説明

苦土肥料及びその製造方法

【課題】水溶性苦土分が多く、粉立ちの少ない、粒状の苦土肥料を提供する。このような特性を有する苦土肥料を生産性良く製造する方法を提供する。
【解決手段】腐植酸又はその含有物と、水溶性マグネシウム塩とを含む粒状物からなることを特徴とする苦土肥料。腐植酸又はその含有物の塩基性マグネシウム含有物質による中和物と、水溶性マグネシウム塩とを含む粒状物からなることを特徴とする苦土肥料。天然の腐植酸又はその含有物、ないしは天然の腐植酸又はその含有物に塩基性マグネシウム含有物質を加えて中和した後に、水溶性マグネシウム塩を添加し、含水させた状態で造粒することを特徴とする苦土肥料の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、腐植酸を含有してなる粒状の苦土肥料及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
腐植酸は植物体の生育に有用な天然由来の高分子有機物であり、リン酸肥料の肥効向上(リン酸の土壌への固定化防止)、根の活力向上、土壌の保肥力向上、土壌の団粒化促進、土壌反応への緩衝性付与の他、石灰や苦土等の有用な塩基を土壌下層部へ移動することを促す作用を有するが、肥料取締法による肥料成分としては認定されていない物質である。しかしながら、腐植酸のこのような長所を利用するべく、腐植酸と苦土分とを混合した腐植酸苦土肥料が市販されている。腐植酸苦土肥料は、例えば亜炭や草炭等の若年炭と硝酸を反応させて人為的に腐植酸を生成させ、それを塩基性マグネシウム含有物質で中和することによって製造されている(特許文献1)。
【特許文献1】特公昭40−14122号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、上記方法によって製造された腐植酸苦土肥料中の水溶性苦土分が失われないようにするには、密閉型反応器を用い、例えば水分率が30%以上、温度60℃以上の雰囲気下で30分間以上保持する必要があったので、生産性がよくなかった。しかも、製造された腐植酸苦土肥料は粉立ちの多い粉状であり、また水溶性苦土分の含有量も十分に多くすることができなかった。
【0004】
本発明の目的は、水溶性苦土分が多く、粉立ちの少ない、粒状の苦土肥料を提供することである。また、本発明の別の目的は、このような特性を有する苦土肥料を生産性良く製造する方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、腐植酸又はその含有物と、水溶性マグネシウム塩とを含む粒状物からなることを特徴とする苦土肥料である。また、本発明は、腐植酸又はその含有物の塩基性マグネシウム含有物質による中和物と、水溶性マグネシウム塩とを含む粒状物からなることを特徴とする苦土肥料である。
【0006】
さらに、本発明は、天然の腐植酸又はその含有物に水溶性マグネシウム塩を添加し、含水させた状態で造粒することを特徴とする苦土肥料の製造方法である。また、本発明は、天然の腐植酸又はその含有物に塩基性マグネシウム含有物質を加えて中和した後、水溶性マグネシウム塩を添加し、含水させた状態で造粒することを特徴とする苦土肥料の製造方法である。また、本発明は、若年炭と硝酸及び/又は硫酸との反応生成物に水溶性マグネシウム塩を添加し、含水させた状態で造粒することを特徴とする苦土肥料の製造方法である。また、本発明は、若年炭と硝酸及び/又は硫酸との反応生成物に塩基性マグネシウム含有物質を加えて中和した後、水溶性マグネシウム塩を添加し、含水させた状態で造粒することを特徴とする苦土肥料の製造方法である。
【0007】
上記した本発明の少なくとも一方の発明においては、以下から選ばれた実施態様の少なくとも一つを有することが好ましい。すなわち、腐植酸又はその含有物が天然腐植酸であること、腐植酸又はその含有物が若年炭と硝酸及び/又は硫酸との反応生成物であること、若年炭が草炭及び/又は亜炭であること、水溶性マグネシウム塩が硫酸マグネシウム、硝酸マグネシウム、塩化マグネシウム及び酢酸マグネシウムから選ばれた少なくとも1種であること、塩基性マグネシウム含有物質がマグネサイト、マグネシア、ドロマイト、蛇紋岩、ケイ酸マグネシウム及び水酸化マグネシウムから選ばれた少なくとも1種であること、苦土肥料中の水溶性マグネシウムの含有率が酸化マグネシウムとして1〜15質量%であること、及び苦土肥料の平均粒度が1〜5mmであること、である。