説明

荷電粒子線装置および静電チャック装置

【課題】状況に応じた印加電圧とすることで装置の信頼性を向上させる荷電粒子線装置を提供する。
【解決手段】前記課題を解決するために、本発明の荷電粒子線装置1は、試料ステージ25に静電チャック30によって保持された試料24に電子線16を照射し、試料24の画像を生成する荷電粒子線装置1であって、試料24を保持する際に、静電チャック30のチャック電極26に予め設定した初期電圧を印加するとともに、試料24が静電チャック30に正常に吸着したか否かを判定し、試料24が静電チャック30に正常に吸着していないと判定した場合は、試料24が静電チャック30に正常に吸着したと判定するまで、チャック電極26に印加する電圧を上昇させる静電チャック制御部13を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、荷電粒子線装置の静電チャックにおける試料保持制御技術に関する。
【背景技術】
【0002】
荷電粒子線を用いて半導体ウェハを加工する装置や、半導体ウェハ上の回路パターンを検査する装置等は、半導体ウェハを保持するために、静電吸着力を用いた静電チャック方式による試料保持機能を有している。
【0003】
このような装置の一例として、電子線測長機がある。これは、半導体ウェハ上に作り込まれた回路パターンの幅、位置を測定するものである。静電チャック方式は、クーロン方式とジョンソン・ラーベック方式があるが、電子線測長機は、プローブ電流が非常に小さいことから、半導体ウェハに電流を流さないクーロン方式を採用している。
【0004】
クーロン方式は、誘電体の抵抗率が非常に大きいため、ジョンソン・ラーベック方式に比べ、大きな印加電圧が必要となる。このため、後記する問題が発生する。
なお、静電チャックによって、半導体ウェハ(以下、適宜「ウェハ」という。)が正常に吸着したか否かの判断方法については、ウェハが正常に吸着されているときに静電チャック回路に流れる電流を参照値として、当該参照値より電流が小さい場合に、正常にウェハが配置されていない(異常)と判断する方法が提案されている(例えば特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平11−330220号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
静電チャックは、印加電圧と時間との関係により、電源をOFFにした場合においても残留吸着力として吸着力が残留する現象を引き起こす可能性がある。これは、ウェハ表面等に誘起された電荷が緩和されず、意図しない吸着力が残っている状態である。静電チャックに印加する電圧が大きくなると、残留吸着力は、大きくなる傾向にある。このような状態になると、試料室内を大気開放して手動で取り出す等の事態となり、装置のダウンタイムが増大してしまうという問題がある。
【0007】
本発明は、このような背景に鑑みてなされたものであり、状況に応じた印加電圧とすることで装置の信頼性を向上させることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記課題を解決するために、本発明の荷電粒子線装置は、試料ステージに静電チャックによって保持された試料に電子線を照射し、試料の画像を生成する荷電粒子線装置であって、試料を保持する際に、静電チャックのチャック電極に予め設定した初期電圧を印加するとともに、試料が静電チャックに正常に吸着したか否かを判定し、試料が静電チャックに正常に吸着していないと判定した場合は、試料が静電チャックに正常に吸着したと判定するまで、チャック電極に印加する電圧を上昇させる静電チャック制御部を備えることを特徴とする。
その他の解決手段については、実施形態中で適宜説明する。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、状況に応じた印加電圧とすることで装置の信頼性を向上させることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】実施形態に係る荷電粒子線装置の構成を示す図である。
【図2】実施形態に係る荷電粒子線装置における静電チャック制御部の構成を示す図である。
【図3】残留吸着力について説明する図であり、(a)は、チャック電極に印加する電圧の大きさとウェハの吸着力との関係を示すグラフである。(b)は、電圧印加積算時間と残留吸着力との関係を示すグラフである。
【図4】チャック電圧の大きさと反りウェハの反り量との関係を示すグラフである。
