説明

苗移植機

【課題】苗移植機においては、苗つぎ作業等の走行を停止して行う作業の頻度が高く、作業者が苗等の補充作業を行うときエンジンをアイドリング状態のままにしていると、燃費の向上が図れず環境適応性を悪化させる問題があった。また、作業者がエンジンを切ることも可能であるが、作業者の操作が増えると共に確実性に欠けるという問題があった。
【解決手段】主変速レバー(203)等からの信号を受けエンジン状態を制御する制御装置を設けた苗移植機であって、その制御装置が、前記主変速レバー(203)を中立位置に位置する時間が前記タイマー装置の第一設定時間を経過した場合に、前記エンジン(20)を停止する制御構成を有することを特徴とする苗移植機により上記問題を解決した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、圃場に水稲等の苗を移植する苗移植機において、アイドリング中に自動的にエンジンを停止させる機能を有する苗移植機に関するものである。
【背景技術】
【0002】
特許文献1に記載された苗移植機は、機体の前後走行や中立操作に合わせてエンジンの回転数を変更し、燃費の向上や作業機の円滑な動作を可能とする構成を採用している。しかしこの構成では、作業者が苗や肥料の補充作業を行うときや、休憩するときにアイドリング状態のままにしていると、燃料を消費し続けて燃費の向上が図れず、また排気ガスを排出し続けて環境適応性を悪化させる問題がある。この問題の解消のために、作業者がエンジンを切ることも可能であるが、作業者の操作が増えると共に確実性に欠ける。
【0003】
特許文献2に記載された苗移植機は、主変速レバーを中立位置から所定方向に操作すると、キー操作を行うことなくエンジンを停止させる構成を採用することで、停止時にエンジンを簡単に切り、アイドリング時の燃料消費や排気ガスの排出を抑えるものである。しかしながら、レバー操作でエンジンを切る操作を作業者が忘れるとアイドリング状態が維持されてしまうため、特許文献1の構成と同様確実性に欠けるという問題が残存する。加えて、主変速レバーのレバーガイド溝にエンジンの停止位置を形成しているので、主変速レバーを誤操作してしまうと、作業者が意図しない位置でエンジンが停止してしまい、作業能率が低下する問題が生じる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2011−103802号公報
【特許文献2】特開2010−094134号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
作業者が苗や肥料の補充作業を行うときなどに、燃料を消費し続けて燃費の向上が図れない等の問題を、作業者の操作に依存せず確実に解決することである。特に、苗移植機においては、苗の補充作業苗つぎ作業や予備苗の搬入作業は走行を停止して行われることになり、その頻度は相当高いので、確実にこの問題を解決する必要がある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、上記課題を解決すべく次のような技術的手段を講じた。
すなわち、請求項1記載の発明は、前輪(10)と後輪(11)とにより圃場を走行する作業機体(2)に、動力源としてのエンジン(20)と、複数条分の苗を搭載可能な苗載台(51)及びこの苗載台(51)から苗を取って圃場に植えつける苗植付装置(52)を備え、前記エンジン(20)からの分岐動力を用いてリンク機構により昇降する苗植付部(4)と、前記作業機体(2)の走行・停止・速度を操作する主変速レバー(203)と、前記作業機体の路上走行モードと植付作業走行モードとを選択する副変速レバー(205)と、前記主変速レバー(203)及び副変速レバー(205)からの信号を受けエンジン状態を制御する制御装置(101)を設けた苗移植機において、前記主変速レバー(203)の位置を検知する第一の位置検知部材(102)と、この第一の位置検知部材(102)の信号により動作するタイマー装置(103)とを設けると共に、前記制御装置(101)が、前記主変速レバー(203)を中立位置に位置する時間が前記タイマー装置(103)の第一設定時間を経過した場合に、前記エンジン(20)を停止する制御構成を有することを特徴とする苗移植機である。
【0007】
また、請求項2記載の発明は、前記エンジン(20)の始動及び停止を操作するキー装置(106)のキー位置がエンジン(20)の動作するON位置に位置しており、かつ、前記エンジン(20)が停止状態であるとき、前輪(10)及び後輪(11)の回転を規制する走行規制装置(104)を作動させ、且つ、前記主変速レバー(203)を非中立位置に移動させたことを第一の位置検知部材(102)が検知すると、前記エンジン(20)を始動させる制御構成を有することを特徴とする請求項1に記載の苗移植機である。
