説明

荷電を有する限外濾過膜を用いた生体成分の分離方法およびモジュール、装置

【課題】
標的生体成分を高回収率、高純度で分離する方法、および分離する方法に使用するモジュール、装置を提供する。
【解決手段】
標的生体成分の分子量が10〜1,000kDaであって、分画分子量が標的生体成分の0.7倍以上4.5倍未満である荷電を有する限外濾過膜を用いて、標的生体成分と少なくとも標的生体成分の2量体を含む不純物生体成分を含む生体成分溶液であって、生体成分濃度が1〜150g/Lである溶液を、クロスフロー濾過することにより、標的生体成分を80%以上の透過率で透過させ、かつ、標的生体成分が荷電を有する限界濾過膜を透過する透過率と標的生体成分の2量体が荷電を有する限界濾過膜を透過する透過率の比が0.20以下にできる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、標的生体成分の分子量が10〜1,000kDaであって、分画分子量が標的生体成分の0.7倍以上4.5倍未満である荷電を有する限外濾過膜を用いて、少なくとも標的生体成分とその凝集体を含む生体成分溶液であって、生体成分濃度が1〜150g/Lである溶液を、クロスフロー濾過することにより、標的生体成分を分離する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
免疫グロブリン(抗体)は、主に血液中や体液中に存在し、体内に侵入してきた細菌・ウイルスなどの微生物や、微生物に感染した細胞を抗原として認識して結合する。抗体が抗原へ結合すると、その抗原と抗体の複合体を白血球やマクロファージといった食細胞が認識・貪食して体内から除去するように働いたり、リンパ球などの免疫細胞が結合して免疫反応を引き起こしたりする。このように、免疫グロブリンは、感染防御機構において重要な役割を担っている。
【0003】
免疫グロブリンを製造する方法としては、生体成分、主に血液から分離精製する方法やハイブリドーマなどの細胞から分離精製する方法などがある。しかしながら、生体成分には10万種以上のタンパク質やDNA、RNA、ウイルスなどの微生物が存在し、それらを免疫グロブリンから分離する必要がある。
さらに、免疫グロブリンには、複数の免疫グロブリンが非共有結合で結合した凝集体(主に2量体)も存在している。免疫グロブリン凝集体は、免疫グロブリン製剤を人体に静脈注射した際に現われる副作用、例えば、チアノーゼや血圧低下などのショック様反応や、呼吸困難などの気道症状、さらに皮疹等の原因のひとつとされている。この凝集体は互いに凝集して、より大きな多量体を作る傾向があり、溶液中に白濁や沈殿を生じることもある。また、他の蛋白質、菌、ウイルス等を核としてその周囲に結合し、抗原抗体複合体と呼ばれる巨大な蛋白質凝集体を形成する場合もある。一旦、形成された凝集体は、一般に容易に解離させることができない。それ故に、これら凝集体を溶液中から除去する方法は、従来から数多く提案されている。
【0004】
これらが混合する溶液から免疫グロブリン1量体を分離するために数種類の精製方法が報告されている。例えば、イオン交換クロマトグラフィー法や疎水性クロマトグラフィー法、ゲルクロマトグラフィー法、化学的処理法、吸着法、限外濾過膜法などが挙げられる。
電荷や疎水性が大きく異なる物質を分離する場合、イオン交換クロマトグラフィーや疎水性クロマトグラフィー法は有効であるが、免疫グロブリン1量体と2量体のように電荷や疎水性の度合いが近い物質では、十分に分離できない上、大量の溶離液、塩が必要である等の欠点がある。
一方、ゲルクロマトグラフィー法は、サイズ分離であるため、大きさの異なる免疫グロブリン1量体と2量体の分離に有効であるが、大量の免疫グロブリンを処理することはできず、作業に要する時間やコストが長大になる欠点がある。
【0005】
化学物質を添加する化学的処理法は大量処理が可能であるが、処理に用いた薬品を溶液から除去する必要があり、さらには、処理によって免疫グロブリンの失活や変性を招きやすく、免疫グロブリンの透過率を低下させることとなる。
また、吸着方法も免疫グロブリン2量体の除去効率が高いとはいえず、さらに、化学的処理と同様に添加した吸着剤の除去という作業が必要となる。
【0006】
最近、ロバストネスが高く、簡便で、大量の免疫グロブリンを処理できる限外濾過膜法が注目され、多くの報告例がある。
例えば、限外濾過膜法として、ポリスルホン系高分子より成膜された限外濾過膜で濾過することによるグロブリン2量体の除去方法(特許文献1)が提案されている。しかしながら、この方法実施後のグロブリン1量体の透過率は40%前後と極めて低く、また、濾過速度、濾過容量ともに低く、工業的な有効性が高いとはいえない。
【0007】
再生セルロース中空糸膜で濾過することによる免疫グロブリン凝集体の除去方法(特許文献2)も提案されているが、免疫グロブリン2量体がほとんど除去されず、このことより、免疫グロブリン2量体の分離には十分な方法ではなかった。
【0008】
また、限外濾過膜を使用し、クロスフロー濾過することによって免疫グロブリン2量体を除去する方法(特許文献3)が報告されているが、免疫グロブリン1量体と2量体の分画性能についてのデータは全く記載されていない。
【0009】
また、分子量の相違が10倍未満である生体成分を、転移点での流束の5から100%の範囲のレベルに維持しながらクロスフロー濾過することで分離する方法(特許文献4)が報告されているが、10万以下の蛋白分離について報告されているだけで、免疫グロブリン1量体と2量体の分離についてのデータは全く記載されていない。
【0010】
また、人血漿から分画された免疫グロブリンGの水溶液から凝集体を除去した後、界面活性剤の存在下、ポリオレフィン多孔質膜で濾過し、抗補体活性を低減させる方法(特許文献5)が報告されているが、免疫グロブリン1量体と2量体の分離に関する具体的なデータはなく、さらに、15nm以上の大きい孔を有する膜を使用しているため、膜による抗補体活性の低減が十分ではなかった。
【0011】
一方、免疫グロブリン以外のバイオ医薬としては従来よりインターフェロン、ワクチン、インスリン、血液凝固因子、成長ホルモン、グルカゴン、エリスロポエチン、顆粒状コロニー刺激因子、骨形成因子、プロテインC、可溶性受容体、抗ウィルス剤、ワクチン等が知られているが、抗体同様、凝集体による様々な副作用が問題視されている。
【特許文献1】特公昭62−3815号公報
【特許文献2】特開平6−279296号公報
【特許文献3】特許第3746223号公報
【特許文献4】特許第3828143号公報
【特許文献5】特公平7−78025号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明の課題は、標的生体成分の分子量が10〜1,000kDaであって、分画分子量が標的生体成分の0.7倍以上4.5倍未満である荷電を有する限外濾過膜を用いて、標的生体成分と少なくとも標的生体成分の2量体を含む不純物生体成分を含む生体成分溶液であって、生体成分濃度が1〜150g/Lである溶液を、クロスフロー濾過することにより、標的生体成分と少なくとも標的生体成分の2量体を含む不純物生体成分を分離し、かつ、標的生体成分が荷電を有する限界濾過膜を透過する透過率と標的生体成分の2量体が荷電を有する限界濾過膜を透過する透過率の比が0.20以下にできる分離方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、標的生体成分の分子量が10〜1,000kDaであって、分画分子量が標的生体成分の0.7倍以上4.5倍未満である荷電を有する限外濾過膜を用いて、標的生体成分と少なくとも標的生体成分の2量体を含む不純物生体成分を含む生体成分溶液であって、生体成分濃度が1〜150g/Lである溶液を、クロスフロー濾過することにより、標的生体成分を80%以上の透過率で透過させ、かつ、標的生体成分が荷電を有する限界濾過膜を透過する透過率と標的生体成分の2量体が荷電を有する限界濾過膜を透過する透過率の比が0.20以下にできる分離方法を見出し、本発明を完成するに至った。
【0014】
即ち、本発明は、
[1]標的生体成分の分子量が10〜1,000kDaであって、分画分子量が標的生体成分の0.7倍以上4.5倍未満である荷電を有する限外濾過膜を用いて、標的生体成分と少なくとも標的生体成分の2量体を含む不純物生体成分を含む生体成分溶液であって、 標的生体成分と少なくとも標的生体成分の2量体を含む不純物生体成分とを併せた生体成分濃度が1〜150g/Lである溶液を、クロスフロー濾過することにより、標的生体成分と少なくとも標的生体成分の2量体を含む不純物生体成分を分離することを特徴とする分離方法。
[2]該生体成分濃度が、5〜100g/Lであることを特徴とする上記 [1]に記載の分離方法。
[3]該生体成分濃度を、実質一定に維持しながらクロスフロー濾過することを特徴とする上記[1]または[2]に記載の分離方法。
[4]該生体成分が、ポリペプチド、糖、RNA、及び、DNAのいずれか少なくとも一つ以上を含むことを特徴とする上記[1]〜[3]のいずれかに記載の分離方法。
[5]該ポリペプチドが、抗体、低分子化抗体、アルブミン、血液凝固因子、インターロイキン、インターフェロン、細胞吸着因子、細胞成長因子、酵素、リボ蛋白、ワクチンのいずれか少なくとも一つ以上を含むことを特徴とする上記[4]に記載の分離方法。
[6]該抗体が、免疫グロブリンであることを特徴とする上記[5]に記載の分離方法。
[7]該免疫グロブリンが、モノクローナル抗体であることを特徴とする上記[6]に記載の分離方法。
[8]該少なくとも標的生体成分の2量体を含む不純物生体成分が、免疫グロブリンとプロテインAからなる複合凝集体等の標的生体成分と溶出したアフィニティーリガンドからなる複合凝集体を含むことを特徴とする上記[1]〜[7]のいずれかに記載の分離方法。
[9]該少なくとも標的生体成分の2量体を含む不純物生体成分が、標的生体成分の出発原料由来の凝集体であるエンドトキシン、DNA、CHOP(チャイニーズハムスター卵巣細胞タンパク)のいずれか少なくとも一つ以上を含むことを特徴とする上記[1]〜[8]のいずれかに記載の分離方法。
[10]該荷電を有する限外濾過膜が、荷電性ビニルアルコール系高分子膜、または荷電性スルホン系高分子膜であることを特徴とする上記[1]〜[9]のいずれかに記載の分離方法。
[11]該荷電を有する限外濾過膜が、正荷電基としてジアルキルアミノ基、トリアルキルアンモニウム塩基のいずれか少なくとも一つ以上を有することを特徴とする上記[1]〜[10]のいずれかに記載の分離方法。
[12]該荷電を有する限外濾過膜が、負荷電基としてスルホン酸基、カルボン酸基のいずれか少なくとも一つ以上を有することを特徴とする上記[1]〜[10]のいずれかに記載の分離方法。
[13]上記[1]〜[12]のいずれかに記載の分離方法が、該溶液のアフィニティクロマトグラフィー精製工程の後に用いられることを特徴とする分離方法。
[14]該限外濾過膜が、中空糸膜であることを特徴とする上記[1]〜[13]のいずれかに記載の分離方法。
[15]濾過の流速を転移点での流速を越えるレベルに維持し、さらに、濾過のトランスメンブレン圧を流速の転移点でのトランスメンブレン圧を越えるレベルに維持することを特徴とする上記[1]〜[14]のいずれかに記載の分離方法。
[16]下記(イ)〜(ニ)からなる手段の1つ以上の手段を含む装置を用いて行う上記[1]〜[15]のいずれかに記載の分離方法。
(イ)生体成分溶液の濃度をモニタリングできる手段
(ロ)生体成分溶液の濃度をコントロールできる手段
(ハ)生体成分溶液の線速をコントロールできる手段
(ニ)限外濾過膜の濾過圧力をコントロールできる手段
[17]上記[1]〜[15]のいずれかに記載の分離方法に使用するモジュールおよび下記(イ)〜(ニ)からなる手段の1つ以上の手段を含む装置。
(イ)生体成分溶液の濃度をモニタリングできる手段
(ロ)生体成分溶液の濃度を調整できる手段
(ハ)生体成分溶液の線速をコントロールする手段
(ニ)限外濾過膜の濾過圧力をコントロールする手段
である。
【発明の効果】
【0015】
本発明は、標的生体成分の分子量が10〜1,000kDaであって、分画分子量が標的生体成分の0.7倍以上4.5倍未満である荷電を有する限外濾過膜を用いて、標的生体成分と少なくとも標的生体成分の2量体を含む不純物生体成分を含む生体成分溶液であって、生体成分濃度が1〜150g/Lである溶液を、クロスフロー濾過することにより、標的生体成分を80%以上の透過率で透過させ、かつ、標的生体成分が荷電を有する限界濾過膜を透過する透過率と標的生体成分の2量体が荷電を有する限界濾過膜を透過する透過率の比が0.20以下にできる。
本発明は、荷電を有する限外濾過膜でクロスフロー濾過するだけであるので、クロマトグラフィーのような方法に比べてきわめて簡易な作業であり、大量の生体成分溶液を処理できる。また、化学的処理方法とは異なり、標的生体成分の失活や変性を起こす事もない。さらに、公知の膜とは異なり、標的生体成分を高回収率、高純度で分離できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明に係わる荷電を有する限外濾過膜を用いた生体成分の分離方法および装置について具体的に説明する。
【0017】
本発明に係わる生体成分とは、ポリペプチド、糖、RNAおよびDNAなどが挙げられ、生体成分溶液としては少なくともこれらを一つ以上含むものである。本発明に係わるポリペプチドとは、約10より多くのアミノ酸を有するペプチドおよびタンパク質をいう。好ましくは、このポリペプチドは、哺乳動物タンパク質である。例えば、抗体(免疫グロブリン)、低分子化抗体、アルブミン、血液凝固因子、インターロイキン、インターフェロン、細胞吸着因子、細胞成長因子、酵素、リボ蛋白、ホルモン、ワクチンなどが挙げられる。
【0018】
さらに具体的には、レニン;成長ホルモン(ヒト成長ホルモンおよびウシ成長ホルモンを含む);成長ホルモン放出因子;副甲状腺ホルモン;甲状腺刺激ホルモン;リポタンパク質;α−1−抗トリプシン;インスリンA鎖;インスリンB鎖;プロインスリン;卵胞刺激ホルモン;カルシトニン;黄体化ホルモン;グルカゴン;凝固因子(例えば、第VIIIC因子、第IX因子、組織因子およびフォン・ビルブラント因子);抗凝固因子(例えば、プロテインC);心房性ナトリウム利尿因子;肺界面活性物質;プラスミノーゲン活性化因子(例えば、ウロキナーゼまたはヒト尿または組織型プラスミノーゲン活性化因子(t−PA));ボンベシン;トロンビン;造血増殖因子;腫瘍壊死因子−αおよび腫瘍壊死因子−β;エンケファリナーゼ;RANTES(通常発現および分泌されるT細胞の活性化を調節する);ヒトマクロファージ炎症タンパク質(MIP−1−α);血清アルブミン(例えば、ヒト血清アルブミン);Muellerian阻害物質;リラキシンA鎖;リラキシンB鎖;プロリラキシン;マウスゴナドトロピン関連ペプチド;微生物タンパク質(例えば、β−ラクタマーゼ);DNase;IgE;細胞傷害性Tリンパ球関連抗原(CTLA)(例えば、CTLA−4);インヒビン;アクチビン;血管内皮増殖因子(VEGF);ホルモンまたは増殖因子に対するレセプター;プロテインAまたはプロテインD;リウマチ因子;神経栄養因子(例えば、骨由来神経栄養因子(BDNF)、ニューロトロフィン−3、ニューロトロフィン−4、ニューロトロフィン−5またはニューロトロフィン−6(NT−3、NT−4、NT−5またはNT−6)、またはNGF−βのような神経成長因子);血小板由来増殖因子(PDGF);線維芽細胞増殖因子(例えば、aFGFおよびbFGF);上皮増殖因子(EGF);トランスホーミング増殖因子(TGF)(例えば、TGF−αおよびTGF−β(TGF−β1、TGF−β2、TGF−β3、TGF−β4またはTGF−β5を含む));インスリン様増殖因子−Iおよびインスリン様増殖因子−II(IGF−IおよびIGF−II);des(1−3)−IGF−I(脳IGF−I)、インスリン様増殖因子結合タンパク質(IGFBP);CDタンパク質(例えば、CD3、CD4、CD8、CD19、CD20、CD34およびCD40);エリスロポイエチン;骨誘導因子;免疫毒素;骨形態形成タンパク質(BMP);インターフェロン(例えば、インターフェロン−α、インターフェロン−β、およびインターフェロン−γ);コロニー刺激因子(CSF)(例えば、M−CSF、GM−CSFおよびG−CSF);インターロイキン(IL)(例えば、IL−1〜IL−10);スーパーオキシドジスムターゼ;T細胞レセプター;表面膜タンパク質;崩壊促進因子;ウイルス抗原(例えば、AIDSエンベロープの一部);輸送タンパク質;ホーミングレセプター;アドレシン(addressin);調節タンパク質:インテグリン(例えば、CD11a、CD11b、CD11c、CD18、ICAM、VLA−4およびVCAM);腫瘍関連抗原(例えば、HER2レセプター、HER3レセプターまたはHER4レセプター);ならびに上記のポリペプチドのいずれかのフラグメントおよび/または改変体などが挙げられる。
【0019】
本発明に係わる抗体とは、最も広範な意味で使用され、具体的にはモノクローナル抗体
(全長モノクローナル抗体を含む)、ポリクローナル抗体、多特異的抗体( 例えば、二
重特異性抗体)、または、リガンド特異的な結合領域を含むように改変される限り抗体フ
ラグメントリガンド特異的な結合領域を保持する限り全て包含する。ここでの抗体は、目的の「抗原」に対して方向づけられている。抗原は、好ましくは、生物学的に重要なポリペプチドであり、疾患または傷害に羅患した哺乳動物への抗体の投与が、その哺乳動物において治療的利益をもたらし得る。また、非ポリペプチド抗原(例えば、腫瘍関連の糖脂質抗原;米国特許第5,091,178号参照)に対する抗体も含まれる。抗原がポリペ
プチドである場合、抗原は膜貫通分子(例えば、レセプター) または、リガンド(例え
ば、成長因子)であり得る。
本発明に係わる抗体とは、治療的利益をもたらしうる抗体であれば何ら限定しないが、
例えば、ヒト抗体、ヒト化抗体、キメラ抗体、非ヒト抗体、抗体フラグメントが挙げられ
る。
【0020】
本発明に係わるヒト化抗体は、ヒト免疫グロブリン(レシピエント抗体)であり、ここ
で、このレシピエントの超可変領域残基は、所望の特異性、親和性および能力を有する非
ヒト種(例えば、マウス、ラット、ウサギまたは非ヒト霊長類)由来の超可変領域残基(
ドナー抗体)で置換される。いくつかの例において、ヒト免疫グロブリンのFvフレーム
ワーク領域(FR)残基は、対応する非ヒト残基によって置換される。さらに、ヒト化抗
体は、レシピエント抗体でもドナー抗体でも見出されない残基を含み得る。これらの改変
は、抗体の性能をさらに洗練するように行われ得る。一般に、ヒト化抗体は、少なくとも
1つの、そして代表的には2つの可変ドメインの実質的に全てを含み、ここで、超可変ル
ープの全てまたは実質的に全てが、非ヒト免疫グロブリンの超可変ループに対応し、そし
てFR領域の全てまたは実質的に全てが、ヒト免疫グロブリン配列のFR領域である。ヒ
ト化抗体はまた、必要に応じて、免疫グロブリン定常領域(Fc)の少なくとも一部、代
表的には、ヒト免疫グロブリンの一部を含む。
【0021】
本発明に係わるキメラ抗体は、重鎖および/または軽鎖の一部は、特定の種に由来する
、もしくは特定の抗体のクラスもしくはサブクラスに属する抗体において対応する配列と
同一または相同である。一方、鎖の残りの部分は、他の種に由来する、または他の抗体の
クラスまたはサブクラスに属する抗体ならびにそのような抗体のフラグメント(所望の生
物学的活性を表している限り)において対応する配列と同一または相同である。
【0022】
本発明に係わる抗体フラグメントとは、全長抗体の1部分(一般的には、それらの抗原
結合領域または可変領域)を含む。抗体フラグメントの例えは、Fab,Fab‘,F(
ab’)2,Fvフラグメント;単鎖抗体分子、ダイアボディー(diabody);線
状抗体、および抗体フラグメントから形成された多特異的抗体を含む。
【0023】
本発明により含まれる抗体への好ましい分子標的としては、CD ポリペプチド( 例え
ば、CD3、CD4、CD8、CD19、CD20、CD34、およびCD40); H
ERレセプターファミリー(例えば、EGFレセプター、HER2,HE R3またはH
ER4レセプター);細胞接着分子(例えば、LFA−1,Mac1,p150,95,
VLA−4,ICAM−1,VCAM およびaまたはbのサブユニットを含むav/b
3インテグリン(例えば、抗−CD11a,抗CD18,または、抗CD11b抗体)の
メンバー;成長因子(例えば、VEGF);IgE,血液型抗原;flk2/flt3レ
セプター;肥満(OB)レセプター;mplレセプター;CTLA−4;ポリペプチドC
などが挙げられる。可溶性抗原またはフラグメントは、必要に応じて他の分子に結合され
て、抗体産生のための免疫原として使用され得る。膜貫通分子(例えばレセプター)のた
めに、これらのフラグメント(例えば、レセプターの細胞外領域)は免疫原として使用さ
れえる。あるいは、膜貫通分子を発現する細胞が免疫原として使用され得る。
【0024】
本発明に係わる抗体の具体例として、抗HER2、抗CD20、抗IL−8、抗VEG
F、抗PSCA、抗CD11a、抗IgE、抗Apo−2レセプター、抗TNF−α、抗
組織因子(Tissue Factor)(TF)、抗CD3、抗CD25、抗CD34
、抗CD40、抗tac、抗CD4、抗CD52、抗Fcレセプター、抗癌胎児性抗原(
CEA)抗体、胸部上皮細胞に特異的な抗体、結腸癌種細胞に結合する抗体、抗CD33
、抗CD22、抗EpCAM、抗GpIIb/IIIa、抗RSV、抗CMV、抗HIV
、抗肝炎、抗αvβ3、抗ヒト腎細胞癌腫、抗ヒト17−1A、抗ヒト結腸直腸腫瘍、抗
ヒト黒色腫、抗ヒト扁平上皮癌腫、抗ヒト白血病抗原(HLA)抗体、抗HER2レセプ
ター抗体、抗VEGF抗体、抗IgE抗体、抗CD20抗体、抗CD11a抗体、および
抗CD40抗体などが挙げられる。さらに具体的な例としては、Muramomab(製
品名:Orthclone(OKT3)、Rituximab(製品名:Ritaxan
)、Basiliximab(製品名:Simulect)、Daclizumab(製
品名:Zenapax)、Palivizumab(製品名:Synagis)、Inf
liximab(製品名:Remicade)、Gemtuzumab zogamic
n(製品名:Mylotarg)、Alemtuzumab(製品名:Mabcampa
th)、Adalimumab(製品名:Humira)、Omalizumab(製品
名:Xolair)、Vevacizumab(製品名:Avastin)、Cetux
imab(製品名:Erbitux)等が挙げられる。
【0025】
本発明に係わる標的生体成分の分子量は、10〜1,000kDaであり。10kDaより小さい生体成分では、標的生体成分と不純物生体成分の大きさの差が小さくなるために膜によるサイズ分離が困難となる。一方、1,000kDaより大きい生体成分の分離には、限外濾過膜は不適である。
【0026】
本発明に係わる荷電を有する限外濾過膜の分画分子量は、標的生体成分の0.7倍以上4.5倍未満であり、好ましくは1.5〜4.5倍未満、さらに好ましくは、2.0倍以上3.5倍未満、特に好ましくは2.0倍以上2.7である。0.7倍未満であると透過量が低下する問題があり、また、4.5倍を超えると標的生体成分と不純物生体成分の分離性能が低下する問題がある。
分画分子量は、アルブミン(66,000)、γ−グロブリン(150,000)、カタラーゼ(232,000)、フェリチン(440,000)、サイログロブリン(669,000)などを用いて、デッドエンド濾過を行い、分子量と阻止率の関係から阻止率が90%となる分子量として算出される。
【0027】
本発明に係わる少なくとも標的生体成分の2量体を含む不純物生体成分は、先に述べた生体成分が標的生体成分の場合、その2量体を含む不純物生体成分のことを言う。また、少なくとも標的生体成分の2量体を含む不純物生体成分は、3量体以上の凝集体を含んでいても良い。さらに、少なくとも標的生体成分の2量体を含む不純物生体成分は、先に述べた生体成分の異種の凝集体を含んでいても良い。異種の凝集体については、先に述べた生体成分とそれ以外、例えば、プロテインA、脂肪酸、脂質等との凝集体を挙げることができる。より具体的には、免疫グロブリンとプロテインAからなる複合凝集体等の標的生体成分と溶出したアフィニティーリガンドからなる複合凝集体を挙げることができる。
また、本発明に係わる少なくとも標的生体成分の2量体を含む不純物生体成分は、標的生体成分の出発原料由来の凝集体であるエンドトキシン、DNA、CHOP(チャイニーズハムスター卵巣細胞タンパク)を含んでいても良い。
【0028】
本発明に係わる荷電を有する限外濾過膜としては、所望の分画分子量を有する膜を製造でき、生体成分が吸着しなければ何ら限定しないが、例えば、荷電性ビニルアルコール系高分子膜、荷電性スルホン系高分子膜、荷電性芳香族エーテル系高分子膜、荷電性フッ素系高分子膜、荷電性オレフィン系高分子膜、荷電性セルロース系膜、荷電性(メタ)アクリル系高分子膜、荷電性(メタ)アクリロニトリル系高分子膜などが挙げられる。好ましくは、荷電性ビニルアルコール系高分子膜、荷電性スルホン系高分子膜が良い。
【0029】
本発明に係わる荷電性スルホン系高分子膜は特に限定されるものではなく、分子中にスルホン基を有する高分子は全て用いることができる。スルホン系高分子の例としては、例えば下記式(1)で表されるポリスルホン、下記式(2)で表されるポリエーテルスルホン、下記式(3)で表されるポリアリールスルホン等が挙げられる。式中lおよびm、nは繰り返し単位を表す。
[化1]


