説明

荷電粒子線照射装置

【課題】架台を大型化せず架台の回転角度や揺動角度による照射精度の低下を抑制し、スキャニング方式における照射精度の低下を抑制できる荷電粒子線照射装置を提供する。
【解決手段】荷電粒子線Rを被照射体へ照射する荷電粒子線照射装置1であって、荷電粒子線Rを走査する走査磁石を有し、走査された荷電粒子線Rを被照射体へ照射する照射ノズル6と、サイクロトロン2より送られてきた荷電粒子線Rを照射ノズル6へ向けて偏向させる偏向磁石5Aと、照射ノズル6と偏向磁石5Aとが配置され、回転軸Pを中心に回転可能な回転ガントリ−3と、回転軸Pと照射ノズル6から照射される荷電粒子線Rの照射位置との位置関係を検出する位置検出部8と、回転ガントリ−3の回転角度に対応する位置検出部8の検出結果を利用して、照射ノズル6から照射される荷電粒子線の照射位置を調整する制御装置Tとを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、放射線治療用のガントリー等を備えた荷電粒子線照射装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、このような分野の技術文献として特開2004―148103号公報が知られている。この公報には、所定の水平軸を中心に回転可能なガントリー装置10であって、回転対称の一次構造物18と、一次構造物18に支持され、ビーム偏向用の電磁石36,38,40を保持する二次構造物30と、を備えたものが記載されている。
【0003】
このガントリー装置10は、ガントリーの回転角度によってガントリーが変形して照射精度に悪影響が出ないようにするため、電磁石36,38,40の自重による鉛直方向のガントリーの変位量がいずれの回転角度においても等しくなるように設定された剛性を有している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2004―148103号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上述したガントリー装置10においては、一次構造物18と二次構造物30との二つの構造物を備えるためガントリーが大型化してしまう。また、ガントリーの変位量がいずれの回転角度においても等しくなる剛性を得るため二次構造物30が複雑な形状となることも大型化を招く要因となる。
【0006】
また、ガントリー装置10を持ってしても、ガントリーの回転角度による鉛直方向の変位の差を完全に無くすことはできない。ワブラー方式(径の大きなビームをコリメータで患部の形状に成形した上で照射する方式)の場合は、ガントリーの変位によるビームの照射精度への影響は小さく無視できるほどであるが、スキャニング方式(径の小さなビームで患部を塗りつぶすようにビームを走査する方式)の場合は、僅かなガントリーの変位がビームの照射精度に大きな影響を及ぼしてしまう。
【0007】
本発明は、架台を大型化することなく架台の回転角度や揺動角度による照射精度の低下を抑制すると共に、スキャニング方式における照射精度の低下を抑制できる荷電粒子線照射装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するため、本発明は、荷電粒子線を被照射体へ照射する荷電粒子線照射装置であって、荷電粒子を加速して荷電粒子線を出射する加速器と、荷電粒子線を走査する走査手段を有し、走査された荷電粒子線をスキャニング方式で被照射体へ照射する照射部と、加速器より送られてきた荷電粒子線を照射部へ向けて偏向させる偏向手段と、照射部と偏向手段とが配置され、回転軸を中心に回転又は揺動が可能な架台と、回転軸と照射部から照射される荷電粒子線の照射位置との位置関係を検出する検出手段と、架台の回転角度又は揺動角度に対応する検出手段の検出結果を利用して、照射部から照射される荷電粒子線の照射位置を調整する制御装置と、を備えることを特徴とする。
【0009】
本発明に係る荷電粒子線照射装置によれば、架台の回転角度又は揺動角度の変化に伴う偏向手段や照射部等の重心移動の影響で架台に構造的な変位が発生しても、架台の回転角度又は揺動角度に対する回転軸と荷電粒子線の照射位置との位置関係の検出結果を利用して照射位置の調整を行うことで、架台を大型化することなく架台の回転角度や揺動角度に応じた照射精度の低下を抑制することができる。
