説明

荷電粒子線の軸合わせ方法及び荷電粒子線装置

【課題】少なくとも三段の多極子に対する荷電粒子線の軸合わせ方法、及び当該軸合わせが可能な荷電粒子線装置を提供する。
【解決手段】少なくとも3つの非点場を発生し、隣接する前記非点場の軸ずれによる同次数且つ同種の非点収差が相殺されるように、各前記荷電粒子線の軌道および各前記非点場の分布のうちの少なくとも1つの群内のそれぞれを、前記光軸に垂直な方向に沿って同時に平行移動する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、少なくとも三段の多極子に対する荷電粒子線の軸合わせ方法及び当該軸合わせが可能な荷電粒子線装置に関する。
【背景技術】
【0002】
透過電子顕微鏡(TEM)や走査透過電子顕微鏡(STEM)等の荷電粒子線装置において、収差補正は高い空間分解能を得るための必須の技術である。特に、軸対称レンズである対物レンズが生じる正の球面収差は空間分解能を制限する典型的な要因である。
現在、この正の球面収差は、六極子等によって生じる負の球面収差を用いて補正できることが広く知られている。六極子は二次の収差である三回非点収差を発生するが、非特許文献1、2の球面収差補正装置では、この六極子を二段配置して、互いの三回非点収差を相殺している。
【0003】
上述の収差補正技術は基本的に三次の球面収差補正である。四次の収差までの補正は軸合わせにより可能である光学系となっているが、しかしながら、更に高次の収差に対する補正は完全にはできない。例えば、五次の球面収差は対物レンズと収差補正装置の距離を光学的に制御すれば補正できる。一方、同次数(五次)の非点収差(即ち六回非点収差)の補正は実現できていない。そのため、二段六極子型球面収差補正装置においては、六回非点収差が、三次の球面収差が補正された後に残る空間分解能の制限要因となる主要な収差である。六回非点収差が補正出来ない場合には、更なる空間分解能の向上が期待できない。
【0004】
このため、特許文献1の収差補正器は三段の三回場を用いて六回非点収差を補正している。この収差補正器では、前段の多極子が生じる三回対称場に対して、中段と後段の多極子が生じる三回対称場を光軸に垂直な面内で、それぞれ特定の回転関係に分布させている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2009−054565号公報
【特許文献2】特開2008−123999号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】H. Rose, Optik, vol. 85 (1990) pp.19-24
【非特許文献2】H. Haider et al., Nature, vol.392 (1998) pp. 768-769
【非特許文献3】H. Sawada et al., Journal of Electron Microscopy, vol. 58 (2009) pp. 341-347
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
多極子に対する電子線の軸合わせでは、偏向器等を用いて電子線を偏向するのが一般的である。結像系収差補正装置の場合、電子線を試料に対して傾斜させて撮影したアモルファス試料の像のフーリエ変換図形を取得することにより、多極子を有する収差補正装置の残留収差を把握しながら、この軸あわせの偏向は行われる。照射系収差補正装置の場合、Ronchigramと呼ばれる図形(試料上に電子線を収束させ、その像を回折面で観察した図形)の歪みの変化を確認しつつ、所望の形状の回折図形が得られるまで続けられる。二段の多極子の場合、現れる収差の出所が容易に特定できるので、両者の多極子に対する電子線の軸合わせは比較的容易である。
【0008】
ところが、三段以上の多極子に対する軸合わせの場合、初段の多極子に対する軸合わせによって新たな収差が生じたとすると、この収差の原因が中段、後段の多極子の何れにあるのか、その特定は非常に困難となる。更に多極子の段数が増えると、その困難性は飛躍的に増加する。従って、軸合わせに多大な時間が費やされることになる。
本発明は上記の問題を解決するための成されたものであり、少なくとも三段の多極子に対する荷電粒子線の軸合わせ方法、及び当該軸合わせが可能な荷電粒子線装置の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の第1の態様は荷電粒子線装置における荷電粒子線の軸合わせ方法であって、少なくとも3つの非点場を発生し、隣接する前記非点場の軸ずれによる同次数且つ同種の非点収差が相殺されるように、各前記荷電粒子線の軌道および各前記非点場の分布のうちの少なくとも1つの群内のそれぞれを、前記光軸に垂直な方向に沿って同時に移動することを要旨とする。
【0010】
本発明の第2の態様は荷電粒子線装置における荷電粒子線の軸合わせ方法であって、少なくとも3つの三回非点場を発生し、各前記三回非点場上の面をその下流の非点場に等価な面として転送するための一対の転送レンズ(二枚の回転対称レンズ場)を各前記非点場間に発生し、各前記三回非点場に対して荷電粒子線に対して第1の軸あわせを同時に行うことを要旨とする。
【0011】
本発明の第3の態様は、荷電粒子線装置における荷電粒子線の軸合わせ方法であって、3つの三回非点場を発生し、各前記三回非点場が存在する多極子面をその下流の多極子面に転送するための一対の転送レンズを各前記多極子場間に有し、各前記三回非点場による三回非点収差の総和を常に0とした状態で、各三回非点場の強度を同時に変更することを要旨とする。また、前記3つの三回非点場のうち、最上流及び最下流に位置する各三回非点場の位相角差は(70.5/3)°であることが好ましい。
【0012】
