説明

荷電粒子線レンズアレイ

【課題】荷電粒子線レンズアレイを構成する絶縁体表面が帯電することによって生じる荷電粒子線の収差を補正することが可能な荷電粒子線レンズアレイを提供する。
【解決手段】荷電粒子源から放射された複数の荷電粒子線の光学特性を制御する荷電粒子線レンズアレイは、絶縁体2A、2Bを介して互いに光軸3の方向に離間して支持された複数の電極1A、1B、1Cを有する。電極は荷電粒子線5が通過するための複数の貫通孔4を有する。複数の貫通孔の配置が、2つの並進ベクトルで規定されるそれぞれの基準位置8から、荷電粒子線レンズアレイ内で生じる荷電粒子線の収差を補正する方向にずれている。各貫通孔の基準位置からのずらし量は、基準位置が絶縁体の表面6A、6Bに近い程大きく、絶縁体の表面から遠ざかるに従って小さくなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、主に半導体集積回路等の露光に用いられる荷電粒子線露光装置に使用される荷電粒子線光学系の技術に関し、特に静電型の荷電粒子線レンズアレイに関する。
【背景技術】
【0002】
複数の電子ビームを同時に照射するマルチ電子ビーム描画装置において、各電子ビームの光学的調整は重要な技術の1つである。これに関し、タブレットレンズの1段目のレンズで生じる球面収差を補正するため、アパーチャアレイとレンズアレイ間、またはアパーチャアレイ又はレンズアレイとブランカーアレイ間で対応する開口の位置座標をずらす技術が知られている(特許文献1参照)。また、アパーチャを通過するビームの電流密度の不均一性と露光装置内の結像歪みを補償するため、アパーチャの開口位置を基本配置から偏移させ、ブランキング手段の開口配置と異なるようにすることが知られている(特許文献2参照)
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第3803105号公報
【特許文献2】特開2010-041055号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
一方、電極間を絶縁体で離間する構成のレンズアレイでは、レンズアレイを構成する電極を電気的に分離して支持する絶縁体が帯電することによって電子ビームの軌道が偏進し、収差(主に歪曲収差)が生じてしまう場合がある。しかしながら、上記特許文献1に記載の従来例は、電子銃から放射された電子ビームを略平行並進にするためのコンデンサレンズで生じる球面収差を補正するための技術であり、レンズアレイ内で生じる収差を補正するものではなかった。また、上記特許文献2に記載の従来技術は、アパーチャを通過するビームの電流密度の不均一性と露光装置内の結像歪みを補償するための技術であり、レンズアレイ内で生じる収差を補正するものではなかった。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題に鑑み、荷電粒子源から放射された複数の荷電粒子線の光学特性を制御する本発明の荷電粒子線レンズアレイは次の特徴を有する。すなわち、絶縁体を介して互いに光軸方向に離間して支持された複数の電極を有し、前記電極は荷電粒子線が通過するための複数の貫通孔を有している。また、前記複数の貫通孔の配置が、2つの並進ベクトルで規定されるそれぞれの基準位置から、当該荷電粒子線レンズアレイ内で生じる荷電粒子線の収差を補正する方向にずれている。そして、各貫通孔の基準位置からのずらし量は、該基準位置が前記絶縁体の表面に近い程大きく、前記絶縁体の表面から遠ざかるに従って小さくなる。
【発明の効果】
【0006】
本発明の荷電粒子線レンズアレイによれば、貫通孔の配置が、基準位置から荷電粒子線レンズアレイ内で生じる荷電粒子ビームの収差を補正する方向にずれているため、荷電粒子線の試料(照射対象)への到達位置を基準位置にすることができる。こうして、荷電粒子線レンズアレイ内で生じる荷電粒子線の収差を補正することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【図1】本発明の第一の実施形態の電子線レンズアレイを示す図。
【図2】第一の実施形態の電子線レンズアレイの部分断面拡大図。
【図3】第一の実施形態の絶縁体、及びその表面と貫通孔の位置関係を示す図。
