説明

荷電粒子顕微鏡による可視化法

【課題】未知の組成/幾何学形状を含む試料での用途に適し、かつ、測定データの自動デコンボリューション及び表面下の像の自動生成を可能にする荷電粒子顕微鏡による可視化法を提供する。
【解決手段】複数(N)の測定期間中に荷電粒子のプローブビームを試料の表面に照射する手順であって、各測定期間は、対応するビームパラメータ(P)の値を有し、値は、ある範囲から選ばれて、かつ異なる測定期間の間で異なる。各測定期間中に試料によって放出される誘導放射線を検出する手順、測定量(M)と各測定期間とを関連付ける手順、各測定期間での測定量(M)の値を記録することで、データ対{Pn,Mn}(1≦n≦N)からなるデータ組(S)をまとめることを可能にする手順を有する。データ組(S)を自動的に処理するのに数学的手法が用いられる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、荷電粒子顕微鏡を用いた試料の調査方法に関する。当該方法は:
− 複数(N)の測定期間中に荷電粒子のプローブビームを前記試料の表面に照射する手順であって、各測定期間は、対応するビームパラメータ(P)の値を有し、前記値は、ある範囲から選ばれて、かつ異なる測定期間の間で異なる、手順;
− 各測定期間中に前記試料によって放出される誘導放射線を検出する手順;
− 測定量(M)と各測定期間とを関連付ける手順;
− 各測定期間での前記測定量(M)の値を記録することで、データ対{Pn,Mn}(1≦n≦N)からなるデータ組(S)をまとめることを可能にする手順;
を有する。
【0002】
本発明はまた当該方法を実行する装置にも関する。
【背景技術】
【0003】
「背景技術」で述べた方法は、特許文献1から既知である。また「背景技術」で述べた方法は、走査型電子顕微鏡(SEM)での1次ビームエネルギーを変化させることで、その1次ビームは、調査される試料内部へより深く進入するという知見を利用している。原則として、係る装置は、試料中の関心領域の擬断層像を生成するのに用いることができる。これまで、この方法を利用する試みは、1次ビームエネルギーを増大させることによって2つ以上の像を取得する手順、前記2つ以上の像間でのコントラストを調節する手順、及び、高エネルギーの像から低エネルギーの像を除去することによって、前記試料中の表面下の層を明らかにする手順を有する。
【0004】
そのような既知の手法の課題は、像間でのコントラスト調節(これは重要な手順である)は、試料の組成及び幾何学形状についての知見を用いることによってしか実行できない。従って、この手法を先に適用するのは、一般的には、試料の(初期状態の)組成及び幾何学形状についての良好な先験的な知識が存在するウエハ欠陥検査及び他の半導体用途に限定されてしまう。要求される組成及び幾何学形状に関する情報は、一般的に生物学的試料では取得不可能なので、既知の手法は、生命科学での調査には巧く応用されてこなかった。
【0005】
「背景技術」で述べた方法は、本願発明者が発明者である特許文献2から既知である。特許文献2では、試料は、ある範囲の各異なるビームパラメータでSEM電子ビームにより調査され、かつ、試料から放出される後方散乱(BS)電子が測定される。そのようにして得られたデータは、ある範囲のブラインド信号源分離法からの2次及び高次の統計を用いることによって自動的に処理されることで、試料内部の様々な層の深さ(zレベル)からの信号はデコンボリューションされる。このようにして、前記様々な層の深さの組に対応する試料の像の組の計算することが可能となる。
【0006】
前段落で述べた手法の課題は、プローブである電子ビームと試料との相互作用領域が、基本的には横方向に広がらない(つまりx/y軸に沿った高次成分はない)縦型(つまりz軸に沿って1次元)でしかないと推定されることである。そのような単純化が、ある状況における現実(たとえば相対的に低い到達エネルギーを有するプローブ電子ビームを用いるとき)とよく相関しうるとしても、別な状況(たとえば、相対的に低い到達エネルギーを有するプローブ電子ビームを用いるとき、垂直ではない入射角で試料を調査するとき、又はBS電子ではなく試料から放出されるX線を検出するとき)における現実とは大きく異なってしまう恐れがある。これらのような状況では、計算された像の組の精度/有用性は概して不適切なものとなる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】米国特許第5412210号明細書
【特許文献2】欧州特許出願EP-A-11163992号明細書
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】Giuseppe Pezzotti他、J. Appl. Phys. 104(2)巻, 2008年, pp 23514
【非特許文献2】Zhu Wenliang他、J. Appl. Phys. 101(10)巻, 2007年, pp 103531
【非特許文献3】V. Kh. Alimov他、J. Nucl. Mater. 337-339巻, 2005年, pp 619-623
【非特許文献4】H. Lanteri, M. Roche, C. Aime, “Penalizedmaximum likelihood image restoration with positivity constraints:multiplicative algorithms, Inverse Problems,” vol. 18, pp. 1397-1419, 2002
【非特許文献5】L. Shepp, Y. Vardi, “Maximum-Likelihoodreconstruction for emission tomography,” IEEE Transactions on MedicalImaging, MI-5, pp. 16-22, 1982
【非特許文献6】Richardson,William Hadley. "Bayesian-Based Iterative Method of Image Restoration", JOSA 62 (1), pp 55-59, 1972
【非特許文献7】William H. Press, Saul A. Teukolsky , William T. Vetterling , Brian P. Flannery,Numerical Recipes in C: The Art of Scientific Computing, Second Edition(1992)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の目的は、上述の問題を解決することである。より詳細には、本発明の目的は、未知の組成/幾何学形状を含む試料での用途に適し、かつ、測定データの自動デコンボリューション及び表面下の像の自動生成を可能にする荷電粒子顕微鏡による可視化法を供することである。特に本発明の目的は、プローブ荷電粒子ビームと試料との相互作用領域が、(擬)1次元形式に単純化できない状況でさえも信頼性のある3次元画像を生成することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記及び他の目的は、「技術分野」で述べた方法であって、前記データ組(S)を自動的に処理するのに数学的手法が用いられることを特徴とする方法によって解決される。
【0011】
前記数学的手法は、
− ビームパラメータの値がPnである前記プローブビームの前記試料の内部での挙動を表すカーネル値Knを有する点拡がり関数(K)を定義する手順、
− 前記試料の内部での位置の関数として前記試料の物理的特性(O)を表す空間変数(V)を定義する手順、
− KnとVの3次元コンボリューションの値Qn(=Kn*V)を有する可視化品質(Q)を定義する手順、
− 各nについて、MnとQnとの間での最小ダイバージェンスminD(Mn||Kn*V)を計算により決定して、前記値Knについて制約を適用しながらVについて解く手順、
を有する。
【0012】
本発明は、上述した数学的手法の発展を可能にする多数の知見を利用している。特に、本願発明者は以下のことを認識していた。
− 試料中での誘導放射線−たとえばBS電子、2次電子、及びX線−に係る信号は一般的に、検出可能な範囲内でのすべての生成深さからの十分な情報をもたらす。
− 複数の種類の試料−汚染された生物学的試料及びポリマーを含む−での誘導放射線のPSFは概して(強い)線形性を有する。
− ある範囲の用途にわたって遭遇する複雑な試料では、試料中での様々な深さレベルからの信号は、様々な層が様々な構造及び広範囲の局所密度と形状のばらつきを含むとすると、統計学的な意味において強い独立性を有する傾向にある。
【0013】
これらの知見に留意すると、本発明の方法は以下のように説明することができる。
− 1次元の試料における像I(たとえばBS像)の生成は、PSF Kと、試料の物理的特性(O)をその試料内部の位置の関数として表す空間変数V(たとえば汚染濃度)との3次元(3D)コンボリューションとして、つまりK*Vと表されて良い。
− プローブビームのビームパラメータ(P)が変化する場合、一般的にはKの3D形状もまた変化する。たとえば1次ビームの到達エネルギーが増大する場合、PSFはz方向において顕著に拡張し、用いられた到達エネルギーが十分に大きな場合には、x/y方向にも拡張する。様々な到達エネルギーEnで得られた一連の測定n=[1,…,N]のうちの成分像Inについては、成分像の生成は、In=Kn*Vと記述できるように行われる。
− 本発明のデコンボリューションプロセスは、未知の空間変数Vと共に様々なカーネルKnを計算により復元するする手順で構成される。これは、推定された未知の変数と観測された像のシーケンスとの間のダイバージェンス(距離)Dを最小化する、つまり、minD(In||Kn*V)を求めることによって行われて良い。
− 試料とPSFカーネルのいずれに関する知識も推定されない場合、3Dブラインドデコンボリューションタスクが得られる。他方、変数Kn(以降のシミュレーション、経験的測定等を参照のこと)についての制約が適用されうる場合、空間変数Vさえ最適化すればよい。その結果、以下の同時最適化タスクが得られる。
min D(I1||K1*V)

