荷電粒子線装置あるいはその設計方法
【課題】
Langmuir制限を越える高輝度が確実に得られる荷電流子線装置を得る事及びその様な装置の設計方法を確立する事。
【解決手段】
荷電粒子線源、荷電粒子引出し電極、及び荷電粒子制御電極を有する荷電粒子線装置で、Langmuir制限を越える高輝度を得るため、荷電粒子線源から放出されるビームを初段レンズの拡大率を調整することで、Langmuir limit をこえる最適輝度のビームにする。高輝度の利点は、2段以降のレンズでクロスオーバを縮小し、試料面にその縮小像を形成すれば保持出来る。
荷電流子線装置の設計は最適輝度をあらかじめ算出し、その輝度が得られるよう、初段レンズの拡大率を調整する。
Langmuir制限を越える高輝度が確実に得られる荷電流子線装置を得る事及びその様な装置の設計方法を確立する事。
【解決手段】
荷電粒子線源、荷電粒子引出し電極、及び荷電粒子制御電極を有する荷電粒子線装置で、Langmuir制限を越える高輝度を得るため、荷電粒子線源から放出されるビームを初段レンズの拡大率を調整することで、Langmuir limit をこえる最適輝度のビームにする。高輝度の利点は、2段以降のレンズでクロスオーバを縮小し、試料面にその縮小像を形成すれば保持出来る。
荷電流子線装置の設計は最適輝度をあらかじめ算出し、その輝度が得られるよう、初段レンズの拡大率を調整する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、超高輝度が得られる荷電粒子線装置に関し、またその様な荷電粒子線装置
を用い、表面にパターンが形成された試料の評価をするための荷電粒子線装置に関し、より詳細には、半導体製造各工程後等におけるウエハ等の試料に電子ビームを照射し、その表面の性状に応じて変化する二次電子等を捕捉して画像データを形成し、該画像データに基づいて試料表面に形成されたパターンの欠陥等を高スループットで評価するための荷電粒子線装置に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体製造プロセスにおいて、デザインルールは45nmの時代を迎え、また生産形態はDRAMに代表される少品種大量生産からSOC(Silicon on chip)のように多品種少量生産へ移行しつつある。それに伴い、製造工程数が増加し、工程毎の歩留まり向上は必須となり、プロセス起因の欠陥検査が重要になる。
そして、半導体デバイスの高集積化及びパターンの微細化に伴い、高分解能、高スループットの検査装置が要求されている。45nmデザインルールのウエハの欠陥を調べるためには、40nm以下の分解能が必要であり、デバイスの高集積化による製造工程の増加により、検査量が増大するため、高スループットが要求されている。また、デバイスの多層化が進むにつれて、層間の配線をつなぐビアのコンタクト不良(電気的欠陥)を検出する機能も、検査装置に要求されている。
ERL放射光源の入射用に用いる電子源では、超高輝度で大ビーム電流の電子銃が要求される。(西谷他、第53回応用物理学関連講演会講演予講習No2, 2006 春p798)
電子銃の輝度に関しては、Langmuir限界と呼ばれる最高値があると、従来から信じられていた。それは、次式で示される値であった。
カソード電流密度をJc,とすると、得られる最大電流密度Jmax は、
Jmax = Jc(1+eφ/kT)sin2α (1)
最大輝度Bmaxは、
Bmax = Jmax/πsin2α = Jc(1+eφ/kT)/π (2)
例えば、Jc =10 A/cm2, φ=4500 Vでは、e=1.6x10-19, k =1.38x10-23
を(2)式に代入すると、Bmax =9.23x104 A/cm2sr となる。
そして、これらの式は、ルュウビルの定理、マクスウエルの初速度分布とエネルギー不滅の公式のみから厳密に導かれ、疑う人は居なかった。 更に、レンズで輝度を向上できない事は電子光学のみでなく光学でも常識であった。しかし、シミュレーションではレンズで輝度は変化している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2003−2977272号公報
【特許文献2】特開2004−22235号公報
【特許文献3】特開2003−323860号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記した従来装置における電子銃は、カソード表面に高電界がかかる様曲率半径の小さい凸型の球面形状を有するカソードと平面アノード、平面ウエーネルト電極を有する3電極電子銃が主流であった。しかしながら、この様な電子銃の輝度は限界があり、所望の輝度より遥かに小さいという問題があった。
更に、これに関し曲率半径25〜40μRの球面カソードと平面アノード及び平面ウエーネルト電極を有する3電極電子銃で、Langmuir限界を超えるシムレーション結果が提案されている。(特開2003−2977272、特開2004−22235、特開2003−323860)しかしこのような電子銃では電子銃電流の極狭い範囲でのみ超高輝度になり、この狭い範囲を実測で探すのは困難で、シムレーション結果の性能が、実際には得られていない問題があった。
【0005】
また、従来のタイプの電子銃ではカソードの近辺で電流密度が高いため、カソード付近でビームエネルギーの小さい時に電子同士が相互作用を起こしエネルギー幅が拡がる問題点があった。本発明は上記問題点を解決するためのもので、Langmuir限界を超える輝度を確実に得られる電子銃を提供し、更に小さい電子銃電流で高輝度を得る事により、エネルギー幅の小さい電子銃を提供する事を目的とし、さらに本発明で得られる電子銃の性能を充分生かせるERL放射光源の入射用に用いる電子源を提供することも目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記した目的を達成するために、本発明に係る荷電粒子線装置では、
荷電粒子線源、荷電粒子引出し電極、及び荷電粒子制御電極を有する荷電粒子線源及び初段レンズを有する装置であり、上記初段レンズの拡大率を調整する事により、荷電粒子線の輝度あるいはエミッタンスを調整するようにした。
この手段により、最適輝度に調整することが出来た。
更に上記初段レンズの拡大率は、上記初段レンズの像点距離を調整する事により行う様にした。
これによりレンズ位置を変更する必要なく輝度を調整できる。
上記初段レンズの物点距離を41mmより大きくした。
この手段により、輝度が初段レンズの拡大率の増加関数になった。
また、次段レンズでビームを縮小する場合、次段レンズレンズの物点距離を40mm以下にした。
この手段により、輝度が次段レンズの拡大率に依存しなくなった。従って、初段で得た高輝度が次段レンズ以降でも保持できる。
また、上記手段で、初段レンズの像点距離を調整しても良い。
この手段により、輝度を調整可能である。
更に先の手段で、上記像点距離を∞にしても良い。
この場合、最大輝度が得られる。
また、最初の手段で、大きいエミッタンスを得たいばあい、上記初段レンズの拡大率を1より小さくするようにした。
