説明

苗移植機

【課題】ロータリー式の植付け装置を有する田植機において、植付け装置の慣性力に起因した負のトルクが動力伝達機構に作用して植付けクラッチが切れることを防止する。
【手段】
植付け装置8は左右横長の植付け中心軸91に取り付けられており、植付け中心軸91にはベベルギア98,99の対によって植付け伝動軸87から動力伝達される。ベベルギア98,99の間のバックラッシュを調整することにより、両ベベルギア98,99の間に摩擦抵抗を積極的に付与する。植付け装置8の慣性力に起因した負のトルク(正転方向の加速度)が作用しても、ベベルギア98,99の間の摩擦によって植付け伝動軸87の正転に負荷が働くため、植付けクラッチ49の切れを防止できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願発明は、乗用型田植機のような苗移植機に関し、特に、植付け装置動力伝達手段に特徴を有する。
【背景技術】
【0002】
苗移植機の代表として田植機がある。この田植機は、一般に、エンジンが搭載された走行機体とその後ろに配置した植付け部とを有しており、植付け部は走行機体に昇降可能に連結されている。植付け部は、苗マットを載せる苗載せ台やその後ろに配置した植付け装置を有している。植付け装置は、1つのロータリーケースに2つの掻き取りユニットを設けたタイプが一般的であり、ロータリーケースが1回転すると2つの掻き取りユニットはそれぞれロータリーケースに対して1回転する。
【0003】
すなわち、掻き取りユニットはロータリーケースの軸心回りに公転しながら自転するのであり、掻き取りユニットが姿勢を変えながら上下動することにより、苗マットからの苗の掻き取りと圃場への植付けが行われる。更に述べると、掻き取りユニットは苗マットから苗を1株だけ掻き取る植付爪を備えており、掻き取りユニットが公転しながら自転することにより、植付爪は上下に長い閉ループ軌跡を描く運動を行い、これにより、苗マットからの苗の掻き取りと圃場への植付けが行われる。
【0004】
そして、単位面積(一般に3.3m2 )当たりに苗を何株植えるかは必ずしも一定ではなく、地域やユーザーによって希望する株数が相違している。そこで、走行速度に対する植付け装置の動作速度を異ならせて、苗の株と株との間隔(株間)を変えることで、単位面積当たりの植付け株数を変更可能と成している。従前は3.3m2 当たり60〜90株といった密植が多かったが、苗の植付け密度と収量とは必ずしも比例せず、植付け密度が低くても収量に違いはなかったり却って増収する事実が見られることから、近年は、例えば3.3m2 当たり37〜50株といった疎植が増加傾向にあると言える。
【0005】
記述のようにロータリー式植付け装置は植付爪を有しており、この植付爪は圃場から素早く逃げるように設計されてはいる。しかし、株間が変わると必然的に単位走行距離当たりの植付け装置の動作サイクルが変化するため、例えば密植状態のときに下死点付近で植付爪がほぼ鉛直姿勢になるように設定していると、疎植状態では植付爪が圃場から逃げる速度が遅くなるため、疎植状態では植付けられた苗を植付爪が前に押し倒す現象が生じやすい。逆に、疎植状態のときに下死点付近で鉛直姿勢になるように設定しておくと、密植の状態では植付爪が圃場に入り込んだまま後ずさりするような現象が生じ、泥土がえぐられることで浮き苗が発生し易くなる問題がある。
【0006】
そこで、密植状態を基準にしつつ疎植状態において植付爪を圃場からより迅速に逃げ移動させるべく、株間変更装置に不等速ギアを配置することが行われている(例えば特許文献1,2)。また、特許文献3には、植付け装置を構成するギアに生じるバックラッシュ(ガタ)の影響を防止するため、植付け動力伝達機構に、植付け装置の1回転中に周期的に制動力を付与するブレーキ機構を設けることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特許第4376154号公報
【特許文献2】特開2003−189712号公報
【特許文献3】特許第4157875号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
さて、田植機において植付け部には走行機体から動力伝達されるが、植付け装置への動力は任意に継断させ得る必要があり、そこで、植付け動力伝達機構のうち株間変更装置の下流部に植付けクラッチを設けている。
【0009】
