説明

荷電粒子ビーム輸送装置及び粒子線治療システム

【課題】ビームサイズを簡単かつ素早く高精度に調整できる荷電粒子ビーム輸送装置を提供する。
【解決手段】ビーム輸送装置20内の四極電磁石21の励磁量の変化に対する照射装置30に設置されたプロファイルモニタ31で測定されるビームサイズの変化(感度)を予め測定し、その感度から、調整者が調整者用端末70で入力したビームサイズの所望値とプロファイルモニタ31での測定値の差分を補正する四極電磁石21を選択し、ビームサイズを所望値に近づけるように選択した四極電磁石21の励磁量を補正することによって、上記課題を解決することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、放射線治療などで用いる粒子線治療システムおよびこの粒子線治療システムに適応するのに好適な荷電粒子ビーム輸送装置に関する。
【背景技術】
【0002】
がん治療法の一つとして、患者の患部に陽子あるいは炭素イオン等の荷電粒子ビーム(イオンビーム)を照射する粒子線治療が知られている。陽子や炭素イオン等のイオンを高エネルギーで物質に入射すると、飛程の終端で多くの線量を付与する。粒子線治療では、この性質を利用し、がん細胞で多くのエネルギーを失うように、イオンビームを患者に照射する。すると、周囲の健康な組織に損傷を与えることなく、がん細胞を破壊できる。粒子線治療システムでは、イオンビームの空間的な広がりとエネルギーを調整し、患部の形状に合わせた線量分布を形成する。
【0003】
粒子線治療に用いる粒子線治療システムは、イオン源、イオン源で発生したイオンを加速する加速器、加速器から出射したイオンビームを輸送するビーム輸送装置、所望の形状で患部にビームを照射する照射装置を備える。
【0004】
粒子線治療システムで用いられる加速器には、シンクロトロンやサイクロトロン等の円形加速器が挙げられる。どちらの加速器も入射したイオンを所定のエネルギーまで加速し、イオンビームとして出射する機能は共通である。
【0005】
加速器から出射されたイオンビームは、ビーム輸送装置によって照射装置まで輸送される。ビーム輸送装置にはイオンビームの進行方向を変える偏向電磁石とステアリング電磁石,イオンビームに収束,発散の作用を与える四極電磁石が備えられており、これらの電磁石の励磁量を適切に調整することで照射装置に適切なサイズ,位置のビームが輸送される。
【0006】
照射装置では、患部形状に合わせたイオンビームの照射野を形成する。照射野形成では、患部深さ方向を照射するイオンビームのエネルギーにより制御し、患部形状に合わせたビーム形状をコリメータなどで形成することで実現する。照射装置での照射野形成の方法には、散乱体によって、輸送装置から輸送されたビームを広げる散乱体照射法と、輸送された細いビームを走査電磁石によって患部形状に合わせて走査するスキャニング照射法がある。
【0007】
散乱体照射法では、イオンビームを患部形状に広げる散乱体と、体表面からの患部深さに合わせてイオンビームの飛程を制御する飛程変調手段が照射装置に備えられている。散乱体照射法の一例として、回転型飛程変調装置を用いた方法を説明する。この方法では、照射装置内に、ビームの進行方向と平行な軸を回転軸として回転するプロペラの形状をした飛程変調装置(RMW,Range Modulation Wheel)と、密度の異なる金属を同心円状に組み合わせた第二散乱体がビームの経路の上流から順に設置されている。この回転型の飛程変調装置は、ビームの照射中に常に回転している。また、回転型飛程変調装置は、回転の周方向に対して、厚みが変化している。そのため、回転型飛程変調装置をビームが通過するタイミングによって、ビームが失うエネルギーを制御し、ひいてはイオンビームの飛程を制御できる。この原理を用いて、加速器からのイオンビームの出射タイミングを制御し、照射する患部の形状に合わせたビームエネルギーの分散を形成できる(非特許文献1)。
【0008】
スキャニング照射法の一例として、スポットスキャニング照射法の説明をする。スキャニング照射法の場合、照射装置にはビームを走査するための走査電磁石が2台備えられている。患者の患部のみにイオンビームが照射されるように、これらの走査電磁石で照射装置内にイオンビームをビームの進行方向に対して垂直な平面内で走査する。また、患部形状に一致した照射野を形成するために、加速器から出射されるビームのエネルギーを変更するか、あるいはビーム輸送装置に配置されたエネルギー吸収体の厚みを変えることで、照射装置に輸送されるイオンビームのエネルギーを変更する。すると、イオンビームのエネルギーによってブラッグピークの位置が変わり、患部形状に合わせた照射野を形成できる。より詳細な説明は非特許文献1に詳しい。
【0009】
ここで述べた散乱体照射法では様々な照射野形状を形成するために、ビーム輸送装置が輸送するイオンビームのエネルギーは10種類程度となり、スキャニング照射法ではビーム輸送装置が輸送するイオンビームのエネルギーは100種類程度となる。
【0010】
いずれの照射法においても、ビーム輸送装置は照射装置の所定の位置に所定のビームサイズのイオンビームを輸送する。イオンビームの位置の調整にはステアリング電磁石と呼ばれる偏向電磁石が用いられ、ビームサイズは四極電磁石の収束と発散の作用によって調整される。従って、装置作成後、治療装置として稼働開始前にイオンビームのビーム位置とビームサイズを調整するための試運転が必要である。また、治療装置とした稼働後も、装置の経年変化や、加速器を構成する機器の改修などで加速器から出射されるイオンビームの光学的パラメータが変化することもある。そのため、治療開始前に日々、イオンビームの位置やビームサイズが変化していないことをチェックする必要がある。前回調整時からイオンビームの位置やビームサイズが変化した場合は再度、ビーム輸送装置に設置される機器を調整する。
【0011】
