説明

荷電粒子ビーム照射システム

【課題】スポットスキャニング方式の荷電粒子ビーム照射システムにおいて、精度のよいPET画像を取得する。
【解決手段】PET制御部49は、照射装置制御部48から出射停止信号を受信し、予め設定した一定の時間経過した後、PET計測を開始する(S109)。スポット番号jのスポット照射が完了すると、照射位置がスポット番号j+1のスポット位置に変更される(S111→103)。次のスポット照射をするため、照射装置制御部48は出射開始信号を送信し、PET制御部49は出射開始信号を受信するとPET計測を停止する(S105)。つまり、PET計測は出射停止中に行われる。このPET計測で得られたPET信号は、スポット番号j+1のスポット照射直前のPETデータとして、PET制御部49内のメモリに記録される。PET画像取得機能49aは記録したPETデータから陽電子放出核の分布(PET画像)を取得する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、荷電粒子ビームを腫瘍等の患部に照射して治療する荷電粒子ビーム照射システムに関する。
【背景技術】
【0002】
癌(腫瘍)などの患者に陽子線などの荷電粒子ビーム(イオンビーム)を照射して癌を治療する方法が知られている。この荷電粒子ビームの照射に用いる荷電粒子ビーム照射システムは、荷電粒子ビーム発生装置,ビーム輸送系、及び治療室を備えている。
【0003】
荷電粒子ビーム発生装置で加速された荷電粒子ビームはビーム輸送系を経て治療室の照射装置に達し、照射装置により調整され患者体内で患部形状に適した照射野を形成する。
【0004】
照射野を形成した位置を確認するため、荷電粒子ビームと体内の物質との反応により生成された陽電子放出核からの一対の消滅ガンマ線を検出する方法がある。検出したPET信号(消滅ガンマ線)から陽電子放出核の分布を求め、所望の位置に線量分布が形成されたことを確認する。特許文献1には照射野全体を同時に照射する散乱体照射方式で照射野を一度形成し、PET計測を行いPET画像により照射位置を確かめ、その後、再度照射する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2008-173297号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
照射装置が線量分布を拡大する方法としてスポットスキャニング方式がある。スポットスキャニング方式はまず荷電粒子ビームをあるエネルギーまで加速し、走査電磁石で荷電粒子の横方向の照射位置変更と照射を繰り返す。ひとつのエネルギーですべき照射を完了した後、次のエネルギーへ荷電粒子ビームを加速し同様に横方向の照射位置変更と照射を繰り返す。このように照射野を順次形成していく特長がある。この一連の照射時間は通常数十〜数百秒程度である。
【0007】
ところで、陽電子放出核の半減期は核種によっては120秒程度の場合もある。
【0008】
従来技術のように、散乱体照射方式により照射野を同時に形成し、照射直後にPET計測を行えば、以下のような陽電子放出核の減衰に係る課題は生じない。
【0009】
しかし、スポットスキャニング方式により照射野を形成し、照射終了後PET計測する場合、上述のように数十〜数百秒程度経過しており、照射開始直後に生成した陽電子放出核の多くはPET計測開始時には減衰してしまう可能性がある。その結果、照射の順序に依存してPET計測結果が異なってしまう。言い換えると、照射終了直前に照射した位置の信号は十分な強度のPET信号を得られるのに対し、照射開始直後に照射した位置の信号は十分な強度のPET信号を得られない。
【0010】
一方、照射(より正確には出射)と並行してPET計測をすれば、上記のような陽電子放出核の減衰に係る課題は生じないが、即発ガンマ線が発生し、PETカメラにノイズとして入射するためPET計測の精度が劣化する。
【0011】
すなわち、従来技術(散乱体照射方式)のPET計測をスポットスキャニング方式に適用すると、精度のよいPET画像を取得できないという課題があった。
【課題を解決するための手段】
【0012】
(1)上記目的を達成するために、本発明は、荷電粒子ビームを加速する加速器と、荷電粒子ビームを走査する走査電磁石を有し、断続的に前記荷電粒子ビームを照射対象に出射する照射装置と、前記照射対象内の陽電子放出核から発生する消滅ガンマ線を検出するガンマ線検出器とを備えた荷電粒子ビーム照射システムにおいて、前記照射装置からの前記荷電粒子ビームの出射停止から次の出射開始までの間に、前記ガンマ線検出器が検出した前記消滅ガンマ線に基づくPET信号を用いて、陽電子放出核が発生した位置を求めるPET計測手段を備える。
【0013】
照射中(詳細には、出射終了と次の出射開始前の間の出射停止中)のPET信号に基づくことにより、照射開始直後に照射したスポットにおいても十分な強度のPET信号を得ることができる。また、出射停止中に、PET計測を行うため、即発ガンマ線発生によるノイズはない。これにより、精度のよいPET計測をおこなうことができる。
【0014】
(2)上記(1)において、好ましくは、前記消滅ガンマ線は、前記荷電粒子ビームと前記照射対象との反応により生成された陽電子放出核からの消滅ガンマ線であり、前記PET計測手段は、前記荷電粒子ビームの出射停止から次の出射開始までの間に、前記ガンマ線検出器が検出した前記消滅ガンマ線に基づくPET信号を選別し、選別した前記PET信号を用いて陽電子放出核の発生位置を求め、前記PET計測手段で求めた前記陽電子放出核の発生位置情報を用いてPET画像を生成するPET画像取得手段を備える。
【0015】
精度のよいPETデータを用いることにより、精度の良いPET画像を取得できる。
【0016】
(3)上記(1)において、好ましくは、前記消滅ガンマ線は、前記照射対象に放射性薬剤を投与して照射標的に集積させた陽電子放出核からの消滅ガンマ線であり、前記PET計測手段は、前記荷電粒子ビームの出射停止から次の出射開始までの間に、前記ガンマ線検出器が検出した前記消滅ガンマ線に基づくPET信号を選別し、選別した前記PET信号を用いて陽電子放出核の発生位置を求め、前記PET計測手段で求めた前記陽電子放出核の発生位置が予め定められた位置許容範囲にある場合に前記荷電粒子ビームの出射許可を示すゲート信号を出力し、前記陽電子放出核の発生位置が前記位置許容範囲からはずれた場合に前記ゲート信号の出力を停止するゲート信号出力手段と、前記ゲート信号出力手段から出力される前記ゲート信号に基づいて、前記照射装置からの前記荷電粒子ビームの出射開始及び出射停止を制御する照射制御装置を備える。
