説明

芽胞形成細菌の芽胞に対する殺菌もしくは静菌作用を蛍光染色試薬で評価する方法

【課題】芽胞形成細菌の芽胞に対する加熱処理、薬剤処理等の殺菌処理の効果を、リアルタイムで迅速かつ正確に測定する方法を提供する。
【解決手段】芽胞形成細菌の芽胞の殺菌もしくは静菌作用を評価するための方法であって、該芽胞に殺菌処理を施し芽胞に損傷を与える工程、該損傷した芽胞を蛍光染色試薬と接触させて該蛍光染色試薬で芽胞を染色する工程、及び該芽胞の殺菌もしくは静菌作用を評価する工程を含む方法、及びこの方法を用いた殺菌条件及び有効薬剤のスクリーニング方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、芽胞形成細菌の芽胞を培養せずに各種殺菌処理の芽胞に対する殺菌もしくは静菌作用を、蛍光染色試薬を用いて迅速、正確かつ直接的に評価する方法、並びに、この方法を用いて殺菌もしくは静菌効果を有する物質をスクリーニングする方法に関する。
【背景技術】
【0002】
食品や医薬品或いは化粧品等の様々な分野における製品或いはその製造工程において、微生物の増殖による製品の変質や品質低下或いは食中毒等の発生が問題となることがある。この問題を回避するために、製品或いはその製造段階において、加熱処理、紫外線や放射線の照射、或いは静菌剤、殺菌剤のような薬剤処理による静菌又は殺菌が行われている。最も一般的な方法としては、製品の製造に際して、低温(60℃以上)或いは100℃前後の加熱による殺菌処理が行われている。しかし、芽胞形成細菌のような細菌の種類によっては、熱や薬剤などに耐久性を持つ芽胞の形成により、上記のような通常の殺菌処理では、殺菌できないものがある。
【0003】
芽胞形成細菌としては、Bacillus subtilis、Bacillus cereus、Bacillus megateriumのようなBacillus属の細菌や、Geobacillus stearothermophilusのようなGeobacillus属の細菌や、Alicyclobacillus acidoterrestrisや、Alicyclobacillus acidiphilusのようなAlicyclobacillus属の細菌、或いは、Clostridium sporogenesのようなClostridium属の細菌が知られている。これらの細菌は、乾燥や高温等、環境が生育に適さない条件になると、芽胞と呼ばれる耐久器官を形成し、環境に対して抵抗性を示し、生き延びることができる。芽胞は、水分の少ない濃厚な原形質と核を厚い殻で覆っており、高い耐久性(耐熱性、耐圧性、耐薬品性)と長期休眠能を持つことから、食品や飲料、医薬品などの分野において芽胞の混入を想定した厳しい殺菌操作が必要となる。
【0004】
芽胞形成細菌の芽胞は、100℃の煮沸に対しても抵抗性を有することから、これらの菌を殺菌するためには、例えば、120℃15分のオートクレーブによる殺菌のような、高温、高圧下の処理が用いられている。また、芽胞形成細菌の芽胞の殺菌処理については、その殺菌効果を完全にするために、各種の方法が開示されている。
【0005】
例えば、特許文献1には、芽胞に対する殺菌効果と高温処理による食品等の劣化を避けるために、高圧処理による殺菌方法が開示されている。更に、特許文献2には、80〜99℃に加熱した後、約340MPa〜約1020MPaの超高圧で加圧する方法が、特許文献3、特許文献4には、低酸性食品を約70℃或いは50℃に予備加熱し、圧力容器内で約300MPa以上の超高圧で加圧する方法が開示されている。
【0006】
また、特許文献5には、4000気圧〜7000気圧の高圧殺菌処理と、印加電圧10kV以上の電気パルスとを作用させるパルス殺菌処理とを併用する耐熱性芽胞の殺菌方法が開示されている。
【0007】
食品の殺菌処理においては殺菌・静菌作用のある薬剤も利用されてきた。とりわけ、一部のショ糖脂肪酸エステルは耐熱性芽胞細菌に有効な安全な静菌剤として、ホットベンダーで販売される殆どの缶コーヒー,紅茶,スープ類に添加されている。ショ糖脂肪酸エステルの静菌効果の詳細なメカニズムは不明であるが、芽胞形成細菌の芽胞の耐熱性を減少させる効果があることが報告されている。
【0008】
これらの、高温高圧による殺菌処理は、殺菌処理に対して耐久性を有する芽胞形成細菌の芽胞に対して、有効な殺菌処理を施すものであるが、一方で、かかる殺菌処理は、そのための設備が必要となるということだけでなく、かかる高温、高圧の処理による製品の品質への影響が避けられないという問題がある。したがって、上記のような殺菌処理手段を用いて、芽胞形成細菌の芽胞の殺菌処理を行なうに際しては、完全な殺菌効果を得るための殺菌条件を設定するとともに、高温、高圧の処理による製品の品質への影響を避けるための条件を設定する必要があり、したがって、必要最小限の殺菌条件で、効果的な殺菌を行なうことが可能な条件を設定することが必要となる。
【0009】
従来、微生物(特に飲食品、医薬品に対して危害を及ぼす可能性のある微生物:食中毒菌、病原菌など)について、その耐久性(耐熱性、UV耐性、薬剤耐性など)を評価するには、例えば、対象となる加熱、UV及び薬剤に対し、個々の加熱条件、UV強度、薬剤濃度の試験区での生残菌率を求めなければならなかった。例えば、耐熱性の評価(加熱殺菌条件の設定)においては、(1)実際に対象となる微生物に対して複数の処理条件(耐熱性の場合は温度、時間)で処理した後に、(2)増殖試験を行い、(3)各処理条件での増殖の有無に関するデータを蓄積することにより、(4)適正な殺菌条件を設定する、という手順が用いられている。したがって、これらの試験には、多くの試験区での生残菌率を求めなければならず、煩雑な実験を必要とすると同時に、熟練を要求された。
【0010】
上記のような芽胞形成細菌の芽胞の殺菌処理に対する耐久性試験における、殺菌処理の効果を判断する方法も、いくつか開示されている。例えば、殺菌処理の効果を判断する方法として、殺菌処理された芽胞の多角光散乱と殺菌処理されなかった多角光散乱とを比較することにより、殺菌処理の有効性を検出する方法が開示されている(特許文献6)。また、個々の微生物の増殖活性をフローサイトメータのような電気的又は光学的測定方法で測定する方法が開示されている(特許文献7)。
【0011】