min D(IN||KN*V)
これはVについて解くことができる。
【0014】
上述(及び以降)の説明では、以下に留意して欲しい。
− 測定された誘導放射線はBS電子である必要はない。つまり他の種類の誘導放射線−たとえば2次電子又はX線−が用いられても良い。
− 変化したビームパラメータ(P)は到達エネルギー(ビームエネルギー)である必要はない。その代わり、たとえばビーム収束角(入射角)又はビーム焦点深度(侵入深さ)のようなビームパラメータが変化して良い。Pが変化するとき、一定の増分ΔPで変化しても良いし、又は可変の増分で変化しても良いことに留意して欲しい。
− 像Iは直接観測することはできない。その代わり、特定の測定量Mの測定値から間接的に導くことができる。この測定量はたとえば、検出器の電流(たとえば誘導放射線として電子が検出されるとき)又は強度(たとえば誘導放射線としてX線が検出されるとき)等であってよい。
− 上述の物理的特性Oは、汚染物濃度である必要はない。つまりOは、たとえば原子密度又は2次放出係数のような特性であっても良い。
− 一般的には、本発明による方法を実施しても、特性Oは試料内部での位置の関数として絶対的に決定される訳ではない。その代わり、試料全体でのOの相対変化に係る空間変数Vの局所的な値を決定することが可能である。
− 荷電粒子プローブビームは電子ビームである必要はない。つまりたとえばイオンビームであってもよい。この点において、当業者は、イオンビーム(Ga又はHeイオンビーム)が試料と相互作用するとき、一般的に、上述した誘導放射線が生成されることを理解している。
− ある関数(たとえばPSF又はコンボリューション)の空間次元と、その関数が有する変数の数との間には差異が存在する。たとえば、空間的に3次元であるPSFは、4つ以上の変数の関数であってよい。またたとえば係る変数はベクトルであっても良いし、又はスカラーであっても良いことに留意して欲しい。
− デコンボリューションプロセス中に値Knに課される「制約」は、非経験的ではなく、事後的に課される。換言すると、コンボリューションQn=Kn*Vと一部である値Knは一般的で、かつ、試行される単純化は後続のデコンボリューション中にのみ適用される。この差異を良好に理解するため、2つの関数の積が積分される問題を考えることができる。係る状況では、次式の一般的な問題
【0015】
【数1】