【0008】
また、請求項3記載の発明は、前記副変速レバー(205)の位置を検知する第二の位置検知部材(108)を設け、前記副変速レバー(205)が路上走行モード位置に位置することを該第二の位置検知部材(108)が検知しているときは、前記第一設定時間が経過してもエンジン(20)を停止させない制御構成を有することを特徴とする請求項1または請求項2に記載の苗移植機である。
【0009】
また、請求項4記載の発明は、前記制御装置(101)が、自動旋回制御構成を有しており、この自動旋回制御が行われている場合には、前記第一設定時間が経過してもエンジン(20)を停止させない制御構成を有することを特徴とする請求項1から請求項3のいずれかに記載の苗移植機である。
【0010】
また、請求項5記載の発明は、前記主変速レバー(203)に、前記苗植付部(4)を上下動させる昇降スイッチ(203b)を設けると共に、前記制御装置(101)が、前記昇降スイッチ(203b)の上昇操作信号または下降操作信号のいずれか一方の発信を検知すると、前記第一設定時間が経過してもエンジン(20)を停止させない制御構成を有することを特徴とする請求項1から請求項4のいずれかに記載の苗移植機である。
【0011】
また、請求項6記載の発明は、前記タイマー装置(103)に前記第一設定時間よりも短い第二設定時間を設定し、前記制御装置(101)が、前記主変速レバー(203)を中立位置に位置する時間が前記第二設定時間を経過したことを検知すると、前記エンジン(20)からの動力を伝達する油圧式無段変速装置(23)を停止する制御構成を有することを特徴とする請求項1または請求項2に記載の苗移植機である。
【0012】
また、請求項7記載の発明は、前記主変速レバー(203)に、前記苗植付部(4)を上下動させる昇降スイッチ(203b)を設けると共に、前記制御装置(101)が、前記昇降スイッチ(203b)の上昇操作信号または下降操作信号のいずれか一方が発信されている場合には、前記第二設定時間が経過しても前記油圧式無断変速装置(23)を停止させない制御構成を有することを特徴とする請求項6に記載の苗移植機である。
【発明の効果】
【0013】
請求項1記載の発明によれば、主変速レバーを中立位置に移動させて、所定時間が経過するとエンジンを停止する構成としたことにより、アイドリング状態でエンジンが放置されることを確実に防止できるので、作業者に依存せずに燃料の消費量が抑えられ燃費が向上すると共に、排気ガスの排出量が抑えられ環境適応性が向上する。
【0014】
請求項2記載の発明によれば、キー装置のキー位置がON位置にあるとき、走行規制装置を作動させた状態で主変速レバーを操作するとエンジンが作動状態になるため、キー装置を操作し直す必要が無く、作業能率が向上する。また、ブレーキ装置を踏んでいないなど走行規制装置を作動させていない状態で、主変速レバーを操作してもエンジンが作動しないので、急発進することが防止され、作業の安全性が向上する。
【0015】
請求項3記載の発明によれば、圃場外を走行する路上走行時は、通行人や通行車両、あるいは信号などの都合により走行を停止させる機会が多いため、主変速レバーを中立に操作してもエンジンが停止しないことにより、停止するたびにエンジンを作動させる操作が不要となるので、操作性が向上する。
【0016】
請求項4記載の発明によれば、自動旋回制御を行わない作業、例えば部分条クラッチを操作して一部の植付装置を停止させて行う畦際(圃場端)での植付作業は、低速で行うことが多く、また停止機会も多いため、停止するたびにエンジンを作動し直す操作を不要とすることができるので、作業能率が向上する。
【0017】
請求項5記載の発明によれば、苗植付部を上昇または下降させる間にエンジンが停止することを防止できるので、苗の植付開始時にエンジンを再度始動させる必要がなく、作業能率が向上する。また、苗載せ台及び植付装置が適切な植付開始高さに移動すると同時に走行を開始することができるので、植付開始位置を揃えることができ、苗の植付精度が向上する。
【0018】
請求項6記載の発明によれば、アイドリング時に油圧式無段変速装置を停止することにより、走行機体の前後進の動作を確実に停止させることができる。これにより苗の補充等の作業を行っているときに主変速レバーやブレーキ装置を誤って操作しても走行機体が急発進することが防止され、作業の安全性が向上する。
【0019】