また、耐熱性好酸性菌等の芽胞形成細菌の検出自体としては、例えば、バニリンや、バニリン酸の存在下で芽胞形成菌の芽胞をインキュベーションすることにより、産生するグアイアコールをGC-MS分析等で分析する方法(特許文献8;特許文献9)、ω−シクロへキサン脂肪酸の有無をGC-MS分析等で分析する方法(特許文献10)、ω−シクロへキサン脂肪酸の生合性に関与する酵素をコードする遺伝子の核酸をPCR法によって検出・同定する方法(特許文献11)等が開示されている。しかしながら、これらの芽胞形成菌の検出方法を芽胞の耐久性の評価に適用したとしても、結局は、上記のように、(1)実際に対象となる微生物に対して複数の処理条件(耐熱性の場合は温度、時間;薬剤耐性の評価の場合には薬剤濃度、薬剤処理時間などの条件;UV耐性の評価であれば、照射強度、照射時間などの条件)で処理した後に、(2)増殖試験を行い、(3)各処理条件での増殖の有無に関するデータを蓄積することにより、(4)適正な殺菌条件を設定する必要があり、個々の殺菌処理条件に対して、増殖試験等を用いた煩雑な処理と、長時間の処理を必要とする。
【0012】
各種蛍光染色試薬は栄養細胞の生死判定や活性測定等の目的で細菌の染色に広く利用されてきた。一方、発芽していない芽胞の場合、芽胞の評価に利用されたという報告はなく、芽胞を評価する場合は、一度、発芽させる、即ち短期間でも培養や発芽処理をする必要があった。非特許文献1は、バチルス属芽胞のガンマ線による殺菌効果を、呼吸活性を評価するためのCTC (5-cyano-2, 3-ditolyl tetrazolium chloride)や市販の細菌活性キット(LIVE/DEAD(登録商標)BacLightTM Bacterial Viability Kit、Invitorogen社製)を用いることで評価しているが、前述の様に培養による芽胞の発芽が必須となっており、一定(1〜24h)の培養期間が必要となっている。そのため、全く培養に依存しない芽胞の評価法の利用例はこれまで知られていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】特開2000-32965号公報
【特許文献2】国際公開WO97/21361号公報
【特許文献3】特開2000-83633号公報
【特許文献4】特開2002-191334号公報
【特許文献5】特開2005-287383号公報
【特許文献6】特表2002-542836号公報
【特許文献7】特開2005-102645号公報
【特許文献8】特開平7-123998号公報
【特許文献9】特開2004-201668号公報
【特許文献10】特開平8-140696号公報
【特許文献11】特開平10-234376号公報
【非特許文献】
【0014】
【非特許文献1】Laflamme C, Lavigne S, Ho J, Duchaine C., “Assessment of bacterial endospore viability with fluorescent dyes”, J Appl Microbiol. 2004. 96, 684-692
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
食品、医薬品或いは化粧品等の様々の分野における製品或いはその製造工程において、微生物の増殖による製品の変質や品質低下或いは食中毒等の発生が問題となることがあり、その対策のために、物理的或いは化学的殺菌処理が行なわれている。特に、環境に対して耐久性のある芽胞を形成する芽胞形成細菌のような細菌の芽胞に対しては、その効果的な殺菌効果を得るために、過酷な殺菌処理条件が採用される。例えば、芽胞形成細菌の芽胞の殺菌には、高温と高圧による殺菌処理が施されている。しかし、一方で、かかる殺菌処理は、高温、高圧の処理による製品の品質への影響が避けられないという問題がある。したがって、芽胞形成細菌の芽胞の殺菌に際しては、必要最小限の殺菌条件で、効果的な殺菌を行なうことが可能な条件を、迅速に設定することが必要となる。
【0016】
従来の芽胞の耐久性の評価方法では、前記のように、耐久性のそれぞれの項目、例えば、耐熱性、UV耐性、薬剤耐性等において、個々の加熱条件、UV強度、薬剤濃度の試験区で、生残菌率を求め、それらの生残菌率を外挿し、例えば、加熱処理ならば、生残菌数が10分の1になるのに至る加熱条件の加熱時間の長短で、加熱に対する耐久性を評価していた。したがって、対象となる芽胞について、まず純粋に細胞株を単離し、これを前培養して供試に必要な菌数を獲得し、それら多くの試験区での生残菌率を求める必要があった。したがって、煩雑な実験を必要とすると同時に、正確な評価をするためには、熟練を要し、また、時間的にも長時間を要した。
【0017】
そこで、本発明の課題は、芽胞形成細菌の芽胞に対する加熱処理や薬剤処理のような殺菌処理条件の効果を、迅速かつ正確に評価できる新たな方法の提供と、芽胞形成細菌に対する殺菌・静菌作用を有する新規薬剤のスクリーニング方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明者らは、鋭意研究する中で、芽胞の加熱・薬剤処理といった殺菌処理により芽胞内部への蛍光染色試薬の浸透性が増すこと、殺菌効果と蛍光染色された芽胞数に相関があり、芽胞の殺菌方法の評価や芽胞に対する殺菌・静菌作用を有する薬剤のスクリーニングに培養を介さない迅速な評価法として活用可能であることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0019】
すなわち、具体的には、本発明は、以下の特徴を包含する。
(1)芽胞形成細菌の芽胞の殺菌もしくは静菌作用を評価するための方法であって、該芽胞に殺菌処理を施し芽胞に損傷を与える工程、該損傷した芽胞を損傷芽胞を染色することが可能な蛍光染色試薬と接触させて該蛍光染色試薬で芽胞を染色する工程、及び蛍光染色試薬によって染色される芽胞と蛍光染色試薬によって染色されない芽胞の割合を定量することによって該芽胞の殺菌もしくは静菌作用を評価する工程を含む、前記方法。
(2)前記蛍光染色試薬が、芽胞が損傷を受けた際にコア内部にあるDNAを染色することを可能にするヘキスト33342及びDAPI(diamidino-2-phenylindole)、並びに、芽胞のコア内部の死菌DNAを染色することを可能にするプロピジウム・イオダイドからなる群から選択されることを特徴とする、(1)に記載の方法。
