説明

芳香族系共重合体、ならびにその用途

【課題】スルホン酸基を高い濃度で導入することが可能となり、プロトン伝導度が高く、しかも寸法安定性が高く、機械的強度も高い固体高分子電解質およびプロトン伝導膜を提供する。
【解決手段】スルホン酸基を有するポリマーセグメント(A)およびスルホン酸基を実質的に有しないポリマーセグメント(B)を有し、前記スルホン酸基を実質的に有しないポリマーセグメント(B)が下記式(1)で表わされる構造単位を有する、芳香族系共重合体。


(Lは、酸素又は硫黄の結合基を含むベンゼン環)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規なスルホン酸基を有する芳香族系共重合体、ならびに該スルホン酸基を有する芳香族系共重合体からなる固体高分子電解質およびその用途に関する。
【背景技術】
【0002】
電解質は、通常、(水)溶液で用いられることが多い。しかし、近年、この電解質を固体系に置き替えていく傾向が高まってきている。その第1の理由として、例えば、上記の電気・電子材料に応用する場合のプロセッシングの容易さが挙げられ、第2の理由として、軽薄短小・省電力化への移行が挙げられる。
【0003】
従来より、プロトン伝導性材料として、無機化合物、有機化合物の双方が知られている。無機化合物の例としては、例えば水和化合物であるリン酸ウラニルが挙げられるが、これらの無機化合物は界面での接触が十分でないため、伝導層を基板または電極上に形成する際に多くの問題が生じる。
【0004】
一方、有機化合物の例としては、例えばポリスチレンスルホン酸などのビニル系ポリマーのスルホン化物、ナフィオン(商品名、デュポン社製)を代表とするパーフルオロアルキルスルホン酸ポリマー、パーフルオロアルキルカルボン酸ポリマーなどのいわゆる陽イオン交換樹脂に属するポリマー、あるいはポリベンズイミダゾールまたはポリエーテルエーテルケトンなどの耐熱性高分子にスルホン酸基またはリン酸基を導入したポリマーなどの有機系ポリマーなどが挙げられる。
【0005】
燃料電池を作製する際、通常、両電極間に前記パーフルオロアルキルスルホン酸系ポリマーからなる電解質膜を挟み、ホットプレス等の熱処理加工により、電極―膜接合体を得ている。このパーフルオロアルキルスルホン系酸ポリマーのようなフッ素系膜は、熱変形温度が80℃程度と比較的低く、容易に接合加工が可能である。しかし、燃料電池発電時には、その反応熱により80℃以上の温度となる場合があるため、電解質膜が軟化してクリープ現象が生じることにより、両極が短絡して発電不能となる問題が起こる。
【0006】
このような問題を回避するために、現状では、電解質膜の膜厚をある程度厚くしたり、発電時の温度が80℃以下になるように燃料電池を設計しているが、発電の最高出力が低下してしまう。
【0007】
ところで、パーフルオロアルキルスルホン酸系ポリマーの熱変形温度が低いことによって、該ポリマーからなる電解質の高温での機械特性が乏しくなることを解決するために、近年エンジニアプラスチック等に用いられる芳香族系ポリマーを用いた固体高分子電解質膜が開発されている。
【0008】
例えば、米国特許第5,403,675号公報(特許文献1)には、スルホン化された剛直ポリフェニレンからなる固体高分子電解質が開示されている。このポリマーは、フェニレン連鎖からなる芳香族化合物を重合して得られるポリマーを主成分とし、これをスルホン化剤と反応させてスルホン酸基を導入している。このポリマーからなる電解質膜は、熱変形温度が180℃以上であり、高温でのクリープ耐性に優れる。
【0009】
しかし、これらの電解質膜は、熱水中での膨潤および乾燥時の収縮が大きく、固体高分子型燃料電池に利用する電解質膜としては、まだ不十分であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】米国特許第5,403,675号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
このような情況のもと、プロトン伝導度が高く、熱水中での膨潤および乾燥時の収縮の小さいスルホン酸基を有する芳香族系共重合体、ならびに該共重合体から作製されるプロトン伝導性の高い、プロトン伝導膜、高分子電解質を提供することが望まれている。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、上記の問題点を解決すべく、鋭意研究した。その結果、特定の構造単位を有する芳香族系共重合体によって、上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0013】
本発明の態様は、以下[1]〜[8]に示される。
[1]スルホン酸基を有するポリマーセグメント(A)およびスルホン酸基を実質的に有しないポリマーセグメント(B)を有し、前記スルホン酸基を実質的に有しないポリマーセグメント(B)が下記式(1)で表わされる構造単位を有する、芳香族系共重合体。
【0014】
【化1】

(上記式(1)中、R1は、各々独立に、ハロゲン原子、炭素数1〜20の炭化水素基、または炭素数1〜20のハロゲン化炭化水素基であり、Lは、下記式(1−1)で表わされる構造単位または下記式(1−2)で表わされる構造単位であり、複数あるLの少なくとも一つは下記式(1−1)で表わされる構造単位であり、aは0〜4の整数、pは2〜200の整数を表わす。なお、複数のR1、aおよびLは、同一であっても異なっていてもよい。)
【0015】
【化2】

(上記式(1−1)中は、Aは、各々独立に、−O−または−S−であり、R2は、各々独立に、炭素数1〜20の炭化水素基、または炭素数1〜20のハロゲン化炭化水素基であり、W1は、各々独立に、ハロゲン原子であり、bは1〜4の整数、lは0〜3の整数を表わす。ただし、b+lは4以下である。)
【0016】
【化3】

(上記式(1−2)中、Aは、各々独立に、−O−または−S−であり、Dは、直接結合、−O−、−S−、−CO−、−SO2−、−SO−、−CONH−、−COO−、−(CF2i−(iは1〜10の整数である)、−(CH2j−(jは1〜10の整数である)、−CR’2−(R’は脂肪族炭化水素基、芳香族炭化水素基またはハロゲン化炭化水素基を示す)、シクロヘキシリデン基およびフルオレニリデン基からなる群より選ばれた少なくとも1種の構造を表わし、R3及びR4は、各々独立に、炭素数1〜20の炭化水素基、または、炭素数1〜20のハロゲン化炭化水素基であり、W2及びW3は、各々独立に、ハロゲン原子であり、c及びdは0〜4の整数、m及びnは0〜4の整数、qは0〜4の整数を表わす。ただし、q=0のとき、dは0である。また、c+mおよびd+nは4以下である。)
【0017】
[2]スルホン酸基を有しないポリマーセグメント(B)を誘導する下記式(1’)で表される前駆体のポリスチレン換算の数平均分子量が1,000〜50,000である[1]の芳香族系共重合体。
【0018】
【化4】

(上記式(1’)中、R1、L、a、pは式(1)と同じであり、Z1はハロゲン原子、ニトロ基、−SO2CH3および−SO2CF3から選ばれる原子または基を示す。
【0019】
[3]上記式(1)において、pが2〜150である、[1]または[2]の芳香族系共重合体。
[4]上記式(1−1)で表わされる構造単位と上記式(1−2)で表わされる構造単位をモル比(1−1):(1−2)で100:0〜50:50の割合で含む、[1]〜[3]の芳香族系共重合体。
[5]上記式(1−1)で表わされる構造単位が、下記式(1−3)で表わされる構造単位と下記式(1−4)で表わされる構造単位をモル比(1−3):(1−4)で10:90〜90:10の割合で含む、[1]〜[4]の芳香族系共重合体。
【0020】
【化5】

(上記式中、R2、A、W1、lは上記式(1−1)と同義であり、eは1または3を表わす。)
【0021】
【化6】

(上記式中、R2、A、W1、lは上記式(1−1)と同義であり、fは2または4を表わす。)
[6]スルホン酸基を有するポリマーセグメント(A)が下記式(3)で表される構造単位を有する[1]〜[4]の芳香族系共重合体。
【0022】
【化7】

(上記式中、Ar11、Ar12、Ar13は、それぞれ独立に、フッ素原子で置換されていてもよい、ベンゼン環、縮合芳香環、含窒素複素環からなる群より選ばれる少なくとも1種の構造を有する2価の基を示す。Yは、−CO−、−SO2−、−SO−、−CONH−、−COO−、−(CF2u−(uは1〜10の整数である)、−C(CF32−、または直接結合を示す。Zは、−O−、−S−、直接結合、−CO−、−SO2−、−SO−、−(CH2l−(lは1〜10の整数である)、または−C(CH32−を示す。
【0023】
22は、直接結合、−O(CH2p−、−O(CF2p−、−(CH2p−または−(CF2p−を示す(pは、1〜12の整数を示す)。R23、R24は、それぞれ独立に、水素原子、アルカリ金属原子または脂肪族炭化水素基、脂環基、酸素を含む複素環基を示す。ただし、上記式中に含まれる全てのR23およびR24のうち少なくとも1個は水素原子である。
【0024】
1は0〜4の整数、x2は1〜5の整数、aは0〜1の整数、bは0〜3の整数を示す。)
[7]前記[1]〜[6]の芳香族系共重合体からなる高分子電解質。
[8]前記[1]〜[7]の芳香族系共重合体からなるプロトン伝導膜。
【発明の効果】
【0025】
本発明に係るスルホン酸基を有する芳香族系共重合体は、特定の構造単位を有しているので、熱水中での膨潤および乾燥時の収縮が小さい。したがって、スルホン酸基を高い濃度で導入することが可能となり、プロトン伝導度が高く、しかも寸法安定性が高く、機械的強度も高い固体高分子電解質およびプロトン伝導膜を得ることができる。
【0026】
また、熱水中での膨潤および乾燥時の収縮が小さいことから、耐熱性、耐久性も高いので、本発明に係るスルホン酸基を有する芳香族系共重合体は燃料電池用のプロトン伝導膜や電解質として好適に使用できる。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、本発明に係る芳香族系共重合体、固体高分子電解質、およびプロトン伝導膜について詳細に説明する。
[芳香族系共重合体]
本発明の芳香族系共重合体は、スルホン酸基を有するポリマーセグメント(A)およびスルホン酸基を実質的に有しないポリマーセグメント(B)を有する。
[スルホン酸基を有するポリマーセグメント(A)]
前記スルホン酸基を有するポリマーセグメント(A)は、スルホン酸基を有する構造単位を含むものであれば特に制限されないが、芳香族環に、直接ないし、側鎖としてスルホン酸基がついた構造単位が好ましい。
【0028】
スルホン酸基を有する構造単位としては、下記式(3)で表される構造単位が好適である。
【0029】
【化8】

上記式(3−1)中、Ar11、Ar12、Ar13は、それぞれ独立に、フッ素原子で置換されていてもよい、ベンゼン環、縮合芳香環、含窒素複素環からなる群より選ばれた少なくとも1種の構造を有する2価の基を示す。
【0030】
Yは、−CO−、−CONH−、−COO−、−SO2−、−SO−、−(CF2u−(uは1〜10の整数である)、−C(CF32−、または直接結合を示す。
Zは、−O−、−S−、直接結合、−CO−、−SO2−、−SO−、−(CH2l−(lは1〜10の整数である)、またはC(CH32−を示す。
【0031】
22は、直接結合、−O(CH2p−、−O(CF2p−、−(CH2p−または(CF2p−を示す(pは、1〜12の整数を示す)。
23、R24は、それぞれ独立に、水素原子、アルカリ金属原子または脂肪族炭化水素基を示す。ただし、上記式中に含まれる全てのR23およびR24のうち少なくとも1個は水素原子である。
【0032】
1は、0〜4の整数、x2は、1〜5の整数、aは、0〜1の整数、bは、0〜3の整数を示す。
スルホン酸基を有する構造単位は、好ましくは、下記式(3−1)で表される繰り返し単位から構成される。
【0033】
【化9】

