説明

菌体の培養方法及び装置

【目的】 菌体を高濃度で培養する方法及び信頼性の高い培養装置を提供する。
【構成】 菌体を培養する方法において、1バッチの時間を菌体の増殖量に対応して複数の時間帯に分割し、これらの分割時間帯において、培養途中で培養液中の菌体を残しながら培養液を系外に抜き出すとともに、新鮮培地を供給する。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、培養中に菌体の増殖を阻害する成分を生産する培養系において、菌体を高濃度で培養するための方法及びその装置に関する。
【0002】
【従来の技術】従来菌体、例えば、乳酸菌を培養する方法として、例えば、特開平2−174674号公報に記載されているように、培地の糖濃度を1〜1.5%に調整し、培養液中の阻害物質を膜ろ過で除去しながら、除去した量だけ新鮮培地を供給する方法が知られている。
【0003】また、特開昭59−196087号公報には、乳酸菌を培養し、対数増殖期後期で植え継ぐことによって、短時間に、より優れた乳酸菌スターターを調整する方法が記載されている。また、特開昭63−63193号公報には、膜ろ過による阻害物質を除去する培養方法において、目詰まりを解消するため、液の流れ方向を変える方法および装置が記載されている。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】菌体、例えば、乳酸菌体を回分培養法又は半連続培養法で培養する場合、つぎのような問題点がある。
(1) 回分培養法又は半連続培養法では、生成乳酸濃度が投入糖濃度により決定され、乳酸菌体濃度を高濃度にすることができない。
(2) 乳酸菌の培養では回分培養法が主体であるが、乳酸による阻害を緩和させるため、連続的に膜ろ過法等で培養液を抜き出しながら連続培養する方法が開発されつつある。ただし、ろ過工程での目詰まり問題が課題として未だに残っているのが現状である。
(3) 流加培養により新鮮培地を添加することによって、培養液中の糖濃度を菌体の消費速度に合わせながら供給する方式も開発されているが、乳酸濃度を低減させる効果は少ない。
(4) 乳酸菌の菌齢を合わせる必要がある場合、回分培養方式が望ましいが、その場合、上記の問題がある。また連続培養の場合、菌齢を完全に合致させることは困難である。
【0005】また、上記従来の公報には、1バッチ中の時間を乳酸菌体の増殖量に対応して適宜分割し、その時に培養液中の菌体流出を防ぎながら、培養済培地を抜き出し、その後、新鮮培地を新たに供給することは、何ら記載されていない。本発明は上記の諸点に鑑みなされたもので、培養液を培養途中で抜き出し、菌体の増殖を阻害する乳酸濃度を低く維持することにより、菌体の高濃度化が可能な方法及び信頼性の高い装置を提供することを目的とする。
【0006】
【課題を解決するための手段】上記の目的を達成するために、本発明の菌体の培養方法は、菌体を培養する方法において、1バッチの時間を菌体の増殖量に対応して複数の時間帯に分割し、これらの分割時間帯において、培養途中で培養液中の菌体を残しながら培養液を系外に抜き出すとともに、新鮮培地を供給することを特徴としている。
【0007】上記の方法において、培養液を抜き出す時期までに栄養成分が消費される量を予め計算しておき、次の分割時間帯に必要とする最低必要量の新鮮培地を供給することが望ましい。また、培養液を抜き出し新鮮培地と交換する時期が、培養生産物が阻害濃度を示さない範囲に入るようにすることが望ましい。また、培養液の抜き出しを、遠心分離又はろ過、あるいはその両方にて、菌体の系外への流出がないように行うことが望ましい。
【0008】さらに、培養液を抜き出す際に、まず遠心分離機で菌体を主とする重液と培養液を主とする軽液とに分離し、重液の少なくとも一部を培養槽に返送し、軽液を菌体が残存する孔径を有する軽液ろ過機で菌体を含まない培養液と少量の菌体を含むろ過残液とに分離し、菌体を含まない培養液を系外に抜き出し、少量の菌体を含むろ過残液を培養槽に返送することが望ましい。上記の方法は、とくに乳酸菌を培養するのに適している。
【0009】本発明の菌体の培養装置は、図1を参照して説明すれば、固体有機物と水とを混合溶解する培地溶解槽10と、培地溶解槽10からの培地を殺菌処理するとともに、希釈水を殺菌処理する殺菌処理装置12と、殺菌処理装置12からの培地及び希釈水を種菌とともに希釈・混合・培養する主培養槽14と、主培養槽14からの菌体を含む培養液を遠心分離して菌体を主とする重液と培養液を主とする軽液とに分離する遠心分離機16と、遠心分離機16からの重液の少なくとも一部を主培養槽14に戻す重液返送ライン18と、遠心分離機16からの軽液をさらにろ過して菌体を含まない培養液と少量の菌体を含むろ過残液とに分離する軽液ろ過機20と、軽液ろ過機20からの少量の菌体を含むろ過残液を主培養槽14に戻すろ過残液返送ライン22と、を包含することを特徴としている。上記の装置は、とくに乳酸菌の培養装置に適している。この場合、固体有機物としては、酵母エキス及びホエーが用いられる。