従来のビーム輸送調整では、まず、ビーム輸送装置内に配置されたビームサイズと位置を測定する複数個のプロファイルモニタ等のモニタ機器によってビームサイズを測定する。測定したビームサイズ及びビーム輸送装置の光学的性質に基づいて、加速器から出射されるイオンビームの光学パラメータを算出する。次に、算出したイオンビームの光学パラメータから、所望のビーム位置とビームサイズとなるように輸送系のステアリング電磁石や、四極電磁石の励磁量が計算され各電磁石の励磁量を再設定する。この過程のうち、イオンビームの光学パラメータの測定では、磁石の励磁量誤差が大きく影響する。このため、高精度にビームサイズとビーム位置を調整するには、上記のイオンビームの光学パラメータの測定と、電磁石の励磁量再設定を繰り返して、イオンビームの光学パラメータを精度よく測定し、照射装置でのビームサイズを所望値に調整する。次に、照射点においてイオンビームの軌道を所定の位置と傾きとなるように輸送装置内のステアリング電磁石の励磁量を調整する。特許文献1では、ビーム輸送装置に設置されたステアリング電磁石を調整することによって、ビーム軌道を調整する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開2003−282300号公報
【非特許文献】
【0013】
【非特許文献1】Alfred Smith他 「The M. D. Anderson proton therapy system」Medical Physics 36(9),2009年9月
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
上述したように、散乱体照射法でもスキャニング照射法でも、治療開始前、あるいは機器の経年変化や改修などでビーム輸送装置を調整する必要がある。
【0015】
従来の調整では、イオンビームの光学パラメータの測定誤差や、電磁石の励磁量誤差などが影響してしまい、高精度にビームサイズを調整するには前述の手順を何回も踏まなければならなかった。
【0016】
また、従来の調整手段では、ビーム位置の調整は、特許文献1に記載の機器構成と制御によって容易になされているものの、ビームサイズの調整には調整者にビーム光学の知識が要求され、自動化が困難であった。さらには、前述の通り、ビーム輸送装置が輸送するイオンビームのエネルギーは多種にわたり、全種のエネルギーについて前述の調整が必要であり、高精度な輸送調整に時間がかかっていた。
【0017】
本発明の目的は、ビーム輸送装置でのビームサイズの調整を容易にし、ビームサイズ調整に掛かる時間を短縮する手法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0018】
上記目的を達成する本発明の特徴は、ビーム輸送装置を構成する四極電磁石等のビーム収束装置と、プロファイルモニタなどのビームモニタ装置と、ビーム収束装置より発する収束力の変化に対応したビームサイズの変化を測定し記録する手段と、この測定結果に基づき、ビーム収束装置の収束力に対するビームサイズの関係を示す感度行列を算出する手段と、調整したい位置でのビームサイズの調整目標値を設定する手段と、設定されたビームサイズの調整目標値から感度行列を用いてビームの収束力を算出する手段を備えることにある。
【0019】
これにより、調整したい位置でのビームサイズを実現するビームの収束力を自動的に算出することが可能となり、調整時間を短縮することが可能である。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、ビーム輸送装置でのビームサイズ調整が容易になり、ビーム輸送装置の調整に掛かる時間を短縮することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明の第1の実施形態による粒子線治療システムの全体構成を示す構成図である。
【図2】従来のビーム輸送装置の調整手順を表すフローチャートである。
【図3】第1実施形態のビーム輸送調整の手順を表すフローチャートである。
【図4】ビーム輸送装置および照射装置内に設置されたプロファイルモニタによるビームサイズの測定結果を表示する画面を示す図である。
【図5】ビーム輸送装置内に設置された電磁石の励磁電流値を監視及び設定する画面を示す図である。
【図6】第1の実施形態による照射装置でのビームサイズの所望値を入力する画面を示す図である。
【図7】荷電粒子ビームの輸送調整開始を指示する画面を示す図である。
【図8】本発明の第2,第3の実施形態による粒子線治療システムの全体構成を示す構成図である。
【図9】本発明の第2,第3の実施形態による照射装置でのビームサイズの所望値を入力する画面を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、図面を参照しつつ本発明の実施形態を説明する。
【0023】
(実施例1)
本発明の第1の実施形態である粒子線治療システム1を、図1〜図7を用いて説明する。図1は本実施形態の粒子線治療システム1の全体構成を表すシステム構成図である。
【0024】
図1において、本実施形態の粒子線治療システム1は、シンクロトロン型加速器(以下、加速器)10,ビーム輸送装置20,照射装置30,複数の電磁石電源40及び電磁石電源制御装置50を備えている。ビーム輸送装置20は、複数の四極電磁石21,複数のステアリング電磁石22,複数の偏向電磁石23及び複数のプロファイルモニタ24が備えられている。電磁石(四極電磁石21,ステアリング電磁石22及び偏向電磁石23)には、それぞれ個別に電磁石電源40が接続されている。電磁石電源制御装置50が電磁石電源40を制御し、この電磁石電源40の出力電流量を制御する。
【0025】
本実施形態では、ビーム輸送装置20のビーム軌道上に、8個の四極電磁石21,4個のステアリング電磁石22,2個の偏向電磁石23,6個のプロファイルモニタ24を備えることとする。四極電磁石21には、ビーム進行方向の上流側からそれぞれQM1〜QM8の名前がつけられる。ステアリング電磁石22には、ビーム進行方向の上流側からそれぞれSTM1〜STM4の名前がつけられる。偏向電磁石23には、ビーム進行方向の上流側からBM1,BM2の名前がつけられている。プロファイルモニタ24には、ビーム進行方向の上流側からそれぞれPRM1〜PRM6の名前がつけられる。
【0026】
