説明

荷電粒子光学装置における試料キャリアの温度を測定する方法

【課題】 荷電粒子光学装置において試料キャリアの温度を決定する方法を提供する。
【解決手段】 本発明は、荷電粒子光学装置において試料キャリアの温度を決定する方法に関し、該方法は、荷電粒子のビームを用いた試料キャリアの観測を含み、その観測は、その試料キャリアの温度に関する情報を与える。本発明は、TEM、STEM、SEM又はFIBなどの荷電粒子光学装置が、試料キャリアの温度に関する変化を観測するために使用することができるという見識に基づく。その変化は、力学的変化(例えば、二次金属)、結晶学的変化(例えば、ぺロブスカイトの)、及び発光変化(強度又は減衰期間)であってよい。望ましい実施形態において、異なる熱膨張係数を持つ金属(208、210)を示す2つの二次金属(210a、210b)を示し、反対方向に湾曲する。その2つの二次金属間の距離は、温度計として使用され得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、荷電粒子光学装置における試料キャリアの温度を決定する方法に関する。本発明は、さらに、その方法を実施するために備えられる試料キャリアに関する。
【背景技術】
【0002】
当該方法は、米国カリフォルニア州パサディナにおけるGatan Inc.から市販されているGatan 914 ハイチルト液体窒素クリオ・トランスファー・トモグラフィ・ホルダ(Gatan 914 High Tilt Liquid Nitrogen Cryo Transfer Tomography Holder)から知られている。このホルダは、透過型電子顕微鏡(TEM)又は走査型透過電子顕微鏡(STEM)において低温断層撮影に対して使用され、サンプルを運ぶ試料キャリア(「グリッド(grid)」)に備えられる。製造元によると、そのホルダの温度は、敏感な且つ線形温度応答を備えた較正されたシリコン・ダイオードによって監視される。このダイオードは、そのサンプルホルダに位置している。
【0003】
その測定方法の欠点は、その測定は、そのサンプル自体から除去された一部分の温度を測定することである:つまり、サンプルホルダの一部分の温度が測定され、その試料キャリアが固定される。その試料キャリアは、通常、直径が3mmで厚さが20μm又はそれ未満の穴の開いた銅はくである。その薄いフォイルにおける対象の領域の温度は、従って、測定ダイオードによって測定される温度とは異なる可能性がある。
【0004】
その測定のもう1つの欠点は、それは、そのダイオードに電流を供給するステップ及びそのダイオードにおける電圧を測定するステップを含むことである。その測定は、従って、ダイオードの温度をオーム加熱によって上昇させる。それは、特に低温において、望ましくない。
【0005】
当該方法のさらなる欠点は、ダイオードの使用は、細いワイヤがそのサンプルホルダ、入り側タイプホルダに導入されなければいけないことを示し、それは、費用の高い複雑な生産品をもたらす。
【0006】
もう1つの既知の方法は、パイロメーターを使用した温度の測定である。この温度測定の方法自体は知られている。
【0007】
この方法の欠点は、当業者に知られているように、例えば500℃よりも上の温度を測定することには適しているが、室温の測定には適しておらず、低温はさらに適していない。
【0008】
もう1つの欠点は、そのサンプルを見ることができる光学的に透明なウィンドウが、パイロメーターがそのサンプルを見ることができるように利用可能でなければいけないことである。特に、サンプルがいわゆる対物レンズのポールピース(pole pieces)の間に置かれているSTEM又はTEMにおいて、このポールピース間の体積は重要であり、その体積へのアクセスも同様である。
【0009】
低温でのサンプル検査は、当業者に知られているように、例えば、そのサンプルへの損傷を低減し、その他の場合に必要とされる樹脂へ埋め込むことを無くすために、生物学的サンプルの検査において重要である。
【0010】
方法は、40nmと150nmの間の直径及び1μmと10μmの間の長さを持つカーボン・ナノチューブを開示している特許文献1から周知であることが知られている。そのカーボン・ナノチューブは一端で閉鎖され、ガリウムの小さい液滴又はカラムを囲む。50℃から500℃までの温度を測定するために、そのカーボン・ナノチューブは、ガリウムのカラムと一緒に、測定されるべき試料に持ってこられ、その試料は空気中に配置される。結果として、酸化ガリウムのキャップが、そのカーボン・ナノチューブにおいて形成され、それは冷却した後にその場所に留まる。そのキャップの位置は、TEM(カーボン・ナノチューブは、電子に対して透明であることが知られている)によって決定することができる。その位置は、そのキャップがガリウムの熱膨張係数によって形成される温度に関連しており、従ってTEMがその位置を測定する温度とそのキャップが形成される(又は少なくともその位置にプッシュされる)温度との間の温度差が決定される。