[化2]


[化3]

【0030】
これらの高分子を二種以上、組み合わせて実施することも可能である。スルホン系高分子は、必要に応じて高分子末端および/または主鎖中にエステル化、エーテル化、エポキシ化など各種変性を実施することができる。
本発明に係わる荷電性スルホン系高分子は、スルホン系高分子に、アミノ基、モノアルキルアミノ基、ジアルキルアミノ基、トリアルキルアンモニウム塩基、カルボン酸基、スルホン酸基などの化学構造を導入することにより得ることが出来る。中でも、正荷電基としては、ジアルキルアミノ基、トリアルキルアンモニウム塩基が好ましく、負荷電基としては、カルボン酸基、スルホン酸基が好ましい。
本発明に係る荷電性スルホン系高分子の重量平均分子量は、5,000〜100万を用いることができる。好ましくは、1万〜50万であり、さらに好ましくは2〜30万の範囲である。この範囲内であれば、十分な強度と成膜性が得られる。
【0031】
本発明に係わる荷電性スルホン系高分子に親水性を付与する親水性高分子の種類は特に限定されるものではないが、例えばポリビニルピロリドン、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリエチレンオキシド、ポリエチレングリコール−ポリプロピレングリコールブロック共重合体、ポリビニルアルコール、ポリアクリルアミド、ポリ−N,N−ジメチルアクリルアミド、ポリ−N−イソプロピルアクリルアミド、ポリヒドロキシアクリレート、ポリヒドロキシメタクリレート、カルボキシメチルセルロース、澱粉、コーンスターチ、ポリキトサン、ポリキチンなどが挙げられる。中でも、ポリビニルピロリドンは、スルホン系高分子との相溶性がよく、膜全体の親水性を高める上で特に好ましい。
【0032】
本発明に係わる荷電性スルホン系高分子膜に親水性を付与する親水性高分子の重量平均分子量は1,000〜200万を用いることができる。好ましくは5,000〜150万以下であり、さらに好ましくは5,000〜120万の範囲である。例えばポリビニルピロリドンではBASF社より様々なグレードが市販されており、その重量平均分子量が9,000のもの(K17)、以下同様に45,000(K30)、450,000(K60)、900,000(K80)、1,200,000(K90)を用いるのが好ましく、目的とする用途、特性、構造を得るために、それぞれ単独で用いてもよく、適宜2種以上を組み合わせて用いても良い。本発明においては、K90を単独で用いるのが最も好ましい。
本発明で係わる荷電性スルホン系高分子膜の親水性高分子の含量は、標的生体成分が膜に吸着しなければ特に限定されるものではないが、例えば0.1〜10重量%含有であり、好ましくは0.3〜8重量%、さらに好ましくは0.5〜5重量%が良い。
【0033】
荷電性をスルホン系高分子に直接導入する方法として、例えば、スルホン化が挙げられるが、その方法の一例を以下に記す。スルホン系高分子を塩化メチレンに溶解したポリマー溶液とクロルスルホン酸を塩化メチレンに溶解した溶液を反応容器中で攪拌しながら混合し、生成したポリマーをイソプロパノールで沈殿、洗浄後乾燥して粉末状のポリマーとして得ることができる。但し、スルホン化手法について限定されるものではない。
【0034】
スルホン化スルホン系高分子のスルホン化の置換度が1以上の場合、スルホン化による親水性が強く水溶性となる傾向にあるため使用が難しい。置換度が0.5以上、1未満においては水膨潤性を示すため、スルホン化スルホン系高分子を単独で使用することはできず、スルホン化されていないスルホン系高分子と混合して使用する。その場合、混合溶液のスルホン化スルホン系高分子とスルホン系高分子の混合比(重量比)は0.02〜0.75が好ましく、より好ましくは、0.05〜0.5である。置換度が0.05以上0.5未満ではスルホン化スルホン系高分子は単独で、あるいは、スルホン系高分子と混合して使用できる。その場合、混合溶液のスルホン化スルホン系高分子とスルホン系高分子の混合比(重量比)は0.1〜1が好ましく、より好ましくは、0.1〜0.9である。
【0035】
一方、荷電性をスルホン系高分子膜に間接的に導入する方法として、カチオン性物質またはアニオン性物質を混入させる方法があり、中空糸膜成型時に導入する方法と、中空糸膜成型後に導入する方法を挙げることが出来る。
中空糸膜成型時に導入する方法とは、紡糸時、紡口の内液にカチオン性物質、あるいは、アニオン性物質を添加することで、中空糸膜の内表面にカチオン性物質、あるいは、アニオン性物質を導入することが出来る。また、凝固液にカチオン性物質、あるいは、アニオン性物質を添加することで、中空糸膜の外表面にカチオン性物質、あるいは、アニオン性物質を導入することが出来る。
中空糸膜成型後に導入する方法とは、中空糸膜内表面にカチオン性物質、あるいは、アニオン性物質を通液するか、中空糸外表面にカチオン性物質、あるいは、アニオン性物質を通液すればよい。中空糸膜表面との分子間力により吸着、または、化学結合が起こる。
カチオン性物質、あるいは、アニオン性物質を通液するとき、中空糸の内側から外側へ向かって通液すると、膜の内表面に効率的に荷電性を導入することが出来るので好ましい。
【0036】
使用するカチオン性物質、あるいは、アニオン性物質は、それらの大部分が膜を透過してしまうような分子量の小さい物質は好ましくなく、重量平均分子量が50万以上の高分子が好ましい。
カチオン性物質溶液、あるいは、アニオン性物質溶液の溶剤としては、中空糸膜が変形しないものであれば、特に限定しないが、水あるいはアルコール等が好ましい。カチオン性物質、あるいは、アニオン性物質の濃度は、通常0.001〜50wt%の範囲である。
【0037】
カチオン性物質としては、アミノ基(モノアルキルアミノ基、ジアルキルアミノ基)、トリアルキルアンモニウム塩基、ピロール基、ピラゾール基、イミダゾール基、インドール基、ピリジン基、ピリダジン基、キノリン基、ピペリジン基、ピロリジン基、チアゾール基、プリン基等の官能基を有している物質が好ましい。例えば、ポリエチレンイミン、ポリビニルアミン、ポリアリルアミン、ジエチルアミノエチルデキストラン、ポリリジン、ポリジアリルジメチルアンモニウムクロリド、ビニルイミダゾリウムメトクロライドとビニルピロリドンの共重合体等が挙げられる。
アニオン性物質としては、カルボキシル基、スルホン酸基、リン酸基、ホスホン酸基、チオカルボキシル基、硫酸基等の官能基を有している物質が好ましい。例えば、ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸、ポリリン酸、デキストラン硫酸等を挙げることができる。
【0038】
本発明に係わる荷電性芳香族エーテル系高分子膜は特に限定されるものではなく、芳香族エーテル系高分子膜の例としては、下記式(4)で表されるものが挙げられる。
[化4]

