説明

荷電粒子線装置、それを用いた物品の製造方法

【課題】荷電粒子線の軌道の安定化に有利な荷電粒子線装置を提供する。
【解決手段】この荷電粒子線装置は、荷電粒子線を被処理体に導く電子光学系の少なくとも一部を収容する第1の筐体10と、被処理体を保持して移動可能な基板保持部を収容する第2の筐体11と、第1の筐体10と第2の筐体11との接続部分に設けられ、第2の筐体11から第1の筐体10に流れる電流を低減する絶縁体31と、第1および第2の筐体10、11を通じた閉磁路を形成し、かつ、接続部分を介して第1および第2の筐体10、11の外部から内部に向かう電磁波を低減する機構20、30とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、荷電粒子線装置、それを用いた物品の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、半導体集積回路などのデバイスの製造に用いられる描画装置は、素子の微細化、回路パターンの複雑化、またはパターンデータの大容量化が進み、描画精度の向上が要求されている。これを実現させる方法として、電子ビームなどの荷電粒子線の偏向走査およびブランキングを制御することで基板に描画を行う、荷電粒子線装置としての描画装置が知られている。この描画装置は、解像度が高く、生産性にも優れているため、線幅が0.1μm以下の4GDRAM以降のメモリデバイスの生産などにおいて、光露光方式に代わるパターン形成技術の1つとして採用され得る。
【0003】
例えば電子ビームを用いた描画装置では、電子源から発せられた電子ビームは、適宜その軌道を制御されつつ基板に照射される。具体的には、描画装置の制御部は、この軌道の制御として電子光学系の電場や磁場を制御することで、電子ビームの軌道、ビーム径、照射位置、または照射時間などを調整する。ここで、描画装置の内外からの外乱電磁場が電子光学系へ加わると、電子ビームが曲げられ、所望の軌道から外れる可能性がある。この外乱電磁場として大きく影響するのは、特に、電子光学系を収容する真空容器の筐体に流れるアース電流から発生した電磁場である。通常、電子源や電子光学系などを収容する第1真空容器(カラム)内の電子ビームが通過する部分では、最大で10−8Pa程度の超高真空を安定的に維持するため、ロータリーポンプ、ターボ分子ポンプ、イオンポンプなどの種々の真空ポンプを併用している。また、基板を保持する基板ステージなどを収容する第2真空容器(本体構造体)も、高真空を維持するため、ターボ分子ポンプやイオンポンプなどの真空ポンプに接続されている。これらの真空容器の各筐体に流れるアース電流のうち、交流成分でパルス状に変化する電流が流れると、アース電流が生成する磁場の方向が変化し、電子ビームの軌道に影響を及ぼす。一般的に、ターボ分子ポンプは、排気対象となる真空容器の筐体内の容積と所望の真空度とにより能力が異なる。例えば、筐体内の容積が大きいほど、採用するターボ分子ポンプで消費する電力が大きい。特に、上記のような描画装置では、第1真空容器よりも第2真空容器の筐体内の容積の方が大きいので、採用される真空ポンプも第2真空容器を排気対象とするものの方が、使用電力が大きくなる。したがって、アース電流を生じさせる機器(ノイズ源)としては、第2真空容器に接続されているターボ分子ポンプなどが考えられ、さらに第2真空容器内の真空ゲージや、基板ステージを構成するモータなどもなり得る。これに対して、特許文献1は、ノイズ源を含む真空容器(筐体)からの伝導ノイズを、接続された真空容器へ伝わりにくくする技術を採用した露光装置を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007‐88061号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ここで、特許文献1に示す露光装置のように、描画装置においても第1真空容器と第2真空容器との各筐体を単に絶縁体で分離すれば、第2真空容器側から生じるアース電流を分離し、第1真空容器側への影響を抑えることができる。しかしながら、第1真空容器と第2真空容器との各筐体の接続部にて絶縁体で分離すると、第1真空容器と第2真空容器との内部に沿って形成される閉磁路が途切れる。磁路が途切れると、第1真空容器と絶縁体、または絶縁体と第2真空容器の磁路が途切れた場所から発生した磁束線が、電子ビームの軌道上に漏れ(侵入し)、この場合も軌道に影響を及ぼすことになる。さらに、絶縁体は、電磁場を透過するため、絶縁部を通じて外部からの他の電磁場により影響を受けやすくなる。