(3)前記芽胞形成細菌の芽胞が、バチルス(Bacillus)網及びクロストリジウム(Clostridium)網からなる群から選択される細菌の芽胞であることを特徴とする、(1)又は(2)に記載の方法。
(4)非損傷芽胞が発芽した場合の生菌活性を測定することが可能である蛍光染色試薬を用いて該非損傷芽胞を染色し、これによって非損傷芽胞の割合を定量することをさらに含むことを特徴とする、(1)〜(3)のいずれかに記載の方法。
(5)前記蛍光染色試薬が、芽胞が損傷を受けなかった際に発芽したことを捉える生菌のもつエステラーゼによって活性化されるCFDA(carboxyfluorescein diacetate)であることを特徴とする、(4)に記載の方法。
(6)芽胞形成細菌の芽胞に対し殺菌もしくは静菌作用を有する薬剤をスクリーニングするための方法であって、芽胞形成細菌の芽胞を含有するサンプルに候補薬剤を添加し、該候補薬剤の殺菌もしくは静菌作用を、損傷芽胞を染色することが可能な蛍光染色試薬を用いて評価することを含むことを特徴とする、前記方法。
(7)サンプル中の芽胞形成細菌の芽胞の生菌もしくは死菌割合を測定するための方法であって、該サンプルを蛍光染色試薬と接触させて、損傷した芽胞を蛍光染色試薬で染色し、蛍光染色試薬によって染色される芽胞と蛍光染色試薬によって染色されない芽胞の割合を定量することを含むことを特徴とする、前記方法。
(8)芽胞形成細菌の芽胞の殺菌もしくは静菌作用を評価するためのキットであって、損傷芽胞を染色することが可能な蛍光染色試薬及び使用説明書を含むことを特徴とする、前記キット。
(9)芽胞形成細菌の芽胞の生菌もしくは死菌割合を測定するためのキットであって、損傷芽胞を染色することが可能な蛍光染色試薬及び使用説明書を含むことを特徴とする、前記キット。
(10)(1)〜(7)のいずれかに記載の方法に使用するためのものであることを特徴とする、(8)又は(9)のいずれかに記載のキット。
【発明の効果】
【0020】
食品、医薬品、化粧品等の様々の分野における製品或いはその製造工程において、微生物の増殖による製品の変質や品質低下或いは食中毒等の発生が問題となることがあり、特に、殺菌処理に対する耐久性のある芽胞形成細菌のような芽胞に対しては、その効果的な殺菌効果を得るために、例えば、高温、高圧のような過酷な殺菌処理条件が採用されている。しかし、一方で、かかる殺菌処理は、かかる過酷な殺菌処理条件による製品の品質への影響が避けられないという問題がある。そこで、本発明の、芽胞に対する殺菌方法の評価方法を採用することにより、殺菌効果を迅速かつ正確に評価することが可能となり、製品の確実な殺菌と製品へのダメージを最小限に抑えることにより適切な殺菌条件を選択することが可能となる。さらに、本発明の、殺菌もしくは静菌効果の高い薬剤を効率的にスクリーニングする方法を利用することによって、より低濃度で効果を発揮するなど食品等の製品への影響の少ない新規な薬剤の開発を行なうことが可能となる。さらにまた、本発明は、芽胞形成細菌の芽胞の生菌もしくは死菌割合を測定するための方法を提供し、これによって種々の製品の品質を効率的に管理することを可能にする。本明細書中「芽胞の生菌」とは、発芽して栄養細菌となって増殖しうる芽胞をいい、「芽胞の死菌」とは、損傷を受けたために発芽しないで栄養細菌になることができない芽胞をいう。従来、芽胞染色法としてMoeller法(石炭酸フクシン液使用)が知られているが、生菌、死菌の区別ができなかった。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明の実施例において、後述の表1記載のサンプルNo.3(加熱なし、薬剤なし)における位相差顕微鏡写真(左)、ヘキスト33342染色写真(右)を示す図である。ヘキスト33342染色写真は、グレースケールで撮影した。芽胞は損傷していないため、コア内部へのヘキスト33342染色は認められない。
【図2】本発明の実施例において、後述の表1記載のサンプルNo.9(加熱121℃30分、薬剤なし)における位相差顕微鏡写真(左)、ヘキスト33342染色写真(右)を示す図である。ヘキスト33342染色写真は、グレースケールで撮影した。芽胞は損傷しているため、コア内部へのヘキスト33342の染色が認められる。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明を詳細に説明する。
1.芽胞形成細菌
(芽胞菌の種類と芽胞形成方法)
本発明に係る方法において使用する芽胞形成細菌とは、芽胞(spore)を形成する細菌であって、有芽胞菌とも呼ばれる細菌を指す。
【0023】
芽胞形成細菌としては、以下のものに限定されるものではないが、バチルス属に属する細菌、例えば炭疽菌(Bacillus anthracis)、枯草菌(Bacillus subtilis)、セレウス菌(Bacillus cereus)、バチルス・チューリンゲンシス(Bacillus thuringiensis)、バチルス・ブレビス(Bacillus brevis)、バチルス・コアグランス(Bacillus coagulans)、バチルス・アミロリケファシエンス(Bacillus amyloliquefaciens)、バチルス・プミリス(Bacillus pumilis)、バチルス・リケニフォルミス(Bacillus licheniformis)、バチルス・コアフイレンシス(Bacillus coahuilensis);クロストリジウム属に属する細菌、例えば破傷風菌(Clostridium tetani)、ボツリヌス菌(Clostridium botulinum)、ウェルシュ菌(Clostridium perfringens);スポロラクトバチルス属に属する細菌、例えばスポロラクトバチルス・イヌリナス(Sporolactobacillus inulinus;ゲオバチルス属に属する細菌、例えばゲオバチルス・ステアロサーモフィルス(Geobacillus stearothermophilus);サーモアネロバクター属に属する細菌、例えばサーモアネロバクター・マスラニイ(Thermoanaerobacter mathranii)、サーモアネロバクター・アセトエチリカス(Thermoanaerobacter acetoethylicus)、サーモアネロバクター・ブロキイsubsp.ブロキイ(Thermoanaerobacter brockii subsp. brockii)、サーモアネロバクター・ブロキイsubsp.