説明

荷電粒子ビーム照射システムおよび円形加速器の運転方法

【課題】スキャニング照射等で必要な粒子線の出射電流を簡便な制御機器で安定に変更可能な荷電粒子ビーム照射システムを提供すること。
【解決手段】入射された荷電粒子を偏向電磁石により偏向させて周回軌道に沿って周回させ荷電粒子ビームを形成し、荷電粒子を高周波加速空洞に印加する高周波電圧により加速し、収束用電磁石により荷電粒子ビームを収束させ、六極電磁石により周回軌道に共鳴を励起し、出射装置により荷電粒子を周回軌道から取り出す円形加速器から出射される荷電粒子ビームを照射対象に照射する荷電粒子ビーム照射システムにおいて、高周波加速空洞に印加する高周波電圧のパラメータを制御することにより、周回軌道から取り出す荷電粒子の出射電流を変更するようにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、円形加速器により加速した荷電粒子を荷電粒子ビームとして取り出して照射対象に照射する荷電粒子ビーム照射システムに関する。
【背景技術】
【0002】
シンクロトロン等の円形加速器で荷電粒子を周回加速させ、高エネルギーまで加速された荷電粒子をその周回軌道から取り出し、ビーム状となった荷電粒子(荷電粒子ビーム、粒子線とも称する)をビーム輸送系で輸送して所望の対象物に照射する物理実験や、癌の治療などの医療用として利用されている。シンクロトロンは、荷電粒子ビームを長時間周回させるための真空ダクト、周回軌道や荷電粒子ビームサイズを制御するための偏向磁場や収束磁場を発生する電磁石群、周回周期に同期した高周波電圧(加速電圧とも称する)でビームを加速する高周波加速装置、真空ダクトに荷電粒子を導入する入射装置、荷電粒子を円形加速器外に取り出す出射装置を備える。上記構成要素の中で、高周波加速装置は、加速電圧を発生する高周波源、この高周波源を制御する高周波源制御装置と、加速電圧を印加する高周波加速空洞(加速空洞とも呼ぶ)と、周回ビームの軌道及び強度を検出するビームモニタ、加速空洞に発生する高周波電圧を検出する電圧ピックアップ等を備える。
【0003】
円形加速器の運転は、入射、加速、出射で構成される。高周波加速装置は、入射では時間的に一様分布の入射ビームに加速電圧を印加することで安定加速領域上にビームの塊(
バンチ)を形成する。加速では、加速空洞に印加する加速電圧の周波数を増加させる。円
形加速器の一種であるシンクロトロン(円形加速器は周回半径が一定であるシンクロトロンの他に、周回半径が加速とともに大きくなるサイクロトロン等がある)では、ビームの周回半径を一定にするため、高周波加速装置は偏向電磁石による偏向磁場強度にあわせて加速電圧周波数を制御する。最高エネルギーまで加速されたビームは、最後に出射装置から円形加速器外へ取り出す。
【0004】
従来円形加速器からビームを取り出すとき、その出射ビーム強度(単位時間当たりに出射する荷電粒子の量、出射電流とも呼ぶ)を変更するためには、出射機器の1つであるRFノックアウト電極で周回ビームに高周波電圧を与えて出射を行なう(例えば特許文献1
)。印加する高周波電圧に対する出射ビーム強度の関係は前もって実験等で求めておき、制御データを予めパターンデータとして制御コンピュータ等に格納しておく。出射は荷電粒子の共鳴現象を利用しておこなっている為、出射ビーム強度の調整パラメータは0.1%レベルの非常に高精度が要求される。
【0005】
一方、シンクロトロンで加速できる荷電粒子の量、すなわち加速電流を最大化するために、高周波加速電圧の波形を最適化する技術が知られている(例えば特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2007−260193号公報
