説明

若材齢吹き付けコンクリートの静弾性係数の推定方法

【課題】一軸圧縮試験のためのコアを採取できないような若材齢の吹き付けコンクリートの静弾性係数を精度良く推定して、その剛性を確実に把握することを可能とする。
【解決手段】(a)コアを採取不能な若材齢吹き付けコンクリートからなる試料に対して予備試験としてプルアウト試験または針貫入試験を実施して、材齢と換算圧縮強度との関係を求める予備試験工程、(b)コアを採取可能となった吹き付けコンクリートからコアを採取して本試験としての一軸圧縮試験を実施して、材齢と一軸圧縮強度との関係および材齢と静弾性係数との関係を求める本試験工程、(c)上記の関係から試料の換算圧縮強度と静弾性係数との関係を近似する近似曲線を設定する近似曲線設定工程、(d)その近似曲線に基づいて試料の換算圧縮強度からその静弾性係数を推定する静弾性係数推定工程、からなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、吹き付けコンクリートの剛性を把握するためにその指標となる弾性係数(ヤング率)を推定するための方法、特に、一軸圧縮試験用のコアを採取不能な若材齢吹き付けコンクリートを対象としてその静弾性係数を精度良く推定するための方法に関する。
【背景技術】
【0002】
大深度で地圧が強大な場合、あるいは地圧は大きくないが地山の持つ強度が小さい場合、すなわち地山強度比(地山の一軸圧縮強度と初期地圧の比)が小さい条件下でトンネルを建設する際には、トンネル構造体全体(すなわち支保構造物とその周囲の地山)の最終的な安定性の確保とともに掘削直後のトンネル近傍の地山や切羽の安定性を確保することが重要である。
【0003】
山岳トンネルの工法では、掘削に伴う安定化のための手段として一次支保工の敷設がなされるが、その一次支保工としては吹き付けコンクリート、鋼製支保工およびロックボルトなどが主要な支保部材として用いられる。これらの支保部材は掘削によって生じる地山の応力変化(応力再配分といわれる)に対応してトンネル周辺地山の不安定化を防ぐための支保機能を十分に発揮する必要がある。
すなわち、トンネルの掘削に伴う周辺地山の安定性を確保するためには、支保と地山の相互作用を考慮した安定設計が必要となる。
【0004】
また、トンネルを効率的に掘削するためには一次支保工としての吹き付けコンクリートが可及的に短時間で高い剛性と高い強度を発現することが望ましく、特許文献1や特許文献2にはそれを可能とするコンクリート材料やトンネル工法についての提案がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2008−137817号公報
【特許文献2】特開2008−138385号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、掘削直後のトンネルの安定性を評価するには、トンネルの切羽近傍の地山と支保工により構築される構造体の安定性を考慮した部材設計と施工条件を工夫することが必要となる。
その場合、掘削直後に施工される吹き付けコンクリートは、吹き付け後の時間経過とともにその力学特性である強度と剛性が次第に高くなるため、時間の経過に伴うコンクリートの強度と剛性の発現関係を把握して安定設計に反映させることが必要であり、そのことは特許文献1や特許文献2に示されるように早期に強度が発現する特殊な吹き付けコンクリートを用いる場合において特に重要である。
【0007】
吹き付けコンクリートの強度発現特性を現場にて把握するためには、従来よりプルアウト試験や針貫入試験、一軸圧縮試験が行われることが一般的である。
周知のように、プルアウト試験は試料採取皿に取り付けたピンが隠れるようにコンクリートを吹き付けて試料を作製し、そのピンを反対側から引き抜くことで生じる破壊コーンのせん断面よりせん断強度を求めて換算圧縮強度を求める試験であり、また、針貫入試験は、専用のピンを空気圧によって吹き付けコンクリートに打ち込み、その貫入深さを測って吹き付けコンクリートの強度を推定する試験である。
これらのプルアウト試験や針貫入試験では、吹き付け直後の吹き付けコンクリートの強度を求めることでその発現状況を把握可能ではあるものの、弾性係数を求めることはできないので、それ自体では剛性を把握することはできない。
【0008】
一方、一軸圧縮試験は硬化した吹き付けコンクリートから採取したコアに変位計を設置して、載荷時の載荷応力と同時に歪みを計測して応力−歪み関係を求めることによって試料の弾性係数を求めることが可能であるから、強度のみならず剛性も把握することが可能であるが、吹き付け直後のコンクリートは試料のコアの採取が難しいことから一軸圧縮試験を実施できない場合も多い。
コアを採取できず、それ故、一軸圧縮試験を実施できないような吹き付け直後の若材齢吹き付けコンクリートについては、プルアウト試験あるいは針貫入試験により強度は推定し得るもののその弾性係数や剛性については十分に把握することができないため、特に特許文献1や特許文献2に示されるような早期に強度を発現する特殊な吹き付けコンクリートを用いる特殊なトンネル工法を実施する場合において、吹き付け直後の支保工の安定性を精度良く解析して適切に評価することが困難である。