フィンニ(Thermoanaerobacter brockii subsp. finni)、サーモアネロバクター・ブロキイsubsp.ラクチエチリカス(Thermoanaerobacter brockii subsp. lactiethylicus)、サーモアネロバクター・セルロリティカス(Thermoanaerobacter cellulolyticus)、サーモアネロバクター・エタノリカス(Thermoanaerobacter ethanolicus)、サーモアネロバクター・イタリカス(Thermoanaerobacter italicus)、サーモアネロバクター・キブイ(Thermoanaerobacter kivui)、サーモアネロバクター・シデロフィラス(Thermoanaerobacter siderophilus)、サーモアネロバクター・スルフロフィラス(Thermoanaerobacter sulfurophilus)、サーモアネロバクター・サーモコプリエ(Thermoanaerobacter thermocopriae)、サーモアネロバクター・サーモヒドロスルフリカス(Thermoanaerobacter thermohydrosulfuricus)、サーモアネロバクター・ウィエジェリイ(Thermoanaerobacter wiegelii);サーモアネロバクテリウム属に属する細菌、例えばサーモアネロバクテリウム・サーモサッカロリティカム(Thermoanaerobacterium thermosaccharolyticum)、サーモアネロバクテリウム・アシジトレランス(Thermoanaerobacterium aciditolerans)、サーモアネロバクテリウム・アオテアロエンス(Thermoanaerobacterium aotearoense)、サーモアネロバクテリウム・ポリサッカロリティカム(Thermoanaerobacterium polysaccharolyticum)、サーモアネロバクテリウム・サッカロリティカム(Thermoanaerobacterium saccharolyticum)、サーモアネロバクテリウム・サーモスルフリゲネス(Thermoanaerobacterium thermosulfurigenes)、サーモアネロバクテリウム・キシラノリティカム(Thermoanaerobacterium xylanolyticum)、サーモアネロバクテリウム・ゼアエ(Thermoanaerobacterium zeae);モーレラ属に属する細菌、例えばモーレラ・サーモアセティカ(Moorella thermoacetica)、モーレラ・グリセリニ(Moorella glycerini)、モーレラ・ムルデリ(Moorella mulderi)、モーレラ・サーモオートトロフィカ(Moorella thermoautotrophica);アリシクロバチルス属に属する細菌、例えばアリシクロバチルス・アシドテレストリス(Alicyclobacillus acidoterrestris);デスルフォトマキュラム属に属する細菌、例えばデスルフォトマキュラム・ニグリフィカンス(Desulfotomaculum nigrificans)、デスルファトマキュラム・サーモアセトキシダンス(Desulfotomaculum thermoacetoxidans)、デスルファトマキュラム・サーモベンゾイカムsubsp.サーモベンゾイカム(Desulfotomaculum thermobenzoicum subsp. thermobenzoicum)、デスルファトマキュラム・サーモベンゾイカムsubsp.サーモシントロフィカム(Desulfotomaculum thermobenzoicum subsp. thermosyntrophicum)、デスルファトマキュラム・サーモシステルナム(Desulfotomaculum thermocisternum)、デスルファトマキュラム・サーモサポボランス(Desulfotomaculum thermosapovorans)、デスルファトマキュラム・サーモサブテラネウム(Desulfotomaculum thermosubterraneum);リシニバチルス属に属する細菌、例えばリシニバチルス・スフェリカス(Lysinibacillus sphaericus)が挙げられる。
【0024】
バチルス属、ゲオバチルス属、アリシクロバチルス属、サーモアネロバクター属、サーモアネロバクテリウム属を含む上に例示された属の細菌株については、非損傷芽胞は染色されず、損傷芽胞で染色されることが確認された。本発明において、特に好ましい細菌は、バチルス網及びクロストリジウム網に属する細菌である。
【0025】
なお、当業者には周知であるとおり、上記例示した細菌名及び分類は将来的に変更される可能性があることに留意されたい。
【0026】
本発明においては、上述した芽胞形成細菌であれば、任意の種及び株のものを用いることができる。本発明の方法に供される芽胞形成細菌は表層構造が完成した成熟芽胞(休眠芽胞)であることが好ましい。成熟芽胞(休眠芽胞)とは、芽胞形成細菌の母細胞内に存在するプレスポアやフォアスポアでなく、発芽芽胞でない状態の芽胞を指す。
【0027】
本発明方法では芽胞形成細菌の培養は実質的に必要としないが、これは、該方法が製品などのサンプル中に存在する損傷芽胞を直接的に高感度で測定することを可能にするからである。
【0028】
しかし、必要であれば芽胞形成細菌を培養して芽胞を形成してもよい。一般に芽胞形成(好ましくは成熟芽胞形成)のための細菌培養方法は公知であるので、そのような公知の方法を利用することができる。例えば、芽胞形成細菌の培養に通常用いられる培地を使用して、適当な条件下で培養することにより細菌を調製することができる。具体的には、炭素源(ラクトース、グルコース、スクロース、フラクトース、ガラクトース、廃糖蜜など)、窒素源(ペプトン、カゼインの加水分解物、ホエータンパク質加水分解物、大豆タンパク質加水分解物等の有機窒素含有物)、無機塩類(リン酸塩、ナトリウム、カリウム、マグネシウムなど)を含有し、芽胞形成細菌の培養を効率的に行うことができる培地(天然培地又は合成培地、液体培地又は固体培地のいずれも使用可能)を選択することができる。また芽胞形成細菌の培養は、20℃〜70℃、好ましくは30℃〜60℃において、好気性条件下又は嫌気性条件下で行うことができる。培養方法としては、静置培養、振とう培養、タンク培養などいずれの方法であってもよい。また、培養時間は12時間〜20日、好ましくは12時間〜10日とすることができる。培養開始時の培地のpHは5〜9、好ましくは6〜8に維持することが好ましい。当業者であれば、使用する芽胞形成細菌の種類に応じて、適当な培養条件を選択することができる。
