説明

荷電粒子ビーム照射システムおよび荷電粒子ビーム出射方法

【課題】シンクロトロン内の蓄積ビームを効率良く出射・利用でき、かつ照射線量の平坦度を担保することができる荷電粒子ビーム照射システムおよび荷電粒子ビーム出射方法を提供する。
【解決手段】シンクロトロン13の運転サイクルにおける出射制御期間の直前にシンクロトロン内を13周回しているイオンビームの蓄積ビーム電荷量Qm0を測定する計測手段15と、イオンビームの蓄積量の測定結果Qm0に基づいてイオンビームの全量が予め設定した出射制御時間Texの終了に合わせて出射し終わるようにイオンビームの出射を制御するビーム出射制御手段20,24,28,29とを設ける。照射装置がRMW32を備える場合、蓄積ビーム電荷量の基準値に対する測定値の割合Qm0/Qs0と、出射制御時間Texに対する実際のビーム出射時間の割合Tb/Taに応じて出射用高周波電圧の振幅値を制御する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、荷電粒子ビーム照射システムおよび荷電粒子ビーム出射方法に係り、特に、陽子または重イオンなどの荷電粒子ビーム(イオンビーム)を患部に照射してがんを治療する粒子線治療装置に適応するのに好適な荷電粒子ビーム照射システムおよび荷電粒子ビーム出射方法に関する。
【背景技術】
【0002】
がんの放射線治療として、陽子または重イオン等のイオンビームを患者のがんの患部に照射して治療する粒子線治療が知られている。この治療に用いる粒子線治療装置は、イオンビーム発生装置、ビーム輸送系、および照射装置を備える。イオンビーム発生装置は、周回軌道に沿って周回するイオンビームを所望のエネルギーまで加速させるシンクロトロンやサイクロトロンを有する。
【0003】
シンクロトロンは、周回軌道に沿って周回するイオンビームに高周波電圧を印加して目標のエネルギーまで加速する高周波加速装置(加速空胴)、周回しているイオンビームのベータトロン振動振幅を増大させる出射用高周波電極、およびイオンビームを周回軌道から取り出す出射用デフレクターを備える(例えば、特許文献1)。目標エネルギーまで加速されたイオンビームをシンクロトロンからビーム輸送系へ出射する際、出射用高周波電極に高周波磁場または高周波電場(以下、高周波信号と表記)を印加し、周回しているイオンビームの固有振動であるベータトロン振動振幅を増大させる。ベータトロン振動振幅が増大したイオンビームは、安定限界外に移動し、シンクロトロンからビーム輸送系へ出射され、照射装置に輸送される。
【0004】
照射装置は、上記イオンビーム発生装置から導かれたイオンビームを、患者の体表面からの深さおよび患部形状に合わせて整形して、治療用ベッド上の患者の患部に照射する。照射装置では一般に、二重散乱体法(非特許文献1の2081頁、図35)、RMW照射法(非特許文献1の2077頁、図30)、ワブラー法(非特許文献1の2084頁、図41)、ビームスキャニング法(非特許文献1の2086〜2090頁、非特許文献2の297〜302頁)のいずれかのビーム照射法にてイオンビームを患部に照射する。ビームスキャニング法の一種にラスタービーム走査法がある(非特許文献1の2087〜2089頁、非特許文献2の297〜298頁)。
【0005】
患部は、通常、患者の体内でイオンビームの進行方向にある程度の厚みを持っている。このような患部の厚み全域にわたってイオンビームを照射するには、イオンビームの進行方向にある程度広く一様な吸収線量範囲(拡大ブラックピーク(Spread-Out Bragg Peak)以下、SOBPと表記)を形成するように、イオンビームのエネルギーを制御しなければならない。所望のSOBPを形成するためのエネルギー制御手段として、レンジ・モジュレーション・ホイール(Range Modulation Wheel、本明細書中ではRMWと記述)を採用する散乱体照射方法が提唱されている。RMWは、イオンビームが通過する領域の厚みが時間的に変化するように楔型形状のエネルギー吸収体を周方向に複数個配置した回転構造体であり、RMWの回転によりイオンビーム進行方向(RMWの軸方向)の厚みが増大または減少する構成を有する。このようなRMWを用いた照射方法を、RMW照射法という。
【0006】
また、患者の体表面からの深さおよび患部形状に合わせたイオンビームの整形は照射装置で実施されるが、患部に照射するビーム電流強度の調整はイオンビーム発生装置で実施される。イオンビーム発生装置から出射されるイオンビームのビーム電流強度は、シンクロトロンでは、出射用高周波電極に印加する高周波信号の強度(高周波電圧の振幅値)の調節によって制御される(非特許文献2)。また、サイクロトロンでは、出射したイオンビームの強度を調整する装置を備える(例えば、特許文献2)。具体的には、サイクロトロンは、実際に出射されたビームの強度を測定し、その測定結果を用いて、イオン源に供給するアーク電流を制御している。
【0007】
シンクロトロンは、前段加速器から入射されたイオンビームを所望のエネルギーまで加速して出射する。シンクロトロンは、入射、加速および出射を一つの運転サイクルとし、この運転サイクルを繰り返して運転される。そのため、シンクロトロンへのイオンビームの供給は、サイクロトロンと異なり、一運転サイクルにおいて入射時のみである。シンクロトロンで加速されたイオンビームの蓄積ビーム電荷量は、加速終了時を最大として出射制御の時間経過に伴い減少していく(非特許文献1)。さらに、出射用高周波電極に印加する高周波信号の振幅とシンクロトロンから出射されるビーム電流強度との関係は、シンクロトロン内のイオンビームの蓄積ビーム電荷量も影響することが知られている。そのため、非特許文献3では、ビーム電流強度の時間変化を一定にするために必要な出射用高周波信号の振幅変調信号を、ビーム出射制御に伴うシンクロトロン内のイオンビームの蓄積ビーム電荷量の減少を予測し、用意する。シンクロトロン内のイオンビームの蓄積ビーム電荷量の変動による影響を抑制するため、シンクロトロン内のイオンビームの蓄積ビーム電荷量をDCCT(DC Current Transformer)で測定し、この測定結果に応じて出射ビーム電流の目標強度を設定する。また、出射ビームに生じるリップル成分を抑制するため、ビームリップルモニタで観測された出射ビームの電流強度に基づいた、出射用高周波信号の振幅変調信号に対するフィードバック制御を適用している。また、非特許文献3では、ビームスキャニング照射法において、事前に測定された患者の呼吸周期の平均をビーム出射ゲート幅と規定し、ビーム出射ゲート幅に対応した出射ビーム電流強度の要求値を設定することが提案されている。
【0008】
一方、RMW照射法では、1つのRMWで複数の患部に対応するため、RMWの周期構造体に対してビームが通過する厚みを制御することで所望のSOBP形成を実現する技術がある(特許文献2)。具体的には、SOBP形成に対応したRMWの周期構造体の厚みに合わせて出射ビームのON/OFF制御を実施することで、ビームが通過するRMWの厚みを制御する。荷電粒子ビーム照射システムのイオンビーム発生装置にシンクロトロンを適用した場合、出射ビームのON/OFF制御は出射用高周波電極に印加する高周波信号のON/OFF制御で実現できる。
【0009】
【特許文献1】特許第2596292号公報
【特許文献2】特表2004−5529483号公報
【特許文献3】特開2006−239404号公報
【非特許文献1】レビュー オブ サイエンティフィック インスツルメンツ 64巻8号(1993年8月)の第2074〜2093頁(REVIEW OF SCIENTIFIC INSTRUMENTS VOLUME 64 NUMBER 8(AUGUST 1993)P2074-2093)
【非特許文献2】ニュークリア インスツルメンツ アンド メソッド イン フィジックス リサーチ A 522巻(2004年)の第196〜204頁(Nuclear Instruments and Method in Physics Research A 522 (2004) P196-204)
【非特許文献3】メディカル フィジックス 第34巻3号(2007年3月)の第1085〜1097頁(Medical Physics Volume 34、 Number 3、 March 2007 P1085-1097)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、上記従来技術には次のような問題があった。
【0011】
ビームスキャニング照射法に比較してRMW照射法を含む散乱体照射法では、高い線量率でのビーム照射治療が求められるため、シンクロトロン内に蓄積された全てのビームを可能な限り照射したい。一方、特許文献2に記載のRMW照射法において、SOBP形成に必要な領域に対して出射ビームのON/OFF制御を実施すると、シンクロトロンの1運転サイクル当たりのビーム照射時間は制限される。つまり、シンクロトロンの運転サイクル内での出射可能な制御時間に対し、ビーム出射制御時間(以下、ビームON制御時間)の割合(以下、ビーム利用効率)が相対的に低くなる。所望のSOBP幅が狭くなるほどビーム利用効率が低くなり、シンクロトロン内の蓄積ビームが有効に照射できない。そのため、RMW照射法では、出射制御開始前の蓄積ビーム電荷量に応じて出射用高周波電圧の振幅値を制御するだけではビームの利用効率を高めることは出来ない。出射ビームのON/OFF制御を実施しつつビーム利用効率を高めるためには、出射制御開始前の蓄積ビーム電荷量とビームON制御時間に基づき、出射用高周波電圧の振幅値を制御する必要がある。
【0012】