請求項7記載の発明によれば、苗載台に苗を補充する作業の際、リンク機構を動作させている途中で油圧式無段変速装置の停止を防止することができる。これにより不要なリンク機構の停止を防止でき、再度エンジンを操作して油圧式無段変速装置を作動状態にする操作が不要となるなど作業能率が向上する。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明にかかる一実施形態の苗移植機の側面図である。
【図2】図1の苗移植機の平面図である。
【図3】主変速レバーの正面図及び側面図である。
【図4】請求項1,2の発明のフローチャートである。
【図5】請求項3の発明のフローチャートである。
【図6】請求項4の発明のフローチャートである。
【図7】請求項5の発明のフローチャートである。
【図8】請求項6の発明のフローチャートである。
【図9】施肥装置の別実施形態の部分側面図である。
【図10】施肥装置への肥料供給ホースの部分拡大図である。
【図11】予備苗載台の別実施形態の部分拡大図である。
【図12】予備苗載台の別実施形態の使用状態図である。
【図13】別実施形態の苗移植機の側面図である。
【図14】苗送り潤滑装置を適用した場合の苗載台部分拡大図である。
【図15】図1の苗移植機の制御ブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
上記技術思想に基づいて具体的に構成された実施の形態について以下に図面を参照しつ
つ説明する。
【0022】
本発明の苗移植機は、その側面図および平面図を図1、図2にそれぞれ示すように、左右の前輪10,10と左右の後輪11,11とによる走行部および、エンジン20と一体に変速動力を伝動するミッションケース12、左右の前輪10,10を伝動支持する左右の前輪ファイナルケース13,13、左右の後輪11,11を伝動支持する左右の後輪ギアケース18,18等の伝動部を備えて圃場走行可能に作業機体2を構成し、この作業機体2の後部に昇降リンク3によって昇降動作可能に設けられて苗株の植付けを行う苗植付部4とを備えて構成される。
【0023】
苗移植機の動力伝達経路は以下のようになる。エンジン20はメインフレーム15の上に搭載されており、該エンジン20の回転動力が、ベルト伝動装置21及び油圧式無段変速装置23を介してミッションケース12に伝達される。ミッションケース12に伝達された回転動力は、該ケース12内のトランスミッションにより変速された後、走行動力と外部取出動力に分離して取り出される。
【0024】
走行動力は、一部が前輪ファイナルケース13,13に伝達されて前輪10,10を駆動すると共に、残りが後輪ギアケース18,18に伝達されて後輪11,11を駆動する。左右の前輪ファイナルケース13,13は、ミッションケース12の側方で左右の前輪10,10を伝動支持し、左右の後輪ギアケース18,18は、機体左右側に左右の後輪11,11を軸着する車軸を機体左右側に突出させて設け、該ミッションケース12から左右それぞれの変速動力を受ける。
【0025】
本実施形態の苗移植機の有する制御装置により、作業者は主変速レバー203を操作することで油圧式無段変速装置23を前進9段から中立位置を経て後進6段まで連続的(無段階的)に変速でき、副変速レバー205を操作することで歯車式変速装置内の周知の副変速装置により「路上走行モード」と「植付作業走行モード」とを変更することができる構成である。
なお、該主変速レバー203の取付基部の近傍には、主変速レバー203の角度変化を検出する第一の位置検知部材である主変速ポテンショメータ102が設けられており、該主変速ポテンショメータ102の検出角度から制御装置101が主変速レバー203の操作量を算出し、油圧式無段変速装置23の出力及び進行方向を変更する構成としている。
また、該副変速レバー205の近傍には、副変速レバー205が「路上走行モード」「植付作業走行モード」のどちらに操作されているかを検知する第二の位置検知部材である副変速ポテンショメータ108が設けられており、検出した該副変速ポテンショメータ108の角度に合わせて、制御装置101に走行モードを切り替えさせる構成としている。
【0026】
次に外部取出動力は、走行機体2の後部に設けた植付クラッチケース25に伝達され、それから植付伝動軸26によって苗植付部4へ伝動されるとともに、施肥伝動機構28によって施肥装置5等へ伝動される。この苗植付部4は、機体後部の植付伝動軸26から動力を受ける伝動ケース50を備え、苗載台51に作業者が苗を供給するとともに、植付条別に並列配置した苗植付装置52で載置された苗株の圃場への植付けを行う。
【0027】
上記苗移植部4の構成は以下のようになる。
