荷電粒子と中性粒子の合流・分離機構
【課題】荷電粒子とガスとの衝突がある場合でも、荷電粒子の透過効率をある程度維持する方法を提供する。
【解決手段】ある平面内で屈曲した屈曲部を有する光軸に沿い且つ光軸を90°間隔で取り囲むように光軸から等間隔の位置に配置され、お互いの平行関係を維持しながら、両端部の位置を揃えられた4本の電極棒と、該4本の電極棒を間に挟み光軸と直交するように配置され、光軸と交わる部分に第1の開口、光軸の屈曲部を屈曲させずに直進させた軌道の延長線と交わる位置に第2の開口を有する入口電極または出口電極とを備えた荷電粒子と中性粒子の合流または分離機構であって、該電極棒は、屈曲した光軸を含む前記平面に対して光軸より斜め45°の角度の位置に配置され、荷電粒子および/または中性粒子は、前記入口電極の開口より入射するとともに、前記出口電極の開口より出射するように構成されている。
【解決手段】ある平面内で屈曲した屈曲部を有する光軸に沿い且つ光軸を90°間隔で取り囲むように光軸から等間隔の位置に配置され、お互いの平行関係を維持しながら、両端部の位置を揃えられた4本の電極棒と、該4本の電極棒を間に挟み光軸と直交するように配置され、光軸と交わる部分に第1の開口、光軸の屈曲部を屈曲させずに直進させた軌道の延長線と交わる位置に第2の開口を有する入口電極または出口電極とを備えた荷電粒子と中性粒子の合流または分離機構であって、該電極棒は、屈曲した光軸を含む前記平面に対して光軸より斜め45°の角度の位置に配置され、荷電粒子および/または中性粒子は、前記入口電極の開口より入射するとともに、前記出口電極の開口より出射するように構成されている。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、質量分析計に用いて有効な、荷電粒子と中性粒子の合流または分離機構に関する。
【背景技術】
【0002】
荷電粒子と中性粒子を分離する機構として、真空に排気された空間に置かれた静電場の偏向電極を組み合わせた構造の従来事例(特許文献1)があり、その構造を図1に示す。
【0003】
この例では、入口20から入って来る粒子ビームから荷電粒子と中性粒子を分離して、荷電粒子だけを出口29から取り出す場合は、遮蔽板28を中心軸・中性粒子の軌道Oを塞ぐ位置へ挿入した状態で中性粒子の飛行を遮り、4個の偏向電極21〜24に同じ電圧を印加して荷電粒子の軌道Iを描ける電場を形成させれば良い。
【0004】
他方、中性粒子だけを出口29から取り出す場合は、先の遮蔽板28を中心軸・中性粒子の軌道Oから外す位置に移動させた状態にして、4個の偏向電極21〜24に荷電粒子の軌道Iを描けない電場形成条件の電圧を印加すれば良い。
【0005】
【特許文献1】特許第3497367号公報
【特許文献2】特開2000−243347号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
荷電粒子と中性粒子が混在する粒子ビームから片方の粒子のみを取り出したい、あるいは除去したい、または分離して別々に取り出したい、等の要求がある場合があり、荷電粒子と中性粒子の軌道を分離するのが本発明の目的である。
【0007】
従来例図1で上げた構造では、粒子の飛行軌道上で、その空間に残留ガス、ないしは意図して入れたガスと粒子との衝突があった場合は、粒子の運動エネルギーに損失が生じるために、運動エネルギーが様々に変化した荷電粒子は、軌道上で偏向電極21〜24から受け取る力との均衡が崩れてしまうため、衝突しなかった粒子以外は、出口29へと向かう軌道を描けなくなる。
【0008】
たとえ偏向電極に印加する電圧を様々に組み合わせて設定したとしても、それで形成される場では、それから受ける力と均衡が取れるある限られた運動エネルギーの荷電粒子が通せる可能性のある条件になるだけなので、結果としては荷電粒子の透過率が低下してしまうことになる。
【0009】
ところで、荷電粒子の進行軸を偏向する方法としては、高周波電圧を印加した四重極の電極棒を屈曲させた事例が特許文献2に記載されている。しかし、この事例だと、イオンの軌道は偏向できても、直進する中性粒子は、曲げた電極棒がその進行軸を遮るため、電極棒に当たって発散することになり、中性粒子は遺失してしまって、もはや中性粒子ビームとしては取り出せなくなる。
【0010】
本発明の目的は、上述した点に鑑み、荷電粒子とガスとの衝突を考慮しなければならない場合でも、中性粒子に較べて通過条件が厳しくなる荷電粒子の透過効率をある程度維持する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
この目的を達成するため、本発明にかかる荷電粒子と中性粒子の合流または分離機構は、
ある平面内で屈曲した屈曲部を有する光軸に沿い且つ光軸を90°間隔で取り囲むように光軸から等間隔の位置に配置され、お互いの平行関係を維持しながら、両端部の位置を揃えられた4本の電極棒と、
該4本の電極棒を間に挟み光軸と直交するように配置され、光軸と交わる部分に第1の開口、光軸の屈曲部を屈曲させずに直進させた軌道の延長線と交わる位置に第2の開口を有する入口電極または出口電極と
を備えた荷電粒子と中性粒子の合流または分離機構であって、
該電極棒は、屈曲した光軸を含む前記平面に対して光軸より斜め45°の角度の位置に配置され、荷電粒子および/または中性粒子は、前記入口電極の開口より入射するとともに、前記出口電極の開口より出射するように構成されていて、
該電極棒には所定の高周波電圧、マスフィルター機能用直流電圧、および軸電位設定用直流電圧、出口電極および入口電極には所定の軸方向電場形成用直流電圧を印加することにより、荷電粒子は電極棒の屈曲部の形状に沿って進行させ、中性粒子は電極棒の屈曲部を直進させることにより、荷電粒子と中性粒子の合流または分離を行なわせるようにしたことを特徴としている。
【0012】
また、前記4本の電極棒には、隣り合う電極同士で前記高周波電圧および前記マスフィルター機能用直流電圧がそれぞれ逆極性となるように重畳印加されていることを特徴としている。
【0013】
また、前記軸電位設定用直流電圧は、すべての電極で互いに同極性となるような電圧が印加されていることを特徴としている。
【0014】
また、前記軸方向電場形成用直流電圧は、正の荷電粒子の輸送・貯蔵時には、荷電粒子の輸送方向に負の電場勾配、負の荷電粒子の輸送・貯蔵時には、荷電粒子の輸送方向に正の電場勾配を生じるような極性の電圧が印加されることを特徴としている。