他方、例えば、田植機が畦などの斜面に乗り上げたとき出力が足りずにずり下がることがあり、このため動力伝達機構が逆回転することがある。この場合、動力伝達機構は逆回転できない構成になっているため、植付けクラッチを構成する部材が逆転不能に噛み合っていると、植付けクラッチが破損したり、動力伝達機構のうち強度が最も弱い部材が破損したりしてしまうことになる。そこで、植付けクラッチを構成する2つの部材には、逆転時には噛み合いが外れるような傾斜面を設けている。
【0010】
そして、本願発明者たちが観察したところ、植付け動力伝達機構を不等速回転させると、植付けクラッチが切れる現象が生じることが判った。つまり、株間変更装置で変速された回転動力はばねで付勢された植付けクラッチを介して下流側に伝達されるが、不等速回転の減速時に植付け装置は慣性力によって高速回転し続けようとする傾向を呈して、このため、互いに噛み合っているパーツのうち下流側のものが上流側のものよりも速く回転し、その結果、植付けクラッチが切れることがあった。また、1回転中に、正のトルクが作用している状態と作用していない状態とが交互に表れて、円滑な回転が阻害される現象も見られた。
【0011】
本願発明は、このような現状を改善すべく成されたものである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本願発明者たちは、田植機等の苗移植機の改良策として各請求項に記載した発明を完成させた。このうち請求項1の発明に係る苗移植機は、ロータリー式植付け装置を駆動する植付け動力伝達機構中に動力を継断する植付けクラッチが配置されている構成であって、前記植付け動力伝達機構のうち植付けクラッチよりも下流側の部位に、正転に対して負荷として作用する逆トルク付与手段を設けている。
【0013】
請求項2の発明は請求項1を具体化したもので、この発明は、前記ロータリー式植付け装置は水平状に配置された植付け中心軸に取り付けられており、前記植付け中心軸には、前記植付け中心軸に対して平面視で直交した姿勢の植付け伝動軸からベベルギアの対によって動力伝達されており、前記ベベルギアの対の間に摩擦抵抗を積極的に付与することで前記逆トルク付与手段となしている。
【0014】
請求項3の発明では、請求項1又は2において、前記逆トルク付与手段を前記植付け動力伝達機構の最下流部に設けている。請求項4の発明は、請求項3において、前記ロータリー式植付け装置は、水平状に配置された植付け中心軸に取り付けられているロータリーケースと、前記ロータリーケースに左右横長の駆動軸を介して相対回動自在に取り付けられた掻き取りユニットとを有している。
【0015】
請求項5の発明は請求項1を具体化したもので、この発明では、前記逆トルク付与手段、回転する軸の外周外側に突出した突起部材と、前記突起部材及び前記回転する軸を囲ったケースと、前記ケースに充填した粘性流体とで構成されており、前記回転する軸はケースに対してシールされた状態で回転自在に保持されている。
【発明の効果】
【0016】
本願発明によると、植付け装置の慣性力によって植付け動力伝達機構に負のトルクが作用しても、負のトルクが植付けクラッチに波及することを逆トルク付与手段によって防止又は著しく抑制できるか、或いは、植付け装置に負のトルクが生じること自体を防止又は抑制できる。このため、植付けクラッチが切れることを防止して、動力継続状態を保持することができる。その結果、植付け装置の動きを確保して、苗の適切な植付け状態を維持できる。負のトルクは不等速変換手段を設けた場合のようにトルク変動が大きくなると発生しやすくなるため、本願発明は、動力伝達機構に不等速変換手段を設けた場合に特に好適である。
【0017】
逆トルク付与手段は様々の構成を採用できるが、請求項2のようにベベルギアの対を利用すると、既存の部材をそのまま活用できるためコスト面で有利である。請求項3のように逆トルク付与手段を植付け動力伝動機構の最下流部(末端部)に設けると、植付け動力伝動機構の振動等を抑制できて好適である。また、逆トルク付与手段は様々の構成を採用できるが、請求項5のように粘性流体を使用すると、磨耗による機能低下を防止できる利点がある。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本願発明を適用した田植機の平面図である。
【図2】田植機の側面図である。
【図3】田植機の骨組みを示す斜視図である。
