説明

荷電粒子線照射装置

【課題】荷電粒子線照射装置の小型化を図ると共に、電磁石からの放射線の照射室内への進入を防止すること。
【解決手段】本発明の荷電粒子線照射装置10は、荷電粒子線を輸送する輸送ライン31と、荷電粒子線を被照射体へ照射する照射部と、輸送ライン31及び照射部を支持する共に、回転軸線P回りに回転可能な筒体13を有する回転ガントリー12とを備え、輸送ライン31の傾斜部33が、筒体13内を通過して配置される構成とする。これにより、径方向に張り出す輸送ライン31の張り出し量を小さくする。また、電磁石41,34,32からの放射線を遮蔽する遮蔽部材61,62を備える構成とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、荷電粒子線を照射する荷電粒子線照射装置に関する。
【背景技術】
【0002】
陽子ビームなどの荷電粒子線を患者に照射してがん治療を行う設備が知られている。この種の設備は、荷電粒子を加速して荷電粒子線を出射するサイクロトロン(加速器)、患者に対して任意の方向から荷電粒子線を照射する回転自在の照射部が取り付けられた回転ガントリ(回転体)及びサイクロトロンから出射された荷電粒子線を照射部まで輸送する輸送ラインを備えている。
【0003】
照射部は患者に対して回転自在な構成になっており、照射部へ荷電粒子線を輸送する輸送ラインの形態には種々の態様が知られている。例えば、特許文献1に記載の回転ガントリに取り付けられたビーム輸送ラインは、回転ガントリの回転軸線方向に進行する荷電粒子線を回転軸線と離間するように傾斜させて進行させた後、回転軸線の回転方向に荷電粒子線を旋回させて所定の距離分進行させ、この所定の距離分進行した荷電粒子線を、回転軸線側へ湾曲させて照射部(nozzle 32)まで輸送するように配置されている。また、このように配置されたビーム輸送ラインは、トラス状構造体(回転ガントリ)に支持されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】米国特許第5039057号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載のビーム輸送ラインは、回転軸線方向の長さが短縮されて小型化が図られているが、回転軸線と交差する方向である径方向の大きさが非常に大きなものになっている。また、ビーム輸送ラインを形成する電磁石などは、径方向の外方へ張り出すように形成されたトラス状構造体によって支持されているため、回転ガントリ装置全体が、径方向に非常に大きなものになっている。そのため、回転ガントリを収容する収容スペースも広くなり、回転ガントリを設置する建屋の大型化を招来し、建設コストの低減が困難であった。
【0006】
また、荷電粒子線照射装置を小型化するために、ビーム輸送ラインを被照射体に近づけて配置する場合には、ビーム輸送ラインから被照射体へ向かって放出される放射線を減少させることが求められている。
【0007】
本発明は、以上の課題を解決することを目的としており、荷電粒子線照射装置の小型化を図ること、及び、被照射体が存在する方へ進む放射線を低減することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、荷電粒子線を被照射体へ照射する荷電粒子線照射装置であって、荷電粒子線を輸送する輸送ラインと、所定の回転軸線回りに回転可能な回転ガントリーと、を備え、輸送ラインは、回転軸線方向に進行する荷電粒子線を、回転軸線と離間するように傾斜させて進行させる傾斜部を有し、傾斜部内を進行した荷電粒子線を回転軸線の回転方向に旋回させ、回転方向に旋回した荷電粒子線を、回転軸線側へ湾曲させるように形成され、回転ガントリーは、被照射体を収容可能であり、かつ、輸送ラインを支持する筒体で形成され、輸送ラインの傾斜部は、回転ガントリーの筒体内に配置されており、更に、筒体内に配置された輸送ラインからの放射線を遮蔽する遮蔽部材を備えることを特徴としている。
【0009】