本件に示す苗移植機に設けられた苗植付部4は6条植の構成で、フレームを兼ねる苗植付伝動ケース50、マット苗を載せて左右往復動し苗を一株分づつ各条の苗取出口51a、…に供給するとともに横一列分の苗を全て苗取出口51a、…に供給すると苗送りベルト51b、…により苗を下方に移送する苗載台51、苗取出口51a、…に供給された苗を圃場に植付ける苗植付装置52、…、次工程における機体進路を表土面に線引きする左右一対の線引きマーカ(184)等を備えている。苗植付装置4の下部には中央にセンターフロート55、その左右両側にミドルフロート57とサイドフロート56がそれぞれ設けられている。これらフロート55〜57を圃場の泥面に接地させた状態で機体を進行させると、フロート55〜57が泥面を整地しつつ滑走し、その整地跡に苗植付装置52、…により苗が植付けられる。各フロート55〜57は圃場表土面の凹凸に応じて前端側が上下動するように回動自在に取り付けられており、植付作業時にはセンターフロート55の前部の上下動が迎角制御センサ(図示せず)により検出され、その検出結果に応じ前記昇降油圧シリンダ46を制御する油圧バルブを切り替えて苗植付部4を昇降させることにより、苗の植付深さを常に一定に維持する。苗植付部4には整地装置の一例であるロータ27(27a,27b)が取り付けられている。また、苗載台51は苗植付部4の全体を支持する左右方向と上下方向に幅一杯の矩形の支持枠体65の支持ローラ65aをレールとして左右方向にスライドする構成である。
【0028】
苗植付部4を昇降させる昇降リンク装置3は平行リンク構成であって、1本の上リンク40と左右一対の下リンク41,41を備えている。これらリンク40,41,41は、その基部側がメインフレーム15の後端部に立設した背面視門形のリンクベースフレーム42に回動自在に取り付けられ、その先端側に縦リンク43が連結されている。そして、縦リンク43の下端部に苗植付部4に回転自在に支承された連結軸44が挿入連結され、連結軸44を中心として苗植付部4がローリング自在に連結されている。メインフレーム15に固着した支持部材と上リンク40に一体形成したスイングアームの先端部との間に昇降油圧シリンダ46が設けられており、該シリンダ46を油圧で伸縮させることにより、上リンク40が上下に回動し、苗植付部4がほぼ一定姿勢のまま昇降する。
【0029】
作業機体2の前部左右両側には、補給用の苗を載せておく予備苗載台38,38が機体よりも側方に張り出す位置と内側に収納した位置とに回動可能に設けられ、それぞれ傾斜支持部材で三段に構成されている。
【0030】
施肥装置5は、肥料ホッパ60に貯留されている粒状の肥料を繰出部61、…によって一定量づつ繰り出し、その肥料を施肥ホース62、…でフロート55〜57の左右両側に取り付けた施肥ガイド(図示せず)、…まで導き、施肥ガイド、…の前側に設けた作溝体(図示せず)、…によって苗植付条の側部近傍に形成される施肥構内に落とし込むようになっている。ブロア用電動モータ53で駆動するブロア58で発生させたエアが、左右方向に長いエアチャンバ59を経由して施肥ホース62、…に吹き込まれ、施肥ホース62、…内の肥料を風圧で強制的に搬送するようになっている。
【0031】
苗移植機の作業者周辺の構成は以下のようになる。
エンジン20の上部はエンジンカバー30で覆われており、その上に座席31が設置されている。座席31の前方には各種操作機構を内蔵するフロントカバー32があり、その上方に前輪10,10を操向操作するハンドル34が設けられている。ハンドル34の右側には、主変速レバー203が設けられ、その下方に副変速レバーを設けている。エンジンカバー30及びフロントカバー32の下端左右両側は水平状のフロアステップ35になって畦クラッチペダル等が配置されている。フロアステップ35は一部格子状になっており、該ステップ35を歩く作業者の靴についた泥が圃場に落下するようになっている。フロアステップ35上の後部は、後輪フェンダを兼ねるリヤステップ36となっている。
【0032】
図4に、請求項1及び請求項2に係る発明の一実施例を示したフローチャートを示す。本実施例に係る苗移植機には主変速レバー203の位置を検知する前記主変速ポテンショメータ102と、この主変速ポテンショメータ102の信号により動作するタイマー装置103を設けている。
またタイマー装置103は、制御装置101内にある内部タイマーを用いているが、別途制御装置101外に設けることも可能である。そしてそのタイマー装置103に、後述する第一設定時間を事前に設定する。
【0033】
エンジン20の始動について以下に説明する。エンジン20の始動は、キー装置106にキーを差し込みそのキー位置を変更することにより行うものが多く、本実施例においてもこの方式を採用している。キー装置106におけるキー位置は、少なくとも以下の3箇所がある。即ち(a)キーを差し込むことが可能で、エンジン20が動作していない「OFF位置」、(b)セルモータを動作させる「START位置」、(c)セルモータ動作後のキーが移動し、エンジン20が動作している「ON位置」である。最初キー位置はOFF位置にあり、START位置に位置を変更するとセルモータ等が起動され、エンジン20が始動し、その後内部にあるバネ機構等によりキー位置はON位置に位置するようになる。
なお、上記のキー位置は、キーポジションセンサ107によって検出され、現在のキー位置を制御装置101に伝達する構成としている。
【0034】
フローチャートに従って、本実施形態を説明する。ステップ(以下Sと表示する)1として、苗移植機のエンジン20を始動させる。S2として主変速レバー203の位置を主変速ポテンショメータ102により検知する。主変速レバー203を作業者が操作すれば、その位置により作業機体の前進・後進・停止の選択及び前後進の速度を変更することができる。
【0035】
S3として主変速レバー203が、作業機体を停止させる中立の位置にあるかどうかを主変速ポテンショメータ102からの信号により判断し、「Yes」であれば、S4に移動してタイマー装置103により主変速レバー203が中立位置にある時間を測定し、「No」であれば、主変速レバー203のからの指令に従って動作を継続する。
【0036】
S5として主変速レバー203が中立位置に位置している時間が、事前に設定した第一設定時間を越えているかどうかについて、タイマー装置103により判断する。即ち第一設定時間とは、主変速レバー203が中立位置に位置していてもエンジン20の動作が維持される時間をいう。
このS5で「Yes」であれば、S6に進み、エンジン20を停止する。この場合、キー位置は「ON」位置に位置したままとなる。「No」であれば、主変速ポテンショメータ102により主変速レバー203の位置が中立位置にあるかどうかを確認し、「Yes」であればタイマー装置103により時間の測定を継続し、「No」であればステップ2直前まで戻り主変速レバー203の位置の検知を継続する。
【0037】
次にS6のエンジン停止状態からエンジン20を始動させるフローについて説明する。
S7として主変速レバー203を操作し、非中立位置へ移動させる。S8としてキー位置がON位置に位置しているかを判断する。「Yes」であれば次の判断S9へ移動し、「No」であれば、エンジン停止を継続する。
【0038】
S9として、走行規制装置が作動されているかどうかを判断する。これは、走行規制装置104が作動していない状態でエンジン20が始動すると、急発進の可能性が高くなり安全の確保が難しくなるからである。
走行規制装置104は、本実施例においては走行ブレーキ装置であるが、クラッチなど動力伝達を制御する装置を含む。また、走行規制装置104が確実に走行を規制できる位置まで操作されると検知状態となる走行規制リミットスイッチ105が設けられており、該走行規制リミットスイッチ105が検知状態となった状態を、走行規制装置104の作動した状態とする。
S9において「Yes」であれば、S10に進み、エンジン20が始動し、エンジン動作状態が継続する。「No」であればS7まで戻り、主変速レバー203が操作されたという信号が送信されるのを待つようになる。
【0039】
主変速レバー203を中立位置に移動させて、所定時間が経過するとエンジン20を停止する構成としたことにより、アイドリング状態でエンジン20が放置されることを確実に防止できるので、作業者に依存せずに燃料の消費量が抑えられて燃費が向上すると共に、排気ガスの排出量が抑えられて環境適応性が向上する。
【0040】
また、キー装置106のキー位置がON位置にあるとき、走行規制装置104を作動させた状態で主変速レバー203を操作するとエンジン20が作動状態になるため、キー装置106を操作し直す必要が無く、作業能率が向上する。また、ブレーキ装置を踏んでいないなど走行規制装置104を作動させていない状態で、主変速レバー203を操作してもエンジン20が作動しないので、急発進することが防止され、作業の安全性が向上する。
【0041】
図5に、請求項3に係る発明の一実施例を示したフローチャートを示す。
本実施例に係る苗移植機には副変速レバー205の位置を検知する前記副変速ポテンショメータ108を設ける。
前記副変速ポテンショメータ108からの信号は、インターロック信号として制御装置101内に取り込まれるようになる。フローは以下のようになる。
即ちS101で副変速レバー205の位置を副変則ポテンショメータ108を用いて検知する。S102で副変速レバー205が路上走行モードにあるかを判断する。「Yes」であれば、タイマー装置103の動作をストップさせ、その数値をリセットする。「No」であれば、図4のS1とS2の間に移動し、フローを実行する。
【0042】
路上走行時は、通行人や通行車両、あるいは信号などの都合により走行を停止させる機会が多いため、主変速レバー203を中立に操作してもエンジン20が停止しないことにより、停止するたびにエンジン20を作動させる操作が不要となるので、操作性が向上する。
【0043】
また、制御装置101内に別途第三設定時間を設け、第三設定時間よりも長く主変速レバー203が中立位置に位置している場合は、図5のインターロックを解除して、エンジン20を停止させる制御構成としてもよい。ただしこの場合、作業者が確実にエンジン停止に気付くよう、ブザー等の報知装置が作動する構成とすることが望ましい。
【0044】
図6に、請求項4に係る発明の一実施例を示したフローチャートを示す。
本実施例に係る苗移植機の制御装置101は、自動旋回制御構成を有する。ここで自動旋回制御とは、各機器の稼動制御のほか、作業機体2の旋回操作と連動して植付装置4を稼動する制御を言う。大部分の苗植付作業は自動旋回制御により行うが、畦際などにおいては全ての植付装置52を作動させずに作業を行う必要があり、この場合に自動旋回制御を行わないようにする。自動旋回制御を行う信号は、制御装置内でインターロック信号として扱われるようになる。フローは以下のようになる。
即ちS201で自動旋回制御ボタンの位置を検知する。S202でその信号が「入」になっているかを判断する。「Yes」であれば、タイマー装置103の動作をストップさせ、その数値をリセットする。「No」であれば、図4のS1とS2の間に移動し、フローを実行する。
【0045】
自動旋回制御を行わない作業、即ち一部の植付装置を停止させて行う畦際での植付作業は、低速で行うことが多く、また停止機会も多いため、不要なエンジン始動を省略することができるとともに、停止するたびにエンジン20を作動し直す操作を不要とすることができるので、作業能率が向上する。
【0046】
本実施例においては、自動旋回制御ボタンの入切でフローを実行したが、植付装置4の部分条ごとに設けた部分条クラッチの操作レバーの位置を検知することでインターロック信号とすることも可能である。この場合、それら操作レバー位置を検知する第三の位置検知部材を部分条クラッチごとに設け、それらの少なくとも一つが「切」位置にある場合には、タイマー装置の動作をストップさせ、その数値をリセットするようにフローを実行する。
【0047】
図7に、請求項5に係る発明の一実施例を示したフローチャートを示す。本実施例に係る苗移植機の主変速レバー203には、苗植付部4を上下動させる昇降スイッチ203bを設ける。この昇降スイッチ203bの「上昇」または「下降」の信号は、制御装置内でインターロック信号として扱われるようになる。フローは以下のようになる。即ちS301で昇降スイッチ203bを検知する。S302で非中立位置である「上昇」または「下降」の位置の信号の一方が発信されているかを判断する。「Yes」であれば、タイマー装置103の動作をストップさせ、その数値をリセットする。「No」であれば、図4のS1とS2の間に移動し、フローを実行する。
【0048】
苗植付部4を上昇または下降させる間にエンジン20が停止することを防止できるので、苗の植付開始時にエンジン20を再度始動させる必要がなく、作業能率が向上する。
また、苗載台51及び苗植付装置52が適切な植付開始高さに移動すると同時に走行を開始することができるので、植付開始位置を揃えることができ、苗の植付精度が向上する。
【0049】
図8に、請求項6に係る発明の一実施例を示したフローチャートを示す。
本実施例に係る苗移植機のタイマー装置103は、制御装置内にある内部タイマーを用いているが、別途制御装置外に設けることも可能である。そして、そのタイマー装置に後述する第二設定時間を事前に設定する。S401として主変速レバー203の位置を第一の位置検知部材により検知する。S402として主変速レバー203が、作業機体を停止させる中立の位置にあるかどうかを第一の位置検知部材からの信号により判断し、「Yes」であれば、S403に移動してタイマー装置により主変速レバー203が中立位置にある時間を測定し、「No」であれば、主変速レバー203からの指令に従って動作を継続する。
S404として主変速レバー203が中立位置に位置している時間が、事前に設定した第二設定時間を越えているかどうかについて、タイマー装置103により判断する。ここで第二設定時間とは、主変速レバー203が中立位置に位置していても油圧式無段変速装置23の動作が維持される時間をいう。このS404で「Yes」であれば、S405に進み、油圧式無段変速装置23の停止信号を発信し、油圧式無段変速装置23を停止する。この場合、キー位置は「ON」位置に位置したままとなる。「No」であれば、第一の位置検知部材により主変速レバー203の位置が中立位置にあるかどうかを確認し、「Yes」であればタイマー装置103により時間の測定を継続し、「No」であればステップ401直前まで戻り主変速レバー203の位置の検知を継続する。