【0007】
さらに上記した目的を達成するために、本発明に係る荷電粒子線装置では、荷電粒子線源の後方にレンズを配置する工程、上記レンズの像点距離を変え輝度をシミュレーションする工程、レンズ系のNAの増加関数になるビームボケ要因とNA の減少関数になるビームボケ要因とから最適NAを算出し、そこから最適輝度を算出する工程、上記最適輝度が得られる様上記初段レンズの拡大率を調整する工程を有する様にした。
更に上記手段に於いて、2段目レンズ及び3段目レンズを設ける工程を有し、初段レンズで平行ビームを形成する工程、2段目のレンズで3段目のレンズの前方にクロスオーバを形成する工程及び3段目のレンズで1段目のビームより電流密度の大きい平行ビームを形成する様にした。
この荷電粒子ビーム調整方法により、細くて発散角の小さいビームが得られた。
また、収差及び空間電荷効果によるビームのボケあるいは回折収差を算出する工程、要求されるビーム寸法と上記収差及びボケから最適輝度を算出してもよい。
さらに、上記下第1の手段で、荷電粒子源として、凹面で球面状の電極、球面状のメッシュ電極を有し、これらの電極間に高周波を印加するようにした。この結果、粒子源での電流密度が小さいが、クロスオーバでは高輝度の荷電粒子が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
表1は、Langmuir 限界を超える輝度を実験的に得るのに用いた電子銃の例である。レンズcl1は標準的な磁気レンズである。
このようなモデルでMEBS社シュミレーションソフト“Source、version 1.5”を用いて計算を行った。また、”sourceA”を行うための条件: .con も表1の左下に記載した。表1で斜体太字はパラメータとして変化させた箇所である。
シミュレーション手順は、
1)ウエーネルト電圧をある値に設定し、”SourceV を実行するとカソード電流Ie が算出される。
2)“SourceA“を実行するとカソード電流密度:Jc とクロスオーバ径:Dco、クロスオーバ位置:Zco が算出される。
3)“SourceB”を実行すると輝度の放出角度依存性が出力される。軸上輝度Bと。輝度が軸上輝度の90%又は110%になる放出角を読み取り、該放出角と上記クロスオーバの積からエミッタンスが算出される。
4) .con の軌道数を少なくし、sourceA をやり直し、sourceP で軌道計算を行う。
5) レンズ強度をパラメータとして変化させ、輝度を算出した。
【0009】
図2は、本発明に係る電子銃の一例の断面モデル図である。形状は光軸の回わりに回転対称形で、凸面引き出し電極22を有する電子銃である。カソード: 23は電子線放出面が球面状で、LaB6,CeB6,W−ZrO等の低仕事関数材料あるいは光陰極である。ウエーネルト電極21は、円錐台の外面の一部の形状であるのは従来の電子銃と共通である。カソード23はウエーネルト: 21に対して組み込み前に大気中で軸あわせ可能の構造とし、これら2電極とアノード: 22とは図示の無い電子銃外側に設けた微調整機構によってビームを見ながら軸調整を行えるようにした。
【表1】
【0010】
図2のモデルでの電子銃で、カソード曲率半径Rccを20、60、120、240,480 μmRとし、ウエーネルト電圧を固定し、Magnetic lens のExcitation: ATを変化させた。シミュレーション結果を図3に示した。アノード電圧は20 kV,カソードは0Vである。 図3で横軸はMagnetic lens の像点距離(mm)で、レンズのExcitation: ATはグラフの上部に表示した。 縦軸は輝度(x105A/cm2sr)である。図2で、カソードーアノード電極間距離:Dacは12mmである。この場合の電子銃電流は122μAと比較的小さく、小さいエネルギー幅のビームが得られる。
破線、点線、一点鎖線及び実線は、それぞれ20、60、120、240,480 μmRのカソードに対応し、ほぼ右上がりの曲線は輝度である。ほぼ右下がりの曲線は20μm(破線)と480μm(実線)でのエミッタンスであり、31の直線群はLangmuir限界値である。矩形マーク32は、120μmカソードで、レンズ位置を40mmにした場合の輝度で、レンズの励磁に依存せず、Langmuir限界値にほぼ等しい輝度になる。レンズ強度に依存する輝度を得るにはレンズ位置(或いは物点距離)を41mm以上にすれば良い。
さらに、2段目のレンズのレンズ位置(或いは物点距離)を40mm以下にすれば2段目のレンズを縮小系にしても輝度が像点距離に依存しないので、1段目のレンズ作用で得られた高輝度を保持できる。
図3から明らかな様に120、240及び480μm Rccのカソードでは輝度は像点距離が180mm以上の像点距離でLangmuir 限界値を超えているのが見られる。この場合の物点距離は180mmであるから、像点距離が180mm以上では、クロスオーバは拡大像になる。高輝度を利用するには、初段レンズで拡大像を形成し、次段以降のレンズでクロスオーバを縮小し、試料面にクロスオーバの縮小像を形成すれば良い。
【0011】
図4は輝度の測定を行った装置の光学図であり、本発明の光学系としても利用できる。装置は(株)エリオニクス社のEBW-7500C で、電子銃からのビームを初段レンズ44で平行ビームにし、次段レンズ47と対物レンズ49でクロスオーバを縮小するレンズ条件(点線)とケーラー照明条件(実線)で輝度測定を行なった。実線の場合、初段レンズの物点42と像点46はそれぞれ123mmと108mmであり、僅かに縮小条件である。輝度測定のためのビーム寸法は、金を蒸着したSiエッジを走査した時の2次電子信号が10%から90%に立ち上がる距離で測定した。開口角:αは、第2レンズの像点距離48の距離をcとすると、
α = dNA(d+e-c)/2f(d-c)
である。但し、dNAはNA開口の直径である。ビーム電流:IbはファラデーケージFCで吸収された電流をピコアンメータで測定した。
輝度:Bは
B=4Ib/(πφbα)2
ここで、φbはビーム直径である。
【0012】
次に実測した結果について記述する。測定装置は株式会社エリオニクス社製描画装置:EBW-7500Cの光学系を用いて行った。この光学系はTFE電子銃用の装置であったので、最初は、カソード温度を十分高くできなかった。あらかじめ測定したカソード温度は1360Kであった。しかしこの温度では、電子銃電流164μAは放出できないので、より正確なカソード温度を決める必要があった。図5はカソード温度を測定するための電子銃電流のウエーネルト電圧依存性である。51は実測値、52,53はそれぞれ、ウエーネルト位置がー.1mmとー.2mmでの電子銃電流のシミュレーション値である。破線53が実測値の立下り値に近いので、ウエーネルト位置はカソード先端から0.2mm反アノードの位置である。
【0013】
図6はカソード温度の決定方法である。61はウエーネルト位置がー0.2mmでの電子銃電流のシミュレーション値である。この図から、電子銃電流164μAと61の交点からカソード温度は1419.3Kと決めた。