上記式(3−1−1)中、Ar11、Ar12、Ar13、Y、Z、R22、R23、R24は、式(3−1)と同義である。
【0034】
1は0〜4の整数、x2は1〜5の整数、aは0〜1の整数、b1、b2は0〜3の整数を示す。
上記式(3)又は(3−1)で表される繰り返し単位は、好ましくは、下記式(3−2)または下記式(3−3)で表される構造である。
【0035】
【化10】

式(3−2)中、Yは−CO−、−SO2−、−SO−、直接結合、−(CF2u−(uは1〜10の整数である)、−C(CF32−からなる群より選ばれた少なくとも1種の構造を示す。
【0036】
Zは直接結合または、−(CH2l−(lは1〜10の整数である)、−C(CH32−、−O−、−S−、−CO−、−SO2−からなる群より選ばれた少なくとも1種の構造を示し、Arは−SO3Hまたは−O(CH2pSO3Hまたは−O(CF2pSO3Hで表される置換基を有する芳香族基を示す。pは1〜12の整数を示し、mは0〜3の整数を示し、nは0〜3の整数を示し、kは1〜4の整数を示す。構造単位の端部における単線のうち、一方に置換基が表示されていないものは隣り合う構造単位との接続を意味する。m、nが2以上の場合、複数のZおよびkは同じでっても異なるものであってもよく、また結合位も特に制限されない。芳香族基としては、フェニル基、ナフチル基などが挙げられる。
【0037】
スルホン酸基を有する構造単位の具体的構造としては、下記を挙げることができる。
【0038】
【化11】

本発明では、スルホン酸基の代わりに、ないしスルホン酸基とともに、ホスホン酸基を有する構造単位を含むものであってもよい。
【0039】
【化12】

上記式(3−3)中、R1は、各々独立に、ハロゲン原子、炭素数1〜20の1価の炭化水素基、または炭素数1〜20の1価のハロゲン化炭化水素基であり、aは0〜3の整数、kは1〜4−aの整数を表わす。なお、複数のR1は、同一であっても異なっていてもよい。
【0040】
上記R1における炭素数1〜20の1価の炭化水素基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、t−ブチル基、テトラメチルブチル基、アミル基、ペンチル基およびヘキシル基などの炭素数1〜20のアルキル基;シクロペンチル基およびシクロヘキシル基などの炭素数3〜20のシクロアルキル基;フェニル基、ナフチル基およびビフェニル基などの炭素数6〜20の芳香族炭化水素基;ビニル基およびアリル基などの炭素数2〜20のアルケニル基などが挙げられる。
【0041】
上記R1における炭素数1〜20の1価のハロゲン化炭化水素基としては、炭素数1〜20のハロゲン化アルキル基、炭素数3〜20のハロゲン化シクロアルキル基および炭素数6〜20のハロゲン化芳香族炭化水素基などが挙げられる。前記ハロゲン化アルキル基としては、トリクロロメチル基、トリフルオロメチル基、トリブロモメチル基、ペンタクロロエチル基、ペンタフルオロエチル基およびペンタブロモエチル基などが挙げられ;前記ハロゲン化芳香族炭化水素基としては、クロロフェニル基およびクロロナフチル基などが挙げられる。
【0042】
aとしては、0または1であることが好ましく、0であることがより好ましい。
kとしては、1であることが好ましい。
また、本発明の芳香族系共重合体は、得られる電解質膜の機械的強度や熱水耐性の観点から上記で表される構造単位を含む場合、少なくとも2個連続していることが望ましく、少なくとも3個連続していることがより望ましく、少なくとも5個連続していることがさらに望ましい。
【0043】
なお、式(3−1)で表される構造単位を含むことで、熱水浸漬時の膨潤および乾燥時の収縮を高く抑制することができる。
[スルホン酸基を実質的に有しないポリマーセグメント(B)]
本発明にかかる共重合体では、スルホン酸基を実質的に有しないポリマーセグメント(B)は下記式(1)で表わされる構造単位を有する。
【0044】
【化13】

上記式(1)中、R1は、各々独立に、ハロゲン原子、炭素数1〜20の炭化水素基、または炭素数1〜20のハロゲン化炭化水素基であり、Lは、後記する式(1−1)で表わされる構造単位または式(1−2)で表わされる構造単位である。
【0045】
1として具体的には、メチル基、メチル基、エチル基、プロピル基などのアルキル基、フェニル基、トルイル基、ナフチル基等のアリール基、これらの水素がハロゲンに置換したものなどが挙げられる。
【0046】
aは、各々独立に、0〜4の整数を示す。pは2〜200、好ましくは2〜150の整数を表わす。なお、複数のR1、aおよびLは、同一であっても異なっていてもよい。
複数あるLの少なくとも一つは下記式(1−1)で表わされる構造単位である。
【0047】
このような、式(1−1)で表される構造単位を含むことで、ポリマー主鎖の分子鎖セグメントの運動を抑制でき、スルホン酸基を有する芳香族系共重合体の熱水中での膨潤および乾燥時の収縮を小さくできる。
【0048】
【化14】

上記式(1−1)中は、Aは、各々独立に、−O−または−S−であり、R2は、各々独立に、炭素数1〜20の炭化水素基、または炭素数1〜20のハロゲン化炭化水素基である。
【0049】
2として具体的には、メチル基、メチル基、エチル基、プロピル基、tert−ブチル基、1,1,3,3−テトラメチルブチル基などのアルキル基、フェニル基、トルイル基、ナフチル基等のアリール基、これらの水素がハロゲンに置換したものなどが挙げられる。
【0050】
本発明ではこのうち、tert−ブチル基、1,1,3,3−テトラメチルブチル基などの分岐型アルキル基が、熱水浸漬時の膨潤および乾燥時の収縮をより抑制できるため、好ましい。
【0051】
また、複数の(1−1)で表される構造単位が存在する場合、これらの構造単位は同じものであっても異なるものであってもよい。
1は、各々独立に、ハロゲン原子であり、bは1〜4の整数、lは0〜3の整数を表わす。ただし、b+lは4以下である。
【0052】
上記式(1−1)で表わされる構造単位は、下記式(1−3)で表わされる構造単位と下記式(1−4)で表わされる構造単位を含むものが好ましい。このとき、式(1−1)で表される構造単位全モル中に、式(1−3)および(1−4)で表される構造単位を、モル比(1−3):(1−4)で10:90〜90:10、好ましくは20:80〜80:20の割合で含むことが好ましい。
【0053】
【化15】

上記式(1−3)中、R2、A、W1、lは上記式(1−1)と同義であり、eは1または3を表わす。
【0054】
【化16】

上記式(1−4)中、R2、A、W1、lは上記式(1−1)と同義であり、fは2または4を表わす。
【0055】
このような式(1−3)および(1−4)で表される構造単位を双方含むことでポリマーの生産性やフィルムの製膜性を損なうことなく、熱水中での膨潤および乾燥時の収縮が小さいフィルムを得ることが出来る。
【0056】
Lを構成しうる構造単位として、下記式(1−2)で表わされる構造単位も挙げられる。
【0057】
【化17】

上記式(1−2)中、Aは、各々独立に、−O−または−S−であり、Dは、直接結合、−O−、−S−、−CO−、−SO2−、−SO−、−CONH−、−COO−、−(CF2i−(iは1〜10の整数である)、−(CH2j−(jは1〜10の整数である)、−CR’2−(R’は脂肪族炭化水素基、芳香族炭化水素基またはハロゲン化炭化水素基を示す)、シクロヘキシリデン基およびフルオレニリデン基からなる群より選ばれた少なくとも1種の構造を表わし、R3及びR4は、各々独立に、炭素数1〜20の炭化水素基、または、炭素数1〜20のハロゲン化炭化水素基であり、W2及びW3は、各々独立に、ハロゲン原子であり、c及びdは0〜4の整数、m及びnは0〜4の整数、qは0〜4の整数を表わす。ただし、q=0のとき、dは0である。また、c+mおよびd+nは4以下である。
【0058】
上記式(1−1)で表わされる構造単位と上記式(1−2)で表わされる構造単位を、モル比(1−1):(1−2)で100:0〜50:50、好ましくは100:0〜75:25の割合で含むことが好ましい。
【0059】
以上のような式(1−1)で表される構造単位としては、以下のものが例示される。
【0060】
【化18】

本発明にかかる共重合体には、上記構造単位の他に、以下の単位を含むものであってもよい。
【0061】
(窒素を含む2価の複素環基を有する構造単位)
本発明の窒素を含む2価の複素環基を有する構造単位は下記式(2)で表わされる。
【0062】
【化19】

上記式(2)中、Ar1は、窒素を含む複素環構造を有する2価の有機基を示し、好ましくは、窒素を含む複素環構造を有する炭素数3〜30の有機基であり、例えば、窒素を含む2価の複素環基および下記式(2−1)で表わされる基を挙げることができる。
【0063】
【化20】

上記式(2−1)中、Rhは、窒素を含む1価の複素環基を示し、Ar2は2価の芳香族基を示し、Rsは炭素数1〜20の2価の脂肪族炭化水素基、炭素数1〜20の2価の脂環式炭化水素基、または2価の芳香族基を示し、Q1、Q2は、各々独立に、直接結合、−O−、−S−、−CO−、−SO2−又は−または−SO−からなる群より選ばれた少なくとも1種の構造を示し、n1は0〜2の整数を示す。
【0064】
hで示される窒素を含む1価の複素環基としては、窒素を含む5員環、6員環構造が挙げられる。また、複素環内の窒素原子の数は、1個以上あれば特に制限されない、また複素環内には、窒素以外に、酸素や硫黄を含んでいても良い。Rhを構成する窒素を含む1価の複素環基として、具体的には、ピロール、チアゾール、イソチアゾール、オキサゾール、イソオキサゾール、ピリジン、イミダゾール、イミダゾリン、ピラゾール、1,3,5−トリアジン、ピリミジン、ピリタジン、ピラジン、インドール、キノリン、イソキノリン、ブリン、ベンズイミダゾール、ベンズオキサゾール、ベンズチアゾール、テトラゾール、テトラジン、トリアゾール、カルバゾール、アクリジン、キノキサリン、キナゾリンからなる含窒素複素環化合物およびこれらの誘導体の炭素または窒素に結合する水素原子が引き抜かれてなる構造の基である。これらの含窒素複素環基は、置換基を有していてもよく、置換基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基などのアルキル基、フェニル基、トルイル基、ナフチル基等のアリール基、シアノ基、フッ素原子などがあげられる。
【0065】
Ar2、Rsで示される2価の芳香族基としては、1,3−フェニレン基、1,4−フェニレン基等の2価の単環性芳香族基、1,3−ナフタレンジイル基、1,4−ナフタレンジイル基、1,5−ナフタレンジイル基、1,6−ナフタレンジイル基、1,7−ナフタレンジイル基、2,6−ナフタレンジイル基、2,7−ナフタレンジイル基等の2価の縮環系芳香族基、ピリジンジイル基、キノキサリンジイル基、チオフェンジイル基等の2価の芳香族複素環基等が挙げられる。好ましくは2価の単環性芳香族基である。
【0066】
Ar1で示される窒素を含む2価の複素環基としては、具体的には、ピロールジイル基、2H−ピロールジイル基、イミダゾールジイル基、ピラゾールジイル基、イソチアゾールジイル基、イソオキサゾールジイル基、ピリジンジイル基、ピラジンジイル基、ピリミジンジイル基、ピリダジンジイル基、インドリジンジイル基、イソインドールジイル基、3H−インドールジイル基、インドールジイル基、1H−インダゾールジイル基、プリンジイル基、4H−キノリジンジイル基、キノリンジイル基、イソキノリンジイル基、フタラジンジイル基、ナフチリジンジイル基、キノキサリンジイル基、キナゾリンジイル基、シンノリンジイル基、プテリジンジイル基、カルバゾールジイル基、カルボリンジイル基、フェナントリジンジイル基、アクリジンジイル基、ペリミジンジイル基、フェナントロリンジイル基、フェナジンジイル基、フェノチアジンジイル基、フラザンジイル基、フェノキサジンジイル基、ピロリジンジイル基、ピロリンジイル基、イミダゾリンジイル基、イミダゾリジンジイル基、ピラゾリジンジイル基、ピラゾリンジイル基、ピペリジンジイル基、ピペラジンジイル基、インドリンジイル基、イソインドリンジイル基、キヌクリジンジイル基、オキサゾールジイル基、ベンゾオキサゾールジイル基、1,3,5−トリアジンジイル基、ブリンジイル基、テトラゾールジイル基、テトラジンジイル基、トリアゾールジイル基、フェナルサジンジイル基、ベンゾイミダゾールジイル基、ベンゾトリアゾールジイル基、チアゾールジイル基、ベンゾチアゾールジイル基、ベンゾチアジアゾールジイル基からなる群より選ばれる少なくとも1種に由来する構造か、下記式で表される構造からなる群より選ばれる少なくとも1種の構造を挙げることができる。
【0067】
【化21】

[上記式において、構造単位の端部における単線のうち、一方に置換基が表示されていな
いものは隣り合う構造単位との接続を意味する。]
sで示される炭素数1〜20の2価の脂肪族炭化水素基としては、メチレン基、プロピレン基、ブチレン基などを挙げることができる。
【0068】
また、Rsで示される炭素数1〜20の2価の脂環式炭化水素基としては、シクロペンチレン基、シクロへキシレン基、シクロヘプチレン基などを挙げることができる。
以上のような、含窒素複素環基を有する構造単位を含むことにより、塩基性が付与され、プロトン伝導性を損なうことなく、高温下で高いスルホン酸の安定性を有する固体高分子電解質膜を得ることができる。また、特に式(1)で表わされる構造単位と組み合わせて用いることで膜中の熱水への溶出を抑制し、熱水耐性に優れた膜を得ることができる。
【0069】
[芳香族構造を有する構造単位]
本発明の芳香族系共重合体は、上記式(1)で表わされる構造単位以外の芳香族構造を有する構造単位として下記式(5)で表される構造単位を含むことができる。
【0070】
芳香族構造を有する構造単位は、下記式(5)で表される。
【0071】
【化22】

上記式(5)中、Ar21、Ar22、Ar23、Ar24は、それぞれ独立に、ベンゼン環、縮合芳香環(ナフタレン環など)または含窒素複素環の構造を有する2価の基を示す。
【0072】
ただし、Ar21、Ar22、Ar23、Ar24は、その水素原子の一部またはすべてが、フッ素原子、ニトロ基、ニトリル基、または水素原子の一部またはすべてがハロゲン置換されていてもよいアルキル基、アリル基若しくはアリール基からなる群より選ばれた少なくとも1種の原子または基で置換されていてもよい。
【0073】
A、Dは、それぞれ独立に、直接結合または、−CO−、−COO−、−CONH−、−SO−、−(CF2l−(lは1〜10の整数である)、−(CH2l−(lは1〜10の整数である)、−CR’2−(R’は脂肪族炭化水素基、芳香族炭化水素基およびハロゲン化炭化水素基を示す)、シクロヘキシリデン基、フルオレニリデン基、−O−またはS−を示し、Bは酸素原子または硫黄原子であり、
s、tは、それぞれ独立に、0〜4の整数を示し、rは、0または1以上の整数を示す。
【0074】
前記芳香族構造を有する構造単位は、さらに、下記式(5−1)で表されるものが好ましい。
【0075】
【化23】

[式(5−1)中、A、Dは独立に直接結合または、−CO−、−SO−、−(CF2l−(lは1〜10の整数である)、−(CH2l−(lは1〜10の整数である)、−CR’2−(R’は脂肪族炭化水素基、芳香族炭化水素基およびハロゲン化炭化水素基を示す)、シクロヘキシリデン基、フルオレニリデン基、−O−、−S−からなる群より選ばれた少なくとも1種の構造を示し、Bは独立に酸素原子または硫黄原子であり、R1〜R16は、互いに同一でも異なっていてもよく、水素原子、フッ素原子、ニトロ基、ニトリル基、又は水素原子の一部またはすべてがフッ素置換されていてもよいアルキル基、アリル基若しくはアリール基からなる群より選ばれた少なくとも1種の原子または基を示す。s、tは0〜4の整数(0,1,2)を示し、rは、0または1以上の整数を示す。]
本発明の重合体の分子量は、ゲルパーミエションクロマトグラフィ(GPC)によるポリスチレン換算重量平均分子量で、1万〜100万、好ましくは2万〜80万、さらに好ましくは5万〜30万である。
【0076】
本発明に係る重合体のイオン交換容量は通常0.3〜6meq/g、好ましくは0.5〜4meq/g、さらに好ましくは0.8〜3.5meq/gである。イオン交換容量が、0.3meq/g以上であれば、プロトン伝導度が高く、かつ発電性能を高くすることができる。一方、5meq/g以下であれば、充分に高い耐水性を具備できる。
【0077】
上記のイオン交換容量は、各構造単位の種類、使用割合、組み合わせを変えることにより、調整することができる。したがって重合時に構造単位を誘導する前駆体(モノマー・オリゴマー)の仕込み量比、種類を変えれば調整することができる。
【0078】
概してスルホン酸基やホスホン酸基を含む構造単位が多くなるとイオン交換容量が増え、プロトン伝導性が高くなるが、耐水性が低下する傾向にあり、一方、これらの構造単位が少なくなると、イオン交換容量が小さくなり、耐水性が高まるが、プロトン伝導性が低下する傾向にある。また、ホスホン酸基の量が多くなると、ラジカル耐性が高くなる傾向になる。
【0079】
本発明の重合体は、式(1)で表される構造単位を0.1〜90モル%、好ましくは0.3〜80モル%、さらに好ましくは0.5〜60モル%の割合で含むことが望ましい。
【0080】
[芳香族系共重合体の製造方法]
本発明の芳香族系共重合体は、例えば下記に示すA1法またはB1法を用いて製造することができる。
【0081】
例えば、特開2004−137444号公報に記載の方法で、スルホン酸基を有するポリマーセグメントの構造単位となるスルホン酸エステル(A)、スルホン酸基を実質的に有しないポリマーセグメントの構造単位となる化合物(B)、および必要に応じて、含窒素複素環基を有する構造単位となる化合物(C)を共重合させ、スルホン酸エステル基をスルホン酸基に変換することにより合成することができる。
【0082】
スルホン酸ないしそのエステル化合物(A)(以下、「化合物A」ともいう。))
化合物Aは、スルホン酸ないしそのエステル基を有するモノマーである。
前記構造単位(3)で表わされる構造単位を有するポリマーセグメントは、芳香族系共重合体の重合原料として、例えば、下記式(3−4)で示される化合物を使用することにより導入することができる。
【0083】
【化24】

式(3−4)で、Ar11、Ar12、Ar13、Y、Z、R22、R23、R24、x1、x2、a、bは、前記(3)と同義である。
【0084】
Xは、塩素、臭素、ヨウ素、メタンスルホニル基、トリフルオロメタンスルホニル基、ベンゼンスルホニル基、トルエンスルホニル基、ニトロ基からなる群より選ばれた少なくとも1種の構造を示す。
【0085】
Yは、−CO−、−CONH−、−COO−、−SO2−、−SO−、−(CF2l−(lは1〜10の整数である)、−C(CF32−、直接結合からなる群より選ばれた少なくとも1種の構造を示す。Zは、−O−、−S−、直接結合、−CO−、−SO2−、−SO−、−(CH2l−(lは1〜10の整数である)、−C(CH32−からなる群より選ばれた少なくとも1種の構造を示す。
【0086】
なおaが2以上の場合、( )a内のY、Z、b、x1、Ar12、Ar13、R22、R23は同一でも異なるものであってもよい。
上記式(3−4)で表されるモノマーは、好ましくは下記式(3−5)で表される構造または下記式(3−6)で表される構造を有する。
【0087】
【化25】

式(3−5)中、X1は塩素原子、臭素原子および−OSO2Rb(ここで、Rbはアルキル基、フッ素置換アルキル基またはアリール基を示す)から選ばれる原子または基を示す。
【0088】
Y,Z、kは式(3−4)と同じである。
cは0〜10、好ましくは0〜2の整数であり、dは0〜10、好ましくは0〜2の整数であり、kは1〜4の整数を示す。なお、c、dが2以上の場合、( )c、( )d内のZ、R、kは同一でも異なるものであってもよい。
【0089】
Arは−SO3Rまたは−O(CH2hSO3Rまたは−O(CF2hSO3Rで表される置換基(hは1〜12の整数を示す)を有する芳香族基を示す。Rは分岐ないし直鎖アルキル基、シクロアルキル基、ヘテロ原子として酸素を含む複素環基であり、炭素数は4〜20が望ましい。なお、Rの一部が水素原子に置換されていてもよい。
【0090】
式(3−5)で表される化合物の具体的な例としては、下記式で表される化合物、特開2004−137444号公報、特開2004−345997号公報、特開2004−346163号公報に記載されているスルホン酸エステル類を挙げることができる。
【0091】
【化26】

【0092】
【化27】

【0093】
【化28】

式(3−5)で表される化合物において、スルホン酸エステル構造は、通常、芳香族環のメタ位に結合している。
【0094】
【化29】

上記式(3−6)中、X2はハロゲン原子、ニトロ基、−SO2CH3および−SO2CF3から選ばれる原子または基、Raは、−ORbで表わされる基(Rbは、炭素数1〜20の1価の炭化水素基または炭素数1〜20の1価のハロゲン化炭化水素基を示す。)、炭素数1〜20の炭化水素基および炭素数1〜20の炭化水素基から選ばれる少なくとも一種の基で置換されたアミノ基を示し、R1、a、kは、上記式(3−2)中のR1、a、kと同義である。
【0095】
aは同一でも異なっていてもよく、炭素数1〜20の炭化水素基を示し、好ましくは炭素数4〜20の炭化水素基である。具体的にはtert−ブチル基、iso−ブチル基、n−ブチル基、sec−ブチル基、ネオペンチル基、シクロペンチル基、ヘキシル基、シクロヘキシル基、シクロペンチルメチル基、シクロヘキシルメチル基、アダマンチル基、アダマンチルメチル基、2−エチルヘキシル基、ビシクロ[2.2.1]ヘプチル基、ビシクロ[2.2.1]ヘプチルメチル基、テトラヒドロフルフリル基、2−メチルブチル基、3,3−ジメチル−2,4−ジオキソランメチル基などの直鎖状炭化水素基、分岐状炭化水素基、脂環式炭化水素基、5員複素環を有する炭化水素基などが挙げられる。これらのうち、n−ブチル基、ネオペンチル基、テトラヒドロフルフリル基、シクロペンチルメチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロヘキシルメチル基、アダマンチルメチル基およびビシクロ[2、2、1]ヘプチルメチル基が好ましく、ネオペンチル基が最も好ましい。
【0096】
スルホン酸基を実質的に有しないポリマーセグメントの構造単位となる化合物(B)(以下、「化合物B」ともいう。)
スルホン酸基を実質的に有しないポリマーセグメントは、芳香族系共重合体の重合原料として、例えば、下記式(1')で示される化合物を使用することにより導入することができる。
【0097】
【化30】

(上記式(1’)中、R1、L、a、pは式(1)と同じであり、Z1はハロゲン原子、ニトロ基、−SO2CH3および−SO2CF3から選ばれる原子または基を示す。
【0098】
このような式(1’)で表される前駆体のポリスチレン換算の数平均分子量が1,000〜50,000の範囲にあることが望ましい。
さらに、上記式(1‘)で表わされる化合物は、例えば次に示すような反応により合成することができる。
【0099】
下記式(1’−1)で表わされるジハロゲン化物と、および(1‘−2)で表わされジ(チオ)フェノール類とを、N−メチル−2−ピロリドン、N,N−ジメチルアセトアミド、スルホラン、ジフェニルスルホン、ジメチルスルホキサイドなどの誘電率の高い極性溶媒に溶解した後、リチウム、ナトリウム、カリウムなどのアルカリ金属、水素化アルカリ金属、水酸化アルカリ金属、アルカリ金属炭酸塩などを加える。アルカリ金属はフェノールの水酸基に対し、過剰気味で反応させ、通常、1.1〜2倍当量、好ましくは1.2〜1.5倍当量で使用する。このとき、ベンゼン、トルエン、キシレン、クロロベンゼン、アニソールなどの水と共沸する溶媒を共存させて、反応の進行を促進させることが好ましい。
【0100】
【化31】

式(1’−1)で表わされるジハロゲン化物としては、例えば、4,4’−ジクロロベンゾスルホン(4,4’−DCBP)、4,4’−ジフルオロスルホン(4,4’−DFBP)、4−クロロ−4’−フルオロスルホン、2−クロロ−4’−フルオロベンゾスルホン、などが挙げられる。これらのジハロゲン化物は、1種単独で用いてもよいし、2種以上を併用しても良い。
(上記式(1'-1)中、R1、aは式(1)と同義であり、Z1はハロゲン原子、ニトロ基、−SO2CH3および−SO2CF3から選ばれる原子または基を示す。)
HA−L−AH (1’−2)
(上記式(1'-2)中、Aは式(1−1)と同義である。)
【0101】
上記式(2)で表わされる含窒素複素環基を有する構造単位は、芳香族系共重合体の原料として、例えば、下記式(2−2)で示される化合物(C)(以下、「化合物C」ともいう。)を使用することにより芳香族系重合体に導入することができる。
【0102】
【化32】

上記式(2−2)中、Ar1は上記式(2)中のAr1と同義であり、Z3はハロゲン原子、ニトロ基、−SO3CH3基およびSO3CF3から選ばれる原子または基を示す。
【0103】
Ar1が窒素を含む2価の複素環基である場合には、上記式(2−2)で示される化合物としては、具体的には、1−メチル−2,5−ジクロロピロール、1−ヘキシル−2,5−ジブロモピロール、1−オクチル−2,5−ジクロロピロール、2,5−ジクロロピリジン、3,5−ジクロロピリジン、2,5−ジブロモピリジン、3−メチル−2,5−ジクロロピリジン、3−ヘキシル−2,5−ジクロロピリジン、5,5’−ジクロロ−2,2’−ビピリジン、3,3’−ジメチル−5,5’−ジクロロ−2,2’−ビピリジン、3,3’−ジオクチル−5,5’−ジブロモ−2,2’−ビピリジン、2,5−ジクロロピリミジン、2,5−ジブロモピリミジン、5,8−ジクロロキノリン、5,8−ジブロモキノリン、2,6−ジクロロキノリン、1,4−ジクロロイソキノリン、5,8−ジブロモイソキノリン、4,7−ジブロモ−2,1,3−ベンゾチアジアゾール、4,7−ジクロロベンゾイミダゾール、5,8−ジクロロキノキサリン、5,8−ジクロロ−2,3−ジフェニルキノキサリン、2,6−ジブロモキノキサリンなどを挙げることができる。
【0104】
Ar2が上記式(2−1)で表わされる基である場合には、上記式(2−2)で示される化合物としては、具体的には、下記式(2−3)で示される化合物を挙げることができる。
【0105】
【化33】

上記式(2−3)中、Rh、Rs、Ar2、Q1、Q2、n1は、式(2−1)中のRh、Rs、Ar2、Q1、Q2、nと同義であり、Z3はハロゲン原子、ニトロ基、−SO3CH3基およびSO3CF3から選ばれる原子または基を示す。
【0106】
上記式(2−3)で示される化合物の具体例として、下記の化合物を挙げることができる。
【0107】
【化34】

【0108】
【化35】

さらに、塩素原子が臭素原子に置き換わった化合物、塩素原子や臭素原子の結合位置の異なる異性体を挙げることができる。また−CO−結合が、−SO2−結合に置き換わった化合物を挙げることができる。これらの化合物は、単独で用いてもよく、2種類以上を併用してもよい。
【0109】
また、上記式(5)で表わされる構造単位は、芳香族構造を有する構造単位、下記式(5−3)からなるモノマー(化合物Dともいう)から誘導される。
【0110】
【化36】

(式(5−3)中、Ar21、Ar22、Ar23、Ar24は、ベンゼン環、縮合芳香環(ナフタレン環など)、含窒素複素環からなる群より選ばれた少なくとも1種の構造を示す。ただし、Ar21、Ar22、Ar23、Ar24は、それぞれの水素原子が、フッ素原子、アルキル基、一部またはすべてがフッ素置換されたハロゲン化アルキル基、アリル基、アリール基、ニトロ基、ニトリル基で置換されていてもよい。
【0111】
2は、塩素、臭素、ヨウ素、メタンスルホニル基、トリフルオロメタンスルホニル基、ベンゼンスルホニル基、トルエンスルホニル基からなる群より選ばれた少なくとも1種の構造を示す。
【0112】
A、Dは独立に直接結合または、−CO−、−COO−、−CONH−、−SO−、−(CF2l−(lは1〜10の整数である)、−(CH2l−(lは1〜10の整数である)、−CR’2−(R’は脂肪族炭化水素基、芳香族炭化水素基およびハロゲン化炭化水素基を示す)、シクロヘキシリデン基、フルオレニリデン基、−O−、−S−からなる群より選ばれた少なくとも1種の構造を示し、Bは独立に酸素原子または硫黄原子であり、s、tは、0〜4の整数を示し、rは、0または1以上の整数を示す。)
【0113】
芳香族構造を有する構造単位は、芳香族系共重合体の重合原料として、例えば、下記一般式(5−4)で表されるオリゴマーを使用することにより得られる。
【0114】
【化37】

[上記式(5−4)中、X2は、塩素、臭素、ヨウ素、メタンスルホニル基、トリフルオロメタンスルホニル基、ベンゼンスルホニル基からなる群より選ばれた少なくとも1種の構造を示す。A、Dは独立に直接結合または、−CO−、−SO−、−(CF2l−(lは1〜10の整数である)、−(CH2l−(lは1〜10の整数である)、−CR’2−(R’は脂肪族炭化水素基、芳香族炭化水素基およびハロゲン化炭化水素基を示す)、シクロヘキシリデン基、フルオレニリデン基、−O−、−S−からなる群より選ばれた少なくとも1種の構造を示し、
Bは独立に酸素原子または硫黄原子であり、
1〜R16は、互いに同一でも異なっていてもよく、水素原子、フッ素原子、アルキル基、一部またはすべてがハロゲン化されたハロゲン化アルキル基、アリル基、アリール基、ニトロ基、ニトリル基からなる群より選ばれた少なくとも1種の原子または基を示す。s、tは0〜4の整数を示し、rは0または1以上の整数を示す。]
上記式(5−4)で表されるオリゴマーの具体的な例としては、下記が挙げられる。
【0115】
【化38】

【0116】
【化39】

また、上記化合物において塩素原子が臭素原子に置き換わった化合物なども挙げられる。また、塩素原子や臭素原子の結合位置の異なる異性体も挙げることができる。
【0117】
上記式(5−3)および(5−4)で表されるオリゴマーは、例えば、以下のモノマーを共重合することにより製造することができる。式(5−3)および(5−4)でr=0の場合、例えば4,4’−ジクロロベンゾフェノン、4,4’−ジクロロベンズアニリド、2,2−ビス(4−クロロフェニル)ジフルオロメタン、2,2−ビス(4−クロロフェニル)−1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロプロパン、4−クロロ安息香酸−4−クロロフェニルエステル、ビス(4−クロロフェニル)スルホキシド、ビス(4−クロロフェニル)スルホン、2,6−ジクロロベンゾニトリルが挙げられる。
【0118】
これらの化合物において塩素原子が臭素原子またはヨウ素原子に置き換わった化合物などが挙げられる。r=1の場合、例えば特開2003−113136号公報に記載の化合物を挙げることができる。
【0119】
r≧2の場合、例えば特開2004−137444号公報、特開2004−244517号公報、特願2003−143914号(特開2004−346164号公報)、特願2003−348523号(特開2005−112985号公報)、特願2003−348524号、特願2004−211739号(特開2006−28414号公報)、特願2004−211740号(特開2006−28415号公報)に記載の化合物を挙げることができる。
【0120】
重合方法
目的の芳香族系共重合体を得るためは、まず、上記各種化合物を共重合させ前駆体を得る。この共重合は、触媒の存在下に行われるが、この際使用される触媒は、遷移金属化合物を含む触媒系であり、この触媒系としては、(1)遷移金属塩および配位子となる化合物(以下、「配位子成分」という。)、または配位子が配位された遷移金属錯体(銅塩を含む)、ならびに(2)還元剤を必須成分とし、さらに、重合速度を上げるために、遷移金属塩以外の塩を添加してもよい。
【0121】
ここで、遷移金属塩としては、塩化ニッケル、臭化ニッケル、ヨウ化ニッケル、ニッケルアセチルアセトナートなどのニッケル化合物、塩化パラジウム、臭化パラジウム、ヨウ化パラジウムなどのパラジウム化合物、塩化鉄、臭化鉄、ヨウ化鉄などの鉄化合物、塩化コバルト、臭化コバルト、ヨウ化コバルトなどのコバルト化合物などが挙げられる。これらのうち特に、塩化ニッケル、臭化ニッケルなどが好ましい。また、配位子としては、トリフェニルホスフィン、トリ(2−メチル)フェニルホスフィン、トリ(3−メチル)フェニルホスフィン、トリ(4−メチル)フェニルホスフィン、2,2’−ビピリジン、1,5−シクロオクタジエン、1,3−ビス(ジフェニルホスフィノ)プロパンなどが挙げられるが、トリフェニルホスフィン、トリ(2−メチル)フェニルホスフィン、2,2’−ビピリジンが好ましい。上記配位子は、1種単独で、あるいは2種以上を併用することができる。
【0122】
さらに、あらかじめ配位子が配位された遷移金属(塩)としては、例えば、塩化ニッケルビス(トリフェニルホスフィン)、塩化ニッケルビス(トリ(2ーメチル)フェニルホスフィン)、臭化ニッケルビス(トリフェニルホスフィン)、ヨウ化ニッケルビス(トリフェニルホスフィン)、硝酸ニッケルビス(トリフェニルホスフィン)、塩化ニッケル(2,2’ビピリジン)、臭化ニッケル(2,2’ビピリジン)、ヨウ化ニッケル(2,2’ビピリジン)、硝酸ニッケル(2,2’ビピリジン)、ビス(1,5−シクロオクタジエン)ニッケル、テトラキス(トリフェニルホスフィン)ニッケル、テトラキス(トリフェニルホスファイト)ニッケル、テトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウムなどが挙げられるが、塩化ニッケルビス(トリフェニルホスフィン)、塩化ニッケルビス(トリ(2ーメチル)フェニルホスフィン)、塩化ニッケル(2,2’ビピリジン)が好ましい。
【0123】
本発明の触媒系において使用することができる上記還元剤としては、例えば、鉄、亜鉛、マンガン、アルミニウム、マグネシウム、ナトリウム、カルシウムなどを挙げることできるが、亜鉛、マグネシウム、マンガンが好ましい。これらの還元剤は、有機酸などの酸に接触させることにより、より活性化して用いることができる。
【0124】
また、本発明の触媒系において使用することのできる遷移金属塩以外の塩としては、フッ化ナトリウム、塩化ナトリウム、臭化ナトリウム、ヨウ化ナトリウム、硫酸ナトリウムなどのナトリウム化合物、フッ化カリウム、塩化カリウム、臭化カリウム、ヨウ化カリウム、硫酸カリウムなどのカリウム化合物、フッ化テトラエチルアンモニウム、塩化テトラエチルアンモニウム、臭化テトラエチルアンモニウム、ヨウ化テトラエチルアンモニウム、硫酸テトラエチルアンモニウムなどのアンモニウム化合物などが挙げられるが、臭化ナトリウム、ヨウ化ナトリウム、臭化カリウム、臭化テトラエチルアンモニウム、ヨウ化テトラエチルアンモニウムが好ましい。
【0125】
触媒系における各成分の使用割合は、遷移金属塩または配位子が配位された遷移金属(塩)が、上記一般式(1)で表される構造単位となりうる化合物Aと、スルホン酸基を有する構造単位となりうる化合物Bとの総計1モルに対し、通常、0.0001〜10モル、好ましくは0.01〜0.5モルである。この範囲にあれば重合反応が充分に振興し、しかも触媒活性が高く、分子量を高くすることも可能となる。前記範囲よりも少ないと、重合反応が充分に進行せず、一方、多すぎても、分子量が低下するという問題がある。触媒系において、遷移金属塩および配位子を用いる場合、この配位子の使用割合は、遷移金属塩1モルに対し、通常、0.1〜100モル、好ましくは1〜10モルである。0.1モル未満では、触媒活性が不充分となり、一方、100モルを超えると、分子量が低下するという問題がある。
【0126】
また、触媒系における還元剤の使用割合は、上記一般式(1)で表される構造単位となりうる化合物Aと、スルホン酸基を有する構造単位となりうる化合物Bとの総計1モルに対し、通常、0.1〜100モル、好ましくは1〜10モルである。この範囲にあれば、重合が充分に進行し、高収率で重合体を得ることができる。また前記範囲の下限満では、重合が充分進行せず、一方、上限を超えると、得られる重合体の精製が困難になるという問題がある。
【0127】
さらに、触媒系に遷移金属塩以外の塩を使用する場合、その使用割合は、上記一般式(1)で表される構造単位となりうる化合物Aと、スルホン酸基を有する構造単位となりうる化合物Bとの総計1モルに対し、通常、0.001〜100モル、好ましくは0.01〜1モルである。0.001モル未満では、重合速度を上げる効果が不充分であり、一方、100モルを超えると、得られる重合体の精製が困難となるという問題がある。
【0128】
なお、ほかに化合物CおよびDを含む場合、これらの合計量に対する触媒量となる。
本発明で使用することのできる重合溶媒としては、例えば、テトラヒドロフラン、シクロヘキサノン、ジメチルスルホキシド、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、1−メチル−2−ピロリドン、γ−ブチロラクトン、γ−ブチロラクタムなどが挙げられ、テトラヒドロフラン、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、1−メチル−2−ピロリドンが好ましい。これらの重合溶媒は、充分に乾燥してから用いることが好ましい。重合溶媒中における上記一般式(1)で表される構造単位となりうる化合物Aと、スルホン酸基を有する構造単位となりうる化合物Bの濃度は、通常、1〜90重量%、好ましくは5〜40重量%である。
【0129】
なお、含窒素複素環基を有する構造単位やその他の構造単位を導入する場合、上記化合物AとBとを反応させる際に化合物CやDなどのモノマーを添加したり、あるいは、化合物AないしBのどちらかと化合物CやDなどを予め反応させておき、ついで、化合物AないしBのまだ反応させていない方と反応させればよい。反応条件は上記した条件に準拠すればよい。
【0130】
化合物A、B、Cなどの反応は仕込み量がそのまま、各構造単位の組成に相当する。
また、本発明の重合体を重合する際の重合温度は、通常、0〜200℃、好ましくは50〜80℃である。また、重合時間は、通常、0.5〜100時間、好ましくは1〜40時間である。
【0131】
以上の製造方法では、得られた共重合体に含まれる、スルホン酸エステル基のエステル基を、必要に応じてスルホン酸基(−SO3H)に転換する。
具体的には、
(1)少量の塩酸を含む過剰量の水またはアルコールに、上記芳香族系共重合体を投入し、5分間以上撹拌する方法
(2)トリフルオロ酢酸中で上記芳香族系共重合体を80〜120℃程度の温度で5〜10時間程度反応させる方法
(3)芳香族系共重合体中のスルホン酸エステル基(−SO3R)1モルに対して1〜9倍モルのリチウムブロマイドを含む溶液、例えばN−メチルピロリドンなどの溶液中で上記芳香族系共重合体を80〜150℃程度の温度で3〜10時間程度反応させた後、塩酸を添加する方法
などを挙げることができる。
【0132】
なお、スルホン酸金属塩となっている場合、イオン交換などの方法で水素置換すればよい。
【0133】
[高分子電解質膜]
本発明の芳香族系共重合体は、プロトン伝導膜、一次電池用電解質、二次電池用電解質、燃料電池用高分子固体電解質、表示素子、各種センサー、信号伝達媒体、固体コンデンサー、イオン交換膜などに用いる場合、膜状態、溶液状態、粉体状態で用いることが考えられるが、このうち膜状態、溶液状態が好ましい(以下、膜状態のことを高分子電解質膜と呼ぶ)。
【0134】
本発明にかかる固体高分子電解質膜は、上記芳香族系共重合体を含有する。本発明にかかる固体高分子電解質膜の乾燥膜厚は、通常10〜100μm、好ましくは20〜80μmである。
【0135】
また、本発明にかかる固体高分子電解質膜は、金属化合物または金属イオンを含むこともできる。他の金属化合物または金属イオンとしては、アルミニウム(Al)、マンガン(Mn)、ニオブ(Nb)、タンタル(Ta)、クロム(Cr)、モリブデン(Mo)、タングステン(W) 、鉄(Fe)、ルテニウム(Ru)、ニッケル(Ni)、スズ(Sn)、パラジウム(Pd)、白金(Pt)、銀(Ag)、セリウム(Ce)、バナジウム(V)、ネオジウム(Nd)、プラセオジウム(Pr)、サマリウム(Sm)、コバルト(Co)、ガドリニウム(Gd)、テルビウム(Tb)、ジスプロシウム(Dy)、ホルミウム(Ho)、及び、エルビウム(Er)等の金属原子を含む金属化合物またはこれらの金属イオンが挙げられる。
【0136】
また、本発明にかかる固体高分子電解質膜は、含フッ素ポリマーを含むこともできる。含フッ素ポリマーとしては、電解質膜または多孔質基材の孔内に含フッ素ポリマーを均一に分散することができるため、溶剤可溶性の化合物を用いることが好ましい。含フッ素ポリマーとしては、特に制限されるものではないが、例えば、フッ化ビニリデン系単独(共)重合体、フルオロオレフィン/炭化水素系オレフィン共重合体、フルオロアクリレート共重合体、フルオロエポキシ化合物などを使用することができる。
こうして得られた電解質膜はプロトン伝導膜として使用される。
【0137】
高分子電解質膜の製造方法
本発明の高分子電解質膜は、上記芳香族系共重合体を有機溶剤中で混合させ、それを基体上に流延してフィルム状に成形するキャスティング法などにより製造することができる。ここで、上記基体としては、通常の溶液キャスティング法に用いられる基体であれば特に限定されず、たとえばプラスチック製、金属製などの基体が用いられ、好ましくは、ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルムなどの熱可塑性樹脂からなる基体が用いられる。
【0138】
上記芳香族系共重合体を混合させる溶媒としては、共重合体を溶解する溶媒や膨潤させる溶媒であれば良く、たとえば、N−メチル−2−ピロリドン、N,N−ジメチルホルムアミド、γ−ブチロラクトン、N,N−ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド、ジメチル尿素、ジメチルイミダゾリジノン、アセトニトリルなどの非プロトン系極性溶剤や、ジクロロメタン、クロロホルム、1,2−ジクロロエタン、クロロベンゼン、ジクロロベンゼン等の塩素系溶剤、メタノール、エタノール、プロパノール、iso−プロピルアルコール、sec−ブチルアルコール、tert−ブチルアルコール等のアルコール類、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル等のアルキレングリコールモノアルキルエーテル類、アセトン、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン、γ−ブチルラクトン等のケトン類、テトラヒドロフラン、1,3−ジオキサン等のエーテル類などの溶剤が挙げられる。これらの溶剤は、1種単独で、または2種以上を組み合わせて用いることができる。特に溶解性、溶液粘度の面から、N−メチル−2−ピロリドン(以下「NMP」ともいう。)が好ましい。
【0139】
また、上記溶媒として、非プロトン系極性溶剤と他の溶剤との混合物を用いる場合、該混合物の組成は、非プロトン系極性溶剤が95〜25重量%、好ましくは90〜25重量%、他の溶剤が5〜75重量%、好ましくは10〜75重量%(但し、合計は100重量%)である。他の溶剤の量が上記範囲内にあると、溶液粘度を下げる効果に優れる。この場合の非プロトン系極性溶剤と他の溶剤との組み合わせとしては、非プロトン系極性溶剤としてNMP、他の溶剤として幅広い組成範囲で溶液粘度を下げる効果があるメタノールが好ましい。
【0140】
上記共重合体と添加剤を溶解させた溶液のポリマー濃度は、上記スルホン酸含有芳香族系共重合体の分子量にもよるが、通常、5〜40重量%、好ましくは7〜25重量%である。5重量%未満では、厚膜化し難く、また、ピンホールが生成しやすい。一方、40重量%を超えると、溶液粘度が高すぎてフィルム化し難く、また、表面平滑性に欠けることがある。
【0141】
なお、溶液粘度は、上記芳香族系共重合体の分子量や、ポリマー濃度や、添加剤の濃度にもよるが、通常、2,000〜100,000mPa・s、好ましくは3,000〜50,000mPa・sである。2,000mPa・s未満では、成膜中の溶液の滞留性が悪く、基体から流れてしまうことがある。一方、100,000mPa・sを超えると、粘度が高過ぎて、ダイからの押し出しができず、流延法によるフィルム化が困難となることがある。
【0142】
上記のようにして成膜した後、得られた未乾燥フィルムを水に浸漬すると、未乾燥フィルム中の有機溶剤を水と置換することができ、得られる高分子電解質膜の残留溶媒量を低減することができる。
【0143】
なお、成膜後、未乾燥フィルムを水に浸漬する前に、未乾燥フィルムを予備乾燥してもよい。予備乾燥は、未乾燥フィルムを通常50〜150℃の温度で、0.1〜10時間保持することにより行われる。
【0144】
上記のように未乾燥フィルムを水に浸漬した後乾燥すると、残存溶媒量が低減された膜が得られるが、このようにして得られる膜の残存溶媒量は、通常5重量%以下である。また、浸漬条件によっては、得られる膜の残存溶媒量を1重量%以下とすることができる。このような条件としては、たとえば、未乾燥フィルム1重量部に対する水の使用量が50重量部以上であり、浸漬する際の水の温度が10〜60℃、浸漬時間が10分〜10時間である。
【0145】
上記のように未乾燥フィルムを水に浸漬した後、フィルムを30〜100℃、好ましくは50〜80℃で、10〜180分、好ましくは15〜60分乾燥し、次いで、50〜150℃で、好ましくは500mmHg〜0.1mmHgの減圧下、0.5〜24時間、真空乾燥することにより、膜を得ることができる。
【0146】
本発明の方法により得られる高分子電解質膜は、その乾燥膜厚が、通常10〜100μm、好ましくは20〜80μmである。
また、上記スルホン酸エステル基ないしスルホン酸のアルカリ金属塩を有する芳香族系共重合体を上述したような方法でフィルム状に成形した後、加水分解や酸処理等の適切な後処理することにより本発明に係る高分子電解質膜を製造することもできる。具体的には、スルホン酸エステル基ないしスルホン酸のアルカリ金属塩を有する芳香族系共重合体を上述したような方法でフィルム状に成形した後、その膜を加水分解あるいは酸処理することにより芳香族系共重合体からなる高分子電解質膜を製造することができる。
【0147】
また、高分子電解質膜を製造する際に、上記芳香族系共重合体以外に、硫酸、リン酸などの無機酸、リン酸ガラス、タングステン酸、リン酸塩水和物、β−アルミナプロトン置換体、プロトン導入酸化物等の無機プロトン伝導体粒子、カルボン酸を含む有機酸、スルホン酸を含む有機酸、ホスホン酸を含む有機酸、適量の水などを併用しても良い。
【0148】
また、高分子電解質膜を製造する際に、別に多孔質基材やシート状の繊維質物質を用いることで、補強された固体高分子電解質膜を製造することもできる。
補強された固体高分子電解質膜を製造する方法としては、たとえば、液状組成物を多孔質基材やシート状の繊維質物質に含浸して、上記芳香族系共重合体を多孔質基材やシート状の繊維質物質の内部の細孔に充填させる方法、上記液状組成物を多孔質基材やシート状の繊維質物質に塗布して、上記芳香族系共重合体を多孔質基材やシート状の繊維質物質の内部の細孔に充填させる方法、ならびに、上記液状組成物から膜を形成した後、多孔質基材やシート状の繊維質物質に前記膜を重ねて熱プレスし、上記芳香族系共重合体を多孔質基材やシート状の繊維質物質の細孔に充填させる方法などを挙げることができる。
【0149】
また、多層構造の固体高分子電解質膜を形成する場合には、上述の各方法などによって得られた固体高分子電解質膜表面に、さらにダイコート、スプレーコート、ナイフコート、ロールコート、スピンコート、グラビアコートなどの公知の方法で、上記芳香族系共重合体を含む組成物を塗布し、必要に応じて乾燥する、あるいは、上記芳香族系共重合体を含む組成物から形成された膜を上述の方法で得られた膜に重ねて熱プレスすることなどが挙げられる。なお、塗布量を調節して、ポリマー層の厚さを調製してもよく、例えば一方のポリマー層を厚く、他方を薄くしてもよい。
【0150】
多孔質基材としては、厚さ方向に対して貫通する多数の細孔又は空隙を有するものであれば特に制限されるものではなく、例えば、各種樹脂からなる有機多孔質基材、ガラス、アルミナなど金属酸化物や金属自体から構成される無機多孔質基材等が挙げられる。
【0151】
多孔質基材としては、厚さ方向に対してほぼ平行な方向に貫通している貫通孔を多数個有するものであってもよい。
このような、多孔質基材として、特開2008−119662号公報、特開2007−154153号公報、特開平8−20660号公報、特開平8−20660号公報、特開2006−120368号公報、特開2004−171994号公報、特開2009−64777号公報に開示されたものを使用することができる。
【0152】
本発明で使用される多孔質基材としては、有機多孔質基材が好ましく、具体的には、ポリテトラフルオロエチレン、高分子量ポリエチレン、架橋型ポリエチレン、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン、ポリイミド、ポリアクリロトリル、ポリアミドイミド、ポリエーテルイミド、ポリエーテルサルホン、ガラスからなる群から選ばれる1種以上からなるものが好ましい。なお、ポリオレフィンとしては、高分子量ポリエチレン、架橋型ポリエチレン、ポリエチレンなどが望ましい。
【0153】
[膜−電極接合体]
本発明にかかる膜−電極接合体は、前記固体高分子電解質膜と、触媒層と、ガス拡散層とを備えた膜−電極接合体である。典型的には、前記固体高分子電解質膜を挟んで一方にはカソード電極用の触媒層と他方にはアノード電極用の触媒層が設けられており、さらにカソード側およびアノード側の各触媒層の固体高分子電解質膜と反対側に接して、カソード側およびアノード側にそれぞれガス拡散層が設けられている。
【0154】
ガス拡散層、触媒層として、公知のものを特に制限なく使用可能である。
具体的にガス拡散層は、多孔性基材又は多孔性基材と微多孔層の積層構造体からなる。ガス拡散層が多孔性基材と微多孔層の積層構造体からなる場合には、微多孔層が触媒層に接して設けられる。カソード側およびアノード側のガス拡散層は、撥水性を付与するために含フッ素重合体を含んでいることが好ましい。
【0155】
触媒層は、触媒、イオン交換樹脂電解質から構成される。触媒としては、白金、パラジウム、金、ルテニウム、イリジウムなどの貴金属触媒が好ましく用いられる。また、貴金属触媒は、合金や混合物などのように、2種以上の元素が含まれるものであってもよい。このような貴金属触媒は、通常、高比表面積カーボン微粒子に担持したものを用いることができる。
【0156】
イオン交換樹脂電解質は、前記触媒を担持したカーボンを結着させるバインダー成分として働くとともに、アノード極では触媒上の反応によって発生したイオンを固体高分子電解質膜へ効率的に供給し、また、カソード極では固体高分子電解質膜から供給されたイオンを触媒へ効率的に供給する。
【0157】
本発明で用いられる触媒層のイオン交換樹脂としては、触媒層内のプロトン伝導性を向上させるためにプロトン交換基を有するポリマーが好ましい。このようなポリマーに含まれるプロトン交換基としては、スルホン酸基、カルボン酸基、リン酸基などがあるが特に限定されるものではない。また、このようなプロトン交換基を有するポリマーも、特に限定されることなく選ばれるが、フルオロアルキルエーテル側鎖とフルオロアルキル主鎖とから構成されるプロトン交換基を有するポリマーや、スルホン酸基を有する芳香族炭化水素系重合体などが好ましく用いられる。また、上記の固体高分子電解質膜を構成するスルホン酸基を有する芳香族炭化水素系重合体(本発明の共重合体)をイオン交換性樹脂として使用してもよく、さらにプロトン交換基を有するフッ素原子を含むポリマーや、エチレンやスチレンなどから得られる他のポリマー、これらの共重合体やブレンドであっても構わない。このようなイオン交換樹脂電解質は、公知のものを特に制限なく使用可能であり、たとえばNafion(DuPont社、登録商標)やスルホン酸基を有する芳香族炭化水素系重合体等を特に制限なく使用できる。
【0158】
本発明で用いられる触媒層に必要に応じてさらに、炭素繊維、イオン交換基を有しない樹脂を用いてもよい。これらの樹脂としては撥水性の高い樹脂であることが好ましい。例えば含フッ素共重合体、シランカップリング剤、シリコーン樹脂、ワックス、ポリホスファゼンなどを挙げることができるが、好ましくは含フッ素共重合体である。
【0159】
[燃料電池]
本発明に係る固体高分子型燃料電池は、前記膜−電極接合体を含むことを特徴としている。具体的には、少なくとも一つ以上の膜−電極接合体及びその両側に位置するセパレータを含む少なくとも一つの電気発生部;燃料を前記電気発生部に供給する燃料供給部;及び酸化剤を前記電気発生部に供給する酸化剤供給部を含む型燃料電池であって、膜−電極接合体が上記記載のものであることを特徴とする。
【0160】
本発明の電池に用いられるセパレータとしては、通常の燃料電池に用いられるものを用いることができる。具体的にはカーボンタイプのもの、金属タイプのものなどを用いることができる。
【0161】
また、燃料電池を構成する部材としては、公知のものを特に制限なく使用することが可能である。本発明の電池は単セルで用いることもできるし、複数の単セルを直列に繋いだスタックとして用いることもできる。スタックの方法としては公知のものを用いることができる。具体的には単セルを平面状に並べた平面スタッキング、及び燃料または酸化剤の流路がセパレータの裏表面にそれぞれ形成されているセパレータを介して単セルを積み重ねるバイポーラースタッキングを用いることができる。
【実施例】
【0162】
以下、実施例を挙げ本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。また、実施例において、「%」とは特に断りのない限り「重量%」を意味する。
【0163】
[評価用電解質膜の調製]
各実施例・比較例で得られた共重合体をN−メチルピロリドン/メタノール溶液に溶解させた後、アプリケーターを用いてPET基板上にキャスティングし、オーブンを用いて60℃×30分、80℃×40分、120℃×60分乾燥させた。乾燥した膜を脱イオン水に浸漬した。浸漬後、50℃で45分乾燥させることにより評価用の膜を得た。
【0164】
[分子量]
各実施例・比較例で得られた共重合体をN−メチルピロリドン緩衝溶液(以下、NMP緩衝溶液という。)に溶解し、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)によって、ポリスチレン換算の数平均分子量(Mn)および重量平均分子量(Mw)を求めた。NMP緩衝溶液は、NMP(3L)/リン酸(3.3mL)/臭化リチウム(7.83g)の比率で調製した。
【0165】
[スルホン酸基の当量]
得られたスルホン化ポリマーの水洗水が中性になるまで蒸留水で洗浄して、フリーの残存している酸を除去した後、乾燥させた。この後、所定量を秤量し、THF/水の混合溶剤に溶解させ、フェノールフタレインを指示薬として、NaOHの標準液にて滴定し、中和点から、スルホン酸基の当量(イオン交換容量)(meq/g)を求めた。
【0166】
[熱水試験:膨潤収縮量の求め方]
フィルムを2.0cm×3.0cmにカットし秤量して、試験用のテストピースとした。24℃、相対湿度(RH)50%条件下にて状態調整した後、このフィルムを、ポリカーボネート製の250ml瓶に入れ、そこに約100mlの蒸留水を加え、プレッシャークッカー試験機(HIRAYAMA MFS CORP製、 PC−242HS)を用いて、120℃で24時間加温した。試験終了後、各フィルムを熱水中から取り出し、軽く表面の水をキムワイプで拭き取り、寸法を測定し膨潤率を求めた。この膜を24℃、RH50%条件下で状態調整し、水を留去して、熱水試験後の膜の寸法を測定し収縮率を求めた。膨潤収縮量は、下記式にしたがって求めた。
膨潤率=(含水時の2cm辺の寸法/2+含水時の3cm辺の寸法/3)×100/2
収縮率=(乾燥時の2cm辺の寸法/2+乾燥時の3cm辺の寸法/3)×100/2
膨潤収縮量=(膨潤率−100)+(100−収縮率)
【0167】
[プロトン伝導度の測定]
交流抵抗は、5mm幅の短冊状の試料膜の表面に、白金線(f=0.5mm)を押し当て、恒温恒湿装置中に試料を保持し、白金線間の交流インピーダンス測定から求めた。すなわち、85℃、相対湿度90%の環境下で交流10kHzにおけるインピーダンスを測定した。抵抗測定装置として、(株)NF回路設計製のケミカルインピーダンス測定システムを用い、恒温恒湿装置には、(株)ヤマト科学製のJW241を使用した。白金線は、5mm間隔に5本押し当てて、線間距離を5〜20mmに変化させ、交流抵抗を測定した。線間距離と抵抗の勾配から、膜の比抵抗を算出し、比抵抗の逆数からプロトン伝導度を算出した。
比抵抗R(Ω・cm)=0.5(cm)×膜厚(cm)×抵抗線間勾配(Ω/cm)
【0168】
<合成例1−1>
3,5−ジクロロベンゼンスルホニルクロライド(114.65g、467mmol)を、ネオペンチルアルコール(45.30g、514mmol)のピリジン(300mL)溶液に、少量ずつ攪拌しながら15分かけて添加した。この間、反応温度は18〜20℃に保った。反応混合物を、冷却しながらさらに30分攪拌した後、氷冷した10% HCl(1600mL)を添加した。水に不溶の成分を700mLの酢酸エチルで抽出し、1N HClで2回(各700mL)洗浄し、5% NaHCO3で2回(各700mL)洗浄し、MgSO4で乾燥させた。回転乾燥機を用いて溶媒を除去し、残渣を500mLのメタノールから再結晶させた。その結果、純粋な(1H NMRで99%を超える純度)3、5−ジクロロベンゼンスルホン酸ネオペンチル(下記式(30−1で表される化合物))を、光沢のある無色の結晶として得た。収量は、105.98g、収率76%であった。
【0169】
【化40】

<合成例1−2>
2、5−ジクロロベンゼンスルホニルクロライド(114.65g、467mmol)を、ネオペンチルアルコール(45.30g、514mmol)のピリジン(300mL)溶液に、少量ずつ攪拌しながら15分かけて添加した。この間、反応温度は18〜20℃に保った。反応混合物を、冷却しながらさらに30分攪拌した後、氷冷した10% HCl(1600mL)を添加した。水に不溶の成分を700mLの酢酸エチルで抽出し、1N HClで2回(各700mL)洗浄し、5% NaHCO3で2回(各700mL)洗浄し、MgSO4で乾燥させた。回転乾燥機を用いて溶媒を除去し、残渣を500mLのメタノールから再結晶させた。その結果、純粋な(1H NMRで99%を超える純度)2、5−ジクロロベンゼンスルホン酸ネオペンチル(下記式(30−2で表される化合物))を、光沢のある無色の結晶として得た。収量は99.93g、収率は72%であった。
【0170】
【化41】

<合成例1−3>
攪拌機、冷却管を備えた3Lの三口フラスコに、クロロスルホン酸(233.0g、2mol)を加え、続いて2,5−ジクロロベンゾフェノン(100.4g、400mmol)を加え、100℃のオイルバスで8時間反応させた。所定時間後、反応液を砕氷(1000g)にゆっくりと注ぎ、酢酸エチルで抽出した。有機層を食塩水で洗浄、硫酸マグネシウムで乾燥後、酢酸エチルを留去し、淡黄色の粗結晶(3−(2,5−ジクロロベンゾイル)ベンゼンスルホン酸クロリド)を得た。粗結晶は精製することなく、そのまま次工程に用いた。
【0171】
2,2−ジメチル−1−プロパノール(ネオペンチルアルコール)(38.8g、440mmol)をピリジン300mlに加え、約10℃に冷却した。ここに上記で得られた粗結晶を約30分かけて徐々に加えた。全量添加後、さらに30分撹拌し反応させた。反応後、反応液を塩酸水1000ml中に注ぎ、析出した固体を回収した。得られた固体を酢酸エチルに溶解させ、炭酸水素ナトリウム水溶液、食塩水で洗浄後、硫酸マグネシウムで乾燥後、酢酸エチルを留去し、粗結晶を得た。これをメタノールで再結晶し、目的物である3−(2,5−ジクロロベンゾイル)ベンゼンスルホン酸ネオペンチル(30−3)の白色結晶を得た。
【0172】
【化42】

[実施例1]
<スルホン酸基を有しない構造単位の合成>
攪拌機、温度計、Dean−stark管、窒素導入管、冷却管をとりつけた1Lの三口フラスコに、ビス(4−クロロフェニル)スルホン75.2g(0.262mol)、tert−ブチルハイドロキノン39.6g(0.238mol)、炭酸カリウム42.8g(0.310mol)をはかりとった。窒素置換後、スルホラン300mL、トルエン150mLを加えて攪拌した。オイルバスで反応液を150℃で加熱還流させた。反応によって生成する水はDean−stark管にトラップした。3時間後、水の生成がほとんど認められなくなったところで、トルエンをDean−stark管から系外に除去した。徐々に反応温度を180から190℃に上げ、3時間攪拌を続けた後、ビス(4−クロロフェニル)スルホン20.4g(0.071mol)を加え、さらに5時間反応させた。
【0173】
反応液を放冷後、メタノール/4wt%(5/1(体積比))硫酸溶液1200mL中に凝固した。沈殿した生成物を濾過し、水1200mL中、55℃で1時間攪拌した。濾過後、再度水1200mL中、55℃で1時間攪拌した。濾過後、メタノール1200mL中、55℃で1時間攪拌した後、濾過し、再度メタノール1200mL中、55℃で1時間攪拌し濾過した。風乾後、80℃で真空乾燥し目的物87.7g(収率90%)を得た。GPCで測定したMnは6,600であった。得られた化合物は式(40−1)で表されるオリゴマーであることを確認した。
【0174】
【化43】

<スルホン化ポリマーの合成>
上記(30−1)で表される化合物28.69g(96.6mmol)と、上記(40−1)で表される化合物22.45g(3.45mmol)、ビス(トリフェニルホスフィン)ニッケルジクロリド2.62g(4.0mmol)、トリフェニルホスフィン3.15g(12.0mmol)、亜鉛15.69g(240mmol)の混合物中に乾燥したジメチルアセトアミド(DMAc)160mLを窒素下で加えた。
【0175】
反応系を撹拌下に加熱し(最終的には79℃まで加温)、3時間反応させた。反応途中で系中の粘度上昇が観察された。重合反応溶液をDMAc 290mLで希釈し、30分撹拌し、セライトを濾過助剤に用い、濾過した。
【0176】
濾液に臭化リチウム33.54g(386mmol)を加え、内温100℃で7時間、窒素雰囲気下で反応させた。反応後、室温まで冷却し、水4Lに注ぎ、凝固した。凝固物をアセトンに浸漬し、濾過し洗浄した。洗浄物を1N硫酸6200gで攪拌しながら洗浄を行った。濾過後、生成物は洗浄液のpHが5以上となるまで、イオン交換水で洗浄した。得られたポリマーの分子量をGPCで測定した結果、イオン交換容量を表1に示す。得られたポリマーは、下記式(50−1)で表される構造を含むポリマーであった。
【0177】
【化44】

[実施例2]
ビス(4−クロロフェニル)スルホン75.2g(0.262mol)、tert−ブチルハイドロキノン39.6g(0.238mol)、炭酸カリウム42.8g(0.310mol)を、ビス(4−クロロフェニル)スルホン75.6g(0.263mol)、2,5−ジ−1,1,3,3−テトラメチルブチルハイドロキノン79.2g(0.237mol)、炭酸カリウム42.6g(0.308mol)へ変更し、ビス(4−クロロフェニル)スルホン20.4g(0.071mol)をビス(4−クロロフェニル)スルホン22.7g(0.079mol)へ変更した以外は、実施例1と同様にして下記(40−2)で表されるオリゴマーを得た。GPCで測定したMnは8,400であった。
【0178】
【化45】

また、上記(30−1)で表される化合物28.92g(97.3mmol)と、上記(40−2)で表される化合物22.57g(2.69mmol)、臭化リチウム33.81g(389mmol)へ変更した以外は、実施例1と同様にして下記(50−2)で表されるポリマーを得た。得られたポリマーの分子量をGPCで測定した結果、イオン交換容量を表1に示す。
【0179】
【化46】

[実施例3]
tert−ブチルハイドロキノン39.6g(0.238mol)を、tert−ブチルハイドロキノン29.7g(0.179mol)、2,5−ジ−tert−ブチルハイドロキノン13.2g(0.060mol)へ変更した以外は、実施例1と同様にして下記(40−3)で表されるオリゴマーを得た。GPCで測定したMnは6,800であった。
【0180】
【化47】

また、上記(30−1)で表される化合物28.74g(96.7mmol)と、上記(40−3)で表される化合物22.48g(3.31mmol)、臭化リチウム33.59g(387mmol)へ変更した以外は、実施例1と同様にして下記(50−3)で表されるポリマーを得た。得られたポリマーの分子量をGPCで測定した結果、イオン交換容量を表1に示す。
【0181】
【化48】

[実施例4]
tert−ブチルハイドロキノン39.6g(0.238mol)を、tert−ブチルハイドロキノン29.7g(0.179mol)、2,5−ジ−1,1,3,3−テトラメチルブチルハイドロキノン19.9g(0.060mol)へ変更した以外は、実施例1と同様にして下記(40−4)で表されるオリゴマーを得た。GPCで測定したMnは7,200であった。
【0182】
【化49】

また、上記(30−1)で表される化合物28.79g(96.9mmol)と、上記(40−4)で表される化合物22.50g(3.13mmol)、臭化リチウム33.65g(388mmol)へ変更した以外は、実施例1と同様にして下記(50−4)で表されるポリマーを得た。得られたポリマーの分子量をGPCで測定した結果、イオン交換容量を表1に示す。
【0183】
【化50】

[実施例5]
上記(30−2)で表される化合物28.74g(96.7mmol)と、上記(40−3)で表される化合物22.48g(3.31mmol)、臭化リチウム33.59g(387mmol)へ変更した以外は、実施例1と同様にして下記(50−5)で表されるポリマーを得た。得られたポリマーの分子量をGPCで測定した結果、イオン交換容量を表1に示す。
【0184】
【化51】

[実施例6]
上記(30−3)で表される化合物39.24g(97.8mmol)と、上記(40−3)で表される化合物16.62g(2.22mmol)、ビス(トリフェニルホスフィン)ニッケルジクロリド2.62g(4.0mmol)、トリフェニルホスフィン3.15g(12.0mmol)、亜鉛15.69g(240mmol)の混合物中に乾燥したジメチルアセトアミド(DMAc)180mLを窒素下で加えた。
【0185】
反応系を撹拌下に加熱し(最終的には79℃まで加温)、3時間反応させた。反応途中で系中の粘度上昇が観察された。重合反応溶液をDMAc 270mLで希釈し、30分撹拌し、セライトを濾過助剤に用い、濾過した。
【0186】
濾液に臭化リチウム29.72g(342mmol)を加え、内温120℃で7時間、窒素雰囲気下で反応させた。反応後、室温まで冷却し、水4Lに注ぎ、凝固した。凝固物をアセトンに浸漬し、濾過し洗浄した。洗浄物を1N硫酸6800gで攪拌しながら洗浄を行った。濾過後、生成物は洗浄液のpHが5以上となるまで、イオン交換水で洗浄した。得られたポリマーの分子量をGPCで測定した結果、イオン交換容量を表1に示す。得られたポリマーは、下記式(50−6)で表される構造を含むポリマーであった。
【0187】
【化52】

[比較例1]
<スルホン酸基を有しない構造単位の合成>
攪拌機、温度計、Dean−stark管、窒素導入管、冷却管をとりつけた1Lの三口フラスコに、ビス(4−クロロフェニル)スルホン149.3g(0.52mol)、ビス(4−ヒドロキシフェニル)スルホン120.1g(0.48mol)、炭酸カリウム85.6g(0.62mol)をはかりとった。窒素置換後、スルホラン700mL、トルエン350mLを加えて攪拌した。オイルバスで反応液を150℃で加熱還流させた。反応によって生成する水はDean−stark管にトラップした。3時間後、水の生成がほとんど認められなくなったところで、トルエンをDean−stark管から系外に除去した。徐々に反応温度を180から190℃に上げ、3時間攪拌を続けた後、ビス(4−クロロフェニル)スルホン40.2g(0.14mol)を加え、さらに5時間反応させた。
【0188】
反応液を放冷後、メタノール/4wt%(5/1(体積比))硫酸溶液2400mL中に凝固した。沈殿した生成物を濾過し、水2400mL中、55℃で1時間攪拌した。濾過後、再度水2400mL中、55℃で1時間攪拌した。濾過後、メタノール2401mL中、55℃で1時間攪拌した後、濾過し、再度メタノール2400mL中、55℃で1時間攪拌し濾過した。風乾後、80℃で真空乾燥し目的物187.6g(収率80%)を得た。GPCで測定したMnは8,500であった。得られた化合物は式(40−5)で表されるオリゴマーであることを確認した。
【0189】
【化53】

<スルホン化ポリマーの合成>
上記(30−2)で表される化合物28.90g(97.3mmol)と、上記(40−5)で表される化合物23.39g(2.75mmol)、ビス(トリフェニルホスフィン)ニッケルジクロリド2.62g(4.0mmol)、トリフェニルホスフィン3.15g(12.0mmol)、亜鉛15.69g(240mmol)の混合物中に乾燥したジメチルアセトアミド(DMAc)166mLを窒素下で加えた。
【0190】
反応系を撹拌下に加熱し(最終的には79℃まで加温)、3時間反応させた。反応途中で系中の粘度上昇が観察された。重合反応溶液をDMAc 200mLで希釈し、30分撹拌し、セライトを濾過助剤に用い、濾過した。
【0191】
濾液に臭化リチウム38.01g(438mmol)を加え、内温120℃で7時間、窒素雰囲気下で反応させた。反応後、室温まで冷却し、水5.0Lに注ぎ、凝固した。凝固物をアセトンに浸漬し、濾過し洗浄した。洗浄物を1N硫酸6500gで攪拌しながら洗浄を行った。濾過後、生成物は洗浄液のpHが5以上となるまで、イオン交換水で洗浄した。洗浄した固形物を、80℃熱風乾燥機で乾燥し、目的のポリマー35.5g(収率92.4%)を得た。得られたポリマーの分子量をGPCで測定した結果、イオン交換容量を表1に示す。得られたポリマーは、下記式(50−7)で表される構造を含むポリマーであった。
【0192】
【化54】

[比較例2]
tert−ブチルハイドロキノン39.6g(0.238mol)を、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロプロパン80.1g(0.238mol)へ変更した以外は、実施例1と同様にして下記(40−6)で表されるオリゴマーを得た。GPCで測定したMnは8,400であった。
【0193】
【化55】

また、上記(30−3)で表される化合物39.41g(98.2mmol)と、上記(40−6)で表される化合物13.49g(1.80mmol)、臭化リチウム29.85g(344mmol)へ変更した以外は、実施例6と同様にして下記(50−8)で表されるポリマーを得た。得られたポリマーの分子量をGPCで測定した結果、イオン交換容量を表1に示す。
【0194】
【化56】

【0195】
【表1】

表1に示すように、特定の構造を用いることによりプロトン伝導度が高く、かつ熱水時の膨潤および乾燥時の収縮を抑制することが出来る。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
スルホン酸基を有するポリマーセグメント(A)およびスルホン酸基を実質的に有しないポリマーセグメント(B)を有し、前記スルホン酸基を実質的に有しないポリマーセグメント(B)が下記式(1)で表わされる構造単位を有する、芳香族系共重合体。
【化1】

(上記式(1)中、R1は、各々独立に、ハロゲン原子、炭素数1〜20の炭化水素基、または炭素数1〜20のハロゲン化炭化水素基であり、Lは、下記式(1−1)で表わされる構造単位または下記式(1−2)で表わされる構造単位であり、複数あるLの少なくとも一つは下記式(1−1)で表わされる構造単位であり、aは、各々独立に、0〜4の整数、pは2〜200の整数を表わす。なお、複数のR1、aおよびLは、同一であっても異なっていてもよい。)
【化2】

(上記式(1−1)中は、Aは、各々独立に、−O−または−S−であり、R2は、各々独立に、炭素数1〜20の炭化水素基、または炭素数1〜20のハロゲン化炭化水素基であり、W1は、各々独立に、ハロゲン原子であり、bは1〜4の整数、lは0〜3の整数を表わす。ただし、b+lは4以下である。)
【化3】

(上記式(1−2)中、Aは、各々独立に、−O−または−S−であり、Dは、直接結合、−O−、−S−、−CO−、−SO2−、−SO−、−CONH−、−COO−、−(CF2i−(iは1〜10の整数である)、−(CH2j−(jは1〜10の整数である)、−CR’2−(R’は脂肪族炭化水素基、芳香族炭化水素基またはハロゲン化炭化水素基を示す)、シクロヘキシリデン基およびフルオレニリデン基からなる群より選ばれた少なくとも1種の構造を表わし、R3及びR4は、各々独立に、炭素数1〜20の炭化水素基、または、炭素数1〜20のハロゲン化炭化水素基であり、W2及びW3は、各々独立に、ハロゲン原子であり、c及びdは0〜4の整数、m及びnは0〜4の整数、qは0〜4の整数を表わす。ただし、q=0のとき、dは0である。また、c+mおよびd+nは4以下である。)
【請求項2】
スルホン酸基を有しないポリマーセグメント(B)を誘導する下記式(1’)で表される前駆体のポリスチレン換算の数平均分子量が1,000〜50,000である、請求項1に記載の芳香族系共重合体。
【化4】

(上記式(1’)中、R1、L、a、p、は式(1)と同じであり、Z1はハロゲン原子、ニトロ基、−SO2CH3および−SO2CF3から選ばれる原子または基を示す。
【請求項3】
上記式(1)において、pが2〜150である、請求項1または2に記載の芳香族系共重合体。
【請求項4】
上記式(1−1)で表わされる構造単位と上記式(1−2)で表わされる構造単位をモル比(1−1):(1−2)で100:0〜50:50の割合で含む、請求項1〜3のいずれかに記載の芳香族系共重合体。
【請求項5】
上記式(1−1)で表わされる構造単位が、下記式(1−3)で表わされる構造単位と下記式(1−4)で表わされる構造単位をモル比(1−3):(1−4)で10:90〜90:10の割合で含む、請求項1〜4のいずれかに記載の芳香族系共重合体。
【化5】

(上記式中、R2、A、W1、lは上記式(1−1)と同義であり、eは1または3を表わす。)
【化6】

(上記式中、R2、A、W1、lは上記式(1−1)と同義であり、fは2または4を表わす。)
【請求項6】
スルホン酸基を有するポリマーセグメント(A)が下記式(3)で表される構造単位を有する、請求項1〜4のいずれかに記載の芳香族系共重合体。
【化7】

(上記式中、Ar11、Ar12、Ar13は、それぞれ独立に、フッ素原子で置換されていてもよい、ベンゼン環、縮合芳香環、含窒素複素環からなる群より選ばれる少なくとも1種の構造を有する2価の基を示す。Yは、−CO−、−SO2−、−SO−、−CONH−、−COO−、−(CF2u−(uは1〜10の整数である)、−C(CF32−、または直接結合を示す。Zは、−O−、−S−、直接結合、−CO−、−SO2−、−SO−、−(CH2l−(lは1〜10の整数である)、または−C(CH32−を示す。
22は、直接結合、−O(CH2p−、−O(CF2p−、−(CH2p−または−(CF2p−を示す(pは、1〜12の整数を示す)。R23、R24は、それぞれ独立に、水素原子、アルカリ金属原子または脂肪族炭化水素基、脂環基、酸素を含む複素環基を示す。ただし、上記式中に含まれる全てのR23およびR24のうち少なくとも1個は水素原子である。
1は0〜4の整数、x2は1〜5の整数、aは0〜1の整数、bは0〜3の整数を示す。)
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか1項に記載の芳香族系共重合体からなる高分子電解質。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれか1項に記載の芳香族系共重合体からなるプロトン伝導膜。
【請求項9】
請求項7に記載の高分子電解質膜と、該高分子電解質膜の両側に接して、触媒層とガス拡散層とを有することを特徴とする膜−電極接合体。
【請求項10】
請求項9に記載の膜−電極接合体を有する固体高分子型燃料電池。

【公開番号】特開2012−67216(P2012−67216A)
【公開日】平成24年4月5日(2012.4.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−213980(P2010−213980)
【出願日】平成22年9月24日(2010.9.24)
【出願人】(000004178)JSR株式会社 (3,320)
【Fターム(参考)】