(R、R、R、R、R、Rは水素、炭素数1以上6以下を含む有機官能基、または、酸素、窒素または珪素を含有する炭素数6以下の非プロトン性有機官能基であり、それぞれ同一であっても、異なっても構わない。構造式中のqは繰り返し単位数である。異なる繰り返し単位を2成分以上含む共重合体でも構わない。)
本発明に係わる芳香族エーテル系高分子の末端のフェノール性水酸基は、必要に応じてエステル化、エーテル化、エポキシ化など各種変性を実施することができる。また、荷電性を付与するために高分子末端にアミノ基、モノアルキルアミノ基、ジアルキルアミノ基、トリアルキルアンモニウム塩基、カルボン酸基、スルホン酸基などの化学構造を導入する必要がある。
【0039】
本発明に係わる荷電性芳香族エーテル系高分子膜は、主とし荷電性芳香族エーテル系高分子からなるものであるが、荷電性芳香族エーテル系高分子の特性を損なわない範囲で他の高分子量物質や添加物を含有していてもよい。これらの高分子を二種以上、組み合わせて実施することも可能である。例えば、ポリスチレンやその誘導体を含有しても良い。
本発明に係わる荷電性芳香族エーテル系高分子の重量平均分子量は、5,000〜100万を用いることができる。好ましくは、1万〜50万であり、さらに好ましくは2万〜30万の範囲である。この範囲内であれば、十分な強度と成膜性が得られる。
【0040】
本発明においては、荷電性芳香族エーテル系高分子とともに、膜の孔の大きさをコント
ロールするためと、親水性を付与するために、親水化剤が用いられることが好ましい
。親水化によって分離処理に供される液体混合物と本発明の荷電性芳香族エーテル系高分子からなる限外濾過膜との接触を良好にするものである。
【0041】
本発明に係わる親水化剤としては、親水性を付与できるものであれば何ら限定しない。低分子化合物であっても高分子化合物であっても構わない。
親水化剤としては、例えば、ジエチレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリプ
ロピレングリコール、ポリエチレンオキシド、ポリエチレングリコール−ポリプロピレン
グリコールブロック共重合体、ポリビニルアルコール、ポリアクリルアミド、ポリ−N,
N−ジメチルアクリルアミド、ポリ−N−イソプロピルアクリルアミド、ポリビニルピロ
リドン、ポリヒドロキシアクリレート、ポリヒドロキシメタクリレート、カルボキシメチ
ルセルロース、澱粉、コーンスターチ、ポリキトサン、ポリキチンなどの親水性化合物が
例示される。また、これらの物質を親水性セグメントと疎水性セグメント含有する界面活
性剤やブロック共重合体およびグラフト共重合体も親水化剤として十分活用できる。例え
ば、ポリスチレン−ポリエチレングリコールブロック共重合体などが好ましい。
【0042】
本発明に係わるポリスチレン−ポリエチレングリコールブロック共重合体は、高い親水
性を有するポリエチレングリコールを親水性セグメントに有するため、親水化剤として有
効に活用できる。また、これらは二種以上を組み合わせて使用することもできる。この中
でも好適に利用できるのは、ポリエチレングリコール、およびポリエチレングリコールを
親水性セグメントとして含有するブロック共重合体およびグラフト共重合体であり、その
中も特にポリスチレン−ポリエチレングリコールブロック共重合体が芳香族エーテル系高
分子膜の親水性を向上させる親水化剤として好適に利用できる。
【0043】
本発明に係わる親水化剤の分子量は、製造方法およびその条件によって適宜選ばれる。
例えば、成膜方法が湿式成膜法で溶媒として非ハロゲン系水溶性有機溶媒を用いる場合、
耐溶剤性の高い芳香族エーテル系高分子の溶解性は極めて低い。そのため、親水化剤を膜
原液にブレンドする場合、均一に溶解した膜原液を得るためには親水化剤の分子量および
添加量を適切に選択する必要がある。十分な添加量の親水化剤を用いるためには、親水化
剤の分子量は、例えば、数平均分子量は、300以上、100,000以下であることが
好ましい。この領域であれば、成膜に使用する良溶媒に十分溶解可能である。より好まし
い下限は、400以上、特に好ましい下限は、500以上であり、上限としてより好まし
くは70,000以下、特に好ましくは、50,000以下である。
本発明に係わる親水化剤が疎水性セグメントと親水性セグメントからなる化合物の場合
、その親水化剤の親水性セグメントの数平均分子量は、300以上、100,000以下
であることが好ましい。この領域であれば、成膜に使用する良溶媒に十分溶解可能である
。より好ましい下限は、400以上、特に好ましい下限は、500以上であり、上限とし
てより好ましくは70,000以下、特に好ましくは、50,000以下である。
【0044】
本発明に係わるポリスチレン−ポリエチレングリコールブロック共重合体は、ポリスチ
レン系高分子由来のセグメントとポリエチレングリコール系高分子由来のセグメントから
成るブロック共重合体である。
本発明において用いられるポリスチレン−ポリエチレングリコールブロック共重合体の
該ポリスチレン系高分子由来のセグメントを形成するポリスチレン系高分子としては、下
記式(5)に示す繰り返し単位からなるポリスチレン系高分子が好ましい。
[化5]

(R、R、R、R10、R11、R12、R13、R14は水素、フッ素を除くハロゲン原子、炭素数1以上6以下を含む有機官能基、または、酸素、窒素または珪素を含有する炭素数6以下の官能基であり、それぞれ同一であっても、異なっても構わない。構造式中のsは繰り返し単位数である。構造範囲内で異なる繰り返し単位を2成分以上含む共重合体でも構わない。)
【0045】
本発明に係わるポリスチレン−ポリエチレングリコールブロック共重合体の該ポリスチ
レン系高分子由来のセグメントの数平均分子量は、300以上、1,000,000以下
であることが必要である。この領域であれば、成膜に使用する良溶媒に十分溶解可能であ
ると同時に、水溶液または水溶性有機溶媒に対して、溶出性が低減できる。より好ましい
下限は、500以上、特に好ましい下限は、700以上であり、上限としてより好ましく
は500,000以下、特に好ましい上限は、300,000以下である。
【0046】
本発明において用いられるポリスチレン−ポリエチレングリコールブロック共重合体の
該ポリエチレングリコール系高分子由来のセグメントを形成するポリエチレングリコール
系高分子とは、下記式(6)および/または(7)に示す繰り返し単位からなるポリエチ
レングリコール系高分子が好ましい。
[化6]


[化7]