非特許文献3では、ビームスキャニング照射法において、ビームスキャニング照射時の走査軌跡長に応じて、走査軌跡長が短い場合は低く、走査軌跡長が長い場合は高く出射ビームの強度を制御しているが、RMW照射法で求められるような、SOBP形成に必要な出射ビームのON/OFF制御を考慮した出射用高周波信号の振幅値制御は示されていない。
【0013】
また、非特許文献1および非特許文献2に記載のRMW照射法で利用するRMWは、複数の楔状のエネルギー吸収体が回転軸を中心に対称な周期構造で配置されており、イオンビームは楔状のエネルギー吸収体の対称形状に合わせて対称に照射する必要がある。この場合、シンクロトロン内の蓄積ビーム電荷量が基準とする蓄積ビーム電荷量よりも少ない場合、シンクロトロン内の蓄積ビーム電荷量が照射中に枯渇し、RMWのビームが照射されるべき角度範囲の途中でビーム照射が終了すると、照射線量の平坦度(一様性)を保つことができなくなる。照射線量の平坦度を保つためには、ON制御中に所定の領域(所定の厚み部分)を照射完了するまで、ビームを枯渇させることなく照射することが望まれる。
【0014】
非特許文献1および非特許文献2に記載の、スキャニング照射法の一種であるラスタービーム走査法やワブラー法でも、照射線量の平坦度を保つためには、出射制御中に所定の領域を照射完了するまで、ビームを枯渇させることなく照射することが望まれる。
【0015】
ラスタービーム走査法の場合は、患部の深さ方向に対する照射制御を加速器システムから供給するビームエネルギーで制御するが、ある患部深さ一面を照射する際には、照射線量の平坦度を保つには、ビームの電流強度を常に一定に制御して照射することが求められるため、シンクロトロンでの出射制御区間で少なくとも照射深さ面を一度に照射する必要がある。
【0016】
また、ワブラー法では、円形に走査したビームを散乱体に照射し、患部に適応したSOBPを形成するが、この際、ビームの照射開始点と終了点を一致させないと、照射線量の平坦度を担保することができない。さらに、円形に走査したビーム電流強度の時間変化に変動が生じると、照射野平面における照射線量の平坦度にむらが生じてしまう。つまり、シンクロトロンの出射制御区間において、ビームの円形走査周期とビーム出射周期を一致させることで照射線量の平坦度を担保することができる。
【0017】
以上のようにラスタービーム走査法やワブラー法で照射線量の平坦度を担保するには、ビーム照射区間において照射ビーム電流強度の時間変化が生じないようにビーム出射制御を実施しなければならず、特に、出射制御区間において、シンクロトロン内の蓄積ビーム電荷量が照射中に枯渇すると、線量分布の平坦度に大きな影響を及ぼすことになるため、シンクロトロン内の蓄積ビーム電荷量に応じた出射ビーム電流強度の制御が求められる。
【0018】
また、シンクロトロン内の蓄積ビーム電荷量が基準とする蓄積ビーム電荷量よりも多い場合、出射制御中に所定の領域を照射完了するまでビームを枯渇させることなく照射することができるが、その場合は、蓄積したビームの全てを照射できずに残存するビームが発生するため、ビーム利用効率が低くなり、シンクロトロン内の蓄積ビームが有効に照射できない。
【0019】
また、RMWは、複数の楔状のエネルギー吸収体が回転軸を中心に対称な周期構造で配置されている。そのため、所望のSOBPを形成する際に必要なRMWを通過して照射されるビームの強度変化つまり、出射ビームがRMWを通過するON制御時のビーム電流強度の時間変化は、周期構造で構成される楔状のエネルギー吸収体の対称形状に合わせて対称に照射する必要がある。この際、出射ビームON制御時のビーム電流強度の時間変化は、出射制御中に線形的に変化すれば良く、必ずしも常に一定(固定)である必要はない。非特許文献2に示された高周波信号の振幅フィードバック制御法では、出射ビーム電流強度を出射制御期間中で一定の(固定した)制御が可能であるが、出射制御期間中にビーム電流強度を線形的に変化させることは難しい。
【0020】
また、一般にシンクロトロンからのビーム出射制御の際、蓄積ビーム電荷量が高い出射制御初期の方が出射制御後期よりも同じ高周波信号強度でも出射されやすい傾向がある。そのため、非特許文献2のように出射制御中のビーム電流強度を常に一定にする制御方法では、シンクロトロン内に蓄積したイオンビームを全て出射するには、印加する出射用高周波信号の振幅値を出射制御の初期より後期を高める必要があり、その分、出射用高周波信号を出射用高周波電極に高電圧を印加する増幅器の容量を高める必要が生じるため、装置コストが高くなる傾向にある。
【0021】
本発明の第1の目的は、シンクロトロン内の蓄積ビームを効率良く出射して利用でき、かつ照射線量の平坦度を担保することができる荷電粒子ビーム照射システムおよび荷電粒子ビーム出射方法を提供することにある。
【0022】
本発明の第2の目的は、シンクロトロン内の蓄積ビームを効率良く出射して利用でき、かつ照射線量の平坦度を担保することができるとともに、出射ビームの電流強度制御を簡素な装置構成で実現することができる荷電粒子ビーム照射システムおよび荷電粒子ビーム出射方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0023】
上記第1の目的を達成する本発明の特徴は、シンクロトロンの運転サイクルにおける出射制御期間の直前に前記シンクロトロン内を周回しているイオンビームの蓄積ビーム電荷量を測定する蓄積ビーム電荷量検出手段と、前記シンクロトロンの出射制御期間の長さである出射制御時間が予め設定されており、前記イオンビームの蓄積量の測定結果に基づいて前記イオンビームの全量が前記予め設定した出射制御期間(Tex)の終了に合わせて出射し終えるように前記イオンビームの出射を制御するビーム出射制御手段とを備えることにある。
【0024】
これによりシンクロトロン内の蓄積ビームを効率良く出射して利用でき、かつ照射線量の平坦度を担保することができる。
【0025】
ここで、好ましくは、前記照射装置は所定の照射周期(RMW照射法の場合は回転体の周期構造体の回転周期、ワブラー法の場合はイオンビームの円形走査周期、ラスタービーム走査法の場合は層毎のイオンビームの走査周期)で動作するよう構成され、前記出射制御時間と前記照射装置の照射周期は互いに整合するよう設定される。また、前記ビーム出射制御手段は、前記蓄積ビーム電荷量検出手段による前記イオンビームの蓄積量の測定後、前記照射装置の照射制御に同期して前記イオンビームの出射制御を開始する。
【0026】
また、前記照射装置は、例えば、厚みが回転方向において変化して通過する前記イオンビームのエネルギーを変える回転体を有し、前記回転体を通過した前記イオンビームを照射対象に照射する。この場合、前記ビーム出射制御手段は、好ましくは、前記回転体の回転時に、前記シンクロトロンからの前記イオンビームの出射および出射停止を制御するためのON/OFF信号を生成する第1手段と、前記シンクロトロンの運転サイクルにおける出射制御期間の直前におけるイオンビームの蓄積ビーム電荷量の基準値と、この蓄積ビーム電荷量の基準値に対応した目標ビーム電流強度パターンデータとが予め設定されており、前記蓄積ビーム電荷量検出手段によるイオンビームの蓄積量の測定後、前記蓄積ビーム電荷量の基準値に対する前記イオンビームの蓄積量の測定値の割合を求め、この割合と、前記出射制御時間に対する実際のビーム出射時間の割合とに応じて前記目標ビーム電流強度パターンデータを補正してそのときのビーム電流強度の目標値を求める第2手段と、前記ビーム電流強度の目標値が得られるよう出射用高周波電圧の振幅値を制御するとともに、前記ON/OFF信号に基づいて前記出射用高周波電圧の出力タイミングを制御する第3手段とを有する。
【0027】
また、上記第2の目的を達成する本発明の特徴は、前記照射装置が回転体を有する荷電粒子ビーム照射システムにおいて、前記目標ビーム電流強度パターンデータは前記ビーム電流強度の目標値が時間の経過と共に減少するよう設定され、前記第2手段は、前記目標ビーム電流強度パターンデータに対応して、時間の経過と共に減少するビーム電流強度の目標値を求める。
【0028】
これにより印加する出射用高周波信号の振幅値を出射制御の初期より後期を高めなくてもよくなるため、出射用高周波信号を出射用高周波電極に高電圧を印加する増幅器の容量を高める必要がなくなり、出射ビームの電流強度制御を簡素な装置構成で実現することができる。
【0029】
また、好ましくは、前記ビーム出射制御手段は、前記シンクロトロン内を周回しているイオンビームの全量が前記出射制御時間の終了に合わせて出射し終わるように前記シンクロトロンから出射するビーム電流強度の目標値を計算する手段と、前記シンクロトロンから実際に出射されたビーム電流強度を計測する手段と、前記ビーム電流強度の目標値と前記実際に出射されたビーム電流強度の計測値から前記出射用高周波電圧の振幅値の補正量を演算する手段とを有する。
【0030】
これにより出射用高周波電圧の振幅値制御をより精度良く行い、照射対象に照射するイオンビームの強度を精度良く制御することが可能となる。
【発明の効果】
【0031】
本発明によれば、シンクロトロン内の蓄積ビームを効率良く出射して利用することができ、かつ照射線量の平坦度を担保することができる。
【0032】
また、本発明によれば、出射ビームの電流強度制御を簡素な装置構成で実現することができる。
【0033】
更に、本発明によれば、出射用高周波電圧の振幅値制御をより精度良く行い、照射対象に照射するイオンビームの強度を精度良く制御することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0034】