【0017】
精度のよいPETデータを用いることにより、ゲート信号出力・出力終了を精度良くおこなうことができ、呼吸同期制御において精度良く所望の線量分布を形成することができる。
【0018】
(4)上記(3)において、前記PET計測手段で求めた前記陽電子放出核の発生位置情報を表示する表示装置と、前記表示装置に表示された前記陽電子放出核の発生位置情に基づいて、前記位置許容範囲を入力するための入力装置とを備える。
【0019】
これにより、精度良くゲート範囲(位置許容範囲)を入力することができる。
【0020】
(5)上記(1)において、前記PET計測手段は、前記荷電粒子ビームの出射停止信号を受信してから一定時間経過後に、前記荷電粒子ビームの出射停止と判断し、この出射停止から次の出射開始までの間に、前記ガンマ線検出器が検出した前記消滅ガンマ線に基づくPET信号を選別し、選別した前記PET信号を用いて陽電子放出核の発生位置を求める。
【0021】
これにより、PET計測開始時にはイオンビームの出射は完全に停止しており、PET信号にノイズが混在することを防ぐことができる。
【0022】
(6)上記(1)において、前記照射装置は、通過する荷電粒子ビーム量の線量を計測する線量モニタを有し、前記PET計測手段は、前記線量モニタで計測される前記荷電粒子ビームの線量値が予め定められた閾値以下になると前記荷電粒子ビームの出射停止と判断し、この出射停止から次の出射開始までの間に、前記ガンマ線検出器が検出した前記消滅ガンマ線に基づくPET信号を選別し、選別した前記PET信号を用いて陽電子放出核の発生位置を求める。
【0023】
これにより、PET計測開始時にはイオンビームの出射は完全に停止しており、PET信号にノイズが混在することを防ぐことができる。
【発明の効果】
【0024】
照射中であって、イオンビーム出射停止時のPET信号を用いることにより、照射順序に関係なく十分な強度でかつノイズのないPET信号を得ることができ、精度の良い患部の位置情報を取得できる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明の一実施形態である荷電粒子ビーム照射システムの全体概略構成を示す図である。
【図2】照射装置21の構成について示す図である。
【図3】照射対象の深さとイオンビームのエネルギーとの関係を説明する図である。図3(a)は、単一エネルギーのイオンビームを照射した場合のもの、図3(b)は、いくつかのエネルギーのイオンビームを適切な強度の割合で照射して、ブラッグピークを重ね合わせた場合のものをそれぞれ示している。
【図4】照射対象にイオンビームを照射した場合に得られる横方向の線量分布を示す図である。
【図5】データベースに記録される照射パラメータを示す概念図である。
【図6】荷電粒子ビーム照射システムの処理内容を示す制御フローである。
【図7】照射とPET計測のタイムチャートの一例を示す図である(第1実施形態)。
【図8】照射とPET計測のタイムチャートの一例を示す図である(第2実施形態)。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明の好適な実施形態である荷電粒子ビーム照射システムについて、図面を用いて説明する。
【0027】
<第1実施形態>
〜構成〜
図1は、本発明の一実施形態である荷電粒子ビーム照射システムの全体概略構成を示す図である。
【0028】
本実施形態の荷電粒子ビーム照射システム10は、荷電粒子ビーム発生装置1,ビーム輸送系2,放射線治療室17及び制御システム7を備える。
【0029】
荷電粒子ビーム発生装置1は、イオン源(図示せず),ライナック3(前段荷電粒子ビーム加速装置)及びシンクロトロン4(加速器)を有する。シンクロトロン4は、高周波印加装置5,加速装置6を有する。高周波印加装置5はシンクロトロン4の周回軌道に配置された高周波印加電極(図示せず)及び高周波印加電源(図示せず)を備える。高周波印加電極と高周波印加電源はスイッチ(図示せず)により接続される。加速装置6はイオンビームの周回軌道に配置された高周波加速空洞(図示せず)及び高周波加速空洞に高周波電力を印加する高周波電源(図示せず)を備える。出射用デフレクタ11がシンクロトロン4とビーム輸送系2を接続する。
【0030】
ビーム輸送系2は、ビーム経路12,四極電磁石(図示せず),偏向電磁石14,偏向電磁石15及びU字状偏向電磁石16を有する。ビーム経路12が、治療室17内に設置された照射装置21に接続される。
【0031】
治療室17内には略筒状のガントリー18が設置されている。ガントリー18には、ビーム輸送系2の一部であるU字状の偏向電磁石16、及び照射装置21、一対のPETカメラ28が設置されている。ガントリー18の内部にはカウチ24と呼ばれる治療用ベッドが設置されている。
【0032】
ガントリー18は、モーターにより回転可能な構造をしている。ガントリー18の回転と共にU字状偏向電磁石16と照射装置21が回転する。この回転により、照射対象25をガントリー18の回転軸に垂直な平面内のいずれの方向からも照射することができる。
【0033】
図2は、照射装置21の構成について示す図である。照射装置21は、走査電磁石31,走査電磁石32,ビーム位置検出器33,線量モニタ(照射量検出装置)34を有する。荷電粒子ビーム照射システム10の照射装置21は二台の走査電磁石31,32を備え、走査電磁石31,32はビーム進行方向と垂直な面内の二つの方向(X方向,Y方向)にそれぞれイオンビームを偏向し、照射位置を変更する。ビーム位置検出器33は、イオンビームの位置とイオンビームの広がりを計測する。線量モニタ34は、照射されたイオンビームの量を計測する。
【0034】
ビーム位置検出器33は、X方向,Y方向それぞれ一定間隔毎に平行にワイヤーが張られている。ワイヤーには高電圧がかけられており、イオンビームが通過すると検出器内の空気が電離され、電離された荷電粒子は最も近いワイヤーに集められる。集められた荷電粒子量を測定する。イオンビームの広がりよりも十分に小さい間隔でワイヤーを張ることにより、ビームの分布を得ることができ、ビーム位置(分布の重心)とビーム幅(分布の標準偏差)を算出することができる。
【0035】