図7は第1条件での実測値72を記入した図である。71はカソード温度1419.3Kでシミュレーションした輝度である。74は同じ条件でのカソード電流密度のシミュレーション値から算出したLangmuir 限界値を10倍した値である。73はエミッタンスであり、いずれも像点距離(m)依存性である。
実測値72の詳細を表2に示した。測定した輝度の信頼性を向上するため、同じ電子銃電流で3条件のα値で測定を行った。Acceptanceは、αとビーム直径:φbとの積で、電子銃のエミッタンスがこの値より大きい場合に正確な輝度測定ができる。逆に、電子銃のエミッタンスがこの値より小さい場合には軸上輝度ではなく平均輝度になり、当然軸上輝度より小さい値になる。
【表2】
実測値No.1の詳細は、ビーム電流:0.44nA,ビーム径:243nm, e: 139 mm, f:167mm, g: 37 mm, φNA:40μmから開口半角:αt:1.17mrad, であり、2.21x105A/cm2sr と計算される。
実測値No.2の詳細は、ビーム電流:1.64nA,ビーム径:252nm, e: 117 mm,
f: 167mm, g: 37mm, φNA:80μm, 式(3)から開口半角αt:2.34mradとなり、式(4)から輝度は1.91x105A/cm2sr と計算される。
実測値No.3の詳細は、ビーム電流:1.08 nA,ビーム径: 313 nm, e: 117 mm, f:167mm, g: 37 mm, φol:40μmから開口半角:αt:1.312 mrad, であり、2.6x105A/cm2sr と計算される。
図7で71は図2のモデルにカソード温度1419.3K、Ie: 164μAでシミュレーションした輝度の像点:b依存性であり、73は同じくエミッタンスである。74はこのシミュレーションで算出された軸上カソード電流密度から算出したLangmuir limit を10倍した値である。実測値72はシミュレーション値の10%程度であるが、Langmuir limit の100倍である。
【0014】
以上の実測輝度をLangmuir 限界の100倍の破線74と比較すると、実測値72はそれぞれ、85倍、73.5倍、及び100倍になる。これらの実測から、カソードから放出された電子線を初段レンズで平行ビームにし、次段以降のレンズでクロスオーバを縮小し、試料面にクロスオーバの縮小像を形成するようにすれば、Langmuir 限界の73.5〜100倍の輝度が得られたと言える。
図7で、像点10mではエミッタンスは0.35μmmradしかない。一方、表2で2.6x105A/cm2srの輝度での装置のアクセプタンスは0.41μmmradである。従って装置のアクセプタンスが電子銃のエミッタンスより大きいので、実際の輝度より小さく測定されている。従って表2のNo.3の測定値はLangmuir limitの100倍以上である。
【0015】
図8はカソード温度が上昇中に測定した輝度の電子銃電流依存性である。測定した時のカソード温度が表示されている。実線は測定値の輝度であり、81はシミュレーション値の1/100の値である。82はLangmuir limit の値である。1459Kでの輝度の実測値はシミュレーション値の1/23.9であり、Langmuir limit の21.9倍である。この条件の場合、カソード温度が低い事と、ウエーネルト電圧がー500Vと浅いので、電子銃から放出されたビームは(100)方位、(310)方位x2、(301)方位x2の合計5つの方向に分散し、これらの内(100)方位と(310)方位あるいは(301)方位の内の1つ、合計2つのビームがNA開口を通過し、クロスオーバも2分割されていた。このため、10%から90%にSED信号が立ち上がる距離で測定したビーム径は大きく測定され、しかもNA開口も部分的にしか照明されていないとの2つの要因で、輝度は実際より大幅に小さい値に測定された。それにもかかわらずLangmuir limit の21.9倍の値が実測された。
図1は図2のモデルとカソード曲率のみ変えたモデルにレンズは物点距離180mm、像点距離400mmでシミュレーションしたカソード電流密度から算出したLangmuir limitと実測を比較した、輝度の電子銃電流依存性である。11,12,13,14、及び15はそれぞれ、カソードの尖端曲率が20、60、120、240,480μmの電子銃に対応している。マークの付いた曲線は実測輝度であり、マークなしの同じ種類の曲線は、対応するカソードでのLangmuir limitである。カソードの尖端曲率が20、60、120、240,480μmの電子銃では、最大値ではそれぞれLangmuir limit の8.7、5.3、3.3、2.4、及び3.9倍の輝度が得られている。実測した輝度は全ての電子銃電流でLangmuir limitを上回っている。
【0016】
次に、第2の条件即ち、ケーラー照明条件での実測結果について述べる。ここではカソード加熱電源の改造は終了したので、1900Kでの測定を行った。
図9は加速電圧5kVでの測定結果である。対物開口φNA は40μmφ、ビーム径は30μmφのブランキング開口の縮小像で、1.0μmφと測定されで、αは1.19mrad であった。 91は、初段レンズの像点距離が102mmの場合のシミュレーションでの輝度の電子銃電流:Ie 依存性である。破線:92は同じくシミュレーションで得られたカソード電流密度から算出したLangmuir 限界の電子銃電流:Ie 依存性である。実線93と点線94は実測である。図から明らかな様に電子銃電流:Ieが180μA付近でLangmuir 限界を超えている。
図で93と94は殆ど同じ条件で、ただ、電子銃軸合わせが異なる。93は図4のNA開口に吸収される電流が最大になるよう電子銃軸合わせを行ったのに対して、94では、ファラデーケージFCに流れる吸収電流が最大になるよう電子銃軸合わせを行った結果である。93と94を比較すると、大差がないので、軸合わせは輝度測定に影響を与えていないのがわかる。
図9から明らかな様に、電子銃電流の167μAと180μAでLangmuir 限界を超えているのが見られるが、超えていない輝度もあり、このレンズ条件では、輝度はLangmuir 限界と同程度である。
図10はケーラー照明、ビームエネルギーが2keVの場合で、点線101はシミュレーションの輝度、102は実測の輝度であり、103はLangmuir 限界である。この結果も実測値はLangmuir 限界と同程度である。
以上、3つのレンズ条件即ち
1.カソードから放出された電子線を初段レンズでほぼ平行ビームにし、次段以降のレンズで所定のビームに制御する。
2.初段レンズの像点距離を物点距離より大きくするレンズ条件。
3.初段レンズの像点距離を物点距離より小さくするレンズ条件。で輝度測定を行った結果、
1.の初段レンズでほぼ平行ビームにする条件では少なくともLangmuir 限界の100倍の輝度、
2.の初段レンズの像点距離を物点距離より大きくするレンズ条件では、Langmuir 限界の2.4から8.7倍の輝度が得られ、