以下に、本発明の実施例を説明する。
【実施例1】
【0035】
本発明の好適な一実施例である荷電粒子ビーム照射システムと荷電粒子ビーム出射方法を、図1および図2を用いて説明する。なお、本発明の荷電粒子ビーム照射システムおよび荷電粒子ビーム出射方法は、荷電粒子ビームのうち主としてイオンビームを対象としており、本明細書では、単に「ビーム」という場合は「イオンビーム」を意味している。
【0036】
本実施例の荷電粒子ビーム照射システム1は、図1に示すように、イオンビーム発生装置11、ビーム輸送装置14、照射野形成装置(イオンビーム照射装置、以下、照射装置という)30を備え、ビーム輸送装置14が、イオンビーム発生装置11と治療室内に配置される照射装置30を連絡する。
【0037】
上記荷電粒子ビーム照射システム1の制御システムは、イオンビーム発生装置11およびビーム輸送装置14を制御する加速器制御装置40、荷電粒子ビーム照射システム1全体を統括して制御する統括制御装置41、患者へのビーム照射条件を計画する治療計画装置43、治療計画装置43で計画した情報やイオンビーム発生装置13およびビーム輸送装置14の制御情報等を記憶する記憶装置42、イオンビーム発生装置13を構成する機器の同期制御を実現するタイミングシステム50、患者の安全を担保するために統括制御装置41とは独立のインターロックシステム60から構成される。また、出射用制御装置20(ビーム出射制御手段)により、イオンビーム発生装置11からビーム輸送装置14へのビームを出射する際に利用する高周波電圧を制御する。
【0038】
イオンビーム発生装置11は、イオン源(図示せず)、前段加速器12およびシンクロトロン13を備える。イオン源は前段加速器12に接続され、前段加速器12はシンクロトロン13に接続される。前段加速器12は、イオン源で発生したイオンビーム10をシンクロトロン13に入射可能なエネルギーまで加速する。前段加速器12で加速されたイオンビーム10aは、シンクロトロン13に入射される。
【0039】
図2(A)にシンクロトロン13の運転サイクルにおける周回ビームのエネルギーの変化を、図2(B)に周回ビーム電荷量の変化を示す。シンクロトロン13は、入射、加速、出射、減速という一連の運転制御を2秒〜3秒周期で実施する。また、出射制御に当たっては、事前に出射準備制御を実施する。
【0040】
シンクロトロン13に入射されたビーム10bは、イオンビーム10bを周回させながら加速空胴(図示せず)に印加した高周波電圧によりエネルギーを付与することで、所望のエネルギーまで加速する。この際、シンクロトロン13内を周回するイオンビーム10bの周回軌道が一定となるように、イオンビーム10bの周回エネルギーの増加に合わせて偏向電磁石(図示せず)、四極電磁石(図示せず)等の磁場強度および、加速空胴に印加する高周波電圧の周波数を高める。
【0041】
所望のエネルギーまで加速したイオンビーム10bは、出射準備制御により、四極電磁石および六極電磁石(図示せず)の励磁量により周回ビーム10bが出射可能な条件(周回ビームの安定限界条件)を成立させる。出射準備制御が終了後、出射用制御装置20から出射用高周波電極16に高周波電圧を印加し、シンクロトロン13内を周回するビーム10bのベータトロン振動振幅を増大させる。このベータトロン振動振幅の増大により、安定限界条件を超えた周回ビーム10bはシンクロトロン13からビーム輸送装置14に出射される。シンクロトロン13からのビーム出射制御は、出射用制御装置20によって出射用高周波電極16に印加する高周波電圧のON/OFF制御することで高速に実現可能である。
【0042】
シンクロトロン13を周回するイオンビームの蓄積ビーム電荷量70は、シンクロトロン13の運転シーケンス(図2(A))に合わせて、図2(B)に示すように変化する。シンクロトロン13にイオンビーム10aが入射されると、周回ビーム電荷量は徐々に高められる。加速制御の初期には空間電荷効果等によってイオンビームが損失されるため、周回ビーム電荷量が減衰するが、加速中期から加速後期まではほぼ一定となる。シンクロトロンでは加速終了時の周回ビーム電荷量が蓄積ビーム電荷量と等価であるため、イオンビーム10bをシンクロトロン13から出射することによって、周回ビームの強度は徐々に減衰する。出射制御区間に出射しきれずにシンクロトロン13内に残留したイオンビームは、その後の減速制御により、低いエネルギーまで減速されて消滅する。
【0043】
ビーム出射制御の際、出射用高周波電極16に印加する高周波電圧の振幅は、シンクロトロンを周回するイオンビームの蓄積ビーム電荷量の標準値70aを設定し、標準値の蓄積ビーム電荷量70aが全て出射可能なように振幅を調整する。そのため、シンクロトロンを周回するイオンビームの蓄積ビーム電荷量が標準値70aよりも多い場合(図2(B)の70b)、出射用高周波電極16に印加する高周波電圧の振幅の振幅を変更しないと出射制御期間に全ての周回ビーム電荷量(蓄積ビーム電荷量)を出射できず、残存ビームが生じてしまい、しいてはイオンビームの照射効率を高めることができない。また、シンクロトロンを周回するイオンビームの蓄積ビーム電荷量が標準値70aよりも少ない場合(図2(B)の70c)、出射用高周波電極16に印加する高周波電圧の振幅の振幅を変更しないと出射制御途中で蓄積ビーム電荷量が不足してしまい、患部へ照射するイオンビームの線量にむらが生じてしまう。その結果、照射領域において所望の平坦度を担保することができない。よって、蓄積ビーム電荷量を効率よく安定に出射するためには、蓄積ビーム電荷量に応じて出射用高周波電極16に印加する高周波電圧の振幅を適切に制御する必要がある。
【0044】
シンクロトロン13から出射されたビーム10cは、ビーム輸送装置14により照射装置30に輸送される。照射装置30では、患者に照射するビーム10dの照射線量を計測する線量モニタ31やビーム形状モニタ(図示せず)にて、照射するビーム10dの線量強度やビーム形状を逐次確認し、RMW32で患部深さ方向の厚みに合わせたSOBPを形成する。SOBPが形成されたビームをボーラス(図示せず)やコリメータ(図示せず)といった、患者の患部形状に合わせた固有治具にて患部形状に合わせた照射野を形成する。
【0045】
患者の患部深さ方向の厚みに合わせたSOBPを形成するRMW32の構造を図3(A)に示す。RMW32は、回転軸を中心に半径方向に伸びた複数の翼(本実施例では3つの翼)321を有している。これらの翼321は、その周方向における幅が半径方向外側に行くほど広くなるように形成されている。各翼321は、RMW32の周方向において階段状に配置された複数の平面領域を有しており、RMW軸方向におけるRMW32の底面から各平面領域までの厚みが異なっている。この1つの平面領域の部分における回転軸方向の厚みを、平面領域部分の厚みという。RMW32の周方向における翼321と翼321の間には、それぞれ厚みの薄い翼底部322が形成されている。本実施例におけるRMW32には3つの翼321の相互間に形成された翼底部(または開口部)322が3つ存在する。翼321は、周方向において翼321の両側に位置する翼底部322からビーム4dの進行方向における厚みの厚い翼頂部323に位置する平面領域に向かって各平面領域部分の厚みが増加するように形成される。RMW32は、この厚みが異なる翼321がエネルギー吸収体として機能する。回転しているRMW32の厚みが異なる翼321をビームが通過することによって、シンクロトロン13から出射されたビームのエネルギーに広がりを持たせることができる。RMW32を用いて所望のSOBPを形成するには、ビームがRMW32の翼321を通過する厚みに対応してビームを出射制御することで実現できる。RMW側面には、RMW32の回転周期が観測できるように原点検出部320が設けられている。
【0046】
図3(B)にRMWゲート信号パターンデータPgのデータ構造を示す。RMWゲート信号パターンデータPgは、RMW32の原点検出部320から出力される原点信号位置に対応するデータアドレスを初期アドレスとし、RMW32一回転分の角度検出分解能に合わせて用意されたデジタルデータである。RMWゲート信号パターンデータPgは、患者に照射するビームのSOBP形成条件に応じて、ビームON時に通過する角度でのデータを“1”、ビームOFF時に通過する角度でのデータを“0”として表現されており、RMW32の通過領域角度に合わせて用意される。そのため、RMW32が一回転する毎にRMWゲート信号パターンデータPgのメモリアドレスは初期アドレスに戻るリング状のメモリアクセスを可能とする必要がある。
【0047】
RMWゲート信号パターンデータPgの更新制御法について説明する。RMWゲート信号パターンデータPgは、患者に照射するビームのエネルギーおよびSOBP幅に応じて、加速器制御装置40から出射用制御装置20に照射治療前に予め伝送され、出射用制御装置20内のRMWゲート信号処理部28(ビーム出射制御手段の一部;第1手段)に設定される。RMW32が回転すると回転検出器33から回転検出信号331がRMWゲート信号処理部28に出力される。RMWゲート信号処理部28では、RMWゲート信号パターンデータPgのアドレスを更新し、RMWゲート信号281(ON/OFF信号)を出力する。RMW32が一回転すると、原点検出部320はRMWゲート信号処理部28に対して出力する。RMWゲート信号処理部28は、原点信号324に合わせてRMWゲート信号パターンデータPgのアドレスポインタを最終アドレスから初期アドレスに更新する。そのため、RMWゲート信号パターンデータPgのデータ数は、回転検出器33からの回転検出信号331の出力信号数に合わせて用意しておくことで、リング状にメモリアドレスを構築することが可能となり、RMW32の一回転に対応したRMWゲート信号281を容易に生成することが可能となる。このような処理を実現することで、要求されるSOBP幅の制御とRMW32の回転に伴うビーム出射制御を同期することが可能となる。
【0048】
RMW32を用いたビーム出射制御タイミングチャートを図4に示す。RMW32の回転により、ビーム通過位置での翼321の厚みが時間的に変化する(図4(a))。RMW32の回転位置を検出する回転検出器33には、例えばロータリーエンコーダを採用し、一回転当たり1000パルス程度の回転検出信号331(図4(c))が出力される。同様に、RMW32の回転周期を観測する原点検出部320からの原点信号324(図4(b))が出力される。回転検出器33からの回転検出信号331(図4(c))に基づき、RMWゲート信号281(図4(d))が生成される。ここで、RMWゲート信号281(図4(d))は、所望のSOBP形成に合わせてビーム出射制御をON/OFF制御するデータであるため、RMW32の回転速度が決まればRMWの翼321の1周期の通過時間Taとビーム出射領域時間Tbが一意に決まる。以上に説明した図4(b)、図4(c)図4(d)の三つの信号は、RMW32の回転に基づき出力される信号である。シンクロトロン13の運転サイクルにおいて、蓄積ビーム電荷量検出タイミング信号501(図4(e))と出射制御タイミング信号502(図4(f))が出射制御時間Texに合わせて出力される。また、RMW照射法ではRMWの回転周期に合わせてビームを照射する必要があるため、出射制御タイミング信号502のON指令入力以降にはじめて入力されたRMW32からの原点信号324と、出射制御タイミング信号502のOFF指令入力から、RMW照射ゲート信号251(図4(g)を生成する。以上に示した、出射制御タイミング信号502とRMWゲート信号281およびRMW照射ゲート信号251のAND論理により、ビーム出射制御信号252(図4h)が出力される。このビーム出射制御信号252に基づき出射用高周波電極に高周波信号を印加することで、所望のSOBPのビーム10dを患者に照射できる。これら一連のビーム出射制御信号252の生成は、RMWゲート信号処理部28で実施する。
【0049】
ここで、出射制御時間Texは、RMW32の周期構造体である翼321の回転周期に整合するよう、その整数倍の値として設定されている。すなわち、RMW32の千葉差321毎の回転周期をTrmwとし、nを整数とすると、Tex=n・Trmwと示される。
【0050】
出射用制御装置20の構成を図7に示す。出射用制御装置20は、高周波発振器21、帯域制限高周波信号発生部22、高周波ミキサ221、ビーム電流強度フィードバック制御回路(以下、フィードバック制御回路)24(ビーム出射制御手段の一部;第3手段)、このフィードバック制御回路24に含まれるフィードバック制御用高周波スイッチ25、インターロック信号用高周波スイッチ26、出射用高周波信号処理部27、ビーム出射制御信号発生部28および、目標ビーム電流強度補正演算部29(ビーム出射制御手段の一部;第2手段)を備える。
【0051】
出射用制御装置20は、加速器制御装置40から出射用高周波信号処理部27に伝送される出射用高周波電圧の中心周波数Fc、帯域制限高周波信号の周波数幅Fw、予め用意された振幅変調パターンデータAm、フィードバック制御回路24のループゲイン値Gf、所望のSOBPを形成するためにRMW32の回転角度に応じて制御されるRMWゲート信号パターンデータPg、目標ビーム電流強度波形パターンデータIds(t)、加速器制御装置40から目標ビーム電流強度補正演算部29に伝送される出射制御時間Tex、RMW32の翼321の一周期の通過時間Taとビーム出射領域時間Tb、出射制御前の蓄積ビーム電荷量の基準値Qs0に基づき、出射用制御装置20を構成する各制御演算部の運転条件を設定する。また、シンクロトロンの運転サイクルに合わせたビーム出射制御は、タイミングシステム50から伝送される蓄積ビーム電荷量検出タイミング信号501および出射制御タイミング信号502、RMW32の回転角度を検出する回転検出器33からの回転検出信号331、RMW32の回転周期を観測する原点検出部に基づき実施する。
【0052】
加速器制御装置40から出射用高周波信号処理部27に伝送されるパターンデータのうち、振幅変調パターンデータAmおよび目標ビーム電流強度波形パターンデータIds(t)は、出射制御時間Texに合わせて用意された時系列データであり、RMWゲート信号パターンデータPgは、RMW32回転時のビーム通過角度に合わせて生成されたパターンデータである。
【0053】
出射用制御装置20における出射用高周波電圧の制御法について説明する。高周波発振器21は、エネルギーに応じて制御される出射用高周波電圧の中心周波数Fcの高周波信号を出力する。高周波発振器21から出力された高周波信号は、帯域制限高周波信号発生部22より出力された帯域制限高周波信号と高周波ミキサ221でミキシングされる。これにより、中心周波数がFc、周波数幅Fwの帯域制限高周波信号が得られる。ミキシングされた帯域制限高周波信号は、目標ビーム電流強度補正演算部29で得られたビーム電流強度波形(ビーム電流強度の目標値)を実現するように、ビーム電流強度フィードバック制御回路24にて高周波電圧の振幅値を制御した後、高周波スイッチ26を介して高周波電力増幅器17に伝送し、出射用高周波電極16に印加される。
【0054】
本発明の特徴である、目標ビーム電流強度補正演算部29での目標ビーム電流強度の演算処理方法について図5、図6および図7を用いて説明する。図5はRMWゲート制御を実施しない場合の蓄積ビーム電荷量および出射ビーム電流強度の時間変化を示しており、図6はRMWゲート制御を実施した場合の蓄積ビーム電荷量および出射ビーム電流の時間変化を示している。図7は出射ビーム電流強度に対するフィードバック制御システムの構成を示している。
【0055】
目標ビーム電流強度補正演算部29には、シンクロトロン13の運転開始前に出射制御前の蓄積ビーム電荷量の基準値Qs0、蓄積ビーム電荷量の基準値Qs0に対応したRMWゲート制御を実施しない場合の目標ビーム電流強度パターンデータ(目標値の初期値をIds0)、出射制御時間Tex、RMW32の1周期の通過時間Ta、ビーム出射領域時間Tbを予め設定しておく。出射制御時間Texは、前述したように、RMW32の周期構造体である翼321の回転周期に整合するよう、その整数倍の値として設定されている。シンクロトロン13の運転制御が開始されると、周回ビームの加速制御から出射制御へ運転制御が遷移する前にタイミングシステム50から蓄積ビーム電荷量検出タイミング信号501が出力される。蓄積ビーム電荷量検出タイミング信号501により、シンクロトロン内に蓄積するビーム電流強度を計測する蓄積ビーム電荷量検出手段15からのビーム電流強度信号Qm0を計測し、ビーム電流強度Qm0の計測結果を目標ビーム電流強度補正演算部29に入力する。
【0056】
ここで、図5(a)にはシンクロトロン13における蓄積ビーム電荷量が基準値Qs0である場合の蓄積ビーム電荷量の時間変化(Qs(t))と、実際の蓄積ビーム電荷量Qm0に応じた蓄積ビーム電荷量の時間変化(Qm(t))を示している。図5(b)は、出射制御開始前にシンクロトロン13内の蓄積ビーム電荷量を検出するタイミングを示している。図5(c)には目標ビーム電流強度パターンデータIds(t)と、出射ビーム電荷量Qm0に基づき目標ビーム電流強度パターンデータIds(t)を補正した目標ビーム電流強度パターンデータIdm(t)の時間変化を示している。図5(d)はビーム出射制御信号の時間変化を示している。図5(e)には、線量モニタで検出される、基準蓄積ビーム電荷量Qs0に対応した出射ビーム電流強度の時間変化(Is(t))とビーム電流強度を補正した場合の出射ビーム電流強度の時間変化(Im(t))を示している。
【0057】
RMW照射法においては、ビーム出射制御時にビーム電流の時間変化が線形的に変化していれば良いため、本実施例ではシンクロトロン13から出射しやすいように加速初期に高い強度とし、加速終了時に0となる線形減少の条件で示している。すなわち、図5(c)に示されている目標ビーム電流強度パターンデータIds(t)は出射ビーム電流強度の目標値が時間の経過とともに減少するように設定され、実際の蓄積ビーム電荷量Qm0に応じて補正した目標ビーム電流強度パターンデータIdm(t)から得られる出射ビーム電流強度の目標値も、前記目標ビーム電流強度パターンデータIds(t)に対応して、時間の経過とともに減少する値となる。
【0058】
出射ビーム電荷量Qは出射ビーム電流目標値の時間変化の積分値となる。図5(c)に示した出射ビーム電流強度目標値のパターンデータIds(t)を線形減少とした場合、蓄積ビーム電荷量Qs0を全て出射する条件はQ=Qs0となり、出射ビーム電流目標値のパターンデータの初期値Ids0は数式1のように示される。
【0059】
【数1】

【0060】
つまり、出射ビーム電流目標値のパターンデータの初期値Ids0は、蓄積ビーム電荷量Qs0と出射制御時間Texにより示される。なお、出射ビーム電流目標値の時間変化が固定されている場合つまり、出射ビーム電流を一定値で制御する場合には、数式2のようになる。
【0061】
【数2】

【0062】