加速器10から発生したイオンビームは、ビーム輸送装置20を通過中に四極電磁石21からの収束作用とステアリング電磁石22からの軌道補正作用を受けながら照射装置30に輸送される。四極電磁石21は、電磁石電源40が作る励磁電流に応じた強度の四極磁場をビーム輸送装置20のビーム軌道上に発生させ、イオンビームに対して収束または発散の効果を及ぼす。四極電磁石21の励磁量変化によって、当該四極電磁石21の下流にあるプロファイルモニタ24で測定されるビームサイズが変化する。ステアリング電磁石22が作る双極磁場を調整することによって、イオンビームのビーム軌道が調整される。
【0027】
電磁石電源制御装置50は、調整者用端末70に調整者(図示せず)が入力した指令に基づいて電磁石電源40を制御する。また、電磁石電源制御装置50は、電磁石電源40の出力電流を常に監視し、出力電流値を調整者用端末70に送信している。
【0028】
プロファイルモニタ24は、プロファイルモニタ信号処理装置60に出力信号を送信する。出力信号を受信したプロファイルモニタ信号処理装置60は、この出力信号に基づいて、各プロファイルモニタで測定されたビームサイズとビームプロファイルを調整者用端末70に出力する。
【0029】
調整者用端末70には、各種データを保存する記憶装置80,励磁電流補正量計算装置90及び感度計算装置91が接続されており、後に述べる手順によって調整者は各装置に動作指示を出す。
【0030】
本実施形態の粒子線治療システムは、照射装置30に適切なサイズでイオンビームを輸送するためにビーム輸送装置20内の各プロファイルモニタ24でのビームサイズを所定の値に調整する必要がある。ビーム輸送装置20の各プロファイルモニタ24のうち、特に重要なプロファイルモニタは照射装置30の上流に設置された2台のプロファイルモニタ24aと24b(それぞれPRM5とPRM6)である。この2台のプロファイルモニタ24a,24bでは高精度にビームサイズを調整することで照射装置30におけるビームサイズが所定の値であることを確認している。
【0031】
ここで、ビーム輸送装置20の調整に必要な輸送光学計算手法について述べる。ビームはビーム輸送装置20を途中で損失することなく輸送されなければならない。ビーム損失の原因は、ビームの一部がビーム輸送装置20の構造物にビームを構成する粒子が衝突することである。ビーム輸送装置20ではビームの広がりをある値以内に抑えなくてはならない。そこで、ビームの空間的広がりを見積もるために以下のような光学計算をする。
【0032】
ビームを構成する各粒子の運動は、設計軌道からのずれx,設計軌道方向と粒子の運動方向のずれθによって記述される。ある輸送装置(四極電磁石,ドリフトスペース,偏向電磁石など)を通過する前後の(x,θ)をそれぞれ(x,θ)i,(x,θ)fとおく。すると両者には、(式1)のような関係が成り立つ。(式1)中のRは輸送行列と呼ばれ、四極電磁石の輸送行列はその焦点距離をfとして、(式2)のRQMのように表わされ、ドリフトスペースの輸送行列はその経路長をLとして(式3)のRDのように表わされる。複数の機器が組み合わせられた輸送装置の輸送行列は各要素の輸送行列の積となる。この関係を用い、初期のビーム粒子の分布から、輸送装置内でのビームの分布を計算できる

【0033】
【数1】

【0034】
【数2】

【0035】
【数3】

【0036】
まず、以上の輸送計算を用いた本実施形態の粒子線治療システムにおける、従来のビーム輸送装置20の輸送調整手順について、図2を参照して説明する。従来の調整は、粗調整,出射ビームパラメータ測定,ビームサイズ調整の3ステップに分かれる。
【0037】
第一のステップはビーム輸送の粗調整である。まず、ビーム輸送装置20と加速器10からの出射ビームパラメータの設計値に基づき、ビーム輸送装置を構成する偏向電磁石23や四極電磁石21の励磁量を設定する。この設定条件でイオンビームを輸送し、ビーム輸送装置内のプロファイルモニタ24にて、イオンビームの輸送状況を確認する。この粗調整により、照射装置30までイオンビームを損失せずに輸送する。この段階では、加速器10からの出射ビームパラメータの設計値と実際のビームパラメータのずれにより、プロファイルモニタ24で測定されるビームサイズは所定の値からずれている。
【0038】
第二の調整ステップは、出射ビームパラメータ測定である。ビーム輸送装置20内の四極電磁石21の励磁量とプロファイルモニタ24によって測定したビームサイズと、ビーム輸送装置20の光学的性質から出射ビームの光学パラメータ(出射ビームパラメータ)を算出する。すなわち、出射ビームパラメータを未知数として輸送計算とプロファイルモニタ24でのビームサイズ測定値から出射ビームパラメータが満たすべき方程式を得る。
そして、それらの方程式から最適な出射ビームパラメータを求める。
【0039】
第三の調整ステップは、ビームサイズ調整である。測定した出射ビームの光学パラメータから、今度は逆にビーム光学計算を用い所望のビームサイズとなる四極電磁石21の励磁量を算出する。算出した四極電磁石21の励磁量で各四極電磁石21を励磁する。これによって各プロファイルモニタのこの過程を経ても、ビーム輸送装置20内の電磁石の励磁量誤差などがあり、プロファイルモニタ24aと24bが計測するビームサイズは所望値からずれている。そこで再度上に述べた第二の調整ステップを繰り返す。すなわち、出射ビームパラメータの測定と、ビームサイズ調整を繰り返すことで、照射装置30内のプロファイルモニタ24aと24bで測定されるビームサイズが所望値に近づいていく。そしてプロファイルモニタ31でのビームサイズが所望値に十分近づいたら、ビームサイズの調整は完了する。
【0040】
上記のビーム光学に基づく従来の調整では、調整者にビーム光学の知識が必要であること、手順が複雑であり、高精度にビームサイズを調整するために、多数回のビームサイズ測定が必須であり調整に時間を要する。また、加速器10や各電磁石の経年変化や機器の改修などで出射ビームパラメータや各機器の性質や出射ビームの光学パラメータが変化したときは、再度上記の調整が必要となり治療装置として使用を再開するまでに時間を要する。
【0041】
そこで、本実施形態では以下に説明する調整手順を踏む。本実施形態におけるビームサイズの調整手順を、図3のフローチャートを参照して説明する。本実施例の特徴は、調整は粗調整,感度測定,ビームサイズ補正の3ステップに分かれる点にある。
【0042】