【0011】
この方法は、大気環境における酸化ガリウムに基づいていることから、粒子光学装置の真空における使用には適していない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】米国特許第7,331,709号明細書
【特許文献2】米国特許第7,513,685号明細書
【非特許文献】
【0013】
【非特許文献1】H.X.Yang et al. “Phase separation,effects of magnetic field and high pressure on charge ordering in y-Na0.5CoO2”,Materials Chemistry and Physics 94(2005)119-124
【非特許文献2】M.Bednarz et al.,“Intraband relaxation and temperature dependence of the fluorescence decay time of one-dimensional Frenkel excitons:The Pauli master equation approach”,J.Chem.Phys.、Vol.117,No.13(2002年10月1日)pp.6200-6213
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明は、上記の問題の無い試料キャリアの温度を測定する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
そのために当該方法は、本発明によると、荷電粒子のビームを持つ試料キャリアの観測を含むことを特徴とし、その観測は、その試料キャリアの温度に関する情報を与える。
【0016】
発明者は、その方法が使用される走査型電子顕微鏡(SEM)、走査型透過電子顕微鏡(STEM)、透過型電子顕微鏡(TEM)、又は集束イオンビーム装置(FIB)などの装置は、試料キャリアにおける現象を観測することに非常に適していることを実感した。
【0017】
本発明は、熱膨張に基づく変位、結晶学的変化などの温度に依存した現象を観測することによって、その温度が決定できるという見識に基づいている。
【0018】
望ましい実施形態において、試料キャリアの一部分は、例えば、異なる膨張係数を示す2つ以上の異なる材料を持つ細長い一片として形成され、温度が変化すると、その細長い一片の二元金属のような湾曲をもたらす。この湾曲は、従って、試料キャリアの他の部分に比べると、その細長い一片の端部の温度に依存した変位をもたらす。二元金属は、この性質を示す良い例であるが、厳密に言うと、2層である必要はないが2つより多くの層を含んでもよく、又は金属である必要もないが異なる熱膨張係数を持つ材料の如何なる組み合わせであってよいことが知られている。
【0019】
望ましくは、その細長い一片は、1つの材料が、通常、銅などの試料キャリア自体の主要成分金属である、クロム、プラチナ、タングステンなどの基板金属と適切な二元金属特性(最も高い熱膨張係数の相違)を持つ金属のめっき(plating)を持つ二元金属の細長い一片である。これは、適切な導電性(及び、従って充電は無い)及び高い熱的変位を示す試料キャリアをもたらす。
【0020】
1つ又はそれ以上の位相転移又は位相分離を対象の温度範囲内で示す材料が、その温度が位相転移温度の上にあるか又は下にあるかを示すために使用され得る。例えば、TEMは、材料の回折パターンを決定することによって、その材料の位相を決定することが可能であることが述べられる。そのような材料の一例は、灰チタン石のグループ、SrTiO3からの材料である。この材料は、105Kで位相転移を示し、その温度の上では立方晶系結晶及びその温度の下では正方構造を示す。そのようなもう1つの材料は、Na0.5CoO2(例えば、非特許文献1を参照)である。そのようなもう1つの温度に依存した現象は、発光体の減衰期間である。これは、例えば、非特許文献2に記載されている。
【0021】
位相変化は、しばしば、体積変化とともに起こり、従って、例えば、二元金属に関して記載された湾曲に似た部分の湾曲が発生し得ることが述べられる。
【0022】
また、蛍光体の相対光度は、「Temperature sensitive paint for an extended temperature range」と題する2つの蛍光体を含む塗料を開示する特許文献2に記載されているように、温度に依存してよい。蛍光体は、荷電粒子によって刺激され得ることが述べられる。これらの方法の感度は、2つの蛍光体の混合物の光度又は減衰期間を比較することによって改善することができ、各々は、異なる色で蛍光を示すことが知られている。その蛍光は広く解釈されるべきであり、この場合、りん光も含む。
【0023】
