説明

荷電粒子線照射装置、荷電粒子線描画装置及び物品製造方法

【課題】 荷電粒子線の特性の計測精度の点で有利な照射装置を提供する。
【解決手段】 複数の荷電粒子線を物体に照射する照射装置は、複数の開口を有する遮蔽板と、前記複数の開口をそれぞれ通過した複数の荷電粒子線をそれぞれ検出する複数の検出器とを含み、前記複数の荷電粒子線の強度を計測する計測器と、前記複数の荷電粒子線がそれぞれ前記複数の開口のエッジを横切るように前記複数の荷電粒子線と前記計測器との間の相対的な走査を行う走査手段と、前記走査手段と前記計測器とを制御して前記複数の荷電粒子線それぞれの特性を求める制御部と、を備える。前記走査の期間において、前記複数の荷電粒子線の前記遮蔽板によって遮断されるエネルギーが時間とともに変動しないように構成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、荷電粒子線照射装置、荷電粒子線描画装置及び物品製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
複数の電子線を用いた描画方法において、電子線の特性のばらつきや経時変化の影響を低減するため、定期的に電子線の特性を計測して補正を行うことが必要である。計測するセンサの画素よりも電子線の径が十分に大きいのであれば、2次元センサを用いて電子線の特性を直接計測することが可能であるが、電子線の径は数十nmと小さく、直接計測することが不可能である。このような電子線を計測する場合、例えば、ナイフエッジを用いた計測が有効である。ナイフエッジ法は、センサの上部に構成したナイフエッジプレートで電子線を遮断ながら計測を行う。そのため、ナイフエッジプレートには、遮断された電子線のエネルギーが照射され、結果として温度が上昇する。温度上昇が発生した場合、熱による膨張が発生し、エッジの位置が変化してしまう。ナイフエッジ法では、遮断される電子線の量は、計測中に変動していくため、エッジの位置も計測中に変動してしまい、計測精度の低下につながる。
【0003】
電子線の照射による温度変動の影響を低減する手段として、特許文献1では、パターンドビームを形成するアパーチャ板に加熱手段を構成し、電子線の照射量と加熱手段による熱量の総和が一定になるように制御する方法が提案されている。また、特許文献2では、ブランカを制御する配線基板の発熱量を一定にするために基板にヒータを内蔵する方法が提案されている。特許文献3では、電子線が照射された場合の露光領域と電子線が照射されていない非露光領域の温度差を低減するために、非露光領域にレジストに影響を与えない放射線を照射して対象物に照射される総エネルギー量を一定にする方法が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平11−162811号公報
【特許文献2】特開平9−134869号公報
【特許文献3】特表2000−243696号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1〜3では、入力される熱量が常に一定になるため、温度の変動を低減することが可能である。しかし、電子線による加熱に加え、加熱手段からの熱も加わり、トータルの加熱量が増加してしまう。そのため、周辺部材の熱膨張による位置ずれ量の増大や、伝送経路の抵抗値が上昇することによる信号の伝送特性の低下といった懸念がある。さらに、加熱手段を利用する場合には、温度計測手段、ヒータ、制御手段等、新たな構成要素の追加が必要になり、装置構成が複雑になってしまう。
【0006】
本発明は、荷電粒子線の特性の計測精度の点で有利な照射装置を提供することを例示的目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、複数の荷電粒子線を物体に照射する照射装置であって、複数の開口を有する遮蔽板と、前記複数の開口をそれぞれ通過した複数の荷電粒子線をそれぞれ検出する複数の検出器とを含み、前記複数の荷電粒子線の強度を計測する計測器と、前記複数の荷電粒子線がそれぞれ前記複数の開口のエッジを横切るように前記複数の荷電粒子線と前記計測器との間の相対的な走査を行う走査手段と、前記走査手段と前記計測器とを制御して前記複数の荷電粒子線それぞれの特性を求める制御部と、を備え、前記走査の期間において、前記複数の荷電粒子線の前記遮蔽板によって遮断されるエネルギーが時間とともに変動しないように構成されている、ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、例えば、荷電粒子線の特性の計測精度の点で有利な照射装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】描画装置の構成図
【図2】ナイフエッジ法を説明する図
【図3】計測時の電子線照射量の変化を示す図
【図4】従来技術の計測を説明する図
【図5】実施例1の計測を説明する図
【図6】実施例2の計測を説明する図
【図7】実施例3の計測を説明する図
【図8】実施例3の計測の別例を説明する図
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施の形態を、図面を用いて説明する。本発明は、電子線、イオンビーム等、複数の荷電粒子線を物体に照射する照射装置に適用可能であるが、複数の電子線で基板にパターンを描画する描画装置に適用した例について説明する。まず、複数の電子線で描画を行う描画装置の構成を図1の概略図を用いて説明する。電子銃はクロスオーバ1の像を形成する。このクロスオーバ1を荷電粒子線源としてコンデンサレンズ2で略平行な電子線を作る。アパーチャアレイ3は、開口が2次元に配列して形成されている。レンズアレイ4は、同一の焦点距離を持つ静電レンズが2次元に配列して形成されている。ブランカアレイ5は、電子線を個別に偏向することが可能な静電ブランカが2次元に配列して形成されている。
【0011】
投影する電子線の数は、ブランキング制御部13によってブランカアレイ5を制御することで制御される。コンデンサレンズ2によって作られた平行な電子線は、アパーチャアレイ3によって複数の電子線に分割される。分割された電子線は、レンズアレイ4によって、ブランカアレイ5の高さにクロスオーバ1の中間像を形成する。ブランカアレイ5を通過した電子線は、電磁レンズ7,9により、ステージ11上に保持された基板10又は計測器12上に投影される。ブランカアレイ5を通過した電子線は、偏向器制御部16によって制御される偏向器8によって個別に偏向され、各電子線の投影像の位置は、偏向器8の偏向量により決定される。アパーチャアレイ3、レンズアレイ4、ブランカアレイ5、電磁レンズ7,9、偏向器8は、複数の電子線を基板10に向けて射出する荷電粒子光学系を構成している。
【0012】
計測器12は、計測器制御部14によって制御され、照射された電子線の特性を計測する。計測項目は例えば電子線の強度、強度分布、照射位置である。計測条件は、主制御部15で算出され、ブランキング制御部13によってブランカアレイ5を駆動することで選択される。計測器12で計測された結果は、主制御部15に送られ、主制御部15によって電子線の特性の算出が行われる。主制御部15及び計測器制御部14は、各電子線の強度の変化から各電子線の特性を求める制御部を構成している。
【0013】
ナイフエッジを用いて計測するナイフエッジ法の概要について図2〜図3を用いて説明する。計測器12は、ナイフエッジプレート(遮蔽板)22と計測用センサ(検出器)23とを含む。ナイフエッジプレート22は導電性のプレートで、複数の開口が構成されている。計測器12は、電子線21が開口のエッジ24を横切って移動するように電子線21を計測器12に対して相対的に走査させながら電子線21の強度を計測する。電子線21の計測器12に対する相対的な走査方向は、ナイフエッジプレート22の表面に平行な方向である。ここでは、説明を簡単にするため1本の電子線21を計測する場合について説明を行う。まずナイフエッジプレート22上に電子線21が照射される状態から計測を開始する(図2の(a))。次にナイフエッジプレート22と計測センサ23とを矢印の方向に走査させ、計測を行う(図2の(b)〜(c))。このとき、ナイフエッジプレート22に照射される電子線21のエネルギー量は図3のように変化するため、温度の変動が発生してしまう。
【0014】
[実施例1]
実施例1の計測器12におけるナイフエッジプレート22の構成について図4〜図5を用いて説明する。まず、複数の電子線21を同時に計測する場合について説明する。一例として、2×2の配列を用いて説明を行うが、2×2に限定するものではない。図4は4本の電子線21と4つのナイフエッジ24が同じ配列で構成されている場合を示している。電子線21のうち、黒く塗りつぶされた部分212は、ナイフエッジプレート22に遮断されてナイフエッジプレートへ照射される部分を示す。また、部分211は、ナイフエッジプレート22を通過して計測センサ23によって検出される部分を示す。1本の電子線21のトータルエネルギーを“1”とすると、電子線21の中央にエッジが位置する場合、ナイフエッジプレート22に照射されるエネルギーは0.5/本になる。したがって、4本の電子線21について足し合わせたナイフエッジプレート22に照射される総エネルギー量は、0.5×4=2になる(図4の(a))。次に、エッジの位置が電子線21の径の1/4だけ移動した場合を考える。その場合、ナイフエッジプレート22へ照射される部分212の面積は26%/本になる。その結果、ナイフエッジプレート22へ照射される4本の電子線21の総エネルギー量は0.26×4=1.04と約半分に減少してしまう(図4の(b))。
【0015】
次に、実施例1のナイフエッジプレート22の構成について図5を用いて説明する。ナイフエッジ24は、従来のナイフエッジ24’の位置に比べて一つ分だけシフトして構成される(図5の(a))。4本の電子線21は、各電子線の走査方向に沿って互いに隣り合って配置された2つの電子線21a,21bからなる複数(図5では2つ)の組から構成されている。従来例と同様に1本の電子線21の合計エネルギーを“1”として考えると、電子線21の中央にエッジがある場合、ナイフエッジプレート22に照射される面積は4本の電子線21のいずれにおいても50%である。したがって、その場合にナイフエッジプレート22へ照射される4本の電子線21の総エネルギー量は0.5×4=2になる(図5の(b))。次に、エッジの位置が電子線の径の1/4だけ移動した場合を考える。ナイフエッジプレート22に照射される面積は、右側に位置する一方の電子線21bにおいて従来と同じく26%に減少するが、左側に位置する他方の電子線21aにおいて74%に増大する(図5の(c))。その結果、4本の電子線の少なくとも1本の電子線の少なくとも一部が開口を通過する期間におけるナイフエッジプレート22へ照射される総エネルギー量は0.26×2+0.74×2=2で、合計値を一定量に維持することが出来る。
【0016】
実施例1では、電子線を走査するときにナイフエッジプレート22に遮断されるエネルギーの増減が互いに異なる電子線21aと電子線21bとを互いに隣り合うように配置して1つの組とした。しかし、電子線21aと電子線21bとは互いに隣り合うように配置されていなくてもよい。複数の電子線のそれぞれが、第1グループ及び第2グループのいずれかに属し、電子線を走査するときに第1グループの電子線と第2グループの電子線とのナイフエッジプレート22に遮断されるエネルギーの増減が互いに異なればよい。実施例1のナイフエッジプレート22を用いることで、ナイフエッジ法による計測を行う場合に、電子線の計測位置による温度変動を低減し、精度の良い計測を行うことが出来る。
【0017】
[実施例2]
実施例2における電子線の偏向制御方法について図6を用いて説明する。実施例1と同様に各電子線21の中央にエッジがある場合、ナイフエッジプレート22に照射されるエネルギーは合計で2になる(図6の(a))。次に、全ての電子線21を同一方向に偏向する、従来の計測方法を用いて電子線21を径の1/4だけ偏向した場合を考える。ナイフエッジプレート22へ照射される合計エネルギーは、従来例と同じく、0.26×4=1.04と約半分に減少してしまう(図6の(b))。
【0018】
次に、隣接する電子線21a,21bを異なる方向に偏向させて計測を行う実施例2の場合を考える。ここでは、例として偏向方向を反転しているが、偏向方向を限定するものではない。エッジの位置が電子線の径の1/4だけ移動すると、ナイフエッジプレート22に照射される面積は、右側に位置する電子線21bにおいて従来と同じく26%に減少する。しかし、左側に位置する電子線21aにおいて74%に増大する (図6の(c))。その結果、4本の電子線によるナイフエッジプレート22へ照射される総エネルギー量は0.26×2+0.74×2=2で、一定量に維持することが出来る。実施例2の偏向制御方法を用いることで、ナイフエッジ法による計測を行う場合に、電子線の計測位置による温度変動を低減し、精度の良い計測を行うことが出来る。
【0019】
[実施例3]
実施例3における照射を行う電子線の数又は照射時間の制御方法について図7、図8を用いて説明する。一例として、実施例1、2と同じビームエネルギー量を照射する場合について説明を行うが、エネルギー量を限定するものではない。実施例1、2では、計測を行っている間にナイフエッジプレートへ照射されるエネルギー量は、全ビームのエネルギーの1/2である(図7の(a))。次に、計測を行っていない状態を図7(b)に示す。このとき、4本の電子線21a〜21dは全てナイフエッジプレート22に照射されるので、ナイフエッジプレート22へ照射される合計エネルギーは4になり、温度が変動してしまう。実施例3では4本の電子線21のうち1/2をオフすることで合計エネルギー量を計測時と同じ全体の1/2に保ち、温度変動を低減させる(図7の(c))。もしくは、図8に示すように、4本の電子線すべての照射時間を1/2に減らすことで、合計エネルギー量を制御しても良い。上記制御方法を用いることで、計測を行っていない状態でも、ナイフエッジプレート22に照射されるエネルギー量の変動を低減し、精度の良い計測を行うことが出来る。