第一のステップは、ビーム輸送の粗調整である。上記の従来の調整と同じく、ビーム輸送装置20と加速器10からの出射ビームパラメータの設計値に基づき、ビーム輸送装置を構成する偏向電磁石23や四極電磁石21の励磁量を設定する。この設定条件でイオンビームを輸送し、ビーム輸送装置20内のプロファイルモニタ24にて、イオンビームの輸送状況を確認する。この粗調整により、照射装置30までビームを損失せずに輸送する。この段階では加速器10から照射装置30まで損失なく輸送できているものの、治療可能な状態にするには、各プロファイルモニタ24a,24bでのビームサイズの調整が必要である。
【0043】
次に、精度よくビームサイズを調整するためのパラメータを測定するため、第二の調整ステップの感度測定を実施する。このステップでは、ビーム輸送装置20内にある四極電磁石21の励磁量を順次変化させ、プロファイルモニタ24a,24bでビームサイズを測定する。この結果、プロファイルモニタ24a,24bのビームサイズ変化を四極電磁石21の励磁量変化で割ることによって、粗調整を終えた状態における、四極電磁石21の単位励磁量変化に対するビームサイズの変化率が計算できる。この変化率を四極電磁石21の励磁量に対するビームサイズの感度と定義する。ビームサイズは、イオンビームの進行方向に対して垂直な平面内において水平方向と鉛直方向に定義できるため、一つの四極電磁石21に対して、プロファイルモニタ24a,24bのそれぞれにおける水平ビームサイズと鉛直ビームサイズに対する感度が存在する。
【0044】
第三の調整ステップは、ビームサイズ補正である。前ステップで得た感度を用いて所望のビームサイズとなるように、四極電磁石21の励磁量を再設定する。ここで、プロファイルモニタ24aと24bにおける粗調整を終えた段階でのビームサイズを水平,鉛直それぞれbxa,bya,bxb,bybとし、所望のビームサイズを水平,鉛直それぞれbxaT,byaT,bxbT,bybT、i番目の四極電磁石の励磁量をki、プロファイルモニタ24aにおける水平方向ビームサイズのi番目の四極電磁石に対する感度をsixa、鉛直方向ビームサイズのi番目の四極電磁石に対する感度をsiya、プロファイルモニタ24bにおける水平方向ビームサイズのi番目の四極電磁石に対する感度をsixb、鉛直方向ビームサイズのi番目の四極電磁石に対する感度をsiybと表わすと、(式4)に基づいて、四極電磁石の励磁量の補正量Δkiが求められる。
【0045】
【数4】

【0046】
(式4)は、本実施形態による測定ビームサイズと所望ビームサイズと四極電磁石の励磁量変化に対するビームサイズ変化に基づいて、所望ビームサイズを実現するための四極電磁石励磁量を算出する式である。ここで、(式4)に登場する行列を感度行列と定義する。
【0047】
感度行列は、調整する四極電磁石に対するビームサイズ感度を示したものであり、ビームサイズを高精度に調整するためには、感度行列の行列式が最大となる四極電磁石21を選ぶことで実現できる。あるいは調整する四極電磁石21を5つ以上選び、それらの感度を並べた感度行列の擬似逆行列を(式4)に登場する行列の逆行列の代わりとして用いることもできる。この計算結果に基づいて電磁石電源40の出力を変更する。
【0048】
(式4)で得た励磁量の変化を現在の励磁量に加算し新たな励磁量とすると、プロファイルモニタ24aと24bでのビームサイズは所望のビームサイズに近づく。そこで、再び、ビームサイズを実測し、ビームサイズが所定の精度内で所望値と一致すれば、ビームサイズの調整は完了する。測定したビームサイズが所望のビームサイズにならない場合は、再度、(式4)によって算出される補正励磁量を現在の励磁量に加算する。この場合、(式4)の式中のΔkiは現在の四極電磁石21の励磁量に対する補正量である。この過程をビームサイズが所望のビームサイズに一致するまで繰り返す。
【0049】
また、経年変化や機器の改修等によって、ビーム条件が変化し、ビームサイズの調整を再度実施する時は、上に示した第三の調整ステップから調整することで、容易に所望のビームサイズを実現できる。
【0050】
本実施形態のビーム輸送装置の制御系の構成と、調整における各装置の動作を、図1及び図4〜図7を用いて説明する。まず、調整者が調整者用端末70を通して行う操作を説明する。
【0051】
調整者用端末70には、図4に示すビームサイズ測定結果出力画面101,ビーム輸送装置20内の電磁石の励磁電流の現在値を出力するとともに設定する画面(図5に示す電磁石電流監視設定画面201)と、プロファイルモニタ24aと24bでのビームサイズの目標値を入力する画面(図6に示す目標ビームサイズ入力画面301)と、前述の一連のビーム調整をスムーズに実行するための図7に示す調整指示画面401が表示されている。
【0052】
ビーム輸送装置20内のプロファイルモニタ24の出力信号は、プロファイルモニタ信号処理装置60に伝送する。プロファイルモニタ信号処理装置60では、入力されたプロファイルモニタ24の信号に基づいて、輸送されたイオンビームのプロファイルとビームサイズを計算し、計算結果を調整者用端末70の画面(図4に示すビームサイズ測定結果出力画面101)に表示する。
【0053】
図4に示すビームサイズ測定結果出力画面101は、調整者がビーム輸送装置20の調整中に適宜ビームプロファイルを確認するのに用いる。ビームサイズ測定結果出力画面101には、測定結果を表示するプロファイルモニタを指定するプロファイルモニタ指定ボックス111、指定されたプロファイルモニタでのビームプロファイルの測定結果を表示するプロファイル表示部112がある。測定されたプロファイルから自動的にビームサイズが計算され、ビームサイズの値も表示される。
【0054】
図5に示す電磁石電流監視設定画面201は、適宜調整者がビーム輸送装置20内の四極電磁石21,ステアリング電磁石22,偏向電磁石23の各電磁石の励磁量を監視し、手動で設定するために用いる。電磁石電流監視設定画面201には、電磁石電源制御装置50を通じ、各電磁石を励磁する電磁石電源40からの出力電流値を表示している。また、各電磁石電源の出力電流を設定する機能も持ち、調整者は励磁電流設定値入力ボックス211に所望の電流値を入力し、励磁電流設定ボタン212をクリックすることで、電磁石電源制御装置50を通じ対応する電磁石電源40の出力電流を指定された値に変更する。