【0050】
アイドリング時に油圧式無段変速装置23を停止することにより、走行機体2の前後進の動作を確実に停止させることができる。これにより苗の補充等の作業を行っているときに主変速レバー203やブレーキ装置を誤って操作しても走行機体2が急発進することが防止され、作業の安全性が向上する。
【0051】
請求項7に係る発明は、図7にある請求項5に係る発明のフローチャートにおいて、S302で「No」で示した先を、図8におけるS401の直前のフローへ移動するものである。
苗載台51に苗を補充する作業の際、リンク機構を動作させている途中で油圧式無段変速装置23の停止を防止することができる。これにより不要なリンク機構の停止を防止でき、再度エンジン20を操作して油圧式無段変速装置23を作動状態にする操作が不要となるなど作業能率が向上する。
【0052】
施肥装置5のブロア用電動モータ53の別実施形態として、正逆回転変更可能なモータとする場合がある。図10にこの場合の構成を示す。ブロア58に肥料供給ホース63を設けて、ブロア用電動モータ53を逆回転させることで、肥料袋から粒状の肥料を吸い込み肥料ホッパ60へ送り込むことが可能となる。このような構成とすることで肥料袋の穴を小さくでき、肥料が湿気を含むことを防止したり、また雨の日などであっても肥料をぬらさずに肥料ホッパ60へ供給することが可能となる。
【0053】
また、図11に示すように、肥料供給ホース63の入口に粒状の肥料よりも細かい網目のホース蓋63aを設置する場合もある。苗移植作業が終了後に肥料袋に肥料が残ることがあるが、肥料は湿気を含むと施肥装置5からの排出が困難になるなどの問題が生じる。このように肥料袋に残りがある場合に、ホース蓋63aを設けた肥料供給ホース63を肥料袋に挿入し、ブロア用電動モータ53を逆回転させることで、肥料袋の空気を抜くことが可能となり、肥料が湿気ることを防止することができる。これにより次回の苗移植作業時に残りの肥料を用いることができ、肥料の無駄を防止することができると共に、施肥装置5において肥料が詰まるなどのトラブルを防止できる。
【0054】
3段の予備苗載台38(38a、38b、38c)の別実施形態として、その下面に照光装置37を設ける場合がある。図12に重複状態にある予備苗載台38を、図13に予備苗載台38が展開状態にあり、照光装置37を点灯している状態を示す。
【0055】
従来苗移植機の作業照明装置はボンネットフードやステップなどの低い部分にしかなく照明範囲が狭いため、夜間に畦などで予備苗の補充作業を行うことなどが難しいという問題があった。特に大規模化、集約化が進むと夜間に入っての作業を考慮する必要がある。そこで照光装置37を各予備苗載台38の下面に設置し、予備苗載台38が展開状態にあるときに照光装置37を点灯させて照明範囲を広くした。これにより夜間での作業の安全性を高めることができる。特に予備苗載台38の変形を苗載台変形モータ39により行う場合には、そのモータへ供給される電気の一部を用いることができるので、より簡易に照光装置を設置することができる。照光装置としては、省スペース・省電力であることを考慮しLED(Light Emitting Diode)を採用する。
【0056】
苗植付部4の別実施形態として、苗送り潤滑装置を設ける場合がある。図14に苗送り潤滑装置を用いた別実施形態の乗用苗移植機の側面図を、図15に苗送り潤滑装置を適用した場合の苗載台51上方の部分拡大図を示す。
苗載台51には、苗送りベルト51b等が設けられ苗送りを円滑に進める構成が採用されているが、好天である場合は苗載台51上面が乾燥し苗の送り不良を起こす場合がある。そこで苗載台51の乾燥を防止するために苗送り潤滑装置を設けた。苗送り潤滑装置はリンクベースフレーム42に設けたポンプ71と、フロントバンパーに設けた水タンク72とから構成し、苗載台51の上方には水を噴射する開口孔76を形成し、水タンク72とポンプ71とをチューブ73により結合すると共に、ポンプ71から苗載台51の開口孔76までも同様にチューブ73により結合する。水タンク72をフロントバンパーに設けるのは苗移植機の全体のバランスを考慮したものである。ポンプ71は、苗植付部4の昇降動作ごとに作動するように設定する。開口孔76の位置は、上下に位相をずらした、所謂千鳥配置するのが望ましい。
【0057】
1 苗移植機
