説明

荷役物運搬機

【課題】 昇降部に吊り下げられた荷物を把持する際の把持力を検出し、その把持力の大きさと、昇降部が荷物を吊り上げる吊上げ力の大きさとの比を調整することにより、作業者の能力、荷物の性状等に応じてきめ細かに作業効率の向上を図ることのできる荷役物運搬機を提供する。
【解決手段】 制御部30には、エアシリンダ130に対する給排気の空気圧を制御して、アシスト増幅率αを連続的に可変調整するための増幅率調整部が設けられている。オペアンプ31の負帰還回路の抵抗器を可変抵抗器35で構成することによって、オペアンプ31から出力される制御信号の増幅率(ゲイン)を調整し、電空比例弁33を作動させて切換弁121のパイロット空気圧を変更することにより、アシスト増幅率αの調整を行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、荷役物運搬機に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、アーム式、ホイスト式等の荷役物運搬機では、昇降部に荷物(荷役物、搬送対象物)を吊り下げ、油圧シリンダ等の駆動力によって荷物を昇降移動することができる。また、このような荷役物運搬機において、昇降部に吊り下げられた荷物を作業者が反重力方向に持ち上げる持上げ力と、昇降部が荷物を吊り上げる吊上げ力とを荷物の重量に釣り合わせることによって、荷物の昇降移動を容易にすることが提案されている(特許文献1,2参照)。
【0003】
【特許文献1】特許第3794743号公報
【特許文献2】特許第3827781号公報
【0004】
これらに開示された技術によれば、作業者の持上げ力の大きさに応じて昇降部の吊上げ力(アシスト力)を発生させるので、例えば、荷物の重量に応じて持上げ力と吊上げ力とを所定の比率(増幅比)で分担支持して単一の経路に沿って移動するような単純荷役作業では、作業効率の向上を容易に図ることができる。しかし、作業者の能力(習熟度、体力等)によって操作感覚が異なるため、作業工程(移動経路)や作業者が変われば、そのたびに増幅比の変更調節に手間を要したり、専用の荷役物運搬機の設置を要したりする場合がある。また、荷物の重量が同じであっても荷物の性状(硬さ、形状、重量バランス、包装状態、把持位置等)によって荷役作業に適した増幅比が異なる場合もある。そこで、作業者の能力や荷物の性状に応じて作業効率の向上を図ることのできる荷役物運搬機が望まれている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の課題は、昇降部に吊り下げられた荷物を把持する際の把持力を検出し、その把持力の大きさと、昇降部が荷物を吊り上げる吊上げ力の大きさとの比を調整することにより、作業者の能力、荷物の性状等に応じてきめ細かに作業効率の向上を図ることのできる荷役物運搬機を提供することにある。
【課題を解決するための手段及び発明の効果】
【0006】
上記課題を解決するために、本発明に係る荷役物運搬機は、
昇降部に吊り下げられた荷物を作業者が反重力方向に持ち上げる持上げ力と、前記昇降部が荷物を吊り上げる吊上げ力とを荷物の重量に釣り合わせることによって荷物を昇降移動する荷役物運搬機において、
作業者が荷物を把持する際の把持力を検出する検出部と、
その検出部によって検出された把持力の大きさに応じて前記吊上げ力を発生して荷物の昇降移動をアシストするために前記昇降部に配置されたアクチュエータと、
前記検出部によって検出される把持力の大きさに対し、その把持力に対応して前記アクチュエータが発生する吊上げ力の大きさの比をとってアシスト増幅率とし、そのアシスト増幅率を段階的に又は連続的に可変調整する増幅率調整部とを備え、
前記増幅率調整部は、前記アシスト増幅率が大のとき、前記把持力の変化量に対する前記吊上げ力の変化量が相対的に大きい高感度状態となる一方、前記アシスト増幅率が小のとき、前記把持力の変化量に対する前記吊上げ力の変化量が相対的に小さい低感度状態となることを特徴とする。
【0007】
また、上記課題を解決するために、本発明に係る荷役物運搬機は、
昇降部に吊り下げられた荷物を作業者が反重力方向に持ち上げる持上げ力と、前記昇降部が荷物を吊り上げる吊上げ力とを荷物の重量に釣り合わせることによって荷物を昇降移動する荷役物運搬機において、
