説明

荷電粒子線描画装置、および、物品の製造方法

【課題】荷電粒子線の特性の維持に有利な描画装置を提供する。
【解決手段】この荷電粒子線で基板に描画を行う描画装置は、荷電粒子線源2、40と、荷電粒子線源2、40から放射された荷電粒子線の一部を通過させる開口30が形成された開口部材11と、開口部材11に設けられ、開口部材11の開口30以外の領域に向かう荷電粒子線が入射する複数の熱電変換素子32と、開口部材11に配置されて複数の熱電変換素子32の出力を検出する検出部34と、検出部34の出力に基づいて、荷電粒子線源2、40から放射された荷電粒子線の特性に関する制御を行う制御部6(35)とを有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数の荷電粒子線で基板に描画を行う描画装置、および、それを用いた物品の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、半導体集積回路などのデバイスの製造に用いられる描画装置は、素子の微細化、回路パターンの複雑化、またはパターンデータの大容量化が進み、描画精度の向上が要求されている。これを実現させる方法として、電子ビームなどの荷電粒子線の偏向走査およびブランキングを制御することで基板に描画を行う描画装置が知られている。この描画装置は、解像度が高く、生産性にも優れているため、線幅が0.1μm以下の4GDRAM以降のメモリデバイスの生産などにおいて、光露光方式に代わるパターン形成技術の1つとして採用され得る。
【0003】
このような描画装置では、高スループットを実現するために、一括で描画できる面積が大きくなるにつれて、または描画線幅が細くなるにつれて、基板面での荷電粒子線分布の均一性が要求される。これに対して、特許文献1は、荷電粒子線であるイオンビームを採用し、その一部の電流を計測してプローブ電流に換算し、この情報に基づいてビーム照射時間に補正を加え、ビーム照射量を所望の値に保つイオンビーム照射量の制御方法を開示している。一方、特許文献2は、電子ビームを採用し、第2カソードにおける複数の電子放出部から放出される電子の分布を制御装置により制御し、第1カソードの熱電子放出面の温度を均一に保たせることで、照明一様性を向上させる電子銃の制御方法を開示している。この電子銃の制御方法では、さらにターゲット面で電子ビームの強度分布を測定し、その分布が一様となるように制御している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開昭62−139323号公報
【特許文献2】特開2004−288577号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ここで、特許文献1または2のいずれの方法も、荷電粒子線の強度(電流)の計測に基づいて、荷電粒子線の照射の均一性を向上させるものである。ここで、荷電粒子線が照射されているデバイス(例えば偏向器)上での電流計測は、検出回路をデバイスの近くに実装して実施すると、デバイスからの熱の影響を受けやすい。一方、検出回路をデバイスから遠くに離して実装して実施すると、ノイズの影響を受け、精度良く電流を計測することが難しい。
【0006】
本発明は、荷電粒子線の特性の維持に有利な描画装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明は、荷電粒子線で基板に描画を行う描画装置であって、荷電粒子線源と、荷電粒子線源から放射された荷電粒子線の一部を通過させる開口が形成された開口部材と、開口部材に設けられ、開口部材の開口以外の領域に向かう荷電粒子線が入射する複数の熱電変換素子と、開口部材に配置されて複数の熱電変換素子の出力を検出する検出部と、検出部の出力に基づいて、荷電粒子線源から放射された荷電粒子線の特性に関する制御を行う制御部と、を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、例えば、荷電粒子線の特性の維持に有利な描画装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明の第1実施形態に係る荷電粒子線描画装置の構成を示す図である。