3.初段レンズの像点距離を物点距離より小さくするレンズ条件ではLangmuir 限界と同程度の輝度が実測できた。このようなレンズ条件依存性は、図3に示した輝度のレンズ励磁依存性と矛盾しない。
【0017】
図11は本発明の実施例である。所定のビーム寸法で最大のビーム電流を得る輝度の最適化方法について述べる。
1)電子銃の後方にレンズを配置したモデルで輝度の像点距離依存性をシミュレーションする。
2)レンズ系の収差を算出する。
3)軸上色収差116、コマ収差118、球面収差、例えば100nAのビーム電流での空間電荷ボケ111及び偏向色収差を図11に示した様にNA依存性を両対数グラフに表示し、空間電荷ボケを除いた収差を2乗和の平方根とした合計収差112を算出し、例えば20nm のビーム径にする場合、113に示した有効ビームサイズDeffを表示する。但し、Deff = √(202−δtotal2)
4)113の曲線に右下がり45度の接線114を引き、空間電荷ボケ111と比較する。
5)114は100nAである111と比較して46nAの空間電荷ボケと算出する。
6)直線114とNAが100mrad でのビームサイズ3nm と46nAから図11の下に示した式から、最適輝度1.63x107A/cm2srを得る。
7)例えば20μm Rccのカソードの電子銃を用いる場合は、図3の 破線の輝度のグラフより像点距離:bを400mmとする。この調整方法で、実測によって、最適像点距離を算出しても良い。
以上に示した様に、荷電粒子線源の後方にレンズを配置する工程、上記レンズの像点距離を変え輝度をシミュレーションする工程(1)、レンズ系の収差を算出する工程(2)、要求されるビーム寸法と上記収差から最適輝度を算出する工程(3,4,5,6)、上記レンズの像点距離を変え上記最適輝度が得られる様上記レンズの像点距離を調整する工程(7)を有する様にすればよい。輝度が高ければ高い方が良い場合は、像点距離を∞に(平行ビームに)すれば良い。最適輝度は経験から算出してもよい。
【0018】
図12は3つのレンズ条件でのシミュレーション及び実測輝度とLangmuir limit との比を比:(像点距離/物点距離)依存性をグラフにしたものである。こうする事により3つのレンズ条件の結果を1つのグラフに纏める事ができる。条件123,124はカソード曲率半径20μmのデータのみを表示した。図から明らかな様にシミュレーションはもちろん実測の輝度はレンズの像点距離の増加関数であるのがあきらかである。
ここで、比:(像点距離/物点距離)b/aは初段レンズの拡大率に相当する。従って、初段レンズの拡大率を調整することにより、輝度あるいはエミッタンスを調整可能である事を示している。
図13は本発明の実施例の光学系である。荷電粒子線源131から放出された荷電流子線135は初段レンズ132で平行ビームにされ、次段レンズ133で3段目レンズ134の手前138にクロスオーバを結ぶ。134のレンズの物点距離を40mm以下にし、レンズ134で平行ビームにすれば、ビーム径が小さく、且つ平行度の良いビームが得られ、ERL放射光源の入射用に用いる電子源等に適している。
以上は主に電子線での記述であるが、荷電粒子線一般に適用可能である。
図14は本発明の実施例のイオン発生装置である。球面形状の電極141とメッシュ電直142の間に高周波電源150からの高周波電波を印加し、ノズル142から重イオン用のガスを注入すると、高周波放電が起き、重イオン(H+, He+, C+等)が発生する。イオン引き出し電極145と制御電極144でイオンビームを制御すると、クロスオーバが電極145の近辺に形成される。電極146,147及び148は静電レンズである。クロスオーバと電極147の距離を41mmより大きくし、このレンズの拡大率を1以上にすれば、小さいエミッタンスのイオンビームを形成できる。次段のレンズ位置を40mmより小さく設計すれば、放出角が小さく、細く、強度の大きいイオンビームが得られる。こイオンビームを加速器に入射し、光速近くまで加速し、がん細胞に大きいイオン密度の重イオンビームを照射できる。加速電圧を適切に選び、入射点からがん細胞までの距離をRangeより少し長く選べば健康な細胞への照射は小さくできる。
【産業上の利用可能性】
【0019】
以上、本発明に係る電子線装置の発明を実施するための最良の形態を説明したところから理解されるように、本発明は、Langmuir限界を超える輝度が得られる電子銃を利用可能にした。また、ERL放射光源の入射用に用いる電子源では、超高輝度で大ビーム電流の電子銃を利用可能にする。更に重イオン用のイオン源で、小ビームサイズで発散角が小さく、且つ大きい電流のイオンを発生させる事ができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】実測輝度とLangmuir limitの電子銃電流依存性
【図2】本発明に係る電子銃のモデル図の一例である。
【図3】図2に示した電子銃で、初段レンズの励磁ATをパラメータとした輝度、エミッタンス、及びLangmuir limitのシミュレーション例である。
【図4】測定を行った電子光学系。
【図5】電子銃電流のウエーネルト電圧依存性
【図6】カソード温度決定方法
【図7】初段レンズで平行ビームにした場合の輝度の実測例である。
【図8】カソード温度が低く、ウエーネルト電圧が浅い場合で、初段レンズで平行ビームにした場合の輝度の実測例である。
【図9】ケーラー照明条件、ビームエネルギー5keVでの輝度の実測例である。
【図10】ケーラー照明条件、ビームエネルギー2keVでの輝度の実測例である。
【図11】最適輝度算出方法。
【図12】実験結果のまとめ、横軸は初段レンズの拡大率。
【図13】小さいビーム径で平行度の良いビーム形成例。
【図14】本発明の重イオン発生装置
【符号の説明】
【0021】
11、12,13、14、及び15はカソード尖端曲率半径が、それぞれ20、60、120、240、480μm の場合の輝度の実測値。32はカソード尖端曲率半径が120μm, レンズの物点距離40mmでの輝度。42は初段レンズの物点距離、45は初段レンズの像点距離。53はウエーネルト位置がー0.2mmの場合の電子銃電流Ieのシミュレーション値。72は輝度の3つの実測値、74はLangmuir limitの10倍値。81はシミレーション値を1/100倍した値。113は Deff= √(D2-δtotal2), ただしDは必要なビーム直径、図では20nm, δtotalは曲線112。121、123、125はそれぞれ、b/aが0.8, 2.2,及び8.8での実測輝度/Langmuir limitである。136:平行で高輝度のビーム、137:小口径、超高輝度のビーム。
【技術分野】
【0001】
本発明は、超高輝度が得られる荷電粒子線装置に関し、またその様な荷電粒子線装置