本発明に係る荷電粒子線照射装置は、回転軸線回りに回転可能な筒体を有する回転ガントリを備え、荷電粒子線を輸送する輸送ラインの一部が回転ガントリの筒体内を通過するように形成されている。輸送ラインの一部として、回転軸線方向に進行する荷電粒子線を、回転軸線と離間するように傾斜させて進行させる傾斜部が、筒体内を通過するように配置されている。このように、回転軸線から径方向へ離間する輸送ラインの傾斜部が、回転ガントリの筒体内を通過するように配置されていると、輸送ラインが筒体内(例えばエンクロージャー、照射室)を避けて配置されている場合と比較すると、輸送ラインの径方向の張り出し量を抑えることができ、装置全体の径方向の大きさを小さくすることができる。従って、荷電粒子線照射装置を収容するためのスペースを縮小し、建屋の小型化を図ることができる。建屋を小型化することで、例えば、放射線遮蔽壁に用いられるコンクリートの使用量を削減することができるので、建屋の建設コストを低減することが可能である。
【0010】
また、筒体内に配置された輸送ラインからの放射線を遮蔽する遮蔽部材を備える構成であるため、輸送ラインから放出される放射線を遮蔽部材によって遮蔽することができる。これにより、輸送ラインからの放射線の照射室内(エンクロージャー内)への進入を抑制することが可能となる。
【0011】
更に、筒体内に配置された輸送ラインは、荷電粒子線を通過させると共に、荷電粒子線を調整するための電磁石を備え、該電磁石は、内方へ突出する複数のヨークを有し、遮蔽部材は、隣接する前記ヨーク間に配置されている構成でもよい。このようにヨーク間に遮蔽部材が配置されていると、放射線が通過するおそれがあるヨーク間の隙間を遮蔽部材によって埋めることができる。これにより、電磁石の外部に放出される放射線を減少させることができる。
【0012】
また、電磁石の外表面に設置された遮蔽部材を備える構成としてもよい。このような構成であると、電磁石の外表面に設置された遮蔽部材によって放射線を遮蔽することができ、放射線の治療室への進入を防止することができる。
【0013】
また、異なる材質によって形成された複数の遮蔽部材を備える構成としてもよい。このように異なる材質からなる複数の遮蔽部材を備えていると、放射線のエネルギーレベルに応じて複数の遮蔽部材を配置することができ、好適に放射線を遮蔽することが可能となる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、荷電粒子線照射装置の小型化を図り、装置の収容スペースを抑え、建屋の小型化を図ることができる。従って、荷電粒子線照射装置が設置される建屋の建設コストの低減に有効である。また、本発明によれば、電磁石からの放射線が、被照射体が存在する照射室内へ進入することを抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の実施形態に係る陽子線治療装置を備えた陽子線治療システムの概略構成図である。
【図2】本発明の実施形態に係る陽子線治療装置の正面図である。
【図3】本発明の実施形態に係る陽子線治療装置の背面図である。
【図4】本発明の実施形態に係る陽子線治療装置の右側面図である。
【図5】本発明の実施形態に係る陽子線治療装置の左側面図である。
【図6】本発明の実施形態に係る陽子線治療装置を斜め後方から示す斜視図である。
【図7】本発明の実施形態に係る陽子線治療装置の回転ガントリーの断面斜視図である。
【図8】回転ガントリーに取り付けられたビーム導入ラインン及びビーム照射ノズルを示す斜視図である。
【図9】回転ガントリー内に配置されたビーム導入ラインの断面図である。
【図10】ビーム導入ラインを構成する四重極電磁石の斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明に係る荷電粒子線照射装置の好適な実施形態について図面を参照しながら説明する。本実施形態では、陽子線治療装置(荷電粒子線照射装置)を備えた陽子線治療システムについて説明する。陽子線治療装置は、例えばがん治療に適用されるものであり、患者の体内の腫瘍(被照射体)に対して、陽子ビーム(荷電粒子線)を照射する装置である。
【0017】
