説明

荷電粒子ビーム装置、チップ再生方法、及び試料観察方法

【課題】チップを装置から取り出すことなくチップ先端のピラミッド構造の再生を図ること。
【解決手段】針状のチップ1と、チップ1にガスを供給するガス供給部と、チップ表面に吸着したガスをイオン化してイオンビームを引き出す引出電極4と、チップ1と引出電極4の間に電圧を印加する電圧供給部27と、チップ表面と同じ金属をイオンビームが照射される面に備えたチップ再生電極と、を有する荷電粒子ビーム装置を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、チップ形状のビーム源から荷電粒子ビームを試料に照射し観察する荷電粒子ビーム装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、集束イオンビーム装置のイオン源として液体金属ガリウムを用いられている。また、近年では、微細なチップにイオン源ガスを供給して、チップ先端に形成された強力な電界により、チップに吸着したイオン源ガス種をイオン化し、イオンビームを引き出す電界電離型イオン源を用いた集束イオンビームが開発されている。
【0003】
先端を先鋭化した第一の金属、例えばW(111)に第二の金属、例えばIrを真空蒸着、メッキしたチップを使用するガスイオン源、もしくは電子源を備えた荷電粒子ビーム装置が開示されている(非特許文献1参照)。
【0004】
ここでは、イオン源、もしくは電子源はチップを1000から1100℃で加熱を行うことで(211)面のファセットがおこり、先端から1原子で終端されたピラミッド構造となることを利用している。このピラミッド構造は熱的に安定であり、先端原子が破損しても、再度加熱することでピラミッド構造が再生する。
【0005】
エミッター(ガスイオン源、もしくは電子源)の光源径が原子サイズと小さいことから、より小さなビーム径を持つイオンビーム、電子ビーム装置を実現することができる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Tsu−Yi Fu,Physical Review B 64(2001)113401
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、先端が1原子で終端されたピラミッド構造が再生する回数に制限があった。加熱を繰り返すと、先端の第二の金属が不足し、ピラミッド構造先端がファセットし、111面(三角形)が形成されてしまう。先端が111面になると、光源径が大きくなり、性能が低下する。また先端の淵から放出されるイオンを使用すると放出角度が大きく角度調整が困難となる。このためチップが使用不可能となってしまう。
【0008】
そこで、第二の金属が不足すると、チップを交換するか、チップに再度真空蒸着、もしくはメッキを施すことが必要になる。しかし、チップ交換、真空蒸着やメッキを施すためには、チップを一度装置の外に取り出すことが必要になり、作業効率が悪かった。
【0009】
この発明は、このような事情を考慮してなされたもので、その目的は、チップを装置から取り出すことなくチップ先端のピラミッド構造を再生させる荷電粒子ビーム装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の目的を達成するために、この発明は以下の手段を提供している。
本発明に係る荷電粒子ビーム装置は、針状のチップと、チップにガスを供給するガス供給部と、チップ表面に吸着したガスをイオン化してイオンビームを引き出す引出電極と、チップと引出電極の間に電圧を印加する電圧供給部と、イオンビームを照射してスパッタリングされた粒子をチップに堆積させるために、チップ表面と同じ金属をイオンビームが照射される面に備えたチップ再生電極と、を有する。これにより、チップから放出したイオンをチップ再生電極に衝突させ、チップ表面と同じ金属をスパッタリングし、スパッタリングされたチップ表面と同じ金属をチップ先端に堆積させることで不足したチップ表面の金属を供給し、再度、先端構造を1原子で終端されたピラミッド構造とすることを可能とする。
【0011】
本発明に係る荷電粒子ビーム装置は、電圧供給部が、ガスのイオン化ポテンシャルよりも大きい電圧をチップと引出電極との間に印加可能である。これにより、チップに引き寄せられたガスがチップ先端に到達する前にイオン化させ、チップから大きな角度に放出することができる。
【0012】