【図4】(A)は動力伝達経路の全体を示す斜視図、(B)は植付け装置の斜視図である。
【図5】(A)は動力伝達経路の側面図、(B)は植付け装置の箇所の側面図、(C)は植付爪の軌跡を示す図である。
【図6】(A)は動力伝達経路を示す平面図、(B)は株間変更装置の外観斜視図、(C)及び(D)は植付け部に設けたセンターケースの外観斜視図である。
【図7】(A)は株間変更装置及びセンターケースにおけるギア群の外観斜視図、(B)はセンターケースにおけるギア群の斜視図、(C)はセンターケースにおけるギア群の背面図である。
【図8】伝動系統図である。
【図9】第1実施形態の適用部を示す図で、(A)は概略平面図、(B)は分離平面図である。
【図10】(A)は第1実施形態に係るベベルギアの側面図、(B)は歯形を示す図、(C)及び(D)は変形例を示す模式的側面図である。
【図11】第2実施形態を示す図で、(A)は一部を仮想線で示した斜視図、(B)は(A)のB−B視断面図である。
【図12】(A)は第3実施形態を示す図、(B)は第4実施形態を示す図である。
【図13】(A)は第5実施形態を示す図、(B)は第6実施形態を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
次に、本願発明の実施形態を図面に基づいて説明する。本実施形態は乗用型田植機(以下、単に「田植機」という)に適用している。以下の説明では方向を特定するため前後・左右の文言を使用しているが、この前後・左右の文言は、田植機の前進方向を前として定義している。正面視方向は前進方向と対向した方向になる。
【0020】
(1).田植機の概要
まず、図1〜図5に基づいて田植機の概要を説明する。図1〜図3に示すように、田植機は走行機体1とその後ろに配置された植付け部2とを有している。走行機体1は前後の車輪3,4や操縦座席5、操縦ハンドル6を有しており、一方、植付け部2は苗マットが載る苗載せ台7や植付け装置8を有している。本実施形態の田植機は8条植えタイプであり、このため、苗載せ台7には8つの苗マット載置エリアが形成されていると共に、植付け部2の後部には8個の植付け装置8が横一列に配置されている。また、植付け部2はフロートも備えている。
【0021】
図3に示すように、走行機体1は多数のフレーム材から成る骨組み9を有しており、骨組み9の前部でエンジン10が支持されている。エンジン10の後ろには走行ミッションケース11が配置されている。図4(A)に明示するように、ミッションケース11の左側面には正油圧式無段変速機(HST)12が装着されており、エンジン10の動力はベルト13によって正油圧式無段変速機(HST)12に伝達される。エンジン11はボンネット14で覆われている。また、走行機体1のうちボンネット14を除いた部分は車体カバー15で覆われている。
【0022】
ミッションケース11の左右側面にはフロントアクスル装置17が取付けられており、フロントアクスル装置17に前輪3が取り付けられている。ミッションケース11の後ろにはリアアクスルケース18が配置されており、リアアクスルケース18から横向きに突出させた後ろ車軸に後輪4が取付けられている。ミッションケース11とリアアクスルケース18とは前後長手のジョイント材19で連結されている。リアアクスルケース18には左右2本のリア支柱20が取付けられており、リア支柱20の上端は、骨組み9の後端部を構成する左右横長のリアフレーム9aに固定されている。
【0023】
左右のリア支柱20には上下のリンク体(トップリンク及びロアリンク)から成るリンク装置21が回動自在に連結されており、リンク装置21の後端に植付け部2が取付けられている。リンク装置21は、ジョイント材19に連結された油圧シリンダ(昇降シリンダ)22によって回動させることができる。従って、油圧シリンダ22を伸縮させることにより、植付け部2が昇降する。
【0024】
図4から容易に理解できるように、ミッションケース11の内部からリアアクスルケース18の内部に後輪ドライブ軸23で動力伝達される。本実施形態の田植機は植付け部2に整地ロータ24を設けており、整地ロータ24にはリアアクスルケース18から後ろ向き突出したロータ駆動軸25から動力伝達される。
【0025】
本実施形態ではリアアクスルケース18の右側部に株間変更装置26を取付けており、ミッションケース11から株間変更装置26に植付け用動力伝達軸27で動力伝達される。植付け用動力伝達軸27の回転は株間変更装置26に内蔵したギア群によって変速され、PTO軸29によって植付け部2に伝達される。