【0010】
本発明に係る荷電粒子線照射装置において、制御装置は、架台の回転角度又は揺動角度に対する検出手段の検出結果を利用して、偏向手段により発生させる磁場を調整することで、照射部から照射される荷電粒子線の照射位置を調整することが好ましい。
本発明に係る荷電粒子線照射装置によれば、偏向手段により発生させる磁場を調整することで荷電粒子線の照射位置のずれを調整するため、調整用の大型部品を追加する必要が無く、架台の大型化を避けることができる。また、磁場の補正により照射位置の調整を実現するので、荷電粒子線を走査するスキャニング方式における照射精度の低下を効果的に抑制することができる。
【0011】
或いは、本発明に係る荷電粒子線照射装置において、制御装置は、架台の回転角度又は揺動角度に対する検出手段の検出結果を利用して、走査手段による荷電粒子線の走査量を調整することで、照射部から照射される荷電粒子線の照射位置を調整することが好ましい。
本発明に係る荷電粒子線照射装置によれば、走査手段による走査量を調整することで荷電粒子線の照射位置のずれを調整するため、調整用の大型部品を追加する必要が無く、架台の大型化を避けることができる。また、磁場の補正により照射位置の調整を実現するので、荷電粒子線を走査するスキャニング方式における照射精度の低下を効果的に抑制することができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、架台を大型化することなく架台の回転角度や揺動角度による照射精度の低下を抑制すると共に、スキャニング方式における照射精度の低下を抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明に係る荷電粒子線照射装置の一実施形態を示す概略図である。
【図2】図1の照射ノズルの構成を示す斜視図である。
【図3】制御装置で実行される照射位置調整処理を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の好適な実施形態について、図面を参照して詳細に説明する。
【0015】
図1に示されるように、本実施形態に係る荷電粒子線照射装置1は、治療台B上の患者の腫瘍(被照射体)に対してサイクロトロン(加速器)2から出射された荷電粒子線Rを照射する放射線治療用の装置である。荷電粒子線Rは、電荷をもった粒子を高速に加速したものであり、例えば陽子線、重粒子(重イオン)線等がある。
【0016】
荷電粒子線照射装置1は、回転軸Pを中心として回転自在に配置された回転ガントリー(架台)3を有している。この回転ガントリー3は、下方に設けられたローラ装置4により回転される。ローラ装置4は、事前に決定された治療計画に基づき回転ガントリ−3の回転角度の変更を行う。
【0017】
この回転ガントリー3には、サイクロトロン2から出射された荷電粒子線Rを輸送するビーム輸送ライン5と、ビーム輸送ライン5を通じて供給された荷電粒子線Rを腫瘍に向けて照射する照射ノズル(照射部)6と、が配置されている。
【0018】
ビーム輸送ライン5は、サイクロトロン2から出射された荷電粒子線Rが照射ノズル6に向かって通過する真空ダクト(図示せず)と、真空ダクトに沿って荷電粒子線Rを偏向させる偏向磁石(偏向手段)5Aと、ビームを収束させることで輸送中のビーム拡散を防ぐ収束磁石5Bと、を有している。
【0019】
偏向磁石5A及び収束磁石5Bは、真空ダクトに沿って配置された複数の電磁石からそれぞれ構成されている。偏向磁石5Aは、電磁石電源7から供給される電力に応じて磁場を発生させ、この磁場により荷電粒子線Rを偏向させる。同様に、収束磁石5Bも電磁石電源7から供給される電力に応じて磁場を発生させることで、ビーム径の収束を行う。
【0020】
照射ノズル6では、スキャニング方式により、治療台B上の患者の体内の腫瘍に向けて荷電粒子線Rを連続照射する。照射ノズル6は、腫瘍を深さ方向に複数層に分け、各層に設定された照射野内において荷電粒子線Rを走査しながら連続照射(いわゆるラスタースキャニングやラインスキャニング)を行う。荷電粒子線Rは、スキャニング方式で用いられるペンシルビームである。照射ノズル6は、回転ガントリー3に対して固定されており、回転ガントリー3を回転させることで患者に対して任意の方向から荷電粒子線を照射する。