【0020】
以上、複数の荷電粒子線で基板に描画を行う描画装置を例に、本発明の実施形態を説明した。しかし、本発明は、描画装置に限らず、電子顕微鏡や電子測長装置等、複数の荷電粒子線を利用する他の荷電粒子線装置にも適用することができる。
【0021】
[物品の製造方法]
本発明の実施形態に係る物品の製造方法は、例えば、半導体デバイス等のマイクロデバイスや微細構造を有する素子等の物品を製造するのに好適である。該製造方法は、感光剤が塗布された基板の該感光剤に上記の描画装置を用いて潜像パターンを形成する工程(基板に描画を行う工程)と、当該工程で潜像パターンが形成された基板を現像する工程とを含みうる。さらに、該製造方法は、他の周知の工程(酸化、成膜、蒸着、ドーピング、平坦化、エッチング、レジスト剥離、ダイシング、ボンディング、パッケージング等)を含みうる。本実施形態の物品の製造方法は、従来の方法に比べて、物品の性能・品質・生産性・生産コストの少なくとも1つにおいて有利である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の荷電粒子線を物体に照射する照射装置であって、
複数の開口を有する遮蔽板と、前記複数の開口をそれぞれ通過した複数の荷電粒子線をそれぞれ検出する複数の検出器とを含み、前記複数の荷電粒子線の強度を計測する計測器と、
前記複数の荷電粒子線がそれぞれ前記複数の開口のエッジを横切るように前記複数の荷電粒子線と前記計測器との間の相対的な走査を行う走査手段と、
前記走査手段と前記計測器とを制御して前記複数の荷電粒子線それぞれの特性を求める制御部と、
を備え、
前記走査の期間において、前記複数の荷電粒子線の前記遮蔽板によって遮断されるエネルギーが時間とともに変動しないように構成されている、ことを特徴とする照射装置。
【請求項2】
前記複数の荷電粒子線のそれぞれは、第1グループ及び第2グループのいずれかに属し、
前記走査の期間において、前記第1グループに属する荷電粒子線の前記遮蔽板によって遮断されるエネルギーが増大するとき、前記第2グループに属する荷電粒子線の前記遮蔽板によって遮断されるエネルギーは減少する、ことを特徴とする請求項1に記載の照射装置。
【請求項3】
前記走査は、前記複数の荷電粒子線と前記計測器との間において同一の方向になされ、前記複数の開口は、前記走査の期間において、前記複数の荷電粒子線の前記遮蔽板によって遮断されるエネルギーが時間とともに変動しないように、前記遮蔽板に配列されている、ことを特徴とする請求項1または請求項2に記載の照射装置。
【請求項4】
前記複数の荷電粒子線を個別に偏向する偏向器を備え、
前記制御部は、前記偏向器を制御して、前記走査の期間において、前記複数の荷電粒子線の前記遮蔽板によって遮断されるエネルギーが時間とともに変動しないように、前記複数の荷電粒子線のうち一部の荷電粒子線と他の一部の荷電粒子線とを互いに異なる方向に偏向させる、ことを特徴とする請求項1または請求項2に記載の照射装置。
【請求項5】
前記特性は、強度、強度分布および照射位置の少なくとも1つを含む、ことを特徴とする請求項1乃至請求項4のいずれか1項に記載の照射装置。
【請求項6】
前記複数の荷電粒子線がすべて前記遮蔽板によって遮断される期間および前記走査の期間において、前記複数の荷電粒子線の前記遮蔽板によって遮断されるエネルギーが時間とともに変動しないように構成されている、ことを特徴とする請求項1乃至請求項5のいずれか1項に記載の照射装置。
【請求項7】
前記複数の荷電粒子線を射出する荷電粒子光学系を備え、
前記制御部は、前記複数の荷電粒子線がすべて前記遮蔽板によって遮断される期間において、前記荷電粒子光学系が前記遮蔽板を照射する荷電粒子線の数および照射時間の少なくとも一方を制御する、ことを特徴とする請求項6に記載の照射装置。
【請求項8】
請求項1乃至請求項7のいずれか1項に記載の照射装置を含み、複数の荷電粒子線で基板に描画を行う、ことを特徴とする描画装置。
【請求項9】
請求項8に記載の描画装置を用いて基板に描画を行う工程と、
前記工程で描画を行われた前記基板を現像する工程と、
を含むことを特徴とする物品の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2013−69812(P2013−69812A)
【公開日】平成25年4月18日(2013.4.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−206557(P2011−206557)
【出願日】平成23年9月21日(2011.9.21)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】