【0015】
また、前記4本の電極棒によって囲まれた空間領域には、所定の圧力のガスを導入できるようになっていることを特徴としている。
【発明の効果】
【0016】
本発明の荷電粒子と中性粒子の合流または分離機構によれば、
ある平面内で屈曲した屈曲部を有する光軸に沿い且つ光軸を90°間隔で取り囲むように光軸から等間隔の位置に配置され、お互いの平行関係を維持しながら、両端部の位置を揃えられた4本の電極棒と、
該4本の電極棒を間に挟み光軸と直交するように配置され、光軸と交わる部分に第1の開口、光軸の屈曲部を屈曲させずに直進させた軌道の延長線と交わる位置に第2の開口を有する入口電極または出口電極と
を備えた荷電粒子と中性粒子の合流または分離機構であって、
該電極棒は、屈曲した光軸を含む前記平面に対して光軸より斜め45°の角度の位置に配置され、荷電粒子および/または中性粒子は、前記入口電極の開口より入射するとともに、前記出口電極の開口より出射するように構成されていて、
該電極棒には所定の高周波電圧、マスフィルター機能用直流電圧、および軸電位設定用直流電圧、出口電極および入口電極には所定の軸方向電場形成用直流電圧を印加することにより、荷電粒子は電極棒の屈曲部の形状に沿って進行させ、中性粒子は電極棒の屈曲部を直進させることにより、荷電粒子と中性粒子の合流または分離を行なわせるようにしたので、
荷電粒子とガスとの衝突を考慮しなければならない場合でも、中性粒子に較べて通過条件が厳しくなる荷電粒子の透過効率をある程度維持する方法を提供することが可能になった。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、図面を参照して、本発明の実施の形態を説明する。
【0018】
[実施例1]
図2に本発明にかかる荷電粒子と中性粒子の分離機構の一実施例を示す。図2では、基本的な構造を、正面図、平面図、右側面図、立体図、四重極部断面と配線図の5つの図面に分けて示す。
【0019】
基本構造は、入口電極1と出口電極3との間に四重極2として示した部分を挟んだものとなる。この四重極2は、ある平面内で屈曲した屈曲部を有する中心軸(光軸とも呼ぶ)に沿い且つ中心軸を90°間隔で取り囲むように中心軸から等間隔の位置に配置され、お互いの平行関係を維持しながら、両端部の位置を揃えられた4本の電極棒から構成されている。また、少なくともこれらの電極の表面は導電性となっており、これらに電圧・電流等が供給される。ただしそれ用の電源その他については省略してある。
【0020】
更に、これらは、通常、真空容器内に格納・設置され、この空間に任意のガス成分が種類・量ともに制御されて供給される場合もある。また、図には例示されていないが、構成する電極に供給される各電圧を印加するタイミングやその設定値制御のためのシーケンサやコンピュータ等の制御系とユニット、その他、真空排気装置等を備えている。
【0021】
入口電極1と出口電極3には、中心軸6の延長線上に開口部分がある。出口電極3には、この例では、中心軸の屈曲部を屈曲して延伸させた下流延長線上に設けられた荷電粒子出口4と、中心軸の屈曲部を屈曲させずに直進して延伸させた軌道の下流延長線上に設けられた中性粒子出口5とが、粒子の取り出し口として設けてある。入口電極1も同様に開口するが省略してある。尚、入口電極1と出口電極3は、中心軸と直交するように配置されている。
【0022】
四重極2の部分は、この場合、丸棒の電極(極子とも呼ぶ)で、図のように、途中Aの2点鎖線上のところで上方向に一旦曲がり、Bの2点鎖線上のところで今度は下方向に曲げ戻されている。この曲げの角度は、荷電粒子の運動エネルギーが低い場合は大きくできるが、逆に高い場合は小さい角度になる。
【0023】
このような形状の丸棒の電極が4本組として、入口電極1から出口電極3に向かって屈曲した光軸を含む平面に対して光軸より斜め45°(±1°、許容値は中性粒子ビームの広がりの径と角度にも拠る。最良は45°)の角度の位置に配置されている。この位置関係は、中心軸6と垂直になる面で切った断面を示した「四重極部断面と配線図」で確認できる。また、配置については「立体図」でも確認できる。また、4本の電極棒は、両端部の位置を揃えられている。
【0024】
四重極2には、「四重極部断面と配線図」に示す例のように、高周波と直流の電圧が印加されている。図中の式の記号は、V0:高周波振幅電圧値、ω:角周波数、t:時間、θ:位相、U1:直流電圧値(マスフィルター機能用)、U2:直流電圧値(軸電位すなわちオフセット電位設定用)を示している。
【0025】
この事例では、入口電極1の前段と出口電極3の後段の構成が省略されているが、実際には入射粒子ビームの供給源や、出射する荷電粒子と中性粒子の選択、あるいは検出や利用する部分が接続されて構成される。
【0026】
図2で例示した構成で、これに荷電粒子と中性粒子を入射させた際のシミュレーション例を図3に示す。入口電極1と出口電極3には、正の荷電粒子が対象であれば、入口電極1と出口電極3に印加される両直流電圧U3、U4がそれぞれU3>U4の大小関係、負の荷電粒子が対象であれば、入口電極1と出口電極3に印加される両直流電圧U3、U4がそれぞれU3<U4の大小関係で印加されている。これは、直流電圧U3、U4によって形成される電場勾配によって、荷電粒子が四重極2の上流側から下流側へ向けて移動できるようにするためである。
【0027】
四重極2の4本の電極には、対向する電極のうち、一方の組にはV0・cos(ωt+θ)+U1+U2、他方の組にはV0・cos(ωt+θ)−U1+U2なる電圧が印加されている。なお、U1の値は、光軸が曲がっているので低めに設定する。これにより質量分解能は低下するが透過率は改善する。荷電粒子の質量が不特定であればU1は通常零値とされる。
【0028】
この条件下で、中心軸6上にある入口電極1の開口部から入射する荷電粒子と中性粒子とが混在する粒子ビームは、電場の影響を受けない中性粒子が入射時の角度で出口電極3側に向かって直進するのに対し、荷電粒子の方は、四重極2の形成する交流電場の影響を受けて、動径方向に振動しながら出口電極3側へと進む。
【0029】
四重極2は、Aの位置とBの位置で曲げ部分を持つ形で作られているので、この位置付近に進行してきた荷電粒子は、その曲げ方向に沿って軌道を曲げられて進んでいく。この事例では、荷電粒子と中性粒子の進行軸が平行する関係になるよう、荷電粒子の軌道だけが変えられている。
【0030】