2 作業機体
4 苗植付部
10 前輪
11 後輪
20 エンジン
23 油圧式無段変速装置
51 苗載台
52 苗植付装置
101 制御装置
102 主変速ポテンショメータ(第一の位置検知部材)
103 タイマー装置
104 走行規制装置
106 キー装置
108 副変速ポテンショメータ(第二の位置検知部材)
203 主変速レバー
203b 昇降スイッチ
205 副変速レバー

【特許請求の範囲】
【請求項1】
前輪(10)と後輪(11)とにより圃場を走行する作業機体(2)に、
動力源としてのエンジン(20)と、
複数条分の苗を搭載可能な苗載台(51)及びこの苗載台(51)から苗を取って圃場に植えつける苗植付装置(52)を備え、前記エンジン(20)からの分岐動力を用いてリンク機構により昇降する苗植付部(4)と、
前記作業機体(2)の走行・停止・速度を操作する主変速レバー(203)と、
前記作業機体の路上走行モードと植付作業走行モードとを選択する副変速レバー(205)と、
前記主変速レバー(203)及び副変速レバー(205)からの信号を受けエンジン状態を制御する制御装置(101)を設けた苗移植機において、
前記主変速レバー(203)の位置を検知する第一の位置検知部材(102)と、
この第一の位置検知部材(102)の信号により動作するタイマー装置(103)とを設けると共に、
前記制御装置(101)が、
前記主変速レバー(203)を中立位置に位置する時間が前記タイマー装置(103)の第一設定時間を経過した場合に、
前記エンジン(20)を停止する制御構成を有することを特徴とする苗移植機。
【請求項2】
前記エンジン(20)の始動及び停止を操作するキー装置(106)のキー位置が
エンジン(20)の動作するON位置に位置しており、
かつ、前記エンジン(20)が停止状態であるとき、
前輪(10)及び後輪(11)の回転を規制する走行規制装置(104)を作動させ、且つ、前記主変速レバー(203)を非中立位置に移動させたことを第一の位置検知部材(102)が検知すると、
前記エンジン(20)を始動させる制御構成を有することを特徴とする請求項1に記載の苗移植機。
【請求項3】
前記副変速レバー(205)の位置を検知する第二の位置検知部材(108)を設け、
前記副変速レバー(205)が路上走行モード位置に位置することを該第二の位置検知部材(108)が検知しているときは、
前記第一設定時間が経過してもエンジン(20)を停止させない制御構成を有することを特徴とする請求項1または請求項2に記載の苗移植機。
【請求項4】
前記制御装置(101)が、
自動旋回制御構成を有しており、
この自動旋回制御が行われている場合には、
前記第一設定時間が経過してもエンジン(20)を停止させない制御構成を有することを特徴とする請求項1から請求項3のいずれかに記載の苗移植機。
【請求項5】
前記主変速レバー(203)に、
前記苗植付部(4)を上下動させる昇降スイッチ(203b)を設けると共に、
前記制御装置(101)が、
前記昇降スイッチ(203b)の上昇操作信号または下降操作信号のいずれか一方の発信を検知すると、
前記第一設定時間が経過してもエンジン(20)を停止させない制御構成を有することを特徴とする請求項1から請求項4のいずれかに記載の苗移植機。
【請求項6】
前記タイマー装置(103)に前記第一設定時間よりも短い第二設定時間を設定し、
前記制御装置(101)が、
前記主変速レバー(203)を中立位置に位置する時間が前記第二設定時間を経過したことを検知すると、
前記エンジン(20)からの動力を伝達する油圧式無段変速装置(23)を停止する制御構成を有することを特徴とする請求項1または請求項2に記載の苗移植機。
【請求項7】
前記主変速レバー(203)に、
前記苗植付部(4)を上下動させる昇降スイッチ(203b)を設けると共に、
前記制御装置(101)が、
前記昇降スイッチ(203b)の上昇操作信号または下降操作信号のいずれか一方が発信されている場合には、
前記第二設定時間が経過しても前記油圧式無断変速装置(23)を停止させない制御構成を有することを特徴とする請求項6に記載の苗移植機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【公開番号】特開2013−106566(P2013−106566A)
【公開日】平成25年6月6日(2013.6.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−254509(P2011−254509)
【出願日】平成23年11月22日(2011.11.22)
【出願人】(000000125)井関農機株式会社 (3,813)
【Fターム(参考)】