荷電粒子ビーム出射装置及び荷電粒子ビーム出射方法
【課題】陽子・炭素イオン等の荷電粒子ビーム出射装置の出射に関し、治療時間を短縮する方法を提案する。
【解決手段】リッジフィルタ若しくはレンジモジュレーションホイール(RMW)を対応する形状に成形し、RMWのビームON/OFF制御若しくはRMWのビーム電流制御を行い、インテンシティモジュレーション制御を行い、又はスキャニング方式の照射を行うことにより、患者5内に線量同一若しくは線量が異なる複数の拡大ブラッグピークを形成させる。また、部分的に線量の異なる拡大ブラッグピークを形成させる。
【解決手段】リッジフィルタ若しくはレンジモジュレーションホイール(RMW)を対応する形状に成形し、RMWのビームON/OFF制御若しくはRMWのビーム電流制御を行い、インテンシティモジュレーション制御を行い、又はスキャニング方式の照射を行うことにより、患者5内に線量同一若しくは線量が異なる複数の拡大ブラッグピークを形成させる。また、部分的に線量の異なる拡大ブラッグピークを形成させる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、陽子及び炭素イオン等のイオンビームを照射対象に対して出射する荷電粒子ビーム出射装置及び荷電粒子ビーム出射方法に関する。
【背景技術】
【0002】
癌などの患者の患部に陽子及び炭素イオン等のイオンビームを照射する治療方法が知られている。この治療に用いるイオンビーム出射装置は、イオンビーム発生装置、ビーム輸送系、及び照射装置を備えている。イオンビーム発生装置で加速されたイオンビームは、第1ビーム輸送系及び回転ガントリーに設けられた第2ビーム輸送系を経て回転ガントリーに設置された照射装置に達する。イオンビームは照射装置より出射されて患者の患部に照射される。イオンビーム発生装置としては、例えば、イオンビームを周回軌道に沿って周回させる手段、共鳴の安定限界の外側でイオンビームのベータトロン振動を共鳴状態にする手段、及びイオンビームを周回軌道から取り出す出射用デフレクターを備えたシンクロトロン(円形加速器)が知られている。
【0003】
イオンビームを用いた治療、例えば陽子ビームの患部への照射では、陽子ビームのエネルギーの大部分が、陽子が停止するときに放出される、すなわちブラッグピークが形成されるという特性を利用し、陽子ビームの入射エネルギーの選択により陽子を患部近傍で停止させてエネルギー(吸収線量)の大部分を患部の細胞にのみ与えるようにする。
【0004】
通常、患部は、患者の体表面からの深さ方向(イオンビームの進行方向でもあり、以下、単に深さ方向という)にある程度の厚みをもっている。その深さ方向における患部の厚み全域にわたってイオンビームを効果的に照射するためには、深さ方向においてある程度広いフラットな吸収線量範囲(拡大ブラッグピーク(spread-out Bragg peak)。以下、SOBPという。)を形成するように、イオンビームのエネルギーを調節しなければならない。
【0005】
SOBPを形成する手段の1つとして、ビーム進行方向と直角な方向の位置に応じて厚み成分が種々あるリッジフィルタがある(非特許文献1の2078頁、図31)。イオンビームがリッジフィルタの厚みの薄い部分を通過したときはビームエネルギーの減衰が少ないため、ブラッグピークが体内の深い位置に生じる。イオンビームが厚みの厚い部分を通過する際には、イオンビームのエネルギーの減衰度合いが大きくなり、患部の体表面に近い部分にブラックピークが形成される。このようなブラッグピークが形成される深さ方向の位置を空間的に変動させる結果、患部の深さ方向における線量分布が一様となり、SOBPを形成する。
【0006】
また、他のSOBPを形成する手段として、周方向に段階的に厚みが変化している複数の羽根部を回転軸の周囲に配置したレンジモジュレーション回転体(レンジモジュレーションホイール。以下、RMWという)がある(例えば、非特許文献1の2077頁、図30)。複数の羽根部は回転軸に取り付けられる。RMWは、隣り合う羽根部の相互間に貫通する開口を形成している。例えば、開口をイオンビームの経路(ビーム経路という)に位置させてRMWを回転させる。開口及び羽根部が交互にビーム経路を横切る。イオンビームが開口を通過したときはビームエネルギーが減衰しないため、ブラッグピークが体内の最も深い位置に生じる。イオンビームが羽根部を通過する際には、羽根部の厚みが厚い部分を通過するほど、このイオンビームのエネルギーの減衰度合いが大きくなり、患部の体表面に近い部分にブラックピークが形成される。RMWの回転によって、このようなブラッグピークが形成される深さ方向の位置が周期的に変動する結果、時間積分で見ると、深さ方向において比較的広くフラットなSOBPを得ることができる。
【0007】
その他のSOBPを形成する手段として、インテンシティモジュレーション(電流変調)という方法がある。これは、出射するイオンビームの量(以下、ビーム量という)及びイオンビームのエネルギー(以下、ビームエネルギーという)をコントロールすることにより、深さ方向に所望の線量分布を得る方法である。ビームエネルギーの制御は、例えばシンクロトロンの設定を変更する(又は照射装置内に設置されたビームエネルギー吸収体の厚みを変える)ことによって行われる。ビーム量については照射装置内に設置した線量モニタでカウントし、所定量に達したところで次のビームエネルギーに移行させる。したがって、患部における深さ方向線量分布が一様となるようにビーム量及びビームエネルギーを制御することで、深さ方向にフラットなSOBPを得ることができる。
【0008】
さらに他のSOBPを形成する手段として、走査電磁石によりイオンビームを患部領域内において走査させて照射するスキャニング方式と呼ばれるものがある(例えば、非特許文献1の2086頁、図45)。このスキャニング方式では、細いビームのビームエネルギーを変更することにより深さ方向の線量分布を、走査電磁石で平面方向のビーム位置を変更することにより平面方向の線量分布を調整し、すべてのビームの重ね合わせにより患部内における線量分布を均一にするものである。このスキャニング照射方式によっても、患部の深さ方向における一様なSOBPを得ることができる。
【0009】
【非特許文献1】レビュー オブ サイエンティフィック インスツルメンツ64巻8号(1993年8月)のページ2074〜2088、図30〜31,45(REVIEW OF SCIENTIFIC INSTRUMENTS VOLUME 64 NUMBER 8 (AUGUST 1993) P2074-2084 FIG.30-32)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
従来のSOBPを形成する手法では、患部の深さ方向において患部の厚み全域にわたって線量分布の均一化を図り、一様な線量分布を得る。しかしながら、体内における放射線感受性は酸素の有無等によりその部位によって異なり、がん等の患部はその発生箇所に応じた適切な照射線量があるため、例えば複数の臓器に転移したがん等に対しては、それぞれの臓器に応じた適切な線量にてそれぞれの患部の厚み全域にわたって照射する必要がある。したがって、深さ方向に一様な線量分布で照射する従来技術の手法では、患部ごとに個別に照射を行うしかなく、治療時間の長時間化を招いていた。また、1箇所にとどまる患部であっても例えば重要臓器(脊椎等)にまたがるがん等に対しては、従来技術の手法では、重要臓器への被爆を回避するためにその臓器の両側方向から患部に対して個別に照射を行うしかなく、この場合にも治療時間の長時間化を招いていた。
【0011】
本発明は、上記従来技術の問題に鑑みてなされたものであり、その目的は、治療時間を短縮することができる荷電粒子ビーム出射装置及び荷電粒子ビーム出射方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記した目的を達成する本発明の特徴は、荷電粒子ビーム発生装置から出射された荷電粒子ビームのエネルギーを調整して照射対象内に複数の拡大ブラッグピークを形成させることにある。照射対象内に複数の拡大ブラッグピークを形成することにより、複数の臓器に転移したがん等の複数の患部に対し一度の照射で各患部の厚み全域にわたって効果的な照射を行うことができる。また、脊椎等の重要臓器にまたがるがん等の患部に対しても、重要臓器の被爆を低減しつつ臓器の両側に位置する患部に対し一度の照射でその厚み全域にわたって効果的な照射を行うことができる。したがって、治療時間を短縮することができる。
【0013】
好ましくは、照射対象内に線量の異なる複数の拡大ブラッグピークを形成させるとよい。これにより、酸素増感比の差異等により放射線感受性の異なる複数の患部に対し、各患部に応じた適切な線量の照射を行うことができる。
【0014】
上記した目的を達成する本発明のもう1つの特徴は、荷電粒子ビーム発生装置から出射された荷電粒子ビームのエネルギーを調整して照射対象内に部分的に線量の異なる拡大ブラッグピークを形成させることにある。これにより、酸素増感比の差異等により部分的に放射線感受性の異なる患部に対し、一度の照射で各部分に応じた適切な線量の照射を行うことができる。したがって、治療時間を短縮することができる。
【0015】
好ましくは、多門照射による重ねあわせにより照射対象内における拡大ブラッグピーク以外の部分の線量が低減するように拡大ブラッグピークを形成させるとよい。これにより、照射対象内における照射不要部分の被爆量を低減することができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、治療時間を短縮することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明の好適な一実施形態である粒子線出射装置を、図面を用いて説明する。
【0018】
(実施形態1)
本実施形態の荷電粒子ビーム出射装置である粒子線出射装置1は、図1に示すように、イオンビーム発生装置(荷電粒子ビーム発生装置)2、ビーム輸送系3及び治療台6に固定された患者(照射対象)5に対しイオンビームを照射する照射装置4を備える。イオンビーム発生装置2は、イオン源(図示せず)、前段加速器7及びシンクロトロン8を有する。イオン源で発生したイオン(例えば、陽子または炭素イオン)は前段加速器(例えば直線加速器)7で加速される。このイオンビーム(例えば陽子ビーム)は前段加速器7からシンクロトロン8に入射される。本実施形態ではイオンビームとして陽子ビームが用いられる。荷電粒子ビームであるそのイオンビームは、シンクロトロン8で加速され、設定エネルギーまでに高められた後、出射用デフレクタ9から出射される。
【0019】
シンクロトロン8から出射されたイオンビームは、ビーム輸送系3を経て照射装置4に達する。照射装置4、及びビーム輸送系3の一部である逆U字状のビーム輸送装置10は回転ガントリー(図示せず)の回転胴に設置され、回転ガントリーの回転に伴って患者5の周囲を回転する。イオンビームはビーム輸送装置10を通って照射装置4から治療台6上に横たわっている患者5の患部18(図2)に照射される。
【0020】
照射装置4は、図2に示すように、回転ガントリーに取り付けられたケーシング11を有する。照射装置4は、更に、第1散乱体12、第2散乱体13、飛程調整装置14、拡大ブラッグピーク形成装置であるリッジフィルタ15、患者コリメータ16及びボーラス17を有する。第1散乱体12、第2散乱体13、飛程調整装置14、リッジフィルタ15、患者コリメータ16及びボーラス17は、ビーム進行方向の上流側よりこの順でケーシング11内に配置され、ケーシング11に設置される。
【0021】
第1散乱体12は、ケーシング11内のビーム経路であるビーム軸mに略直交する方向に正規分布状にイオンビームを拡大させる。この第1散乱体12は、一般にイオンビームの散乱量に対するエネルギー損失の量が少ない原子番号の大きい物質(鉛やタングステン等)によって構成される。第2散乱体13は、第1散乱体12によって線量分布が正規分布状に広げられたイオンビームを、ビーム軸mと直交する方向に一様な線量分布にする機能を有する。この第2散乱体13は、内側が比較的原子番号の高い物質で構成されており、外側は比較的原子番号の低い物質で構成されている。
【0022】
飛程調整装置14は厚みの異なる複数の吸収体を有する。この吸収体が例えば圧縮空気により駆動するエアシリンダ等(図示せず)によってビーム軸m上に選択的に移動され、エネルギーを所望の量に減じる。なお、飛程調整装置14はレンジシフタ、ディグレーダ等とも称される。リッジフィルタ15はイオンビームの進行方向における厚みがビーム進行方向と直角方向における位置に応じて変化する複数のリッジ15A〜15D(図5)を有する。各リッジ15A〜15Dの厚み及びその厚み部分の幅は患者5の患部18(例えば癌や腫瘍の発生部位)の深さ方向において所望の線量分布が得られるように形成されている。イオンビームは、リッジフィルタ15を通過することにより、深さ方向に所望の線量分布となるようにエネルギーを調整される。
【0023】
患者コリメータ16は、ビーム軸mと略直交する方向において、患部18の形状に合わせてイオンビームを整形するものである。なお、患者コリメータ16はアパーチャとも称される。ボーラス17は、患者5の患部18の最大深さに合わせてイオンビームの到達深度を調整するものである。すなわち、ボーラス17は、ビーム軸mと略直交する方向における各位置でのイオンビームの飛程を、照射目標である患部18の深さ形状に合わせて調整する。なお、ボーラス17は飛程補償装置、エネルギーコンペンセータ、コンペンセータ等とも称される。
【0024】
次に、リッジフィルタ15の特徴について説明する。まず、理解を容易とするために、比較対象として線量一様な単一のSOBPを形成する際に用いられる一般的なリッジフィルタについて説明する。
【0025】
図3に示す一般的なリッジフィルタ15’が有する各リッジ15’A〜15’Dは、その断面形状がほぼ同形状に形成されており、それぞれの一方側(図3中左側)の斜面が、ビーム軸m方向(ビーム進行方向)における厚みが異なる複数の領域をビーム軸mと略直交する方向に所定の比率で有するように階段状に形成されている。イオンビームがリッジフィルタ15’の厚みの薄い部分を通過したときはビームエネルギーの減衰が少ないため、ブラッグピークが体内の深い位置に生じる。イオンビームがリッジフィルタ15’の厚みの厚い部分を通過する際には、イオンビームのエネルギーの減衰度合いが大きくなり、患部の体表面に近い部分にブラックピークが形成される。このようなブラッグピークが形成される深さ方向の位置をビーム軸mと略直交する方向に空間的に変動させる結果、深さ方向における線量分布が一様となり、図4に示すようなSOBPを形成する。SOBPの幅の大きさ、深さは治療計画時に設定され、その治療計画情報に基づいてリッジフィルタ15’は製作される。
【0026】
次に、本実施形態のリッジフィルタ15を図5及び図6を用いて説明する。リッジフィルタ15の各リッジ15A〜15Dは、図5に示すように、線量一様な単一のSOBPを形成するためのリッジフィルタ15’の形状に比べ、厚みが中程度である領域(斜面の中央部付近)の比率が相対的に少なくなるように、かつ厚みが厚い部分(斜面の上方部分)の領域の比率が相対的に大きくなるように形成されている。そして、所望の深さにおいて線量が一様となるように各厚みの領域の比率が調整されている。その結果、体内における中程度の深さでの線量分布が低下すると共に、体表面に近い浅い位置で一様な線量分布が形成され、図6に示すように、互いにほぼ同線量である2つのSOBPが形成される。
【0027】
なお、各リッジ15A〜15Dの形状はこの図5に示すものに限らず、例えば両側に斜面を有する略三角形の形状としてもよい。またこのように階段状の斜面として厚みを段階的に変化させるのではなく、なだらかな斜面に形成して厚みが連続的に変化するようにしてもよい。さらに、ここではSOBPの数を2つとしたが、さらに多数のSOBPを形成するようにしてもよい。
【0028】
以上のように構成される本実施形態によれば、以下の効果を奏する。
すなわち、図7に示すように、例えば1つの臓器中の複数箇所に転移したがん等である複数の患部18a,18bに対し、線量一様な単一のSOBPを形成するためのリッジフィルタ15’を用いた場合には患部18a,18b間の正常細胞の被爆を避けるためにそれぞれの患部18a,18bに対して個別に照射を行うしかなかったのに対し、本実施形態では複数のSOBPを形成することが可能であるので、一度の照射で各患部18a,18bの厚み全域にわたって効果的な照射を行うことができる。したがって、治療時間を短縮することができる。また、仮に単一SOBP形成用のリッジフィルタ15’を用いて治療時間を短縮するために患部18a,18bに対して一度に照射を行った場合、患部18a,18b間の正常細胞に不要な線量を与えることになるが、本実施形態では患部18a,18b間の正常細胞に与える線量を低減でき、照射不要部分の被爆量を低減することができる。さらに、図8に示すように、例えば脊椎等の重要臓器19にまたがるがん等の患部18に対しても、重要臓器19の被爆を低減しつつ臓器19の両側に位置する患部18に対し一度の照射でその厚み全域にわたって効果的な照射を行うことができる。したがって、治療時間を短縮することができる。また、単一SOBP形成用のリッジフィルタ15’を用いて患部18に対して一度に重要臓器19ごと照射を行う場合に比べ、重要臓器19部分に与える線量を低減でき、重要臓器19の被爆量を低減することができる。
【0029】
なお、以上では互いに線量がほぼ同等であるSOBPを複数形成する場合を例にとって説明したが、線量の異なるSOBPを複数形成するようにしてもよい。この場合に用いるリッジフィルタの一例を図9及び図10を用いて説明する。リッジフィルタ(拡大ブラッグピーク形成装置)20の各リッジ20A〜20Dは、図9に示すように、図5に示した実施形態1のリッジフィルタ15の形状と同様に厚みが中程度の領域(斜面の中央部付近)の比率が相対的に少なくなるように形成されており、かつ、図5のリッジフィルタ15に比べて厚みが厚い部分(斜面の上方部分)の領域の比率が相対的に小さくなるように形成されている。そして、所望の深さにおいて線量が一様となるように各厚みの領域の比率が調整されている。その結果、図10に示すように、互いに線量の異なる2つのSOBP(ここでは浅い方のSOBPの線量が低く、深い方のSOBPの線量が高い)が形成される。
【0030】
なお、特に図を用いて説明はしないが、リッジフィルタ20を図5に比べて厚みが薄い部分(斜面の下方部分)の領域の比率が相対的に小さくなるように形成すれば、上記と線量の大きさの関係が反対である2つのSOBP(浅い方のSOBPの線量が高く、深い方のSOBPの線量が低い)を形成することができる。
【0031】
本変形例1によれば、上記実施形態1と同様の効果を得ることができる上に、さらに図11に示すように、例えば異なる臓器に転移したがん等、酸素増感比の差異等により放射線感受性の異なる複数の患部18A,18Bに対し、各患部に応じた適切な線量の照射を行うことができる。
【0032】
また、以上では2つ以上の複数のSOBPを形成する場合を例にとって説明したが、部分的に線量の異なる単一のSOBPを形成するようにしてもよい。このような場合に用いるリッジフィルタの一例を図12及び図13を用いて説明する。リッジフィルタ(拡大ブラッグピーク形成装置)21の各リッジ21A〜21Dは、図12に示すように、図3に示した単一SOBP形成用のリッジフィルタ15’の形状に比べ、厚みが厚い領域(斜面の上方部分)及び厚みが薄い領域(斜面の下方部分)の比率が相対的に小さくなるように形成されている。そして、所望の深さにおいて線量が一様となるように各厚みの領域の比率が調整されている。その結果、図13に示すように、部分的に線量の異なるSOBP(ここでは深さ方向両端の線量が低いSOBP)が形成される。
【0033】
本変形例2によれば、図14に示すように、例えば酸素増感比の差異等により外側と内側で放射線感受性の異なる患部18C,18Dに対し、単一SOBP形成用のリッジフィルタ15’を用いて各部分に応じた適切な線量の照射を行うためには内側の患部18C及び外側の患部18Dに対して個別に照射を行うしかなかったのに比べ、本実施形態では部分的に線量の異なるSOBPを形成することが可能であるので、一度の照射で患部18C,18Dに対して各部分に応じた適切な線量の照射を行うことができる。したがって、治療時間を短縮することができる。
【0034】
またさらに、以上では単門照射(ある1つの照射方向から行うビーム照射)の場合を例にとって説明したが、多門照射(ガントリーを回転させて複数の照射方向から行うビーム照射)を行うことを前提にリッジフィルタの形状を決定するようにしてもよい。
【0035】