本発明の第4の態様は荷電粒子線装置であって、非点場を発生する少なくとも3段の多極子と、各前記多極子の間に設置される偏向器とを備え、各前記偏向器は、隣接する前記多極子の軸ずれによる同次数且つ同種の非点収差が相殺されるように、各前記荷電粒子線の軌道を前記光軸に垂直な方向に沿って同時に平行移動させることを要旨とする。
本発明の第5の態様は荷電粒子線装置であって、非点場を発生する少なくとも3段の多極子と、前記少なくとも3段の多極子のそれぞれを個別に、且つ光軸に対して垂直な方向に平行移動させる移動装置とを備え、前記移動装置は、隣接する前記多極子の軸ずれによる同次数且つ同種の非点収差が相殺されるように、各前記多極子の前記平行移動を同時に行うことを要旨とする。
【0013】
本発明の第6の態様は荷電粒子線装置であって、非点場を発生する少なくとも3段の多極子と、各前記多極子の間に設けられ、各前記多極子によって形成される面と等価な面をその下流の多極子に転送するための一対の回転対称場を発生する一対の転送レンズと、前記多極子の群及び前記一対の転送レンズの群のうち、少なくとも1つの群のそれぞれを個別に、且つ光軸に対して垂直な方向に平行移動させる移動装置とを備え、前記移動装置は、隣接する前記多極子の軸ずれによる同次数且つ同種の非点収差が相殺されるように前記平行移動を同時に行うことを要旨とする。
【0014】
本発明の第7の態様は荷電粒子線装置であって、三回非点場を発生する少なくとも3段の多極子と、各前記多極子の間に設けられ、各前記多極子によって形成される面と等価な面をその下流の多極子に転送するための一対の回転対称場を発生する一対の転送レンズと、前記一対の転送レンズの間に設置される第1の偏向器とを備え、前記第1の偏向器は、荷電粒子線を光軸に対して斜入射させる偏向を同時に行うことを要旨とする。
【0015】
本発明の第8の態様は荷電粒子線装置であって、三回非点場を発生する3段の多極子と、各前記多極子の上流側に設置される第1の偏向器と、各前記第1の偏向器の上流側および下流側に設けられ、各前記多極子によって形成される面と等価な面をその下流の多極子に転送するための一対の回転対称場を発生する一対の転送レンズとを備え、各前記多極子は、各前記三回非点場による三回非点収差の総和を常に0とした状態で、各三回非点場の強度を同時に変更することを要旨とする。また、前記三段の多極子のうち、最上流及び最下流に位置する多極子による三回非点場の位相角差は(70.5/3)°であることが好ましい。
【発明の効果】
【0016】
各非点場に入射する荷電粒子線の軌道、或いは荷電粒子線に対する各非点場又は各一対の回転対称場を同時に制御することによって、特定の収差のみに着目した軸合わせが可能になる。換言すれば、上記の各軌道、各非点場、或いは各一対の回転対称場を個別に制御する際に生じる特定の収差以外の収差が現れないので、軸合わせが簡便になる。操作者の負担が減り、観察時間の短縮化に寄与できる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の第1実施形態に係る荷電粒子線の軸合わせ方法の原理を説明するための図である。
【図2】本発明の第1乃至第3実施形態に係る収差補正器の概略構成図である。
【図3】本発明の各実施形態に係る荷電粒子線装置の一例を示す概略構成図である。
【図4】本発明の各実施形態に係る荷電粒子線装置の一例を示す概略構成図である。
【図5】本発明の第4実施形態に係る収差補正器の概略構成図である。
【図6】本発明の第5実施形態に係る収差補正器の概略構成図である。
【図7】本発明の第6実施形態に係る収差補正器における三回非点収差の相対関係及び変化を示す図であり、(a)はその一例、(b)は(a)の三回非点収差を変化させたとき一例である。
【図8】本発明の第6実施形態に係る収差補正器における三回非点収差の相対関係及び変化を示す図であり、(a)はその一例、(b)は(a)の三回非点収差を変化させたとき一例である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
(第1実施形態)
本発明の第1実施形態に係る荷電粒子線の軸合わせ方法についてその原理と併せて説明する。
【0019】
まず、本実施形態に対する比較例として、図1に示す二段の多極子111、112を備えた収差補正器100を想定する。この収差補正器100では、光軸OPに沿って多極子111、112が一列に配列される。各多極子111、112は、N回非点場(Nは整数)を発生する。ただし、説明の便宜上、N=3とする。なお、N回非点場とは、多極子の回転対称軸の周りで、生成された場の強度がN回の周期で変化する場を意味する。
【0020】
各多極子111、112は六極子または十二極子等で構成されるのが好適であるが、極数に制限はない。生成される三回非点場は静電場、静磁場、又はこれらの重畳場の何れかである。
【0021】
多極子111、112は光軸OPに沿った厚みtを有する。各多極子が生成する三回非点場はその多極子によって生成される場のプライマリー項と称される。一般的に多極子は、僅かであるがプライマリー項以外の高次項による場が発生する。通常の厚みを持たない(所謂「薄い」) 多極子においては、プライマリー項以外の高次項による場は多極子の使用目的に対して無視されるか又は単なる寄生要因に過ぎない。しかし、多極子の厚みを増していくと、プライマリー項以外の高次項による効果が現れ、この効果を色収差補正に用いることができる。即ち、光軸OPに沿った厚みtを有する多極子とは、プライマリー項以外の色収差補正に適用可能な高次項による場を生成する多極子である。なお、厚みtは多極子毎に異なってもよい。
【0022】
多極子112の下流には、対物レンズ114が設置される。多極子111と多極子112の間及び多極子112と対物レンズ114の間には、それぞれ、2つの軸対称レンズからなる一対の転送レンズ(トランスファーレンズ)115が設置される。この転送レンズ1115は、多極子111、112のそれぞれが形成する面と等価な面(即ち、倍率1倍の面)を下流の多極子112及び対物レンズ114のコマフリー面に転送(投影)する。