【図5】ウェハが試料ステージに載置されてから、観察動作を経て、ウェハが静電チャックから脱離するまでのチャック電圧の時間軸における変化を示す図である。
【図6】第1実施形態に係る荷電粒子線装置の動作を示すフローチャートである。
【図7】ウェハのエッジ部測定に関する図であり、(a)は、ウェハのエッジ部へ観測点が移動する様子を示す図である。(b)は、ウェハのエッジ部近傍の電位分布を示す図である。
【図8】第2実施形態に係る荷電粒子線装置の動作を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
<第1実施形態>
以下、本発明の第1実施形態について、図1〜図6を参照して説明する。なお、各図において、共通する部分には同一の符号を付し重複した説明を省略する。
[荷電粒子線装置1の構成]
図1は、実施形態に係る荷電粒子線装置1の構成を示す図である。
図1に示すように、荷電粒子線装置1は、電子光学系カラム2と、試料室3と、制御系と、を備えている。
【0012】
まず、荷電粒子線装置1の観察動作について説明する。
試料室3内には、ウェハ(試料)24が、チャック電極26を有する静電チャック30によって試料ステージ25に保持されている。Zセンサ27は、ウェハ24の高さを検出し、Zセンサ制御部11へ高さ情報を出力する。
電子光学系カラム2内の電子銃14からは一次電子線16が引出し電極15によって射出される。一次電子線16は、焦点コイル20または動焦点コイル21により集束され、偏向器19により偏向されてウェハ24上を走査する。なお、一次電子線16をブランキングする必要がある場合は、ブランキング偏向器17は、一次電子線16を偏向して絞り18を通過しないようにする。
電子銃14、絞り18および焦点コイル20は、電子光学制御部8により制御される。
ブランキング偏向器17、偏向器19および動焦点コイル21は、偏向制御部10により制御される。
【0013】
一次電子線16がウェハ24に照射されると、反射電子および二次電子が発生し、これらはE×B偏向器23によって加速され、二次電子検出器22によって検出される。二次電子検出器22で検出された反射電子および二次電子の検出信号は、画像処理部9に入力される。画像処理部9は、制御情報を元に画像データを生成し、生成された画像データは、イーサネット(登録商標)6を介して、図示しない表示装置に画像として表示される。
なお、電子光学制御部8、画像処理部9、偏向制御部10およびZセンサ制御部11は、VME_Bus(VERSAModule Eurocard_Bus)7を介して、上位制御CPU(Central Processing Unit)5により制御される。
【0014】
試料ステージ制御部12は、試料ステージ25の位置を制御するものである。鉛直軸と垂直な平面をXY平面とすると、試料ステージ25は、X方向およびY方向に移動可能であり、試料ステージ制御部12は、試料ステージ25のXY座標を把握し、予め設定された情報に基づいて、試料ステージ25を移動させる。
静電チャック制御部13は、静電チャック30のチャック電極26に電圧を印加するものであり、ウェハ24の吸着状態の判定も行う。また、静電チャック制御部13は、印加する電圧を変更することができる。次に、静電チャック制御部13の詳細を説明する。
【0015】
(静電チャック制御部13の構成)
図2は、静電チャック制御部13の構成を示す図である。
図2に示すように、静電チャック制御部13は、印加電圧部131と、電流検出部132と、吸着判定部133と、出力電圧分圧モニタ部134と、制御IC(Integrated Circuit)135と、を備えている。
【0016】
チャック電極26は、試料ステージ25内に埋め込まれており、同心円状のダイポール型の静電チャック30を構成している。印加電圧部131は、この静電チャック30のチャック電極26に電圧を印加するものである。なお、一点鎖線で示した部分の電位は、例えば、電位VRとなっている。印加電圧部131は、この電位VR上に構成されている。このため、印加電圧部131の出力部では、荷電粒子線装置1のGND(グランド)からは電位VRが加算され、高電位となっている。
【0017】
印加電圧部131は、図示しない出力電圧可変機能を備えており、チャック電極26に印加する電圧は、上位制御IC137が制御IC135を介して制御する。すなわち、チャック電極26に印加する電圧については、外部から目標電圧値の設定やON/OFFが可能である。