【0006】
本発明は、このような状況を鑑みてなされたものであり、荷電粒子線の軌道の安定化に有利な荷電粒子線装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明は、荷電粒子線を用いて被処理体に処理を行う荷電粒子線装置であって、荷電粒子線を被処理体に導く電子光学系の少なくとも一部を収容する第1の筐体と、被処理体を保持して移動可能な基板保持部を収容する第2の筐体と、第1の筐体と第2の筐体との接続部分に設けられ、第2の筐体から第1の筐体に流れる電流を低減する絶縁体と、第1および第2の筐体を通じた閉磁路を形成し、かつ、接続部分を介して第1および第2の筐体の外部から内部に向かう電磁波を低減する機構と、を備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、荷電粒子線の軌道の安定化に有利な荷電粒子線装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明の第1実施形態に係る描画装置の構成を示す図である。
【図2】第1実施形態に係る構造体の構成例を示す図である。
【図3】第1実施形態に係る描画装置での真空容器内の磁路などを示す図である。
【図4】第2実施形態に係る構造体の構成例を示す図である。
【図5】従来の描画装置での外乱電磁場の発生状況を説明する図である。
【図6】従来の描画装置での開磁路が電子ビーム軌道に与える影響を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明を実施するための形態について図面を参照して説明する。
【0011】
(第1実施形態)
まず、本発明の第1実施形態に係る荷電粒子線装置について説明する。特に、本実施形態の荷電粒子線装置は、電子ビーム(荷電粒子線)を偏向(走査)させ、かつ、電子ビームのブランキング(照射のOFF)を個別に制御することで、所定の描画データを被処理基板(被処理体)の所定の位置に描画する描画装置である。ここで、荷電粒子線は、本実施形態のような電子線に限定されず、イオン線(イオンビーム)などの他の荷電粒子線であってもよい。また、以下の各図においては、便宜上電子ビームが単線であるものとして説明するが、本実施形態の描画装置を、複数の電子ビームを使用するマルチビーム方式としてもよい。
【0012】
図1は、本実施形態に係る描画装置1の構成を示す概略図である。なお、以下の各図では、被処理基板に対する電子ビームの放射方向にZ軸を取り、Z軸に垂直な平面内に互いに直交するX軸およびY軸を取っている。この描画装置1は、電子源2と、この電子源2から放射された電子ビームを被処理基板3上に導く電子光学系4と、被処理基板3を保持する基板ステージ5と、描画装置1の各構成要素の動作などを制御する制御部6とを備える。なお、被処理基板3は、例えば単結晶シリコンからなるウエハであり、表面上には感光性のレジストが塗布されている。
【0013】
電子源(荷電粒子線源)2は、熱や電界の印加により電子ビーム7を放出する。電子光学系4は、電子源2から放出された電子ビーム7を適宜、偏向および結像させる。この電子光学系4は、不図示であるが、電子ビーム7のビーム径を収束させる静電レンズや、偏向された所望の電子ビーム7を遮蔽する偏向器などを含む。基板ステージ(基板保持部)5は、ステージモータ5aを含み、被処理基板3を例えば静電吸着により保持しつつ、少なくともXY軸の2軸方向に可動である。なお、この基板ステージ5の位置は、不図示の干渉計(レーザー測長器)などにより実時間で計測される。さらに、制御部6は、例えばコンピュータなどで構成され、描画装置1の各構成要素に回線を介して接続され、プログラムなどに従って各構成要素の制御を実行し得る。本実施形態の制御部6は、少なくとも上記構成要素を収容する後述の各真空容器内の真空排気に用いられる各真空排気系12、13の動作を制御する。なお、制御部6は、描画装置1の他の部分と一体で(共通の筐体内に)構成してもよいし、描画装置1の他の部分とは別体で(別の筐体内に)構成してもよい。
【0014】
