説明

芳香族C8留分の異性化の改善方法

【課題】分子当たり8個の炭素原子を含有する芳香族化合物の異性化方法を提供する。
【解決手段】構造型EUOを有する少なくとも1種のゼオライトを含む触媒の存在下での、エチルベンゼンを少なくとも含有する芳香族C8留分の異性化型異性化方法であって、触媒活性化期間の終わりに50〜8000ppmの範囲の量の水を、処理されるべき供給原料に添加することにより、エチルベンゼンを少なくとも含有する芳香族C8留分のパラキシレンリッチなフラクションへの異性化の転化率を改善することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、構造型EUOを有する少なくとも1種のゼオライトを含む触媒の存在下での、分子当たり8個の炭素原子を含有する芳香族化合物の異性化方法であって、触媒活性化期間の終了時において供給原料中の水の存在下に操作される、方法に関する。具体的には、本発明は、分子当たり8個の炭素原子を含有する芳香族化合物のパラキシレンへの異性化、より具体的には、エチルベンゼンのパラキシレンへの異性化に適用可能である。
【背景技術】
【0002】
芳香族C8留分(分子当たり8個の炭素原子を含有する芳香族化合物)の異性化は、パラキシレン形成のための主要な経路である。パラキシレンは石油化学産業において非常に求められている製品であり、特に、ポリエステルの繊維およびフィルムの製造に用いられている。接触改質または水蒸気分解からの芳香族C8留分は、メタ−、パラ−、オルト−キシレンおよびエチルベンゼンを含む。蒸留によりエチルベンゼンを分離するコストがあまりにも高く、したがって、パラキシレンのみ、および場合によるオルトキシレンの分離は、種々の分離方法を用いる、ゼオライト上の選択的分離によって行われている。残留C8留分は、次いで、異性化装置において変換される。その目的は、パラキシレンのフラクションを最大にし、かつ、エチルベンゼンをキシレンまたはベンゼンにグレードアップさせることである。
【0003】
キシレンの異性化は、一元機能(mono-functional)酸メカニズムを用いて起こり、酸機能は、一般に、ゼオライトによって提供される。対照的に、エチルベンゼンの変換には、酸機能と水素化機能の両方を有する二元機能触媒が必要とされる。既存の方法では、エチルベンゼンは、キシレンに異性化されるか、または、ベンゼンに脱アルキル化されるかのいずれかである。これらは、それ故に、異性化型異性化(isomerizing isomerization)または脱アルキル型異性化(dealkylating isomerization)のいずれかとして知られている。
【0004】
用いられる触媒は、一般に、ゼオライト相、少なくとも1種の金属、およびバインダを組み合わせる二元機能触媒である。
【0005】
芳香族C8留分の異性化のために用いられるゼオライトの中にZSM−5があり、このものは、単独でまたは他のゼオライト、例えば、モルデナイトとの混合物として用いられる。このような触媒は、特に特許文献1〜3において記載されている。他の触媒は、モルデナイトをベースとし、例えば、特許文献4〜6において記載されている。
【0006】
特許文献7〜9も挙げられ得る;それらは、MTWまたはEUO型のゼオライト触媒を用いている。
【0007】
キシレンへの異性化型異性化におけるゼオライト触媒に対する改善は、エチルベンゼンの転化率を増加させることからなるだろうが、これは、この変換において最も困難な工程である。特に、エチルベンゼンの不均化および脱アルキル化等の二次的な副反応により、この化合物のキシレンへのグレードアップが制限される。
【0008】
一つの経路は、用いられるゼオライトの性質によってまたは異なる金属を添加することによって触媒を改変することからなる。別の経路は、方法の操作を調節することからなる。
【0009】
所定の方法は、特許文献10におけるように、完全に水を含まない無水芳香族供給原料により機能を果たす。対照的に、特許文献11には、異性化型異性化方法において大量の水を供給原料に添加することにより触媒のコーキングが制限され得ることが教示されている。
