説明

荷の揚げ降ろし装置

【課題】内空の小さなトンネル内において、たとえば標準サイズのセグメントを使用しながらも作業性を低下させることなく、さらには作業安全性を保証することのできるセグメント等の荷の揚げ降ろし装置を提供すること。
【解決手段】トンネルTの天井に配設されてその長手方向T1に延びるレール1と、レール1に沿って移動自在な第1、第2のトロリ2,3と、2基のトロリ2,3を相互に間隔を置いて繋ぐ繋ぎ材4と、2基のトロリ2,3がそれぞれ吊持するシーブ5,6と、第1のトロリ2が吊持するウィンチ7と、を少なくとも備え、連続するワイヤ8が繋ぎ材4に沿って延びるとともに双方のシーブ5,6に巻装され、このワイヤ8の一端はシーブ6を介してトンネルT内にある荷(セグメントS)を繋ぎ、ワイヤ8の他端はシーブ5を介してウィンチ7に巻装自在に係合している荷の揚げ降ろし装置10である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特にトンネル内においてセグメント等の荷を揚げ降ろしするための装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
セグメントを使用してトンネル壁が形成されるセグメントトンネルの施工に際し、これが内空の小さなトンネルの場合においては、トンネルの長手方向に沿ってセグメントを積んだ台車を所定位置まで移動させ、そこでセグメントを揚げ降ろすに当たり、十分な揚程が確保できないために電動ホイスト等の動力系クレーン設備を設けることができない場合が往々にしてある。
【0003】
このような条件下でセグメントの揚げ降ろしを可能とする方策として、セグメントピースの割付をたとえば標準の5ピース/1リングから6ピース/1リングとし、相対的に揚程を確保するといった方策が揚げられる。
【0004】
しかし、標準のピース数よりも多い数のセグメントとすることで施工進捗ロスは否めず、さらには、セグメントが標準サイズでないことからその製作コストが増加することとなる。
【0005】
そこで、本発明者等はあるトンネル現場において、電動ホイストを使用する代わりに手動式でたとえば0.5tレバーブロックを使用することとした。
【0006】
手動式のレバーブロックを使用することで標準の5ピース/1リング用のセグメントの揚げ降ろしは可能となったが、手動式であるが故に作業員がセグメントに近接してその揚げ降ろしをおこなう必要が生じ、さらには狭隘な作業空間での操作を余儀なくされることが相俟って、作業性および作業安全性の双方が大きく低下するという新たな問題が生じた。
【0007】
この新たな課題に対して、本発明者等は標準サイズのセグメントを使用しながらも、作業性を低下させることなく、さらには作業安全性を保証することのできるセグメント等の荷の揚げ降ろし装置の発案に至ったものである。
【0008】
ここで、トンネル内におけるセグメントの揚げ降ろしに関する従来の公開技術として、特許文献1に開示のセグメント搬送装置を挙げることができる。
【0009】
具体的には、1リング分のセグメントを積載したセグメント台車が進入可能なフレームを有する門型台車を設け、その門型台車の両側にセグメントを昇降する昇降手段を設け、門型台車のフレームには荷姿を検知する荷姿検知センサと荷の昇降高さを検出する昇降高さ検出センサとを設け、これらのセンサからの信号に基づいて昇降手段を制御するとともに動作中であることを警報する警報手段に信号を送る制御装置を設けたものである。
【0010】
特許文献1で開示される上記搬送装置によれば、複数のセグメントを一度に搬送し、かつ一度に荷降ろしできることで作業効率性が向上するとしている。そして、必要揚程を制御装置の中で算出し、昇降手段で荷を揚重するとしているが、この搬送装置を使用したとしても、荷揚げに際して必要となる揚程確保を何等保証することはできない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開平7−305600号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は上記する問題に鑑みてなされたものであり、内空の小さなトンネル内においてたとえば標準サイズのセグメントを使用しながらも、荷揚げの際に必要となる揚程を確保することができ、さらには作業安全性を保証することのできるセグメント等の荷の揚げ降ろし装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0013】
