説明

茶飲料及びその製造方法

【課題】花香成分であるホトリエノールが加熱殺菌後も一定量保持されている茶飲料及びその製造方法を提供する。
【解決手段】


で表される3,7−ジメチルオクタ−1,5,7−トリエン−3−オール(ホトリエノール)を10ppb以上、およびアスコルビン酸類を100〜800ppm含有し、非重合カテキン類の含有量が500ppm以下である茶飲料。該茶飲料は、大紅袍の抽出物を含むものであり、調製後に加熱殺菌を行い、容器に充填する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、3,7−ジメチルオクタ−1,5,7−トリエン−3−オール(「ホトリエノール」と呼称されることもある)とアスコルビン酸類とを含有する茶飲料及びその製造方法に関する。より詳細には、アスコルビン酸類を添加することによって、花香成分であるホトリエノールが加熱殺菌後も一定量保持されていることを特徴とする、茶飲料及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
茶はアジアを中心に世界各国に広く栽培され、コーヒー、ココアと並び三大非アルコール性嗜好飲料として世界中で広く飲用されている。茶飲料は無糖であるうえに、抗酸化作用や抗癌作用などに代表される健康保持機能を有しており、近年の健康ブームにあいまってその需要の伸びは著しいものがある。
【0003】
お茶は不発酵茶(緑茶)、発酵茶(紅茶)、半発酵茶(ウーロン茶等)の三つに大別される。これらはいずれも、ツバキ科ツバキ属の茶樹(学名:Camellia sinensis)の葉を原料とするものであるが、原料茶葉の加工方法、主に酸化発酵させる程度の違いによって全く違った色、香、味のお茶になる。
【0004】
ウーロン茶の特徴の一つは、重厚な花の香り(花香)にある。味覚として舌で感じる味のみではなく,嗅覚として鼻で感じる香気成分は,半発酵茶飲料の美味しさを構成する要素として大いに貢献している。この花香は、リナロール、ゲラニオール、ネロリドールなどのテルペン系アルコール、ジャスミンラクトン、メチルジャスモネート、シス−ジャスモン、インドールなどの香気成分で構成されていると言われている。
【0005】
近年、嗜好性の高まりから、上記花香成分を多く含む茶飲料が開発されている。例えば特許文献1には、原料茶を25℃以下でpHを4〜6に調整した冷温水と30秒〜3分未満接触させることにより、原料茶からカフェインを11〜26%溶出除去して処理済茶を回収する冷温水処理工程と、ビタミンCを添加すると共にpH4〜6に調整してなる90〜95℃の熱水で、処理済茶を10〜15分抽出して、ネロリドールを含む抽出液を回収する熱水抽出工程とを備えたウーロン茶飲料の製造方法が開示され、この方法で得られるウーロン茶飲料がネロリドールを高濃度で含むことが記載されている。この文献には、熱水抽出工程でビタミンCを添加することにより、熱水抽出時の液劣化を防ぐことができることが記載されている。
【0006】
また、芳樟の葉の抽出物を含有するハーブティーについて、香りがフレッシュなグリーンノートであること、リナロールを主とする精油成分を含有することが記載されている(特許文献2)。
【0007】
特許文献3は、3,7−ジメチルオクタ−1,5,7−トリエン−3−オール(「ホトリエノール」と呼称されることもある)を含有する、香料組成物、及びこれを添加した紅茶飲料を記載している。
【0008】
一方、茶の香気成分について、例えば非特許文献1には、上記の花香の他、種々の香気成分に関する詳細な記述がなされているが、ホトリエノールについては何ら開示されていない。また、非特許文献2には、製茶工程中の加熱により、ジオールがホトリエノールに変換されることが記載されているが、ホトリエノールを含有する飲料については、何ら開示されていない。ホトリエノールの香料成分としての利用については、特許文献3に記載があるのみである。
【特許文献1】特開2004−248672号公報
【特許文献2】特開平10−84922号公報
【特許文献3】特開2000−192073号公報
【特許文献4】特開2004−107207号
【非特許文献1】茶の香り研究ノート(第VI章、烏龍茶の香気)、川上美智子著、光生館、2000年11月
【非特許文献2】平成17年度第8回宇治茶健康フォーラム「緑茶と健康」講演要旨集、p3-20
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上記したとおり、ホトリエノールを含有する飲料については、ほとんど報告がない。本発明者らは、市販されている種々の容器詰茶飲料について香気成分の分析を行ったが、ホトリエノールを含有するものは見出されなかった。
【0010】
本発明者らは、種々の茶葉の熱水抽出物について、その香りと味について評価したところ、大紅袍の熱水抽出物が、他の茶葉抽出物と比べて芳醇で重厚かつ特有の花香を有すること、そしてこの花香がホトリエノールに由来するとの知見を得た。そこで、ホトリエノールを含有するウーロン茶飲料を、好ましくは容器詰飲料として得るべく開発を行ったところ、ホトリエノールに耐熱性がないという問題に直面した。特に、容器詰飲料とするには、通常、加熱殺菌工程を経るため、耐熱性を向上させることが必要である。
【0011】
本発明は、芳醇な花香を有するホトリエノールを含有する茶飲料を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討を行った結果、ホトリエノールを含有する茶飲料について検討を行った結果、アスコルビン酸類を添加することで、ホトリエノールを含有する飲料の加熱殺菌時におけるホトリエノールの減少を抑制できることを見出した、本発明を完成するに至った。
【0013】
本発明は好ましくは以下の態様を含む。
[態様1] 下記式(1)
【0014】
【化1】

