説明

荷電粒子の照射制御装置及び照射制御方法

【課題】ターゲットにおける熱応力の発生を抑制することが可能な荷電粒子の照射制御装置を提供する。
【解決手段】本発明の一実施形態に係る荷電粒子の照射制御装置100は、荷電粒子Pの照射を受けて中性子nを発生する物質からなるターゲット38に対して、当該荷電粒子の照射制御を行う照射制御装置において、荷電粒子Pを偏向させる偏向手段110,120と、偏向手段110,120を制御して、荷電粒子PのビームBpをターゲット38の照射面38a上で周回移動させる制御手段130と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、陽子などの荷電粒子の照射を受けて中性子を発生するターゲットに対して、当該荷電粒子の照射制御を行う照射制御装置及び照射制御方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
がん治療等において、放射線治療は高い評価を受けている。特に、中性子捕捉療法(NCT:NeutronCapture Therapy)は、原理的に細胞レベルの選択的な治療の可能性があり、注目されている。NCTでは、中性子を照射したときに飛程が短く高LET(LinearEnergy Trasfer)の重荷電粒子などを発生する安定同位元素を、あらかじめ治療すべきがん細胞に取り込ませておく。その後、中性子を照射し、重荷電粒子の飛散によってがん細胞だけを選択的に破壊する。NCTに用いられる安定同位元素は、中性子と反応して高LETの重荷電粒子を発生する10BやLiなどであり、中性子はこれらに対して大きな反応断面積を持つ低エネルギー中性子である。現在では、NCTとして、10B及び熱中性子や熱外中性子が用いられており硼素中性子捕捉療法(BNCT:BoronNCT)と呼ばれることもある。
【0003】
特許文献1には、NCTなどに用いられる中性子を発生させる装置が開示されている。この種の装置では、ターゲットに荷電粒子を照射して中性子を発生させている。中性子を発生させる際、ターゲットでは、非常に高いエネルギーレベルの荷電粒子の照射を受けるので、この入熱により熱応力が発生してしまう。そこで、特許文献1には、ターゲットに近接して、冷却水を用いた冷却機構を配置することが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009−193934号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載の冷却機構を用いる場合、冷却水を流すための設備を設けたり、冷却水を流す工程を設けたりしなければならなかった。そこで、本願発明者らは、このような冷却機構を用いることなく、ターゲットにおける熱応力の発生を抑制する手法を鋭意検討した。
【0006】
そこで、本発明は、ターゲットにおける熱応力の発生を抑制することが可能な荷電粒子の照射制御装置及び照射制御方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の荷電粒子の照射制御装置は、荷電粒子の照射を受けて中性子を発生する物質からなるターゲットに対して、当該荷電粒子の照射制御を行う照射制御装置において、荷電粒子を偏向させる偏向手段と、偏向手段を制御して、荷電粒子のビームをターゲットの照射面上で周回移動させる制御手段と、を備える。
【0008】
本発明の荷電粒子の照射制御方法は、荷電粒子の照射を受けて中性子を発生する物質からなるターゲットに対して、荷電粒子の照射制御を行う照射制御方法において、荷電粒子のビームをターゲットの照射面上で周回移動させる。
【0009】
この荷電粒子の照射制御装置及び照射制御方法によれば、荷電粒子のビームをターゲットの照射面上で周回移動させるので、高いエネルギーレベルの荷電粒子によるターゲットの入熱密度を軽減することができる。したがって、ターゲットの一部分に入熱が集中し、熱応力が発生することを抑制することができる。
【0010】
上記した制御手段は、偏向手段を制御して、荷電粒子のビーム径を拡大させることが好ましい。これによれば、荷電粒子のビーム径を拡大させるので、荷電粒子によるターゲットの入熱密度をより軽減することができ、ターゲットにおける熱応力の発生をより抑制することができる。
【0011】
また、上記した制御手段は、荷電粒子のビームをターゲットの照射面上で円形状に周回移動させることが好ましい。これによれば、荷電粒子のビームの周回移動の制御が容易である。
【0012】
また、上記した制御手段は、荷電粒子のビーム径を、ターゲットの照射面上でターゲットの最小外形幅の1/2に拡大させ、荷電粒子のビームの中心が、ターゲットの中心を中心とし、ターゲットの最小外形幅の1/4を半径とする円形軌道を通るように、荷電粒子のビームをターゲットの照射面上で周回移動させることが好ましい。
【0013】
これによれば、ターゲットの照射面上での荷電粒子のビームの重なりを低減することができる。したがって、荷電粒子によるターゲットの入熱密度をより軽減することができ、ターゲットにおける熱応力の発生をより抑制することができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、荷電粒子の照射を受けて中性子を発生するターゲットにおいて、熱応力の発生を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の実施形態に係る荷電粒子の照射制御装置を備える中性子発生装置の構成を示す図である。