(R15は、炭素数3以上、30未満の有機官能基である。特に親水性が大きく低下させ
ることがなければ、R16にエーテル基、エステル基、水酸基、ケトン基、カルボン酸基、スルホン酸基、アミノ基、アンモニウム塩基を含有しても構わない。uは繰り返し単位数である。)
本発明において用いられるポリスチレン−ポリエチレングリコールブロック共重合体の
該ポリエチレングリコール系高分子由来のセグメントの数平均分子量は、例えば300以
上、100,000以下であることが必要である。この領域であれば、成膜に使用する良
溶媒に十分溶解可能であると当時に、十分な親水性が得られる。より好ましい下限は、4
00以上、特に好ましい下限は、500以上であり、上限としてより好ましくは70,0
00以下、特に好ましくは、50,000以下である。
【0047】
本発明に係わるポリスチレン−ポリエチレングリコールブロック共重合体の該ポリスチ
レン系高分子由来のセグメントと該ポリエチレングリコール系高分子由来のセグメントの
組成比としては、該ポリスチレン系高分子由来のセグメントが全ポリスチレン−ポリエチ
レングリコールブロック共重合体の10重量%以上、99重量%以下であることが必要で
ある。この組成比においては、十分な親水性を発現でき、かつ、溶出性が抑えられる。よ
り好ましい下限値は、20重量%以上、特に好ましい下限値は、30重量%以上であり、
より好ましい上限値は98重量%以下、特に好ましい上限値は、97重量%以下である。
【0048】
本発明に係わるポリスチレン−ポリエチレングリコールブロック共重合体のブロック構
造は、2つの該セグメントから構成されるジブロック共重合体、3つの該セグメントから
構成されるトリブロック共重合体、4つ以上の該セグメントから構成されるマルチブロッ
ク共重合体であっても構わない。また、これら2種以上のブロック共重合体の混合物であ
っても構わない。構成される各該セグメントの数平均分子量は同一であっても異なっても
構わない。
本発明に係わるポリスチレン−ポリエチレングリコールブロック共重合体の該ポリスチ
レン系高分子由来のセグメントと該ポリエチレングリコール系高分子由来のセグメント間
は、高分子末端部分で直接化学的に結合される必要がある。製造するために、必要であれ
ば、該ポリスチレン系高分子由来のセグメントと該ポリエチレングリコール系高分子由来
のセグメントを接続するためのスペーサーとして低分子化合物および/または有機官能基
を利用してもよい。低分子化合物および/または有機官能基の数平均分子量が500以下
の場合、該ポリスチレン系高分子由来のセグメントと該ポリエチレングリコール系高分子
由来のセグメントの効果を低下させること無く発現できる。具体的には、反応性官能基を
有するラジカル重合開始剤を用いてスチレンを重合した後にポリエチレングリコールを縮
合した際に形成されるポリスチレン−ポリエチレングリコール間の低分子化合物などが挙
げられる。
【0049】
本発明に係わるポリスチレン−ポリエチレングリコールブロック共重合体を製造する方
法の一例としては、反応性官能基を有するラジカル重合開始剤を用いる方法がある。具体
的には、カルボン酸基を有するアゾ系ラジカル重合開始剤を用い、カルボン酸基を酸塩化
物基に化学的に変換した後、スチレンをラジカル重合することで末端に酸塩化物基を有す
るポリスチレンが得られる。次いで、ポリエチレングリコールと縮合することによってポ
リスチレン−ポリエチレングリコールブロック共重合体を得ることができる(高分子論文
集、1976年、第33巻、P131)。ポリエチレングリコールユニット含有高分子ア
ゾ重合開始剤を用いて、スチレンをラジカル重合することによってもポリスチレン−ポリ
エチレングリコールブロック共重合体を得ることができる。また、別の合成方法例として
、リビング重合を利用する方法が挙げられる。具体的には、ニトロキシド系化合物による
リビングラジカル重合を用いてスチレンの重合を行い、高分子末端にニトロキシド化合物
が結合した高分子を得られる。加水分解により高分子末端をヒドロキシル基に変換し、ポ
リエチレングリコールとのカップリング反応によりポリスチレン−ポリエチレングリコー
ルブロック共重合体を得ることができる(Polymer、1998年、第39巻、第4
号、P911)。
【0050】
本発明における親水化剤を用いて荷電性芳香族エーテル系高分子からなる限外濾過膜を親水化する方法は、例えば、成膜時に親水化剤をあらかじめ混合するブレンド法、親水化剤を含む溶液に膜を浸漬した後、乾燥させて親水化剤を残留させる塗布法、膜表面に親水性のアクリル系モノマー、メタクリル系モノマー、アクリルアミド系モノマー等をグラフト重合する方法などが挙げられる。これらの方法を2つ以上組み合わせて行うことも可能である。芳香族エーテル系高分子に化学的変性を加えないブレンド法または塗布法が好ましく、製造面においては一段階の工程で親水化処理を行うことができるブレンド法が特に好ましい。
【0051】
本発明に係わる荷電性ビニルアルコール系高分子膜は、主として荷電性ビニルアルコール系高分子からなるものであるが、荷電性ビニルアルコール系高分子の特性を損なわない範囲で他の高分子量物質や添加物を含有していてもよい。これらの高分子を二種以上、組み合わせて実施することも可能である。
本発明に係わるビニルアルコール系高分子は、ポリビニルアルコールや部分アセタール化等の変性ポリビニルアルコールとエチレンやプロピレン、ビニルピロリドン、塩化ビニル、フッ化ビニル、メチルメタクリレート、アクリロニトリル、イタコン酸等と共重合させた共重合体(ブロック共重合体、グラフト共重合体を含む)及びその誘導体である。その中でも、エチレン−ビニルアルコールの共重合体は疎水部エチレンに起因する特徴である安定性、耐薬品性と親水部ビニルアルコールに起因する特徴である低タンパク吸着性を兼ね備えているため好ましい。
【0052】
本発明に係わるビニルアルコール系高分子のケン化度は、80〜100mol%、好ましくは85〜95mol%が良い。
本発明の係わるビニルアルコール系高分子鎖中のポリビニルアルコール含量は、少なくとも30重量%以上であることが好ましく、より好ましくは50重量%以上である。30重量%未満の場合は、膜の親水性が低くなる等の問題が発生するために好ましくない。
【0053】
本発明に係わるビニルアルコール系高分子の重量平均分子量は、5,000〜200万であり、好ましくは1万〜90万、より好ましくは5万〜80万が良い。一般に平均分子量が100万を超えるような樹脂については、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)測定が困難であるので、その代用として粘度法による粘度平均分子量をあてることができる。平均分子量が5,000より小さいと、膜の力学強度が低くなるため好ましくない。平均分子量が200万を超えると、均一な溶融混練が難しくなるために好ましくない。
【0054】
本発明に係わるビニルアルコール系高分子は、1級〜4級のアミノ基(正荷電基)を高分子鎖に導入することによって正荷電性ビニルアルコールを得ることが出来る。具体的には、アミノ基として、メチルアミノ基、ジメチルアミノ基、トリメチルアンモニウム塩基、エチルアミノ基、ジエチルアミノ基、トリエチルアンモニウム塩基を挙げることが出来る。一方、カルボン酸基、スルホン酸基、リン酸基等の有機酸基(負荷電基)を高分子鎖に導入することによって負荷電性ビニルアルコールを得ることが出来る。中でも、正荷電基としては、ジメチルアミノ基、ジエチルアミノ基等のジアルキルアミノ基、トリメチルアンモニウム塩基、トリエチルアンモニウム塩基等のトリアルキルアンモニウム塩基が好ましく、負荷電基としては、カルボン酸基、スルホン酸基が好ましい。
【0055】
本発明に係わる正荷電基の導入方法については、特に、限定されないが、片方の末端にアミノ基を有するハロゲン化アルキルを反応させる方法が最も一般的な方法である。具体的には、ブロモエチルトリメチルアンモニウムブロミド、ブロモプロピルトリメチルアンモニウムブロミド、ブロモプロピルトリエチルアンモニウムブロミド、ブロモブチルトリメチルアンモニウムブロミド、ブロモブチルトリエチルアンモニウムブロミド等を挙げることができる。
本発明に係わる負荷電基の導入方法については、特に、限定されないが、片方の末端にカルボン酸基、スルホン酸基、リン酸基を有するハロゲン化アルキルを反応させる方法が最も一般的な方法である。具体的には、3−ブロモプロパンカルボン酸、3−ブロモプロパンスルホン酸、3−ブロモプロパンリン酸、2−ブロモエタンスルホン酸、4−ブロモブタンスルホン酸等の反応試薬を挙げることができる。
【0056】
本発明に係わる荷電性ビニルアルコール系高分子膜は、分離対象物が接触する膜表面上の材質が荷電性ビニルアルコール系高分子からなる膜であって、構造を保持するためには、如何なる材質から成る基材(支持体)を用いてもよい。例えば、荷電性ビニルアルコール高分子膜は、ビニルアルコール系高分子のみからなる高分子膜であってもよいが、物理的強度を高めるために他の基材(支持体)として織布又は不織布や多孔性無機体など用い、これらの基材の上で成膜することによっても、荷電性ビニルアルコール系高分子膜の製造が可能である。
本発明においては、荷電性ビニルアルコール系高分子膜に悪影響を及ぼさない範囲内で、更に付加的処理を施してもよい。付加的処理としては、例えば、架橋処理、化学的表面修飾による官能基導入などが挙げられる。
【0057】
本発明に係わる荷電性フッ素系高分子膜は、主として荷電性フッ素系高分子からなるものであるが、荷電性フッ素系高分子の特性を損なわない範囲で他の高分子量物質や添加物を含有していてもよい。これらの高分子を二種以上、組み合わせて実施することも可能である。
本発明に係わるフッ素系高分子は、フッ化ビニリデンのホモ重合体や、ヘキサフルオロプロピレン、ペンタフルオロプロピレン、テトラフルオロエチレン、クロロトリフルオロエチレン、およびパーフルオロメチルビニルエーテルのモノマー群から選んだ1種又は2種のモノマーとフッ化ビニリデンとの共重合体のことである。また、上記ホモ重合体および上記共重合体を混合して使用することもできる。その中でも、フッ化ビニリデンが好ましい。
【0058】
本発明に係わるフッ素系高分子の重量平均分子量は、5万〜500万であることが好ましく、より好ましくは10万〜200万、更に好ましくは15万〜100万である。一般に平均分子量が100万を超えるような樹脂については、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)測定が困難であるので、その代用として粘度法による粘度平均分子量をあてることができる。平均分子量が5万より小さいと、溶融成型の際のメルトテンションが小さくなり成形性が悪くなったり、膜の力学強度が低くなったりするので好ましくない。平均分子量が500万を超えると、均一な溶融混練が難しくなるために好ましくない。
【0059】
生体成分の吸着による閉塞を防ぐために、膜に親水性を付与することが必要となる。親水化処理の方法としては、例えば、界面活性剤を含む溶液にフッ素系高分子膜を浸漬した後、乾燥してフッ素系高分子膜中に界面活性剤を残留させる方法、電子線やガンマ線等の放射線を照射する、あるいは過酸化物を用いることによって、フッ素系高分子膜の細孔表面に親水性のアクリル系モノマーやメタクリル系モノマー等をグラフトする方法、成膜時に親水性高分子を予め混合する方法、親水性高分子を含む溶液にフッ素系高分子膜を浸漬した後、乾燥してフッ素系高分子膜の細孔表面に親水性高分子の被膜を作る方法等が挙げられるが、親水化の永続性や親水性添加物の漏洩の可能性を考慮するとグラフト重合が最も好ましい。特に、特開昭62−179540号公報、特開昭62−258711号公報、および米国特許第4,885,086号明細書に開示された放射線グラフト重合法による親水化処理は、膜内全領域の細孔内表面に均一な親水化層を形成し得る点で好ましい。
【0060】
本発明のグラフト重合に使用する親水性モノマーとしては、ビニル基を有する親水性モ
ノマーであれば特に限定されるものではない。好ましくは、1個のビニル基を有するモノ
マーが良い。本発明に係わる親水性モノマーとは、大気圧下で、25℃の純水に1容量%
混合させた時に均一溶解するモノマーである。例えば、ヒドロキシル基、スルホニル基、スルホン基、エステル基、アミド基、ウレタン基を有する親水性ビニルモノマー等が挙げられる。中でも、1個以上のヒドロキシル基、あるいはその前駆体となる官能基を有するビニルモノマーが好ましい。具体的には、ヒドロキシプロピルアクリレート、2−ヒドロキシエチルメタクリレート等の(メタ)アクリル酸と多価アルコールのエステル類、アリルアルコール等の不飽和結合を有するアルコール類、および酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル等のエノールエステル類等が挙げられる。
【0061】
さらに、荷電性フッ素系高分子を得るためにはカルボン酸基、スルホン酸基等を含む(メタ)アクリル系モノマー、メタクリル酸トリエチルアンモニウムエチル等のアニオン交換基を有するビニルモノマー、メタクリル酸スルホプロピル等のカチオン交換基を有する荷電性ビニルモノマーを併せて使用する必要がある。
【0062】
さらに、親水性ビニルモノマー、荷電性ビニルモノマーとともに、2個以上のビニル基を有する架橋剤を用いて、グラフト重合法によって共重合させることにより、充分に親水性と荷電性が付与される。
本発明に係わる使用する架橋剤は、上記親水性モノマー、荷電性モノマーと共重合しうる2個以上のビニル基を有する架橋剤であり、親水性モノマー、荷電性モノマーと同時に膜に接触させることにより導入する。架橋剤は、数平均分子量200以上、2,000以下であることが好ましく、より好ましくは数平均分子量250以上、1,000以下、最も好ましくは数平均分子量300以上、600以下である。架橋剤の数平均分子量が200以上、2,000以下であると、生体成分溶液の高い濾過速度が得られ好ましい。本発明においては、2個以上のビニル基を有する架橋剤であれば、いかなる架橋剤も使用できるが、親水性の架橋剤が好ましい。
【0063】
本発明で用いられる架橋剤の具体例としては、芳香族系ではジビニルベンゼン誘導体、脂肪族系ではエチレングリコールジメタクリレート、ポリエチレングリコールジメタクリレート等のようなメタクリル酸系の架橋剤、エチレングリコールジアクリレート、ポリエチレングリコールジアクリレート等のような(メタ)アクリル酸系の架橋剤等が挙げられる。また、トリメチロールプロパントリメタクリレートのような3個の反応性基を有する架橋剤も用いることが出来る。また、架橋剤は2種類以上の混合物も用いることが出来る。本発明において、ポリエチレングリコールジメタクリレート、ポリエチレングリコールジアクリレート、またはそれらの混合物を用いることが最も好ましい。
【0064】
本発明に係わるグラフト重合法とは、ラジカルを発生させる方法であれば何ら限定しないが、例えば、放射線開始剤の添加や電離性放射線や化学反応等の手段によってフッ素系高分子膜にラジカルを生成させ、そのラジカルを開始点として、該膜にモノマーをグラフト重合させる反応である。本発明において、フッ素系高分子膜にラジカルを生成させるためにはいかなる手段も採用しうるが、膜全体に均一なラジカルを生成させるためには、電離性放射線の照射が好ましい。電離性放射線の種類としては、γ線、電子線、β線、中性子線等が利用できるが、工業規模での実施には電子線またはγ線が最も好ましい。電離性放射線はコバルト60、ストロンチウム90、およびセシウム137などの放射性同位体から、またはX線撮影装置、電子線加速器および紫外線照射装置等により得られる。
【0065】
本発明に係わる電離性放射線の照射線量は、1kGyから1,000kGyまでが好ましい。1kGy未満ではラジカルが均一に生成せず、1,000kGyを越えると膜強度の低下を引き起こすことがある。グラフト重合法は一般に膜にラジカルを生成した後、ついでそれを反応性化合物と接触させる前照射法と、膜を反応性化合物と接触させた状態で膜にラジカルを生成させる同時照射法に大別される。本発明においては、いかなる方法も適用しうるが、オリゴマーの生成が少ない前照射法が最も好ましい。
【0066】
本発明では、ラジカルを生成したフッ素系高分子膜と、親水性モノマー、荷電性モノマーおよび架橋剤との接触は、気相でも液相で達成されるが、本発明においては、グラフト反応が均一にすすむ液相で接触させる方法が好ましい方法である。グラフト反応をさらに均一に進めるために、親水性モノマー、荷電性モノマーおよび架橋剤はあらかじめ溶媒中に溶解させてから、フッ素系高分子膜と接触させることが望ましい。親水性モノマー、荷電性モノマーおよび架橋剤を溶解する溶媒としては、均一溶解できるものであれば特に限定されない。このような溶媒として、例えば、エタノールやイソプロパノール、t−ブチルアルコール等のアルコール類、ジエチルエーテルやテトラヒドロフラン等のエーテル類、アセトンや2−ブタノン等のケトン類、水、あるいはそれらの混合物等が挙げられる。
【0067】
本発明に係わるグラフト重合は、親水性モノマー、荷電性モノマーと架橋剤を合わせた濃度で0.3容量%〜30容量%の反応液を用い、フッ素系高分子膜1gに対して10×10-5〜100×10-53の割合で反応を行うことが望ましい。該範囲内でグラフト重合を行えば、親水化層によって孔が埋まることもなく、均一性に優れた膜が得られる。
本発明に係わるグラフト重合時の反応温度は、重合反応が起これば特に限定されるもの
ではないが、一般的に20℃から80℃までで行われる。
本発明に係わるグラフト重合は、フッ素系高分子膜と親水性モノマー、荷電性モノマーを接触させる際に、親水性のモノマー、荷電性モノマーは気体、液体又は溶液のいずれの状態でもよいが、均一な親水化層を形成させるためには、液体又は溶液であることが好ましく、溶液であることが特に好ましい。
【0068】
本発明に係わる荷電性フッ素系高分子膜は、疎水性のフッ素系高分子膜に強固な架橋構
造を有する荷電性親水化層を導入することで、標的生体成分と不純物生体成分の分離を高いレベルで実現することができる。そのために、親水性モノマー、荷電性モノマーの合計に対して架橋剤を20mol%以上、1,000mol%以下の割合で用いて共重合させることが良く、好ましくは、親水性モノマーに対して架橋剤を20mol%以上、500mol%以下の割合で、さらに好ましくは親水性モノマーに対して架橋剤を30mol%以上、200mol%以下の割合で用いることが良い。また、親水性モノマー、荷電性モノマーの割合は、100/1〜1/100、好ましくは、10/1〜1/10である。
【0069】
本発明は、荷電性フッ素系高分子膜に荷電性親水化層を導入し、標的生体成分と不純物生体成分の高い分離性能を実現する。そのために、荷電性フッ素系高分子膜にグラフトされるグラフト率は、好ましくは3%以上、50%以下、さらに好ましくは4%以上、30%以下、最も好ましくは5%以上、20%以下である。グラフト率が3%未満であると膜の親水性が不足し、タンパク質の吸着にともなう濾過速度の急激な低下を引き起こす。50%を越えると、比較的小さな孔が荷電性親水化層によって埋まってしまい、充分な濾過速度が得られない。ここで言うグラフト率とは下記式(8)で定義される値である。
グラフト率(%)=
(グラフト後の膜重量−グラフト前の膜重量)/グラフト前の膜重量×100 (8)
【0070】
本発明に係わる荷電性フッ素系高分子膜の親水性の度合いは、接触角によって評価することができる。25℃における前進接触角および後退接触角の平均値が60度以下であることが好ましく、45度以下であることがより好ましく、更に好ましくは30度以下である。また、簡便な評価法としては、荷電性フッ素系高分子膜を水と接触させた際に、膜の細孔内部に水が自発的に浸透すれば充分な親水性を持つと判断してよい。
【0071】
本発明に係わる荷電性オレフィン系高分子膜は、主として荷電性オレフィン系高分子からなるものであるが、荷電性オレフィン系高分子の特性を損なわない範囲で他の高分子量物質や添加物を含有していてもよい。これらの高分子を二種以上、組み合わせて実施することも可能である。
本発明に係わるオレフィン系高分子は、オレフィン類やアルケンをモノマーとして合成される高分子であり、例えば、ポリエチレンやポリプロピレン、ポリ4−メチル1−ペンテンなどが挙げられる。さらに、上記ホモ重合体および上記共重合体を混合して使用する
こともできる。その中でも、ポリエチレンが好ましい。
【0072】
本発明に係わるオレフィン系高分子の重量平均分子量は、5万〜500万であることが好ましく、より好ましくは10万〜200万、更に好ましくは15万〜100万である。
一般に平均分子量が100万を超えるような樹脂については、ゲル浸透クロマトグラフィ
ー(GPC)測定が困難であるので、その代用として粘度法による粘度平均分子量をあて
ることができる。平均分子量が5万より小さいと、溶融成型の際のメルトテンションが小
さくなり成形性が悪くなったり、膜の力学強度が低くなったりするので好ましくない。平
均分子量が500万を超えると、均一な溶融混練が難しくなるために好ましくない。
【0073】
生体成分の吸着による閉塞を防ぐために、膜に親水性を付与することが必要となる。親水化処理の方法としては、例えば、界面活性剤を含む溶液にオレフィン系高分子膜を浸漬した後、乾燥してオレフィン系高分子膜中に界面活性剤を残留させる方法、電子線やガンマ線等の放射線を照射する、あるいは過酸化物を用いることによって、オレフィン系高分子膜の細孔表面に親水性の(メタ)アクリル系モノマー等をグラフトする方法、成膜時に親水性高分子を予め混合する方法、親水性高分子を含む溶液にオレフィン系高分子膜を浸漬した後、乾燥してオレフィン系高分子膜の細孔表面に親水性高分子の被膜を作る方法等が挙げられるが、親水化の永続性や親水性添加物の漏洩の可能性を考慮するとグラフト重合が最も好ましい。特に、特開昭62−179540号公報、特開昭62−258711号公報、および米国特許第4,885,086号明細書に開示された放射線グラフト重合法による親水化処理は、膜内全領域の細孔内表面に均一な親水化層を形成し得る点で好ましい。
【0074】
本発明のグラフト重合に使用する親水性モノマーとしては、ビニル基を有する親水性モ
ノマーであれば特に限定されるものではない。好ましくは、1個のビニル基を有するモノ
マーが良い。さらに、スルホン基、エステル基、アミド基、水酸基、スルフォニル基、ウレタン基等を含む(メタ)アクリル系モノマーが好適に使用できる。本発明に係わる親水性モノマーとは、大気圧下で、25℃の純水に1容量%混合させた時に均一溶解するモノマーである。例えば、ヒドロキシル基、スルホニル基、スルホン基、エステル基、アミド基、ウレタン基を有する親水性ビニルモノマー等が挙げられる。中でも、1個以上のヒドロキシル基、あるいはその前駆体となる官能基を有するビニルモノマーが好ましい。具体的には、ヒドロキシプロピルアクリレート、2−ヒドロキシエチルメタクリレート等の(メタ)アクリル酸と多価アルコールのエステル類、アリルアルコール等の不飽和結合を有するアルコール類、および酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル等のエノールエステル類等が挙げられる。
【0075】
さらに、荷電性オレフィン系高分子を得るためにはカルボン酸基、スルホン酸基等を含む(メタ)アクリル系モノマー、メタクリル酸トリエチルアンモニウムエチル等のアニオン交換基を有するビニルモノマー、メタクリル酸スルホプロピル等のカチオン交換基を有する荷電性ビニルモノマーを併せて使用する必要がある。
さらに、親水性ビニルモノマー、荷電性ビニルモノマーとともに、2個以上のビニル基を有する架橋剤を用いて、グラフト重合法によって共重合させることにより、充分に親水性と荷電性が付与される。
【0076】
本発明に係わる使用する架橋剤は、上記親水性モノマー、荷電性モノマーと共重合しうる2個以上のビニル基を有する架橋剤であり、親水性モノマー、荷電性モノマーと同時に膜に接触させることにより導入する。架橋剤は、数平均分子量200以上、2,000以下であることが好ましく、より好ましくは数平均分子量250以上、1,000以下、最も好ましくは数平均分子量300以上、600以下である。架橋剤の数平均分子量が200以上、2,000以下であると、生体成分溶液の高い濾過速度が得られ好ましい。本発明においては、2個以上のビニル基を有する架橋剤であれば、いかなる架橋剤も使用できるが、親水性の架橋剤が好ましい。ここで親水性の架橋剤とは、大気圧下で、25℃の純水に1容量%混合させた時に均一溶解する架橋剤である。
【0077】
本発明で用いられる架橋剤の具体例としては、芳香族系ではジビニルベンゼン誘導体、
脂肪族系ではエチレングリコールジメタクリレート、ポリエチレングリコールジメタクリ
レート等のようなメタクリル酸系の架橋剤、エチレングリコールジアクリレート、ポリエ
チレングリコールジアクリレート等のような(メタ)アクリル酸系の架橋剤等が挙げられ
る。また、トリメチロールプロパントリメタクリレートのような3個の反応性基を有する
架橋剤も用いることが出来る。また、架橋剤は2種類以上の混合物も用いることが出来る
。本発明において、ポリエチレングリコールジメタクリレート、ポリエチレングリコール
ジアクリレート、またはそれらの混合物を用いることが、標的生体成分の透過性と不純物生体成分の除去性能の観点から最も好ましい。
【0078】
本発明に係わるグラフト重合法とは、ラジカルを発生させる方法であれば何ら限定しないが、例えば、放射線開始剤の添加や電離性放射線や化学反応等の手段によってオレフィン系高分子膜にラジカルを生成させ、そのラジカルを開始点として、該膜にモノマーをグラフト重合させる反応である。本発明において、オレフィン系高分子膜にラジカルを生成させるためにはいかなる手段も採用しうるが、膜全体に均一なラジカルを生成させるためには、電離性放射線の照射が好ましい。電離性放射線の種類としては、γ線、電子線、β線、中性子線等が利用できるが、工業規模での実施には電子線またはγ線が最も好ましい。電離性放射線はコバルト60、ストロンチウム90、およびセシウム137などの放射性同位体から、またはX線撮影装置、電子線加速器および紫外線照射装置等により得られる。
【0079】
本発明に係わる電離性放射線の照射線量は、1kGyから1,000kGyまでが好ましい。1kGy未満ではラジカルが均一に生成せず、1,000kGyを越えると膜強度の低下を引き起こすことがある。グラフト重合法は一般に膜にラジカルを生成した後、ついでそれを反応性化合物と接触させる前照射法と、膜を反応性化合物と接触させた状態で膜にラジカルを生成させる同時照射法に大別される。本発明においては、いかなる方法も適用しうるが、オリゴマーの生成が少ない前照射法が最も好ましい。
【0080】
本発明では、ラジカルを生成したオレフィン系高分子膜と、親水性モノマー、荷電性モノマーおよび架橋剤との接触は、気相でも液相で達成されるが、本発明においては、グラフト反応が均一にすすむ液相で接触させる方法が好ましい方法である。グラフト反応をさらに均一に進めるために、親水性モノマー、荷電性モノマーおよび架橋剤はあらかじめ溶媒中に溶解させてから、オレフィン系高分子膜と接触させることが望ましい。親水性モノマー、荷電性モノマーおよび架橋剤を溶解する溶媒としては、均一溶解できるものであれば特に限定されない。このような溶媒として、例えば、エタノールやイソプロパノール、t−ブチルアルコール等のアルコール類、ジエチルエーテルやテトラヒドロフラン等のエーテル類、アセトンや2−ブタノン等のケトン類、水、あるいはそれらの混合物等が挙げられる。
【0081】
本発明に係わるグラフト重合は、親水性モノマー、荷電性モノマーと架橋剤を合わせた濃度で0.3容量%〜30容量%の反応液を用い、オレフィン系高分子膜1gに対して10×10-5〜100×10-53の割合で反応を行うことが望ましい。該範囲内でグラフト重合を行えば、荷電性親水化層によって孔が埋まることもなく、均一性に優れた膜が得られる。
本発明に係わるグラフト重合時の反応温度は、重合反応が起これば特に限定されるもの
ではないが、一般的に20℃から80℃までで行われる。
本発明に係わるグラフト重合は、オレフィン系高分子膜と親水性および荷電性のモノマーを接触させる際に、親水性および荷電性のモノマーは気体、液体又は溶液のいずれの状態でもよいが、均一な荷電性親水化層を形成させるためには、液体又は溶液であることが好ましく、溶液であることが特に好ましい。
【0082】
本発明に係わる荷電性オレフィン系高分子膜は、疎水性のオレフィン系高分子膜に強固な架橋構造を有する荷電性親水化層を導入することで、標的生体成分と不純物生体成分の分離を高いレベルで実現することができる。そのために、親水性モノマー、荷電性モノマーの合計に対して架橋剤を20mol%以上、1,000mol%以下の割合で用いて共重合させることが良く、好ましくは、親水性モノマー、荷電性モノマーの合計に対して架橋剤を20mol%以上、500mol%以下の割合で、さらに好ましくは親水性モノマー、荷電性モノマーの合計に対して架橋剤を30mol%以上、200mol%以下の割合で用いることが良い。また、親水性モノマー、荷電性モノマーの割合は、100/1〜1/100、好ましくは、10/1〜1/10である。
【0083】
本発明は、オレフィン系高分子膜に荷電性親水化層を導入し、標的生体成分と不純物生体成分の高い分離性能を実現する。そのために、オレフィン系高分子膜にグラフトされるグラフト率は、好ましくは3%以上、50%以下、さらに好ましくは4%以上、30%以下、最も好ましくは5%以上、20%以下である。グラフト率が3%未満であると膜の親水性が不足し、タンパク質の吸着にともなう濾過速度の急激な低下を引き起こす。50%を越えると、比較的小さな孔が荷電性親水化層によって埋まってしまい、充分な濾過速度が得られない。ここで言うグラフト率とは下記式(9)で定義される値である。
グラフト率(%)=
(グラフト後の膜重量−グラフト前の膜重量)/グラフト前の膜重量×100 (9)
【0084】
本発明に係わる荷電性オレフィン系高分子膜の親水性の度合いは、接触角によって評価することができる。25℃における前進接触角および後退接触角の平均値が60度以下であることが好ましく、45度以下であることがより好ましく、更に好ましくは30度以下である。また、簡便な評価法としては、荷電性オレフィン系高分子膜を水と接触させた際に、膜の細孔内部に水が自発的に浸透すれば充分な親水性を持つと判断してよい。
【0085】
本発明に係わる荷電性(メタ)アクリル系高分子膜は特に限定されるものではなく、(メタ)アクリル系高分子の例としては、下記式(10)で表されるものが挙げられる。
[化10]