本発明に係る荷電粒子ビーム装置は、チップにガスよりも分子量が大きい第二のガスを供給する第二のガス供給部を有する。これによりスパッタリング効率が小さいガスを用いて試料観察する場合でも、チップ再生用に分子量の大きい第二のガスを用いてチップ再生電極をスパッタリングすることができる。
【0013】
本発明に係る荷電粒子ビーム装置は、第二のガスが、試料観察用のガスよりもイオン化ポテンシャルの小さいことを特徴とする。
本発明に係る荷電粒子ビーム装置は、チップ再生電極が引出電極である。
【0014】
また、本発明に係る荷電粒子ビーム装置は、チップの先端から放出されるイオンビームの光軸上に前記チップ再生電極を移動可能な駆動部を有する。これによりチップ再生時にチップ再生電極をイオンビームの光軸上に移動させ、イオンビームを観察時と同じ光軸上に照射することでチップ再生電極をスパッタリングすることができる。従って、観察時とチップ再生時でイオンビームの照射条件を大きく変更する必要がない。
【0015】
本発明に係る荷電粒子ビーム装置は、電圧供給部が、試料にイオンビームを照射する場合よりも大きい電圧をチップと引出電極との間に印加し、試料に照射するイオンビームのチップ上の放出位置とは異なる位置からチップ再生用のイオンビームをチップ再生電極に照射し、チップにチップの表面と同じ金属を堆積させる。
【0016】
本発明に係る荷電粒子ビーム装置は、チップの表面と同じ金属を堆積したチップを加熱し、チップ先端の構造を再生させるためにチップと接続されたフィラメントを有する。
【0017】
本発明に係るチップ再生方法は、イオンビームを放出するチップにガスを供給し、ガスのイオン化ポテンシャルよりも大きい電圧をチップと引出電極との間に印加し、イオンビームを放出させ、チップ表面と同じ金属を備えたチップ再生電極をスパッタリングし、チップの表面に金属を堆積させる。
【0018】
本発明に係る試料観察方法は、上記のチップ再生方法を実施し、チップ先端の構造を再生させた装置内で、チップに試料観察用ガスを供給し、チップの先端からイオンビームを放出する電圧をチップと引出電極との間に印加し、イオンビームを試料に照射し、試料の観察像を取得する。これによりピラミッド構造を有するチップ先端からビームを照射し試料観察することができる。
【0019】
本発明に係る試料観察方法は、上記のチップ再生方法を実施し、チップ先端の構造を再生させた装置内で、チップから電子ビームを放出する電圧をチップと引出電極の間に印加し、電子ビームを試料に照射し、試料から発生する二次電子を検出し観察像を取得する。
【0020】
本発明に係る試料観察方法は、チップに試料観察用のイオンビームを放出するガスを供給し、チップと引出電極との間に電圧を印加し、イオンビームを試料に照射し、試料の観察像を取得する工程と、チップにチップ再生用のイオンビームを放出する第二のガスを供給し、チップと引出電極との間に第二の電圧を印加し、第二のガスをイオン化したイオンビームをチップ表面と同じ金属を備えたチップ再生電極に照射する工程と、を有する。
【発明の効果】
【0021】
本発明に係る荷電粒子ビーム装置によれば、チップを装置から取り出すことなくピラミッド構造のチップ先端を再生させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明に係る荷電粒子ビーム装置の構成図である。
【図2】本発明に係る荷電粒子ビーム装置のイオン銃部の模式図である。
【図3】本発明に係る荷電粒子ビーム装置のチップ先端と引出電極の模式図である。
【図4】本発明に係る荷電粒子ビーム装置のチップ先端と引出電極の模式図である。
【図5】本発明に係る荷電粒子ビーム装置のチップ先端とアパーチャの模式図である。
【図6】本発明に係る荷電粒子ビーム装置のチップ先端と引出電極の模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明に係る集束イオンビーム装置の実施形態について説明する。
本実施形態の集束イオンビーム装置は、図1に示すように、針状のチップ1と、チップ1にガスを供給するイオン源用ガスノズル2とイオン源用ガス供給源3からなるガス供給部と、チップ1との間で電圧を印加し、チップ1の表面に吸着したガスをイオン化してイオンを引き出す引出電極4と、イオンを試料13に向けて加速させるカソード電極5からなるイオン銃部19を備えている。ガス供給部は、イオン源用ガス供給源3と異なる第二のイオン源用ガス供給源103を備えており、バルブ操作により供給ガス種を切り替えることが可能である。また針状のチップ1はチップ1を支持するフィラメント(図示せず)に電流を流すことにより加熱する機構を備えている。そして、イオン銃部19とレンズ系の間に配置された第二のアパーチャ10と、第二のアパーチャ10を移動させるアパーチャ駆動部110と、試料13にイオンビーム11を集束させる集束レンズ電極6と対物レンズ電極8からなるレンズ系を備えている。これによりイオン銃部19から放出されたイオンビーム11を制限することができる。また、集束レンズ電極6と対物レンズ電極8の間に開口部7aを有する第一のアパーチャ7を備えている。また、第一のアパーチャ7は開口径の異なる開口部を備えている(図示せず)。異なる大きさの開口径を選択し、ビーム軸の設置することで、通過するイオンビーム11のビーム量を調整することができる。そして、イオン銃部19を装置の外側からレンズ系に対して相対的に移動可能な調整機構20を備える。
【0024】
また、イオン銃部19より試料13側に位置し、イオン銃部19から放出されたイオンビーム11の照射方向を調整するガンアライメント電極9を有している。そして、試料室15の内部は真空状態になっており、試料13を載置し移動可能な試料ステージ12と試料13にデポジションやエッチングガスを供給するガス銃18と、試料13から発生する二次荷電粒子を検出する検出器14を備えている。ここで、図示していないが、試料室15とイオン銃19の真空を仕切るバルブを備えている。また、集束イオンビーム装置を制御する制御部16を備え、検出器14で検出した検出信号とイオンビームの走査信号より観察像を形成する画像形成部(図示せず)を制御部16内に有しており、形成した観察像を表示部17に表示する。
【0025】
(1)電界電離型イオン源
電界電離型イオン源は、図2に示すように、イオン発生室21と、チップ1と、引出電極4と、冷却装置24とを備えている。
【0026】
イオン発生室21の壁部に冷却装置24が配設されており、冷却装置24のイオン発生室21に臨む面に針状のチップ1が装着されている。冷却装置24は、内部に収容された液体窒素、液体ヘリウム等の冷媒によってチップ1を冷却するものである。また冷却装置24としてGM型、パルスチューブ型等のクローズドサイクル式冷凍機、ガスフロー型の冷凍機を使用しても良い。さらに温調機能を備えてイオン種に応じて最適な温度に調整可能とする。そして、イオン発生室21の開口端近傍に、チップ1の先端1aと対向する位置に開口部を有する引出電極4が配設されている。
【0027】
イオン発生室21は、図示略の排気装置を用いて内部が所望の高真空状態に保持されるようになっている。図示していないが、試料室15とイオン銃20の真空度の差を作るためのオリフィスを複数個備えている。このオリフィスにより、試料室へのイオン化ガスの流入、また試料室に導入するガスのイオン銃室への流入を防いでいる。イオン発生室21には、イオン源用ガスノズル2を介してイオン源用ガス供給源3が接続されており、イオン発生室21内に微量のガス(例えば、Arガス)を供給するようになっている。
【0028】
なお、イオン源用ガス供給源3から供給されるガスは、Arガスに限られるものではなく、ヘリウム(He)、ネオン(Ne)、クリプトン(Kr)、キセノン(Xe)、水素(H)、酸素(O)、窒素(N)等のガスであってもよい。また、イオン源用ガス供給源3から複数種のガスを供給可能に構成し、用途に応じてガス種を切り替えたり、1種類以上を混合したりすることができるようにしてもよい。
【0029】
チップ1は、タングステンやモリブデンからなる針状の基材に、白金、パラジウム、イリジウム、ロジウム、金等の貴金属を被覆したものからなる部材であり、その先端1aは原子レベルで尖鋭化されたピラミッド状になっている。またチップ1は、イオン源の動作時には冷却装置24によって100K程度以下の低温に保持される。チップ1と引出電極4との間には、電圧供給部27によって引き出し電圧が印加されるようになっている。
【0030】
チップ1と引出電極4との間に電圧が印加されると、鋭く尖った先端1aにおいて非常に大きな電界が形成されるとともに、分極してチップ1に引き寄せられたガス分子25が、先端1aのうちでも電界の高い位置で電子をトンネリングにより失ってガスイオンとなる。そして、このガスイオンが正電位に保持されているチップ1と反発して引出電極4側へ飛び出し、引出電極4の開口部からレンズ系へ射出されたイオン11aがイオンビーム11を構成する。ここで、引出電極4とチップ1の先端の中心位置は10ミクロンメートル以内であることが好ましい。またチップ1と引出電極4の間に、チップ1に対して負電位を与える抑制電極を設けても良い。
【0031】
チップ1の先端1aは極めて尖鋭な形状であり、ガスイオンはこの先端1a上方の限られた領域でイオン化されるため、イオンビーム11のエネルギー分布幅は極めて狭く、例えば、プラズマ型ガスイオン源や液体金属イオン源と比較して、ビーム径が小さくかつ高輝度のイオンビームを得ることができる。
【0032】
なお、チップ1への印加電圧が大きすぎると、ガスイオンとともにチップ1の構成元素(タングステンや白金)が引出電極4側へ飛散するため、動作時(イオンビーム放射時)にチップ1に印加する電圧は、チップ1自身の構成元素が飛び出さない程度の電圧に維持される。
【0033】
一方、このようにチップ1の構成元素を操作できることを利用して、先端1aの形状を調整することができる。例えば、先端1aの最先端に位置する元素を故意に取り除いてガスをイオン化する領域を広げ、イオンビーム径を大きくすることができる。
【0034】
またチップ1は、加熱することで表面の貴金属元素を飛び出させることなく再配置させることができるため、使用により鈍った先端1aの尖鋭形状を回復することもできる。
【0035】
(2)イオン銃部
図1に示すように、イオン銃部19は、上記電界電離型イオン源と引出電極4を通過したイオン11aを試料13に向けて加速させるカソード電極5とを備えている。そして、イオン銃部19は調整機構20と接続されている。調整機構20は真空外部からイオン銃部19をレンズ系に対して相対的に移動する。これによりレンズ系に入射するイオンビーム11の位置を調整することができる。
【0036】
(3)レンズ系
レンズ系は、チップ1側から試料13側に向けて順に、イオンビーム11を集束する集束レンズ電極6と、イオンビーム11を絞り込む第一のアパーチャ7と、イオンビーム11の光軸を調整するアライナ(図示せず)と、イオンビーム11の非点を調整するスティグマ(図示せず)と、イオンビーム11を試料13に対して集束する対物レンズ電極8と、試料上でイオンビーム11を走査する偏向器(図示せず)とを備えて構成される。
【0037】
このような構成の集束イオンビーム装置では、ソースサイズ1nm以下、イオンビームのエネルギー広がりも1eV以下にできるため、ビーム径を1nm以下に絞ることができる。図示していないがイオンの原子番号を選別するためのExB等のマスフィルターを備えていても良い。
【0038】
(4)ガス銃
ガス銃18は、試料13表面にデポジション膜の原料ガス(例えば、フェナントレン、ナフタレンなどのカーボン系ガス、プラチナやタングステンなどの金属を含有する金属化合物ガスなど)を原料容器からノズルを通して供給する構成になっている。
【0039】
また、エッチング加工を行う場合は、エッチングガス(例えば、フッ化キセノン、塩素、ヨウ素、三フッ化塩素、一酸化フッ素、水など)を原料容器からノズルを通して供給することができる。
【0040】
<実施例1>
チップ再生電極として引出電極4を用いて、第二のガスによりチップを再生する方法について説明する。図3に示すように、チップ1側の面にチップ表面と同じ金属である白金の膜4aを付着させた引出電極4を用いる。
【0041】
まず、試料13の観察を行うときは、白金を表面に被覆したチップ1に試料観察用の分子量の小さい第一のガス、例えばヘリウム(He)を供給する。ガスチップ1の先端1aは一つの原子で終端されるピラミッド構造1bを形成しており、チップ1と引出電極4の間に電圧供給部27より引出電圧を印加すると、ピラミッド構造1bからイオンビーム11aが放出される。イオンビーム11aは引出電極4の開口部を通過し、試料13に照射され、試料13を観察する。ヘリウムイオンビームは分子量が小さく、試料13をスパッタリングする確率が小さいため、ダメージの少ない試料観察が可能である。
【0042】