【図4】第一の実施形態の電子線レンズアレイに用いる電極の概略平面図。
【図5】電子線レンズアレイに用いる電極の変形例の概略平面図。
【図6】本発明の第二の実施形態のマルチ荷電粒子ビーム露光装置の構成を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0008】
複数の電極を組み合わせて荷電粒子線レンズアレイを構成する場合には、電極間に絶縁体を配置して前記複数の電極を電気的に分離して支持する必要がある。このように各電極を支持部材を介して支持する構成にすると、荷電粒子線レンズアレイの貫通孔を通過する荷電粒子線が、絶縁体の表面の帯電によって力を受けて偏進し、収差(主に歪曲収差)が生じる場合がある。本発明は、電極の貫通孔の配置を、基準位置から、荷電粒子線レンズアレイ内で生じる荷電粒子線の収差を補正する方向にずらすことによってこうした課題を解決するものである。以下、本発明の実施形態を説明する。
【0009】
(実施形態1)
図1を用いて、本発明の第一の実施形態を説明する。本実施形態では、光源として電子源を使用した電子線レンズアレイの例を示す。ただし、この実施形態に記載されている構成部品の寸法、材質、形状、その相対配置などは、特に特定的な記載がない限りは、本発明の範囲をそれらのみに限定する趣旨のものではない。
【0010】
図1(a)は本実施形態の電子線レンズアレイで用いる電極の概略上面図であり、図1(b)は図1(a)のA−A’の概略断面図である。図2は図1(b)の一部の拡大図である。また、図3(a)は電子線レンズアレイに用いる絶縁体の概略上面図であり、図3(b)は電極の複数の貫通孔の配置と絶縁体の開口表面との位置関係を模式的に示した概略上面図である。図1(b)に示すように、本実施形態に係る電子線レンズアレイは、電極1A、1B、1Cの3枚の電極を有している。3枚の電極は、光軸3を法線とする平板であり、絶縁体2A、2Bを介してそれらの間の間隔が規定されている。絶縁体により、3枚の電極は互いに電気的に絶縁されて配置されている。3枚の電極は、それぞれ、不図示の電子源から放出された電子線が通過する複数の円形貫通孔4を有する。電子源から放出された電子ビームは光軸3の矢印の方向に進み、試料(照射対象上)に到達する。3枚の電極はそれぞれ給電パッドを有しており、電子ビームに対して所望の光学特性を示すように、それぞれに印加される電位が規定される。例えば、電極1Aと電極1Cをアース電位とし、電極1Bに負電圧を印加することにより、アインツェル型の静電レンズアレイを構成することができる。図1(a)は、3枚の電極のうちの電極1Aを上から見た図である。また、図2は、絶縁体2A、2Bの表面6A、6Bに隣接した貫通孔4付近の概略断面図であり、図1(b)の点線で囲まれたエリアの拡大図である。
【0011】
電極1Aと電極1Bとの間に電位差を付与すると、電極1Aと電極1Bのうちで相対的に電位の低い方の電極と絶縁体2Aとの界面から電子が放出され、絶縁体2Aの表面6Aが正に帯電する。例えば、電極1Aがアース電位で、電極1Bに負電圧を印加する場合には、相対的に電位の低い電極1Bと絶縁体2Aとの界面から電子が放出され、絶縁体2Aの表面6Aが正に帯電する。同様に、電極1Bと電極1Cとの間に電位差を付与すると、絶縁体2Bの表面6Bが正に帯電する。一般的に、電極間への電位の付与以外でも、絶縁体表面の近傍を電子ビームが通過する場合やX線等が入射する場合にも、絶縁体表面の帯電が発生する。また、一般的に、何の工夫も施されていない絶縁体表面では、帯電量が時間の経過とともに増加していき、遂には放電に至る。従って、絶縁体を介した電極間に大きな電位差を印加する電子デバイスでは、絶縁体の表面を凹凸形状にしたり絶縁体の表面に導電性の膜を積層したりするなどして、絶縁体の表面に工夫を施したり、絶縁体と電極の接触面に工夫を施したりする。このような工夫を施すことによって、帯電量が或るところで飽和するようにするか、もしくは或る帯電量以上では増加量が時間に対して微増となるようにし、且つ、その帯電量では帯電しても放電に至らないようにする。
【0012】