は、次式の具体的な問題とは一般的に同一ではない。
【0016】
【数2】

本発明による方法の実施例では、値Knについての制約は、
(i) 少なくとも1組の値Knのコンピュータシミュレーション
(ii) 少なくとも1組の値Knの実験による決定
(iii) 少なくとも1組の値Knの推定を可能にする根拠となる限られた数のモデルパラメータによるパラメータ化された関数としてのPSF Kのモデル化
(iv) 論理的な解空間による制約。ここで理論的にはありうるが物理的には意味がないと判断される値Knは無視される。
(v) 外挿及び/又は内挿を第1組の値Knに適用することによる第2組の値Knの推定
からなる群から選ばれる少なくとも1の方法から導かれる。
【0017】
これらの様々な方法は、以下のように詳述されうる。
− (i)では、数学的手法は、材料中での荷電粒子及び光子の挙動をエミュレートするのに用いられる。それにより、PSFの式の計算及び代表的な値Knの予測が可能となる。シミュレーション結果の精度及び範囲はとりわけ、問題となるタスクのために費やされる計算/コンピュータの資源に依存する。この目的に適した数学的シミュレーション手法の例は、モンテカルロ法、有限要素法等である。
− (ii)では、所与の材料中での荷電粒子及び光子の実際の挙動の観察が利用される。そのような観察はたとえば、他の試料上で実行された実際の可視化期間の結果であって良いし、又は、均一の材料からなる試料上で実行された特定の実験結果等であっても良い。たとえば上に様々なパターニングされた金属層及び誘電体層が堆積されたシリコンウエハの一部を有する半導体試料を可視化するのに本発明が用いられるとき、以下の1つ以上からKnの値の一群を得ることができる。
− 同様の半導体試料上で実行される他の可視化期間
− 未処理のシリコンウエハ上で実行される特定の「校正試験」
− シリコンウエハ上の様々な試験用コーティングを用いて実行される調査実験
− その他
− (iii)では、PSFがどのような数式を有するのかを直感的に推定し、その後、この数式を基礎として、限られた数の相対的にわかりやすいモデルパラメータを用いることによって、パラメータ化されたモデルを構築することが試みられる。同様の手法が、たとえば気候変化のモデル又は雲の挙動のモデルを構築するのに用いられる。定義により、そのようなモデルの結果は単純化であるが、調査しようとしている系の大まかな基本的構成を良好に把握することを可能にする。
− (iv)では、理論的にあり得るが、物理的な現実を考慮するとあり得ないと判断される結果を「取り除く」ことによって、取りうる解の空間のサイズを直感的に限定することが試みられる。たとえば、PSFが正の値だけを得るように制約を課すこと、又は、PSFを微分可能(滑らか)な関数に制限すること、又は、統計的な依存性について制限を課すこと等が行われても良い。
− (v)では、第1組のKnの値{Kn}1を得た後、第2組のKnの値{Kn}2が、外挿及び/又は内挿に基づいて、第1組のKnの値{Kn}1から得られる。たとえば{Kn}1の要素が、滑らかな単調曲線に属していることが観察される場合、内挿を用いることによって第2組の中間の要素の位置が推定されて良いし、かつ/あるいは、外挿を用いることによって第2組の境界要素の位置が推定されても良い。
【0018】
本発明の実施例によると、前記最小ダイバージェンスはたとえば、最小二乗法、Csiszar-MorimotoのFダイバージェンス、Bregmanダイバージェンス、α-βダイバージェンス、Bhattacharyya距離、Cramer-Raoの下限、及び様々な派生型、混合型、並びに、これらの結合型であってよい。ダイバージェンスの種類の具体的な選択は、とりわけ問題となっている計算において推定されるノイズの統計的特性に依存すると考えられる。たとえば、ガウス型の特別な場合では、次式で表されるように、最小二乗距離(平均二乗距離とも呼ばれる)を最小化するように選ばれて良い。
min||In - Kn*V||2
他方、他のノイズモデルについては、上述した他のダイバージェンス量のうちの1つが用いられて良い。これらの広いダイバージェンスの分類については、以下のように明記することができる。
− Csiszar-MorimotoのFダイバージェンス(及びその派生量)は、情報ダイバージェンス、Kullback-Leiblerダイバージェンス、全変動、調和平均、χ二乗値、及び、他複数のエントロピーに基づく指標を含む。
− Bregmanダイバージェンス(及びその派生量)は、とりわけMahalonobis距離を含む。
− α−βダイバージェンス(及びその派生量)は、たとえば一般化されたKullback-Leibler、三角弁別(Triangle Discrimination)、及び算術幾何量のような量を含む。
− Bhattacharyya距離は、2つの離散的又は連続的な確率距離の相似性を測定する。
選ばれたダイバージェンスの実際の最小化(つまり最適化)は、様々な手法を用いることによって実行されて良い。
【0019】
選ばれたダイバージェンスの実際の最小化(つまり最適化)は、様々な手法を用いることによって実行されて良い。前記様々な手法とはたとえば、勾配降下法、確率論的方法、期待値最大最尤法(EMML)、最大先験法である。導関数を利用する反復法−とりわけ勾配降下法、共役勾配法、ニュートン法、擬ニュートン法、Levenberg-Marquardt法、及び内点法−は、最も広く用いられている。そのような方法の収束はたとえば、線探索法及び信頼領域法を用いることによって保証されうる。勾配に基づく反復法に対する代替手法として、最適化されるべき関数にほとんど制約を課さない最適化発見法が用いられても良い。係る最適化発見法は、ほとんど確率論的方法に依拠することによって解決法を探索する。例には、焼きなまし法、発展的アルゴリズム、タブサーチ、及び、粒子群最適化が含まれる。他の有名な発見法はたとえば、Nelder-Meadシンプレックスアルゴリズム及びHill Climbingアルゴリズムを含む。
【0020】
従って本願で説明した方法は、試料の「コンピュータによるスライシング」を行うものとして説明されうる。当該方法は、非常に良好なz方向の分解能を供する点で有利だが、試料のz方向への侵入深さの程度については制限されてしまう。必要な場合には、係るコンピュータによるスライシングは、実現可能なz侵入深さを最適化するハイブリッド方法を供するように、「物理的なスライシング」と併用されて良い。係る物理的なスライシングは、試料から(少なくとも1層の)材料を物理的に除去する手順を有し、かつ、たとえば機械的手法(ミクロトーム/ダイアモンドナイフの使用)及び/又は放射線による/アブレーションによる手法(レーザービーム若しくは非集束イオンビームの使用、又は集束イオンビームの走査による試料のミリング)及び/又はエッチング手法(たとえばビーム誘起エッチング、化学エッチング、又は反応性エッチング)を用いて実行されて良い。そのような物理的スライシングの場合では、使用された層の除去手法は破壊的である必要はなく、その代わりに、除去された層を保存して、後で(再)画像化することを可能にする(機械的)手法が存在する。
【0021】
そのようなハイブリッドコンピュータ/物理的スライシング法の特別な実施例では、上述のコンピュータによるスライシングと物理的スライシングは交互に用いられる。具体的には、以下のように用いられる。
− 試料の露出した表面Sが、本発明によるコンピュータによるスライシングを用いて調査される。
− 続いて物理的スライシングが、表面Sから材料を「すくい取る」のに用いられる。それによりSの下方の深さdで新たに露出した表面S’が生成される。
− 続いてこの新たに露出した表面S’が、本発明によるコンピュータによるスライシングを用いて調査される。
【0022】
必要な場合には、コンピュータによるスライシングと物理的スライシングを交互に適用する手順と、それにより試料中へz方向により深く進入する手順を有するこのハイブリッド法が複数回反復実行されて良い。
【0023】
最も広義には、本発明によって供される3次元デコンボリューションは、取得されたデータの完全3Dデコンボリューションを可能にすることに留意して欲しい。しかし単純化された手法では、本発明はたとえば、擬3次元(所謂2.5次元)デコンボリューションを実行するのに用いられて良い。たとえば、ビームが整形されるため、かつ/あるいは、調査される試料が層構造/区分けされた構造を有するため、PSFが本質的に(擬)平面形式である測定状況が考えられ得る。そのようなシナリオでは、2Dデコンボリューションが考えられ得る。この例に基づくと、データが、前記(擬)平面形式PSFに対して基本的に垂直な状態で行われる走査運動の間に取得される場合、元の測定シナリオの本質的な2D的性質は擬3D(つまり2.5D)になりうる。その理由は、走査運動が行われることで、(制限された)追加情報が第3次元に収集されうるからである。任意の事象において、係る3次元シナリオ(完全3D、2.5D)のいずれも、特許文献2で述べた(擬)1Dシナリオとは基本的に異なる。
【0024】
ある範囲の各異なる試料の傾斜角を用いることによって、深さ情報が試料から収集される透過電子顕微鏡(TEM)に基づく既存の「古典的」断層撮像法と、SEMにおける(ハイブリッドの)コンピュータによる断層撮像を供する本発明とを混同しないように留意して欲しい。とりわけ、両者の間には以下に列挙するような差異がある。
− TEMの断層撮像は、まさにその特性により、本発明に係るコンボリューションされた深さデータを生成しないので、そのようなコンボリューションされたデータでの深さ分解を実行するような統計的処理手法を必要としない。この点において、TEMでは、プローブ電子ビームは、SEMに固有な誘導放射線を発生させることなく、試料を透過することに留意して欲しい。
− TEM装置は、はるかに高い入力ビームエネルギー(典型的には200〜300keVのオーダー)を用いる。そのため試料が損傷する恐れがある。対照的に、本発明による方法は、はるかに低い入力ビームエネルギー(たとえば1〜5keVのオーダー)で満足行くように動作する。
− TEM断層撮像は、非常に薄い試料(一般的には厚さ1μm未満)でしか利用できない。本発明は電子が試料を透過することに依拠しないので、本発明は、試料の厚さの制約に悩まされない。
− 本発明のSEMに基づく応用は、TEMに基づく手法よりも、はるかに大きな横方向の到達距離を有する。その理由は、SEMの(横方向での)走査特性が、TEMの(横方向での)走査特性よりも優れているためである(ただし従来型のTEMでは走査型TEM(STEM)が用いられるときには、この差異はある程度緩和される)。
− TEM装置は概してSEM装置よりもはるかに高価である。
【0025】
本発明の非常に広くて包括的な方法と、様々な従来技術に係る刊行物に記載されたより限定的な技術とが混同されないように注意して欲しい。この点において、以下のことを指摘することは重要である。
− 本発明の方法は、用いられたPSFの形式/性質について如何なる非経験的制約をも課さない。その代わり本発明の方法は、完全に包括的で空間的に3次元のPSFで開始することを可能にする。
− 本発明の方法は、調査される試料中の材料の性質/構造について如何なる非経験的制約をも課さない。その代わり本発明の方法は、完全に包括的なバルクの試料を推定することを可能にする。
− 本発明は、様々な測定期間を実行するのに用いられる放射線の種類について如何なる非経験的制約をも課さない。
− 本発明は、様々なビームパラメータで一連の様々な測定期間を実行することで、試料内部の(様々な)3次元位置からのコンボリューションされた大量のデータを取得する。続いてこの大量のデータが試料内部の個々の独立したボクセルからの寄与に「混合しない」ように、この大量のデータには完全3次元デコンボリューションが行われる。このようにして、試料の体積再構築が実現されることで、様々な深さ(z)、及び、様々な横方向位置(x,y)から詳細が明らかにされる。
− 本発明のデコンボリューション処理は、前記体積再構築の間にすべてのPSFにわたって反復される。この点において、PSFは、各独立してデコンボリューションされるのではなく、結合した状態で/同時にデコンボリューションされる。そのような結合は、良好な解の組への収束を改善させようとする。結合した状態での/同時のデコンボリューションと、結合しない状態での/各独立したデコンボリューションとの差異をよりよく理解するため、連立方程式が解かれる問題について類推することができる。方程式が連立して(つまり結合した状態で)解ける場合、方程式中のすべての変数は、解くプロセス中に「変動」しうるままである。他方、1つの方程式が一度で(つまり結合しない状態で)解かれる場合、1つを除く全ての変数は、各独立した式について解くプロセス中「固定」されなければならない。そのため、解の組は、より制限されたものとなる。
【0026】
本発明のこれらの態様を強調するため、以下の特徴を指摘することができる。
(a) 特許文献3では、特性としては3Dではなく2Dで、かつ、同時ではなく(各測定モダリティについて)各独立して復元する所謂「劣化関数」が用いられる。そのようにして復元したデータは、凸型の重み付け因子を用いることによって結合される。それによってデコンボリューションではなく再コンボリューションが行われる。従って特許文献3は、使用された試料に対してコンピュータによる深さスライシングを実現できない。その代わり特許文献3に記載の発明の目的は横方向の分解能のみを改善することである。
(b) 非特許文献1は、非常に単純化された解析について注目している。具体的には以下のように記載されている。
− 調査された具体的試料は、非常に均一性が高いと推定される。周知の応力場は、限られた数のパラメータを有する比較的単純なモデルによって特徴付けられる。そのような単純な先験的解析モデルは、本発明にて取り扱われる一般的な試料とは異なる。
− 所謂「プローブ共鳴関数」が用いられる。この関数は、試料の(一定の)検査用断面積に適用される実験用の校正を用いることによって、フィッティング/デコンボリューションの前に完全に決定される定数である。そのような手法は、断面積が互いに異なるような一般的な試料の場合には適用できない。
− 実行される「デコンボリューション」は性質上非常に制限される。本発明によって実行される完全可変ボクセル復元と比較して、この「デコンボリューション」は劣っている。
(c) 非特許文献2は、表面下の情報を全く復元しない。その代わり非特許文献2は、完全に既知の2DのPSFを用いることで、特定の試料構造における横方向プロファイルを復元する。
(d) 非特許文献3は、本発明とは完全に異なる手順について記載している。ビームパラメータを変化させ、かつ、複数の測定期間を実行する代わりに、非特許文献3は、非常に特別なSIMNRAモデルフィッティング法を用いることによって、単一のイオンビームスペクトルからの縮退を取り除く。これは、問題となっている試料におけるイオンの散乱挙動の詳細な先端モデル(たとえば大量のプローブイオン及び侵入深さに対して変化するそのプローブイオンエネルギー損失のような因子を考慮する)に依拠することで、繰り返しのフィッティングを得られたスペクトルに対して実行して、試料中の様々な表面下に存在する特定の元素(重水素)の濃度を明らかにする。
【0027】
これらの比較は、本発明の方法がどの程度広いのかを強調することで、完全な3D特性を強調し、かつ一般的な試料にも完全に適用されうることをも強調する役割を果たしている。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本発明による方法の実施例に係る測定シーケンスの一部を表している。
【図2A】本発明による方法を実行する一般的な手順を表すフローチャートである。
【図2B】本発明による方法を実行する一般的な手順を表すフローチャートである。
【図3】本発明の実施例によるコンピュータによるスライシングと物理的スライシングを交互に適用する手順を有するハイブリッド法を表している。
【図4】1回以上の反復においてコンピュータによるスライシングと物理的スライシングとの交互適用を表すフローチャートである。
【図5】本発明による方法が実行可能な粒子光学顕微鏡(この場合ではSEM)の断面図を表している。
【発明を実施するための形態】
【0029】
ここで典型的な実施例及び添付の概略図に基づいて、本発明をより詳細に説明する。
【0030】
図1は、本発明による方法の実施例に含まれる測定シーケンスの一部を概略的に図示している。図1は3つの図(A)〜(C)を有する。図(A)〜(C)は、シーケンス[1,…,N]における3つの連続する測定セッションをそれぞれ表す。そのシーケンス[1,…,N]の一般数は整数nによって表される。
【0031】
図(A)〜(C)の各々は、入射放射線ビーム1と調査される試料3の一部との間での相互作用の断面を表している。ビーム1はz方向を伝播する。しかしビーム1が試料3に衝突するとき、ビーム1は、試料3の内部に3次元相互作用領域5を生成する。ここで縦成分はz方向で、横成分はx,y方向である。図(A)〜(C)から進んで、ビーム1のパラメータPは、その値を測定期間の間で変化させる。たとえばPはそれぞれ、3つの図(A)〜(C)について各異なる値P1,P2,P3を有する。このパラメータPはたとえば、ビーム1の到達エネルギーであってよい。
【0032】
Pの変化に応じて変化するカーネル値を有する点拡がり関数(PSF)Kが、ビーム1と試料3との相互作用領域5に関連付けられる。この特別な場合では、到達エネルギーが増大することで、PSFのサイズが膨らむ。従ってPSFのカーネル値K1,K2,K3はそれぞれ、ビームパラメータの値P1,P2,P3に関連付けられる。
【0033】
ビーム1と試料3との相互作用は誘導放射線7を発生させる。誘導放射線7は、相互作用領域5を起源として、一般的には入射ビーム1に対向する試料3の表面から放出される。この概略図では、この誘導放射線7は、図を混乱させないように1本の矢印を用いて表されている。しかし現実には、そのような誘導放射線7は、全方位へ放出される。そのような誘導放射線の例は、BS電子、2次電子、及びX線である。1つ以上の検出器(たとえば図5参照)を用いることによって、誘導放射線7が検出されうる。測定量M(検出の電流又は強度)は係る検出と関連付けられる。それにより誘導放射線の定量化が可能となる。このようにして、PSFのカーネル値K1,K2,K3にそれぞれ対応する測定値M1,M2,M3が得られる。
【0034】
試料3は、試料と入射ビーム1との相互作用に影響する物理的特性Oを有する。たとえばOは、試料の原子密度又は2次放射線放出係数であってよい。このシナリオでは、試料3の内部の様々な位置(x,y,z)でのOの関数形についての情報−たとえば地点間でのOの相対変化−を発見することが好ましいと考えられる。この関数形は、空間変数Vによって表される。Vに関して抽出された情報は一般的に、試料3の内部構造及び性質についての重要な知見を与える。
【0035】
測定量Mによって誘導放射線7が測定されるとき、相互作用領域5内部の様々な地点から同時に由来するコンボリューションされた情報の「もつれ」が実際に観測される。このようにしてこの情報がコンボリューションされるので、この情報は、Vに関する所望の地点間の情報を直接的には与えない。しかし本発明は、前記情報をデコンボリューションする(つまり「もつれをほぐす」すなわち空間的に分解する)計算手法を供することによって、この問題を解決する。
【0036】
この目的のため、本発明は、測定シーケンス[1,…,N]における各整数値について、KnとVの3次元コンボリューションである値Qn−つまりQn=Kn*V−を有する画像化量(Q)を定義する。nの各値について、MnとQnとの間での最小ダイバージェンスが計算により決定される。つまりmin D(Mn||Kn*V)が最適化される。
【0037】
この問題は、値Knについて適切な制約を課すことによってVについて解くことができる。この手法は、図2Aと図2Bのフローチャートにおいて概略的に表されている。以下の点に留意して欲しい。
− 図2Aは、各反復での所与のPSFカーネルKnのアルゴリズムを表している。所与のKnについての複数の反復サイクルが順次適用される。
− 図2Aの反復法は、各PSFと空間変数Vに順次適用されて良い。任意のKnとVの対について、各サイクルで1つ以上の反復を有して良い。ここで図示されたフローチャートにおいて示された手順をより詳細に説明する。その手順は図2Aから開始する。
− 201:この手順は、各反復IでのKnの値(つまりKnI)を表す。I=1の特別な場合では、先だって行われる初期化処理は、反復処理を「始動」するように実行される。
− 203:同様に、この手順は、反復IでのVの値(つまりVI)を表す。繰り返しになるが、I=1の特別な場合では、先だって行われる「始動」初期化処理が実行される。
− 205:KnI*VIのコンボリューションが、手順201と203の出力を用いて計算される。このとき、Onを無次元化/スケーリングした値Inが導入される。たとえばOnがボルトで測定される場合、そのボルトでの数値は、無次元であり、かつ、たとえば電子ボルト(eV)での数値への変換を実行するように、基本電荷の値によってスケーリングされて良い。これは純粋に所与の状況での選択の問題であり、当業者はすぐに分かることである。Inは以降、「像」と呼ばれる。手順205では、像InとコンボリューションKnI*VIとの間でのダイバージェンスが決定される。つまりD(In||KnI*VI)が計算される。
− 207:ここで、手順205において計算されたダイバージェンスが最小であるか否か、つまり、収束したか否かが判断される。「収束した」場合、探索した値KnとVが抽出される。「収束しなかった」場合、次の反復(I+1)を行うためにフローチャートの最初に戻る。
【0038】
ここで図2Bに移ると、図2Bは、図2Aの一般化を表している。測定シーケンス[1,…,N]のうちのただ1つの要素nについての処理のみを示すのではなく、このシーケンスにおけるすべての要素が図示されている。
− 211,213,215:これらの手順の各々は、図2Aの累積的手順210,203,205にそれぞれ相当するが、ここでは、個々のケースn=1(211)、n=2(213)、及びn=N(215)について示されている。
− 217:この手順は図2Aの手順207に相当する。
【0039】
どのようにして上述した最小ダイバージェンス問題が定式化されて解かれるのかについての特別な例については、次の実施例を参照して欲しい。
【実施例1】
【0040】
変数−カーネルのデコンボリューション作業を簡単に検討する一の直感的な方法は、所謂Bayesian統計を用いて定式化することである。
【0041】
以降の説明を通して用いられる確率の数が最初に定められる。
− Pr(V|In)は、取得された入力値In(「像」の値Inの概念を説明するための図1Aのフローチャートでの手順205の議論を参照のこと)が与えられた場合に、空間変数Vを抽出する確率である。
− Pr(V)は、再構築される構造についての知識を表す、Vに関する事前確率である。
− Pr(In)は、取得された像に関する確率である。しかし像Inが実際に観察/測定された値である場合には、これは基本的に定数である。
【0042】
Bayesの規則を用いることによって、以下が得られる。
【0043】
【数3】

Bayes法では、本発明の問題は、以下のような最大化作業として表すことができる。
【0044】
【数4】

(2)式では、再構築された変数Vを正にする必要がある。このことは、物理的に意味のある解を得るのに必要である。より一般的には、計算を単純化するのに所謂対数尤度関数が用いられる。
【0045】
【数5】

具体的には、本発明の画像化処理は、ポアソン過程によってよく表される。荷電粒子検出器とX線検出器の特性が与えられると、3DグリッドΩ内の各ボクセルxでは、独立したポアソン過程の実現により像が生成される。この結果次式が得られる。
【0046】
【数6】

ここで、”x”は1次元の直交座標xではなく、3次元位置の幾何学的表記であることに留意して欲しい。
【0047】
体積Vを取得するため、基準が最小化される必要がある。
【0048】
【数7】

項Σx∈Ωlog(In(x)!)が、如何なる変数も含まないとすると、基準を以下のように再定義することができる。
【0049】
【数8】

この基準は、Kullback-Leiblerの一般化された情報ダイバージェンスIDIV(In||V)に関連付けられることを明記することは重要である。このことは、次式の情報ダイバージェンスの定義からわかる。
【0050】
【数9】

上式から次式が得られる。
【0051】
【数10】

(8)式の第2項は最小化に関する定数である。よってJ((V|In))の最小化は、IDIV(In||V)の最小化と同じことである。
【0052】
ここで非特許文献4を参照すると、上述の(2)式の正の値をとるという制約が課された最小化問題は、次式の反復法を用いることによって解けることが示されている。
【0053】
【数11】

このアルゴリズムは、最尤推定−期待値最大アルゴリズムとしても知られている。最尤推定−期待値最大アルゴリズムについては、非特許文献5と6に記載されている。
【0054】
(9)式の収束は、次式のように指数qを用いることによって加速することができる。
【0055】
【数12】

典型的には、q∈[1,1,5]で、かつ、加速に加えて、qは正則化因子としても機能しうる。本実施例の場合では、反復アルゴリズムは、各異なるPSFに係るすべてのカーネルKnに順次用いられることが必要である。収束は、実験的に、又は、他の基準−たとえば変数の相対的な変化−に基づいて評価されて良い。
【0056】
PSFのカーネルKnの値を取得又は調節する必要がある場合、空間変数V及び変数Knを交互に最小化する手法が用いられて良い。よって以下のようなアルゴリズムが得られる。
【0057】
【数13】

各サイクルでカーネルKn又は空間変数Vについて、より多くの反復を行うよう選択することも可能である。そのような選択は、経験/実験に基づいて決定されて良い。たとえば、Vは、速く収束する傾向にあるので、各異なる値Knを探索するのに、より多くの反復を費やすことができる。
【0058】
PSF又はVに関する先験的知識が利用可能である場合、その先験的知識は、次式のように条件的確率Pr(.|.)と結合確率Pr(.,.)とを併用することによってBayseの定式化に組み込まれて良い。
【0059】
【数14】

よって最小化問題(2)は次式のように修正される。
【0060】
【数15】

また最小化されるべき対数尤度基準は次式のようになる。
【0061】
【数16】

第1項が、観察に適合することを保証するデータ項であるのに対し、第2項と第3項は、解空間を制限してノイズの効果を減少させるために、変数に関する知識と推定を用いる正則化項として知られている。基準J(V,Kn|In)は、最尤推定−期待値最大アルゴリズムを用いることによって最小化されて良い。最適化はまた、様々な他の凸面法及び非凸面法を用いて実行されて良い。そのような方法については非特許文献7を参照して欲しい。
【0062】
完璧を期すため、本実施例で説明した手法は、所謂Richardson-Luceyアルゴリズム(RLA)のハイブリッド/変形とみなしうることに留意して欲しい。RLAは、様々な問題を解決するのに適用されうる既知の数学的手法である。たとえば、RLAは、元の(補正されていない)ハッブル空間望遠鏡からのちらつき画像をコンピュータにより改善する試みにおいて、NASAの科学者達によって用いられた。
【実施例2】
【0063】
図3は本発明の実施例を表している。図3で表される実施例では、コンピュータによるスライシングが、荷電粒子顕微鏡に基づく試料の3D体積イメージングのイメージング深さを増大させることを可能にするように、物理的スライシングと組み合わせられる。
【0064】
図3A(左側)はコンピュータによるスライシング手順を表している。図3Aのコンピュータによるスライシング手順では、上述したように、試料は様々な到達エネルギー(E1、E2、E3)で観察され、かつ、3Dデコンボリューションアルゴリズムが適用される。これにより、試料の表面下の疑似像の侵入深さ(図3Aでは概略的にL1、L2、L3のラベルが付されている)を増大させることが可能となる。
【0065】
図3B(中央)では、続いて物理的スライシングが用いられる。物理的スライシングでは、機械的切断装置(たとえばダイアモンドナイフ)又は非機械的切断装置(たとえば集束/非集束イオンビーム又は集束電磁ビームを含む)が、試料から、ある深さの材料を「すくい取る」のに用いられる。それによって新たに露出した表面が生成される。
【0066】
図3C(右側)では、前記新たに露出した表面上での後続のコンピュータによるスライシング操作が実行される。これにより、新たな侵入深さ(図3Cでは概略的にL4、L5、L6のラベルが付されている)での試料の表面下の疑似像の生成が可能となる。
【0067】
この結合/ハイブリッド手法は、図4のフローチャートにてさらに説明する。このフローチャートにおけるコンピュータによるスライシング処理(301-309)は、上述の処理と同様である。しかし前記コンピュータによるスライシング処理(301-309)に続いて、物理的スライシング処理(311)が行われる。当該結合/ハイブリッド手法は、その後(反復的に)フローチャートの最初へ戻る。そのようにコンピュータによるスライシングと物理的スライシングを交互に適用する手法は、特定の試料への所与の累積的侵入を実現するのに必要な回数だけ繰り返されて良い。
【0068】
図4のフローチャートにおいて、示された手順についてここで詳細に説明する。
− 301:この取得手順は、
− 複数(N)の測定期間中に荷電粒子のプローブビームを前記試料の表面に照射する手順であって、各測定期間は、対応するビームパラメータ(P)の値を有する、手順、
− 各測定期間中に前記試料によって放出される誘導放射線を検出することで、データ組{Pn,Mn}(1≦n≦N)をまとめる手順、
を有する。ここで、Pは到達エネルギーで、誘導放射線はBSを有し、かつ、Mは検出されたBS電流である。手順301よりは、とりわけ取得手順中に用いられるエネルギーが決定される準備段階が優先される。
− 303:BS像のスタック−つまりデータ組{Pn,Mn}−は、必要な場合には、(わずかな)歪み補正を受けることで、手順301における様々な測定期間の間での測定装置での「ドリフト効果」(たとえば熱的に誘起される画像化/測定の揺らぎ)が補正される。そのような歪みの補正は、たとえばデータのスケーリング、データのシフト、データの回転、データを斜めにするといった操作を有して良い。このようにして、所謂「位置合わせされた」層のスタックが得られる。
− 305:この手順では、上述した3Dデコンボリューション手順が、位置合わせされたデータ組について実行される。
− 307:最終処理として、手順305の結果には(任意で)様々な「仕上げ」処理−たとえばノイズ除去、ちらつき除去等−が施されて良い。
− 309:手順305(及び該当する場合にはその後の手順307)から生じたデータは、問題の試料について所望なように表面下を3D的に視覚化する。
− 311:手順301-309を1回「反復する」ことで到達しうる深さよりも深い位置の表面下領域を計算により視覚化することが必要な場合、コンピュータによるスライシングと物理的なスライシングを組み合わせた処理が用いられて良い。このため、手順311では、材料層が試料の露出した表面から物理的に除去され、かつ、手順301-309の新たな「反復」を行うため、処理はフローチャートの最初に戻る。
【実施例3】
【0069】
図4は荷電粒子顕微鏡400を表している。図4の実施例の荷電粒子顕微鏡400はSEMである。荷電粒子顕微鏡400は粒子光学鏡筒402を有する。粒子光学鏡筒402は荷電粒子ビーム404(この場合電子ビーム)を生成する。粒子光学鏡筒402は真空チャンバ406に載置されている。真空チャンバ406は、試料410を保持する試料ホルダ/台408を有する。真空チャンバ406は、真空ポンプ(図示されていない)を用いることによって排気される。電源422によって、試料ホルダ408又は少なくとも試料410は、接地電位に対してある電位にまでバイアス印加されて良い。
【0070】
粒子光学鏡筒402は、電子源412、電子ビーム404を試料410上に集束させるレンズ414,416、及び偏向ユニット418を有する。検出器については、当該装置は以下の検出器を備えている。
− ビーム404による照射に応じて試料410から放出される第1種類の誘導放射線を検出する第1検出器420。この実施例では、検出器420は、X線を検出するX線検出器(たとえばEDS又はWDS検出器)である。
− ビーム404による照射に応じて試料410から放出される第1種類の誘導放射線を検出する第2検出器100。この実施例では、検出器100は、区分化された電子検出器である。
【0071】
上述したように、当該装置は、これらの種類の検出器のいずれをも利用する。しかしこれは純粋な設計/実装上の選択である。もし望む場合には、これらの種類の検出器のいずれかのみを利用することも可能である。当該装置は、とりわけ偏向ユニット418、レンズ414、及び検出器420,100を制御して、検出器420,100から収集された情報を表示ユニット426上に表示するコンピュータ処理装置(制御装置)424をさらに有する。
【0072】
ビーム404で試料410を走査することによって、たとえばX線、赤外/可視/紫外光、2次電子、及び後方散乱(BS)電子を含む誘導放射線が試料410から放出される。特別な設定では、X線が第1検出器420によって検出される一方で、2次電子/BS電子は第2検出器100によって検出される。放出された放射線は、(前記走査運動に起因する)位置感受性を有するので、検出器420,100から得られる情報もまた位置依存性を有する。
【0073】
検出器420,100からの信号は、処理装置424によって処理され、かつ、表示ユニット426上に表示される。係る処理はたとえば、結合、一体化、差分、擬輪郭調整、端部改善、及び当業者に既知の他の処理のような動作を有して良い。それに加えて、自動認識処理−たとえば粒子解析に用いられるような−も係る処理に含まれて良い。
【0074】
本発明においては、
− 第2検出器100が特別に用いられる。これについては実施例4で詳述する。
− 処理装置424又は専用の独立した処理ユニット(図示されていない)は、測定データの組Mに所定の数学的操作を行うことで、Mのデコンボリューションを行って、Mを空間的に分解して、結果の組Rにする。
【0075】
係る設定の多くの改良型及び代替型が当業者に知られていることに留意して欲しい。そのような改良型及び代替型には、試料410から放出される(赤外/可視/紫外)光の検出、デュアルビーム(たとえば可視化用の電子ビーム404と加工用(又は場合によっては可視化用)のイオンビーム)の使用、制御された試料410の環境(たとえば所謂環境制御型SEMで用いられているような、又はエッチング気体若しくは前駆体気体のような気体を収容することによる数mbarの圧力の維持)の利用等が含まれるが、これらに限定されるわけではない。
【0076】
本発明においては、以下のことが行われる。
− 測定量Mは、検出器420及び/又は100の出力に関連付けられる。
− ビームパラメータPは、ビーム404の特性−たとえば試料410上でのビーム404を構成する粒子の到達エネルギー−を変化させるように、粒子源412及び/又は粒子光学鏡筒402及び/又は電源422を調節することによって変化する。シーケンス[1,…,N]での測定期間nについてのPの様々な値Pnを用いることによって、Mのうちの関連する値Mnが得られることで、データ組{Pn,Mn}の収集が可能となる。
− 処理装置424又は専用の独立した処理ユニット(図示されていない)は、本発明により定められたデータ組{Pn,Mn}についての様々な数学的操作を実行するのに用いられる。
【0077】
例として、実際の状況は以下のようになる。
− 変化したパラメータPは到達エネルギーで、Pは一定の増分ΔP=50eVで調節される。当然のことだが、たとえば所望の分解能に依存して他の値が選ばれてもよい。実際には、たとえば500eV〜7keVの範囲の到達エネルギーの値が有用であることが分かっている。
− N=25、つまり25個の異なるPnの値が用いられる。当然のことだが、たとえば所望のコンピュータによる試料への侵入深さに依存して、他の値が選ばれても良い。
− 典型的な生物学的試料への累積的な擬似的侵入深さは約50〜75nmのオーダーである。この値は小さいように思えるかもしれないが、典型的な試料から多量の表面下の情報を収集することを可能にする。たとえば生物学的試料における所謂脂質二重膜は約2〜3nmの厚さしか有しておらず、本発明の方法を用いることによってコンピュータによる画像化が容易に可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
荷電粒子顕微鏡を用いた試料の調査方法であって:
複数(N)の測定期間中に荷電粒子のプローブビームを前記試料の表面に照射する手順であって、各測定期間は、対応するビームパラメータ(P)の値を有し、前記値は、ある範囲から選ばれて、かつ異なる測定期間の間で異なる、手順;
各測定期間中に前記試料によって放出される誘導放射線を検出する手順;
測定量(M)と各測定期間とを関連付ける手順;
各測定期間での前記測定量(M)の値を記録することで、データ対{Pn,Mn}(1≦n≦N)からなるデータ組(S)をまとめることを可能にする手順;
を有し、
前記データ組(S)を自動的に処理するのに数学的手法が用いられ、前記数学的手法は、
ビームパラメータの値がPnである前記プローブビームの前記試料の内部での挙動を表すカーネル値Knを有する点拡がり関数(K)を定義する手順、
前記試料の内部での位置の関数として前記試料の物理的特性(O)を表す空間変数(V)を定義する手順、
KnとVの3次元コンボリューションの値Qn(=Kn*V)を有する可視化品質(Q)を定義する手順、
各nについて、MnとQnとの間での最小ダイバージェンスminD(Mn||Kn*V)を計算により決定して、前記値Knについて制約を適用しながらVについて解く手順、
を有する、方法。
【請求項2】
前記値Knについての制約が、
少なくとも1組の値Knのコンピュータシミュレーション、
少なくとも1組の値Knの実験による決定、
少なくとも1組の値Knの推定を可能にする根拠となる限られた数のモデルパラメータによるパラメータ化された関数としての点拡がり関数(K)のモデル化、
論理的な解空間による制約であって、理論的にはありうるが物理的には意味がないと判断される値Knは無視される、制約、
外挿及び/又は内挿を第1組の値Knに適用することによる第2組の値Knの推定、
からなる群から選ばれる少なくとも1の方法から導かれる、
請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記コンピュータシミュレーションが、モンテカルロシミュレーション、有限要素法、及びこれらの組み合わせからなる群から選ばれた手法により実行される、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記最小ダイバージェンスが、最小二乗法、Csiszar-MorimotoのFダイバージェンス、Bregmanダイバージェンス、α-βダイバージェンス、Bhattacharyya距離、Cramer-Raoの下限、及び様々な派生型、混合型、並びに、これらの結合型からなる群から選ばれる、請求項1乃至3のいずれかに記載の方法。
【請求項5】
前記ビームパラメータ(P)は、ビームエネルギー、ビーム収束角、及びビーム焦点深度からなる群から選ばれ、
前記誘導放射線は、2次電子、後方散乱電子、及びX線からなる群から選ばれ、
測定量(M)は、電流及び強度からなる群から選ばれる、
請求項1乃至4のいずれかに記載の方法。
【請求項6】
前記物理的特性(O)は、汚染物濃度、原子密度、及び2次放出係数からなる群から選ばれる、請求項1乃至5のいずれかに記載の方法。
【請求項7】
前記試料の表面に照射する手順、前記データ組(S)を得るように前記試料により放出される誘導放射線を検出する手順、及び、前記空間変数(V)を計算する手順が、コンピュータによるスライシングに含まれ、
前記コンピュータによるスライシングは、元の表面から材料層を物理的に除去するのに用いられる物理的スライシングと組み合わせられ、それにより前記試料の新たに露出された表面が露わになる、
請求項1乃至6のいずれかに記載の方法。
【請求項8】
前記材料層を物理的に除去する手順は、ブレード装置による機械的スライシング、イオンビームによるイオンミリング、電磁エネルギービームによるアブレーション、ビーム誘起エッチング、化学エッチング、反応エッチング、及びこれらの組み合わせからなる群から選ばれる、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記コンピュータによるスライシング及び前記物理的スライシングは、複数回の反復において交互に繰り返される、請求項7又は8に記載の方法。
【請求項10】
請求項1乃至9のいずれかに記載の方法を実行するように構成された装置。

【図1】
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【図2A】
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【図2B】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2013−37000(P2013−37000A)
【公開日】平成25年2月21日(2013.2.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−176833(P2012−176833)
【出願日】平成24年8月9日(2012.8.9)
【出願人】(501233536)エフ イー アイ カンパニ (87)
【氏名又は名称原語表記】FEI COMPANY
【住所又は居所原語表記】7451 NW Evergreen Parkway, Hillsboro, OR 97124−5830 USA
【Fターム(参考)】