図1に示すように、陽子線治療システム1は、イオン源(不図示)で生成されたイオンを加速して陽子ビームを出射するサイクロトロン(粒子加速器)2、サイクロトロン2から出射された陽子ビームを輸送するビーム輸送ライン3、ビーム輸送ライン3によって輸送された陽子ビームを被照射体へ照射する陽子線治療装置10を有する。そして、陽子線治療システム1の各機器は、建屋5内に収容されている。
【0018】
サイクロトロン2で加速された陽子ビームは、ビーム輸送ライン3に沿って偏向され、陽子線治療装置10に供給される。ビーム輸送ライン3には、陽子ビームを偏向させるための偏向磁石や、ビーム成形を行う四重極電磁石等が設けられている。荷電粒子線を調整するための電磁石としては、ビーム成形を行う四重極電磁石、ビームを偏向させる偏向磁石などが含まれる。
【0019】
陽子線治療装置10は、図2〜図8に示すように、ビーム輸送ライン3によって導入され陽子ビームを輸送するビーム導入ライン(請求項に記載の輸送ライン)31と、ビーム導入ライン31によって輸送された陽子ビームを被照射体へ照射するビーム照射ノズル11と、ビーム導入ライン31及びビーム照射ノズル11を支持すると共に所定の回転軸線P回りに回転可能な回転ガントリー12を備えている。
【0020】
回転ガントリー12は、図4〜図6に示すように、回転軸線P方向に順に配置された円筒本体部13、コーン部14及び第2円筒部15を有する。これらの円筒本体部13、コーン部14及び第2円筒部15は、同軸(回転軸線P)上に配置されて連結されている。なお、円筒本体部13が配置されている方を回転ガントリー12の正面側、第2円筒部15が配置されている方を回転ガントリー12の背面側とする。
【0021】
円筒本体部13及び第2円筒部15は、薄肉構造の円筒体であり、剛性を保ちつつ軽量化できるよう構成されている。第2円筒部15は、円筒本体部13より小径とされ、コーン部14は、円筒本体部13及び第2円筒部15を連結するように円錐状に形成されている。コーン部14は、薄肉構造の筒体であり、正面側から背面側へ向かうにつれて、内径が小さくなるように形成されている。また、回転ガントリー12の回転軸線P方向の長さ(円筒本体部13の正面側の端部から第2円筒部15の背面側の端部までの長さ)は、例えば、L=4.6m程度とされている。
【0022】
円筒本体部13の回転軸線P方向の両端部には、断面形状が例えば矩形のリング部13a,13bが設けられている。円筒本体部13は、図2〜図5に示すように、円筒本体部13の下方に配置されたローラー装置20によって、回転可能に支持されている。ローラー装置20は、回転ガントリー12を回転させるための駆動装置として機能する。
【0023】
円筒本体部13の正面側は開放され、円筒本体部13内への進入が可能な構成とされている。一方、円筒本体部13の背面側には、背面パネル(隔壁)16が設けられている。そして、円筒本体部13及び背面パネル16によって、照射室21が構成されている。照射室21内には、被照射体である患者が横たわる寝台(治療台)22が配置可能となっている。寝台22は、ロボットアーム23によって移動可能とされている。治療を実施していない通常時には、寝台22は回転ガントリー12(照射室21)の外に配置され、治療を実施する際に寝台22は照射室21内に配置される。なお、図7では、寝台22の図示を省略している。
【0024】
照射ノズル11は、円筒本体部13の内面側に固定され、円筒本体部13と共に回転軸線P回りに回転する。照射ノズル11は、円筒本体部13の回転と共に移動し、陽子ビームの出射方向が変更される。
【0025】
陽子線治療装置10のビーム輸送ラインであるビーム導入ライン31は、サイクロトロン2から出射された陽子ビームを輸送するビーム輸送ライン3と接続され、ビーム輸送ライン3によって輸送された陽子ビームを照射ノズル11に導入する。
【0026】