前記目的を達成すべく、本発明による荷の揚げ降ろし装置は、トンネル内空の天井に配設されてトンネルの長手方向に延びるレールと、前記レールに沿って移動自在な第1、第2のトロリと、第1、第2のトロリを相互に間隔を置いて繋ぐ繋ぎ材と、第1、第2のトロリがそれぞれ吊持するシーブと、第1のトロリが吊持するウィンチと、を少なくとも備え、連続するワイヤが繋ぎ材に沿って延びるとともに双方のシーブに巻装され、このワイヤの一端は第2のトロリが吊持するシーブを介してトンネル内にある荷を繋ぎ、ワイヤの他端は第1のトロリが吊持するシーブを介してウィンチに巻装自在に係合しているものである。
【0014】
本発明の荷の揚げ降ろし装置は、荷の揚げ降ろしに際してワイヤを水平方向に引くことにより、荷揚げの際に必要となる揚程を確保することを可能とした装置に関するものである。
【0015】
本発明の装置は、そのトンネルの内空の天井にトンネルの長手方向に延びるレールを配しておき、このレールに沿って移動自在なトロリ(たとえばプレントロリ)を2基配設し、双方のトロリを比較的長尺な繋ぎ材で繋いで構成したものである。
【0016】
このトロリは、モータ駆動による車輪を具備し、その走行が作業員による遠隔操作でおこなわれる形態であってもよいし、装置の一部を作業員が牽引することでこれに追随するように車輪が回転する非自走式の形態であってもよい。
【0017】
また、本発明の装置は、第1、第2のトロリがシーブを具備し、このシーブを介してワイヤを水平方向に移動させることにより、セグメント等の荷を吊り揚げるに要する鉛直方向の揚程を保証するものであり、具体的には、2つのシーブ間距離もしくは繋ぎ材の長さは、少なくとも荷を鉛直上方に持ち揚げるに要する揚程以上の長さとなるように調整されている。
【0018】
なお、ここでいう「水平方向」とは、トンネルの長手方向に沿う方向を意味しており、実際にトンネルの縦断線形が傾斜している場合には、これと同じ傾斜方向が装置を構成する2つのシーブ間の方向(水平方向)となるものである。
【0019】
第1、第2のトロリに関し、そのうちの第1のトロリはウィンチを吊持し、第2のトロリはシーブを介してトンネル内にあるセグメント等の荷を繋ぎ(繋ぎの形態は、係合、巻装、フック留めなど)、ウィンチにてワイヤを巻装することによって2つのシーブを介してワイヤが荷揚げをおこなうこととなる。
【0020】
ここで、第1のトロリで吊持されるウィンチとしては、電動ホイスト等の動力系クレーン設備を使用してもよいし、手動式ウィンチを使用してもよい。本装置を適用した場合には十分な揚程が保証できることから、動力系クレーン設備の適用も可能となる。
【0021】
また、手動式のウィンチを使用する場合でも、実際に荷を揚げ降ろす位置(第2のトロリの位置)と作業員がウィンチを操作する位置(第1のトロリの位置)は少なくとも繋ぎ材の長さだけ離間しており、作業員が荷に近接するのが抑止されることで作業安全性は格段に向上する。
【0022】
ここで、トンネル内において本発明の装置にて揚げ降ろしされる荷は特に限定されるものではないが、既述するセグメントをはじめ、台車等でトンネル内の所定位置まで搬送されて揚げ降ろされる、比較的重量の重いあらゆる資材、機器等がその対象となる。
【0023】
また、本発明による荷の揚げ降ろし装置の好ましい実施の形態は、前記繋ぎ材が第1、第2のトロリと回動自在に繋がっているものである。
【0024】
トンネルの平面線形や縦断線形は直線に限らず、曲率の異なる曲線の組み合わせ、曲線と直線の組み合わせ、相互に傾斜する直線の組み合わせやこれにさらに曲線が組み合わされたものなど、その線形バリエーションは多様である。
【0025】
そこで、装置を構成する繋ぎ材が第1、第2のトロリと回動自在に繋がっていることで、このように多様な線形バリエーションのトンネルに対しても、装置がその線形に臨機に追随しながら2基のトロリの走行が可能となる。なお、ここでいう「回動自在」とは、トンネルの平面線形の変化に対応できるような回動形態、トンネルの縦断線形の変化に対応できるような回動形態、双方の変化に対応できるような回動形態のすべてを包含する意味である。したがって、繋ぎ材とトロリとの繋ぎ部が蝶番構造を具備するもの、雄雌構造の繋ぎ部であって雄は球体からなり、雌はこの球体に相補的な内空を具備する中空球体などからなるものなどを挙げることができる。
【0026】
さらに、本発明による荷の揚げ降ろし装置の好ましい実施の形態は、前記第1のトロリが別途のシーブを吊持し、前記第2のトロリが別途のシーブを吊持するとともに別途のウィンチも吊持し、第1のトロリ側と第2のトロリ側の双方で荷の揚げ降ろしが自在となっているものである。