【0026】
植付け部2は左右横長のメインフレーム28を有しており、メインフレーム28の略左右中間部にセンターケース30が固定されており、PTO軸29の動力はセンターケース30に内蔵されたギア群に伝達される。メインフレーム28の後面には後ろ向きに延びる4本の支持アーム31が固定されており、支持アーム31の後端部に左右一対ずつの植付け装置8が回転自在に取付けられている。
【0027】
支持アーム31の基端部(前端寄り部位)には左右横長の植付け駆動軸32が貫通しており、この植付け駆動軸32の回転によって植付け装置8が駆動される(詳細は後述する。)。また、植付け駆動軸32には、センターケース30に内蔵したギア群を介してPTO軸29から動力が伝達される。センターケース30には左右横長の横送り軸33も取付けられており、横送り軸33の回転によって苗載せ台7が1ピッチずつ横移動する。
【0028】
植付け部2は苗マットが載るベルト34の群を有しており、ベルト34は上下一対の 縦送り支軸35に巻き掛けられている。苗載せ台7が左右のいずれか一方に移動し切ると縦送り支軸35は回転し、苗マットが1ピッチだけ下降動する。
【0029】
図4(B)に示すように、各植付け装置8は1つのロータリーケース36とその両端部に回転自在に設けた掻き取りユニット37とを有しており、ロータリーケース36が1/2回転するごとに掻き取りユニット37による苗の掻き取りと植付けが行われる。また、PTO軸29が1回転するとロータリーケース36は1/2回転するように設定されている。そして、PTO軸29の回転数は田植機の走行速度に比例しているが、株間変更装置26によって走行速度とPTO軸29の回転数との関係を変えることにより、苗の植付け間隔(株間)を変更することができる。
【0030】
(2).株間変更装置の構造
以下、株間変更装置26から植付け装置8に至る動力伝達経路の詳細を説明する。まず、株間変更装置26の詳細を、主として図6〜8に基づいて説明する。株間変更装置26は図6(B)に示す前後2つ割り方式の株間ケース40を有しており、その内部に、図7(A)(C)に示すようなギア群が配置されている。
【0031】
株間ケース40の内部には、入力軸41と出力軸42とが配置されており、入力軸41に自在継手を介して植付け用動力伝達軸27の後端が接続されている。出力軸42にはカップリング100を介して緩衝装置101が接続されており、緩衝装置101の従動軸102が自在継手103(図5(A)参照)を介してPTO軸29に連結されている(緩衝装置101の構造は後述する。)。入力軸41には同径の第1ギア43と第2ギア44とが固定されている。両ギア43,44は同径ではあるが、歯数は第1ギア43よりも第2ギア44が僅かに少なくなっている。
【0032】
入力軸41と出力軸42とは同心に配置されている。入力軸41には筒型の中間軸45が相対回転可能に嵌まっており、中間軸45は出力軸42と一緒に回転する状態(相対回転不能な状態)で嵌まっている。中間軸45には第3ギア46と第4ギア47とがスプライン嵌合等によってスライド可能で相対回転不能に嵌まっている。更に、中間軸45には第1不等速ギア48が相対回転自在でスライド可能に嵌まっている。
【0033】
出力軸42にはカム式の植付けクラッチ49を設けている。例えば図7(C)に示すように、植付けクラッチ49は固定パーツ49aとスライドパーツ49bとを有しており、スライドパーツ49bはクラッチばね49cで固定パーツ49aに向けて付勢されている。スライドパーツ49bがクラッチばね49cに抗して固定パーツ49aから離反すると入力軸41から出力軸42への動力伝達は遮断される。
【0034】
スライドパーツ49bと固定パーツ49aとの噛み合い面(カム面)は、固定パーツ49aが逆転する(換言するとスライドパーツ49bが正転する)と互いの噛み合いが解除されるように傾斜している。
【0035】
株間ケース40の内部には、側面視で入力軸41及び出力軸42と平行に延びるアイドル軸51が回転自在に軸支されており、このアイドル軸51に第1ギア43又は第2ギア44に噛み合い得る第5ギア52がスプライン嵌合等によってスライド可能・相対回転不能に嵌まっている。第5ギア52は第1ギア43又は第2ギア44の2倍程度の歯数であり、第1ギア43に噛合した第1ポジションと、第2ギア43に噛合した第2ポジションとを選択できる。