荷電粒子は、荷電粒子軌道7で示されるように、動径方向に振動しながら、ある一定幅で出口電極3に設けられた開口部の荷電粒子出口4を通って進むが、中性粒子は、中性粒子軌道8のように、入射時の初期幅と角度に依存した広がりで直進し、中性粒子出口5の穴径以内の範囲にあるビームのみが中性粒子出口5を通過し、それ以外は出口電極3に当たって進行が遮られる。この様子が、正面図と右側面図とに、ビームの軌道が電極棒や電極板などを透かす格好で描いてある。
【0031】
以上は、ガス成分の粒子との衝突がない条件下での動作になるが、図4の場合は、粒子の平均自由行程が構造物の寸法よりも短く、粒子衝突がある場合(ヘリウムガス存在下で平均自由行程が3mmの例)についての状況をシミュレーションしたものである。ただし、衝突による運動エネルギーの低下のみを考慮したものなので、実態を反映しきれていないが、少なくとも荷電粒子の軌道が保たれて、動径方向の振幅が小さく、ビーム径が絞られている様子が確認される。
【0032】
[実施例2]
実施例1で示した四重極部分の途中の曲げは、直線の折れ線状ではなく、滑らかなS字カーブを描いた曲げのものであっても良い。更に、荷電粒子の進行方向を実施例1のように平行にするのではなく、別の角度で出射させる場合は、曲げの角度は、2回の曲げごとに違えても良く、2回の曲げで戻す形でなくても良い。
【0033】
また、円弧を描くような形の曲げの構造にしても良く、その場合の例を図5に示す。四重極2の屈曲部分は、弧を描く形で曲がっており、これに伴って、荷電粒子出口4は右側面図に見られるように、電極棒の湾曲方向の下流延長線上に、また中性粒子出口5は電極棒の湾曲部を湾曲せずに直進した軌道の下流延長線上に配される。
【0034】
三角法的な図示では形が把握しがたい部分は、立体図と立体1/4切取断面図とで全体の形状を示している。電極棒の配置は、この例でも斜め45°(±1°)の位置とした条件は、実施例1と同じである。電極各部への電圧供給も実施例1と同じである。
【0035】
動作的なものは、実施例1とほぼ同じである。荷電粒子の軌道は、四重極2の曲げの方向に沿うが、中性粒子ビームは、入射時の方向を維持した軌道を取る。高真空下での荷電粒子と中性粒子の軌道をシミュレーションした例を図6に示す。粒子の軌道は、透視図で示してある。
【0036】
立体的な描画として、「立体1/4切取断面図」と「立体垂直断面図」で更に軌道分離のようすを示す。また、「垂直断面図」には、四重極2の内接円内中央付近を通る荷電粒子軌道7と下側2本の電極棒の間隙を通る中性粒子軌道8とを示す。
【0037】
中性粒子の軌道の広がりが大きい場合は、電極棒の内接円側の中性粒子軌道8に面する部分の削り落としも可能である。その例を図6の「中性粒子通路拡大加工時垂直断面図」に示すが、電極棒の内側を削り落とす加工が荷電粒子ビームの軌道に及ぼす影響は、ほとんどなかった。
【0038】
図7には、この空間にガスを入れて真空度を下げ、ガスの粒子との衝突を考慮したシミュレーションの事例を示す。ただし、実施例1と同様だが、荷電粒子も中性粒子も、ガス粒子と衝突することによる運動エネルギーの損失のみを計算に入れただけである。ガス粒子と衝突したことによる、飛行方向の変化は、簡易化のため考慮に入れていない。
【0039】
しかし、簡易計算ではあっても、荷電粒子が運動エネルギーを低下させたときに、その飛行軌道が四重極2の曲げられた方向に沿って偏向されるという平均的挙動を確認することはできる。
【0040】
ガス粒子との衝突があると、「衝突冷却」と呼ばれる現象で、荷電粒子の振動幅が次第に狭くなって、荷電粒子ビームの太さも細く変化するが、その様子も図6と図7を比較して確認できる。特に、それぞれの図の右側面図を比較すれば、四重極の空間を飛行中の軌道部分では、より明瞭にそれが判別できる。
【0041】
[実施例3]
図8に示す事例は、実施例2の構造で入口と出口の関係を逆にしたものである。すなわち、荷電粒子ビームの入口側に四重極2の曲がった電極棒が向いた構造で配置される。また、これに伴って、荷電粒子入口9は左側面図に見られるように、電極棒の湾曲方向の上流延長線上に、また中性粒子入口10は電極棒の湾曲部を湾曲せずに直線的に遡及させた軌道の上流延長線上に配される。四重極2を構成する電極棒の配置は、この例でも斜め45°(±1°)の位置とした条件は、実施例1と同じである。
【0042】
平面的な図で不明瞭な部分は、立体図と立体1/4切取断面図とで示してある。電圧供給も実施例1と同様であるが、印加される直流電圧は、荷電粒子が上流から下流側へ加速される向きに電場勾配が発生するように、すなわち図8の例だと左から右に向けて電位勾配が発生するように設定される。これは入口電極1より出口電極3の電位が低い関係に設定されることになる。この関係は、荷電粒子の極性が正の場合であり、荷電粒子の極性が負の場合は逆となる。
【0043】
ただし、入射する粒子の運動エネルギーが比較的高めの場合や、四重極2の置かれた空間の平均自由行程が短くない場合には、衝突確率も小さいので、電位勾配を設けなくても良い場合もある。四重極2にも高周波電圧と直流電圧が実施例1と同様に印加される。
【0044】
図9に、この事例での動作を、粒子ビームの軌道シミュレーションにて示す。荷電粒子ビームは荷電粒子入口9から、中性粒子ビームは中性粒子入口10から、それぞれ別々に入射して、四重極2の曲がりを終えた付近で合流する。この辺りから出口へと向かう軌道の中で、荷電粒子と中性粒子の衝突の機会が作られる。
【0045】
これらの粒子は、相互作用を受けながら、共通する出射口である荷電/中性粒子出口11へと進む。通常、この後には、モニターや分析計、粒子受容装置等が置かれて利用される。この場合の相互作用とは、物理・化学的な反応を想定しているが、荷電粒子と中性粒子の相違がもたらす結果を観察・利用することになる。
【0046】
この事例では、真空度を下げて衝突を考慮したシミュレーションの例は示していないが、実施例2とほぼ同様な軌道となる。ただし、荷電粒子の入射が四重極2の曲がった部分からであり、出口方向に四重極2の直線部分が位置する関係で、細部の様子は多少異なる。後述する実施例4では、衝突の場合も示すので、その様子を参考にすることができる。
【0047】
[実施例4]
図10に荷電粒子ビームと中性粒子ビームの合流・分離例を示す。先に上げた実施例2のビーム軌道分離と実施例3のビーム軌道合流を合わせた構造の事例である。1対の曲がった四重極2は、直線部分の側で中間電極12を挟んで向かい合わせとなり、屈曲部分の側がビームの入射並びに出射する方向に配置されて、中心軸6で両者のビーム軌道が合致する接合となる。