【0023】
また、一対の転送レンズ115の間には偏向器116が設置される。偏向器116は、例えば図1に示すように二段設置され、光軸OPに対して垂直で且つ互いに垂直な二方向に向かって荷電粒子線としての電子線120を偏向させる。また、偏向器116は電子線120を平行移動するように偏向する。なお、偏向は磁場、電場の何れかを用いる。
【0024】
一般的に、2つのN回非点場の軸ずれ収差は(N−1)非点収差である。即ち、上記の構成において2つの三回非点場に軸ずれが生じたとすると、二回非点収差が新たに発生する。二回非点収差は試料面118上で確認でき、多極子111と112の間の偏向器116による電子線120の平行移動によって、この二回非点収差を除去することができる。また、この収差を除去することによって、電子線120は各多極子111、112の回転対称軸上を通過するため、軸合わせが完了する。
【0025】
次に、三段の多極子に対する軸合わせ方法について図2を参照して説明する。図2に示すように、収差補正器10は、少なくとも三段の多極子11、12、13と、各多極子11、12、13の間、及び多極子13と対物レンズ14の間のそれぞれに設置された一対の転送レンズ15、15、15及び、各一対の転送レンズ16の間に位置する偏向器16が設置される。なお、各多極子11、12、13、各一対の転送レンズ15、及び各偏向器16の構成・機能については、図1で示した多極子111(112)、一対の転送レンズ115、偏向器116と同一であるので、その説明を割愛する。
【0026】
上述の通り、三回非点場の軸ずれ収差は二回非点収差である。多極子11と多極子12との間、及び多極子12と多極子13との間で軸ずれ収差が生じた場合、これら軸ずれ収差の結合による収差が試料面18上に現れる。
【0027】
しかしながら、図1に示す二段の多極子111、112と比較して、三段の多極子11、12、13では2つの同次数且つ同種の軸ずれ収差(即ち、2つの二回非点収差)が発生している。しかも、これらの軸ずれ収差のうちのどちらが、多極子11、12(又は多極子12、13)が生成した2つの三回非点場の軸ずれによるものであるかを区別できない。これらを除去するために多極子12に入射する電子線20を調整し、その後多極子13に入射する電子線20を調整することが考えられるが、最初の調整によって試料面18上で新たな他の収差が軸ずれ収差に重畳される場合が多く、二回非点収差を特定しつつ、これを除去するのは困難となる。
【0028】
そこで、本実施形態では2つの二回非点収差の結合によって生じる光学的作用を利用して、各多極子12、13、14間の電子線を同時に操作する。特許文献2で述べているように2つの二回非点場が生じている場合、二回非点と軸対称な発散が発生する。後者の発散は所謂凹レンズの作用である。また、これらの作用は二回非点場に限られず、本実施形態で例示する2つの三回非点場の軸ずれや他の2つのN回非点場(N=整数)の軸ずれでも得られる。
【0029】
換言すると、上述の凹レンズ作用は、2つの二回非点場の各回転対称軸上を電子線20が通過するとき、二回非点と同時に消失する。この場合、対物レンズの凸レンズ作用を減じる凹レンズ作用が無くなるので、試料面18付近における電子線のフォーカスは最もオーバーフォーカスになる。つまり、図2に示す三段の多極子11、12、13の場合、多極子11、12の軸ずれによって生じた二回非点収差と多極子12、13の軸ずれによって生じた二回非点収差とを相殺するべく、多極子12と多極子13に対して電子線20を同時に平行移動させ、多極子13から出射した電子線20が試料面18の周辺で最もオーバーフォーカスになった時点でこの操作を停止すると、電子線20は各多極子11、12、13の回転対称軸上を通過し、軸合わせが達成されることになる。
【0030】
多極子が四段以上の場合も上記と同様の操作を行う。即ち、現れた各二回非点を相殺するべく各多極子に入射する電子線を同時に平行移動させ、最もオーバーフォーカスになった状態で、各平行移動を停止する。
【0031】
次に、本発明の第1実施形態に係る荷電粒子線装置について図3及び図4を参照して説明する。
【0032】
図3は本発明の各実施形態に係る荷電粒子線装置30の一例を概略的に示したものである。荷電粒子線装置30は例えば透過電子顕微鏡であり、電子銃31と、第1集束レンズ32と、上述の収差補正器10と、第2集束レンズ33と、試料ステージ(試料室)が設置された対物レンズ14と、中間レンズ及び投影レンズ34と、観察室35と、上記光学系への電圧又は電流を印加して、鏡筒内の電子線を制御する電源部36と備える。なお、第1集束レンズ32や第2集束レンズ33の周囲にはこれらに伴う非点収差を補正する収差補正器や軸合わせ用の偏向器を適宜設置してもよい。
【0033】
また、荷電粒子線装置30は制御装置37を備える。制御装置37は、電源部36を制御し、第1及び第2集束レンズ32、33や収差補正器10等の上記光学系の印加電圧及び印加電流を設定する。これらの設定値には、制御装置37内の記憶部(図示せず)に記憶されたデータが用いられるか、操作者等が制御装置37の入力部に入力した値が用いられる。また、制御装置37は、観察室35にて得られた観察像の表示などを行う。
【0034】
電子銃31は、印加された電圧値及び電流値に基づいて電子線(図示せず)を発生する。電子銃31には数kVから数百kVの高電圧が印加されており、放出された電子線(図示せず)は下流の第1集束レンズ32に向かって所望のエネルギーに加速される。電子線は第1集束レンズ32によって集束し、収差補正器10によって非点収差などが除去され、第2集束レンズ33によって再び集束する。なお、第1集束レンズ32及び第2集束レンズ33の上流側及び下流側に非点収差補正子、偏向器、絞りなどが適宜設置される。
【0035】