ここで、電子ビーム7は、大気圧雰囲気ではすぐに減衰する。また、高電圧による放電の防止も必要である。そこで、制御部6を除く上記構成要素は、真空排気系により内部圧力(真空圧)が調整された2つの真空容器内に収容される。これらの真空容器として、描画装置1は、図1に示すように、少なくとも電子源2や電子光学系4の一部を収容する第1真空容器(カラム)10と、少なくとも基板ステージ5をXY軸方向に移動可能としつつ収容する第2真空容器(本体構造体)11とを有する。まず、第1真空容器10の筐体(第1の筐体)10aは、金属材料で形成されており、その内部は、外部に設置された第1真空排気系12により最大で10−8Pa程度の高い真空度に維持される。第1真空排気系12を構成する真空ポンプとしては、例えばドライポンプとイオンポンプとの組み合わせがあり得る。一方、第2真空容器11の筐体(第2の筐体)11aも金属材料で形成されており、その内部は、外部に設置された第2真空排気系13により、第1真空容器10の内部よりも低い真空度ではあるが、10-5Pa台程度に維持される。第2真空排気系13を構成する真空ポンプとしては、例えばターボ分子ポンプとドライポンプとの組み合わせがあり得る。
【0015】
特に、描画装置1では、第1の筐体10aと第2の筐体11aとは、図1に示すように構造体15を介して接続される。この構造体15は、第1の筐体10aと第2の筐体11aとを電気的に絶縁し、かつ閉磁路を形成しつつ電磁場(電磁波)を遮蔽する。なお、この構造体15については、以下で詳説する。
【0016】
さらに、描画装置1は、第1の筐体10aと第2の筐体11aとの電位を固定し、帯電を防止するためのアース線を有する。まず、第1の筐体10aに接続される第1アース線16は、第1接地点17を通じて大地にアースされる。一方、第2の筐体11aに接続される第2アース線18は、第1接地点17とは異なる位置に存在する第2接地点19を通じて大地にアースされる。このように第1接地点17と第2接地点19とを独立させることで、アース線を通じたノイズの伝達を抑えることができる。さらに、構造体15(後述の高透磁率体30)にも第1アース線16と第2アース線18とは異なる第3アース線20が接続され、この第3アース線20も、第1接地点17および第2接地点19とは異なる位置に存在する第3接地点21を通じて大地にアースされる。なお、後述するが、構造体15の構造によりアース接地の方法が異なるため、第3アース線20が不要となる場合もある。
【0017】
次に、構造体15を採用することによる描画装置1の作用について説明する。まず、比較のために、従来の描画装置における真空容器での外乱電磁場の発生状況と、開磁路が電子ビームの軌道に与える影響とについて説明する。図5は、従来の描画装置100におけるノイズ源101による第1真空容器102での外乱電磁場の発生状況を説明するための概略断面図である。この描画装置100は、図1に示す本実施形態に係る描画装置1と同様に、第1真空容器102と第2真空容器103とを有する。ただし、ここでは上記構造体15を採用しておらず、第1真空容器102の筐体102aと第2真空容器103の筐体103aとは、直接、または導電性の接続部材を介して接続されている。なお、図5では、各筐体102a、103aの形状を、後述する筐体内部に形成される磁路や外乱電磁場の発生状況を明確に示すために、空間内の幅を誇張した概略形状としている。また、描画装置100は、不図示であるが、描画装置1と同様に、第1真空容器102の内部の真空排気を行う第1真空排気系と、第2真空容器103の内部の真空排気を行う第2真空排気系とを有する。第2真空排気系は、第2真空容器103の方が第1真空容器102よりも内部容積が大きいため、第1真空排気系のものよりも排気容量の大きい真空ポンプを採用する。
【0018】
