説明

荷電粒子線照射装置及び荷電粒子線照射装置の照射位置検出方法

【課題】被照射体に対する照射量の高精度なコントロールを実現できる荷電粒子線照射装置を提供する。
【解決手段】本発明は、被照射体に荷電粒子線Rを照射する荷電粒子線照射装置100であって、荷電粒子線Rを走査して、被照射体の所定の部位へ荷電粒子線Rを照射する照射部1と、照射部1内に設けられ、被照射体へ向かう荷電粒子線Rの照射位置を検出するビーム位置モニタ5と、ビーム位置モニタ5に対して荷電粒子線Rの下流側に配置され、荷電粒子線Rを通過させる開放状態と荷電粒子線を遮断する遮断状態とを切り換え可能なシャッター機構6と、を備える。この荷電粒子線照射装置100によれば、シャッター機構6を遮断状態に切り換えることにより照射位置調整前の荷電粒子線Rを患者に照射することなく照射位置の確認及び調整を行うことができるので、被照射体に対する照射量の高精度なコントロールを実現できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、荷電粒子線照射装置及び荷電粒子線照射装置の照射位置検出方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、患者の腫瘍などの被照射体に荷電粒子線を照射して治療を施す荷電粒子線照射装置が知られている。このような荷電粒子線照射装置では、照射位置の正確な調整のため、治療直前に荷電粒子線を実際に照射することで照射位置の確認が行われる。このときには、患者への影響を抑えるために強度を低減させた荷電粒子線の照射が行われる。例えば、特許文献1には、照射位置の確認時に、ビーム輸送系に設けられた減衰器によって荷電粒子線の強度を減衰させるシステムが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2001−210498号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、照射位置確認時の荷電粒子線は未だ照射位置が調整されておらず正確なコントロールができていない。このため、被照射体の何れの部位に照射されるか分からず、精密に管理すべき被照射体への照射量に誤差が生じるおそれがある。
【0005】
そこで、本発明は、被照射体に対する荷電粒子線の照射量の高精度なコントロールを実現できる荷電粒子線照射装置及び荷電粒子線照射装置の照射位置検出方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するため、本発明は、被照射体に荷電粒子線を照射する荷電粒子線照射装置であって、荷電粒子線を走査して、被照射体の所定の部位へ荷電粒子線を照射する照射部と、照射部内に設けられ、被照射体へ向かう荷電粒子線の照射位置を検出する位置検出手段と、位置検出手段に対して荷電粒子線の下流側に配置され、荷電粒子線を通過させる開放状態と荷電粒子線を遮断する遮断状態とを切り換え可能な遮断手段と、を備えることを特徴とする。
【0007】
本発明に係る荷電粒子線照射装置によれば、遮断手段を遮断状態に切り換えることにより荷電粒子線を遮断できるので、腫瘍などの被照射体に実際に照射することなく位置検出手段による照射位置の確認を行うことができる。従って、この荷電粒子線照射装置によれば、調整前の荷電粒子線が患者や被照射体に照射されることなく照射位置の確認及び調整を行うことができるので、被照射体に対する照射量の高精度なコントロールを実現できる。
【0008】
本発明に係る荷電粒子線照射装置においては、遮断手段が位置検出手段に隣設していることが好ましい。
【0009】
本発明に係る荷電粒子線照射装置によれば、遮断手段と位置検出手段の間に他の部材が介在する場合と比べて、位置検出手段を被照射体の近くに配置すると共に遮断手段を被照射体の遠くに配置することができる。従って、この荷電粒子線照射装置によれば、位置検出手段を被照射体の近くに配置することで位置検出手段と被照射体との間に介在する大気の影響で検出した荷電粒子線の照射位置と実際の照射位置に誤差が生じることを避けることができる。また、この荷電粒子線照射装置によれば、遮断手段を照射部に取り付けるので、被照射体側に遮断手段を配置する場合に比べ、被照射体の遠くに配置することで荷電粒子線の遮断時に遮断手段で発生した中性子線が患者に影響することを避けることができる。
【0010】
本発明に係る荷電粒子線照射装置においては、遮断手段は、荷重粒子線を吸収して遮断する遮断部材と、遮断部材を荷電粒子線の照射経路上と照射経路の外との間で移動させることが可能な遮断部材移動手段と、を有することが好ましい。
【0011】
本発明に係る荷電粒子線照射装置によれば、遮断手段を簡素な構成とすることにより、遮断手段を小型化することができるので、遮断手段の配置に必要なスペースの削減を図ることができる。
【0012】
本発明は、被照射体に荷電粒子線を照射する荷電粒子線照射装置であって、コリメータにより照射野を規定して、被照射体へ荷電粒子線を照射する照射部と、照射部内に設けられ、被照射体へ向かう荷電粒子線の照射位置を検出する位置検出手段と、位置検出手段に対して荷電粒子線の下流側に配置され、荷電粒子線を通過させる開放状態と荷電粒子線を遮断する遮断状態とを切り換え可能な遮断手段と、を備えることを特徴とする。
【0013】
本発明に係る荷電粒子線照射装置によれば、遮断手段を遮断状態に切り換えることにより荷電粒子線を遮断できるので、腫瘍などの被照射体に実際に照射することなく位置検出手段による照射位置の確認を行うことができる。従って、この荷電粒子線照射装置によれば、調整前の荷電粒子線が患者や被照射体に照射されることなく照射位置の確認及び調整を行うことができるので、被照射体に対する照射量の高精度なコントロールを実現できる。
【0014】
本発明は、被照射体に荷電粒子線を照射する照射部を有する荷電粒子線照射装置の照射位置検出方法であって、照射部を通じて被照射体へ向かう荷電粒子線の照射位置を検出する位置検出手段に対して荷電粒子線の下流側に配置された遮断手段により荷電粒子線を遮断可能な状態にする遮断ステップと、遮断ステップの後、荷電粒子線を照射する照射ステップと、位置検出手段により荷電粒子線の照射位置を検出する照射位置検出ステップと、を有することを特徴とする。
【0015】
本発明に係る荷電粒子線照射装置の照射位置検出方法によれば、遮断手段を遮断可能な状態にした後に荷電粒子線を照射部に供給して、荷電粒子線の照射位置を検出することで、患者の腫瘍などの被照射体に実際に照射することなく照射位置の確認を行うことができる。従って、この照射位置検出方法によれば、調整前の荷電粒子線が患者や被照射体に照射されることなく照射位置の確認を行うことができるので、被照射体に対する照射量の高精度なコントロールを実現できる。
【0016】
本発明に係る荷電粒子線照射装置の照射位置検出方法においては、荷電粒子線を吸収して遮断する遮断部材と、遮断部材を荷電粒子線の照射経路上と照射経路の外との間で移動させることが可能な遮断部材移動手段と、を有し、遮断ステップは、遮断部材移動手段が遮断部材を荷電粒子線の照射経路上に移動させることで荷電粒子線を遮断可能な状態にすることが好ましい。
【0017】
本発明に係る荷電粒子線照射装置の照射位置検出方法によれば、簡素な構成の遮断手段を用いることで、遮断可能な状態にするための時間を短くすることができ、遮断ステップの短時間化が図られる。
【0018】
本発明に係る荷電粒子線照射装置の照射位置検出方法においては、照射位置検出ステップにおける照射位置の検出結果を利用して荷電粒子線の照射位置を調整する照射位置調整ステップを有することが好ましい。
【0019】
本発明に係る荷電粒子線照射装置の照射位置検出方法によれば、調整前の荷電粒子線が患者や被照射体に照射されることなく照射位置を確認して調整することができるので、被照射体に対する照射量の高精度なコントロールを実現できる。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、被照射体に対する照射量の高精度なコントロールを実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】第1の実施形態に係る荷電粒子線照射装置を示す斜視図である。
