説明

苦味遮蔽組成物。

【課題】不快味を有する医薬の不快味を効果的に遮蔽して服用し易く、かつ溶出性に優れた粉末組成物、散剤、細粒剤又は顆粒剤を提供すること。
【解決手段】不快味を有する医薬を含有する粉末に、三層の皮膜を被覆してなる粉末組成物、第一層を水不溶性ポリマー含有組成物、第二層を腸溶性ポリマー含有組成物、第三層を水不溶性ポリマー含有組成物で順次被覆してなる前記粉末組成物、これを造粒してなる散剤、細粒剤又は顆粒剤を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、医薬の苦味等の不快な味が有効に遮蔽され、かつその溶出性に優れた粉末組成物、製剤化された散剤、細粒剤及び顆粒剤に関する。
【背景技術】
【0002】
医薬はその適正量を適時に投薬されることによって、予定の効果が期待できる。したがって固形製剤の場合、服用し易い製剤であることが、その薬物コンプライアンスの観点から、重要である。
そこで、例えば錠剤の飲み込みが困難な小児や高齢者に対しては、散剤、細粒剤又は顆粒剤等が提供されている。
しかし、強い苦味等の不快な味を有する医薬を散剤、細粒剤又は顆粒剤とする場合は、不快味遮断のために必要な具体的手段が、しばしば医薬溶出の遅延を招くこととなり、問題となる。
従来より、細粒剤等の主薬の不快味を遮蔽する手段として、主薬含有粉末を種々の高分子基材で被覆する技術が開示されている(特許文献1〜6)。その中には、主薬の苦味の遮蔽とその速放性を両立することを課題とした細粒剤に関するものがある(特許文献1及び2)
【0003】
【特許文献1】特開平5−163163号公報
【特許文献2】特開2000−53563号公報
【特許文献3】特公平7−74151号公報
【特許文献4】特開2002−29964号公報
【特許文献5】特許第3317444号公報
【特許文献6】特許第3466921号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の課題は、医薬の苦味等の不快な味が有効に遮蔽され、したがって服用し易い組成物であって、かつその溶出性に優れた粉末組成物、製剤化された散剤、細粒剤及び顆粒剤を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、前記課題を解決するため、予備的検討として、強力な苦味を有するレバミピド(一般的名称)を用い、従来技術について種々追試をしたところ、苦味の遮蔽効果とその溶出速度の両方において満足と言える結果が得られなかった。
そこで、鋭意検討した結果、レバミピドを含有する粉末組成物に対し、ポリマー基材で三層の皮膜を被覆することにより、前記課題を解決することができることを見出した。
本発明者らは、さらに検討を加え、本発明を完成することができた。
【0006】
すなわち、本発明によれば、
[1]不快味を有する医薬を含有する微粉末に、三層の皮膜を被覆してなる粉末組成物、
[2]不快味を有する医薬を含有する微粉末に、第一層を水不溶性ポリマー含有組成物、第二層を腸溶性ポリマー含有組成物、第三層を水不溶性ポリマー含有組成物で順次被覆してなる前記[1]に記載の粉末組成物、
[3]第一層及び第三層の水不溶性のポリマーが、エチルセルロースであり、第二層の腸溶性ポリマーがメタクリル酸コポリマーLDである前記[2]に記載の粉末組成物、
[4]第一層及び第三層の水不溶性のポリマー含有組成物がエチルセルロース、D−マンニトール及び可塑剤を含有し、第二層の腸溶性ポリマー含有組成物がメタクリル酸コポリマーLD、D−マンニトール、滑沢剤及びクエン酸トリエチルを含有する前記[3]に記載の粉末組成物、
[5]前記[1]、[2]、[3]又は[4]に記載の粉末組成物を造粒してなる散剤、細粒剤又は顆粒剤、
[6]医薬がレバミピドである前記[1]、[2]、[3]若しくは[4]に記載の粉末組成物又は前記[5]に記載の散剤、細粒剤若しくは顆粒剤を提供することができる。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、不快味を有する医薬の不快味を効果的に遮蔽するとともに、一方でその溶出の遅延を来さない三層被覆粉末組成物を提供することができ、