【0021】
図2を参照して照射ノズル6の構成について説明する。図2に示すように、照射ノズル6は、荷電粒子線Rの照射方向に順に配列され、ビーム輸送ライン5を通して供給された荷電粒子線Rが発散するのを抑え収束させるための四極磁石9と、荷電粒子線RをX軸方向(回転軸P方向)とY軸方向(X軸に直交する方向)に走査する走査磁石(走査手段)10と、荷電粒子線Rが通過するダクト11と、を備えている。
【0022】
走査磁石10は、荷電粒子線RのX軸方向の照射位置を制御する一組の電磁石10Aと、Y軸方向の照射位置を制御する一組の電磁石10Bと、を含んで構成されている。電磁石10A及び電磁石10Bにより照射位置が制御された荷電粒子線Rは、略四角錐状のダクト11内を通って外部に照射される。
【0023】
図1に示すように、回転ガントリ−3内には、照射ノズル6から照射された荷電粒子線Rの照射位置(アイソセンター位置)を検出する位置検出部(検出手段)8が治療台Bの近辺に配置されている。位置検出部8は、三次元空間内の位置を検出可能な3Dセンサーを有している。
【0024】
位置検出部8は、回転ガントリ−3の回転軸Pの位置を基準として記憶しており、照射位置の検出と共に、回転軸Pと荷電粒子線Rの照射位置との位置関係の検出を行う。なお、位置検出部8は、回転ガントリ−3や治療台Bに対して脱着可能に構成されていても良い。
【0025】
次に、荷電粒子線照射装置1の制御系について説明する。図1及び図2に示す制御装置Tは、荷電粒子線Rの照射制御を行うものである。制御装置Tは、照射ノズル6、電磁石電源7、及び位置検出部8と通信可能に接続されている。制御装置Tは、荷電粒子線照射装置1とは別の治療計画装置で事前に決定された治療計画に基づき荷電粒子線Rの照射を行うように制御する。
【0026】
制御装置Tは、事前に決定された治療計画に基づいて現在の回転ガントリ−3の回転角度を認識する。なお、ローラ装置4からのフィードバックにより回転ガントリ−3の回転角度を検出する態様であっても良い。
【0027】
また、制御装置Tは、位置検出部8との通信により、荷電粒子線Rの照射位置と回転軸Pとの位置関係の検出結果を取得する。制御装置Tは、位置検出部8の検出結果を記憶するデータベースを有していても良い。
【0028】
制御装置Tは、回転ガントリ−3の回転角度に対する位置検出部8の検出結果に基づき、荷電粒子線Rの照射位置の調整を行う。制御装置Tは、電磁石電源7を制御して偏向磁石5Aの発生させる磁場を調整することで、荷電粒子線RのX軸方向の照射位置を調整する。具体的には、制御装置Tは、複数の偏向磁石5Aのうち、照射ノズル6の直前に配置された最終電磁石の磁場を調整することで、荷電粒子線Rの照射位置の調整を行う。
【0029】
次に、制御装置Tで実行される照射位置調整処理について図3を参照して説明する。
【0030】
図3に示すように、制御装置Tは、まず、事前に決定された治療計画に基づいて回転ガントリ−3の回転角度を認識する(S1)。次に、制御装置Tは、回転ガントリ−3の回転角度に対応する位置検出部8の検出結果を取得する(S2)。制御装置Tは、位置検出部8との通信により検出結果を取得しても良く、事前に回転ガントリ−3の回転角度と位置検出部8の検出結果を関連付けて記憶したデータベースから取得しても良い。
【0031】
続いて、制御装置Tは、回転ガントリ−3の回転角度に対する位置検出部8の検出結果に基づき、荷電粒子線Rの照射位置の調整を行う(S3)。制御装置Tは、回転ガントリ−3の回転角度に対する位置検出部8の検出結果に基づき、偏向磁石5Aの磁場を調整することで、荷電粒子線Rの照射位置の調整を行う。その後、制御装置Tは、荷電粒子線Rの照射による治療を開始する(S4)。
【0032】
以上説明した本実施形態に係る荷電粒子線照射装置1によれば、回転ガントリ−3の回転角度の変化に伴う偏向磁石5Aや照射ノズル6の重心移動の影響で回転ガントリ−3に構造的な変位差が発生しても、回転ガントリ−3の回転角度に対する回転軸Pと荷電粒子線Rの照射位置との位置関係の検出結果に基づき照射位置の調整を行うことで、回転ガントリ−3を大型化することなく回転ガントリ−3の回転角度に応じた照射精度の低下を抑制することができる。
【0033】