作業者が荷物を把持する際の把持力を検出する検出部と、
その検出部によって検出された把持力の大きさに応じて前記吊上げ力を発生して荷物の昇降移動をアシストするために前記昇降部に配置されたアクチュエータとしてのエアシリンダと、
前記検出部によって検出される把持力の大きさに対し、その把持力に対応して前記エアシリンダが発生する吊上げ力の大きさの比をとってアシスト増幅率とし、前記エアシリンダに対する給排気の空気圧及び/又は空気量を制御することにより、前記アシスト増幅率を段階的に又は連続的に可変調整する増幅率調整部とを備え、
前記増幅率調整部は、前記アシスト増幅率が大のとき、前記把持力の変化量に対する前記吊上げ力の変化量が相対的に大きい高感度状態となる一方、前記アシスト増幅率が小のとき、前記把持力の変化量に対する前記吊上げ力の変化量が相対的に小さい低感度状態となることを特徴とする。
【0008】
これらの荷役物運搬機では、検出部によって検出される把持力の大きさに対し、その把持力に対応してアクチュエータ(例えばエアシリンダ)が発生する吊上げ力の大きさの比をとってアシスト増幅率としたとき、そのアシスト増幅率を可変調整することによって、作業者の能力、荷物の性状等に応じてきめ細かに作業効率の向上を図ることができる。
【0009】
すなわち、増幅率調整部でアシスト増幅率を大に調整すれば、把持力の変化量に対する吊上げ力の変化量が相対的に大きい高感度状態(感度敏感状態)となるので、僅かの操作(把持力)で大きなアシスト力(吊上げ力)を得やすくなる。したがって、例えば熟練作業者や硬く変形しにくい荷物向けに高感度状態で荷役作業を行ない、サイクルタイムを短縮して作業能率の向上を図ることができる。一方、増幅率調整部でアシスト増幅率を小に調整すれば、把持力の変化量に対する吊上げ力の変化量が相対的に小さい低感度状態(感度鈍感状態)となるので、不意に大きなアシスト力(吊上げ力)が発生しにくくなる。したがって、例えば初心作業者や脆く変形しやすい荷物向けに低感度状態で荷役作業を行ない、作業の慣れや安全性の向上を図ることができる。
【0010】
なお、アクチュエータには、エアシリンダ、油圧シリンダ、電動モータ等を用いることができる。また、増幅率調整部では、アシスト増幅率を段階的に又は連続的に調整することができる。例えば、増幅率調整部は、空気供給源からエアシリンダへ供給される空気又はエアシリンダから大気中へ排出される空気の圧力及び/又は流量を制御することができる。
【0011】
このとき、エアシリンダと空気供給源との間の管路には、そのエアシリンダに対する給排気を切り換えるための切換弁が配設され、増幅率調整部は、その切換弁のパイロット圧を変更することにより切換弁におけるエアシリンダへの供給圧を調整して、アシスト増幅率の調整を行うことが望ましい。この場合、アシスト増幅率を大として高感度状態とするには、切換弁のパイロット圧を高圧側に変更するだけでよく、アシスト増幅率を小として低感度状態とするには、切換弁のパイロット圧を低圧側に変更するだけでよい。このように、切換弁のパイロット圧を変更することにより、感度調節(アシスト増幅率調整)が極めて容易に行なえるので、作業者の勤務交替や荷物・作業工程の変更等にも直ちに対応できる。
具体的には、電気空気圧変換比例弁(電空比例弁)の駆動信号レベルを変更して、パイロット圧に応じてエアシリンダへの供給圧を調整する機能を有する調圧型の切換弁のパイロット圧を制御することができる。
【0012】
以上のように、本発明に係る荷役物運搬機は、主として製造工場内での部品・半製品・製品・治具等の移動や土木・建設工事現場での資材・道具類の移動等に用いられる。その際、荷物をそのままの状態で、あるいは箱、袋、包み紙等に包装した状態で把持して搬送することができる。したがって、上記した以外の用途でも広範囲に使用できる。例えば、医療や介護の現場において患者等の移動のために用いることもできる。
【0013】
なお、検出部は、手のひらと接触して把持力を検出するために、作業用グローブに装着された板状、シート状、袋状等の圧力センサで構成することができる。この場合、圧力センサとして、感圧導電性ゴムセンサ等の感圧センサ、ストレンゲージ(ひずみセンサ)、圧電素子等を用いることができ、これらによって圧力を例えば電圧、電流、電気抵抗といった電気量に変換して検知することができる。