そして、このチップ1の表面を被覆する白金が不足し、チップ1を再生するときは、チップ1に試料観察用のガスよりも分子量の大きいガスとして、第二のイオン源用ガス供給源103から酸素(O)を第二のガスとして供給する。このとき、第二のガスがチップ1で凝固しないようにフィラメントを加熱してチップ1の温度を調節する。ここで、一般にチップに供給されたガス分子は電界により分極し、チップ1に引きつけられる。そしてチップ付近でホッピングを繰り返しチップ1の先端1aに向かって移動する。チップ1の先端1a付近は、ガスのイオン化ポテンシャルよりも大きな電界領域になっており、ガスはイオン化され、イオンとして放出される。酸素ガスはヘリウムに比べ、イオン化ポテンシャルが低い。よって、第一のガスであるヘリウムガスをイオン化する条件に引き出し電圧を設定した場合、チップ1に供給された第二のガスである酸素ガスは、チップ先端に到達する前にイオン化され、その場でイオンビーム11bになって光軸に対し大きな角度に放出される。放出された第二のガスのイオンビーム11bは引出電極4上に形成された膜4aをスパッタリングし、スパッタリングされた粒子、つまり膜4aの白金がチップに堆積しチップ1表面で不足した白金を補充し、チップ1を再生する。白金の堆積量は、酸素ガスの供給時間、ガス圧力で制御できる。そして、酸素ガスを排気し、再生されたチップ1を加熱することでピラミッド構造1bを有するチップ1を形成する。
【0043】
再生したチップ1で再び試料観察用のイオンビームを照射するときは、ヘリウムガスをチップ1に供給しチップ1の温度を試料観察用のイオンビーム照射時の温度に戻して、イオンビーム11aを試料13照射し、発生した二次荷電粒子を検出して試料13の観察を行う。
【0044】
ここで、チップ1と引出電極4と膜4aの配置について説明する。試料観察用のヘリウムイオンビーム11bは引出電極4の開口部を通過し、チップ再生用の酸素イオンビームは引出電極4上の膜4aに照射されるように引出電極4および膜4aを配置することが好ましい。なぜなら、試料観察用のヘリウムイオンビーム11bが引出電極4に照射されると、引出電極4から二次電子または負の二次イオンが発生する。発生した二次電子または負の二次イオンはチップ1と引出電極4との間の電界によりチップ1の先端1aに引き寄せられ、衝突するので、それを防ぐために上記の配置が必要である。
【0045】
ここでチップ再生用の第二のガスとしては、試料観察用の第一のガスよりも、イオン化ポテンシャルが低く、分子量が大きいことが必要である。
【0046】
例えば、試料観察用イオンビームのガスがヘリウム(He)の場合は、第二のガスとして、酸素(O)、窒素(N)、ネオン(Ne)、アルゴン(Ar)、クリプトン(Kr)、キセノン(Xe)を用いることが好ましい。
【0047】
また、試料観察用イオンビームのガスがネオン(Ne)の場合は、第二のガスとして、酸素(O)、窒素(N)、アルゴン(Ar)、クリプトン(Kr)、キセノン(Xe)を用いることが好ましい。
【0048】
また、試料観察用イオンビームのガスが水素(H)の場合は、第二のガスとして、酸素(O)、窒素(N)、アルゴン(Ar)、クリプトン(Kr)、キセノン(Xe)を用いることが好ましい。
【0049】
<実施例2>
チップ1と引出電極4間の印加電圧を制御してチップを再生する方法について説明する。図4に示すように、チップ1側の面にチップ表面と同じ金属である白金の膜4aを付着させた引出電極4を用いる。
【0050】
試料観察兼加工用イオンビームのガス種として、膜4aをスパッタリング可能なガスを用いる。ここでは、アルゴン(Ar)を用いた例について説明する。白金を表面に被覆したチップ1に試料観察用のアルゴン(Ar)ガスを供給する。チップ1の先端1aは一つの原子で終端されるピラミッド構造1bを形成しており、チップ1と引出電極4の間に電圧供給部27より引出電圧を印加すると、ピラミッド構造1bからイオンビーム11aが放出される。イオンビーム11aは引出電極4の開口部を通過し、試料13に照射され、試料13を観察する。アルゴン(Ar)イオンは分子量が大きく、試料13をスパッタリングすることができるので試料13の加工に用いることができる。
【0051】
そして、このチップ1の表面を被覆する白金が不足し、チップ1を再生するときは、チップ1と引出電極4の間に試料13への照射時よりも高い第二の電圧を電圧供給部27より印加する。ここで、アルゴンのイオン化電界が2.2V/Åであるため、例えばその二倍に設定する。すると、アルゴンガスはチップ1の先端1aに到達する前にイオン化され、チップ1からイオンビーム41bとして広い角度に放出され、膜4a上を照射する。このとき、チップ1からは、中心付近にほとんどイオンビーム照射がなく、ドーナッツ状にイオンビームが照射される。これにより膜4aをスパッタリングし、スパッタリングされた白金がチップ1の先端1aに堆積しチップ1を再生する。再生したチップ1で再び試料観察兼加工用のイオンビームを照射するときは、アルゴンガスを排気し、再生されたチップ1を加熱することでピラミッド構造1bを有するチップ1を形成する。チップ1と引出電極4の間に印加する電圧をもとにもどし、アルゴンガスを再びチップ1に供給し、イオンビーム11aを試料13へ照射し、表面の観察、加工を行う。