また、この荷電粒子線照射装置1によれば、偏向磁石5Aにより発生させる磁場を調整することで荷電粒子線Rの照射位置のずれを調整するため、調整用の大型部品を追加する必要が無く、回転ガントリ−3の大型化を避けることができる。また、磁場の補正により照射位置の調整を実現するので、荷電粒子線Rを走査するスキャニング方式における照射精度の低下を効果的に抑制することができる。
【0034】
本発明は、上述した実施形態に限定されるものではない。
【0035】
例えば、荷電粒子線Rを出射する加速器は、サイクロトロンに限られず、シンクロトロンやシンクロサイクロトロンを用いても良い。
【0036】
また、制御装置Tは、偏向磁石5Aの発生させる磁場の調整に代えて、照射ノズル6の走査磁石10による荷電粒子線Rの走査量を調整することで、荷電粒子線Rの照射位置を調整する態様であっても良い。ここで、走査量とは、荷電粒子線Rの走査位置に関する制御量である。
【0037】
この場合、走査磁石10による走査量を調整することにより、X軸方向及びY軸方向の双方で荷電粒子線Rの照射位置のずれを調整できるため、調整用の大型部品を追加する必要が無く、回転ガントリ−3の大型化を避けることができる。また、磁場の補正により照射位置の調整を実現するので、荷電粒子線Rを走査するスキャニング方式における照射精度の低下を効果的に抑制することができる。
【0038】
また、360°回転可能な回転ガントリ−3に代えて、所定角度内の揺動が可能な揺動式のガントリー等を採用しても良い。この場合、ガントリーの揺動角度に応じた照射位置の調整が行われる。
【0039】
また、収束磁石5B中に、荷電粒子線RのY軸方向の補正を行うステアリング磁石を設けても良い。この場合、偏向磁石5Aとステアリング磁石との組み合わせにより、輸送中の荷電粒子線RをX軸方向及びY軸方向の双方で補正することができる。
【0040】
また、上述した照射位置調整処理が予め治療計画に組み込まれている態様であっても良い。
【符号の説明】
【0041】
1…荷電粒子線照射装置 2…サイクロトロン(加速器) 3…回転ガントリー 4…ローラ装置 5…ビーム輸送ライン 5A…偏向磁石(偏向手段) 5B…収束磁石 6…照射ノズル(照射部) 7…電磁石電源 8…位置検出部 9…四極磁石 10…走査磁石(走査手段) 11…ダクト B…治療台 P…回転軸 R…荷電粒子線 T…制御装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
荷電粒子線を被照射体へ照射する荷電粒子線照射装置であって、
荷電粒子を加速して前記荷電粒子線を出射する加速器と、
前記荷電粒子線を走査する走査手段を有し、走査された前記荷電粒子線をスキャニング方式で被照射体へ照射する照射部と、
前記加速器より送られてきた前記荷電粒子線を前記照射部へ向けて偏向させる偏向手段と、
前記照射部と前記偏向手段とが配置され、回転軸を中心に回転又は揺動が可能な架台と、
前記回転軸と前記照射部から照射される前記荷電粒子線の照射位置との位置関係を検出する検出手段と、
前記架台の回転角度又は揺動角度に対応する前記検出手段の検出結果を利用して、前記照射部から照射される前記荷電粒子線の照射位置を調整する制御装置と、を備えることを特徴とする荷電粒子線照射装置。
【請求項2】
前記制御装置は、前記架台の回転角度又は揺動角度に対する前記検出手段の検出結果を利用して、前記偏向手段により発生させる磁場を調整することで、前記照射部から照射される前記荷電粒子線の照射位置を調整することを特徴とする請求項1に記載の荷電粒子線照射装置。
【請求項3】
前記制御装置は、前記架台の回転角度又は揺動角度に対する前記検出手段の検出結果を利用して、前記走査手段による前記荷電粒子線の走査量を調整することで、前記照射部から照射される前記荷電粒子線の照射位置を調整することを特徴とする請求項1に記載の荷電粒子線照射装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−254123(P2012−254123A)
【公開日】平成24年12月27日(2012.12.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−127580(P2011−127580)
【出願日】平成23年6月7日(2011.6.7)
【出願人】(000002107)住友重機械工業株式会社 (2,241)
【Fターム(参考)】