【0048】
なお、ここの中間電極12は、それぞれの四重極2の空間同士で真空度の差がないならば、必ずしも必要ではない場合もある。
【0049】
入口電極1、中間電極12、出口電極3には四重極空間に電位勾配を形成するための直流電圧が、また四重極2には荷電粒子をガイドするための高周波並びに直流電圧が先例と同様に印加され、四重極2を構成する電極棒の配置も先例と同様に斜め45°(±1°)の位置となる。
【0050】
図11に荷電粒子と中性粒子の両ビームの合流と分離の状況をシミュレーションで示す。荷電粒子と中性粒子が入射し、両ビームが合流する前半部分については実施例3と同じであり。荷電粒子と中性粒子の混合されたビームが別々に分離される後半部分については実施例2とほぼ同じ動作になると言える。
【0051】
荷電粒子軌道7は、中間電極12付近で動径方向の振幅が大きくなっているが、電極電圧の最適化が不十分なためであって、荷電粒子の平均的な軌道軸は、四重極2の軸に沿って曲げられたり直進したりして進む様子が確認できる。一方、中性粒子ビームは、電場による偏向作用は受けないので、入射時点での初期角度と位置と運動エネルギーとで決まる所定の広がりを持ったビームとして進むことになる。衝突するものは、更に広がりを持つことになる。
【0052】
ガスを入れるか、あるいは真空ポンプの排気量を下げるかして真空度を下げた条件下でのガス粒子との衝突を考慮したシミュレーションを図12に示す。ただし、中性粒子の衝突による軌道変化は考慮に入れていない。
【0053】
[実施例5]
実施例1の変形として、軌道分離した後に中性粒子を利用しない場合は、予め中性粒子出口5の部分を斜めに傾斜させた反射偏向板で塞いでおき、中性粒子出口5から取り出された中性粒子ビームを反射偏向させて、後段に届かないようにしても良い。
【0054】
[実施例6]
実施例1の変形として、荷電粒子ビームと中性粒子ビームを分離するための四重極2を、通常の四重極型質量分析計のマスフィルターの前段に配置されるプリポール、または後段に配置されるポストポールとして使用する。
【0055】
この構成では、中性粒子ビームを排除するために動作させるので、中性粒子の取り出し口は設けない。この部分の四重極子に印加される直流電圧は、4本の極子とも同じ極性、値として、軸電位を形成させる。
【0056】
この方法で荷電粒子の軌道のみを偏向させ、中性粒子ビームを排除することにより、検出器のノイズを減らすことができる。また、本方法では、四重極子が45°斜め方向に配置されているので、中性粒子ビームは電極棒の間隙を飛行し、電極棒と衝突して棒表面を汚染することがない。
【産業上の利用可能性】
【0057】
荷電粒子と中性粒子の研究に広く利用できる。
【図面の簡単な説明】
【0058】
【図1】従来の荷電粒子と中性粒子の分離機構の一例を示す図である。
【図2】本発明にかかる荷電粒子と中性粒子の分離機構の一実施例を示す図である。
【図3】本発明にかかる荷電粒子と中性粒子の分離機構によるシミュレーションの一実施例を示す図である。
【図4】本発明にかかる荷電粒子と中性粒子の分離機構によるシミュレーションの別の実施例を示す図である。
【図5】本発明にかかる荷電粒子と中性粒子の分離機構の別の実施例を示す図である。
【図6】本発明にかかる荷電粒子と中性粒子の分離機構によるシミュレーションの別の実施例を示す図である。
【図7】本発明にかかる荷電粒子と中性粒子の分離機構によるシミュレーションの別の実施例を示す図である。
【図8】本発明にかかる荷電粒子と中性粒子の合流機構の一実施例を示す図である。
【図9】本発明にかかる荷電粒子と中性粒子の合流機構によるシミュレーションの一実施例を示す図である。
【図10】本発明にかかる荷電粒子と中性粒子の合流・分離機構の一実施例を示す図である。
【図11】本発明にかかる荷電粒子と中性粒子の合流・分離機構によるシミュレーションの一実施例を示す図である。
【図12】本発明にかかる荷電粒子と中性粒子の合流・分離機構によるシミュレーションの別の実施例を示す図である。
【符号の説明】
【0059】
1:入口電極、2:四重極、3:出口電極、4:荷電粒子出口、5:中性粒子出口、6:中心軸(光軸)、7:荷電粒子軌道、8:中性粒子軌道、9:荷電粒子入口、10:中性粒子入口、11:荷電/中性粒子出口、12:中間電極、20:入射口、21:偏向電極、22:偏向電極、23:偏向電極、24:偏向電極、25:ボディ、26:ボディ、27:隔離板、28:ストッパ、29:出射口、I:イオン軌道、O:中心光軸
【技術分野】
【0001】
本発明は、質量分析計に用いて有効な、荷電粒子と中性粒子の合流または分離機構に関する。
【背景技術】
【0002】
荷電粒子と中性粒子を分離する機構として、真空に排気された空間に置かれた静電場の偏向電極を組み合わせた構造の従来事例(特許文献1)があり、その構造を図1に示す。
【0003】
この例では、入口20から入って来る粒子ビームから荷電粒子と中性粒子を分離して、荷電粒子だけを出口29から取り出す場合は、遮蔽板28を中心軸・中性粒子の軌道Oを塞ぐ位置へ挿入した状態で中性粒子の飛行を遮り、4個の偏向電極21〜24に同じ電圧を印加して荷電粒子の軌道Iを描ける電場を形成させれば良い。
【0004】
他方、中性粒子だけを出口29から取り出す場合は、先の遮蔽板28を中心軸・中性粒子の軌道Oから外す位置に移動させた状態にして、4個の偏向電極21〜24に荷電粒子の軌道Iを描けない電場形成条件の電圧を印加すれば良い。
【0005】
【特許文献1】特許第3497367号公報
【特許文献2】特開2000−243347号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
荷電粒子と中性粒子が混在する粒子ビームから片方の粒子のみを取り出したい、あるいは除去したい、または分離して別々に取り出したい、等の要求がある場合があり、荷電粒子と中性粒子の軌道を分離するのが本発明の目的である。
【0007】
従来例図1で上げた構造では、粒子の飛行軌道上で、その空間に残留ガス、ないしは意図して入れたガスと粒子との衝突があった場合は、粒子の運動エネルギーに損失が生じるために、運動エネルギーが様々に変化した荷電粒子は、軌道上で偏向電極21〜24から受け取る力との均衡が崩れてしまうため、衝突しなかった粒子以外は、出口29へと向かう軌道を描けなくなる。
【0008】