【0014】
このような荷役物運搬機において、アクチュエータで発生する吊上げ力の大きさを、荷物に対するアシスト力として、作業者に報知するためのアシスト表示部を備えることができる。アシスト表示部を備えることによって、アシスト力の大きさを、絶対値(吊上げ力の大小)によりリアルタイムで作業者に報知できる。したがって、荷役物運搬機をうまく使いこなせているかが作業者自身にわかり、使いこなし方を作業者に見直す機会を付与できるので、荷役物運搬機の有効利用に寄与する。
【0015】
また、検出部で検出された把持力と、増幅率調整部で可変調整されたアシスト増幅率とを用いて、アシスト力をアシスト表示部に表示することができる。これによって、アシスト力(吊上げ力)を測定しなくてもアシスト力を表示できるので、吊上げ力の測定器を要さず装置の簡素化を図り、リアルタイムで迅速に報知することができる。なお、アシスト表示部には、アシスト増幅率の大小を感度の高低にて表示する感度表示部を併設してもよい。
【0016】
さらに、昇降部に吊り下げられた荷物の下降速度を抑制する下降抑制手段が配置され、把持力の変化量が所定レベル以上に減少したとき、アクチュエータが増幅率調整部で調整されたアシスト増幅率に相当する吊上げ力の変化量を生ずるように荷物を下降する際に、下降抑制手段によってその荷物の下降速度を抑制することができる。荷物を下降させるために把持力を緩めると、アシスト力(吊上げ力)が減少して荷物は下降する。その把持力が急激に減少してアクチュエータが所定以上の速さで下降作動する場合には、荷物の下降を抑制するための下降抑制手段が下降時の抵抗として機能することにより、荷物はゆっくり降下するので下降時の荷役作業の安全に資することができる。このような下降抑制手段には、例えば排気管路の絞り弁や、昇降ワイヤのブレーキ等が用いられる。
【0017】
具体的には、アクチュエータとしてのエアシリンダと大気排出口との間の管路に、そのエアシリンダから大気中への排気量を規制することにより、昇降部に吊り下げられた荷物の下降速度を抑制する下降抑制手段としての絞り弁が配設され、把持力の変化量が所定レベル以上に減少したとき、エアシリンダが増幅率調整部で調整されたアシスト増幅率に相当する吊上げ力の変化量を生ずるように荷物を下降する際に、絞り弁によってその荷物の下降速度を抑制することができる。荷物を下降させるために把持力を緩めると、アシスト力(吊上げ力)が減少して荷物は下降する。その把持力が急激に減少してエアシリンダが所定以上の速さで減圧して下降作動する場合には、エアシリンダからの排気が絞られることにより、荷物はゆっくり降下するので下降時の荷役作業の安全に資することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
(実施例)
以下、本発明の実施の形態を図面を参照しつつ説明する。図1は本発明に係る荷役物運搬機を用いた荷役作業を例示する斜視図、図2はその部分拡大図、図3はその作動を説明するグラフである。図1に示すように、荷役物運搬機1の昇降アーム5(昇降部)に吊り下げられた荷物L(荷役物;搬送対象物)を作業者が反重力方向に持ち上げる際に、昇降アーム5では荷物Lを吊り上げる吊上げ力を発生する。このとき、作業者の持上げ力FLと昇降アーム5の吊上げ力FAとを荷物Lの重量Wに釣り合わせることによって、すなわち吊上げ力FA(アシスト力)により持上げ力FLをアシストすることによって、荷物Lを容易に昇降移動することができる(図3参照)。
【0019】
具体的には、台座2に旋回台3が支承され、旋回台3上に固定配置された本体部4に昇降アーム5が取り付けられている。昇降アーム5の先端部(下端部)には、二又状の吊下げ枠6に沿って移動可能な一対の吊下げベルト7(連結具)と、各吊下げベルト7の先端部(下端部)に取り付けられるフック8(接続具)とを介して、左右一双のグローブ10L,10R(図4参照)からなるグローブユニット10(荷役物運搬機用グローブユニット)が吊り下げ保持されている。
【0020】