【0009】
上記事情に鑑み、本発明は一軸圧縮試験のためのコアが採取できないような若材齢の吹き付けコンクリートについても、その剛性を把握するための指標となる静弾性係数を精度良く推定することを可能とする有効適切な推定方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、一軸圧縮試験用のコアを採取不能な若材齢吹き付けコンクリートを対象としてその静弾性係数を以下の(a)〜(d)工程によって推定することを特徴とするものである。
(a)前記若材齢吹き付けコンクリートからなる試料に対して予備試験としてプルアウト試験または針貫入試験を実施して換算圧縮強度を求めるとともに、該予備試験を所定時間間隔で複数回実施して前記試料における材齢と換算圧縮強度との関係を予め求める予備試験工程、
(b)一軸圧縮試験用のコアを採取可能となった若材齢吹き付けコンクリートから前記コアを採取して本試験としての一軸圧縮試験を実施して、該コアの一軸圧縮強度および静弾性係数を求めるとともに、該本試験を所定時間間隔で複数回実施することにより、前記コアにおける材齢と一軸圧縮強度との関係および材齢と静弾性係数との関係を求める本試験工程、
(c)前記予備試験工程により得られた前記試料における材齢と換算圧縮強度との関係、前記本試験工程により得られた前記コアの材齢と一軸圧縮強度との関係および材齢と静弾性係数との関係から、前記試料の換算圧縮強度と静弾性係数との関係を近似する近似曲線を設定する近似曲線設定工程、
(d)前記近似曲線に基づき、前記予備試験により得られた前記試料の換算圧縮強度から該試料の静弾性係数を推定する静弾性係数推定工程。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、吹き付け直後の吹き付けコンクリートに対して予備試験としてのプルアウト試験あるいは針貫入試験を実施した後に、本試験としての一軸圧縮試験を実施することにより、静弾性係数を直接的に求めることができないような若材齢の吹き付けコンクリートについてもその静弾性係数を精度よく推定することが可能であり、したがって吹き付けコンクリートの吹き付け直後における剛性を精度良く把握することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の実施形態を示すもので、予備試験工程により求めた材齢と換算圧縮強度との関係の一例を示す図である。
【図2】同、本試験工程により求めた材齢と一軸圧縮強度との関係の一例を示す図である。
【図3】同、本試験工程により求めた材齢と静弾性係数との関係の一例を示す図である。
【図4】同、近似曲線設定工程により求めた一軸圧縮強度と静弾性係数との関係を表す近似曲線の一例を示す図である。
【図5】同、近似曲線設定工程における係数の設定手法についての説明図である。
【図6】同、静弾性係数設定工程により近似曲線に基づいて静弾性係数を推定する手順についての説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の静弾性係数推定方法の実施形態について説明する。
本実施形態は、静弾性係数を求めるための一軸圧縮試験用のコアを採取することができず、したがって一軸圧縮試験により静弾性係数を直接的には求めることのできないような若材齢吹き付けコンクリートを対象として、予備試験としてプルアウト試験(または針貫入試験)と本試験としての一軸圧縮試験を順次実施することによって、その結果から若材齢吹き付けコンクリートの静弾性係数を推定することを主眼とするものである。
【0014】
そのための準備工程として、吹き付けコンクリートの施工時には、後段で本試験として実施する一軸圧縮試験用のコアを採取するための箱吹き作業を実施すると同時に、予備試験として実施するプルアウト試験(あるいは針貫入試験)用の試験体を作製するために試料採取皿にも吹き付けを行っておく。
【0015】
(a)予備試験工程
吹き付け直後で一軸圧縮試験用のコアを採取できない段階では、吹き付け直後からコアを採取可能となる時点まで、予備試験としてのプルアウト試験を所定時間間隔で実施して各時点での試料の換算圧縮強度を求め、たとえば図1に示すような材齢と換算圧縮強度との関係を求めておく。
予備試験としてのプルアウト試験の試験間隔は、たとえば10分後、1時間後、その後は実施工サイクルより施工時の吹き付け直後から次の掘削までの時間間隔から設定することとし、この予備試験を少なくとも一軸圧縮試験用のコアを採取可能となるまで繰り返す。コアが採取可能となる目安としては、吹き付けコンクリートの強度がたとえば10N/mm2程度に達するまで、あるいは材齢が約1日となるまでとすれば良い。
【0016】
なお、予備試験としてはプルアウト試験に代えて針貫入試験を実施することも可能であり、その場合も同様の時間間隔で針貫入試験を繰り返し、その結果を図1と同様に材齢と換算圧縮強度との関係として求めておく。
【0017】
(b)本試験工程
コアが採取可能となったら、箱吹きしておいた吹き付けコンクリートからコア採取用のボーリング機器を用いてコアを採取し、このコアに対して本試験としての一軸圧縮試験を実施する。この本試験も所定の時間間隔で複数回実施して各時点でのコアの一軸圧縮強度を求め、その結果を図2に示すような材齢と一軸圧縮強度との関係として求めておく。
