説明

苗移植機

【課題】 本発明は、左右移動装置へ潤滑油を円滑に供給できる潤滑油供給装置を、簡単な構成で且つ苗移植機においてコンパクトに配置することを課題とする。また、苗植付装置の作動の円滑化を図り、苗植付装置のメンテナンス性及び耐久性を向上させることを課題とする。
【解決手段】 苗植機において、植付系伝動機構の動力により駆動して苗植フレーム(15)内の潤滑油を吐出する潤滑油ポンプ(92)と、潤滑油ポンプ(92)が吐出する潤滑油を左右移動装置へ移送して供給する潤滑油パイプ(97)を設けた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、苗移植機の技術分野に属する。
【背景技術】
【0002】
苗移植機である乗用型田植機において、苗を載置する苗載台と、苗載台ひいては苗載台上の苗を左右移動させる左右移動装置と、苗載台上の苗の端部を受ける苗受枠と、苗受枠に備える苗取出口と、苗取出口から苗を取り出して圃場に植え付ける苗植付装置を設け、植付伝動ケースを設けたものがある。前記左右移動装置は、外周面に螺旋状のリード溝を形成したリードカム軸と、リード溝に入る爪によりリードカム軸の回転で左右に移動するリードカムを備えて構成され、リードカムの左右にリードカム軸を覆う被覆部材を設け、被覆部材で覆われた空間内のリードカム軸部分に潤滑油を供給するパイプを設けた構成となっており、リードカムの左右移動に伴う被覆部材の伸縮により、被覆部材で覆われた空間内の背圧を利用して当該空間内へ潤滑油を供給する構成としている(特許文献1参照)。
【0003】
また、乗用型田植機において、原動機であるエンジンからの動力を、苗植付装置へ伝動する植付系伝動機構と左右移動装置へ伝動する左右移動系伝動機構に分岐して伝動する構成とし、植付伝動ケースの内部に植付系伝動機構及び潤滑油を収容する構成とすることは周知である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2011−177052号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、左右移動装置へ潤滑油を円滑に供給できる潤滑油供給装置を、簡単な構成で且つ苗移植機においてコンパクトに配置することを課題とする。また、苗植付装置の作動の円滑化を図り、苗植付装置のメンテナンス性及び耐久性を向上させることを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、次のような技術的手段を講じた。
すなわち、請求項1にかかる発明は、苗を載置する苗載台(18)と、苗載台(18)ひいては苗載台(18)上の苗を左右移動させる左右移動装置(78)と、苗載台(18)上の苗の端部を受ける苗受枠(28)と、苗受枠(28)に備える苗取出口(19)と、苗取出口(19)から苗を取り出して圃場に植え付ける苗植付装置(9)を設け、原動機(21)からの動力を、苗植付装置(9)へ伝動する植付系伝動機構と左右移動装置(78)へ伝動する左右移動系伝動機構に分岐して伝動する構成とし、内部に植付系伝動機構及び潤滑油を収容する植付伝動ケース(15)を設けた苗移植機において、植付系伝動機構の動力により駆動して植付伝動ケース(15)内の潤滑油を吐出する潤滑油ポンプ(92)と、潤滑油ポンプ(92)が吐出する潤滑油を左右移動装置(78)へ移送して供給する潤滑油パイプ(97)を設けた苗移植機とした。
【0007】
また、請求項2にかかる発明は、植付伝動ケース(15)の後端部の左右方向の側方に、出力軸(2)を介して苗植付装置(9)を設け、植付伝動ケース(15)の後端部で植付伝動ケース(15)の左右幅内に潤滑油ポンプ(92)を配置し、植付伝動ケース(15)の上方で植付伝動ケース(15)の左右幅内に植付伝動ケース(15)に沿って前後方向に延びる潤滑油パイプ(97)を配置した請求項1に記載の苗移植機とした。
【0008】
また、請求項3にかかる発明は、出力軸(2)を不等速回転させて苗植付装置(9)を駆動する構成とすると共に、出力軸(2)と一体回転する駆動カム(93)と、駆動カム(93)で作動するピストン(94)を備えて潤滑油ポンプ(92)を構成し、出力軸(2)が不等速回転で高速回転するとき又は高速回転状態から低速回転状態に移行するとき、ピストン(94)が潤滑油を吐出する位相に設定した請求項2に記載の苗移植機とした。
【0009】