図2に示すように、グローブユニット10を構成する何れか一方のグローブ(例えば、右手用グローブ10R)は、荷物Lを把持する際の把持力を検出するための圧力センサ21からなる検出部20を有している。荷役作業の際、グローブユニット10は作業者の手Hに装着されて使用され、右手用グローブ10Rの検出部20(圧力センサ21)により手のひらで荷物Lを把持する際の把持力FHを検出して、吊上げ力FA又は昇降速度の調整を可能としている(図5参照)。
【0021】
図4は荷役物運搬機の制御ブロック図の一例を示す。荷役物運搬機1の制御系は、図4において実線及び破線で示す空気圧管路Aと、二点鎖線で示す電気信号線Eとで構成されている。コンプレッサ等のエア供給源101から供給された空気圧が、本体部4に配置された単動形のエアシリンダ130(アクチュエータ)に供給(又はエアシリンダ130から排気)される。これにより、エアシリンダ130は、昇降アーム5に吊り下げられた荷物L(図1参照)を昇降するためのアシスト力(吊上げ力)FA(図3参照)を発生する。
【0022】
さらに、昇降アーム5の内部には、複数(例えば2個)の定滑車5aと1個の動滑車5bとにワイヤ5cが掛け渡されている。したがって、エアシリンダ130のピストン131の昇降動は、動滑車5bの昇降動とワイヤ5cの巻き上げ・巻き戻しを介して、吊下げ枠6の昇降動として伝達される。このように、ピストン131の昇降動が動滑車5bの昇降動に置き換えられるので、昇降アーム5の先端側における吊下げ枠6の移動距離はピストン131の移動距離の2倍に拡大され、荷物Lの昇降位置(停止位置)の調整が容易になる。
【0023】
図4の空気圧管路Aは、空気供給源101から空気圧調整ユニット110(レギュレータ)とシリンダ駆動ユニット120とを介して、エアシリンダ130に接続されている。空気圧調整ユニット110は、供給エアから塵埃等を除去するためのドレン排出器付きフィルタ111、出口側圧力を調整(減圧)するためのリリーフ付き減圧弁112、及び調整後の空気圧を表示するための圧力計113を含み、シリンダ駆動ユニット120やエアシリンダ130に所定の空気圧を供給する。
【0024】
シリンダ駆動ユニット120は、エアシリンダ130に対する給排気を切り換えるための切換弁121と、入口側圧力(供給圧)の低下時(異常時)にエアシリンダ130に対する給排気を停止するための安全弁122とを含む。切換弁121には3ポート3位置切換で外部空気圧パイロット作動形が用いられ、後述する制御部30で調整されたパイロット空気圧で比例制御が行われる。すなわち、切換弁121には、エアシリンダ130に対する給排気ポートをすべて閉鎖するa位置を挟んで、エアシリンダ130に給気するb位置とエアシリンダ130から排気するc位置とが設定されている。そこで、切換弁121は、制御部30で調整されたパイロット空気圧に基づいてa,b,cの3位置に順次切り換えられる。このように、切換弁121には、パイロット空気圧に応じてa,b,cの3位置切り換えを行い、エアシリンダ130への供給空気圧を調整する機能を有する調圧型が用いられている。
【0025】
エア供給源101や空気圧調整ユニット110が正常稼動しているときには、安全弁122はx位置に切り換わってエアシリンダ130に対する給排気ポートを連通し、昇降アーム5による荷物Lの昇降を可能にする。一方、エア供給源101や空気圧調整ユニット110に異常が発生したときには、安全弁122はy位置に切り換わってエアシリンダ130に対する給排気ポートを閉鎖し、昇降アーム5による荷物Lの昇降を不能にして荷物Lの落下を防止する。
【0026】
図4の電気信号線Eは、検出部20(圧力センサ21)で検出された把持力FHの検出信号が制御部30に入力され、制御部30にて切換弁121のパイロット空気圧を制御するための信号を出力する。具体的には、制御部30は、オペアンプ31(増幅回路)と内部空気圧パイロット作動形の比例電磁式圧力制御弁(以下、電空比例弁ともいう)33とを含む。オペアンプ31の+端子側は抵抗器34を介してグランド接続される一方、−端子側には、検出部20(圧力センサ21)で検出された把持力FHの検出信号が入力されるとともに、可変抵抗器35を介して負帰還接続されている。
【0027】
したがって、オペアンプ31では、圧力センサ21で検出された把持力FHの大きさ(検出信号)に応じた制御信号(増幅信号)が出力される。電空比例弁33はオペアンプ31からの制御信号に基づいて作動し、切換弁121のパイロット空気圧を比例制御する。
【0028】
図5に示すように、エアシリンダ130は、検出部20(圧力センサ21)によって検出された把持力FHの大きさに応じて吊上げ力FAを発生して荷物Lの昇降移動をアシストすることができる。このとき、把持力FHの大きさ(例えば10N)に対する吊上げ力FAの大きさ(例えば80N)の比がアシスト増幅率α(例えば8倍)となる。すなわち、
α=FA/FH (1)
【0029】
図4において、制御部30には、エアシリンダ130に対する給排気の空気圧を制御して、アシスト増幅率αを連続的に可変調整するための増幅率調整部が設けられている。具体的には、オペアンプ31の負帰還回路の抵抗器を可変抵抗器35で構成することによって、オペアンプ31から出力される制御信号の増幅率(ゲイン)を調整し、電空比例弁33を作動させて切換弁121のパイロット空気圧を変更することにより、アシスト増幅率αの調整を行う。
【0030】
例えば、図4の可変抵抗器35の調整により、図5においてアシスト増幅率αが大きくなると、把持力FHの変化量ΔFHに対する吊上げ力FAの変化量ΔFAが相対的に大きくなり、高感度状態(敏感状態)となるので、僅かの操作(把持力FH)で大きなアシスト力(吊上げ力FA)を得やすくなる。したがって、例えば熟練作業者や硬く変形しにくい荷物向けに高感度状態で荷役作業を行ない、サイクルタイムを短縮して作業能率の向上を図ることができる。
【0031】
一方、図4の可変抵抗器35の調整により、図5においてアシスト増幅率αが小さくなると、把持力FHの変化量ΔFHに対する吊上げ力FAの変化量ΔFAが相対的に小さくなり、低感度状態(鈍感状態)となるので、不意に大きなアシスト力(吊上げ力FA)が発生しにくくなる。したがって、例えば初心作業者や脆く変形しやすい荷物向けに低感度状態で荷役作業を行ない、作業の慣れや安全性の向上を図ることができる。
【0032】
このように、可変抵抗器35を調整して切換弁121のパイロット空気圧を変更するだけでアシスト増幅率αの調整が行え、感度が極めて容易に調節できる。
【0033】
図4に戻り、荷役物運搬機1の旋回台3には、エアシリンダ130で発生する吊上げ力FAの大きさを作業者に報知するためのアシスト表示部50が備えられている。アシスト表示部50には、アシスト力表示領域51が形成され、複数(例えば8個)のLEDが上下一列状に配置されて、吊上げ力FAの大きさを発光位置や発光個数によって表示する。なお、フルカラーLED等を用い、連続的に色変化させるようにしてもよい。
【0034】
ところで、アシスト力FAは、上記した式(1)より、
FA=α・FH (2)
と表わすことができる。すなわち、アシスト力FA(吊上げ力)を測定しなくても、把持力FHとアシスト増幅率αとを用いて演算により求めることができるから、吊上げ力FAの測定器を要しない。
【0035】
また、旋回台3には、アシスト表示部50の近傍に、アシスト増幅率αの大小を感度の高低にて表示する感度表示部60が併設されている。具体的には、可変抵抗器35の調整用摘み61の位置によって感度の高低を(段階的又は連続的に)表示する。
【0036】
切換弁121の排気側管路(具体的には切換弁121と消音器150との間)には、切換弁121がc位置に移動したときに、エアシリンダ130から大気中への排気量を規制することにより、昇降アーム5に吊り下げられた荷物Lの下降速度を抑制するための絞り弁140(下降抑制手段)が配設されている。荷物Lを下方移動させようとして、作業者の把持力FHが小さくなったとき、切換弁121はエアシリンダ130からの排気位置(c位置)に移動する時間が相対的に大となる。つまり、昇降アーム5は、エアシリンダ130が可変抵抗器35で調整されたアシスト増幅率αに相当する吊上げ力FAの変化量ΔFAを生ずるように荷物Lを下降しようとする。このとき、把持力FHの変化量ΔFHが所定レベル以上に減少すると、エアシリンダ130が所定以上の速さで減圧して下降作動しないように、絞り弁140によって荷物Lの下降速度が抑制される。
【0037】
この絞り弁140の構造と作動を図6に示す。図6(a)に示すように、絞り弁140は、空気流通方向を軸線方向とする円筒状の本体部141と、本体部141の内側に収納され軸線方向に所定の厚みを有する円盤状の作動板142(板状部材)と、作動板142の一方の端面(下端面)と本体部141の内壁面(底面)との間に配置された圧縮コイルばね143(弾性部材)とを含む。作動板142は空気流通方向(軸線方向)の上手側(入口側)に位置して、本体部141の内周面に沿って軸線方向に移動可能であり、圧縮コイルばね143は空気流通方向の下手側(出口側)に配置されて軸線方向に弾性変形(伸縮)可能である。作動板142には、軸線(中心)を含む中心貫通孔142aと、中心貫通孔142a(軸線)を中心とするピッチ円上に所定間隔(例えば90°間隔)で複数(例えば4個)配置された周辺貫通孔142bとが、各々軸線方向に貫通形成されている。また、圧縮コイルばね143の外径Dは、周辺貫通孔142bのピッチ円直径をPCDとし、周辺貫通孔142bの孔径をdとしたとき、
D≦PCD−d (3)
に設定されている。
【0038】
そこで、荷物Lを下方移動させるために作業者の把持力FHが小さくなると、一般的には図6(b)に示すように、作動板142は切換弁121からの排気圧力(又は排気流量)に応じて圧縮コイルばね143を押し縮めながら出口側に移動する。ただし、圧縮コイルばね143の隣り合うコイルは密着していないので、切換弁121からの排気は作動板142の中心貫通孔142a及び周辺貫通孔142bから排出される。したがって、図6(b)の状態では、絞り弁140による絞り作用(下降速度の抑制作用)は発揮されない。
【0039】
次に、把持力FHの変化量ΔFHが所定レベル以上に減少したとき、切換弁121はエアシリンダ130内の空気圧を大きく減圧するために、パイロット空気圧を小として急激に排気を行うことになる。このとき、図6(c)に示すように、作動板142は切換弁121からの大きな排気圧力(又は排気流量)によって圧縮コイルばね143を急激に押し縮めながら出口側に移動する。そして、圧縮コイルばね143は隣り合うコイルが密着状態となって円筒状の壁部を形成し、周辺貫通孔142bからの排気を遮断するため、切換弁121からの排気は作動板142の中心貫通孔142aのみから排出される。したがって、図6(c)の状態では、絞り弁140による絞り作用(下降速度の抑制作用)が発揮され、切換弁121を介してエアシリンダ130から流入する空気の排出が中心貫通孔142aからのみに規制される。
【0040】
このように、把持力FHの変化量ΔFHが所定レベル以上に減少したときに、エアシリンダ130からの排気が絞り弁140によって絞られることにより荷物Lはゆっくり降下するので、下降時の荷役作業の安全性が高められる。
【0041】
以上の実施例では、アクチュエータにエアシリンダ130を用いたが、油圧シリンダ、電動モータ等を用いてもよい。また、アシスト増幅率αを可変調整する増幅率調整部をマイコン等の制御基板に搭載し、信号波形をディジタル処理してもよい。さらに、把持力FHの変化量ΔFHが所定レベル以上に減少したことを検出部20が検出したときに、絞り弁140を電気的に絞り制御してもよい。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【図1】本発明に係る荷役物運搬機を用いた荷役作業を例示する斜視図。
【図2】図1の部分拡大図。
【図3】図1の荷役物運搬機の作動を説明するグラフ。
【図4】図1の荷役物運搬機の制御系の一例を示すブロック図。
【図5】アシスト増幅率を説明するグラフ。
【図6】絞り弁の構造と作動を示す説明図。
【符号の説明】
【0043】
1 荷役物運搬機
5 昇降アーム(昇降部)
10 グローブユニット(荷役物運搬機用グローブユニット)
10R 右手用グローブ(荷役物運搬機用グローブ)
10L 左手用グローブ(荷役物運搬機用グローブ)
20 検出部
21 圧力センサ
30 制御部
33 電空比例弁(比例電磁式圧力制御弁)
35 可変抵抗器(増幅率調整部)
50 アシスト表示部
60 感度表示部
101 空気供給源
120 シリンダ駆動ユニット
121 切換弁
130 エアシリンダ(アクチュエータ)
140 絞り弁(下降抑制手段)
FA 吊上げ力(アシスト力)
FH 把持力
FL 持上げ力
W 荷物重量
α アシスト増幅率

【特許請求の範囲】
【請求項1】
昇降部に吊り下げられた荷物を作業者が反重力方向に持ち上げる持上げ力と、前記昇降部が荷物を吊り上げる吊上げ力とを荷物の重量に釣り合わせることによって荷物を昇降移動する荷役物運搬機において、