なお、ウェハ24(図示せず)に照射される一次電子線16に影響を与えないようにするためには、チャック電極26の+/−電極面積比に基づいて、+電極と−電極に印加する電圧に若干の電圧差をもたせればよい。
【0018】
ここで、ウェハ24が静電チャック30に正常に吸着したか否かを判定する方法について説明する。
静電チャック30にウェハ24が載置された状態で、印加電圧部131がチャック電極26に電圧を印加すると、静電チャック30の表面とウェハ24の裏面において誘電分極が発生する。これにより、チャック電極26の正負電極とウェハ24間にコンデンサが形成されることとなる。このとき、チャック電極26の正負電極とウェハ24間に、コンデンサの容量に比例した過度電流が発生する。コンデンサの容量は、ウェハ24の吸着状態が正常である場合は、異常である場合と比べて大きくなる。このため、測定した過度電流の大きさ(ピークの大きさ)を予め設定した閾値と比較することにより、ウェハ24が静電チャック30に正常に吸着したか否かを判定することができる。
したがって、電流検出部132により、チャック電極26から発生する過度電流を検出し、吸着判定部133により、この過度電流の大きさを予め設定した閾値と比較することとで、制御IC135は、ウェハ24の吸着状態を認識することができる。
【0019】
出力電圧分圧モニタ部134は、チャック電極26への実印加電圧(以下、適宜「チャック電圧」という。)をモニタリングするためのものであり、チャック電圧は、ADC(Analog to Digital Converter)136を介して、上位制御IC137で認識される。
【0020】
以上のように、静電チャック制御部13は、ウェハ24の状況に応じて、チャック電極26に印加する電圧を変更することができる。
【0021】
次に、チャック電極26に印加する電圧に関する許容性について説明する。
図3(a)は、チャック電極26に印加する電圧の大きさとウェハ24の吸着力との関係を示すグラフである。このグラフに示すように、チャック電極26の印加電圧が大きいほど、ウェハ24の吸着力が大きいことがわかる。吸着力が大きいと、摩擦による異物の発生の問題が起きてしまうため、必要以上に高電圧とするべきではない。
図3(b)は、チャック電極26の最大電圧印加時における電圧印加積算時間と残留吸着力との関係を示すグラフである。このグラフに示すように、チャック電極26に電圧を印加する時間が長いほど、残留吸着力が大きくなる傾向にあることがわかる。
また、吸着力が大きいほど(印加電圧が大きいほど)、残留吸着力が大きくなることも判明している。したがって、残留吸着力の影響を抑えるためには、印加電圧を小さくし、印加時間を短くすることが求められる。
【0022】
次に、チャック電極26に印加する電圧に関する必要性について説明する。
図4は、チャック電極26に印加する電圧の大きさと反りのあるウェハ(以下、「反りウェハ」という。)の反り量との関係を示すグラフである。このグラフに示すように、反りウェハを平坦にするためには、ある程度の高電圧を印加する必要があることがわかる。
なお、半導体ウェハの観察動作においては、ウェハ24は、高精度測定に対応するためには、平坦であることが必要である。一方、反りのないウェハ(以下、「平坦ウェハ」という。)の場合は、反りウェハのように高電圧を印加する必要はなく、比較的低電圧で静電チャック30に正常に吸着する。
【0023】
このような様々なウェハ24の状況に対応するため、静電チャック制御部13は、ウェハ24が静電チャック30に吸着した時に発生する過度電流の波形に基づいて、チャック電極26に印加する電圧を制御することとする。
【0024】
図5は、ウェハ24が試料ステージ25に載置されてから、ウェハ24が静電チャック30に吸着し(静電チャックON制御)、試料ステージ25が移動し、観察動作(測長)を経て、ウェハ24が静電チャック30から脱離し(静電チャックOFF制御)、ウェハ24が試料ステージ25から離れるまでのチャック電圧の時間軸における変化を示す図である。電流検出は、ウェハが静電チャックに正常に吸着したことを示す過度電流53,54を模式的に示している。
【0025】
チャック電圧が初期電圧51となったときに、ウェハ24が正常に吸着したことを示す過度電流53を検出した場合は、チャック電圧は、初期電圧51に保たれる(破線)。この初期電圧51を保ったまま、観察動作(測長)が行われる。