電子線レンズアレイは、電極間に電位差を付与することによって、レンズとしての機能を発生するものである。従って、電極間を絶縁体によって離間している場合には、少なからず絶縁体の表面は正に帯電した状態となる。絶縁体2Aを示す図3(a)で表す様に、絶縁体には、電極1A、1B、1Cにおいて貫通孔4が配置されるエリアよりも大きな開口7が形成される。この開口7を通って電子線5は試料へと照射される。絶縁体2A、2Bのうち、帯電するのはこの開口7の電極と接しない表面6A、6Bの部分である。
【0013】
図2に示すように、貫通孔4及び開口7を通過中の電子線5は正に帯電した絶縁体表面6A、6Bの影響で絶縁体側に引き寄せられ、軌道を曲げる。絶縁体側に引き寄せられる量は貫通孔4が絶縁体表面に近ければ近い程大きい。従って、絶縁体表面6A、6Bに近い場所に配置された貫通孔4を通過する電子線5ほど、軌道の偏移量が大きくなる。一方、電子線の代わりに正に帯電した荷電粒子線を用いた場合には、クーロン斥力が働くため、絶縁体表面から離れる方向に荷電粒子線は軌道を曲げる。
【0014】
従って、試料上の或る位置に電子線を照射したい場合に、その場所の光軸方向直上に電極の貫通孔を形成すると、本来電子線を照射したい試料上の場所に電子線を照射できない場合が発生する。よって、電子線が偏進する量と方向に応じて、電極の貫通孔を予めずらして配置することによって、試料上の所望の基準位置に電子線を到達させることが可能となる。
【0015】
ここで、本実施形態の具体的な材料と寸法の例を説明する。電極1A、1B、1Cは、単結晶シリコン等で形成される。それぞれの電極の表面及び貫通孔4の側壁は、導電性材料膜で覆われていてもよい。導電性材料膜としては、シリコンとの密着性が良く、導電性が高く、酸化し難い材料が選ばれる。例えば、チタン、白金、金、モリブデン等から選ばれる。電極1A、1B、1Cの厚さはそれぞれ例えば100μmである。絶縁体2A、2Bは、テンパックスフロートガラス(ホウケイ酸ガラスに酸化ナトリウム、酸化カリウム、酸化アルミニウム等を微量含んだガラス)で形成される。絶縁体の材料としては、絶縁性が高く、真空中での粉塵の発生の少ない材料が選ばれる。例えば、ホウケイ酸ガラス、石英ガラス、酸化アルミニウムや、これらを主成分とするガラスから選ばれる。絶縁体2A、2Bの厚さはそれぞれ例えば400μmである。絶縁体2A、2Bには、それぞれ一辺の長さが1.4mmの正方形形状の開口7が形成されている。
【0016】
本実施形態の電子線レンズアレイは、例えば次の様な製造方法で作製することができる。まず電極1A、1B、1Cは、厚さ100μmのシリコン基板にフォトリソグラフィ技術とシリコンの深堀ドライエッチングにより複数の貫通孔4を形成することでそれぞれ作成する。次に絶縁体2A、2Bの作成は、厚さ400μmのテンパックスフロートガラスにフォトリソグラフィ技術とサンドブラスト加工技術により開口7を形成することで行う。続いて、電極1A、1B、1Cの複数の貫通孔4が形成されているエリアの中心と絶縁体2A、2Bの開口7の中心が合うように、電極1A、1B、1C及び絶縁体2A、2Bを接合技術によって接合する。
【0017】
次に、貫通孔4のずらし方について詳細に説明する。
図1(a)の点線で記した線の交点が、電子線を到達させたい試料上の位置である。本明細書では、この位置を基準位置8と呼ぶ。一般的に、この基準位置8には規則性があり、並進ベクトルaとb(図面中では文字の上に矢印を書いてベクトルであることを示すが、説明中では単に太字で記す)によって表現される。並進ベクトルは必ずしも直交している必要はなく、基準位置8は、例えば図5に示すように、斜交する並進ベクトルaとbで表現される菱形格子状の網目の交点であっても構わない。通常は、貫通孔4は試料上の基準位置にならって等間隔で配置される。すなわち、貫通孔4は、試料上の基準位置の光軸方向直上に配置される。
【0018】
しかし、上述した様に、図1(a)において、電極1Aに形成されている複数の貫通孔4は、絶縁体表面の帯電の影響による電子線の偏進量と偏進方向を考慮して、基準位置8からずらして配置される。つまり、電極の貫通孔4は、基準位置8から絶縁体の開口7の中心に向かってずらして配置される。基準位置からのずらし量は、基準位置が絶縁体表面に近い程大きく、絶縁体表面から遠ざかるに従って小さくなる。従って、絶縁体表面6A、6Bに相対的に近い隣接貫通孔4間の間隔は、絶縁体表面6A、6Bから相対的に遠い隣接貫通孔4間の間隔よりも狭くなる。図1(a)の例で言えば、各貫通孔4は、それぞれ並進ベクトルaとbの方向に、開口中心に向かって、その基準位置の各方向における絶縁体表面からの距離に応じた量、基準位置からずらして配置される。
【0019】
また、図4に示すように、貫通孔を多数配置した場合には、貫通孔形成エリアの中心部付近(絶縁体開口7の中心部付近)に位置する貫通孔4を通過する電子線は、絶縁体表面6A、6Bの帯電の影響を殆ど感じなくなり、従って、殆ど偏進しない。その場合、絶縁体開口7の中心部付近に位置する貫通孔4の配置は基準位置8と殆ど同じで良く、絶縁体表面から近いエリアに位置する貫通孔4のみ、その配置を基準位置8からずらせば良いこととなる。基準位置からのずらし量は絶縁体開口7の中心に近付く程小さくて良いので、上述した様に、隣接貫通孔間の間隔は、絶縁体表面に近く貫通孔形成エリアの外周に位置する領域では相対的に狭く、絶縁体表面から遠い絶縁体開口の中心部付近では相対的に広くなる。図4において、貫通孔4Aと4Bは貫通孔形成エリアの外周部に位置する互いに隣接する貫通孔であり、貫通孔4Cと4Dは貫通孔形成エリアの中心部に位置する互いに隣接する貫通孔である。図4から分かる様に、貫通孔間の間隔は、貫通孔4Aと4Bの間の方が貫通孔4Cと4Dの間よりも小さくなる。
【0020】
電子線の偏進量と偏進方向は、絶縁体表面の帯電によって形成される電場と電子レンズアレイが形成する電場との合算によって形成される電場、電子レンズアレイと電子線の被照射物である試料との間隔、電子線の運動エネルギー等によって決定される。ここで、絶縁体表面の帯電量は、絶縁体の材料、絶縁体の厚さ、絶縁体の表面形状、絶縁体の表面状態、電極の材料、絶縁体と電極の接着状態、電極間の印加電圧、電圧の印加時間などのパラメータによって決定される。また、電子レンズアレイ内の電場は、電極の厚さ、絶縁体の厚さ、各電極への印加電圧、貫通孔から絶縁体までの距離、絶縁体の誘電率などのパラメータによって決定される。貫通孔の配置位置の基準位置からのずらし量と方向は電子線の偏進によって決まるが、上述のように電子線の偏進量と偏進方向は非常に多くのパラメータによって決まる。
【0021】
よって、貫通孔の配置位置の基準位置からのずらし量と方向(特にずらし量)は一般的な式で表すことは困難であるが、一例を示すと、以下の様になる。本実施形態の電子レンズアレイの電極の厚さ、絶縁体の厚さ、各電極への印加電圧、絶縁体の材料、絶縁体の表面形状の場合、一例として、並進ベクトルaとbの方向について、それぞれy=αe−βxと言う関係を導くことができる。ここで、yは各方向のビームシフト量(貫通孔のずらし量に相当)、xは貫通孔の中心から絶縁体までの各方向の最短距離(ここでは貫通孔の中心から各方向について絶縁体表面に下した垂線の距離のうちの最短のもの)である。ただし、このずらし量で貫通孔を形成しても、貫通孔の位置をずらしたことによって電子レンズアレイ内に形成される電界分布が多少変わるため、正確に貫通孔の最終的なずらし量にはならないことが多い。また、上述したように電子線の偏進量と偏進方向は非常に多くのパラメータによって決まるので、このずらし量は、後述する様に試行錯誤的に最終的なずらし量を決める際の出発点とすることができるずらし量と言うべきものである。ただし、この指数関数の関係式は、可変な係数(αとβ)を変えれば、或る程度の適用範囲を持つものと言い得る。
【0022】
次に貫通孔4の配置位置の決定方法の実例を説明する。
まず、或る程度の基礎実験データを基に、静電界計算シミュレータを用いて、実際の使用条件下で電子線の試料上での到達位置が目標の基準位置となるように電極の貫通孔4の配置を決定する。この時、既に貫通孔は基準位置からずらして配置される。続いて、貫通孔の配置を上記計算で決定された配置とした電子線レンズアレイを作製する。そして、この電子線レンズアレイを実際の使用状態と同じ条件で用いて実際に電子線を通過させ、電子線の試料上での到達位置を計測する。ここで、試料上の所望の基準位置に電子線が到達しているようであれば電子線レンズアレイは完成である。電子線の試料上での到達位置が基準位置と異なっている場合には、その相異するデータをフィードバックして、電極の貫通孔の配置を修正して電子線レンズアレイを再作製する。そして、再度、電子線の試料上での到達位置を計測する。この作業を繰り返すことによって、試料上の所望の基準位置に電子線が到達する貫通孔の配置を決定することが出来る。こうして電子線レンズアレイが完成する。電子線の試料上での到達位置の計測は、フォトダイオードとナイフエッジを用いることによって行うことが出来る。また、ファラデーカップを用いても良いし、実際にレジストに電子線を照射することによって計測しても良い。
【0023】
図1(a)、図3(b)及び図4では電極1Aと記しているが、電極1Bと電極1Cにおいても同様に基準位置からずらして貫通孔が配置されている。また、貫通孔の配置位置の基準位置からのずらし量が電極毎に異なっていても構わないし、一部の電極のみ、貫通孔を基準位置からずらして配置しても構わない。
【0024】
次に数値例を説明する。
図1(a)又は図3に示すように、電極1A、1B、1Cには、内径30μmの貫通孔4が9×9の計81個形成されている。貫通孔4は、試料に到達する電子線の基準位置からずらして配置される。基準位置は、並進ベクトルa=(50μm、0)及びb=(0、50μm)の50μmピッチの正方格子状に配置されている。図3(b)では、基準位置8と絶縁体開口7の形状(図3(a)参照)とを共に中心点が同じ正方形としている。絶縁体の表面6Aから見て最も近い基準位置8までの距離は500μmである。絶縁体の表面6Aから見て最も近い列の貫通孔4は、各並進ベクトルの方向(X方向、Y方向)について、基準位置に対し、絶縁体表面から離れる方向、つまり絶縁体開口7の中心方向に346nmずらして配置されている。4つの角に位置する貫通孔8は、図3(b)中のX方向にもY方向にも絶縁体開口7の中心方向に346nmずらして配置されることになる。つまり、貫通孔形成エリアの最外周に位置する貫通孔の配置は、基準位置の配置よりも一辺の長さが692nm小さい正方形状になる。同様に、絶縁体の表面6Aから見て二番目に近い列の貫通孔4は、基準位置に対し、絶縁体開口の中心方向に240nmずらして配置されている。同様に、絶縁体の表面6Aから見て三番目に近い列の貫通孔4は、基準位置に対し、絶縁体開口の中心方向に167nmずらして配置されている。同様に、絶縁体の表面6Aから見て四番目に近い列の貫通孔4は、基準位置に対し、絶縁体開口の中心方向に116nmずらして配置されている。
【0025】
以上の構成原理は、正に帯電した荷電粒子線の場合も基本的には同じである。露光装置に使用する光源が正に帯電した荷電粒子源の場合には、正に帯電した絶縁体表面から斥力を受けるため、荷電粒子線は絶縁体から離れる方向に軌道を曲げる。従って、電子線の場合とは逆に、貫通孔の位置は基準位置から絶縁体の開口表面6A方向にずらして配置することとなる。電子線と正に帯電した荷電粒子線とでは電荷量が異なるため、正に帯電した荷電粒子線の偏進量は電子線とは異なるため、貫通孔の基準位置からのずらし量も異なる。つまり、荷電粒子線が負の電荷を有する荷電粒子線の場合には、各貫通孔の配置は、前記2つの並進ベクトルで規定されるそれぞれの方向において、基準位置から絶縁体の表面に対して遠ざかる方向にずらす。他方、荷電粒子線が正の電荷を有する荷電粒子線の場合には、各貫通孔の配置は、2つの並進ベクトルで規定されるそれぞれの方向において、基準位置から絶縁体の表面に対して近づく方向にずらす。
【0026】
(実施形態2)
図6を用いて、複数の荷電粒子線を用いた荷電粒子線露光装置に係る本発明の第二の実施形態を説明する。本実施形態では、アパーチャ、ブランカー、偏向器、及びレンズの、電子線が通過する貫通孔が形成されている全てのデバイスの貫通孔の配置が、電子線対物レンズアレイの貫通孔配置に従っているマルチ電子線露光装置を示す。貫通孔を通過する電子線は、収差の観点から貫通孔の中心を通過するのが好ましい。従って、収差を補正するために貫通孔の配置を基準位置からずらすのであれば、より好ましくは、対物レンズよりも光源側にあるアパーチャ、ブランカー、偏向器、及び他のレンズの貫通孔の配置も、対物レンズに従っていることが望ましい。図6に示すマルチ荷電粒子ビーム露光装置は、個別に投影系をもつ所謂マルチカラム式である。
【0027】
荷電粒子源である電子源108からアノード電極109、110によって引き出された放射電子ビームは、クロスオーバー調整光学系111によって照射光学系クロスオーバー112を形成する。ここで、電子源108としてはLaB6やBaO/W(ディスペンサーカソード)などの所謂熱電子型の電子源が用いられる。クロスオーバー調整光学系111は2段の静電レンズで構成されており、1段目・2段目共に静電レンズは3枚の電極からなり、中間電極に負の電圧を印加し上下電極は接地するアインツェル型の静電レンズである。
【0028】
照射光学系クロスオーバー112から広域に放射された電子ビーム113、114は、コリメータレンズ115によって平行ビーム116となり、アパーチャアレイ117へと照射される。アパーチャアレイ117によって分割されたマルチ電子ビーム118は、集束レンズアレイ119によって個別に収束され、ブランカーアレイ122上に結像される。ここで、集束レンズアレイ119は3枚の多孔(複数の開口を持つ)電極からなる静電レンズで、レンズ制御回路105で制御され、3枚の電極のうち中間の電極にのみ負の電圧を印加し上下電極は接地するアインツェル型の静電レンズアレイである。
【0029】
アパーチャアレイ117は、NA(収束半角)を規定する役割も持たせるため、集束レンズアレイ119の瞳面位置(集束レンズアレイの前側焦点面位置)に置かれている。ブランカーアレイ122は個別の偏向電極を持ったデバイスで、描画パターン発生回路102、ビットマップ変換回路103、ブランキング指令回路106によって生成されるブランキング信号に基づき、描画パターンに応じて個別にビームのon/offを行う。ビームがonの状態のときには、ブランカーアレイ122の偏向電極には電圧を印加せず、ビームがoffの状態のときには、ブランカーアレイ122の偏向電極に電圧を印加してマルチ電子ビームを偏向する。ブランカーアレイ122によって偏向されたマルチ電子ビーム125は後段(下流側)にあるストップアパーチャアレイ123によって遮断され、ビームがoffの状態となる。複数のアライナー120は、アライナー制御回路107で制御されて、電子ビームの入射角度と入射位置を調整する。また、コントローラー101は全体の回路を制御する。
【0030】
本実施形態においてブランカーアレイは2段で構成されており、ブランカーアレイ122及びストップアパーチャアレイ123と同じ構造の、第二ブランカーアレイ127及び第二ストップアパーチャアレイ128が後段に配置されている。ブランカーアレイ122を通ったマルチ電子ビームは第二集束レンズアレイ126によって第二ブランカーアレイ127上に結像される。さらにマルチ電子ビームは第三、第四集束レンズ130、132によって収束されてウエハ133上に結像される。ここで、第二集束レンズアレイ126、第三集束レンズアレイ130、第四集束レンズアレイ132は集束レンズアレイ119同様に、アインツェル型の静電レンズアレイである。
【0031】
特に第四集束レンズアレイ132は対物レンズとなっており、その縮小率は100倍程度に設定される。これにより、ブランカーアレイ122の中間結像面上の電子ビーム121(スポット径がFWHMで2μm)が、ウエハ133面上で100分の1に縮小され、FWHMで20nm程度のマルチ電子ビームがウエハ上に結像される。ウエハ133上のマルチ電子ビームのスキャンは偏向器131で行うことができる。偏向器131は対向電極によって形成されており、x、y方向について2段の偏向を行うために4段の対向電極で構成される(図中では簡単のため2段偏向器を1ユニットとして表記している)。偏向器131は偏向信号発生回路104の信号に従って駆動される。
【0032】
パターン描画中はウエハ133はX方向にステージ134によって連続的に移動させられる。そして、レーザー測長機による実時間での測長結果を基準として、ウエハ面上の電子ビーム135が偏向器131でY方向に偏向され、かつブランカーアレイ122及び第二ブランカーアレイ127で描画パターンに応じてビームのon/offが個別になされる。ビーム124はonのビームを示し、ビーム125、129はoffのビームを示す。これにより、ウエハ133面上に所望のパターンを高速に短い描画時間で描画することができる。
【0033】
ここで、アパーチャアレイ117、集束レンズアレイ119、ブランカーアレイ122、ストップアパーチャアレイ123、第二集束レンズアレイ126、第二ブランカーアレイ127、第二ストップアパーチャアレイ128、第三集束レンズアレイ130、に形成された貫通孔の配置は、第四集束レンズアレイ132に形成された貫通孔の配置と同じになっている。
【0034】
以上に説明した様に、本実施形態の荷電粒子線露光装置は、本発明の荷電粒子線レンズアレイである対物レンズアレイを含み、アパーチャ、ブランカー、偏向器それぞれの複数の貫通孔の配置が、前記対物レンズアレイの貫通孔の配置に従っている。すなわち、それぞれ対応する貫通孔が光軸方向から見て揃っている。こうした構成により、複数の荷電粒子線を用いて描画することによって、高スループットで収差がより低減されたマルチ荷電粒子線露光装置を提供することができる。
【符号の説明】
【0035】
1A、1B、1C・・電極、2A、2B・・絶縁体、3・・光軸、4・・貫通孔、5・・荷電粒子線(電子線)、6A、6B・・絶縁体の表面、7・・絶縁体の開口、8・・基準位置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
荷電粒子源から放射された複数の荷電粒子線の光学特性を制御する荷電粒子線レンズアレイであって、
絶縁体を介して互いに光軸方向に離間して支持された複数の電極を有し、
前記電極は荷電粒子線が通過するための複数の貫通孔を有しており、
前記複数の貫通孔の配置が、2つの並進ベクトルで規定されるそれぞれの基準位置から、当該荷電粒子線レンズアレイ内で生じる荷電粒子線の収差を補正する方向にずれ、
各貫通孔の基準位置からのずらし量は、該基準位置が前記絶縁体の表面に近い程大きく、前記絶縁体の表面から遠ざかるに従って小さくなる、
ことを特徴とする荷電粒子線レンズアレイ。
【請求項2】
前記荷電粒子線が負の電荷を有する荷電粒子線の場合には、
各貫通孔の配置は、前記2つの並進ベクトルで規定されるそれぞれの方向において、前記基準位置から前記絶縁体の表面に対して遠ざかる方向にずらし、
前記荷電粒子線が正の電荷を有する荷電粒子線の場合には、
各貫通孔の配置は、前記2つの並進ベクトルで規定されるそれぞれの方向において、前記基準位置から前記絶縁体の表面に対して近づく方向にずらす、
ことを特徴とする請求項1に記載の荷電粒子線レンズアレイ。
【請求項3】
各貫通孔の基準位置からのずらし量は、前記2つの並進ベクトルの方向について、それぞれy=αe−βx(α、βは可変な係数、yは各方向の貫通孔のずらし量、xは貫通孔の中心から絶縁体までの各方向の最短距離)の関係式で表わされる、
ことを特徴とする請求項1または2に記載の荷電粒子線レンズアレイ。
【請求項4】
請求項1〜3の何れか1項に記載の荷電粒子線レンズアレイである対物レンズアレイを含み、アパーチャ、ブランカー、偏向器それぞれの複数の貫通孔の配置が、前記対物レンズアレイの貫通孔の配置に従っていることを特徴とするマルチ荷電粒子線露光装置。
【請求項5】
それぞれ複数の貫通孔が形成され絶縁体を介して光軸方向に離間された複数の電極を有する荷電粒子線レンズアレイの作製方法であって、
基礎実験データを基に、静電界計算シミュレータを用いて、実際の使用条件下で荷電粒子線の照射対象上での到達位置がそれぞれ目標の基準位置となるように前記電極の複数の貫通孔の配置を決定する工程と、
前記貫通孔の配置を前記決定工程で決定された配置とした荷電粒子線レンズアレイを作製する工程と、
前記作製された荷電粒子線レンズアレイを実際の使用状態と同じ条件で用いて荷電粒子線を通過させ、荷電粒子線の前記照射対象上での到達位置を計測する工程と、
前記計測された到達位置が前記基準位置と異なっている場合には、その相異データをフィードバックして、前記電極の複数の貫通孔の配置を修正して荷電粒子線レンズアレイを再作製する工程と、
を含むことを特徴とする荷電粒子線レンズアレイの作製方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2013−30567(P2013−30567A)
【公開日】平成25年2月7日(2013.2.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−164774(P2011−164774)
【出願日】平成23年7月27日(2011.7.27)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】