を用い、表面にパターンが形成された試料の評価をするための荷電粒子線装置に関し、より詳細には、半導体製造各工程後等におけるウエハ等の試料に電子ビームを照射し、その表面の性状に応じて変化する二次電子等を捕捉して画像データを形成し、該画像データに基づいて試料表面に形成されたパターンの欠陥等を高スループットで評価するための荷電粒子線装置に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体製造プロセスにおいて、デザインルールは45nmの時代を迎え、また生産形態はDRAMに代表される少品種大量生産からSOC(Silicon on chip)のように多品種少量生産へ移行しつつある。それに伴い、製造工程数が増加し、工程毎の歩留まり向上は必須となり、プロセス起因の欠陥検査が重要になる。
そして、半導体デバイスの高集積化及びパターンの微細化に伴い、高分解能、高スループットの検査装置が要求されている。45nmデザインルールのウエハの欠陥を調べるためには、40nm以下の分解能が必要であり、デバイスの高集積化による製造工程の増加により、検査量が増大するため、高スループットが要求されている。また、デバイスの多層化が進むにつれて、層間の配線をつなぐビアのコンタクト不良(電気的欠陥)を検出する機能も、検査装置に要求されている。
ERL放射光源の入射用に用いる電子源では、超高輝度で大ビーム電流の電子銃が要求される。(西谷他、第53回応用物理学関連講演会講演予講習No2, 2006 春p798)
電子銃の輝度に関しては、Langmuir限界と呼ばれる最高値があると、従来から信じられていた。それは、次式で示される値であった。
カソード電流密度をJc,とすると、得られる最大電流密度Jmax は、
Jmax = Jc(1+eφ/kT)sin2α (1)
最大輝度Bmaxは、
Bmax = Jmax/πsin2α = Jc(1+eφ/kT)/π (2)
例えば、Jc =10 A/cm2, φ=4500 Vでは、e=1.6x10-19, k =1.38x10-23
を(2)式に代入すると、Bmax =9.23x104 A/cm2sr となる。
そして、これらの式は、ルュウビルの定理、マクスウエルの初速度分布とエネルギー不滅の公式のみから厳密に導かれ、疑う人は居なかった。 更に、レンズで輝度を向上できない事は電子光学のみでなく光学でも常識であった。しかし、シミュレーションではレンズで輝度は変化している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2003−2977272号公報
【特許文献2】特開2004−22235号公報
【特許文献3】特開2003−323860号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記した従来装置における電子銃は、カソード表面に高電界がかかる様曲率半径の小さい凸型の球面形状を有するカソードと平面アノード、平面ウエーネルト電極を有する3電極電子銃が主流であった。しかしながら、この様な電子銃の輝度は限界があり、所望の輝度より遥かに小さいという問題があった。
更に、これに関し曲率半径25〜40μRの球面カソードと平面アノード及び平面ウエーネルト電極を有する3電極電子銃で、Langmuir限界を超えるシムレーション結果が提案されている。(特開2003−2977272、特開2004−22235、特開2003−323860)しかしこのような電子銃では電子銃電流の極狭い範囲でのみ超高輝度になり、この狭い範囲を実測で探すのは困難で、シムレーション結果の性能が、実際には得られていない問題があった。
【0005】
また、従来のタイプの電子銃ではカソードの近辺で電流密度が高いため、カソード付近でビームエネルギーの小さい時に電子同士が相互作用を起こしエネルギー幅が拡がる問題点があった。本発明は上記問題点を解決するためのもので、Langmuir限界を超える輝度を確実に得られる電子銃を提供し、更に小さい電子銃電流で高輝度を得る事により、エネルギー幅の小さい電子銃を提供する事を目的とし、さらに本発明で得られる電子銃の性能を充分生かせるERL放射光源の入射用に用いる電子源を提供することも目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記した目的を達成するために、本発明に係る荷電粒子線装置では、
荷電粒子線源、荷電粒子引出し電極、及び荷電粒子制御電極を有する荷電粒子線源及び初段レンズを有する装置であり、上記初段レンズの拡大率を調整する事により、荷電粒子線の輝度あるいはエミッタンスを調整するようにした。
この手段により、最適輝度に調整することが出来た。
更に上記初段レンズの拡大率は、上記初段レンズの像点距離を調整する事により行う様にした。
これによりレンズ位置を変更する必要なく輝度を調整できる。
上記初段レンズの物点距離を41mmより大きくした。
この手段により、輝度が初段レンズの拡大率の増加関数になった。
また、次段レンズでビームを縮小する場合、次段レンズレンズの物点距離を40mm以下にした。
この手段により、輝度が次段レンズの拡大率に依存しなくなった。従って、初段で得た高輝度が次段レンズ以降でも保持できる。
また、上記手段で、初段レンズの像点距離を調整しても良い。
この手段により、輝度を調整可能である。
更に先の手段で、上記像点距離を∞にしても良い。
この場合、最大輝度が得られる。
また、最初の手段で、大きいエミッタンスを得たいばあい、上記初段レンズの拡大率を1より小さくするようにした。
【0007】
さらに上記した目的を達成するために、本発明に係る荷電粒子線装置では、荷電粒子線源の後方にレンズを配置する工程、上記レンズの像点距離を変え輝度をシミュレーションする工程、レンズ系のNAの増加関数になるビームボケ要因とNA の減少関数になるビームボケ要因とから最適NAを算出し、そこから最適輝度を算出する工程、上記最適輝度が得られる様上記初段レンズの拡大率を調整する工程を有する様にした。
更に上記手段に於いて、2段目レンズ及び3段目レンズを設ける工程を有し、初段レンズで平行ビームを形成する工程、2段目のレンズで3段目のレンズの前方にクロスオーバを形成する工程及び3段目のレンズで1段目のビームより電流密度の大きい平行ビームを形成する様にした。
この荷電粒子ビーム調整方法により、細くて発散角の小さいビームが得られた。
また、収差及び空間電荷効果によるビームのボケあるいは回折収差を算出する工程、要求されるビーム寸法と上記収差及びボケから最適輝度を算出してもよい。
さらに、上記下第1の手段で、荷電粒子源として、凹面で球面状の電極、球面状のメッシュ電極を有し、これらの電極間に高周波を印加するようにした。この結果、粒子源での電流密度が小さいが、クロスオーバでは高輝度の荷電粒子が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
表1は、Langmuir 限界を超える輝度を実験的に得るのに用いた電子銃の例である。レンズcl1は標準的な磁気レンズである。
このようなモデルでMEBS社シュミレーションソフト“Source、version 1.5”を用いて計算を行った。また、”sourceA”を行うための条件: .con も表1の左下に記載した。表1で斜体太字はパラメータとして変化させた箇所である。
シミュレーション手順は、