ここで、蓄積ビーム電荷量Qs0に対して蓄積ビーム電荷量検出タイミング信号501に基づき検出された蓄積ビーム電荷量がQm0の場合の出射ビーム電流目標値の制御方法について説明する。この際、蓄積ビーム電荷量Qs0に対する出射ビーム電流強度の目標値の初期値Ids0、出射制御時間Texを基準とする。
【0063】
まず、蓄積ビーム電荷量Qs0に対して実際の蓄積ビーム電荷量Qm0に変化した場合、数式1ないし数式2の分子は、(Qm0/Qs0)で示すことができる。つまり、実際の蓄積ビーム電荷量Qm0が基準となる蓄積ビーム電荷量Qs0よりも小さい場合(Qm0<Qs0)、出射ビーム電流強度の目標値の初期値Ids0を(Qm0/Qs0)の割合で小さくする。これにあわせて、目標ビーム電流強度パターンデータIds(t)も(Qm0/Qs0)の割合で小さくする。同様に、実際の蓄積ビーム電荷量Qm0が基準となる蓄積ビーム電荷量Qs0よりも大きい場合(Qm0>Qs0)、出射ビーム電流強度の目標値の初期値Ids0を(Qm0/Qs0)の割合で大きくし、これにあわせて、目標ビーム電流強度パターンデータIds(t)を(Qm0/Qs0)の割合で大きくする。このように補正した出射ビーム電流強度の目標値の初期値を図5(c)ではIdm0として示しており、補正された目標ビーム電流強度パターンデータをIdm(t)として示している。このように出射ビーム電流強度の目標値を実際の蓄積ビーム電荷量に応じて補正することで、予め設定した出射制御時間Texの終了に合わせてシンクロトロン13内に蓄積されているビーム電荷量を全て出射することが可能となる。
【0064】
図6を用いて、RMWゲート制御を実施した場合の運転について説明する。説明を簡単にするため、基準となる蓄積ビーム電荷量Qs0と実際の蓄積ビーム電荷量Qm0を等しくする(Qm0=Qs0)。RMWゲート制御を実施しない場合(Ta=Tb)は、出射制御時間Texに対して全領域でビームを出射できるが、図6(d)に示したビーム出射制御信号252によりRMWゲート制御を実施する場合(Ta>Tb)は、実効的な出射制御時間は、Tex(Tb/Ta)となってしまう。つまり、蓄積ビーム電荷量の基準値Qs0において、RMWゲート制御を実施しない場合は、基準値Qs0の全ての蓄積ビームを出射できるが、RMWゲート制御を実施する場合、(Tb/Ta)分だけシンクロトロン13内に残存してしまう。そのため、シンクロトロン内の蓄積ビーム電荷量の基準値Qs0をすべて出射するため、(Tb/Ta)の割合で蓄積ビーム電荷量の基準値Qs0に対応するパターンデータIds(t)の出射ビーム電流目標値の初期値Ids0を図6(c)に示したようにIdm0に大きくし、その後の出射ビーム電流強度の目標値も同様に(Tb/Ta)の割合で大きくする。このように出射ビーム電流強度の目標値を実効的な出射制御時間に応じて補正することで、予め設定した出射制御時間Texの終了に合わせてシンクロトロン13内に蓄積されているビーム電荷量を全て出射することが可能となる。
【0065】
以上に示した制御内容を整理すると、数式3および数式4のように示すことができる。
【0066】
【数3】

【0067】
【数4】

【0068】
ここで、αは補正係数であり、数式4に示されるように、基準となる出射制御時間(Tex)に対する実効的な出射制御時間(Tb/Ta)を分母とし、基準となる蓄積ビーム電荷量(Qs0)に対する実際の蓄積ビーム電荷量(Qm0)の割合(Qm0/Qs0)を分子として示される。同様に、出射ビーム電流目標値の初期値Ids0を補正した出射ビーム電流強度の初期値Idm0は、数式5のように示される。
【0069】
【数5】

【0070】
出射ビーム電流強度の目標値に対して、実際の蓄積ビーム強度電荷量や実効的な出射制御時間に応じて、数式3および数式4に示した補正を実施することで、予め設定した出射制御時間Texの終了に合わせてシンクロトロン内に蓄積されているビーム電荷量を全て出射することが可能となり、ビーム利用効率を向上できる。
【0071】
また、シンクロトロン内の蓄積ビーム電荷量が照射中に枯渇することがないため、照射線量の平坦度を担保することができる。
【0072】
また、目標ビーム電流強度パターンデータIds(t)を出射ビーム電流強度の目標値が時間の経過とともに減少(図示した実施例では線形減少)するように設定し、補正した目標ビーム電流強度パターンデータIdm(t)から得られる出射ビーム電流強度の目標値を時間の経過とともに減少(図示した実施例では線形減少)する値とすることで、印加する出射用高周波信号の振幅値を出射制御の初期より後期を高めなくても良くなるため、出射用高周波信号を出射用高周波電極16に高電圧を印加する高周波電力増幅器17の容量を高める必要がなくなり、出射ビームの電流強度制御を簡素な装置構成で実現することができる。
【0073】
出射ビーム電流強度のフィードバック制御法について図7を用いて説明する。フィードバック制御回路24は、振幅変調回路23、線量モニ31からのビーム電流強度の検出値Im(t)と先に示した出射条件にあわせて補正した出射ビーム電流強度の目標値Idm(t)の偏差を演算する偏差演算回路241、フィードバックループゲイン調整器242、出射用高周波信号処理部27から設定される振幅変調データAmとフィードバックループゲイン調整器242を経て入力される偏差信号を加算演算処理する加算演算処理回路243、RMWゲート信号処理部28から出力されるビーム出射制御信号252に基づき、出射用高周波信号を制御する高周波スイッチ25から構成される。
【0074】
ビーム電流強度のフィードバック制御を実施する際、ビーム電流強度の目標値は、目標ビーム電流強度補正演算部29での演算結果Idm(t)を用いる。シンクロトロン13から出射されたビーム10cは、照射装置30内の線量モニタ31を通過する。線量モニタ31からは、線量モニタ31を通過したビーム電流強度検出信号Imが逐次出力される。線量モニタ31から出力されるビーム電流強度検出信号Im(t)は、フィードバック制御回路24内の偏差演算回路にて、ビーム電流強度の目標値Idmに対する線量モニタでの検出信号Im(t)の偏差を演算する。この偏差の演算結果をフィードバックループゲイン調整器242で適切な補正量に調整された後、出射用高周波信号の振幅変調信号Amに加算する。この加算演算処理を実施した振幅変調信号を振幅変調回路23に設定することで、高周波信号のビーム電流強度を所望のビーム電流強度目標値Idm(t)に制御することができる。
【0075】
本実施例において、先に示したように出射制御開始前にシンクロトロン13に蓄積しているビーム電荷量Qm0に対してビーム電流強度の目標値を補正制御することにより、全ての蓄積ビームを出射することを目的としている。この際、ビーム電流強度の目標値制御を安定に実現することが重要であるため、ビーム電流強度のフィードバック制御機能を備えることが有効である。なお、予め振幅変調パターンデータAmを用意することが出来なければ、フィードバック制御回路15のダイナミックレンジを充分高くしておくことで、振幅変調パターンデータAmが0であっても所望の出射ビーム電流強度波形を得ることができる。
【0076】
以上において、蓄積ビーム電荷量検出手段15は、シンクロトロン13の運転サイクルにおける出射制御期間の直前にシンクロトロン15内を周回しているイオンビームの蓄積ビーム電荷量Qm0を測定し、出射用制御装置20のRMWゲート信号処理部28、目標ビーム電流強度補正演算部29およびビーム電流強度フィードバック制御回路24は、シンクロトロン13の出射制御期間の長さである出射制御時間Texが予め設定されており、イオンビームの蓄積量の測定結果Qm0に基づいてイオンビームの全量が予め設定した出射制御時間Texの終了に合わせて出射し終わるようにイオンビームの出射を制御するビーム出射制御手段を構成する。
【0077】
また、出射用制御装置20のRMWゲート信号処理部28は、RMW(回転体)32の回転時に、シンクロトロン13からのイオンビームの出射および出射停止を制御するためのON/OFF信号281を生成する第1手段を構成し、目標ビーム電流強度補正演算部29は、シンクロトロン13の運転サイクルにおける出射制御期間の直前におけるイオンビームの蓄積ビーム電荷量の基準値Qs0と、この蓄積ビーム電荷量の基準値Qs0に対応した目標ビーム電流強度パターンデータIds(t)とが予め設定されており、蓄積ビーム電荷量検出手段15によるイオンビームの蓄積量の測定後、蓄積ビーム電荷量の基準値に対するイオンビームの蓄積量の測定値の割合(Qm0/Qs0)を求め、この割合と、出射制御時間Texに対する実際のビーム出射時間の割合(Tb/Ta)とに応じて目標ビーム電流強度パターンデータIds(t)を補正してそのときのビーム電流強度の目標値を求める第2手段を構成し、ーム電流強度フィードバック制御回路24は、は、前記ビーム電流強度の目標値が得られるよう出射用高周波電圧の振幅値を制御するとともに、前記ON/OFF信号281に基づいて出射用高周波電圧の出力タイミングを制御する第3手段を構成する。
【0078】
更に、出射用制御装置20の目標ビーム電流強度補正演算部29は、シンクロトロン13内を周回しているイオンビームの全量が出射制御時間Texの終了に合わせて出射し終わるようにシンクロトロン13から出射するビーム電流強度の目標値を計算する手段を構成し、線量モニタ31は、シンクロトロン13から実際に出射されたビーム電流強度を計測する手段(電流強度計測手段)を構成し、ビーム電流強度フィードバック制御回路24は、前記ビーム電流強度の目標値と前記実際に出射されたビーム電流強度の計測値から出射用高周波電圧の振幅値の補正量を演算する手段を構成する。
【0079】