図8は、回転ガントリーに取り付けられたビーム導入ライン及びビーム照射ノズルを示す斜視図である。ビーム導入ライン31は、回転ガントリー12の回転軸線P方向に進行する陽子ビームBを偏向する第1ベント部32と、第1ベント部32の下流に設けられ、陽子ビームBを回転軸線P方向に対して傾斜させて進行させる傾斜部33と、傾斜部33の下流に設けられ、回転軸線Pと直交する方向へ陽子ビームBを偏向する第2ベント部34と、第2ベント部34の下流に設けられ、陽子ビームBを回転軸線Pの回転方向へ旋回させる第3ベント部35と、第3ベント部35の下流に設けられ、陽子ビームBを照射ノズル11の上方(図2に示す状態における上方)へ進行させる直線部36と、直線部36の下流に設けられ、陽子ビームBを軸心側(回転軸線P側)へ湾曲させる第4ベント部37と、第4ベント部37の下流に設けられ、陽子ビームBを照射ノズル11へ進行させる直線部38と、を備える。
【0027】
第1ベント部32は、陽子ビームBを湾曲させて45度分偏向させる45度偏向電磁石によって構成されている。傾斜部33は、四重極電磁石41、ステアリング電磁石42、及びプロファイルモニター43などの光学要素を有する構成とされている。四重極電磁石41は、陽子ビームBの照射位置でのサイズや光学上の焦点位置を調整する機能を有する。ステアリング電磁石42は、ビーム軸を平行移動する機能を有する。プロファイルモニター43は、通過する陽子ビームBの形状と位置を検出する機能を有する。
【0028】
第2ベント部34は、陽子ビームBを湾曲させて45度分偏向させる45度偏向電磁石によって構成されている。また、第2ベント部34と第3ベント部35との間には、プロファイルモニター43が配置されている。第3ベント部35は、陽子ビームBを湾曲させて135度分偏向させる135度偏向電磁石によって構成されている。
【0029】
直線部36は、四重極電磁石41、ステアリング電磁石42、及びプロファイルモニター43を有する。第4ベント部37は、陽子ビームBを湾曲させて進行方向を135度分偏向させる135度偏向電磁石によって構成されている。直線部38は、四重極電磁石41及びプロファイルモニター43を有する。
【0030】
ここで、図7に示すように、本実施形態の陽子線治療装置10では、回転ガントリー12に取り付けられたビーム導入ライン31の一部が、回転ガントリー12の筒体(円筒本体部13、コーン部14、第2円筒部15)内を通過して配置されている。ビーム輸送ライン3によって輸送された陽子ビームBは、第2円筒部15の背面側から内部へ導入され、第2円筒部15内、コーン部14内、背面パネル16及び円筒本体部13内を通過して、円筒本体部13を貫通して、円筒本体部13の外部へ導出される。
【0031】
回転ガントリー12は、図9に示すように、ビーム導入ライン31を支持する第1,第2支持部材51,52を備えている。第1ベント部32は、第1支持部材51によって第2円筒部15に固定されている。傾斜部33は、第2支持部材52によってコーン部14に固定されていると共に、背面パネル16を貫通し背面パネル16に支持されている。第2ベント部34は、円筒本体部13を貫通し、円筒本体部13によって支持されている。
【0032】
ビーム導入ライン31は、図7に示すように、背面パネル16を貫通して円筒本体部13内へ進入し、照射室21内を通過するように配置されている。また、回転ガントリー12は、内部を通過するビーム導入ライン31を収容するケーシング55を備えている。ケーシング55は、ビーム導入ライン31に沿って配置され、ビーム導入ライン31を覆っている。ケーシング55の一方の端部は、背面パネル16に支持され、他方の端部は、円筒本体部13の側壁に連続するように形成されている。
【0033】
また、図2に示すように、円筒本体部13の外周面には、円筒本体部13より外方に張り出したビーム導入ライン31を支持するための架台17が設けられている。なお、円筒本体部13より外方に張り出したビーム導入ライン31を、ビーム導入ライン張出部31aと称する。第3ベント部35、直線部36、及び第4ベント部37は、導入ライン張出部31aに含まれる。架台17は、円筒本体部13の外面に固定され、径方向の外側へ張り出している。架台17は、径方向の内側から、ビーム導入ライン張出部31aを支持している。これにより、電磁石(四重極電磁石41、135度偏向電磁石)などの荷重を円筒本体部13によって受けることができる。
【0034】
また、円筒本体部13の外周面には、回転軸線Pを挟んで対向配置されたカウンタウェイト18が設けられている。カウンタウェイト18を設置することで、円筒本体部13の外面に配置された第3ベント部35、直線部36、第4ベント部37、及び架台17に対する重量バランスが確保されている。
