説明

芽胞の発芽方法およびこれを用いた芽胞菌の殺菌方法

【課題】品質劣化を伴うことなく、液卵または卵加工品に含まれる芽胞菌やこれが形成した芽胞を殺菌するための芽胞の発芽方法および芽胞菌の殺菌方法を提供する。
【解決手段】本発明に係る芽胞の発芽方法は、液卵または卵加工品に含まれる芽胞菌が形成する芽胞を、前記液卵または前記卵加工品の品質を劣化させることなく発芽させる芽胞の発芽方法であって、前記液卵または前記卵加工品を5℃以上60℃未満の温度で10MPa以上200MPa以下の加圧処理を1分間から120分間行うことを特徴とする。また、本発明に係る芽胞菌の殺菌方法は、前記した芽胞の発芽方法で液卵または卵加工品に含まれる芽胞を発芽させた後、発芽させた芽胞を殺菌する殺菌処理を行うことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液卵または卵加工品に含まれる芽胞菌が形成する芽胞の発芽方法およびこれを用いた芽胞菌の殺菌方法に関する。
【背景技術】
【0002】
バチルス・セレウス(Bacillus cereus)やバチルス・ズブチリス(Bacillus subtilis)といったバチルス(Bacillus)属や、クロストリジウム(Clostridium)属などの芽胞を形成する芽胞菌は、芽胞を形成すると耐熱性、耐圧性、耐乾燥性、耐薬剤性などが極めて高くなり、殺菌が困難となる。
【0003】
現在、食品・医薬品等に存在する芽胞菌およびこれが形成した芽胞の殺菌は、レトルト処理、UHT処理、オートクレーブ処理などの高温加熱殺菌法で行うことが一般的となっているが、高温加熱殺菌法には、加熱による食品等の品質の劣化(変性、凝固、変色など)が著しいという問題がある。そのため、液卵のように、加熱によって容易に品質が劣化するものに対しては、その品質を維持しながらこれに含まれる芽胞菌および芽胞の殺菌を行うことは極めて困難である。
【0004】
したがって、液卵や卵加工品については現在のところ、100℃以下の温度条件で殺菌する低温殺菌法が行われることが多いが、低温殺菌法では芽胞菌が形成した芽胞を死滅させることができない。そのため、例えば10℃以下の低温で流通させることで、残存する芽胞の発芽と増殖を抑制しているが、バチルス・セレウス等の低温性芽胞菌は、10℃以下の低温でも発芽し、増殖してしまう。特に、バチルス・セレウスは食中毒菌であるため、液卵や卵加工品の殺菌、保存、流通において最も注意しなければならない芽胞菌であるといえる。
【0005】
なお、加熱による食品等の品質劣化を抑制しつつ、耐熱性芽胞を殺菌・除去する手法としては、超高圧を利用した芽胞菌の殺菌方法や、芽胞の発芽を利用した殺菌法、膜濾過法等もよく知られている。また、残存する芽胞菌の増殖を抑制する目的で、日持ち向上剤や保存料等の添加物を添加する場合も多い。
【0006】
超高圧を利用した芽胞菌の殺菌方法は、芽胞菌の殺菌処理工程において、食品等が加熱されて品質が劣化するのを低減させることが可能である。超高圧を利用した芽胞菌の殺菌方法としては、例えば、特許文献1に記載のアルコール飲料の高圧処理方法がある。かかる高圧処理方法は、常温で100MPa以上の静水圧でアルコール飲料を殺菌するものである。
【0007】
芽胞の発芽を利用した殺菌法としては、食品等を室温から50℃程度の温度で10分間から2時間程度処理することで食品中の芽胞を発芽させた後に低温殺菌を行う、間歇殺菌法が古くから知られている。また、特許文献2に記載されているように、細菌芽胞を40℃以上で1分間以上の加熱による発芽活性化処理を行った後、100MPa以上の圧力で殺菌を行う手法も報告されている。
【0008】
なお、間歇殺菌法における発芽活性化処理に関しては、特許文献2のように40℃以上(実質的には60〜100℃)の加熱処理によって行われることが多い。
【0009】
一方、圧力と加熱を併用した芽胞の発芽方法として,次のような報告もある。例えば、非特許文献1には、牛乳を45〜60℃で50〜200MPaの加圧処理を行うことによって牛乳中の芽胞の発芽が認められた旨報告されている。また、非特許文献2には、50〜70℃で20MPa以上の加圧処理を行うことによって発芽が認められた旨報告されている。
【0010】
また、圧力を利用した発芽方法も報告されている。例えば、非特許文献3には、70℃で30分間処理した芽胞に対して、発芽誘起因子として機能するアミノ酸の存在下ではあるが、20MPaといった低い加圧処理を行うことによって発芽が認められた旨報告されている。
【0011】
【特許文献1】特開平6−165667号公報(請求項1)
【特許文献2】特開平5−227925号公報(請求項1、2)
【非特許文献1】西賢司、加藤良、富田守、「バチルス属芽胞の圧力による活性化と殺菌」、日本食品科学工学会 41 p.542-549 1994
【非特許文献2】Aoyama, Y., Shigeta, Y., Okazaki, T., Hagura, Y. and Suzuki, K, “Germination and Inactivation of Bacillus subtilis Spores under Combined Conditions of Hydrostatic Pressure and Medium Temperature”, Food Sci. Technol. Res., 11 (1), p.101-105. 2005
【非特許文献3】J. G. CLOUSTON AND PAMELA A. WILLS, “Initiation of Germination and Inactivation of Bacillus pumilus Spores by Hydrostatic Pressure”, JOURNAL OF BACTERIOLOGY, Feb. 1969, p.684-690
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
