説明

茸類栽培用ハウス

【課題】ハウス内の湿度を下げることなくハウス内の換気を行うことが可能な菌類栽培用ハウスの提供。
【解決手段】シート部材3によって覆われた茸類栽培用ハウス1において、室内の床面F.L.が地表面G.L.よりも高い位置に形成され、シート部材3の下端部が、前記地表面G.L.から床面F.L.よりも低い位置まで巻き上げ可能に形成されたことを特徴とする。室内の換気が必要な場合、この茸類栽培用ハウス1を覆うシート部材3の下端部を、地表面G.L.から床面F.L.よりも低い位置まで巻き上げることにより、室内の湿度を下げることなく、栽培する茸類により排出される二酸化炭素をハウス外へと排出し、換気を行うことが可能となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、年間を通じて茸類を栽培することが可能な茸類栽培用ハウスに関する。
【背景技術】
【0002】
椎茸、エリンギ、ナメコ、舞茸や木耳等の茸類の栽培は、林間地などを利用し、原木に菌を打ち込んで発生させる方法(原木栽培)が一般的である。しかしながら、この方法では、気象の影響を直接受けるため、気候の変動によって、収量や品質等に影響が出やすく、収穫が安定していない。また、近年では、ビニールハウスを利用して外気温の伝達を緩和することにより、外気温の影響を受けにくくする試みもなされている。
【0003】
ところが、薄いビニール等の被覆体で周囲を被覆するだけでは、外気温を完全に遮断することはできず、外気温の変化に応じてハウス内の温度も変化してしまう。ハウスにおいては、室内の温度および湿度が茸類の生育に大きな影響を及ぼすので、室内空間全体に亘って、成育に適した温度および湿度を維持しておく必要がある。
【0004】
このため、一般にこの種のハウスでは、室内冷房用の空調機、暖房用のボイラ、加湿用の噴霧器、換気用の換気扇が備えられ、これら各機器の運転状態を適宜組み合わせることで室内空間を茸類の成育に適した環境状態に維持している(例えば、特許文献1,2参照。)。また、ハウスの室内空間が気象の影響を受けないように、ハウスの外皮を防水シートにより形成し、その内側に断熱材を固着させたものもある(例えば、特許文献3参照。)。
【0005】
【特許文献1】特開平6−217639号公報
【特許文献2】特開平9−210435号公報
【特許文献3】特開平8−228608号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、茸類は、酸素呼吸をする好気性菌であり、酸素を取り入れ、二酸化炭素を放出する。そのため、ハウス内で茸類を成育させるためには、ハウス内を充分に換気する必要があるが、換気をし過ぎるとハウス内の湿度が下がってしまう。ハウス内の湿度が下がると、茸類の成育に支障が出るので、さらにハウス内を加湿することになり、エネルギーのロスが大きくなる。
【0007】
そこで、本発明においては、ハウス内の湿度を下げることなくハウス内の換気を行うことが可能な菌類栽培用ハウスを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の茸類栽培用ハウスは、シート部材によって覆われた茸類栽培用ハウスにおいて、室内の床面が地表面よりも高い位置に形成され、シート部材の下端部が、地表面から床面よりも低い位置まで巻き上げ可能に形成されたことを特徴とする。
【0009】
本発明の茸類栽培用ハウスでは、室内の換気が必要な場合、この茸類栽培用ハウスを覆うシート部材の下端部を、地表面から床面よりも低い位置まで巻き上げる。栽培する茸類の呼吸により放出される二酸化酸素は空気よりも重いため、床面からより低い地表面へと流れていき、シート部材の下端部と地表面との隙間を通って茸類栽培用ハウスの外へと排出される。
【0010】
ここで、シート部材の下端部が床面よりも高い位置まで巻き上げられた場合には、室外の空気がシート部材の下端部を通って室内を吹き抜けてしまうため、室内が乾燥し、湿度が下がってしまう。ところが、本発明の茸類栽培用ハウスでは、シート部材の下端部が、地表面から床面よりも低い位置までしか巻き上げられないため、室外の空気がシート部材の下端部を通って室内を吹き抜けることがなく、室内が乾燥することなく、室内の湿度が保たれる。
【0011】
なお、床面には、石粉が敷き詰められていることが望ましい。石粉は、石を細かく粉砕した粉である。茸類栽培用ハウス内の空気中に含まれる水分は、空気よりも重いので床面まで降りてくる。そして、床面に敷き詰められた石粉の周りに付着し、保持される。したがって、水分は石粉に保持されたまま、二酸化酸素だけが床面からより低い地表面へと流れていき、シート部材の下端部と地表面との隙間を通って茸類栽培用ハウスの外へと排出される。
【0012】
また、床面は、砂利および石粉が敷き詰められて形成されたものであることが望ましい。石粉に加えて石粉よりも粒径の大きな砂利が敷き詰められていることにより、砂利間に空気層が形成される。また、この砂利の周りに水分を保持した石粉が付着するので、石粉の周りの水分と空気との接触面積が増える。これにより、石粉の周りの水分が気化しやすくなり、室内の空気の湿度を上げる。
【0013】
また、床面は、暖房配管上に砂利および石粉が敷き詰められて形成されたものであることが望ましい。これにより、暖房配管により床面から茸類栽培用ハウス内の温度を上昇させることができるとともに、砂利の周りに水分を保持して付着した石粉が温められることにより、石粉の周りの水分の気化をさらに進めることが可能となる。
【0014】
また、本発明の茸類栽培用ハウスは、シート部材の内側に内張シートが配設され、シート部材と内張シートとの間の空間を冷却する冷却装置が備えられることが望ましい。気温が高すぎる場合、茸類栽培用ハウス内の温度を下げるが、ハウス内の空気を直接冷却すると室内の湿度が下がってしまう。そこで、シート部材の内側に内張シートを配設し、直射日光により熱せられるシート部材と内張シートとの間の空間を冷却装置により冷却することで、室内の湿度を下げることなく外気温の影響を少なくして室温を下げることが可能となる。
【発明の効果】
【0015】
(1)シート部材によって覆われた茸類栽培用ハウスにおいて、室内の床面が地表面よりも高い位置に形成され、シート部材の下端部が、地表面から床面よりも低い位置まで巻き上げ可能に形成されたことにより、室内の湿度を下げることなく、栽培する茸類により排出される二酸化炭素をハウス外へと排出し、換気を行うことが可能となる。
【0016】
(2)床面に、石粉が敷き詰められていることにより、茸類栽培用ハウス内の空気中に含まれる水分が床面の石粉により保持されるので、この床面による保湿効果が得られる。
【0017】
(3)床面が、砂利および石粉が敷き詰められて形成されたものであることにより、石粉の周りの水分と空気との接触面積が増え、石粉の周りの水分が気化しやすくなるので、室内の空気の湿度を上げることができる。
【0018】
(4)床面が、暖房配管上に砂利および石粉が敷き詰められて形成されたものであることにより、暖房配管により床面から茸類栽培用ハウス内の温度を上昇させることができるとともに、砂利の周りに水分を保持して付着した石粉が温められることにより、石粉の周りの水分の気化をさらに進めて、室内の空気の湿度を上げることができる。
【0019】
(5)シート部材の内側に内張シートが配設され、シート部材と内張シートとの間の空間を冷却する冷却装置が備えられることにより、直射日光により熱せられるシート部材と内張シートとの間の空間を冷却装置により冷却することで、室内の湿度を下げることなく外気温の影響を少なくして室温を下げることが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
図1は本発明の実施の形態における茸類栽培用ハウスの断面図、図2は図1のA部拡大図である。
【0021】
図1において、本発明の実施の形態における茸類栽培用ハウス(以下、「ハウス」と称す。)1は、鋼管製のフレーム2をシート部材3によって覆ったものである。図示しないが、シート部材3は、内側から順に遮熱性を有する遮熱ネット、約0.1mm厚のビニールおよびポリエチレン不織布を積層したものである。ポリエチレン不織布としては、例えば、フラッシュ紡糸法によって製造されたポリエチレン不織布であるタイベック(デュポン社商標)を使用できる。このポリエチレン不織布は、光と湿気とを通すが、熱を通さない性質を有する。したがって、このポリエチレン不織布により、ハウス1内へ光を取り入れることができるとともに、ハウス1の内外の熱の伝達を遮断することができ、室内への外気温度の影響を受けにくくすることができるが、このポリエチレン不織布は湿気を通してしまうため、その内側にビニールを設けることで湿気を遮断している。
【0022】
また、ハウス1室内の床面F.L.は、地表面G.L.よりも高い位置としている。なお、本発明における地表面G.L.は、ハウス1を設置する面を指す。また、本実施形態においては、この地表面G.L.より下に断熱材4を敷設している。さらに、断熱材4の下面にはビニール5を敷設して、大地からの湿度環境を遮断するようにしている。このように断熱材4およびビニール5によりハウス1内に独自の環境を形成する。床面F.L.は、図2に示すように、暖房配管6上に砂利7および石粉8を敷き詰めることにより形成されている。暖房配管6は、温水を通すことにより室内を暖房するためのものである。砂利7および石粉8は、断熱材4上に配置された枠9内に敷き詰められている。床面F.L.上には、茸類を栽培するための棚10が多数配列されている。
【0023】
また、ハウス1室内上部には、内張シート11が配設されており、シート部材3とこの内張シート11との間の空間を冷却する冷却装置12が備えられている。また、内張シート11よりも下の室内には、室内へ外気を取り入れる吸気装置13と、室内の加湿用の加湿装置14とが備えられている。また、図示しないが、床面F.L.上には散水用の配管が備えられている。
【0024】
また、本実施形態におけるハウス1には、シート部材3の下端部を巻き上げる巻き上げ装置(図示せず。)が備えられている。図2に示すように、シート部材3は、その下端部を地表面G.L.から床面F.L.よりも低い位置まで巻き上げることが可能である。なお、この巻き上げ位置の上限は、巻き上げ装置に設けられたストッパ(図示せず。)により設定される。
【0025】
上記構成のハウス1では、寒い時期には、暖房配管6に温水を通すとともに散水用配管により適宜散水し、さらに加湿装置14により適宜加湿を行うことにより、その季節の茸類(例えば、雪茸、エリンギや椎茸等)の発生および成長に適切な環境である温度13〜22℃、湿度90〜100%の範囲内に保持することができる。一方、暑い時期には、冷却装置12によりシート部材3と内張シート11との間の空間を冷却するとともに、散水用配管により適宜散水し、さらに加湿装置14により適宜加湿を行うことにより、その季節の茸類(例えば、木耳等)の発生および成長に適切な環境である温度25〜30℃、湿度90〜100%の範囲内に保持することができる。
【0026】
また、本実施形態におけるハウス1では、適宜シート部材3の下端部を床面F.L.よりも低い位置まで巻き上げ、吸気装置13から外気を取り込むことにより、空気が循環し、室内の温度や湿度などの均一化を図ることが可能である。このとき、シート部材3の下端部は床面F.L.よりも低い位置までしか巻き上げられないので、室外の空気がシート部材3の下端部を通って室内を吹き抜けることがない。したがって、室内が乾燥することなく、室内の湿度が保たれる。すなわち、室内の湿度を下げることなく、栽培する茸類により排出される二酸化炭素(CO2)をハウス1外へと排出し、換気を行うことが可能である。
【0027】
また、本実施形態におけるハウス1では、床面F.L.を暖房配管6上に砂利7および石粉8を敷き詰めて形成しているので、暖房配管6により床面F.L.からハウス1内の温度を上昇させることができるとともに、砂利7の周りに水分を保持して付着した石粉8が温められる。これにより、石粉8の周りの水分が気化し、室内の湿度を上げるので、効率良く室内の湿度を最適な湿度に保つことが可能となる。
【0028】
また、本実施形態におけるハウス1では、シート部材3の内側に内張シート11が配設され、直射日光により熱せられるシート部材3と内張シート11との間の空間を冷却装置により冷却するので、暑い時期に室内の湿度を下げることなく外気温の影響を少なくして室温を下げることが可能となる。
【産業上の利用可能性】
【0029】
本発明の茸類栽培用ハウスは、年間を通じて茸類を栽培するための人工栽培ハウスとして有用である。特に、本発明の茸類栽培用ハウスは、ハウス内の湿度を下げることなくハウス内の換気を行うことが可能であるため、省エネルギータイプの茸類の人工栽培ハウスとして好適である。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】本発明の実施の形態における茸類栽培用ハウスの断面図である。
【図2】図1のA部拡大図である。
【符号の説明】
【0031】
1 ハウス
2 フレーム
3 シート部材
4 断熱材
5 ビニール
6 暖房配管
7 砂利
8 石粉
9 枠
10 棚
11 内張シート
12 冷却装置
13 吸気装置
14 加湿装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シート部材によって覆われた茸類栽培用ハウスにおいて、室内の床面が地表面よりも高い位置に形成され、前記シート部材の下端部が、前記地表面から前記床面よりも低い位置まで巻き上げ可能に形成されたことを特徴とする茸類栽培用ハウス。
【請求項2】
前記床面には、石粉が敷き詰められていることを特徴とする請求項1記載の茸類栽培用ハウス。
【請求項3】
前記床面は、砂利および石粉が敷き詰められて形成されたものであることを特徴とする請求項1記載の茸類栽培用ハウス。
【請求項4】
前記床面は、暖房配管上に砂利および石粉が敷き詰められて形成されたものであることを特徴とする請求項1記載の茸類栽培用ハウス。
【請求項5】
前記シート部材の内側に内張シートが配設され、前記シート部材と内張シートとの間の空間を冷却する冷却装置が備えられた請求項1から4のいずれかに記載の茸類栽培用ハウス。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2006−230250(P2006−230250A)
【公開日】平成18年9月7日(2006.9.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−47716(P2005−47716)
【出願日】平成17年2月23日(2005.2.23)
【出願人】(597161034)株式会社ジェイ・エム・シー (3)
【Fターム(参考)】