【0055】
図6に示す目標ビームサイズ入力画面301の目的は、プロファイルモニタ24aと24bにおける、ビームサイズの所望値を入力することである。目標ビームサイズ入力画面301には、目標水平ビームサイズ入力ボックス311,目標鉛直ビームサイズ入力ボックス312及びビームサイズ調整実行ボタン313がある。調整者は、目標水平ビームサイズ入力ボックス311と目標鉛直ビームサイズ入力ボックス312に、プロファイルモニタ24aと24bでの水平,鉛直ビームサイズの調整目標値を入力し、ビームサイズ調整実行ボタン313をクリックすることで、入力された調整目標ビームサイズの値を記憶装置80内にデータとして保存する。また、このデータは、前述の調整の第三ステップにおいて励磁電流補正量計算装置90に送信され、励磁電流補正量計算装置90では、(式4)の式で利用するbxaT,byaT,bxbT,bybTの値として用いられる。励磁電流補正量計算装置は、現在の設定励磁量に(式4)の式より導出された計算結果を加算した結果を新たな励磁量として出力する。ビームサイズ補正実行指示ボタン314が調整者によってクリックされると、電磁石電源制御装置50は、この励磁量に四極電磁石21の励磁量を変更することで、調整目標のビームサイズを実現する。
【0056】
図7に調整指示画面401を示す。調整指示画面401は、ビーム輸送装置20のビームサイズ調整手順に沿った処理を実施するために用いる。調整指示画面401には感度測定指示ボタン411,ビームサイズ調整実行指示ボタン412がある。調整者が、調整者用端末70の調整指示画面に表示されたこれらのボタンをクリックすることで、前述したビーム輸送調整時の感度行列測定とビームサイズ補正処理を実施する。
【0057】
調整者が、感度測定指示ボタン411をクリックすると電磁石電源制御装置50を通じビーム輸送装置20の四極電磁石21の励磁量をある範囲(例えば±1アンペア)で変化させ、プロファイルモニタ24aと24bでのビームサイズ変化を測定する。このビームサイズ変化と四極電磁石の励磁量変化の比を、感度計算装置91が計算し、励磁量を変化させた四極電磁石に対するビームサイズ感度として記憶装置80に記録する。この処理をビーム輸送装置20にあるすべての四極電磁石21について実施し、各四極電磁石に、プロファイルモニタ24aと24bでの水平,鉛直各方向のビームサイズの感度を、全部で32個の数値データとして記憶装置80に保存し、そのうち、励磁量を調整する4台の四極電磁石に対応する感度を上述の(式4)の式を計算する際に、s1xa,s1ya,s1xb,s1yb,s2xa,s2ya,s2xb,s2yb,s3xa,s3ya,s3xb,s3yb,s4xa,s4ya,s4xb,s4ybとして励磁電流補正量計算装置90に利用される。
【0058】
調整者が、ビームサイズ調整実行指示ボタン412をクリックすると、図6に示した目標ビームサイズ入力画面301が表示される。調整者は、ビームサイズの目標値を目標水平ビームサイズ入力ボックス311と目標鉛直ビームサイズ入力ボックス312に入力し、その後、ビームサイズ調整実行ボタン313をクリックすると、記憶装置80に保存された目標のビームサイズの値が入力値に更新される。その後、記憶装置80に保存された感度の値が励磁電流補正量計算装置90に送信され、励磁電流補正量計算装置90は、感度行列の行列式の絶対値が最大となるような四極電磁石21の組を選択し、所望のビームサイズを実現する四極電磁石の励磁量を計算する。
【0059】
ビームサイズ補正実行指示ボタン314をクリックすると、励磁電流補正量計算装置90にて選択された四極電磁石21に対して計算された励磁量を設定する。この後、プロファイルモニタ24aと24bにて、ビームサイズが目標値に補正されているかを確認する。プロファイルモニタ24aと24bでビームサイズを確認した結果、目標値と差を生じていた場合、再度ビームサイズ補正実行指示ボタン314をクリックすることで、再び励磁電流補正量計算装置90で補正演算を実行し、四極電磁石21に対する補正励磁量を設定する。この設定により、ビームサイズを目標値に補正できる。
【0060】
以上の機器構成と制御系の構成において、本実施形態のビームサイズ調整手法を用いることで、従来の調整法より容易かつ短期間でビーム輸送装置20の調整を完了することができ、本粒子線治療システムの早期の治療開始ができる。
【0061】
また、本実施形態によれば、ビーム輸送装置20での容易なビームサイズ調整手法を提供することができ、ビームサイズ調整の自動化を実現する手法を提供することができる。
このように、ビーム輸送装置でのビームサイズ調整の自動化が可能となることによって、ビーム輸送に関する知識がなくても調整が容易に実現できるようになる。
【0062】
(実施例2)
本発明の他の実施形態の粒子線治療システム1Aを、図8を用いて説明する。図8は本実施形態の粒子線治療システム1Aの全体構成を表すシステム構成図である。
【0063】
図8において本実施形態の粒子線治療システム1Aは、第1の実施形態における粒子線治療システムと同様に、シンクロトロン型加速器10,ビーム輸送装置20,照射装置30,電磁石電源40,電磁石電源制御装置50,プロファイルモニタ信号処理装置60,調整者用端末70,記憶装置80,励磁電流補正量計算装置90及び感度計算装置91を備えている。どの機器も特に説明しない限りは第1の実施形態における粒子線治療システムと同様の動作を行う。
【0064】
照射装置30はスキャニング照射用の照射装置であり、プロファイルモニタ31とともに走査用電磁石(図示せず)を備える。照射装置30に到達したイオンビームはプロファイルモニタ31でビームサイズと位置を測定され、測定結果に基づいてビーム輸送装置20内の四極電磁石21とステアリング電磁石22を調整し、所望のビームサイズで所定の位置に輸送される。本実施形態では、プロファイルモニタ31でのビームサイズを高精度に調整する必要がある。
【0065】
本実施形態では以下に説明する調整手順を踏む。本実施形態でのビームサイズの調整手順を、図3のフローチャートを参照しつつ説明する。第1の実施形態における粒子線治療システムと同様に、調整は粗調整,感度測定,ビームサイズ補正の3ステップに分かれる。以下では第1の実施形態における粒子線治療システムと処理内容が異なる、本実施形態の感度測定とビームサイズ補正の内容について説明する。