たとえ偏向電極に印加する電圧を様々に組み合わせて設定したとしても、それで形成される場では、それから受ける力と均衡が取れるある限られた運動エネルギーの荷電粒子が通せる可能性のある条件になるだけなので、結果としては荷電粒子の透過率が低下してしまうことになる。
【0009】
ところで、荷電粒子の進行軸を偏向する方法としては、高周波電圧を印加した四重極の電極棒を屈曲させた事例が特許文献2に記載されている。しかし、この事例だと、イオンの軌道は偏向できても、直進する中性粒子は、曲げた電極棒がその進行軸を遮るため、電極棒に当たって発散することになり、中性粒子は遺失してしまって、もはや中性粒子ビームとしては取り出せなくなる。
【0010】
本発明の目的は、上述した点に鑑み、荷電粒子とガスとの衝突を考慮しなければならない場合でも、中性粒子に較べて通過条件が厳しくなる荷電粒子の透過効率をある程度維持する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
この目的を達成するため、本発明にかかる荷電粒子と中性粒子の合流または分離機構は、
ある平面内で屈曲した屈曲部を有する光軸に沿い且つ光軸を90°間隔で取り囲むように光軸から等間隔の位置に配置され、お互いの平行関係を維持しながら、両端部の位置を揃えられた4本の電極棒と、
該4本の電極棒を間に挟み光軸と直交するように配置され、光軸と交わる部分に第1の開口、光軸の屈曲部を屈曲させずに直進させた軌道の延長線と交わる位置に第2の開口を有する入口電極または出口電極と
を備えた荷電粒子と中性粒子の合流または分離機構であって、
該電極棒は、屈曲した光軸を含む前記平面に対して光軸より斜め45°の角度の位置に配置され、荷電粒子および/または中性粒子は、前記入口電極の開口より入射するとともに、前記出口電極の開口より出射するように構成されていて、
該電極棒には所定の高周波電圧、マスフィルター機能用直流電圧、および軸電位設定用直流電圧、出口電極および入口電極には所定の軸方向電場形成用直流電圧を印加することにより、荷電粒子は電極棒の屈曲部の形状に沿って進行させ、中性粒子は電極棒の屈曲部を直進させることにより、荷電粒子と中性粒子の合流または分離を行なわせるようにしたことを特徴としている。
【0012】
また、前記4本の電極棒には、隣り合う電極同士で前記高周波電圧および前記マスフィルター機能用直流電圧がそれぞれ逆極性となるように重畳印加されていることを特徴としている。
【0013】
また、前記軸電位設定用直流電圧は、すべての電極で互いに同極性となるような電圧が印加されていることを特徴としている。
【0014】
また、前記軸方向電場形成用直流電圧は、正の荷電粒子の輸送・貯蔵時には、荷電粒子の輸送方向に負の電場勾配、負の荷電粒子の輸送・貯蔵時には、荷電粒子の輸送方向に正の電場勾配を生じるような極性の電圧が印加されることを特徴としている。
【0015】
また、前記4本の電極棒によって囲まれた空間領域には、所定の圧力のガスを導入できるようになっていることを特徴としている。
【発明の効果】
【0016】
本発明の荷電粒子と中性粒子の合流または分離機構によれば、
ある平面内で屈曲した屈曲部を有する光軸に沿い且つ光軸を90°間隔で取り囲むように光軸から等間隔の位置に配置され、お互いの平行関係を維持しながら、両端部の位置を揃えられた4本の電極棒と、
該4本の電極棒を間に挟み光軸と直交するように配置され、光軸と交わる部分に第1の開口、光軸の屈曲部を屈曲させずに直進させた軌道の延長線と交わる位置に第2の開口を有する入口電極または出口電極と
を備えた荷電粒子と中性粒子の合流または分離機構であって、
該電極棒は、屈曲した光軸を含む前記平面に対して光軸より斜め45°の角度の位置に配置され、荷電粒子および/または中性粒子は、前記入口電極の開口より入射するとともに、前記出口電極の開口より出射するように構成されていて、
該電極棒には所定の高周波電圧、マスフィルター機能用直流電圧、および軸電位設定用直流電圧、出口電極および入口電極には所定の軸方向電場形成用直流電圧を印加することにより、荷電粒子は電極棒の屈曲部の形状に沿って進行させ、中性粒子は電極棒の屈曲部を直進させることにより、荷電粒子と中性粒子の合流または分離を行なわせるようにしたので、
荷電粒子とガスとの衝突を考慮しなければならない場合でも、中性粒子に較べて通過条件が厳しくなる荷電粒子の透過効率をある程度維持する方法を提供することが可能になった。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、図面を参照して、本発明の実施の形態を説明する。
【0018】
[実施例1]
図2に本発明にかかる荷電粒子と中性粒子の分離機構の一実施例を示す。図2では、基本的な構造を、正面図、平面図、右側面図、立体図、四重極部断面と配線図の5つの図面に分けて示す。
【0019】
基本構造は、入口電極1と出口電極3との間に四重極2として示した部分を挟んだものとなる。この四重極2は、ある平面内で屈曲した屈曲部を有する中心軸(光軸とも呼ぶ)に沿い且つ中心軸を90°間隔で取り囲むように中心軸から等間隔の位置に配置され、お互いの平行関係を維持しながら、両端部の位置を揃えられた4本の電極棒から構成されている。また、少なくともこれらの電極の表面は導電性となっており、これらに電圧・電流等が供給される。ただしそれ用の電源その他については省略してある。
【0020】
更に、これらは、通常、真空容器内に格納・設置され、この空間に任意のガス成分が種類・量ともに制御されて供給される場合もある。また、図には例示されていないが、構成する電極に供給される各電圧を印加するタイミングやその設定値制御のためのシーケンサやコンピュータ等の制御系とユニット、その他、真空排気装置等を備えている。
【0021】
入口電極1と出口電極3には、中心軸6の延長線上に開口部分がある。出口電極3には、この例では、中心軸の屈曲部を屈曲して延伸させた下流延長線上に設けられた荷電粒子出口4と、中心軸の屈曲部を屈曲させずに直進して延伸させた軌道の下流延長線上に設けられた中性粒子出口5とが、粒子の取り出し口として設けてある。入口電極1も同様に開口するが省略してある。尚、入口電極1と出口電極3は、中心軸と直交するように配置されている。
【0022】
四重極2の部分は、この場合、丸棒の電極(極子とも呼ぶ)で、図のように、途中Aの2点鎖線上のところで上方向に一旦曲がり、Bの2点鎖線上のところで今度は下方向に曲げ戻されている。この曲げの角度は、荷電粒子の運動エネルギーが低い場合は大きくできるが、逆に高い場合は小さい角度になる。