前記したように、高温加熱殺菌法には、加熱による食品等の品質劣化が著しいという問題があり、低温殺菌法では芽胞菌が形成した芽胞を死滅させることができないという問題がある。また、日持ち向上剤や保存料等の添加物の添加は消費者から敬遠される傾向にあること、および添加による呈味性の劣化を伴うことから、添加物の削減が強く望まれている。
【0013】
特許文献1や特許文献2に記載の超高圧を利用した芽胞菌の殺菌方法は、100MPa以上、実際には300〜700MPaといった極めて高い圧力を必要とするため、殺菌処理に係る設備費用、殺菌処理費用が高額なものとなる問題点を有している。また、食品によっては超高圧処理そのものにより品質が劣化してしまう場合もある。特に、タンパク質を含む液卵や卵加工品では、超高圧処理によりタンパク質が変性、凝固してしまうため、超高圧処理は有効な殺菌方法となり得ない場合がある。
【0014】
そして、間歇殺菌法は、殺菌効果が低く、安定性に欠けるだけでなく、手間や時間もかかるため生産性が悪いという問題がある。また、膜濾過法は、処理される対象物が膜を容易に透過するものでなくてはならず、液卵や卵加工品を膜濾過することはできない。
【0015】
発芽活性化処理を、特許文献2のように加熱処理で行う場合は、加熱温度が高いためにタンパク質が凝固・変性しやすく、品質劣化のおそれがある。
【0016】
また、非特許文献1のように比較的低い温度条件と比較的高い加圧条件で発芽活性化処理をする場合や、非特許文献2のように比較的高い温度条件と比較的低い加圧条件で発芽活性化処理をする場合は、なおタンパク質の凝固・変性が生じるおそれがあるため、品質劣化のおそれがある。
【0017】
また、非特許文献3のように加圧条件は低いものの、加圧前の前処理において比較的高い温度で加熱する場合は、タンパク質の凝固・変性が生じ、品質劣化のおそれがある。
【0018】
本発明は前記課題に鑑みてなされたものであり、品質劣化を伴うことなく、液卵または卵加工品に含まれる芽胞菌やこれが形成した芽胞を殺菌するための芽胞の発芽方法および芽胞菌の殺菌方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0019】
(1)前記課題を解決した本発明に係る芽胞の発芽方法は、液卵または卵加工品に含まれる芽胞菌が形成する芽胞を、前記液卵または前記卵加工品の品質を劣化させることなく発芽させる芽胞の発芽方法であって、前記液卵または前記卵加工品を5℃以上60℃未満の温度で10MPa以上200MPa以下の加圧処理を1分間から120分間行うことを特徴とする。
【0020】
このような圧力条件であれば、圧力による液卵または卵加工品の品質の劣化を伴うことなく処理を行うことが可能である。さらに、このような特定の圧力条件で処理することで、加熱による液卵または卵加工品の品質劣化を抑制することが可能である。すなわち、芽胞の発芽に最適な温度帯は30℃から60℃であるところ、液卵または卵加工品をこのような温度に芽胞の発芽に必要な10分間から2時間も放置すると液卵または卵加工品が品質劣化してしまう。また、芽胞の殺菌に必要な300〜700MPaといった圧力を負荷すると、液卵または卵加工品が圧力によって品質劣化してしまう。しかし、前記した特定条件の圧力処理によると、圧力が液卵または卵加工品の品質劣化に対して逆に保護的に作用し、常圧化では液卵または卵加工品が品質劣化するような30〜60℃といった温度においても液卵または卵加工品の品質が劣化するのを防ぐことができる。さらに芽胞の発芽を圧力および温度によって著しく促進することができる。
【0021】
(2)本発明の芽胞の発芽方法においては、前記液卵または前記卵加工品に日持ち向上剤および保存料のうち少なくとも一方を重量換算で0.1%から3%添加してもよい。このようにすれば、通常添加されるよりも少ない添加量の日持ち向上剤および/または保存料で殺菌後の日持ちをさらに向上させることができる。
【0022】
(3)本発明に係る芽胞菌の殺菌方法は、前記した芽胞の発芽方法で前記液卵または前記卵加工品に含まれる前記芽胞を発芽させた後、発芽させた前記芽胞を殺菌する殺菌処理を行うことを特徴とする。
本発明に係る芽胞の発芽方法で芽胞を発芽させると耐熱性や耐圧性が著しく低くなるので、発芽させた後に殺菌処理を行うことにより、芽胞菌およびこれが形成した芽胞を効果的に殺菌することができる。
【0023】
(4)本発明に係る芽胞菌の殺菌方法は、前記した芽胞の発芽方法で前記液卵または前記卵加工品に含まれる前記芽胞を発芽させ、室温から60℃の温度で10分間から120分間、常圧下で放置した後に、発芽させた前記芽胞を殺菌する殺菌処理を行うことを特徴とする。
加圧処理によって芽胞を発芽させた後、このような特定の条件で放置することで、芽胞をより確実に発芽させることができる。そして、これを殺菌処理することによって、効果的に芽胞(芽胞菌)を殺菌することが可能となる。
【0024】
(5)本発明の芽胞菌の殺菌方法において、前記殺菌処理が、40℃以上100℃以下の加熱処理、および、100MPa以上500MPa以下の加圧処理のうち少なくとも一方を1秒間から120分間行うことが好ましい。このような条件で加熱処理および/または加圧処理を行えば、芽胞菌およびこれが形成した芽胞をより効果的に殺菌することができる。
【0025】
(6)また、本発明の芽胞菌の殺菌方法において、前記殺菌処理が、40℃以上60℃以下の加熱処理、および、100MPa以上200MPa以下の加圧処理のうち少なくとも一方であるのがより好ましい。このような条件で加熱処理および/または加圧処理を行えば、芽胞菌およびこれが形成した芽胞を効果的に殺菌することができるだけでなく、液卵または卵加工品のタンパク質を凝固・変性させないため、例えば、殺菌後の液卵を生の状態で維持することができる。
【発明の効果】
【0026】
本発明に係る芽胞の発芽方法によれば、タンパク質を凝固・変性させないため、品質の劣化を伴うことなく、液卵または卵加工品に含まれる芽胞を発芽させることができる。
【0027】
本発明に係る芽胞菌の殺菌方法によれば、タンパク質を凝固・変性させないため、品質の劣化を伴うことなく、液卵または卵加工品に含まれる芽胞菌やこれが形成した芽胞を殺菌することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0028】
次に、本発明に係る芽胞の発芽方法およびこれを用いた芽胞菌の殺菌方法を実施するための最良の形態について詳細に説明する。
【0029】
まず、本発明に係る芽胞の発芽方法について説明する。
本発明に係る芽胞の発芽方法は、液卵または卵加工品に含まれる芽胞菌が形成する芽胞を、液卵または卵加工品の品質を劣化させることなく発芽させる芽胞の発芽方法であって、液卵または卵加工品を5℃以上60℃未満の温度で10MPa以上200MPa以下の加圧処理を1分間から120分間行うものである。
【0030】
ここで、液卵とは、一般的に卵から殻を取り除いて得た全卵、卵黄、卵白をいうが、本発明においては、かかる液状体に日持ち向上剤や保存料、調味料、或いは、例えば、蟹肉、鳥肉、蒲鉾といった具材や澱粉などの副原料を添加した加工原料もこれに含まれる。
また、卵加工品とは、ゆで卵、卵焼き、卵豆腐や茶碗蒸など、卵を用いて煮沸処理あるいは焼成処理等の加工処理をしたものをいう。この卵加工品にも日持ち向上剤や保存料、調味料などを添加してもよいことはいうまでもない。
【0031】
なお、日持ち向上剤および保存料は、これらをそれぞれ単体で用いることができるが、これらを併用することもできる。
日持ち向上剤や保存料としては、例えば、酢酸ナトリウム、グリシン、リン酸塩類等などを単体で用いることができるほか、これらを併用することもできる。
日持ち向上剤および保存料のうち少なくとも一方を用いる場合、これらを通常日持ち延長効果を発揮し得ないような極めて少量の添加量、例えば、重量換算で0.1%から3%添加することができる。この範囲で日持ち向上剤および/または保存料を添加すると、後述する芽胞菌の殺菌方法で殺菌した後の日持ちをさらに向上させることができる。日持ち向上剤および/または保存料の添加量が重量換算で0.1%未満であると殺菌後の日持ちがあまり向上せず意味がない。他方、日持ち向上剤および/または保存料の添加量が重量換算で3%を超えると呈味性の劣化が表れることがあり、好ましくない。
【0032】
また、発芽対象となる芽胞菌は、生鮮食品などに含まれる一般的な芽胞菌をいい、例えば、バチルス・セレウス(Bacillus cereus)やバチルス・ズブチリス(Bacillus subtilis)といったバチルス(Bacillus)属や、クロストリジウム・ボツリナム(Clostridium botulinum)やクロストリジウム・パーフリンジェンス(Clostridium perfringens)といったクロストリジウム(Clostridium)属などを挙げることができる。
【0033】
本発明に係る芽胞の発芽方法において、液卵や卵加工品を5℃以上60℃未満の温度で10MPa以上200MPa以下の加圧処理を1〜120分間行うのは、液卵や卵加工品のタンパク質などを極力変性や凝固等させないで、芽胞に適度な温度条件下、圧力を負荷することで発芽を促すためである。
【0034】
かかる加圧処理において温度条件が5℃未満となったり、加圧条件が10MPa未満となったりすると、芽胞の発芽を促すことが十分にできない結果、殺菌が不十分となるおそれがある。他方、かかる加圧処理において温度条件が60℃を超えると、液卵や卵加工品のタンパク質が変性や凝固等するおそれがある。なお、加圧条件の上限については500MPa以下、より好ましくは200MPa以下であれば液卵や卵加工品のタンパク質が変性や凝固等しないことを本発明者らは確認している。
なお、本発明の芽胞の発芽方法における加圧処理は、コスト低減等の点から、温度条件を5℃以上50℃未満としてもよい。また、加圧条件の上限を100MPa未満や20MPa未満としてもよい。加圧時間を1分間から60分間としてもよい。
【0035】
前記した芽胞の発芽に要する加圧条件は、従前の超高圧処理による殺菌条件と比べて非常に低いものであり、超高圧処理による液卵または卵加工品の品質の劣化を伴わない。さらに、かかる加圧条件であれば、加熱による品質の劣化を圧力によって抑制することが可能となる。さらに、圧力を低くすることで、殺菌にかかる設備費用、処理費用を安価に抑えることが可能となる。
【0036】
なお、液卵や卵加工品は、加圧装置の処理槽に直接投入して加圧処理を行うか、あるいは可塑性を有する容器に充填し、密封した後に加圧処理を行うとよい。
また、加圧方式は、静水圧によるものが望ましいが、ガス圧、油圧等の媒体を介する圧力を用いることもできる。
液卵や卵加工品と、圧力媒体とは、直接接触しないことが望ましいが、圧力媒体が食品として利用可能な清浄度を有する水、ガス等であれば、液卵や卵加工品に圧力媒体を直接注入してもかまわない。
充填する容器についても、ポリエチレン製、フッ素樹脂製など種々の素材を用いることができる。また、少なくとも充填容器の一部分が可塑性を有していればその形状や密封方式も問わない。
加圧方式も従来公知のバッチ式、半バッチ式、連続式などいずれの方式であってもかまわない。
これらは、後記する芽胞菌の殺菌方法においても同様である。
【0037】
以上に述べたように、本発明に係る芽胞の発芽方法によれば、特定の圧力と温度を負荷することで、液卵や卵加工品のタンパク質を変性や凝固等させることなく芽胞を発芽させることができる。
【0038】
次に、本発明に係る芽胞菌の殺菌方法について説明する。
本発明に係る芽胞菌の殺菌方法は、前記した本発明に係る芽胞の発芽方法で液卵または卵加工品に含まれる芽胞を発芽させた後、発芽させた芽胞を殺菌する殺菌処理を行うものである。
【0039】
芽胞菌は、芽胞を形成している間は、耐久型と呼ばれるように、耐熱性、耐圧性、耐乾燥性、耐薬剤性などが極めて高く、例えば、60℃程度の加熱では殺菌することは不可能であるが、発芽して通常の増殖・代謝能を有するようになる(栄養型と呼ばれる)と、耐熱性や耐圧性などが著しく低下し、極めて死滅しやすくなるため、比較的緩い条件、例えば、60℃程度の加熱であっても短時間のうちに芽胞菌を殺菌することが可能となる。本発明はかかる現象を利用して芽胞菌および芽胞の殺菌を行う。