ここで、主なノイズ源101としては、第2真空排気系を構成する真空ポンプと、第2真空容器103内に設置された不図示の基板ステージを構成するステージモータとがなり得る。第2真空排気系を構成する真空ポンプは、第2真空容器103(筐体103a)に電気的に直接接続されている。したがって、真空ポンプの作動時には、この真空ポンプの筐体部から流れる交流の漏れ電流が、第2真空容器103の筐体103aに伝わって流れる。同様に、ステージモータの駆動時には、駆動電流がパルス状に多く流れ、このうちの漏れ電流も、第2真空容器103の筐体103aに伝わって流れる。なお、この駆動電流の大きさと流れ方向とは、一般に、パルスの形状や基板ステージの駆動速度または駆動方向により変化する。さらに、筐体102aと筐体103aとが電気的に一体であるため、第2真空容器103の筐体103aを流れる電流は、第1真空容器102の筐体102aに伝わり、アース電流104として流れる。一方、連続体としての各筐体102a、103aの内部では、第1真空容器102内に設置された不図示の電子光学系や、第2真空容器103内のステージモータなどに起因した磁場が発生し、閉じた磁路105(閉磁路)を形成している。このとき、この磁路105に対して、上記のようなアース電流104が作用すると、図5に示すように、新たに第1真空容器102の筐体102aの壁面領域を中心とした磁場106が発生する。ノイズ源101の作動(駆動)により、アース電流104の大きさと流れ方向とが変化するので、磁場106の大きさと向きとも変化する。したがって、この磁場106の変化が、電子源107から放出された電子ビーム108の軌道をずらすなどの影響を与えることになる。
【0019】
さらに、この従来の描画装置100に対して、第1真空容器102側でのアース電流104による影響を抑えるために、第2真空容器103側からのアース電流104を分離する絶縁体を設置する場合について考える。図6は、図5に対応した、従来の描画装置における絶縁体110を設置したことによる開いた磁路(開磁路)が電子ビーム108の軌道に及ぼす影響を説明する図である。この図6では、一例として、第1真空容器102と第2真空容器103との各筐体102a、103aの接続部分に絶縁体110を設置している。この絶縁体110の存在により、第2真空容器103側(ノイズ源101側)から第1真空容器102側へは、アース電流104は流れないため、第1真空容器102では、ノイズ源101に起因した磁場の影響を受けない。しかしながら、第1真空容器102と第2真空容器103との各筐体102a、103aの内部の磁路105は、絶縁体110の位置で電流が流れないために開磁路となる。したがって、絶縁体110の位置で磁束線111が漏れ、電子ビーム108の軌道は、この磁束線111の影響を受けて曲がる。また、絶縁体110は、導電性がないので、アース線を付けて帯電を防止することができない。さらに、絶縁体110は、描画装置100の設置環境での地磁気や他の電子機器が発生する電磁場などの外乱112を接続部の外部から内部へ透過させ、電子ビーム108の軌道に侵入させてしまう可能性もある。
【0020】
そこで、本実施形態の描画装置1は、上記のとおり、第1の筐体10aと第2の筐体11aとを、構造体15を介して接続する。図2は、描画装置1に採用し得る構造体15の構成を示す概略断面図であり、図2(a)〜図2(c)にそれぞれ構成例を示している。まず、構造体15の第1例として、図2(a)に示す構造体15aは、第1の筐体10aが円筒形であるとすると、その第2の筐体11aとの接続部の形状に合わせ、断面が矩形であるリング形状(中空形状)を有する。この構造体15aは、高透磁率の金属材料で形成された高透磁率体30と、その内側面、外側面、および上下の平面の表面全体を覆うように設置(被覆)された絶縁体31aとからなる。高透磁率体30に採用し得る金属材料としては、例えば、パーマロイ(比透磁率100000)や純鉄(比透磁率200000)など、比透磁率が8000〜200000の範囲にある材料が望ましい。また、絶縁体31aは、第2の筐体11aから第1の筐体10aへ流れ得るアース電流の流れを低減させる。この絶縁体31aに採用し得る材料としては、高強度、高破壊靭性、または非誘電性などの性質を有するジルコニアなどのセラミックス材料がある。このほか、絶縁体31aは、ダイヤモンドライクカーボン(DLC)の膜としてもよい。絶縁体31aの厚みdは、高透磁率体30の厚みに比べて薄くすることが望ましく、具体的には、例えば10μm〜0.1mmの範囲にあるものとするのが望ましい。この絶縁体31aの厚みdを適宜調整すれば、第1真空容器10と第2真空容器11との各筐体10a、11aの内部にて磁路を接続する(閉磁路とする)ことができる。さらに、構造体15aは、高透磁率体30に、図1に示す第3アース線20を接続するための接続用止め金具32を含む。このように第3アース線20を高透磁率体30にアース接地することで、電位をアースの設置電位に維持する。すなわち、構造体15aは、電位差を0Vに近づけた状態で維持することができるので、外部(外側)から内部(内側)への電場の透過(侵入)を抑えることができる。なお、第3アース線20は、上記のとおり、第1接地点17および第2接地点19とは異なる位置に存在する第3接地点21を通じて大地にアースされるが、例えば、第1接地点17または第2接地点19のいずれか一方に接続してもよい。