【0035】
そして、回転ガントリー12は、図示されていないモーターによってローラー装置20のローラーを回転させることで回転駆動され、図示されていないブレーキ装置によって回転が停止される。
【0036】
ここで、陽子線治療システム1の回転ガントリー12では、図7、図9及び図10に示すように、円筒本体部13内に配置されたビーム導入ライン31からの放射線を遮蔽する遮蔽部材61,62を備えている。遮蔽部材61,62は、ガンマ線や中性子線などの放射線を遮蔽する材質によって構成されている。遮蔽部材61,62の材質としては、例えば、鉄、ポリエチレン、ホウ素添加ポリエチレン、ステンレス鋼、コンクリートなどが挙げられる。本実施形態では、遮蔽部材61,62として、ステンレス鋼が採用されている。
【0037】
遮蔽部材61は、四重極電磁石41の中のスペースに配置され、遮蔽部材62は、45度偏向電磁石(第1ベント部32、第2ベント部34)の中のスペースに配置されている。図10は、四重極電磁石を示す斜視図である。図10に示すように、四重極電磁石41の中央には開口部が形成され、この開口部に荷電粒子線を通過させる真空ダクト47(図7参照)が挿通されている。四重極電磁石41は、内方へ突出する複数(四つ)のヨーク45と、ヨーク45に巻きつけられたコイル46とを備えている。なお、図10では、真空ダクト47の図示を省略している。真空ダクト47は、ビーム導入ライン31に沿って配置され、陽子ビームが通過する真空空間を形成するものである。
【0038】
そして、遮蔽部材61は、真空ダクト47を中心とする所定の周方向において隣接するヨーク45間に配置されている。具体的には、ヨーク45に巻きつけられたコイル46間のスペースを埋めるように遮蔽部材61が配置されている。遮蔽部材61は、真空ダクト47の長手方向に沿って配置されている。遮蔽部材61は、例えば、隣接するコイル46に当接して支持されている。
【0039】
また、45度偏向電磁石32,34の中に配置された遮蔽部材62は、四重極電磁石41に配置された遮蔽部材61と同様に、隣接するヨーク間(コイル間)のスペースを埋めるように配置されている。本実施形態の遮蔽部材61,62は、ヨーク45間のスペースのうち、図示上側、下側、右側(被照射体側、回転軸線P側)のスペースに配置され、左側(被照射体と反対側)に配置されていない。遮蔽部材61,62は、ヨーク45間のスペースの全てに配置されている構成でもよく、一部のスペースのみに配置されている構成でもよい。
【0040】
このような陽子線治療システム1では、サイクロトロン2から出射された陽子ビームBが、ビーム輸送ライン3によって輸送され陽子線治療装置10まで到達する。陽子線治療装置10まで到達した陽子ビームBは、ビーム導入ライン31によって輸送され照射ノズル11まで到達し、患者の腫瘍に対して照射される。照射ノズル11から照射される陽子ビームBの照射方向は、回転ガントリー12を回転することで調整することができる。
【0041】
このような陽子線治療装置10では、陽子ビームBを輸送するビーム導入ライン31の一部が、回転ガントリー12の第2円筒部15、コーン部14及び円筒本体部13内を通過するように形成されている。特に、ビーム導入ライン31の傾斜部33が、照射室21(円筒本体部13)内を通過するように斜めに配置され、回転ガントリー12の背面側から導入されたビーム導入ライン31を、回転ガントリー12の側部から導出することができる。そのため、照射室21を避けてビーム輸送ラインを形成する場合と比較して、ビームラインの張り出し量(軸心からの最大外径)を小さくすることができる。これにより、陽子線治療装置10の小型化を図り、陽子線治療装置10が設置される設置スペースを小さくすることができる。その結果、陽子線治療装置10を収容する建屋5の小型化を図ることができる。建屋を小型化することで、例えば、建屋の放射線遮蔽壁に用いられるコンクリートの使用量を削減することができるので、建屋の建設コストを低減することが可能である。なお、図2に示すように、陽子線治療装置10の最大回転外径は、10.6m(L×2)とすることができる。