【図2】第1実施形態に係るアパーチャアレイの上流側の構成を示す図である。
【図3】第1実施形態に係るアパーチャアレイの上面図である。
【図4】所定の熱電変換素子により検出された電力値を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明を実施するための形態について図面等を参照して説明する。
【0011】
(第1実施形態)
まず、本発明の第1実施形態に係る荷電粒子線描画装置(以下「描画装置」という)について説明する。本実施形態において説明する描画装置は、複数の電子ビーム(荷電粒子線)を偏向(走査)させ、かつ、電子ビームのブランキング(照射のOFF)を個別に制御することで、所定の描画データを被処理基板の所定の位置に描画するマルチビーム方式の描画装置とする。ここで、荷電粒子線は、本実施形態のような電子線に限定されず、イオン線(イオンビーム)などの他の荷電粒子線であってもよい。
【0012】
図1は、本実施形態に係る描画装置1の構成を示す図である。なお、以下の各図では、被処理基板に対する電子ビームのノミナルの照射方向にZ軸を取り、Z軸に垂直な平面内に互いに直交するX軸およびY軸を取っている。また、以下の各図では、図1と同一構成のものには同一の符号を付す。さらに、図1に示す描画装置1は、後述する電子源と光学系との組を複数有する(ここでは一例として2つの組を有する)ものとするが、1つの組のみを有するものであってもよい。以下、2つの組は、それぞれ同一構成であるので、1つの組を含む部分について説明する。描画装置1は、電子源2と、該電子源2のクロスオーバー3から発散した電子ビームを複数の電子ビームに分割、偏向、および結像させる光学系4と、被処理基板7を保持する基板ステージ5と、描画装置1の各構成要素の動作などを制御する制御部6とを備える。なお、被処理基板7は、例えば、単結晶シリコンからなるウエハであり、表面上には感光性のレジストが塗布されている。
【0013】
ここで、電子ビームは、大気圧雰囲気ではすぐに減衰し、また、高電圧による放電を防止する意味もかねて、制御部6を除く上記構成要素は、真空排気系により内部圧力が適宜調整された真空空間内に設置される。例えば、描画装置1は、まず、電子源2が収容される第1チャンバー20と、光学系4のうちアパーチャアレイ11やブランキング偏向器アレイ13などを収容する第2チャンバー21と、偏向器アレイ15などを収容する第3チャンバー22とを有する。同様に、描画装置1は、基板ステージ5を収容する第4チャンバー23も有する。特に、第1チャンバー20の内部は、その外部に設置されたイオンポンプ24に接続されて高い真空度に保たれており、具体的な真空度は、電子ビームを照射しない状態で、5.0×10-7〜3.0×10‐6Pa程度である。また、第2〜第4チャンバー21〜23の内部も、不図示の真空ポンプにそれぞれ接続され、第1チャンバー20の内部よりも低い真空度ではあるが、10-5Pa台程度に保たれる。
【0014】
電子源(荷電粒子線源)2は、ディスペンサーカソード(カソード材はBaO/W)などを電子放出部に含む、いわゆる熱電子型の電子源である。この電子源2は、その内部に設置された不図示のカソード電極を、外部に設置された電源25から電流を供給することで1200〜1500K程度に加熱させ、このカソード電極から熱電子を放出させる。放出された熱電子は、アノード電極8により数kVの電圧が印加されて加速し、クロスオーバー3から電子ビーム(電子線束)として発散する。なお、図中では、クロスオーバー3から照射された電子ビームの軌道2aを点線で示している。また、電子源2は、このようなディスペンサーカソード型に限らず、例えばLaB6型のものでもよい。
【0015】
