えば、米国特許4001179号明細書参照。)。本発明は、かかる化合物を製造する方法として利用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
クロロスルホン酸、塩化チオニルおよびヨウ素化合物の存在下、フタル酸化合物と塩素とを反応させる工程を有する
芳香族環が塩素化されたフタル酸化合物の製造方法。
【請求項2】
フタル酸化合物が、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、フタル酸モノハライド、イソフタル酸モノハライド、テレフタル酸モノハライド、フタル酸ジハライド、イソフタル酸ジハライドまたはテレフタル酸ジハライドである請求項1記載の製造方法。
【請求項3】
フタル酸化合物が、式(1)

で示され、芳香族環が塩素化されたフタル酸化合物が、式(2)

(式中、nは1〜4の整数を表す。)
で示される請求項1記載の製造方法。
【請求項4】
式(2)におけるnが4である請求項3記載の製造方法。
【請求項5】
ヨウ素化合物がヨウ素、臭化ヨウ素または塩化ヨウ素である請求項1〜4のいずれか記載の製造方法。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか記載の製造方法により得られる反応混合物から、芳香族環が塩素化されたフタル酸化合物を分離することにより、クロロスルホン酸、塩化チオニルおよびヨウ素化合物を含有する混合物を回収する工程と、
前記回収された混合物の存在下、フタル酸化合物と塩素とを反応させる工程と
を有する
芳香族環が塩素化されたフタル酸化合物の製造方法。

【公開番号】特開2010−275300(P2010−275300A)
【公開日】平成22年12月9日(2010.12.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−101853(P2010−101853)
【出願日】平成22年4月27日(2010.4.27)
【出願人】(000002093)住友化学株式会社 (8,981)
【Fターム(参考)】