(式中、R17およびR18は炭素数1〜14のアルキル基またはアラルキル基を表す。
アルキル基の水素原子またはアラルキル基の水素原子は炭素数1〜10のアルコキシ基に
よって置換されていてもよい。式中vおよびwは繰り返し単位を表す。)
その中でも、ポリ(メタ)アクリル酸やポリ(メタ)アクリル酸エステルなど用いるこ
とができる。好ましくはポリアクリル酸、ポリメタクリル酸、ポリアクリル酸メチル、ポ
リアクリル酸エチル、ポリメタアクリル酸メチル、ポリメタクリル酸エチルおよびこれら
2つ以上組み合わせた共重合体が良い。必要に応じて高分子末端および/または主鎖中に
エステル化、エーテル化、エポキシ化、スルフォニル化など各種変性を実施することができる。また、荷電性を付与するために、アミノ基、モノアルキルアミノ基、ジアルキルアミノ基、アンモニウム塩基、カルボン酸基、スルホン酸基などの化学構造を導入する必要がある。
【0086】
本発明に係わる、荷電性(メタ)アクリル系高分子膜は、主としてポリ(メタ)アクリル酸エステルからなるものであるが、ポリ(メタ)アクリル酸エステルの特性を損なわない範囲で他の高分子量物質や添加物を含有していてもよい。これらの高分子を二種以上、組み合わせて実施することも可能である。
本発明に係る、荷電性(メタ)アクリル系高分子の重量平均分子量は、5,000〜100万を用いることができる。好ましくは、1万〜50万であり、さらに好ましくは2万〜30万の範囲である。この範囲内であれば、十分な強度と成膜性が得られる。
【0087】
本発明においては、荷電性(メタ)アクリル系高分子とともに、膜の孔の大きさをコントロールするためと、親水性を付与するために、親水性高分子が用いられることが好ましい。親水性高分子としては、ポリビニルピロリドン、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリエチレンオキシド、ポリエチレングリコール−ポリプロピレングリコールブロック共重合体、ポリビニルアルコール、ポリ(メタ)アクリルアミド、ポリ−N,N−ジメチル(メタ)アクリルアミド、ポリ−N−イソプロピル(メタ)アクリルアミド、ポリヒドロキシアクリレート、ポリヒドロキシメタクリレート、カルボキシメチルセルロース、澱粉、コーンスターチ、ポリキトサン、ポリキチンなどが挙げられる。中でも、ポリビニルピロリドンは、荷電性(メタ)アクリル系高分子との相溶性がよく、膜全体の親水性を高める上で特に好ましい。
【0088】
本発明で係わる、荷電性(メタ)アクリル系高分子膜に親水性を付与する親水性高分子の重量平均分子量は1,000〜200万を用いることができる。好ましくは5,000〜150万以下であり、さらに好ましくは5,000〜120万の範囲である。例えばポリビニルピロリドンではBASF社より様々なグレードが市販されており、その重量平均分子量が9,000のもの(K17)、以下同様に45,000(K30)、450,000(K60)、900,000(K80)、1,200,000(K90)を用いるのが好ましく、目的とする用途、特性、構造を得るために、それぞれ単独で用いてもよく、適宜2種以上を組み合わせて用いても良い。
【0089】
本発明に係わる、荷電性(メタ)アクリロニトリル系膜は特に限定されるものではなく、(メタ)アクリロニトリル系高分子の例としては、下記式(11)で表されるものが挙げられる。
[化11]