収差補正器10を経た後、対物レンズ14において電子線は更に集束され、試料ステージ上の試料に照射される。試料を透過した電子線は中間・投影レンズ34によって拡大され、観察室35の蛍光板(図示せず)に入射する。この蛍光板に投影された試料像(実空間像や回折像など)は、CCDカメラ等の撮像装置(図示せず)によって撮像され、制御装置37に画像データとして出力される。
【0036】
図4は本発明の各実施形態に係る荷電粒子線装置30の他の例を概略的に示したものである。図4の荷電粒子線装置30’透過電子顕微鏡であり、その構成は図3の荷電粒子線装置30と同様である。ただし、収差補正器10が対物レンズ14と中間・投影レンズ34の間に設置されている点が図3の荷電粒子線装置30と異なっている。即ち、収差補正器10による収差補正は、試料を通過した後の電子線に対して行われる。
【0037】
次に、上記の収差補正器10を用いた本実施形態に係る電子線の軸合わせについて図2乃至図4を参照して説明する。まず、制御装置37は各多極子11、12、13を制御して、三回非点場を発生させる。次に、制御装置37は偏向器16、16、16を制御して、各多極子12、13に対して所定の入射角で入射するように電子線20を偏向する。この所定の入射角は、例えば90°、即ち、光軸OPに対して平行となる角度である。
【0038】
次に、制御装置37は偏向器16、16、16を制御して、多極子11と多極子12の軸ずれによる二回非点と多極子12と多極子13の軸ずれによる二回非点とが相殺されるように、各多極子12、13に入射する電子線20を同時に、光軸OPに対して垂直な方向に平行移動させる。平行移動のため、多極子12及び多極子13に対する電子線20の各入射角は変わらない。制御装置37は、この平行移動中に試料面18のフォーカスを確認し、最もオーバーフォーカスとなった時点で、各平行移動を停止する。このオーバーフォーカスは、例えば観察像に対して既知の画像処理を行うなどして、確認することができる。
【0039】
試料上で電子線20が最もオーバーフォーカスになった時、二回非点が完全に除去され、各多極子11、12、13の回転対称軸上を電子線20が通過する状態となる。
【0040】
(第2実施形態)
本発明の第2実施形態に係る荷電粒子線の軸合わせ方法及び荷電粒子線装置について説明する。
【0041】
本実施形態に係る荷電粒子線装置は、第1実施形態の制御装置37における電子線20の制御が異なるだけで、その他の構成については第1実施形態と同一である。従って、制御装置37が行う制御について述べ、その他に構成については第1実施形態を援用することで説明を割愛する。
【0042】
第1実施形態の軸合わせ方法では、複数の二回非点を相殺するような電子線の平行移動を行い、平行移動中のフォーカスの変化から軸合わせが達成されたか否かを確認した。一方、本実施形態では、2つの隣接する三回非点場によって生じる高次収差としての六回非点収差に着目する。以下に示すように、三回非点場を生成する各多極子11、12、13が軸ずれを生じたとき、多極子11と多極子12との間及び多極子12と多極子13との間のそれぞれで生じる六回非点収差から五回非点収差が発生する。
【0043】
五回非点収差の発生について図1を参照して説明する。各多極子111、112の光軸OPに沿った厚みをt、対物レンズ114の焦点距離をf、多極子111、112と対物レンズ114との倍率をMとすると、六回非点収差A6は次の式(1)で表される(非特許文献3参照)。
【0044】
【数1】

ここで、
【0045】
【数2】

は、各多極子111、112において発生する単位長さ当りの三回非点収差である。
次に、図2に示すように、多極子11、12、13を光軸に沿って三段配置した場合を想定する。各多極子11、12、13は上述と同様に、三回非点場を生成する。なお、上述の通り、図2の対物レンズ14は図1の対物レンズ114と同一である。
【0046】
図2に示す光学系において各多極子に軸ずれが生じたとき、隣接する二段の多極子、即ち、多極子11と多極子12、及び多極子12と多極子13のそれぞれが六回非点収差A6を発生する。このとき、これらの六回非点収差A6が軸ずれTを起こしているとすると、その波面収差は次の式(2)で表される。
【0047】
【数3】

ここで、ωは複素角である。式(2)右辺の第2項に着目すると、複素角ωの5乗を含んでおり、五回非点収差を表していることが分かる。この項は恒等的に、
【0048】
【数4】

に等しいので、式(2)右辺の第2項は、
【0049】
【数5】

の量だけ、五回非点収差が発生していることを意味する。つまり、三段の多極子11、12、13のうち、隣接する多極子からなる二対の多極子のそれぞれが発生する2つの六回非点収差に軸ずれTが起きると、上述の五回非点収差が発生する。従って、試料面18上で軸ずれ収差としての五回非点収差が無くなった場合、電子線20は各多極子11、12、13の中心軸(回転対称軸)上を通過していることになる。
【0050】
また、軸ずれ収差は基本的に、隣接する2つの三回非点場が軸ずれを伴って複数存在することで生じていることから、多極子(三回非点場)の数は3に限られない。例えば、四段の多極子を配列した場合には、3つの六回非点収差の互いの軸ずれによる五回非点収差が発生する。従って、この場合にも上記と同様に、試料上で五回非点収差が無くなった場合、荷電粒子線は各多極子の中心軸上を通過していることになる。
【0051】
次に、本実施形態に係る電子線の軸合わせについて説明する。まず、制御装置37は各多極子11、12、13を制御して、三回非点場を発生させる。次に、制御装置37は各多極子間の偏向器16、16を制御して、各多極子に対して所定の角度で入射するように電子線20を偏向する。この所定の角度は、例えば90°、即ち、光軸OPに対して平行となる角度である。
【0052】