線量モニタ34は、二つの電極が平行平板型構造をしており、電極間に電圧が印加されている。イオンビームが線量モニタ(照射量検出装置)34を通過すると、イオンビームにより、検出器内の空気が電離され、電離された荷電粒子は検出器内電場により電極に集積し、信号となって読み出される。ここで、イオンビーム量と、電極に集積する電荷が比例するので通過したイオンビーム量を計測することができる。
【0036】
照射対象25内には照射標的37がある。イオンビームを照射することで照射標的を覆うような線量分布が照射対象25内に形成される。ここで癌などの治療の場合は、照射対象は人であり照射標的は腫瘍(患部)である。
【0037】
図1に戻り、粒子線照射システム10が備えている制御システム7について説明する。制御システム7は、データベース(記録装置)42,中央制御装置46,加速器制御部47,照射装置制御部48及びPET制御部49を備える。データベース42はX線CT装置40に接続された照射計画システム41に接続されている。照射計画システム41が作成する照射に必要なデータはデータベース42に記録される。中央制御装置46は、加速器制御部47及び照射装置制御部48に接続される。また、中央制御装置46は、データベース42に接続される。中央制御装置46は、データベース42からデータを受け取り、加速器制御部47と照射装置制御部48に必要な情報を送信し制御する。加速器制御部47は、荷電粒子ビーム発生装置1,ビーム輸送系2及びガントリー18に接続され、これらを制御する。照射装置制御部48は、走査電磁石31,32に流れる励磁電流量の制御と照射装置21内の各モニタ信号の処理を行う。PET制御部49はPETカメラ28を制御してPETカメラ28からのデータを取得し処理する。
【0038】
図3は、照射対象の深さとイオンビームのエネルギーとの関係を説明する図である。
【0039】
図3(a)は、単一エネルギーのイオンビームが照射対象内に形成する線量分布を深さの関数として示している。図3(a)におけるピークをブラッグピークと称する。ブラッグピークの位置はエネルギーに依存するため、照射標的の深さに合わせイオンビームのエネルギーを調整することでブラッグピークの位置で照射標的を照射することができる。
【0040】
図3(b)は、複数のイオンビームが重ね合わされて照射対象内に形成する線量分布を深さの関数として示している。照射標的は深さ方向に厚みを持っているが、ブラッグピークは鋭いピークであるので、いくつかのエネルギーのイオンビームを適切な強度の割合で照射し、複数のブラッグピークを重ね合わせることで深さ方向に照射標的と同じ厚みを持った一様な高線量領域(SOBP)を形成する。
【0041】
図4は、照射対象にイオンビームを照射した場合に得られる横方向の線量分布を示す図である。ビーム軸に垂直な方向(XY平面の方向)の照射標的の広がりとイオンビームの関係について説明する。ビーム軸に垂直な方向を横方向と呼ぶ。イオンビームは照射装置21に達した後、互いに垂直に設置された二台の走査電磁石31,32により横方向の所望の位置へと到達する。イオンビームの横方向の広がりはガウス分布形状で近似することができる。ガウス分布を等間隔で配置し、その間の距離をガウス分布の標準偏差程度にすることで、足し合わされた分布は一様な領域を有する。このように配置されるガウス分布状の線量分布をスポットと呼ぶ。走査電磁石31,32の励磁量(励磁電流量)を一定にして1つのスポットの照射位置にイオンビームを照射し、イオンビームの出射を停止した後、励磁量を変更して次のスポットの照射位置に変更し、イオンビームを再び出射して照射する(スポットスキャン方式)。このようにスポットスキャン方式によりイオンビームを走査し複数のスポットを等間隔に配置することで横方向に一様な線量分布を形成することができる。
【0042】
以上の構成により、走査電磁石による横方向へのビーム走査と、ビームエネルギー変更による深さ方向へのブラッグピークの移動により均一な照射野を形成することができる。なお、同一のエネルギーで照射され、走査電磁石によるイオンビーム走査により横方向へ広がりを持つ照射野の単位をスライスと呼ぶ。
【0043】
〜制御・動作〜
荷電粒子ビーム照射システム10の動作および付随する動作について説明する。
【0044】
(照射前)
イオンビームを照射標的37に照射する前に、事前に照射計画システム41が照射に必要な各パラメータを決定する。照射計画システム41によるパラメータの決定方法について説明する。
【0045】
予め照射対象25をX線CT装置40にて撮影する。X線CT装置40は、取得した撮像データに基づいて照射対象25の画像データを作成し、画像データを照射計画システム41に送信する。照射計画システム41は、受け取った画像データを、表示装置(図示せず)の画面上に表示する。オペレータが画像上で照射したい領域を指定すると、照射計画システム41は照射に必要なデータを作成し、そのデータで照射したときの線量分布を求める。なお、照射したい領域が照射標的37を覆うように領域を指定する。照射計画システム41は、求めた線量分布を表示装置に表示する。照射計画システム41は、指定された領域に線量分布を形成できるような照射対象の位置を指定する位置合わせ画像,ガントリー角度,照射パラメータを求め、これらを決定する。
【0046】
照射計画システム41が求める照射パラメータには、イオンビームのエネルギー,ビーム軸に垂直な平面内の各スポットの位置情報(X座標,Y座標),各位置に照射するイオンビームの目標照射量が含まれる。つまり、照射計画システム41は、オペレータが入力した患者情報に基づいて、照射標的(患部)37を深さ方向の複数のスライスに分割し、必要となるスライス数M,スライス番号iを決定する。また、照射計画システム41は、それぞれのスライス(スライス番号i)の深さに応じた照射に適したイオンビームのエネルギーEiを求める。照射計画システム41は、さらに、各スライスの形状に応じて、イオンビームを照射する照射スポットの数Ni,スポット番号j,各スポットの照射位置(Xij,Yij)、各スポットの目標照射量Dijを決定する。スポットの照射位置(Xij,Yij)が、照射対象のビーム進行方向(深さ方向)と垂直な平面における目標照射位置となる。
【0047】
照射計画システム41は、オペレータの指示に基づいて、決定したこれらの情報をデータベース42に送信する。送信のタイミングは、情報の決定直後でもよいし、照射標的37にイオンビームを照射する治療当日の照射準備開始時であってもよい。データベース42は、照射計画システム41から出力されたデータを記録する。
【0048】
図5は、データベース42に記録される照射パラメータを示す概念図である。照射パラメータはスライス数Mと各スライスのデータを持つ。各スライスのデータはスライス番号i,エネルギーEi,スポット数Ni,各スポットのデータから構成される。スポットのデータはさらにスポット番号j,照射位置(Xij,Yij),目標照射量Dijから構成される。
【0049】
(照射)
荷電粒子ビーム照射システム10の照射に係る動作について説明する。本明細書では、例えば数msの時間、継続して実際にイオンビームを出射する動作を出射と呼ぶ。スポットへ出射から出射停止までの一連の動作をスポット照射と呼び、出射と出射停止とを繰り返す一連の動作を照射と呼ぶ。
【0050】
照射を開始するため照射対象をカウチ上に設置しカウチ周辺に設置されているX線透視装置(図示せず)により照射対象を撮像する。照射計画システム41が作成した位置合わせ画像とX線透視画像が一致するようにカウチを駆動制御して照射対象25を移動する。荷電粒子ビーム照射システム10は、データベース42に記録された情報に基づいて、以下のように照射の準備を行う。
【0051】
中央制御装置46は、例えばオペレータの指示により処理手順を開始する。なお、中央制御装置46は、データベース42が照射計画システム41から出力されたデータを記録するのに連動して処理手順を開始してもよい。
【0052】
中央制御装置46はデータベース42に記録されたデータを読み出し、出射停止制御で実際に用いるスポット毎の設定照射量を決定する。設定照射量は各スポットまでに照射される照射パラメータの目標照射量を積算したものである。照射が開始されると線量カウンタの積算値と設定照射量を比較し、線量カウンタの積算値が設定照射量に達すると、出射停止する。また、各スポットに対し照射位置とそのエネルギーから走査電磁石31,32を励磁する電流量(励磁量)を算出する。その後、中央制御装置46は照射パラメータ、設定照射量、走査電磁石励磁電流値を照射装置制御部48へ送信する。
【0053】
中央制御装置46は、データベース42から照射パラメータの他、ガントリー角度情報を受信する。中央制御装置46は、ガントリー角度情報を加速器制御部47に送信する。
【0054】
加速器制御部47は、受信したガントリー角度情報に基づいてガントリー18を所望のガントリー角度へ移動する。
【0055】
また、中央制御装置46は、受信した照射パラメータに基づいて、各スライスのエネルギーEiに対応したシンクロトロン4とビーム輸送系2の電磁石を励磁する励磁電流量、高周波印加装置5が印加する高周波の値、加速装置6に印加する高周波の値を、中央制御装置46が有するメモリ(図示せず)から参照し、加速器制御部47へ送信する。
【0056】
中央制御装置46から加速器制御部47に高周波印加装置5が印加する高周波の値が送信されると、加速器制御部47は、高周波印加装置5が印加する高周波の強度がその値となるよう高周波印加装置5を制御し、シンクロトロン4からイオンビームを出射させる。
【0057】
図6は、荷電粒子ビーム照射システム10の処理内容を示す制御フローである。荷電粒子ビーム照射システム10の照射に係る動作の詳細について荷電粒子ビーム照射システム10の制御と併せて説明する。
【0058】
中央制御装置46は、オペレータの指示に基づいて照射開始し、スライス番号i,スポット番号j,エネルギー情報Eiを加速器制御部47と照射装置制御部48に出力する。最初の照射開始が合図されると、スライス番号i=1,スポット番号j=1から照射を開始する。照射開始信号を受信した加速器制御部47はイオン源を起動する。イオン源で発生したイオン(例えば陽子(又は炭素イオン))は、ライナック3に入射される。ライナック3は、イオンを加速して出射する。ライナック3からのイオンビームは、シンクロトロン4へ入射される。
【0059】
ステップ101において、加速器制御部47は、シンクロトロン4の電磁石と加速装置6を制御し、ライナック3から入射されたイオンビームをスライス番号1のエネルギーE1まで加速する。つまり、加速器制御部47が、荷電粒子ビーム発生装置1を制御し、イオンビームを所望のエネルギーまで加速する。この加速は、高周波電源から、高周波加速空洞に高周波を印加すること(シンクロトロン4を周回するイオンビームに、高周波電力によってエネルギーを与えること)によって行われる。また、加速器制御部47は、ビーム輸送系2の電磁石の励磁量を制御し、加速したエネルギーのイオンビームを照射装置21へ輸送できる状態とする。
【0060】
ステップ102において、イオンビームの加速が完了しビーム輸送系2の準備が整うと、加速器制御部47は、照射装置制御部48へ出射準備完了信号を送信する。
【0061】
ステップ103において、照射装置制御部48は、出射準備完了信号を受信し、スライス1,スポット1に対応する中央制御装置46が計算した励磁電流量で走査電磁石31及び走査電磁石32を励磁する。また、照射装置制御部48は、線量モニタ34からの信号をカウントする線量カウンタを0にリセットし、スライス1、スポット1の設定照射量を設定する。
【0062】
ステップ104において、照射装置制御部48は、走査電磁石31,32に流れる電流が所望の値になったことを確認し、出射開始信号を加速器制御部47とPET制御部49へ送信する。
【0063】
ステップ105において、スライス1、スポット1を照射するとき、PET制御部49は動作しない(PET計測停止)。
【0064】
ステップ106において、加速器制御部47は、出射開始信号を受信し、高周波印加装置5を制御してシンクロトロン4からのイオンビームの出射を開始する。
【0065】
ここでイオンビームの出射の流れについて説明する。スイッチを繋ぐと、イオンビームには、高周波印加装置5により高周波が印加される。これにより、安定限界内でシンクロトロン4内を周回していたイオンビームは、安定限界外に移行し、出射用デフレクタ11を通ってシンクロトロン4から出射される。出射されたイオンビームは、ビーム輸送系2を通過して照射装置21へ入射し走査電磁石31,32により走査された後、ビーム位置検出器33,線量モニタ34を通過して照射対象25に到達し、照射標的37に線量を付与して停止する。
【0066】
ステップ107において、出射中、照射装置制御部48は、線量モニタ34から検出信号に基づき照射量を線量カウンタでカウントする。
【0067】
ステップ108において、照射装置制御部48は、線量カウンタの積算値が設定照射量に達すると、加速器制御部47とPET制御部49に対し出射停止信号を送信する。
【0068】
なお、本実施形態においては、出射開始信号受信によりイオンビームの出射が開始し、出射停止信号受信によりイオンビームの出射が停止するが、出射許可信号受信によりイオンビームの出射が開始し、出射許可信号不受信によりイオンビームの出射が停止しても良い。
【0069】
ステップ109において、PET制御部49は出射停止信号を受信し、予め設定した一定の時間経過した後、PET計測を開始する。
【0070】
ステップ110において、加速器制御部47は出射停止信号を受信し、高周波印加装置5を制御して出射を停止する。高周波印加電極と高周波印加電源をつなぐスイッチを切り高周波の印加を停止することにより、シンクロトロン4からのイオンビームの出射が停止する。これにより、スライス番号1,スポット番号1への出射(スポット照射)が完了する。
【0071】
ところで、照射装置制御部48が出射停止信号を送信した(ステップ108)後も、イオンビームの出射は直ちに停止せず、シンクロトロン4の応答の遅れの分だけイオンビームが出射される。出射停止信号の受信から一定時間経過(例えば1ms)すると、イオンビームの出射は完全に停止する。その後、PET計測することにより、PET信号にノイズが混在することを防ぐことができる。
【0072】
ステップ111において、照射装置制御部48は、スライス番号1のスポット数N1とスポット番号jを比較する。スポット番号jがスポット数N1に達しない場合、次のスポット番号j+1のスポットの照射を開始するためステップ103の動作を開始する。すなわち、スポット番号1のスポット照射が完了すると、照射位置がスポット番号2のスポット位置に変更される。
【0073】
スポット番号2のスポット照射をするため、照射装置制御部48は出射開始信号を送信し、PET制御部49は出射開始信号を受信するとPET計測を停止し、加速器制御部47は、出射開始信号を受信するとイオンビームの出射を開始する(ステップ104→105→106)。
【0074】
このように、PET計測は、スポット番号1のスポット照射が完了すると開始され、スポット番号2のスポット照射が完了すると停止される(ステップ109→105)。いいかえると、PET計測は、出射停止中に行われる。このPET計測で得られたPET信号は、スポット番号2のスポット照射直前のPETデータとして、PET制御部49内のメモリ(図示せず)に記録される。また、出射時間(スポット番号1のスポット照射の出射開始から出射停止後一定時間経過まで)と出射停止時間(スポット番号1のスポット照射の出射停止後一定時間経過からスポット番号2のスポット照射の出射開始まで)も記録される。
【0075】
以下、PET計測がスポット番号jのスポット照射停止からスポット番号j+1のスポット照射開始まで行われ、スポット番号j+1のスポット照射直前のデータとして記憶される一連の動作が繰り返される(ステップ109→111→105)。
【0076】
図7は、照射とPET計測のタイムチャートの一例を示す図である。上記ステップ103からステップ111に相当するスポット番号j−1からj+1までの3スポット分の照射を表している。1行目に走査電磁石の励磁電流値、2行目に出射許可、3行目にビーム電流値、4行目にPET計測を示す。
【0077】
走査電磁石31,32は励磁電流値の変更と静定を順次繰り返し、静定したときのみ出射開始信号により出射許可がHighになってイオンビームが出射される。ビーム電流値は出射許可がHighになることで立ち上がり、出射停止信号により出射許可がLowになった後、減衰する。ビーム電流の減衰が完了するときPET計測がHighになり、出射許可がHighになることでPET計測はLowになる。PET制御部49はPET計測がHighの間のみPET計測を実施する。出射許可がLowになったときからPET計測がHighになるまでの一定時間(例えば1ms)は予め設定する。
【0078】
図6に戻り、荷電粒子ビーム照射システム10の照射に係る動作の詳細について更に説明する。
【0079】
ステップ111において、スポット番号jがスポット数N1に達した場合、残りスポットはないとして、照射装置制御部48は加速器制御部47へ減速信号を出力し、ステップ112において加速器制御部47はシンクロトロン4の電磁石を制御してシンクロトロン4内に残っているイオンビームを減速する。これによりスライス番号1の全スポット照射が完了する。
【0080】
ステップ113において、スライス番号iとスライス数Mを比較する。スライス番号iがスライス数Mに達しない場合、ステップ101に戻り、次のスライスi+1の照射準備を開始する。すなわち、スライス番号i=1の全スポット照射が完了すると、スライス番号i=2,スポット番号j=1から照射を開始し、ステップ101〜113の処理を繰り返す。
【0081】
スライス番号1、スポット番号N1における、ステップ109(PET計測開始)以降、PET制御部49はPET計測を継続し、スライス番号2、スポット番号1における、ステップ105においてPET計測を停止する。つまり、スライス変更時も、出射停止中にPET計測が行われる。このPET計測で得られたPET信号は、スライス番号2、スポット番号1のスポット照射直前のPETデータとして、PET制御部49内のメモリ(図示せず)に記録される。
【0082】
なお、同一のエネルギーで照射すべきスポットの照射が完了せずに、加速器内のイオンビームの蓄積量が無くなった場合、加速器はイオンビームをライナック3から再度入射してイオンビームを加速する。このときもPET制御部49は出射停止中にPET計測を行い、このPET計測で得られたPET信号は、次に照射されるスポットの直前PETデータとして記録される。
【0083】
ステップ111において、スポット番号jがスポット数NMに達し、更に、ステップ113において、スライス番号iがスライス数Mに達すると、残りスライスはないとして、照射が終了する。
【0084】
照射終了後も、照射対象をそのままにし、PET制御部49はPET計測(スライス番号M、スポット番号NMにおけるステップ109においてPET計測開始)を継続する。
【0085】
ステップ114において、数分間計測したのち、PET制御部49はPET計測を停止する。これにより、一連の照射を完了する。
【0086】
なお、同一の照射対象に対し続けて二つのガントリー角度から照射する場合、最初のガントリー角度で照射後、すぐに次のガントリー角度へガントリーを回転させ、照射を開始する。このとき、ひとつ目の角度で照射完了後、ふたつ目の角度で照射開始されるまでの間も出射停止中にPET計測を行い、このPET計測で得られたPET信号はガントリー角度と共に記録される。
【0087】
(照射完了後)
照射完了後、PET制御部49の一機能であるPET画像取得機能49aは、記録したPETデータから陽電子放出核の分布(PET画像)を再構成する。再構成した分布は例えば照射計画システムの画面上にX線CTデータ、計画した線量分布と共に表示する。計画した線量分布と計測した陽電子放出核の分布を比較することで所望の位置に線量分布を形成できたことを確認することができる。また、計画した線量分布に対応した陽電子放出核の分布をモンテカルロ等の計算により求め、それを表示してもよい。計算で求めた陽電子放出核の分布と計測で得た陽電子放出核の分布を比較することで分布が所望の位置に形成できたことをより正確に確認できる。
【0088】
なお、再構成は下記のような補正を加えた再構成をしてもよい。ステップ105および114において、PETデータと伴に、出射時間と出射停止時間が記録されている。上述のように、PET計測は、出射停止中に行われ、出射中には行われないが、直前の出射停止中に計測されたPETデータを、出射中にも計測したとみなす。直後の出射停止中に計測されたPETデータを、出射中にも計測したとみなしてもよい。
【0089】
ひとつの出射停止時間が短く十分な信号強度が期待できない場合、複数の期間の時間と信号を足して計算してもよい。このような補正をした分布と計算で求めた陽電子放出核の分布を比較することでより正確に線量分布の形成位置を確認することができる。
【0090】
〜請求項との対応関係〜
本発明において、PET制御部49のステップ109の処理は、照射装置21からの荷電粒子ビームの出射停止から次の出射開始までの間に、PETカメラ28により検出された消滅ガンマ線に基づくPET信号を用いて、陽電子放出核が発生した位置を求めるPET計測手段を構成する(図1および図6参照)。PET制御部49の一機能であるPET画像取得機能49aは、陽電子放出核の発生位置情報を用いてPET画像を生成するPET画像取得手段を構成する(図1参照)。
【0091】
〜効果〜
スポットスキャニング照射は照射するスポット位置を順次変更するため最初に照射したスポットから生成する消滅ガンマ線の信号は照射完了時点では減衰してしまう。十分な強度のPET信号を得られないと、精度のよいPET計測ができない。一方、照射と並行してPET計測をすれば、上記のような陽電子放出核の減衰に係る課題は生じないが、即発ガンマ線が発生し、PETカメラにノイズとして入射するためPET計測の精度が劣化する。
【0092】
本実施形態では、照射中(詳細には、出射終了と次の出射開始前の間の出射停止中)にPET計測を行うため、照射開始直後に照射したスポットにおいても十分な強度のPET信号を得ることができる。また、出射停止中に、PET計測を行うため、即発ガンマ線発生によるノイズはない。このように、精度のよいPET計測をおこなうことにより、精度のよいPET画像を取得でき、線量分布の位置を確認することができる。
【0093】
〜変形例〜
上記に本発明の一実施形態を述べたが、これに限ることなく、本発明の範囲内において種々の変形が可能である。
【0094】
1.上記実施形態において、出射停止中にPET計測が行なわれ、出射中にはPET計測が行われないが、出射状態の如何に関わらずPET計測してもよい。ステップ105において、記録される出射時間と出射停止時間は、出射開始時刻と出射終了時刻から求める。PET計測によるPETデータから時刻暦に基づき、出射停止中のPETデータを抽出することにより、出射停止中にPET計測するのと同様な効果が得られる。
【0095】
2.本実施形態では、ステップ109において、出射停止信号受信から一定時間(例えば1ms)経過すると、出射停止と識別し、PET計測を開始するが、例えば、照射装置制御部48が、線量モニタ34が検出するビーム電流値を計測し、ビーム電流値が予め設定された閾値以下になったときイオンビームの出射は完全に停止したと見なして、出射停止信号をPET制御部49に送信してもよい。その後、PET計測することにより、PET信号にノイズが混在することを防ぐことができる。
【0096】
3.本実施形態では、照射完了後にPETデータからPET画像を再構築するが、照射中にPET計測と並行してPET画像を再構築してもよい。
【0097】
4.本実施形態では、PETカメラ28は平坦な検出面を対向に配置しているが、円弧状のPETカメラを対向に配置、或いは二つのリング状PETカメラを粒子線の経路を避けて照射野の両側に配置するなどでもよい。
【0098】
5.本実施例では荷電粒子発生装置としてシンクロトロンを用いているが、サイクロトロンを用いてもよい。
【0099】
<第2実施形態>
〜概要〜
本発明の荷電粒子ビーム照射システムは、呼吸同期制御にも適用できる。例えば腫瘍が肺や肝臓などの場合、照射標的が呼吸により移動するため、安定的に正確な照射ができないおそれがある。呼吸同期制御とは、患者の呼吸に同期して照射を中断、再開させるものであり、患者の呼吸に同期した呼吸ゲート信号がONになると照射を開始し、呼吸ゲート信号がOFFになると照射を停止する。これにより呼吸による照射位置のズレを防止し、安定的に正確な照射ができる。
【0100】
呼吸位相の計測は、体表位置のレーザー距離計による計測や、体表に設置したマーカ位置の可視光または赤外線カメラによる計測や、体表に設置されたひずみゲージや、呼吸流量計による呼吸量計測などが用いられることが多い。体表の動き等の指標を用いる外部計測の他に、体の内部構造の位置を指標とする内部計測がある。内部計測は、直接的な計測であり高い精度が得られる点で、より好ましい。しかし、内部計測では、精度良く体の内部構造の位置を算定することが難しい。
【0101】
第2実施形態に係る構成は、第1実施形態の構成と同じである。ただし、PET制御部49は、機能の1つとして、ゲート範囲設定機能49bとゲート信号出力機能49cとを有している(図1に追記)。
【0102】
〜制御・動作〜
呼吸同期制御の詳細について説明する。
【0103】
(照射前)