【0066】
第一のステップである粗調整を終えたら、次に、第二の調整ステップである感度測定を実施する。このステップでは、ビーム輸送装置20内にある四極電磁石21の励磁量を順次変化させることで変化する照射装置30内のプロファイルモニタ31で測定されるビームサイズを測定する。本測定では、四極電磁石21の励磁量を変更する毎に、プロファイルモニタ31でのビームサイズを計測する。この結果、粗調整を終えた状態における、四極電磁石21の単位励磁量変化に対するビームサイズの変化率が計算できる。この変化率を四極電磁石21の励磁量に対するビームサイズの感度と定義する。ビームサイズはビームの進行方向に対して垂直な平面内において水平方向と鉛直方向に定義できるため、一つの四極電磁石21に対して、水平ビームサイズと鉛直ビームサイズに対する感度が存在する。そのため、四極電磁石21の励磁量に対する水平方向と鉛直方向のビームサイズをそれぞれ測定する。
【0067】
第三の調整ステップは、ビームサイズ補正である。前ステップで得た感度を用いて所望のビームサイズとなるように、四極電磁石21の励磁量を再設定する。ここで、粗調整を終えた段階でのビームサイズを水平,鉛直それぞれbx,byとし、所望のビームサイズを水平,鉛直それぞれbxT,byT、i番目の四極電磁石21の励磁量をki、水平方向ビームサイズのi番目の四極電磁石21に対する感度をs1x、鉛直方向ビームサイズのi番目の四極電磁石21に対する感度をs1y、と表わすと、(式5)に示す式に基づいて、四極電磁石21の励磁量の補正量Δkiが求められる。
【0068】
【数5】

【0069】
(式5)は、本実施形態による測定ビームサイズと所望ビームサイズと四極電磁石21の励磁量変化に対するビームサイズ変化から、所望ビームサイズを実現するための四極電磁石21の励磁量を算出する式である。ここで、(式5)に登場する行列を感度行列と定義する。
【0070】
感度行列は、調整する四極電磁石に対するビームサイズ感度を示したものであり、ビームサイズを高精度に調整するためには、感度行列の行列式が最大となる四極電磁石を選ぶことで実現できる。あるいは調整する四極電磁石を3つ以上選び、それらの感度を並べた感度行列の擬似逆行列を(式5)に登場する行列として用いることもできる。この計算結果に基づいて電磁石電源40の出力を変更する。
【0071】
(式5)で得た励磁量の変化を現在の励磁量に加算し新たな励磁量とすると、照射装置30内のプロファイルモニタ31でのビームサイズは所望のビームサイズに近づく。そこで、再びビームサイズを実測し、ビームサイズが所定の精度内で所望値と一致すれば、ビームサイズの調整は完了する。測定したビームサイズが所望のビームサイズにならない場合は、再度、(式4)によって算出される補正励磁量を現在の励磁量に加算する。この場合、(式4)の式中のΔkiは現在の四極電磁石の励磁量に対する補正量である。この過程をビームサイズが所望のビームサイズに一致するまで繰り返す。
【0072】
また、経年変化や機器の改修等によって、ビーム条件が変化し、ビームサイズの調整を再度実施する時は、上に示した第三の調整ステップから調整することで、容易に所望のビームサイズを実現できる。
【0073】
本実施形態のビーム輸送装置の制御系の構成と、調整における各装置の動作を、図4,図5,図7〜図9を用いて説明する。まず、調整者が調整者用端末70を通して行う操作を説明する。
【0074】
調整者用端末70には、第1の実施形態における粒子線治療システムと同様に図4に示すビームサイズ測定結果出力画面101,ビーム輸送装置20内の電磁石の励磁電流の現在値を出力するとともに設定する画面(図5に示す電磁石電流監視設定画面201)と、照射装置30内のプロファイルモニタ31でのビームサイズの目標値を入力する画面(図9に示す目標ビームサイズ入力画面301)と、前述の一連のビーム調整をスムーズに実行するための図9に示す調整指示画面401が表示されている。
【0075】
ビームサイズ測定結果出力画面101,電磁石電流監視設定画面201,調整指示画面401の動作は第1の実施形態における粒子線治療システムと同様である。
【0076】
図9に示す目標ビームサイズ入力画面301の目的は、照射装置30内のプロファイルモニタ31における、ビームサイズの所望値を入力することである。目標ビームサイズ入力画面301には目標水平ビームサイズ入力ボックス311と目標鉛直ビームサイズ入力ボックス312,ビームサイズ調整実行ボタン313がある。調整者は、目標水平ビームサイズ入力ボックス311と目標鉛直ビームサイズ入力ボックス312に、水平,鉛直ビームサイズの調整目標値を入力し、ビームサイズ調整実行ボタン313をクリックすることで、入力された調整目標ビームサイズの値を記憶装置80内にデータとして保存する。
またこのデータは、前述の調整の第三ステップにおいて励磁電流補正量計算装置90に送信され、励磁電流補正量計算装置90では、(式4)の式で利用するbxT,byTの値として用いられる。励磁電流補正量計算装置は、現在の設定励磁量に(式4)の式より導出された計算結果を加算した結果を新たな励磁量として出力する。ビームサイズ補正実行指示ボタン314が調整者によってクリックされると、電磁石電源制御装置50は、この励磁量に四極電磁石21の励磁量を変更することで、調整目標のビームサイズを実現する。
【0077】
以上の機器構成と制御系の構成において、本実施形態のビームサイズ調整手法を用いることで従来の調整法より容易かつ短期間でビーム輸送装置20の調整を完了することができ、本粒子線治療システムの早期の治療開始ができる。
【0078】
また、本実施形態によれば、ビーム輸送装置20での容易なビームサイズ調整手法を提供することができ、ビームサイズ調整の自動化を実現する手法を提供することができる。
このように、ビーム輸送装置でのビームサイズ調整の自動化が可能となることによって、ビーム輸送に関する知識がなくても調整が容易に実現できるようになる。
【0079】
(実施例3)
本発明の他の実施形態である粒子線治療システムについて説明する。
【0080】