【0021】
一方、構造体15の第2および第3例として、図2(b)および図2(c)に示す構造体15b、15cは、図2(a)に示す構造体15aとは異なるアース接地を採用したものである。具体的には、各構造体15b、15cは、それぞれ第1例の構造体15aと同様に高透磁率体30に絶縁体を被覆したものであるが、図2(b)に示す構造体15bでは、絶縁体31bは、第1の筐体10aとの接続面のみ被覆しない形状を有する。すなわち、構造体15bの内部の高透磁率体30は、第1の筐体10aと電気的に直接接触し、導通が取れることになる。したがって、高透磁率体30は、第1の筐体10aを介してアース接地されることとなり、構造体15bは、第1例の構造体15aでは必要であった第3アース線20、またそれに付随する接続用止め金具32を必要としない。一方、図2(c)に示す構造体15cでは、絶縁体31cは、第2の筐体11aとの接続面のみ被覆しない形状を有する。この場合、高透磁率体30は、第2の筐体11aを介してアース接地されることとなり、構造体15cは、第2例の構造体15bと同様に第3アース線20や接続用止め金具32を必要としない。
【0022】
図3は、従来の描画装置100の説明にて用いた図6に対応した、本実施形態に係る描画装置1において構造体15を設置したことによる磁路などを説明する図である。まず、第2真空容器11側で発生したアース電流22は、絶縁体31を含む構造体15の存在により、第1の筐体10aと第2の筐体11aとの間では電気の導通性が低く、第1真空容器10側には流れづらい。したがって、ノイズ源23(従来のノイズ源101に対応)に起因したアース電流22の変動に基づく磁場の変動が抑止される。また、構造体15を構成する絶縁体31は、高透磁率体30に対して絶縁体31の厚みdを上記のとおり適宜調整した上で設置することで、磁路24を閉磁路とすることができるので、図6に示すような磁束線111の漏れを抑止できる。また、構造体15を構成する機構としての高透磁率体30は、図6に示すような描画装置1の設置環境での電磁場の外乱112を遮蔽することができ、また接地されることで電場の影響も抑えることができる。このように、描画装置1は、電子ビーム7の軌道に対する、ノイズ源23を含む第2真空容器11の第2の筐体11aからのアース電流22に起因した電磁場の影響を抑え、かつ、外乱112としての電磁場の影響をも抑えることができる。これにより、描画装置1は、高精度な描画性能を得ることができる。
【0023】
以上のように、本実施形態によれば、電子ビームなどの荷電粒子線の軌道の安定化に有利な荷電粒子線装置を提供することができる。
【0024】
(第2実施形態)
次に、本発明の第2実施形態に係る荷電粒子線装置について説明する。本実施形態の荷電粒子線装置も第1実施形態と同様の描画装置に係るものであり、その特徴は、第1実施形態に係る描画装置1における構造体15の構成を変更する点にある。図4は、本実施形態の構造体40の構成を示す概略断面図である。なお、構造体40の外形は、第1実施形態に係る構造体15と同様にリング形状であるものとする。この構造体40は、第1の筐体10aの端部に位置する第1の部材(第1の係合部)41と、第2の筐体11aの端部に位置する第2の部材(第2の係合部)42と、第1の部材41と第2の部材42とが接触する位置に設置される絶縁体43とからなる。この第1の部材41と第2の部材42とは、各筐体10a、11aとそれぞれ一体として形成されるとすると、各筐体10a、11aと同一の金属材料からなる。第1の部材41と第2の部材42とは、それぞれ接続方向で対向する他方の部材41、42に向かって延設し、かつ構造体40の中心空間を通過する電子ビーム7の軌道に向かう方向にて、隙間(間隙)Lを取りつつ交互に重なり合う壁部41a、42aを有する。この壁部41a、42aにおける、接続方向で対向する他方の部材41、42にそれぞれ向かう先端部41b、42bも、対向する部材41、42との間に隙間(間隙)Lを取り、互いに接触していない。これに対して、第1の部材41と第2の部材42とは、さらに壁部41a、42aに対して平行に設置された1つの接続壁41c、42cとを有し、この接続壁41c、42cとの先端にて、絶縁体43を介して接続される。なお、この絶縁体43は、第1実施形態に係る絶縁体31と同様の材料で形成され、その接続方向の寸法は、壁部41a、42aの接続方向の寸法よりも小さいことが望ましい。