1)ウエーネルト電圧をある値に設定し、”SourceV を実行するとカソード電流Ie が算出される。
2)“SourceA“を実行するとカソード電流密度:Jc とクロスオーバ径:Dco、クロスオーバ位置:Zco が算出される。
3)“SourceB”を実行すると輝度の放出角度依存性が出力される。軸上輝度Bと。輝度が軸上輝度の90%又は110%になる放出角を読み取り、該放出角と上記クロスオーバの積からエミッタンスが算出される。
4) .con の軌道数を少なくし、sourceA をやり直し、sourceP で軌道計算を行う。
5) レンズ強度をパラメータとして変化させ、輝度を算出した。
【0009】
図2は、本発明に係る電子銃の一例の断面モデル図である。形状は光軸の回わりに回転対称形で、凸面引き出し電極22を有する電子銃である。カソード: 23は電子線放出面が球面状で、LaB6,CeB6,W−ZrO等の低仕事関数材料あるいは光陰極である。ウエーネルト電極21は、円錐台の外面の一部の形状であるのは従来の電子銃と共通である。カソード23はウエーネルト: 21に対して組み込み前に大気中で軸あわせ可能の構造とし、これら2電極とアノード: 22とは図示の無い電子銃外側に設けた微調整機構によってビームを見ながら軸調整を行えるようにした。
【表1】
【0010】
図2のモデルでの電子銃で、カソード曲率半径Rccを20、60、120、240,480 μmRとし、ウエーネルト電圧を固定し、Magnetic lens のExcitation: ATを変化させた。シミュレーション結果を図3に示した。アノード電圧は20 kV,カソードは0Vである。 図3で横軸はMagnetic lens の像点距離(mm)で、レンズのExcitation: ATはグラフの上部に表示した。 縦軸は輝度(x105A/cm2sr)である。図2で、カソードーアノード電極間距離:Dacは12mmである。この場合の電子銃電流は122μAと比較的小さく、小さいエネルギー幅のビームが得られる。
破線、点線、一点鎖線及び実線は、それぞれ20、60、120、240,480 μmRのカソードに対応し、ほぼ右上がりの曲線は輝度である。ほぼ右下がりの曲線は20μm(破線)と480μm(実線)でのエミッタンスであり、31の直線群はLangmuir限界値である。矩形マーク32は、120μmカソードで、レンズ位置を40mmにした場合の輝度で、レンズの励磁に依存せず、Langmuir限界値にほぼ等しい輝度になる。レンズ強度に依存する輝度を得るにはレンズ位置(或いは物点距離)を41mm以上にすれば良い。
さらに、2段目のレンズのレンズ位置(或いは物点距離)を40mm以下にすれば2段目のレンズを縮小系にしても輝度が像点距離に依存しないので、1段目のレンズ作用で得られた高輝度を保持できる。
図3から明らかな様に120、240及び480μm Rccのカソードでは輝度は像点距離が180mm以上の像点距離でLangmuir 限界値を超えているのが見られる。この場合の物点距離は180mmであるから、像点距離が180mm以上では、クロスオーバは拡大像になる。高輝度を利用するには、初段レンズで拡大像を形成し、次段以降のレンズでクロスオーバを縮小し、試料面にクロスオーバの縮小像を形成すれば良い。
【0011】
図4は輝度の測定を行った装置の光学図であり、本発明の光学系としても利用できる。装置は(株)エリオニクス社のEBW-7500C で、電子銃からのビームを初段レンズ44で平行ビームにし、次段レンズ47と対物レンズ49でクロスオーバを縮小するレンズ条件(点線)とケーラー照明条件(実線)で輝度測定を行なった。実線の場合、初段レンズの物点42と像点46はそれぞれ123mmと108mmであり、僅かに縮小条件である。輝度測定のためのビーム寸法は、金を蒸着したSiエッジを走査した時の2次電子信号が10%から90%に立ち上がる距離で測定した。開口角:αは、第2レンズの像点距離48の距離をcとすると、
α = dNA(d+e-c)/2f(d-c)
である。但し、dNAはNA開口の直径である。ビーム電流:IbはファラデーケージFCで吸収された電流をピコアンメータで測定した。
輝度:Bは
B=4Ib/(πφbα)2
ここで、φbはビーム直径である。
【0012】
次に実測した結果について記述する。測定装置は株式会社エリオニクス社製描画装置:EBW-7500Cの光学系を用いて行った。この光学系はTFE電子銃用の装置であったので、最初は、カソード温度を十分高くできなかった。あらかじめ測定したカソード温度は1360Kであった。しかしこの温度では、電子銃電流164μAは放出できないので、より正確なカソード温度を決める必要があった。図5はカソード温度を測定するための電子銃電流のウエーネルト電圧依存性である。51は実測値、52,53はそれぞれ、ウエーネルト位置がー.1mmとー.2mmでの電子銃電流のシミュレーション値である。破線53が実測値の立下り値に近いので、ウエーネルト位置はカソード先端から0.2mm反アノードの位置である。
【0013】
図6はカソード温度の決定方法である。61はウエーネルト位置がー0.2mmでの電子銃電流のシミュレーション値である。この図から、電子銃電流164μAと61の交点からカソード温度は1419.3Kと決めた。
図7は第1条件での実測値72を記入した図である。71はカソード温度1419.3Kでシミュレーションした輝度である。74は同じ条件でのカソード電流密度のシミュレーション値から算出したLangmuir 限界値を10倍した値である。73はエミッタンスであり、いずれも像点距離(m)依存性である。
実測値72の詳細を表2に示した。測定した輝度の信頼性を向上するため、同じ電子銃電流で3条件のα値で測定を行った。Acceptanceは、αとビーム直径:φbとの積で、電子銃のエミッタンスがこの値より大きい場合に正確な輝度測定ができる。逆に、電子銃のエミッタンスがこの値より小さい場合には軸上輝度ではなく平均輝度になり、当然軸上輝度より小さい値になる。
【表2】
実測値No.1の詳細は、ビーム電流:0.44nA,ビーム径:243nm, e: 139 mm, f:167mm, g: 37 mm, φNA:40μmから開口半角:αt:1.17mrad, であり、2.21x105A/cm2sr と計算される。
実測値No.2の詳細は、ビーム電流:1.64nA,ビーム径:252nm, e: 117 mm,
f: 167mm, g: 37mm, φNA:80μm, 式(3)から開口半角αt:2.34mradとなり、式(4)から輝度は1.91x105A/cm2sr と計算される。
実測値No.3の詳細は、ビーム電流:1.08 nA,ビーム径: 313 nm, e: 117 mm, f:167mm, g: 37 mm, φol:40μmから開口半角:αt:1.312 mrad, であり、2.6x105A/cm2sr と計算される。
図7で71は図2のモデルにカソード温度1419.3K、Ie: 164μAでシミュレーションした輝度の像点:b依存性であり、73は同じくエミッタンスである。74はこのシミュレーションで算出された軸上カソード電流密度から算出したLangmuir limit を10倍した値である。実測値72はシミュレーション値の10%程度であるが、Langmuir limit の100倍である。