【0036】
なお、第5ギア52を第1ギア43又は第2ギア44に選択的に噛み合わせることに代えて、第1ギア43に噛合する減速用の第5ギア52の他に、図8に一点鎖線で示すように、第2ギア44に噛合する減速用ギア53を設けて、両減速用ギア52,53のいずれかに動力を伝達する構成を採用することも可能である。
【0037】
第1ギア43と第2ギア44と第5ギア52の歯数の関係は、例えば、第1ギア43に対する第5ギア52の歯数を比率の2.0倍に設定し、第2ギア44に対する第5ギア52の歯数の比率を約2.3倍に設定することができる。
【0038】
アイドル軸51には、第3ギア46に対して噛み合い・離反する第6ギア54と、第4ギア47に噛み合い・離反する第7ギア55、及び、第1不等速ギア48と常に噛み合っている第2不等速ギア56が固定されている。第3ギア46に対する第6ギア54の比率よりも、第4ギア47に対する第7ギア55の歯数の比率が小さくなるように設定している。
【0039】
従って、中間軸45(及び出力軸42)の回転数は、第3ギア46と第6ギア54とが噛み合っている状態よりも、第4ギア47と第7ギア55とが噛み合っている状態の方が低くなっている。具体的な歯数の比率としては、例えば、第3ギア46に対する第6ギア54の歯数の比率を約1:1.94、第4ギア46に対する第7ギア55の歯数の比率を約1:1.41と成すことができる。
【0040】
第1不等速ギア48と第2不等速ギア56とは楕円のような非円形のプロフィールであり、歯数は同じに設定されている。従って、両不等速ギア48,56を介してアイドル軸51の回転が中間軸45及び出力軸42が伝えられている状態では、アイドル軸51と出力軸42との回転数は同じで、かつ、出力軸42はその1回転中で角速度を周期的に変化させた状態で回転する。両不等速ギア48,56は非円形であって噛み合い姿勢が一定に決まっているという特殊性から、常に噛み合い状態に保持されている。本実施形態では、株間変更装置26に設けた不等速ギア48,56により、25%程度の加減速が付与されている。
【0041】
第4ギア47と第1不等速ギア48とには、噛み合い・離間自在な中間クラッチ57を設けている。第4ギア47は、図8の状態からいったん第7ギア55と噛合した状態を経て更に右向きにスライドすると、中間クラッチ57が噛み合う。中間クラッチ57が噛み合った状態では、アイドル軸51の動力は不等速ギア56,48を介して出力軸42に伝えられる。中間クラッチ57が噛み合っている状態では第3ギア46と第4ギア47は空転している。従って、中間クラッチ57は中間軸45と第1不等速ギア48との連結を継断する働きをしている。
【0042】
第5ギア52がスライドすることで2段階の切り換えが行われ、中間軸45がスライドすることで3段階の切り換えが行われる。従って、全体として6段階の組み合わせが存在する。例えば、3.3m2 当たりの株数として、37株、43株、50株、60株、70株、85株といった株数に変更できるのであり、疎植・密植の全エリアが殆ど網羅されている。
【0043】
株間ケース40の上部には、入力軸41及び出力軸42と平行に延びる施肥用回転軸58が回転自在に配置されており、この施肥用回転軸58に、第1ギア43と噛合する第8ギア59が相対回転自在に嵌まっている。施肥用回転軸58からはベベルギア61を介して施肥駆動軸62に動力伝達される。
【0044】
図7(A)に示すように、株間変更装置26は第1操作軸63と第2操作軸64との2本の操作軸を有する。これら操作軸63,64は前後長手の姿勢になっており、株間ケース40の手前に露出している。第1操作軸64は第1レバー65で前後スライド操作することができ、第2操作軸65は第1レバー66で前後スライド操作することができる。第1操作軸51は第5ギア52をスライド操作するためのものであり、第5ギア52をスライドさせるシフターを有している。第2操作軸64は中間軸45をスライド操作するためのものであり、中間軸45に係合するシフターを備えている。
【0045】
(3).センターケースの内部構造
次に、図6〜図8に基づいてセンターケース30の内部構造(すなわち植付け部変速装置)を説明する。センターケース30は左右2つ割り方式のシェル体から成っており、前後長手の入力軸69が回転自在に保持されている。入力軸69の前端とPTO軸29の後端とは自在継手を介して接続されている。