【特許文献2】特開2002−75698号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
以上のような円形加速器を用いた荷電粒子ビーム照射システムには、以下の様な問題点があった。荷電粒子の出射時には共鳴出射という手法で粒子線(荷電粒子ビーム)を取り
出すが、その制御パラメータは0.1%レベルの高精度の調整が必要であり、スキャニング照射等で多くのエネルギーの粒子線が必要であり、且つ、出射電流を変更する必要がある場合には長時間の調整時間が必要であった。
本発明では、上記の課題を解決し、スキャニング照射等で必要な粒子線の出射電流を簡便な制御機器で安定に変更可能な荷電粒子ビーム照射システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
この発明に係る荷電粒子ビーム照射システムは、荷電粒子を周回軌道に沿って周回させて荷電粒子ビームを形成する偏向電磁石と、荷電粒子を加速するための高周波加速空洞と、この高周波加速空洞に高周波を入射させる高周波源と、荷電粒子ビームを収束させるための収束用電磁石と、周回軌道に共鳴を励起するための六極電磁石と、荷電粒子を周回軌道から取り出すための出射装置とを備えた円形加速器と、周回軌道から出射された荷電粒子ビームを輸送するビーム輸送系と、このビーム輸送系により輸送された荷電粒子ビームを対象物に照射するビーム照射系と、対象物に照射する荷電粒子ビームを制御するためのビーム照射制御装置とを備えた荷電粒子ビーム照射システムにおいて、高周波源が発生する高周波を制御する高周波源制御装置を備え、この高周波源制御装置は、ビーム照射制御装置から送られてくる、ビーム照射系が必要とする荷電粒子ビームのビーム強度の信号に基づいて、高周波源が発生する高周波のパラメータを制御するようにしたものである。
【発明の効果】
【0009】
この発明によれば、簡便な制御方法と制御機器で安定に粒子線の出射電流を変更でき、対象物に必要な粒子線強度が安定に得られる荷電粒子ビーム照射システムが得られる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の実施の形態1による荷電粒子ビーム照射システムの概略構成を示すブロック図である。
【図2】本発明の実施の形態1による荷電粒子ビーム照射システムの動作を説明する模式的な線図である。
【図3】本発明の実施の形態1による荷電粒子ビーム照射システムの動作を説明する別の模式的な線図である。
【図4】本発明の実施の形態1による荷電粒子ビーム照射システムの加速パターンの一例を示す線図である。
【図5】本発明の実施の形態1による荷電粒子ビーム照射システムの加速電流と出射電流の関係の一例を示す線図である。
【図6】従来の荷電粒子ビーム照射システムの加速電流と出射電流の関係の一例を示す線図である。
【図7】患者の患部に粒子線を照射するときの模式図である。
【図8】本発明の実施の形態2による荷電粒子ビーム照射システムの動作を説明する模式的な線図である。
【図9】本発明の実施の形態2による荷電粒子ビーム照射システムの動作を説明する別の模式的な線図である。
【図10】本発明の実施の形態3による荷電粒子ビーム照射システムの概略構成を示すブロック図である。
【図11】本発明の実施の形態3による荷電粒子ビーム照射システムの動作の一例を示す線図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
実施の形態1.
