説明

茶花様香料組成物

【課題】茶花の香気の再現性が高く、かつ、優れた嗜好性を有する香料組成物を提供する。
【解決手段】(A)アセトフェノン、(B)リナロールオキサイド、(C)(S)−(−)−1−フェニルエチルアルコール及び(D)(R)−(+)−1−フェニルエチルアルコールを含有し、(C)及び(D)の合計含有量が0.05〜15質量%であり、その質量比(C/D)が1.5以上であることを特徴とする茶花様香料組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、茶花の香りを再現した香料組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
茶(学名:Camellia sinensis)はツバキ科ツバキ属の常緑樹で、アジアを中心にアフリカ、南アメリカなど広く栽培されている植物である。原産地は中国西南部、特に雲南省の最南端の「西双版納(シーサンパンナ)」と推定されている。
【0003】
古くから茶は、茶葉を煎じて飲むことにより、強心、利尿、眠気防止などの薬効を有することが知られ、現在では中国、日本をはじめ世界中で健康維持のために飲用されている。特に茶カテキンには、抗酸化能、抗菌作用、コレステロール上昇抑制作用、血圧上昇抑制作用、消臭作用、抗アレルギー作用、虫歯・口臭予防作用、整腸作用等の効果が知られている。
【0004】
近年、茶葉だけでなく、茶花についても注目がなされ、茶花の香気成分や茶花抽出物の脂質代謝作用や、抗肥満作用についても報告(非特許文献1、2参照)されてきている。また、茶花の有する爽やかな香気についても注目されてきており、香料組成物としてその再現が試みられている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特表2009−516016号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】第2回国際茶花シンポジウム抄録集、平成20年9月25日、p11〜12
【非特許文献2】第36回香料・テルペン及び精油化学に関する討論会講演要旨集(1992)p.14
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、その香気の再現性は低く、茶花の香気として、とても満足できるものではなかった。
従って、本発明の課題は、茶花の香気の再現性が高く、かつ、優れた嗜好性を有する香料組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、上記課題を解決するため茶花の香気成分について鋭意検討した結果、アセトフェノン、1−フェニルエチルアルコール、2−フェニルエチルアルコール等の主要な茶花香気成分のうち、1−フェニルエチルアルコールの光学異性体の存在が茶花本来の香気として重要な成分であることを見出した。そして、1−フェニルエチルアルコールの光学異性体である(S)−(−)−1−フェニルエチルアルコールと、(R)−(+)−1−フェニルエチルアルコールとを特定質量比で香料組成物中に含有させることで、茶花本来のミカンの花(オレンジフラワー)を想起させる香気を中心とし、バラ様の香りも感じられる花らしい香りを再現することができ、しかも嗜好性の高い香料組成物が得られることを見いだし、本発明を完成させた。
【0009】
すなわち、本発明は、(A)アセトフェノン、(B)リナロールオキサイド、(C)(S)−(−)−1−フェニルエチルアルコール及び(D)(R)−(+)−1−フェニルエチルアルコールを含有し、(C)及び(D)の合計含有量が0.05〜15質量%であり、その質量比(C/D)が1.5以上であることを特徴とする茶花様香料組成物を提供するものである。
【0010】
また、本発明は、上記茶花様香料組成物を含有する香粧品又は食品を提供するものである。
【発明の効果】
【0011】
本発明の茶花様香料組成物は、従来得ることのできなかった茶花本来の香気を彷彿させ、優れた嗜好性を有する香料組成物である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
茶はツバキ科ツバキ属の常緑樹で、アジアを中心にアフリカ、南アメリカなど広く栽培されている植物である。茶の分類方法は種々あるが、Sealyの分類によれば、中国種(var.sinensis)とアッサム種(var.assamica)とに大別される。本発明においては、茶花として中国種の1種であるサヤマカオリ種、ヤブキタ種、中国雲南省西双版納の原木種の茶花を適宜用いた。これらの茶花は、ミカンの花を想起させる香気を中心に、バラ様の香りを一部に感じられる花らしい、爽やかでリフレッシュ感のある香気を有する。
【0013】
本発明で用いる1−フェニルエチルアルコール(別名:α―フェニルエチルアルコール)には、光学異性体である(S)−(−)−1−フェニルエチルアルコールと、(R)−(+)−1−フェニルエチルアルコールとが存在する。それぞれの化学構造式を式(1)、式(2)として次に記す。
【0014】
【化1】