次に、制御装置37は各多極子間の偏向器16、16を制御して、多極子11と多極子12の軸ずれによる二回非点と多極子12と多極子13の軸ずれによる二回非点とが相殺されるように、各多極子12、13に入射する電子線20を同時に、光軸OPに対して垂直な方向に平行移動させる。平行移動のため、多極子12及び多極子13に対する電子線20の各入射角は変わらない。制御装置37は、この平行移動中に試料面18に現れる五回非点収差を確認し、この五回非点収差が消滅した時点で、各平行移動を停止する。この五回非点収差は、例えば観察像に対して既知の画像処理を行うなどして、確認することができる。
【0053】
試料面18上での五回非点収差が消滅した場合、各多極子11、12、13の回転対称軸上を電子線20が通過している状態になる。
【0054】
(第3実施形態)
次に、本発明の第3実施形態に係る荷電粒子線の軸合わせ方法及び荷電粒子線装置について説明する。
【0055】
本実施形態に係る荷電粒子線装置は、第1及び第2実施形態の荷電粒子線装置30(30’)の構成に加えて、各多極子11、12、13または少なくとも各多極子間の一対の転送レンズ15、15を移動する移動装置19を備える。これに伴い、制御装置37は更に移動装置19による移動を制御する。その他の構成については第1及び第2実施形態と同一であるので、移動装置19及び制御装置37による制御について述べ、その他の 構成については第1及び第2実施形態を援用することで説明を割愛する。
【0056】
移動装置19は、例えば、荷電粒子線装置30(30’)の鏡筒(図示せず)に設置され、光軸OPに垂直な二方向に各多極子11、12、13又は少なくとも各多極子間の二対の転送レンズ15、15を独立に移動させるマニピュレータである。
【0057】
第1及び第2実施形態では、各多極子11、12、13間に生じた二回非点収差を相殺するために電子線20を平行移動させた。本実施形態では、電子線20を平行移動させる代わりに、移動装置19を用いて、二回非点収差が相殺されるように各多極子11、12、13を独立に且つ同時に移動させる。各多極子11、12、13の移動方向は光軸OPに対して垂直である。或いは、移動装置は各多極子間の一対の転送レンズ15、15を独立に且つ同時に移動させてもよい。この場合も、各転送レンズ15、15の移動方向は光軸OPに対して垂直である。
【0058】
制御装置37は各多極子11、12、13を制御して、三回非点場を発生させる。次に、制御装置37は偏向器16、16を制御して、各多極子に対して所定の角度で入射するように電子線20を偏向する。この所定の角度は、例えば90°、即ち、光軸OPに対して平行となる角度である。
【0059】
次に、制御装置37は、移動装置19を制御して、多極子11と多極子12の軸ずれによる二回非点と多極子12と多極子13の軸ずれによる二回非点とが相殺されるように、各多極子11、12、13を独立且つ同時に平行移動させる。平行移動のため、多極子12及び多極子13に対する電子線20の各入射角は変わらない。制御装置37は、この平行移動中に試料面18に現れるフォーカス又は五回非点収差を確認し、最もオーバーフォーカスとなった時点又は五回非点収差が消滅した時点で、各平行移動を停止する。
【0060】
第1及び第2実施形態で述べたように、試料面18上で最もオーバーフォーカスとなるか、五回非点収差が消滅した場合、二回非点が完全に除去され、各多極子11、12、13の回転対称軸上を電子線20が通過している状態になる。
【0061】
このように、第1乃至第3実施形態に係る軸合わせ方法及び荷電粒子線装置では、各多極子間の電子線、各多極子、各一対の転送レンズの何れかの同時平行移動によるフォーカス又は五回非点収差の変化を用いる。また、平行移動は各多極子間に生じる軸ずれ収差としての二回非点を相殺するように行うので、多極子の段数に関係なくフォーカス又は五回非点収差のみに着目した軸合わせが可能になる。従って、軸合わせの操作が簡便になり、観察時間の短縮化に寄与できる。また、荷電粒子線装置の操作時間も短縮化されることから、操作者の負担を減らすことができる。
【0062】
なお、収差補正器10は、中間・投影レンズ等によって構成される結像光学系に設置してもよく、上記結像光学系と第1集束レンズ等によって構成される照射光学系の両方に設置してもよい。何れの場合も上記の効果が得られる。
【0063】
(第4実施形態)
本発明の第4実施形態に係る荷電粒子線の軸合わせ方法及び荷電粒子線装置について説明する。
【0064】
本実施形態に係る荷電粒子線装置は、第1実施形態の収差補正器10の代わりに図5に示す収差補正器40を設置したものである。従って、収差補正器40を設置した点と制御装置37による電子線20の制御が異なるだけで、その他は第1実施形態の荷電粒子線装置30(30’)と同一である。以下、収差補正器40及び制御装置37が行う制御について述べ、その他に構成については第1実施形態を援用することで説明を割愛する。
【0065】
図5に示すように、第4実施形態に係る収差補正器40は、少なくとも三段の多極子41、42、43と、最前段に位置する多極子41の上流側に設置された軸対称レンズである集束レンズ51と、各多極子41、42、43の下流側に設置された二段の軸対称レンズからなる一対の転送レンズ45、45、45と、集束レンズ51の上流側及び各一対の転送レンズの間のそれぞれに設置された偏向器46、47、48、49とを備える。各多極子41、42、43は三回非点場を生成し、その構造は第1実施形態で述べた多極子11(12、13)と同一である。また、各一対の転送レンズ45、45、45、各偏向器46〜49の構造は、それぞれ第1実施形態で述べた一対の転送レンズ15、偏向器16と同一である。
【0066】
集束レンズ51は、その上流側に位置する偏向器46によって偏向された電子線20を多極子41に向かって集束するためのものである。
【0067】
本実施形態では以下に示す第1の偏向としての偏向(1)〜(3)と第2の偏向としての偏向(4)とを同時に行うことによって、四回非点収差の補正と共に軸合わせが達成される。なお、以下の角度θ1〜θ4は光軸OPと電子線20が成す角度であり、図5上で反時計回りを正とする。