【0046】
センターケース30の内部には左右長手の中間軸70が配置されており、入力軸69の回転は第1ベベルギア71の対によって中間軸70に伝達される。センターケース30の内部には横送り駆動軸72が左右横長の姿勢で配置されており、横送り駆動軸72に横送り軸33が連結されている。
【0047】
横送り駆動軸72には3枚の掻き取り量調節従動ギア73が固定されている一方、中間軸70には、掻き取り量調節従動ギア73に対応して3枚の掻き取り量調節主動ギア74が遊嵌している。3枚の掻き取り量調節主動ギア74のうちいずれか1つのみに、スライドキー76(図8参照)によって中間軸70から選択的に動力伝達される。スライドキー76は、図6(A)(B)に示すスライドレバー77によってスライド操作される。
【0048】
掻き取り量調節ギア73,74の対はそれぞれ歯数の比率が相違しており、掻き取り量調節ギア73,74の組み合わせを変えると、PTO軸29に対する横送り駆動軸72の回転比率が変わる。その結果、苗載せ台7の横送りピッチが変化して苗の掻き取り量が変化する。
【0049】
センターケース30は後ろ下向きに延びる張り出し30aを有しており、この張り出し30aに左右横長の植付け出力軸78が回転自在に保持されており、植付け出力軸78には、中間軸70に固定した第1中継ギア79、横送り駆動軸72に相対回転自在に嵌まった第2中継ギア80、センターケース30にアイドル軸81を介して回転自在に保持された第3中継ギア82、植付け出力軸78にスリーブ83を介して取付けられた第4中継ギア84から動力伝達される。
【0050】
植付け出力軸78とその隣りに位置した植付け駆動軸32とは、カップリング(スリーブ)86で接続されている。また、左右に隣り合った植付け駆動軸32もカップリング86で接続されている。従って、各植付け駆動軸32は一体に回転する。植付け駆動軸32は各植付け装置8の箇所ごとに分断されており、隣り合った植付け駆動軸32はカップリング86で接続されている。なお、植付け出力軸78と各植付け駆動軸32とを1本の棒材から成る単一構造体とすることも可能である。
【0051】
(4).支持アームの内部構造・植付け装置の概略
例えば図9に示すように、植付け伝動軸87には、植付け駆動軸32から第2ベベルギア88a,88bの対で動力伝達されている。第2ベベルギア88a,88bのうち植付け伝動軸87と同心に回転する第2ベベルギア88bは、植付け伝動軸87に嵌まったトルクリミッタ89に取付けられている。トルクリミッタ89はばね90を有しており、植付け伝動軸87に過負荷が掛かると噛み合いが外れる。
【0052】
支持アーム31の後端部(先端部)には左右横長の植付け中心軸91が回転自在に保持されている。植付け中心軸91は支持アーム31の左右外側に突出しており、その突出端部にロータリーケース36に内蔵された太陽ギア92が固定されている。詳細は省略するが、ロータリーケース36は支持アーム31の後端部に回転自在に保持されている。
【0053】
第3主動ベベルギア98は段違い状のボス体を98aを有しており、カップリング100はボス体98aの小径部に嵌まっている。ボス体を98aにはベアリング101が嵌まっている。カップリング100は植付け伝動軸87及びボス体98aに相対回転不能に保持されている。第3従動ベベルギア99は植付け中心軸91に相対回転可能に嵌まっており、かつ、第3従動ベベルギア99は可動クラッチ102と噛み合うカム部103を有している。可動クラッチ102には、操作リング105が一体に溶接されている。図9に符号104で示す部材は軸受けである。
【0054】
可動クラッチ102は植付け中心軸91にスライド可能で相対回転不能に保持されている。図示しない回転式の操作ロッドを操作すると、可動クラッチ102が植付け中心軸91の軸心に沿って第3従動ベベルギア99から離反し、すると、植付け中心軸91への動力が遮断される(条止めされる。)。
【0055】
ロータリーケース36は左右2つのシェル体を重ね合わせた中空構造になっており、その長手中間部には既述の太陽ギア92が配置され、その外側に中間ギア93が配置され、その外側に遊星ギア94が配置されている。各ギア92,93,94は非円形で偏心しており、このためロータリーケース36は不等速回転する。そして、遊星ギア94に固定された植付け軸95に掻き取りユニット37が固定されている。植付け軸95が植付け動力伝達機構における最下流の回転軸になっている。