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、水溶性苦土分が多く、粉立ちの少ない、粒状の苦土肥料が提供される。また、このような特性を有する苦土肥料は、高温保持工程や中和工程を経なくても製造することができるので、操作が容易となり生産性が向上する。さらには、本発明の粒状苦土肥料中の水溶性苦土成分は土壌中に容易に浸透する性質もあるので、効き目が早くなる効果も期待できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明の苦土肥料は、腐植酸(「フミン酸」とも呼ばれている)又はその含有物、ないしは腐植酸又はその含有物の塩基性マグネシウム含有物質による中和物、を水溶性マグネシウム塩で造粒した粒状物からなるものである。腐植酸又はその含有物としては、例えば、天然に産出する腐植酸、亜炭や草炭等の若年炭が自然状態で空気酸化されてなる腐植酸含有物質、若年炭と硝酸及び/又は硫酸との反応生成物(硝酸酸化を受けたものがニトロフミン酸である。)等から選ばれた少なくとも1種が使用される。
【0010】
水溶性マグネシウム塩で造粒することによって、廃糖蜜、廃糖蜜発酵廃液、パルプ廃液、リグニンスルホン酸、でんぷん類等のバインダーを添加することなく造粒できるので水溶性苦土の多く含まれた粒状の苦土肥料となる。水溶性マグネシウム塩としては、水溶性のマグネシウム化合物のいずれでもよいが、好ましくは硫酸マグネシウム、硝酸マグネシウム、塩化マグネシウム及び酢酸マグネシウムから選ばれた少なくとも1種を用いることができる。中でも、硫酸マグネシウムが特に好ましい。
【0011】
水溶性マグネシウム塩の苦土肥料中の含有率は、造粒性、肥効性及び経済性の点から、酸化マグネシウム分(水溶性苦土)として1〜15質量%であることが好ましい。水溶性苦土をより多く含ませるには、腐植酸又はその含有物を塩基性マグネシウム含有物質で中和してから水溶性マグネシウム塩で造粒することである。
【0012】
塩基性マグネシウム含有物質としては、例えばマグネサイト、マグネシア、ドロマイト、蛇紋岩、ケイ酸マグネシウム及び水酸化マグネシウムから選ばれた少なくとも1種を用いることができる。塩基性マグネシウム含有物質の使用量は、若年炭と硝酸及び/又は硫酸との反応生成物をpH6〜8程度に中和する量であれば充分であり、反応生成物100質量部に対して5〜25質量部が好ましい。
【0013】
本発明の苦土肥料の粒度は、取扱いと肥効の点から、平均粒径で1〜5mmであることが好ましい。
【0014】
本発明の苦土肥料の製造方法は、天然の腐植酸又はその含有物に水溶性マグネシウム塩を添加し、含水させた状態で造粒する方法(製法a)、天然の腐植酸又はその含有物に塩基性マグネシウム含有物質を加えて中和した後、水溶性マグネシウム塩を添加し、含水させた状態で造粒する方法(製法b)、若年炭と硝酸及び/又は硫酸との反応生成物に水溶性マグネシウム塩を添加し、含水させた状態で造粒する方法(製法c)、若年炭と硝酸及び/又は硫酸との反応生成物に塩基性マグネシウム含有物質を加えて中和した後、水溶性マグネシウム塩を添加し、含水させた状態で造粒する方法(製法d)、である。製法a、製法cによれば中和工程を省略することができ、製法b、製法dによれば水溶性苦土分がより多い苦土肥料を製造することができる。
【0015】
含水させた状態で造粒するには、例えば各材料を予め水とともに混合してから造粒機に投入し、更に水を加えながら造粒する方法が好ましい。その際、水に水溶性マグネシウムを溶解しておくことは好ましいことである。造粒法としては、転動造粒法、押し出し造粒法等のいずれをも採用することができる。
【実施例】
【0016】
実施例1
腐植酸{腐植酸未中和物(亜炭と硝酸の反応生成物、市販品)}と水溶性マグネシウム塩(硫酸マグネシウム粉末:市販品、粒度0.5mm以下、水溶性苦土分25質量%)を開放型ミキサーで表1に示す割合(質量部)で混合した。次いで、得られた混合物85質量部と水15質量部を混合し、適宜水を添加しながら転動造粒法により30分間造粒した後、100℃棚型乾燥機で水分率15%となるまで乾燥を行った。得られた苦土肥料の粒度は1〜5mmであった。また、「肥料分析法」(農林水産省農業環境技術研究所著、財団法人日本肥糧検定協会発行、平成4年12月25日発行)に従い、、く溶性苦土と水溶性苦土を測定した。その結果を表1に示す。
【0017】
実施例2
腐植酸(天然腐食酸、採掘品、市販品)を使用し、表1に従い各材料を配合したこと以外は、実施例1と同様に行った。得られた苦土肥料の粒度は1〜5mmであり、く溶性苦土と水溶性苦土は表1のとおりであった。
【0018】
実施例3
腐植酸と水溶性マグネシウム塩の割合を変更したこと以外は、実施例1と同様に行った。得られた苦土肥料の粒度は1〜5mmであり、く溶性苦土と水溶性苦土は表1のとおりであった。
【0019】
実施例4
腐植酸として、腐植酸マグネシウム中和物{若年炭(亜炭)と硝酸の反応生成物に、塩基性マグネシウム含有物質(マグネシア)を加えてpH7.5に中和したもの、市販品}を使用したこと以外は、実施例3と同様に行った。得られた苦土肥料の粒度は1〜5mmであり、く溶性苦土と水溶性苦土は表1のとおりであった。
【0020】
実施例5
腐植酸{腐植酸未中和物(亜炭と硝酸の反応生成物、市販品)}と、塩基性マグネシウム含有物質(軽焼マグネシア粉末:粒度0.5mm以下、市販品、く溶性苦土分82質量%)と、水溶性マグネシウム塩(硫酸マグネシウム粉末:市販品、粒度0.5mm以下、水溶性苦土分25質量%)を開放型ミキサーで表1に示す割合で混合した。次いで、得られた混合物85質量部と水15質量部を混合し、適宜水を添加しながら転動造粒法により30分間造粒した後、100℃棚型乾燥機で水分率15%となるまで乾燥を行った。得られた苦土肥料の粒度は1〜5mmであり、く溶性苦土と水溶性苦土は表1のとおりであった。
【0021】
実施例6
腐植酸として天然腐食酸(採掘品、市販品)を用いたこと以外は、実施例5と同様に行った。得られた苦土肥料の粒度は1〜5mmであり、く溶性苦土と水溶性苦土は表1のとおりであった。
【0022】
比較例1
腐植酸未中和物と塩基性マグネシウム含有物質(軽焼マグネシア粉末:粒度0.5mm以下、市販品、く溶性苦土分82質量%)を開放型ミキサーで表1に示す割合で混合して得られた混合物を用い、以下、実施例1と同様な条件で造粒を試みたが造粒はできなかった。得られた粉末のく溶性苦土と水溶性苦土は表1のとおりであった。
【0023】
実施例7
腐植酸(天然に存在するもので採掘品、市販品)、塩基性マグネシウム含有物質(蛇紋岩粉末、粒度0.5mm以下、市販品、く溶性苦土分35質量%)及び水溶性マグネシウム塩(塩化マグネシウム粉末:市販品、粒度0.5mm以下、水溶性苦土分19質量%)を使用し、表2に従い各材料を配合したこと以外は、実施例5と同様に行った。得られた造粒物の粒度は1〜5mmであり、く溶性苦土と水溶性苦土は表2のとおりであった。
【0024】
比較例2
腐植酸(天然腐食酸、採掘品、市販品)と塩基性マグネシウム含有物質(蛇紋岩粉末、粒度0.5mm以下、市販品、く溶性苦土分35質量%)を開放型ミキサーで表2に示す割合で混合した。この混合物を用い、以下、実施例1と同様な条件で造粒を試みたが造粒はできなかった。得られた粉末のく溶性苦土と水溶性苦土は表2のとおりであった。
【0025】
実施例8
実施例7及び比較例2で製造された苦土肥料について、以下に従って発塵量を測定した。その結果を表3に示す。
【0026】
発塵量の測定方法:「くみあい粒状配合肥料の技術(全農肥料農薬部、バルクブレンド肥料)」に準じた。苦土肥料400gを0.991mmふるいでふるい、0.991mmふるい上の苦土肥料を試料として用いた。次いで、磁製ポット(内径100mm、深さ100mm)の中に磁製ボール(直径30mm、質量約35g)3個と、0.991mmふるい上の苦土肥料100gとを投入し、回転ローラーにて毎分75回転にて、15分間回転させた。その後、磁製ポットから試料を取り出し、0.991mmふるい下の質量を測定し、発塵量とした。
【0027】
実施例8
実施例4〜6及び比較例1で製造された苦土肥料について、苦土成分の土壌中への浸透性を評価するため、以下に従って土壌溶液中のマグネシウム濃度を測定した。その結果を表4に示す。
【0028】
土壌溶液中のマグネシウム濃度の測定方法:苦土肥料につき、水溶性苦土分で1.2g相当量の苦土肥料を計量し、これを、上部開放、底部コック付きの円筒容器(直径65mm、高さ200mm)に詰めた淡色黒ボク土300g乾土の上層2cm部分に混合した。その後、1日毎に100mlの水を上部から底部に通水させた。5日目に通水した水を底部で回収し、原子吸光分析で分析し、土壌溶液中のマグネシウム濃度を測定した。
【0029】
【表1】

【0030】
【表2】

【0031】
【表3】

【0032】
【表4】

【産業上の利用可能性】
【0033】
本発明の苦土肥料は腐植酸肥料として利用できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
腐植酸又はその含有物と、水溶性マグネシウム塩とを含む粒状物からなることを特徴とする苦土肥料。
【請求項2】
腐植酸又はその含有物の塩基性マグネシウム含有物質による中和物と、水溶性マグネシウム塩とを含む粒状物からなることを特徴とする苦土肥料。
【請求項3】
腐植酸又はその含有物が天然腐植酸であることを特徴とする請求項1又は2記載の苦土肥料。
【請求項4】
腐植酸又はその含有物が若年炭と硝酸及び/又は硫酸との反応生成物であることを特徴とする請求項1又は2記載の苦土肥料。
【請求項5】
若年炭が草炭及び/又は亜炭であることを特徴とする請求項4記載の苦土肥料。
【請求項6】
水溶性マグネシウム塩が硫酸マグネシウム、硝酸マグネシウム、塩化マグネシウム及び酢酸マグネシウムから選ばれた少なくとも1種であることを特徴とする請求項1〜5記載のいずれかの苦土肥料。
【請求項7】
塩基性マグネシウム含有物質がマグネサイト、マグネシア、ドロマイト、蛇紋岩、ケイ酸マグネシウム及び水酸化マグネシウムから選ばれた少なくとも1種であることを特徴とする請求項2〜6記載のいずれかの苦土肥料。
【請求項8】
苦土肥料中の水溶性マグネシウムの含有率が酸化マグネシウムとして1〜15質量%であることを特徴とする請求項1〜7記載のいずれかの苦土肥料。
【請求項9】
苦土肥料の平均粒度が1〜5mmであることを特徴とする請求項1〜8記載のいずれかの苦土肥料。
【請求項10】
天然の腐植酸又はその含有物に水溶性マグネシウム塩を添加し、含水させた状態で造粒することを特徴とする苦土肥料の製造方法。
【請求項11】
天然の腐植酸又はその含有物に塩基性マグネシウム含有物質を加えて中和した後、水溶性マグネシウム塩を添加し、含水させた状態で造粒することを特徴とする苦土肥料の製造方法。
【請求項12】
若年炭と硝酸及び/又は硫酸との反応生成物に水溶性マグネシウム塩を添加し、含水させた状態で造粒することを特徴とする苦土肥料の製造方法。
【請求項13】
若年炭と硝酸及び/又は硫酸との反応生成物に塩基性マグネシウム含有物質を加えて中和した後、水溶性マグネシウム塩を添加し、含水させた状態で造粒することを特徴とする苦土肥料の製造方法。

【公開番号】特開2006−96628(P2006−96628A)
【公開日】平成18年4月13日(2006.4.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−286050(P2004−286050)
【出願日】平成16年9月30日(2004.9.30)
【出願人】(000003296)電気化学工業株式会社 (1,539)
【Fターム(参考)】