また、材料において誘発される応力及び/又は歪みの測定は、試料キャリアの温度の指標であってよい。そのような温度によって誘発される応力及び歪みは、塑性変形又は結晶変化の結果であり得る。応力は、例えば、回折パターンなどから導かれる。
【0024】
荷電粒子のビームが、試料キャリアによって遮断されるとき、ポテンシャルが、そのビームを遮断する試料キャリアの一部分に導入される。このポテンシャルを観測することによって、その導電性に関する情報を集めることが出来る。よく知られているように、材料の抵抗性は、特に位相変化が起こるときに、かなり温度に依存することがある。よく知られている例は、臨界温度の下の温度における超導電性の始まりである。そのようなポテンシャルは、そのポテンシャルが導入する荷電粒子の通過するビームの偏向によって観測することが出来ることが述べられている。
【0025】
いくつかの上述の場合において、試料キャリアが、臨界温度よりも上又は下の温度(例えば、位相変化が起こる温度)を有するか否かが決定されるだけであり、他の場合では、例えば、二元金属の湾曲を決定するときなど、似ているか又はより段階的な表現を得ることが出来ることが述べられる。
【0026】
本発明は、ここで、対応する部分が、対応する参照符号を使用して示されている図を使用して解明される。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】TEMにおける使用に対する試料キャリアを概略的に示す図である。
【図2】図2a及び2bは、図1に示される試料キャリアの詳細を概略的に示す図である。
【図3】本発明に従って、試料キャリアを概略的に示し、結晶部分を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【実施例】
【0028】
図1は、TEMにおける使用に対する典型的な試料キャリアを示す。その「グリッド」としても知られる試料キャリアは、通常、20μmと30μmの間の厚さを持つ銅はくで作成されているが、6μmほども小さい厚さを持つグリッドも入手可能である。そのグリッドは、3.05mmの外径を有する。それは、サンプルを覆うことができる多数の開口部を示す。それらのグリッドは、約2 bars/mm(1インチ毎に50ライン)から約400 bars/mm(1インチ毎に2000ライン)までの範囲に及ぶ多様なメッシュにおいて使用可能である。図1は、水平及び垂直なバーが交差する交点102を持つグリッドを示す。銅はくは、最も一般的であるが、金めっきした銅グリッドも知られており、ニッケル、金、銅/パラジウム、ナイロン、及びカーボングリッド、及びカーボンフォイル又はSiNの層を開口部上に持つ(サンプルの余分な支持のために)銅グリッド、及び長方形又は六角形メッシュなど非正方形メッシュなども同様である。
【0029】
図2aは、図1に示される交点102を概略的に示す。そのグリッドは、ここでは、銅グリッドをニッケルでめっきするなど、基材の熱膨張係数とは異なる熱膨張係数を持つ材料でめっきされる。最後に、バー202と垂直バーとの間の接続部204が除去され、独立のバーは、領域206を除去することによって2つに分割される。結果として、2つの歯を持つ突起部が形成される。
【0030】
図2bは、コーティング208で基材をコーティングし、領域204及び206を引き伸ばした後に形成された突起部を概略的に示す。その突起部の2つの歯210a及び210bは、2つの向かい合う側が主に基材で作成され、他の側はめっき材料だけを示すことから、方向AA’において反対称的である。それらの歯は、従って、反対方向においてラインAA’に沿って湾曲している二元金属である。結果として、その2つの歯の間の距離は、温度がその基材(例えば、銅)とコーティング材料(例えば、ニッケル)との間の熱膨張差によって変わるときに変化する。
【0031】
メッシュの方向において、それらの歯は、その基材の両側が他の材料で覆われていることから安定しており、従って、そのメッシュの平面の外側には、如何なる合力も形成されない。領域204及び206を引き伸ばすことは、集束されたイオンビームでテスト版において実行されたが、レーザー切断などの他の製造方法も構想される。また、機械的カッティングも、特に処理部分204に対して可能である。
【0032】
図3は、試料キャリアを本発明に従って概略的に示し、TEMにおいて検査されるとき透明である結晶部分301を示す。その結晶部分は、対象の温度範囲において1つ又はそれ以上の位相変化を示す材料から形成される。例としてSrTiO3、ぺロブスカイトを使用することができ、それらは105Kで位相転移を示す。この温度の上では、立方晶構造を示し、その温度の下では、正方構造を示す。
【0033】
部分301は、自身で支持することができるが、カーボン膜又は薄い半導体膜などの薄膜上であってもよい。後者の場合、回折パターンが、その半導体およびぺロブスカイトの重なりを示すことが知られている。
【0034】