【0056】
図5に明示するように、掻き取りユニット37は植付爪96と突き出しロッド97とを備えており、植付爪96で苗マットから苗を1株だけ切り取って圃場に移行させ、下死点近傍で突き出しロッド97が植付爪96に対して相対的に前進することで苗は圃場に植付けられる。図9に示すように、植付け中心軸91には、第3主動ベベルギア98と第3従動ベベルギア99との対により、植付け伝動軸87から動力が伝達される。なお、第3主動ベベルギア98の2回転で第3従動ベベルギア99が1回転する。
【0057】
(5).第1実施形態・まとめ
ロータリーケース36の回転によって2つの掻き取りユニット37が公転し、図5(C)に示すように、植付爪96は上下に長い閉ループ軌跡を描いた運動をする。そして、1つの掻き取りユニット37が苗マットから苗を掻き取るときに負荷はピークとなり、苗の掻き取りによって負荷は急激に減少する。
【0058】
そして、植付け装置8は細長いロータリーケース36の両端に掻き取りユニット37が取り付いた形態であるため、掻き取りユニット37が重りの役割を果たして大きな慣性力が生じる。
【0059】
そして、疎植状態で不等速変換手段によってロータリーケース36の回転に加減速が付与されていると、植付け装置8の慣性力が高くなり、正と負のトルクが交互に発生する。このため、何等の対策を講じないと、減速時の負のトルクによって植え付けクラッチ49が切れる現象を生じることがある。
【0060】
この点に対する対策として第1実施形態では、図10(A)に示すように第3主動ベベルギア98から第3従動ベベルギア99に動力伝達するにおいて、図10(B)に示すように、両ベベルギア98,99の噛み合いをきつくして両ベベルギア98,99間の摩擦抵抗を大きくすることにより、植付け伝動軸87の正転に対して抵抗(負荷)を掛け、これによって負のトルクが植付けクラッチ49に波及することを防止している。つまり、両ベベルギア98,99のバックラッシュを無くすか極力小さくすることで、正転に対する抵抗を付与している。
【0061】
この場合、両ベベルギア98,99は常に大きな摩擦抵抗が生じる状態で噛み合っていても良いし、不等速回転の減速時に噛み合いに摩擦抵抗が生じる状態と成してもよい。すなわち、両ベベルギア98,99を構成する歯98b,99b及び谷はそれぞれ全周にわたって同じプロフィールでもよいし、若干のバックラッシュを有するプロフィールとバックラッシュがないプロフィールとに形成してもよい。後者の方が動力損失は少なくなる。
【0062】
図10(C)(D)ではベベルギアを逆トルク付与手段と成した場合の変形例を示している。このうち(C)の変形例では、第3主動ベベルギア98をばね107で第3従動ベベルギア99に押圧することで摩擦抵抗を付与している。ばね107は植付け伝動軸87に設けたリング108で支持されている。第3主動ベベルギア98は、スプライン嵌合等により、植付け伝動軸87にスライド自在で相対回転不能に保持されている。
【0063】
図10(D)に示す変形例では、両ベベルギア98,99にそれぞれシザーズギア98c,99cを設けることで、両ベベルギア98,99に積極的な回転抵抗を付与している。なお、他のベベルギアの対に積極的な回転抵抗を付与することで逆トルク付与手段と成すことも可能である。
【0064】
(6).他の実施形態(図11〜図13)
図11に示す第2実施形態は請求項5を具体化したもので、植付け動力伝達機構を構成する適宜の回転軸131に複数枚の羽根132を放射方向に突設し、羽根131をケース133で囲っている。ケース133の内部には、例えばグリース等の粘性流体134が充填されている。当然ながら、ケース133は回転軸131にシールされている。ケース133は何らかの支持部材に固定されている。
【0065】
この実施形態では、羽根132の回転に対して粘性流体134が抵抗として作用することにより、回転軸131の正転に対して負荷が作用する。その結果、植付け装置8の回転によって負のトルクが発生しても、これが植付けクラッチ49に波及することを防止できる。
【0066】
図12(A)に示す第3実施形態及び図12(B)に示す第4実施形態も粘性流体を使用している。このうち図12(A)に示す第3実施形態では、羽根132はリング状に形成されていて回転軸131の外周に沿って延びている。ケース133は円筒形に形成されている。この第3実施形態では、粘性流体134は図11の実施形態よりも高い粘度のものを使用できる。