【0040】
発芽した芽胞菌を殺菌する殺菌処理は、加熱処理および加圧処理のうち少なくとも一方とするのがよい。品質の劣化を招きにくい条件設定や調整が容易であり、十分な殺菌を行えるためである。
発芽した芽胞菌を殺菌する加熱処理は、40℃以上100℃以下とするのが好ましく、加圧処理は、100MPa以上500MPa以下とするのが好ましい。かかる条件は、上限が比較的厳しい条件となるので、品質の劣化が顕在化しにくい卵加工品に適用することができる。
この場合、加熱処理が40℃未満であったり、加圧処理が100MPa未満であったりすると、殺菌が十分に行えない可能性がある。他方、加熱処理が100℃を超えたり、加圧処理が500MPaを超えたりすると、液卵や卵加工品のタンパク質が変性や凝固等してしまい、品質が劣化するおそれがある。また、殺菌処理にかかる費用が多大なものになってしまう。
また、加熱処理と加圧処理を併用する場合には、前記の加熱条件、加圧条件よりも緩やかな条件で殺菌できる場合もある。
【0041】
また、発芽した芽胞菌を殺菌する加熱処理は、40℃以上60℃以下とすることができ、加圧処理は、100MPa以上200MPa以下とすることができる。かかる条件は、上限が比較的緩い条件となるので、品質の劣化が顕在化しやすい液卵に好適に適用することができる。
この場合、かかる加熱処理が40℃未満であったり、加圧処理が100MPa未満であったりすると、殺菌が十分に行えない可能性があるのは、前記と同様である。他方、加熱処理が60℃を超えたり、加圧処理が200MPaを超えたりすると、液卵を用いた場合に、タンパク質が変性や凝固等してしまい生の状態を維持することができないおそれがある。つまり、液卵の品質が劣化するおそれがある。
また、加熱処理と加圧処理を併用する場合には、前記の加熱条件、加圧条件よりも緩やかな条件で殺菌できる場合もある。
【0042】
そして、殺菌処理の処理時間は、一般的に長くするほど日持ち延長効果が高まるが、本発明における殺菌処理の処理時間は1秒間から120分間であれば問題なく適用できる。なお、殺菌処理にかかる費用や殺菌効率等の観点から、殺菌処理の処理時間は1分間から120分間や30分間から60分間としてもよい。なお、殺菌処理の処理時間が1秒間未満であると殺菌効果が十分でないおそれがある。
【0043】
なお、本発明に係る芽胞の発芽方法において、40℃以上で処理を行う場合には、発芽と同時に発芽した芽胞菌が死滅することが考えられる。このような場合には、本発明に係る芽胞の発芽方法に続けて行う殺菌処理を省略したり、殺菌処理の条件を前記したよりもさらに緩やかなものとしたりすることができる。
【0044】
なお、本発明に係る芽胞菌の殺菌方法における殺菌処理は、前記した処理に限定されるものではない。例えば、従来公知の低温殺菌方法による処理、次亜塩素酸やオゾン等の化学的殺菌方法による処理などいずれの処理によっても構わない。また、液卵または卵加工品中の耐熱性芽胞を本発明により発芽させ、しかる後、加工に係る加熱工程等において殺菌してもよい。
【0045】
なお、本発明に係る芽胞菌の殺菌方法は、前記した本発明に係る芽胞の発芽方法で液卵や卵加工品に含まれる芽胞を発芽させ、室温から60℃の温度で10分間から120分間、常圧下で放置した後に、発芽させた芽胞を殺菌する殺菌処理を行うのが好ましい。かかる条件で放置すると、芽胞をより確実に発芽させることができるので、芽胞(芽胞菌)を効果的に殺菌することが可能となる。
放置する温度が室温未満であったり、放置する時間が10分間未満であったりすると、芽胞を発芽させることができない場合がある。他方、放置する温度が60℃を超えたり、放置する時間が120分間を超えたりすると、芽胞の殺菌効率が低下する、再び芽胞を形成する、或いは微生物が増殖する場合があり好ましくない。
【0046】
以上に述べた本発明に係る芽胞菌の殺菌方法によれば、本発明に係る発芽方法で発芽させて、耐熱性や耐圧性などが著しく低下した状態の芽胞菌に対して殺菌処理を行うため、確実にこれを殺菌することができる。また、かかる殺菌処理の条件を比較的緩やかに設定することができるため、液卵または卵加工品のタンパク質を変性や凝固等させることなく芽胞菌を殺菌することができる。
【実施例】
【0047】
次に、本発明の芽胞の発芽方法およびこれを用いた芽胞菌の殺菌方法の効果を確認した実施例について説明する。
【0048】
まず、実施例で使用した実験装置について説明する。
図1は、実験装置の模式図である。この実験装置は、耐圧容器1を備えている。この耐圧容器1は、例えば内径が100mmの円筒状の密閉容器であって壁厚寸法は150mmに設定されている。この耐圧容器1内には、柔軟性のある容器に食品素材、つまり、液卵や卵加工品を密封したものを入れる。次に、この耐圧容器1内に清水を満たす。この耐圧容器1の外面には加熱用のヒーター2が配置されている。このヒーター2は、耐圧容器1内の温度を90℃まで上昇させることができるとともに、この耐圧容器1内を任意の温度に設定することができる。また、耐圧容器1には加圧ポンプ3が接続されている。この加圧ポンプ3で耐圧容器1内を500MPaまで任意の圧力に調節することができる。さらに、この圧力容器1には温度センサー4および圧力計5が取り付けられており、温度センサー4によって耐圧容器1内の温度を検出して表示し、圧力計5によって耐圧容器1内の圧力を検出して表示する。
【0049】
〔1〕加熱処理および加圧処理後の生の全液卵の品質の評価
生の全液卵をポリエチレン製のパウチに密封充填し、下記表1に示すように、5〜70℃の温度条件および0.1〜300MPaの加圧条件でそれぞれ30分間処理した。
加熱処理および加圧処理後の生の全液卵の品質を評価した結果を表1に示す。なお、表1において、「○」は、品質(生の状態)に影響がなかった(品質が劣化しなかった)ことを示し、「△」は、品質(生の状態)にわずかに影響があった(品質がわずかに劣化した)ことを示し、「×」は、品質(生の状態)に影響があった(品質が劣化した)ことを示す。
【0050】
【表1】

【0051】
また、前記と同様、卵焼きをポリエチレン製のパウチに密封充填し、下記表2に示すように、5〜70℃の温度条件および0.1〜500MPaの加圧条件でそれぞれ30分間処理した。
加熱処理および加圧処理後の卵焼きの品質を評価した結果を表2に示す。なお、表2において、「○」は、品質に影響がなかった(品質が劣化しなかった)ことを示し、「△」は、品質にわずかに影響があった(品質がわずかに劣化した)ことを示し、「×」は、品質に影響があった(品質が劣化した)ことを示す。
【0052】
【表2】

【0053】
表1に示すように、生の全液卵の圧力処理において0.1MPaでは50℃でやや品質が劣化し、さらに60℃では生の全液卵中のタンパク質が変性や凝固したため品質が劣化した。一方で、10〜100MPaの圧力処理では、5〜50℃で品質の劣化が起こらず、さらに0.1MPaではタンパク質が変性や凝固等した60℃でもわずかに変性するにとどまった。圧力を200MPaにするとわずかに変性する(わずかに品質が劣化した)ものの、5〜60℃で概ね品質の維持が可能であった。さらに圧力を300MPaとすると完全に変性した(品質が劣化した)。つまり、10〜200MPa、5〜60℃の条件であれば概ね液卵の生の状態を維持できることがわかった。特に20〜100MPa、5〜50℃では品質の劣化は全く認められなかった。
【0054】
また、表2に示すように、卵焼きの圧力処理において5〜60℃、10〜500MPaの処理では卵焼きの品質に大きな変化は認められなかった。つまり、卵焼きの品質は劣化しなかった。
【0055】
〔2〕芽胞の発芽効果(加圧処理の条件(1))
生の全液卵を10〜200MPa、40℃、30分間の条件で処理した際の芽胞の発芽効果を表3に示す。すなわち、生の全液卵にBacillus cereus 1510(日本缶詰協会)の芽胞を10CFU/gとなるよう添加し、ポリエチレン製のパウチに8gずつ無菌的に密封充填したものを、図1に示す構成の加圧加熱装置(光高圧機器(株)製)に入れて圧力処理した。続いて、60℃、20分間の条件で加熱処理し、発芽した芽胞菌を殺菌した。加圧処理および引き続いて行った加熱処理による芽胞の発芽率を求めた。発芽率は下記式[1]により求めた。このため、「−1」よりも「−4」の方が発芽率の成績は良好である。なお、ここでいう発芽した芽胞菌とはすなわち、加圧処理および加熱処理により殺菌された芽胞菌のことである。したがって、ここでいう発芽率は殺菌率ということもできる。

発芽率=Log10(加圧処理及び加熱処理後の残存芽胞数/加圧処理前の芽胞数)・・・[1]

【0056】
【表3】

【0057】
表3に示すように、10〜200MPa、特に40〜200MPaで効果的な発芽効果が得られた。なお、100MPa以上の圧力であっても芽胞の発芽率にはあまり変化がなかった。表1の結果も踏まえると、本発明に係る芽胞の発芽方法での加圧処理の条件は10〜200MPaであれば問題なく適用できることがわかった。なお、より好ましい加圧処理の条件は20〜100MPaであること、および10MPa以上20MPa未満でも発芽効果を有することがわかった。
【0058】
〔3〕芽胞の発芽効果(加圧処理の条件(2))
卵焼きを10〜500MPa、40℃、30分間の条件で処理した際の芽胞の発芽効果を表4に示す。すなわち、卵焼きにBacillus cereus 1510(日本缶詰協会)の芽胞を10CFU/gとなるよう添加し、ポリエチレン製のパウチに8gずつ無菌的に密封充填したものを、加圧加熱装置(光高圧機器(株)製)に入れて圧力処理した。続いて、60℃、20分間の条件で加熱処理し、発芽した芽胞を殺菌した。加圧処理および引き続いて行った加熱処理による芽胞の発芽率を求めた。なお、発芽率は前記式[1]により求めた。
【0059】
【表4】

【0060】
表4に示すように、10〜500MPa、特に40〜500MPaで効果的な発芽効果が得られた。なお、100MPa以上の圧力であっても芽胞の発芽率にはあまり変化がなかった。表2の結果も踏まえると、本発明に係る芽胞の発芽方法での加圧処理の条件は10〜500MPaであれば問題なく適用できることがわかった。なお、より好ましい加圧処理の条件は20〜250MPaであること、および10MPa以上20MPa未満でも発芽効果を有することがわかった。
【0061】
〔4〕芽胞の発芽効果(加熱処理の条件)
生の全液卵および卵焼きを60MPa、20〜60℃、30分間の条件で処理した際の芽胞の発芽効果を表5に示す。すなわち、全液卵にBacillus cereus 1510(日本缶詰協会)の芽胞を10CFU/gとなるよう添加し、ポリエチレン製のパウチに8gずつ無菌的に密封充填したものを、加圧加熱装置(光高圧機器(株)製)に入れて圧力処理した。続いて、60℃、20分間の条件で加熱処理し、発芽した芽胞を殺菌した。加圧処理および引き続いて行った加熱処理による芽胞菌の発芽率を求めた。なお、発芽率は前記式[1]により求めた。
【0062】
【表5】

【0063】
表5に示すように、生の全液卵および卵焼きについて5〜60℃、特に20〜60℃で効果的な発芽効果が認められた。また、表1に示すように、特に20〜50℃で卵の品質が劣化しなかったことから、本発明に係る芽胞の発芽方法での加熱処理の条件は20〜60℃であれば問題なく適用できることがわかった。なお、より好ましい加熱処理の条件は30〜50℃であること、および5℃以上50℃未満でも殺菌効果を有することがわかった。
また、表2に示すように、卵焼きの品質はいずれの温度でも変化しなかったことから、本発明に係る芽胞の発芽方法での加熱処理の条件は5〜60℃で問題なく適用できることがわかった。なお、より好ましい加熱処理の条件は20〜60℃であること、および全液卵の場合と同様に、5℃以上50℃未満でも発芽効果を有することがわかった。
【0064】
〔5〕Bacillus cereusの発芽および殺菌処理後における増殖挙動
Bacillus cereus 1510(日本缶詰協会)をグルコースブロス培地(pH 7.0, 3g/L meat extract (Oxoid, England), 3g/L yeast extract (Nihon-Seiyaku, Tokyo), 10 g/L Bacto-peptone (Difco Laboratories, USA), 5g/L NaCl, and 5g/L glucose)に10CFU/mLとなるよう懸濁し、60MPa、40℃、1〜120分間の条件で処理した。続いて、60℃、20分間の条件で加熱処理した際の菌の発芽率を表6に示す。なお、発芽率は前記式[1]により求めた。
また、前記の条件で圧力処理及び加熱処理した芽胞の懸濁液を35℃で0〜16時間培養したときの生菌数の変化(すなわち、増殖曲線)を図2に示す。なお、図2中、横軸は処理時間(時間)を表し、縦軸は波長600nmにおける吸光度(O.D.600)を示す。吸光光度計はADVANTEC社製BIO PHOTORECORDER TVS 062CAを用いた。
【0065】
【表6】

【0066】
表6に示すように、処理時間を長くするにつれて発芽率は高くなるが、60分間以上行っても発芽率の大幅な増加はないことがわかった。一方で、図2に示すように、処理時間の延長にともなって芽胞菌(Bacillus cereus)が増殖するまでの所要時間が長くなることが分かる。つまり、発芽処理の処理時間が長い程、日持ち延長効果が高まる。本発明における発芽処理の処理時間は1〜120分間であれば問題なく適用できることがわかった。なお、発芽処理にかかる費用を考慮すると、より好ましい発芽処理の処理時間は30〜60分であることがわかった。
【0067】
〔6〕Bacillus cereusの発芽芽胞の殺菌処理(1)
Bacillus cereus 1510(日本缶詰協会)を生の全液卵に10CFU/mLとなるよう懸濁し、60MPa、40℃、30分間の条件で処理して芽胞を発芽させ、圧力処理後に80℃、1秒間〜120分間の条件で加熱処理した際の菌の殺菌率を下記式[2]により求めた。表7にその殺菌率を示す。

殺菌率=Log10(加圧処理及び加熱処理後の残存芽胞数/加圧処理後の生菌数)・・・[2]

【0068】
【表7】

【0069】
表7に示すように、本発明の発芽方法により発芽した芽胞菌は極めて死滅しやすく、80℃で1秒間以上の加熱で充分に殺菌できることが分かった。なお、殺菌処理にかかる費用や加熱による卵の品質劣化を考慮すると、好ましい圧力処理後の加熱時間は1秒間から120分間である。
【0070】
〔7〕Bacillus cereusの発芽芽胞の殺菌処理(2)
Bacillus cereus 1510(日本缶詰協会)を生の全液卵に10CFU/mLとなるよう懸濁し、60MPa、40℃、30分間の条件で処理して芽胞を発芽させ、続いて40℃〜100℃、30分間加熱処理した際の菌の殺菌率を前記式[2]により求めた。表8にその殺菌率を示す。
【0071】
【表8】

【0072】
表8に示すように、本発明の発芽方法により発芽した芽胞菌は40℃〜100℃で加熱することにより殺菌できることが分かった。
【0073】
〔8〕Bacillus cereusの発芽芽胞の殺菌処理(3)
Bacillus cereus 1510(日本缶詰協会)を生の全液卵に10CFU/mLとなるよう懸濁し、60MPa、40℃、30分間の条件で処理して芽胞を発芽させ、続いて40℃、0.1〜500MPa、30分間加熱処理した際の菌の殺菌率を前記式[2]により求めた。表9にその殺菌率を示す。
【0074】
【表9】

【0075】
表9に示すように、本発明の発芽方法により発芽させた芽胞菌は100〜500MPaの圧力をさらに負荷することによっても殺菌できることが分かった。
【0076】
以上〔6〕Bacillus cereusの発芽芽胞の殺菌処理(1)、〔7〕Bacillus cereusの発芽芽胞の殺菌処理(2)、〔8〕Bacillus cereusの発芽芽胞の殺菌処理(3)の結果より、本発明の発芽方法によって発芽させた芽胞菌は加熱処理および加圧処理のいずれかの処理により殺菌できることが分かった。なお、殺菌効率および殺菌処理による卵の品質劣化を考慮すると、殺菌条件は品質の劣化が顕在化しやすい液卵については40℃〜60℃または10〜200MPa、より好ましくは50℃〜60℃または20〜100MPa、加熱に対し比較的安定な卵加工品については40℃〜100℃または100〜500MPa、より好ましくは50℃〜100℃または100〜500MPaが好適である。もちろん、本発明の発芽方法により発芽した芽胞菌の殺菌は、前記した加熱処理および加圧処理を併用してもよく、その場合は、より殺菌効果が高くなり、また、殺菌に必要な処理条件も緩やかなものでよい場合もある。
【0077】
〔9〕保存試験(1)
調味液等を含む全液卵に、食品から分離して同定したBacillus cereusを10CFU/gとなるよう添加し、60MPa、40℃、30分間の条件で加圧処理して芽胞を発芽させたものを卵焼きとして加工し、90℃、10分間の低温殺菌処理を行った後、10℃で保存試験を行い、その一生性菌数を測定した(加圧処理+低温殺菌処理)。結果を表8に示す。なお比較対照として、90℃、10分間の低温殺菌処理のみを行った試料の一般生菌数も同時に測定した。
【0078】
【表10】

【0079】
表10に示すように、加圧処理および低温殺菌処理を行ったもの(加圧処理+低温殺菌処理)は、15日間保存した後も一般生菌数の増殖が著しく抑制されていた。これに対し、低温殺菌処理のみを行ったものは、12日間の保存中に菌が増殖し、腐敗してしまった。
【0080】
〔10〕保存試験(2)
調味液等を含む全液卵に酢酸ナトリウム(米山化学工業(株)社製)を含まないもの(0%)と0.5%添加したもの(0.5%)を用意し、さらにこれらに前記した〔9〕で用いたBacillus cereusを10CFU/gとなるよう添加した。これらを60MPa、40℃、30分間の条件で加圧処理して芽胞を発芽させた後、卵焼きとして加工し、90℃、10分間の低温殺菌処理を行った。そして、30℃で保存試験を行い、その一般生菌数を測定した(加圧処理+低温殺菌処理)。結果を表11に示す。なお比較対照として、90℃、10分間の低温殺菌処理のみを行った試料の一般生菌数も同時に測定した。
【0081】
【表11】

【0082】
表11に示すように、低温殺菌処理のみを行ったものでは24時間保存した後には菌が著しく増殖して腐敗したが、加圧処理および低温殺菌処理を行ったもの(加圧処理+低温殺菌処理)では、24時間保存した後も菌数はそれほど増殖しておらず、腐敗しなかった。さらに、酢酸ナトリウムを0.5%添加して加圧処理および低温殺菌処理を行ったものでは48時間保存した後も菌数は全く増加していなかった。
これに対し、酢酸ナトリウムを0.5%添加し、低温殺菌処理のみを行ったものでは24時間保存後に3,000,000CFU/g以上となっており、菌の増殖を全く抑制できなかった。
【0083】
〔11〕保存試験(3)
調味液等を含む全液卵にグリシン(昭和電工(株)社製)を含まないもの(0%)と1%添加したもの(1%)を用意し、さらにこれらに前記した〔9〕で用いたBacillus cereusを10CFU/gとなるよう添加した。これらを60MPa、40℃、30分間の条件で加圧処理して芽胞を発芽させた後、卵焼きとして加工し、前記した〔9〕の条件で低温殺菌処理した。そして、30℃で保存試験を行い、その一般生菌数を測定した(加圧処理+低温殺菌処理)。結果を表12に示す。なお比較対照として、低温殺菌処理のみを行った試料の一般生菌数も同時に測定した。
【0084】
【表12】