TEM又はSTEMに記録される回折パターンは、通常、結晶構造を決定するために使用されるが、SEMにおいて菊池線(Kikuchi line)を決定するなどの他の技術も使用することができる。菊池線を決定することの利点は、結晶は電子に対して透明である必要がないことであり、それは、これが電子の反射に頼るからである。
【0035】
実施形態は、低温を使用して本発明を考察するが、本発明は、室内温度又はそれよりも上の温度での使用にも同等に適している。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
荷電粒子光学装置において試料キャリアの温度を決定する方法であり、荷電粒子のビームを用いて該試料キャリアを観測するステップを含み、該観測は、該試料キャリアの温度に関する情報を与える、ことを特徴とする方法。
【請求項2】
前記観測は、前記試料キャリアの2つの部分の相対的位置の情報をもたらし、該相対的位置は、1つ以上の固体の熱膨張又は収縮の結果として温度依存性である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記試料キャリアの一部分は、異なる膨張係数を持つ少なくとも2つの材料で構成され、その結果として前記一部分は、温度依存性変形を示す、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記試料キャリアの一部分は、少なくとも2つの金属で構成され、二元金属の細長い一片として機能する、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
請求項1に記載の方法であり、前記試料キャリアは、対象の温度範囲において1つ以上の位相転移又は分離を示す結晶部分を含み、前記観測は、前記試料キャリアの結晶部分の位相又は位相分離の情報をもたらす、方法。
【請求項6】
請求項1に記載の方法であり、前記観測が発光の観測を含み、該発光は、荷電粒子を持つ前記試料キャリアの少なくとも一部分を照射することによって誘発され、前記観測は、該発光の色及び/又は減衰期間に関する情報をもたらし、該色及び/又は減衰期間は、温度依存性である、方法。
【請求項7】
前記試料キャリアは、異なる色で蛍光を示す2つの蛍光体を含む請求項6に記載の方法であり、前記色の光度及び/又は各色に関連する減衰期間の比は、温度依存性であり、前記2つの蛍光体又は2つ以上の蛍光体の光度又は減衰期間を比較するステップを含む、方法。
【請求項8】
請求項1に記載の方法であり、前記観測は、前記試料キャリアの一部分によって荷電粒子のビームの偏向を観測するステップを含み、該試料キャリアの一部分は、荷電粒子での照射の結果としてポテンシャルを有し、従って、該試料キャリアの材料の抵抗性に関する情報を与える、方法。
【請求項9】
前記観測は、前記試料キャリアの少なくとも一部分の材料において誘発された歪みに関する情報を与える、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
前記歪みは、透過型電子顕微鏡又は走査型透過電子顕微鏡において回折パターンを使用して決定される、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記温度測定は、前記試料が所定の温度の上又は下の温度を有するかの測定である、請求項1乃至10のいずれか1項に記載の方法。
【請求項12】
前記所定の温度は、試料ホルダの2つの部分の基準位置又は該試料ホルダの一部分の位相転移によって決定される、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
請求項2乃至4のいずれか1項に記載の方法を実施するための試料キャリアであり、前記試料ホルダは、異なる膨張係数を持つ少なくとも2つの材料で構成された少なくとも1つの独立した細長い一片を示し、その結果、該細長い一片は異なる温度に対して異なる形状を示す、ことを特徴とする、試料キャリア。
【請求項14】
結晶部分を示す試料キャリアであり、該結晶部分は、対象の温度範囲において1つ又はそれ以上の位相変化を示す、試料キャリア。

【図1】
image rotate

【図2a】
image rotate

【図2b】
image rotate

【図3】
image rotate


【公開番号】特開2012−114087(P2012−114087A)
【公開日】平成24年6月14日(2012.6.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−248867(P2011−248867)
【出願日】平成23年11月14日(2011.11.14)
【出願人】(501233536)エフ イー アイ カンパニ (87)
【氏名又は名称原語表記】FEI COMPANY
【住所又は居所原語表記】7451 NW Evergreen Parkway, Hillsboro, OR 97124−5830 USA
【Fターム(参考)】