【0067】
図12(B)に示す第4実施形態では、ケース133のうち軸心を挟んだ両側に抵抗板135を内向き突設する一方、回転軸131に設けた羽根132は円周方向の一部のみに設けている。抵抗板135及び羽根132は複数枚ずつ交互に配置している。この実施形態では、羽根132が抵抗板135を通過するときに回転抵抗が大きくなる。従って、植付け装置8に負のトルクが発生したときだけ回転軸131に大きな回転抵抗を付与できる。回転軸131の1回転について1回だけ負のトルクが発生する場合は、抵抗板135は周方向の1カ所のみに設けたらよい。
【0068】
図13(A)に示す第5実施形態では、回転軸131に周面カム136を設けて、周面カム136における一対のカム部136aにばね138で付勢されたボール137を当接することにより、回転軸131に対する抵抗となしている。ボール137に代えてローラを使用してもよい。
【0069】
図13(B)に示す第6実施形態では、回転軸131に可動マグネット140を埋設固定する一方、回転軸131の外側に固定マグネット141を配置し、両マグネット140,141の吸引力を回転抵抗と成している。回転軸131には非磁性体製のスリーブ142を固定しているが、これは無くてもよい。
【0070】
(7).その他
本願発明は、上記の実施形態の他にも様々に具体化できる。例えば、逆トルク付与手段は様々の構成を採用できる。逆トルク付与手段としてカムを使用する場合、端面カムなどの各種のカムを採用できる。逆トルク付与手段は、植付けクラッチよりも下流側であればどこにでも配置できる。
【産業上の利用可能性】
【0071】
本願発明は田植機に具体化して有用性を発揮する。従って、産業上利用できる。
【符号の説明】
【0072】
1 走行機体
2 植付け部
8 植付け装置
10 エンジン
26 株間変更装置
29 動力伝達経路を構成するPTO軸
36 ロータリーケース
37 掻き取りユニット
49 植付けクラッチ
87 植付け伝動軸
91 植付け中心軸
98,99 本願発明を適用した第3ベベルギア
131 回転軸
132 逆トルク付与手段を構成する羽根
133 逆トルク付与手段を構成するケース
134 逆トルク付与手段を構成する粘性流体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ロータリー式植付け装置を駆動する植付け動力伝達機構中に動力を継断する植付けクラッチが配置されている構成であって、
前記植付け動力伝達機構のうち植付けクラッチよりも下流側の部位に、正転に対して負荷として作用する逆トルク付与手段を設けている、
苗移植機。
【請求項2】
前記ロータリー式植付け装置は水平状に配置された植付け中心軸に取り付けられており、前記植付け中心軸には、前記植付け中心軸に対して平面視で直交した姿勢の植付け伝動軸からベベルギアの対によって動力伝達されており、前記ベベルギアの対の間に摩擦抵抗を積極的に付与することで前記逆トルク付与手段となしている、
請求項1に記載した苗移植機。
【請求項3】
前記逆トルク付与手段を前記植付け動力伝達機構の最下流部に設けている、
請求項1又は2に記載した苗移植機。
【請求項4】
前記ロータリー式植付け装置は、水平状に配置された植付け中心軸に取り付けられているロータリーケースと、前記ロータリーケースに左右横長の駆動軸を介して相対回動自在に取り付けられた掻き取りユニットとを有している、
請求項3に記載した苗移植機。
【請求項5】
前記逆トルク付与手段は、回転する軸の外周外側に突出した突起部材と、前記突起部材及び前記回転する軸を囲ったケースと、前記ケースに充填した粘性流体とで構成されており、前記回転する軸はケースに対してシールされた状態で回転自在に保持されている、
請求項1に記載した苗移植機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2012−244952(P2012−244952A)
【公開日】平成24年12月13日(2012.12.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−120038(P2011−120038)
【出願日】平成23年5月30日(2011.5.30)
【出願人】(000006781)ヤンマー株式会社 (3,810)
【Fターム(参考)】