一方、チャック電圧が初期電圧51となったときに、ウェハ24が正常に吸着したことを示す過度電流53を検出できなかった場合は、チャック電圧を徐々に上げていく(実線)。そして、チャック電圧が印加電圧52となったときに、ウェハ24が正常に吸着したことを示す過度電流54を検出した場合は、チャック電圧は、印加電圧52に保たれる(実線)。この印加電圧52を保ったまま、観察動作(測長)が行われる。
【0026】
ウェハ24が静電チャック30から脱離するときには、負の過度電流55,56を検出する。また、この例では、チャック電圧に印加した電圧を、高電圧から一気にOFFにするのではなく、一旦低電圧に落としてからOFFにしている。
これにより、残留吸着力による影響の軽減を図ることができる。
【0027】
[荷電粒子線装置1の動作]
次に、荷電粒子線装置1の動作について図5および図6(構成は適宜図1および図2)を参照して説明する。
図6は、第1実施形態に係る荷電粒子線装置1の動作を示すフローチャートである。
図6のフローチャートに示すように、ステップS101において、荷電粒子線装置1は、ウェハ24を試料ステージ25へ載置するためのリフトを降ろす。
ステップS102において、静電チャック制御部13は、設定電圧に初期電圧51を設定する。
【0028】
ステップS103において、静電チャック制御部13は、チャック電極26に設定電圧を印加する。
ステップS104において、静電チャック制御部13は、チャック電圧が設定電圧に達しているか否かを判定する。
チャック電圧が設定電圧に達していないと判定した場合は(ステップS104・No)、ステップS105において、静電チャック制御部13は、所定の時間待ち、再び、ステップS104において、チャック電圧が設定電圧に達しているか否かを判定する。
一方、チャック電圧が設定電圧に達していると判定した場合は(ステップS104・Yes)、ステップS106において、静電チャック制御部13は、ウェハ24が正常に吸着したことを示す過度電流を検出したか否かを判定する。すなわち、ウェハ24が静電チャックに正常に吸着したか否かの判定である。
例えば図5に示すように、静電チャック制御部13は、ウェハ24が正常に吸着したことを示す過度電流53を検出したか否かを判定する。
【0029】
ウェハ24が正常に吸着したことを示す過度電流を検出したと判定した場合は(ステップS106・Yes)、ステップS109において、試料ステージ制御部12は、試料ステージ25を移動させる。
例えば図5に示すように、静電チャック制御部13は、ウェハ24が正常に吸着したことを示す過度電流53を検出した場合は、チャック電圧を初期電圧51に保つこととなる(破線)。そして、試料ステージ制御部12は、試料ステージ25を移動させ、荷電粒子線装置1は、観察動作(測長)を行う。
一方、ウェハ24が正常に吸着したことを示す過度電流を検出していないと判定した場合は(ステップS106・No)、ステップS107において、静電チャック制御部13は、予め設定された電圧分解能の分を設定電圧に加算する。
ステップS108において、静電チャック制御部13は、設定電圧を加算した電圧に更新する。そして、処理は、ステップS103へ戻る。すなわち、静電チャック制御部13は、ウェハ24が正常に吸着したことを示す過度電流を検出する(ウェハ24が静電チャックに正常に吸着する)まで、チャック電極26に印加する電圧を徐々に上げていく。
例えば図5に示すように、静電チャック制御部13は、ウェハ24が正常に吸着したことを示す過度電流53を検出できなかった場合は、チャック電圧を徐々に上げていく(実線)。静電チャック制御部13は、チャック電圧が印加電圧52となったときに、ウェハ24が正常に吸着したことを示す過度電流54を検出すると、チャック電圧を印加電圧52に保つこととなる(実線)。そして、試料ステージ制御部12は、試料ステージ25を移動させ、荷電粒子線装置1は、観察動作(測長)を行う。
【0030】
以上の動作により、初期電圧を低電圧とし、ウェハ24が正常に吸着したことを示す過度電流を検出した時点(ウェハ24が静電チャックに正常に吸着した時点)の印加電圧を保つことで、常に高電圧となることを避けることができる。
そのため、印加電圧が安定するまでの時間が短縮され、装置のスループットが向上する。
また、試料の状態に合った印加電圧のコントロールを行うことができる。
また、消費電力低減はもちろんのこと、搬送室内での放電危険性の低減、残留吸着発生頻度の低減、さらには、摩擦による異物の発生についても抑制することができる。
【0031】
<第2実施形態>
次に、本発明の第2実施形態について、図7および図8を参照して説明する。なお、各図において、第1実施形態と共通する部分には同一の符号を付し重複した説明を省略する。