【0027】
この形態の装置は、第1、第2のトロリの双方で荷の揚げ降ろしを実施でき、このことは双方でウィンチ操作を実施できること(2操作機能)を意味するものである。
【0028】
2基のトロリの双方で荷の揚げ降ろしが実施可能であることから、特に、内空が小さい狭隘なトンネル内でのセグメント等の揚げ降ろし作業に対して、その作業効率の向上を図ることができる。
【発明の効果】
【0029】
以上の説明から理解できるように、本発明の荷の揚げ降ろし装置によれば、2基のトロリが吊持するシーブを介してワイヤを水平方向に移動させることにより、セグメント等の荷を吊り揚げる揚程に関してトンネル空間で許容される最大限の揚程を保証することができ、さらには、一方のトロリ側で荷が揚げ降ろされ、他方のトロリ側で作業員がウィンチを操作できるようになっていることで、作業安全性を飛躍的に向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】本発明の荷の揚げ降ろし装置の一実施の形態の側面図であり、トンネル内でセグメントを吊り揚げている状態を示した図である。
【図2】図1のII−II矢視図である。
【図3】本発明の荷の揚げ降ろし装置の他の実施の形態の側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
以下、図面を参照して本発明の荷の揚げ降ろし装置を説明する。なお、図示するトンネルはその内空が直径1〜2m程度と極めて小さなトンネルを対象としているが、本発明の荷の揚げ降ろし装置がこのように狭隘なトンネルに限定して適用されるものでないことは勿論のことである。また、図示例において揚げ降ろし対象の荷はセグメントであるが、その対象もセグメントに何等限定されるものでなく、比較的重量の重い資材や機器の全般がその対象となる。
【0032】
図1は本発明の荷の揚げ降ろし装置の一実施の形態の側面図であり、トンネル内でセグメントを吊り揚げている状態を示した図であり、図2は図1のII−II矢視図である。
【0033】
本発明の荷の揚げ降ろし装置10(以下、装置という)は、トンネルTの天井に配設されてその長手方向T1に延びるレール1と、このレール1に沿って移動自在であってともにシーブ5,6を吊持する第1、第2のトロリ2,3と、トロリ2,3を繋ぐ比較的長尺な繋ぎ材4と、第1のトロリ2が吊持するウィンチ7と、シーブ5,6の双方に巻装されてその一端が荷揚げされるセグメントSと繋がれ、その他端がウィンチ7にて巻装自在に係合しているワイヤ8と、から大略構成されている。
【0034】
2基のトロリ2,3は、それぞれの車輪21,31がレール1に係合しながらこのレール1に沿って移動できるものであり、不図示の駆動モータを内蔵して作業員による遠隔操作にて駆動する形態であってもよいし、非自動式のものであってもよい。
【0035】
ウィンチ7はラチェット式(手動式)であり、巻揚げの際の作業員の負荷を極力軽減できるものである。
【0036】
また、繋ぎ材4の長さは、少なくとも荷揚げされるセグメントSの鉛直揚程:L以上の長さに設定されており、ウィンチ7による巻揚げによってワイヤ8がこの繋ぎ材4に沿ってトンネルT内で水平方向に移動することになる(X2方向)。
【0037】
繋ぎ材4と2基のトロリ2,3との接続部はともに回動式接続部41,42となっており、繋ぎ材4および2基のトロリ2,3がそれぞれ相互に回動できることにより、トンネルTの多様な縦断線形や平面線形に追随しながら装置10の移動が可能となっている。
【0038】
トンネルT内のたとえば切羽前面には、トンネルTの下方に敷設された台車用レールR上を走行する台車DによってセグメントSが搬送される。
【0039】
不図示の作業員は、台車D上のセグメントSに第2のトロリ3側のシーブ6から垂れるワイヤ8の端部を繋ぎ、少なくとも繋ぎ材4の長さ分だけ離間した位置でウィンチ7を操作することにより、ワイヤ8はウィンチ7に巻装されながら水平方向に移動し、セグメントSは上方に巻揚げられる(X1方向)。
【0040】
この装置10によれば、2基のトロリ2,3が吊持するシーブ5,6を介してワイヤ8を水平方向に移動させることにより、セグメントSを吊り揚げるに際し、トンネル空間で許容される最大限の揚程Lを保証することが可能となる。
【0041】