【図2】図1に示すスキャニング方式の照射部を示す斜視図である。
【図3】(a)開放状態のシャッター機構を示す平面図である。(b)開放状態のシャッター機構を示す正面図である。
【図4】(a)遮断状態のシャッター機構を示す平面図である。(b)遮断状態のシャッター機構を示す正面図である。
【図5】第1の実施形態に係る荷電粒子線照射装置で実行される処理を示すフローチャートである。
【図6】第2の実施形態に係るワブラー方式の照射部を示す斜視図である。
【図7】第2の実施形態に係る荷電粒子線照射装置で実行される処理を示すフローチャートである。
【図8】他の実施形態に係るワブラー方式の照射部を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の好適な実施形態について、図面を参照して詳細に説明する。なお、図5,図7を除く各図にはXYZ直交座標系を示しており、必要に応じてX軸、Y軸、Z軸を用いた説明を行う。
【0023】
[第1の実施形態]
図1に示されるように、照射部1は、荷電粒子線照射装置100において、治療台105を取り囲むように設けられた回転ガントリ103に取り付けられ、この回転ガントリ103によって治療台105の回りに回転可能とされている。そして、治療台105に寝かされた患者の腫瘍などの被照射体に対して、照射方向Aで荷電粒子線R(図2参照)を照射する。荷電粒子線Rは、電荷をもった粒子を高速に加速したものであり、荷電粒子線Rとしては、例えば陽子線、重粒子(重イオン)線等が挙げられる。
【0024】
なお、図1には示されていないが、荷電粒子線照射装置100は、イオン源で生成した荷電粒子線を加速して荷電粒子線Rを出射するサイクロトロンを治療台105及び回転ガントリ103から離れた位置に備えている。サイクロトロンから出射された荷電粒子線Rはビーム輸送系を介して照射部1に供給される。
【0025】
この照射部1では、スキャニング方式により、治療台105上の患者の体内の腫瘍に向けて荷電粒子線Rを連続照射する。照射部1は、腫瘍を深さ方向(照射方向A)に複数層に分け、各層に設定された照射野内において荷電粒子線Rを走査しながら連続照射(いわゆるラスタースキャニングやラインスキャニング)を行う。荷電粒子線Rは、スキャニング方式で用いられるペンシルビームである。
【0026】
図2に示すように、照射部1は、荷電粒子線Rの照射方向Aに順に配列され、ビーム輸送ラインを介してサイクロトロンから入力された荷電粒子線Rが発散するのを抑え収束させるための四極磁石2と、荷電粒子線RをX軸方向とY軸方向に走査するスキャニング電磁石3と、荷電粒子線Rが通過するダクト4と、荷電粒子線RのX軸方向とY軸方向の照射位置を検出するビーム位置モニタ(位置検出手段)5と、荷電粒子線Rを遮断又は通過させるシャッター機構(遮断手段)6と、を備えている。
【0027】
スキャニング電磁石3は、荷電粒子線RのX軸方向の照射位置を制御する一組の電磁石3Aと、Y軸方向の照射位置を制御する一組の電磁石3Bと、を含んで構成されている。電磁石3A及び電磁石3Bにより照射位置が制御された荷電粒子線Rは、略四角錐状のダクト4内を通ってビーム位置モニタ5に到達する。
【0028】
ビーム位置モニタ5は、照射部1内に設けられている。ビーム位置モニタ5は、XY平面内で格子状に配置されたグリッドワイヤを含んで構成されている。ビーム位置モニタ5は、荷電粒子線Rが照射されたグリッドワイヤの電気反応を検知することで、荷電粒子線Rの照射位置の検出を行う。
【0029】
次に、シャッター機構6について図3及び図4を参照して詳細に説明する。図3(a)は開放状態のシャッター機構6を示す平面図、図3(b)は開放状態のシャッター機構6を示す正面図である。また、図4(a)は遮断状態のシャッター機構6を示す平面図、図4(b)は遮断状態のシャッター機構6を示す正面図である。
【0030】
