説明

草刈機

【課題】刈り高さの調節が可能な調節機構を簡便に構成する。
【解決手段】前端に前輪1が支持された前輪伝動ケース16が走行機体の前部位置に支持軸芯Qを中心にして揺動自在に支持され、この前輪伝動ケース16の揺動姿勢を保持する切換操作部Fを備えた。この切換操作部Fが、複数の係合孔82Aが形成された係合板82と、係合孔82Aに対してロックバネ85の付勢力で係入するロック部材84と、このロック部材84を係合孔82Aから分離させる方向に操作するロック解除ワイヤ86を備えて構成した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、機体に縦向き姿勢の駆動軸芯を中心にして回転する草刈用の刈刃を備え、前記機体の前部に前輪を備え、前記機体から後方に延出するハンドルを備えると共に、前記前輪を支持する支持体が前記機体に対して横向き姿勢の支持軸芯を中心にして上下に揺動自在に支持され、この支持体の揺動姿勢の設定により前記刈刃の刈り高さを調節する調節機構を備えている草刈機に関する。
【背景技術】
【0002】
上記のように構成された草刈機として特許文献1には、走行機体の前部位置に上端側の入力軸の軸芯を中心にして揺動自在に前輪伝動ケースが支持され、この前輪伝動ケースの先端側に前輪が支持した構成が示されている。この特許文献1では、操作ハンドルの回転操作により前輪伝動ケースの揺動量を設定し、路面用刈取装置の対地高さを変更して刈り高さの調節を行う機構が示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2010‐273584号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1では、前輪伝動ケースの揺動量の調節を行うために、前輪伝動ケースの吊り上げ具を連結し、この吊り上げ具の駆動ネジ部を上方に延出し、操作ハンドルの基端ボス部を駆動ネジ部に螺合させた構成を有している。
【0005】
この構成では、操作ハンドルによって回転操作される基端ボス部を必要とし、この操作ハンドルを支持する支持構造を必要とし、基端ボス部に螺合する駆動ネジ部と、この駆動ネジ部を前輪伝動ケース等を必要とするため、部品点数が増大し構成の複雑化を招くものとなる。
【0006】
また、特許文献1に示される刈り高さ調節の機構では、走行機体の前部位置に作業者が立ち、操作ハンドルを操作する必要があり、煩わしさを感ずることもあった。
【0007】
本発明の目的は、刈り高さの調節が可能な調節機構を簡便に構成する点にある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の特徴は、機体に縦向き姿勢の駆動軸芯を中心にして回転する草刈用の刈刃を備え、前記機体の前部に前輪を備え、前記機体から後方に延出するハンドルを備えると共に、前記前輪を支持する支持体が前記機体に対して横向き姿勢の支持軸芯を中心にして上下に揺動自在に支持され、この支持体の揺動姿勢の設定により前記刈刃の刈り高さを調節する調節機構を備えている草刈機であって、
前記調節機構が、前記支持体の姿勢を固定する固定状態と、前記支持体の姿勢の自由な揺動を許す解除状態とに切換え自在な切換操作部を備えて構成され、この切換操作部で前記支持体を前記解除状態に設定した場合には、前記機体の前部の持ち上げ高さの設定により前記前輪の下方又は上方へ自由に変位させ、この変位に伴い前記支持体の揺動が許容される点にある。
【0009】
この構成によると、切換操作部により支持体を解除状態に設定してハンドルの操作により機体の前部の持ち上げ量を調節することで、支持体が自由に揺動して前輪が接地する姿勢に達する。このように刈刃と地面との高さを刈り高さに対応する値まで揺動させた後に、支持体を切換操作部により支持体を固定状態に設定することで、刈刃と地面との対地高さが保持され、刈り高さの調節が実現する。
その結果、多くの部品を用いずに済み、精度の高い構成を用いずとも刈り高さの調節が可能な調節機構が簡便に構成された。
【0010】