第3の実施形態の粒子線治療システムは、図8に示す粒子線治療システム1Aと同様の機器構成である。調整者は、第1の実施形態で示した図3の調整手順を踏む。しかし、図3の調整手順に示した第二ステップの感度測定でのデータ処理の手法が、本実施形態と第1の実施形態の異なる点である。
【0081】
本実施形態における感度測定では、感度を算出する際にビームの光学パラメータの測定値を用いる。すなわち、まずビーム輸送装置20内のプロファイルモニタ24と照射装置30内のプロファイルモニタ31でのビームサイズの測定値とビーム輸送装置20の性質から加速器10からの出射ビームの光学パラメータを算出する。出射ビームの光学パラメータとビーム輸送装置20の光学的性質から四極電磁石21の励磁量変化に対する、照射装置30内のプロファイルモニタ31でのビームサイズの感度が計算する。そのために、記憶装置80内には第1の実施形態で示したデータに加え、ビーム輸送装置20の各機器の長さ等の情報が保存されている。感度計算装置91はこの情報と電磁石電源制御装置50から得られる各電磁石(四極電磁石21,ステアリング電磁石22及び偏向電磁石23)の励磁量から、ビーム輸送装置20の輸送行列を計算できる。
【0082】
ビーム輸送装置20の調整では図3に示す手順で調整を進めていく。最初に、第1の実施例と同様に粗調整を実施する。次に、調整者が図7に示す調整指示画面401の感度測定指示ボタン411をクリックすると、感度計算装置91がプロファイルモニタ信号処理装置60から出力された各プロファイルモニタ24,31でのビームサイズの測定値と、記憶装置80内にあるビーム輸送装置20の各機器の情報から加速器10から出射されるビームの光学パラメータを計算する。次に、感度計算装置91は、各四極電磁石21の励磁量変化に対するビーム輸送装置20の輸送行列の変化を計算し、そこからプロファイルモニタ31でのビームサイズの感度を計算する。計算した感度を第1の実施形態と同様に、四極電磁石21ごとに水平,鉛直各方向のビームサイズの感度、全部で18個の数値データとして記憶装置80に保存する。この手法で計算された感度も次の調整ステップのビームサイズ補正の段階で、(式4)式を用いて励磁量を算出する際に感度行列の成分として使用できる。
【0083】
以上の機器構成と制御系の構成において、本実施形態のビームサイズ調整手法を用いることで従来の調整法より容易かつ短期間でビーム輸送装置20の調整を完了することができ、本粒子線治療システムの早期の治療開始ができる。
【0084】
また、本実施形態によれば、ビーム輸送装置20での容易なビームサイズ調整手法を提供することができ、ビームサイズ調整の自動化を実現する手法を提供することができる。
このように、ビーム輸送装置でのビームサイズ調整の自動化が可能となることによって、ビーム輸送に関する知識がなくても調整が容易に実現できるようになる。
【0085】
さらに、本実施形態で示した感度の計算法では第1の実施形態で示した手法に比べ、四極電磁石21の励磁量を変化させる手間が省け、より短時間で感度測定が完了できる。
【符号の説明】
【0086】
1,1A 粒子線治療システム
10 加速器
20 ビーム輸送装置
21 四極電磁石
22 ステアリング電磁石
23 偏向電磁石
24,31 プロファイルモニタ
30 照射装置
40 電磁石電源
50 電磁石電源制御装置
60 プロファイルモニタ信号処理装置
70 調整者用端末
80 記憶装置
90 励磁電流補正量計算装置
91 感度計算装置
101 ビームサイズ測定結果出力画面
111 プロファイルモニタ指定ボックス
112 プロファイル表示部
201 電磁石電流監視設定画面
211 励磁電流設定値入力ボックス
212 励磁電流設定ボタン
301 目標ビームサイズ入力画面
311 目標水平ビームサイズ入力ボックス
312 目標鉛直ビームサイズ入力ボックス
313 ビームサイズ調整実行ボタン
314 ビームサイズ補正実行指示ボタン
401 調整指示画面
411 感度測定指示ボタン
412 ビームサイズ調整実行指示ボタン
413 ビーム位置調整実行指示ボタン

【特許請求の範囲】
【請求項1】
通過する荷電粒子ビームを収束または発散させる複数の四極電磁石と、
前記四極電磁石の前記荷電粒子ビームに作用する収束力を制御する収束力制御手段と、 通過する荷電粒子ビームのサイズを測定するビームサイズ測定手段と、
前記ビームサイズ測定手段が測定する前記荷電粒子ビームのサイズの所望値を入力するビームサイズ入力手段と、
前記ビームサイズ入力手段を通じて入力されたビームサイズの所望値に基づいて、前記ビーム輸送装置に備えられる前記複数の四極電磁石の中から収束力を変化させる四極電磁石を選択し、選択した四極電磁石の収束力を算定する収束力算定装置を備えることを特徴とする荷電粒子ビーム輸送装置。
【請求項2】
請求項1に記載の荷電粒子ビーム輸送装置において、
前記収束力制御手段は、前記収束力算定装置で算定した収束力に基づいて、前記収束力算定装置で選択された前記四極電磁石の収束力を変更することを特徴とする荷電粒子ビーム輸送装置。
【請求項3】
請求項1に記載の荷電粒子ビーム輸送装置において、
ある一つの前記四極電磁石の収束力の変化に対する前記ビームサイズ測定手段で測定される荷電粒子ビームのサイズ変化を示すビームサイズ感度データを生成するビームサイズ感度データ生成装置と、
前記ビームサイズ感度データを記憶する記憶装置を備えることを特徴とする荷電粒子ビーム輸送装置。
【請求項4】
請求項3に記載の荷電粒子ビーム輸送装置であって、
少なくとも一つの前記ビームサイズ測定手段で測定した前記荷電粒子ビームのサイズに基づいて、ビーム経路上での前記荷電粒子ビームの光学パラメータを計算するビームパラメータ計算手段を備えることを特徴とする荷電粒子ビーム輸送装置。
【請求項5】
請求項3に記載の荷電粒子ビーム輸送装置において、
少なくとも一つの前記四極電磁石の収束力をある量変化させ、前記四極電磁石の収束力が変化するたびに前記ビームサイズ測定手段で測定される荷電粒子ビームのサイズを測定し、前記四極電磁石の収束量の変化量と前記ビームサイズ測定手段で測定される荷電粒子ビームのサイズの変化量との比を以って前記ビームサイズ感度データとすることを特徴とする荷電粒子ビーム輸送装置。
【請求項6】
請求項4に記載の荷電粒子ビーム輸送装置において、