(式中、R19およびR20、R21は、水素または炭素数1〜14のアルキル基またはアラルキル基を表す。アルキル基の水素原子またはアラルキル基の水素原子は、炭素数1〜10のアルコキシ基によって置換されていてもよい。式中xおよびyは繰り返し単位を表す。)
その中でも、ポリ(メタ)アクリロニトリルやポリ(メタ)アクリロニトリル酸エステ
ルなど用いることができる。好ましくはポリアクリロニトリル、ポリメタアクリロニトリ
ルが良い。
【0090】
本発明に係わる(メタ)アクリロニトリル系高分子を構成するモノマー組成は、(メタ
)アクリロニトリル含量が少なくとも50重量%、好ましくは60重量%〜100重量%
であり、(メタ)アクリロニトリルに対して共重合性を有するビニル化合物の一種又は二
種以上の含量が50重量%以下、好ましくは0重量%〜40重量%以下である。上記ビニ
ル化合物としては、(メタ)アクリロニトリルに対して共重合性を有する公知の化合物で
あれば良く、特に限定されないが、好ましい共重合成分としては、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、酢酸ビニル、(メタ)アクリルスルホン酸ソーダ、p(パラ)−スチレンスルホン酸ソーダ、ヒドロキシエチルメタクリレート、メタアクリル酸エチルトリエチルアンモニウムクロライド、メタアクリル酸エチルトリメチルアンモニウムクロライド、ビニルピロリドン等を例示することができる。例えば、アクリロニトリル−アクリル酸メチル−PVP共重合体などが挙げられる。
必要に応じて高分子末端および/または主鎖中にエステル化、エーテル化、エポキシ化
、スルフォニル化など各種変性を実施することができる。また、荷電性を付与するために、アミノ基、モノアルキルアミノ基、ジアルキルアミノ基、トリアルキルアンモニウム塩基、カルボン酸基、スルホン酸基などの化学構造を必要に応じて導入しても良い。
【0091】
本発明に係わる荷電性(メタ)アクリロニトリル系高分子膜は、主として(メタ)アクリロニトリル系高分子からなるものであるが、(メタ)アクリロニトリル系高分子の特性を損なわない範囲で他の高分子量物質や添加物を含有していてもよい。これらの高分子を二種以上、組み合わせて実施することも可能である。
本発明に係わる(メタ)アクリロニトリル系高分子の重量平均分子量は、5,000〜100万を用いることができる。好ましくは、1万〜50万であり、さらに好ましくは2万〜30万の範囲である。この範囲内であれば、十分な強度と成膜性が得られる。
【0092】
本発明においては、(メタ)アクリロニトリル系高分子とともに、膜の孔の大きさをコ
ントロールするためと、親水性を付与するために、親水性高分子が用いられることが好ま
しい。親水性高分子としては、ポリビニルピロリドン、ポリエチレングリコール、ポリプ
ロピレングリコール、ポリエチレンオキシド、ポリエチレングリコール−ポリプロピレン
グリコールブロック共重合体、ポリビニルアルコール、ポリ(メタ)アクリルアミド、ポ
リ−N,N−ジメチル(メタ)アクリルアミド、ポリ−N−イソプロピル(メタ)アクリ
ルアミド、ポリヒドロキシアクリレート、ポリヒドロキシメタクリレート、カルボキシメ
チルセルロース、澱粉、コーンスターチ、ポリキトサン、ポリキチンなどが挙げられる。
中でも、ポリビニルピロリドンは、(メタ)アクリロニトリル系高分子との相溶性がよく
、膜全体の親水性を高める上で特に好ましい。
【0093】
本発明で係わる荷電性(メタ)アクリロニトリル系高分子膜に親水性を付与する親水性高分子の重量平均分子量は1,000〜200万を用いることができる。好ましくは5,000〜150万以下であり、さらに好ましくは5,000〜120万の範囲である。例えばポリビニルピロリドンではBASF社より様々なグレードが市販されており、その重量平均分子量が9,000のもの(K17)、以下同様に45,000(K30)、450,000(K60)、900,000(K80)、1,200,000(K90)を用いるのが好ましく、目的とする用途、特性、構造を得るために、それぞれ単独で用いてもよく、適宜2種以上を組み合わせて用いても良い。
【0094】
ポリペプチドの精製において、アフィニティクロマトグラフィー精製工程は必須な工程となっている。特に、プロテインAなどをリガンドとしたアフィニティクロマトグラフィーが利用されている。その分離原理は、リガンドに対する免疫グロブリンとその他の生体成分の特異的相互作用を利用して分離している。具体的には、免疫グロブリンや夾雑蛋白質、糖鎖、核酸を含む生体成分をアフィニティクロマトグラフィーに通し、免疫グロブリンだけを固定化したリガンドに特異的に結合させる。この特異的に結合した免疫グロブリンを、低いpH、高いpH、高い塩、競合リガンドなどを用いて固定リガンドからはずし、回収することで精製された免疫グロブリンが得られる。
しかしながら、アフィニティクロマトグラフィー精製工程の問題点は、リガンドから免疫グロブリンを溶離するために低いpHや高い塩に接触させることが必要となるため、免疫グロブリン自体を凝集させ、2量体以上の免疫グロブリン凝集体が副生させることや、リガンド自体(例えば、プロテインA)が溶出し、免疫グロブリンと複合凝集体を形成することである。
したがって、プロテインAなどをリガンドとしたアフィニティクロマトグラフィー精製を行った後、本発明に係わる分離方法を行うことによって該凝集体や該複合体を除去し、免疫グロブリンを十分に精製することができる。
【0095】
本発明に係わるプロテインAとは、天然の供給源から回収されたプロテインA、合成的に生成されたプロテインA(例えば、ペプチド合成によって、または組換え技術によって)、およびCH2/CH3領域(例えば、Fc領域)を有するタンパク質に結合する能力を保持するそれらの改変体を包含する。プロテインAは、Repligen、PharmaciaおよびFermatechから商業的に購入できる。プロテインAは、一般に、固相支持体材料にリガンドとして固定される。さらにプロテインAカラムとは、プロテインAが共有結合するクロマトグラフィー固体支持体マトリックスを含むアフィニティクロマトグラフィー樹脂またはカラムを示す。また、プロテインA以外のアフィニティクロマトグラフィーのリガンドとしては、プロテインL、プロテインGなどが挙げられる。これらのプロテインLおよびプロテインGについても、天然の供給源から回収されたもの、合成的に生成されたもの(例えば、ペプチド合成、または、組換え技術によって)、およびCH2/CH3領域(例えば、Fc領域)を有するタンパク質に結合する能力を保持するそれらの改変体を包含する。さらに、プロテインA、プロテインLおよびプロテインGを組み合わせて作成されたアフィニティクロマトグラフィー樹脂またはカラムを用いたアフィニティグラフィー精製方法も含有する。
【0096】
本発明の荷電を有する限外濾過膜の膜厚は、好ましくは15〜2,000μm、更に好ましくは15〜1,000μm、最も好ましくは20〜500μmである。膜厚が15μm未満であると限外濾過膜の強度が不充分になる傾向があり好ましくない。また、2,000μmを超えると標的生体成分の透過性能が不充分となる傾向があり好ましくない。
【0097】
本発明に係わる限外濾過膜の構造は、分画性能を発現できれば特に限定されるものではないが、高い分画性能と標的生体成分の高い処理量を満足するためには中空糸や平膜の片面、両面、あるいは、内面に緻密層を有する傾斜構造が好ましい。
【0098】
本発明に係わる限外濾過膜の緻密層の構造は、分画性能を発現できれば特に限定されるものではないが、高い分画性能と標的生体成分の高い処理量を満足するためには、緻密層を形成するポリマー粒子の直径は100nm以下が好ましく、60nm以下が更に好ましく、30nm以下が特に好ましい。相分離を用いた限外濾過膜の場合、相分離初期にポリマー粒子が多数形成され相分離の進行に伴ってポリマー粒子が成長して連結し緻密層が形成される。ここで言うポリマー粒子とは成長して連結したポリマー擬似粒子のことを言う。
本発明に係わる荷電を有する限外濾過膜の中空糸、平膜の表面、あるいは、内面に緻密な層を有している場合、その緻密層の厚みは、生体成分溶液の透過を向上させるために通常100μm以下、好ましくは10μm以下、さらに好ましくは1μm以下、特に好ましくは0.5μm以下、最も好ましくは0.2μm以下が良い
【0099】
本発明に係わる限外濾過膜は、標的生体成分と少なくとも標的生体成分の2量体を含む不純物生体成分を含む生体成分溶液を用いて特別な条件で処理することにより膜表面に極めて選択透過性の高いケーク層が形成される。このケーク層の性能に該ポリマー擬似粒子の直径が極めて重要な役割を果たしている。
【0100】
本発明に係わる限外濾過膜の空孔率は、30〜95%であることが好ましく、更に好ま
しくは40〜90%、最も好ましくは50〜85%である。空孔率が30%未満であると
濾過速度が不充分となり、95%を超えると限外濾過膜の強度が不充分となることから好ましくない。空孔率は、膜の断面積および長さから求めた見かけ体積と該膜の重量および膜素材の真密度から求めた数値である。
【0101】
本発明に係わる荷電を有する限外濾過膜の形状は、分画性能を発現できれば特に限定されるものではないが、例えば、中空糸状、平膜状、チューブ状等、種々の形状を用いることができるが、体積に比して濾過有効膜面積の大きい中空糸状が有効である。
本発明に係わる荷電を有する限外濾過膜の膜表面構造についてはとくに制限はなく、円形、楕円形等の単独孔や連続的に繋がった連続孔、網状微細孔、スリット状微細孔等が挙げられる。
【0102】
本発明における荷電を有する限外濾過膜は、分離対象物が接触する膜表面が限外濾過膜であれば良く、構造を保持するためには、如何なる材質から成る基材(支持体)を用いてもよい。例えば、物理的強度を高めるために他の基材(支持体)として織布又は不織布や多孔性無機体など用い、これらの基材の上に限外濾過膜を成型した膜などが挙げられる。
【0103】
一般に、濾過方法としてクロスフロー濾過とデッドエンド濾過が汎用濾過法として実施
されている。クロスフロー濾過とは、微細粒子等が含まれる被処理液を膜に供給しつつ濾
過して、異径の微粒子を分離するものである。膜面に堆積する微粒子(ゲル層)を微粒子
溶液の平行流による剪断力にて掻き取りながら、安定したゲル層の状態を長期にわたって
維持することで、分離性能を維持しようとするものである。一方、デッドエンド濾過は、
膜面に対して垂直に蛋白溶液を流すため、膜表面に堆積物が蓄積し、濾過時間と共に透過
抵抗が次第に増加し、透過蛋白濃度が変化してしまう。垂直濾過やノーマル濾過とも呼称
される。
【0104】
本発明に係わるクロスフロー濾過とは、膜面に対して平行に蛋白溶液を流し、せん断力
により膜表面に堆積する物を押し流すことで、動的平衡が成立し一定の蛋白濃度を形成し
連続運転を可能にする濾過方式である。十字流濾過、平行濾過やタンジェンシャルフロー
濾過とも呼称される。
【0105】
本発明に係わる標的生体成分と少なくとも標的生体成分の2量体を含む不純物生体成分とを併せた生体成分濃度は、分画性能を発現させる1〜150g/Lが良く、好ましくは5〜100g/L、さらに好ましくは5〜50g/Lが良い。また、標的生体成分の2量体と標的生体成分の濃度比(標的生体成分の2量体濃度/標的生体成分濃度)は、通常、0.2以下、好ましくは0.1以下である。
本発明に係わる標的生体成分と少なくとも標的生体成分の2量体を含む不純物生体成分とを併せた生体成分濃度の下限は、1g/L以上、好ましくは5g/L以上である。該濃度が1g/L未満の場合には、分画性能が急激に低下する。
一方、逆に150g/Lを超える高濃度の場合は、膜閉塞のため標的生体成分の透過率が明らかに低下する。よって、濃度の上限は150g/L以下、好ましくは100g/L以下、さらに好ましくは50g/L以下が良い。
標的生体成分と少なくとも標的生体成分の2量体を含む不純物生体成分を併せた生体成分濃度が上記の特別な範囲においてのみ極めて選択透過性の高いケーク層が形成されるため、高い分画性能と標的生体成分の高い処理量が達成される。
【0106】
本発明に係わる濾過線速とは、膜面に対して平行流れる溶液の速度である。濾過線速は
、分画性能を発現させることができれば特に限定されるものではないが、例えば、1〜2
00cm/秒が挙げられ、好ましくは10〜100cm/秒が良い。
【0107】
本発明に係わる濾過圧力は、分画性能を発現させることができれば特に限定されるもの
ではないが、高い処理量を達成するためには転移点の圧力(TPM:トランスメンブレン
圧)を越える圧力で実施することが好ましい。
転移点とは、以下のように求められる流動率対TMP曲線の所定の点を意味する。流動
率(Jf)対TMPの実験値を、入口および出口TMPが互いの±10%である短路長モ
ジュールかまたは再循環濾液を用いて同じ条件が得られる完全長モジュールにおいて集め
る。その実験値を下記式(12)により得られる曲線にあてはめる。
Jf=Jmax×TMP/(k+TMP) (12)
(式中、Jmax(漸近値)およびkは1/Jf対1/TMPの直線回帰により決定し、
これによりk/Jmaxの勾配と1/Jmaxの切片が得られる)
次に、転移点は以下の基準によりグラフから求められる。Jf=Jmaxと式(12)により得られる曲線に対する原点を通る接線(接線はJf=Jmax×TMP/k)のインターセプトを求める。次に、インターセプトを通っておよび上記曲線上の接線に垂直に直線を引く。この後者の直線および曲線の交点により、転移点流動率が定義される。
数学的には、この転移点(Jf)は下記式(13)となる。
(Jmax−Jf=−Jmax×k(Jmax−2Jf) (13)
【0108】
特許文献1においては、分子量比が10倍未満の標的生体成分と不純物生体成分を分離するため、TMP以下の圧力で濾過することが必須であると記載されているが、TMP以下では、濾過速度、すなわち処理量が小さくなる問題がある。
しかしながら、本発明の分離方法では、標的生体成分と少なくとも標的生体成分の2量体を含む不純物生体成分をTMPより高い圧力で濾過を行っても分離性能が維持することができ、さらに、濾過速度、すなわち処理量も大きいものである。
【0109】
本発明に記載のクロスフロー濾過中の生体成分の濃度変化は、膜閉塞や分画性能の低下
などが起こらなければ何ら限定はしないが、濾過前の生体成分の濃度を100とした時、
50〜200であることが好ましく、より好ましくは70〜150、さらに好ましくは8
0〜120である。特に、生体成分濃度を実質一定に維持しながら、クロスフロー濾過することがより好ましい。短時間で高い分画性能と透過性能を達成するためには、生体成分溶液の濃度を一定濃度で濾過(定濃度濾過)することが好ましい。ここで示す「濃度を実質一定に維持しながら」とは、「濃度を軽微な変動にとどめながら」と同意である。例えば、操作や装置で濃度をコントロール時に起こる軽微な濃度変動などが含まれる。しかしながら、濾過後半で、生体成分溶液の残量が少なくなり、濾過が困難になった場合、膜中や装置配管に残存する生体成分を回収するために、希釈液や緩衝溶液、水、生理食塩水を添加し、濾過を実施する場合は、濃度一定で濾過を行う必要はない。
【0110】
本発明に係わるクロスフロー濾過を行うための装置は、生体成分濃度や線速、圧力などをコントロールできる装置であれば何ら限定しないが、例えば、濾過元液即ち、生体成分溶液の濃度を吸光度計でモニタリングし、生体成分溶液の濃度を一定にするために希釈液を供給する装置と荷電を有する限外濾過膜に対して接線方向の線速と限外濾過膜を横切る圧力をコントロールする装置が一体となったクロスフロー濾過装置が挙げられる。
【0111】
具体的には、図1のようなクロスフロー濾過装置が挙げられる。生体成分溶液用タンク(4)内の生体成分溶液の濃度を吸光度計が組み込まれた濃度コントローラー(11)でモニタリングし、その信号を送液ポンプ1(2)に信号を送って回転をコントロールし、希釈液用タンク(1)中の希釈液を添加しながら生体成分溶液用タンク(4)中の生体成分濃度をコントロールする。さらに、圧力計1(5)および圧力計2(6)、流量計(10)で圧力と流量を圧力・流量コントローラー(12)でモニタリングし、荷電を有する限外濾過膜モジュール(8)に対して接線方向の線速と荷電を有する限外濾過膜を横切る圧力が設定値になるように送液ポンプ2(3)および調整バルブ(7)に信号を送ってコントロールする。得られた透過液タンク(9)中の透過液の濃度および標的生体成分、不純物生体成分の割合を測定できる装置、例えば、吸光度計やGPCが本クロスフロー濾過装置に連結していても良い。
【0112】
また、図2のようなクロスフロー濾過装置でも良い。生体成分溶液用タンク(4)と荷電を有する限外濾過膜モジュール(8)との間に濃度をモニタリングできる装置、例えば、UVフローセル(13)などを設け、生体成分溶液用タンク(4)中の生体成分濃度を濃度コントローラ(11)でモニタリングし、その信号を送液ポンプ1(2)に信号を送って回転をコントロールし、希釈液用タンク(1)中の希釈液を添加しながら生体成分溶液用タンク(4)中の生体成分濃度をコントロールする。さらに、圧力計1(5)および圧力計2(6)、流量計(10)で圧力と流量を圧力・流量コントローラー(12)でモニタリングし、荷電を有する限外濾過膜モジュール(8)に対して接線方向の線速と荷電を有する限外濾過膜を横切る圧力が設定値になるように調整バルブ(7)に信号を送ってコントロールする。得られた透過液タンク(9)中の透過液の濃度および標的生体成分、不純物生体成分の割合を測定できる装置、例えば、吸光度計やGPCが本クロスフロー濾過装置に連結していても良い。
【0113】
本発明に関わる生体成分溶液の調製に使用する溶媒や希釈液としては、生体成分の変性や凝集を起こすことがなければ何ら限定はしないが、例えば、PBSや生理食塩水、N−[トリス(ヒドロキシメチル)メチル]グリシン(Tricine)、N,N−ビス(2−ヒドロキシエチル)グリシン、N−トリス(ヒドロキシメチル)メチル−3−アミノプロパンスルホン酸(TAPS)、3−[(1,1−ジメチル−2−ヒドロキシエチル)アミノ−2−ヒドロキシプロパンスルホン酸](AMPSO)、N−シクロヘキシル−2−アミノエタンスルホン酸(CHES)、N−シクロヘキシル−2−ヒドロキシ−3−アミノプロパンスルホン酸(CAPSO)、2−アミノ−2−メチル−1−プロパノール(AMP)、N−シクロヘキシル−3−アミノプロパンスルホン酸(CAPS)、ピペラジン−1,4−ビス(2−エタンスルホン酸)(PIPES)等のグッド緩衝剤、酢酸塩、グリシン、クエン酸塩、リン酸塩、ベロナール、ホウ酸塩、コハク酸塩、トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン、イミダゾール等の緩衝液等が挙げられる。
【0114】
本発明に係わる緩衝剤の濃度は、生体成分の変性や凝集を起こすことがなければ何ら限定はしないが、例えば、1mM〜1M、好ましくは、10mM〜500mM、より好ましくは、50mM〜200mMが良い。
本発明に係わる緩衝剤のpHは、生体成分の変性や凝集を起こすことがなければ何ら限定はしないが、例えば、pH3〜pH10、好ましくは、pH4〜pH9、より好ましくは、pH5〜pH8が良い。
【0115】
本発明に関わる生体成分溶液の調製に使用する溶媒や希釈液に添加する添加剤としては、生体成分の変性や凝集を起こすことがなければ何ら限定はしないが、例えば、無機塩や界面活性剤、アミノ酸、安定剤、防腐剤などが挙げられる。
【0116】
本発明に係わる無機塩としては、塩化ナトリウムや塩化カリウム、塩化マグネシウム、
塩化カルシウム、硫酸マグネシウム等が挙げられる。その濃度としては、例えば、1mM
〜1M、好ましくは、10mM〜500mM、より好ましくは、50mM〜200mMが
良い。
【0117】
本発明に係わる界面活性剤としては、分画性能に影響を与えなければ何ら限定はしない
が、例えば、ポリオキシエチレンセチルエーテル、ポリオキシエチレンオレイルエーテル
、ポリオキシエチレンラウリルエーテル〔例えば、エマルゲン120:花王(株)製〕、
ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル〔例えばポリオキシエチレンオクチルフェ
ニルエーテル(例えば、トリトンX−100:ローム・アンド・ハース社製)、ポリオキ
シエチレンイソオクチルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル
等〕、ポリエチレングリコールモノラウレート等のノニオン型界面活性剤、塩化ステアリ
ルトリメチルアンモニウム、アルキルベンジルジメチル等のカチオン型界面活性剤、コー
ル酸、デオキシコール酸、ポリオキシエチレンアルキルフェノールエーテル硫酸ナトリウ
ム等のアニオン型界面活性剤、ステアリルベタイン、2−アルキル−N−カルボキシメチル−N−ヒドロキシエチルイミダゾリニウムベタイン等のベタイン型界面活性剤等が挙げられる。その濃度としては、界面活性剤の種類に依存されるが、0.001重量%〜1重量%が良い。
【0118】
本発明に係わるアミノ酸としては、分画性能に影響を与えなければ何ら限定はしないが
、例えば、リシン、アルギニン、システイン、アラニン、グリシン、セリン、プロリン等
および、これらアミノ酸の塩酸塩等の塩類が挙げられる。その濃度としては、アミノ酸の種類に依存されるが、0.01重量%〜20重量%が良い。
【0119】
本発明に係わる安定剤としては、グルコース、ソルビトール、ショ糖、グリセロール、
ポリエチレングリコール、アルギニンなどのアミノ酸等が挙げられる。その濃度としては
、1重量%〜50重量%が良い。
【0120】
本発明に係わる防腐剤としては、分画性能に影響を与えなければ何ら限定はしないが、
例えば、アジ化ナトリウム等が挙げられる。その濃度としては、0.001重量%〜1重
量%が良い。
【0121】
本発明に係わる分離方法は、サイズ分画によって分離する方法であるため、合成医薬品
の精製や清酒、ビール、ワイン、発泡酒、お茶、ウーロン茶、野菜ジュース、果物ジュー
スなど各種飲料の精製、薬液や処理水等から微粒子分離、油水分離や液ガス分離用の分離、上下水の浄化を目的とする分離などの用途にも利用できる。
【0122】
本発明における分離膜モジュールとは、例えばケーシング内に平膜もしくは中空糸膜を
収容したものであり、少なくとも分離対象物を含む液体をケーシング内に注ぎ込む液体流
入口を一つ以上、分離された液体を導出するための液体流出口を一つ以上供えたものをい
う。モジュールに使用するケーシングは一つ以上のケーシング部品から組み立てられる。
ケーシング部品の材料は金属、ガラス、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂など、必要に応じて
選択できる。好適な材料は、内部の様子が観察可能な透明性を有する熱可塑性樹脂材料で
あり、具体的にはポリメチルメタクリレート、ポリスチレン、硬質塩化ビニル樹脂、ポリ
エチレンテレフタレート、ポリプロピレン、ポリスチレンブタジエン共重合体、ポリカー
ボネート、ポリメタクリル酸メチルなどが挙げられる。特に好適なものは透明性を有する
非晶性樹脂であり、ポリスチレンブタジエン共重合体、ポリカーボネート、ポリメタクリ
ル酸メチルなどが挙げられる。
【0123】
本発明に係わるモジュールに使用するケーシングを組み立てる際に使用されるケーシン
グ部品の製造方法は、成型加工が可能であれば何ら限定しないが、例えば、溶接、プレス
成型、射出成型、反応射出成型、超音波圧着、プラズマ融着、接着剤による接着などであ
る。これらは単独でも2つ以上組み合わせても良い。特に好適なケーシング部品の製造方
法としては材料に透明性を有する熱可塑性樹脂を用いた射出成型品と適切な接着剤で封止
する方法である。
【0124】
本発明に係わるモジュールに使用するケーシングおよび/またはケーシング部品には成
型中、および/または成型後、および/または組み立て中、および/または組み立て後に
、分離処理される液体と接触および/または接触しない表面に表面加工が実施できる。表
面加工には種々の方法があるが、例えば親水化をする場合は親水性高分子の塗布や空気中
でのプラズマ処理による表面酸化などが、疎水化する場合は撥水剤および/または離型剤
の塗布が、また酸素透過を減少させる場合には蒸着法などにより酸化ケイ素膜をはじめと
する各種無機コートを実施することができる。ケーシングおよび/またはケーシング材料
への親水化加工を行うことでモジュール組み立て時に同種および/または異種材料界面の
接着性制御が容易になり、疎水化加工を行うことで組み立て時に一時的に使用される各種
保護フィルムなどとの剥離性を向上させることができる。
【0125】
本発明に係わるモジュールの構造は使用する膜の形状や液体中の分離対象物で異なるが
、例えば平膜であり、分離対象物がサイズ分離可能な物質であれば、モジュールの構造は
、分離処理される液体が一枚もしくは複数の平膜を通してのみ流通するようにケーシング
内に適切に収容され、液体の流路の上流に液体流入口を、下流に液体流出口を有する構造
となる。また金属メッシュ、不織布など平膜を保持する目的の保持材と平膜を組み合わせ
てケーシングに収容し、モジュール化することもできる。更には、膜面積を広く収容する
ために平膜をプリーツ状に折りたたみ収容することもできる。
【0126】
本発明に係わる荷電を有する限外濾過膜を製造する方法は何ら限定しないが、例えば溶融成膜法や湿式成膜法が挙げられる。溶融成膜法とは、膜材料と可塑剤を加熱することで均一混合させた後、冷却することにより相分離を発生させ、得られた膜フィルムから可塑剤を抽出することで膜を得る方法である。また、湿式成膜法とは膜材料を良溶媒に溶解した膜原液と、膜原液中の良溶媒とは混和可能だが膜材料とは相溶しない他の溶媒からなる凝固液とを接触させることで、接触表面から濃度誘起による相分離を発生させて、膜を得る方法である。
【0127】
本発明に係わる荷電を有する限外濾過膜の製造する方法については、目的の分画性能を有する限外濾過膜を製造することができれば何ら限定しない。一例として、荷電性親水化スルホン系高分子膜の湿式成膜法について説明する。
荷電性親水化スルホン系高分子膜を製造する方法として、例えば湿式成膜法が挙げられる。湿式成膜法とは膜材料を良溶媒に溶解した膜原液と、膜原液中の良溶媒とは混和可能だが膜材料とは相溶しない他の溶媒からなる凝固液とを接触させることで、接触表面から濃度誘起による相分離を発生させて、膜を得る方法である。
【0128】
本発明に係わる生体成分分離膜を得る湿式成膜法に用いられる良溶媒とは20℃の100g純水に10g以上溶解可能であり、かつ膜材料の荷電性スルホン系高分子を5重量%以上溶解するものが好ましく、更に好ましくは水に混和可能なものであれば何ら限定しないが、具体的にはN−メチル−2−ピロリドン、N,N−ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド、N,N−ジメチルホルムアミド、γ−ブチロラクトンなどが挙げられる。これらは2種以上組み合わせて使用できる。
【0129】
本発明に係わる荷電を有する限外濾過膜を得る湿式成膜法に用いられる膜原液は、目的の構造および性能を有する荷電性親水化スルホン系高分子膜を製造できれば何ら限定はしないが、例えば、膜原液全体を100重量%とした場合、荷電性スルホン系高分子の濃度範囲としては下限として1重量%以上、好ましくは2重量%以上、特に好ましくは3重量%以上である。また上限としては45重量%以下、好ましくは35重量%以下、特に好ましくは25重量%以下で均一に溶解した溶液が好適に使用される。親水性高分子は、下限として0.1重量%以上、好ましくは0.5重量%以上、上限として20重量%以下、好ましくは10重量%以下で、均一に溶解した溶液が好適に使用される。また、膜原液の温度は、下限として0℃以上、好ましくは10℃以上、特に好ましくは25℃以上、上限として膜原液中の良溶媒沸点以下が好適に使用される。この温度条件下であれば、膜原液として好ましい膜への加工を行うのに好適な粘度を得ることができる。
【0130】
本発明に係わる荷電性親水化スルホン系高分子膜を得る湿式成膜法に用いられる凝固液としては、膜原液と接触したとき濃度誘起相分離を引き起こし、接触面から膜を形成することができる物質であれば何ら限定しないが、例えば、純水、モノアルコール系溶媒、ポリオール系溶媒又はこれら2種以上の混合液などが好適に使用される。モノアルコール系溶媒の例としては、メタノール、エタノール、プロパノールなどが挙げられる。また、ポリオール系溶媒の例としては、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、グリセリン、プロピレングリコール、1,2−ブタンジオール、1,4−ブタンジオールなどが挙げられる。凝固液中にポリビニルアルコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリエチレンオキシド、ポリエチレングリコール−ポリプロピレングリコールブロック共重合体、ポリアクリルアミド、ポリビニルピロリドン、ポリヒドロキシアクリレート、ポリヒドロキシメタクリレート、ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸、ポリイタコン酸、ポリフマル酸、ポリシトラコン酸、ポリ−p−スチレンスルホン酸、ポリ−p−スチレンスルホン酸ソーダ、N,N−ジメチルアクリルアミド、カルボキシメチルセルロース、澱粉、コーンスターチ、ポリキトサン、ポリキチンなどの水溶性高分子を添加することも可能である。添加する水溶性高分子の分子量や添加量にも依存するが、これらを添加することにより濾過性能を向上させることが可能である。
また、凝固液中に、N−メチル−2−ピロリドン、N,N−ジメチルアセトアミド、ジ
メチルスルホキシド、N,N−ジメチルホルムアミド、γ―ブチロラクトンなどの良溶媒
を含有させることも可能である。特に、良溶媒を非溶媒に含有させた凝固液を使用する場
合、その組成は、膜原液の組成、膜原液と凝固液との接触温度などで異なるが、概ね、凝
固液全体を100重量%とした場合、良溶媒の重量%として90重量%以下が好ましい。この範囲であれば、膜を形成するのに必要十分な濃度誘起相分離を十分に達成できる。
【0131】
本発明に係わる湿式成膜法における成膜温度とは、膜原液と凝固液を接触させ、濃度誘
起相分離を生じさせる時の温度であれば何ら限定しないが、成膜温度の下限としては0℃
以上、好ましくは10℃以上、特に好ましくは25℃以上である。上限としては膜原液も
しくは凝固液の各沸点以下、好ましくは各沸点から5℃以上低い温度、特に好ましくは沸
点から10℃以上低い温度である。中空糸膜であれば二重紡口の温度により決まる。なお
、平膜においては凝固液温度で決まる。
【0132】
本発明に係わる荷電性親水化スルホン系高分子膜を得る湿式成膜法に用いられる膜原液、凝固液、特に中空糸膜製造時に糸の内部を通す凝固液(以後、内部凝固液)は均一溶解後に、溶存気体を除去することが望ましい。溶存気体を除去することで、溶存気体の発泡による膜の欠陥を著しく改善することできる。また、溶存気体のなかでも特に酸素を除くことで、高い温度下での膜加工による材料への酸化反応が減少する。膜原液および凝固液、内部凝固液に気体が溶存していない場合は、この工程を省略しても良い。
【0133】
本発明に係わる湿式成膜法で中空糸膜を製造する場合、二重紡口から出た膜原液と内部
凝固液による凝固をより促進するため、紡口直下に槽(以後、凝固槽)を設け、凝固槽中
に満たされた凝固液(以後、外部凝固液)と接触させることができる。
本発明の湿式成膜法で中空糸膜を製造する場合、中空糸膜の断面構造を均一構造のみな
らず、様々な不均一構造まで、自由に構造制御するために紡口から外部凝固液面までの距
離(以後、空走距離)および紡糸口から外部凝固液面までの空間の温度と湿度を調整する
ことができる。空間の温度と湿度を調整できれば何ら限定しないが、例えば、空走距離の
下限としては0.001m、好ましくは0.005m、特に好ましくは0.01m以上、
上限としては2.0m、好ましくは1.5m、特に好ましくは1.2m以下である。また紡糸口から外部凝固液面までの空間における温度は、下限としては10℃以上、好ましくは20℃以上、特に好ましくは25℃以上である。湿度は温度との兼ね合いで変化するが、下限としては0%、好ましくは10%、特に好ましくは30%以上であり、上限としては100%以下である。
【0134】
本発明本発明に係わる湿式成膜法で中空糸膜を製造する場合の巻取り速度は、製造条件
である各種因子、紡口の形状、紡糸原液の組成、内部凝固液および外部凝固液の組成、原
液および各凝固液の温度等で変化し得るが、概ね300m/時間から9,000m/時間の速度が選択される。
【0135】
本発明に係わる湿式成膜法においては、凝固液による凝固後、膜の強度を強めるため脱
溶媒槽に浸漬して脱溶媒を促進することができる。脱溶媒液には、凝固液による濃度誘起
相分離後、残存している溶媒を除去できる溶媒であり、膜を溶解しないものであればいず
れの溶媒でも用いることが可能である。一般には、水、エタノール等を用いることが多い