【0068】
(1)図5に示すように、制御装置37は偏向器46を制御して、光軸OP上を伝播する電子線20を一旦光軸OPから離脱する角度θ1に偏向させ、その後、電子線20を光軸OPに接近する角度−θ2に偏向させて多極子41に斜入射させる。
【0069】
(2)制御装置37は偏向器47を制御して、多極子41から−θ2の角度で出射した電子線20を光軸OPに接近する角度θ3に偏向させて多極子42に斜入射させる。
【0070】
(3)制御装置37は偏向器48を制御して、多極子42からθ3の角度で出射した電子線20を光軸OPに接近する角度−θ4に偏向させて多極子43に斜入射させる。
【0071】
(4)制御装置37は偏向器49を制御して、多極子43から−θ4の角度で出射した電子線20を偏向させ、光軸OP上に伝播させる。
ここで角度θ1〜θ4は、他の一次、二次、三次収差が発生されないように同時に変化させる。
【0072】
上記一連の偏向(1)〜(4)を同時に行っている間は試料面18上の四回非点収差のみが変化する。この四回非点収差が消滅した時点で各偏向を停止した場合、光軸OPに沿った各多極子41、42、43の中央Pを電子線20が通過する。即ち、四回非点収差の補正と各多極子41、42、43に対する電子線20の軸合わせが達成されたことになる。
【0073】
なお、上記角度θ1〜θ4の組み合わせにおいて角度の正負は逆でもよい。例えば、偏向(1)において、電子線20を角度−θ1に偏向させた場合、その後の偏向角はθ2となる。
【0074】
第1実施形態でも述べたように、三段以上の多極子のそれぞれに対して入射する電子線を個別に操作すると、多様な収差が試料面18上で出現する。このため、軸合わせに用いる収差の特定が困難になり、調整が長期化する。本実施形態では、各多極子に入射する電子線の同時偏向による四回非点収差の変化を用いた軸合わせを行うため、軸合わせが達成されているか否かの判断は容易となる。従って、軸合わせの操作が簡便になり、観察時間の短縮化に寄与できる。また、荷電粒子線装置の操作時間も短縮化されることから、操作者の負担を減らすことができる。
【0075】
なお、説明の便宜上、三段の多極子を配置した例を挙げて本実施形態を説明したが、多極子の数は三段に限られず、四段以上の多極子に対しても四回非点収差のみに着目した軸合わせが可能である。
【0076】
(第5実施形態)
本発明の第5実施形態に係る荷電粒子線の軸合わせ方法及び荷電粒子線装置について説明する。本実施形態では上述の第4実施形態で述べた電子線20の第1の偏向のうちの偏向(2)及び偏向(3)が、二つの多極子に対して電子線を平行移動する偏向(2’)及び偏向(3’)に置き換えられる。即ち、
(1)図6に示すように、制御装置37は偏向器46を制御して、光軸OP上を伝播する電子線20を一旦光軸OPから離脱する角度θ1に偏向させ、その後、電子線20を光軸OPに接近する角度−θ2に偏向させて多極子41に斜入射させる。
【0077】
(2’)制御装置37は偏向器47を制御して、多極子41から−θ2の角度で出射した電子線20を光軸OPに接近する角度θ3に偏向させ、且つ光軸OPに垂直な方向に電子線20を距離r3だけ平行移動させて多極子42に斜入射させる。
【0078】
(3’)制御装置37は偏向器48を制御して、多極子42からθ3の角度で出射した電子線20を光軸OPに接近する角度−θ4に偏向させ、且つ光軸OPに垂直な方向に電子線20を距離r4だけ平行移動させて多極子43に斜入射させる。
【0079】
(4)制御装置37は偏向器49を制御して、多極子43から−θ4の角度で出射した電子線20を偏向させ、光軸OP上に伝播させる。
【0080】
ここで角度θ1〜θ4及び距離r3、r4は、他の一次収差、二次収差、三次収差、四次収差が発生しないように設定し同時に変化させる。
【0081】
上記各偏向及び各平行移動を同時に行っている間は試料面18上の五回非点収差のみが変化する。この五回非点収差が消滅した時点で各偏向を停止した場合、光軸OPに沿った各多極子41、42、43の中央Pを電子線20が通過する。即ち、五回非点収差の補正と各多極子に対する電子線20の軸合わせが達成されたことになる。
【0082】
このように、第5実施形態に係る軸合わせ方法及び荷電粒子線装置では、各多極子に入射する電子線の同時偏向および平行移動による五回非点収差の変化を用いる。この偏向及び平行移動の同時操作により、五回非点収差のみが変化するので、軸合わせが達成されているか否かの判断は容易となる。従って第4実施形態と同様に、軸合わせの操作が簡便になり、観察時間の短縮化に寄与できる。また、荷電粒子線装置の操作時間も短縮化されることから、操作者の負担を減らすことができる。
【0083】
なお、説明の便宜上、三段の多極子を配置した例を挙げて本実施形態を説明したが、多極子の数は三段に限られず、四段以上の多極子に対しても四回非点収差のみに着目した軸合わせが可能である。
【0084】
また、本実施形態は、電子線20の進行方向を逆方向に設定して、上述の各偏向及び各平行移動を同時に行うことで軸合わせを達成できる。
【0085】
(第6実施形態)
本発明の第6実施形態に係る荷電粒子線の軸合わせ方法及び荷電粒子線装置について説明する。
【0086】
本実施形態に係る荷電粒子線装置の構成は、第4実施形態の荷電粒子線装置と同様である。ただし、第4実施形態と比較して、本実施形態では、各多極子41、42、43が発生する三回非点場の強度を同時に変更する点が異なる。本実施形態に係る荷電粒子線装置の構成については第4実施形態を援用することで説明を割愛し、制御装置37による各多極子41、42、43への制御について述べる。
【0087】
本実施形態に係る三段の多極子41、42、43(図5参照)は、それぞれ三回非点場を発生する例えば十二極子である。この光学系において、最上流側に位置する多極子(第1多極子)41、中間に位置する多極子(第2多極子)42、最下流の多極子(第3多極子)43が生成する三回非点収差を、それぞれA31、A32、A33とする。