第1実施形態と同様にして、照射計画システム41は、照射対象の位置を指定する位置合わせ画像,ガントリー角度,照射パラメータを求め、決定し、データベース42に記録する。
【0104】
一方、オペレータは照射を開始する前に放射性薬剤を照射対象に注入し照射標的に陽電子放出核を集積させる。例えばFDGを癌の患者に投与することで腫瘍に陽電子放出核を集積させることができる。予め放射性薬剤を注入された照射対象をカウチの上に乗せ、X線透視装置から取得したX線透視画像が位置合わせ用画像と一致するように照射対象を移動する。
【0105】
照射対象が所望の位置へ設置された後、照射標的の移動を確認するため、PETカメラ28にて照射標的に集積させた陽電子放出核からの消滅ガンマ線を計測する。PET制御部49は取得したPETデータに基き照射標的の移動周期より十分短い周期毎に標的位置を算出する。PET制御部49の一機能であるゲート範囲設定機能49bは、求めた照射標的の位置から照射標的の動きを表すグラフを作成し、イオンビームを照射する照射標的の位置の範囲(ゲート範囲)を設定する。
【0106】
(照射)
中央制御装置46は、例えばオペレータの指示により処理手順を開始する。中央制御装置46はデータベース42に記録されたデータを読み出し、出射停止制御で実際に用いるスポット毎の設定照射量を決定する。また、各スポットに対し照射位置とそのエネルギーから走査電磁石31,32を励磁する電流量(励磁量)を算出する。
【0107】
中央制御装置46は、照射パラメータ、設定照射量、走査電磁石励磁電流値を照射装置制御部48へ送信する。
【0108】
中央制御装置46は、データベース42から照射パラメータの他、ガントリー角度情報を受け取る。中央制御装置46は、ガントリー角度情報を加速器制御部47に送信する。
【0109】
加速器制御部47は、受け取ったガントリー角度情報に基づいてガントリー18を所望のガントリー角度へ移動する。
【0110】
また、中央制御装置46は、受け取った照射パラメータに基づいて、各スライスのエネルギーEiに対応したシンクロトロン4とビーム輸送系2の電磁石を励磁する励磁電流量、高周波印加装置5が印加する高周波の値、加速装置6に印加する高周波の値を、中央制御装置46が有するメモリ(図示せず)から参照し、加速器制御部47へ送信する。
【0111】
中央制御装置46から加速器制御部47に高周波印加装置5が印加する高周波の値が送信されると、加速器制御部47は、高周波印加装置5が印加する高周波の強度がその値となるよう高周波印加装置5を制御し、シンクロトロン4からイオンビームを出射させる。
【0112】
オペレータが照射開始の指示をすることで、加速器制御部47はライナック3とシンクロトロン4を制御して、ライナック3からイオンビームがシンクロトロン4に入射される。シンクロトロン4は1番目のスライスを照射するエネルギーまでイオンビームを加速する。加速が完了すると加速器制御部47は照射装置制御部48に出射準備完了信号(出射可能信号)を送信する。
【0113】
PET制御部49は照射開始の指示に基づいてPET計測を開始し、照射標的の位置を算出する。
【0114】
図8は、照射とPET計測のタイムチャートの一例を示す図である。図8では、説明の簡略化のため、ひとつのゲート内で6個のスポットを照射する例を示している。実際のスポット数は1000を超える場合もある。1行目に出射許可、2行目にイオンビーム電流値、3行目にPETデータを取得中であることを表すPET計測、4行目に照射標的の位置とゲート範囲、5行目にゲート信号を示す。
【0115】
PET制御部49の一機能であるゲート信号出力機能49cは、PETデータから算出した照射標的の位置がゲート範囲内に入るとゲート信号の出力を開始する。
【0116】
照射装置制御部48は、出射可能信号とゲート信号の両方を受信すると、出射開始信号を加速器制御部47とPET制御部49に送信する。出射開始信号により出射許可がHighになってイオンビームが出射される。すなわち、加速器制御部47は出射開始信号を受信すると高周波印加装置を制御してシンクロトロン4内を周回しているイオンビームに高周波を印加する。イオンビームはデフレクタを通過してビーム輸送系を通り照射装置に到達し、走査電磁石により走査され線量モニタ34を通過して照射対象に到達する。
【0117】
PET制御部49は出射開始信号を受信するとゲート信号出力を継続したままPET計測を停止する。
【0118】
線量モニタ34は通過したイオンビームの量を計測しており、照射装置制御部48はその値が設定照射量に達すると、出射停止信号を加速器制御部47とPET制御部49に送信する。加速器制御部47は出射停止信号を受信すると高周波の印加を停止してイオンビームを停止する。
【0119】
PET制御部49は出射停止信号を受信し、予め設定した一定の時間経過した後、一定の時間経過した後、PET計測を開始する。
【0120】
以上のスポット照射を順次実施する。
【0121】
PET制御部49の一機能であるゲート信号出力機能49cは、スポット照射中、PET計測の結果、照射標的の位置がゲート範囲外に出るとゲート信号の出力を終了する。照射装置制御部48は、ゲート信号の受信を終了すると、加速器制御部47に対し出射停止信号を送信する。加速器制御部47はシンクロトロン4を制御してイオンビームを減速し、ライナック3からイオンビームを供給して再度同じエネルギーまで加速する。照射装置制御部48は加速器からの出射可能信号を受信するまで待機する。
【0122】
照射装置制御部48は、加速器制御部47から出射可能信号を受信し、新たにゲート信号を受信すると、続きのスポット照射を開始する。以上の手順に従い、第1実施形態と同様に全てのスポット、全てのスライスが照射されるまで繰り返す。
【0123】
〜効果〜
本実施形態でも、照射中(詳細には、出射終了と次の出射開始前の間の出射停止中)にPET計測を行うため、精度のよいPETデータに基き、照射中の照射標的の位置が精度良くわかる。その結果、ゲート信号出力・出力終了を精度良くおこなうことができ、呼吸同期制御において精度良く所望の線量分布を形成することができる。
【0124】
〜変形例〜
1.スポット間のひとつのPET計測時間が短く照射標的の位置特定のため十分なPET信号が得られない場合、複数のPET計測時間を足し合わせて照射標的の位置を特定してもよい。
【0125】