【0085】
表12に示すように、低温殺菌処理のみを行ったものでは24時間保存した後には菌が著しく増殖して腐敗したが、加圧処理および低温殺菌処理を行ったもの(加圧処理+低温殺菌処理)では24時間保存した後も菌数はそれほど増殖しておらず、腐敗しなかった。さらに、グリシンを1%添加し加圧処理および低温殺菌処理を行ったものでは48時間した保存した後も菌数は全く増加していなかった。これに対し、グリシンを1%添加し、低温殺菌処理のみを行ったものでは24時間保存後に3,000,000CFU/g以上となっており、菌の増殖を全く抑制できなかった。
【0086】
〔10〕保存試験(2)および〔11〕保存試験(3)の結果から、酢酸ナトリウムおよびグリシンのうち少なくとも一方を含む日持ち向上剤と、加圧処理を併用することで日持ち延長効果が著しく延長することがわかった。さらに、併用する酢酸ナトリウムやグリシンは、通常、日持ち延長効果を発揮し得ないような、極めて少量の添加量で充分であることが分かった。また、酢酸ナトリウムやグリシンは、加圧処理による日持ち延長効果を阻害しないこともわかった。酢酸ナトリウムやグリシンなどの日持ち向上剤あるいは保存料と加圧処理を併用することにより、液卵、液卵の加工原料、卵加工品中の耐熱性芽胞の殺菌効果ならびに日持ち延長効果を著しく高めることができることがわかった。
【0087】
〔12〕保存試験(4)
調味液等を含む全液卵に前記した〔9〕で用いたBacillus cereusを10CFU/gとなるよう添加した。これらを60MPa、40℃、30分間の条件で加圧処理して芽胞を発芽させた後、卵焼きとして加工し、前記した〔9〕の条件で低温殺菌処理した(加圧処理)。また、圧力処理後、25℃、40分間常圧下で放置したのち、卵焼きとして加工し、前記した〔9〕の条件で低温殺菌処理した(加圧処理+常圧処理)。各試料を30℃で保存試験を行い、その一般生菌数を測定した(加圧処理)。結果を表13に示す。
【0088】
【表13】

【0089】
表13に示すように、加圧処理のみ行ったものよりも、加圧処理後に常圧下で放置した後に低温殺菌処理を行ったものの方が処理後の生菌数が少なく、また、24時間保存後の生菌数も少なかった。以上の結果より、圧力処理後にさらに常圧下で試料を放置することにより、芽胞の殺菌効果がより高まることが分かった。
【0090】
以上、本発明の芽胞の発芽方法およびこれを用いた芽胞菌の殺菌方法について、発明を実施するための最良の形態および実施例により具体的に説明したが、本発明の趣旨はこれらの記載に限定されるものではなく、特許請求の範囲の記載に基づいて広く解釈されなければならない。また、これらの記載に基づいて種々変更、改変等したものも本発明の趣旨に含まれることはいうまでもない。
【図面の簡単な説明】
【0091】
【図1】実験装置の模式図である。
【図2】所定の条件で圧力処理及び加熱処理した芽胞の懸濁液を35℃で0〜16時間培養したときの生菌数の変化を示すグラフである。なお、図中、横軸は処理時間(時間)を表し、縦軸は波長600nmにおける吸光度(O.D.600)を示す。
【符号の説明】
【0092】
1 耐圧容器
2 ヒーター
3 加圧ポンプ
4 温度センサー
5 圧力計

【特許請求の範囲】
【請求項1】
液卵または卵加工品に含まれる芽胞菌が形成する芽胞を、前記液卵または前記卵加工品の品質を劣化させることなく発芽させる芽胞の発芽方法であって、
前記液卵または前記卵加工品を5℃以上60℃未満の温度で10MPa以上200MPa以下の加圧処理を1分間から120分間行うことを特徴とする芽胞の発芽方法。
【請求項2】
前記液卵または前記卵加工品に日持ち向上剤および保存料のうち少なくとも一方を重量換算で0.1%から3%添加することを特徴とする請求項1に記載の芽胞の発芽方法。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の芽胞の発芽方法で前記液卵または前記卵加工品に含まれる前記芽胞を発芽させた後、発芽させた前記芽胞を殺菌する殺菌処理を行うことを特徴とする芽胞菌の殺菌方法。
【請求項4】
請求項1または請求項2に記載の芽胞の発芽方法で前記液卵または前記卵加工品に含まれる前記芽胞を発芽させ、室温から60℃の温度で10分間から120分間、常圧下で放置した後に、発芽させた前記芽胞を殺菌する殺菌処理を行うことを特徴とする芽胞菌の殺菌方法。
【請求項5】
前記殺菌処理が、40℃以上100℃以下の加熱処理、および、100MPa以上500MPa以下の加圧処理のうち少なくとも一方を1秒間から120分間行うことを特徴とする請求項3または請求項4に記載の芽胞菌の殺菌方法。
【請求項6】
前記殺菌処理が、40℃以上60℃以下の加熱処理、および、100MPa以上200MPa以下の加圧処理のうち少なくとも一方を1秒間から120分間行うことを特徴とする請求項3または請求項4に記載の芽胞菌の殺菌方法。

【図1】
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【図2】
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