【0029】
2.芽胞に対する殺菌もしくは静菌効果の評価方法
(評価手順)
本発明の、芽胞形成細菌の芽胞に対する殺菌もしくは静菌効果の評価方法は、以下の工程を含む。
(1) 該芽胞に殺菌処理を施し芽胞に損傷を与える工程、
(2) 該損傷した芽胞を蛍光染色試薬と接触させて該蛍光染色試薬で芽胞を染色する工程、及び
(3) 該芽胞の殺菌もしくは静菌作用を評価する工程。
【0030】
食品、医薬品、化粧品などの、ヒトを含む動物(例えば、ヒト、ペット動物(イヌ、ネコ、鳥など)、家畜動物(ウシ、ブタ、家禽など)、競技用動物(ウマなど)など)において直接使用するための製品が、規制値を超える数量の芽胞によって汚染されないようにするために、該製品に対し殺菌もしくは静菌処理を施す必要がある。その理由は、前述の背景技術で記載したように、芽胞は、水分の少ない濃厚な原形質と核を厚い殻で覆われており、高い耐久性、すなわち耐熱性、耐圧性、耐薬品性と、長期休眠能とをもつからである。そのために、芽胞に対する殺菌方法や静菌方法を検討し、効率的に殺菌もしくは静菌効果を評価する必要性がある。しかし、従来の方法では、背景技術に記載したように、芽胞形成細菌を培養し増殖するなど手間のかかる手順からなっていた。これに対し、本発明の方法は、損傷した芽胞を蛍光染色試薬で染色するという極めて単純な手順からなるため、殺菌試験における評価を迅速に行うことができる。
【0031】
(第1工程)
この工程では、芽胞に対し、種々の異なる条件で殺菌処理を施して、該芽胞に損傷を与える。そのような条件は特に制限されないが、化学的処理、物理的処理などが含まれる。このとき芽胞は、好ましくは、初発菌数を105CFU/ml以上になるように調整する。
【0032】
化学的処理には、芽胞に、殺菌剤又は静菌剤などの薬剤を作用することを含む。殺菌剤又は静菌剤には、例えば、界面活性剤(ショ糖脂肪酸エステル、等)、ガス(エチレンオキシド、ホルマリン、加圧水蒸気、等)、保存料(ソルビン酸およびソルビン酸塩、安息香酸および安息香酸塩、プロピオン酸およびプロピオン酸塩、等)、殺菌料(ハロゲン系殺菌料、過酸化水素、過酢酸及び関連する過酸化物、等)、グリシン、有機酸、バクテリオシン(ナイシン、等)などが含まれる。
【0033】
物理的処理には、例えば、熱、高圧、紫外線、放射線(ガンマ線、エックス線、等)、フィルターろ過、マイクロバブル、交流高電界などが含まれる。
【0034】
殺菌条件を決定するために、例えば、殺菌剤又は静菌剤の種類、濃度等を種々変更したり、温度や圧力の大きさ、処理時間等を種々変更したり、紫外線や放射線のレベル、照射時間等の条件を種々変更したり、フィルターの材質、孔サイズ等の条件を種々変更したり、或いは、電気的条件を種々変更したりしながら、芽胞の殺菌状態を評価し、最適条件を見出すことができる。例えば、加熱処理による殺菌の場合には、芽胞形成細菌の菌種によって適切な温度条件や加熱設備を設定し、また文献記載の耐熱性を基に加熱条件(温度×時間)を適宜設定することができる。ラボにおいて、100℃以上の加熱時は、アンプル管に溶封し、オイルバスを用いることができる。一方、100℃以下の加熱時は、ウォーターバスやブロックヒーター、サーマルサイクラーを用いることができる。
【0035】
本発明においては、上記の化学的処理及び物理的処理における各種殺菌処理を単独で或いは組み合わせて行うことができる。
【0036】
(第2工程)
この工程では、損傷した芽胞を蛍光染色試薬と接触させて該蛍光染色試薬で芽胞を染色する。すなわち、蛍光染色試薬は、損傷芽胞を染色することが可能な蛍光染色試薬である。一方、非損傷芽胞では、蛍光染色試薬が芽胞内部に透過できないため染色されない。
【0037】
蛍光染色試薬は、損傷を受けた芽胞を染色できるものであれば種類は特定されない。このような蛍光染色試薬としては、芽胞のコア内の核酸を染色することを可能にする蛍光染色試薬、例えば、ヘキスト(Hoechst)33342(2'-[4-ethoxyphenyl]-5'-[4-methyl-1-piperazinyl]-2,5'-bi-1H-benzimidazole trihydrochloride trihydrate)、Hoechst33258(4-[6'-(4-methylpiperazino)-6,2'-bi[1H-benzimidazole]-2-yl]phenol)、DAPI(ジアミジノ-2-フェニルインドール(diamidino-2-phenylindole))、ヘキシジウム・イオダイド(hexidium iodide)、SYTOTM RNA Select、芽胞のコア内部の死菌DNAを染色することを可能にする蛍光染色試薬、例えばプロピジウム・イオダイド(propidium iodide)などが挙げられ、これらの蛍光染色試薬は発芽していない芽胞では染色されず、加熱処理単独や薬剤処理の併用によって芽胞内部が染色されることを確認している。前述の蛍光染色試薬以外にも、生菌数との相関を比較することで、用いることができる蛍光染色試薬を適宜決定できる。そのような蛍光試薬は、例えば、致命的な損傷を免れた芽胞が発芽した場合の生菌活性を測定することが可能である蛍光染色試薬、例えば、芽胞が発芽したことを捉える生菌のもつエステラーゼによって活性化されるCFDA(カルボキシフルオレセインジアセテート(carboxyfluorescein diacetate))である。蛍光染色試薬を適宜適切な濃度に希釈し、芽胞と混合し数分〜数十分常温で処理した後、蛍光顕微鏡により芽胞を観察、計測する。
【0038】
(第3工程)
この工程では、芽胞の殺菌もしくは静菌作用を評価する。
この評価は、例えば、蛍光染色試薬によって染色される芽胞と蛍光染色試薬によって染色されない芽胞の割合を定量することによって行うことができる。
【0039】
或いは、場合によっては、非損傷芽胞が発芽した場合の生菌活性を測定することが可能である蛍光染色試薬を用いて非損傷芽胞を染色し、これによって非損傷芽胞の割合を定量してもよい。この定量値と、前述の定量法による損傷芽胞の定量値とから、それぞれの芽胞の割合を決定することができる。