作業者が荷物を把持する際の把持力を検出する検出部と、
その検出部によって検出された把持力の大きさに応じて前記吊上げ力を発生して荷物の昇降移動をアシストするために前記昇降部に配置されたアクチュエータと、
前記検出部によって検出される把持力の大きさに対し、その把持力に対応して前記アクチュエータが発生する吊上げ力の大きさの比をとってアシスト増幅率とし、そのアシスト増幅率を段階的に又は連続的に可変調整する増幅率調整部とを備え、
前記増幅率調整部は、前記アシスト増幅率が大のとき、前記把持力の変化量に対する前記吊上げ力の変化量が相対的に大きい高感度状態となる一方、前記アシスト増幅率が小のとき、前記把持力の変化量に対する前記吊上げ力の変化量が相対的に小さい低感度状態となることを特徴とする荷役物運搬機。
【請求項2】
昇降部に吊り下げられた荷物を作業者が反重力方向に持ち上げる持上げ力と、前記昇降部が荷物を吊り上げる吊上げ力とを荷物の重量に釣り合わせることによって荷物を昇降移動する荷役物運搬機において、
作業者が荷物を把持する際の把持力を検出する検出部と、
その検出部によって検出された把持力の大きさに応じて前記吊上げ力を発生して荷物の昇降移動をアシストするために前記昇降部に配置されたアクチュエータとしてのエアシリンダと、
前記検出部によって検出される把持力の大きさに対し、その把持力に対応して前記エアシリンダが発生する吊上げ力の大きさの比をとってアシスト増幅率とし、前記エアシリンダに対する給排気の空気圧及び/又は空気量を制御することにより、前記アシスト増幅率を段階的に又は連続的に可変調整する増幅率調整部とを備え、
前記増幅率調整部は、前記アシスト増幅率が大のとき、前記把持力の変化量に対する前記吊上げ力の変化量が相対的に大きい高感度状態となる一方、前記アシスト増幅率が小のとき、前記把持力の変化量に対する前記吊上げ力の変化量が相対的に小さい低感度状態となることを特徴とする荷役物運搬機。
【請求項3】
前記エアシリンダと空気供給源との間の管路には、そのエアシリンダに対する給排気を切り換えるための切換弁が配設され、
前記増幅率調整部は、その切換弁のパイロット圧を変更することにより当該切換弁における前記エアシリンダへの供給圧を調整して、前記アシスト増幅率の調整を行う請求項2に記載の荷役物運搬機。
【請求項4】
前記アクチュエータで発生する吊上げ力の大きさを、荷物に対するアシスト力として作業者に報知するためのアシスト表示部を備える請求項1ないし3のいずれか1項に記載の荷役物運搬機。
【請求項5】
前記検出部で検出された把持力と、前記増幅率調整部で可変調整されたアシスト増幅率とを用いて、前記アシスト力を前記アシスト表示部に表示する請求項4に記載の荷役物運搬機。
【請求項6】
前記昇降部に吊り下げられた荷物の下降速度を抑制する下降抑制手段が配置され、
前記把持力の変化量が所定レベル以上に減少したとき、前記アクチュエータが前記増幅率調整部で調整されたアシスト増幅率に相当する吊上げ力の変化量を生ずるように前記荷物を下降する際に、前記下降抑制手段によってその荷物の下降速度が抑制される請求項1ないし5のいずれか1項に記載の荷役物運搬機。
【請求項7】
前記アクチュエータとしてのエアシリンダと大気排出口との間の管路に、そのエアシリンダから大気中への排気量を規制することにより、前記昇降部に吊り下げられた荷物の下降速度を抑制する下降抑制手段としての絞り弁が配設され、
前記把持力の変化量が所定レベル以上に減少したとき、前記エアシリンダが前記増幅率調整部で調整されたアシスト増幅率に相当する吊上げ力の変化量を生ずるように前記荷物を下降する際に、前記絞り弁によってその荷物の下降速度が抑制される請求項6に記載の荷役物運搬機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2008−247488(P2008−247488A)
【公開日】平成20年10月16日(2008.10.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−86998(P2007−86998)
【出願日】平成19年3月29日(2007.3.29)
【出願人】(000100735)アイコクアルファ株式会社 (17)