図1は、本発明の実施の形態1による荷電粒子ビーム照射システムの概略構成を示すブ
ロック図である。図1において、1はシンクロトロンである円形加速器で概略以下の構成要素で構成される。すなわち、円形加速器1は、前段加速器2、荷電粒子ビームを長時間周回させるための真空ダクト3、前段加速器2からの荷電粒子を真空ダクト3に入射させるための入射装置4、荷電粒子が真空ダクト3内の周回軌道に沿って周回して荷電粒子ビームを形成するよう荷電粒子の軌道を偏向させるための偏向電磁石5a、5b、5c、5d(これらをまとめて偏向電磁石5とも称する)、周回軌道上に形成された荷電粒子ビームが発散しないように収束させる収束用電磁石6a、6b、6c、6d(これらをまとめて収束用電磁石6とも称する)、周回する荷電粒子に同期した高周波電圧を与えて加速する高周波加速空洞7、円形加速器内の荷電粒子ビームを円形加速器1外に取り出すための出射装置8、荷電粒子ビームの周回軌道に共鳴を励起して出射装置8から荷電粒子を出射させるための六極電磁石9、高周波加速空洞7に高周波電圧を供給するための高周波源10、高周波源10を制御する高周波制御装置11、発生する磁場を制御するため偏向電磁石の励磁電流を制御する偏向電磁石制御装置12、高周波制御装置11、偏向電磁石制御装置12や収束用電磁石6などその他のコンポーネントを制御して円形加速器1全体を制御する円形加速器制御装置13などにより構成されている。本発明では、高周波源制御装置11は内部に高周波源10が発生する高周波電圧のパラメータの一つである波形を制御する高周波電圧波形制御部110を備えている。
【0012】
また、20は出射装置8から出射した荷電粒子ビームを輸送するビーム輸送系、30はビーム輸送系20により輸送されてきた荷電粒子ビームを照射対象に照射するビーム照射系である。40は照射するビームを制御するビーム照射制御装置で、ビーム照射系30や円形加速器制御装置13を制御する。荷電粒子ビームの照射対象が例えば癌組織である場合、すなわち荷電粒子ビーム照射システムが荷電粒子ビームを利用した粒子線治療システムである場合、ビーム照射制御装置40は、治療計画装置を含み、治療計画にしたがって照射に必要なビームエネルギー、ビーム強度、ビームのON/OFFのタイミングなどの情報をビーム照射系30や円形加速器制御装置13に送り、円形加速器1からビーム照射系30が必要とする荷電粒子ビームを出射させる。
【0013】
上記のように、前段加速器2から入射装置4により真空ダクト3に入射させた荷電粒子を偏向電磁石5によって偏向させて周回軌道を周回させる。その間、荷電粒子は高周波加速空洞7を通過する際に高周波からエネルギーを与えられて加速される。加速するためには周回する荷電粒子の周回周期と同期して高周波加速電圧を与える必要がある。また、偏向電磁石5による磁場が同じであれば荷電粒子の加速に従って荷電粒子の偏向角度が小さくなるため、荷電粒子の加速に従って偏向電磁石5による磁場を増加させて荷電粒子が一定の周回軌道を周回して荷電粒子ビームを形成するように制御する。このとき、荷電粒子ビームの発散状態も変化するので収束用電磁石6の磁場も変化させて荷電粒子ビームが発散しないように制御する。このように、高周波源10の周波数と電圧および偏向電磁石5の励磁電流を制御して荷電粒子が真空ダクト3で形成する通路に合うように周回して荷電粒子ビームを形成するよう制御することにより、荷電粒子が高周波からエネルギーを得て加速される。
【0014】
なお、収束用電磁石6は円形加速器に必ずしも必要ではなく、偏向電磁石の端部のエッジ角度を調整することで収束用電磁石の働きをさせることができるため、収束電磁石を備えない円形加速器もある。
【0015】