【0010】
【実施例】以下、図面を参照して本発明の好適な実施例を詳細に説明する。ただし、この実施例に記載されている構成機器の形状、その相対配置などは、とくに特定的な記載がない限りは、本発明の範囲をそれらのみに限定する趣旨のものではなく、単なる説明例にすぎない。図1は本発明の菌体の培養装置の一実施例で、菌体として乳酸菌を培養する場合を示している。以下、図1の装置の構成及び作用を説明する。10は培地溶解槽で、酵母エキス及びホエー(乳清)が酵母エキス・ホエー供給機24により供給されるとともに、精製水が精製水ポンプ26により供給され、両者が攪拌混合されて、培地が調製される。培地溶解槽10内には、水蒸気による加熱器28及び冷却水による冷却器30が設けられており、まず加熱して酵母エキス・ホエーを水に溶解した後、冷却する操作が行われる。
【0011】培地溶解槽10内の培地は培地ポンプ32により抜き出されてろ過器34へ導入され、残渣とろ液とに分離される。ろ液はろ液ポンプ36により培地加熱殺菌器38に送られ、水蒸気と間接的に接触加熱されて殺菌された後、培地冷却器40に導入され冷却水により冷却されて主培養槽14に供給される。一方、希釈用の精製水は精製水ポンプ42により精製水加熱殺菌器44に送られ、ここで水蒸気により加熱殺菌された後、精製水冷却器46へ送られ冷却水により冷却されて主培養槽14に供給される。このように、培地加熱殺菌器38と精製水(希釈水)加熱殺菌器44とで殺菌処理装置12を構成している。
【0012】主培養槽14には種菌(乳酸菌)が投与され、この種菌、培地及び精製水が攪拌機48により攪拌混合されて培養液が調製される。主培養槽14の底部から培養液ポンプ49により培養された乳酸菌を含む培養液が抜き出されて、遠心分離機16に送られ、ここで乳酸菌を主とする重液と培養液を主とする軽液とに分離される。そして、重液は重液返送ライン18により主培養槽14へ返送される。1バッチが終了した時は、重液は菌体貯槽50へ送られ、さらに、菌体抜出ポンプ52により冷凍庫54へ送られて冷凍貯蔵される。
【0013】軽液は軽液受槽56に一旦貯留された後、軽液ポンプ58により軽液連続ろ過機20へ送られ、ここで乳酸菌を含まない培養液と少量の乳酸菌を含むろ過残液とに分離される。そして、ろ過残液はろ過残液返送ライン22により主培養槽14へ戻され、乳酸菌を含まない培養液はろ液受槽60へ貯留された後、系外へ抜き出される。62はボイラである。
【0014】主培養槽14には、pH計、温度計、レベル計、糖度計、乳酸分析計、比重計などのうち、1又は複数の計器からなる検出部64が設けられており、この検出部64で検出した値が所定の値になるか、又はタイマーで設定した時間が経過すると、培養液抜出系及び返送系のポンプ及び弁を作動させて培養済の菌体を含む培養液を抜き出し、菌体を主培養槽に返送するとともに、培地供給系のポンプ及び弁を作動させて新鮮培地を供給するように構成する。例えば、pH値が4〜5になるか、又は乳糖値が0.5〜1g /l になるか、又は乳酸濃度が15〜20g /l となると、培養液を抜き出し菌体を返送するとともに、新鮮培地を供給することなどが挙げられる。
【0015】つぎに、次のような操作条件で計算をした結果を図2及び図3に基づいて説明する。
(1) 全培養時間を20時間とすると、10時間目と15時間目に培養液から乳酸菌体のみを残し、他を抜き取り、新鮮培地と交換する。
(2) 初発の培養液中の糖濃度は、供試乳酸菌が増殖しながら10時間で消費する量に相当するものを基準に決定する。
(3) 10時間目の投入培地濃度は、10時間目の菌体濃度が15時間目までに増殖しながら消費する量を基準に決定する。
(4) 15時間目の投入培地濃度は、15時間目の菌体濃度が20時間目までに増殖しながら消費する量を基準に決定する。
(5) 培養液の抜き出し時には、培養液に1万G以上の遠心力を加え、軽液を抜き取り、重液は主培養槽14へ全量返送する。
(6) 軽液はそのまま排出するか、0.2μm の連続ろ過器20でろ過し、ろ液を抜き取り、ろ過残液は主培養槽14に全量返送する。
(7) 引き続き回分培養を継続する場合は、20時間培養終了した培養液の一部を残存させ、同様の操作を行う。
【0016】そして、比増殖速度μ=0.20〔hr-1
比生産速度π=1.16〔hr-1
比消費速度ν=−1.36〔hr-1
dx/dt=μx (x:菌体濃度〔g /l 〕)
dp/dt=πx (p:乳酸濃度〔g /l 〕)
ds/dt=−νx (s:糖濃度〔g /l 〕)
として培養時間と、乳酸・乳糖濃度及び菌体濃度との関係を計算すると、図2のようになった。図2から、本発明の方法によれば、全培養期間中、乳酸濃度を15g /l の阻害作用が生じない濃度に維持でき、菌体濃度が効率よく高濃化されることがわかる。さらに、培養液抜き出し時の残糖濃度を低くすることができることがわかる。一方、この場合の培養時間と、抜出培養液量及び投入培地量との条件を図3に示す。すなわち、10時間目及び15時間目の抜出培養液量はいずれも約90lづつとして、1割を槽内に残し、20時間目の抜出培養液量は全量の約100lを抜き出した。一方、最初の10wt%酵母エキス・ホエー溶液は、乳糖消費量計算結果に基づき、約5l とし、10時間目では約8l に、15時間目では約15l とそれぞれ計算結果に基づき添加量を増やしていき、乳糖濃度を増加させた。上記の実施例では、乳酸菌を培養する場合について説明したが、乳酸菌に限ることなく、菌体一般について本発明を適用することができる。
【0017】
【発明の効果】本発明は上記のように構成されているので、つぎのような効果を奏する。
(1) 培養液を培養途中で抜き出すので、菌体の増殖を阻害する培養生産物濃度を低く維持することができ、菌体の高濃度化が可能となる。
(2) 培養液の抜き出しを、栄養分の消費が終了した時点で行うようにする場合は、流出を最小限にすることができる。
(3) 回分式と半連続式とのいずれにも対応することができる。
(4) 装置が連続式でないので、信頼性がきわめて高い。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の菌体の培養装置の一実施例を示す系統的構成説明図である。
【図2】培養時間と、乳酸・乳糖濃度及び乳酸菌体濃度との関係を示すグラフである。
【図3】培養時間と、抜出培養液量及び投入培地量との関係を示すグラフである。
【符号の説明】
10 培地溶解槽
12 殺菌処理装置
14 主培養槽
16 遠心分離機
18 重液返送ライン
20 軽液ろ過機
22 ろ過残液返送ライン

【特許請求の範囲】
【請求項1】 菌体を培養する方法において、1バッチの時間を菌体の増殖量に対応して複数の時間帯に分割し、これらの分割時間帯において、培養途中で培養液中の菌体を残しながら培養液を系外に抜き出すとともに、新鮮培地を供給することを特徴とする菌体の培養方法。
【請求項2】 培養液を抜き出す時期までに栄養成分が消費される量を予め計算しておき、次の分割時間帯に必要とする最低必要量の新鮮培地を供給することを特徴とする請求項1記載の菌体の培養方法。
【請求項3】 培養液を抜き出し新鮮培地と交換する時期が、培養生産物が阻害濃度を示さない範囲に入るようにすることを特徴とする請求項1又は2記載の菌体の培養方法。
【請求項4】 培養液の抜き出しを、遠心分離又はろ過、あるいはその両方にて、菌体の系外への流出がないように行うことを特徴とする請求項1、2又は3記載の菌体の培養方法。
【請求項5】 培養液を抜き出す際に、まず遠心分離機で菌体を主とする重液と培養液を主とする軽液とに分離し、重液の少なくとも一部を培養槽に返送し、軽液を菌体が残存する孔径を有する軽液ろ過機で菌体を含まない培養液と少量の菌体を含むろ過残液とに分離し、菌体を含まない培養液を系外に抜き出し、少量の菌体を含むろ過残液を培養槽に返送することを特徴とする請求項1、2、3又は4記載の菌体の培養方法。
【請求項6】 菌体が乳酸菌であることを特徴とする請求項1、2、3、4又は5記載の菌体の培養方法。
【請求項7】 固体有機物と水とを混合溶解する培地溶解槽(10)と、培地溶解槽(10)からの培地を殺菌処理するとともに、希釈水を殺菌処理する殺菌処理装置(12)と、殺菌処理装置(12)からの培地及び希釈水を種菌とともに希釈・混合・培養する主培養槽(14)と、主培養槽(14)からの菌体を含む培養液を遠心分離して菌体を主とする重液と培養液を主とする軽液とに分離する遠心分離機(16)と、遠心分離機(16)からの重液の少なくとも一部を主培養槽(14)に戻す重液返送ライン(18)と、遠心分離機(16)からの軽液をさらにろ過して菌体を含まない培養液と少量の菌体を含むろ過残液とに分離する軽液ろ過機(20)と、軽液ろ過機(20)からの少量の菌体を含むろ過残液を主培養槽(14)に戻すろ過残液返送ライン(22)と、を包含することを特徴とする菌体の培養装置。
【請求項8】 固体有機物が酵母エキス及びホエーであることを特徴とする菌体の培養装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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