また、請求項4にかかる発明は、苗植付装置(9)は、出力軸(2)と一体回転する苗植ケース(1)と、苗植ケース(1)から突出するアーム軸(6)と、アーム軸(6)と一体回動して圃場に苗を植え付ける植付アーム(5)を備え、苗植ケース(1)内には苗植ケース(1)の回転に伴ってアーム軸(6)の回動角度を決定する機構を設け、苗植ケース(1)の回転外周側へ突出する突出部(7)を3箇所に設けて苗植ケース(1)を三叉状に構成し、突出部(7)にアーム軸(6)及び植付アーム(5)を各々設け、2個のアーム軸(6)が出力軸(2)の中心よりも下位で残りの1個のアーム軸(6)が出力軸(2)の中心よりも上位となる位相で、苗植ケース(1)の回転を停止させる構成とした請求項1に記載の苗移植機とした。
【発明の効果】
【0010】
請求項1に係る発明によると、潤滑油ポンプ(92)及び潤滑油パイプ(97)により、植付伝動ケース(15)内の潤滑油を左右移動装置(78)へ供給でき、植付系伝動機構の動力に基づく簡単な吐出構成で潤滑油を供給できる。
【0011】
請求項2に係る発明によると、請求項1に係る発明の効果に加えて、苗植付装置(9)の着脱等のメンテナンスの邪魔にならない位置に、潤滑油ポンプ(92)及び潤滑油パイプ(97)を配置でき、メンテナンス性の向上が図れると共に、潤滑油ポンプ(92)及び潤滑油パイプ(97)をコンパクトに配置できる。
【0012】
請求項3に係る発明によると、請求項2に係る発明の効果に加えて、出力軸(2)が不等速回転で高速回転するとき又は高速回転状態から低速回転状態に移行するとき、ピストン(94)の反力で出力軸(2)に抵抗がかかるため、出力軸(2)の回転が高速になりすぎたり高速回転状態から低速回転状態に適正に減速されなかったりするような状況を抑えることができ、苗植付装置(9)を適正な速度で円滑に作動させることができる。
【0013】
請求項4に係る発明によると、請求項1に係る発明の効果に加えて、3個の突出部(7)のうちの2個が下側へ向くため、互いの突出部(7)間の空間に入る泥水が、空間の下側に位置する下側向きの突出部(7)に案内されて排出され易くなり、前記空間に泥水が溜まりにくく、付着する泥水により苗植付装置(9)が劣化することを防止でき、苗植付装置(9)のメンテナンス性及び耐久性が向上する。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】乗用型田植機を示す側面図
【図2】乗用型田植機を示す平面図
【図3】苗植フレームの一部を示す断面平面図
【図4】苗植付装置を示す一部断面側面図
【図5】苗植付装置を示す断面平面図
【図6】苗植ケースを示す断面側面図
【図7】苗植フレームの苗植付伝動部の後部を示す断面側面図
【発明を実施するための形態】
【0015】
この発明の実施の一形態を、以下に説明する。尚、以下の実施の形態は、あくまで実施の一形態であって、特許請求の範囲を拘束するものではない。
苗移植機の一例である乗用型田植機は、乗用四輪駆動走行形態の車体11の後側に、リフトシリンダ12の油圧伸縮によって昇降される平行リンク形態のリフトリンク13を介して、苗植装置10が連結される。この苗植装置10は、伝動機構を内装した植付伝動ケースである苗植フレーム15の下側に、土壌面を滑走するセンタフロート16と、この左右両側のサイドフロート17を配置し、上側には、マット状に育苗されたマット苗を収容する苗載台である苗タンク18と、苗タンク18の各条部分に対応する苗取出口19に対向して作動しながら植付アーム5を昇降させて分離保持した苗をフロートであるセンタフロート16及びサイドフロート17で均平された土壌面に植付ける苗植付装置9等を設けて、多条植形態の構成としている。苗取出口19は、苗タンク18の左右移動可能に支持する苗受枠28に形成されている。苗受枠28は、苗植フレーム15に対して定位置に固定されている。
【0016】
前記車体11は、運転席20の下側にエンジンである原動機21を搭載し、この前方のダッシュボード22上のステアリングハンドル23によって操向される前輪24や、後端部に配置の後輪25を伝動駆動して走行するトラクタ形態としている。車体11上にはダッシュボード22の左右両側部から運転席20の左右両側部にわたって運転フロア26が設けられ、この前部には補給苗載枠27を設け、運転者がこの補給苗載枠27から苗箱を取出しながらマット苗を取出して後側の苗タンク18へ補給できる。車体11の後部には施肥装置30を設けて、施肥パイプ29を介して前記各フロート16、17の均平部に施肥することができる。
【0017】