この場合に用いるリッジフィルタの一例を図15及び図16を用いて説明する。なお、ここでは説明を容易とするために、対向2門照射(対向する2方向から行うビーム照射)により線量一様な単一のSOBPを形成する場合を例にして説明する。本変形例のリッジフィルタ(拡大ブラッグピーク形成装置)22の各リッジ22A〜22Dは、図15に示すように、図3に示した単一SOBP形成用のリッジフィルタ15’の形状に比べ、厚みの無い領域を増やして厚みのある領域(斜面部分)の比率が全体的に小さくなるように形成されている。その結果、図16に示すように、最深部付近に大きなピークが形成され、体表面に近くなるにつれ次第に線量が小さくなる線量分布が形成され、対向2門照射を行うことによって、重ねあわせによりSOBP以外の部分の線量が低減した線量分布が形成される。
【0036】
本変形例3によれば、図17に示す単純に線量一様なSOBPが形成される照射を対向2門から行った場合の線量分布に比べ、SOBP以外の部分の線量が低減した線量分布が得られ、患部18以外の照射不要部分の被爆量を低減することができる。そして、ここでは線量一様な単一のSOBPを形成する場合を例にして説明したが、これを前述した実施形態1及び変形例1,2に適用し、多門照射を考慮に入れたリッジフィルタの形状を計算して製作することにより、SOBP以外の部分の線量を低減しつつ、複数のSOBP、又は部分的に線量の異なるSOBPを形成することが可能となる。なお、ここでは対向2門照射を行う場合を例にとって説明したが、さらに照射方向を増やした場合にも適用可能である。
【0037】
なお、以上の実施形態1及び変形例1〜3においては、拡大ブラッグピーク形成装置としてリッジフィルタを用いたが、これに限らず、ビーム進行方向の厚み及びその厚み領域の幅を所望の線量分布が得られるように成形したRMW(図20参照)を用いてもよい。この場合にも同様の効果を得ることができる。
【0038】
(実施形態2)
本実施形態の荷電粒子ビーム出射装置である粒子線出射装置1Aは、図18に示すように、イオンビーム発生装置2、ビーム輸送系3及び照射装置4Aを備えている。
【0039】
イオンビーム発生装置2は、実施形態1と同様に、イオン源(図示せず)、前段加速器7及び主加速器であるシンクロトロン8Aを有する。シンクロトロン8Aは、一対の電極によって構成された高周波印加装置26及び高周波加速空胴27をイオンビームの周回軌道上に設置している。第1高周波電源28が開閉スイッチ29を介して高周波印加装置26の電極に接続される。高周波加速空胴27に高周波電力を印加する第2高周波電源(図示せず)が、別途設けられる。前段加速器7から出射されたイオンビームはシンクロトロン8Aに入射され、第2高周波電源からの高周波電力の印加によって高周波加速空胴27内に発生する電磁場に基づいて加速される。シンクロトロン8A内を周回するイオンビームは、設定されたエネルギー(例えば100〜200MeV)まで加速された後、後述するように開閉スイッチ29を閉じることによってシンクロトロン8Aから出射される。すなわち、第1高周波電源28からの高周波が、閉じられた開閉スイッチ29を通して閉じることによって、高周波印加装置26より周回しているイオンビームに印加される。このため、安定限界内で周回しているイオンビームは、安定限界外に移行し、出射用デフレクタ9を通って出射される。イオンビームの出射の際には、シンクロトロン8Aに設けられた四極電磁石31及び偏向電磁石32に導かれる電流が電流設定値に保持され、安定限界もほぼ一定に保持されている。開閉スイッチ29を開いて高周波印加装置26への高周波電力の印加を停止することによって、シンクロトロン8Aからのイオンビームの出射が停止される。
【0040】
シンクロトロン8Aから出射されたイオンビームは、ビーム輸送系3により照射装置4Aに輸送される。照射装置4Aは、図19に示すように、回転ガントリーに取り付けられたケーシング11内に、第1散乱体12、第2散乱体13、拡大ブラッグピーク形成装置であるRMW装置34及び線量モニタ35を有する。ボーラス17及び患者コリメータ16もケーシング11に取り付けられる。
【0041】
RMW装置34は、RMW(回転体)36、RMW36を回転させる回転装置(例えば、モータ)37、及びRMW36の回転位相(回転角度)を検出する角度計38を有している。図20に示すように、RMW36は、複数の羽根部(本実施例では3枚)39、回転軸40、及び円筒部材41を有する。円筒部材41は回転軸40と同心円状に配置される。回転軸40に取り付けられた複数の羽根部39(本実施形態では羽根部39A,39B,39Cの3つ)がRMW36の半径方向に伸びている。これらの羽根部39の外側の端部は円筒部材41に取り付けられる。羽根部39の周方向における幅は、円筒部材41側の端部で回転軸40側の端部よりも広くなっている。RMW36の周方向における羽根部39の相互間には、それぞれ開口42が形成される。各羽根部39は、RMW36の周方向(回転方向)において階段状に配置された複数の平面領域(段部)43を有しており、回転軸40の軸方向(ビーム軸mの方向)におけるRMW36の底面から各平面領域43までの各厚みが異なっている。1つの平面領域43に対するその厚みを、平面領域部分の厚みという。すなわち、羽根部39は、周方向で羽根部39の両側に位置する開口42にそれぞれ隣接する各平面領域43から、ビーム軸mの方向において最も厚みの厚い頂部44に位置する平面領域43に向かって、各平面領域部分の厚みが階段状に増加している。各平面領域43は、回転軸40から円筒部材41に向かって延びている。1つのRMW36において、3枚の羽根部39の相互間に位置する開口42は3つ存在する。
【0042】
回転軸40は、ケーシング11に設けられた支持部材45に着脱自在に取り付けられる。回転軸40は軸方向に貫通する貫通孔46を形成している。支持部材45に取り付けられた回転装置30の回転軸30Aが、貫通孔46に噛み合わされる。角度計38も支持部材45に取り付けられる。
【0043】
なお、RMW36としては散乱体を一体的に取り付けたもの(例えばホイールのビームが当たる位置全体に散乱体を張り巡らしたもの等)を用いてもよい。また、厚さ分布の大きい部分と小さい部分の散乱量の違いを補償するための補償器を取り付けたものを用いてもよい。
【0044】
本実施形態の粒子線出射装置1Aは、RMW36の回転角度に応じてイオンビーム発生装置2からのイオンビームの出射ON/OFFを制御することにより、複数のSOBPを形成することができる。以下、この原理を図21乃至図25を用いて説明する。なお、理解を容易とするために、ここではまず比較対象として線量一様な単一のSOBPを形成する場合について説明する。
【0045】
イオンビームがRMW36の開口42を通過したときは、ビームエネルギーは減衰しないためブラッグピークが体表面から深い第1の位置に形成される。羽根部39のうち最も厚みが厚くなる頂部44に位置する平面領域43をイオンビームが通過したときは、ビームエネルギーが最も大きく減衰されてブラックピークが体表面近くの浅い第2の位置に形成される。イオンビームが開口42と頂部44の間に位置する平面領域43を通過したときは、その平面領域43が位置する部分の厚みに応じてビームエネルギーが減衰するため、ブラッグピークは第1位置と第2位置の間に存在する第3の位置に形成される。したがって、図21及び図22におけるケースaのように、RMW36の周方向において、360°の全回転角度領域において常にビームONである場合には、RMW36の回転によりブラッグピークは第1位置と第2位置との間で周期的に変動する。この結果、ケースaは、時間積分で見ると、図23に示す深さ方向の線量分布aのように体表面近くから深い位置に至る比較的広いSOBPを得ることができる。「ビームON」は、イオンビームがシンクロトロン8Aから出射されてRMW36を通過し照射装置4Aから出射される状態を意味する。これに対し、「ビームOFF」は、イオンビームがシンクロトロン8Aから出射されず照射装置4Aから出射されない状態を意味する。
【0046】
図21及び図22におけるケースbは、RMW36の周方向において、各羽根部39の比較的厚い領域(頂部44付近)ではビームOFFとし、これ以外の回転角度領域ではビームONとする。ケースbは、体表面近くの浅い部分で生じるブラッグピークがなくなるため、図23に示す深さ方向の線量分布bのように線量分布aよりもフラット部分が狭くなったSOBPが形成される。
【0047】
図21及び図22におけるケースcは、RMW36の周方向において、開口42及び開口42付近の各羽根部39の厚みが比較的薄い領域にてビームONとし、これら以外の回転角度領域ではビームOFFとする。ケースcは、全体にビームエネルギーの減衰量が少ないため、体表面から深い位置にブラッグピークが形成される。このため、ケースcは、図23に示す深さ方向の線量分布cのように線量分布bよりもさらにフラット部分が狭くなったSOBPが形成される。
【0048】
次に、本実施形態のイオンビームの出射ON/OFF制御を図24及び図25を用いて説明する。本実施形態では、図に示すように、ビーム出射のON/OFFをより細かに制御する。ここでは、図22に示すケースaに比べ、羽根部39の厚みが中程度である領域のビームをOFFとして当該領域のビームON比率が相対的に小さくなるように制御する。その結果、体内における中程度の深さでの線量が低下し、図25に示すように、互いにほぼ同線量である2つのSOBPが形成される。
【0049】
本実施形態におけるRMW36の回転時におけるイオンビームの出射ON/OFF制御について、具体的に説明する。「イオンビームの出射ON」はシンクロトロン8Aからイオンビームの出射を開始することであり、「イオンビームの出射OFF」はシンクロトロン8Aからのイオンビームの出射を停止することである。まず、X線CT装置(図示せず)で患者5の患部18付近の断層撮影を行う。医者は、得られた断層像を用いて診断を行い、患部18の位置及びサイズを把握すると共に、イオンビームの照射方向、最大照射深さ等を定めて治療計画装置47に入力する。治療計画装置47は、治療計画ソフトによって、入力されたイオンビームの照射方向、最大照射深さ等に基づき、治療に必要なSOBP、照射野サイズ及び患部18に対する目標線量等を算出する。さらに、治療計画装置47は、治療計画ソフトによって、各種運転パラメータ(イオンビームをシンクロトロン8Aから出射する時のエネルギー(ビームエネルギー)、回転ガントリー角度、及びイオンビームの出射ON/OFF時におけるRMW36の各回転角度)を算出すると共に、治療に適切な周方向の厚さ分布及び角度幅を有するRMW36を選定する。治療計画装置47によって算出されたビームエネルギー、SOBP、照射野サイズ、回転角度及び照射線量等の各種の治療計画情報が、粒子線出射装置1Aの中央制御装置48に入力され、中央制御装置48の記憶装置(図示せず)に記憶される。
【0050】
各種の治療計画情報は、治療計画装置47の表示装置及び粒子線出射装置1Aの制御室内に設置された表示装置に表示される。治療を受ける患者5に対するRMW36、ボーラス17及び患者コリメータ16が、作業員によって、照射装置4Aのケーシング11内に図19に示すように設置される。
【0051】
照射制御装置49は、中央制御装置48から、設定値となる治療計画情報であるRMW36の各回転角度、目標線量及び回転ガントリー角度等の必要な治療計画情報を入力し、照射制御装置49の記憶装置(図示せず)に記憶する。ガントリー制御装置(図示せず)は、照射制御装置49より回転ガントリー角度情報を入力し、前述したように照射装置4Aのビーム経路が患部18を向くように、回転ガントリー角度情報に基づいて回転ガントリーを回転させる。中央制御装置48は、患者5に対するビームエネルギー情報に基づいてイオンビーム発生装置2及びビーム輸送系3の各電磁石に導く電流の制御指令(電流設定値)を設定する。電磁石電源制御装置(図示せず)は、それらの電流設定値に基づいて該当する電磁石電源を制御し、イオンビーム発生装置2及びビーム輸送系3の各電磁石に供給する励磁電流の電流値を調節する。これにより、イオンビーム発生装置2及びビーム輸送系3にイオンビームを導く準備が完了する。電磁石電源制御装置は中央制御装置48に接続されている。
【0052】
シンクロトロン8Aは、前段加速器7からのイオンビームの入射、イオンビームの加速、イオンビームの出射、及び減速を繰り返して運転される。設定エネルギーであるビームエネルギーまでイオンビームが加速されると、イオンビームの加速が終了し、イオンビームがシンクロトロン8Aから出射可能な状態になる。イオンビームの加速終了情報は、シンクロトロン8Aの電磁石等の状態をセンサ(図示せず)で監視している電磁石電源制御装置から中央制御装置48に伝えられる。
【0053】
粒子線出射装置1Aにおける前述した複数のSOBP形成のためのイオンビームの出射ON/OFFに係る制御を、図24及び図26を用いて説明する。照射制御装置49は、出射ON/OFFの制御を行うに際して、回転角度の設定値である回転角度α1〜α6(図24)を、予め中央制御装置48から入力している。回転角度α1は基準線(羽根部39の最初の端部)から最初にビーム出射ONとする点までの角度(ここでは0°)であり、回転角度α2は基準線から最初にビーム出射OFFとするまでの角度であり、回転角度α3は基準線から次にビーム出射ONとするまでの角度であり、回転角度α4は基準線から次にビーム出射OFFとするまでの角度であり、後の回転角度α5及びα6も同様である。回転角度α1〜α6は、基準線がビーム軸mに位置するときを基準にした角度を示している。
【0054】
照射制御装置49は、図26に示す制御フローに基づいてイオンビームの出射ON/OFFに係る制御を実行する。まず、加速器(シンクロトロン8A)の加速終了信号(イオンビームが出射可能な状態になったことを示す信号)を入力する(ステップ51)。この加速終了信号は中央制御装置48から入力される。回転装置30に回転開始信号を出力する(ステップ52)。回転装置30は、照射制御装置49から出力された駆動信号に基づいて回転される。回転装置30の回転力は回転軸30Aを介して回転軸40に伝えられ、RMW36が回転される。回転角度の計測値が回転角度の第1設定値と一致するかが判定される(ステップ53)。角度計38で計測されたRMW36の回転角度の計測値は、照射制御装置49に入力される。この計測値が出射開始信号を出力するための回転角度の第1設定値(回転角度α1,α3及びα5のいずれか)と一致するかが判定される。回転角度の計測値が第1設定値と一致した場合は、出射開始信号が出力される(ステップ54)。この出射開始信号によって、開閉スイッチ29が閉じられる。高周波印加装置26より高周波が周回しているイオンビームに印加されるため、イオンビームがシンクロトロン8Aから出射される。このイオンビームは、照射装置4Aに輸送される。イオンビームは、照射装置4A内で回転しているRMW36等を通過してビーム軸mに沿って照射装置4Aより出射され、患部18に照射される。
【0055】
患部18に照射された線量が目標線量に到達したかが判定される(ステップ55)。また、回転角度の計測値が回転角度の第2設定値と一致するかが判定される(ステップ56)。線量モニタ35によって測定された患部18に照射される線量、及び回転角度の計測値は、常に照射制御装置49に入力されている。ステップ55においては、線量計測値の累積値が目標線量になったかが判定される。この判定結果が「YES」の場合には、ステップ56の処理に優先してステップ60の処理が実行され、出射停止信号が出力される。このビーム出射停止信号によって、開閉スイッチ29が開き、高周波印加装置26への高周波の供給が停止される。このため、シンクロトロン8Aからのイオンビームの出射が停止される。治療用ベッド6上の患者5に対するイオンビームの照射が終了する。回転装置30に停止信号を出力する(ステップ61)。回転装置30の回転が停止し、RMW36の回転も停止する。
【0056】
ステップ55の判定が「NO」である場合には、ステップ56の処理が実行される。ステップ56において、回転角度の計測値が出射停止信号を出力するための回転角度の第2設定値(回転角度α2,α4及びα6のいずれか)と一致したと判定された場合には、出射停止信号が出力される(ステップ57)。出射停止信号の出力により、上記したように開閉スイッチ29が開き、シンクロトロン8Aからのイオンビームの出射が停止される。ステップ54の出射開始信号の出力からステップ57の出射停止信号の出力までの期間が、ビームONの期間に相当する。
【0057】
ステップ58で、再度、患部18に照射された線量が目標線量に到達したかが判定される。この判定結果が「NO」の場合には、ステップ59の処理が実行される。すなわち、上記したビームONの期間が終了した後、シンクロトロン8A内にイオンビームが十分に存在するかを判定する。このイオンビームの存在量(イオンビームの電流密度)は、電磁石電源制御装置がシンクロトロン8Aに設けられたセンサ(図示せず)の計測値を基に監視している。イオンビームの電流密度の計測値は、中央制御装置48を介して照射制御装置49に入力されている。ステップ59の判定は、電流密度の計測値を用いて行われる。判定結果が「YES」の場合には、ステップ53〜58の処理が実行される。ステップ53〜58の繰り返し処理時に、ステップ55または58で、線量計測値の累積値が目標線量になったと判定されると、ステップ61の処理が行われて患者5へのイオンビームの照射は終了する。
【0058】
ステップ59の判定が「NO」の場合には、ステップ51からの処理が実行される。すなわち、シンクロトロン8A内を周回しているイオンビームの電流密度が低下してイオンビームの出射が不可能な場合には、シンクロトロン8Aを減速させる。電磁石電源制御装置がシンクロトロン8A及びビーム輸送系3等に設けられた電磁石に供給する電流値を低下させる。それらの電磁石に供給される電流値がイオンビームの入射状態に保持される。イオンビームが前段加速器7からシンクロトロン8Aに入射される。このイオンビームは前述のようにビームエネルギーになるまで加速される。イオンビームの加速終了後にステップ51からの処理が、照射制御装置49で実行される。
【0059】
以上のように構成される本実施形態によれば、複数のSOBPを形成することが可能であるので、実施形態1と同様に治療時間を短縮することができる。また、照射不要部分の被爆量を低減することができる。
【0060】
なお、以上では互いに線量がほぼ同等であるSOBPを複数形成する場合を例にとって説明したが、線量の異なるSOBPを複数形成するようにしてもよい。この場合に行うイオンビームの出射ON/OFFに係る制御を図27及び図28を用いて説明する。図に示すように、本変形例4では図25に示す実施形態2の制御に比べ、羽根部39の厚みの厚い領域(頂部44付近)におけるビームOFFを増加させて当該領域のビームON比率が相対的に小さくなるように制御する。その結果、体表面に近い浅い位置のSOBP2については線量が低下し、図28に示すように、線量の異なる2つのSOBPが形成される。
【0061】
本変形例4によれば、上記実施形態2と同様の効果を得ることができる上に、例えば異なる臓器に転移したがん等、酸素増感比の差異等により放射線感受性の異なる複数の患部に対してであっても、各患部に応じた適切な線量の照射を行うことができる。
【0062】
また、以上では2つ以上の複数のSOBPを形成する場合を例にとって説明したが、部分的に線量の異なる単一のSOBPを形成するようにしてもよい。この場合に行うイオンビームの出射ON/OFFに係る制御を図29及び図30を用いて説明する。図に示すように、本変形例5では図22に示すケースaに比べ、羽根部39の厚みが厚い領域及び厚みが薄い領域におけるビームOFFを増加させて当該領域におけるビームONの比率が相対的に小さくなるように制御する。その結果、図30に示すように、部分的に線量の異なるSOBP(深さ方向両端部の線量が低いSOBP)が形成される。
【0063】
本変形例5によれば、例えば酸素増感比の差異等により外側と内側で放射線感受性の異なる患部に対し、一度の照射で患部の内外に対して各部分に応じた適切な線量の照射を行うことができる。したがって、治療時間を短縮することができる。
【0064】
またさらに、以上では単門照射の場合を例にとって説明したが、多門照射を行うことを前提にビームの出射のON/OFFを制御するようにしてもよい。この場合に行うイオンビームの出射ON/OFFに係る制御を図31及び図32を用いて説明する。なお、ここでは説明を容易とするために、対向2門照射(対向する2方向から照射)により線量一様な単一のSOBPを形成する場合を例にして説明する。図に示すように、本変形例6では図22に示すケースaに比べ、厚みの厚い領域ほどビームOFFを増加させ、全体的に厚みが薄い領域ほどビームONの比率が大きくなるように制御する。その結果、図32に示すように、深さ方向における最深部近傍にピークを有し、体表面に近くなるにつれ線量が徐々に小さくなる線量分布が形成され、対向2門照射を行うことによって、重ねあわせによりSOBP以外の部分の線量が低減した線量分布が形成される。
【0065】