このように、偏向電磁石5の励磁電流は、入射時一定の励磁電流を加速時に増加してゆくが、荷電粒子が所定のエネルギーに達したら偏向電磁石5の励磁電流を再度一定にし、共鳴励起用六極電磁石9や出射装置8のパラメータ、すなわち出射パラメータを制御して荷電粒子を出射させる。荷電粒子の出射の終了後は偏向電磁石5の励磁電流を下げる。これを繰り返すことで円形加速器を用いた入射、加速、出射を行う。
【0016】
高周波加速空洞7で周回する荷電粒子は、荷電粒子が高周波加速空洞7を通過する際に印加されている高周波加速電圧の位相が加速する位相になっているときに加速される。すなわち、高周波加速電圧と同期して通過する荷電粒子が加速されてゆく。図2(a)、(b)に高周波加速空洞に印加する加速電圧と加速できるビーム電流の時間波形の模式図を示す。図2(a)の波形は、高周波源制御装置11により高周波源10を制御して作成し、高周波加速空洞7に印加する電圧波形を示す。点線が正弦波、実線が非正弦波である。図2(b)が円形加速器で加速できるビーム電流(加速電流)を示す。点線が正弦波を印加したとき、実線が非正弦波を印加したときである。非正弦波を印加すると荷電粒子ビームの時間幅を、正弦波を印加した場合よりも長くすることができる。すなわち非正弦波を印加すると正弦波を印加したときより多くの荷電粒子を加速することができ加速電流を大きくできる。
【0017】
高周波電圧の波形作成は以下の様に実施する。基本波に高調波を加えると非正弦波を作成することができる。図2において、点線が基本波のみの波形、実線が3倍の高調波を印加したときの波形の一例である。ここで基本波と3倍の高調波の加速電圧比が1:0.5迄の時には3倍の高調波が大きいほど加速電流が増加する。図3に、高調波の基本波に対する3倍高調波の比率と加速電流の大きさの関係の模式図を示す。この図から、3倍の高調波の振幅強度を調整することで加速電流の調整が可能であることがわかる。基本波に3倍高調波を加えた高周波加速電圧により加速した場合、基本波のみで加速したときと同じ出射パラメータで出射させれば、加速電流にほぼ比例した出射電流を実現することができる。
【0018】
なお、加速時には、加速にしたがって、例えば1MHzから10MHzに徐々に基本波
の周波数を増加させてゆく。3倍高調波も基本波の周波数の変化に追随して3MHzから30MHzに変化させる必要がある。3倍高調波は基本波を基に発生させれば、基本波の周波数の変化に追随した3倍高調波の発生は簡単に行える。また、空間電荷(荷電粒子と荷電粒子が反発しあう効果)の影響は低エネルギー時が大きく、高エネルギー時には影響が小さいので、ある加速エネルギー(例えば陽子で20MeV程度)まで3倍の高調波を励
振させ、その後は基本波のみにしても同様の効果を奏する。
【0019】
以上では、基本波に3倍高調波を加えることで非正弦波を作成する例を説明したが、基本波に2倍高調波を加えることでも非正弦波を作成できる。基本波に加える2倍高調波の振幅を変化させることで高周波電圧の波形を変化させることができるので、2倍高調波の振幅により出射電流を制御できる。また、基本波に4倍以上の高調波を加え、加える高調波の振幅を変化させることでも高周波電圧の波形を変化でき、さらに、2倍高調波と3倍高調波といった複数の異なる倍数の高調波を加え、加える高調波の振幅を変化させることでも高周波電圧の波形を変化できる。このように、基本波に2倍以上の高調波を加え、加えた高調波の振幅を変化させることで高周波電圧の波形を変化でき、加速電流を変化させることができる。
【0020】
このように、高周波源10で発生する高周波電圧の波形を変化させることで加速電流を変化でき、出射パラメータは固定のままで出射電流を変化させることができるので、高周波電圧の波形の制御によりビーム照射系30が必要とするビーム強度を得るための制御ができる。
【0021】
図4(a)、(b)に円形加速器の加速パターン(加速された荷電粒子のエネルギー)と出射電流の関係の一例を示す。荷電粒子はAの期間で必要なエネルギーまで加速された後そのエネルギー、すなわちその速度で円形加速器の周回軌道を周回する。この一定のエネルギーで周回する荷電粒子を、Bの期間で出射装置8から出射するように出射パラメー
タを設定して出射電流として取り出す。本発明では1回の加速毎に高周波電圧の波形を変えて加速電流値を変更し、同じ出射パラメータでビームを取り出す。図4(b)の例では1回の加速で4回のビーム出射を行なっているが、ビーム照射系30からの要求によっては1回連続して出射する場合もある。
【0022】
図5(a)、(b)に本発明の荷電粒子ビーム照射システムにおける円形加速器1の加
速電流と出射電流の関係を示す。最初の加速では、例えば3倍高調波の基本波に対する比率を0.5として大電流を加速し、大電流のビームを出射する。2回目の加速では例えば3倍高調波の基本波に対する比率を0.25として加速する電流を1回目よりも小さくして、1回目の加速のときと同様の出射パラメータでビームを取り出すと、出射する電流は1回目よりも小電流となる。このようにして、出射パラメータを変えずに3倍高調波の比率を変えることで高周波源10が発生する高周波電圧の波形を変えて出射電流を制御できる。
【0023】
図6(a)、(b)に従来の円形加速器の加速電流と出射電流の関係を示す。加速電流は一定で、出射パラメータを変更することで出射電流強度を変化させている。すなわち、所定のエネルギーまで加速後に円形加速器1の周回軌道を周回している荷電粒子の数は毎回同じで、時間当たりの出射個数が変わるように出射パラメータを変えて出射電流の値を変えていた。これに対して、本発明では、上記したように、高周波加速電圧の波形を変化させることで円形加速器1の周回軌道を周回する荷電粒子の数を変化させ、出射パラメータを変更せずに出射電流の値を変化させるようにした。
【0024】
ここで、荷電粒子ビーム(粒子線)を粒子線治療装置に用いる例を説明する。図7に、粒子線を円形加速器から取り出し、照射室で患者の患部に照射するときの模式図を示す。粒子線を患部に照射すると、粒子線のエネルギーにより粒子線が停まる深さ方向の距離が変化する。また、照射された粒子線が患部で停止するまでに通過する経路に与えるエネルギー密度すなわち線量は粒子線の停止位置で最大値を有する。
【0025】
このため、直径10mm弱の細い粒子線を走査しながら患部にあわせた形状の照射を行なう手法であるスキャニング照射法では、患部の深さ方向を数層から数10層に分割(図3ではa、b、c、dの4層に分割)し、それぞれの層を細い粒子線で走査し照射していく。深さ方向の調整は粒子線のエネルギーを変更することで行なう。1つの層内でも位置に応じて照射する線量が異なるので、個々のスポットを照射する時間を制御することで線量を所定線量とする制御が必要となる。また、各層はスライス断面の大きさが大きく異なる場合があり、1つの出射ビーム強度で線量を管理する場合以下のような課題がある。低い出射ビーム強度で照射すると、患部全体を照射するとき照射時間を要する。高い出射ビーム高度で照射するとスライス断面が小さいときには非常に速くビームを走査するかOn/Offする必要があり、十分な高精度の照射がむずかしい。よってスライス断面の面積に応じて数種類の出射ビーム強度でビームを照射することにより高精度で短時間の照射を実現することができる。
【0026】
そこで、患部形状に合わせた照射を行なうようビーム照射制御装置40で次のスライス面のパラメータを生成して円形加速器制御装置13に送り、円形加速器制御装置13が必要な加速電流を決定して高周波源制御装置に送り、この加速電流を得るための高周波電圧波形を高周波源制御装置11の高周波電圧波形制御部110が生成して高周波加源10に電圧波形を送り、高周波加速空洞7で高周波電圧を印加し加速電流を制御する。
このように構成することで、簡便な制御方法と制御機器で安定に粒子線の出射電流を変更できる。
【0027】
実施の形態2.
実施の形態1では、高周波電圧波形の作成を、3倍の高調波の振幅を調整することで行なったが、振幅を一定とし、3倍高調波と基本波間の位相を調整しても高周波電圧の波形を変化させることができる。具体的には3倍の高調波と基本波間の位相を加速電流が最大となる位相(最適位相)に調整し、3倍高調波を最適位相からずらしてゆくと加速電流を減少させていくことが可能となる。出射は基本波のみのときと同じ出射パラメータで実施し、加速電流に概比例した出射電流を実現することが可能となる。
【0028】
図8および図9に3倍高調波の位相を最適位相からずらしたときの高周波電圧波形と、その波形で加速したときの加速電流を示す。図8(a)の実線で示す波形は、図2(a)に示す実線の波形から3倍高調波の位相を15度ずらしたときの波形である。図8(b)の実線はそのときの加速電流であり、点線で示すのは正弦波(基本波のみ)で加速した時の加速電流である。図2(b)と比較して実線で示す加速電流の位相幅(時間幅に相当する)が狭くなっており、3倍高調波の位相をずらすことにより加速電流が減少していることが分かる。さらに、図9(a)、(b)は3倍高調波の位相をさらに15度、すなわち図2(a)の波形から30度ずらした時の加速電圧の波形とその時の加速電流を示したものである。実線で示す加速電流の時間幅は図8(b)で示す時間幅よりもさらに狭くなっており、加速電流がさらに減少している。このように、3倍高調波の位相を変化させることで加速電流を変化させることができる。また、3倍高調波の位相を変化させて高周波電圧の波形を変化させると、正弦波で加速するよりも加速電流を減少させることもできる。位相に加えて3倍高調波の振幅も変化させることで、加速電流の変化の範囲をさらに広げることができる。
【0029】
実施の形態1で説明したように、基本波に2倍高調波を加えることでも非正弦波を作成できる。基本波に加える2倍高調波の位相を変化させることで高周波電圧の波形を変化させることができるので、2倍高調波の位相により出射電流を制御できる。また、基本波に4倍以上の高調波を加え、加える高調波の位相を変化させることでも高周波電圧の波形を変化でき、さらに、2倍高調波と3倍高調波といった複数の異なる倍数の高調波を加え、加える高調波の位相を変化させることでも高周波電圧の波形を変化できる。このように、基本波に2倍以上の高調波を加え、加える高調波の位相を変化させることで高周波電圧の波形を変化でき、加速電流を変化させることができる。また、位相に加えて高調波の振幅も変化させることで、加速電流の変化の範囲をさらに広げることができる。
以上のように、本実施の形態2によれば、簡便な制御方法と制御機器で安定に粒子線の出射電流を変更できる。
【0030】
実施の形態3.
図10は、本発明の実施の形態3による荷電粒子ビーム照射システムの概略構成を示すブロック図である。図10において、図1と同一符号は同一または相当する部分を示す。図10において、図1と異なる部分は、高周波源制御装置11に、高周波電圧波形制御部110に代えて、高周波の周波数、振幅、位相のうち少なくとも一つのパラメータの偏移量を設定する基本波パラメータ偏移量設定部111を設けた点である。実施の形態1および2では、高周波電圧パターン作成で、基本波と高調波を用いていたが、基本波のみを用いてその周波数、振幅、位相のうちの少なくとも一つのパラメータを、最大加速電流が得られる最適値から偏移させることでも加速電流を制御することができる。
【0031】
従来の円形加速器では、高周波電圧の周波数、振幅、位相を荷電粒子の加速に最適化して変化させることによりできるだけ多くの加速電流を得るようにし、出射電流の制御は出射パラメータを変えることで行っていた。本発明の実施の形態3では、円形加速器制御装置13が要求する出射電流が最大の場合は、従来と同様、高周波電圧の周波数、振幅、位相を荷電粒子の加速に最適化して変化させる。円形加速器制御装置13が要求する出射電流が最大値より小さい場合は、高周波電圧の周波数、振幅、位相のうち少なくとも一つの
パラメータを荷電粒子の加速の最適値からずらすことにより、加速電流を最大値から下げる。基本波パラメータ偏移量設定部111において、ビーム照射制御装置40から送られてくるビーム照射系30が必要とする荷電粒子ビームのビーム強度の信号に基づいて円形加速器制御装置13が要求する出射電流に対応して、高周波電圧の周波数、振幅、位相のうち少なくとも一つのパラメータを最適値からずらす量、すなわち偏移量を決定し、設定する。このようにして、高周波電圧の周波数、振幅、位相のうち少なくとも一つのパラメータにより出射電流を制御する。このように、高周波電圧のパラメータを加速の最適値から偏移させて、要求される出射電流を得る制御方法は、従来発想すらなかった。