【0023】
このような形状の丸棒の電極が4本組として、入口電極1から出口電極3に向かって屈曲した光軸を含む平面に対して光軸より斜め45°(±1°、許容値は中性粒子ビームの広がりの径と角度にも拠る。最良は45°)の角度の位置に配置されている。この位置関係は、中心軸6と垂直になる面で切った断面を示した「四重極部断面と配線図」で確認できる。また、配置については「立体図」でも確認できる。また、4本の電極棒は、両端部の位置を揃えられている。
【0024】
四重極2には、「四重極部断面と配線図」に示す例のように、高周波と直流の電圧が印加されている。図中の式の記号は、V0:高周波振幅電圧値、ω:角周波数、t:時間、θ:位相、U1:直流電圧値(マスフィルター機能用)、U2:直流電圧値(軸電位すなわちオフセット電位設定用)を示している。
【0025】
この事例では、入口電極1の前段と出口電極3の後段の構成が省略されているが、実際には入射粒子ビームの供給源や、出射する荷電粒子と中性粒子の選択、あるいは検出や利用する部分が接続されて構成される。
【0026】
図2で例示した構成で、これに荷電粒子と中性粒子を入射させた際のシミュレーション例を図3に示す。入口電極1と出口電極3には、正の荷電粒子が対象であれば、入口電極1と出口電極3に印加される両直流電圧U3、U4がそれぞれU3>U4の大小関係、負の荷電粒子が対象であれば、入口電極1と出口電極3に印加される両直流電圧U3、U4がそれぞれU3<U4の大小関係で印加されている。これは、直流電圧U3、U4によって形成される電場勾配によって、荷電粒子が四重極2の上流側から下流側へ向けて移動できるようにするためである。
【0027】
四重極2の4本の電極には、対向する電極のうち、一方の組にはV0・cos(ωt+θ)+U1+U2、他方の組にはV0・cos(ωt+θ)−U1+U2なる電圧が印加されている。なお、U1の値は、光軸が曲がっているので低めに設定する。これにより質量分解能は低下するが透過率は改善する。荷電粒子の質量が不特定であればU1は通常零値とされる。
【0028】
この条件下で、中心軸6上にある入口電極1の開口部から入射する荷電粒子と中性粒子とが混在する粒子ビームは、電場の影響を受けない中性粒子が入射時の角度で出口電極3側に向かって直進するのに対し、荷電粒子の方は、四重極2の形成する交流電場の影響を受けて、動径方向に振動しながら出口電極3側へと進む。
【0029】
四重極2は、Aの位置とBの位置で曲げ部分を持つ形で作られているので、この位置付近に進行してきた荷電粒子は、その曲げ方向に沿って軌道を曲げられて進んでいく。この事例では、荷電粒子と中性粒子の進行軸が平行する関係になるよう、荷電粒子の軌道だけが変えられている。
【0030】
荷電粒子は、荷電粒子軌道7で示されるように、動径方向に振動しながら、ある一定幅で出口電極3に設けられた開口部の荷電粒子出口4を通って進むが、中性粒子は、中性粒子軌道8のように、入射時の初期幅と角度に依存した広がりで直進し、中性粒子出口5の穴径以内の範囲にあるビームのみが中性粒子出口5を通過し、それ以外は出口電極3に当たって進行が遮られる。この様子が、正面図と右側面図とに、ビームの軌道が電極棒や電極板などを透かす格好で描いてある。
【0031】
以上は、ガス成分の粒子との衝突がない条件下での動作になるが、図4の場合は、粒子の平均自由行程が構造物の寸法よりも短く、粒子衝突がある場合(ヘリウムガス存在下で平均自由行程が3mmの例)についての状況をシミュレーションしたものである。ただし、衝突による運動エネルギーの低下のみを考慮したものなので、実態を反映しきれていないが、少なくとも荷電粒子の軌道が保たれて、動径方向の振幅が小さく、ビーム径が絞られている様子が確認される。
【0032】
[実施例2]
実施例1で示した四重極部分の途中の曲げは、直線の折れ線状ではなく、滑らかなS字カーブを描いた曲げのものであっても良い。更に、荷電粒子の進行方向を実施例1のように平行にするのではなく、別の角度で出射させる場合は、曲げの角度は、2回の曲げごとに違えても良く、2回の曲げで戻す形でなくても良い。
【0033】
また、円弧を描くような形の曲げの構造にしても良く、その場合の例を図5に示す。四重極2の屈曲部分は、弧を描く形で曲がっており、これに伴って、荷電粒子出口4は右側面図に見られるように、電極棒の湾曲方向の下流延長線上に、また中性粒子出口5は電極棒の湾曲部を湾曲せずに直進した軌道の下流延長線上に配される。
【0034】
三角法的な図示では形が把握しがたい部分は、立体図と立体1/4切取断面図とで全体の形状を示している。電極棒の配置は、この例でも斜め45°(±1°)の位置とした条件は、実施例1と同じである。電極各部への電圧供給も実施例1と同じである。
【0035】
動作的なものは、実施例1とほぼ同じである。荷電粒子の軌道は、四重極2の曲げの方向に沿うが、中性粒子ビームは、入射時の方向を維持した軌道を取る。高真空下での荷電粒子と中性粒子の軌道をシミュレーションした例を図6に示す。粒子の軌道は、透視図で示してある。
【0036】
立体的な描画として、「立体1/4切取断面図」と「立体垂直断面図」で更に軌道分離のようすを示す。また、「垂直断面図」には、四重極2の内接円内中央付近を通る荷電粒子軌道7と下側2本の電極棒の間隙を通る中性粒子軌道8とを示す。
【0037】
中性粒子の軌道の広がりが大きい場合は、電極棒の内接円側の中性粒子軌道8に面する部分の削り落としも可能である。その例を図6の「中性粒子通路拡大加工時垂直断面図」に示すが、電極棒の内側を削り落とす加工が荷電粒子ビームの軌道に及ぼす影響は、ほとんどなかった。
【0038】
図7には、この空間にガスを入れて真空度を下げ、ガスの粒子との衝突を考慮したシミュレーションの事例を示す。ただし、実施例1と同様だが、荷電粒子も中性粒子も、ガス粒子と衝突することによる運動エネルギーの損失のみを計算に入れただけである。ガス粒子と衝突したことによる、飛行方向の変化は、簡易化のため考慮に入れていない。
【0039】
しかし、簡易計算ではあっても、荷電粒子が運動エネルギーを低下させたときに、その飛行軌道が四重極2の曲げられた方向に沿って偏向されるという平均的挙動を確認することはできる。
【0040】
ガス粒子との衝突があると、「衝突冷却」と呼ばれる現象で、荷電粒子の振動幅が次第に狭くなって、荷電粒子ビームの太さも細く変化するが、その様子も図6と図7を比較して確認できる。特に、それぞれの図の右側面図を比較すれば、四重極の空間を飛行中の軌道部分では、より明瞭にそれが判別できる。