2.PET計測停止タイマーを設けてもよい。ゲート信号が出力されている間にスポット照射時間が長くなるとPET計測が停止している時間が長くなってしまい、充分なPETデータを得られない可能性がある。このときタイマーを設けてPET計測が停止している時間を制限することで照射標的の位置が大きく移動してしまうことを防ぐことができる。
【0126】
3. 1チャネルのみのPETカメラを使用する、又はPETカメラの使用するチャネルを制限し、計測した信号の頻度からゲート信号を作成してもよい。これによりPET制御部49の計算処理量を減らし簡単な構成にすることができる。
【0127】
4.イオンビーム照射により標的に陽電子放出核が生成することが考えられる。この場合、イオンビーム照射による陽電子放出核からの信号を予め計算により求め、その値を差し引いた信号頻度によりゲート信号を生成する。
【0128】
5.第1実施形態における照射野確認と第2実施形態における照射標的の移動監視を同時に実施してもよい。この場合、FDGなど薬剤から放出される信号を計算し、その値を計測した陽電子放出核の分布から差し引いて画面上に表示する。
【0129】
6.ゲート出力範囲は開始時と停止時で別のものを設定してもよい。ゲート範囲を開始時と停止時で変更し、停止時は開始時より狭いゲート範囲とすることで照射標的がもとのゲート範囲から出た後に照射する照射量を削減することができる。
【0130】
7.スポットを予めグループ化しておき、ゲート信号出力が終了した後、照射中のグループの照射完了を待って照射を停止してもよい。予めグループ化することで同一スライスをひとつのゲートで照射完了することができる。
【符号の説明】
【0131】
1 荷電粒子ビーム発生装置
2 ビーム輸送系
3 ライナック
4 シンクロトロン
5 高周波印加装置
6 加速装置
7 制御システム
11 出射用デフレクタ
12 ビーム経路
14,15 偏向電磁石
16 U字状偏向電磁石
17 治療室
18 ガントリー
21 照射装置
24 カウチ
25 照射対象
28 PETカメラ
31,32 走査電磁石
33 ビーム位置検出器
34 線量モニタ
37 照射標的
40 X線CT装置
41 照射計画システム
42 データベース
43 機器制御システム
44 位置決めシステム
45 照射野確認システム
46 中央制御装置
47 加速器制御部
48 照射装置制御部
49 PET制御部
49a PET画像取得機能
49b ゲート範囲設定機能
49c ゲート信号出力機能

【特許請求の範囲】
【請求項1】
荷電粒子ビームを加速する加速器と、
荷電粒子ビームを走査する走査電磁石を有し、断続的に前記荷電粒子ビームを照射対象に出射する照射装置と、
前記照射対象内の陽電子放出核から発生する消滅ガンマ線を検出するガンマ線検出器とを備えた荷電粒子ビーム照射システムにおいて、
前記照射装置からの前記荷電粒子ビームの出射停止から次の出射開始までの間に、前記ガンマ線検出器が検出した前記消滅ガンマ線に基づくPET信号を用いて、陽電子放出核が発生した位置を求めるPET計測手段を備えることを特徴とする荷電粒子ビーム照射システム。
【請求項2】
前記消滅ガンマ線は、前記荷電粒子ビームと前記照射対象との反応により生成された陽電子放出核からの消滅ガンマ線であり、
前記PET計測手段は、前記荷電粒子ビームの出射停止から次の出射開始までの間に、前記ガンマ線検出器が検出した前記消滅ガンマ線に基づくPET信号を選別し、選別した前記PET信号を用いて陽電子放出核の発生位置を求め、
前記PET計測手段で求めた前記陽電子放出核の発生位置情報を用いてPET画像を生成するPET画像取得手段を備えることを特徴とする請求項1に記載の荷電粒子ビーム照射システム。
【請求項3】
前記消滅ガンマ線は、前記照射対象に放射性薬剤を投与して照射標的に集積させた陽電子放出核からの消滅ガンマ線であり、
前記PET計測手段は、前記荷電粒子ビームの出射停止から次の出射開始までの間に、前記ガンマ線検出器が検出した前記消滅ガンマ線に基づくPET信号を選別し、選別した前記PET信号を用いて陽電子放出核の発生位置を求め、
前記PET計測手段で求めた前記陽電子放出核の発生位置が予め定められた位置許容範囲にある場合に前記荷電粒子ビームの出射許可を示すゲート信号を出力し、前記陽電子放出核の発生位置が前記位置許容範囲からはずれた場合に前記ゲート信号の出力を停止するゲート信号出力手段と、
前記ゲート信号出力手段から出力される前記ゲート信号に基づいて、前記照射装置からの前記荷電粒子ビームの出射開始及び出射停止を制御する照射制御装置を備えることを特徴とする請求項1に記載の荷電粒子ビーム照射システム。
【請求項4】
前記PET計測手段で求めた前記陽電子放出核の発生位置情報を表示する表示装置と、前記表示装置に表示された前記陽電子放出核の発生位置情に基づいて、前記位置許容範囲を入力するための入力装置とを備えることを特徴とする請求項3に記載の荷電粒子ビーム照射システム。
【請求項5】
前記PET計測手段は、前記荷電粒子ビームの出射停止信号を受信してから一定時間経過後に、前記荷電粒子ビームの出射停止と判断し、この出射停止から次の出射開始までの間に、前記ガンマ線検出器が検出した前記消滅ガンマ線に基づくPET信号を選別し、選別した前記PET信号を用いて陽電子放出核の発生位置を求めることを特徴とする請求項1に記載の荷電粒子ビーム照射システム。
【請求項6】
前記照射装置は、通過する荷電粒子ビーム量の線量を計測する線量モニタを有し、
前記PET計測手段は、前記線量モニタで計測される前記荷電粒子ビームの線量値が予め定められた閾値以下になると前記荷電粒子ビームの出射停止と判断し、この出射停止から次の出射開始までの間に、前記ガンマ線検出器が検出した前記消滅ガンマ線に基づくPET信号を選別し、選別した前記PET信号を用いて陽電子放出核の発生位置を求めることを特徴とする請求項1に記載の荷電粒子ビーム照射システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−254146(P2012−254146A)
【公開日】平成24年12月27日(2012.12.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−128224(P2011−128224)
【出願日】平成23年6月8日(2011.6.8)
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)
【出願人】(504173471)国立大学法人北海道大学 (971)
【Fターム(参考)】