【図2】本発明の実施形態に係る荷電粒子の照射制御装置の構成を示す図である。
【図3】ターゲットの照射面に対する荷電粒子の照射制御方法を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、図面を参照して本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。なお、各図面において同一又は相当の部分に対しては同一の符号を附すこととする。
【0017】
図1は、本発明の実施形態に係る荷電粒子の照射制御装置を備える中性子発生装置の構成を示す図であり、図2は、本発明の実施形態に係る荷電粒子の照射制御装置の構成を示す図である。また、図3は、ターゲットの照射面に対する荷電粒子の照射制御方法を示す図である。
【0018】
図1に示す中性子発生装置1は、例えば、中性子捕捉療法(BNCT:BoronNeutron Capture Therapy)を用いたがん治療などを行うために用いられる装置である。
【0019】
中性子発生装置1は、サイクロトロン10を備え、このサイクロトロン10は、陽子などの荷電粒子を加速して、陽子線を作り出す。サイクロトロン10は、例えば、ビーム径40mm、60kw(=30MeV×2mA)の陽子線を生成する能力を有している。
【0020】
サイクロトロン10から取り出された陽子線(以下、荷電粒子という。)Pは、例えば、水平型ステアリング12、4方向スリット14、水平垂直型ステアリング16、QM200マグネット18,19,20、90度偏向電磁石22、QM200マグネット24、水平垂直型ステアリング26、QM200マグネット28、4方向スリット30、CTモニタ32、照射制御装置100、ビームダクト34を順次に通過し、中性子発生部36に導かれる。
【0021】
水平型ステアリング12、水平垂直型ステアリング16,26は、例えば電磁石を用いて荷電粒子Pのビーム軸調整を行うものである。同様に、QM200マグネット18,19,20,24,28は、例えば電磁石を用いて荷電粒子Pのビーム軸調整を行うものである。4方向スリット14,30は、端のビームを切ることにより、荷電粒子Pのビーム整形を行うものである。90度偏向電磁石22は、荷電粒子Pの進行方向を90度偏向するものである。CTモニタ32は、荷電粒子Pのビーム電流値をモニタするためのものである。
【0022】
中性子発生部36は、図2に示すように、荷電粒子Pが照射面38aに照射されて、中性子nを出射面38bから発生するターゲット38を有する。ターゲット38は、例えば、ベリリウム(Be)からなり、直径160mmの円板状を成している。中性子発生部36で発生させた中性子nは、患者に照射されることとなる。
【0023】
また、90度偏向電磁石22には切替部40が設けられており、切替部40によって荷電粒子Pを正規の軌道から外してビームダンプ42に導くことが可能になっている。ビームダンプ42は、治療前などにおいて荷電粒子Pの出力確認を行うものである。
【0024】
次に、図2及び図3を参照して、本実施形態に係る荷電粒子の照射制御装置100及び照射制御方法について説明する。照射制御装置100は、ターゲット38に対して荷電粒子Pの照射制御を行う装置であり、X方向偏向部110と、Y方向偏向部120と、制御部130とを備える。
【0025】
X方向偏向部110は、例えば電磁石を備え、入射する荷電粒子PをX方向に偏向させて出射する。同様に、Y方向偏向部120は、例えば電磁石を備え、入射する荷電粒子PをY方向に偏向させて出射する。X方向偏向部110及びY方向偏向部120は、制御部130によって制御される。
【0026】
制御部130は、荷電粒子PのビームBpの径を拡大させる。本実施形態では、図3に示すように、制御部130は、荷電粒子PのビームBpの直径Dpを、ターゲット38の照射面38a上で、ターゲット38の直径(最小外形幅)Dt=160mmの略1/2の80mmに拡大させる(すなわち、40mmから80mmへ拡大)。
【0027】
また、制御部130は、X方向偏向部110及びY方向偏向部120を制御して、荷電粒子PのビームBpをターゲット38の照射面38a上で円形状に周回移動させる。例えば、図3に示すように、制御部130は、荷電粒子PのビームBpの中心Opを円形状の周回軌道Lに沿って周回させることができる。本実施形態では、この周回軌道Lの中心O、半径Rは、それぞれ、ターゲット38の中心Ot、ターゲット38の直径Dt=160mmの略1/4の40mmに設定されている。
【0028】
ここで、ターゲット38では、60kw(=30MeV×2mA)もの高いエネルギーレベルの荷電粒子Pの照射を受けるので、この入熱により熱応力が発生する虞がある。特に、ターゲット38は板状であるため、熱応力により変形する虞がある。
【0029】