図7(a)は、ウェハ24のエッジ部が観察対象となる様子を示す図であり、図7(b)は、ウェハ24のエッジ部近傍の電位分布を示す図である。
図7(a)に示すように、観測動作時において、試料ステージ25が移動して、ウェハ24のエッジ部が観察対象となることがある。このとき、図7(b)に示すように、ウェハ24の外側の電位分布が落ち込み、一次電子線16に影響を与え、ウェハ24の画像の視野にずれが発生してしまう。また、画像の視野範囲を狭めてしまうことにもなる。
【0032】
このような問題を解決するために、ウェハ24のエッジ部が観察対象となる位置に試料ステージ25が移動した時に、チャック電極26に印加する電圧を高電圧にすることとする。なお、ウェハ24のエッジ部が観察対象となるような試料ステージ25のXY座標は、予め設定することができる。
これにより、ウェハ24の脇の電位を押し上げ、視野ずれを回避することができる。
【0033】
[荷電粒子線装置1の処理動作(2)]
次に、荷電粒子線装置1の処理動作(2)について図7および図8(構成は適宜図1および図2)を参照して説明する。
この処理は、試料ステージ25を移動させるたびに行われる。
【0034】
図8のフローチャートに示すように、ステップS201において、試料ステージ制御部12は、試料ステージ25を移動させる。
ステップS202において、試料ステージ制御部12は、試料ステージ25の現在位置を取得する。
ステップS203において、試料ステージ制御部12は、試料ステージ25の現在位置が予め設定された所定位置であるか否かを判定する。なお、所定位置とは、ウェハ24のエッジ部が観察対象となる試料ステージの位置である。
【0035】
試料ステージ25の現在位置が所定位置でないと判定した場合(ステップS203・No)、ステップS209において、荷電粒子線装置1は、そのまま観察動作(測長)を行う。
一方、試料ステージ25の現在位置が所定位置であると判定した場合(ステップS203・Yes)、ステップS204において、静電チャック制御部13は、設定電圧を変更する。すなわち、静電チャック制御部13は、設定電圧を高電圧にする。
ステップS205において、静電チャック制御部13は、設定電圧を変更後の電圧に更新する。
ステップS206において、静電チャック制御部13は、設定電圧をチャック電極26に印加する。
【0036】
ステップS207において、静電チャック制御部13は、チャック電圧が設定電圧に達しているか否かを判定する。
チャック電圧が設定電圧に達していないと判定した場合は(ステップS207・No)、ステップS208において、静電チャック制御部13は、所定の時間待ち、再び、ステップS207において、チャック電圧が設定電圧に達しているか否かを判定する。
一方、チャック電圧が設定電圧に達していると判定した場合は(ステップS207・Yes)、ステップS209において、荷電粒子線装置1は、チャック電極26に高電圧を印加した状態で、観察動作(測長)を行う。
【0037】
実際の運用では、図8に示したフローチャートを基本フローとして、測定時のレシピ設定に基づいて、制御が行われるものとする。
また、ウェハ24の評価測定時のように、試料保持時間が数十時間にも及ぶ場合には、残留吸着が発生する危険性があるため、ウェハ24のエッジ部が観察対象となる時のみ、チャック電極26に高電圧を印加することとする。それ以外の時、すなわち、ウェハ24のエッジ部以外が観察対象となる時は、チャック電極26に低電圧を印加することとする。
【0038】
また、ウェハ24の量産測定時のように、試料保持時間が短い場合には、スループットを重視するため、ウェハ24のエッジ部へ観察点が移動する途中で、チャック電極26の印加電圧を高電圧とし、その後は試料ステージ25の位置に関係なく、高電圧のままとしてもよい。チャック電極26への印加電圧は、低電圧の場合でも数百Vであるため、高電圧から低電圧への電圧変更時において、電圧が安定するまでの時間は無視できないものである。そのため、試料保持時間が短い測定環境下においては、チャック電極26へ印加する電圧は極力変更しないことで、スループットの低下を防ぐことができる。
【0039】
また、平坦ウェハの測定の場合は、チャック電極26への印加電圧が低電圧であるウェハ24の中心部の測定を集中的に行い、その後、高電圧が必要なウェハ24のエッジ部の測定を集中的に行うこととしてもよい。
これにより、印加電圧の変更回数が1回で済むため、高電圧の印加時間を抑えることができる。このため、残留吸着力による影響の軽減およびスループット低下の防止を図ることができる。