本変形例6によれば、先の図17に示す単純に線量一様なSOBPが形成される照射を対向2門から行った場合に重ねあわせにより形成される線量分布に比べ、SOBP以外の部分の線量が低減した線量分布が得られ、患部18以外の照射不要部分の被爆量を低減することができる。そして、ここでは線量一様な1つのSOBPを形成する場合を例にして説明したが、これを前述した実施形態2及び変形例4,5に適用し、多門照射を考慮に入れたビームON/OFF制御を行うことにより、SOBP以外の部分の線量を低減しつつ、複数のSOBP、又は部分的に線量の異なるSOBPを形成することが可能となる。なお、ここでは対向2門照射を行う場合を例にとって説明したが、さらに照射方向を増やした場合にも適用可能である。
【0066】
(実施形態3)
本実施形態は、上述の実施形態2ではRMW36の回転角度に応じてイオンビーム発生装置2からのイオンビームの出射ON/OFFを制御することにより、複数のSOBPを形成するようにしたのに対し、RMW36の回転角度に応じてイオンビームの量を制御することにより複数のSOBPを形成するようにしたものである。
【0067】
図33に本実施形態の粒子線出射装置1Bを示す。この粒子線出射装置1Bが実施形態2の粒子線出射装置1Aと異なる点は、第1高周波電源28の高周波出力を制御する高周波出力制御装置(ビーム量調整装置)62を備える点、及び照射制御装置49の代わりに照射制御装置(制御装置)49Aを備える点である。粒子線出射装置1Bは、RMW36の回転角度に応じてイオンビーム発生装置2から出射されるビーム量を制御することにより、複数のSOBPを形成することができる。以下、このビーム量に係る制御について説明する。
【0068】
シンクロトロン8Aから出射されるイオンビームの量はビーム電流値として検出される。このビーム電流値は、第1高周波電源28から高周波印加装置26を介して周回するイオンビームに印加される高周波出力の大きさによって決定される。本実施形態では、治療計画装置47によって算出されたビームエネルギー、SOBP、照射野サイズ、回転角度及び照射線量等の各種の治療計画情報に、上記SOBPを得るために治療計画ソフトによって算出されたRMW36の回転角度に応じたビーム電流値が含まれる。この治療計画情報は、粒子線出射装置1Bの中央制御装置48に入力され、中央制御装置48の記憶装置(図示せず)に記憶される。
【0069】
照射制御装置49Aは、中央制御装置48から、RMW36の回転角度に応じたビーム電流値を含む治療計画情報を入力し、照射制御装置49Aの記憶装置(図示せず)に記憶する。治療時には、角度計38で計測されたRMW36の回転角度の計測値が照射制御装置49Aに入力され、照射制御装置49Aは記憶装置に記憶したRMW36の回転角度に応じたビーム電流値に基づき、入力されたRMW36の回転角度に応じたビーム電流値を設定し、高周波出力制御装置62に出力する。
【0070】
高周波出力制御装置62の記憶装置(図示せず)には、各ビーム電流値に対応して高周波出力が設定された高周波出力制御テーブルが予め記憶されている。高周波出力制御装置62は、記憶装置から読み出した高周波出力制御テーブルに基づき、入力されたビーム電流値に応じた高周波出力を設定し、その設定値となるように第1高周波電源28を制御する。これにより、第1高周波電源28から高周波印加装置26を介して周回するイオンビームに高周波出力が印加され、治療計画情報に基づいた量のイオンビームがシンクロトロン8Aから出射される。
【0071】
以上のようにして、RMW36の回転角度に応じてイオンビーム発生装置2からのビーム量を制御することにより、複数のSOBPを形成することができる。以下、この原理を説明する。なお、理解を容易とするために、比較対象としてまず図34に線量一様な単一のSOBPを形成する場合のビーム量(ビーム電流)の制御の一例を示す。ここでは、RMW36の羽根部39の厚みの厚い領域ではビーム量を相対的に減少させ、羽根部39の厚みが中程度〜薄い領域ではビーム量を相対的に増加させるように制御する。その結果、図35に示すような線量が一様な単一のSOBPが形成される。
【0072】
次に、本実施形態のビーム量に係る制御を図36及び図37を用いて説明する。ここでは、図34に示す単一のSOBPを形成する場合のビーム量制御に比べ、羽根部39の厚みが厚い領域におけるビーム量を相対的に増大させ、かつ羽根部39の厚みが中程度の領域におけるビーム量が減少するように制御する。その結果、患者体内における中程度の深さでの線量が低下すると共に体表面に近い浅い部分での線量が増加し、図37に示すように互いにほぼ同線量である2つのSOBPが形成される。
【0073】
本実施形態によれば、このように複数のSOBPを形成することが可能であるので、実施形態1及び実施形態2と同様に治療時間を短縮することができる。また、照射不要部分の被爆量を低減することができる。
【0074】
なお、以上では互いに線量がほぼ同等であるSOBPを複数形成する場合を例にとって説明したが、線量の異なるSOBPを複数形成するようにしてもよい。この場合に行うビーム量に係る制御を図38及び図39を用いて説明する。図に示すように、本変形例7では図36に示す実施形態3のビーム量制御に比べ、羽根部39の厚みの厚い領域におけるビーム量が相対的に減少するように制御し、また羽根部39の厚みの薄い領域におけるビーム量が相対的に増加するように制御する。その結果、深い方に位置するSOBP1については線量が増加すると共に、体表面に近い浅い位置のSOBP2については線量が低下し、図39に示すように、線量の異なる2つのSOBPが形成される。
【0075】
本変形例7によれば、上記実施形態3と同様の効果を得ることができる上に、例えば異なる臓器に転移したがん等、酸素増感比の差異等により放射線感受性の異なる複数の患部に対してであっても、各患部に応じた適切な線量の照射を行うことができる。
【0076】
また、以上では2つ以上の複数のSOBPを形成する場合を例にとって説明したが、部分的に線量の異なる単一のSOBPを形成するようにしてもよい。この場合に行うビーム量に係る制御を図40及び図41を用いて説明する。図に示すように、本変形例8では図34に示す単一のSOBPを形成する場合のビーム量制御に比べ、羽根部39の厚みが中程度である領域におけるビーム量が相対的に増加するように制御する。その結果、図41に示すように患者体内における中程度の深さ部分の線量が増加し、深さ方向両端部の線量が低下した部分的に線量の異なるSOBPが形成される。
【0077】
本変形例8によれば、例えば酸素増感比の差異等により外側と内側で放射線感受性の異なる患部に対し、一度の照射で患部の内外に対して各部分に応じた適切な線量の照射を行うことができる。したがって、治療時間を短縮することができる。
【0078】
またさらに、以上では単門照射の場合を例にとって説明したが、多門照射を行うことを前提にビーム量を制御するようにしてもよい。この場合に行うビーム量に係る制御を図42及び図43を用いて説明する。なお、ここでは説明を容易とするために、対向2門照射(対向する2方向から照射)により線量一様な単一のSOBPを形成する場合を例にして説明する。図に示すように、本変形例9では図34に示す単一のSOBPを形成する場合のビーム量制御に比べ、羽根部39の厚みのない領域(開口42部分)におけるビーム量を大幅に増加させると共に、羽根部39の厚みの厚い領域ほどビーム量を減少させて、全体的に厚みが薄くなるにつれてビーム量が大きくなるように制御する。その結果、図43に示すように、最深部近傍にピークを有し、体表面に近くなるにつれ徐々に線量が小さくなる線量分布が形成され、対向2門照射を行うことによって、重ねあわせによりSOBP以外の部分の線量が低減した線量分布が形成される。
【0079】
本変形例9によれば、先の図17に示す単純に線量一様なSOBPが形成される照射を対向2門から行った場合の線量分布に比べ、SOBP以外の部分の線量が低減した線量分布が得られ、患部18以外の照射不要部分の被爆量を低減することができる。そして、ここでは線量一様な1つのSOBPを形成する場合を例にして説明したが、これを前述した実施形態3及び変形例7,8に適用し、多門照射を考慮に入れたビーム量制御を行うことにより、SOBP以外の部分の線量を低減しつつ、複数のSOBP、又は部分的に線量の異なるSOBPを形成することが可能となる。なお、ここでは対向2門照射を行う場合を例にとって説明したが、さらに照射方向を増やした場合にも適用可能である。
【0080】
(実施形態4)
本実施形態は、イオンビーム発生装置2から出射されるイオンビームの量及びイオンビームのエネルギーを調整することにより、患者の患部の深さ方向に所望の線量分布を得るものである。
【0081】
図44に本実施形態の粒子線出射装置1Cを示す。この粒子線出射装置1Cが実施形態3の粒子線出射装置1Bと異なる点は、高周波出力制御装置62の代わりに高周波加速空胴27に印加される高周波出力の大きさを制御する高周波出力制御装置(ビームエネルギー調整装置)63を有する点、リッジフィルタやRMW等の拡大SOBP形成装置を備えない照射装置4B(図45参照)を有する点、及び照射制御装置49Aの代わりに照射制御装置(制御装置)49Bを備えた点である。粒子線出射装置1Cは、照射装置4Bから患者5に照射される照射線量及びシンクロトロン8Aから出射されるイオンビームのエネルギーを制御する(以下、インテンシティモジュレーション制御という)ことにより、複数のSOBPを形成することができる。以下、この制御について説明する。
【0082】
シンクロトロン8Aから出射されるイオンビームの出射エネルギーは、高周波加速空胴27内に発生する電磁場の強度によって左右され、この電磁場の強度は第2高周波電源(図示せず)によって高周波加速空胴27に印加される高周波電力の大きさによって決定される。本実施形態では、治療計画装置47によって算出されたビームエネルギー、SOBP、照射野サイズ、回転角度及び照射線量等の各種の治療計画情報に、上記SOBPを得るために治療計画ソフトによって算出されたビームエネルギー−線量値テーブル(例えば110MeV〜200MeVの範囲においてビームエネルギーを10MeVずつ変化させた場合の各ビームエネルギーに応じた線量値)が含まれる。ビームエネルギー−線量値テーブルにおける各ビームエネルギーは、患部18を深さ方向に適宜の数の層に分けたときにおけるそれぞれの層に対応するものである。例えば上記の例は、患部18を深さ方向に10層に分けて照射する場合であり、200MeVは最下層、110MeVは最上層を照射する際のビームエネルギーに相当する。ビームエネルギー−線量値テーブルを含む治療計画情報は、粒子線出射装置1Cの中央制御装置48に入力され、中央制御装置48の記憶装置(図示せず)に記憶される。
【0083】
照射制御装置49Bは、中央制御装置48から、ビームエネルギー−線量値テーブルを含む治療計画情報を入力し、照射制御装置49Bの記憶装置(図示せず)に記憶する。以下、治療照射時における照射制御装置49Bの制御を説明する。
【0084】
まず、記憶装置から読み出したビームエネルギー−線量値テーブルに基づき、第1のビームエネルギー設定値(最下層に対応するエネルギー設定値)を高周波出力制御装置63に出力する。高周波出力制御装置63の記憶装置(図示せず)には、各ビームエネルギー値に応じて高周波出力が設定された高周波出力制御テーブルが予め記憶されている。高周波出力制御装置63は、記憶装置から読み出した高周波出力制御テーブルに基づき、入力されたビームエネルギー値に応じた高周波出力を設定し、その設定値となるように第2高周波電源を制御する。これにより高周波加速空胴27に所定の強度の電磁場が発生し、シンクロトロン8A内を周回するイオンビームは第1のビームエネルギー設定値となるまで加速される。
【0085】
次に、照射制御装置49Bはビーム出射信号を出力して開閉スイッチ29を閉じ、シンクロトロン8Aから設定エネルギーまで加速されたイオンビームを出射させる。これにより、患部18の最下層の照射が開始される。照射制御装置49Bは、ビーム照射中には常時線量モニタ35の検出値を入力する。この入力した検出値が、ビームエネルギー−線量値テーブルにおいて最初のビームエネルギーに対応して設定された線量値となったら、ビーム出射停止信号を出力して開閉スイッチ29を開き、シンクロトロン8Aからのビームの出射を停止させる。このとき、シンクロトロン8A内を周回する残ビームは減速される。
【0086】
照射制御装置49Bはビームエネルギー−線量値テーブルに基づき、第2のビームエネルギー設定値を高周波出力制御装置63に出力する。例えば第1のビームエネルギー設定値が200MeVであり、10MeVずつエネルギーを変更させる場合であれば、第2のビームエネルギー設定値は190MeVとなる。高周波出力制御装置63は、入力されたビームエネルギー値に応じた高周波出力を設定し、その設定値となるように第2高周波電源を制御する。これによりシンクロトロン8A内を周回するイオンビームは第2のエネルギー設定値となるまで加速される。第2のエネルギー設定値まで加速されたイオンビームは出射され、最下層の1つ上の第2層において照射される。そして、線量モニタ35の検出値が設定値となったら出射が停止される。その後も同様の制御が行われる。
【0087】
照射が患部18の最上層まで進み、線量モニタ35の検出値がビームエネルギー−線量値テーブルにおいて最上層のビームエネルギーに対応して設定された線量値となったら、ビーム出射停止信号を出力して開閉スイッチ29を開き、シンクロトロン8Aからのビームの出射を停止させる。これにより、治療照射を終了する。
【0088】
本実施形態では、以上のようにしてインテンシティモジュレーション制御を行うことにより、複数のSOBPを形成することができる。以下、この原理を説明する。なお、理解を容易とするために、比較対象としてまず図46に線量一様な単一のSOBPを形成する場合のインテンシティモジュレーション制御の一例を示す。なお、この図46では、上述したインテンシティモジュレーション制御を行った結果、各エネルギーにおける照射線量が満了するまでに要した照射時間を横軸に経過時間をとって示している(以下も同様)。このような照射時間となるように制御を行う結果、図47に示すような線量が一様な単一のSOBPが形成される。
【0089】
次に、本実施形態のビーム量に係る制御を図48及び図49を用いて説明する。ここでは、図46に示す単一のSOBPを形成する場合に比べ、ビームエネルギーの小さい領域における照射時間を相対的に増大させ、かつビームエネルギーが中程度の大きさ(ここでは170,180MeV)における照射を停止して当該領域における線量を減少させるように制御を行う。その結果、患者体内における中程度の深さでの線量が低下すると共に体表面に近い浅い部分での線量が増加し、図49に示すように互いにほぼ同線量である2つのSOBPが形成される。
【0090】
本実施形態によれば、このように複数のSOBPを形成することが可能であるので、実施形態1乃至実施形態3と同様に治療時間を短縮することができる。また、照射不要部分の被爆量を低減することができる。
【0091】
なお、以上では互いに線量がほぼ同等であるSOBPを複数形成する場合を例にとって説明したが、線量の異なるSOBPを複数形成するようにしてもよい。この場合に行うインテンシティモジュレーション制御を図50及び図51を用いて説明する。図に示すように、本変形例10では図48に示す実施形態4の制御に比べ、ビームエネルギーの小さい領域(ここでは120〜140MeV)における照射時間が相対的に減少するように制御する。その結果、体表面に近い浅い位置のSOBP2については線量が低下し、図51に示すように、線量の異なる2つのSOBPが形成される。
【0092】
本変形例10によれば、上記実施形態4と同様の効果を得ることができる上に、例えば異なる臓器に転移したがん等、酸素増感比の差異等により放射線感受性の異なる複数の患部に対してであっても、各患部に応じた適切な線量の照射を行うことができる。
【0093】
また、以上では2つ以上の複数のSOBPを形成する場合を例にとって説明したが、部分的に線量の異なる単一のSOBPを形成するようにしてもよい。この場合に行うインテンシティモジュレーション制御を図52及び図53を用いて説明する。図に示すように、本変形例11では図46に示す線量一様な単一のSOBPを形成する場合の制御に比べ、ビームエネルギーが大きい領域(ここでは200MeV)及びビームエネルギーが小さい領域(ここでは120〜140MeV)における照射時間が相対的に減少するように制御する。その結果、図53に示すように深さ方向における両側の線量が低下した、部分的に線量の異なるSOBPが形成される。
【0094】
本変形例11によれば、例えば酸素増感比の差異等により外側と内側で放射線感受性の異なる患部に対し、一度の照射で患部の内外に対して各部分に応じた適切な線量の照射を行うことができる。したがって、治療時間を短縮することができる。
【0095】
またさらに、以上では単門照射の場合を例にとって説明したが、多門照射を行うことを前提にインテンシティモジュレーション制御を行うようにしてもよい。この場合に行う制御を図54及び図55を用いて説明する。なお、ここでは説明を容易とするために、対向2門照射(対向する2方向から照射)により線量一様な単一のSOBPを形成する場合を例にして説明する。図に示すように、本変形例12では図46に示す単一のSOBPを形成する場合の制御に比べ、最もビームエネルギーが大きい(200MeV)領域での照射時間を大幅に増加させ、その他の領域における照射時間を全体的に減少させると共にビームエネルギーが小さくなるにつれて照射時間が徐々に短くなるように制御する。その結果、図55に示すように、最深部近傍にピークを有し、体表面に近づくにつれ徐々に線量が小さくなる線量分布が形成され、対向2門照射を行うことによって、重ねあわせによりSOBP以外の部分の線量が低減した線量分布が形成される。
【0096】
本変形例12によれば、先の図17に示す単純に線量一様なSOBPが形成される照射を対向2門から行った場合の線量分布に比べ、SOBP以外の部分の線量が低減した線量分布が得られ、患部18以外の照射不要部分の被爆量を低減することができる。そして、ここでは線量一様な単一のSOBPを形成する場合を例にして説明したが、これを前述した実施形態4及び変形例10,11に適用し、多門照射を考慮に入れたインテンシティモジュレーション制御を行うことにより、SOBP以外の部分の線量を低減しつつ、複数のSOBP、又は部分的に線量の異なるSOBPを形成することが可能となる。なお、ここでは対向2門照射を行う場合を例にとって説明したが、さらに照射方向を増やした場合にも適用可能である。
【0097】
なお、以上の実施形態4及び変形例10,11では、シンクロトロン8Aの高周波加速空洞27の電磁場の強度を調整することによりビームエネルギーの変更を行うようにしたが、これに限らず、例えば照射装置4Bに設けた飛程調整装置(ビームエネルギー調整装置)14(図45)等によりビームエネルギーを変更するようにしてもよい。この場合にも、同様の効果を得ることができる。
【0098】
(実施形態5)
図56に本実施形態の粒子線出射装置1Dを示す。この粒子線出射装置1Dが実施形態4の粒子線出射装置1Cと異なる点は、第1散乱体12及び第2散乱体13を備えた散乱体方式である照射装置4Bの代わりにスキャニング方式の照射装置4Cを備えた点、及び照射制御装置49Bの代わりに照射制御装置(第1制御装置、第2制御装置)49Cを備えた点である。
【0099】
照射装置4Cは、ビームを走査するための走査電磁石(ビーム走査装置)64,65、及び線量モニタ35を有する。走査電磁石64,65は、例えばビーム軸と垂直な平面上において互いに直交する方向(X方向、Y方向)にビームを偏向し照射位置をX方向およびY方向に動かすためのものである。ビーム輸送系3を経て逆U字状のビーム輸送装置10から照射装置4C内へ導入されたイオンビームは、走査電磁石64,65によって順次照射位置を走査され、患部18において高線量領域を形成するように照射される。照射装置4C内の走査電磁石64,65は、照射制御装置49Cによって制御される。
【0100】
以下、治療照射時における照射制御装置49Cの制御について説明する。
まず、記憶装置から読み出したビームエネルギー−線量値テーブルに基づき、患部18の最下層に対応する第1のビームエネルギー設定値を高周波出力制御装置63に出力する。高周波出力制御装置63は、入力されたビームエネルギー値に応じた高周波出力を設定し、その設定値となるように第2高周波電源を制御する。これにより高周波加速空胴27に所定の強度の電磁場が発生し、シンクロトロン8A内を周回するイオンビームは第1のビームエネルギー設定値となるまで加速される。
【0101】
次に、照射制御装置49Cはビーム出射信号を出力して開閉スイッチ29を閉じ、シンクロトロン8Aから設定エネルギーまで加速されたイオンビームを出射させる。これにより、患部18の最下層の照射が開始される。本実施形態では、最下層がさらに複数のスポットに分割され、各スポットについて必要線量が照射される。具体的には、照射制御装置49Cは、ビーム照射中には常時線量モニタ35の検出値を入力しており、第1のスポットにおける照射線量が満了したらビーム出射停止信号を出力して開閉スイッチ29を開き、シンクロトロン8Aからのビームの出射を停止させる。そして走査電磁石64,65に指令信号を出力して次の第2のスポットに対応した励磁電流とした上で、ビーム出射開始信号を出力して開閉スイッチ29を閉じ、シンクロトロン8Aからのビームの出射を開始させる。出射されたイオンビームは、走査電磁石64,65により走査され、第2のスポットに照射される。以上を繰り返し、最下層における各スポットの照射を行う。なお、各スポットごとの必要線量の合計は、ビームエネルギー−線量値テーブルにおいて最下層のビームエネルギーに対応して設定された線量となる。
【0102】
照射制御装置49Cは、積算線量カウンタ(図示せず)により線量モニタ35の検出値を積算する。この積算値がビームエネルギー−線量値テーブルにおいて最下層のビームエネルギーに対応して設定された線量値となったら、ビーム出射停止信号を出力して開閉スイッチ29を開き、シンクロトロン8Aからのビームの出射を停止させる。このとき、シンクロトロン8A内を周回する残ビームは減速される。
【0103】
その後、照射制御装置49Cはビームエネルギー−線量値テーブルに基づき、第2のビームエネルギー設定値を高周波出力制御装置63に出力する。高周波出力制御装置63は、入力されたビームエネルギー値に応じた高周波出力を設定し、その設定値となるように第2高周波電源を制御する。これによりシンクロトロン8A内を周回するイオンビームは第2のエネルギー設定値となるまで加速される。第2のエネルギー設定値まで加速されたイオンビームは出射され、最下層の上の第2層における各スポットに照射される。積算線量値が第2層のビームエネルギーに対応して設定された線量値となったら出射が停止される。その後も同様の制御が行われる。
【0104】
本実施形態では、以上のように、スキャニング方式の照射を行いつつ、前述した実施形態4のインテンシティモジュレーション制御と同様の制御を行う。これにより、図48〜図55で示した複数のSOBP、部分的に線量の異なるSOBP、多門照射を考慮に入れた線量分布を形成することができる。したがって、本実施形態によれば実施形態4と同様に治療時間の短縮及び照射不要部分の被爆量の低減効果を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0105】
【図1】本発明の実施形態1の粒子線出射装置の全体構成を示す図である。
【図2】図1に示す照射装置の内部構成を表す側断面図である。
【図3】線量一様な単一のSOBPを形成するための一般的なリッジフィルタの断面形状を模式的に示す図である。
【図4】図3に示すリッジフィルタを用いることにより形成されるSOBPを含む線量分布を示す図である。
【図5】本発明の実施形態1のリッジフィルタの断面形状を模式的に示す図である。
【図6】図5に示すリッジフィルタを用いることにより形成される複数のSOBPを含む線量分布を示す図である。
【図7】実施形態1により、1つの臓器中の複数箇所に転移したがん等である複数の患部に対して一度に照射を行うことができることを示す説明図である。
【図8】実施形態1により、脊椎等の重要臓器にまたがるがん等の患部に対して一度に照射を行うことができることを示す説明図である。
【図9】線量の異なる複数のSOBPを形成する場合である変形例1のリッジフィルタの断面形状を模式的に示す図である。
【図10】図9に示すリッジフィルタを用いることにより形成される線量の異なる複数のSOBPを含む線量分布を示す図である。
【図11】変形例1により、異なる臓器に転移したがん等である複数の患部に対して適切な線量の照射を行うことができることを示す説明図である。
【図12】部分的に線量の異なるSOBPを形成する場合である変形例2のリッジフィルタの断面形状を模式的に示す図である。
【図13】図12に示すリッジフィルタを用いることにより形成される部分的に線量の異なるSOBPを含む線量分布を示す図である。
【図14】変形例2により、外側と内側で放射線感受性の異なる患部に対して適切な線量の照射を行うことができることを示す説明図である。
【図15】多門照射による重ねあわせによりSOBP以外の部分の線量が低減した線量分布を形成させる場合である変形例3のリッジフィルタの断面形状を模式的に示す図である。
【図16】図15に示すリッジフィルタを用いることにより形成される線量分布を示す図である。
【図17】単純に一様な線量のSOBPが形成される照射を対向2門から行った場合に重ねあわせにより形成される線量分布を示す図である。
【図18】本発明の実施形態2の粒子線出射装置の全体構成を示す図である。
【図19】図18に示す照射装置の内部構成を表す側断面図である。
【図20】図19に示すRMWの全体構造を示す斜視図である。
【図21】幅の異なる3種類の線量一様な単一のSOBPを形成する場合におけるイオンビームの出射ON/OFF制御を説明するための図である。
【図22】幅の異なる3種類の線量一様な単一のSOBPを形成する場合におけるイオンビームの出射ON/OFF制御を説明するための図である。
【図23】図21及び図22に示すビーム出射ON/OFF制御を行うことにより形成される3種類のSOBPを含む線量分布図である。
【図24】本発明の実施形態2におけるビームON/OFFのタイミングをRMWの羽根部の厚さと対応させて示す図である。
【図25】図24に示すビームON/OFF制御を行うことにより得られる複数のSOBPを含む線量分布を示す図である。
【図26】照射制御装置により行われるイオンビームの出射ON/OFFに係る制御の制御フローである。
【図27】線量の異なる複数のSOBPを形成する場合である変形例4のビームON/OFFのタイミングをRMWの羽根部の厚さと対応させて示す図である。
【図28】図27に示すビームON/OFF制御を行うことにより得られる線量の異なる複数のSOBPを含む線量分布を示す図である。
【図29】部分的に線量の異なるSOBPを形成する場合である変形例5のビームON/OFFのタイミングをRMWの羽根部の厚さと対応させて示す図である。
【図30】図29に示すビームON/OFF制御を行うことにより得られる部分的に線量の異なるSOBPを含む線量分布を示す図である。
【図31】多門照射による重ねあわせによりSOBP以外の部分の線量が低減した線量分布を形成させる場合である変形例6のビームON/OFFのタイミングをRMWの羽根部の厚さと対応させて示す図である。
【図32】図31に示すビームON/OFF制御を行うことにより得られるSOBP以外の部分の線量が低減した線量分布を示す図である。
【図33】本発明の実施形態3の粒子線出射装置の全体構成を示す図である。
【図34】線量一様な単一のSOBPを形成する場合におけるイオンビームのビーム量の変化をRMWの羽根部の厚さと対応させて示す図である。
【図35】図34に示すビーム量制御を行うことにより得られる単一のSOBPを含む線量分布を示す図である。
【図36】本発明の実施形態3におけるイオンビームのビーム量の変化をRMWの羽根部の厚さと対応させて示す図である。
【図37】図36に示すビーム量制御を行うことにより得られる複数のSOBPを含む線量分布を示す図である。
【図38】線量の異なる複数のSOBPを形成する場合である変形例7におけるイオンビームのビーム量の変化をRMWの羽根部の厚さと対応させて示す図である。
【図39】図38に示すビーム量制御を行うことにより得られる線量の異なる複数のSOBPを含む線量分布を示す図である。
【図40】部分的に線量の異なるSOBPを形成する場合である変形例8のビーム量の変化をRMWの羽根部の厚さと対応させて示す図である。
【図41】図40に示すビーム量制御を行うことにより得られる部分的に線量の異なるSOBPを含む線量分布を示す図である。
【図42】多門照射による重ねあわせによりSOBP以外の部分の線量が低減した線量分布を形成させる場合である変形例9のビーム量の変化をRMWの羽根部の厚さと対応させて示す図である。
【図43】図42に示すビーム量制御を行うことにより得られるSOBP以外の部分の線量が低減した線量分布を示す図である。
【図44】本発明の実施形態4の粒子線出射装置の全体構成を示す図である。
【図45】図44に示す照射装置の内部構成を表す側断面図である。
【図46】線量一様な単一のSOBPを形成する場合における各ビームエネルギーでの照射時間を示すタイムチャートである。
【図47】図46に示すインテンシティモジュレーション制御を行うことにより得られる単一のSOBPを含む線量分布を示す図である。
【図48】本発明の実施形態4における各ビームエネルギーでの照射時間を示すタイムチャートである。
【図49】図48に示すインテンシティモジュレーション制御を行うことにより得られる複数のSOBPを含む線量分布を示す図である。
【図50】線量の異なる複数のSOBPを形成する場合である変形例10における各ビームエネルギーでの照射時間を示すタイムチャートである。
【図51】図50に示すインテンシティモジュレーション制御を行うことにより得られる線量の異なる複数のSOBPを含む線量分布を示す図である。
【図52】部分的に線量の異なるSOBPを形成する場合である変形例11における各ビームエネルギーでの照射時間を示すタイムチャートである。
【図53】図52に示すインテンシティモジュレーション制御を行うことにより得られる部分的に線量の異なるSOBPを含む線量分布を示す図である。
【図54】多門照射による重ねあわせによりSOBP以外の部分の線量が低減した線量分布を形成させる場合である変形例12における各ビームエネルギーでの照射時間を示すタイムチャートである。
【図55】図54に示すインテンシティモジュレーション制御を行うことにより得られるSOBP以外の部分の線量が低減した線量分布を示す図である。
【図56】本発明の実施形態5の粒子線出射装置の全体構成を示す図である。
【符号の説明】
【0106】
1 粒子線出射装置(荷電粒子ビーム出射装置)
1A 粒子線出射装置(荷電粒子ビーム出射装置)
1B 粒子線出射装置(荷電粒子ビーム出射装置)
1C 粒子線出射装置(荷電粒子ビーム出射装置)
1D 粒子線出射装置(荷電粒子ビーム出射装置)
2 イオンビーム発生装置(荷電粒子ビーム発生装置)
4 照射装置
4A〜4C 照射装置
5 患者(照射対象)
14 飛程調整装置(ビームエネルギー調整装置)
15 リッジフィルタ(拡大ブラッグピーク形成装置)
20 リッジフィルタ(拡大ブラッグピーク形成装置)
21 リッジフィルタ(拡大ブラッグピーク形成装置)
22 リッジフィルタ(拡大ブラッグピーク形成装置)
34 RMW装置(拡大ブラッグピーク形成装置)
35 線量モニタ(線量検出装置)
36 RMW(回転体)
49A 照射制御装置(制御装置)
49B 照射制御装置(制御装置)
49C 照射制御装置(第1制御装置、第2制御装置)
62 高周波出力制御装置(ビーム量調整装置)
63 高周波出力制御装置(ビームエネルギー調整装置)
64,65 走査電磁石(ビーム走査装置)
【技術分野】
【0001】
本発明は、陽子及び炭素イオン等のイオンビームを照射対象に対して出射する荷電粒子ビーム出射装置及び荷電粒子ビーム出射方法に関する。
【背景技術】
【0002】
癌などの患者の患部に陽子及び炭素イオン等のイオンビームを照射する治療方法が知られている。この治療に用いるイオンビーム出射装置は、イオンビーム発生装置、ビーム輸送系、及び照射装置を備えている。イオンビーム発生装置で加速されたイオンビームは、第1ビーム輸送系及び回転ガントリーに設けられた第2ビーム輸送系を経て回転ガントリーに設置された照射装置に達する。イオンビームは照射装置より出射されて患者の患部に照射される。イオンビーム発生装置としては、例えば、イオンビームを周回軌道に沿って周回させる手段、共鳴の安定限界の外側でイオンビームのベータトロン振動を共鳴状態にする手段、及びイオンビームを周回軌道から取り出す出射用デフレクターを備えたシンクロトロン(円形加速器)が知られている。
【0003】
イオンビームを用いた治療、例えば陽子ビームの患部への照射では、陽子ビームのエネルギーの大部分が、陽子が停止するときに放出される、すなわちブラッグピークが形成されるという特性を利用し、陽子ビームの入射エネルギーの選択により陽子を患部近傍で停止させてエネルギー(吸収線量)の大部分を患部の細胞にのみ与えるようにする。
【0004】
通常、患部は、患者の体表面からの深さ方向(イオンビームの進行方向でもあり、以下、単に深さ方向という)にある程度の厚みをもっている。その深さ方向における患部の厚み全域にわたってイオンビームを効果的に照射するためには、深さ方向においてある程度広いフラットな吸収線量範囲(拡大ブラッグピーク(spread-out Bragg peak)。以下、SOBPという。)を形成するように、イオンビームのエネルギーを調節しなければならない。
【0005】
SOBPを形成する手段の1つとして、ビーム進行方向と直角な方向の位置に応じて厚み成分が種々あるリッジフィルタがある(非特許文献1の2078頁、図31)。イオンビームがリッジフィルタの厚みの薄い部分を通過したときはビームエネルギーの減衰が少ないため、ブラッグピークが体内の深い位置に生じる。イオンビームが厚みの厚い部分を通過する際には、イオンビームのエネルギーの減衰度合いが大きくなり、患部の体表面に近い部分にブラックピークが形成される。このようなブラッグピークが形成される深さ方向の位置を空間的に変動させる結果、患部の深さ方向における線量分布が一様となり、SOBPを形成する。
【0006】
また、他のSOBPを形成する手段として、周方向に段階的に厚みが変化している複数の羽根部を回転軸の周囲に配置したレンジモジュレーション回転体(レンジモジュレーションホイール。以下、RMWという)がある(例えば、非特許文献1の2077頁、図30)。複数の羽根部は回転軸に取り付けられる。RMWは、隣り合う羽根部の相互間に貫通する開口を形成している。例えば、開口をイオンビームの経路(ビーム経路という)に位置させてRMWを回転させる。開口及び羽根部が交互にビーム経路を横切る。イオンビームが開口を通過したときはビームエネルギーが減衰しないため、ブラッグピークが体内の最も深い位置に生じる。イオンビームが羽根部を通過する際には、羽根部の厚みが厚い部分を通過するほど、このイオンビームのエネルギーの減衰度合いが大きくなり、患部の体表面に近い部分にブラックピークが形成される。RMWの回転によって、このようなブラッグピークが形成される深さ方向の位置が周期的に変動する結果、時間積分で見ると、深さ方向において比較的広くフラットなSOBPを得ることができる。
【0007】
その他のSOBPを形成する手段として、インテンシティモジュレーション(電流変調)という方法がある。これは、出射するイオンビームの量(以下、ビーム量という)及びイオンビームのエネルギー(以下、ビームエネルギーという)をコントロールすることにより、深さ方向に所望の線量分布を得る方法である。ビームエネルギーの制御は、例えばシンクロトロンの設定を変更する(又は照射装置内に設置されたビームエネルギー吸収体の厚みを変える)ことによって行われる。ビーム量については照射装置内に設置した線量モニタでカウントし、所定量に達したところで次のビームエネルギーに移行させる。したがって、患部における深さ方向線量分布が一様となるようにビーム量及びビームエネルギーを制御することで、深さ方向にフラットなSOBPを得ることができる。
【0008】
さらに他のSOBPを形成する手段として、走査電磁石によりイオンビームを患部領域内において走査させて照射するスキャニング方式と呼ばれるものがある(例えば、非特許文献1の2086頁、図45)。このスキャニング方式では、細いビームのビームエネルギーを変更することにより深さ方向の線量分布を、走査電磁石で平面方向のビーム位置を変更することにより平面方向の線量分布を調整し、すべてのビームの重ね合わせにより患部内における線量分布を均一にするものである。このスキャニング照射方式によっても、患部の深さ方向における一様なSOBPを得ることができる。
【0009】
【非特許文献1】レビュー オブ サイエンティフィック インスツルメンツ64巻8号(1993年8月)のページ2074〜2088、図30〜31,45(REVIEW OF SCIENTIFIC INSTRUMENTS VOLUME 64 NUMBER 8 (AUGUST 1993) P2074-2084 FIG.30-32)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
従来のSOBPを形成する手法では、患部の深さ方向において患部の厚み全域にわたって線量分布の均一化を図り、一様な線量分布を得る。しかしながら、体内における放射線感受性は酸素の有無等によりその部位によって異なり、がん等の患部はその発生箇所に応じた適切な照射線量があるため、例えば複数の臓器に転移したがん等に対しては、それぞれの臓器に応じた適切な線量にてそれぞれの患部の厚み全域にわたって照射する必要がある。したがって、深さ方向に一様な線量分布で照射する従来技術の手法では、患部ごとに個別に照射を行うしかなく、治療時間の長時間化を招いていた。また、1箇所にとどまる患部であっても例えば重要臓器(脊椎等)にまたがるがん等に対しては、従来技術の手法では、重要臓器への被爆を回避するためにその臓器の両側方向から患部に対して個別に照射を行うしかなく、この場合にも治療時間の長時間化を招いていた。
【0011】
本発明は、上記従来技術の問題に鑑みてなされたものであり、その目的は、治療時間を短縮することができる荷電粒子ビーム出射装置及び荷電粒子ビーム出射方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記した目的を達成する本発明の特徴は、荷電粒子ビーム発生装置から出射された荷電粒子ビームのエネルギーを調整して照射対象内に複数の拡大ブラッグピークを形成させることにある。照射対象内に複数の拡大ブラッグピークを形成することにより、複数の臓器に転移したがん等の複数の患部に対し一度の照射で各患部の厚み全域にわたって効果的な照射を行うことができる。また、脊椎等の重要臓器にまたがるがん等の患部に対しても、重要臓器の被爆を低減しつつ臓器の両側に位置する患部に対し一度の照射でその厚み全域にわたって効果的な照射を行うことができる。したがって、治療時間を短縮することができる。
【0013】
好ましくは、照射対象内に線量の異なる複数の拡大ブラッグピークを形成させるとよい。これにより、酸素増感比の差異等により放射線感受性の異なる複数の患部に対し、各患部に応じた適切な線量の照射を行うことができる。
【0014】
上記した目的を達成する本発明のもう1つの特徴は、荷電粒子ビーム発生装置から出射された荷電粒子ビームのエネルギーを調整して照射対象内に部分的に線量の異なる拡大ブラッグピークを形成させることにある。これにより、酸素増感比の差異等により部分的に放射線感受性の異なる患部に対し、一度の照射で各部分に応じた適切な線量の照射を行うことができる。したがって、治療時間を短縮することができる。
【0015】
好ましくは、多門照射による重ねあわせにより照射対象内における拡大ブラッグピーク以外の部分の線量が低減するように拡大ブラッグピークを形成させるとよい。これにより、照射対象内における照射不要部分の被爆量を低減することができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、治療時間を短縮することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明の好適な一実施形態である粒子線出射装置を、図面を用いて説明する。
【0018】
(実施形態1)
本実施形態の荷電粒子ビーム出射装置である粒子線出射装置1は、図1に示すように、イオンビーム発生装置(荷電粒子ビーム発生装置)2、ビーム輸送系3及び治療台6に固定された患者(照射対象)5に対しイオンビームを照射する照射装置4を備える。イオンビーム発生装置2は、イオン源(図示せず)、前段加速器7及びシンクロトロン8を有する。イオン源で発生したイオン(例えば、陽子または炭素イオン)は前段加速器(例えば直線加速器)7で加速される。このイオンビーム(例えば陽子ビーム)は前段加速器7からシンクロトロン8に入射される。本実施形態ではイオンビームとして陽子ビームが用いられる。荷電粒子ビームであるそのイオンビームは、シンクロトロン8で加速され、設定エネルギーまでに高められた後、出射用デフレクタ9から出射される。
【0019】
シンクロトロン8から出射されたイオンビームは、ビーム輸送系3を経て照射装置4に達する。照射装置4、及びビーム輸送系3の一部である逆U字状のビーム輸送装置10は回転ガントリー(図示せず)の回転胴に設置され、回転ガントリーの回転に伴って患者5の周囲を回転する。イオンビームはビーム輸送装置10を通って照射装置4から治療台6上に横たわっている患者5の患部18(図2)に照射される。
【0020】
照射装置4は、図2に示すように、回転ガントリーに取り付けられたケーシング11を有する。照射装置4は、更に、第1散乱体12、第2散乱体13、飛程調整装置14、拡大ブラッグピーク形成装置であるリッジフィルタ15、患者コリメータ16及びボーラス17を有する。第1散乱体12、第2散乱体13、飛程調整装置14、リッジフィルタ15、患者コリメータ16及びボーラス17は、ビーム進行方向の上流側よりこの順でケーシング11内に配置され、ケーシング11に設置される。
【0021】
第1散乱体12は、ケーシング11内のビーム経路であるビーム軸mに略直交する方向に正規分布状にイオンビームを拡大させる。この第1散乱体12は、一般にイオンビームの散乱量に対するエネルギー損失の量が少ない原子番号の大きい物質(鉛やタングステン等)によって構成される。第2散乱体13は、第1散乱体12によって線量分布が正規分布状に広げられたイオンビームを、ビーム軸mと直交する方向に一様な線量分布にする機能を有する。この第2散乱体13は、内側が比較的原子番号の高い物質で構成されており、外側は比較的原子番号の低い物質で構成されている。
【0022】
飛程調整装置14は厚みの異なる複数の吸収体を有する。この吸収体が例えば圧縮空気により駆動するエアシリンダ等(図示せず)によってビーム軸m上に選択的に移動され、エネルギーを所望の量に減じる。なお、飛程調整装置14はレンジシフタ、ディグレーダ等とも称される。リッジフィルタ15はイオンビームの進行方向における厚みがビーム進行方向と直角方向における位置に応じて変化する複数のリッジ15A〜15D(図5)を有する。各リッジ15A〜15Dの厚み及びその厚み部分の幅は患者5の患部18(例えば癌や腫瘍の発生部位)の深さ方向において所望の線量分布が得られるように形成されている。イオンビームは、リッジフィルタ15を通過することにより、深さ方向に所望の線量分布となるようにエネルギーを調整される。
【0023】
患者コリメータ16は、ビーム軸mと略直交する方向において、患部18の形状に合わせてイオンビームを整形するものである。なお、患者コリメータ16はアパーチャとも称される。ボーラス17は、患者5の患部18の最大深さに合わせてイオンビームの到達深度を調整するものである。すなわち、ボーラス17は、ビーム軸mと略直交する方向における各位置でのイオンビームの飛程を、照射目標である患部18の深さ形状に合わせて調整する。なお、ボーラス17は飛程補償装置、エネルギーコンペンセータ、コンペンセータ等とも称される。
【0024】
次に、リッジフィルタ15の特徴について説明する。まず、理解を容易とするために、比較対象として線量一様な単一のSOBPを形成する際に用いられる一般的なリッジフィルタについて説明する。
【0025】
図3に示す一般的なリッジフィルタ15’が有する各リッジ15’A〜15’Dは、その断面形状がほぼ同形状に形成されており、それぞれの一方側(図3中左側)の斜面が、ビーム軸m方向(ビーム進行方向)における厚みが異なる複数の領域をビーム軸mと略直交する方向に所定の比率で有するように階段状に形成されている。イオンビームがリッジフィルタ15’の厚みの薄い部分を通過したときはビームエネルギーの減衰が少ないため、ブラッグピークが体内の深い位置に生じる。イオンビームがリッジフィルタ15’の厚みの厚い部分を通過する際には、イオンビームのエネルギーの減衰度合いが大きくなり、患部の体表面に近い部分にブラックピークが形成される。このようなブラッグピークが形成される深さ方向の位置をビーム軸mと略直交する方向に空間的に変動させる結果、深さ方向における線量分布が一様となり、図4に示すようなSOBPを形成する。SOBPの幅の大きさ、深さは治療計画時に設定され、その治療計画情報に基づいてリッジフィルタ15’は製作される。
【0026】
次に、本実施形態のリッジフィルタ15を図5及び図6を用いて説明する。リッジフィルタ15の各リッジ15A〜15Dは、図5に示すように、線量一様な単一のSOBPを形成するためのリッジフィルタ15’の形状に比べ、厚みが中程度である領域(斜面の中央部付近)の比率が相対的に少なくなるように、かつ厚みが厚い部分(斜面の上方部分)の領域の比率が相対的に大きくなるように形成されている。そして、所望の深さにおいて線量が一様となるように各厚みの領域の比率が調整されている。その結果、体内における中程度の深さでの線量分布が低下すると共に、体表面に近い浅い位置で一様な線量分布が形成され、図6に示すように、互いにほぼ同線量である2つのSOBPが形成される。
【0027】
なお、各リッジ15A〜15Dの形状はこの図5に示すものに限らず、例えば両側に斜面を有する略三角形の形状としてもよい。またこのように階段状の斜面として厚みを段階的に変化させるのではなく、なだらかな斜面に形成して厚みが連続的に変化するようにしてもよい。さらに、ここではSOBPの数を2つとしたが、さらに多数のSOBPを形成するようにしてもよい。
【0028】
以上のように構成される本実施形態によれば、以下の効果を奏する。
すなわち、図7に示すように、例えば1つの臓器中の複数箇所に転移したがん等である複数の患部18a,18bに対し、線量一様な単一のSOBPを形成するためのリッジフィルタ15’を用いた場合には患部18a,18b間の正常細胞の被爆を避けるためにそれぞれの患部18a,18bに対して個別に照射を行うしかなかったのに対し、本実施形態では複数のSOBPを形成することが可能であるので、一度の照射で各患部18a,18bの厚み全域にわたって効果的な照射を行うことができる。したがって、治療時間を短縮することができる。また、仮に単一SOBP形成用のリッジフィルタ15’を用いて治療時間を短縮するために患部18a,18bに対して一度に照射を行った場合、患部18a,18b間の正常細胞に不要な線量を与えることになるが、本実施形態では患部18a,18b間の正常細胞に与える線量を低減でき、照射不要部分の被爆量を低減することができる。さらに、図8に示すように、例えば脊椎等の重要臓器19にまたがるがん等の患部18に対しても、重要臓器19の被爆を低減しつつ臓器19の両側に位置する患部18に対し一度の照射でその厚み全域にわたって効果的な照射を行うことができる。したがって、治療時間を短縮することができる。また、単一SOBP形成用のリッジフィルタ15’を用いて患部18に対して一度に重要臓器19ごと照射を行う場合に比べ、重要臓器19部分に与える線量を低減でき、重要臓器19の被爆量を低減することができる。
【0029】
なお、以上では互いに線量がほぼ同等であるSOBPを複数形成する場合を例にとって説明したが、線量の異なるSOBPを複数形成するようにしてもよい。この場合に用いるリッジフィルタの一例を図9及び図10を用いて説明する。リッジフィルタ(拡大ブラッグピーク形成装置)20の各リッジ20A〜20Dは、図9に示すように、図5に示した実施形態1のリッジフィルタ15の形状と同様に厚みが中程度の領域(斜面の中央部付近)の比率が相対的に少なくなるように形成されており、かつ、図5のリッジフィルタ15に比べて厚みが厚い部分(斜面の上方部分)の領域の比率が相対的に小さくなるように形成されている。そして、所望の深さにおいて線量が一様となるように各厚みの領域の比率が調整されている。その結果、図10に示すように、互いに線量の異なる2つのSOBP(ここでは浅い方のSOBPの線量が低く、深い方のSOBPの線量が高い)が形成される。
【0030】
なお、特に図を用いて説明はしないが、リッジフィルタ20を図5に比べて厚みが薄い部分(斜面の下方部分)の領域の比率が相対的に小さくなるように形成すれば、上記と線量の大きさの関係が反対である2つのSOBP(浅い方のSOBPの線量が高く、深い方のSOBPの線量が低い)を形成することができる。
【0031】
本変形例1によれば、上記実施形態1と同様の効果を得ることができる上に、さらに図11に示すように、例えば異なる臓器に転移したがん等、酸素増感比の差異等により放射線感受性の異なる複数の患部18A,18Bに対し、各患部に応じた適切な線量の照射を行うことができる。
【0032】
また、以上では2つ以上の複数のSOBPを形成する場合を例にとって説明したが、部分的に線量の異なる単一のSOBPを形成するようにしてもよい。このような場合に用いるリッジフィルタの一例を図12及び図13を用いて説明する。リッジフィルタ(拡大ブラッグピーク形成装置)21の各リッジ21A〜21Dは、図12に示すように、図3に示した単一SOBP形成用のリッジフィルタ15’の形状に比べ、厚みが厚い領域(斜面の上方部分)及び厚みが薄い領域(斜面の下方部分)の比率が相対的に小さくなるように形成されている。そして、所望の深さにおいて線量が一様となるように各厚みの領域の比率が調整されている。その結果、図13に示すように、部分的に線量の異なるSOBP(ここでは深さ方向両端の線量が低いSOBP)が形成される。
【0033】
本変形例2によれば、図14に示すように、例えば酸素増感比の差異等により外側と内側で放射線感受性の異なる患部18C,18Dに対し、単一SOBP形成用のリッジフィルタ15’を用いて各部分に応じた適切な線量の照射を行うためには内側の患部18C及び外側の患部18Dに対して個別に照射を行うしかなかったのに比べ、本実施形態では部分的に線量の異なるSOBPを形成することが可能であるので、一度の照射で患部18C,18Dに対して各部分に応じた適切な線量の照射を行うことができる。したがって、治療時間を短縮することができる。
【0034】
またさらに、以上では単門照射(ある1つの照射方向から行うビーム照射)の場合を例にとって説明したが、多門照射(ガントリーを回転させて複数の照射方向から行うビーム照射)を行うことを前提にリッジフィルタの形状を決定するようにしてもよい。
【0035】
この場合に用いるリッジフィルタの一例を図15及び図16を用いて説明する。なお、ここでは説明を容易とするために、対向2門照射(対向する2方向から行うビーム照射)により線量一様な単一のSOBPを形成する場合を例にして説明する。本変形例のリッジフィルタ(拡大ブラッグピーク形成装置)22の各リッジ22A〜22Dは、図15に示すように、図3に示した単一SOBP形成用のリッジフィルタ15’の形状に比べ、厚みの無い領域を増やして厚みのある領域(斜面部分)の比率が全体的に小さくなるように形成されている。その結果、図16に示すように、最深部付近に大きなピークが形成され、体表面に近くなるにつれ次第に線量が小さくなる線量分布が形成され、対向2門照射を行うことによって、重ねあわせによりSOBP以外の部分の線量が低減した線量分布が形成される。
【0036】
本変形例3によれば、図17に示す単純に線量一様なSOBPが形成される照射を対向2門から行った場合の線量分布に比べ、SOBP以外の部分の線量が低減した線量分布が得られ、患部18以外の照射不要部分の被爆量を低減することができる。そして、ここでは線量一様な単一のSOBPを形成する場合を例にして説明したが、これを前述した実施形態1及び変形例1,2に適用し、多門照射を考慮に入れたリッジフィルタの形状を計算して製作することにより、SOBP以外の部分の線量を低減しつつ、複数のSOBP、又は部分的に線量の異なるSOBPを形成することが可能となる。なお、ここでは対向2門照射を行う場合を例にとって説明したが、さらに照射方向を増やした場合にも適用可能である。
【0037】
なお、以上の実施形態1及び変形例1〜3においては、拡大ブラッグピーク形成装置としてリッジフィルタを用いたが、これに限らず、ビーム進行方向の厚み及びその厚み領域の幅を所望の線量分布が得られるように成形したRMW(図20参照)を用いてもよい。この場合にも同様の効果を得ることができる。
【0038】
(実施形態2)
本実施形態の荷電粒子ビーム出射装置である粒子線出射装置1Aは、図18に示すように、イオンビーム発生装置2、ビーム輸送系3及び照射装置4Aを備えている。
【0039】
イオンビーム発生装置2は、実施形態1と同様に、イオン源(図示せず)、前段加速器7及び主加速器であるシンクロトロン8Aを有する。シンクロトロン8Aは、一対の電極によって構成された高周波印加装置26及び高周波加速空胴27をイオンビームの周回軌道上に設置している。第1高周波電源28が開閉スイッチ29を介して高周波印加装置26の電極に接続される。高周波加速空胴27に高周波電力を印加する第2高周波電源(図示せず)が、別途設けられる。前段加速器7から出射されたイオンビームはシンクロトロン8Aに入射され、第2高周波電源からの高周波電力の印加によって高周波加速空胴27内に発生する電磁場に基づいて加速される。シンクロトロン8A内を周回するイオンビームは、設定されたエネルギー(例えば100〜200MeV)まで加速された後、後述するように開閉スイッチ29を閉じることによってシンクロトロン8Aから出射される。すなわち、第1高周波電源28からの高周波が、閉じられた開閉スイッチ29を通して閉じることによって、高周波印加装置26より周回しているイオンビームに印加される。このため、安定限界内で周回しているイオンビームは、安定限界外に移行し、出射用デフレクタ9を通って出射される。イオンビームの出射の際には、シンクロトロン8Aに設けられた四極電磁石31及び偏向電磁石32に導かれる電流が電流設定値に保持され、安定限界もほぼ一定に保持されている。開閉スイッチ29を開いて高周波印加装置26への高周波電力の印加を停止することによって、シンクロトロン8Aからのイオンビームの出射が停止される。
【0040】
シンクロトロン8Aから出射されたイオンビームは、ビーム輸送系3により照射装置4Aに輸送される。照射装置4Aは、図19に示すように、回転ガントリーに取り付けられたケーシング11内に、第1散乱体12、第2散乱体13、拡大ブラッグピーク形成装置であるRMW装置34及び線量モニタ35を有する。ボーラス17及び患者コリメータ16もケーシング11に取り付けられる。
【0041】
RMW装置34は、RMW(回転体)36、RMW36を回転させる回転装置(例えば、モータ)37、及びRMW36の回転位相(回転角度)を検出する角度計38を有している。図20に示すように、RMW36は、複数の羽根部(本実施例では3枚)39、回転軸40、及び円筒部材41を有する。円筒部材41は回転軸40と同心円状に配置される。回転軸40に取り付けられた複数の羽根部39(本実施形態では羽根部39A,39B,39Cの3つ)がRMW36の半径方向に伸びている。これらの羽根部39の外側の端部は円筒部材41に取り付けられる。羽根部39の周方向における幅は、円筒部材41側の端部で回転軸40側の端部よりも広くなっている。RMW36の周方向における羽根部39の相互間には、それぞれ開口42が形成される。各羽根部39は、RMW36の周方向(回転方向)において階段状に配置された複数の平面領域(段部)43を有しており、回転軸40の軸方向(ビーム軸mの方向)におけるRMW36の底面から各平面領域43までの各厚みが異なっている。1つの平面領域43に対するその厚みを、平面領域部分の厚みという。すなわち、羽根部39は、周方向で羽根部39の両側に位置する開口42にそれぞれ隣接する各平面領域43から、ビーム軸mの方向において最も厚みの厚い頂部44に位置する平面領域43に向かって、各平面領域部分の厚みが階段状に増加している。各平面領域43は、回転軸40から円筒部材41に向かって延びている。1つのRMW36において、3枚の羽根部39の相互間に位置する開口42は3つ存在する。
【0042】
回転軸40は、ケーシング11に設けられた支持部材45に着脱自在に取り付けられる。回転軸40は軸方向に貫通する貫通孔46を形成している。支持部材45に取り付けられた回転装置30の回転軸30Aが、貫通孔46に噛み合わされる。角度計38も支持部材45に取り付けられる。
【0043】
なお、RMW36としては散乱体を一体的に取り付けたもの(例えばホイールのビームが当たる位置全体に散乱体を張り巡らしたもの等)を用いてもよい。また、厚さ分布の大きい部分と小さい部分の散乱量の違いを補償するための補償器を取り付けたものを用いてもよい。
【0044】
本実施形態の粒子線出射装置1Aは、RMW36の回転角度に応じてイオンビーム発生装置2からのイオンビームの出射ON/OFFを制御することにより、複数のSOBPを形成することができる。以下、この原理を図21乃至図25を用いて説明する。なお、理解を容易とするために、ここではまず比較対象として線量一様な単一のSOBPを形成する場合について説明する。
【0045】
イオンビームがRMW36の開口42を通過したときは、ビームエネルギーは減衰しないためブラッグピークが体表面から深い第1の位置に形成される。羽根部39のうち最も厚みが厚くなる頂部44に位置する平面領域43をイオンビームが通過したときは、ビームエネルギーが最も大きく減衰されてブラックピークが体表面近くの浅い第2の位置に形成される。イオンビームが開口42と頂部44の間に位置する平面領域43を通過したときは、その平面領域43が位置する部分の厚みに応じてビームエネルギーが減衰するため、ブラッグピークは第1位置と第2位置の間に存在する第3の位置に形成される。したがって、図21及び図22におけるケースaのように、RMW36の周方向において、360°の全回転角度領域において常にビームONである場合には、RMW36の回転によりブラッグピークは第1位置と第2位置との間で周期的に変動する。この結果、ケースaは、時間積分で見ると、図23に示す深さ方向の線量分布aのように体表面近くから深い位置に至る比較的広いSOBPを得ることができる。「ビームON」は、イオンビームがシンクロトロン8Aから出射されてRMW36を通過し照射装置4Aから出射される状態を意味する。これに対し、「ビームOFF」は、イオンビームがシンクロトロン8Aから出射されず照射装置4Aから出射されない状態を意味する。
【0046】
図21及び図22におけるケースbは、RMW36の周方向において、各羽根部39の比較的厚い領域(頂部44付近)ではビームOFFとし、これ以外の回転角度領域ではビームONとする。ケースbは、体表面近くの浅い部分で生じるブラッグピークがなくなるため、図23に示す深さ方向の線量分布bのように線量分布aよりもフラット部分が狭くなったSOBPが形成される。
【0047】
図21及び図22におけるケースcは、RMW36の周方向において、開口42及び開口42付近の各羽根部39の厚みが比較的薄い領域にてビームONとし、これら以外の回転角度領域ではビームOFFとする。ケースcは、全体にビームエネルギーの減衰量が少ないため、体表面から深い位置にブラッグピークが形成される。このため、ケースcは、図23に示す深さ方向の線量分布cのように線量分布bよりもさらにフラット部分が狭くなったSOBPが形成される。
【0048】
次に、本実施形態のイオンビームの出射ON/OFF制御を図24及び図25を用いて説明する。本実施形態では、図に示すように、ビーム出射のON/OFFをより細かに制御する。ここでは、図22に示すケースaに比べ、羽根部39の厚みが中程度である領域のビームをOFFとして当該領域のビームON比率が相対的に小さくなるように制御する。その結果、体内における中程度の深さでの線量が低下し、図25に示すように、互いにほぼ同線量である2つのSOBPが形成される。
【0049】
本実施形態におけるRMW36の回転時におけるイオンビームの出射ON/OFF制御について、具体的に説明する。「イオンビームの出射ON」はシンクロトロン8Aからイオンビームの出射を開始することであり、「イオンビームの出射OFF」はシンクロトロン8Aからのイオンビームの出射を停止することである。まず、X線CT装置(図示せず)で患者5の患部18付近の断層撮影を行う。医者は、得られた断層像を用いて診断を行い、患部18の位置及びサイズを把握すると共に、イオンビームの照射方向、最大照射深さ等を定めて治療計画装置47に入力する。治療計画装置47は、治療計画ソフトによって、入力されたイオンビームの照射方向、最大照射深さ等に基づき、治療に必要なSOBP、照射野サイズ及び患部18に対する目標線量等を算出する。さらに、治療計画装置47は、治療計画ソフトによって、各種運転パラメータ(イオンビームをシンクロトロン8Aから出射する時のエネルギー(ビームエネルギー)、回転ガントリー角度、及びイオンビームの出射ON/OFF時におけるRMW36の各回転角度)を算出すると共に、治療に適切な周方向の厚さ分布及び角度幅を有するRMW36を選定する。治療計画装置47によって算出されたビームエネルギー、SOBP、照射野サイズ、回転角度及び照射線量等の各種の治療計画情報が、粒子線出射装置1Aの中央制御装置48に入力され、中央制御装置48の記憶装置(図示せず)に記憶される。
【0050】
各種の治療計画情報は、治療計画装置47の表示装置及び粒子線出射装置1Aの制御室内に設置された表示装置に表示される。治療を受ける患者5に対するRMW36、ボーラス17及び患者コリメータ16が、作業員によって、照射装置4Aのケーシング11内に図19に示すように設置される。
【0051】
照射制御装置49は、中央制御装置48から、設定値となる治療計画情報であるRMW36の各回転角度、目標線量及び回転ガントリー角度等の必要な治療計画情報を入力し、照射制御装置49の記憶装置(図示せず)に記憶する。ガントリー制御装置(図示せず)は、照射制御装置49より回転ガントリー角度情報を入力し、前述したように照射装置4Aのビーム経路が患部18を向くように、回転ガントリー角度情報に基づいて回転ガントリーを回転させる。中央制御装置48は、患者5に対するビームエネルギー情報に基づいてイオンビーム発生装置2及びビーム輸送系3の各電磁石に導く電流の制御指令(電流設定値)を設定する。電磁石電源制御装置(図示せず)は、それらの電流設定値に基づいて該当する電磁石電源を制御し、イオンビーム発生装置2及びビーム輸送系3の各電磁石に供給する励磁電流の電流値を調節する。これにより、イオンビーム発生装置2及びビーム輸送系3にイオンビームを導く準備が完了する。電磁石電源制御装置は中央制御装置48に接続されている。
【0052】
シンクロトロン8Aは、前段加速器7からのイオンビームの入射、イオンビームの加速、イオンビームの出射、及び減速を繰り返して運転される。設定エネルギーであるビームエネルギーまでイオンビームが加速されると、イオンビームの加速が終了し、イオンビームがシンクロトロン8Aから出射可能な状態になる。イオンビームの加速終了情報は、シンクロトロン8Aの電磁石等の状態をセンサ(図示せず)で監視している電磁石電源制御装置から中央制御装置48に伝えられる。
【0053】
粒子線出射装置1Aにおける前述した複数のSOBP形成のためのイオンビームの出射ON/OFFに係る制御を、図24及び図26を用いて説明する。照射制御装置49は、出射ON/OFFの制御を行うに際して、回転角度の設定値である回転角度α1〜α6(図24)を、予め中央制御装置48から入力している。回転角度α1は基準線(羽根部39の最初の端部)から最初にビーム出射ONとする点までの角度(ここでは0°)であり、回転角度α2は基準線から最初にビーム出射OFFとするまでの角度であり、回転角度α3は基準線から次にビーム出射ONとするまでの角度であり、回転角度α4は基準線から次にビーム出射OFFとするまでの角度であり、後の回転角度α5及びα6も同様である。回転角度α1〜α6は、基準線がビーム軸mに位置するときを基準にした角度を示している。
【0054】
照射制御装置49は、図26に示す制御フローに基づいてイオンビームの出射ON/OFFに係る制御を実行する。まず、加速器(シンクロトロン8A)の加速終了信号(イオンビームが出射可能な状態になったことを示す信号)を入力する(ステップ51)。この加速終了信号は中央制御装置48から入力される。回転装置30に回転開始信号を出力する(ステップ52)。回転装置30は、照射制御装置49から出力された駆動信号に基づいて回転される。回転装置30の回転力は回転軸30Aを介して回転軸40に伝えられ、RMW36が回転される。回転角度の計測値が回転角度の第1設定値と一致するかが判定される(ステップ53)。角度計38で計測されたRMW36の回転角度の計測値は、照射制御装置49に入力される。この計測値が出射開始信号を出力するための回転角度の第1設定値(回転角度α1,α3及びα5のいずれか)と一致するかが判定される。回転角度の計測値が第1設定値と一致した場合は、出射開始信号が出力される(ステップ54)。この出射開始信号によって、開閉スイッチ29が閉じられる。高周波印加装置26より高周波が周回しているイオンビームに印加されるため、イオンビームがシンクロトロン8Aから出射される。このイオンビームは、照射装置4Aに輸送される。イオンビームは、照射装置4A内で回転しているRMW36等を通過してビーム軸mに沿って照射装置4Aより出射され、患部18に照射される。
【0055】
患部18に照射された線量が目標線量に到達したかが判定される(ステップ55)。また、回転角度の計測値が回転角度の第2設定値と一致するかが判定される(ステップ56)。線量モニタ35によって測定された患部18に照射される線量、及び回転角度の計測値は、常に照射制御装置49に入力されている。ステップ55においては、線量計測値の累積値が目標線量になったかが判定される。この判定結果が「YES」の場合には、ステップ56の処理に優先してステップ60の処理が実行され、出射停止信号が出力される。このビーム出射停止信号によって、開閉スイッチ29が開き、高周波印加装置26への高周波の供給が停止される。このため、シンクロトロン8Aからのイオンビームの出射が停止される。治療用ベッド6上の患者5に対するイオンビームの照射が終了する。回転装置30に停止信号を出力する(ステップ61)。回転装置30の回転が停止し、RMW36の回転も停止する。
【0056】
ステップ55の判定が「NO」である場合には、ステップ56の処理が実行される。ステップ56において、回転角度の計測値が出射停止信号を出力するための回転角度の第2設定値(回転角度α2,α4及びα6のいずれか)と一致したと判定された場合には、出射停止信号が出力される(ステップ57)。出射停止信号の出力により、上記したように開閉スイッチ29が開き、シンクロトロン8Aからのイオンビームの出射が停止される。ステップ54の出射開始信号の出力からステップ57の出射停止信号の出力までの期間が、ビームONの期間に相当する。
【0057】
ステップ58で、再度、患部18に照射された線量が目標線量に到達したかが判定される。この判定結果が「NO」の場合には、ステップ59の処理が実行される。すなわち、上記したビームONの期間が終了した後、シンクロトロン8A内にイオンビームが十分に存在するかを判定する。このイオンビームの存在量(イオンビームの電流密度)は、電磁石電源制御装置がシンクロトロン8Aに設けられたセンサ(図示せず)の計測値を基に監視している。イオンビームの電流密度の計測値は、中央制御装置48を介して照射制御装置49に入力されている。ステップ59の判定は、電流密度の計測値を用いて行われる。判定結果が「YES」の場合には、ステップ53〜58の処理が実行される。ステップ53〜58の繰り返し処理時に、ステップ55または58で、線量計測値の累積値が目標線量になったと判定されると、ステップ61の処理が行われて患者5へのイオンビームの照射は終了する。
【0058】
ステップ59の判定が「NO」の場合には、ステップ51からの処理が実行される。すなわち、シンクロトロン8A内を周回しているイオンビームの電流密度が低下してイオンビームの出射が不可能な場合には、シンクロトロン8Aを減速させる。電磁石電源制御装置がシンクロトロン8A及びビーム輸送系3等に設けられた電磁石に供給する電流値を低下させる。それらの電磁石に供給される電流値がイオンビームの入射状態に保持される。イオンビームが前段加速器7からシンクロトロン8Aに入射される。このイオンビームは前述のようにビームエネルギーになるまで加速される。イオンビームの加速終了後にステップ51からの処理が、照射制御装置49で実行される。
【0059】
以上のように構成される本実施形態によれば、複数のSOBPを形成することが可能であるので、実施形態1と同様に治療時間を短縮することができる。また、照射不要部分の被爆量を低減することができる。
【0060】
なお、以上では互いに線量がほぼ同等であるSOBPを複数形成する場合を例にとって説明したが、線量の異なるSOBPを複数形成するようにしてもよい。この場合に行うイオンビームの出射ON/OFFに係る制御を図27及び図28を用いて説明する。図に示すように、本変形例4では図25に示す実施形態2の制御に比べ、羽根部39の厚みの厚い領域(頂部44付近)におけるビームOFFを増加させて当該領域のビームON比率が相対的に小さくなるように制御する。その結果、体表面に近い浅い位置のSOBP2については線量が低下し、図28に示すように、線量の異なる2つのSOBPが形成される。
【0061】
本変形例4によれば、上記実施形態2と同様の効果を得ることができる上に、例えば異なる臓器に転移したがん等、酸素増感比の差異等により放射線感受性の異なる複数の患部に対してであっても、各患部に応じた適切な線量の照射を行うことができる。
【0062】
また、以上では2つ以上の複数のSOBPを形成する場合を例にとって説明したが、部分的に線量の異なる単一のSOBPを形成するようにしてもよい。この場合に行うイオンビームの出射ON/OFFに係る制御を図29及び図30を用いて説明する。図に示すように、本変形例5では図22に示すケースaに比べ、羽根部39の厚みが厚い領域及び厚みが薄い領域におけるビームOFFを増加させて当該領域におけるビームONの比率が相対的に小さくなるように制御する。その結果、図30に示すように、部分的に線量の異なるSOBP(深さ方向両端部の線量が低いSOBP)が形成される。
【0063】
本変形例5によれば、例えば酸素増感比の差異等により外側と内側で放射線感受性の異なる患部に対し、一度の照射で患部の内外に対して各部分に応じた適切な線量の照射を行うことができる。したがって、治療時間を短縮することができる。
【0064】
またさらに、以上では単門照射の場合を例にとって説明したが、多門照射を行うことを前提にビームの出射のON/OFFを制御するようにしてもよい。この場合に行うイオンビームの出射ON/OFFに係る制御を図31及び図32を用いて説明する。なお、ここでは説明を容易とするために、対向2門照射(対向する2方向から照射)により線量一様な単一のSOBPを形成する場合を例にして説明する。図に示すように、本変形例6では図22に示すケースaに比べ、厚みの厚い領域ほどビームOFFを増加させ、全体的に厚みが薄い領域ほどビームONの比率が大きくなるように制御する。その結果、図32に示すように、深さ方向における最深部近傍にピークを有し、体表面に近くなるにつれ線量が徐々に小さくなる線量分布が形成され、対向2門照射を行うことによって、重ねあわせによりSOBP以外の部分の線量が低減した線量分布が形成される。
【0065】
本変形例6によれば、先の図17に示す単純に線量一様なSOBPが形成される照射を対向2門から行った場合に重ねあわせにより形成される線量分布に比べ、SOBP以外の部分の線量が低減した線量分布が得られ、患部18以外の照射不要部分の被爆量を低減することができる。そして、ここでは線量一様な1つのSOBPを形成する場合を例にして説明したが、これを前述した実施形態2及び変形例4,5に適用し、多門照射を考慮に入れたビームON/OFF制御を行うことにより、SOBP以外の部分の線量を低減しつつ、複数のSOBP、又は部分的に線量の異なるSOBPを形成することが可能となる。なお、ここでは対向2門照射を行う場合を例にとって説明したが、さらに照射方向を増やした場合にも適用可能である。
【0066】
(実施形態3)
本実施形態は、上述の実施形態2ではRMW36の回転角度に応じてイオンビーム発生装置2からのイオンビームの出射ON/OFFを制御することにより、複数のSOBPを形成するようにしたのに対し、RMW36の回転角度に応じてイオンビームの量を制御することにより複数のSOBPを形成するようにしたものである。
【0067】
図33に本実施形態の粒子線出射装置1Bを示す。この粒子線出射装置1Bが実施形態2の粒子線出射装置1Aと異なる点は、第1高周波電源28の高周波出力を制御する高周波出力制御装置(ビーム量調整装置)62を備える点、及び照射制御装置49の代わりに照射制御装置(制御装置)49Aを備える点である。粒子線出射装置1Bは、RMW36の回転角度に応じてイオンビーム発生装置2から出射されるビーム量を制御することにより、複数のSOBPを形成することができる。以下、このビーム量に係る制御について説明する。
【0068】
シンクロトロン8Aから出射されるイオンビームの量はビーム電流値として検出される。このビーム電流値は、第1高周波電源28から高周波印加装置26を介して周回するイオンビームに印加される高周波出力の大きさによって決定される。本実施形態では、治療計画装置47によって算出されたビームエネルギー、SOBP、照射野サイズ、回転角度及び照射線量等の各種の治療計画情報に、上記SOBPを得るために治療計画ソフトによって算出されたRMW36の回転角度に応じたビーム電流値が含まれる。この治療計画情報は、粒子線出射装置1Bの中央制御装置48に入力され、中央制御装置48の記憶装置(図示せず)に記憶される。
【0069】
照射制御装置49Aは、中央制御装置48から、RMW36の回転角度に応じたビーム電流値を含む治療計画情報を入力し、照射制御装置49Aの記憶装置(図示せず)に記憶する。治療時には、角度計38で計測されたRMW36の回転角度の計測値が照射制御装置49Aに入力され、照射制御装置49Aは記憶装置に記憶したRMW36の回転角度に応じたビーム電流値に基づき、入力されたRMW36の回転角度に応じたビーム電流値を設定し、高周波出力制御装置62に出力する。
【0070】
高周波出力制御装置62の記憶装置(図示せず)には、各ビーム電流値に対応して高周波出力が設定された高周波出力制御テーブルが予め記憶されている。高周波出力制御装置62は、記憶装置から読み出した高周波出力制御テーブルに基づき、入力されたビーム電流値に応じた高周波出力を設定し、その設定値となるように第1高周波電源28を制御する。これにより、第1高周波電源28から高周波印加装置26を介して周回するイオンビームに高周波出力が印加され、治療計画情報に基づいた量のイオンビームがシンクロトロン8Aから出射される。
【0071】
以上のようにして、RMW36の回転角度に応じてイオンビーム発生装置2からのビーム量を制御することにより、複数のSOBPを形成することができる。以下、この原理を説明する。なお、理解を容易とするために、比較対象としてまず図34に線量一様な単一のSOBPを形成する場合のビーム量(ビーム電流)の制御の一例を示す。ここでは、RMW36の羽根部39の厚みの厚い領域ではビーム量を相対的に減少させ、羽根部39の厚みが中程度〜薄い領域ではビーム量を相対的に増加させるように制御する。その結果、図35に示すような線量が一様な単一のSOBPが形成される。
【0072】
次に、本実施形態のビーム量に係る制御を図36及び図37を用いて説明する。ここでは、図34に示す単一のSOBPを形成する場合のビーム量制御に比べ、羽根部39の厚みが厚い領域におけるビーム量を相対的に増大させ、かつ羽根部39の厚みが中程度の領域におけるビーム量が減少するように制御する。その結果、患者体内における中程度の深さでの線量が低下すると共に体表面に近い浅い部分での線量が増加し、図37に示すように互いにほぼ同線量である2つのSOBPが形成される。
【0073】
本実施形態によれば、このように複数のSOBPを形成することが可能であるので、実施形態1及び実施形態2と同様に治療時間を短縮することができる。また、照射不要部分の被爆量を低減することができる。
【0074】
なお、以上では互いに線量がほぼ同等であるSOBPを複数形成する場合を例にとって説明したが、線量の異なるSOBPを複数形成するようにしてもよい。この場合に行うビーム量に係る制御を図38及び図39を用いて説明する。図に示すように、本変形例7では図36に示す実施形態3のビーム量制御に比べ、羽根部39の厚みの厚い領域におけるビーム量が相対的に減少するように制御し、また羽根部39の厚みの薄い領域におけるビーム量が相対的に増加するように制御する。その結果、深い方に位置するSOBP1については線量が増加すると共に、体表面に近い浅い位置のSOBP2については線量が低下し、図39に示すように、線量の異なる2つのSOBPが形成される。
【0075】
本変形例7によれば、上記実施形態3と同様の効果を得ることができる上に、例えば異なる臓器に転移したがん等、酸素増感比の差異等により放射線感受性の異なる複数の患部に対してであっても、各患部に応じた適切な線量の照射を行うことができる。
【0076】
また、以上では2つ以上の複数のSOBPを形成する場合を例にとって説明したが、部分的に線量の異なる単一のSOBPを形成するようにしてもよい。この場合に行うビーム量に係る制御を図40及び図41を用いて説明する。図に示すように、本変形例8では図34に示す単一のSOBPを形成する場合のビーム量制御に比べ、羽根部39の厚みが中程度である領域におけるビーム量が相対的に増加するように制御する。その結果、図41に示すように患者体内における中程度の深さ部分の線量が増加し、深さ方向両端部の線量が低下した部分的に線量の異なるSOBPが形成される。
【0077】
本変形例8によれば、例えば酸素増感比の差異等により外側と内側で放射線感受性の異なる患部に対し、一度の照射で患部の内外に対して各部分に応じた適切な線量の照射を行うことができる。したがって、治療時間を短縮することができる。
【0078】
またさらに、以上では単門照射の場合を例にとって説明したが、多門照射を行うことを前提にビーム量を制御するようにしてもよい。この場合に行うビーム量に係る制御を図42及び図43を用いて説明する。なお、ここでは説明を容易とするために、対向2門照射(対向する2方向から照射)により線量一様な単一のSOBPを形成する場合を例にして説明する。図に示すように、本変形例9では図34に示す単一のSOBPを形成する場合のビーム量制御に比べ、羽根部39の厚みのない領域(開口42部分)におけるビーム量を大幅に増加させると共に、羽根部39の厚みの厚い領域ほどビーム量を減少させて、全体的に厚みが薄くなるにつれてビーム量が大きくなるように制御する。その結果、図43に示すように、最深部近傍にピークを有し、体表面に近くなるにつれ徐々に線量が小さくなる線量分布が形成され、対向2門照射を行うことによって、重ねあわせによりSOBP以外の部分の線量が低減した線量分布が形成される。
【0079】
本変形例9によれば、先の図17に示す単純に線量一様なSOBPが形成される照射を対向2門から行った場合の線量分布に比べ、SOBP以外の部分の線量が低減した線量分布が得られ、患部18以外の照射不要部分の被爆量を低減することができる。そして、ここでは線量一様な1つのSOBPを形成する場合を例にして説明したが、これを前述した実施形態3及び変形例7,8に適用し、多門照射を考慮に入れたビーム量制御を行うことにより、SOBP以外の部分の線量を低減しつつ、複数のSOBP、又は部分的に線量の異なるSOBPを形成することが可能となる。なお、ここでは対向2門照射を行う場合を例にとって説明したが、さらに照射方向を増やした場合にも適用可能である。
【0080】
(実施形態4)
本実施形態は、イオンビーム発生装置2から出射されるイオンビームの量及びイオンビームのエネルギーを調整することにより、患者の患部の深さ方向に所望の線量分布を得るものである。
【0081】
図44に本実施形態の粒子線出射装置1Cを示す。この粒子線出射装置1Cが実施形態3の粒子線出射装置1Bと異なる点は、高周波出力制御装置62の代わりに高周波加速空胴27に印加される高周波出力の大きさを制御する高周波出力制御装置(ビームエネルギー調整装置)63を有する点、リッジフィルタやRMW等の拡大SOBP形成装置を備えない照射装置4B(図45参照)を有する点、及び照射制御装置49Aの代わりに照射制御装置(制御装置)49Bを備えた点である。粒子線出射装置1Cは、照射装置4Bから患者5に照射される照射線量及びシンクロトロン8Aから出射されるイオンビームのエネルギーを制御する(以下、インテンシティモジュレーション制御という)ことにより、複数のSOBPを形成することができる。以下、この制御について説明する。
【0082】
シンクロトロン8Aから出射されるイオンビームの出射エネルギーは、高周波加速空胴27内に発生する電磁場の強度によって左右され、この電磁場の強度は第2高周波電源(図示せず)によって高周波加速空胴27に印加される高周波電力の大きさによって決定される。本実施形態では、治療計画装置47によって算出されたビームエネルギー、SOBP、照射野サイズ、回転角度及び照射線量等の各種の治療計画情報に、上記SOBPを得るために治療計画ソフトによって算出されたビームエネルギー−線量値テーブル(例えば110MeV〜200MeVの範囲においてビームエネルギーを10MeVずつ変化させた場合の各ビームエネルギーに応じた線量値)が含まれる。ビームエネルギー−線量値テーブルにおける各ビームエネルギーは、患部18を深さ方向に適宜の数の層に分けたときにおけるそれぞれの層に対応するものである。例えば上記の例は、患部18を深さ方向に10層に分けて照射する場合であり、200MeVは最下層、110MeVは最上層を照射する際のビームエネルギーに相当する。ビームエネルギー−線量値テーブルを含む治療計画情報は、粒子線出射装置1Cの中央制御装置48に入力され、中央制御装置48の記憶装置(図示せず)に記憶される。
【0083】
照射制御装置49Bは、中央制御装置48から、ビームエネルギー−線量値テーブルを含む治療計画情報を入力し、照射制御装置49Bの記憶装置(図示せず)に記憶する。以下、治療照射時における照射制御装置49Bの制御を説明する。
【0084】
まず、記憶装置から読み出したビームエネルギー−線量値テーブルに基づき、第1のビームエネルギー設定値(最下層に対応するエネルギー設定値)を高周波出力制御装置63に出力する。高周波出力制御装置63の記憶装置(図示せず)には、各ビームエネルギー値に応じて高周波出力が設定された高周波出力制御テーブルが予め記憶されている。高周波出力制御装置63は、記憶装置から読み出した高周波出力制御テーブルに基づき、入力されたビームエネルギー値に応じた高周波出力を設定し、その設定値となるように第2高周波電源を制御する。これにより高周波加速空胴27に所定の強度の電磁場が発生し、シンクロトロン8A内を周回するイオンビームは第1のビームエネルギー設定値となるまで加速される。
【0085】
次に、照射制御装置49Bはビーム出射信号を出力して開閉スイッチ29を閉じ、シンクロトロン8Aから設定エネルギーまで加速されたイオンビームを出射させる。これにより、患部18の最下層の照射が開始される。照射制御装置49Bは、ビーム照射中には常時線量モニタ35の検出値を入力する。この入力した検出値が、ビームエネルギー−線量値テーブルにおいて最初のビームエネルギーに対応して設定された線量値となったら、ビーム出射停止信号を出力して開閉スイッチ29を開き、シンクロトロン8Aからのビームの出射を停止させる。このとき、シンクロトロン8A内を周回する残ビームは減速される。
【0086】
照射制御装置49Bはビームエネルギー−線量値テーブルに基づき、第2のビームエネルギー設定値を高周波出力制御装置63に出力する。例えば第1のビームエネルギー設定値が200MeVであり、10MeVずつエネルギーを変更させる場合であれば、第2のビームエネルギー設定値は190MeVとなる。高周波出力制御装置63は、入力されたビームエネルギー値に応じた高周波出力を設定し、その設定値となるように第2高周波電源を制御する。これによりシンクロトロン8A内を周回するイオンビームは第2のエネルギー設定値となるまで加速される。第2のエネルギー設定値まで加速されたイオンビームは出射され、最下層の1つ上の第2層において照射される。そして、線量モニタ35の検出値が設定値となったら出射が停止される。その後も同様の制御が行われる。
【0087】
照射が患部18の最上層まで進み、線量モニタ35の検出値がビームエネルギー−線量値テーブルにおいて最上層のビームエネルギーに対応して設定された線量値となったら、ビーム出射停止信号を出力して開閉スイッチ29を開き、シンクロトロン8Aからのビームの出射を停止させる。これにより、治療照射を終了する。
【0088】
本実施形態では、以上のようにしてインテンシティモジュレーション制御を行うことにより、複数のSOBPを形成することができる。以下、この原理を説明する。なお、理解を容易とするために、比較対象としてまず図46に線量一様な単一のSOBPを形成する場合のインテンシティモジュレーション制御の一例を示す。なお、この図46では、上述したインテンシティモジュレーション制御を行った結果、各エネルギーにおける照射線量が満了するまでに要した照射時間を横軸に経過時間をとって示している(以下も同様)。このような照射時間となるように制御を行う結果、図47に示すような線量が一様な単一のSOBPが形成される。
【0089】
次に、本実施形態のビーム量に係る制御を図48及び図49を用いて説明する。ここでは、図46に示す単一のSOBPを形成する場合に比べ、ビームエネルギーの小さい領域における照射時間を相対的に増大させ、かつビームエネルギーが中程度の大きさ(ここでは170,180MeV)における照射を停止して当該領域における線量を減少させるように制御を行う。その結果、患者体内における中程度の深さでの線量が低下すると共に体表面に近い浅い部分での線量が増加し、図49に示すように互いにほぼ同線量である2つのSOBPが形成される。
【0090】
本実施形態によれば、このように複数のSOBPを形成することが可能であるので、実施形態1乃至実施形態3と同様に治療時間を短縮することができる。また、照射不要部分の被爆量を低減することができる。
【0091】
なお、以上では互いに線量がほぼ同等であるSOBPを複数形成する場合を例にとって説明したが、線量の異なるSOBPを複数形成するようにしてもよい。この場合に行うインテンシティモジュレーション制御を図50及び図51を用いて説明する。図に示すように、本変形例10では図48に示す実施形態4の制御に比べ、ビームエネルギーの小さい領域(ここでは120〜140MeV)における照射時間が相対的に減少するように制御する。その結果、体表面に近い浅い位置のSOBP2については線量が低下し、図51に示すように、線量の異なる2つのSOBPが形成される。
【0092】
本変形例10によれば、上記実施形態4と同様の効果を得ることができる上に、例えば異なる臓器に転移したがん等、酸素増感比の差異等により放射線感受性の異なる複数の患部に対してであっても、各患部に応じた適切な線量の照射を行うことができる。
【0093】
また、以上では2つ以上の複数のSOBPを形成する場合を例にとって説明したが、部分的に線量の異なる単一のSOBPを形成するようにしてもよい。この場合に行うインテンシティモジュレーション制御を図52及び図53を用いて説明する。図に示すように、本変形例11では図46に示す線量一様な単一のSOBPを形成する場合の制御に比べ、ビームエネルギーが大きい領域(ここでは200MeV)及びビームエネルギーが小さい領域(ここでは120〜140MeV)における照射時間が相対的に減少するように制御する。その結果、図53に示すように深さ方向における両側の線量が低下した、部分的に線量の異なるSOBPが形成される。
【0094】
本変形例11によれば、例えば酸素増感比の差異等により外側と内側で放射線感受性の異なる患部に対し、一度の照射で患部の内外に対して各部分に応じた適切な線量の照射を行うことができる。したがって、治療時間を短縮することができる。
【0095】
またさらに、以上では単門照射の場合を例にとって説明したが、多門照射を行うことを前提にインテンシティモジュレーション制御を行うようにしてもよい。この場合に行う制御を図54及び図55を用いて説明する。なお、ここでは説明を容易とするために、対向2門照射(対向する2方向から照射)により線量一様な単一のSOBPを形成する場合を例にして説明する。図に示すように、本変形例12では図46に示す単一のSOBPを形成する場合の制御に比べ、最もビームエネルギーが大きい(200MeV)領域での照射時間を大幅に増加させ、その他の領域における照射時間を全体的に減少させると共にビームエネルギーが小さくなるにつれて照射時間が徐々に短くなるように制御する。その結果、図55に示すように、最深部近傍にピークを有し、体表面に近づくにつれ徐々に線量が小さくなる線量分布が形成され、対向2門照射を行うことによって、重ねあわせによりSOBP以外の部分の線量が低減した線量分布が形成される。
【0096】
本変形例12によれば、先の図17に示す単純に線量一様なSOBPが形成される照射を対向2門から行った場合の線量分布に比べ、SOBP以外の部分の線量が低減した線量分布が得られ、患部18以外の照射不要部分の被爆量を低減することができる。そして、ここでは線量一様な単一のSOBPを形成する場合を例にして説明したが、これを前述した実施形態4及び変形例10,11に適用し、多門照射を考慮に入れたインテンシティモジュレーション制御を行うことにより、SOBP以外の部分の線量を低減しつつ、複数のSOBP、又は部分的に線量の異なるSOBPを形成することが可能となる。なお、ここでは対向2門照射を行う場合を例にとって説明したが、さらに照射方向を増やした場合にも適用可能である。
【0097】
なお、以上の実施形態4及び変形例10,11では、シンクロトロン8Aの高周波加速空洞27の電磁場の強度を調整することによりビームエネルギーの変更を行うようにしたが、これに限らず、例えば照射装置4Bに設けた飛程調整装置(ビームエネルギー調整装置)14(図45)等によりビームエネルギーを変更するようにしてもよい。この場合にも、同様の効果を得ることができる。
【0098】
(実施形態5)
図56に本実施形態の粒子線出射装置1Dを示す。この粒子線出射装置1Dが実施形態4の粒子線出射装置1Cと異なる点は、第1散乱体12及び第2散乱体13を備えた散乱体方式である照射装置4Bの代わりにスキャニング方式の照射装置4Cを備えた点、及び照射制御装置49Bの代わりに照射制御装置(第1制御装置、第2制御装置)49Cを備えた点である。
【0099】
照射装置4Cは、ビームを走査するための走査電磁石(ビーム走査装置)64,65、及び線量モニタ35を有する。走査電磁石64,65は、例えばビーム軸と垂直な平面上において互いに直交する方向(X方向、Y方向)にビームを偏向し照射位置をX方向およびY方向に動かすためのものである。ビーム輸送系3を経て逆U字状のビーム輸送装置10から照射装置4C内へ導入されたイオンビームは、走査電磁石64,65によって順次照射位置を走査され、患部18において高線量領域を形成するように照射される。照射装置4C内の走査電磁石64,65は、照射制御装置49Cによって制御される。
【0100】
以下、治療照射時における照射制御装置49Cの制御について説明する。
まず、記憶装置から読み出したビームエネルギー−線量値テーブルに基づき、患部18の最下層に対応する第1のビームエネルギー設定値を高周波出力制御装置63に出力する。高周波出力制御装置63は、入力されたビームエネルギー値に応じた高周波出力を設定し、その設定値となるように第2高周波電源を制御する。これにより高周波加速空胴27に所定の強度の電磁場が発生し、シンクロトロン8A内を周回するイオンビームは第1のビームエネルギー設定値となるまで加速される。
【0101】
次に、照射制御装置49Cはビーム出射信号を出力して開閉スイッチ29を閉じ、シンクロトロン8Aから設定エネルギーまで加速されたイオンビームを出射させる。これにより、患部18の最下層の照射が開始される。本実施形態では、最下層がさらに複数のスポットに分割され、各スポットについて必要線量が照射される。具体的には、照射制御装置49Cは、ビーム照射中には常時線量モニタ35の検出値を入力しており、第1のスポットにおける照射線量が満了したらビーム出射停止信号を出力して開閉スイッチ29を開き、シンクロトロン8Aからのビームの出射を停止させる。そして走査電磁石64,65に指令信号を出力して次の第2のスポットに対応した励磁電流とした上で、ビーム出射開始信号を出力して開閉スイッチ29を閉じ、シンクロトロン8Aからのビームの出射を開始させる。出射されたイオンビームは、走査電磁石64,65により走査され、第2のスポットに照射される。以上を繰り返し、最下層における各スポットの照射を行う。なお、各スポットごとの必要線量の合計は、ビームエネルギー−線量値テーブルにおいて最下層のビームエネルギーに対応して設定された線量となる。
【0102】
照射制御装置49Cは、積算線量カウンタ(図示せず)により線量モニタ35の検出値を積算する。この積算値がビームエネルギー−線量値テーブルにおいて最下層のビームエネルギーに対応して設定された線量値となったら、ビーム出射停止信号を出力して開閉スイッチ29を開き、シンクロトロン8Aからのビームの出射を停止させる。このとき、シンクロトロン8A内を周回する残ビームは減速される。
【0103】
その後、照射制御装置49Cはビームエネルギー−線量値テーブルに基づき、第2のビームエネルギー設定値を高周波出力制御装置63に出力する。高周波出力制御装置63は、入力されたビームエネルギー値に応じた高周波出力を設定し、その設定値となるように第2高周波電源を制御する。これによりシンクロトロン8A内を周回するイオンビームは第2のエネルギー設定値となるまで加速される。第2のエネルギー設定値まで加速されたイオンビームは出射され、最下層の上の第2層における各スポットに照射される。積算線量値が第2層のビームエネルギーに対応して設定された線量値となったら出射が停止される。その後も同様の制御が行われる。
【0104】
本実施形態では、以上のように、スキャニング方式の照射を行いつつ、前述した実施形態4のインテンシティモジュレーション制御と同様の制御を行う。これにより、図48〜図55で示した複数のSOBP、部分的に線量の異なるSOBP、多門照射を考慮に入れた線量分布を形成することができる。したがって、本実施形態によれば実施形態4と同様に治療時間の短縮及び照射不要部分の被爆量の低減効果を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0105】
【図1】本発明の実施形態1の粒子線出射装置の全体構成を示す図である。
【図2】図1に示す照射装置の内部構成を表す側断面図である。
【図3】線量一様な単一のSOBPを形成するための一般的なリッジフィルタの断面形状を模式的に示す図である。
【図4】図3に示すリッジフィルタを用いることにより形成されるSOBPを含む線量分布を示す図である。
【図5】本発明の実施形態1のリッジフィルタの断面形状を模式的に示す図である。
【図6】図5に示すリッジフィルタを用いることにより形成される複数のSOBPを含む線量分布を示す図である。
【図7】実施形態1により、1つの臓器中の複数箇所に転移したがん等である複数の患部に対して一度に照射を行うことができることを示す説明図である。
【図8】実施形態1により、脊椎等の重要臓器にまたがるがん等の患部に対して一度に照射を行うことができることを示す説明図である。
【図9】線量の異なる複数のSOBPを形成する場合である変形例1のリッジフィルタの断面形状を模式的に示す図である。
【図10】図9に示すリッジフィルタを用いることにより形成される線量の異なる複数のSOBPを含む線量分布を示す図である。
【図11】変形例1により、異なる臓器に転移したがん等である複数の患部に対して適切な線量の照射を行うことができることを示す説明図である。
【図12】部分的に線量の異なるSOBPを形成する場合である変形例2のリッジフィルタの断面形状を模式的に示す図である。
【図13】図12に示すリッジフィルタを用いることにより形成される部分的に線量の異なるSOBPを含む線量分布を示す図である。
【図14】変形例2により、外側と内側で放射線感受性の異なる患部に対して適切な線量の照射を行うことができることを示す説明図である。
【図15】多門照射による重ねあわせによりSOBP以外の部分の線量が低減した線量分布を形成させる場合である変形例3のリッジフィルタの断面形状を模式的に示す図である。
【図16】図15に示すリッジフィルタを用いることにより形成される線量分布を示す図である。
【図17】単純に一様な線量のSOBPが形成される照射を対向2門から行った場合に重ねあわせにより形成される線量分布を示す図である。
【図18】本発明の実施形態2の粒子線出射装置の全体構成を示す図である。
【図19】図18に示す照射装置の内部構成を表す側断面図である。
【図20】図19に示すRMWの全体構造を示す斜視図である。
【図21】幅の異なる3種類の線量一様な単一のSOBPを形成する場合におけるイオンビームの出射ON/OFF制御を説明するための図である。
【図22】幅の異なる3種類の線量一様な単一のSOBPを形成する場合におけるイオンビームの出射ON/OFF制御を説明するための図である。
【図23】図21及び図22に示すビーム出射ON/OFF制御を行うことにより形成される3種類のSOBPを含む線量分布図である。
【図24】本発明の実施形態2におけるビームON/OFFのタイミングをRMWの羽根部の厚さと対応させて示す図である。
【図25】図24に示すビームON/OFF制御を行うことにより得られる複数のSOBPを含む線量分布を示す図である。
【図26】照射制御装置により行われるイオンビームの出射ON/OFFに係る制御の制御フローである。
【図27】線量の異なる複数のSOBPを形成する場合である変形例4のビームON/OFFのタイミングをRMWの羽根部の厚さと対応させて示す図である。
【図28】図27に示すビームON/OFF制御を行うことにより得られる線量の異なる複数のSOBPを含む線量分布を示す図である。
【図29】部分的に線量の異なるSOBPを形成する場合である変形例5のビームON/OFFのタイミングをRMWの羽根部の厚さと対応させて示す図である。
【図30】図29に示すビームON/OFF制御を行うことにより得られる部分的に線量の異なるSOBPを含む線量分布を示す図である。
【図31】多門照射による重ねあわせによりSOBP以外の部分の線量が低減した線量分布を形成させる場合である変形例6のビームON/OFFのタイミングをRMWの羽根部の厚さと対応させて示す図である。
【図32】図31に示すビームON/OFF制御を行うことにより得られるSOBP以外の部分の線量が低減した線量分布を示す図である。
【図33】本発明の実施形態3の粒子線出射装置の全体構成を示す図である。
【図34】線量一様な単一のSOBPを形成する場合におけるイオンビームのビーム量の変化をRMWの羽根部の厚さと対応させて示す図である。
【図35】図34に示すビーム量制御を行うことにより得られる単一のSOBPを含む線量分布を示す図である。
【図36】本発明の実施形態3におけるイオンビームのビーム量の変化をRMWの羽根部の厚さと対応させて示す図である。
【図37】図36に示すビーム量制御を行うことにより得られる複数のSOBPを含む線量分布を示す図である。
【図38】線量の異なる複数のSOBPを形成する場合である変形例7におけるイオンビームのビーム量の変化をRMWの羽根部の厚さと対応させて示す図である。
【図39】図38に示すビーム量制御を行うことにより得られる線量の異なる複数のSOBPを含む線量分布を示す図である。
【図40】部分的に線量の異なるSOBPを形成する場合である変形例8のビーム量の変化をRMWの羽根部の厚さと対応させて示す図である。
【図41】図40に示すビーム量制御を行うことにより得られる部分的に線量の異なるSOBPを含む線量分布を示す図である。
【図42】多門照射による重ねあわせによりSOBP以外の部分の線量が低減した線量分布を形成させる場合である変形例9のビーム量の変化をRMWの羽根部の厚さと対応させて示す図である。
【図43】図42に示すビーム量制御を行うことにより得られるSOBP以外の部分の線量が低減した線量分布を示す図である。
【図44】本発明の実施形態4の粒子線出射装置の全体構成を示す図である。
【図45】図44に示す照射装置の内部構成を表す側断面図である。
【図46】線量一様な単一のSOBPを形成する場合における各ビームエネルギーでの照射時間を示すタイムチャートである。
【図47】図46に示すインテンシティモジュレーション制御を行うことにより得られる単一のSOBPを含む線量分布を示す図である。
【図48】本発明の実施形態4における各ビームエネルギーでの照射時間を示すタイムチャートである。
【図49】図48に示すインテンシティモジュレーション制御を行うことにより得られる複数のSOBPを含む線量分布を示す図である。
【図50】線量の異なる複数のSOBPを形成する場合である変形例10における各ビームエネルギーでの照射時間を示すタイムチャートである。
【図51】図50に示すインテンシティモジュレーション制御を行うことにより得られる線量の異なる複数のSOBPを含む線量分布を示す図である。
【図52】部分的に線量の異なるSOBPを形成する場合である変形例11における各ビームエネルギーでの照射時間を示すタイムチャートである。
【図53】図52に示すインテンシティモジュレーション制御を行うことにより得られる部分的に線量の異なるSOBPを含む線量分布を示す図である。
【図54】多門照射による重ねあわせによりSOBP以外の部分の線量が低減した線量分布を形成させる場合である変形例12における各ビームエネルギーでの照射時間を示すタイムチャートである。
【図55】図54に示すインテンシティモジュレーション制御を行うことにより得られるSOBP以外の部分の線量が低減した線量分布を示す図である。
【図56】本発明の実施形態5の粒子線出射装置の全体構成を示す図である。
【符号の説明】
【0106】
1 粒子線出射装置(荷電粒子ビーム出射装置)
1A 粒子線出射装置(荷電粒子ビーム出射装置)
1B 粒子線出射装置(荷電粒子ビーム出射装置)
1C 粒子線出射装置(荷電粒子ビーム出射装置)
1D 粒子線出射装置(荷電粒子ビーム出射装置)
2 イオンビーム発生装置(荷電粒子ビーム発生装置)
4 照射装置
4A〜4C 照射装置
5 患者(照射対象)
14 飛程調整装置(ビームエネルギー調整装置)
15 リッジフィルタ(拡大ブラッグピーク形成装置)
20 リッジフィルタ(拡大ブラッグピーク形成装置)
21 リッジフィルタ(拡大ブラッグピーク形成装置)
22 リッジフィルタ(拡大ブラッグピーク形成装置)
34 RMW装置(拡大ブラッグピーク形成装置)
35 線量モニタ(線量検出装置)
36 RMW(回転体)
49A 照射制御装置(制御装置)
49B 照射制御装置(制御装置)
49C 照射制御装置(第1制御装置、第2制御装置)
62 高周波出力制御装置(ビーム量調整装置)
63 高周波出力制御装置(ビームエネルギー調整装置)
64,65 走査電磁石(ビーム走査装置)
【特許請求の範囲】
【請求項1】
荷電粒子ビームを照射対象に対して出射する荷電粒子ビーム出射装置において、
前記荷電粒子ビームを発生させる荷電粒子ビーム発生装置と、
前記荷電粒子ビームの進行方向における厚みが異なる複数の領域を有し、前記荷電粒子ビーム発生装置から出射された前記荷電粒子ビームのエネルギーを調整して前記照射対象内に複数の拡大ブラッグピークを形成させる拡大ブラッグピーク形成装置と、
前記拡大ブラッグピーク形成装置を通過した前記荷電粒子ビームを前記照射対象に対して出射する照射装置とを備えたことを特徴とする荷電粒子ビーム出射装置。
【請求項2】
前記照射対象内に線量の異なる複数の拡大ブラッグピークを形成させる前記拡大ブラッグピーク形成装置を備えたことを特徴とする請求項1記載の荷電粒子ビーム出射装置。
【請求項3】
荷電粒子ビームを照射対象に対して出射する荷電粒子ビーム出射装置において、
前記荷電粒子ビームを発生させる荷電粒子ビーム発生装置と、
前記荷電粒子ビームの進行方向における厚みが異なる複数の領域を有し、前記荷電粒子ビーム発生装置から出射された前記荷電粒子ビームのエネルギーを調整して前記照射対象内に部分的に線量の異なる拡大ブラッグピークを形成させる拡大ブラッグピーク形成装置と、
前記拡大ブラッグピーク形成装置を通過した前記荷電粒子ビームを前記照射対象に対して出射する照射装置とを備えたことを特徴とする荷電粒子ビーム出射装置。
【請求項4】
多門照射による重ねあわせにより前記照射対象内における前記拡大ブラッグピーク以外の部分の線量が低減した線量分布を形成させる前記拡大ブラッグピーク形成装置を備えたことを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれかに記載の荷電粒子ビーム出射装置。
【請求項5】
前記ブラッグピーク形成装置は、前記荷電粒子ビームの進行方向における厚み成分が複数存在する複数のリッジを有するリッジフィルタであることを特徴とする請求項4記載の荷電粒子ビーム出射装置。
【請求項6】
前記ブラッグピーク形成装置は、厚みが回転方向において変化して通過する前記荷電粒子ビームのエネルギーを変える回転体であることを特徴とする請求項4記載の荷電粒子ビーム出射装置。
【請求項7】
荷電粒子ビームを照射対象に対して出射する荷電粒子ビーム出射装置において、
前記荷電粒子ビームを発生させる荷電粒子ビーム発生装置と、
前記荷電粒子ビーム発生装置から出射される前記荷電粒子ビームの量を変えるビーム量調整装置と、
厚みが回転方向において変化して通過する前記荷電粒子ビームのエネルギーを変える回転体を有し、前記回転体を通過した前記荷電粒子ビームを前記照射対象に対して出射する照射装置と、
前記回転体の回転時に、前記照射対象内に拡大ブラッグピークが複数形成されるように前記ビーム量調整装置を制御する制御装置とを備えたことを特徴とする荷電粒子ビーム出射装置。
【請求項8】
前記照射対象内に線量の異なる複数の拡大ブラッグピークが形成されるように前記ビーム量調整装置を制御する前記制御装置を備えたことを特徴とする請求項7記載の荷電粒子ビーム出射装置。
【請求項9】
荷電粒子ビームを照射対象に対して出射する荷電粒子ビーム出射装置において、
前記荷電粒子ビームを発生させる荷電粒子ビーム発生装置と、
前記荷電粒子ビーム発生装置から出射される前記荷電粒子ビームの量を変えるビーム量調整装置と、
厚みが回転方向において変化して通過する前記荷電粒子ビームのエネルギーを変える回転体を有し、前記回転体を通過した前記荷電粒子ビームを前記照射対象に対して出射する照射装置と、
前記回転体の回転時に、前記照射対象内に部分的に線量の異なる拡大ブラッグピークが形成されるように前記ビーム量調整装置を制御する制御装置とを備えたことを特徴とする荷電粒子ビーム出射装置。
【請求項10】
多門照射による重ねあわせにより前記照射対象内における前記拡大ブラッグピーク以外の部分の線量が低減した線量分布が形成されるように、前記ビーム量調整装置を制御する前記制御装置を備えたことを特徴とする請求項7乃至請求項9のいずれかに記載の荷電粒子ビーム出射装置。
【請求項11】
荷電粒子ビームを照射対象に対して出射する荷電粒子ビーム出射装置において、
前記荷電粒子ビームを発生させる荷電粒子ビーム発生装置と、
前記荷電粒子ビーム発生装置から出射された前記荷電粒子ビームを前記照射対象に対して出射する照射装置と、
前記照射装置から前記照射対象に対して出射される前記荷電粒子ビームのエネルギーを変えるビームエネルギー調整装置と、
前記照射装置から前記照射対象に対して出射される前記荷電粒子ビームの線量を検出する線量検出装置と、
前記照射対象内に拡大ブラッグピークが複数形成されるように、前記線量検出装置で検出された線量に基づいて前記ビームエネルギー調整装置を制御する制御装置とを備えたことを特徴とする荷電粒子ビーム出射装置。
【請求項12】
前記照射対象内に線量の異なる複数の拡大ブラッグピークが形成されるように、前記線量検出装置で検出された線量に基づいて前記ビームエネルギー調整装置を制御する前記制御装置を備えたことを特徴とする請求項11記載の荷電粒子ビーム出射装置。
【請求項13】
荷電粒子ビームを照射対象に対して出射する荷電粒子ビーム出射装置において、
前記荷電粒子ビームを発生させる荷電粒子ビーム発生装置と、
前記荷電粒子ビーム発生装置から出射された前記荷電粒子ビームを前記照射対象に対して出射する照射装置と、
前記照射装置から前記照射対象に対して出射される前記荷電粒子ビームのエネルギーを変えるビームエネルギー調整装置と、
前記照射装置から前記照射対象に対して出射される前記荷電粒子ビームの線量を検出する線量検出装置と、
前記照射対象内に部分的に線量の異なる拡大ブラッグピークが形成されるように、前記線量検出装置で検出された線量に基づいて前記ビームエネルギー調整装置を制御する制御装置とを備えたことを特徴とする荷電粒子ビーム出射装置。
【請求項14】
多門照射による重ねあわせにより前記照射対象内における前記拡大ブラッグピーク以外の部分の線量が低減した線量分布が形成されるように、前記線量検出装置で検出された線量に基づいて前記ビームエネルギー調整装置を制御する前記制御装置を備えたことを特徴とする請求項11乃至請求項13のいずれかに記載の荷電粒子ビーム出射装置。
【請求項15】
荷電粒子ビームを照射対象に対して出射する荷電粒子ビーム出射装置において、
前記荷電粒子ビームを発生させる荷電粒子ビーム発生装置と、
前記荷電粒子ビーム発生装置から出射される前記荷電粒子ビームのエネルギーを変えるビームエネルギー調整装置と、
前記荷電粒子ビーム発生装置から出射された前記荷電粒子ビームを走査するビーム走査装置を有し、前記荷電粒子ビームを前記照射対象に対して出射する照射装置と、
前記照射装置から前記照射対象に対して出射される前記荷電粒子ビームの線量を検出する線量検出装置と、
前記線量検出装置で検出された線量に基づいて前記ビーム走査装置を制御する第1制御装置と、
前記照射対象内に拡大ブラッグピークが複数形成されるように、前記線量検出装置で検出された線量に基づいて前記ビームエネルギー調整装置を制御する第2制御装置とを備えたことを特徴とする荷電粒子ビーム出射装置。
【請求項16】
前記照射対象内に線量の異なる複数の拡大ブラッグピークが形成されるように、前記線量検出装置で検出された線量に基づいて前記ビームエネルギー調整装置を制御する前記第2制御装置を備えたことを特徴とする請求項15記載の荷電粒子ビーム出射装置。
【請求項17】
荷電粒子ビームを照射対象に対して出射する荷電粒子ビーム出射装置において、
前記荷電粒子ビームを発生させる荷電粒子ビーム発生装置と、
前記荷電粒子ビーム発生装置から出射される前記荷電粒子ビームのエネルギーを変えるビームエネルギー調整装置と、
前記荷電粒子ビーム発生装置から出射された前記荷電粒子ビームを走査するビーム走査装置を有し、前記荷電粒子ビームを前記照射対象に対して出射する照射装置と、
前記照射装置から前記照射対象に対して出射される前記荷電粒子ビームの線量を検出する線量検出装置と、
前記線量検出装置で検出された線量に基づいて前記ビーム走査装置を制御する第1制御装置と、
前記照射対象内に部分的に線量の異なる拡大ブラッグピークが形成されるように、前記線量検出装置で検出された線量に基づいて前記ビームエネルギー調整装置を制御する第2制御装置とを備えたことを特徴とする荷電粒子ビーム出射装置。
【請求項18】
多門照射による重ねあわせにより前記照射対象内における前記拡大ブラッグピーク以外の部分の線量が低減した線量分布が形成されるように、前記線量検出装置で検出された線量に基づいて前記ビームエネルギー調整装置を制御する前記第2制御装置を備えたことを特徴とする請求項15乃至請求項17のいずれかに記載の荷電粒子ビーム出射装置。
【請求項19】
荷電粒子ビーム発生装置から出射された荷電粒子ビームを照射対象に出射させる荷電粒子ビーム出射方法において、
前記照射対象内に複数の拡大ブラッグピークが形成されるように前記荷電粒子ビームのエネルギーを調整して出射することを特徴とする荷電粒子ビーム出射方法。
【請求項20】
前記照射対象内に線量の異なる複数の拡大ブラッグピークが形成されるように前記荷電粒子ビームのエネルギーを調整することを特徴とする請求項19記載の荷電粒子ビーム出射方法。
【請求項21】
荷電粒子ビーム発生装置から出射された荷電粒子ビームを照射対象に出射させる荷電粒子ビーム出射方法において、
前記照射対象内に部分的に線量の異なる拡大ブラッグピークが形成されるように前記荷電粒子ビームのエネルギーを調整して出射することを特徴とする荷電粒子ビーム出射方法。
【請求項22】
多門照射による重ねあわせにより前記照射対象内における前記拡大ブラッグピーク以外の部分の線量が低減した線量分布が形成されるように、前記荷電粒子ビームのエネルギーを調整することを特徴とする請求項19乃至請求項21のいずれかに記載の荷電粒子ビーム出射方法。
【請求項1】
荷電粒子ビームを照射対象に対して出射する荷電粒子ビーム出射装置において、
前記荷電粒子ビームを発生させる荷電粒子ビーム発生装置と、
前記荷電粒子ビームの進行方向における厚みが異なる複数の領域を有し、前記荷電粒子ビーム発生装置から出射された前記荷電粒子ビームのエネルギーを調整して前記照射対象内に複数の拡大ブラッグピークを形成させる拡大ブラッグピーク形成装置と、
前記拡大ブラッグピーク形成装置を通過した前記荷電粒子ビームを前記照射対象に対して出射する照射装置とを備えたことを特徴とする荷電粒子ビーム出射装置。
【請求項2】
前記照射対象内に線量の異なる複数の拡大ブラッグピークを形成させる前記拡大ブラッグピーク形成装置を備えたことを特徴とする請求項1記載の荷電粒子ビーム出射装置。
【請求項3】
荷電粒子ビームを照射対象に対して出射する荷電粒子ビーム出射装置において、
前記荷電粒子ビームを発生させる荷電粒子ビーム発生装置と、
前記荷電粒子ビームの進行方向における厚みが異なる複数の領域を有し、前記荷電粒子ビーム発生装置から出射された前記荷電粒子ビームのエネルギーを調整して前記照射対象内に部分的に線量の異なる拡大ブラッグピークを形成させる拡大ブラッグピーク形成装置と、
前記拡大ブラッグピーク形成装置を通過した前記荷電粒子ビームを前記照射対象に対して出射する照射装置とを備えたことを特徴とする荷電粒子ビーム出射装置。
【請求項4】
多門照射による重ねあわせにより前記照射対象内における前記拡大ブラッグピーク以外の部分の線量が低減した線量分布を形成させる前記拡大ブラッグピーク形成装置を備えたことを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれかに記載の荷電粒子ビーム出射装置。
【請求項5】
前記ブラッグピーク形成装置は、前記荷電粒子ビームの進行方向における厚み成分が複数存在する複数のリッジを有するリッジフィルタであることを特徴とする請求項4記載の荷電粒子ビーム出射装置。
【請求項6】
前記ブラッグピーク形成装置は、厚みが回転方向において変化して通過する前記荷電粒子ビームのエネルギーを変える回転体であることを特徴とする請求項4記載の荷電粒子ビーム出射装置。
【請求項7】
荷電粒子ビームを照射対象に対して出射する荷電粒子ビーム出射装置において、
前記荷電粒子ビームを発生させる荷電粒子ビーム発生装置と、
前記荷電粒子ビーム発生装置から出射される前記荷電粒子ビームの量を変えるビーム量調整装置と、
厚みが回転方向において変化して通過する前記荷電粒子ビームのエネルギーを変える回転体を有し、前記回転体を通過した前記荷電粒子ビームを前記照射対象に対して出射する照射装置と、
前記回転体の回転時に、前記照射対象内に拡大ブラッグピークが複数形成されるように前記ビーム量調整装置を制御する制御装置とを備えたことを特徴とする荷電粒子ビーム出射装置。
【請求項8】
前記照射対象内に線量の異なる複数の拡大ブラッグピークが形成されるように前記ビーム量調整装置を制御する前記制御装置を備えたことを特徴とする請求項7記載の荷電粒子ビーム出射装置。
【請求項9】
荷電粒子ビームを照射対象に対して出射する荷電粒子ビーム出射装置において、
前記荷電粒子ビームを発生させる荷電粒子ビーム発生装置と、
前記荷電粒子ビーム発生装置から出射される前記荷電粒子ビームの量を変えるビーム量調整装置と、
厚みが回転方向において変化して通過する前記荷電粒子ビームのエネルギーを変える回転体を有し、前記回転体を通過した前記荷電粒子ビームを前記照射対象に対して出射する照射装置と、
前記回転体の回転時に、前記照射対象内に部分的に線量の異なる拡大ブラッグピークが形成されるように前記ビーム量調整装置を制御する制御装置とを備えたことを特徴とする荷電粒子ビーム出射装置。
【請求項10】
多門照射による重ねあわせにより前記照射対象内における前記拡大ブラッグピーク以外の部分の線量が低減した線量分布が形成されるように、前記ビーム量調整装置を制御する前記制御装置を備えたことを特徴とする請求項7乃至請求項9のいずれかに記載の荷電粒子ビーム出射装置。
【請求項11】
荷電粒子ビームを照射対象に対して出射する荷電粒子ビーム出射装置において、
前記荷電粒子ビームを発生させる荷電粒子ビーム発生装置と、
前記荷電粒子ビーム発生装置から出射された前記荷電粒子ビームを前記照射対象に対して出射する照射装置と、
前記照射装置から前記照射対象に対して出射される前記荷電粒子ビームのエネルギーを変えるビームエネルギー調整装置と、
前記照射装置から前記照射対象に対して出射される前記荷電粒子ビームの線量を検出する線量検出装置と、
前記照射対象内に拡大ブラッグピークが複数形成されるように、前記線量検出装置で検出された線量に基づいて前記ビームエネルギー調整装置を制御する制御装置とを備えたことを特徴とする荷電粒子ビーム出射装置。
【請求項12】
前記照射対象内に線量の異なる複数の拡大ブラッグピークが形成されるように、前記線量検出装置で検出された線量に基づいて前記ビームエネルギー調整装置を制御する前記制御装置を備えたことを特徴とする請求項11記載の荷電粒子ビーム出射装置。
【請求項13】
荷電粒子ビームを照射対象に対して出射する荷電粒子ビーム出射装置において、
前記荷電粒子ビームを発生させる荷電粒子ビーム発生装置と、
前記荷電粒子ビーム発生装置から出射された前記荷電粒子ビームを前記照射対象に対して出射する照射装置と、
前記照射装置から前記照射対象に対して出射される前記荷電粒子ビームのエネルギーを変えるビームエネルギー調整装置と、
前記照射装置から前記照射対象に対して出射される前記荷電粒子ビームの線量を検出する線量検出装置と、
前記照射対象内に部分的に線量の異なる拡大ブラッグピークが形成されるように、前記線量検出装置で検出された線量に基づいて前記ビームエネルギー調整装置を制御する制御装置とを備えたことを特徴とする荷電粒子ビーム出射装置。
【請求項14】
多門照射による重ねあわせにより前記照射対象内における前記拡大ブラッグピーク以外の部分の線量が低減した線量分布が形成されるように、前記線量検出装置で検出された線量に基づいて前記ビームエネルギー調整装置を制御する前記制御装置を備えたことを特徴とする請求項11乃至請求項13のいずれかに記載の荷電粒子ビーム出射装置。
【請求項15】
荷電粒子ビームを照射対象に対して出射する荷電粒子ビーム出射装置において、
前記荷電粒子ビームを発生させる荷電粒子ビーム発生装置と、
前記荷電粒子ビーム発生装置から出射される前記荷電粒子ビームのエネルギーを変えるビームエネルギー調整装置と、
前記荷電粒子ビーム発生装置から出射された前記荷電粒子ビームを走査するビーム走査装置を有し、前記荷電粒子ビームを前記照射対象に対して出射する照射装置と、
前記照射装置から前記照射対象に対して出射される前記荷電粒子ビームの線量を検出する線量検出装置と、
前記線量検出装置で検出された線量に基づいて前記ビーム走査装置を制御する第1制御装置と、
前記照射対象内に拡大ブラッグピークが複数形成されるように、前記線量検出装置で検出された線量に基づいて前記ビームエネルギー調整装置を制御する第2制御装置とを備えたことを特徴とする荷電粒子ビーム出射装置。
【請求項16】
前記照射対象内に線量の異なる複数の拡大ブラッグピークが形成されるように、前記線量検出装置で検出された線量に基づいて前記ビームエネルギー調整装置を制御する前記第2制御装置を備えたことを特徴とする請求項15記載の荷電粒子ビーム出射装置。
【請求項17】
荷電粒子ビームを照射対象に対して出射する荷電粒子ビーム出射装置において、
前記荷電粒子ビームを発生させる荷電粒子ビーム発生装置と、
前記荷電粒子ビーム発生装置から出射される前記荷電粒子ビームのエネルギーを変えるビームエネルギー調整装置と、
前記荷電粒子ビーム発生装置から出射された前記荷電粒子ビームを走査するビーム走査装置を有し、前記荷電粒子ビームを前記照射対象に対して出射する照射装置と、
前記照射装置から前記照射対象に対して出射される前記荷電粒子ビームの線量を検出する線量検出装置と、
前記線量検出装置で検出された線量に基づいて前記ビーム走査装置を制御する第1制御装置と、
前記照射対象内に部分的に線量の異なる拡大ブラッグピークが形成されるように、前記線量検出装置で検出された線量に基づいて前記ビームエネルギー調整装置を制御する第2制御装置とを備えたことを特徴とする荷電粒子ビーム出射装置。
【請求項18】
多門照射による重ねあわせにより前記照射対象内における前記拡大ブラッグピーク以外の部分の線量が低減した線量分布が形成されるように、前記線量検出装置で検出された線量に基づいて前記ビームエネルギー調整装置を制御する前記第2制御装置を備えたことを特徴とする請求項15乃至請求項17のいずれかに記載の荷電粒子ビーム出射装置。
【請求項19】
荷電粒子ビーム発生装置から出射された荷電粒子ビームを照射対象に出射させる荷電粒子ビーム出射方法において、
前記照射対象内に複数の拡大ブラッグピークが形成されるように前記荷電粒子ビームのエネルギーを調整して出射することを特徴とする荷電粒子ビーム出射方法。
【請求項20】
前記照射対象内に線量の異なる複数の拡大ブラッグピークが形成されるように前記荷電粒子ビームのエネルギーを調整することを特徴とする請求項19記載の荷電粒子ビーム出射方法。
【請求項21】
荷電粒子ビーム発生装置から出射された荷電粒子ビームを照射対象に出射させる荷電粒子ビーム出射方法において、
前記照射対象内に部分的に線量の異なる拡大ブラッグピークが形成されるように前記荷電粒子ビームのエネルギーを調整して出射することを特徴とする荷電粒子ビーム出射方法。
【請求項22】
多門照射による重ねあわせにより前記照射対象内における前記拡大ブラッグピーク以外の部分の線量が低減した線量分布が形成されるように、前記荷電粒子ビームのエネルギーを調整することを特徴とする請求項19乃至請求項21のいずれかに記載の荷電粒子ビーム出射方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図25】
【図26】
【図27】
【図28】
【図29】
【図30】
【図31】
【図32】
【図33】
【図34】
【図35】
【図36】
【図37】
【図38】
【図39】
【図40】
【図41】
【図42】
【図43】
【図44】
【図45】
【図46】
【図47】
【図48】
【図49】
【図50】
【図51】
【図52】
【図53】
【図54】
【図55】
【図56】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図25】
【図26】
【図27】
【図28】
【図29】
【図30】
【図31】
【図32】
【図33】
【図34】
【図35】
【図36】
【図37】
【図38】
【図39】
【図40】
【図41】
【図42】
【図43】
【図44】
【図45】
【図46】
【図47】
【図48】
【図49】
【図50】
【図51】
【図52】
【図53】
【図54】
【図55】
【図56】
【公開番号】特開2006−280457(P2006−280457A)
【公開日】平成18年10月19日(2006.10.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−101400(P2005−101400)
【出願日】平成17年3月31日(2005.3.31)
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成18年10月19日(2006.10.19)
【国際特許分類】
【出願日】平成17年3月31日(2005.3.31)
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)
【Fターム(参考)】
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