湿式成膜法により得られた未乾燥の本発明の限外濾過膜は、乾燥中の膜破断が生じない
温度であれば何ら限定はしないが、例えば、20℃以上からスルホン系高分子の溶融温度
以下の温度範囲内で乾燥を行う。好ましい乾燥温度としては30℃以上、150℃以下、
更に好ましくは50℃以上、140℃以下、である。乾燥に要する時間は、乾燥温度との
関係で決まるが、概ね0.01時間以上から48時間までが選択される。
【0136】
本発明に係わる透過率は、濾過前の標的生体成分と不純物生体成分混合溶液に含まれる標的生体成分量または不純物生体成分量と、限外濾過膜を透過して濾液に出てきた標的生体成分量、または、不純物生体成分量から算出する。
標的生体成分を医薬品や健康食品、化粧品として使用する場合、副作用などの問題から、不純物生体成分をできるだけ除去した方が良い。従って、本発明に係わる透過率は80%以上が良く、好ましくは85%以上、より好ましくは90%以上が良い。また、標的生体成分の透過率と不純物生体成分の透過率比は0.20%以上が良く、好ましくは0.15%以上、より好ましくは0.10%以上が良い。透過率比が低い程、一方の生体成分の透過率が低く、他方の透過率が高いことを示し、分画性能が高いことを示している。
【0137】
本発明に係わる透過率を測定する方法としては、高速液体クロマトグラフフィー法、核
磁気共鳴法、質量分析法、赤外分光法などの結果より算出する方法が挙げられるが、算出
することができれば、これらに限定するものではない。
【実施例】
【0138】
本発明を次に実施例および比較例によって説明するが、これらに限定されるものではな
い。
【0139】
[ポリスルホンのスルホン酸基置換度の測定法]
スルホン酸基モル数を社団法人日本分析化学会編「分析化学便覧(改訂二版1971年度)」、P367(2・47・3定量)に示されている中和滴定法で求める。さらに、NMRにおいて、芳香族部分とポリエチレンオキサイドのメチレン鎖部分の積分値からポリスルホン骨格の重量%を求める。ポリスルホン骨格の繰り返し単位あたりに換算し、先に求めたポリスルホン酸基とからポリスルホン骨格の繰り返し単位あたりのスルホン酸基数、すなわち、置換度(スルホン化度またはD.S)が求められる。
【0140】
[ゼータ電位の測定方法]
Electoro Kinetic Analyzer(以下、EKAと称す。)(Anton Paar GmbH社製)を用いて下記のとおり行った。EKAのポンプ設定電圧を20Vにする。測定試料は、シリンドリカルセル中央部に、−930〜−950mbaの圧力がかかるように、Ag/AgCl電極を挟み込んで、3〜5cm幅に充填する。25℃の0.001mol/KCl水溶液(キシダ化学(株)製 試験研究用0.01mol/KCl溶液と蒸留水を使用して調整)を500ml用意し、このKCl水溶液を測定回路内全体に満たした後、0.1mol/KOH水溶液(和光純薬工業(株)製 容量分析用)を添加してpHを11にする。その後、0.1mol/HCl水溶液(和光純薬工業(株)製 容量分析用)をRTU(Remote Controlled Titration Unit(Anton Paar GmbH社製))で滴定しながら、pHが0.8変化する毎の中空糸膜のゼータ電位をpH11〜3までのレンジで測定し、pH7.4のゼータ電位を求める。
【0141】
[エンドトキシン濃度の測定方法]
エンドトキシンは吸着や失活が起こりやすいためサンプル採取後速やかにエンドトキシン濃度を測定した。透析液用リムリス試薬(和光純薬工業(株)製 透析用リムリス試薬0.2mL用)にサンプルを200μL入れ、3秒後ボルテックスした。トキシノメーター(和光純薬工業(株)製 ET−301)でリムリス試薬のゲル化時間を測定した。このときの設定温度は37℃、測定時間は200minとする。同様な操作でエンドトキシン標準品(和研薬E.coliUKT−B由来)を測定し、検量線とした。
【0142】
[DNA濃度の測定方法]
THRESHOLD Total DNAアッセイ(Molecular Devices、Corp.,Sunnyvale,CA)に従って、DNA濃度を評価した。
【0143】
[CHOP(チャイニーズハムスター卵巣細胞蛋白質)濃度の測定方法]
ヤギ抗(宿主細胞タンパク質)抗体を用いる酵素結合免疫吸着検定法(ELISA)によってCHOPの濃度を測定した。精製したヤギ抗−CHOP抗体全体をマイクロタイタープレートのウェルに固定化した。CHOPを含む生体成分溶液の希釈物を、ウェルにインキュベートし、その後、ペルオキシダーゼと結合体化した抗−CHOP全体とインキュベートした。次に、西洋ワサビペルオキシダーゼを、o−フェニレンジアミンを用いて、492nmの吸光度を読むことによって定量した。サンドイッチELISAの原理に基づいて、ペルオキシダーゼの濃度は、CHOPの濃度に対応した。ELISAの測定範囲は5ng/mL〜320ng/mLであった。生体成分溶液の濃度によっては希釈して測定を行った。
【0144】
[製造例]
<製造例1:スルホン化ポリスルホン系ポリマーの製造>
J.Polym.Sci.,:Part A:Polym.Chem.,31、853−858(1993)に記載の方法で、ビス(2−クロロベンゼンスルフォネイト)−5,5’−スルホン酸ナトリウム塩を合成した。
1,000ml三口セパラブルフラスコにビスフェノールA(東京化成工業(株)製)29.0g、4,4‘−ジクロロジフェニルスルホン(東京化成工業(株)製)31.6g、上述のビス(2−クロロベンゼンスルフォネイト)−5,5’−スルホン酸ナトリウム塩10.2g、炭酸カリウム(和光純薬工業(株)製)52.8g、トルエン(和光純薬工業(株)製)80ml、N−メチル−2−ピロリドン(東京化成工業(株)製)195mlを入れ、攪拌を行いながら窒素置換を2時間行った。混合液を155℃で保持後、トルエンを3時間還流させ、その間、共沸してくる水をディーンスタックトラップで混合液から除去した。続いて混合液を190℃に昇温し、トルエンを除去後、さらに190℃で5時間保持した。反応混合物を室温で冷却し、攪拌下の蒸留水10,000mlへゆっくりと滴下し、繊維状分岐スルホン化ポリスルホンを得た。濾物を蒸留水5,000ml中へ投入し、濾物と蒸留水混合物のpHが2となるように濃塩酸を加え、濾別し、濾液がpH7になるまで水洗した。さらに70℃40%エタノール水溶液6,000mlで3時間洗浄した後、濾別し、濾物をエタノールで洗浄後、50℃で真空乾燥して、スルホン酸基置換度(D.S)が0.3であるスルホン化ポリスルホン系ポリマーを得た。このときの収量は65gであった。また、得られたポリマーの重量平均分子量は75,000であった。
【0145】
<製造例2:負荷電性中空糸膜(PSf−1)の製造方法>
1,650gのN,N−ジメチルアセトアミド(和光純薬工業(株)製、以下、DMAcと略す)に170gのポリスルホン(P1700、UCC社製、以下PSfと略す)、製造例1に記載されている110gのスルホン化ポリスルホン系ポリマーおよび110gのポリビニルピロリドン(K−90、BASF社製、以下PVPと略す)を加え、膜原液用の5,000×10−6反応器に注ぎ込んだ。反応器の攪拌をしながら減圧と窒素置換を5回繰り返した。その後、60℃に反応器内液温度をあげ、均一なPSfのDMAc溶液を得た。均一に溶解したことを確認し、この段階で攪拌を停止し、減圧にして脱泡を行った。その後、大気圧と同じ圧力に戻し、60℃に保持された紡糸用の膜原液を得た。
純水480gにDMAc520gを混合し、内部凝固液用の3,000×10−6反応器に加えた。減圧と窒素置換を5回繰り返し、内部凝固液を得た。
60℃に保持された2重紡口(内直径100μm、スリットの幅50μm、外直径30
0μm)に内部凝固液をおよび膜原液を通液させた。それぞれの流速は紡糸時の巻取り速
度に応じて適宜調整した。
得られた中空糸膜は空走距離0.6mで、60℃に保持された凝固槽中の外部凝固液(
純水)中に導かれ、凝固を完了させたあと、巻取り装置で巻き取った。巻取り速度として
は2,400m/時間から4,800m/時間で巻き取ることができた。
その後、得られた中空糸膜は60℃の純水を用いて浸漬・洗浄を繰り返し、その後70
℃の熱風乾燥機で6時間乾燥した。この製造方法により、分画分子量360kDa、内径
179μm、膜厚39μmの負荷電性スルホン系高分子膜を製造することができた。
その結果および先に述べた方法により負荷電性スルホン系高分子膜のゼータ電位を測定したその結果を表2に記す。
【0146】
<製造例3:正荷電性中空糸膜(PSf−2)の製造方法>
製造例2の170gのポリスルホンと製造例1に記載されている110gのスルホン化ポリスルホン系ポリマーの代わりに、280gのポリスルホン(P1700、UCC社製)を用いる以外は、製造例2と同様の方法で、中性スルホン系高分子膜を製造することができた。
この中性スルホン系高分子膜の一方を塞ぎポリエチレンイミン(シグマ社製 Mw75万)100重量ppm水溶液1Lを室温下終夜でスルホン系高分子中空糸膜の内側から外側に通過させた。流速は500mL/min・mで通液量は1L/mとした。次に、水を室温下スルホン系高分子中空糸膜の内側から外側に通過させ洗浄した。流速は500mL/min・mで通液量は2L/mとした。この後、27kGyでγ線照射を行い、正荷電性中空糸膜を製造することができた。この製造方法により、分画分子量360kDa、内径179μm、膜厚39μmの正荷電性スルホン系高分子膜を製造することができた。
先に述べた方法により正荷電性スルホン系高分子膜のゼータ電位を測定したその結果を表2に記す。
【0147】
<製造例4:中性中空糸膜(PSf−3)の製造方法>
製造例2の170gのポリスルホンと製造例1に記載されている110gのスルホン化ポリスルホン系ポリマーの代わりに、280gのポリスルホン(P1700、UCC社製)を用いること、および、内部凝固液の組成(純水/DMAc)および膜原液中のポリスルホン濃度を変化させること以外は、製造例2と全く同様な方法で中性中空糸膜(PSf−3)を作製した。この製造方法により、分画分子量1,000kDa、内径168μm、膜厚42μmの中性スルホン系高分子膜を製造することができた。その結果、表2に示す。
先に述べた方法により中性スルホン系高分子膜のゼータ電位を測定したその結果を表2に記す。
【0148】
<製造例5:正荷電性中空糸膜(PVA−1)の製造方法>
エチレン含量32モル%、ケン化度99%のEVA系重合体((株)クラレ製、EVAL EC−F100A)15重量%、ジメチルスルホキシド(DMSO)84重量%、水1重量%を90℃で加熱溶解し、膜原液用の5,000×10−6反応器に注ぎ込んだ。反応器の攪拌をしながら減圧と窒素置換を5回繰り返した。均一な膜原液を得た後、攪拌を停止し、減圧にして脱泡を行った。その後、大気圧と同じ圧力に戻し、70℃に保持された紡糸用の膜原液を得た。
次に、内部凝固液として30重量%DMSO水溶液を作製した。65℃に保持された2重紡口(内直径100μm、スリットの幅50μm、外直径300μm)に内部凝固液でおよび膜原液を通液させた。それぞれの流速は紡糸時の巻取り速度に応じて適宜調整した。得られた中空糸膜は空走距離0.6mで、15℃に保持された凝固槽中の外部凝固液である30重量%DMSO水溶液中に導かれ、凝固を完了させたあと、巻取り装置で巻き取った。巻取り速度としては2,400m/時間から4,800m/時間で巻き取ることができた。その後、得られた中空繊維膜を水洗、湿熱処理、アセトン置換、乾燥、定長熱処理し、乾燥中空糸膜を得た。
この中性PVA高分子膜の一方を塞ぎ3−ブロモプロピルトリメチルアンモニウムブロミド(アルドリッチ社製)2molを0.1N NaOH水溶液1Lに溶解させた水溶液を室温下中性PVA高分子中空糸膜の内側から外側に室温、終夜で循環させた。流速は500mL/min・mで通液量は1L/mとした。次に、水を室温下EVA高分子中空糸膜の内側から外側に通過させ洗浄した。流速は500mL/min・mで通液量は2L/mとし、正荷電性中空糸膜を製造することができた。この製造方法により、分画分子量380kDa、内径158μm、膜厚41μmの正荷電性PVA高分子膜を製造することができた。
先に述べた方法により正荷電性PVA高分子膜のゼータ電位を測定したその結果を表2に記す。
【0149】
<製造例6:負荷電性中空糸膜(PVA−2)の製造方法>
製造例5の中性PVA高分子膜の一方を塞ぎ3−ブロモプロパンスルホン酸(アルドリッチ社製)2molを0.1N NaOH水溶液1Lに溶解させた水溶液を室温下中性PVA高分子中空糸膜の内側から外側に室温、終夜で循環させた。流速は500mL/min・mで通液量は1L/mとした。次に、水を室温下PVA高分子中空糸膜の内側から外側に通過させ洗浄した。流速は500mL/min・mで通液量は2L/mとし、負荷電性中空糸膜を製造することができた。この製造方法により、分画分子量380kDa、内径158μm、膜厚41μmの負荷電性PVA高分子膜を製造することができた。
先に述べた方法により負荷電性PVA高分子膜のゼータ電位を測定したその結果を表2に記す。
【0150】
<製造例7:中性中空糸膜(PVA−3)の製造方法>
内部凝固液の組成を適時変化させること、および、後工程の3−ブロモプロピルトリメチルアンモニウムブロミドによる正荷電処理をしないこと以外は、製造例5中空糸膜(PVA−1)の製造方法と同等の条件で行うことにより、分画分子量95万、内径160μm、膜厚45μmの中性中空糸膜を製造することができた。
先に述べた方法により中性PVA高分子膜のゼータ電位を測定したその結果を表2に記す。
【0151】
<分画分子量の測定>
各限外濾過膜を用いて、1wt%のウシアルブミン(シグマ−アルドリッチ社製、分子量6万)およびウシγ−グロブリン(インビトロジェン社製、分子量15万)、フェリチン(シグマ−アルドリッチ社製、分子量45万)を0.010MPaの定圧デッドエンドで濾過を行った。濾過開始から5分の間に透過した免疫グロブリン透過液中のアルブミンおよびγ−グロブリン、フェリチンの量を測定し、膜に捕捉された各蛋白質の捕捉率を算出した。各蛋白質の分子量と捕捉率との検量線を作製し、検量線から捕捉率90%の時の分子量を求め、その値を分画分子量と定めた。
【0152】
<処理量、透過量、透過率および透過率比の計算方法>
処理量、透過量、透過率および透過率比は、濾過前後の生体成分の容量および濃度を用いて算出した。標的生体成分および不純物生体成分の濃度測定には、高速液体クロマトグラフフィー測定(東ソー(株)製のカラムG3000SWXLを2本、東ソー(株)製のSC8020システム、東ソー(株)製のUV8020検出器)を行い、280nm波長における吸収ピーク面積比から求めた。
まず、膜に透過させた生体成分の処理量を下記式(14)〜(16)で計算した。
生体成分の処理量(g)
=標的生体成分の処理量(W1)+不純物生体成分の処理量(W2) (14)
W1(g)=Va×A1a/A1s×Ka (15)
W2(g)=Va×A2a/A2s×Ka (16)
Va:濾過前の生体成分溶液の容量(L)
A1s:1g/Lの標的生体成分のHPLCピーク面積(mV・秒)
A2s:1g/Lの不純物生体成分のHPLCピーク面積(mV・秒)
A1a:濾過前の標的生体成分のHPLCピーク面積(mV・秒)
A2a:濾過前の不純物生体成分のHPLCピーク面積(mV・秒)
Ka:濾過前の生体成分溶液の希釈倍数