伝動構成について説明すると、原動機21の動力が伝動ベルト60を介して油圧式無段変速装置61に伝達され、油圧式無段変速装置61からの動力が主ミッションケース62内に伝達される。主ミッションケース62内において、走行系伝動経路と作業系伝動経路に分岐して伝動し、更に、走行系伝動経路において、前輪駆動系伝動経路と後輪駆動系伝動経路に分岐して伝動する。前輪駆動系伝動経路は、前輪デフ装置を介して左右に動力を分岐し、主ミッションケース62の左右の前輪ファイナルケース部63に設けた各々の前輪車軸64を駆動して左右の前輪24を駆動する。後輪駆動系伝動経路は、左右に動力を分岐し、左右の伝動経路の各々のサイドクラッチ装置を介して各々の後輪伝動軸65に出力し、後輪伝動軸65から左右各々の後輪伝動ケース66内を介して該後輪伝動ケース66に設けた各々の後輪車軸67を駆動して左右の後輪25を駆動する。作業系伝動経路は、主ミッションケース62から作業伝動軸68を介して作業クラッチケース69内へ伝動し、作業クラッチケース69から植付伝動軸14を介して苗植フレーム15内すなわち苗植装置10へ伝動し、作業クラッチケース69から上下往復動する施肥伝動ロッド70を介して施肥装置30へ伝動する。また、作業クラッチケース69内の植付伝動軸14への伝動経路には複数対のギヤで構成される株間変速装置を設け、株間変速装置により走行速度に対する苗植装置10の作動速度を切り替えて変速する構成としている。また、作業クラッチケース69内の植付伝動軸14への伝動経路には、苗植装置10への伝動を断つ植付クラッチを設けている。尚、株間変速装置は、株間を広い側に設定したとき(疎植)に後述する植付アーム5が作動軌跡の下死点付近で速く作動するよう苗植装置10を不等速で作動させる不等速ギヤを備えている。
【0018】
苗植フレーム15内の伝動について説明すると、植付伝動軸14と一体回転する入力軸71からベベルギヤ72を介して左右方向に長い伝動軸73へ伝動し、該伝動軸73から複数対のギヤで構成される左右移動切替装置74を介して外周面に螺旋状のリード溝75aを形成したリードカム軸75へ伝動する。一方、リード溝75aに入る爪を備えるリードカム76を設け、リードカム76がリードカム軸75の回転で左右に移動する構成となっている。リードカム76には左右方向に長い左右移動棒77を固着して設け、左右移動棒77の左右両側部を苗植フレーム15から外側に突出させ、左右移動棒77の左右両側部と苗タンク18を連結部材にて連結している。従って、リードカム軸75の回転に伴う左右移動棒77の左右往復移動により、苗タンク18が苗受枠28に沿って左右に往復移動し、苗植付装置9の植付作動に対応して各条の苗取出口19へ苗を一株分ずつ供給する。よって、左右移動切替装置74、リードカム軸75、リードカム76及び左右移動棒77等により、苗タンク18ひいては苗タンク18上の苗を左右移動させる左右移動装置78が構成され、伝動軸73から分岐される左右移動装置78における伝動機構により、左右移動系伝動機構が構成される。
【0019】
リードカム軸75の左右両端部を苗植フレーム15から外側に突出させ、前記左右両端部には各々苗送り駆動軸79を固定している。リードカム軸75の回転で苗送り駆動軸79が一体回転し、苗送り駆動軸79に設けられた苗送りカム80が一体回転する。そして、左右移動装置78により苗タンク18が左右移動ストロークの左右端に到達すると、苗送りカム80が苗タンク18の苗送りアーム81に作用し、苗タンク18上の苗送りベルト82が作動し、苗送りベルト82により苗タンク18上の苗を後下側(苗取出口19側)へ一株分送る構成となっている。従って、苗送り駆動軸79、苗送りカム80及び苗送りアーム81等により、苗縦送り機構が構成されている。
【0020】
伝動軸73上には、2条毎の苗植付装置9の駆動を入切する部分入切クラッチ83を複数個(3個)設けている。部分入切クラッチ83の従動クラッチ体には、第一駆動スプロケット84を一体で設けている。そして、伝動軸73から部分入切クラッチ83、第一駆動スプロケット84及び第一チェーンを介して後方の第一従動スプロケットへ伝動し、第一従動スプロケットの駆動により安全クラッチを介して第二駆動スプロケットを一体回転させ、第二駆動スプロケットから第二チェーン85を介して後方の第二従動スプロケット86へ伝動し、第二従動スプロケット86と一体回転して出力軸2が駆動する。苗植フレーム15から外側に突出する出力軸2の左右側部に、各々苗植付装置9を設けている。