【0052】
<実施例3>
チップ再生電極として第二のアパーチャ10を用いて、チップ再生電極をイオンビームの光軸上に移動させ、チップを再生する方法について説明する。図5に示すように、イオン源側にチップ表面と同じ金属である白金の膜10bを付着させた第二のアパーチャ10を用いる。アパーチャ駆動部110により、第二のアパーチャ10を、開口部10aがイオンビーム11の照射軸上にありイオンビーム11を通過させる配置から、イオンビーム11の照射軸上に膜10bを配置するように移動させる。膜10bにイオンビーム11を照射し、スパッタリングされた白金をチップ1に堆積させることによりチップ1を再生する。
【0053】
ここで、膜10bをスパッタリング可能なガス種を用いる場合は、試料13にイオンビーム11を照射するときと同じビーム条件でチップ再生することが可能である。また、膜10bを効率的にスパッタリングができないガス種を用いて試料観察している場合は、分子量の大きい第二のガス種に切り替えて、イオンビーム11を膜10bに向けて照射する。これによりチップ1を再生することが可能である。
【0054】
<実施例4>
荷電粒子ビームとして電子ビームを用いて試料を観察する場合に、チップ再生電極として引出電極4を用いてチップ1を再生する方法について説明する。
【0055】
試料観察時は、図6(a)に示すように、チップ1と引出電圧4とカソード電極5の間に電圧供給部(電子用引出電圧)65と電圧供給部(電子用加速電圧)67で負の引出電圧、加速電圧を供給し、チップ1の先端1aから電子ビーム60aを放出させ、試料13に電子ビーム60aを照射する。
【0056】
チップ再生する場合は、図6(b)に示すように、引出電圧切り替え用高圧リレー61と加速電圧切り替え用高圧リレー62を切り替え、試料観察時と正負を反転した電圧を、チップ1と引出電圧4とカソード電極5の間に電圧供給部27、電圧供給部(イオン用加速電圧)68により供給する。チップ1にガスを供給し、イオンビーム11bを放出させる。このとき、ガスは膜4aを効率よくスパッタリングするイオン種(例えば、アルゴンや酸素)を用いる。また、ガスのイオン化ポテンシャルよりも大きい引出電圧を供給する。これによりチップ先端に到達する前にガスがイオン化され、チップ1から放出される。放出されたイオンビーム11bにより膜4aがスパッタリングされ、膜4aの材料がチップ1の先端部に堆積する。その後フィラメントを用いてチップ1を加熱し、先端のピラミッド構造を再生する。再生後、ガスを排気し、チップ1と引出電圧4とカソード電極5の間に試料観察時の電圧を供給し、電子ビーム60bを照射する。
【0057】
また、ここではチップ再生電極として引出電極4を用いたが、チップ再生電極として第二のアパーチャ10を用いて、チップ再生電極をビームの光軸上に移動させ、チップを再生することも可能である。
【符号の説明】
【0058】
1…チップ
2…イオン源用ガスノズル
3…イオン源用ガス供給源
4…引出電極
4a・・・膜
5…カソード電極
6…集束レンズ電極
7…第一のアパーチャ
7a…開口部
8…対物レンズ電極
9…ガンアライメント
10…第二のアパーチャ
10a…開口部
11…イオンビーム
12…試料ステージ
13…試料
14…検出器
15…試料室
16…制御部
17…表示部
18…ガス銃
19…イオン銃部
20…調整機構
21…イオン発生室
24…冷却装置
25…ガス分子
27…電圧供給部
61…引出電圧切り替え用高圧リレー
62…加速電圧切り替え用高圧リレー
65…電圧供給部
67…電圧供給部
68…電圧供給部
103…第二のイオン源用ガス供給源
110…アパーチャ駆動部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
針状のチップと、
前記チップにガスを供給するガス供給部と、
前記チップ表面に吸着した前記ガスをイオン化してイオンビームを引き出す引出電極と、
前記チップと前記引出電極の間に電圧を印加する電圧供給部と、