次に、標的生体成分の透過量(P1)と不純物生体成分の透過量(P2)を下記式(17)および(18)で計算した。
P1(g)=Vf×A1f/A1s×Kf (17)
P2(g)=Vf×A2f/A2s×Kf (18)
Vf:透過液の容量(L)
A1s:1g/Lの標的生体成分のHPLCピーク面積(mV・秒)
A2s:1g/Lの不純物生体成分のHPLCピーク面積(mV・秒)
A1f:透過液中の標的生体成分のHPLCピーク面積(mV・秒)
A2f:透過液中の不純物生体成分のHPLCピーク面積(mV・秒)
Kf:透過液の希釈倍数

さらに、標的生体成分の透過率および不純物生体成分の透過率を下記式(19)および(20)で計算した。
標的生体成分の透過率(%)=P1/W1×100 (19)
不純物生体成分の透過率(%)=P2/W2×100 (20)
その結果、透過率比(分画性能)を下記式(21)で計算した。
透過率比=不純物生体成分の透過率/標的生体成分の透過率 (21)
透過率比が低い程、標的生体成分と不純物生体成分の分画性能が高いことを示している。
【0153】
<抗SCF抗体の製造例>
(1)免疫原の作製
SCFを高発現するHeLa細胞のcDNAライブラリーから単離したSCFのcDNAを動物細胞発現用ベクターpBCMGS−neoに組み込んだ後、これをマウス繊維芽細胞株Balb/3T3細胞に形質導入し、得られたトランスフェクタントを免疫原とした。
(2)ハイブリドーマの作製
(a)免疫
8週令のBalb/cマウス(雌)に上記トランスフェクタントを2週間間隔で腹腔内投与した。免疫の効果は、マウスの尾静脈から採取した末梢血の血清と免疫原との反応性により評価した。効果を確認した後、最終免疫、細胞融合を行った。
(b)細胞融合
最終免疫から4日後、免疫されたマウスの脾細胞とマウス骨髄腫由来細胞株SP−2を常法に従って細胞融合させた。
(c)抗SCF抗体産生ハイブリドーマのスクリーニング
抗SCF抗体産生ハイブリドーマのスクリーニング法として、トランスフェクタントおよびその親株細胞(Balb/3T3)を抗原とした間接抗体法を用いた。トランスフェクタントに結合し、親株細胞(Balb/3T3)には結合しない抗体を産生するハイブリドーマを選択し、クローニングした。
(d)抗体の精製
SCF発現クローンの培養上清を限外濾過濃縮した後、結合用緩衝液(BioRad Protein MAPS buffer)と等量混合した。Protein A−Sepharose CL−4B(ファルマシア社製)を結合用緩衝液で平衡化し、上記混合液をカラムに流して抗体を結合させた後、結合用緩衝液でカラムを洗浄した。0.2M Glycine−HCl buffer(pH3.0)をカラムに流して溶出を行い精製前抗SCF抗体を得た。次に、DEAE−Sepharose FF(GEヘルスケア社製)、Phenyl−Sepharose HP(GEヘルスケア社製)、Spephadex−G75(GEヘルスケア社製)の順で精製を行い、精製後抗SCF抗体を単離した。
精製前抗SCF抗体および精製後抗SCF抗体に含まれる標的生体成分と不純物生体成分を先に述べた方法で分析した。その結果を表1に示す。
【0154】
[実施例1]
負荷電性中空糸膜(PSf−1)の中空部分の断面積合計が0.01mとなるように本数を取り出し、糸束を作製した。その糸束を図1に示すようなクロスフロー濾過装置に接続した。次に、エンドトキシンフリー水(大塚製薬(株)製 日本薬局方注射用水)を通液し、膜モジュールを十分に洗浄した。
生体成分混合溶液として、添加剤としてのリシン塩酸塩50g/Lを含む10g/Lの献血グロベニン−I−ニチヤク(日本製薬(株)製)を500mL使用した。生体成分混合溶液中の免疫グロブリン1量体(分子量:150kDa)と2量体(分子量:300kDa)、多量体の濃度をGPCで測定したところ、それぞれ9.1g/Lと0.8g/L、0.1g/Lが含有していた。
上記で作製したモジュールと生体成分混合溶液を図1に示すようなクロスフロー濾過装置に接続する。中空糸膜中での線束が10cm/秒、中空糸膜入り側圧力と出側圧力の平均が0.027MPa(転移点の圧力は0.005MPa)となるよう送液ポンプを回転させ、調整バルブで調整した。クロスフロー濾過が進むと生体成分混合溶液の濃度が高くなるので、濾過中の吸光度が、濾過前の生体成分混合溶液の吸光度になるようにPBS水溶液を添加してコントロールする。25℃で5時間、クロスフロー濾過を行った後、生体成分混合溶液および透過液中の免疫グロブリン1量体と2量体の濃度をGPCで測定した。その結果、免疫グロブリン1量体(標的生体成分)の透過量が167g/m2、免疫グロブリン2量体(不純物生体成分)透過量が2.0g/m2であった。さらに、免疫グロブリン1量体と2量体の透過率と透過率比(分画性能)を算出した結果、1量体透過率および2量体透過率が、それぞれ、90.2%および12.3%であり、透過率比は0.14であった。以上の結果を表2に記す。
【0155】
[実施例2]
精製前抗SCF抗体を用いる以外は実施例1と同じ濾過条件で負荷電性中空糸膜(PSf−1)を用いて抗SCF抗体1量体と2量体以上の凝集体の膜分離精製を行った。その結果、1量体透過率および2量体透過率が、それぞれ、96.0%および14.4%であり、透過率比は0.15であった。その結果を表2に記す。
【0156】
[実施例3]
抗SCF抗体1量体と2量体以上の凝集体、DNA、エンドトキシン、CHOPの膜分離精製を行った。実施例2と同様な方法によって負荷電性中空糸膜(PSf−1)で精製された生体成分透過溶液を濃縮膜(ミリポア社製バイオマックス−30)を用いて抗SCF抗体濃度が10g/Lになるまで濃縮した。この濃縮液を用いて、正荷電性中空糸膜(PSf−2)を用いる以外は実施例1と同じ濾過条件でさらに膜分離精製を行った。その結果、負荷電性中空糸膜と正荷電性中空糸膜を合わせた1量体透過率および2量体透過率が、それぞれ、92.0%および2.1%であり、透過率比は0.02であった。
さらに、先に述べた方法によりDNA、エンドトキシン、CHOPの測定を行った。その結果を表2に記す。
以上より精製前抗SCF抗体溶液を負荷電性中空糸膜(PSf−1)と正荷電性中空糸膜(PSf−2)とで処理することによって、SCF抗体2量体、DNA、エンドトキシン、CHOPを除去し、SCF抗体1量体を精製することができる。
【0157】
[実施例4]
負荷電性中空糸膜として(PVA−2)を用いる以外は実施例1と同様な方法でクロスフロー濾過を行った。その結果、ガンマグロブリン1量体と2量体の透過率がそれぞれ、90.6%および15.2%であり、透過率比は0.17であった。
【0158】
[実施例5]
精製前抗SCF抗体を用いる以外は実施例4と同様な方法で抗SCF抗体1量体と2量体以上の凝集体の膜分離精製を行った。その結果、1量体透過率および2量体透過率が、それぞれ、96.5%および14.6%であり、透過率比は0.15であった。その結果を表2に記す。
【0159】
[実施例6]
抗SCF抗体1量体と2量体以上の凝集体、DNA、エンドトキシン、CHOPの膜分離精製を行った。実施例5と同様な方法によって負荷電性中空糸膜(PVA−2)で精製された生体成分透過溶液を濃縮膜(ミリポア社製バイオマックス−30)を用いて抗SCF抗体濃度が10g/Lになるまで濃縮した。この濃縮液を用いて、正荷電性中空糸膜(PVA−1)を用いる以外は実施例3と同じ濾過条件でさらに膜分離精製を行った。その結果、負荷電性中空糸膜と正荷電性中空糸膜を合わせた1量体透過率および2量体透過率が、それぞれ、92.5%および2.1%であり、透過率比は0.02であった。
さらに、先に述べた方法によりDNA、エンドトキシン、CHOPの測定を行った。その結果を表2に記す。
以上より精製前抗SCF抗体溶液を負荷電性中空糸膜(PVA−2)と正荷電性中空糸膜(PVA−1)で処理することによって、SCF抗体2量体、DNA、エンドトキシン、CHOPを除去し、SCF抗体1量体を精製することができる。
【0160】
[比較例1]
負荷電性中空糸膜(PSf−1)を中性中空糸膜(PSf−3)に変更した以外、実施例1と同様の方法で生体成分混合溶液を分離した。その結果、1量体透過率および2量体透過率が、それぞれ、96.5%および93.8%であり、透過率比は0.97であった。
【0161】
[比較例2]
負荷電性中空糸膜(PSf−1)を中性中空糸膜(PVA−3)に変更した以外、実施例1と同様の方法で生体成分混合溶液を分離した。その結果、1量体透過率および2量体透過率が、それぞれ、95.8%および93.5%であり、透過率比は0.98であった。
【0162】
【表1】

【0163】
【表2】

【産業上の利用可能性】
【0164】
本発明に係る分離方法は、核酸、糖、タンパク質、ワクチン、血液分画製剤などのバイ
オ医薬の分離・精製分野で好適に利用することができる。

【図面の簡単な説明】
【0165】
【図1】本発明のクロスフロー濾過装置を例示する図である。
【図2】本発明のクロスフロー濾過装置を例示する図である。
【符号の説明】
【0166】
1 希釈溶液用タンク
2 送液ポンプ1
3 送液ポンプ2
4 生体成分溶液用タンク
5 圧力計1
6 圧力計2
7 調整バルブ
8 限外濾過膜モジュール
9 透過液用タンク
10 流量計
11 濃度コントローラー
12 流量、圧力コントローラー
13 UVフローセル


【特許請求の範囲】
【請求項1】
標的生体成分の分子量が10〜1,000kDaであって、分画分子量が標的生体成分の0.7倍以上4.5倍未満である荷電を有する限外濾過膜を用いて、標的生体成分と少なくとも標的生体成分の2量体を含む不純物生体成分を含む生体成分溶液であって、標的生体成分と少なくとも標的生体成分の2量体を含む不純物生体成分とを併せた生体成分濃度が1〜150g/Lである溶液を、クロスフロー濾過することにより、標的生体成分と少なくとも標的生体成分の2量体を含む不純物生体成分を分離することを特徴とする分離方法。
【請求項2】
該生体成分濃度が、5〜100g/Lであることを特徴とする請求項1に記載の分離方法。
【請求項3】
該生体成分濃度を、実質一定に維持しながらクロスフロー濾過することを特徴とする請求項1または2に記載の分離方法。
【請求項4】
該生体成分が、ポリペプチド、糖、RNA、及び、DNAのいずれか少なくとも一つ以上を含むことを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の分離方法。
【請求項5】
該ポリペプチドが、抗体、低分子化抗体、アルブミン、血液凝固因子、インターロイキン、インターフェロン、細胞吸着因子、細胞成長因子、酵素、リボ蛋白、ワクチンのいずれか少なくとも一つ以上を含むことを特徴とする請求項4に記載の分離方法。
【請求項6】
該抗体が、免疫グロブリンであることを特徴とする請求項5に記載の分離方法。
【請求項7】
該免疫グロブリンが、モノクローナル抗体であることを特徴とする請求項6に記載の分離方法。
【請求項8】
該少なくとも標的生体成分の2量体を含む不純物生体成分が、免疫グロブリンとプロテインAからなる複合凝集体等の標的生体成分と溶出したアフィニティーリガンドからなる複合凝集体を含むことを特徴とする請求項1〜7のいずれかに記載の分離方法。
【請求項9】
該少なくとも標的生体成分の2量体を含む不純物生体成分が、標的生体成分の出発原料由来の凝集体であるエンドトキシン、DNA、CHOP(チャイニーズハムスター卵巣細胞タンパク)のいずれか少なくとも一つ以上を含むことを特徴とする請求項1〜8のいずれかに記載の分離方法。
【請求項10】
該荷電を有する限外濾過膜が、荷電性ビニルアルコール系高分子膜、または荷電性スルホン系高分子膜であることを特徴とする請求項1〜9のいずれかに記載の分離方法。
【請求項11】
該荷電を有する限外濾過膜が、正荷電基としてジアルキルアミノ基、トリアルキルアンモニウム塩基のいずれか少なくとも一つ以上を有することを特徴とする請求項1〜10のいずれかに記載の分離方法。
【請求項12】
該荷電を有する限外濾過膜が、負荷電基としてカルボン酸基、スルホン酸基のいずれか少なくとも一つ以上を有することを特徴とする請求項1〜10のいずれかに記載の分離方法。
【請求項13】
請求項1〜12のいずれかに記載の分離方法が、該溶液のアフィニティクロマトグラフィー精製工程の後に用いられることを特徴とする分離方法。
【請求項14】
該限外濾過膜が、中空糸膜であることを特徴とする請求項1〜13のいずれかに記載の分離方法。
【請求項15】
濾過の流速を転移点での流速を越えるレベルに維持し、さらに、濾過のトランスメンブ
レン圧を流速の転移点でのトランスメンブレン圧を越えるレベルに維持することを特徴と
する請求項1〜14のいずれかに記載の分離方法。
【請求項16】
下記(イ)〜(ニ)からなる手段の1つ以上の手段を含む装置を用いて行う請求項1〜15のいずれかに記載の分離方法。
(イ)生体成分溶液の濃度をモニタリングできる手段
(ロ)生体成分溶液の濃度をコントロールできる手段
(ハ)生体成分溶液の線速をコントロールできる手段
(ニ)限外濾過膜の濾過圧力をコントロールできる手段
【請求項17】
請求項1〜15のいずれかに記載の分離方法に使用するモジュールおよび下記(イ)〜(ニ)からなる手段の1つ以上の手段を含む装置。
(イ)生体成分溶液の濃度をモニタリングできる手段
(ロ)生体成分溶液の濃度をコントロールできる手段
(ハ)生体成分溶液の線速をコントロールできる手段
(ニ)限外濾過膜の濾過圧力をコントロールできる手段


【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−53108(P2010−53108A)
【公開日】平成22年3月11日(2010.3.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−222574(P2008−222574)
【出願日】平成20年8月29日(2008.8.29)
【出願人】(000000033)旭化成株式会社 (901)
【Fターム(参考)】