次に、本発明を適用した荷電粒子ビーム照射システムの運転方法について説明する。医師は、患者情報(患部の位置および大きさ、ビームの照射方向、および最大照射深さ)を治療計画装置43に入力する。治療計画装置43は、治療計画ソフトを用い、入力された患者情報に基づいて、治療に必要なSOBP幅、照射野サイズおよび患部に対する目標線量等を算出する。さらに、治療計画装置43は、治療計画ソフトによって、シンクロトロン3から出射するビームのエネルギー(出射エネルギー)、治療ベッド34の配置位置、ビームの出射を開始するRMW32の回転角度およびビームの出射を停止する回転角度等の各種運転パラメータを算出すると共に、治療に適切なRMW32を選定する。これらの治療計画情報(SOBP幅、照射野サイズ、目標線量、各種運転パラメータ、出射エネルギー、および選定されたRMW32等の情報)が、統括制御装置41に入力され、統括制御装置41の記憶装置42に記憶される。
【0080】
治療計画情報は、治療の準備を行っている治療室の制御室内に配置された表示装置(図示せず)に表示される。放射線技師は、その表示画面を確認し、表示により指定されたRMW32を、照射装置30内に配置する。
【0081】
治療ベッド制御装置(図示せず)は、統括制御装置41からの指示により、患者が固定されている治療ベッド34を移動し、患者の患部(照射対象)がビーム軸の延長線上に位置するように位置決めする。加速器制御装置40は、統括制御装置41からの治療計画情報から照射ビームエネルギーを決定し、シンクロトロン13およびビーム輸送装置14を構成する機器の運転制御パラメータを設定する。統括制御装置41はイオンビームの加速準備と並行して、RMW回転制御信号を出力して、モータを駆動させる。これにより、RMW32が図3(A)の矢印方向へ回転する。回転検出器33は、RMW32の回転に応じた回転検出信号331を出力し、原点検出部320は回転周期毎に原点信号324を出力する。
【0082】
医師は、前述の制御室内の操作盤から照射開始信号を統括制御装置41に指示する。照射開始指示に基づき、前段加速器12は、イオン源より発生したイオンビーム(例えば、陽子(または炭素イオンなどの重粒子))を加速し、シンクロトロン13に供給する。
【0083】
シンクロトロン13は、前段加速器から入射したイオンビーム10aを所望のエネルギーまでシンクロトロン13内を周回させながら加速する。イオンビーム10bは、目標のビームエネルギーまで加速された後、出射用高周波電極16に出射用高周波信号が印加されることによって、シンクロトロン13から出射される。
【0084】
シンクロトロン13から出射されたイオンビーム10cは、ビーム輸送装置14を通過して、照射装置30に到着する。さらに、イオンビームは、照射装置30内のビーム経路に沿って進行し、回転するRMW32を通過して、患者の患部に照射される。患部に照射されるイオンビームの線量は線量モニタ31で計測する。患部への照射線量が目標線量値に到達すると、線量モニタでの測定結果が統括制御装置41に伝送され、統括制御装置41はシンクロトロン13からのイオンビームの出射を停止し、患者に対するイオンビーム10dの照射が終了する。
【0085】
なお、荷電粒子ビーム治療システム1を構成する機器において、照射制御中に患者へのビーム照射を妨げる何らかの障害が生じた場合、インターロックシステム60は、機器の状態が異常であることを示す信号(異常信号)601を統括制御装置41と並列に出射用制御装置20のインターロック用高周波スイッチ26に出力する。出射用制御装置20は、インターロックシステム60からの異常信号601をビーム出射停止指令として受信し、インターロック用高周波スイッチ26を即座に開く。インターロック用高周波スイッチ26が開かれることによって、高周波電極16への出射用高周波信号の印加が停止される。これにより、シンクロトロン13はイオンビーム10bの出射を停止するインターロック制御を実現できる。
【0086】
本実施例によれば、以下に示す効果を得ることができる。
【0087】
(1)本実施例では、シンクロトロン13での出射制御の開始直前にシンクロトロン内を周回しているイオンビームの蓄積ビーム電荷量と、シンクロトロン13の1サイクル中の出射制御時間に対する実際の出射制御時間の割合に基づき、出射用高周波電圧の振幅値を制御することで、予め設定した出射制御時間Texの終了に合わせてシンクロトロン内に蓄積されているビーム電荷量を全て出射することが可能となり、シンクロトロン13内に蓄積された周回ビームを効率よく出射し、ビーム利用効率を向上できる。また、シンクロトロン内の蓄積ビーム電荷量が照射中に枯渇し、RMWのビームが照射されるべき角度範囲の途中でビーム照射が終了することがないため、照射線量の平坦度を担保することができる。
【0088】
(2)本実施の形態では、目標ビーム電流強度パターンデータIds(t)を出射ビーム電流強度の目標値が時間の経過と共に減少(図示実施例では線形減少)するよう設定し、補正した目標ビーム電流強度パターンデータIdm(t)から得られる出射ビーム電流強度の目標値を時間の経過と共に減少(図示実施例では線形減少)する値とすることにより、印加する出射用高周波信号の振幅値を出射制御の初期より後期を高めなくてもよくなるため、出射用高周波信号を出射用高周波電極に高電圧を印加する増幅器の容量を高める必要がなくなり、出射ビームの電流強度制御を簡素な装置構成で実現することができる。
【0089】
(3)本実施の形態では、出射用高周波電圧の振幅値を制御する手段として、出射ビーム電流強度フィードバック制御を適用し、シンクロトロン13での出射制御の開始直前にシンクロトロン内を周回しているイオンビームの蓄積ビーム電荷量と、シンクロトロン13の1サイクル中の出射制御時間に対する実際の出射制御時間の割合より、出射ビーム電流強度を補正し、この補正した出射ビーム電流強度と線量モニタで検出されたビーム電流強度との偏差に基づいた出射ビーム電流強度フィードバック制御を実現することで、シンクロトロン13内を周回するビーム電流強度に対応した出射ビーム電流制御の精度が高められる。
【0090】
(4)本実施の形態では、インターロックシステム60からのインターロック信号601用の高周波スイッチ26とRMWゲート用の高周波スイッチ27を独立に設けかつ直列に接続することで、患者へのビーム照射の安全性を高めることができる。
【0091】
(5)本実施の形態では、照射ビームのSOBP形成にRMW32を適用し、RMW32の回転に基づいてSOBP形成に必要な厚みの照射区間(Tb)のみビームを照射するようにRMWゲート信号を用意し、RMW32の回転を検出して出力される回転検出信号331に基づいてRMWゲート信号を更新制御する構成とした。これによってシンクロトロン3からイオンビームを出射する照射制御区間におけるRMW32での照射区間(Tb)でのみ更新制御を実施するため、シンクロトロン3内を周回するイオンビームのビーム電流強度に対応した制御の精度が高められる。
【実施例2】
【0092】
本発明の第2実施例を示す。本実施例では、ビーム照射法にワブラー法を採用しており、出射ビーム電流強度を一定に調整しながらワブラー走査電磁石の走査周期に合わせたビーム出射制御信号の制御が必要になる。これ以外の構成は図1に示した実施例1と同一である。図8にワブラー法を適用した場合の走査電磁石励磁電流の変化と蓄積ビーム電荷量が変化した場合に出射ビーム電流強度の目標値を制御した場合の蓄積ビーム電荷量と線量モニタ検出信号の変化を、図9にワブラー法を適用した出射用制御装置の構成を示す。
【0093】
ワブラー法では、走査電磁石電源72に接続された2台で1組となるワブラー走査電磁石71を用い、それぞれのワブラー走査電磁石71には位相を90度ずらした正弦波電流で励磁することで、散乱体平面上に同心円の走査軌跡を描くことで、一様なSOBPを形成する。この際、ワブラー法では走査開始位相と走査終了位相を一致させることで照射野平面の平坦度を担保できる。つまり、走査開始位相と走査終了位相がずれた場合、位相ずれにより照射線量が相対的に高くなる部分もしくは低くなる部分が生じるため、走査開始位相と走査終了位相を一致させる必要がある。
【0094】
本実施例では、出射制御時間Texは走査電磁石の円形走査周期Twのn倍の時間で規定し、蓄積ビーム電荷量に応じて出射ビーム電流強度の目標値を制御することで、走査開始位相と走査終了位相が常に一致し、照射平面上で一様な平坦度を担保できる。
【0095】
ここで、蓄積ビーム電荷量に応じて出射ビーム電流強度の目標値を制御する考え方は第1の実施の形態と同様である。ただし、ワブラー法では、RMWゲート制御は実施しないため、先の数式1における補正係数αはα=Qm0/Qs0となる。また、ワブラー法では、出射ビーム電流強度を一定に調整するため、蓄積ビーム電荷量の基準値Qs0に対応したパターンデータIds(t)の出射ビーム電流強度の目標値は一定値とする必要があり(図8(d))、出射ビーム電流強度の目標値の初期値Ids0は先の数式2で与えられる。これにより蓄積ビーム電荷量を全て出射することが可能となる。その他の出射ビーム電流強度の制御方法に関しては、第1の実施の形態と同様である。
【実施例3】
【0096】
本発明の第3実施例を示す。本実施例では、ビーム照射法にラスタービーム走査法を採用しており、出射ビーム電流強度を一定に調整しながら走査する制御が必要になる。また、本実施例では、ビーム出射制御中のゲート制御は実施しない場合の制御法を示している。これ以外の構成は図1に示した実施例1と同一である。図10にラスタービーム走査法を適用した場合の走査電磁石励磁電流の変化と蓄積ビーム電荷量が変化した場合に出射ビーム電流強度の目標値を制御した場合の蓄積ビーム電荷量と線量モニタ検出信号の変化を、図11にラスタービーム走査法を採用した場合の出射用制御装置の構成を示す。
【0097】
ラスタービーム走査法では、散乱体を用いずに患部に直接かつ連続的にビームを照射するため、照射中のビーム電流強度を一定に制御することにより、照射平面上で一様な平坦度を担保できる。また、ラスタービーム走査法では、患部深さ方向にいくつかの層に分け、各層毎に要求されるビーム飛程に応じてシンクロトロン13から出射されるイオンビームのエネルギーを変更することで各層に所望の線量を付与する。
【0098】
ラスタービーム走査法を適用した際、各層に照射した線量の積算値で所望のSOBPを形成するため、各層に照射する線量は深い層(=エネルギーの高いビームを照射する層)で高く、浅い層(=エネルギーの低いビームを照射する層)で低くする必要がある。この際、治療照射時間を短縮し照射効率を高めるために照射ビーム電流強度は、深い層で高く、浅い層で低くすることが望ましい。よって、シンクロトロン13からの出射ビーム電流強度は、各層に対応したエネルギーに応じて調整する必要がある。
【0099】
さらに、ラスタービーム走査法では、一層の照射領域を整数回の繰り返し照射を実施することで、照射領域内の線量一様度を担保する。このような制御を実施するのは、ラスタービーム走査法では患部に直接ビームを照射するため、散乱体を利用した照射法よりも更に照射線量の一様度を精密に制御しながら治療を進める必要があるためである。そのため、一度に所望の線量を照射するのではなく、所望の線量を複数回に分けて照射することで照射線量の一様度を担保する制御を適用する。そのためラスタービーム走査途中でシンクロトロン13から出射中のビーム電流強度が一層の照射領域を照射完了前に枯渇すると、照射領域内の線量一様度にばらつきが生ずる恐れがある。そのため、出射ビーム電流強度の制御は、治療計画により設定される各層の目標線量を超えない強度でシンクロトロン13の運転周期で一層の走査領域を照射できるように制御する必要がある。
【0100】
本実施例では、治療計画装置43から設定される治療計画情報に基づき、照射する各層のビームのエネルギーと照射線量が統括制御装置41から加速器制御装置40に設定される。加速器制御装置40は、出射ビーム電流強度の目標値を各層の照射線量に応じて制御する手段を設け、出射用制御装置20にエネルギーの変更毎に出射ビーム電流強度の目標値を伝送する手段を設ける。
【0101】
患者への照射治療の開始指令により、シンクロトロン13からビームが出射される。照射装置内のラスター走査電磁石71は、出射制御タイミング信号502を制御トリガ信号とし、出射制御タイミング信号502が入力されている間、照射平面上を一筆書きでジグザグ状に走査する。線量モニタ31は照射ビーム電流強度を検出し、出射用制御装置20と照射線量積算回路73にそれぞれ出力される。なお、本実施例では線量モニタ31からの出力を出射用制御装置20と照射線量積算回路73に分配して供給しているが、出射用制御装置20と照射線量積算回路73にそれぞれ独立に線量モニタ31を設けた構成でも良い。
【0102】
出射用制御装置は、出射制御時間(Tex)内で加速器制御装置から伝送された出射ビーム電流強度になるような制御を実施する。この際、シンクロトロン内の蓄積ビーム電荷量Qm0が蓄積ビーム電荷量の基準値Qs0より多い場合は、先の数式1における補正係数αをα=1として、加速器制御装置40から伝送された蓄積ビーム電荷量の基準値Qs0に対応するパターンデータIds(t)に基づき、出射ビーム強度制御を実施し、シンクロトロン内の蓄積ビーム電荷量Qm0が蓄積ビーム電荷量の基準値Qs0より少ない場合は、先の数式1における補正係数αをα=Qm0/Qs0とすることで、シンクロトロン内の蓄積ビーム電荷量Qm0に応じて出射ビーム電流強度の目標値を低く制御することで、シンクロトロン13の全ての運転周期で出射するビームで照射線量の平坦度を担保しつつ、ビームを効率良く利用できる。このような制御を実施することで、目標線量以上のビーム照射を抑制することが可能となり、ラスタービーム走査時の出射ビーム電流強度を常に安定に供給できる。
【0103】
照射線量積算回路73は、一層毎に照射線量を積算し、所望の線量に到達したら、エネルギー変更指令を加速器制御装置40に伝送する。加速器制御装置40は、照射線量積算回路から伝送されたエネルギー変更指令に基づき、シンクロトロン13から供給するビームエネルギーとともに、出射用制御装置20に出射ビーム電流強度の目標パターンデータ(Ids(t))の初期値Ids0を更新する。このようにビームエネルギーとともに出射ビーム電流強度の目標値を変更することで、患部の各層に所望の線量を精度良く付与することが可能となる。
【0104】
なお、以上の第1〜第3の実施の形態では、出射制御時間Texと照射装置の照射周期(RMW照射法の場合は回転体の周期構造体の回転周期、ワブラー方の場合はイオンビームの円形走査周期、ラスタービーム走査法の場合は層毎のイオンビームの走査周期)とを互いに整合するよう設定するのに、出射制御時間Texを照射周期に合わせて規定したが、出射制御時間Texを別の条件に基づいて所定の値に規定し、照射装置の照射周期をその出射制御時間Texに合うように規定し、照射装置の制御を行ってもよい。
【図面の簡単な説明】
【0105】
【図1】本発明の第1実施例による荷電粒子ビーム照射システムの構成を示す図である。
【図2】シンクロトロンの運転サイクルにおける周回ビームのエネルギーの変化と周回ビーム電流強度の変化を示す図である。
【図3】RMWの構造とRMWゲート信号パターンデータのデータ構造を示す図である。
【図4】RMWを適用したビーム出射制御タイミングチャートである。
【図5】蓄積ビーム電荷量に対応して出射ビーム電流強度の目標値を制御した場合の蓄積ビーム電荷量と線量モニタ検出信号の変化を示す図である。
【図6】RMWゲート制御により実効的な出射制御時間が変化した場合に出射ビーム電流強度の目標値を制御した場合の蓄積ビーム電荷量と線量モニタ検出信号の変化を示す図である。
【図7】RMW照射法を適用した場合の出射用制御装置の構成を示す図である。
【図8】本発明をワブラー法に適用した場合の実施例(第2実施例)における、走査電磁石励磁電流の変化と蓄積ビーム電荷量が変化した場合に出射ビーム電流強度の目標値を制御した場合の蓄積ビーム電荷量と線量モニタ検出信号の変化を示す図である。
【図9】本発明をワブラー法に適用した場合の実施の形態における出射用制御装置の構成を示す図である。
【図10】本発明をラスタービーム走査法に適用した場合の実施例(第3実施例)における、走査電磁石励磁電流の変化と蓄積ビーム電荷量が変化した場合に出射ビーム電流強度の目標値を制御した場合の蓄積ビーム電荷量と線量モニタ検出信号の変化を示す図である。
【図11】本発明をラスタービーム走査法に適用した場合の実施の形態における出射用制御装置の構成を示す図である。
【符号の説明】
【0106】
1…荷電粒子ビーム照射システム
10a、10b、10c、10d…イオンビーム
11…イオンビーム発生装置
12…前段加速器
13…シンクロトロン
14…低エネルギービーム輸送系
15…蓄積ビーム電荷量検出手段
16…出射用高周波電極
17…高周波電力増幅器
18…高エネルギービーム輸送系
20…出射用制御装置(ビーム出射制御手段)
21…出射用の高周波発振器
22…帯域制限高周波信号発生部
221…高周波ミキサ
23…振幅変調回路
24…ビーム電流強度フィードバック制御回路(ビーム出射制御手段の一部;第3手段)
241…偏差演算回路
242…フィードバックループゲイン調整器
243…加算演算回路
25…高周波スイッチ
251…RMW照射ゲート信号
252…ビーム出射制御信号
26…高周波スイッチ
27…出射用高周波信号処理部
28…RMWゲート信号処理部(ビーム出射制御手段の一部;第1手段)
281…RMWゲート信号(ON/OFF信号)
29…目標ビーム電流強度補正演算部(ビーム出射制御手段の一部;第2手段)
30…照射装置
31…線量モニタ(電流強度計測手段)
32…RMW(回転体)
320…原点検出部
321…翼
322…翼底部
323…翼頂部
324…原点信号
33…回転検出器
331…回転検出信号
40…加速器制御装置
41…統括制御装置
42…記憶装置
43…治療計画装置
50…タイミングシステム
501…蓄積ビーム電荷量検出タイミング信号
502…出射制御タイミング信号
60…インターロックシステム
70…周回ビーム電荷量
71…ワブラー走査電磁石又はラスター走査電磁石
72…走査電磁石電源
73…照射線量積算回路。
Ids(t)…目標ビーム電流強度パターンデータ
Idm(t)…補正した目標ビーム強度パターンデータ
Qs0…蓄積ビーム電荷量の初期値
Qm0…測定された蓄積ビーム電荷量(蓄積ビーム電荷量の測定値)
Ta…翼の1周期の通過時間
Tb…ビーム出射領域時間
Tex…予め設定した出射制御時間
α…補正係数

【特許請求の範囲】
【請求項1】
イオンビームを加速して出射するシンクロトロンと、前記シンクロトロンから導かれた前記イオンビームを照射する照射装置とを有する荷電粒子ビーム照射システムにおいて、
前記シンクロトロンの運転サイクルにおける出射制御期間の直前に前記シンクロトロン内を周回しているイオンビームの蓄積ビーム電荷量を測定する蓄積ビーム電荷量検出手段と、
前記シンクロトロンの出射制御期間の長さである出射制御時間が予め設定されており、前記イオンビームの蓄積量の測定結果に基づいて前記イオンビームの全量が前記予め設定した出射制御時間の終了に合わせて出射し終わるように前記イオンビームの出射を制御するビーム出射制御手段とを備えることを特徴とする荷電粒子ビーム照射システム。
【請求項2】
請求項1記載の荷電粒子ビーム照射システムにおいて、
前記照射装置は所定の照射周期で動作するよう構成され、
前記出射制御時間と前記照射装置の照射周期は互いに整合するよう設定されていることを特徴とする荷電粒子ビーム照射システム。
【請求項3】
請求項1記載の荷電粒子ビーム照射システムにおいて、
前記照射装置は、厚みが回転方向において変化して通過する前記イオンビームのエネルギーを変える複数の周期構造体を有する回転体を有し、前記回転体の周期構造体を通過した前記イオンビームを照射対象に照射し、
前記出射制御時間と前記回転体の周期構造体毎の回転周期は互いに整合するよう設定されていることを特徴とする荷電粒子ビーム出射制御手段を有することを特徴とする荷電粒子ビーム照射システム。
【請求項4】
請求項1記載の荷電粒子ビーム照射システムにおいて、
前記照射装置は、ワブラー走査電磁石を有し、前記ワブラー走査電磁石により前記イオンビームを円形に走査して照射対象に照射し、
前記出射制御時間と前記ワブラー走査電磁石によるイオンビームの円形走査周期は互いに整合するよう設定されていることを特徴とする荷電粒子ビーム出射制御手段を有することを特徴とする荷電粒子ビーム照射システム。
【請求項5】
請求項1記載の荷電粒子ビーム照射システムにおいて、
前記照射装置は、ラスター走査電磁石を有し、前記ラスター走査電磁石により前記イオンビームをジグザグに走査して照射対象の深さ方向の各層毎に照射し、
前記出射制御時間と前記ラスター走査電磁石による層毎のイオンビームの走査周期は互いに整合するよう設定されていることを特徴とする荷電粒子ビーム出射制御手段を有することを特徴とする荷電粒子ビーム照射システム。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1項記載の荷電粒子ビーム照射システムにおいて、
前記ビーム出射制御手段は、前記蓄積ビーム電荷量検出手段による前記イオンビームの蓄積量の測定後、前記照射装置の照射制御に同期して前記イオンビームの出射制御を開始することを特徴とする荷電粒子ビーム照射システム。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか1項記載の荷電粒子ビーム照射システムにおいて、
前記ビーム出射制御手段は、
前記シンクロトロンの運転サイクルにおける出射制御期間の直前におけるイオンビームの蓄積ビーム電荷量の基準値と、この蓄積ビーム電荷量の基準値に対応した目標ビーム電流強度パターンデータとが予め設定されており、
前記蓄積ビーム電荷量検出手段によるイオンビームの蓄積量の測定後、前記蓄積ビーム電荷量の基準値に対する前記イオンビームの蓄積量の測定値の割合を求め、この割合に応じて前記目標ビーム電流強度パターンデータを補正してそのときのビーム電流強度の目標値を求め、このビーム電流強度の目標値が得られるよう出射用高周波電圧の振幅値を制御することを特徴とする荷電粒子ビーム照射システム。
【請求項8】
請求項1〜3のいずれか1項記載の荷電粒子ビーム照射システムにおいて、
前記照射装置は、厚みが回転方向において変化して通過する前記イオンビームのエネルギーを変える回転体を有し、前記回転体を通過した前記イオンビームを照射対象に照射し、
前記ビーム出射制御手段は、
前記回転体の回転時に、前記シンクロトロンからの前記イオンビームの出射および出射停止を制御するためのON/OFF信号を生成する第1手段と、
前記シンクロトロンの運転サイクルにおける出射制御期間の直前におけるイオンビームの蓄積ビーム電荷量の基準値と、この蓄積ビーム電荷量の基準値に対応した目標ビーム電流強度パターンデータとが予め設定されており、前記蓄積ビーム電荷量検出手段によるイオンビームの蓄積量の測定後、前記蓄積ビーム電荷量の基準値に対する前記イオンビームの蓄積量の測定値の割合を求め、この割合と、前記出射制御時間に対する実際のビーム出射時間の割合とに応じて前記目標ビーム電流強度パターンデータを補正してそのときのビーム電流強度の目標値を求める第2手段と、
前記ビーム電流強度の目標値が得られるよう出射用高周波電圧の振幅値を制御するとともに、前記ON/OFF信号に基づいて前記出射用高周波電圧の出力タイミングを制御する第3手段とを有することを特徴とする荷電粒子ビーム照射システム。
【請求項9】
請求項8載の荷電粒子ビーム照射システムにおいて、
前記目標ビーム電流強度パターンデータは前記ビーム電流強度の目標値が時間の経過と共に減少するよう設定され、
前記第2手段は、前記目標ビーム電流強度パターンデータに対応して、時間の経過と共に減少するビーム電流強度の目標値を求めることを特徴とする荷電粒子ビーム照射システム。
【請求項10】
請求項1〜9のいずれか1項記載の荷電粒子ビーム照射システムにおいて、
前記ビーム出射制御手段は、前記シンクロトロン内を周回しているイオンビームの全量が前記出射制御時間の終了に合わせて出射し終わるように前記シンクロトロンから出射するビーム電流強度の目標値を計算する手段と、前記シンクロトロンから実際に出射されたビーム電流強度を計測する手段と、前記ビーム電流強度の目標値と前記実際に出射されたビーム電流強度の計測値から前記出射用高周波電圧の振幅値の補正量を演算する手段とを有することを特徴とする荷電粒子ビーム照射システム。
【請求項11】
シンクロトロン内を周回して加速したイオンビームを前記シンクロトロンから出射し、照射装置へと導く荷電粒子ビーム出射方法において、
前記シンクロトロンの運転サイクルにおける出射制御期間の長さである出射制御時間を予め設定する第1手順と、
前記シンクロトロンの運転サイクルにおける出射制御期間の直前に前記シンクロトロン内を周回しているイオンビームの蓄積ビーム電荷量を測定する第2手順と、
前記イオンビームの蓄積量の測定結果に基づいて前記イオンビームの全量が前記出射制御時間の終了に合わせて出射し終わるように前記イオンビームの出射を制御する第3手順とを有することを特徴とする荷電粒子ビーム出射方法。
【請求項12】
請求項11記載の荷電粒子ビーム出射方法において、
前記第1手順は、前記出射制御時間と前記照射装置の照射周期が互いに整合するよう設定することを特徴とする荷電粒子ビーム出射方法。
【請求項13】
請求項11又は12記載の荷電粒子ビーム出射方法において、
前記第3手順は、前記イオンビームの蓄積量の測定後、前記照射装置の照射制御に同期して前記イオンビームの出射制御を開始することを特徴とする荷電粒子ビーム出射方法。
【請求項14】
請求項11〜13のいずれか1項記載の荷電粒子ビーム出射方法において、
前記第1手順は、更に、前記シンクロトロンの運転サイクルにおける出射制御期間の直前におけるイオンビームの蓄積ビーム電荷量の基準値と、この蓄積ビーム電荷量の基準値に対応した目標ビーム電流強度パターンデータとを予め設定し、
前記第3手順は、前記イオンビームの蓄積量の測定後、前記蓄積ビーム電荷量の基準値に対する前記イオンビームの蓄積量の測定値の割合を求め、この割合に応じて前記目標ビーム電流強度パターンデータを補正してそのときのビーム電流強度の目標値を求め、このビーム電流強度の目標値が得られるよう出射用高周波電圧の振幅値を制御することを特徴とする荷電粒子ビーム出射方法。
【請求項15】
請求項11〜13のいずれか1項記載の荷電粒子ビーム出射方法において、
前記照射装置は、厚みが回転方向において変化して通過する前記イオンビームのエネルギーを変える回転体を有し、前記回転体を通過した前記イオンビームを照射対象に照射し、
前記第1手順は、更に、前記シンクロトロンの運転サイクルにおける出射制御期間の直前におけるイオンビームの蓄積ビーム電荷量の基準値と、この蓄積ビーム電荷量の基準値に対応した目標ビーム電流強度パターンデータとを予め設定し、
前記第3手順は、
前記回転体の回転時に、前記シンクロトロンからの前記イオンビームの出射および出射停止を制御するためのON/OFF信号を生成する第4手順と、
前記イオンビームの蓄積量の測定後、前記蓄積ビーム電荷量の基準値に対する前記イオンビームの蓄積量の測定値の割合を求め、この割合と、前記出射制御時間に対する実際のビーム出射時間の割合とに応じて前記目標ビーム電流強度パターンデータを補正してそのときのビーム電流強度の目標値を求める第5手順と、
前記ビーム電流強度の目標値が得られるよう出射用高周波電圧の振幅値を制御するとともに、前記ON/OFF信号に基づいて前記出射用高周波電圧の出力タイミングを制御する第6手順とを有することを特徴とする荷電粒子ビーム出射方法。
【請求項16】
請求項15載の荷電粒子ビーム出射方法において、
前記第1手順は、前記目標ビーム電流強度パターンデータを前記ビーム電流強度の目標値が時間の経過と共に減少するよう設定し、
前記第4手順は、前記目標ビーム電流強度パターンデータに対応して、時間の経過と共に減少するビーム電流強度の目標値を求めることを特徴とする荷電粒子ビーム出射方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2010−11962(P2010−11962A)
【公開日】平成22年1月21日(2010.1.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−173451(P2008−173451)
【出願日】平成20年7月2日(2008.7.2)
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)
【Fターム(参考)】