【0040】
非損傷で増殖能力を有する芽胞の計測は、処理したサンプルを適宜希釈し、菌株に合わせた適切な培地で培養し、出現したコロニーの数をカウントすることによって行ってもよい。このとき芽胞の数は、通常、CFU/mlの単位で表記される。
【0041】
蛍光染色された芽胞とされていない芽胞の識別と定量は、蛍光顕微鏡やフローサイトメーターなど細胞の色調や蛍光を確認・計測できる装置を用いて行うことができるが、機種や計測方法は限定されない。蛍光顕微鏡を用いる場合は、位相差顕微鏡にて、総芽胞数を計測し、蛍光顕微鏡にて、蛍光染色された芽胞数を計測することで染色率(蛍光染色された染色芽胞数÷総芽胞数×100)を算出する。
【0042】
使用した蛍光染色試薬の特性によって染色率が異なる場合があるが、染色率と生菌数には、負の相関が認められ、すなわち、染色率が高くなるほど、生菌数は低くなることを示す。従って、蛍光染色試薬による染色率と生菌数の相関を一度取得することで、染色率から生菌数を測定することなく、各種殺菌処理によって損傷を受けた芽胞の割合を算出することができ、各種殺菌の効果を決定することができる。これは、正確で迅速な加熱殺菌条件や薬剤濃度条件などの殺菌条件の設定につながる。また、各種薬剤の種類について染色率を比較することで、後述の3節で記載するような、芽胞に損傷を与える効果の高い薬剤をスクリーングすることも可能となる。さらに、本発明の方法は加熱と薬剤の相乗効果についても正確に判定できるという利点を有している。
【0043】
3.芽胞に対し殺菌もしくは静菌作用を有する薬剤のスクリーニング方法
本発明はさらに、芽胞形成細菌の芽胞に対し殺菌もしくは静菌作用を有する薬剤をスクリーニングするための方法であって、芽胞形成細菌の芽胞を含有する疑いのあるサンプルに候補薬剤を添加し、該候補薬剤の殺菌もしくは静菌作用を、損傷芽胞を染色することが可能な蛍光染色試薬を用いて評価することを含むことを特徴とする方法を提供する。
【0044】
ここで、サンプルには、食品、医薬品、化粧品などの製品、その製造工程の中間品などが含まれるが、これらに限定されない。
【0045】
候補薬剤には、殺菌剤もしくは静菌剤が含まれる。栄養菌と異なり芽胞の殺菌を可能にする薬剤は限られており、例えば界面活性剤、グルタラール、次亜塩素酸塩、過酢酸などが一般に知られているが、動物体に直接使用する場合には、それらの毒性のために問題がある。このため、無毒又はほとんど毒性のない薬剤のなかで殺芽胞剤となりうる薬剤を見出すために、本発明のスクリーニング法を利用することができる。候補薬剤は、公知の殺菌剤のなかから選択してもよいし、或いは殺菌効果が知られていなかった物質のなかから選択されてもよく、低分子化合物及び高分子化合物のいずれでもよい。
【0046】
候補薬剤の殺菌もしくは静菌作用を、損傷芽胞を染色することが可能な蛍光染色試薬を用いて評価する手順は、上記2(第3工程)に記載したように行うことができる。必要に応じて、非損傷芽胞が発芽した場合の生菌活性を測定することが可能である蛍光染色試薬を用いて非損傷芽胞を染色し、これによって非損傷芽胞の割合を定量してもよい。
【0047】
4.芽胞の生菌もしくは死菌割合の測定方法
本発明はさらに、サンプル中の芽胞形成細菌の芽胞の生菌もしくは死菌割合を測定するための方法であって、該サンプルを蛍光染色試薬と接触させて、損傷した芽胞を蛍光染色試薬で染色し、蛍光染色試薬によって染色される芽胞と蛍光染色試薬によって染色されない芽胞の割合を定量することを含む方法を提供する。
【0048】
この方法は、芽胞の殺菌もしくは静菌作用を評価する方法(上記2参照)の第2工程及び第3工程からなる。したがって、上記第2工程及び第3工程に関する説明をここでも引用することができる。
【0049】
5.キット
本発明はさらに、芽胞形成細菌の芽胞の殺菌もしくは静菌作用を評価するためのキットであって、損傷芽胞を染色することが可能な蛍光染色試薬及び使用説明書を含むキットを提供する。
【0050】
本発明はまた、芽胞形成細菌の芽胞の生菌もしくは死菌割合を測定するためのキットであって、損傷芽胞を染色することが可能な蛍光染色試薬及び使用説明書を含むキットを提供する。
【0051】
蛍光染色試薬としては、上述したように、芽胞のコア内の核酸を染色することを可能にする蛍光染色試薬、例えば、Hoechst33342、Hoechst33258、DAPI、ヘキシジウム・イオダイド(hexidium iodide)、SYTOTM RNA Select、芽胞のコア内部の死菌DNAを染色することを可能にする蛍光染色試薬、例えばプロピジウム・イオダイド(propidium iodide)、それらの組み合わせなどが挙げられ、これらの蛍光染色試薬は発芽していない芽胞では染色されない。前述の蛍光染色試薬以外にも、生菌数との相関を比較することで、用いることができる蛍光染色試薬を適宜決定できる。そのような蛍光試薬は、例えば、非損傷芽胞が発芽した場合の生菌活性を測定することが可能である蛍光染色試薬、例えば、芽胞が損傷を受けなかった際に発芽したことを捉える生菌のもつエステラーゼによって活性化されるCFDA(carboxyfluorescein diacetate)である。
【0052】
芽胞形成細菌の芽胞は、特に制限されないものとし、上記例示のもの、例えばバチルス(Bacillus)網及びクロストリジウム(Clostridium)網からなる群から選択される細菌の芽胞である。
【0053】
本発明のキットはまた、本発明の上記の方法に使用することができるものである。
使用説明書には、方法の手順、方法に必要な試薬、バッファなどが説明されている。
【0054】
以上、本発明を詳細に説明したが、本発明の範囲は以下のように要約される。
(1) 芽胞形成細菌の芽胞の殺菌もしくは静菌作用を評価するための方法であって、
該芽胞に殺菌処理を施し芽胞に損傷を与える工程、
該損傷した芽胞を蛍光染色試薬と接触させて該蛍光染色試薬で芽胞を染色する工程、及び
該芽胞の殺菌もしくは静菌作用を評価する工程
を含む、前記方法。
(2) 前記芽胞の殺菌もしくは静菌作用の評価を、蛍光染色試薬によって染色される芽胞と蛍光染色試薬によって染色されない芽胞の割合を定量することによって行うことを特徴とする、(1)に記載の方法。