しかしながら、本実施形態の荷電粒子の照射制御装置100及び照射制御方法によれば、荷電粒子PのビームBpをターゲット38の照射面上で周回移動させるので、高いエネルギーレベルの荷電粒子Pによるターゲット38の入熱密度を軽減することができる。したがって、ターゲット38の一部分に入熱が集中し、熱応力が発生することを抑制することができる。なお、本実施形態では、荷電粒子PのビームBpの周回移動を円形軌道Lにすることにより、周回移動の制御を容易にしている。
【0030】
また、本実施形態の荷電粒子の照射制御装置100及び照射制御方法によれば、荷電粒子Pのビーム径Dpを拡大させるので、荷電粒子Pによるターゲット38の入熱密度をより軽減することができ、ターゲット38における熱応力の発生をより抑制することができる。
【0031】
また、本実施形態の荷電粒子の照射制御装置100及び照射制御方法によれば、ターゲット38の照射面38a上での荷電粒子PのビームBpの径Dpをターゲット38の直径Dtの略1/2に拡大し、荷電粒子PのビームBpの中心Opの周回軌道Lを、ターゲット38の中心Otを中心Oとし、ターゲット38の直径Dtの略1/4を半径Rとする円形軌道とすることにより、ターゲット38の照射面38a上での荷電粒子PのビームBpの重なりを低減することができる。したがって、荷電粒子Pによるターゲット38の入熱密度をより軽減することができ、ターゲット38における熱応力の発生をより抑制することができる。
【0032】
なお、他の実施形態として、荷電粒子PのビームBpの中心Opの周回軌道Lの半径Rを40mmから35mmに変更設定した。これは、ビームダクト34への入熱を安全サイドで回避する目的で、荷電粒子PのビームBpの照射範囲Aをターゲット38の直径Dt=160mmより小さいφ=150mmに設定したことによる。これにより、ターゲット38の中心Ot付近において荷電粒子PのビームBpが重なることとなるが、荷電粒子PのビームBpでは中心Opからビーム周辺へ向けてエネルギーが低くなるので、ビームBpの周辺部分が重なったとしてもターゲット38の中心Ot付近に高い熱応力が発生することはない。
【0033】
なお、本発明は上記した本実施形態に限定されることなく種々の変形が可能である。例えば、本実施形態では、荷電粒子のビームを円形状に拡大したが、円形状以外の様々な形状であってもよい。また、本実施形態では、荷電粒子の周回移動の軌道を円形状としたが、円形軌道以外の様々な周回軌道が適用可能である。
【0034】
また、ターゲット38としてはベリリウム(Be)に限定されず、タンタル(Ta)などを用いることもできる。この場合にも、本発明の荷電粒子の照射制御装置及び方法は効果を奏する。
【符号の説明】
【0035】
1…中性子発生装置、10…サイクロトロン、12…水平型ステアリング、14…方向スリット、14,30…4方向スリット、16,26…水平垂直型ステアリング、18,19,20,24,28…QM200マグネット、22…90度偏向電磁石、32…CTモニタ、34…ビームダクト、36…中性子発生部、38…ターゲット、38a…照射面、38b…出射面、40…切替部、42…ビームダンプ、100…照射制御装置、110…X方向偏向部(偏向手段)、120…Y方向偏向部(偏向手段)、130…制御部(制御手段)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
荷電粒子の照射を受けて中性子を発生する物質からなるターゲットに対して、当該荷電粒子の照射制御を行う照射制御装置において、
前記荷電粒子を偏向させる偏向手段と、
前記偏向手段を制御して、前記荷電粒子のビームを前記ターゲットの照射面上で周回移動させる制御手段と、
を備える荷電粒子の照射制御装置。
【請求項2】
前記制御手段は、前記偏向手段を制御して、前記荷電粒子のビーム径を拡大させる、
請求項1に記載の荷電粒子の照射制御装置。
【請求項3】
前記制御手段は、前記荷電粒子のビームを前記ターゲットの照射面上で円形状に周回移動させる、
請求項1に記載の荷電粒子の照射制御装置。
【請求項4】
前記制御手段は、
前記荷電粒子のビーム径を、前記ターゲットの照射面上で前記ターゲットの最小外形幅の1/2に拡大させ、
前記荷電粒子のビームの中心が、前記ターゲットの中心を中心とし、前記ターゲットの最小外形幅の1/4を半径とする円形軌道を通るように、前記荷電粒子のビームを前記ターゲットの照射面上で周回移動させる、
請求項2に記載の荷電粒子の照射制御装置。
【請求項5】
荷電粒子の照射を受けて中性子を発生する物質からなるターゲットに対して、当該荷電粒子の照射制御を行う照射制御方法において、
前記荷電粒子のビームを前記ターゲットの照射面上で周回移動させる、
荷電粒子の照射制御方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−237301(P2011−237301A)
【公開日】平成23年11月24日(2011.11.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−109446(P2010−109446)
【出願日】平成22年5月11日(2010.5.11)
【出願人】(000002107)住友重機械工業株式会社 (2,241)
【Fターム(参考)】