【0014】
以上の実測輝度をLangmuir 限界の100倍の破線74と比較すると、実測値72はそれぞれ、85倍、73.5倍、及び100倍になる。これらの実測から、カソードから放出された電子線を初段レンズで平行ビームにし、次段以降のレンズでクロスオーバを縮小し、試料面にクロスオーバの縮小像を形成するようにすれば、Langmuir 限界の73.5〜100倍の輝度が得られたと言える。
図7で、像点10mではエミッタンスは0.35μmmradしかない。一方、表2で2.6x105A/cm2srの輝度での装置のアクセプタンスは0.41μmmradである。従って装置のアクセプタンスが電子銃のエミッタンスより大きいので、実際の輝度より小さく測定されている。従って表2のNo.3の測定値はLangmuir limitの100倍以上である。
【0015】
図8はカソード温度が上昇中に測定した輝度の電子銃電流依存性である。測定した時のカソード温度が表示されている。実線は測定値の輝度であり、81はシミュレーション値の1/100の値である。82はLangmuir limit の値である。1459Kでの輝度の実測値はシミュレーション値の1/23.9であり、Langmuir limit の21.9倍である。この条件の場合、カソード温度が低い事と、ウエーネルト電圧がー500Vと浅いので、電子銃から放出されたビームは(100)方位、(310)方位x2、(301)方位x2の合計5つの方向に分散し、これらの内(100)方位と(310)方位あるいは(301)方位の内の1つ、合計2つのビームがNA開口を通過し、クロスオーバも2分割されていた。このため、10%から90%にSED信号が立ち上がる距離で測定したビーム径は大きく測定され、しかもNA開口も部分的にしか照明されていないとの2つの要因で、輝度は実際より大幅に小さい値に測定された。それにもかかわらずLangmuir limit の21.9倍の値が実測された。
図1は図2のモデルとカソード曲率のみ変えたモデルにレンズは物点距離180mm、像点距離400mmでシミュレーションしたカソード電流密度から算出したLangmuir limitと実測を比較した、輝度の電子銃電流依存性である。11,12,13,14、及び15はそれぞれ、カソードの尖端曲率が20、60、120、240,480μmの電子銃に対応している。マークの付いた曲線は実測輝度であり、マークなしの同じ種類の曲線は、対応するカソードでのLangmuir limitである。カソードの尖端曲率が20、60、120、240,480μmの電子銃では、最大値ではそれぞれLangmuir limit の8.7、5.3、3.3、2.4、及び3.9倍の輝度が得られている。実測した輝度は全ての電子銃電流でLangmuir limitを上回っている。
【0016】
次に、第2の条件即ち、ケーラー照明条件での実測結果について述べる。ここではカソード加熱電源の改造は終了したので、1900Kでの測定を行った。
図9は加速電圧5kVでの測定結果である。対物開口φNA は40μmφ、ビーム径は30μmφのブランキング開口の縮小像で、1.0μmφと測定されで、αは1.19mrad であった。 91は、初段レンズの像点距離が102mmの場合のシミュレーションでの輝度の電子銃電流:Ie 依存性である。破線:92は同じくシミュレーションで得られたカソード電流密度から算出したLangmuir 限界の電子銃電流:Ie 依存性である。実線93と点線94は実測である。図から明らかな様に電子銃電流:Ieが180μA付近でLangmuir 限界を超えている。
図で93と94は殆ど同じ条件で、ただ、電子銃軸合わせが異なる。93は図4のNA開口に吸収される電流が最大になるよう電子銃軸合わせを行ったのに対して、94では、ファラデーケージFCに流れる吸収電流が最大になるよう電子銃軸合わせを行った結果である。93と94を比較すると、大差がないので、軸合わせは輝度測定に影響を与えていないのがわかる。
図9から明らかな様に、電子銃電流の167μAと180μAでLangmuir 限界を超えているのが見られるが、超えていない輝度もあり、このレンズ条件では、輝度はLangmuir 限界と同程度である。
図10はケーラー照明、ビームエネルギーが2keVの場合で、点線101はシミュレーションの輝度、102は実測の輝度であり、103はLangmuir 限界である。この結果も実測値はLangmuir 限界と同程度である。
以上、3つのレンズ条件即ち
1.カソードから放出された電子線を初段レンズでほぼ平行ビームにし、次段以降のレンズで所定のビームに制御する。
2.初段レンズの像点距離を物点距離より大きくするレンズ条件。
3.初段レンズの像点距離を物点距離より小さくするレンズ条件。で輝度測定を行った結果、
1.の初段レンズでほぼ平行ビームにする条件では少なくともLangmuir 限界の100倍の輝度、
2.の初段レンズの像点距離を物点距離より大きくするレンズ条件では、Langmuir 限界の2.4から8.7倍の輝度が得られ、
3.初段レンズの像点距離を物点距離より小さくするレンズ条件ではLangmuir 限界と同程度の輝度が実測できた。このようなレンズ条件依存性は、図3に示した輝度のレンズ励磁依存性と矛盾しない。
【0017】
図11は本発明の実施例である。所定のビーム寸法で最大のビーム電流を得る輝度の最適化方法について述べる。
1)電子銃の後方にレンズを配置したモデルで輝度の像点距離依存性をシミュレーションする。
2)レンズ系の収差を算出する。
3)軸上色収差116、コマ収差118、球面収差、例えば100nAのビーム電流での空間電荷ボケ111及び偏向色収差を図11に示した様にNA依存性を両対数グラフに表示し、空間電荷ボケを除いた収差を2乗和の平方根とした合計収差112を算出し、例えば20nm のビーム径にする場合、113に示した有効ビームサイズDeffを表示する。但し、Deff = √(202−δtotal2)
4)113の曲線に右下がり45度の接線114を引き、空間電荷ボケ111と比較する。
5)114は100nAである111と比較して46nAの空間電荷ボケと算出する。
6)直線114とNAが100mrad でのビームサイズ3nm と46nAから図11の下に示した式から、最適輝度1.63x107A/cm2srを得る。
7)例えば20μm Rccのカソードの電子銃を用いる場合は、図3の 破線の輝度のグラフより像点距離:bを400mmとする。この調整方法で、実測によって、最適像点距離を算出しても良い。
以上に示した様に、荷電粒子線源の後方にレンズを配置する工程、上記レンズの像点距離を変え輝度をシミュレーションする工程(1)、レンズ系の収差を算出する工程(2)、要求されるビーム寸法と上記収差から最適輝度を算出する工程(3,4,5,6)、上記レンズの像点距離を変え上記最適輝度が得られる様上記レンズの像点距離を調整する工程(7)を有する様にすればよい。輝度が高ければ高い方が良い場合は、像点距離を∞に(平行ビームに)すれば良い。最適輝度は経験から算出してもよい。