【0015】
【化2】

【0016】
これらの(±)−1−フェニルエチルアルコール、(S)−(−)−1−フェニルエチルアルコール及び(R)−(+)−1−フェニルエチルアルコールは、それぞれ一般に市販されており、例えばシグマ・アルドリッチ社から入手することができる。また、市販品の(±)−1−フェニルエチルアルコールは、その合成方法から、(S)−(−)−1−フェニルエチルアルコールと、(R)−(+)−1−フェニルエチルアルコールとが等量ずつ含有されているラセミ体である。
【0017】
本発明の茶花様香料組成物においては、1−フェニルエチルアルコールの光学異性体の存在が茶花本来の香気として重要であり、特に(S)−(−)−1−フェニルエチルアルコール〔C〕と、(R)−(+)−1−フェニルエチルアルコール〔D〕が、組成物中に質量比〔C/D〕として1.5以上の割合で存在させることが重要である。好ましくは、前記質量比〔C/D〕は、1.5〜19であり、より好ましくは1.8〜9であり、さらに好ましくは2〜4である。当該範囲内であれば、茶花本来の香気を彷彿させ、嗜好性も高いため、好ましい。
【0018】
本発明の茶花様香料組成物において、前記(C)(S)−(−)−1−フェニルエチルアルコール及び(D)(R)−(+)−1−フェニルエチルアルコールの茶花様香料組成物中おける合計含有量は、0.05〜15質量%であり、好ましくは0.1〜10質量%、より好ましくは0.5〜8質量%である。0.05質量%未満では、茶花本来の香気を十分に再現できず、15質量%を超えると、1−フェニルエチルアルコール自体が香りの主体となってしまい、茶花様香料組成物とは言えなくなる。
【0019】
本発明の茶花様香料組成物においては、茶花の香気の再現性の点から、茶花の香気の主成分である(A)アセトフェノン及び(B)リナロールオキサイドを含有する。ここで(A)アセトフェノンの茶花様香料組成物中における含有量は、茶花香気の再現性の点から、40〜90質量%が好ましく、さらに50〜80質量%が好ましい。
【0020】
(B)リナロールオキサイドには、その異性体である(±)シス及び/又はトランス−2−メチル−2−ビニル−5−(2−ヒドロキシ−2−プロピル)テトラヒドロフラン(cis,trans-2-methyl-2-vinyl-5-(2-hydroxy-2-propyl)tetrahydrofuran;フラノイド体ともいう)及び(II)シス及び/又はトランス−2,2,6−トリメチル−6−ビニルテトラヒドロ−2H−ピラン−3−オール(cis,trans-2,2,6-trimethyl-6-vinyltetrahydro-2H-pyran-3-ol;ピラノイド体ともいう)が含まれる。リナロールオキサイドの茶花様香料組成物中の含有量は、茶花香気の再現性の点から、合計で0.1〜4質量%が好ましく、さらに0.2〜2質量%が好ましい。なお、フラノシド体とピラノシド体は、質量比で1:2〜2:1、特に1:1の割合で含まれるのが好ましい。
【0021】
また本発明の茶花様香料組成物には、(E)1,3,5−トリメトキシベンゼンを含有するのが好ましい。(E)1,3,5−トリメトキシベンゼンは、中国四川省を中心に植生しているコウシンバラの野生種で、ロサ・キネンシス・スポンタネア(Rosa chinensis var.spontanea)の香気成分に多く含まる、爽やかなバラ様の香りを有する成分である。この成分が茶花中に含有されていることを本発明者はガスクロマトフィーによる分析結果から初めて見出した。該(E)成分を本発明の茶花様香料組成物に添加することで、ほのかなバラ様の香りが感じる香気が得られ、茶花本来の香気の再現性が高まるため、好ましい。(E)成分の茶花様香料組成物中の含有量は、0.5〜10質量%が好ましく、特に1〜6質量%が好ましい。
【0022】
本発明の茶花様香料組成物は、さらに、(F)β−フェニルエチルアルコール、ベンジルアルコール、リナロール、シス−3−ヘキセニルアセテート、シス−3−ヘキセノール、ジヒドロキシ−β−イオノン、アルデヒドC−8(オクタナール)及びアルデヒドC−9(ノナナール)から選ばれる1種又は2種以上を含有するのが好ましい。また、成分(F)のうち全てを含有するのがより好ましい。本発明の茶花様香料組成物は、さらに(G)ゲラニルアセトン、リモネン、アルデヒドC−10(デカナール)、オイゲノール、β−イオノン及びメチルサリチレートから選ばれる1種又は2種以上を含有するのが好ましい。また成分(G)のうち全てを含有するのが好ましい。
【0023】
本発明の茶花様香料組成物における上記成分(F)及び(G)の好ましい含有量を、下記表1に記載する。当該範囲であれば、茶花本来の香気を彷彿させ、嗜好性も高く、好ましい。
【0024】
【表1】

【0025】
本発明の茶花様香料組成物には、必要により、エタノール等のアルコール類、プロピレングリコール、グリセリン等の多価アルコール類などの溶剤を配合することができる。また、本発明の香気を妨げない範囲において、保留剤・保香剤、エンハンサー、冷感剤、温感剤、乳化剤、酸化防止剤、増粘剤、保存料、防黴剤などを配合することもできる。
【0026】
本発明の茶花様香料組成物は、香水、コロン、化粧水、クリーム、乳液、ファンデーション、化粧下地料、頬紅、口紅等の香粧品として好適に用いることができる。また、本発明の茶花様香料組成物は、極めて汎用性が高く、香粧品以外に飲料、デザート、冷菓、菓子、調味料等の食品にも用いることができる。
【0027】
本発明の茶花様香料組成物の香粧品又は食品への添加量は、対象とする香粧品や食品の種類や賦香性により一概には規定することができないが、一般的に化粧料への添加量としては0.0001〜30質量%であり、好ましくは0.1〜20質量%の範囲である。また、一般的に食品への添加量としては、0.0001〜10質量%であり、好ましくは0.001〜1質量%の範囲である。
【実施例】
【0028】
以下、実施例及び比較例を挙げて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は下記実施例に制限されるものではない。尚、各成分の量は、質量%である。
【0029】
実施例1〜8、比較例1〜6
表2及び表3の香料組成物からなる茶花様香料組成物を製造した。得られた実施例及び比較例について、茶花の香気を想起させるか否かを官能評価した。評価方法及び評価点に示す。また、参考例及び比較例6は下記のようにして製造した。
【0030】
参考例
摘んだ直後の茶花100gを密閉ガラス容器に入れ、そこに窒素ガスを導入し、出口から流出してくる気体を、液体窒素中で捕集し、液状の茶花の香気成分を約0.2mg得た。
【0031】
比較例6
茶花300gをヘキサン溶液1Lで1時間浸漬し、その後、デカンテーションして花を除去した。残ったヘキサン溶液を蒸留し、乾燥固化させて茶花抽出物3gを得た。得られた茶花抽出物にエチルアルコール100gを加え、加熱して完全溶解させた後、冷却濾過して固形分を除去した。残ったエチルアルコールを蒸留して除き、茶花の香気(アブソリュート)成分約0.5gを得た。
【0032】
(評価方法)
参考例の茶花の香気と実施例及び比較例の香料組成物との匂いの対比を、専門パネラー5名による官能評価により行った。茶花の香気(参考例)のミカンの花(オレンジフラワー)を想起させる香気を中心とし、バラ様の香りも感じられる花らしい香りの特徴が表現されているかを、下記評価点による合計点として表2及び表3に合わせて示す。
(評価点)
5点:非常に茶花の香りの特徴が表現され、似ている。
4点:茶花の香りの特徴が表現され、似ている。
3点:茶花の香りを認める。
2点:すこし茶花の香りを認める。
1点:類似するところなし。
【0033】
【表2】

【0034】
【表3】

【0035】
表2及び表3から、(C)(S)−(−)−1−フェニルエチルアルコールと(D)(R)−(±)−1−フェニルエチルアルコールとの含有比(C/D)を1.5以上にすると良好な茶花様香気が再現できることがわかる。
【0036】
実施例9 茶花様香料組成物
(成 分) (質量%)
(S)−(−)−1−フェニルエチルアルコール 0.4
(R)−(+)−1−フェニルエチルアルコール 0.2
アセトフェノン 60.0
リナロールオキサイド(フラノシド) 0.3
リナロールオキサイド(ピラノシド) 0.3
1,3,5−トリメトキシベンゼン 4.0
β−フェニルエチルアルコール 0.2
ベンジルアルコール 0.1
リナロール 0.2
シス−3−ヘキセニルアセテート 0.02
シス−3−ヘキセノール 0.01
β−イオノン 0.4
ジヒドロキシ−β−イオノン 0.1
アルデヒドC−8 0.1
アルデヒドC−9 0.1
アルデヒドC−10 0.1
ゲラニルアセトン 1.0
リモネン 0.01
オイゲノール 0.05
メチルサリチレート 0.05
トリエチルシトレート 残 量
合計 100.0
【0037】
実施例9に示す茶花様香料組成物は、参考例の茶花香気に極めて類似した香気を有し、リフレッシュ感のある嗜好性の高い香気を有している。
【0038】
実施例9の茶花様香料組成物を用いた、下記処方のフローラル系調合香料処方を示す。
【0039】
(成 分) (質量%)
ベルガモットオイル 2.0
リナリールアセテート 1.5
メチルアンスラニレート 0.2
ペチグレインオイル 0.5
オーランチオール 10%DPG 1.0
アミルアリルグリコレート 1%DPG 0.5
ガルバナムオイル 1%DPG 0.1
ブラックカラントバズアブソリュート 10%DPG 1.5
タジェットオイル 10%DPG 0.8
イランイランオイルエキストラ 2.0
ベンジールアセテート 5.0
メチルジヒドロジャスモネート 13.0
シスジャスモン 10%DPG 1.0
ジャスミンアブソリュート 0.5
インドール 5%DPG 0.5
アルファヘキシルシンナミックアルデヒド 1.5
L−シトロネロール 0.5
ローズオイル 0.5
ローズアブソリュート 0.5
ダマセノン 1%DPG 0.5
L−ローズオキサイド 1%DPG 0.5
ジメチルベンジルカーボニルアセテート 1.0
ヒドロキシシトロネラール 3.0
リラール 3.5
シクラメンアルデヒド 0.5
アルファイソメチルヨノン 4.0
オリスコンクリート 10%DPG 0.8
メチルオイゲノール 0.5
イソEスーパー 2.5
ベルトフィックスクール 4.0
ベチバーアセテート 2.0
サンダルウッドオイル 1.5
バグダノール 10%DPG 1.0
パチュリーオイル 10%DPG 0.2
エベルニール 10%DPG 1.5
ガラクソリッド 50%ベンジールベンゾエート 10.0
シクロペンタデカノリッド 4.0
ヘリオトロピン 0.5
クマリン 0.5
バニリン 10% 0.5
エチルバニリン 10% 2.5
ラズベリーケトン 10% 0.5
ガンマウンデカラクトン 10% 1.5
ガンマデカラクトン 10% 1.5
ラブダナム アブソリュート 10% 0.5
ジプロピレングリコール 残 量
茶花様香料組成物 10.0
計 100.0
【0040】
実施例8の茶花様香料組成物を用いた下記処方のスキンローション処方を示す。
【0041】
(成 分) (質量%)
(アルコール相)
95%エチルアルコール 15.0
ポリオキシエチレン(60E.O.)硬化ヒマシ油 2.0
パラオキシ安息香酸メチル 0.05
茶花様香料組成物 0.01
(水相)
グリセリン 5.0
クエン酸ナトリウム 適 量
精製水 残 量
合計 100.0
【0042】
(製造方法)
水相、アルコール相を各々均一に溶解し、水相とアルコール相とを混合攪拌分散して可溶化を行い、次いで容器に充填する。使用時には内容物を均一になるよう振って使用する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)アセトフェノン、(B)リナロールオキサイド、(C)(S)−(−)−1−フェニルエチルアルコール及び(D)(R)−(+)−1−フェニルエチルアルコールを含有し、(C)及び(D)の合計含有量が0.05〜15質量%であり、その質量比(C/D)が1.5以上であることを特徴とする茶花様香料組成物。
【請求項2】
質量比(C/D)が1.5〜9である請求項1記載の茶花様香料組成物。
【請求項3】
(A)アセトフェノンを40〜90質量%、(B)リナロールオキサイドを0.1〜4質量%含有する請求項1又は2記載の茶花様香料組成物.
【請求項4】
さらに、(E)1,3,5−トリメトキシベンゼンを含有する請求項1〜3のいずれか1項記載の茶花様香料組成物。
【請求項5】
さらに(F)β−フェニルエチルアルコール、ベンジルアルコール、リナロール、シス−3−ヘキセニルアセテート、シス−3−ヘキセノール、ジヒドロキシ−β−イオノン、アルデヒドC−8及びアルデヒドC−9から選ばれる1種又は2種以上を含有する請求項4に記載の茶花様香料組成物。
【請求項6】
さらに(G)ゲラニルアセトン、リモネン、アルデヒドC−10、オイゲノール、β−イオノン及びメチルサリチレートから選ばれる1種又は2種以上を含有する請求項5に記載の茶花様香料組成物。
【請求項7】
請求項1〜6の何れか1項に記載の茶花様香料組成物を含有する香粧品又は食品。

【公開番号】特開2011−252038(P2011−252038A)
【公開日】平成23年12月15日(2011.12.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−124851(P2010−124851)
【出願日】平成22年5月31日(2010.5.31)
【出願人】(000000918)花王株式会社 (8,290)
【出願人】(390019460)稲畑香料株式会社 (22)
【Fターム(参考)】