さらには、これを造粒した服用しやすく、即効性のある不快味医薬含有散剤、細粒剤又は顆粒剤を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明は、不快味を有する医薬、特に極めて強い苦味を有するレバミピド、レボフロキサシン、ファモチジン等の医薬に対して有効に適用できる。その医薬の好ましい平均粒子径(レーザー回折式粒度分布測定法によるD50値。以下において同じ。)は、1μm〜200μm、より好ましくは2μm〜50μmである。
【0009】
三層被覆の芯部を構成する医薬とともに使用してもよい添加剤としては、単なる増量剤として、あるいは皮膜を被覆する際の流動化助剤としての機能を有するものであればよく、例えば、乳糖、D−マンニトール、結晶セルロース、トウモロコシ澱粉、軽質無水ケイ酸等を挙げることができる。それらの平均粒子径としては、1μm〜300μm程度が好ましい。
【0010】
本発明で使用し得る製剤基材と、本発明の粉末組成物又は散剤、細粒剤若しくは顆粒剤中の製剤基材の適正割合は、芯部を構成する医薬の種類、目標とする不快味遮蔽の度合、あるいは溶出制御の度合等によって変動するが、不快味を有する医薬が、レバミピドのように強力な苦味を有する医薬の場合を例に好ましい態様を示せば、以下の如くである。
【0011】
第一層及び第三層の皮膜を構成する水不溶性ポリマーとしては、エチルセルロース、アミノアルキルメタクリレートコポリマーRS、アクリル酸エチル・メタクリル酸メチルコポリマー等が挙げられるが、好ましくはエチルセルロースである。その割合としては、第一層には、粉末組成物重量の5%〜30%が好ましく、より好ましくは10%〜20%である。第三層には、粉末組成物重量の1%〜20%が好ましく、より好ましくは2%〜10%である。
【0012】
第一層及び第三層の構成成分である水不溶性ポリマーとともに使用してもよい可塑剤としては、トリアセチン、ステアリン酸、ポリエチレングリコール、クエン酸トリエチル等が挙げられるが、中でもトリアセチンが好ましい。その割合として、第一層には、粉末組成物重量の1%〜10%が好ましく、より好ましくは2%〜6%である。第三層には、粉末組成物重量の0.1%〜5%が好ましく、より好ましくは0.5%〜3%である。
第一層及び第三層の構成成分である水不溶性ポリマーとともに使用してもよいその他の成分としては、D−マンニトール、キシリトール、エリスリトール等の多価アルコール類が挙げられるが、中でもD−マンニトールが好ましい。その割合としては、第一層には、粉末組成物重量の0%〜30%が好ましく、より好ましくは5%〜15%である。第三層には、粉末組成物重量の0%〜20%が好ましく、より好ましくは0%〜5%である。
【0013】
第二層の皮膜を構成する腸溶性ポリマーとしては、メタクリル酸コポリマーLD、ヒドロキシプロピルメチルセルロースフタレート、ヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートサクシネート等が挙げられるが、好ましくはメタクリル酸コポリマーLDである。その割合としては、粉末組成物重量の1%〜20%がこのましく、より好ましくは5%〜15%である。
第二層の構成成分である腸溶性ポリマーとともに使用してもよい可塑剤としては、クエン酸トリエチル、ポリエチレングリコール等が挙げられるが、中でもクエン酸トリエチルが好ましい。その割合としては、粉末組成物重量の0.1%〜5%が好ましく、より好ましくは0.5%〜1.5%である。
第二層の構成成分である腸溶性ポリマーとともに使用してもよい他の成分としてタルク、軽質無水ケイ酸等が挙げられるが、中でもタルクが好ましく、その割合としては、粉末組成物重量の0.1%〜15%が好ましく、より好ましくは1%〜10%である。また、前記例示の多価アルコール類も使用でき、中でもD−マンニトールが好ましい。その割合として、粉末組成物重量の0.1%〜15%が好ましく、より好ましくは1%〜10%である。
【0014】
第一層の皮膜重量としては、本発明粉末組成物重量の10%〜50%が好ましく、第二層の皮膜重量としては、本発明粉末組成物重量の5%〜30%が好ましく、第三層の皮膜重量としては、本発明粉末組成物重量の1%〜20%が好ましい。
【0015】
第一層、第二層及び第三層を構成する水不溶性ポリマー又は腸溶性ポリマーとともに使用してもよい前記例示の添加剤の使用重量は、合せて皮膜重量の60%程度までが好ましい。
【0016】
前記例示の皮膜組成物は、例えば水に分散させて使用することができる。
【0017】
本発明組成物にD−マンニトール等の多価アルコール、結晶セルロース、乳糖、軽質無水ケイ酸等の賦形剤やヒドロキシプロピルセルロース等の結合剤を用いて造粒し、散剤、細粒剤又は顆粒剤とすることができる。
これらの製剤は、必要に応じ、着色剤、矯味剤等の製剤上の添加物を使用して製造してもよい。
【0018】
本発明の組成物、散剤、細粒剤及び顆粒剤は、通常の方法、例えば第十五改正日本薬局方の製剤総則に記載されている方法により、容易に製造をすることができる。
【実施例】
【0019】
以下に不快味を有する医薬として強い苦味を有するレバミピド(一般名:胃炎・胃潰瘍治療薬)を使用した実施例により本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
なお、以下の実施例及び参考例の製剤基材として下記(市販品)を使用した。
乳糖(ファーマトース450M:五協産業)、軽質無水ケイ酸(アドソリダー101:ワイ・ケー・エフ)、30%エチルセルロース水分散液(アクアコート:大日本製薬)、D−マンニトール(マンニットP:東和化成工業)、トリアセチン(トリアセチン:有機合成薬品工業)、メタクリル酸コポリマーLD(オイドラギットL30D55:デグサジャパン)、タルク(クラウンタルク:松村産業)、クエン酸トリエチル(シトロフレックス2SC−60:森村商事)、結晶セルロース(セオラスKG802:旭化成ケミカルズ)、ヒドロキシプロピルセルロース(HPC−L:日本曹達)
【0020】
実施例1
1.コーティング液及び造粒液の調製
常法に従って下記組成からなるコーティング液及び造粒液を調製した。
(1)コーティング液A
30%エチルセルロース水分散液 270g
D−マンニトール 60g
トリアセチン 27g
水 480g
(2)コーティング液B
30%メタクリル酸コポリマーLD 160g
D−マンニトール 24g
タルク 24g
クエン酸トリエチル 5g
水 300g
(3)コーティング液C
30%エチルセルロース水分散液 90g
トリアセチン 9g
水 80g
(4)造粒液X
ヒドロキシプロピルセルロース 30g
水 570g
(5)造粒液Y
ヒドロキシプロピルセルロース 5g
軽質無水ケイ酸 28g
水 175g
【0021】
2.三層被膜を施した細粒剤の製造
レバミピド200g(平均粒子径:約5μm)、乳糖60g及び軽質無水ケイ酸12gを流動層造粒乾燥・コーティング機(パウレック製:MP01−SPC型)に投入し、この混合物を流動させながら、予め調製した前記コーティング液Aを噴霧して第一層皮膜を施し、次いで前記コーティング液Bを用いて第二層皮膜を施し、さらに前記コーティング液Cを用いて第三層皮膜を施して乾燥させた。ここで得られた細粒を流動層造粒乾燥・コーティング機(パウレック製:MP01)に移し、D−マンニトール290g及び結晶セルロース70gを加え、これら混合物を流動させながら、前記造粒液X及び造粒液Yを順次用いて造粒し、下記組成の細粒剤を得た。
[成 分] [細粒剤1000mg当たりの重量(mg)]
核部分
レバミピド 200
乳糖 60
軽質無水ケイ酸 12
第一層
エチルセルロース 81
D−マンニトール 60
トリアセチン 27
第二層
メタクリル酸コポリマーLD 48
D−マンニトール 24
タルク 24
クエン酸トリエチル 5
第三層
エチルセルロース 27
トリアセチン 9
造粒層
D−マンニトール 290
結晶セルロース 70
ヒドロキシプロピルセルロース 35
軽質無水ケイ酸 28
【0022】
参考例1
1.コーティング液及び造粒液の調製
常法に従って下記組成からなるコーティング液及び造粒液を調製した。
(1)コーティング液D
30%エチルセルロース水分散液 360g
D−マンニトール 60g
トリアセチン 36g
水 560g
(2)コーティング液B(前記と同じ)
30%メタクリル酸コポリマーLD 160g
D−マンニトール 24g
タルク 24g
クエン酸トリエチル 5g
水 300g
(4)造粒液X(前記と同じ)
ヒドロキシプロピルセルロース 30g
水 570g
(5)造粒液Y(前記と同じ)
ヒドロキシプロピルセルロース 5g
軽質無水ケイ酸 28g
水 175g
【0023】
2.二層被膜を施した細粒剤の製造
レバミピド200g(平均粒子径:約5μm)、乳糖60g及び軽質無水ケイ酸12gを流動層造粒乾燥・コーティング機(パウレック製:MP01−SPC型)に投入し、この混合物を流動させながら、予め調製した前記コーティング液Dを噴霧して第一層皮膜を施し、次いで前記コーティング液Bを用いて第二層皮膜を施して乾燥させた。ここで得られた細粒を流動層造粒乾燥・コーティング機(パウレック製:MP01)に移し、D−マンニトール290g及び結晶セルロース70gを加え、これら混合物を流動させながら、前記造粒液X及び造粒液Yを順次用いて造粒し、下記組成の細粒剤を得た。
[成 分] [細粒剤1000mg当たりの重量(mg)]
核部分
レバミピド 200
乳糖 60
軽質無水ケイ酸 12
第一層
エチルセルロース 108
D−マンニトール 60
トリアセチン 36
第二層
メタクリル酸コポリマーLD 48
D−マンニトール 24
タルク 24
クエン酸トリエチル 5
造粒層
D−マンニトール 290
結晶セルロース 70
ヒドロキシプロピルセルロース 35
軽質無水ケイ酸 28
【0024】
試験例1 溶出試験
実施例1の細粒剤及び比較例1の細粒剤について、各500mg(レバミピド100mg)を試料とし、試験液に薄めたpH6.0のリン酸二水素ナトリウム・クエン酸緩衝液(1 → 4)900mlを用い、日本薬局方溶出試験第2法により、毎分50回転、60分間、の条件にて試験した。その結果、下記の溶出率を得た。
レバミピド溶出率(%)
実施例1 81.7
比較例1 82.0
【0025】
試験例2 苦味遮蔽効果
試験は、実施例1の細粒剤及び比較例1の細粒剤について、被験者7名に対し実施した。試験方法は、舌に各試料500mg(レバミピド100mg)を乗せ、口内で細粒剤を崩壊させ苦味を感じるまでの時間を測定し、下記の結果を得た。
苦味の発現時間(秒)
実施例1 25±7
比較例1 15±4
以上より、本発明の細粒剤は、レバミピドの速い溶出を保持しつつ、苦味遮蔽効果が顕著に改善されたことが判る。
【産業上の利用可能性】
【0026】
本発明によれば、医薬の不快味を効果的に遮蔽した服用しやすく、溶出性に優れた粉末組成物、散剤、細粒剤あるいは顆粒剤を医療産業又は医療現場に提供することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
不快味を有する医薬を含有する粉末に、三層の皮膜を被覆してなる粉末組成物。
【請求項2】
不快味を有する医薬を含有する微粉末に、第一層を水不溶性ポリマー含有組成物、第二層を腸溶性ポリマー含有組成物、第三層を水不溶性ポリマー含有組成物で順次被覆してなる請求項1に記載の粉末組成物。
【請求項3】
第一層及び第三層の水不溶性のポリマーが、エチルセルロースであり、第二層の腸溶性ポリマーがメタクリル酸コポリマーLDである請求項2に記載の粉末組成物。
【請求項4】
第一層及び第三層の水不溶性のポリマー含有組成物がエチルセルロース、D−マンニトール及び可塑剤を含有し、第二層の腸溶性ポリマー含有組成物がメタクリル酸コポリマーLD、D−マンニトール、滑沢剤及びクエン酸トリエチルを含有する請求項3に記載の粉末組成物。
【請求項5】
請求項1、請求項2、請求項3又は請求項4に記載の粉末組成物を造粒してなる散剤、細粒剤又は顆粒剤。
【請求項6】
医薬がレバミピドである請求項1、請求項2、請求項3若しくは請求項4に記載の粉末組成物又は請求項5に記載の散剤、細粒剤若しくは顆粒剤。

【公開番号】特開2008−50324(P2008−50324A)
【公開日】平成20年3月6日(2008.3.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−230552(P2006−230552)
【出願日】平成18年8月28日(2006.8.28)
【出願人】(593030071)大原薬品工業株式会社 (40)
【Fターム(参考)】