本発明は、前記切換操作部が、前記支持体の複数の揺動姿勢に対応する複数の係合部と、複数の前記係合部の1つに係合することで前記支持体の揺動姿勢を保持するロック体とを備えると共に、前記切換操作部として、前記係合部と前記ロック体との係合及び解除の切換を行う操作ユニットを備えて構成されても良い。
【0011】
これによると、操作ユニットの操作により係合部からロック体の係合を解除することが可能となり、この解除の後に操作ユニットの操作により複数の係合部の1つを選択してロック体を係合させることで、支持体を複数の揺動姿勢の1つに設定できる。この構成では係合部にロック体を係合させる構成のため、揺動姿勢を強固に保持できる。
【0012】
本発明は、複数の前記係合部が、前記支持軸芯を中心とする円弧状領域に複数の係合孔が配置される係合板を備えて構成され、前記ロック体が、前記係合孔に係脱するロック部材で構成され、前記切換操作部が、前記ロック部材を前記係合孔に係合させる付勢力を得るロックバネを有しており、前記操作ユニットが、前記ロック部材を係合孔から離脱させる力を作用させる操作ワイヤを有し、この操作ワイヤを介して前記ロック部材を前記係合孔から離間させる方向に力を作用させるロック解除レバーが、前記ハンドルに備えられても良い。
【0013】
これによると、係合板の係合孔に対してロックバネの付勢力でロック部材を係合させるため、ロック状態を確実に保持できる。また、ハンドルから操作ワイヤの操作によりロック部材を係合孔から離脱させる構成であるため、作業者が機体の前部に立って操作を行わずに刈り高さの調節が可能となる。
【0014】
本発明は、前記機体に原動部が備えられ、前記支持体が、前記原動部からの駆動力を前記前輪に伝える伝動機構を内蔵する伝動ケースで構成されても良い。
【0015】
これによると、原動部の駆動力を伝動ケースから前輪に伝えて走行駆動力を得ることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】草刈機の全体側面図である。
【図2】草刈機の全体平面図である。
【図3】草刈機の伝動系の側面図である。
【図4】路面用切断装置と法面用切断装置とを示す平面図である。
【図5】路面用切断装置と法面用切断装置との伝動構造を示す断面図である。
【図6】作業状態の路面用切断装置と法面用切断装置とを示す断面図である。
【図7】サイド刈高さ調節機構の構成を示す断面図である。
【図8】シフト軸とシフタと操作軸との横断平面図である。
【図9】接地体の連結構造の分解斜視図である。
【図10】センター刈高さ調節機構の構成を示す側面図である。
【図11】センター刈高さ調節機構の切換操作部を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
〔全体構成〕
図1〜図4に示すように、単一の前輪1と単一の後輪2とで走行する走行機体Aの上部位置に原動部としてのエンジン4、燃料タンク5、マフラー6等を備え、この走行機体Aの後部位置から後方に向けて延出する形態で左右一対の操縦ハンドル7を備え、この走行機体Aの下面側に路面の草類を切断する路面用切断装置Bを備え、更に、この走行機体Aの左側部に法面の草類を切断する法面用切断装置Cを備えて草刈機が構成されている。この草刈機では、バッテリーからの電源により作動する電動モータを備えて原動部を構成しても良い。
【0018】
走行機体の機体フレーム10にセンターハウジング11を備え、この内部下側にセンターブレード12(刈刃の一例)を有する路面用切断装置Bが配置されている。また、機体フレーム10の左側部にサイドハウジング13を備え、この内部下側にサイドブレード14を有する法面用切断装置Cが配置されている。サイドハウジング13は、図5、図6に示すように、走行機体Aの前後方向に沿う姿勢の揺動軸芯Pを中心にして揺動自在に機体フレーム10に支持されている。この揺動を可能にするため、センターハウジング11に左端の一部を揺動軸芯Pを中心とする筒状に成形し、サイドハウジング13の右端の一部を揺動軸芯Pを中心とする筒状に成形し、これらの筒状部の内部空間を貫通するヒンジ軸15を備えることで揺動を実現している。
【0019】
前輪1は、支持体としての前輪伝動ケース16の前端側の下部に駆動回転自在に支持され、後輪2は後輪伝動ケース17の下部に駆動回転自在に支持されている。走行機体Aの上部位置にはエンジン4の駆動力を後輪伝動ケース17と前輪伝動ケース16とに伝えることで前輪1と後輪2とに駆動力を伝える走行駆動機構Drが備えられている。また、センターハウジング11の上面とサイドハウジング13との上面とに亘る領域に、エンジン4からの駆動力を路面用切断装置Bと、法面用切断装置Cとに伝える刈取駆動機構Dcが備えられている。
【0020】
走行機体Aの側部位置にサイドハウジング13が揺動自在に支持されているため、走行機体Aの左側に法面が存在する環境で作業を行う場合には、サイドハウジング13を自由揺動できる状態にすることにより、図6に示すように法面用切断装置Cが法面に沿う姿勢に達するまで揺動し、法面の草類の切断を実現する。また、路面用切断装置Bのセンターブレード12と、法面用切断装置Cのサイドブレード14とは回転軌跡が重なり合う位置関係に配置されているが、図4に示すように、センターブレード12とサイドブレード14との回転位相を90度ずらせることで、センターブレード12とサイドブレード14とが接触しない関係で回転できるように構成されている。尚、刈取駆動機構Dcは、後述するようにサイドハウジング13の揺動を許容するように屈折自在に構成されている。
【0021】
このような構成から、この草刈機では、エンジン4からの駆動力で前輪1と後輪2とを駆動して走行機体Aを走行させ乍ら、エンジン4からの駆動力で路面用切断装置Bと法面用切断装置Cとを駆動して水平姿勢の路面の上面の草類を路面用切断装置Bで切断すると同時に、法面の草類を法面用切断装置Cで切断する作業が可能となる。
【0022】
〔走行駆動機構〕
前輪伝動ケース16は、図2、図3、図10、図11に示すように、上端部に入力軸18を備え、下端部に前輪駆動軸19を備え、この前輪駆動軸19に前輪1が連結しており、この前輪伝動ケース16には入力軸18の駆動力を前輪駆動軸19に伝えるチェーン式の伝動機構が内蔵されている。機体フレーム10の前部位置に縦向き姿勢の前部ブラケット20を備え、この前部ブラケット20に対して、入力軸18と同軸芯となる支持軸芯Qを中心にして揺動自在に前輪伝動ケース16が支持されている。入力軸18に連結する中間軸21を備え、この中間軸21の外端に入力スプロケット22を備えている。この前輪伝動ケース16は、揺動姿勢の設定により路面用切断装置Bによる草類の刈高さを設定するセンター刈高さ調節機構として機能する。このセンター刈高さ調節機構の詳細は後述する。
【0023】
後輪伝動ケース17は、上端部に被駆動軸(図示せず)を備え、下端部に後輪駆動軸25を備え、上下の中間位置に中間出力軸26を備え、後輪駆動軸25に後輪2が連結しており、この後輪伝動ケース17には被駆動軸の駆動力を後輪駆動軸25と中間出力軸26とに伝えるチェーン式の伝動機構(図示せず)が内蔵されている。この後輪伝動ケース17は機体フレーム10の後端部に連結固定され、図2に示すように、被駆動軸(図示せず)と同軸芯上に走行クラッチ機構27と入力プーリ28とを備え、走行クラッチ機構27は、入力プーリ28から被駆動軸(図示せず)に伝える駆動力の断続を行う。
【0024】
中間出力軸26の外端に出力スプロケット29を備え、この出力スプロケット29と前輪伝動ケース16の入力スプロケット22とに亘って無端チェーンで成る連動チェーン30が巻回されている。また、エンジン4の出力軸に備えた第1出力プーリ31Aと入力プーリ28とに無段ベルトで成る伝動ベルト32が巻回されている。この前輪伝動ケース16と、後輪伝動ケース17と、エンジン4の駆動力を後輪伝動ケース17に伝える伝動ベルト32と、後輪伝動ケース17の駆動力を前輪伝動ケース16に伝える連動チェーン30を備えて走行駆動機構Drが構成されている。
【0025】
走行クラッチ機構27を操作する走行クラッチレバー33(図10を参照)が操縦ハンドル7の左側のグリップ7Gの近傍に備えられ、この走行クラッチレバー33の握り操作により走行クラッチ機構27を制御する走行クラッチワイヤ34が、走行クラッチレバー33と走行クラッチ機構27の操作アーム27Aとの間に備えられている。図面には詳細を示していないが、走行クラッチワイヤ34はアウタワイヤの内部にインナワイヤを収容した構造を有しており、走行クラッチレバー33にインナワイヤの一方の端部が連結し、操作アーム27Aにインナワイヤーの他方の端部が連結している。