【0088】
非特許文献3には、これら三回非点収差A31、A32、A33の何れか2つの和が相殺しない状態で、3つの総和が0になったとき、全体としての三回非点収差が0になることが述べられている。
【0089】
図7や図8は三回場のベクトル表記をしたものであるが、三回場のベクトル表記の場合、実際の光学的・物理的な多極子内の三回場の角度の回転関係の、三倍の値を使うのが一般的である。このようにすると、光学的に三段の三回場が打ち消し合い三回非点が零になったとき、ベクトル表記では三本のベクトルの合成が幾何学的に零となり理解しやすい。
【0090】
全体としての三回非点収差が0になった状態で残留する主な収差は球面収差である。従って、3つの三回非点収差A31、A32、A33の総和が常に0となるように各多極子41、42、43の三回非点場の強度分布を変化させると、球面収差の変化が支配的になる。図7(a)、(b)はこれら三回非点収差A31、A32、A33の変化をベクトルで表したものである。
【0091】
つまり、制御装置37を用いた各多極子41、42、43の三回非点場の制御により、3つの三回非点収差A31、A32、A33の総和が常に0とした状態で、各多極子41、42、43の三回非点場の分布(振幅)を変化させる。この変化を対物レンズの球面収差が最も低減された時点で停止すると、全体として最も球面収差が補正された軸合わせが達成できる。
【0092】
従来のように三段の多極子のそれぞれに三回非点場を個別に操作すると、多様な収差が試料面18上で出現する。このため、軸合わせに用いる収差の特定が困難になり、調整が長期化する。本実施形態では、各多極子の三回非点場の同時調整による球面収差の変化を用いた軸合わせを行うため、軸合わせが達成されているか否かの判断は容易となる。従って、軸合わせの操作が簡便になり、観察時間の短縮化に寄与できる。また、荷電粒子線装置の操作時間も短縮化されることから、操作者の負担を減らすことができる。
【0093】
さらに、図8に示すように、各三回場の強度や回転角が適切な設定でないと、四次収差であるスリーローブ収差(three lobe aberration)が残留する。図8(a) , (b)は 第1多極子41による三回非点収差A31と第3多極子43による三回非点収差A33との位相角差が(70.5/3)°ではないときの模式図である。図8(c) , (d) 第1多極子41による三回非点収差A31と第3多極子43による三回非点収差A33との位相角差が(70.5/3)°であるが、A31とA33の強度が同じでないときの模式図である。
【0094】
図8(a)、(b)に示すように、各多極子41、42、43による三回非点収差A31、A32、A33の総和が0で、且つ、第1多極子41による三回非点収差A31と第3多極子43による三回非点収差A33との位相角差が、(70.5/3)°からずれるとスリーローブ収差が残留する。一方、(c)、(d)に示すように、各多極子41、42、43による三回非点収差A31、A32、A33の総和が0で、且つ、第1多極子41による三回非点収差A31と第3多極子43による三回非点収差A33との位相角差を、(70.5/3)°であるが、A31とA33の強度が同じでないときように設定すると、スリーローブ(three lobe)収差が残留してしまう。従って、各多極子41、42、43の三回非点場の分布をA31とA33の強度を同じにして、第1多極子41による三回非点収差A31と第3多極子43による三回非点収差A33との位相角差が、(70.5/3)°になるよように変化させる。この変化を対物レンズの球面収差又はスリーローブ収差が最も低減された時点で停止すると、全体として上記2つの収差が最も補正された軸合わせが達成できる。
【0095】
以上、本発明の各実施形態について説明したが、各実施形態の荷電粒子線装置は透過電子顕微鏡に限られない。各実施形態の荷電粒子線装置は、走査電子顕微鏡や走査透過電子顕微鏡、イオン顕微鏡、集束イオン装置などにも適用可能である。
【符号の説明】
【0096】
10、40・・・収差補正器 11、12、13、41、42、43・・・多極子 15、46、47、48、49・・・偏向器 14・・・対物レンズ 15、45・・・転送レンズ OP・・・光軸 20・・・荷電粒子線(電子線)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
荷電粒子線装置における荷電粒子線の軸合わせ方法であって、
少なくとも3つの非点場を発生し、
隣接する前記非点場の軸ずれによる同次数且つ同種の非点収差が相殺されるように、各前記荷電粒子線の軌道および各前記非点場の分布のうちの少なくとも1つの群内のそれぞれを、前記光軸に垂直な方向に沿って同時に平行移動する
ことを特徴とする荷電粒子線の軸合わせ方法。
【請求項2】
前記非点場は三回非点場であり、前記非点収差は二回非点収差又は五回非点収差であることを特徴とする請求項1に記載の荷電粒子線の軸合わせ方法。
【請求項3】
前記非点収差が前記二回非点収差である場合、前記少なくとも3つの非点場のうちの最下流に分布する非点場から出射した荷電粒子線が最もオーバーフォーカスになった時に前記同時平行移動を停止することを特徴とする請求項2に記載の荷電粒子線の軸合わせ方法。
【請求項4】
さらに、各前記非点場によって形成される面と等価な面をその下流の非点場に転送するための一対の回転対称場を各前記非点場間に発生し、
各前記荷電粒子線の軌道、各前記非点場の分布、各前記一対の回転対称場の分布うちの少なくとも1つの群を、前記光軸に垂直な方向に沿って同時に平行移動することを特徴とする請求項1乃至3の何れか一項に記載の荷電粒子線の軸合わせ方法。
【請求項5】
荷電粒子線装置における荷電粒子線の軸合わせ方法であって、
少なくとも3つの三回非点場を発生し、
各前記三回非点場によって形成される面と等価な面をその下流の非点場に転送するための一対の回転対称場を各前記非点場間に発生し、