【0041】
[実施例3]
図8に示す事例は、実施例2の構造で入口と出口の関係を逆にしたものである。すなわち、荷電粒子ビームの入口側に四重極2の曲がった電極棒が向いた構造で配置される。また、これに伴って、荷電粒子入口9は左側面図に見られるように、電極棒の湾曲方向の上流延長線上に、また中性粒子入口10は電極棒の湾曲部を湾曲せずに直線的に遡及させた軌道の上流延長線上に配される。四重極2を構成する電極棒の配置は、この例でも斜め45°(±1°)の位置とした条件は、実施例1と同じである。
【0042】
平面的な図で不明瞭な部分は、立体図と立体1/4切取断面図とで示してある。電圧供給も実施例1と同様であるが、印加される直流電圧は、荷電粒子が上流から下流側へ加速される向きに電場勾配が発生するように、すなわち図8の例だと左から右に向けて電位勾配が発生するように設定される。これは入口電極1より出口電極3の電位が低い関係に設定されることになる。この関係は、荷電粒子の極性が正の場合であり、荷電粒子の極性が負の場合は逆となる。
【0043】
ただし、入射する粒子の運動エネルギーが比較的高めの場合や、四重極2の置かれた空間の平均自由行程が短くない場合には、衝突確率も小さいので、電位勾配を設けなくても良い場合もある。四重極2にも高周波電圧と直流電圧が実施例1と同様に印加される。
【0044】
図9に、この事例での動作を、粒子ビームの軌道シミュレーションにて示す。荷電粒子ビームは荷電粒子入口9から、中性粒子ビームは中性粒子入口10から、それぞれ別々に入射して、四重極2の曲がりを終えた付近で合流する。この辺りから出口へと向かう軌道の中で、荷電粒子と中性粒子の衝突の機会が作られる。
【0045】
これらの粒子は、相互作用を受けながら、共通する出射口である荷電/中性粒子出口11へと進む。通常、この後には、モニターや分析計、粒子受容装置等が置かれて利用される。この場合の相互作用とは、物理・化学的な反応を想定しているが、荷電粒子と中性粒子の相違がもたらす結果を観察・利用することになる。
【0046】
この事例では、真空度を下げて衝突を考慮したシミュレーションの例は示していないが、実施例2とほぼ同様な軌道となる。ただし、荷電粒子の入射が四重極2の曲がった部分からであり、出口方向に四重極2の直線部分が位置する関係で、細部の様子は多少異なる。後述する実施例4では、衝突の場合も示すので、その様子を参考にすることができる。
【0047】
[実施例4]
図10に荷電粒子ビームと中性粒子ビームの合流・分離例を示す。先に上げた実施例2のビーム軌道分離と実施例3のビーム軌道合流を合わせた構造の事例である。1対の曲がった四重極2は、直線部分の側で中間電極12を挟んで向かい合わせとなり、屈曲部分の側がビームの入射並びに出射する方向に配置されて、中心軸6で両者のビーム軌道が合致する接合となる。
【0048】
なお、ここの中間電極12は、それぞれの四重極2の空間同士で真空度の差がないならば、必ずしも必要ではない場合もある。
【0049】
入口電極1、中間電極12、出口電極3には四重極空間に電位勾配を形成するための直流電圧が、また四重極2には荷電粒子をガイドするための高周波並びに直流電圧が先例と同様に印加され、四重極2を構成する電極棒の配置も先例と同様に斜め45°(±1°)の位置となる。
【0050】
図11に荷電粒子と中性粒子の両ビームの合流と分離の状況をシミュレーションで示す。荷電粒子と中性粒子が入射し、両ビームが合流する前半部分については実施例3と同じであり。荷電粒子と中性粒子の混合されたビームが別々に分離される後半部分については実施例2とほぼ同じ動作になると言える。
【0051】
荷電粒子軌道7は、中間電極12付近で動径方向の振幅が大きくなっているが、電極電圧の最適化が不十分なためであって、荷電粒子の平均的な軌道軸は、四重極2の軸に沿って曲げられたり直進したりして進む様子が確認できる。一方、中性粒子ビームは、電場による偏向作用は受けないので、入射時点での初期角度と位置と運動エネルギーとで決まる所定の広がりを持ったビームとして進むことになる。衝突するものは、更に広がりを持つことになる。
【0052】
ガスを入れるか、あるいは真空ポンプの排気量を下げるかして真空度を下げた条件下でのガス粒子との衝突を考慮したシミュレーションを図12に示す。ただし、中性粒子の衝突による軌道変化は考慮に入れていない。
【0053】
[実施例5]
実施例1の変形として、軌道分離した後に中性粒子を利用しない場合は、予め中性粒子出口5の部分を斜めに傾斜させた反射偏向板で塞いでおき、中性粒子出口5から取り出された中性粒子ビームを反射偏向させて、後段に届かないようにしても良い。
【0054】
[実施例6]
実施例1の変形として、荷電粒子ビームと中性粒子ビームを分離するための四重極2を、通常の四重極型質量分析計のマスフィルターの前段に配置されるプリポール、または後段に配置されるポストポールとして使用する。
【0055】
この構成では、中性粒子ビームを排除するために動作させるので、中性粒子の取り出し口は設けない。この部分の四重極子に印加される直流電圧は、4本の極子とも同じ極性、値として、軸電位を形成させる。
【0056】
この方法で荷電粒子の軌道のみを偏向させ、中性粒子ビームを排除することにより、検出器のノイズを減らすことができる。また、本方法では、四重極子が45°斜め方向に配置されているので、中性粒子ビームは電極棒の間隙を飛行し、電極棒と衝突して棒表面を汚染することがない。
【産業上の利用可能性】
【0057】
荷電粒子と中性粒子の研究に広く利用できる。
【図面の簡単な説明】
【0058】
【図1】従来の荷電粒子と中性粒子の分離機構の一例を示す図である。
【図2】本発明にかかる荷電粒子と中性粒子の分離機構の一実施例を示す図である。
【図3】本発明にかかる荷電粒子と中性粒子の分離機構によるシミュレーションの一実施例を示す図である。
【図4】本発明にかかる荷電粒子と中性粒子の分離機構によるシミュレーションの別の実施例を示す図である。
【図5】本発明にかかる荷電粒子と中性粒子の分離機構の別の実施例を示す図である。
【図6】本発明にかかる荷電粒子と中性粒子の分離機構によるシミュレーションの別の実施例を示す図である。
【図7】本発明にかかる荷電粒子と中性粒子の分離機構によるシミュレーションの別の実施例を示す図である。
【図8】本発明にかかる荷電粒子と中性粒子の合流機構の一実施例を示す図である。