【0010】
特許文献12には、シリカ−アルミナをベースとし金属を含まない触媒の存在下に、供給原料に水を添加して、エチルベンゼンなしでキシレンを異性化するための方法が記載されている。特許文献13では、痕跡量の水を、MFI、FER、MWW、MELまたはMTT型のゼオライトをベースとする触媒による異性化方法に導入することにより、損失が低減しかつ触媒の耐用期間を改善することが可能となっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】米国特許第4467129号明細書
【特許文献2】米国特許第4482773号明細書
【特許文献3】欧州特許第138617号明細書
【特許文献4】米国特許第4723051号明細書
【特許文献5】米国特許第4665258号明細書
【特許文献6】仏国特許出願公開第2477903号明細書
【特許文献7】米国特許出願公開第2005/0277796号明細書
【特許文献8】米国特許第6388159号明細書
【特許文献9】米国特許第6313363号明細書
【特許文献10】米国特許第3856872号明細書
【特許文献11】米国特許第4723050号明細書
【特許文献12】米国特許第3200162号明細書
【特許文献13】米国特許第6512155号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
供給原料に水を添加する効果は、それ故に、複数のパラメータ、例えば、方法の種類(異性化または脱アルキル化)、供給原料の種類および使用される触媒に依存する。
【0013】
本出願人は、EUO型ゼオライトをベースとする触媒の存在下での、エチルベンゼンを少なくとも含む芳香族C8留分の異性化型異性化方法であって、前記触媒の活性化工程の後に少量の水を処理されるべき供給原料に添加することにより、エチルベンゼンの転化率を改善することができる、方法を発見した。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明は、EUO型ゼオライトをベースとする触媒を用いる、エチルベンゼンを少なくとも含有する芳香族C8留分の異性化型異性化方法であって、触媒活性化期の終わりに50〜8000ppmの範囲の量で水が導入される、方法からなる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】図1は、本発明の方法に従って用いられる場合(◆)と、本発明の方法に従わない操作で用いられる場合(■)の芳香族C8留分の異性化における触媒Aの触媒性能を示し、Δ転化率(%)として測定され、Δ転化率(%)は、横軸に沿う供給原料中の水含有量の関数とする縦軸の上昇である。Δ転化率は、エチルベンゼンの転化率に対応し、供給原料中に水が存在する場合に測定された転化率と供給原料中に水が存在しない場合に測定された転化率の間の差異である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明は、EUO型ゼオライトをベースとする触媒を用いる、エチルベンゼンを少なくとも含有する芳香族C8留分の異性化型異性化方法であって、触媒活性化期の終わりに50〜8000ppmの範囲の量で水が導入される、方法からなる。
【0017】
本発明の方法は、適切な異性化条件より苛酷な条件下に行われる先行の活性化工程を用い、触媒のコーキングが行われる。この活性化工程の終わりに、触媒上のコークス含有量(触媒を取り出し、トルエンによるSoxhlet抽出後の、炭素分析によって測定される)は、全触媒質量に対して有利には0.5〜4重量%、好ましくは0.8〜3重量%である。
【0018】
本発明の方法は、パラキシレンリッチなフラクションを最大限にしながら、改善されたエチルベンゼン転化率を得るために用いられ得る。本発明の方法の別の利点は、本発明の方法における触媒の安定性の増大である。
【0019】
本発明は、少なくとも一部において酸型である構造型EUOを有する少なくとも1種のゼオライトと、元素周期律分類の第VIII族からの少なくとも1種の金属と、少なくとも1種のバインダとを含む触媒の存在下での、分子当たり8個の炭素原子を含有する芳香族化合物および少なくともエチルベンゼンを含む供給原料の異性化型異性化方法であって、