(3) 前記芽胞の殺菌が、殺菌剤又は抗菌剤などによる化学的処理、或いは、熱、紫外線、放射線、マイクロバブルなどによる物理的処理によって行うことを特徴とする、(1)又は(2)に記載の方法。
(4) 前記蛍光染色試薬が、損傷芽胞を染色することが可能な蛍光染色試薬であることを特徴とする、(1)〜(3)のいずれかに記載の方法。
(5) 前記蛍光染色試薬が、芽胞が損傷を受けた際にコア内部にあるDNAを染色することを可能にするヘキスト33342及びDAPI(diamidino-2-phenylindole)、並びに、芽胞のコア内部の死菌DNAを染色することを可能にするプロピジウム・イオダイド(PI)からなる群から選択されることを特徴とする、(1)又は(2)に記載の方法。
(6) 前記芽胞形成細菌の芽胞が、バチルス(Bacillus)網及びクロストリジウム(Clostridium)網からなる群から選択される細菌の芽胞であることを特徴とする、(1)〜(5)のいずれかに記載の方法。
(7) 非損傷芽胞が発芽した場合の生菌活性を測定することが可能である蛍光染色試薬を用いて該非損傷芽胞を染色し、これによって非損傷芽胞の割合を定量することをさらに含むことを特徴とする、(1)〜(6)のいずれかに記載の方法。
(8) 前記蛍光染色試薬が、芽胞が損傷を受けなかった際に発芽したことを捉える生菌のもつエステラーゼによって活性化されるCFDAであることを特徴とする、(7)に記載の方法。
(9) 芽胞形成細菌の芽胞に対し殺菌もしくは静菌作用を有する薬剤をスクリーニングするための方法であって、芽胞形成細菌の芽胞を含有する疑いのあるサンプルに候補薬剤を添加し、該候補薬剤の殺菌もしくは静菌作用を、損傷芽胞を染色することが可能な蛍光染色試薬を用いて評価することを含むことを特徴とする、前記方法。
(10) サンプル中の芽胞形成細菌の芽胞の生菌もしくは死菌割合を測定するための方法であって、該サンプルを蛍光染色試薬と接触させて、損傷した芽胞を蛍光染色試薬で染色し、蛍光染色試薬によって染色される芽胞と蛍光染色試薬によって染色されない芽胞の割合を定量することを含むことを特徴とする、前記方法。
(11) 芽胞形成細菌の芽胞の殺菌もしくは静菌作用を評価するためのキットであって、損傷芽胞を染色することが可能な蛍光染色試薬及び使用説明書を含むことを特徴とする、前記キット。
(12) 芽胞形成細菌の芽胞の生菌もしくは死菌割合を測定するためのキットであって、損傷芽胞を染色することが可能な蛍光染色試薬及び使用説明書を含むことを特徴とする、前記キット。
(13) 前記蛍光染色試薬が、ヘキスト33342、DAPI(diamidino-2-phenylindole)、プロピジウム・イオダイド(PI)又はそれらの組合せであることを特徴とする、(11)又は(12)に記載のキット。
(14) 非損傷芽胞が発芽した場合の生菌活性を測定することが可能である蛍光染色試薬をさらに含むことを特徴とする、(11)〜(13)のいずれかに記載のキット。
(15) 前記蛍光染色試薬が、芽胞が損傷を受けなかった際に発芽したことを捉える生菌のもつエステラーゼによって活性化されるCFDAであることを特徴とする、(14)に記載のキット。
(16) 前記芽胞形成細菌の芽胞が、バチルス(Bacillus)網及びクロストリジウム(Clostridium)網からなる群から選択される細菌の芽胞であることを特徴とする、(11)〜(15)のいずれかに記載のキット。
(17) (1)〜(10)のいずれかに記載の方法に使用するためのものであることを特徴とする、(11)〜(15)のいずれかに記載のキット。
【0055】
以下、実施例により本発明をより具体的に説明するが、本発明の技術的範囲はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0056】
[実施例1]
(供試菌株)
Geobacillus stearothermophilus (ATCC 7953)株を供試菌株として用いた。
【0057】
(芽胞の調製)
供試菌株について、公知の文献(近藤雅臣、渡部一仁偏著「スポア実験マニュアル」技報堂出版、1995、p19(日本))を参照し、芽胞を調製した。
【0058】
(薬剤処理)
調製した芽胞液に、ショ糖脂肪酸エステル(製品名:P1670(三菱化学フーズ社製))、界面活性剤(製品名:TritonX-100(和光純薬社製))を終濃度100ppmになるように添加した。また、芽胞液の終濃度は、105オーダーCFU/ml以上になるように調整した。
【0059】
(加熱処理)
薬剤処理したサンプル2mlをアンプル管に溶封し、オイルバスを用いて121℃で15又は30分間加熱処理した。加熱処理をしない処理区も設定した。
【0060】
(生菌数の測定)
薬剤処理及び加熱処理したサンプル1mlは、希釈系列を作成し、標準寒天培地に混釈培養した。55℃72時間培養後、形成したコロニーを計数し生菌数を求めた。
【0061】
(蛍光染色試薬処理)
薬剤処理及び加熱処理したサンプル1mlを1.5mLエッペンチューブに移し、15000rpm×3分間遠心分離し、上清を廃棄した。沈殿物に10μg/ml濃度のヘキスト33342(Invitrogen社)を10μL添加しよく混和した。数分〜30分間染色した。
【0062】
(蛍光顕微鏡観察)
染色したサンプルを顕微鏡にて観察した。蛍光顕微鏡観察は、公知の文献(稲澤譲治、津田均、小島清嗣監修「顕微鏡ふる活用術イラストレイテッド」秀潤社、2007、p52〜66、p196〜198)を参照した。蛍光色素の励起波長に適したフィルターと、蛍光波長に適した吸収フィルターがセットになった蛍光キューブを選択した。蛍光観察装置と位相差装置が装備された顕微鏡を用いて蛍光像と位相差像の合成画像を作成し、これをもとに染色芽胞と非染色芽胞を合計で100cell以上となるまで計測した。
【0063】
(生菌数と染色性)