【0040】
本実施形態により、試料の画像の視野範囲の向上を図ることができる。
また、試料の観察領域精度の向上を図ることができる。
【0041】
<変形例>
以上、本発明の一実施形態について説明したが、本発明はこれに限定されず、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で変更することができる。
【0042】
例えば、本発明は、実施形態で示した荷電粒子線装置に限らず、静電チャックを用いて試料等を吸着する場合に広く適用することができる。
【0043】
また、本発明の実施形態では、フローチャートのステップは、記載された順序に沿って時系列的に行われる処理の例を示したが、必ずしも時系列的に処理されなくとも、並列的あるいは個別実行される処理をも含むものである。
【0044】
また、上記実施形態に開示されている複数の構成要素の適宜な組み合わせにより、種々の発明を形成できる。例えば、実施形態に示される全構成要素から幾つかの構成要素を削除してもよい。さらに、異なる実施形態にわたる構成要素を適宜組み合わせてもよい。
【符号の説明】
【0045】
1 荷電粒子線装置
12 試料ステージ制御部
13 静電チャック制御部
16 一次電子線
24 ウェハ(試料)
25 試料ステージ
26 チャック電極
30 静電チャック
51 初期電圧
52 印加電圧
53,54 ウェハが正常に吸着したことを示す過度電流
131 印加電圧部
132 電流検出部
133 吸着判定部
134 出力電圧分圧モニタ部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料ステージに静電チャックによって保持された試料に電子線を照射し、前記試料の画像を生成する荷電粒子線装置であって、
前記試料を保持する際に、前記静電チャックのチャック電極に予め設定した初期電圧を印加するとともに、前記試料が前記静電チャックに正常に吸着したか否かを判定し、
前記試料が前記静電チャックに正常に吸着していないと判定した場合は、前記試料が前記静電チャックに正常に吸着したと判定するまで、前記チャック電極に印加する電圧を上昇させる静電チャック制御部を備えることを特徴とする荷電粒子線装置。
【請求項2】
試料ステージに静電チャックによって保持された試料に電子線を照射し、前記試料の画像を生成する荷電粒子線装置であって、
前記試料のエッジ部が観察対象となる前記試料ステージの所定位置を予め設定し、前記試料ステージが移動した際に、前記試料ステージの位置を検出し、前記試料ステージが前記所定位置にあるか否かを判定する試料ステージ制御部と、
前記試料ステージ制御部が前記試料ステージは前記所定位置にあると判定した場合は、前記静電チャックのチャック電極に印加する電圧を高電圧にする静電チャック制御部と、
を備えることを特徴とする荷電粒子線装置。
【請求項3】
試料を吸着するための静電チャックを有する静電チャック装置であって、
前記試料を保持する際に、前記静電チャックのチャック電極に予め設定した初期電圧を印加するとともに、前記試料が前記静電チャックに正常に吸着したか否かを判定し、
前記試料が前記静電チャックに正常に吸着していないと判定した場合は、前記試料が前記静電チャックに正常に吸着したと判定するまで、前記チャック電極に印加する電圧を上昇させる静電チャック制御部を備えることを特徴とする静電チャック装置。
【請求項4】
試料を吸着するための静電チャックを有する試料ステージを備える静電チャック装置であって、
前記試料のエッジ部が観察対象となる前記試料ステージの所定位置を予め設定し、前記試料ステージが移動した際に、前記試料ステージの位置を検出し、前記試料ステージが前記所定位置にあるか否かを判定する試料ステージ制御部と、
前記試料ステージ制御部が前記試料ステージは前記所定位置にあると判定した場合は、前記静電チャックのチャック電極に印加する電圧を高電圧にする静電チャック制御部と、
を備えることを特徴とする静電チャック装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−243991(P2012−243991A)
【公開日】平成24年12月10日(2012.12.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−113598(P2011−113598)
【出願日】平成23年5月20日(2011.5.20)
【出願人】(501387839)株式会社日立ハイテクノロジーズ (4,325)
【Fターム(参考)】