また、同時に、コアに対する載荷荷重に伴う歪みを計測して応力−歪み関係を求めることにより、各時点でのコアの静弾性係数を求め、その結果を図3に示すように材齢と静弾性係数との関係として求めておく。
【0018】
(c)近似曲線設定工程
上記の本試験工程により得られたコアに対する材齢と一軸圧縮強度との関係、および材齢と静弾性係数との関係から、図4に示すような一軸圧縮強度と静弾性係数との関係をプロットし、それに基づき、上記の予備試験工程により得られたコア採取以前の試料に対する材齢と換算圧縮強度との関係も考慮した近似曲線を設定する。
その近似曲線は、一軸圧縮試験により求めたコアの一軸圧縮強度と静弾性係数との関係をコア採取以前の試料まで敷衍して、その関係をコア採取以前の試料の換算圧縮強度と静弾性係数との関係として表すものとなる。
【0019】
その近似曲線としては、圧縮強度をσ、求めるべき静弾性係数をEとすれば、コンクリートの強度と弾性係数との関係式に準じて E=a・σc として、上記各試験によるデータから上式における係数a、bを決定すれば良い。
上式における係数bはコンクリートの分野では一般にb=0.5とされるが、必ずしもそれが適切ではない場合もあり、そのため、最小自乗法により最適な係数を求めることが好ましい。そのためには、上式において両辺で対数をとり、線形式に置き換えて係数a,bを決定するか、あるいは図5に示すように係数bを0から1まで変化させたときの最小自乗を計算して、そのときの相関係数Rの2乗が最も1に近くなるように係数a,bを決定すれば良い。
【0020】
(d)静弾性係数設定工程
図4に示した近似曲線を用いて、予備試験により求めた試料の換算圧縮強度からその静弾性係数を推定する。
具体的には、たとえば、予備試験により得られている試料の換算圧縮強度が約6N/mm2である場合、図6に示すようにそのデータを横軸に代入することにより、その試料の静弾性係数は約8kN/mm2と推定することができる。
【0021】
以上のように、本発明によれば、一軸圧縮試験用のコアを採取することができず、したがって静弾性係数を一軸圧縮試験によっては直接的に求めることができないような若材齢の吹き付けコンクリート、たとえば上述したように強度が10N/mm2以下、あるいは材齢が1日以下であるような若材齢の吹き付けコンクリートについても、その静弾性係数を精度よく推定することが可能である。
【0022】
また、本発明は吹き付けコンクリートの施工後に周知のプルアウト試験あるいは針貫入試験と周知の一軸圧縮試験を現場にて繰り返すことのみで容易にかつ簡便に実施することが可能であるから、トンネル掘削に際して吹き付けコンクリートによる支保工の剛性を確実に把握でき、それにより支保工の安定性を適切に評価可能である。
したがって本発明は、特に特許文献1に示されるような早期に強度発現する特殊なコンクリート材料によって支保工を施工しつつトンネルを効率的に掘削する特殊なトンネル工法において支保工の安定性を評価するための手法として有効である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一軸圧縮試験用のコアを採取不能な若材齢吹き付けコンクリートを対象としてその静弾性係数を以下の(a)〜(d)工程によって推定することを特徴とする若材齢吹き付けコンクリートの静弾性係数の推定方法。
(a)前記若材齢吹き付けコンクリートからなる試料に対して予備試験としてプルアウト試験または針貫入試験を実施して換算圧縮強度を求めるとともに、該予備試験を所定時間間隔で複数回実施して前記試料における材齢と換算圧縮強度との関係を予め求める予備試験工程、
(b)一軸圧縮試験用のコアを採取可能となった若材齢吹き付けコンクリートから前記コアを採取して本試験としての一軸圧縮試験を実施して、該コアの一軸圧縮強度および静弾性係数を求めるとともに、該本試験を所定時間間隔で複数回実施することにより、前記コアにおける材齢と一軸圧縮強度との関係および材齢と静弾性係数との関係を求める本試験工程、
(c)前記予備試験工程により得られた前記試料における材齢と換算圧縮強度との関係、前記本試験工程により得られた前記コアの材齢と一軸圧縮強度との関係および材齢と静弾性係数との関係から、前記試料の換算圧縮強度と静弾性係数との関係を近似する近似曲線を設定する近似曲線設定工程、
(d)前記近似曲線に基づき、前記予備試験により得られた前記試料の換算圧縮強度から該試料の静弾性係数を推定する静弾性係数設定工程。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2013−72738(P2013−72738A)
【公開日】平成25年4月22日(2013.4.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−211729(P2011−211729)
【出願日】平成23年9月28日(2011.9.28)
【出願人】(000002299)清水建設株式会社 (2,433)
【出願人】(000003296)電気化学工業株式会社 (1,539)