【0042】
また、陽子線治療装置10では、ビーム導入ライン31の一部(傾斜部)が、背面パネル及び照射室21内を通過するように斜めに配置されてので、照射室21を避けるようにビーム導入ライン31が配置されている場合と比較すると、照射室21の背面側に配置されるビーム導入ラインの長さを短くすることができる。すなわち、陽子線治療装置10では、装置全体が回転軸線P方向にも小型化されている。
【0043】
また、本実施形態に係る陽子線治療装置10では、ビーム導入ライン(ビーム輸送ライン)31が回転ガントリー12の円筒本体部(筒体)13によって支持されている。これにより、ビーム導入ライン31を構成する光学要素である複数の電磁石が、強度部材として機能する円筒本体部13によって支持され、電磁石の重量を円筒本体部13によって受けることができるので、円筒本体部13に作用する力を好適に分散させることが可能である。また、円筒本体部13の一端側に背面パネル16が設けられているため、この背面パネル16を強度部材として機能させることができる。
【0044】
また、本実施形態に係る陽子線治療装置10では、回転ガントリー12の円筒本体部13内に配置されたビーム導入ライン31の電磁石(四重極電磁石41、偏向磁石32,34)に、遮蔽部材61,62が設置されているため、この遮蔽部材61,62によって、ビーム導入ライン31から放出される放射線の照射室21内への進入を抑制することが可能となる。
【0045】
ビーム導入ライン31の真空ダクト47内を進行する陽子ビームは、真空ダクト47に当たって、ガンマ線や中性子線を放出することがある。本実施形態では、電磁石41,32,34の内部の真空ダクト47で発生した放射線を遮蔽する遮蔽部材61,62を備えているため、放射線の照射室21内への進入を抑制して、患者の被爆のおそれを低減することができる。従って、ビーム導入ライン31を寝台22に接近させて配置することができ、回転ガントリー12の小型化を図ることが可能となる。
【0046】
また、遮蔽部材61,62が、電磁石41,32,34内のヨーク45間のスペースに配置されているため、ヨーク45間のスペースを有効に活用し、真空ダクト47から照射室21への放射線の放出を抑えることができる。
【0047】
以上、本発明をその実施形態に基づき具体的に説明したが、本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。例えば、ビーム導入ライン31を構成する電磁石41など各要素は、所望のビーム設計に応じて、その配置や個数を適宜変更することができる。
【0048】
また、粒子加速器はサイクロトロンに限定されず、シンクロトロンやシンクロサイクロトロンでも良い。また、荷電粒子線は陽子ビームに限定されず、炭素ビーム(重粒子ビーム)などでも良い。また、回転ガントリー12の筒体は、円筒に限らず他の筒状体でもよい。また、回転ガントリー12の筒体は、回転軸線P方向において、同一の形状でもよい。
【0049】
回転ガントリー12は、360°回転(揺動)するものに限定されず、360°未満の回転(揺動)を行うものでもよい。
【0050】
また、筒体の一部、例えば、側壁に切欠き部が設けられている構成でもよい。なお、筒体を通過するように配置されているとは、筒体に設けられた切欠き部にビーム導入ライン31が配置されているものも含む。
【0051】
また、背面パネルに切欠き部が設けられている構成でもよい。なお、背面パネルを通過するように配置されているとは、背面パネルに設けられた切欠き部にビーム導入ライン31が配置されているものも含む。背面パネルに設けられた切欠き部や開口部を通過するようにビーム導入ライン31が配置されていればよい。
【0052】
また、上記実施形態では、傾斜部が直線状に形成されているが、例えば、緩やかに湾曲している傾斜部でもよい。
【0053】
また、遮蔽部材は、電磁石の外表面に設置されていているものでもよい。例えば、電磁石内の隙間と、電磁石の外表面と両方に、遮蔽部材が設けられている構成でもよく、電磁石の外表面のみ、又は、電磁石内の隙間のみに、遮蔽部材が配置されている構成でもよい。
【0054】