【0026】
この構成から、走行クラッチレバー33を握り操作することで走行クラッチワイヤ34を介して走行クラッチ機構27が入り操作され、エンジン4の駆動力が伝動ベルト32から後輪伝動ケース17に伝えられる。この伝動により後輪2が駆動され、この駆動と同期する駆動力が連動チェーン30から前輪伝動ケース16に伝えられ、前輪1が駆動され走行機体Aの走行が行われる。
【0027】
〔刈取駆動機構〕
図3〜図6に示すように、センターハウジング11の上部位置に配置されるセンターギヤケース40と、サイドハウジング13の上部位置に配置されるサイドギヤケース41とを備えると共に、センターギヤケース40から横向きに延出される駆動軸42からの駆動力をセンターブレード12に伝える伝動系と、駆動軸42からの駆動力を2つのジョイント機構43と、伸縮自在な中間伝動軸44と、これらからの駆動力をサイドギヤケース41の受動軸45に伝え、このサイドギヤケース41からサイドブレード14に伝える伝動系とを備えて刈取駆動機構Dcが構成されている。
【0028】
前述した2つのジョイント機構43としてユニバーサルジョイント等、屈折状態で回転駆動力を伝える機能を有するものが用いられ、中間伝動軸44として外軸の内部に内軸を内嵌し、この内嵌部分にスプラインや角軸等を用いることでトルク伝動自在で軸芯方向に相対移動する形態で伸縮自在となるものが用いられている。
【0029】
駆動軸42の外端位置には駆動プーリ46が備えられ、エンジン4の出力軸に備えた第2出力プーリ31Bと、駆動プーリ46とに亘って駆動ベルト47が巻回され、この駆動ベルト47に張力を作用させるテンションプーリ48が備えられている。このテンションプーリ48は機体フレーム10に揺動自在に支持されるテンションアーム49の揺動端に回転自在に支承されている。このテンションアーム49の揺動操作により駆動ベルト47の駆動力の断続を行う刈取クラッチ機構が構成されている。
【0030】
図1、図3に示すように、刈取クラッチ機構を操作する刈取クラッチレバー50が操縦ハンドル7の右側のグリップ7Gの近傍に備えられ、刈取クラッチ機構を制御する刈取クラッチワイヤ51が刈取クラッチレバー50とテンションアーム49との間に備えられている。刈取クラッチワイヤ51は、アウタワイヤの内部にインナワイヤを収容した構造を有しており、刈取クラッチレバー50にインナワイヤの一方の端部が連結し、テンションアーム49にインナワイヤーの他方の端部が連結している。
【0031】
この構成から、刈取クラッチレバー50を握り操作することで刈取クラッチワイヤ51を介して刈取クラッチ機構が入り操作されるため、エンジン4の駆動力が駆動ベルト47から刈取駆動機構Dcに伝えられ、路面用切断装置Bと法面用切断装置Cとの駆動が実現する。また、法面用切断装置Cが法面に沿う揺動姿勢に達した場合には、この揺動姿勢の角度に拘わらず2つのジョイント機構43の屈折と、中間伝動軸44の伸縮とによりエンジン4の駆動力が法面用切断装置Cに伝えられる。
【0032】
〔路面用切断装置〕
センターギヤケース40は、下部ケース40Aをセンターハウジング11に対して上下に貫通する姿勢で備えられ、この下部ケース40Aには縦向き姿勢のセンター駆動軸芯Xを中心にして回転自在にセンター駆動軸55が支承され、駆動軸42の駆動力をセンター駆動軸55の上端に伝えるように第1センターベベルギヤ56Aが駆動軸42に備えられ、これに噛合する第2センターベベルギヤ56Bがセンター駆動軸55の上部に備えられている。このセンター駆動軸55の下端に支持プレート57を固設しており、この支持プレート57の下面に巻付き防止コーン58の底壁部を配置し、この下側に2枚のセンターブレード12を重ね合わせて配置し、これらを上下に貫通する一対の連結ボルト59を、支持プレート57に固定したナット57Nに締結することにより、支持プレート57に対してセンターブレード12と、巻き付き防止コーン58とが支持されている。
【0033】