【0032】
図11に基本波の周波数を最適値から偏移させて出射電流を制御する場合の制御性を示す。図11は、入射、加速、出射のどの段階の周波数を制御すれば出射電流を制御できるかに関し、ビーム解析をした結果を示したものである。図11(a)の横軸は時間、縦軸は偏向磁場を示す。図11(a)に示す偏向磁場の変化は、入射した荷電粒子を加速するのに必要な磁場変化であり、図11(a)では、約0.4秒までは荷電粒子を入射させるために必要な、変化させない磁場であり、その後加速を開始するため、加速に対応して磁場を増加させることを示している。この偏向磁場の変化に対し、高周波電圧のパラメータのうち周波数を偏移させた場合の制御性の時間依存性を図11(b)に示す。図11(b)の縦軸は、出射電流の変動割合(制御性)をパーセントで示したものである。制御性とは、基本波の周波数を荷電粒子の加速の最適値から偏移させて出射電流をどの程度制御できるかを表すものであり、加速により得られる最大出射電流からどれだけ出射電流を変動(減少)させることができるか、をパーセントで表したものである。
【0033】
図11(b)は、加速開始後のシンクロトロン振動数が320Hzの場合の解析結果を示しており、この場合、入射時から加速開始後約0.1秒後、すなわち加速開始後のシンクロトロン振動の1周期の時間の30数倍程度の時間までは25%程度の制御性が得られるが、その後は制御性が低下する。このように、入射時から加速開始初期に高い制御性が得られる。この期間は、荷電粒子が全ての加速位相を占めている状態から、安定加速位相(セパラトリクス)内で周回する状態へ遷移している期間であり、微小な基本波の変更により加速電流値に大きな影響を与えることができるからである。このように、入射時から加速開始初期の所定時間以内、好ましくは加速開始後、加速開始時のシンクロトロン振動の1周期の時間の50倍以内の時間で高い制御性が得られる。図11(b)では、高周波の基本波の周波数を偏移させた結果を示したが、振幅や位相を偏移させて出射電流を制御する場合も周波数を遷移させる場合と同様に、入射時から加速開始初期の所定時間以内で高い制御性が得られる。この期間を過ぎると、振幅、周波数、位相を大きく変化させないと出射電流を変化させることが難しく、制御が難しくなり、且つ、制御の応答性が悪くなる。このことより、入射時から加速初期の間を制御するのが効果的であることがわかる。
【0034】
以上のように、本実施の形態3によれば、簡便な制御方法と制御機器で安定に粒子線の出射電流を変更できる。
【符号の説明】
【0035】
1:円形加速器 2:前段加速器
3:真空ダクト 4:入射装置
5、5a、5b、5c、5d:偏向電磁石
6、6a、6b、6c、6d:収束用電磁石
7:高周波加速空洞 8:出射装置
9:共鳴励起用六極電磁石 10:高周波源
11:高周波源制御装置 12:偏向磁石制御装置
13:円形加速器制御装置 20:ビーム輸送系
30:ビーム照射系 40:ビーム照射制御装置
110:高周波電圧波形制御部 111:基本波パラメータ偏移量設定部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
入射された荷電粒子を周回軌道に沿って周回させて荷電粒子ビームを形成する偏向電磁石と、上記荷電粒子を加速するための高周波加速空洞と、この高周波加速空洞に高周波を入射させる高周波源と、上記荷電粒子ビームを収束させるための収束用電磁石と、上記周回軌道に共鳴を励起するための六極電磁石と、上記荷電粒子を上記周回軌道から取り出すための出射装置とを備えた円形加速器と、
上記周回軌道から出射された上記荷電粒子ビームを輸送するビーム輸送系と、
このビーム輸送系により輸送された上記荷電粒子ビームを対象物に照射するビーム照射系と、
対象物に照射する上記荷電粒子ビームを制御するためのビーム照射制御装置と
を備えた荷電粒子ビーム照射システムにおいて、
上記高周波源が発生する高周波を制御する高周波源制御装置を備え、この高周波源制御装置は、上記ビーム照射制御装置から送られてくる、ビーム照射系が必要とする上記荷電粒子ビームのビーム強度の信号に基づいて、上記高周波源が発生する高周波のパラメータを制御することを特徴とする荷電粒子ビーム照射システム。
【請求項2】
高周波源制御装置は、ビーム照射制御装置から送られてくる、ビーム照射系が必要とする荷電粒子ビームのビーム強度の信号に基づいて、高周波源が発生する高周波のパラメータである周波数、振幅、位相のうち少なくとも一を、上記荷電粒子の加速の最適値から偏移させる偏移量を設定する高周波パラメータ偏移量設定部を備えたことを特徴とする請求項1に記載の荷電粒子ビーム照射システム。
【請求項3】
高周波パラメータ偏移量設定部は、少なくとも、荷電粒子の入射時から加速開始初期の所定時間までの間、高周波源が発生する高周波の周波数、振幅および位相の少なくとも一を、荷電粒子の加速の最適値から偏移させる偏移量を設定することを特徴とする請求項2に記載の荷電粒子ビーム照射システム。
【請求項4】
加速開始初期の所定時間は、加速開始後から、加速開始時のシンクロトロン振動の1周期の時間の50倍以内の時間であることを特徴とする請求項3に記載の荷電粒子ビーム照射システム。
【請求項5】
高周波源制御装置は、ビーム照射制御装置から送られてくるビーム照射系が必要とする荷電粒子ビームのビーム強度の信号に基づいて、高周波源が発生する高周波のパラメータである波形を制御する高周波波形制御部を備えたことを特徴とする請求項1に記載の荷電粒子ビーム照射システム。
【請求項6】
高周波源が基本波とこの基本波の高調波を発生するよう構成されており、高周波波形制御部は、この基本波と高調波それぞれの振幅または位相の少なくとも一を制御することを特徴とする請求項5に記載の荷電粒子ビーム照射システム。
【請求項7】
高調波が3倍高調波であることを特徴とする請求項6に記載の荷電粒子ビーム照射システム。
【請求項8】
高調波が2倍高調波であることを特徴とする請求項6に記載の荷電粒子ビーム照射システム。
【請求項9】
高調波が2倍高調波および3倍高調波であることを特徴とする請求項6に記載の荷電粒子ビーム照射システム。
【請求項10】
入射された荷電粒子を偏向電磁石により偏向させて周回軌道に沿って周回させ荷電粒子ビームを形成し、上記荷電粒子を高周波加速空洞に印加する高周波電圧により加速し、収束用電磁石により上記荷電粒子ビームを収束させ、六極電磁石により上記周回軌道に共鳴を励起し、出射装置により上記荷電粒子を上記周回軌道から取り出す円形加速器の運転方法において、
上記高周波加速空洞に印加する高周波電圧のパラメータを変更することにより上記周回軌道から取り出す荷電粒子ビームの出射電流を変更することを特徴とする円形加速器の運転方法。
【請求項11】
高周波加速空洞に印加する高周波電圧のパラメータである周波数、振幅および位相のうち少なくとも一を、荷電粒子の加速の最適値から偏移させて周回軌道から取り出す荷電粒子の出射電流を変更することを特徴とする請求項10に記載の円形加速器の運転方法。
【請求項12】
少なくとも、荷電粒子の入射時から加速開始初期の所定時間の間、高周波加速空洞に印加する高周波電圧の周波数、振幅および位相の少なくとも一を、荷電粒子の加速の最適値から偏移させることを特徴とする請求項11に記載の円形加速器の運転方法。
【請求項13】
加速開始初期の所定時間は、加速開始後から、加速開始時のシンクロトロン振動の1周期の時間の50倍以内の時間であることを特徴とする請求項12に記載の円形加速器の運転方法。
【請求項14】
高周波加速空洞に印加する高周波電圧のパラメータである波形を変更して周回軌道から取り出す荷電粒子の出射電流を変更することを特徴とする請求項10に記載の円形加速器の運転方法。
【請求項15】
高周波電圧の波形が、基本波と高調波とを混合して形成され、上記基本波と上記高調波それぞれの振幅または位相の少なくとも一を変更して高周波電圧の波形を変更することを特徴とする請求項14に記載の円形加速器の運転方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2011−198748(P2011−198748A)
【公開日】平成23年10月6日(2011.10.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−5782(P2011−5782)
【出願日】平成23年1月14日(2011.1.14)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【Fターム(参考)】