【図9】本発明にかかる荷電粒子と中性粒子の合流機構によるシミュレーションの一実施例を示す図である。
【図10】本発明にかかる荷電粒子と中性粒子の合流・分離機構の一実施例を示す図である。
【図11】本発明にかかる荷電粒子と中性粒子の合流・分離機構によるシミュレーションの一実施例を示す図である。
【図12】本発明にかかる荷電粒子と中性粒子の合流・分離機構によるシミュレーションの別の実施例を示す図である。
【符号の説明】
【0059】
1:入口電極、2:四重極、3:出口電極、4:荷電粒子出口、5:中性粒子出口、6:中心軸(光軸)、7:荷電粒子軌道、8:中性粒子軌道、9:荷電粒子入口、10:中性粒子入口、11:荷電/中性粒子出口、12:中間電極、20:入射口、21:偏向電極、22:偏向電極、23:偏向電極、24:偏向電極、25:ボディ、26:ボディ、27:隔離板、28:ストッパ、29:出射口、I:イオン軌道、O:中心光軸
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ある平面内で屈曲した屈曲部を有する光軸に沿い且つ光軸を90°間隔で取り囲むように光軸から等間隔の位置に配置され、お互いの平行関係を維持しながら、両端部の位置を揃えられた4本の電極棒と、
該4本の電極棒を間に挟み光軸と直交するように配置され、光軸と交わる部分に第1の開口、光軸の屈曲部を屈曲させずに直進させた軌道の延長線と交わる位置に第2の開口を有する入口電極または出口電極と
を備えた荷電粒子と中性粒子の合流または分離機構であって、
該電極棒は、屈曲した光軸を含む前記平面に対して光軸より斜め45°の角度の位置に配置され、荷電粒子および/または中性粒子は、前記入口電極の開口より入射するとともに、前記出口電極の開口より出射するように構成されていて、
該電極棒には所定の高周波電圧、マスフィルター機能用直流電圧、および軸電位設定用直流電圧、出口電極および入口電極には所定の軸方向電場形成用直流電圧を印加することにより、荷電粒子は電極棒の屈曲部の形状に沿って進行させ、中性粒子は電極棒の屈曲部を直進させることにより、荷電粒子と中性粒子の合流または分離を行なわせるようにしたことを特徴とする荷電粒子と中性粒子の合流または分離機構。
【請求項2】
前記4本の電極棒には、隣り合う電極同士で前記高周波電圧および前記マスフィルター機能用直流電圧がそれぞれ逆極性となるように重畳印加されていることを特徴とする請求項1記載の荷電粒子と中性粒子の合流または分離機構。
【請求項3】
前記軸電位設定用直流電圧は、すべての電極で互いに同極性となるような電圧が印加されていることを特徴とする請求項1記載の荷電粒子と中性粒子の合流または分離機構。
【請求項4】
前記軸方向電場形成用直流電圧は、正の荷電粒子の輸送・貯蔵時には、荷電粒子の輸送方向に負の電場勾配、負の荷電粒子の輸送・貯蔵時には、荷電粒子の輸送方向に正の電場勾配を生じるような極性の電圧が印加されることを特徴とする請求項1記載の荷電粒子と中性粒子の合流または分離機構。
【請求項5】
前記4本の電極棒によって囲まれた空間領域には、所定の圧力のガスを導入できるようになっていることを特徴とする請求項1記載の荷電粒子と中性粒子の合流または分離機構。
【請求項1】
ある平面内で屈曲した屈曲部を有する光軸に沿い且つ光軸を90°間隔で取り囲むように光軸から等間隔の位置に配置され、お互いの平行関係を維持しながら、両端部の位置を揃えられた4本の電極棒と、
該4本の電極棒を間に挟み光軸と直交するように配置され、光軸と交わる部分に第1の開口、光軸の屈曲部を屈曲させずに直進させた軌道の延長線と交わる位置に第2の開口を有する入口電極または出口電極と
を備えた荷電粒子と中性粒子の合流または分離機構であって、
該電極棒は、屈曲した光軸を含む前記平面に対して光軸より斜め45°の角度の位置に配置され、荷電粒子および/または中性粒子は、前記入口電極の開口より入射するとともに、前記出口電極の開口より出射するように構成されていて、
該電極棒には所定の高周波電圧、マスフィルター機能用直流電圧、および軸電位設定用直流電圧、出口電極および入口電極には所定の軸方向電場形成用直流電圧を印加することにより、荷電粒子は電極棒の屈曲部の形状に沿って進行させ、中性粒子は電極棒の屈曲部を直進させることにより、荷電粒子と中性粒子の合流または分離を行なわせるようにしたことを特徴とする荷電粒子と中性粒子の合流または分離機構。
【請求項2】
前記4本の電極棒には、隣り合う電極同士で前記高周波電圧および前記マスフィルター機能用直流電圧がそれぞれ逆極性となるように重畳印加されていることを特徴とする請求項1記載の荷電粒子と中性粒子の合流または分離機構。
【請求項3】
前記軸電位設定用直流電圧は、すべての電極で互いに同極性となるような電圧が印加されていることを特徴とする請求項1記載の荷電粒子と中性粒子の合流または分離機構。
【請求項4】
前記軸方向電場形成用直流電圧は、正の荷電粒子の輸送・貯蔵時には、荷電粒子の輸送方向に負の電場勾配、負の荷電粒子の輸送・貯蔵時には、荷電粒子の輸送方向に正の電場勾配を生じるような極性の電圧が印加されることを特徴とする請求項1記載の荷電粒子と中性粒子の合流または分離機構。
【請求項5】
前記4本の電極棒によって囲まれた空間領域には、所定の圧力のガスを導入できるようになっていることを特徴とする請求項1記載の荷電粒子と中性粒子の合流または分離機構。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公開番号】特開2009−187771(P2009−187771A)
【公開日】平成21年8月20日(2009.8.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−26049(P2008−26049)
【出願日】平成20年2月6日(2008.2.6)
【出願人】(000004271)日本電子株式会社 (811)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成21年8月20日(2009.8.20)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年2月6日(2008.2.6)
【出願人】(000004271)日本電子株式会社 (811)
【Fターム(参考)】
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