巻付き防止コーン58は、下部の外径より上部の外径が大きくなるカップ状に形成され、この巻付き防止コーン58の底壁部に形成した2つの貫通孔に対して連結ボルト59が挿通し、2枚のセンターブレード12に形成した2つの貫通孔に対して連結ボルト59が挿通する。また、2枚のセンターブレード12のうち上側のセンターブレード12の外端を上方に変位させるように屈曲させ、下側のセンターブレード12の外端を下方に変位させるように屈曲させている。
【0034】
このように刈取駆動機構Dcから駆動力が伝えられるセンター駆動軸55と、このセンター駆動軸55で駆動されるセンターブレード12とを備えて路面用切断装置Bが構成されている。
【0035】
〔法面用切断装置〕
図5〜図9に示すように、サイドギヤケース41は、下部支持ケース41Aをサイドハウジング13に対して上下に貫通する姿勢で備えられ、この下部支持ケース41Aには縦向き姿勢のシフト軸61と、このシフト軸61に下端部にスプライン嵌合構造を介して外嵌する筒状のサイド駆動軸62とがサイド駆動軸芯Yと同軸芯上に配置されている。受動軸45の駆動力をシフト軸61の上端に伝えるように、第1サイドベベルギヤ63Aが受動軸45に外嵌し、この第1サイドベベルギヤ63Aに噛合する第2サイドベベルギヤ63Bがサイド駆動軸芯Yと同軸芯で備えられ、この第2サイドベベルギヤ63Bがシフト軸61の上端部分にスプライン嵌合構造を介して外嵌することで、サイド駆動軸芯Yの方向に第2サイドベベルギヤ63Bとシフト軸61との相対移動を可能にしている。
【0036】
尚、シフト軸61の下部の外面と、これに外嵌する筒状のサイド駆動軸62の内面とに形成されるスプライン嵌合構造が、シフト軸61とサイド駆動軸62とを一体的に回転させつつ、サイド駆動軸芯Yの方向にシフト軸61とサイド駆動軸62との相対移動を可能にする伝動手段の一例である。この伝動手段としてシフト軸61の下部と、これが内嵌するサイド駆動軸62の孔状部分との断面形状を、4角形等の多角形状に形成することや、シフト軸61の外面とサイド駆動軸62の内面とにサイド駆動軸芯Yを平行する姿勢の溝を形成し、この溝に係入するキー等を備えることで伝動手段を構成しても良い。
【0037】
サイド駆動軸62は、中間部分を支持するボールベアリング型の軸受64により下部支持ケース41Aに対して回転自在、かつ、上下方向に移動不能に支持され、このサイド駆動軸62の下端部には支持プレート57が固設されている。この支持プレート57の下面に巻付き防止コーン58の底壁部を配置し、この下側に2枚のサイドブレード14を重ね合わせて配置し、更に、この下側に上部プレート65を配置し、これらを上下に貫通する連結ボルト59を、支持プレート57に固定したナット57Nに締結することにより、支持プレート57に対してサイドブレード14と、巻き付き防止コーン58と、上部プレート65とが支持されている。
【0038】
上部プレート65には一対の巻付き防止片65Aが下方に突出する姿勢で形成され、巻付き防止片65Aには上下方向の中間位置の幅を小さくする凹状部65Bが側端に形成されている。
【0039】
シフト軸61の下端がサイド駆動軸62の下端から下方に突出し、この下端に下部プレート70が固定ボルト71で固定され、この下部プレート70の下側に接地体72が複数の保持ボルト73により連結されている。尚、この保持ボルト73が接地体72に固定され、下部プレート70の上面側に配置される保持ナット74に螺合して締結状態に達する。
【0040】
下部プレート70には、一対の巻付き防止体70Aが上方に突出姿勢で形成され、巻付き防止体70Aには上下方向の中間位置の幅を小さくする凹状部70Bが形成されている。この一対の巻付き防止体70Aを結ぶ直線と、上部プレート65に形成された一対の巻付き防止片65Aを結ぶ直線とが平面視で直交するように、一対の巻付き防止片65Aと一対の巻付き防止体70Aとの相対的な位置関係が設定され、これら巻付き防止体65A,70Aによりシフト軸61に草等の巻付きを防止できるように構成されている。
【0041】
また、一対の巻付き防止片65Aに形成された凹状部65Bと、と一対の巻付き防止体70Aに形成された凹状部70Bとは連結ボルト59の頭部や、保持ナット74を操作するスパナ等の工具の操作を妨げないように形成されている。
