説明

苦味薬物の苦味を低減した医薬組成物

【課題】
苦味薬物を含有する口腔内速崩壊錠において、口腔内で崩壊しても苦味やざらつき感を感じさせず、圧縮成型時に薬物含有粒子が破壊せず、圧縮成形性の良い苦味薬物含有粒子を提供する。
【解決手段】
グルコン酸カルシウムなどの有機酸カルシウム塩、苦味薬物、必要に応じて多孔性無機物、分散剤、結合剤、甘味剤や矯味剤などを水に懸濁させて、噴霧乾燥することによって、苦味を抑制、ざらつき感のない粒子径、成形性のいずれも満たす苦味薬物含有粒子を製造することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、苦味薬剤と有機酸カルシウム塩を噴霧し乾燥造粒することによる苦味薬剤の苦味を低減した苦味薬物含有粒子、及びその方法、並びにその苦味薬物含有粒子を含む口腔内崩壊性医薬組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
薬剤は苦味、渋味やえぐみなど不快な味を有するものが多く、口腔内でこれらの不快な味をマスキングする必要がある。特に近年、高齢化などよる咀嚼能力が低減した患者が増加しているため、口腔内速崩壊錠の製造が増加しており、薬剤の苦味マスキングが特に重要である。口腔内速崩壊錠での苦味マスキングの方法としては、ワックスや水不溶性高分子などの難水溶性物質を苦味薬剤の粒子にコーティングする方法が一般的に行われている。薬効成分の造粒工程に加えて、バッチ式でコーティング工程を行わねばならず、2倍以上の工程数やコスト増加が問題であった。また、薬剤粒子自体の粒子径が大きくなり、口腔内でざらつきを感じるという問題もあった。
【0003】
薬剤のコーティング以外の方法では、苦味を抑制する成分を添加する方法が知られており、苦味を抑制する成分として有機酸カルシウム塩を用いた薬剤の苦味改善方法としては次の方法が知られている。
【0004】
薬物とケイ酸塩類を混合し、乳酸カルシウムの水溶液を添加して混合連合して造粒する方法(特許文献1)、苦味薬物に対して3〜240重量%の乳酸カルシウムを含有し、かつ全体の6重量%以下とした口腔内速崩壊錠(特許文献2)、苦味薬剤、アルカリ土類金属塩、グルコン酸カルシウムを混練造粒したのち圧縮成型するする方法(特許文献3)などが知られている。
【0005】
以上の苦味薬物のマスキング方法は、製法がバッチ式であり製造が連続的で造粒に係る工数が2倍以上で簡易ではないこと、苦味薬物と有機酸カルシウム塩の混合・被覆が高くなく苦味低減効果は十分ではないことなどの問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平7−126188号公報
【特許文献2】特開2008−94837号公報
【特許文献3】特開平6−206824号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、十分な苦味マスキング効果を有し、製造が容易な苦味薬物を含有する口腔内速崩壊錠、チュワブル状、顆粒、フィルム錠などの口腔内崩壊性医薬組成物を提供する
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記の目的を達成するため鋭意研究した結果、苦味薬物と有機酸カルシウム塩、必要に応じて多孔性無機物及び/又は分散剤を水に懸濁させたのち、噴霧し乾燥造粒することにより得られた苦味薬物含有造粒粒子を含む口腔内崩壊性医薬組成物は、薬物の苦味を抑制することを見いだした。
【発明の効果】
【0009】
苦味薬物と有機酸カルシウム塩、必要に応じて多孔性無機物及び/又は分散剤を水に懸濁させ噴霧し乾燥・造粒することにより、苦味の低減した薬物含有造粒粒子を得ることができる。この薬物含有造粒粒子を、賦形剤、滑沢剤、崩壊剤などと混合圧縮することにより、苦味を感じない圧縮成型物、特に口腔内速崩壊性の圧縮成型物を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明は、苦味薬物及び特定の有機酸カルシウム塩、必要に応じて多孔性無機物及び/又は分散剤などのその他添加可能な医薬品添加物を水に溶解/懸濁させたのち、噴霧し乾燥・造粒することによって苦味を低減した薬物含有の造粒粒子を製造する。この造粒粒子を賦形剤、滑沢剤、崩壊剤などと混合圧縮することにより、圧縮成型物、特に口腔内速崩壊性の圧縮成型物を製造する。この薬物含有粒子は、単独でそのまま顆粒として、またカプセルに充填してカプセル剤の形態とすることができる。
【0011】
本発明において、特定の有機酸カルシウム塩とは、平均粒子径が0.1〜100μmであり、水への解度が0.1〜50g/100gの有機酸カルシウム塩である。平均粒子径は、口腔崩壊性圧縮成型物としたときの崩壊性と成形性を有すること及び口腔内での食感ために重要であり、好ましくは平均粒子径は0.1〜80μmである。水への溶解度が0.01g/100g未満又は50g/100gを超えるとカルシウムイオンの舌の味蕾への吸着度が小さくなるため、有機酸カルシウム塩の水への解度が0.02〜50g/100gが好ましく、より好ましくは0.1〜20g/100gである。
【0012】
本発明において、有機酸カルシウム塩としては、医薬品や食品に使用可能な有機酸とカルシウムの塩であればいずれでもよく、有機酸としては、例えば、乳酸、グルコン酸、グリセロリン酸、クエン酸、酢酸、安息香酸、ギ酸、フマル酸、酪酸、イソ酪酸、リンゴ酸、カルシウム、プロピオン酸カルシウム、プロピオン酸などであり、好ましくは、乳酸、グルコン酸、グリセロリン酸であり、より好ましくはグルコン酸である。これら有機酸カルシウム塩は、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0013】
本発明で使用する有機酸カルシウム塩としては、水和物、無水物、光学異性体に限定されない。後述するとおり、水に懸濁/溶解させるため、有機酸カルシウム塩の形態は、結晶、フレーク状、粉体など形状を問わない。
【0014】
本発明において、苦味薬物とは、一般に口腔内で苦みを有する薬物であり、特に苦味に注意を要する薬物としては、例えば、アセトアミノフェン、イブプロフェン、ニフェジピン、サリチルアミド、フェナセチン、デキストロメトルファン、メキタジン、ジクロフェナクナトリウム、クエン酸モサプリドマル酸クレマスチン、dl−マレイン酸クロルフェニラミン、塩酸プロメタジン、塩酸ジフェンヒドラミン塩酸フェニレフリン、塩酸メチルエフェドリン、塩酸エフェドリン、塩酸ノスカピン、塩酸メチルエフェドリン、塩酸ブロムヘキシン、キニーネ、ジギタリス、塩化ベルベリン、塩酸メクロフェノキサート、塩酸エチレフリン、塩酸トリヘキシフェニジル、無水カフェイン、クラリスロマイシン、グリセオフルビン、アシクロビル、セファクロル、フルスルチアミン、ジョサマイシン、アマンタジン塩酸塩、エナラプリルマレイン酸塩、アセブトール塩酸塩、セチリジン塩酸塩、エプレレノン、アゾセミド、ベポタステンベシル酸塩、オフロキサシン、トラネキサム酸、バラシクロビル塩酸塩、プロプラノロール塩酸塩、ニザチジン、ラベタロール塩酸塩、チキジウム臭化物、アテノロール、レバミピド、塩酸プロプラノロール、ウルソデオキシコール酸、シメチジン、ファモチジン、ジピリダモール、ドンペリドン、ロラゼパム、塩酸エペリゾン、メシル酸カモスタット、スルピリド、ゾピクロン、フェキソフェナジン塩酸塩、エピナスチン塩酸塩、オロパタジン塩酸塩、アロプリノール、エトドラク、エチレフリン塩酸塩、オフロキサシン、ブチルスコポラミン臭化物、イブプロフェン、フルスルチアミン、アゼラスチン塩酸塩などである。
【0015】
苦味薬物の形態としては、口腔内でのざらつきを防止するため、粉砕などの工程で平均粒子径を小さくした方が良く、平均粒子径としては0.1〜200μm、好ましくは0.1〜100μm、より好ましくは0.1〜50μmである。
【0016】
有機酸カルシウム塩と苦味薬物の配合比は、苦味薬物に対して有機酸カルシウム塩は、1:0.05〜10であり、好ましくは1:0.1〜5であり、より好ましくは1:0.2〜5である。有機酸カルシウム塩の配合量は、選択する苦味薬物自体の苦味マスキングの容易さや最終的な錠剤型の大きさにより、適時苦味薬物の配合割合を設定する。一般に有機酸カルシウム塩の配合量を多くすると、圧縮成型時の成形性が低下するが、本発明においては後述の噴霧乾燥を行っているため、有機酸カルシウム塩の配合量が多くても成形性に与える影響は少ない。
【0017】
必要に応じて、多孔性無機物を配合することができる。多孔性無機物は吸水効果に優れ、口腔内での唾液に本発明の組成物が接したとき、組成物中での水分の流動方向の調製や、水中に微量に溶解した苦味薬物分子の吸着を行うため、薬物の苦味抑制を有すると考えられる。多孔性無機物は、粒子表面及び内部に多数の空孔を有する粒子状の無機物であり、BET比表面積としてはBET比表面積が10〜500m/gである。
【0018】
例えば、メタケイ酸アルミン酸マグネシウム、ケイ酸アルミン酸マグネシウム、無水ケイ酸、二酸化ケイ素、ケイ酸カルシウム、ケイ酸マグネシウム、ケイ酸アルミニウム、リン酸カルシウム、リン酸水素カルシウム、無水リン酸水素カルシウム、無水リン酸水素カルシウム造粒物、ハイドロタルサイト、酸化マグネシウム、水酸化マグネシウム、水酸化アルミナマグネシウム、乾燥水酸化アルミニウムゲル、炭酸マグネシウム、炭酸カルシウム及びタルクなどから選択される少なくとも1種以上である。
好ましくは、メタケイ酸アルミン酸マグネシウム、ケイ酸アルミン酸マグネシウム、無水ケイ酸、ケイ酸カルシウム、リン酸カルシウム、リン酸水素カルシウム、無水リン酸水素カルシウム、炭酸カルシウム、ハイドロタルサイト及びタルクから選択される少なくとも1種以上である
【0019】
必要に応じて、難溶性の薬物の場合などに分散剤を配合することができる。分散剤は、分散剤分子が薬物表面に吸着し、薬物表面を改質して、ぬれ性の改善や薬物溶解度の抑制などの効果を有する。分散剤としては、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセロース、メチルセルロース、カルメロースナトリウム、ポリビニルピロリドン、キサンタンガム、アラビアガムなどがあげられ、これらを1種以上組み合わせることができる。
【0020】
苦味薬剤と有機酸カルシウム塩の他に甘味剤や酸味剤、矯味剤などを配合して、味の調味により苦味マスキング効果を高めることができる。甘味剤としては、例えば、サッカリンナトリウム、グリチルリチン二カリウム、アスパルテーム、ステビア、スクラロース、ソーマチン、アセスルファームK、糖類、糖アルコール類などがあげられる。苦味薬物に対する甘味剤の配合比は、1:0.01〜100であり、好ましくは1:0.02〜50である。
【0021】
酸味剤としては、例えば、エン酸、酒石酸、リンゴ酸、アスコルビン酸、フマル酸、コハク酸、グルコン酸、乳酸などがあげられる。
【0022】
矯味剤としては、例えば、l−メントール、ハッカ油、ローズ油、レモン油、オレンジ油、ウイキョウ油、ユーカリ油、ケイヒ油、チョウジ油等があげられ、好ましくはl−メントール、ハッカ油、ケイヒ油、ウイキョウ油、チョウジ油などである。苦味薬物に対する矯味剤の配合比は、1:0.01〜10である。油状のものは粉末化して添加することができる。
【0023】
成形性や崩壊性などの機能性を持たせるため、医薬添加物を配合することができ、医薬添加物としては、賦形剤(例えば、コーンスターチ、ポテトスターチ、ライススターチ、粉糖、乳糖、D−マンニトール、トレハロース、結晶セルロース、結晶セルロース・カルメロースナトリウム、メタケイ酸アルミン酸マグネシウム、リン酸水素カルシウム、ハイドロタルサイト、無水ケイ酸等)、崩壊剤(クロスポビドン、低置換度ヒドロキシピプロピルメチルセルロース、クロスカルメロースナトリウム、結晶セルロース)、結合剤(ポリビニルピロリドン、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ポリビニルアルコール、メチルセルロース、エチルセルロース、カルメロース、カルボキシビニルポリマー、アルギン酸、アルギン酸ナトリウム、ゼラチン、デンプン、部分α化デンプン、ポピドン、アラビアガム、プルラン)、界面活性剤(例えばポリオキシエチレン硬化ひまし油、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレングリコール、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリソルベート、脂肪酸グリセリンエステル、ラウリル硫酸ナトリウム等)、滑沢剤(ショ糖脂肪酸エステル、ステアリン酸マグネシウム、タルク、フマル酸ステアリルナトリウムなど)、発泡剤(例えば炭酸水素ナトリウム、炭酸ナトリウムなど)、香料(例えばレモン油、オレンジ油、メントールなど)、着色剤(例えば食用赤色2号、食用青色2号、食用黄色5号、食用レーキ色素、三二酸化鉄など)、安定化剤(例えばエデト酸ナトリウム、トコフェロール、シクロデキストリンなど)、着香剤などが挙げられる。
【0024】
本発明の苦味薬物と有機酸カルシウム塩は、口腔内速崩壊錠用の噴霧乾燥造粒粒子の製造時に混合して噴霧乾燥することができる。このようにすることにより、成形性と崩壊性を兼ね備えることができ、錠剤の製造がより簡易になる。これら噴霧乾燥による口腔内速崩壊錠用の粒子とは、特開2005−139168、WO2005/37254に記載されている。また、F−MELT(富士化学工業(株)製)市販の口腔内速崩壊錠用の崩壊剤を配合することによって、容易に口腔内崩壊錠とすることができる。
【0025】
本発明の製造方法を以下に述べる。
本発明の医薬組成物は、苦味薬剤と有機酸カルシウム、必要に応じて、多孔性無機物、分散剤、甘味剤、酸味剤、矯味剤などの1種以上を、通常行われている製造方法にしたがって、固体状の医薬品形状に製造することができる。
【0026】
圧縮成型物の形態としては、苦味薬剤と有機酸カルシウム、必要に応じて、多孔性無機物、分散剤、甘味剤、酸味剤、矯味剤などの1種以上、及び賦形剤、崩壊剤、滑沢剤などの医薬添加物を、乾式混合、乾式造粒、湿式造粒を行ったのち、圧縮成型することによって製造することができる。
湿式造粒としては、転動層造粒、攪拌造粒、流動層造粒、噴霧乾燥造粒、混練造粒などがあげられる。
【0027】
最も苦味マスキング効果を有する製造方法は、苦味薬剤と有機酸カルシウム、必要に応じて、多孔性無機物及び/又は分散剤を水に溶解・懸濁させ均一な溶液を調製し、噴霧することによって乾燥・造粒する方法である。この噴霧は、担体に噴霧して造粒する方法、担体なしで調製液成分のみで造粒する方法があげられる。具体的な方法としては、転動層造粒、攪拌造粒、流動層造粒、噴霧乾燥造粒など噴霧装置を備えた造粒方法である。
【0028】
噴霧して乾燥・造粒する方法において苦味マスキング効果が優れているのは、(1)苦味薬物と有機酸カルシウム塩を均一に水の中で溶解・懸濁していること、及び(2)噴霧することによって、瞬時に乾燥していることによって、次に示すメカニズムよると考えられる。苦味薬物と有機酸カルシウム塩を均一に水に懸濁することによって、苦味薬物が単粒子状に分散し、有機酸カルシウム塩が単粒子に分散し、かつ溶解可能な量が水に分子レベルで溶解する。ついでこの調製液を瞬時に噴霧することによって、溶液中に均一に分散した状態と同様の分子/粒子構造をそのまま造粒粒子を形成し、すなわち、苦味薬物粒子の表面を有機酸カルシウムの分子層で被覆しているからである。薬物のごく一部に溶解分子は有機酸カルシウム塩のマトリックス中に取り込まれる。これらの粒子構造を備えることにより、薬物含有の造粒粒子が舌に接触した場合、有機酸カルシウム塩が舌の味蕾に先に接触し、薬物分子の味蕾へ接触を阻害又は競合する。また不溶解な有機酸カルシウムは、口腔内で舌と造粒粒子中の苦味薬物との接触を阻害する働きも有している。
【0029】
調製液の水性溶媒としては、組成物の特性に影響を及ぼさず、医薬的に許容される溶媒であればよく、例えば水、エタノール、メタノールなどが挙げられる。
水性分散液は、公知の方法により調製することができ、例えば、通常の撹拌法、コロイドミル法、高圧ホモジナイザー法、超音波照射法などが挙げられるが、水性分散液中で粒子を高度に分散させ得る方法が好ましい。分散液中の苦味薬物と有機酸カルシウム塩の濃度としては、噴霧乾燥できる範囲であればよく、すなわち10〜50重量%であり、好ましくは15〜45重量%である。
【0030】
噴霧乾燥の条件は特に限定されないが、噴霧乾燥装置としては、円盤式またはノズル式(例えば、加圧ノズル、2流体ノズル、4流体ノズルなど)の噴霧乾燥装置を用いるのが好ましい。そして、噴霧乾燥の際の温度としては、入口温度が約120〜220℃であり、出口温度が約80〜130℃が好ましい。噴霧乾燥する際の水性分散液の固形物の濃度としては、噴霧乾燥できる範囲であればよく、通常10〜50重量%、好ましくは15〜45重量%である。噴霧して、粒子の溶媒の残存率が多くとも10%にようする時間は100秒以下であり、好ましくは60秒以下である。
【0031】
このようにして得られる本発明の薬物含有組成物の平均粒子径は、水溶液または水性分散液の濃度、噴霧乾燥方式、乾燥条件などにより適宜調整することができるが、1〜500μm、好ましくは5〜300μm、より好ましくは10〜200μmであれば、口腔内でのざらつきを防ぐことができて好ましい。
【0032】
担体としては、通常、医薬品の担体として用いられている賦形剤などが該当し、例えば、コーンスターチ、ポテトスターチ、乳糖、D−マンニトール、トレハロース、結晶セルロース、メタケイ酸アルミン酸マグネシウム、無水リン酸水素カルシウム、ハイドロタルサイト、無水ケイ酸などが挙げられる。
【0033】
噴霧・造粒によって得られた粒子は、必要で有れば、公知の方法によって、粒子の表面にコーティングを行ってもよい。コーティング剤としては、例えば、キシリトール、ソルビトール、スクロース、ポリビニルピロリドン、プルラン、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、アラビアゴム、ゼラチンなどの1種以上である。
【0034】
ここで得られた薬物含有造粒粒子は、それ自体で顆粒剤として、カプセル(ハードカプセル、ソフトカプセル)に充填してカプセル剤として、その他の成分と混合圧縮して錠剤にすることができる。
【0035】
本発明の苦味薬物含粒子は、賦形剤、崩壊剤、滑沢剤など、通常医薬品に配合可能な医薬添加物と混合し、圧縮成型することによって口腔内速崩壊錠を得ることができる。特に、口腔内速崩壊錠用の賦形剤であるF−MELT(富士化学工業(株)製)は、乾式混合・直打が容易で製造工程を簡便にでき好適である。
【0036】
本発明の口腔内崩壊錠(口腔内崩壊性組成物)としては、口腔内速崩壊錠やチュワブル錠などであり、口腔内の崩壊時間としては、1〜300秒である。
【0037】
圧縮成型は、直接打錠法によるのが好ましく、その際の打錠圧は、錠剤の大きさにより異なるが、通常200〜2000kgfであり、好ましくは250〜1600kgfであり、より好ましくは250〜1200kgfである。本発明の製造方法では、このような製造工程上の充分な硬度で圧縮成形することができ、低硬度で圧縮成型する必要はない。
【0038】
本発明の口腔内速崩壊錠は、通常30〜200N、好ましくは40〜100Nの硬度を有する。また、打錠圧は錠剤の大きさや形によって変わるが、例えば直径8mmの杵を用い、200mgの錠剤を打錠するとき、打錠圧が100〜1200kgfのときに30〜150Nの硬度を有し、打錠圧が100〜1000kgfのときに30〜80Nの硬度を有する。
【0039】
本発明における口腔内速崩壊錠の製造において、上述のように滑沢剤を他の成分と混合した後に圧縮成型してもよいが、滑沢剤を他の成分と混合することなく、圧縮成型機の杵の表面及び臼の壁面にあらかじめ塗布し、圧縮成型する方法(外部滑沢法)で製造することも可能であり、この方法により口腔内速崩壊錠に所望の硬度及び崩壊性を付与することができる。滑沢剤を杵臼に塗布する方法は、従来の公知の方法及び機械で行うことができる。また、圧縮成型後、常法に従って加温及び/又は加湿などのエージングを行って、口腔内崩壊錠に所望の硬度又は崩壊性を付与することもできる。
【0040】
本発明の苦味薬物含粒を含む錠剤は、苦味を低減していることから口腔内崩壊錠やチュワブルに好適であるが、表面の苦みがないために通常の錠剤においても用いることができる。
【実施例】
【0041】
以下に、本発明を実施例により説明するが、これらの実施例は本発明の範囲を限定するものではない。
【0042】
実施例で得られた各錠剤についての評価は、次の方法により行った。
[苦味官能試験]
得られた錠剤を用いて、5人の被験者により官能試験及び口腔内崩壊時間の測定を行った。錠剤250mgを口中に含み下記の基準に従って評価を行った。
苦味なし: 薬物特有の苦みを感じない。
やや苦い: 薬物特有の苦みをやや感じる。
苦い : 薬物特有の苦みを感じる。
【0043】
[口腔内崩壊時間]
錠剤(1錠ずつ n=5)を、5人の被験者が口腔内の舌上に乗せて完全に崩壊するまでの時間を測定し、その平均値を口腔内崩壊時間とした。
[錠剤の硬度]
ロードセル式錠剤硬度計〔PC−30、岡田精工(株)製〕を用いて測定した。
[打錠障害]
打錠機の臼杵、打錠後の錠剤を観察し、スティッキングやキャッピングを評価した。
【0044】
(苦味薬物と有機酸カルシウムとの噴霧乾燥粉末)
表1の成分を水に均一に分散させたのち、噴霧乾燥機(L−8型、大川原化工機社製)を用いて、出口温度100℃で噴霧乾燥し、平均粒子径35μmの流動性の良い白色の球状の造粒粒子を得た。
実施例1〜4、比較例の粉末アセトアミノフェンについて味覚官能試験を行った。結果を表2に示す。
ヒドロキシプロピルメチルセルロースは日本曹達(株)製のHPC−SSL、メタケイ酸アルミン酸マグネシウムは富士化学工業(株)製のノイシリンUFL2、乳酸カルシウムは和光純薬工業(株)製、グルコン酸カルシウムは和光純薬工業(株)製、グリセロリン酸カルシウム和光純薬工業(株)製、グルコン酸カルシウム和光純薬工業(株)製を用いた。
【0045】
[表1]造粒粒子の組成

単位は重量%である。
【0046】
[表2]粒子の味覚官能試験

単位は人数。
【0047】
有機酸カルシウム塩とアセトアミノフェンを噴霧乾燥した粒子は、アセトアミノフェンの苦味が有効にマスキングされている。対して、比較例1の有機酸カルシウムのない噴霧乾燥粒子の苦味マスキング効果は十分ではなかった。
【0048】
(口腔内速崩壊錠の製造)
実施例2と4の造粒粉末、又は比較例1の混合粉末の20重量部、F−MELT69.5重量部、ステアリン酸マグネシウム0.5重量部を混合し、ロータリー打錠機(畑鉄工所社製、HT-AP18SS-II)により設定硬度50Nで打錠し、重量200mg、直径8mmの錠剤を得た。硬度と崩壊時間を表3に、味覚官能試験の結果を表4に示す。
【0049】
[表3]錠剤硬度と口腔内崩壊時間

【0050】
[表4]錠剤の味覚官能試験


【特許請求の範囲】
【請求項1】
苦味薬剤、及び平均粒子径が0.1〜100μmであり、水への解度が0.01〜50/100gの有機酸カルシウム含有することを特徴とする口腔内崩壊性の医薬組成物。
【請求項2】
苦味薬物と有機酸カルシウムの割合が、1:0.05〜10である請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項3】
有機酸カルシウムの有機酸が、乳酸、グルコン酸、グリセロリン酸、クエン酸、酢酸、安息香酸、ギ酸、フマル酸、酪酸、イソ酪酸、リンゴ酸、プロピオン酸のいずれか1種以上である請求項1〜3のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項4】
有機酸カルシウムの有機酸が、グルコン酸、グリセロリン酸、クエン酸、酢酸のいずれか1種以上である請求項1〜3のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項5】
BET比表面積が20m/g以上の多孔性無機物を含む請求項1〜4のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項6】
多孔性無機物が、メタケイ酸アルミン酸マグネシウム、ケイ酸アルミン酸マグネシウム、無水リン酸水素カルシウム、リン酸水素カルシウム、リン酸カルシウム、ケイ酸カルシウム、ケイ酸アルミニウム、ケイ酸、無水ケイ酸から選ばれる1種以上である請求項5に記載の医薬組成物。
【請求項7】
分散剤を含む請求項1〜6のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項8】
分散剤が、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセロース、メチルセルロース、カルメロースナトリウム、ポリビニルピロリドン、キサンタンガム、アラビアガム選ばれる1種以上である請求項7に記載の医薬組成物。
【請求項9】
甘味剤、酸味剤、矯味剤、賦形剤、崩壊剤のいずれか1種以上を配合してなる請求項1〜8のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項10】
苦味薬剤と有機酸カルシウム、必要に応じて多孔性無機物及び/又は分散剤を水に懸濁させ、噴霧して造粒した粒子を含む請求項1〜9のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項11】
苦味薬剤と有機酸カルシウムを水に懸濁させ、噴霧して造粒することによって苦味薬物の苦味を低減する方法。
【請求項12】
有機酸カルシウムの有機酸が、乳酸、グルコン酸、グリセロリン酸、クエン酸、酢酸、安息香酸、ギ酸、フマル酸、酪酸、イソ酪酸、リンゴ酸、プロピオン酸のいずれか1種以上である請求項11に記載の方法。
【請求項13】
有機酸カルシウムの有機酸が、グルコン酸、グリセロリン酸、クエン酸、酢酸のいずれか1種以上である請求項11に記載の方法。
【請求項14】
BET比表面積が20m/g以上の多孔性無機物及び/又は分散剤を含む請求項11〜13のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項15】
多孔性無機物が、メタケイ酸アルミン酸マグネシウム、ケイ酸アルミン酸マグネシウム、無水リン酸水素カルシウム、リン酸水素カルシウム、リン酸カルシウム、ケイ酸カルシウム、ケイ酸アルミニウム、ケイ酸、無水ケイ酸から選ばれる1種以上である請求項14に記載の医薬組成物。
【請求項16】
分散剤が、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセロース、メチルセルロース、カルメロースナトリウム、ポリビニルピロリドン、キサンタンガム、アラビアガム選ばれる1種以上である請求項14に記載の医薬組成物。
【請求項17】
甘味剤、酸味剤、矯味剤、賦形剤、崩壊剤のいずれか1種以上を配合してなる請求項11〜16のいずれか1項に記載の方法。

【公開番号】特開2012−56909(P2012−56909A)
【公開日】平成24年3月22日(2012.3.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−203626(P2010−203626)
【出願日】平成22年9月10日(2010.9.10)
【出願人】(390011877)富士化学工業株式会社 (53)
【Fターム(参考)】