さらに、第2のトロリ3側でセグメントSが荷揚げされ、少なくとも繋ぎ材4の長さだけ離れた第1のトロリ2側で作業員がウィンチ7を操作できるようになっていることにより、作業安全性を飛躍的に向上させることができる。
【0042】
図3は、本発明の荷の揚げ降ろし装置の他の実施の形態の側面図である。
【0043】
図示する装置10Aは、第1のトロリ2側のみならず第2のトロリ3側にもウィンチ9を具備するものである。より具体的には、第1、第2のトロリ2,3がいずれも2つのシーブを吊持し、第1のトロリのみならず第2のトロリもウィンチ9を吊持し、双方の対応するシーブ同士が固有のワイヤを巻装しながら双方のワイヤの一端がウィンチ7,9に係合され、これらのウィンチ7,9のいずれか一方を操作することにより、第1のトロリ2側と第2のトロリ3側の双方でセグメントSの揚げ降ろしを自在としたものである(X1方向およびX1’方向)。
【0044】
この装置10Aによれば、2基のトロリ2,3の双方でセグメントSの揚げ降ろしが実施可能であることから、特に、図示するように内空が小さく、狭隘なトンネルT内でのセグメントSの揚げ降ろし作業に対してその作業効率を格段に向上させることができる。
【0045】
[セグメントの組立時間に関する検証およびその他の付随効果]
本発明者等は、実際に図3で示す装置10Aを適用して狭隘なトンネルでの作業効率性を検証した。
【0046】
その結果、セグメントの荷降ろし時間ロスが大幅に短縮され、セグメント組立時間に関しては従来の30分から10分と、1/3の組立時間であった。
【0047】
また、ラチェット式ウィンチを適用したことで作業員への負荷が大幅に軽減され、荷揚げ対象のセグメントの近傍に作業員がいないことから安全性の高い作業が実現された。
【0048】
さらに、装置のメンテナンスは定期的なワイヤ交換のみとなり、比較的ゆっくりとした手動によるセグメントの荷降ろしのために搬送用のローラコンベアの故障や修理が全く必要なく、工費を大幅に節減することができた。
【0049】
以上、本発明の実施の形態を図面を用いて詳述してきたが、具体的な構成はこの実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲における設計変更等があっても、それらは本発明に含まれるものである。
【符号の説明】
【0050】
1…レール、2…第1のトロリ、21…車輪、3…第2のトロリ、31…車輪、4…繋ぎ材、41,42…回動式接続部、5,6…シーブ、7,9…手動式ウィンチ、8…ワイヤ、10,10A…装置(荷の揚げ降ろし装置)、S…セグメント、T…トンネル、T1…長手方向、R…台車レール、D…台車、L…揚程

【特許請求の範囲】
【請求項1】
トンネル内空の天井に配設されてトンネルの長手方向に延びるレールと、
前記レールに沿って移動自在な第1、第2のトロリと、
第1、第2のトロリを相互に間隔を置いて繋ぐ繋ぎ材と、
第1、第2のトロリがそれぞれ吊持するシーブと、
第1のトロリが吊持するウィンチと、を少なくとも備え、
連続するワイヤが繋ぎ材に沿って延びるとともに双方のシーブに巻装され、このワイヤの一端は第2のトロリが吊持するシーブを介してトンネル内にある荷を繋ぎ、ワイヤの他端は第1のトロリが吊持するシーブを介してウィンチに巻装自在に係合している、荷の揚げ降ろし装置。
【請求項2】
前記ウィンチが手動ウィンチである、請求項1に記載の荷の揚げ降ろし装置。
【請求項3】
前記繋ぎ材は、第1、第2のトロリと回動自在に繋がっている、請求項1に記載の荷の揚げ降ろし装置。
【請求項4】
前記第1のトロリが別途のシーブを吊持し、前記第2のトロリが別途のシーブを吊持するとともに別途のウィンチも吊持し、第1のトロリ側と第2のトロリ側の双方で荷の揚げ降ろしが自在となっている、請求項1〜3のいずれかに記載の荷の揚げ降ろし装置。
【請求項5】
前記荷がセグメントである、請求項1〜4のいずれかに記載の荷の揚げ降ろし装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−236650(P2011−236650A)
【公開日】平成23年11月24日(2011.11.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−109325(P2010−109325)
【出願日】平成22年5月11日(2010.5.11)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.レバーブロック
【出願人】(000206211)大成建設株式会社 (1,602)
【Fターム(参考)】