Geobacillus stearothermophilusの芽胞について、薬剤と加熱を組み合わせた場合のヘキスト33342による芽胞の染色率と生菌数の関係を表1に示す。加熱をしない処理区では、染色率、生菌数に変化はほとんど見られず、薬剤を添加しても、芽胞に対しては効果がないことが分かる。損傷していない芽胞の顕微鏡写真を図1に示す。ヘキスト33342によって芽胞は染色されていないことがわかる。加熱条件を121℃30分行った場合は、80%以上染色され、生菌数も有意に減少している。損傷している芽胞の顕微鏡写真を図2に示す。ヘキスト33342によって芽胞のコア内部が染色されていることがわかる。121℃15分の殺菌では、薬剤なしの水処理区が染色率21.5%であるのに対しショ糖脂肪酸エステル(界面活性剤)P1670 100ppm添加区は、41.7%と倍増していた。生菌数においても水処理区に比べP1670処理区のほうが1/3に減少していた。このことにより、加熱とP1670を組み合せることによって、加熱単独より芽胞を損傷させる効果が高まることが、染色率によって培養せずにリアルタイムに判定することが可能であった。染色率と生菌数には相関が認められた。このように加熱による芽胞の損傷や、加熱と薬剤の相乗効果による芽胞の損傷の影響を培養することなくリアルタイムに観察することが可能であった。
【0064】
【表1】

【0065】
[実施例2]
供試菌株としてGeobacillus stearothermophilus(ATCC 7953)株を、蛍光染色試薬としてプロピジウム・イオダイド(PI)を用いた以外は全て実施例1と同様にして染色率と生菌数の相関を見た。
【0066】
Geobacillus stearothermophilusの芽胞について、薬剤と加熱を組み合わせた場合のPIによる芽胞の染色率と生菌数の関係を表2に示す。蛍光染色試薬としてヘキスト33342を用いた実施例1の場合と同様に染色率と生菌数には相関が認められ、PIを用いても殺菌処理による芽胞の損傷をリアルタイムに評価することが可能であった。
【0067】
【表2】

【産業上の利用可能性】
【0068】
本発明は、芽胞の定量方法、並びにこの方法を利用した、芽胞に対する各種殺菌条件の効果を迅速かつ正確に評価する方法を提供する。また、本発明は芽胞に対する殺菌もしくは静菌作用を有する薬剤のスクリーニング方法を提供する。従って、本法は芽胞に対する殺菌・静菌作用を有する新規薬剤のスクリーニング、静菌性乳化剤の芽胞に対する作用メカニズムの解明、食品、医薬品等の殺菌条件の選択や評価に利用可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
芽胞形成細菌の芽胞の殺菌もしくは静菌作用を評価するための方法であって、該芽胞に殺菌処理を施し芽胞に損傷を与える工程、該損傷した芽胞を損傷芽胞を染色することが可能な蛍光染色試薬と接触させて該蛍光染色試薬で芽胞を染色する工程、及び蛍光染色試薬によって染色される芽胞と蛍光染色試薬によって染色されない芽胞の割合を定量することによって該芽胞の殺菌もしくは静菌作用を評価する工程を含む、前記方法。
【請求項2】
前記蛍光染色試薬が、芽胞が損傷を受けた際にコア内部にあるDNAを染色することを可能にするヘキスト33342及びジアミジノ-2-フェニルインドール並びに、芽胞のコア内部の死菌DNAを染色することを可能にするプロピジウム・イオダイドからなる群から選択されることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記芽胞形成細菌の芽胞が、バチルス(Bacillus)網及びクロストリジウム(Clostridium)網からなる群から選択される細菌の芽胞であることを特徴とする、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
非損傷芽胞が発芽した場合の生菌活性を測定することが可能である蛍光染色試薬を用いて該非損傷芽胞を染色し、これによって非損傷芽胞の割合を定量することをさらに含むことを特徴とする、請求項1〜3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
前記蛍光染色試薬が、芽胞が損傷を受けなかった際に発芽したことを捉える生菌のもつエステラーゼによって活性化されるカルボキシフルオレセインジアセテートであることを特徴とする、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
芽胞形成細菌の芽胞に対し殺菌もしくは静菌作用を有する薬剤をスクリーニングするための方法であって、芽胞形成細菌の芽胞を含有するサンプルに候補薬剤を添加し、該候補薬剤の殺菌もしくは静菌作用を、損傷芽胞を染色することが可能な蛍光染色試薬を用いて評価することを含むことを特徴とする、前記方法。
【請求項7】
サンプル中の芽胞形成細菌の芽胞の生菌もしくは死菌割合を測定するための方法であって、該サンプルを蛍光染色試薬と接触させて、損傷した芽胞を蛍光染色試薬で染色し、蛍光染色試薬によって染色される芽胞と蛍光染色試薬によって染色されない芽胞の割合を定量することを含むことを特徴とする、前記方法。
【請求項8】
芽胞形成細菌の芽胞の殺菌もしくは静菌作用を評価するためのキットであって、損傷芽胞を染色することが可能な蛍光染色試薬及び使用説明書を含むことを特徴とする、前記キット。
【請求項9】
芽胞形成細菌の芽胞の生菌もしくは死菌割合を測定するためのキットであって、損傷芽胞を染色することが可能な蛍光染色試薬及び使用説明書を含むことを特徴とする、前記キット。
【請求項10】
請求項1〜7のいずれか1項に記載の方法に使用するためのものであることを特徴とする、請求項8又は9のいずれか1項に記載のキット。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate


【公開番号】特開2013−27379(P2013−27379A)
【公開日】平成25年2月7日(2013.2.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−167580(P2011−167580)
【出願日】平成23年7月29日(2011.7.29)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り (1)学会ホームページによる要旨先行公開 掲載アドレス:日本薬学会第131年会 要旨検索(http://nenkai.pharm.or.jp/131/pc/isearch.asp) 掲載日 :2011年2月1日 掲載者 :公益社団法人日本薬学会 (2)刊行物名 :日本農芸化学会2011年度大会講演要旨集 発行者 :社団法人日本農芸化学会 掲載頁 :第271頁(講演番号:3C28a09) 発行日 :2011年3月5日
【出願人】(391058381)キリンビバレッジ株式会社 (94)
【出願人】(503420833)学校法人常翔学園 (62)
【Fターム(参考)】