光学系4は、電子源2から放射された電子ビームを被処理基板7上に投影する投影系である。この光学系4は、電子源2側から順に、コリメーターレンズ10、アパーチャアレイ11、第1静電レンズアレイ12、ブランキング偏向器アレイ13、ブランキング絞り14、偏向器アレイ15、および第2静電レンズ16を含む。さらに、光学系4は、ブランキング偏向器アレイ13とブランキング絞り14との間に設置される第3静電レンズ17と、ブランキング絞り14と偏向器アレイ15との間に隣設される第4静電レンズ18と第5静電レンズ19とを含む。まず、コリメーターレンズ10は、クロスオーバー3で発散した電子ビームを平行ビーム(所望の大きさを持った面積ビーム)とする電磁レンズである。なお、コリメーターレンズ10は、静電レンズであってもよい。アパーチャアレイ11は、マトリクス状に配列した複数の円形状の開口を有する開口部材であり、コリメーターレンズ10からほぼ垂直に入射した電子ビームを、複数の電子ビームに分割する。なお、このアパーチャアレイ11の構成などについては、以下で詳説する。第1静電レンズアレイ12は、円形状の開口を有する3枚の電極板(図中では3枚の電極板を一体で示している)から構成されるレンズであり、ブランキング偏向器アレイ13上に電子ビームを結像(収束)させる。ブランキング偏向器アレイ13は、マトリクス状に配置されたブランキング偏向器からなり、各電子ビームの照射のON(非ブランキング状態)/OFF(ブランキング状態)動作を実施する。ブランキング絞り14は、ブランキング偏向器アレイ13を通過して第3静電レンズ17により集束された電子ビームのうち、偏向された所望の電子ビームを遮蔽する。偏向器アレイ15は、第4および第5静電レンズ18、19を通過した電子ビームを、基板ステージ5に載置された被処理基板7の表面上でX軸方向に偏向(走査)させる。さらに、第2静電レンズ16は、偏向器アレイ15を通過した電子ビームを被処理基板7上に結像(収束)させる。なお、第2静電レンズ16により収束された電子ビーム(クロスオーバー3の像)は、基板ステージ5に設置された不図示の電子ビーム検出部により検出されるように構成されている。
【0016】
基板ステージ5は、被処理基板7を、例えば静電吸着により保持しつつ、適宜、少なくともXYの2軸方向に可動とする基板保持部であり、その位置は、不図示の干渉計(レーザー測長器)などにより実時間で計測される。さらに、制御部6は、例えばコンピュータなどで構成され、描画装置1の各構成要素に回線を介して接続され、プログラムなどにしたがって各構成要素の制御を実行し得る。本実施形態の制御部6は、後述するが、少なくとも、検出回路34からの出力に基づいて電子源2(カソード電極、または別体のアノード電極8)を制御する電子源コントローラ35を含む。なお、制御部6は、描画装置1の他の部分と一体で(共通の筐体内に)構成してもよいし、描画装置1の他の部分とは別体で(別の筐体内に)構成してもよい。
【0017】
次に、本実施形態の特徴であるアパーチャアレイ11について詳説する。図2は、本実施形態のアパーチャアレイ11の構成と、その上側にある構成要素とを示す概略図である。また、図3は、その上側から見たアパーチャアレイ11の上面図である。このアパーチャアレイ11は、図3に示すように、1つの電子源2に対応した照射領域(XY平面に平行な領域)に、一例として3×3で配列された9つの開口(電子ビームの通過領域)30を有し、コリメーターレンズ10から入射した電子ビームを9つに分割する。まず、アパーチャアレイ11は、図2に示すように、本体であるアパーチャプレート31に対して、電子ビームが入射する側の表面に、遮蔽板33を介して熱電変換素子32を備える。熱電変換素子32は、2種類の異なる金属または半導体を接合した接合部を有し、この接合部の両端に温度差があると起電力が生じるゼーベック効果を利用して熱を電力に変換する素子である。例えば、熱電変換素子32は、大きな電位差を得るために、接合部としてp型半導体素子とn型半導体素子との組み合わせを採用し、表面側からセラミック基板、p型半導体素子、n型半導体素子、および電極で構成され得る。これらの半導体素子の材料としては、ビスマステルル系(Bi−Te系)、鉛テルル系(Pb−Te系)、シリコン・ゲルマニウム系(Si−Ge系)などが採用可能である。また近年では、バリウム、ガリウム、スズからなる材料も採用可能である。本実施形態のアパーチャアレイ11は、このような熱電変換素子32を複数、すなわち、図3に示すように各開口30に隣接して有する。例えば、熱電変換素子32は、アパーチャアレイ11の複数の開口以外の表面一帯に配置され得る。遮蔽板33は、アパーチャプレート31に対する熱電変換素子32からの熱の影響を抑えるための熱遮蔽部材である。電子ビームは、通常、電子源2から数百mAの電流で照射され、コリメーターレンズ10にて数十kVで加速されるので、数kWオーダーのエネルギーがアパーチャアレイ11全体に放射される。これに対し、アパーチャアレイ11は、遮蔽板33を備えることで、熱によるアパーチャプレート31の過度な変形を抑えることができる。なお、遮蔽板33は、不図示の冷却装置により冷却される構成としてもよい。
【0018】
さらに、アパーチャアレイ11は、電子ビームが射出する側の面(裏面)に、熱電変換素子32の起電力に基づく電力を検出する検出回路(検出部)34を備える。この検出回路34は、アパーチャプレート31に形成された配線を介して各熱電変換素子32に接続される。また、検出回路34は、検出された電力を第2チャンバー21の外部の制御部6に送信するための無線装置(不図示)を含み得る。さらに、検出回路34の電源は、熱電変換素子32から生じた電力の一部を使用し得る。これにより、アパーチャアレイ11から第2チャンバー21の壁部を介した制御部6までの配線を省くことができる。
【0019】
次に、アパーチャアレイ11の作用について説明する。まず、図2を参照し、描画装置1内の2つの電子源2、40から照射された電子ビームは、アパーチャアレイ11の開口30を通過するものと、開口30を通過せずにアパーチャアレイ11で遮蔽されるものとに分かれる。このとき、アパーチャアレイ11にて遮蔽された電子ビームが熱電変換素子32に照射されることで、複数の熱電変換素子32は、温度上昇に伴う温度差により起電力を生じる。次に、検出回路34は、それぞれの電力を検出し、この電力を示す出力を制御部6内の電子源コントローラ35へ無線で送信する。電子源コントローラ35は、受信部36にて検出回路34からの無線出力を受信し、それぞれの熱電変換素子32による電力の分布を評価する。ここで、電力分布の評価方法(許容条件を満たすかどうかの判定)としては、例えば以下の2つの方法を採用し得る。まず、第1の方法は、電力の閾値(許容範囲)を予め設定しておく方法である。例えば、図3に示すように、1つの電子源2に対応する9つの熱電変換素子32a〜32iにおける電子ビームの照射領域は、通常領域37のようになる。そこで、各熱電変換素子32a〜32iのうち、4隅の熱電変換素子32a、32c、32g、32iを第1グループと定義し、その4つの間にそれぞれ位置する熱電変換素子32b、32d、32f、32hを第2グループと定義する。そして、さらに中央に位置する熱電変換素子32e(第3グループとする)と合わせて、計3つのグループのそれぞれに関して、閾値を設定する。このようなグループ分けは、クロスオーバー3の位置に対応する中心部からの距離を基準としたものである。これによれば、9つ全ての熱電変換素子32に関して閾値を設定する必要がないため、評価(比較)の効率がよい。さらに、第2の評価方法は、一方の電子源2に対応する照射領域(領域37)に位置する熱電変換素子32a〜32iの電力の分布と、他方の電子源40に対応する照射領域(領域38)に位置する熱電変換素子32j〜32rの電力の分布とを比較する方法である。電子源コントローラ35は、このような電力分布の評価(比較)を、描画装置1による通常の描画処理と並行して実行する。第1の比較方法を採用する場合、例えば、電子源コントローラ35が、あるグループ内の電力の値がそのグループに設定された閾値(許容範囲)を超えると判定したとする。この場合、電子源コントローラ35は、そのグループに対応する領域を通過する電子ビームの強度が変化し、照射領域全体の均一性が保たれていないと判断する。一方、第2の比較方法を採用する場合、例えば、電子源コントローラ35が、電子源2と電子源40とにそれぞれ対応する各熱電変換素子32の電力の分布を比較し、差異があると判定したとする。この場合、電子源コントローラ35は、差異のある領域を通過する電子ビームの強度が変化し、均一性が保たれていないと判断する。このとき、電子源コントローラ35は、電子源2(または電子源40)のカソード電極への電流(もしくはカソード材の温度)、または、アノード電極8(もしくはアノード電極41)による加速電圧などを変化させる。これにより、電子源コントローラ35は、電子ビームの強度分布を正常な範囲に調整することができる。
【0020】
このように、描画装置1は、熱電変換素子32の発生した電力の分布を検出して電子ビームの強度分布に相関のある情報を得ることで、例えば、電子ビームの強度の均一性を担保することができる。このような均一性の調整(補正)は、通常の描画処理と並行して実施可能であるため、描画装置1による生産性(スループット)の点でも有利である。また、遮蔽板33により、アパーチャプレート31、および、その下面(裏面)に配置された検出回路34の少なくとも一方に対する熱電変換素子32からの熱の影響を抑える(軽減する)ことができる。さらに、検出回路34は、熱電変換素子32により検出された電力を無線装置により電子源コントローラ35に送信するため、それらを接続する配線を削減することができる。また、熱電変換素子32と検出回路34との配線長を短くできるため、ノイズの影響も少ない。
【0021】
以上のように、本実施形態は、荷電粒子線の特性(例えば、強度分布)を把握するのに有利であり、もって荷電粒子線の特性の維持に有利な描画装置を提供することができる。
【0022】
なお、上記の説明では、電子源コントローラ35は、熱電変換素子32の電力の分布に基づいて電子ビームの強度の均一性が保たれていないと判断した場合、カソード電極の電流等を変化させるなど、電子源2(40)の制御により調整を行った。しかしながら、本発明は、これに限定されることなく、例えば、荷電粒子光学素子の制御により調整を行ってもよい。この場合、例えば、アノード電極8(41)の下側(後側)に設置されて軌道2a、40aを調整するアライナー偏向器26(42)や、コリメーターレンズ10(43)に与える電圧(電位)を変化させることで、調整を行うことができる。
【0023】
(第2実施形態)
次に、本発明の第2実施形態に係る描画装置について説明する。本実施形態の描画装置は、その構成自体は第1実施形態に係る描画装置1と同様である。特に本実施形態の描画装置の特徴は、第1実施形態における熱電変換素子32の発生した電力の分布を常にモニタリングすることで、電子源2(40)の動作寿命の判定に用いる点にある。図4は、一例として、電子源2に対応した熱電変換素子32のうち第2グループに属する4つの熱電変換素子32b、32d、32f、32hにより得られた各電力値W、W、W、Wを示すグラフである。なお、寿命判定に利用する熱電変換素子32の配置(選択)は、電子源の種類や形状により異なりうる。図4において、電子源2の使用期間が短い初期段階では、各電力値W、W、W、Wは、ほぼ一定であり、必要な照射特性(例えば、強度の均一性)を維持している状態にある。これに対して、電子源2の使用期間が時間T1を超えると、各電力値W、W、W、Wが徐々に低下し、電子源コントローラ35が電子源2の制御を実施しても所定の電力が維持されなくなる。すなわち、そのような時点では、電子源2の特性が低下(劣化)している。そこで、制御部6は、このような特性の低下を判定し、判定した時点で当該判定に関する情報を警告等として出力することができる。また、制御部6は、電子源2の使用時間がさらに経過して、電力値が所定の閾値Wを下回ることを判定し、判定した時点で当該判定に関する情報を「動作寿命の警告」などとして出力することができる。なお、これらの警告の方法としては、音声によるアラームや操作画面への表示等が挙げられる。このように、熱電変換素子32の発生した電力の分布は、電子ビームの特性の調整(強度の均一化など)のみならず、特別な構成要素の追加や変更を行うことなく、電子源2の動作寿命の判定にも利用することができる。もって、荷電粒子線の特性の維持に有利な描画装置を提供することができる。
【0024】
なお、以上の実施形態では、熱電変換素子32を設置する部材(構成要素)として、アパーチャアレイ11を例示したが、本発明は、これに限定するものではない。アパーチャアレイ11に熱電変換素子32を設置する構成は、描画装置に既存の部材に設置することから有利であるが、例えば、既設のものとは別に描画装置に設けたアパーチャアレイに熱電変換素子32を設置する構成もあり得る。また、以上の実施形態では、各熱電変換素子32をそれぞれの開口30に対応させて9つ配置する構成としたが、より詳細な電力分布を得るために、より多くの熱電変換素子を配置させる構成もあり得る。また、電子源の設置数も、対応する光学系の数に合わせて、2以上であってもよい。さらに、以上の実施形態では、電子源コントローラ35が電力分布の評価(比較)を実行するものとしたが、例えば、制御部6内の別の構成要素(演算回路など)が電力分布の評価を実行してもよい。また、その評価結果に基づいて電子源コントローラ35が電子源2(40)を制御するような構成としてもよい。
【0025】
(物品の製造方法)
本発明の実施形態に係る物品の製造方法は、例えば、半導体デバイスなどのマイクロデバイスや微細構造を有する素子などの物品を製造するのに好適である。該製造方法は、感光剤が塗布された基板の該感光剤に上記の描画装置を用いて潜像パターンを形成する工程(基板に描画を行う工程)と、該工程で潜像パターンが形成された基板を現像する工程とを含み得る。さらに、該製造方法は、他の周知の工程(酸化、成膜、蒸着、ドーピング、平坦化、エッチング、レジスト剥離、ダイシング、ボンディング、パッケージングなど)を含み得る。本実施形態の物品の製造方法は、従来の方法に比べて、物品の性能・品質・生産性・生産コストの少なくとも1つにおいて有利である。
【0026】
以上、本発明の好ましい実施形態について説明したが、本発明は、これらの実施形態に限定されず、その要旨の範囲内で種々の変形および変更が可能である。
【符号の説明】
【0027】
1 描画装置
2 電子源
2a 軌道
6 制御部
7 被処理基板
11 アパーチャアレイ
32 熱電変換素子
34 検出回路
35 電子源コントローラ
40 電子源

【特許請求の範囲】
【請求項1】
荷電粒子線で基板に描画を行う描画装置であって、
荷電粒子線源と、
前記荷電粒子線源から放射された荷電粒子線の一部を通過させる開口が形成された開口部材と、
前記開口部材に設けられ、該開口部材の前記開口以外の領域に向かう荷電粒子線が入射する複数の熱電変換素子と、
前記開口部材に配置されて前記複数の熱電変換素子の出力を検出する検出部と、
前記検出部の出力に基づいて、前記荷電粒子線源から放射された荷電粒子線の特性に関する制御を行う制御部と、
を有することを特徴とする描画装置。
【請求項2】
前記制御部は、前記検出部の出力に基づいて、前記複数の熱電変換素子の出力が許容条件を満たすように、前記荷電粒子線源を制御する、
ことを特徴とする請求項1に記載の描画装置。
【請求項3】
前記荷電粒子線源と前記開口部材との間に配置された荷電粒子光学素子を有し、
前記制御部は、前記検出部の出力に基づいて、前記複数の熱電変換素子の出力が許容条件を満たすように、前記荷電粒子光学素子を制御する、
ことを特徴とする請求項1に記載の描画装置。
【請求項4】
前記荷電粒子線源と該荷電粒子線源から放射された荷電粒子線を前記基板に投影する投影系との組を複数有する、ことを特徴とする請求項1ないし請求項3のいずれか1項に記載の描画装置。
【請求項5】
前記制御部は、前記検出部の出力に基づいて、前記荷電粒子線源の寿命に関する出力を行う、ことを特徴とする請求項1ないし請求項4のいずれか1項に記載の描画装置。
【請求項6】
前記制御部は、前記描画と並行して、前記制御を行う、ことを特徴とする請求項1ないし請求項5のいずれか1項に記載の描画装置。
【請求項7】
前記開口部材は、前記荷電粒子線源から放射された荷電粒子線を複数の荷電粒子線に分割するアパーチャアレイを含む、ことを特徴とする請求項1ないし請求項6のいずれか1項に記載の描画装置。
【請求項8】
前記検出部は、荷電粒子線が射出する側の前記開口部材の面に配置され、前記複数の熱電変換素子と前記検出部との間には熱遮蔽部材が配置されている、ことを特徴とする請求項1ないし請求項7のいずれか1項に記載の描画装置。
【請求項9】
前記検出部は、前記熱電変換素子を電源として動作する、ことを特徴とする請求項1ないし請求項8のいずれか1項に記載の描画装置。
【請求項10】
請求項1ないし請求項9のいずれか1項に記載の描画装置を用いて基板に描画を行う工程と、
前記工程で描画を行われた基板を現像する工程と、
を含むことを特徴とする物品の製造方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate