説明

荷電粒子線装置

【課題】本発明は、アスペクト比の大きなパターンの測定を実現することが可能な荷電粒子線装置の提供を目的とする。
【解決手段】上記目的を達成するための一態様として、荷電粒子源から放出された荷電粒子線を試料に走査することによって、当該試料から放出される荷電粒子の検出に基づいて、前記試料の画像を形成する荷電粒子線装置であって、前記試料の高さと、前記試料に対する予備帯電条件を関連付けて記憶する記憶媒体を備えた制御装置を備え、当該制御装置は、所望の試料高さの指定に基づいて、当該指定された試料高さに対応する予備帯電条件による予備帯電を実施する荷電粒子線装置を提案する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、試料の高さ測定方法、及び試料高さ測定装置に関し、特に、荷電粒子線の走査によって得られる情報に基づいて、試料の高さを測定する方法、及び装置に関する。
【背景技術】
【0002】
荷電粒子線装置の1種である走査電子顕微鏡(Scanning Electron Microscope:SEM)を用いて、試料の三次元形状情報を測定することが知られている。特許文献1には、電子ビームの走査によって試料から放出される後方散乱電子(Backscattered Electron:BSE)等を、電子ビーム光軸を中心として複数に分割された検出器を用いて検出するSEMが開示され、方向別に得られた信号に基づいて、高さ分布情報等を含む三次元形状情報を演算する手法が説明されている。更に、特許文献2には、SEMによる立体形状計測装置が開示され、試料に対し電子ビームを傾斜して照射した結果得られる二次電子に基づいて、2点間の段差(高さ)を含む立体形状を計測する手法が説明されている。
【0003】
一方、立体形状パターンの1つとして知られているコンタクトホール底部から放出される電子を効率良く検出するために、電子ビームの予備照射によって、試料表面を正に帯電させ、当該正電位が形成する電界によって、ホール底から電子を引き上げる技術が、引用文献3,4に説明されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008−282761号公報
【特許文献2】特開2005−183369号公報
【特許文献3】特開平5−151927号公報
【特許文献4】特開2000−200579号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
近年、半導体デバイスの微細化や高集積化が急速に進められており、数十nm以下のパターン幅を持つパターンが形成されるようになってきた。それに伴い、レイヤー間の導通をとるために開口されているコンタクトホール等のアスペクト比(ホール深さ/ホール径)も増大している。このようなパターンの深さ(高さ)は、半導体デバイスの特性を評価する上で非常に重要である。特許文献1には試料表面の高さ計測を行う手法が開示されているが、分割検出器にて検出されたBSEに基づいて、三次元形状情報を検出する手法では、試料表面形状を求めるために必要な指向性を持ったBSEが、ホールの側壁に衝突してしまい、高精度な高さ測定が困難である。特許文献3,4に説明されているような予備帯電技術の使用によって、ホール底から放出された電子を引き上げることも考えられるが、BSEは、電子ビームと同等の強いエネルギーを持っているため、その軌道を調整し、試料表面まで引き上げることは困難であり、また、電界による軌道変更によって、BSEが持つ方向情報が失われてしまう場合もある。
【0006】
更に特許文献2に開示されているようなビームを傾斜して照射する手法では、アスペクト比が大なるホールパターン等の底部に、ビームを到達させることが困難である。
【0007】
以下に、アスペクト比の大きなパターンの高さ(深さ)測定を実現することが可能な試料高さ測定方法、及び装置を説明する。他に、観察や測定の対象個所に応じた予備帯電を行うための方法及び装置を説明する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するための一態様として、試料上の第1の部分の高さと、第2の部分の高さの差違に関する情報と、前記第2の部分の輝度に関する情報を関連付けて記憶媒体に記憶させ、前記試料に荷電粒子線を走査したときに検出される荷電粒子に基づいて、前記第2の部分の輝度に関する情報を検出し、当該検出された輝度に関する情報と、前記記憶媒体に記憶された情報に基づいて、前記試料上の第1の部分と第2の部分との差違を求める方法、及び装置を提案する。
【0009】
また、上記目的を達成するための他の態様として、試料上の第1の部分の高さと、第2の部分の高さの差違に関する情報と、前記試料に荷電粒子線を照射した後、前記第2の部分から放出される電子の検出に要する時間に関する情報を関連付けて記憶媒体に記憶させ、前記荷電粒子線を試料に走査して、前記第2の部分から放出される電子の検出に要する時間に関する情報を検出し、当該検出された情報と、前記記憶媒体に記憶された情報に基づいて、前記第1の高さと第2の高さとの差違を求める方法、及び装置を提案する。
【0010】
更に、他の構成として、観察対象個所の高さに応じて、予備帯電条件を変化させる方法及び装置を提案する。
【発明の効果】
【0011】
上記構成によれば、アスペクト比の大きなパターンであっても、パターン高さ(深さ)測定を高精度に実現することが可能となる。
【0012】
上記他の構成によれば、観察や測定の対象個所に応じた適切な予備帯電を行うことが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】走査電子顕微鏡の概略構成図。
【図2】試料に対する予備帯電(プリドーズ)の概要を説明する図。
【図3】プリドーズによる試料表面電位の変化と、寸法値の変化の相関を説明する図。
【図4】表面層の膜厚と、ホールから放出される電子の位置との関係を説明する図。
【図5】ホール底画像の輝度と膜厚との関係を説明する図。
【図6】ホール底から放出される二次電子が検出器に到達するまでの時間と膜厚との関係を説明する図。
【図7】予備照射電位とパターン形状の高さ情報との関係を求める行程を説明するフローチャート。
【図8】予備照射電位に基づいて、任意の高さにてパターン形状を観察する行程を説明するフローチャート。
【図9】予備照射電位とパターン膜厚との関係を求める行程を説明するフローチャート。
【図10】予備照射を行った後、パターン底から放出される二次電子の情報を基に膜厚を求める行程を説明するフローチャート。
【図11】ホール内部に段差が存在するホールパターンの一例を説明する図。
【図12】複数層によって形成されるホールパターンの一例を説明する図。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下に、図面を用いて、パターンの所望の高さ(或いは深さ、以下、単に高さという)の測定を行う手法、及び試料上の異なる2以上の部分間の高さの違いを測定する手法、及びそれを実現する装置を説明する。なお、以下の実施例では、パターンの底部、或いは2以上の異なる高さの試料部分の内、深い側の試料部分(他の試料部分に比べて、荷電粒子源(電子源)から離間した部分)から放出される荷電粒子を安定的に引き出すために、予備帯電(以下、プリドーズと称することもある)法を併用した手法について説明する。予備帯電には、SEMに搭載されている電子源とは別の電子源等を用いて帯電付着を行うようにしても良い。
【0015】
図1は、SEMの概略構成図である。SEMは、電界放出陰極11と引出電極12との間に引出電圧を印加することで、一次電子ビーム1を引き出し、当該一次電子ビーム1を加速電極13によって加速し、試料に照射する装置である。一次電子ビーム1はコンデンサレンズ14によって集束され、ガイド20と同じ高さに設けられた上走査偏向器21,下走査偏向器22によって走査される。上走査偏向器21,下走査偏向器22の偏向強度は、対物レンズ17のレンズ中心を支点として試料23上を二次元走査するように調整されている。イメージシフト偏向器16は、一次電子ビーム1の走査位置を試料上の所望の位置に偏向するためのものである。
【0016】
偏向を受けた一次電子ビーム1は、対物レンズ17の通路に設けられた加速円筒18で加速される。加速された一次電子ビーム1は、対物レンズ17のレンズ作用で絞られ、試料23(半導体ウェーハなど)に照射される。試料23は、少なくともX−Y方向に移動可能な試料ホールダ24、或いは図示しない試料ステージに保持され、当該試料ホールダ24等は、所望の観察位置を一次電子ビーム1直下に移動するように構成されている。
【0017】
更に、試料から放出された二次電子3やBSEは、二次電子変換電極15によって、二次電子に変換され、検出器29によって検出される。検出器29によって検出された二次電子は輝度信号に変換され、増幅器40によって増幅された後、図示しない記憶装置が搭載された制御装置41に記憶される。制御装置41は、電子源への印加電圧を制御する印加電圧制御電源44,走査偏向器制御電源46,試料印加電圧制御電源43等を制御する。図1に例示するSEMは、図示しない表示装置を備えており、走査偏向器への走査信号と同期して輝度信号が記憶されるフレームメモリに記憶される画像を表示するように構成されている。試料印加電圧制御電源43は、試料への印加電圧(リターディング電圧)を制御するように構成されている。リターディング電圧の制御によって、一次電子ビーム1の試料への到達エネルギーが制御され、後述するプリドーズの制御に用いられる。
【0018】
制御装置41に内蔵された記憶装置には、後述するような所望の高さの測定や、パターンの高さ測定,演算を行うためのプログラムが記憶されており、当該プログラムによる制御によって、SEMの各構成要素が制御される。図1に例示するSEMには、図示しないエネルギーフィルタが搭載されており、当該エネルギーフィルタによって、一次電子ビーム照射個所の電位を測定できるように構成されている。また、計測された電位は、制御装置41に内蔵された記憶装置に記憶することができる。
【0019】
制御装置41によって制御される試料印加電圧制御電源43は、試料への印加電圧(リターディング電圧)を制御するように構成されている。リターディング電圧の制御によって、一次電子ビーム1の試料への到達エネルギーが制御され、後述するプリドーズの制御に用いられる。なお、以下の説明では、試料から放出される二次電子の放出効率δが1.0より大きなビームによって試料を正に帯電させるプリドーズについて説明するが、これに限られることはなく、他のプリドーズ法を採用することも可能である。
【0020】
図2は、プリドーズの概要を説明する図である。図2(a)は、プリドーズ前の初期状態を示しており、この状態で一次電子を試料表面で走査すると、試料最表面およびホール入り口付近から放出される二次電子を検出することができる。ホール内部から放出された二次電子は、側壁に衝突して吸着するためほとんど検出することができない。ここで得られたSEM画像のホール寸法は、ホール入り口の寸法を反映している。
【0021】
一方、図2(b)はプリドーズ後の状態を示しており、試料表面に分布する+マークは正帯電を表す。この状態で一次電子を走査すると、ホール内部から放出された二次電子は正帯電が発生する電界によって入り口方向へと引き上げられるため、検出することが可能となる。よってSEM画像として、ホール内部の形状を映し出したものが得られる。
【0022】
プリドーズによって発生する電界の大きさは、プリドーズ電位と絶縁膜の膜厚によって決まる。例えばプリドーズ電位を+100V、膜厚を1μmとすると、発生する電界は1MV/cmとなる。ここでプリドーズ時間などを変えてプリドーズ電位を変えると、電界強度が変わって二次電子を引き上げる効果が変化するため、ホール入り口から一定の高さ以内で放出された二次電子のみ検出可能となる。
【0023】
この原理に基づき、プリドーズ電位と計測寸法との関係を表したグラフを図3に示す。プリドーズ電位が高くなるにつれて観察可能な高さ範囲がホール底へと近づくので、図に示すようなテーパのついたパターンでは、プリドーズ電位が大きくなると計測寸法が小さくなる。
【0024】
(1)任意高さの寸法測定
よって、プリドーズ電位(表面電位)を制御することによって、任意の高さにてパターンの形状を観察することができる。具体的には、ホールパターンの場合、予め表面電位と、電子が放出される部分の高さとの関係式を求めておき、当該関係式と実際に測定を希望する高さの情報に基づいて、表面電位に関する情報を算出する。この算出を実現するための一例として、表面帯電を発生するためのビーム条件(例えば試料に対するビームの到達エネルギー)と、当該表面帯電によってホール外に電子が放出され、観察が可能となるホール深さとの関係を、複数のビーム条件ごとに求めておく。当該ビーム条件ごとのホールの深さ情報について、フィッティング等を行うことによって、ビーム条件と深さ情報との関数を作成し、記憶装置に記憶する。
【0025】
以上のようにして作成された関数と、測定を希望する高さ情報に基づいてビーム条件を算出し、当該ビーム条件にてビーム走査を行うよう、制御装置41によってSEMを制御する。当該ビーム条件によって、適正な表面帯電が形成された試料に対し、測定用のビームを走査することで、所望の深さの測定を行うための信号を取得することが可能となる。
【0026】
なお、ビーム条件と深さ情報との関係だけではなく、更に試料の表面電位との関係をも予め登録しておくことも可能である。試料表面電位の測定には、上記したエネルギーフィルタを用いることができる。エネルギーフィルタを用いる場合には、初期状態における試料表面の帯電電位を計測し、記憶装置に記憶する。次に、目的の観察高さに対応するプリドーズ電位を算出し、プリドーズ条件を設定する。ここで、プリドーズ電位と観察高さとの関係、およびプリドーズ条件と電位の関係を示すリファレンスデータは、観察前にあらかじめ取得しておく。
【0027】
設定した条件でのプリドーズ実施後に、再び試料表面の電位を計測し予備照射後の帯電電位を得る。このとき所望のプリドーズ電位とずれていた場合、差を補うように予備照射を追加することも可能である。帯電電位は一次電子照射量に対する二次電子放出量の割合が異なるときに起こるので、二次電子放出効率が一次電子照射エネルギーに依存することを考えると、正に帯電を追加する場合は照射エネルギーが50eVから1keV程度になるように、負に帯電を追加する場合は照射エネルギーを50eV以下あるいは2keV以上に設定すればよい。予備照射による帯電電位が設定値になった後、所望のパターンを撮像すると任意の高さにおけるパターンの形状を観察することができる。
【0028】
なお、エネルギーフィルタは、検出器と試料との間にエネルギーフィールドを形成し、当該エネルギーフィールドの強さを変化させ、所定のエネルギーを持つ電子を選択的に検出することによって、試料表面電位を測定するものである。
【0029】
他にも、特開2008−153085号公報や、特開2005−191017号公報に開示されているような試料表面の電位計測手段を用いることが考えられる。
【0030】
以下に、任意の高さにおいてパターン形状を観察する方法の概略フローを示す。第一のステップとして、リファレンスデータを取得するフローを図7に示す。リファレンスデータ取得には、観察対象と同形状の試料を用いる。観察対象と異なる場所、あるいは別の試料にリファレンス用パターンを用意しておくことが望ましい。
【0031】
試料ホールダ24を移動して所望の観察位置に試料を保持する。この位置において電位計測を実施し、試料表面の帯電電位を計測した後、一次電子を走査して画像を取得、寸法などのパターン情報を計測し、電位とパターン情報を記憶装置45に記憶する。次に、予備照射を一定時間実行した後、電位計測と画像取得を行い、電位とパターン情報を記憶装置45に記憶する。この作業を一定回数繰り返し行った後、得られたデータに対して任意の関数を近似し、相関関数を得る。リファレンス用パターンにアスペクト比の異なるものがある場合、同様にしてアスペクト比ごとに相関関数を得る。
【0032】
第二のステップとして、相関関数を基に任意の高さにおいてパターン形状を観察する概略フローを図8に示す。試料ホールダ24を移動して所望の観察位置に試料を保持する。この位置において電位計測を実施し、予備照射前のパターン画像を取得し、パターンのアスペクト比を算出する。次に、観察パターンのアスペクト比に対応する相関関数を記憶装置から読み込む。このとき、観察パターンの膜厚がリファレンスデータと同じ場合、アスペクト比は膜厚とパターン寸法から簡単に求めることができる。観察パターンの膜厚がリファレンスデータと異なる場合は、アスペクト比の異なる複数の相関関数を補間したものを相関関数としてもよい。次に、試料表面の電位を計測し、予備照射前の電位を求める。結果を相関関数と比較し、任意の高さを観察するのに必要な予備照射電位を算出する。算出結果を基に適切な予備照射電位を設定し、予備照射を行う。あらかじめリファレンスデータを取得する際に、予備照射条件と電位との関係を取得、保持しておけば、予備照射条件は容易に設定することができる。予備照射実行後、再び試料表面の電位を計測し、予備照射による帯電電位が所望の値になっているか確認する。予備照射が所望の電位となっていない場合、過不足分を補うように予備照射を追加することができる。追加する予備照射設定条件もあらかじめリファレンスデータを取得する際に調べておくことが望ましい。予備照射電位が所望の電位となった時点で画像を取得し、任意の高さにおけるパターン形状を観察する。
【0033】
(2)パターンの高さ(深さ)測定
図3のグラフはパターンの形状を反映している。あらかじめ同じプロセスで作製されたパターンを割って断面形状の寸法を高さごとに計測しておき、グラフ形状と断面形状を比較しておけば、プリドーズ電位だけで高さの絶対値を求めることが可能である。
【0034】
ホール底を安定に観察するためには、対応するプリドーズ電位のしきい値をあらかじめ調べておけばよい。しきい値以上の電位においては観察可能な高さ範囲がホール底へと達しているため、プリドーズ電位が減衰しない限り原理的にホール径は変化しない。プリドーズ電位が減衰するようなサンプルでは、観察時間内にしきい値を下回らないようにプリドーズ電位を高く設定する必要がある。
【0035】
上述のような技術を用いて、パターンの膜厚を計測する原理および方法を以下に示す。図4は膜厚の異なる試料を模式的に示したものである。試料表面に分布する+マークはプリドーズによる正帯電を表す。ある一定の電位になるようにプリドーズを行うと、(a)薄い膜の試料では観察可能な高さ範囲がホール底に達しているためSEM画像のホール底輝度は明るくなる。同様にして、(b)厚い膜の試料では観察可能な高さ範囲がホール底に達していないため、SEM画像のホール底輝度は暗い。よって、膜厚の異なる複数のパターンを計測すると、図5に示すようなホール底輝度と膜厚との関係が得られる。この関係を関数化して記憶媒体に記憶することもできる。
【0036】
この関係をあらかじめリファレンスデータとして保持しておけば、膜厚未知の試料においてある一定の電位になるようにプリドーズを行い、輝度を計測することによって膜厚を求めることができる。
【0037】
図9は、上記リファレンスデータを取得する工程を示すフローチャートである。
【0038】
まず、リファレンスデータ用試料として、膜厚の異なるパターン、あるいはアスペクト比の異なるパターンを用意する。試料ホールダ24を移動して所望の観察位置に試料を保持する。この位置において電位計測を実施し、試料表面の帯電電位を計測した後、一次電子を走査して画像を取得、予備照射前における画像を取得する。次に、任意の設定電位となるように予備照射を行った後、パターン底から放出される二次電子の情報を取得する。ここで、二次電子の情報とは、パターン底画像の輝度、あるいは放出された二次電子が検出器に到達するまでの時間などの特徴量を示す。得られた電位と二次電子の情報を、記憶装置に記憶する。次に、膜厚が既知で上記とは異なるパターンを用意し、観察できるように試料ホールダ24を移動して試料を保持する。この位置において上記と同様の作業を行い、電位と二次電子の情報を記憶装置45に記憶する。この作業を一定回数繰り返し行った後、得られたデータに対して任意の関数を近似し、二次電子情報と膜厚との相関関数を得る。リファレンス用パターンにパターン寸法の異なるものがある場合、同様にしてパターン寸法ごとに相関関数を得る。
【0039】
次に、上記相関関数に基づいて、試料の高さ情報の1つであるパターンの膜厚を求める。図10はその工程を説明する図である。試料ホールダ24を移動して所望の観察位置に試料を保持する。この位置において電位計測を実施し、予備照射前のパターン画像を取得し、パターン寸法を計測する。次に、観察パターンのパターン寸法に対応する相関関数を記憶装置から読み込む。このとき、観察パターンの寸法がリファレンスデータと異なる場合は、パターン寸法の異なる複数の相関関数を補間したものを相関関数としてもよい。次に、試料表面の電位を計測し、予備照射前の電位を求める。結果を相関関数と比較し、任意の設定電位となるように条件を設定して予備照射を実施する。予備照射実行後、再び試料表面の電位を計測し、予備照射による帯電電位が所望の値になっているか確認する。予備照射が所望の電位となっていない場合、過不足分を補うように予備照射を追加することができる。予備照射電位が所望の電位となった時点で二次電子の情報を取得し、相関関数と比較することによって膜厚を求める。
【0040】
なお、上述の説明では、ホールパターンの表面と底部間を測定することを目的として、膜厚を測定する例について説明したが、これに限られることはなく、パターンの表面部以外の第1の高さと、パターンの底部以外の第2の高さとの間の高さの差違(2つの部分間の高さ方向(電子ビームの光軸方向)の寸法)を求めるために、上述のようなリファレンスデータに基づく高さ測定を行うようにしても良い。図11は、段差のついたコンタクトホールの一例を説明する図である。このような形状のパターンに対し、試料表面1101とホール段差1102との高さ方向の距離、或いはホール段差1102とホール底部1103との高さ方向の距離と、ホール底輝度情報との関係をリファレンスデータとして記憶しておくことで、試料表面とパターン底部以外の高さの差違に関する情報を算出することが可能となる。
【0041】
図12は、多層間に跨るコンタクトホールの一例を説明する図である。このようなパターンの層間の距離を測定するために、例えば、試料表面層1201と第1中間層1202との間の距離d1,試料表面層1201と第2中間層1203との間の距離d2、及び試料表面層1201とパターン底部1204との間の距離d3と、第1中間層1202,第2中間層1203、及びパターン底部1204の輝度情報との関係をリファレンスデータとして記憶しておき、これらのリファレンスデータに基づいて得られるd1,d2,d3に基づいて、測定を希望する層間の距離測定を行うようにしても良い。例えば、第1中間層1202と第2中間層1203との間の距離を求めたい場合には、d2−d1を演算すると良い。このように複数の層間距離間での演算を行うことによって、様々な高さ情報を取得することが可能となる。
【0042】
なお、上述の実施例では、高さ情報の1つとして、2つの高さ間の寸法値を例にとって説明したが、これに限られることはなく、当該寸法に関連する情報に置き換えても良い。例えば、所定の高さ範囲ごとに、輝度値(或いは輝度値の範囲)を求めておき、画像から得られる輝度値、或いは検出器によって検出される電子量に関する信号に基づいて、当該信号が属する高さ範囲を求めるようにしても良い。
【0043】
また、輝度情報についても、検出器による電子の検出量に置き換えても良い。SEMの場合、各画素に対応する部分での電子の検出量が、輝度情報となるため、表示装置の輝度信号に変換される前の電子量を輝度に関する情報とするようにしても良い。
【0044】
次に、試料の二次電子放出効率の違いに因らず、安定的にリファレンスデータを取得するための他の手法について、以下に説明する。
【0045】
図6は、ホール底輝度の変わりに、ホール底から放出された二次電子が検出器に到達するまでの時間を横軸としたものである。プリドーズ電位が一定の場合において、膜厚が薄いと電子は短時間でホールを脱出し、膜厚が厚いと電子は長い時間をかけてホールを脱出する。そのため、ホール底に一次電子を照射してから二次電子が検出されるまでの時間を検出することによって、膜厚を特定することが可能となる。
【0046】
この方式では穴底から放出される二次電子を検出する必要があるため、精度良く計測するためにはプリドーズ電位を高めに設定することが望ましい。
【0047】
また、穴底から放出される電子が検出されるまでの時間は、一次電子ビームを照射するために、加速電極に電圧を印加したタイミングを基準として、検出器に二次電子等が到達するまでの時間を、検出に要する時間としても良いし、一次電子ビームが試料に照射されないように、偏向するブランキング偏向器の偏向解除のタイミングを基準として、検出に要する時間を計測するようにしても良い。また、一次電子ビームが、電子源から放出されて、試料に到達するまでの時間(t1)が判るならば、一次電子ビームが照射されてから検出器にて検出されるまでの時間から、t1を減算することによって、得られる時間情報を、検出器に到達する時間としても良い。
【0048】
以上の説明では、アスペクト比の大きなパターンとしてホールパターンを例にとって説明したが、これに限られることはなく、深溝状のパターンや構造物への適用も可能である。
【符号の説明】
【0049】
1 一次電子ビーム
3 試料から放出された電子
11 電界放出陰極
12 引出電極
13 加速電極
14 コンデンサレンズ
15 二次電子変換電極
16 イメージシフト偏向器
17 対物レンズ
18 加速円筒
21 上走査偏向器
22 下走査偏向器
23 試料
24 試料ホールダ
29 検出器
40 増幅器
41 制御装置
43 試料印加電圧制御電源
44 印加電圧制御電源
46 走査偏向器制御電源

【特許請求の範囲】
【請求項1】
荷電粒子源から放出された荷電粒子線を試料に走査することによって、当該試料から放出される荷電粒子の検出に基づいて、前記試料の画像を形成する荷電粒子線装置において、
前記試料の高さと、前記試料に対する予備帯電条件を関連付けて記憶する記憶媒体を備えた制御装置を備え、当該制御装置は、所望の試料高さの指定に基づいて、当該指定された試料高さに対応する予備帯電条件による予備帯電を実施することを特徴とする荷電粒子線装置。
【請求項2】
請求項1において、
前記記憶媒体には、前記試料高さと前記予備帯電条件が関連づけて記憶されていることを特徴とする荷電粒子線装置。
【請求項3】
請求項1において、
前記記憶媒体には、前記試料上に形成されたパターンのアスペクト比ごとに、前記試料の高さと前記予備帯電条件が関連付けて記憶されていることを特徴とする荷電粒子線装置。
【請求項4】
請求項1において、
前記制御装置は、前記予備帯電後に前記指定した試料高さのパターン寸法測定を実行することを特徴とする荷電粒子線装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2013−76705(P2013−76705A)
【公開日】平成25年4月25日(2013.4.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−261844(P2012−261844)
【出願日】平成24年11月30日(2012.11.30)
【分割の表示】特願2009−14876(P2009−14876)の分割
【原出願日】平成21年1月27日(2009.1.27)
【出願人】(501387839)株式会社日立ハイテクノロジーズ (4,325)
【Fターム(参考)】