図3及び図4に示されるように、シャッター機構6は、照射部1の先端でビーム位置モニタ5に対して荷電粒子線Rの下流側に配置されている。シャッター機構6は、ビーム位置モニタ5に隣接して設けられている。シャッター機構6は、荷電粒子線Rの進路を遮ることで荷電粒子線Rの照射を遮断する遮断部材7と、遮断部材7をX軸方向(荷電粒子線Rの照射方向Aと直交する方向)に移動させるリニアアクチュエータ(遮断部材移動手段)8と、を有している。
【0031】
遮断部材7は、タングステン等の放射線を吸収する材質から構成されたブロック状の部材である。遮断部材7は、治療に用いられる強度の荷電粒子線Rを完全に遮断できるように形成されている。この遮断部材7の先端は、Z軸方向から見て半円形状をなすように形成されている。なお、遮断部材7は、先端が半円形状のものに限られず、例えば角状のものであっても良い。また、遮断部材7の基端側は、リニアアクチュエータ8に取り付けられている。
【0032】
リニアアクチュエータ8は、遮断部材7を荷電粒子線Rの照射経路の外と荷電粒子線Rの照射経路上との間で移動させることが可能なボールねじ方式のアクチュエータである。リニアアクチュエータ8は、遮断部材7をX軸方向で移動可能に支持するベース10と、遮断部材7を移動させるためのモータ11を有している。ベース10には、モータ11の回転によって遮断部材7をX軸方向に移動させるねじ軸12と、遮断部材7をX軸方向に案内する二本のリニアガイド13と、が設けられている。
【0033】
また、ベース10の下面には、遮断部材7の位置を検知するためのリミットスイッチ14,15が設けられている。なお、遮断部材7の位置検出は、リミットスイッチ14,15を用いる方法に限られず、遮断部材7の位置を常に検出可能なポテンショメータ等を用いても良い。
【0034】
シャッター機構6は、リニアアクチュエータ8が遮断部材7を荷電粒子線Rの照射経路の外(図3の位置)に移動させることで開放状態に切り換えられる。また、シャッター機構6は、リニアアクチュエータ8が遮断部材7を荷電粒子線Rの照射経路上(図4の位置)に移動させることで遮断状態に切り換えられる。

シャッター機構6は、荷電粒子線Rを通過させる開放状態及び荷電粒子線Rを遮断する遮断状態の何れか一方に切り換え可能に構成されている。
【0035】
シャッター機構6が開放状態の場合、遮断部材7は照射口Eを遮ることなく荷電粒子線Rは照射口Eを通過して患者体内の腫瘍に照射される。一方、シャッター機構6が遮断状態の場合、遮断部材7により荷電粒子線Rが完全に遮断され、荷電粒子線Rは患者に当たらない。
【0036】
次に、照射部1の制御系について説明する。図2に示す制御装置Tは、照射部1における荷電粒子線Rの照射を制御するものである。制御装置Tは、スキャニング電磁石3、ビーム位置モニタ5、及びシャッター機構6と通信可能に接続されている。制御装置Tは、荷電粒子線照射装置100とは別の治療計画装置で事前に決定された治療計画に基づき荷電粒子線Rの照射を行う。
【0037】
制御装置Tは、照射位置の確認のため荷電粒子線Rの試射を行う。制御装置Tは、シャッター機構6を遮断状態に切り換えた状態で試射を行う。制御装置Tは、荷電粒子線Rの照射位置をビーム位置モニタ5により検出した後、検出した実際の照射位置と治療計画に沿った正しい照射位置とのずれを判定する。制御装置Tは、ずれがあると判定した場合、ずれ量に応じてスキャニング電磁石3を制御することにより荷電粒子線Rの照射位置を調整する。なお、照射位置の調整は手動で行うこともできる。
【0038】
以下、図5を参照して、照射部1の制御装置Tにおいて実行される治療前の照射位置調整方法(照射位置検出方法)について説明する。
【0039】
制御装置Tは、治療前の照射位置調整が開始されると、まずシャッター機構6を遮断状態にする(S1)。ステップS1では、シャッター機構6のリニアアクチュエータ8が遮断部材7を図3に示す開放状態の位置から図4に示す遮断状態の位置に移動させることで、シャッター機構6の遮断状態への切り換えが行われる。なお、治療時以外は常にシャッター機構6を遮断状態にしているような場合は、このステップS1を行う必要はない。
【0040】
次に、制御装置Tは、サイクロトロンから出射された荷電粒子線Rを照射部1に供給して、荷電粒子線Rの照射を行う(S2)。その後、制御装置Tは、ビーム位置モニタ5により荷電粒子線Rの照射位置を検出する(S3)。このとき、荷電粒子線Rはシャッター機構6によって完全に遮断され、被照射体には照射されない。
【0041】
次に、制御装置Tは、荷電粒子線Rの照射位置が治療計画に沿った正しい照射位置であるか否かを判定する(S4)。制御装置Tは、荷電粒子線Rの照射位置が治療計画に沿った正しい照射位置であると判定した場合、ステップS6に移行する。
【0042】
制御装置Tは、荷電粒子線Rの照射位置が治療計画に沿った正しい照射位置ではないと判定した場合、荷電粒子線Rの照射位置の調整を行う(S5)。ステップS5において、制御装置Tは、ビーム位置モニタ5が検出した実際の照射位置と治療計画に沿った正しい照射位置とのずれ量を算出する。制御装置Tは、算出したずれ量に応じてスキャニング電磁石3を制御することで、荷電粒子線Rの照射位置を最適値に調整する。
【0043】
ステップS6において、制御装置Tは、シャッター機構6を遮断状態から開放状態にする。その後、制御装置Tは、荷電粒子線Rの照射による治療を開始する(S7)。
【0044】
以上説明した第1の実施形態に係る荷電粒子線照射装置100及びその照射位置検出方法によれば、シャッター機構6を遮断状態に切り換えることにより荷電粒子線Rを遮断できるので、腫瘍などの被照射体に実際に照射することなくビーム位置モニタ5による照射位置の確認を行うことができる。従って、この荷電粒子線照射装置100及びその照射位置検出方法によれば、調整前の荷電粒子線Rが患者や被照射体に照射されることなく照射位置の確認及び調整を行うことができるので、被照射体に対する照射量の高精度なコントロールを実現できる。
【0045】
更に、荷電粒子線照射装置100及びその照射位置検出方法によれば、照射位置の確認のため実際の強度より低い強度で荷電粒子線Rを照射する場合やビーム輸送系に設けた減衰器で荷電粒子線Rの強度を減衰する場合と比べて、治療に使用する強度のまま照射部1の先端まで至った荷電粒子線Rの照射位置を検出できるので、強度の低下や減衰に起因する誤差が検出結果に含まれない。従って、荷電粒子線照射装置100及びその照射位置検出方法によれば、精度の高い検出結果を利用した高精度な照射位置の調整を行うことができる。
【0046】
また、荷電粒子線照射装置100の照射部1では、シャッター機構6がビーム位置モニタ5に隣接する構成を採用している。この荷電粒子線照射装置100によれば、シャッター機構6とビーム位置モニタ5との間に他の部材が介在する場合と比べて、ビーム位置モニタ5を被照射体の近くに配置すると共にシャッター機構6を被照射体の遠くに配置することができる。従って、荷電粒子線照射装置100によれば、ビーム位置モニタ5を被照射体の近くに配置することでビーム位置モニタ5と被照射体との間に介在する大気の影響で検出した荷電粒子線の照射位置と実際の照射位置に誤差が生じることを避けることができる。また、荷電粒子線照射装置100によれば、シャッター機構6を照射部1に取り付けるので、患者側にシャッター機構6を配置する場合に比べ、被照射体の遠くに配置することで荷電粒子線の遮断時にシャッター機構で発生した中性子線が患者に影響することを避けることができる。
【0047】
更に、荷電粒子線照射装置100によれば、シャッター機構6を遮断部材7とリニアアクチュエータ8とを有する簡素な構成とすることにより、シャッター機構6を小型化することができ、シャッター機構6の配置に必要なスペースの削減を図ることができる。また、簡素な構成のシャッター機構6を用いることで、遮断状態にするための時間を短くすることができ、遮断ステップ(ステップS1)の短時間化が図られる。
【0048】
また、荷電粒子線照射装置100では、ワブラー方式の場合と比べて荷電粒子線Rの照射幅が狭いスキャニング方式のペンシルビームを用いるので、ワブラー方式の場合と比べてシャッター機構6の遮断する範囲を狭めることができる。従って、この荷電粒子線照射装置100によれば、遮断する範囲を狭くできるので、シャッター機構6の小型化及び省スペース化に有利である。しかも、荷電粒子線照射装置100によれば、ワブラー方式よりも強度の高いスキャニング方式のペンシルビームについて調整前の照射を防止するので、ワブラー方式の場合よりも効果的に、被照射体に対する照射量の高精度なコントロールが実現される。
【0049】
[第2の実施形態]
図6に示されるように、第2の実施形態に係る荷電粒子線照射装置は、スキャニング方式ではなくワブラー方式の照射部20を備えている点と、マルチリーフコリメータ26によって荷電粒子線Rを遮断する点と、が第1の実施形態に係る荷電粒子線照射装置100と異なる。
【0050】
具体的には、ワブラー方式の照射部20は、荷電粒子線Rの照射方向Aに順に配列され、ビーム輸送ラインを介してサイクロトロンから入力された荷電粒子線Rが発散するのを抑え収束させるための四極磁石21と、荷電粒子線RをX軸方向とY軸方向に制御するワブラー電磁石22と、荷電粒子線Rを散乱させる散乱体23と、を備えている。
【0051】
更に、照射部20は、照射される荷電粒子線Rの線量(強度)を測定する線量モニタ24と、荷電粒子線RのX軸方向とY軸方向の照射位置を検出するビーム位置モニタ(位置検出手段)25と、荷電粒子線Rの照射野を所望形状に整形するためのマルチリーフコリメータ(遮断手段)26と、照射方向Aの奥行きについて荷電粒子線Rを被照射体の形状に合わせて成形するボーラスが設置されるスノート(照射筒)27と、を備えている。なお、第2の実施形態における照射位置とは、ワブラー電磁石22の制御によりビーム径を拡大された荷電粒子線Rの照射範囲を意味している。
【0052】
ワブラー電磁石22は、X軸方向で荷電粒子線Rを制御するための一組の電磁石22Aと、Y軸方向で荷電粒子線Rを制御するための一組の電磁石22Bと、を含んで構成されている。ワブラー電磁石22により制御された荷電粒子線Rは、散乱体23で散乱した後、線量モニタ24及びビーム位置モニタ25により線量等を検出される。
【0053】
マルチリーフコリメータ26は、タングステン等の放射線を吸収する材質からなる多数のリーフ(板状部材)より構成されている。これらのリーフは厚さ方向(Y軸方向)に連隣接して並べられた二列のリーフ群を構成している。マルチリーフコリメータ26では、各リーフがX軸方向で独立して移動することで二列のリーフ群の間に所望形状の開口部Gが形成される。マルチリーフコリメータ26では、被照射体の形状に合わせて開口部Gを形成することにより、荷電粒子線Rの照射野を被照射体の形状に整形する。
【0054】
また、マルチリーフコリメータ26は、荷電粒子線Rの照射経路上にリーフを配置することで荷電粒子線Rを遮断する。このマルチリーフコリメータ26では、リーフの移動により、荷電粒子線Rを通過させる開放状態から荷電粒子線Rを完全に遮断する遮断状態に切り換えることができる。なお、遮断状態においては、必ずしも開口部Gを完全に閉じる必要はなく、荷電粒子線Rがリーフによって遮断されていれば良い。
【0055】
次に、照射部20の制御系について説明する。図6に示す制御装置T1は、荷電粒子線Rの照射を制御するものである。制御装置T1は、ワブラー電磁石22、線量モニタ24、ビーム位置モニタ25、及びマルチリーフコリメータ26と通信可能に接続されている。制御装置T1は、線量モニタ24及びビーム位置モニタ25の検出結果を利用してワブラー電磁石22による荷電粒子線Rの制御を行う。
【0056】
以下、図7を参照して、照射部20の制御装置T1において実行される治療前の照射位置調整方法(照射位置検出方法)について説明する。
【0057】
制御装置T1は、治療前の照射位置調整が開始されると、まずマルチリーフコリメータ26を遮断状態にする(S11)。なお、治療時以外は常にマルチリーフコリメータ26を遮断状態にしているような場合は、このステップS11を行う必要はない。
【0058】
次に、制御装置T1は、サイクロトロンから供給された荷電粒子線Rを照射部20により照射する(S12)。制御装置T1は、ビーム位置モニタ25により荷電粒子線Rの照射位置を検出すると共に、線量モニタ24により荷電粒子線Rの線量を検出する(S13)。このとき、荷電粒子線Rはマルチリーフコリメータ26によって完全に遮断され、被照射体には照射されない。
【0059】
次に、制御装置T1は、荷電粒子線Rの照射位置が治療計画に沿った正しい照射位置であるか否かを判定する(S14)。制御装置T1は、荷電粒子線Rの照射位置が治療計画に沿った正しい照射位置であると判定した場合、ステップS16に移行する。
【0060】
制御装置T1は、荷電粒子線Rの照射位置が治療計画に沿った正しい照射位置ではないと判定した場合、ビーム位置モニタ25による照射位置の検出結果に応じて荷電粒子線Rの照射位置を最適値に調整する(S15)。
【0061】
ステップS16において、制御装置T1は、マルチリーフコリメータ26を遮断状態から開放状態にする。その後、制御装置T1は、荷電粒子線Rの照射による治療を開始する(S17)。
【0062】
以上説明した第2の実施形態に係る荷電粒子線照射装置及びその照射位置検出方法によれば、第1の実施形態に係る荷電粒子線照射装置100及びその照射位置検出方法と同じ効果を得ることができる。更に、第2の実施形態に係る照射部20では、シャッター機構6などの遮断専用の機構を新たに設けることなく、従来の構成を利用して荷電粒子線Rの遮断を実現することができる。
【0063】
本発明は、上述した実施形態に限定されるものではない。
【0064】
例えば、図8に示されるように、第2の実施形態に係る照射部20に、第1の実施形態に係るシャッター機構6を設けても良い。マルチリーフコリメータ26とは別にシャッター機構6を設けることで、荷電粒子線Rの遮蔽の信頼性が一層向上する。この場合、マルチリーフコリメータ26ではなく、シャッター機構6が特許請求の範囲に記載の遮断手段として機能する。なお、このシャッター機構6は、図8に示すようにマルチリーフコリメータ26とスノート27との間に設けることが好ましいが、ビーム位置モニタ25に対して荷電粒子線Rの下流側であればどの位置に設けても良い。また、第1の実施形態の照射部1では、ビーム位置モニタ5及びシャッター機構6を部先端に配置したが、必ずしも先端に配置する必要はない。
【0065】
更に、シャッター機構6の構成は上述したものに限られない。また、シャッター機構6は、照射部1の照射口Eを完全に閉じる必要はない。例えば、照射口Eの中央ではなく縁側に向かうように荷電粒子線Rの大まかな制御を行い、荷電粒子線Rの向かう照射口Eの縁側を塞ぐようにシャッター機構6の遮断部材7を移動させることでも、荷電粒子線Rの遮断が実現される。この場合、シャッター機構6における遮断部材7の移動量を少なくできるので、シャッター機構6の小型化に有利である。また、照射口Eの中央まで遮断部材7を移動させる場合と比べて、シャッター機構6の切り換え時間を短くすることができる。
【0066】
また、荷電粒子線照射装置100の備える回転ガントリ103は360°回転するものに限らず、360°未満の範囲で揺動するものであっても良い。更に、荷電粒子線照射装置100は、回転ガントリを備えず、一方向からの固定照射方式であっても良い。
【0067】
また、第1の実施形態に係る荷電粒子線照射装置100は、連続照射であるラスタースキャン、ラインスキャンを行うものに限られず、非連続照射であるスポットスキャンを行うものであっても良い。
【0068】
シャッター機構6は、照射部1に取り付ける構成に限らず、照射部1と治療台105との間に設けても良く、治療台105に取り付けても良い。この場合、シャッター機構6を照射部1に取り付けるときと比べ、照射部1を小型化することができる。
【0069】
また、シャッター機構6の遮断部材7を移動させる機構は、リニアアクチュエータ8に限られず、例えば遮断部材7をXY平面内で回転移動させることで開放状態と遮断状態とを切り換える回転移動機構等を用いても良い。
【0070】
また、特許発明の請求に記載の遮断手段はシャッター機構である必要はなく、形状や切り替え動作の態様に関わらず、遮断状態で荷電粒子線Rを確実に遮断できるものであれば良い。
【0071】
また、図5,図7に示す照射位置調整方法のフローチャートにおいて、照射位置の調整処理(S5,S15)を行った後に、照射位置の検出(S3,S13)へ戻る態様であっても良い。
【符号の説明】
【0072】
1,20…照射部 2,21…四極磁石 3…スキャニング電磁石 4…ダクト 5,25…ビーム位置モニタ 6…シャッター機構(遮断手段) 7…遮断部材 8…リニアアクチュエータ(遮断部材移動手段) 22…ワブラー電磁石 23…散乱体 24…線量モニタ 26…マルチリーフコリメータ 100…荷電粒子線照射装置 103…回転ガントリ 105…治療台 A…照射方向 E…照射口 G…開口部 R…荷電粒子線 T,T1…制御装置


【特許請求の範囲】
【請求項1】
被照射体に荷電粒子線を照射する荷電粒子線照射装置であって、
前記荷電粒子線を走査して、前記被照射体の所定の部位へ前記荷電粒子線を照射する照射部と、
前記照射部内に設けられ、前記被照射体へ向かう前記荷電粒子線の照射位置を検出する位置検出手段と、
前記位置検出手段に対して前記荷電粒子線の下流側に配置され、前記荷電粒子線を通過させる開放状態と前記荷電粒子線を遮断する遮断状態とを切り換え可能な遮断手段と、
を備えることを特徴とする荷電粒子線照射装置。
【請求項2】
前記遮断手段は、前記位置検出手段に隣接していることを特徴とする請求項1に記載の荷電粒子線照射装置。
【請求項3】
前記遮断手段は、前記荷重粒子線を吸収して遮断する遮断部材と、前記遮断部材を前記荷電粒子線の照射経路上と前記照射経路の外との間で移動させることが可能な遮断部材移動手段と、を有することを特徴とする請求項1又は2に記載の荷電粒子線照射装置。
【請求項4】
被照射体に荷電粒子線を照射する荷電粒子線照射装置であって、
コリメータにより照射野を規定して、前記被照射体へ前記荷電粒子線を照射する照射部と、
前記照射部内に設けられ、前記被照射体へ向かう前記荷電粒子線の照射位置を検出する位置検出手段と、
前記位置検出手段に対して前記荷電粒子線の下流側に配置され、前記荷電粒子線を通過させる開放状態と前記荷電粒子線を遮断する遮断状態とを切り換え可能な遮断手段と、
を備えることを特徴とする荷電粒子線照射装置。
【請求項5】
被照射体に荷電粒子線を照射する照射部を有する荷電粒子線照射装置の照射位置検出方法であって、
前記照射部を通じて前記被照射体へ向かう前記荷電粒子線の照射位置を検出する位置検出手段に対して前記荷電粒子線の下流側に配置された遮断手段により前記荷電粒子線を遮断可能な状態にする遮断ステップと、
前記遮断ステップの後、前記荷電粒子線を照射する照射ステップと、
前記位置検出手段により前記荷電粒子線の照射位置を検出する照射位置検出ステップと、
を有することを特徴とする荷電粒子線照射装置の照射位置検出方法。
【請求項6】
前記遮断手段は、前記荷電粒子線を吸収して遮断する遮断部材と、前記遮断部材を前記荷電粒子線の照射経路上と前記照射経路の外との間で移動させることが可能な遮断部材移動手段と、を有し、
前記遮断ステップは、前記遮断部材移動手段が前記遮断部材を前記荷電粒子線の照射経路上に移動させることで前記荷電粒子線を遮断可能な状態にすることを特徴とする請求項5に記載の荷電粒子線照射装置の照射位置検出方法。
【請求項7】
前記照射位置検出ステップにおける前記照射位置の検出結果を利用して前記荷電粒子線の照射位置を調整する照射位置調整ステップを有することを特徴とする請求項5又は6に記載の荷電粒子線照射装置の照射位置検出方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−205837(P2012−205837A)
【公開日】平成24年10月25日(2012.10.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−75354(P2011−75354)
【出願日】平成23年3月30日(2011.3.30)
【出願人】(000002107)住友重機械工業株式会社 (2,241)
【Fターム(参考)】