【0042】
接地体72は平面視で円形で、中央部ほど下方に突出する椀状の成形物であり、刈取作業時に、この接地体72の中央部が法面(地面)に接触することで、法面とサイドブレード14との距離を決め、刈高さの調節が可能となる。尚、接地体72はシフト軸61と一体的に回転するものであり、接地状態で回転することで法面(地面)に対する円滑な滑動性を実現している。サイドギヤケース41の近傍位置に接地体72の下方への突出量を決めるサイド刈高さ設定機構が備えられ、その詳細を以下に説明する。
【0043】
〔サイド刈高さ調節機構〕
図7、図8に示すように、サイド駆動軸芯Yと平行姿勢の操作軸77が、その上端をサイドギヤケース41の上面より上方に突出する状態でサイドギヤケース41に備えられている。シフト軸61の中間位置の外周には環状溝部が形成され、この環状溝部にベアリング78Aを介して係合する係合部材としてのシフタ78が備えられている。操作軸77の下端部にはネジ部77Aが形成され、このネジ部77Aに対してシフタ78の雌ネジ部を螺合させ、このシフタ78のフォーク部分をベアリング78Aに係合させている。操作軸77の上端に回転操作アーム79が備えられ、この回転操作アーム79の外端にはノブ79Aが備えられている。このように操作軸77と、ネジ式に上下位置が調節されるシフタ78とを備えてシフト軸61の下方への突出量を調節する調節部が構成されている。
【0044】
このような構成から、作業者がノブ79Aを摘んで操作軸77を回転操作することにより、シフタ78が上下何れかの方向に作動し、この作動に伴いシフト軸61を上下動させ、接地体72とサイドブレード14との上下方向での相対距離を変更するため刈高さの調節が実現する。
【0045】
法面用切断装置Cで草類を切断する際には、法面用切断装置Cが自重により揺動軸芯Pを中心にして下降方向に揺動するため、接地体72が法面(地面)に接触する状態が維持される。この接地体72の接地位置を基準にしてサイド駆動軸芯Yの方向でサイドブレード14の回転軌跡が存在する仮想平面までの距離が刈高さとなり、前述したように作業者がノブ79Aを操作して接地体72の突出量を調節することで、接地体72の地面との接地位置を基準にしたサイドブレード14による切断レベルを変化させて刈高さの調節が実現するのである。
【0046】
〔センター刈高さ調節機構〕
図10、図11に示すように、前輪伝動ケース16のフランジ部に縦向き姿勢の補助プレート81が固設され、この補助プレート81に対して係合板82が支持され、この係合板82には支持軸芯Qを中心とする円弧面が形成され、この円弧面に対して複数の係合孔82Aが穿設されている。前部ブラケット20には、係合板82の円弧面の係合孔82Aと対向する位置に前後向き姿勢のガイド筒83が固設され、このガイド筒83に対してピン状のロック部材84が出退自在に支持されている。このロック部材84を係合孔82Aの方向に突出付勢するロックバネ85がガイド筒83の内部に備えられ、ロック部材84には、このロック部材84を係合孔82Aから引き出す方向に操作する操作ワイヤとしてのロック解除ワイヤ86の一端が連結している。
【0047】
この構成では、複数の係合孔82Aが形成された係合板82と、この係合板82の係合孔82A(係合部の一例)に係脱するロック部材84(ロック体の一例)とで前輪伝動ケース16(支持体の一例)の揺動姿勢を固定する固定状態と、自由な揺動を許す解除状態とに切換自在の切換操作部Fが構成されている。
【0048】
操縦ハンドル7の左側のグリップ7Gの近傍には、上方から下方へ押し込み操作する操作形態となるロック解除レバー88が軸体89を中心にして上下揺動自在に支持され、このロック解除レバー88に対してロック解除ワイヤ86の他方の端部が連結している。このロック解除レバー88と、このロック解除レバー88の操作力をロック部材84に伝えるロック解除ワイヤ86とで係合板82の係合孔82Aからロック部材84を分離させる操作を行う操作ユニットが構成されている。ロック解除ワイヤ86はアウタワイヤの内部にインナワイヤを収容した構造を有しており、ロック解除レバー88にインナワイヤの一方の端部が連結し、ロック部材84にインナワイヤーの他方の端部が連結している。