【0015】
で示される3,7−ジメチルオクタ−1,5,7−トリエン−3−オールとアスコルビン酸類を含有し、前記3,7−ジメチルオクタ−1,5,7−トリエン−3−オールの含量が10ppb以上である、茶飲料。
[態様2] アスコルビン酸類の含有量が、100ppm〜800ppmである、態様1に記載の茶飲料。
[態様3] 大紅袍の抽出物を含む、態様1又は2に記載の茶飲料。
[態様4] 非重合カテキン類の含有量が500ppm以下である、態様1〜3のいずれか1項に記載の茶飲料。
[態様5] 茶葉の一部又は全部がウーロン茶である、態様1〜4に記載の茶飲料。
[態様6] 下記工程(1)〜(4)
(1)茶葉を85〜94℃の熱水で3〜5分抽出して、3,7−ジメチルオクタ−1,5,7−トリエン−3−オールを含む抽出液を得る工程;
(2)前記抽出液にアスコルビン酸類を添加して調合液を得る工程;
(3)前記調合液を加熱殺菌する工程;及び
(4)前記殺菌液を容器に充填する工程;
を含む、茶飲料の製造方法。
[態様7] 茶葉の一部又は全部が大紅袍である、態様5に記載の茶飲料の製造方法
[発明を実施するための形態]
茶飲料
本発明の茶飲料は、ホトリエノール(Hotrienol)とアスコルビン酸類を含有し、前記ホトリエノールの含量が10ppb以上であることを特徴とする。
【0016】
(ホトリエノール)
本明細書におけるホトリエノールとは、下記式(1)
【0017】
【化2】

【0018】
で示される3,7−ジメチルオクタ−1,5,7−トリエン−3−オールを表す。ホトリエノールには、下記式(i)で示される(3R)−(−)−3,7−ジメチル−1,5(E),7−オクタトリエン−3−オール(以下、「(3R)−(−)体」という)と、下記式(ii)で示される(3S)−(+)−3,7−ジメチル−1,5(E),7−オクタトリエン−3−オール(以下、「(3S)−(+)体」という)の光学活性体が存在するが、本発明の飲料に配合されるホトリエノールとしては、これらいずれのものであってもよく、単独でも任意の割合で混合された混合物であってもよい。
【0019】
【化3】

【0020】
上記式(i)の(3R)−(−)体は、優雅で甘い花香のなかに新鮮なグリーン調香気を有するものであり、芳樟葉油中に微量成分として含有されており、該芳樟葉油から分留およびクロマトグラフィにより単離することができる(Agr. Biol. Chem., 33, 343 (1969))。また、上記式(ii)の(3S)−(+)体は、芳醇な甘い花香のなかに柑橘果汁様香気を有するものであり、ブラックティーの精油等から単離することができる(Agr. Biol. Chem., 33, 967 (1969))。
【0021】
本発明の茶飲料には、このような天然物から公知の方法で抽出したホトリエノールの濃縮物又は精製物を用いることもできるし、抽出物そのもの、例えばホトリエノール含有茶葉抽出液をそのまま用いることもできる。
【0022】
さらに、本発明の茶飲料には、上記の天然物由来のホトリエノールの他、合成品を用いることもできる。限定されるわけではないが、ホトリエノールの合成方法としては、例えば特開2004−107207号公報や特開2000−192073号公報に記載の方法が例示できる。
【0023】
このような天然物由来又は合成されたホトリエノールは、上記したとおり、茶抽出液として、あるいは香料などの添加剤として配合される。
本発明の茶飲料におけるホトリエノールの含有量は、10ppb以上、より好ましくは15ppb以上である。これは、ホトリエノールを10ppb以上含有すると、華やかで芳醇かつ重厚な花香を有し、従来にない香気を持つ茶飲料が得られるからである。
【0024】
(アスコルビン酸類)
本明細書におけるアスコルビン酸類とは、アスコルビン酸、その異性体、それらの誘導体及びそれらの塩の中の1種又は2種以上をいう。本発明のアスコルビン酸類としては、飲料へ配合できるものであればいずれのものも用いることができる。具体的には、アスコルビン酸;エリソルビン酸等のアスコルビン酸の異性体;アスコルビン酸2,6−ジパルミテート、アスコルビン酸6-ステアレート、アスコルビン酸−2リン酸ナトリウム、アスコルビン酸−2硫酸2ナトリウム、アスコルビン酸2-グルコシド、アスコルビン酸グルコサミン、L-デヒドロアスコルビン酸、アスコルビン酸6-パルミテート、テトライソパルミチン酸L-アスコルビン、テトラ2−ヘキシルデカン酸アスコルビル、リン酸L-アスコルビルマグネシウム等のアスコルビン酸の異性体の誘導体;及びナトリウム、カリウム等のアルカリ金属との塩;カルシウム、マグネシウム、バリウム等のアルカリ土類金属との塩;アルギニン、リジン等の塩基性アミノ酸塩;アンモニウム塩、トリシクロヘキシルアンモニウム塩等のアンモニウム塩;モノイソプロパノールアミン塩、ジイソプロパノールアミン塩、トリイソプロパノールアミン塩等のアルカノールアミン塩等のアスコルビン酸及びその誘導体の塩が例示できる。なかでも、アスコルビン酸、エリソルビン酸及びこれらの塩、更に好ましくはアスコルビン酸ナトリウム、及びエリソルビン酸ナトリウムが好適に用いられる。
【0025】
本発明の茶飲料は、ホトリエノールを含有する飲料において、加熱殺菌時にホトリエノールが減少するという新しい技術課題を、アスコルビン酸類を配合することにより解決することができるという知見に基づくものである。これまでに、香気成分の耐熱性がアスコルビン酸類により向上するという知見はなく、また本発明者らの検討によると、香気成分の耐熱性は種々異なるので、ホトリエノールの耐熱性をアスコルビン酸類が向上することは驚くべき知見である。
【0026】
限定されるわけではないが、アスコルビン酸は、飲料全体に対し、100ppm以上、好ましくは300ppm以上、より好ましくは400ppm以上配合することで、ホトリエノールの耐熱性を向上させる作用を発揮する。アスコルビン酸類を100ppm以上配合すれば、その配合量に実質的な上限は存在しないが、配合量が多すぎると、アスコルビン酸類の呈味が飲料の香味に影響を及ぼすことがあることから、通常、その上限は、1000ppm、好ましくは800ppm程度である。
【0027】
(本発明の茶飲料のその他の好ましい特徴)
茶原料茶葉は、Camellia属、例えばC.sinensis、C.assamica又はそれらの雑種から製茶されて得られる。原料茶は、茶種などを問わず、茶用に荒茶加工を終えた緑茶葉、ウーロン茶葉、紅茶葉を用いることができる。ただし花香を多く含む品種を用いるのが好ましい。又、異なる品種をブレンドして用いてもよいし、仕上げ加工がされた茶を使用することも可能である。
【0028】
また、本発明の茶飲料は、花香を多く含むウーロン茶葉を、好ましくは大紅袍の抽出物を含むことが好ましい。特に原料茶葉として大紅袍のみを用いたウーロン茶飲料は、液色が薄茶色で、芳醇で強い花香・キレのある味を有するという特徴がある。従来のウーロン茶飲料は、液色は茶で火香が強くすっきりした味のものや、液色が黄緑色でその香りは青香をメインに花香を有するが緑茶に近い味がするものがほとんどであったから、上記の大紅袍のみを用いたウーロン茶飲料は、液色においてもその香味においても新規な飲料といえる。特に、透明容器(例えば、瓶やペットボトル等)に充填すると、見た目にも新しい飲料として提供できる。具体的には、褐色域(420nm)における吸光度(OD420)が、0.55〜0.85、好ましくは0.60〜0.80程度のウーロン茶飲料である。
【0029】
大紅袍は、日本で広く飲まれている烏龍茶の原点、中国福建省・武夷山とその近郊で作られる「武夷岩茶」の中でも、特に品質がよく「茶王」と称される茶葉品種である。その味わいは「岩韻」と呼ばれ岩のように力強く、奥深くバランスの良い香味、花のように香る余韻が特徴である。大紅袍は、荒茶加工を終えた茶葉を用いてもよいし、仕上げ加工された、市販の茶葉を用いてもよい。
【0030】
また、限定されるわけではないが、本発明の茶飲料においては、非重合カテキンが500ppm以下、好ましくは450ppm以下となるように非重合カテキン量を制御するのが好ましい。これは非重合カテキンが、渋味を呈する成分であり、含有量が多くなると飲料の渋味が強くなり、また特徴であるホトリエノールの華やかな香りに影響を及ぼすことがあるからである。なお、本明細書における非重合カテキンとは、カテキン、ガロカテキン、エピカテキン、エピガロカテキン、カテキンガレート、エピカテキンがレート、ガロカテキンガレート、エピガロカテキンガレートの総称をいう。
【0031】
さらに、本発明の茶飲料において、ホトリエノール以外に、以下の香気成分を含有すると、その花香が相加的又は相乗的に強められ、より嗜好性に優れた飲料となる。その香気成分としては、リナロール、ネロリドール等が挙げられる。リナロールとは、スズラン様のさわやかな甘い香りを有する成分であり、緑茶にも多く含まれる成分である。ネロリドールはリンゴ様の青っぽくフレッシュで甘い香りを有する成分である。
【0032】
本発明の飲料は特に、香りの観点から茶飲料が好ましく、特に美味しさの因子として香りが重要視されるウーロン茶飲料がより好ましい。ただし、ホトリエノールを含有する飲料において、加熱殺菌時にホトリエノールが減少するという新しい技術課題を、アスコルビン酸類を配合することにより解決することができるという知見は、本発明によって初めて見出されたものである。よって、本発明の技術的思想は、飲料の種類を問わず、茶飲料、清涼飲料、スポーツドリンク、栄養ドリンク、炭酸飲料等、どのようなものにも利用できる。
【0033】
加熱殺菌時にホトリエノールが減少するという課題を解決するためにアスコルビン酸類を配合するという本発明の技術的思想は、容器詰飲料の製造の際に特に有用である。よって、本発明のウーロン茶飲料は、限定されるわけではないが、好ましくは容器詰されている。容器の種類も限定されず、紙パック、缶、瓶、ペットボトル等どのようなものを用いてもよい。
【0034】
茶飲料の製造方法
本発明はまた、茶飲料の製造方法を提供する。
本発明の茶飲料の製造方法は、
下記工程(1)〜(4)
(1)茶葉を85〜94℃の熱水で3〜5分抽出して、ホトリエノールを含む抽出液を得る工程;
(2)前記抽出液にアスコルビン酸類を添加して調合液を得る工程;
(3)前記調合液を加熱殺菌する工程;及び
(4)前記殺菌液を容器に充填する工程;
を含む。
【0035】
上記茶葉の製茶方法としては、一般的には上記原料葉を日干し及び陰干し(萎調)した後、竹かごなどの内部で茶葉を揺すって酸化発酵させ、酸化発酵が30%〜70%程度まで進んだところで釜での加熱処理により発酵を止め、その後揉捻、熱風乾燥などを施す。上記製造工程を経た原料茶葉は総称してウーロン茶と呼ばれ、品種は鉄観音、色種、黄金桂、武夷岩茶などが挙げられる。
【0036】
これら茶葉について、その選定を行う。色は茶褐色〜褐色であり、花のような香りを有する茶葉を選択する。
本発明者らの検討によると、ホトリエノールは一般に上質なウーロン茶葉に含まれると言われている香気成分であり、多く含む茶葉の一つとしては、大紅袍が挙げられる。よって、本発明の好ましい態様において、茶葉の一部又は全部が大紅袍である。選択した原料茶葉にホトリエノールが含まれない場合は、大紅袍をブレンドしたり、原料茶葉の抽出液に、大紅袍の抽出液(濃縮物又は精製物を含む)を添加して混合することで、ホトリエノールの芳醇で重厚な香気を付与した茶飲料とすることができる。なお、ホトリエノールを含有する茶葉としてブラックティーも例示できるが、その含量は低く、抽出物の形態で所望する量のホトリエノールを配合しようとすると、苦渋味成分までもが多く配合されることになることから、ホトリエノールを含有する好ましい茶葉は大紅袍である。
【0037】
次に、上記茶葉を攪拌抽出等により熱水抽出する。抽出時の水に予めアスコルビン酸ナトリウム等の有機酸または有機酸塩類を添加しても良い。上記抽出工程において、抽出に使用する熱水の温度は、好ましくは85℃〜94℃程度である。これは抽出温度が低すぎると原料茶の香気成分が良く抽出されず、また抽出温度が高すぎると苦渋み成分までもが多く抽出されてしまうからである。特に、大紅袍の熱水抽出液は、上記温度範囲で抽出することにより、ホトリエノールを高濃度で含む抽出液を得ることができる。
【0038】
茶葉と温水の混合比は、好ましくは1:15〜1:40程度であるが、これに限定されず、茶葉の種類、冷水の温度、目的とする茶飲料の風味などによって、適宜調節してよい。
【0039】
次いで、得られた抽出液を冷却した後に濾過を行う。濾過の方法としては遠心分離機、金属メッシュ、ネル布、珪藻土、セラミック膜などが用いられる。
上記濾過液に、必要に応じアスコルビン酸類を添加して調合液とし、加熱殺菌処理を行う。アスコルビン酸類は、調合液中、100ppm以上、好ましくは300ppm以上、より好ましくは400ppm以上の濃度となるように添加する。加熱殺菌処理は、公知の方法を用いて行うことができる。例えば缶飲料とする場合には、上記調合液を缶に所定量充填し、レトルト殺菌(例えば、1.2mmHg、121℃、7分)を行い、ペットボトルや紙パック、瓶飲料とする場合には、例えば120〜150℃で1〜数十秒保持するUHT殺菌等を行う。
【0040】
このようにして得られるホトリエノールを含有するウーロン茶飲料は、ホトリエノールと茶由来の成分とがあいまって、その香気がより芳醇かつ重厚なものになる。したがって、ホトリエノールは茶抽出液とともに配合されることが好ましく、この方法としては、例えば原料茶葉として大紅袍を用いて茶飲料を製造する方法、或いは大紅袍以外の茶葉の抽出液に大紅袍の抽出液(濃縮物又は精製物を含む)を混合して茶飲料を製造する方法等が挙げられる。この大紅袍を用いて製造された茶飲料でホトリエノールを10ppb以上含有する飲料は、芳醇かつ重厚な香気を有することから、香料を添加せずとも、十分に香りを楽しめる飲料として提供できる。
【実施例】
【0041】
以下実施例により、本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
実施例1.ホトリエノールの耐熱性
(サンプル作成方法)
原料茶(武夷岩茶;大紅袍)50gを、90℃の熱水1000ccに、5分間撹拌しながら抽出し、抽出液を回収した。得られた抽出液を、粗濾過後20℃以下に冷却し、遠心分離による濾過を行った後、ビタミンC(VC;L-アスコルビン酸)を以下に示す濃度となるようそれぞれ添加し、各サンプルのpHが6.0程度になるよう重曹を添加して調整した。飲用濃度であるBX0.3程度まで加水した後、190g缶にホットパック充填し、サンプル2〜4については125℃5分のレトルト殺菌を行った。
【0042】
サンプル1 0ppm(未殺菌)
サンプル2 0ppm(殺菌)
サンプル3 400ppm(殺菌)
サンプル4 4000ppm(殺菌)
(ホトリエノールの定量)
サンプル1〜4について、ホトリエノール含量を以下の方法にて測定した。なお、ホトリエノールの標準物質とは公知の合成法により合成されたもの(ホトリエノール0.1%含有アルコール)を用いた。
【0043】
<サンプルの前処理>
試料(20mL)をExtrelut20に吸着させ60mLのジクロロメタンで香気成分を抽出し、35℃-450mmHg下で1mLまで減圧濃縮した。
【0044】
<GC装置・分析条件>
・機種:Agilent社製 6890N(GC)+5973(MS)
・カラム:HP-INNOWAX(30m×0.25mm×0.5μm)
・カラム温度:40℃(5min)-10℃/min昇温-250℃(40min)
・注入口温度:250℃
・注入量:1μL
・キャリアガス:He(1.2mL/min一定流量)
・注入方法:Pulsed splitless
ホトエリノールは、サンプル1(未殺菌)で20ppbであった。サンプル2〜4のホトエリノール含量を、サンプル1(未殺菌)のホトエリノール含量を100%とした際の残存量として算出した。その結果を図1に示す。図1より明らかなとおり、ホトリエノールは耐熱性に欠け、殺菌処理により47%減少したが、アスコルビン酸を400ppm以上添加することで、その減少を顕著に抑制することができた。飲用して評価したが、サンプル1〜4のいずれも芳醇で重厚な強い花香を有し、キレのある味わいであった。特に、サンプル1及びサンプル3、4は、著しく豊かな花香を有するものであった。
【0045】
なお、サンプル1〜4はいずれも液色が薄茶色のウーロン茶飲料であった。この褐色域(420nm)における吸光度(OD420)を吸光度(島津製作所、UV−1600)で測定したところ、0.65〜0.70程度であった。

実施例2.ウーロン茶飲料の製造
原料茶(武夷岩茶;大紅袍)50gを、90℃の熱水1000ccに、5分間撹拌しながら抽出し、抽出液を回収した。得られた抽出液を、粗濾過後20℃以下に冷却し、遠心分離による濾過を行った後、VC及び炭酸水素ナトリウムを添加してpH6.0に調整すると共に、飲用濃度であるBX0.3程度まで加水し、140℃15秒間の殺菌を行って82℃にて瓶に充填し、ウーロン茶飲料を得た。
【0046】
得られたウーロン茶飲料について、下記の方法により、非重合カテキン含量を分析するとともに、ウーロン茶飲料の香味を評価した。
(呈味成分の分析条件)
非重合カテキン:Gotoらの方法(T.Goto, Y.Yoshida, M.kiso and H.Nagashima, Journal of ChromatographyA, 749 (1996) 295-299)に準拠し、HPLC法により測定した。
【0047】
(官能評価)
飲料の花香、呈味の評価を、パネラー3名により実施した。評価の基準は以下の通りとし、2種類の評価点の合計を総合評価点とした。
【0048】
<花香>
5:著しく強く感じる
4:強く感じる
3:中程度に感じる
2:弱く感じる
1:感じない
<呈味>
5:渋味をやや感じる
4:渋味を少し強く感じる
3:渋味を強く感じる
2:渋味を著しく強く感じる
1:渋味が著しく強く、刺激を感じる
対照として、比較例1−5を製造した。
【0049】
比較例1
原料茶(武夷岩茶;大紅袍)の代わりに原料茶(鉄観音)を使用し、実施例2と同様にしてウーロン茶飲料を得、評価した。
【0050】
比較例2
原料茶(武夷岩茶;大紅袍)の代わりに原料茶(水仙)を使用し、実施例2とウーロン茶飲料を得、評価した。
【0051】
比較例3
抽出時の熱水温度を80℃に変更し、実施例2とウーロン茶飲料を得、評価した。
比較例4
抽出時の熱水温度を95℃に変更し、実施例2とウーロン茶飲料を得、評価した。
【0052】
比較例5
原料茶(武夷岩茶;大紅袍)の重量を50gから65gに変更し、実施例2とウーロン茶飲料を得、評価した。
【0053】
実施例2及び比較例1〜5の評価結果を、表1に示す。
【0054】
【表1】

【0055】
実施例2と、比較例3及び4の結果から、花香を高濃度で抽出するには80℃よりも高い温度がよく、呈味の良い茶飲料とするには、95℃よりも低い温度が好ましいことがわかる。この温度としては、85℃〜94℃程度と考えられる。
【0056】
また、実施例2と、比較例1及び2の結果から、原料茶として大紅袍を用いた場合に花香が強くなることがわかる。実施例1と同様にホトエリノールを定量した結果、実施例2(武夷岩茶;大紅袍抽出液)にはホトリエノールが18ppb含まれていた。一方、比較例1及び2の飲料には、ホトエリノールが検出されなかった。強い花香(芳醇で重厚な花香)は、ホトエリノール由来であると考えられる。
【0057】
これらの結果から、ホトリエノールを10ppb以上含む豊かな花香と良好な呈味を有するウ茶飲料(特にウーロン茶飲料)は、好ましくは、
(1)(武夷岩茶;大紅袍)を含む原料茶葉を85〜94℃の熱水で3〜5分抽出して、ホトリエノールを含む抽出液を得る工程;
(2)前記抽出液にアスコルビン酸類を100ppm以上添加して調合液を得る工程;
(3)前記調合液を加熱殺菌する工程;及び
(4)前記殺菌液を容器に充填する工程;
を含む工程により製造できるといえる。
【0058】
なお、実施例2の場合非重合カテキンの含有量が430ppmであったが、比較例5として茶葉を65gに変更した場合には、非重合カテキンの含有量が550ppmとなった。その結果、比較例5では、渋みを著しく強く感じる強く感じるようになり、呈味が低下した。よって、本願発明の茶飲料は、好ましくは非重合カテキンの含有量は500ppm以下である。

実施例3.アスコルビン酸量の分析
(サンプル作成方法)
50gの茶葉(武夷岩茶;大紅袍)を1000cc、90℃の湯で5分間抽出し、冷却後遠心分離・濾過を行った。抽出液を4000Lにメスアップ後、VCを下の濃度となるようそれぞれ添加し、各サンプルのpHが、サンプル1(コントロール)と同様になるよう重曹を添加して調整した。
【0059】
サンプル1 400ppm
サンプル2 0ppm
サンプル3 50ppm
サンプル4 100ppm
サンプル5 800ppm
サンプル6 1000ppm
その後190g缶にホットパック充填し、125℃5分のレトルト殺菌を行った。
(官能評価)
得られた茶飲料(ウーロン茶飲料)の香味についてパネラー3名で官能評価を実施した。
【0060】
結果を表2に示す。VCを100ppm以上添加することで、ホトリエノール由来の香りが保持されることが確認された。また、VCを添加した茶飲料のpHを重曹を用いて調整する場合、VCの添加量が多くなるとそれに伴い重曹の添加量も多くなることから塩味や苦味を呈するようになる。これより、好ましいVCの量は、100〜800ppmであることがわかった。
【0061】
【表2】

【図面の簡単な説明】
【0062】
【図1】図1は、ホトリエノールの耐熱性とVCの添加による影響を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1)
【化1】

で示される3,7−ジメチルオクタ−1,5,7−トリエン−3−オールとアスコルビン酸類を含有し、前記3,7−ジメチルオクタ−1,5,7−トリエン−3−オールの含量が10ppb以上である、茶飲料。
【請求項2】
アスコルビン酸類の含有量が、100ppm〜800ppmである、請求項1に記載の茶飲料。
【請求項3】
大紅袍の抽出物を含む、請求項1又は2に記載の茶飲料。
【請求項4】
非重合カテキン類の含有量が500ppm以下である、請求項1〜3のいずれか1項に記載の茶飲料。
【請求項5】
茶葉の一部又は全部がウーロン茶である、請求項1〜4に記載の茶飲料。
【請求項6】
下記工程(1)〜(4)
(1)茶葉を85〜94℃の熱水で3〜5分抽出して、3,7−ジメチルオクタ−1,5,7−トリエン−3−オールを含む抽出液を得る工程;
(2)前記抽出液にアスコルビン酸類を添加して調合液を得る工程;
(3)前記調合液を加熱殺菌する工程;及び
(4)前記殺菌液を容器に充填する工程;
を含む、茶飲料の製造方法。
【請求項7】
茶葉の一部又は全部が大紅袍である、請求項5に記載の茶飲料の製造方法。

【図1】
image rotate


【公開番号】特開2009−89641(P2009−89641A)
【公開日】平成21年4月30日(2009.4.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−262643(P2007−262643)
【出願日】平成19年10月5日(2007.10.5)
【出願人】(000001904)サントリー株式会社 (319)
【Fターム(参考)】