【0021】
従って、これらのチェーン伝動機構は前後方向に長く構成され、この2条毎のチェーン伝動機構を内装する苗植フレーム15の苗植付伝動部が前後に長く構成されている。第一駆動スプロケット84と第一従動スプロケットは同一の歯数で構成され、第一チェーンにより等速で伝動する。一方、第二従動スプロケット86の歯数は第二駆動スプロケットの歯数の3倍であり、第二チェーン85により3分の1の速度に減速して伝動する。伝動軸73から分岐される部分入切クラッチ83から出力軸2までのチェーン伝動機構により、苗植付装置9へ伝動する植付系伝動機構が構成されている。
【0022】
安全クラッチは、伝動軸73及び出力軸2とは異なる第一従動スプロケット及び第二駆動スプロケットの回転軸上で、等速伝動する第一チェーンの伝動下手側で、且つ減速伝動する第二チェーン85の伝動上手側に設けられている。従って、苗植フレーム15の出力軸2部分の左右幅を狭くでき、所望の条間で複数の苗植付装置9を左右に配列することができると共に、減速伝動の伝動上手側に配置することで安全クラッチの切れ荷重を小さく設定でき、安全クラッチの小型化が図れる。
【0023】
苗植フレーム15の後端部に設けた苗植付装置9の構成について説明すると、出力軸2と一体回転する苗植ケース1を備え、苗植ケース1の回転外周側へ突出する突出部となる軸受ケース部7を、苗植ケース1の回転方向において120度の位相毎に三叉状に突出させて設けている。3個の軸受ケース部7にはアーム軸6を各々設け、3個のアーム軸6は苗植ケース1の回転方向において120度の位相毎に配置される。すなわち、苗植ケース1は、三叉状(Y字状)の形態に形成されて、三叉状の先端部となる軸受ケース部7の一側方にアーム軸6が突出している。アーム軸6の突出部分には、苗を苗取出口19から取って保持する苗保持体3と保持した苗を押し出して植付ける苗押出体4を有した植付アーム5を設けている。
【0024】
植付アーム5の取付構造を詳細に説明すると、植付アーム5のケース状部分87に出力軸2を回転自在に貫通させると共に、出力軸2の端部(植付アーム5の側部)に植付アーム5の取付用部材88を設ける。出力軸2の端部は断面四角形状に形成され、取付用部材88の四角孔部に出力軸2の端部を挿入し、出力軸2と取付用部材88は一体回転する構成となっている。そして、取付用部材88の左右方向一側方からケース状部分87へ向けて締付ボルト89を挿入し、取付用部材88にケース状部分87を固着する構成となっている。この固着した状態で、締付ボルト89の頭部は取付用部材88ひいては植付アーム5の外側端よりも内側(苗植ケース1側)に位置している。従って、締付ボルト89の頭部は、別の植付アーム5等の他の構造物に干渉しにくく邪魔にならないので、苗植ケース1の小型化が図れる。
【0025】
取付用部材88の雌ねじ孔には、植付アーム5の姿勢を微調節する調節ボルト90を挿入して設けている。該調節ボルト90は、取付用部材88の一部分に下側から挿入されており、先端がケース状部分87の一部分に接触する。従って、締付ボルト89を弛めた状態で、調節ボルト90の出代を調節することにより、取付用部材88とケース状部分87のアーム軸6周りの相対的な位置関係を調節し、ケース状部分87で支持される苗保持体3の位置を調節し、苗取出口19での苗取出量を調節する構成となっている。尚、取付用部材88において締付ボルト89が貫通するボルト孔は若干大きめに形成されており、該ボルト孔と締付ボルト89の間のガタの範囲で微調節する構成である。また、調節ボルト90を所望の出代に調節した状態で、該調節ボルト90をロックナット91により固定する。この調節ボルト90によれば、調節ボルト90の頭部が下側に向くので、作業者が下側から容易に調節ボルト90を操作して苗取出量を調節することができる。
【0026】
各々の軸受ケース部7間のケース間隔部8を窪ませている。苗植ケース1が出力軸2周りに回転するのに連動して、苗植ケース1内の後述する遊星ギヤ機構によりアーム軸6が回動し、植付アーム5が回動しながら苗保持体3の先端部が作動軌跡となる植付軌跡線Dを描いて昇降する。尚、前記遊星ギヤ機構が、苗植ケース1内で苗植ケース1の回転に伴ってアーム軸6の回動角度を決定する機構となる。この植付軌跡線Dの下降行程D1では、苗保持体3で苗タンクから供給される適数本の苗を分離して保持して下降し、下方の土壌面部では苗押出体4の下動によってこの保持苗を土壌面に植付ける。このような苗の分離、植付は、各植付アーム5毎に行われるため、苗植ケース1が一回転する毎に三苗株の苗植付が行われる。軸受ケース部7は、植付アーム5の取付部において外周へ突出されているため、植付アーム5と略同時に土壌面に接近して接触し易い状態にあるが、軸受ケース部7間の空間となるケース間隔部8は土壌面から離間状態を維持する。
【0027】
任意の植付アーム5の苗保持体3が苗取出口19上の苗へ突入して該苗を分離するとき、植付アーム5のうち前記任意の植付アーム5を含む二本の植付アーム51、52を植付軌跡線Dの下降行程D1に位置すると共に、一本の植付アーム53を上昇行程D2に位置して作動するように位相設定した構成とする。植付軌跡線Dの下降行程D1の上下端部には、苗分離作用を行う植付アーム51と、苗植付作用を行う植付アーム52が位置しているのに対して、上昇行程D2には苗植付を終えて復帰作動中の植付アーム53があって、苗植ケース1の回転慣性力は、二対一の割合で下降行程D1では大きく、上昇行程D2では小さく、又、植付アーム5の受ける負荷でも同様である。このため、苗植ケース1ひいては苗植付装置9全体を小型化し、回転駆動力の変化を比較的少ない状態に維持する。
【0028】
植付アーム5の植付軌跡線Dの上下死点間を結ぶ上下方向の連結線Hを前傾状態に傾斜させている。これによって植付軌跡線Dの上死点の高さを低くすることができ、植付アーム5による苗植付下降行程の落差を小さくすることができて、この間で下降する保持苗の乱れを少なくできる。又、苗保持体3や、苗押出体4等の土壌中における作動行程を長くして、苗株の土壌への付着性を十分に行わせて、安定した苗植付姿勢を維持させることができる。
【0029】
尚、前記連結線Hを鉛直方向へ向け植付軌跡線Dが全体的に直立した構成としてもよい。これにより、植付軌跡線Dの下死点の前後での下降軌跡及び上昇軌跡をより鉛直方向へ向けることができるので、植付アーム5により植付けた苗を前に倒すことを防止できる。また、前記連結線Hを、機体側面視で、苗植ケース1の回転外周端が描く円軌道に接する位置か又は前記円軌道よりも前側の位置となる構成とすれば、苗植ケース1の小型化を図りつつ、機体の走行を加味した植付アーム5の先端部の動軌跡を適正に維持して植付けた苗を前に倒すことを防止できる。
【0030】
また、植付アーム5の先端部が植付軌跡線Dにおける下死点に位置するとき、当該植付アーム5を取り付けたアーム軸6は、前記円軌道の最下点よりも苗植ケース1の回転下手側(後側)に位置する。これにより、植付軌跡線Dにおける下死点から植付アーム5を素早く上昇させることができ、機体の前進により植付けた苗を植付アーム5で前に倒すことを防止できる。
【0031】
苗植ケース1の内部には、植付アーム5の先端部の苗保持体3先部が側面視で上下方向に長い略楕円形状の植付軌跡線Dを描いて作動するように、遊星ギヤ機構である不等速ギヤ機構を用いて連動構成している。具体的には、一体回転する出力軸2上には苗植フレーム15の軸受ボス30部と一体で機体に固定されたセンタギヤ31を設け、このセンタギヤ31を太陽ギヤとして周囲に三個の中間ギヤ32が遊星ギヤとして噛合し、中間ギヤ32は軸受ケース部7側においてギヤ軸33によって軸受される。軸受ケース部7の先端部のアーム軸6には、中間ギヤ32と噛合するターミナルギヤ34を各々設け、ターミナルギヤ34とアーム軸6が一体で回動する。植付アーム5のケース状部分の内部には押出しロッド35を摺動自在に設け、カムレバー36とスプリング37により作動する構成としている。押出しロッド35の下端部は植付アーム5のケース状部分の外側に露出しており、この露出する押出しロッド35の下端部に苗押出体4を固着している。カムレバー36は植付アーム5に設けたレバー軸38の周りに回動自在に支持され、軸受ケース部7に回転しないように一体に設けられ且つアーム軸6の外周に形成される押出しカム39に摺接している。
【0032】
出力軸2の回転駆動によって、苗植ケース1を回転すると、軸受ケース部7に軸装された植付アーム5を同方向へ回動すると共に、センタギヤ31に噛合する中間ギヤ32、ターミナルギヤ34等を介して各アーム軸6が回動されて、各植付アーム5をアーム軸6周りに回動して上下に揺動させて姿勢を変更させながら作動させる。そして、スプリング37で弾発されている押出しロッド35は、植付軌跡線Dにおける上死点から下死点までの下降行程では押出しカム39により規制されるカムレバー36によって、スプリング37に抗して上方へ押し戻された上動位置にある。そして、植付軌跡線Dにおける下死点より少し手前の下降途中位置に至ると、押出しカム39のカム面の段差によりカムレバー36の規制位置が瞬時に変化し、スプリング37の弾発力で押出しロッド35ひいては苗押出体4が下方へ押し出され、苗が圃場に植付けられる。苗押出体4は、スプリング37の弾発力で押出される構成であるので、押出し作動が開始されてから完了するまでのタイムラグにより、このタイムラグが略一定の時間間隔であるため、植付軌跡線D上における押出し完了位置は、苗植付装置9の作動速度が速いと後寄りになり、苗植付装置9の作動速度が遅いと前寄りになる如く、苗植付装置9の作動速度が異なると実際に押出し作動が完了する植付軌跡線D上における位置が異なるが、苗押出体4の押出し開始のタイミングが植付アーム5の下降途中で植付軌跡線Dにおける下死点に到達する手前に設定されているので、苗植付装置9の作動速度が変化しても、実際に押出し完了する位置は、植付軌跡線Dにおいて下死点の前後で変化することになるから、押出し完了したときの植付アーム5の高低差を抑えることができ、苗の植付深さがばらつくのを抑えて植付深さの適正化が図れる。なお、苗押出体4の押出し開始のタイミングは、アーム軸6が最下点に到達する手前(苗植ケース1の回転角度で15度手前)に設定されている。
【0033】
部分入切クラッチ83及び植付クラッチは、所定の位相でのみ停止する定位置停止クラッチとなっており、苗植ケース1の回転における120度ごとの3位置で苗植付装置9が停止する構成となっている。従って、前記3位置の何れの位置で苗植付装置9が停止しても、3個の植付アーム5は所定の位置関係で停止する。この停止位置は、機体側面視で、1個のアーム軸6が出力軸2の中心よりも下位で前位、別の1個のアーム軸6が出力軸2の中心よりも下位で後位、残りの1個のアーム軸6が出力軸2の中心の真上となる位相、すなわち、2個のアーム軸6が出力軸2の中心よりも下位で残りの1個のアーム軸6が出力軸2の中心よりも上位となる位相に設定されている。また、軸受ケース部7のケース間隔部8側の側面は、凹凸が少なく、苗植ケース1の外周側に向く法線方向に近い直線に沿ってなだらかに構成されている。従って、停止位置では、3個の軸受ケース部7のうちの2個が出力軸2から下側へ向くため、互いの軸受ケース部7間の空間であるケース間隔部8に入る泥水が、ケース間隔部8の下側に位置する下側向きの軸受ケース部7の上側面に案内されて排出され易くなり、ケース間隔部8に泥水が溜まりにくく、苗植付装置9又は植付アーム5を着脱したり植付アーム5の姿勢を調節したりする等のメンテナンスが容易に行えると共に、付着する泥水により苗植付装置9が劣化することを防止できて耐久性が向上する。
【0034】
また、苗取出口19から植付軌跡線Dの下死点より手前(圃場面に接さない位置)までの植付軌跡線Dの下降軌跡に沿って、植付アーム5で下降する苗を案内する苗ガイドを設けている。この苗ガイドは、苗受枠28に固定して設けられ、下降する苗の左右両側を覆う左右各々のガイド板と、下降する苗の前側に設けたガイド線を備えて構成され、所望の経路で苗を下降させると共に、植付アーム5から苗が脱落するのを防止する周知の構成である。そして、苗植付装置9の前記停止位置で、出力軸2の中心よりも下位で前位となるアーム軸6に取り付けられた前下方の植付アーム5の先端部が、苗ガイドの下端部に位置する。これにより、苗植付装置9の停止状態で苗を保持する前下方の植付アーム5から苗が脱落することを防止すると共に、苗植付装置9が停止状態から駆動を再開することにより、即座に苗を圃場に植付けることができ、畦際から植付作業を開始するときに畦際に近い位置で一株目の苗を植付けることができる。
【0035】
ところで、苗植フレーム15の後端部すなわちチェーン伝動機構を内装する苗植フレーム15の苗植付伝動部の後端部である出力軸2付近には、植付系伝動機構の動力により駆動して苗植フレーム15内の潤滑油を吐出する潤滑油ポンプ92を設けている。潤滑油ポンプ92は、出力軸2と一体回転する駆動カム93と、駆動カム93で作動するピストン94を備え、ピストン94の軸心上には潤滑油流入路95を形成し、駆動カム93の回転により該駆動カム93の長径部分がピストン94の先端部に接触し、該先端部に設けた潤滑油流入路95の流入口を閉塞しながらピストン94を後側へ押して潤滑油を吐出する構成となっている。尚、ピストン94は、苗植フレーム15の後端面部分に前後方向に向けて設けられ、駆動カム93の回転により該駆動カム93の長径部分を越えると、戻しスプリング96により駆動カム93側(前側)に戻される。ピストン94の1回の往復動で約6ccの潤滑油を吐出する構成となっている。
【0036】
潤滑油ポンプ92で吐出される潤滑油は、潤滑油ポンプ92に連通する潤滑油パイプ97により移送される。潤滑油パイプ97は、苗植フレーム15の後端面部分から後側へ延びる後延出部97aと、後延出部97aに続いて上側に屈曲して延びる上延出部97bと、上延出部97bに続いて苗植フレーム15の苗植付伝動部の上方に沿って前側に屈曲して延びる前延出部97cを備え、複数対のギヤで構成される左右移動切替装置74の上方とリードカム軸75の左右方向略中央部の上方に設けた各々の潤滑油吐出口98から潤滑油を吐出する。従って、左右移動切替装置74とリードカム軸75へ潤滑油が確実に供給される。尚、苗植フレーム15内は連通しているので、左右移動切替装置74とリードカム軸75へ供給された潤滑油は、自ずと低位にある苗植付伝動部へ戻る。
【0037】
株間を広い側に設定したとき(疎植)、株間変速装置の不等速ギヤにより植付アーム5が作動軌跡(植付軌跡線D)の下死点付近で速く作動するべく苗植装置10が不等速で作動するが、植付アーム5が植付軌跡線Dの下死点を過ぎて苗植ケース1が高速回転状態から低速回転状態に移行するとき、駆動カム93の長径部分がピストン94の先端部に接触してピストン94を押すべく駆動カム93の位相が設定されている。これにより、駆動カム93がピストン94を押すとき、ピストン94からの反力で出力軸2に駆動抵抗がかかるため、苗植ケース1の回転の慣性力に抗して出力軸2の回転を高速回転状態から低速回転状態に適正に減速させることができ、苗植付装置9を適正な速度で円滑に作動させることができる。尚、植付アーム5が植付軌跡線Dの下死点にあるときから駆動カム93の長径部分がピストン94の先端部に接触する位相に設定すれば、植付軌跡線Dの下死点付近で出力軸2の回転が高速になり過ぎることを抑えることができる。苗植ケース1の120度の位相ごとに計3個の植付アーム5を設けているので、これに合わせて駆動カム93の長径部分は120度の位相ごとに計3箇所形成する。尚、図例では、長径部分が180度の位相ごとに計2箇所形成された駆動カム93を示しているが、この駆動カム93は苗植ケース1の180度の位相ごとに計2個の植付アーム5を設けた苗植付装置9を装着した場合に使用するのが望ましい。
【0038】
以上により、この乗用型田植機は、苗を載置する苗載台である苗タンク18と、苗載台ひいては苗載台上の苗を左右移動させる左右移動装置78と、苗載台上の苗の端部を受ける苗受枠28と、苗受枠28に備える苗取出口19と、苗取出口19から苗を取り出して圃場に植え付ける苗植付装置9を設け、原動機21からの動力を、苗植付装置9へ伝動する植付系伝動機構と左右移動装置78へ伝動する左右移動系伝動機構に分岐して伝動する構成とし、内部に植付系伝動機構及び潤滑油を収容する植付伝動ケースである苗植フレーム15を設け、植付系伝動機構の動力により駆動して植付伝動ケース内の潤滑油を吐出する潤滑油ポンプ92と、潤滑油ポンプ92が吐出する潤滑油を左右移動装置78へ移送して供給する潤滑油パイプ97を設けている。
【0039】
よって、潤滑油ポンプ92及び潤滑油パイプ97により、植付伝動ケース内の潤滑油を左右移動装置78へ供給でき、植付系伝動機構の動力に基づく簡単な吐出構成で潤滑油を供給できる。
【0040】
また、植付伝動ケースの後端部の左右方向の側方に、出力軸2を介して苗植付装置9を設け、植付伝動ケースの後端部で植付伝動ケースの左右幅内に潤滑油ポンプ92を配置し、植付伝動ケースの上方で植付伝動ケースの左右幅内に植付伝動ケースに沿って前後方向に延びる潤滑油パイプ97を配置している。
【0041】
よって、苗植付装置9の着脱等のメンテナンスの邪魔にならない位置に、潤滑油ポンプ92及び潤滑油パイプ97を配置でき、メンテナンス性の向上が図れると共に、潤滑油ポンプ92及び潤滑油パイプ97をコンパクトに配置できる。
【0042】
また、出力軸2を不等速回転させて苗植付装置9を駆動する構成とすると共に、出力軸2と一体回転する駆動カム93と、駆動カム93で作動するピストン94を備えて潤滑油ポンプ92を構成し、出力軸2が不等速回転で高速回転するとき又は高速回転状態から低速回転状態に移行するとき、ピストン94が潤滑油を吐出する位相に設定している。
【0043】
よって、出力軸2が不等速回転で高速回転するとき又は高速回転状態から低速回転状態に移行するとき、ピストン94の反力で出力軸2に抵抗がかかるため、出力軸2の回転が高速になりすぎたり高速回転状態から低速回転状態に適正に減速されなかったりするような状況を抑えることができ、苗植付装置9を適正な速度で円滑に作動させることができる。
【0044】
また、苗植付装置9は、出力軸2と一体回転する苗植ケース1と、苗植ケース1から突出するアーム軸6と、アーム軸6と一体回動して圃場に苗を植え付ける植付アーム5を備え、苗植ケース1内には苗植ケース1の回転に伴ってアーム軸6の回動角度を決定する機構を設け、苗植ケース1の回転外周側へ突出する突出部である軸受ケース部7を3箇所に設けて苗植ケース1を三叉状に構成し、突出部にアーム軸6及び植付アーム5を各々設け、2個のアーム軸6が出力軸2の中心よりも下位で残りの1個のアーム軸6が出力軸2の中心よりも上位となる位相で、苗植ケース1の回転を停止させる構成としている。
【0045】
よって、3個の突出部のうちの2個が下側へ向くため、互いの突出部間の空間に入る泥水が、空間の下側に位置する下側向きの突出部に案内されて排出され易くなり、前記空間に泥水が溜まりにくく、付着する泥水により苗植付装置9が劣化することを防止でき、苗植付装置9のメンテナンス性及び耐久性が向上する。
【符号の説明】
【0046】
1:苗植ケース、2:出力軸、5:植付アーム、6:アーム軸、7:軸受ケース部(突出部)、8:ケース間隔部(空間)、9:苗植付装置、15:苗植フレーム(植付伝動ケース)、18:苗タンク(苗載台)、19:苗取出口、21:原動機、28:苗受枠、78:左右移動装置、92:潤滑油ポンプ、93:駆動カム、94:ピストン、97:潤滑油パイプ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
苗を載置する苗載台(18)と、苗載台(18)ひいては苗載台(18)上の苗を左右移動させる左右移動装置(78)と、苗載台(18)上の苗の端部を受ける苗受枠(28)と、苗受枠(28)に備える苗取出口(19)と、苗取出口(19)から苗を取り出して圃場に植え付ける苗植付装置(9)を設け、原動機(21)からの動力を、苗植付装置(9)へ伝動する植付系伝動機構と左右移動装置(78)へ伝動する左右移動系伝動機構に分岐して伝動する構成とし、内部に植付系伝動機構及び潤滑油を収容する植付伝動ケース(15)を設けた苗移植機において、植付系伝動機構の動力により駆動して植付伝動ケース(15)内の潤滑油を吐出する潤滑油ポンプ(92)と、潤滑油ポンプ(92)が吐出する潤滑油を左右移動装置(78)へ移送して供給する潤滑油パイプ(97)を設けた苗移植機。
【請求項2】
植付伝動ケース(15)の後端部の左右方向の側方に、出力軸(2)を介して苗植付装置(9)を設け、植付伝動ケース(15)の後端部で植付伝動ケース(15)の左右幅内に潤滑油ポンプ(92)を配置し、植付伝動ケース(15)の上方で植付伝動ケース(15)の左右幅内に植付伝動ケース(15)に沿って前後方向に延びる潤滑油パイプ(97)を配置した請求項1に記載の苗移植機。
【請求項3】
出力軸(2)を不等速回転させて苗植付装置(9)を駆動する構成とすると共に、出力軸(2)と一体回転する駆動カム(93)と、駆動カム(93)で作動するピストン(94)を備えて潤滑油ポンプ(92)を構成し、出力軸(2)が不等速回転で高速回転するとき又は高速回転状態から低速回転状態に移行するとき、ピストン(94)が潤滑油を吐出する位相に設定した請求項2に記載の苗移植機。
【請求項4】
苗植付装置(9)は、出力軸(2)と一体回転する苗植ケース(1)と、苗植ケース(1)から突出するアーム軸(6)と、アーム軸(6)と一体回動して圃場に苗を植え付ける植付アーム(5)を備え、苗植ケース(1)内には苗植ケース(1)の回転に伴ってアーム軸(6)の回動角度を決定する機構を設け、苗植ケース(1)の回転外周側へ突出する突出部(7)を3箇所に設けて苗植ケース(1)を三叉状に構成し、突出部(7)にアーム軸(6)及び植付アーム(5)を各々設け、2個のアーム軸(6)が出力軸(2)の中心よりも下位で残りの1個のアーム軸(6)が出力軸(2)の中心よりも上位となる位相で、苗植ケース(1)の回転を停止させる構成とした請求項1に記載の苗移植機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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