また、遮蔽部材が、電磁石の外表面とケーシング55(図7参照)との間の隙間に配置されている構成でもよい。また、ケーシング55自体が遮蔽部材として機能する構成でもよい。
【0055】
また、複数の遮蔽部材を備えている場合、遮蔽部材の配置に応じて、異なる材質を採用してもよい。例えば、電磁石内に配置された遮蔽部材にステンレス鋼を採用し、電磁石の外表面に配置された遮蔽部材にポリエチレンを採用してもよい。このように、真空ダクトに近く、放射線のエネルギーが高い方にステンレス鋼を採用し、真空ダクトから遠く、放射線のエネルギーが低い方にポリエチレンを採用することで効率的に放射線を遮蔽できる。エネルギーレベルに応じて、遮蔽部材の材質を変えてもよい。また、四重極電磁石41の遮蔽部材61と、偏向電磁石32,34の遮蔽部材62とを、異なる材質によって形成することもできる。
【0056】
また、遮蔽部材は、筒体内に配置されているビーム導入ライン31のみならず、筒体に隣接する部分のビーム導入ライン31に配置されていてもよい。例えば、背面パネル16よりも背面側のビーム導入ライン31の電磁石に、遮蔽部材が設けられている構成でもよい。
【0057】
また、電磁石41,32,34内に配置される遮蔽部材61,62として、非磁性体である材質を採用することで、磁場への悪影響を防止することができる。
【符号の説明】
【0058】
1…陽子線治療システム、2…サイクロトロン、3…ビーム輸送ライン、5…建屋、10…陽子線治療装置(荷電粒子線照射装置)、11…照射ノズル(照射部)、12…回転ガントリー、13…円筒本体部、14…コーン部、15…第2円筒部、16…背面パネル、21…照射室、31…ビーム導入ライン(回転ガントリーのビーム輸送ライン)、31a…ビーム導入ライン張出部、32…第1ベント部、33…傾斜部、34…第2ベント部、35…第3ベント部、36…直線部、37…第4ベント部、38…直線部、45…ヨーク、46…コイル、55…ケーシング、61,62…遮蔽部材、B…陽子ビーム、P…回転軸線。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
荷電粒子線を被照射体へ照射する荷電粒子線照射装置であって、
前記荷電粒子線を輸送する輸送ラインと、
所定の回転軸線回りに回転可能な回転ガントリーと、を備え、
前記輸送ラインは、前記回転軸線方向に進行する前記荷電粒子線を、前記回転軸線と離間するように傾斜させて進行させる傾斜部を有し、前記傾斜部内を進行した前記荷電粒子線を前記回転軸線の回転方向に旋回させ、前記回転方向に旋回した前記荷電粒子線を、前記回転軸線側へ湾曲させるように形成され、
前記回転ガントリーは、前記被照射体を収容可能であり、かつ、前記輸送ラインを支持する筒体で形成され、
前記輸送ラインの前記傾斜部は、前記回転ガントリーの前記筒体内に配置されており、
更に、前記筒体内に配置された前記輸送ラインからの放射線を遮蔽する遮蔽部材を備えることを特徴とする荷電粒子線照射装置。
【請求項2】
更に、前記筒体内に配置された前記輸送ラインは、前記荷電粒子線を通過させると共に、前記荷電粒子線を調整するための電磁石を備え、
該電磁石は、内方へ突出する複数のヨークを有し、
前記遮蔽部材は、隣接する前記ヨーク間に配置されていることを特徴とする請求項1に記載の荷電粒子線照射装置。
【請求項3】
前記電磁石の外表面に設置された前記遮蔽部材を備えることを特徴とする請求項1又は2に記載の荷電粒子線照射装置。
【請求項4】
異なる材質によって形成された複数の前記遮蔽部材を備えることを特徴とする請求項1〜3の何れか一項に記載の荷電粒子線照射装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2012−235893(P2012−235893A)
【公開日】平成24年12月6日(2012.12.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−106562(P2011−106562)
【出願日】平成23年5月11日(2011.5.11)
【出願人】(000002107)住友重機械工業株式会社 (2,241)
【Fターム(参考)】