a) 触媒を還元する工程と、
b) 前記触媒を前記供給原料の存在中に投入することによって触媒を活性にする工程と、
c) 50〜8000ppmの量で水を前記供給原料に導入する工程と、
d) 工程c)からの水を含有する供給原料を、工程b)において活性にされた触媒と、異性化条件下に接触させる工程と
を含む、方法に関する。
【0020】
本発明の方法において用いられる触媒は、分子当たり8個の炭素原子を含有する芳香族化合物および少なくともエチルベンゼンを含む供給原料の異性化反応において用いられる。有利には、前記供給原料は、エチルベンゼンのみを含む。好ましくは、それは、キシレンおよびエチルベンゼンの混合物を含む。
【0021】
本発明において用いられる、処理されるべき供給原料は、8個の炭素原子を含有するパラフィン並びに8個の炭素原子を含有するナフテンを含み得る。好ましくは、分子当たり8個の炭素原子を含有する芳香族化合物および少なくともエチルベンゼンを含む前記供給原料は、接触改質または水蒸気分解に由来する。
【0022】
本発明との関連で、芳香族供給原料、供給原料または芳香族C8供給原料は、少なくとも、分子当たり8個の炭素原子を含有する芳香族化合物および少なくともエチルベンゼンを含む炭化水素供給原料に対応することを目的としている。
【0023】
本発明の方法において用いられる供給原料の水含有量は、一般に0〜200重量ppm、好ましくは0〜150重量ppm、より好ましくは0〜50重量ppmである。
【0024】
触媒の還元工程および好ましくは触媒の硫化工程の後、触媒は、活性化工程(工程b)を経る。芳香族供給原料は、以下の操作条件下に導入される:
・温度:450〜600℃(両限界値を含む)、好ましくは500〜600℃(両限界値を含む)、より好ましくは530〜600℃(両限界値を含む)。
【0025】
・水素分圧(partial pressure of hydrogen:ppH):2〜45バール(両限界値を含む)(1バール=0.1MPa)、好ましくは10〜45バール(両限界値を含む)、より好ましくは10〜40バール(両限界値を含む)
・全圧:5〜50バール(両限界値を含む)、好ましくは10〜45(両限界値を含む)
・空間速度(毎時の触媒の重量(kg)当たりの、導入される供給原料の重量(kg)で表される)(WHSV):0.25〜30h−1(両限界値を含む)、好ましくは1〜10h−1(両限界値を含む)、より好ましくは2〜6h−1(両限界値を含む)。
【0026】
好ましくは、活性化工程は、10〜500時間の範囲、好ましくは10〜200時間の範囲の継続期間にわたって行われる。
【0027】
異性化工程の前に、本発明の方法の工程c)は、供給原料に対する水の重量による量 50〜8000ppm、好ましくは50〜800ppm、好ましくは150〜1000ppmの範囲で水を導入する工程に対応する。
【0028】
触媒活性化工程(工程b)の後、および、規定された量で水が導入された(工程c)後、分子当たり8個の炭素原子を含有する芳香族化合物および少なくともエチルベンゼンを含む供給原料は、異性化方法の条件下に異性化装置に導入される。この条件は、活性化条件より温和であり、すなわち:
・温度:400℃以下、好ましくは395℃以下、好ましくは0〜395℃、好ましくは100〜395℃;
・水素分圧(ppH):20バール以下、好ましくは10バール以下、好ましくは0〜20バール、好ましくは0〜10バール;
・全圧:30バール以下、好ましくは25バール以下、好ましくは0〜30バール、好ましくは0〜25バール;
・空間速度(毎時の触媒の重量(kg)当たりの、導入される供給原料の重量(kg)で表される)(WHSV):30h−1以下、好ましくは0〜30h−1
・供給原料に対する添加される水の重量による量:50〜8000ppm、好ましくは50〜800ppm、好ましくは150〜1000ppm。
【0029】
有利には、異性化方法の工程d)の条件は以下の通りである:
・温度:300〜400℃(両限界値を含む)、好ましくは320〜400℃(両限界値を含む)、より好ましくは340〜400℃(両限界値を含む);
・水素分圧(ppH):2〜20バール(両限界値を含む)、好ましくは4〜10バール(両限界値を含む)、より好ましくは5〜10バール(両限界値を含む);
・全圧:5〜30バール(両限界値を含む)、好ましくは7〜25バール(両限界値を含む);
・空間速度(毎時の触媒の重量(kg)当たりの、導入される供給原料の重量(kg)で表される)(WHSV):0.25〜30h−1(両限界値を含む)、好ましくは1〜10h−1(両限界値を含む)、より好ましくは2〜6h−1(両限界値を含む);
・供給原料に対する添加される水の重量による量:50〜8000ppm、好ましくは50〜800ppm、より好ましくは150〜1000ppm。
【0030】
供給原料に添加される水は、触媒床の上流に供給原料自体と共にあるいは触媒床の任意のレベルで導入され得る。好ましくは、水は蒸気の形態で注入されるか、または、それは、触媒と接触した際に蒸気の形態であるようにされる。
【0031】
本発明の関連において用いられる、触媒を活性にするために用いられる供給原料および異性化条件下に処理されるべき供給原料は、異なる供給原料または同一の供給原料のいずれかを意味することを目的とする。好ましくは、2つの供給原料は同一である。換言すると、活性化工程において用いられる供給原料は、適切な異性化工程において用いられる供給原料と同一である。
【0032】
工業設備において、異性化装置の反応セクションからの流出物は、一般に、連続する1回以上の冷却工程を経、次いで、分離器ドラムとして一般的に知られるフラッシュドラムにおいて分離される。前記ドラムからの気相は、再循環圧縮機を用いて反応セクションに再循環させられ、再循環を構成する。前記ドラムからの液相は、一般的に、1個以上の蒸留分離カラムに送られ、必要ならば、ナフテン留分を反応セクションに再循環させ、軽質生成物または反応の副生成物、例えば、ベンゼン、トルエン、C8+芳香族化合物(8個超の炭素原子を含有する芳香族化合物)を分離する。
【0033】
活性化工程b)の後、触媒上の水の分圧を維持するために、数多くの異なる方法で系に水が注入される。
【0034】
第1の方法は、水蒸気を再循環ガス中に注入して、所望の水含有量、すなわち、供給原料に対する水の重量による量 50〜8000ppm、好ましくは50〜800ppm、好ましくは150〜1000ppmを提供することからなる。
【0035】
第2の方法は、少量の、有利には、50〜7800ppmの液状水を供給原料に注入し、かつ、得られた混合物を異性化装置(単数または複数)への入口に送ることからなる;異性化供給原料中に溶解した水または遊離した水は、次いで、異性化反応装置の種々の熱交換系またはオーブンにおいて水蒸気に変換され、それ故に、本明細書において言及された最適な濃度が得られることが可能になる。
【0036】
第3の方法は、供給原料と共に、当業者に知られている本方法に適合する(すなわち、反応系に有害でない)任意の他の生成物であって、異性化のための操作条件下に分解して水を生ずるものを注入することからなる。例としてアルコールが挙げられ得、例えば、メタノールまたはエタノールがある。
【0037】
本発明の方法において用いられる触媒は、EUO型ゼオライト、好ましくは、ゼオライトEU−1、ZSM−50およびTPZ−3によって構成される群から選択されるゼオライト、より好ましくは、EU−1およびZSM−50ゼオライトによって構成される群から選択されるゼオライトを含有する;より好ましくは、ゼオライトは、EU−1ゼオライトである。
【0038】
触媒に含まれる構造型EUOを有するゼオライト、特にEU−1ゼオライト、ZSM−50ゼオライトまたはTPZ−3ゼオライトおよびそれらの製造方法は、文献、例えば、特許EP B1 42 226、US 4 640 829またはEP A 51318において記載されている。
【0039】
本発明の方法において用いられる触媒は以下を含む:
・構造型EUOを有する少なくとも1種のゼオライト;
・元素周期律分類の第VIII族(新元素周期律分類(CRC Handbook of Chemistry and Physics, 2000-2001)の第8〜10族に対応する)からの少なくとも1種の金属;
・少なくとも1種のバインダ。
【0040】
より正確には、本発明の方法において用いられる触媒は、有利には、以下からなる:
・ケイ素と、アルミニウム、鉄、ガリウムおよびホウ素によって形成される群から選択される少なくとも1種の元素Tとを含み、原子比Si/Tが5〜100(両限界値を含む)、好ましくは5〜80(両限界値を含む)、より好ましくは5〜50(両限界値を含む)である構造型EUOを有する少なくとも1種のゼオライト:重量で1〜90%(両限界値を含む)、好ましくは3〜60%(両限界値を含む)、より好ましくは4〜40%(両限界値を含む);好ましくは、前記元素Tは、アルミニウムおよびホウ素によって構成される群から選択される;より好ましくは、元素Tはアルミニウムである;
・元素周期律分類の第VIII族からの少なくとも1種の金属:重量で0.01〜2%(両限界値を含む)、好ましくは0.05〜1.0%(両限界値を含む);前記第VIII族からの金属は、ゼオライト上またはバインダ上に担持させられる;
・少なくとも1種のバインダ:100重量%までの補足量。
【0041】
有利には、本発明の方法において用いられる前記触媒は、EU−1ゼオライトを含有する。
【0042】
好ましくは、本発明の方法において用いられる触媒中に含まれる元素周期律分類の第VIII族からの金属は、パラジウムおよび白金によって構成される群から選択される金属であり、好ましくは、白金である。
【0043】
本発明の方法において用いられる触媒中に含まれる構造型EUOを有する前記ゼオライトは、少なくとも部分的に酸型(すなわち、水素型(H))であり、原子比C/Tは、0.5未満、好ましくは0.15未満である;競争カチオン(competing cation)Cは、アルカリまたはアルカリ土類カチオンによって構成される群から、好ましくは、カチオンNaおよびKによって構成される群から選択される;好ましくは、競争カチオンCはカチオンNaである。有利には、(H)型のゼオライトは、原子比Na/Alが0.5未満、好ましくは0.15未満であるようにされる。
【0044】
本発明のバリエーションにおいて、本発明の方法において用いられる触媒はまた、以下を含み得る:
・元素周期律分類の第IIIA族および第IVA族(新元素周期律分類の第3族および第4族に対応する)によって形成される群から選択される、好ましくは、スズおよびインジウムによって形成される群から選択される少なくとも1種の金属:重量で0.01〜2%(両限界値を含む)、好ましくは0.05〜1.0%(両限界値を含む);
・場合による、硫黄;その量は、第VIII族からの担持金属元素の数に対する硫黄原子の数の比が0.1〜2(両限界値を含む)であるようにされる;
・少なくとも1種のバインダ:100重量%までの補足量。
【0045】
当業者に知られている構造型EUOを有する任意のゼオライトが、本発明の方法において用いられる触媒に適していると考えられる。それ故に、例えば、前記触媒を調製するためのベースとして用いられるゼオライトは、上記に定義されたSi/T比、より特定的には上記のSi/Al比に関する要求仕様を有する合成されたままのEU−1であり得る。
【0046】
本発明は、本発明の方法において用いられるゼオライトに対する任意のタイプの脱アルミニウム処理を含み、これは、当業者に知られており、例えば、蒸煮処理(steaming treatment)、すなわち、水の存在下での熱処理、または酸攻撃(acid attack)がある。
【0047】
本発明の方法において用いられる触媒中に含まれるバインダ(またはマトリクス)は、一般的に、粘土、マグネシア、アルミナ、シリカ、酸化チタン、酸化ホウ素、ジルコニア、リン酸アルミニウム、リン酸チタン、リン酸ジルコニウムおよびシリカ−アルミナによって形成される群から選択される少なくとも1種の要素からなる。木炭が用いられてもよい。好ましくは、本発明の方法において用いられる触媒において用いられるバインダはアルミナである。当業者に知られており、かつ、種々の比表面積および細孔容積を有する任意のアルミナが、本発明の方法の触媒に適し得るが、好ましくは、100〜250m/gの範囲の比表面積を有するガンマ型アルミナである。
【0048】
金属は、同じ方法で導入されても、異なる技術を用いて調製の任意の時点で成形の前または後に、いかなる順序で導入されてもよい。さらに、中間処理、例えば、焼成処理および/または還元が、種々の金属の担持の間に適用され得る。
【0049】
白金族からの少なくとも1種の貴金属の、本発明において用いられる触媒は、有利には、前述の化合物または酸形態を用いて使用される。この場合、貴金属は、ゼオライト上に担持させられる。
【0050】
白金は、一般的に、ヘキサクロロ白金酸の形態でマトリクスに導入されるが、貴金属の任意のアンモニア化合物が用いられてもよく、あるいは、化合物、例えば、クロロ白金酸アンモニア、二塩化白金ジカルボニル(platinum dicarbonyl dichloride)、ヘキサヒドロキシ白金酸、塩化白金または硝酸パラジウムである。
【0051】
白金の場合、式Pt(NHを有するテトラミン白金(II)塩、式Pt(NHを有するヘキサミン白金(IV)塩、式PtX(NH)Xを有するハロゲノペンタミン白金(IV)塩、式PtX(NHを有するテトラハロゲノジアミン白金(IV)塩、式H(Pt(acac)X)を有するハロゲン−ポリケトンおよびハロゲン化合物を有する白金錯体(Xは、塩素、フッ素、臭素およびヨウ素によって形成される群から選択されるハロゲンである;好ましくは、Xは塩素であり、acacは、アセチルアセトンに由来するアセチルアセトン基Cを示す)の使用を挙げることも可能である。
【0052】
第IIIA族および第IVA族からの元素によって形成される群から選択される追加金属が、例えば、第IIIA族および第IVA族からの元素の塩化物、臭化物、硝酸塩、アルキル化物等の化合物を介して導入され得、すなわち、好ましくは、スズまたはインジウムであり、スズおよびインジウムのアルキル化物、硝酸塩または塩化物である。好ましくは、バインダと共にゼオライトを成形する間にスズが導入される。
【0053】
触媒の調製は、当業者に知られているあらゆる方法を用いることにより行われ得る。
【0054】
好ましくは、焼成処理が行われ、次いで、少なくとも1つのNHNO溶液における少なくとも1回のイオン交換が行われ、原子比C/Tが0.5未満、好ましくは0.15未満であるゼオライトが得られる。有利には、競争カチオンCは、カチオンNaであり、元素Tはアルミニウムである。
【0055】
イオン交換は、好ましくは、硝酸アンモニウムまたは酢酸アンモニウムの存在下に行われ、その濃度は、0.005〜15N、好ましくは0.1〜10Nであり、温度は15〜100℃であり、継続期間は1〜10時間であり、バッチでまたは連続的な反応器において行われる。一般に、交換工程の後に、得られたゼオライトは、乾燥させられる。この乾燥は、例えば、オーブンにおいて行われ、温度は周囲温度から250℃であり、その後に、空気中300〜600℃の温度で焼成される。連続的な交換を行うことが可能である。
【0056】
次に、本発明において用いられる触媒は、一般に、成形され、触媒は、好ましくは、本発明の方法における使用のために押出物またはビーズ状の形態にされる。触媒の調製のバリエーションにおいて、成形処理は、焼成処理およびイオン交換の前に行われる。
【0057】
触媒の調製は、有利には、焼成処理によって完了する。焼成は、通常250〜600℃(両限界値を含む)温度で、約0.5〜10時間の期間にわたって行われる。好ましくは、焼成処理に先行して、乾燥処理、例えば、オーブン乾燥処理が、周囲温度から250℃までの範囲、好ましくは40〜200℃(両限界値を含む)の温度で行われる。前記乾燥工程は、好ましくは、前記焼成処理を行うのに必要な昇温の間に行われる。
【0058】
本発明の方法の好ましい実施において、用いられる触媒は、焼成処理の後に水蒸気処理(steaming)工程、すなわち、水の存在下の熱処理の工程を経る。
【0059】
本発明のバリエーションでは、本発明の方法において用いられる触媒は硫黄を含有する。硫黄は、上記の単数種または複数種の金属を含有する、成形され、焼成された触媒上に、現場(in situ)または現場外(ex situ)のいずれかにおいて導入され、その後、活性化工程および適正な異性化工程が行われる。現場硫化の場合、本発明の方法において用いられる触媒が事前に還元されていないならば、還元が行われた後に硫化処理が行われる。現場外硫化の場合、還元が行われた後に硫化処理が行われる。硫化は、水素の存在下に、当業者に周知であるあらゆる硫化剤を用いて行われ、例えば、ジメチルスルフィド、ジメチルジスルフィドまたは硫化水素である。例として、前記触媒は、水素の存在下に、ジメチルジスルフィド(CHを含有する供給原料により処理され、その濃度は、硫黄/金属の原子比が1.5であるようにされる。触媒は、次いで、高純度水素流中に、約3時間にわたって約400℃に維持された後に、本発明の方法の活性化工程に対応する供給原料が注入される。
【0060】
本発明の方法において用いられるべき触媒の調製の実施にも拘わらず、最終触媒の先行還元は、現場外で、水素流中で、例えば、450〜600℃の範囲の温度で、0.5〜4時間の範囲の期間にわたって行われ得る。
【0061】
触媒が硫黄を含有しない場合、金属の還元が、水素中において、現場で行われ、その後に、本発明の方法の活性化工程に対応する供給原料が注入される。
【0062】
以下の実施例は、本発明を例証するが、本発明の範囲を何等限定するものではない。
【0063】
(実施例1:EU−1ゼオライトおよび0.3重量%の白金を含有する触媒Aの調製)
用いられる出発材料は、有機テンプレート、ケイ素およびアルミニウムを含む、合成されたままのEU−1ゼオライトであり、そのSi/Al原子比は15であり、乾燥EU−1ゼオライトの重量に対するナトリウム含有量は、1.5重量%であり、これは、Na/Al原子比0.4に相当する。
【0064】
このEU−1ゼオライトは、最初に、空気流中で550℃での焼成処理を6時間にわたって受けた。次に、得られた固体は、NHNOの10N溶液中で3回のイオン交換工程を受けた。これは、各交換工程につき約100℃で4時間にわたって行われた。
【0065】
これらの処理の終わりに、NH型のEU−1ゼオライトのSi/Al全体原子比は15であり、乾燥EU−1ゼオライトの重量に対するナトリウム含有量は50ppmであり、これは、Na/Al原子比0.003に対応する。
【0066】
EU−1ゼオライトは、次いで、アルミナゲルと共に押出成形され、乾燥および乾燥空気中の焼成の後に、1.4mm径の押出物によって構成される担体が得られた。この担体は、約10重量%のH型EU−1ゼオライトと、約90重量%のアルミナとを含有していた。
【0067】
得られた担体は、競争剤(塩酸)の存在下にヘキサクロロ白金酸による陰イオン交換を経て、触媒に対して0.3重量%の白金が担持させられた。湿潤固体は、次いで、120℃で12時間にわたって乾燥させられ、空気中約500℃の温度で1時間にわたって焼成された。
【0068】
得られた触媒は、水素型(H)のEU−1ゼオライト10.0重量%と、アルミナ89.7重量%と、白金0.3重量%と含有していた。酸素化学吸着によって測定される白金の分散率は90%であった。
【0069】
(実施例2:本発明方法を用いる、芳香族C8留分の異性化における触媒Aの触媒特性の評価)
触媒Aの性能の評価が、メタキシレン、オルトキシレンおよびエチルベンゼンを主として含有する芳香族C8留分の異性化によって行われた。操作条件は以下の通りであった:
【0070】
【表1】

【0071】
触媒は、高純度の水素の流れ中で3時間にわたって400℃に維持され、次いで、供給原料が注入された。
【0072】
第1の場合(本発明に合致しない)では、芳香族供給原料は、以下の条件下に触媒A上に直接的に注入される:385℃、WHSV=3.5h−1(供給原料の質量/触媒の質量/時間)、全圧=10バール、ppH=8.8バール。
【0073】
第2の場合(本発明に合致する)では、触媒は、供給原料中480℃で80時間にわたって活性化工程を経た;WHSV=3h−1、全圧=15バール、水素分圧ppH=8.8バール。その後、操作条件は、本発明に合致しなかった場合のものに調節された:385℃、WHSV=3.5h−1、全圧=10バール、ppH=8.8バール。
【0074】
両方の場合において、エチルベンゼン転化についての、供給原料に水を添加する効果は、同じ操作条件:385℃、WHSV=3.5h−1、全圧=10バール、ppH=8.8バール:の下に添加された種々の量の水について測定された
触媒は、エチルベンゼン転化率によって、供給原料中に水が存在する場合と水が存在しない場合とで測定された転化率の間の差異により比較された(図1)。
【0075】
水を含有する供給原料を導入する前に活性化を経た触媒は、エチルベンゼンのパラキシレンへの転化率における増加(Δ転化率)を示し、これは、上記の活性化を経なかった触媒より実質的に高かった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも一部が酸型である構造型EUOを有する少なくとも1種のゼオライトと、元素周期律分類の第VIII族からの少なくとも1種の金属と、少なくとも1種のバインダとを含む触媒の存在下での、分子当たり8個の炭素原子を含有する芳香族化合物および少なくともエチルベンゼンを含む供給原料の異性化型異性化方法であって、
a)触媒を還元する工程と、
b)前記触媒を前記供給原料と接触させることにより触媒を活性にする工程であって、その際の温度は450〜600℃(両限界値を含む)であり、水素分圧は2〜45バール(両限界値を含む)、全圧は5〜50バール(両限界値を含む)であり、空間速度は0.25〜30h−1(両限界値を含む)である、工程と、
c)50〜8000ppmの範囲の量で前記供給原料に水を導入する工程と
d)工程c)からの水含有供給原料を工程b)において活性にされた触媒と異性化条件下に接触させる工程と
を含む、方法
【請求項2】
酸型の触媒の原子比C/Tは、0.5未満である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
工程a)における触媒の還元の後に、硫化工程が行われる、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記構造型EUOを有するゼオライトは、EU−1ゼオライトである、請求項1〜3のいずれか1つに記載の方法。
【請求項5】
前記構造型EUOを有するゼオライトは、ZSM−50ゼオライトである、請求項1〜3のいずれか1つに記載の方法。
【請求項6】
前記構造型EUOを有するゼオライトは、TPZ−3ゼオライトである、請求項1〜3のいずれか1つに記載の方法。
【請求項7】
前記触媒は、さらに、元素周期律分類の第IIIA族および第IVA族からの金属から選択される少なくとも1種の金属を含む、請求項1〜6のいずれか1つに記載の方法。
【請求項8】
活性化工程b)の終わりに、触媒上のコークス量は、全触媒質量に対して0.5〜4重量%である、請求項1〜7のいずれか1つに記載の方法。
【請求項9】
コークス量は、全触媒質量に対して0.8〜3重量%である、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
工程d)における異性化条件は、温度400℃以下、水素分圧20バール以下、全圧30バール以下および空間速度30h−1以下である、請求項1〜9のいずれか1つに記載の方法。

【図1】
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【公開番号】特開2013−6837(P2013−6837A)
【公開日】平成25年1月10日(2013.1.10)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2012−140282(P2012−140282)
【出願日】平成24年6月22日(2012.6.22)
【出願人】(591007826)イエフペ エネルジ ヌヴェル (261)
【氏名又は名称原語表記】IFP ENERGIES NOUVELLES
【Fターム(参考)】