前記イオンビームを照射してスパッタリングされた粒子を前記チップに堆積させるために、前記チップの表面と同じ金属を前記イオンビームが照射される面に備えたチップ再生電極と、を有する荷電粒子ビーム装置。
【請求項2】
前記電圧供給部は、前記ガスのイオン化ポテンシャルよりも大きい電圧を前記チップと前記引出電極との間に印加可能である請求項1に記載の荷電粒子ビーム装置。
【請求項3】
前記チップに前記ガスよりも分子量が大きい第二のガスを供給する第二のガス供給部を有する請求項1または2に記載の荷電粒子ビーム装置。
【請求項4】
前記第二のガスは、前記ガスよりもイオン化ポテンシャルの小さい請求項3に記載の荷電粒子ビーム装置。
【請求項5】
前記チップ再生電極は、前記引出電極である請求項1から4のいずれか一つに記載の荷電粒子ビーム装置。
【請求項6】
前記チップの先端から放出されるイオンビームの光軸上に前記チップ再生電極を移動可能な駆動部を有する請求項1から4のいずれか一つに記載の荷電粒子ビーム装置。
【請求項7】
前記電圧供給部は、前記試料に前記イオンビームを照射する場合よりも大きい電圧を前記チップと前記引出電極との間に印加し、前記試料に照射するイオンビームの前記チップ上の放出位置とは異なる位置からチップ再生用のイオンビームを前記チップ再生電極に照射し、前記チップに前記チップの表面と同じ金属を堆積させる請求項1から5のいずれか一つに記載の荷電粒子ビーム装置。
【請求項8】
前記チップの表面と同じ金属を堆積したチップを加熱し、チップ先端の構造を再生させるために前記チップと接続されたフィラメントを有する請求項1から7のいずれか一つに記載の荷電粒子ビーム装置。
【請求項9】
前記チップは第一の金属の上に第二の金属を被覆した構造である請求項1から8のいずれか一つに記載の荷電粒子ビーム装置。
【請求項10】
前記第一の金属はタングステンまたはモリブデンであり、第二の金属は白金、パラジウム、イリジウム、ロジウム、金等のいずれか一つである請求項9に記載の荷電粒子ビーム装置。
【請求項11】
前記ガスは、アルゴン(Ar)、ヘリウム(He)、ネオン(Ne)、クリプトン(Kr)、キセノン(Xe)、水素(H)、酸素(O)、窒素(N)のうちいずれかである請求項1から10のいずれか一つに記載の荷電粒子ビーム装置。
【請求項12】
イオンビームを放出するチップにガスを供給し、前記ガスのイオン化ポテンシャルよりも大きい電圧を前記チップと引出電極との間に印加し、イオンビームを放出させ、前記チップ表面と同じ金属を備えたチップ再生電極をスパッタリングし、前記チップの表面に前記金属を堆積させるチップ再生方法。
【請求項13】
前記チップの表面と同じ金属を堆積したチップを加熱し、チップ先端の構造を再生させる請求項12に記載のチップ再生方法。
【請求項14】
請求項13に記載のチップ再生方法により前記チップ先端の構造を再生させた装置内で、前記チップに試料観察用ガスを供給し、前記チップの先端から前記イオンビームを放出する電圧を前記チップと引出電極との間に印加し、前記イオンビームを試料に照射し、前記試料から発生する二次荷電粒子を検出し観察像を取得する試料観察方法。
【請求項15】
請求項13に記載のチップ再生方法により前記チップ先端の構造を再生させた装置内で前記チップから電子ビームを放出する電圧を前記チップと前記引出電極の間に印加し、前記電子ビームを試料に照射し、前記試料から発生する二次電子を検出し観察像を取得する試料観察方法。
【請求項16】
チップに試料観察用のイオンビームを放出するガスを供給し、前記チップと引出電極との間に電圧を印加し、前記イオンビームを試料に照射し、前記試料の観察像を取得する工程と、
前記チップにチップ再生用のイオンビームを放出する第二のガスを供給し、前記チップと前記引出電極との間に第二の電圧を印加し、前記第二のガスをイオン化したイオンビームを前記チップ表面と同じ金属を備えたチップ再生電極に照射する工程と、を有する試料観察方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−210493(P2011−210493A)
【公開日】平成23年10月20日(2011.10.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−76349(P2010−76349)
【出願日】平成22年3月29日(2010.3.29)
【出願人】(503460323)エスアイアイ・ナノテクノロジー株式会社 (330)
【Fターム(参考)】