【0025】
この構造体40の構成によれば、まず、第1の部材41と第2の部材42とは、絶縁体43を介して接続されるので、アース電流22は、第2真空容器11側から第1真空容器10側に向かって流れづらい。次に、絶縁体43の大きさを小さくし、かつ、接続方向の隙間Lの寸法を適宜調整することで、第1実施形態と同様に第1真空容器10と第2真空容器11との各筐体10a、11a内に形成される磁路24を閉磁路とすることができる。この場合、接続方向の隙間Lの寸法は、例えば0.01〜0.1mmの範囲にあるのが望ましい。なお、構造体40の形状によれば、磁路24を形成する隙間L以外の隙間は、磁路を形成しない。さらに、構造体40は、壁部41a、42aにより隙間空間を形成しており、その外部から電子ビーム7の軌道に向かう方向にて電磁場の通路を規定している。この電磁場の流路は、X軸方向に対して開口方向が変化するため、隙間空間にて磁束線を吸収することができる。すなわち、構造体40は、第1実施形態と同様にシールド効果を有することになる。このように、構造体40を有する描画装置によれば、第1実施形態と同様の効果を奏する。
【0026】
なお、図4に示す構造体40では、第1の部材41と第2の部材42とは、それぞれ、第1の筐体10aまたは第2の筐体11aと一体としているが、それぞれ高透磁率の金属材料(第1実施形態の高透磁率体30と同様)で、別体として形成してもよい。これにより、構造体40のシールド効果をさらに向上させることができる。また、第1の部材41と第2の部材42との形状、例えば、壁部41a、42aや接続壁41c、42cなどの設置位置や設置個数は、上記のものに限定されない。図4に示す構造体40では、第1の筐体10aと第2の筐体11aとの壁面に合わせた位置に接続壁41c、42cが設けられ、また、この接続壁41c、42cを基準として内側と外側とにそれぞれ1つずつ壁部41a、42aが設けられている。これに対して、壁部41a、42aを、例えば、接続壁41c、42cの内側または外側の一方に設置してもよいし、設置個数も、内側または外側で2つ以上としてもよい。さらに、接続壁41c、42cの設置位置は、第1の筐体10aと第2の筐体11aとの壁面から壁部41a、42aの側にずれていてもよく、その設置個数も、2つ以上であってもよい。
【0027】
(他の実施形態)
上記実施形態として説明した描画装置の構成は、電子顕微鏡などの他の荷電粒子線装置にも適用可能である。例えば、被処理体として上記基板に換えて被検体とし、この被検体を観察する電子顕微鏡に上記構成を適用することで、電子顕微鏡は、安定した高精細な試料画像を得ることができる。
【0028】
(物品の製造方法)
本発明の実施形態に係る物品の製造方法は、例えば、半導体デバイスなどのマイクロデバイスや微細構造を有する素子などの物品を製造するのに好適である。該製造方法は、感光剤が塗布された基板の該感光剤に上記の描画装置を用いて潜像パターンを形成する工程(基板に描画を行う工程)と、該工程で潜像パターンが形成された基板を現像する工程とを含み得る。さらに、該製造方法は、他の周知の工程(酸化、成膜、蒸着、ドーピング、平坦化、エッチング、レジスト剥離、ダイシング、ボンディング、パッケージングなど)を含み得る。本実施形態の物品の製造方法は、従来の方法に比べて、物品の性能・品質・生産性・生産コストの少なくとも1つにおいて有利である。
【0029】
以上、本発明の好ましい実施形態について説明したが、本発明は、これらの実施形態に限定されず、その要旨の範囲内で種々の変形および変更が可能である。
【符号の説明】
【0030】
1 描画装置
2 電子源
3 被処理基板
4 電子光学系
5 基板ステージ
7 電子ビーム
10a 第1の筐体
11a 第2の筐体
20 第3アース線
22 アース電流
24 磁路
30 高透磁率体
31 絶縁体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
荷電粒子線を用いて被処理体に処理を行う荷電粒子線装置であって、
前記荷電粒子線を前記被処理体に導く電子光学系の少なくとも一部を収容する第1の筐体と、
前記被処理体を保持して移動可能な基板保持部を収容する第2の筐体と、
前記第1の筐体と前記第2の筐体との接続部分に設けられ、前記第2の筐体から前記第1の筐体に流れる電流を低減する絶縁体と、
前記第1および第2の筐体を通じた閉磁路を形成し、かつ、前記接続部分を介して前記第1および第2の筐体の外部から内部に向かう電磁波を低減する機構と、を備えることを特徴とする荷電粒子線装置。
【請求項2】
前記第1の筐体と前記第2の筐体とは、電気的に独立して接地されることを特徴とする請求項1に記載の荷電粒子線装置。
【請求項3】
前記絶縁体は、高透磁率の金属材料からなる高透磁率体の表面全体に被覆され、
前記高透磁率体は、前記第1の筐体または前記第2の筐体の少なくともいずれかに対して電気的に独立して接地されることを特徴とする請求項1または2に記載の荷電粒子線装置。
【請求項4】
前記絶縁体は、高透磁率の金属材料からなる高透磁率体の表面にて、前記第1の筐体または前記第2の筐体の一方に電気的に導通する部分を残しつつ被覆されたものであることを特徴とする請求項1または2に記載の荷電粒子線装置。
【請求項5】
前記絶縁体は、セラミックス材料、またはダイヤモンドライクカーボンの膜で形成されることを特徴とする請求項1ないし4のいずれか1項に記載の荷電粒子線装置。
【請求項6】
前記絶縁体の厚さは、10μm〜0.1mmの範囲にあることを特徴とする請求項3または4に記載の荷電粒子線装置。
【請求項7】
前記金属材料の比透磁率は、8000〜200000の範囲にあることを特徴とする請求項3または4に記載の荷電粒子線装置。
【請求項8】
前記機構は、前記第1の筐体の側から延設される第1の部材と、前記第2の筐体の側から延設される第2の部材とを間隙を介して対向させ、前記第1の部材または前記第2の部材のいずれかが前記絶縁体の側面に対向するように構成されることを特徴とする請求項1に記載の荷電粒子線装置。
【請求項9】
前記第1の部材と前記第2の部材とは、それぞれ、
接続方向で対向する他方の前記第1の部材または前記第2の部材に向かい延設し、
先端部と、前記対向する他方の前記第1の部材または前記第2の部材との間には、隙間が存在し、さらに、
前記機構から該機構の中心空間を通過する前記荷電粒子線の軌道に向かう方向にて隙間を取りつつ交互に重なり合う、
との構造を有する壁部を含むことを特徴とする請求項8に記載の荷電粒子線装置。
【請求項10】
前記先端部と、前記対向する他方の前記第1の部材または前記第2の部材との前記隙間の寸法は、0.01〜0.1mmの範囲にあることを特徴とする請求項9に記載の荷電粒子線装置。
【請求項11】
前記第1の部材と前記第2の部材とは、それぞれ、前記壁部に対して平行に設置された接続壁を有し、該接続壁の先端にて前記絶縁体を介して互いに接続されることを特徴とする請求項9に記載の荷電粒子線装置。
【請求項12】
前記絶縁体の前記接続方向の寸法は、前記壁部の前記接続方向の寸法よりも小さいことを特徴とする請求項11に記載の荷電粒子線装置。
【請求項13】
前記第1の部材と第2の部材とは、それぞれ、前記第1の筐体と前記第2の筐体とに一体であることを特徴とする請求項8に記載の荷電粒子線装置。
【請求項14】
前記第1の部材と第2の部材とは、それぞれ、前記第1の筐体と前記第2の筐体とで別体であり、高透磁率の金属材料からなることを特徴とする請求項8に記載の荷電粒子線装置。
【請求項15】
前記被処理体を被処理基板とし、
前記荷電粒子線で前記被処理基板に描画を行う描画装置であることを特徴とする請求項1ないし14のいずれか1項に記載の荷電粒子線装置。
【請求項16】
前記被処理体を被検体とし、
前記荷電粒子線で前記被検体を観察する電子顕微鏡であることを特徴とする請求項1ないし14のいずれか1項に記載の荷電粒子線装置。
【請求項17】
請求項15に記載の荷電粒子線装置を用いて基板に描画を行う工程と、
前記工程で描画を行われた基板を現像する工程と、
を含むことを特徴とする物品の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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