【0018】
図12は3つのレンズ条件でのシミュレーション及び実測輝度とLangmuir limit との比を比:(像点距離/物点距離)依存性をグラフにしたものである。こうする事により3つのレンズ条件の結果を1つのグラフに纏める事ができる。条件123,124はカソード曲率半径20μmのデータのみを表示した。図から明らかな様にシミュレーションはもちろん実測の輝度はレンズの像点距離の増加関数であるのがあきらかである。
ここで、比:(像点距離/物点距離)b/aは初段レンズの拡大率に相当する。従って、初段レンズの拡大率を調整することにより、輝度あるいはエミッタンスを調整可能である事を示している。
図13は本発明の実施例の光学系である。荷電粒子線源131から放出された荷電流子線135は初段レンズ132で平行ビームにされ、次段レンズ133で3段目レンズ134の手前138にクロスオーバを結ぶ。134のレンズの物点距離を40mm以下にし、レンズ134で平行ビームにすれば、ビーム径が小さく、且つ平行度の良いビームが得られ、ERL放射光源の入射用に用いる電子源等に適している。
以上は主に電子線での記述であるが、荷電粒子線一般に適用可能である。
図14は本発明の実施例のイオン発生装置である。球面形状の電極141とメッシュ電直142の間に高周波電源150からの高周波電波を印加し、ノズル142から重イオン用のガスを注入すると、高周波放電が起き、重イオン(H+, He+, C+等)が発生する。イオン引き出し電極145と制御電極144でイオンビームを制御すると、クロスオーバが電極145の近辺に形成される。電極146,147及び148は静電レンズである。クロスオーバと電極147の距離を41mmより大きくし、このレンズの拡大率を1以上にすれば、小さいエミッタンスのイオンビームを形成できる。次段のレンズ位置を40mmより小さく設計すれば、放出角が小さく、細く、強度の大きいイオンビームが得られる。こイオンビームを加速器に入射し、光速近くまで加速し、がん細胞に大きいイオン密度の重イオンビームを照射できる。加速電圧を適切に選び、入射点からがん細胞までの距離をRangeより少し長く選べば健康な細胞への照射は小さくできる。
【産業上の利用可能性】
【0019】
以上、本発明に係る電子線装置の発明を実施するための最良の形態を説明したところから理解されるように、本発明は、Langmuir限界を超える輝度が得られる電子銃を利用可能にした。また、ERL放射光源の入射用に用いる電子源では、超高輝度で大ビーム電流の電子銃を利用可能にする。更に重イオン用のイオン源で、小ビームサイズで発散角が小さく、且つ大きい電流のイオンを発生させる事ができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】実測輝度とLangmuir limitの電子銃電流依存性
【図2】本発明に係る電子銃のモデル図の一例である。
【図3】図2に示した電子銃で、初段レンズの励磁ATをパラメータとした輝度、エミッタンス、及びLangmuir limitのシミュレーション例である。
【図4】測定を行った電子光学系。
【図5】電子銃電流のウエーネルト電圧依存性
【図6】カソード温度決定方法
【図7】初段レンズで平行ビームにした場合の輝度の実測例である。
【図8】カソード温度が低く、ウエーネルト電圧が浅い場合で、初段レンズで平行ビームにした場合の輝度の実測例である。
【図9】ケーラー照明条件、ビームエネルギー5keVでの輝度の実測例である。
【図10】ケーラー照明条件、ビームエネルギー2keVでの輝度の実測例である。
【図11】最適輝度算出方法。
【図12】実験結果のまとめ、横軸は初段レンズの拡大率。
【図13】小さいビーム径で平行度の良いビーム形成例。
【図14】本発明の重イオン発生装置
【符号の説明】
【0021】
11、12,13、14、及び15はカソード尖端曲率半径が、それぞれ20、60、120、240、480μm の場合の輝度の実測値。32はカソード尖端曲率半径が120μm, レンズの物点距離40mmでの輝度。42は初段レンズの物点距離、45は初段レンズの像点距離。53はウエーネルト位置がー0.2mmの場合の電子銃電流Ieのシミュレーション値。72は輝度の3つの実測値、74はLangmuir limitの10倍値。81はシミレーション値を1/100倍した値。113は Deff= √(D2-δtotal2), ただしDは必要なビーム直径、図では20nm, δtotalは曲線112。121、123、125はそれぞれ、b/aが0.8, 2.2,及び8.8での実測輝度/Langmuir limitである。136:平行で高輝度のビーム、137:小口径、超高輝度のビーム。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
荷電粒子線源、荷電粒子引出し電極、及び荷電粒子制御電極を有する荷電粒子線源及び初段レンズを有する装置であり、上記初段レンズの拡大率を調整する事により、荷電粒子線の輝度あるいはエミッタンスを調整することを特徴とする荷電粒子線装置。
【請求項2】
荷電粒子線源の後方にレンズを配置する工程、レンズ系のNAの増加関数になる収差及びNAの減少関数になるビームのボケ要因及び必要なビーム寸法から荷電流子線の最適輝度を算出する工程、上記最適輝度が得られる様上記レンズの拡大率を調整する工程を有する事を特徴とする荷電粒子線装置設計方法。
【請求項1】
荷電粒子線源、荷電粒子引出し電極、及び荷電粒子制御電極を有する荷電粒子線源及び初段レンズを有する装置であり、上記初段レンズの拡大率を調整する事により、荷電粒子線の輝度あるいはエミッタンスを調整することを特徴とする荷電粒子線装置。
【請求項2】
荷電粒子線源の後方にレンズを配置する工程、レンズ系のNAの増加関数になる収差及びNAの減少関数になるビームのボケ要因及び必要なビーム寸法から荷電流子線の最適輝度を算出する工程、上記最適輝度が得られる様上記レンズの拡大率を調整する工程を有する事を特徴とする荷電粒子線装置設計方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【公開番号】特開2013−101916(P2013−101916A)
【公開日】平成25年5月23日(2013.5.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−221872(P2012−221872)
【出願日】平成24年10月4日(2012.10.4)
【出願人】(500159772)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成25年5月23日(2013.5.23)
【国際特許分類】
【出願日】平成24年10月4日(2012.10.4)
【出願人】(500159772)
【Fターム(参考)】
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