前記四極電磁石の収束力及び前記ビームパラメータ計算手段が計算した前記荷電粒子の光学パラメータに基づいて、前記四極電磁石の前記単位収束力変化当たりの前記ビームサイズ測定手段で測定される荷電粒子ビームのサイズの変化を計算し、前記ビームサイズ測定手段により計算された前記四極電磁石の前記単位収束力変化当たりの前記ビームサイズ測定手段で測定される荷電粒子ビームのサイズの変化を以って前記ビームサイズ感度データとすることを特徴とする荷電粒子ビーム輸送装置。
【請求項7】
請求項3に記載の荷電粒子ビーム輸送装置において、
前記収束力算定装置によって算定される収束力は、前記ビームサイズ感度データを成分とする行列の逆行列または擬似逆行列と前記ビームサイズ入力手段を通じて入力されたビームサイズの所望値から前記ビームサイズ測定手段によって測定されたビームサイズを引いたものとの積であることを特徴とする荷電粒子ビーム輸送装置。
【請求項8】
請求項3に記載の荷電粒子ビーム輸送装置において、
前記収束力算定装置によって収束力を変更する前記ビームサイズ感度データを成分とする行列の行列式の絶対値が最大となる2つの前記ビーム収束装置を選択することを特徴とする荷電粒子ビーム輸送装置。
【請求項9】
請求項3に記載の荷電粒子ビーム輸送装置において、
前記収束力算定装置によって収束力を変更する前記ビームサイズ感度データを成分とする行列の行列式の絶対値が最大となる2つの前記ビーム収束装置を選択し、選択された2つの前記ビーム収束装置を含む3つ以上の前記四極電磁石を選択することを特徴とする荷電粒子ビーム輸送装置。
【請求項10】
荷電粒子ビームを加速する加速器と、
前記荷電粒子ビームを照射対象に照射する照射装置と、
前記加速器から出射された前記荷電粒子ビームを前記照射装置まで輸送する荷電粒子ビーム輸送装置を備え、
前記照射装置は、前記照射装置内を通過する前記荷電粒子ビームのサイズを測定するビームサイズ測定手段を有し、
前記荷電粒子ビーム輸送装置は、前記荷電粒子ビームの経路上に、前記荷電粒子ビームを収束又は発散させる複数の四極電磁石と、前記四極電磁石のビームに作用する収束力を制御する収束力制御手段を有し、
前記ビームサイズ測定手段が測定する前記荷電粒子ビームのサイズの所望値を入力するビームサイズ入力手段と、
前記ビームサイズ入力手段を通じて入力されたビームサイズの所望値に基づいて、前記複数の四極電磁石の中から収束力を変化させる四極電磁石を選択し、選択した前記四極電磁石の収束力を算定する収束力算定装置を備えることを特徴とする粒子線治療システム。
【請求項11】
請求項10に記載の粒子線治療システムにおいて、
前記収束力制御手段は、前記収束力算定装置で算定した収束力に基づいて、前記収束力算定装置で選択した前記四極電磁石の収束力を変更することを特徴とする粒子線治療システム。
【請求項12】
請求項10に記載の粒子線治療システムにおいて、
少なくとも一つの前記四極電磁石の収束力の変化に対する前記ビームサイズ測定手段で測定される荷電粒子ビームのサイズ変化を示すビームサイズ感度データを生成するビームサイズ感度データ生成装置と、
前記ビームサイズ感度データを記憶する記憶装置を備えることを特徴とする粒子線治療システム。
【請求項13】
請求項12に記載の粒子線治療システムにおいて、
前記ビームサイズ測定手段で測定された前記荷電粒子ビームのサイズに基づいて、前記荷電粒子ビーム輸送装置または前記照射装置のビーム経路上での前記荷電粒子ビームの光学パラメータを計算するビームパラメータ計算手段を備えることを特徴とする粒子線治療システム。
【請求項14】
請求項12に記載の粒子線治療システムにおいて、
少なくとも一つの前記四極電磁石の収束力をある量変化させ、前記四極電磁石の収束力が変化するたびに前記ビームサイズ測定手段で測定される荷電粒子ビームのサイズを測定し、前記四極電磁石の収束量の変化量と前記ビームサイズ測定手段で測定される荷電粒子ビームのサイズの変化量との比を以って前記ビームサイズ感度データとすることを特徴とする粒子線治療システム。
【請求項15】
請求項13に記載の粒子線治療システムにおいて、
前記四極電磁石の収束力及び前記ビームパラメータ計算手段が計算した前記荷電粒子の光学パラメータに基づいて、前記四極電磁石の前記単位収束力変化当たりの前記ビームサイズ測定手段で測定される荷電粒子ビームのサイズの変化を計算し、前記ビームサイズ測定手段により計算された前記四極電磁石の前記単位収束力変化当たりの前記ビームサイズ測定手段で測定される荷電粒子ビームのサイズの変化を以って前記ビームサイズ感度データとすることを特徴とする粒子線治療システム。
【請求項16】
請求項12に記載の粒子線治療システムにおいて、
前記収束力算定装置によって算定される収束力は、前記ビームサイズ感度データを成分とする行列の逆行列または擬似逆行列と前記ビームサイズ入力手段を通じて入力されたビームサイズの所望値から前記ビームサイズ測定手段によって測定されたビームサイズを引いたものとの積であることを特徴とする粒子線治療システム。
【請求項17】
請求項12に記載の粒子線治療システムにおいて、
前記収束力算定装置によって収束力を変更する前記ビームサイズ感度データを成分とする行列の行列式の絶対値が最大となる2つの前記ビーム収束装置を選択することを特徴とする粒子線治療システム。
【請求項18】
請求項12に記載の粒子線治療システムにおいて、
前記収束力算定装置によって収束力を変更する前記ビームサイズ感度データを成分とする行列の行列式の絶対値が最大となる2つの前記ビーム収束装置を選択し、選択された2つの前記ビーム収束装置を含む3つ以上の前記四極電磁石を選択することを特徴とする粒子線治療システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2011−206237(P2011−206237A)
【公開日】平成23年10月20日(2011.10.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−76572(P2010−76572)
【出願日】平成22年3月30日(2010.3.30)
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)
【Fターム(参考)】