【0049】
このように係合板82と、この係合板82の複数の係合孔82Aに係脱するロック部材84と、ロックバネ85と、ロック解除ワイヤ86と、ロック解除レバー88とを備えてセンター刈高さ調節機構が構成されている。
【0050】
前輪伝動ケース16は支持軸芯Qを中心にして自由に揺動できるように支持され、係合板82の係合孔82Aにロック部材84が係入するロック状態では、前輪伝動ケース16の揺動姿勢が維持される。また、係合板82の係合孔82Aからロック部材84を引き出したロック解除状態では、前輪伝動ケース16の自重により前端側の下方への移動が許容される。尚、前輪伝動ケース16の前端側を下方に向けて付勢する補助バネを備えることで、この下方への移動を確実に行わせるように構成しても良い。
【0051】
この構成から、作業者がロック解除レバー88を下方に押し込み操作し、係合板82の係合孔82Aからロック部材84を引き出したロック解除状態に設定し、この状態で作業者が操縦ハンドル7を押し下げ方向に操作することで、後輪2の接地位置を支点として走行機体Aの前部が持ち上げられ、前輪伝動ケース16が、その前端側が下がる方向に揺動する。これとは逆に、ロック解除状態で作業者が操縦ハンドル7を持ち上げ方向に操作することで、後輪2の接地位置を支点として走行機体Aの前部が下げられ、前輪伝動ケース16が、その前端側が上がる方向に揺動する。つまり、操縦ハンドル7を押し下げる、又は、引き上げることにより、センターブレード12の対地高さを任意にセットでき、このセット状態において、ロック解除レバー88の押し込み操作を解除することで、ロック部材84がロックバネ85の付勢力により係合孔82Aに係合する状態に達し、センターブレード12の対地高さを維持する状態となり刈高さの調節が実現する。
【0052】
〔実施形態の作用・効果〕
水平姿勢となる路面と、この路面に傾斜する姿勢の法面との草類を同時に刈取る作業を行う場合には、草刈機の走行機体Aの前輪1と後輪2とを路面に接地させ、サイドハウジング13を法面の上方に配置し、このサイドハウジング13を揺動軸芯Pを中心にして揺動自在な状態に設定する。この状態では、椀状の接地体72が接地することでサイドハウジング13が法面に平行となる姿勢に達する。この後に、刈取クラッチレバー50により刈取クラッチ機構を入り操作し、走行クラッチレバー33により走行クラッチ機構27を入り操作して作業を開始することで、路面用切断装置Bを路面に沿わせる形態で路面の草類の刈取が行われ、これと同時に、椀状の接地体72が駆動回転する状態で法面に接触することで低い抵抗で回転して円滑な移動を行いながら、法面用切断装置Cを法面に沿わせる形態で法面の草類の刈取が行われる。
【0053】
路面用切断装置Bの刈高さ調節を行う場合には、ロック解除レバー88を指等で押し操作することで切換操作部Fの係合板82の係合孔82Aからロック部材84を抜き出すことでロックを解除する。このロック解除状態で操縦ハンドル7の押し下げ量の調節、または、引き上げ量の調節により、センターブレード12を目標とする刈高さにセットし、ロック解除レバー88の操作を解除することで、ロック部材84が、ロックバネ85の付勢力によりセットされた高さの近傍の係合孔82Aに係合するため前輪伝動ケース16がロックされ刈高さ調節が実現する。
【0054】
法面用切断装置Cの刈高さ調節を行う場合には、回転操作アーム79のノブ79Aを作業者が摘んで回転操作することで、シフト軸61を上下に作動させてサイドブレード14と接地体72との相対距離を変更することになり、刈高さ調節が実現する。
【0055】
〔別実施形態〕
本発明は、上記した実施形態以外に以下のように構成しても良い。
【0056】
(a)切換操作部Fを、実施形態に示される係合板の円弧面に備えた複数のピンと、この複数のピンに係合する孔部を有した被係合部材とで構成する。このように構成したものであっても、ピンと孔部との係合により前輪伝動ケース16の揺動姿勢を変更して刈高さの調節が可能となり、変更状態を強固に保持することも可能となる。このように構成する場合、操作ユニットとしての操作ワイヤ等により被係合部材をピンから分離させるように操作形態を設定しても良い。
【0057】
(b)センター刈高さ調節機構として、係合板82の外周の円弧面に多数の凹凸を形成し、この多数の凹凸に係脱可能な多数の凹凸面を形成したロック部材84を備え、このロック部材84を係合板82の方向に付勢するロックバネ85を備え、ロック部材84をロックバネ85の付勢力に抗して離間させるための操作ワイヤ等を備える。このように構成したものでは、実施形態で説明したように複数の係合孔82Aに対して単一のロック部材84を係脱する構成と比較して、前輪伝動ケース16の揺動姿勢を小さい角度で設定することが可能となり、刈高さ調節の微妙な設定が実現する。
【0058】
(c)操作ユニットとして、ロッド材を用いたリンク機構を用いる。このように構成してものであっても、切換操作部Fの切換操作を操縦ハンドル7の部位から行うことが可能となる。
【産業上の利用可能性】
【0059】
本発明は、草刈用の刈刃を備え、前輪を支持する支持体の揺動姿勢の変更で刈高さの調節を行う草刈機に利用することができる。
【符号の説明】
【0060】
1 前輪
4 原動部(エンジン)
7 ハンドル(操縦ハンドル)
11 刈刃(センターブレード)
16 支持体・伝動ケース(前輪伝動ケース)
82 係合板
82A 係合部・係合孔
84 ロック体・ロック部材
85 ロックバネ
86 操作ワイヤ(ロック解除ワイヤ)
88 ロック解除レバー
A 機体(走行機体)
F 切換操作部
Q 支持軸芯
X 駆動軸芯(センター駆動軸芯)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
機体に縦向き姿勢の駆動軸芯を中心にして回転する草刈用の刈刃を備え、前記機体の前部に前輪を備え、前記機体から後方に延出するハンドルを備えると共に、前記前輪を支持する支持体が前記機体に対して横向き姿勢の支持軸芯を中心にして上下に揺動自在に支持され、この支持体の揺動姿勢の設定により前記刈刃の刈り高さを調節する調節機構を備えている草刈機であって、
前記調節機構が、前記支持体の姿勢を固定する固定状態と、前記支持体の姿勢の自由な揺動を許す解除状態とに切換え自在な切換操作部を備えて構成され、この切換操作部で前記支持体を前記解除状態に設定した場合には、前記機体の前部の持ち上げ高さの設定により前記前輪の下方又は上方へ自由に変位させ、この変位に伴い前記支持体の揺動が許容される草刈機。
【請求項2】
前記切換操作部が、前記支持体の複数の揺動姿勢に対応する複数の係合部と、複数の前記係合部の1つに係合することで前記支持体の揺動姿勢を保持するロック体とを備えると共に、前記切換操作部として、前記係合部と前記ロック体との係合及び解除の切換を行う操作ユニットを備えて構成されている請求項1記載の草刈機。
【請求項3】
複数の前記係合部が、前記支持軸芯を中心とする円弧状領域に複数の係合孔が配置される係合板を備えて構成され、前記ロック体が、前記係合孔に係脱するロック部材で構成され、
前記切換操作部が、前記ロック部材を前記係合孔に係合させる付勢力を得るロックバネを有しており、前記操作ユニットが、前記ロック部材を係合孔から離脱させる力を作用させる操作ワイヤを有し、この操作ワイヤを介して前記ロック部材を前記係合孔から離間させる方向に力を作用させるロック解除レバーが、前記ハンドルに備えられている請求項2記載の草刈機。
【請求項4】
前記機体に原動部が備えられ、前記支持体が、前記原動部からの駆動力を前記前輪に伝える伝動機構を内蔵する伝動ケースで構成されている請求項1〜3のいずれか一項に記載の草刈機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2013−74810(P2013−74810A)
【公開日】平成25年4月25日(2013.4.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−215367(P2011−215367)
【出願日】平成23年9月29日(2011.9.29)
【出願人】(000001052)株式会社クボタ (4,415)
【出願人】(599118768)株式会社斎藤農機製作所 (47)
【Fターム(参考)】