各前記三回非点場に対して荷電粒子線を斜入射させる第1の偏向を同時に行う
ことを特徴とする荷電粒子線の軸合わせ方法。
【請求項6】
前記第1の偏向は、前記三回非点場のうちの最上流側又は最下流側に分布する三回非点場以外のものに対する前記荷電粒子線の平行移動を含む
ことを特徴とする請求項5に記載の荷電粒子線の軸合わせ方法。
【請求項7】
さらに、前記少なくとも3つの三回非点場のうちの最下流に分布する三回非点場から出射した荷電粒子線を前記光軸上に伝播させる第2の偏向を前記第1の偏向と同時に行う
ことを特徴とする請求項5または6の何れか一項に記載の荷電粒子線の軸合わせ方法。
【請求項8】
荷電粒子線装置における荷電粒子線の軸合わせ方法であって、
3つの三回非点場を発生し、
各前記三回非点場によって形成される面と等価な面をその下流の非点場に転送するための一対の回転対称場を各前記非点場間に発生し、
各前記三回非点場による三回非点収差の総和を常に0とした状態で、各三回非点場の強度を同時に変更する
ことを特徴とする荷電粒子線の軸合わせ方法。
【請求項9】
前記3つの三回非点場のうち、最上流及び最下流に位置する各三回非点場の位相角差は(70.5/3)°であることを特徴とする請求項8に記載の荷電粒子線の軸合わせ方法。
【請求項10】
荷電粒子線装置であって、
非点場を発生する少なくとも3段の多極子と、
各前記多極子の間に設置される偏向器と
を備え、
各前記偏向器は、隣接する前記多極子の軸ずれによる同次数且つ同種の非点収差が相殺されるように、各前記荷電粒子線の軌道を前記光軸に垂直な方向に沿って同時に平行移動させる
ことを特徴とする荷電粒子線装置。
【請求項11】
さらに、各前記多極子の間に設けられ、各前記多極子によって形成される面と等価な面をその下流の多極子に転送するための一対の回転対称場を発生する一対の転送レンズを備えることを特徴とする請求項10に記載の荷電粒子線装置。
【請求項12】
前記非点場は三回非点場であり、前記非点収差は二回非点収差又は五回非点収差であることを特徴とする請求項10又は11の何れか一項に記載の荷電粒子線装置。
【請求項13】
前記非点収差が前記二回非点収差である場合、各前記偏向器は、前記少なくとも3段の多極子のうちの最も最下流に位置する多極子から出射した荷電粒子線が最もオーバーフォーカスになった時、前記同時平行移動を停止することを特徴とする請求項12に記載の荷電粒子線装置。
【請求項14】
荷電粒子線装置であって、
非点場を発生する少なくとも3段の多極子と、
前記少なくとも3段の多極子のそれぞれを個別に、且つ光軸に対して垂直な方向に平行移動させる移動装置と
を備え、
前記移動装置は、隣接する前記多極子の軸ずれによる同次数且つ同種の非点収差が相殺されるように、各前記多極子の前記平行移動を同時に行う
ことを特徴とする荷電粒子線装置。
【請求項15】
荷電粒子線装置であって、
非点場を発生する少なくとも3段の多極子と、
各前記多極子の間に設けられ、各前記多極子によって形成される面と等価な面をその下流の多極子に転送するための一対の回転対称場を発生する一対の転送レンズと、
前記多極子の群及び前記一対の転送レンズの群のうち、少なくとも1つの群のそれぞれを個別に、且つ光軸に対して垂直な方向に平行移動させる移動装置と
を備え、
前記移動装置は、隣接する前記多極子の軸ずれによる同次数且つ同種の非点収差が相殺されるように前記平行移動を同時に行う
ことを特徴とする荷電粒子線装置。
【請求項16】
前記非点場は三回非点場であり、前記非点収差は二回非点収差又は五回非点収差であることを特徴とする請求項14又は15の何れか一項に記載の荷電粒子線装置。
【請求項17】
前記非点収差が前記二回非点収差である場合、前記移動装置は、前記少なくとも3段の多極子のうちの最も最下流に位置する多極子から出射した荷電粒子線が最もオーバーフォーカスになった時、前記同時平行移動を停止することを特徴とする請求項16に記載の荷電粒子線装置。
【請求項18】
荷電粒子線装置であって、
三回非点場を発生する少なくとも3段の多極子と、
各前記多極子の間に設けられ、各前記多極子によって形成される面と等価な面をその下流の多極子に転送するための一対の回転対称場を発生する一対の転送レンズと、
前記一対の転送レンズの間に設置される第1の偏向器と
を備え、
前記第1の偏向器は、荷電粒子線を光軸に対して斜入射させる偏向を同時に行う
ことを特徴とする荷電粒子線装置。
【請求項19】
各前記第1の偏向器のうちの、最上流側又は最下流側に設けられた多極子の上流側に設けられたものを除いた偏向器は、前記荷電粒子線の前記偏向と共に前記荷電粒子線の平行移動を行う
ことを特徴とする請求項18に記載の荷電粒子線装置。
【請求項20】
さらに、前記少なくとも3段の多極子のうちの最下流に位置する多極子から出射した荷電粒子線を前記光軸上に伝播させる偏向を行う第2の偏向器
を備え、
各前記第1の偏向器による偏向と前記第2の偏向器による偏向は同時に行われる
ことを特徴とする請求項18または19の何れか一項に記載の荷電粒子線装置。
【請求項21】
荷電粒子線装置であって、
三回非点場を発生する3段の多極子と、
各前記多極子の上流側に設置される第1の偏向器と、
各前記第1の偏向器の上流側および下流側に設けられ、各前記多極子によって形成される面と等価な面をその下流の多極子に転送するための一対の回転対称場を発生する一対の転送レンズと
を備え、
各前記多極子は、各前記三回非点場による三回非点収差の総和を常に0とした状態で、各三回非点場の強度を同時に変更する
ことを特徴とする荷電粒子線装置。
【請求項22】
前記三段の多極子のうち、最上流及び最下流に位置する多極子による三回非点場の位相角差は(70.5/3)°であることを特徴とする請求項21に記載の荷電粒子線装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate